説明

紙製食品容器

【課題】 断熱性に優れた紙製食品容器の提供。
【解決手段】 基紙2の表面に熱膨張性マイクロカプセル4を分散させたコーティング剤3を塗工し加熱乾燥させることによって、上記熱膨張性マイクロカプセル4を膨張させて、基紙1上に断熱層5を形成し、該断熱層5上に樹脂フィルム6を貼合することにより、断熱性に優れた紙製食品容器1が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紙製食品容器に関し、詳しくは、熱膨張性マイクロカプセルを利用した断熱性に優れた紙製食品容器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
通常一般の紙製食品容器は、その基紙の内面(内側)に樹脂フイルムを貼合して、耐油性・耐水性を得ているが、単なる樹脂フイルムを貼合するだけでは、断熱性に欠ける嫌いがあるので、容器の内部に熱いものを入れたり、電子レンジなどで加熱すると、その外面(外側)が熱くなって、紙製容器を持てなくなる恐れがあった。
【0003】
この為、特許文献1に示すように、蓄熱剤が内包されている熱膨張性マイクロカプセルを含む蓄熱樹脂組成物から形成された蓄熱樹脂表面を有する食品容器が提案されているが、この熱膨張性マイクロカプセルの蓄熱性能から優れた断熱効果が期待できるか否かは甚だ疑問であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−237848号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、本願の発明者らは、多くの試行錯誤を繰り返して、熱膨張性マイクロカプセルの断熱効果を知見して、これを利用することにより、断熱性に優れた紙製食品容器を提供することを可能とした。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、斯かる実情に鑑み開発されたもので、請求項1記載の発明は、基紙の表面に熱膨張性マイクロカプセルを分散させたコーティング剤を塗工し加熱乾燥させることによって、上記熱膨張性マイクロカプセルを膨張させて、基紙上に断熱層を形成し、該断熱層上に樹脂フイルムを貼合したことを特徴とする。
【0007】
請求項2記載の発明は、請求項1を前提として、熱膨張性マイクロカプセルを上記コーティング剤に対して、重量比で、1〜40%の割合で分散させたことを特徴とする。
【0008】
請求項3記載の発明は、請求項1乃至請求項2を前提として、断熱層の上に樹脂フイルムを貼合する場合には、基紙上に形成された断熱層に接着剤を塗工して乾燥後、樹脂フイルムを貼り合わせることを特徴とする。
【0009】
請求項4記載の発明は、請求項1乃至請求項3を前提として、熱膨張性マイクロカプセルが膨張すると、これに伴い、コーティング剤層自体も膨張することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
依って、請求項1記載の発明にあっては、熱膨張性マイクロカプセルをコーティング剤中に分散させて基紙の表面に塗工し加熱乾燥させることによって、該熱膨張性マイクロカプセルを膨張させて、基紙上に断熱層を形成し、該断熱層上に樹脂フイルムを貼合した紙製食品容器に係るものであるので、耐油性・耐水性を有することは言うまでもないが、例え、容器の内部に熱いものを入れたり、電子レンジなどで加熱しても、上記断熱層が存在で、その外面が熱くなって、紙製食品容器が持てなくなる心配がない。
【0011】
請求項2記載の発明にあっては、熱膨張性マイクロカプセルをコーティング剤に対して、1〜40%の割合で配合させたので、コーティング剤との配合・攪拌時には十分な分散性が得られ、加熱乾燥時には、均一な膨張性が得られる。
【0012】
請求項3記載の発明にあっては、断熱層上に塗工された接着剤を乾燥すると、ネバネバとした粘着性が得られるので、断熱層に対する樹脂フイルムの貼合作業が容易となると共に、両者の接着性が頗る向上する。
【0013】
請求項4記載の発明にあっては、熱膨張性マイクロカプセルが膨張すると、これに伴い、コーティング剤層自体も膨張するので、断熱効果が更に期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施例に係る紙製食品容器を示す全体斜視図である。
【図2】基紙の要部拡大断面図である。
【図3】紙製食品容器を作製するまでの工程を説明する説明図である。
【図4】同フローチャート図である。
【図5】熱膨張性マイクロカプセルの説明図である。
【図6】熱膨張性マイクロカプセルを膨張させた状態を断面して示す拡大写真である。
【図7】熱膨張性マイクロカプセルを膨張させた状態を平面から示す拡大写真である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明は、基紙の表面に熱膨張性マイクロカプセルを分散させたコーティング剤を塗工し加熱乾燥させることによって、上記熱膨張性マイクロカプセルを膨張させて、基紙上に断熱層を形成し、該断熱層上に樹脂フイルムを貼合することにより、断熱性に優れた紙製食品容器を提供せんとするものである。
【実施例】
【0016】
以下、本発明を図示する好適な実施例に基づいて詳述すれば、該実施例に係る紙製食品容器1は、図1・図2に示す如く、その基紙2の表面(内面)に熱膨張性マイクロカプセル4を分散させたコーティング剤3を塗工し加熱乾燥させることによって、上記熱膨張性マイクロカプセル4を膨張させて、基紙2上に断熱層5を一体に形成し、該断熱層5上に樹脂フイルム6を貼合することにより、断熱性に優れた紙製食品容器を得ようとするものである。尚、図1では、箱状の容器を示したが、本発明は、これに限定されるものではなく、筒状やその他の各種形状となすことができる。
【0017】
そこで、当該容器1が製作されるまでの工程を詳しく説明すると、図3・図4に示す如く、まず、紙製食品容器1の基紙2となるシート状の加工原紙11を巻取ロール12にセットして、該加工原紙11を複数のガイドロール13を介して「塗工機械」側へ移送する。この「塗工機械」には、熱膨張性マイクロカプセル4が一定の割合で分散(配合・攪拌)されたコーティング剤3の収容パン14が配置されているので、加工原紙11の移送過程で、熱緊張性マイクロカプセル4が分散されたコーティング剤3が塗工ロール15を介して加工原紙11の表面に塗工される。この場合において、塗工量が多い場合には、ロッドコーター16で余分な量を取り除く。又、上記熱膨張性マイクロカプセル4の分散量は、1〜40%の割合とするが、後述する分散例などを考慮すると、その中でも、特に、重量比で、10〜20%の範囲が最も好ましいことが判明した。
【0018】
尚、上記熱膨張性マイクロカプセル4には、大阪府八尾市渋川町2−1−3に住所を有する松本油脂製薬株式会社が製造・販売する商品名「マツモトマイクロスフェアー」を使用したが、この熱膨張性マイクロカプセル4は、図5に示す如く、アクリルニトリルなどの熱可塑性高分子から成るシェル(殻)Xに液状の炭化水素Yを内包してなるもので、当該マイクロカプセル4を加熱していくと、まず、シェルXを構成する熱可塑性高分子が軟化すると同時に、内包されている液状の炭化水素Yがガス化を始め内圧が上がり、マイクロカプセル自体が膨張するものである。又、膨張時は、内圧とシェル高分子の張力・外圧が釣り合ってバルーン状の膨張状態が保持されるが、更に、加熱を続けると、薄くなったシェルXをガスが透過拡散するため、内圧よりもシェルXの張力と外圧が勝って収縮する。
【0019】
又、このマイクロカプセル4が分散されるコーティング剤3としては、アクリル・ポリエステル・ポリオレフィン系などの樹脂やエマルジョン、PVA、EVAなどを使用するものとする。
【0020】
以下に、このコーティング剤3と熱膨張性マイクロカプセル4との分散例を重量比をもって示すが、本発明は、これに限定されるものではなく、製品の用途や選定したコーティング剤3に合わせて配合を変えることができる。
【0021】
<第一分散例>
1.EVA 60%
2.マイクロカプセル 12%
3.水 28%
【0022】
<第二分散例>
1.水性アクリルエマルジョン 70%
2.マイクロカプセル 12%
3.水 18%
【0023】
<第三分散例>
1.EVA 60%
2.マイクロカプセル 20%
3.水 20%
【0024】
<第四分散例>
1.水性アクリルエマルジョンの混合品 90%
2.マイクロカプセル 10%
【0025】
尚、これらの分散例の中では、配合・攪拌時の分散性と加熱時の膨張性を発揮する上では、第一分散例のものが最も良好であった。
【0026】
そこで、今度は、図示する如く、コーティング剤3が塗工された加工原紙11をガイドロール13を介して「バーナー」側に移送して、ここを通過する過程でガスバーナー17により加熱乾燥する。この加熱乾燥は、約700℃の温度で行なうこととなるが、これにより、図6・図7に示す如く、熱膨張性マイクロカプセル4が約80倍に膨張して断熱層5を形成することとなるが、これに伴い、コーティング剤層自体も膨張して、断熱層5の表面に微細な凹凸形状を出現させる。但し、ここで注意することは、加熱量が少ないと、マイクロカプセル4の膨らみは小さくなり、加熱量が多いと、同膨らみが大きくなるので、通過スピードを考慮しながら、十分に加熱する必要がある。しかし、あまり加熱し過ぎるとマイクロカプセル4は逆に収縮する。又、マイクロカプセル4が膨張しても、断熱層5が破壊されることがない。
【0027】
次いで、断熱層5が形成された加工原紙11をガイドロール13を介して「ドライ薬品塗工機械」側に移送する。この「ドライ薬品塗工機械」側には、アクリル系共重合樹脂などのドライ接着剤18の収容パン19が配置されているので、この移送過程で、上記断熱層5面にドライ接着剤18が塗工ロール20を介して塗工される。
【0028】
上記ドライ接着剤18は、水分を飛ばすと粘着性を発揮できる性質を有しているので、今度は、そのまま、ガイドロール13を介して「乾燥ドライヤー」側に移送して、ガス熱風ドライヤー(図示せず)で乾燥し粘着性を得る。尚、この接着剤18には、大阪府東大阪市若江東町6−1−33に住所を有する日栄化工株式会社が製造・販売する商品名「ライフボンドRA−1A、RA−4B」を使用した。
【0029】
そして、その後、「ドライラミ貼合機械」側に移送して、当該接着剤18面に樹脂フイルム6を誘電ロール21を介して熱圧着で貼合する。尚、樹脂フイルム6については、PET、PP、PEなどの安価なものを使用する。
【0030】
最後に、樹脂フイルム6が貼合された加工原紙11を、加圧ロール22を経てロールカッター23まで移送して、該ロールカッター23で切断してから、所定の形状に打ち抜いた後、樹脂フイルム6面を内側にして組み立てれば、図1に示す如き紙製食品容器1が簡単に作製できる。又は、加工原紙11をポープリール(図示せず)に巻取り、その後、ロールカッター23で切断してから、所定の形状に打ち抜いても、同様に、紙製食品容器1が得られることとなる。いずれにしても、この紙製食品容器1は、基紙2と樹脂フイルム6間に断熱層5が形成され、且つ、この断熱層5が熱膨張性マイクロカプセル4で形成されているので、断熱性に優れる訳である。
【0031】
従って、作製された容器1は、100℃程度の熱湯を入れても、断熱層5と基紙2及び断熱層5と樹脂フイルム6との間で剥離が生じることがなくなると共に、裁断した場合に、その切り口から断熱層5の裁断粉が発生しないので、基紙2への密着性が良好で、且つ、断熱層5の上に樹脂フイルム6が貼合されているので、樹脂フイルム6との接着性も良好となる。又、必要に応じ、樹脂フイルム6が貼合されていない外面側にオフセット印刷を施し、所望の絵柄や文字を付与することも可能である。
【0032】
尚、上記の実施例では、容器1の内側(内面)に断熱層5を形成したものであるが、本発明は、これに限定されるものではなく、外側(外面)に断熱層5を形成したり、或いは、両側に断熱層5を形成することも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明によれば、熱膨張性マイクロカプセルの性能を積極的に利用して、優れた断熱効果が得られたので、これを各種紙製食品容器に適用すれば、頗る好都合なものとなる。
【符号の説明】
【0034】
1 紙製食品容器
2 基紙
3 コーティング剤
4 熱膨張性マイクロカプセル
5 断熱層
6 樹脂フイルム
11 加工原紙
12 巻取ロール
13 ガイドロール
14 収容パン
15 塗工ロール
16 ロッドコーター
17 ガスバーナー
18 ドライ接着剤
19 収容パン
20 塗工ロール
21 誘電ロール
22 加圧ロール
23 ロールカッター
X 熱膨張性マイクロカプセルのシェル
Y シェルに内包された炭化水素

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基紙の表面に熱膨張性マイクロカプセルを分散させたコーティング剤を塗工し加熱乾燥させることによって、上記熱膨張性マイクロカプセルを膨張させて、基紙上に断熱層を形成し、該断熱層上に樹脂フィルムを貼合したことを特徴とする紙製食品容器。
【請求項2】
熱膨張性マイクロカプセルを上記コーティング剤に対して、重量比で、1〜40%の割合で分散させたことを特徴とする請求項1記載の紙製食品容器。
【請求項3】
断熱層の上に樹脂フィルムを貼合する場合には、基紙上に形成された断熱層に接着剤を塗工して乾燥後、樹脂フィルムを貼り合わせることを特徴とする請求項1乃至請求項2のいずれかに記載の紙製食品容器。
【請求項4】
熱膨張性マイクロカプセルが膨張すると、これに伴い、コーティング剤層自体も膨張することを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の紙製食品容器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−20751(P2012−20751A)
【公開日】平成24年2月2日(2012.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−158393(P2010−158393)
【出願日】平成22年7月13日(2010.7.13)
【出願人】(390008176)京王製紙株式会社 (2)
【Fターム(参考)】