説明

素線絶縁導体及びそれを用いた電力ケーブル

【課題】視界が悪い作業場においても、エナメル皮膜の除去の完了の確認を低コストかつ容易に行えるようにする。
【解決手段】素線絶縁導体1は、裸銅線2と、裸銅線2を被覆するエナメル皮膜3と、を備え、エナメル皮膜3は、裸銅線2の表面を被覆する第一の層4と、第一の層4の表面を被覆する第二の層5と、を有し、第一の層4は、目視により裸銅線2と識別容易な色に着色されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銅線等の導体に絶縁皮膜を施した素線絶縁導体及びそれを用いた電力ケーブルに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地中送電線路の大容量化に伴い、電力用地中ケーブルも大サイズ化している。しかし、電力用地中ケーブルが大サイズ化すると、表皮効果により交流抵抗が増大してしまう。そこで、これを防止するためケーブルを構成する素線(銅線)の表面に電気絶縁を施した素線絶縁導体を使用する場合がある。素線を絶縁する方法は大きく分けて二つあり、一つは素線表面にエナメル皮膜を施す方法、もう一つは素線表面に酸化皮膜を形成する方法である。
【0003】
前者の方法においては、素線として銅線を用い、絶縁皮膜としてエナメル皮膜又はホルマル皮膜を用いるのが一般的である。ここで、エナメル皮膜は半透明の茶褐色、ホルマル皮膜は無色透明である。従って、例えば銅線にエナメル皮膜を施す場合に、着色しないナチュラルなエナメルを被覆すると、銅線と色が良く似ているため、エナメル皮膜の存在を確認し難い。そのため、ジョイント作業等においてエナメル被覆を剥ぎ取る場合に剥ぎ取り完了の目視確認を注意深く行う必要があった。即ち、銅線上から絶縁皮膜が完全に除去されたか否かの識別(区別)が困難であった。この点、無色透明なホルマル皮膜を施したホルマル線の場合も、見た目に中の銅線との色の差がないため、皮膜を剥離した際の区別が困難であった。
【0004】
このような問題に対する解決手段として、特許文献1には、図4に示すように先端部に電極21とガイドリング22とを設けたガイドロッド23を有する測定器24を用いて、絶縁皮膜を除去した素線のうち1本の素線25にガイドリング22を装着し、素線25の表面に電極21を押圧することで、素線の絶縁皮膜の除去の状態を、導電性又は絶縁性を示す値として電気的に知る方法が記載されている。
また、特許文献2には、図5に示すように銅素線2aの表面に、カーボンブラックを着色添加剤として使用したエナメルを被覆して、着色エナメル皮膜3aを形成することで、エナメル皮膜の剥離状況を目視で容易に確認できることが記載されている。
更に、特許文献3には、リッツ線を構成する素線エナメル線において、素線エナメル線を被覆するエナメル線塗膜のうち最外層のみを着色することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平6−034764号公報
【特許文献2】特開平10−021754号公報
【特許文献3】特開2001−126544号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1に記載の方法では、専用の測定装置を用いて銅線を一本ずつ測定しなければならないため、作業性が良くない。
特許文献2に記載の方法では、エナメル皮膜の全層を着色しているため、着色添加剤としてのカーボンブラックの使用量が増大し、コストが増大してしまう。
特許文献3に記載の方法では、エナメル線塗膜のうち着色されている部分は最外層のみなので、エナメル線塗膜のうち内側の層が着色されていない。よってエナメル線塗膜を除去する際に、導体にエナメル線塗膜が残留してしまうおそれがある。
【0007】
本発明は上記問題を解決しようとしてなされたものであり、暗所等の視界が悪い作業場においても、銅線表面から絶縁皮膜が完全に除去されたか否かの見極めを低コストかつ容易に行えるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以上の課題を解決すべく、請求項1に記載の発明は、素線絶縁導体であって、裸導線と、
前記裸導線を被覆する絶縁皮膜と、を備え、
前記絶縁皮膜は、前記裸導線の表面を被覆する第一の層と、前記第一の層の表面を被覆する第二の層と、を有し、
前記第一の層は、目視により前記裸導線と識別容易な色に着色されていることを特徴とする。
【0009】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の素線絶縁導体であって、前記第一の層の膜厚と前記第二の層との膜厚の比率が1:6〜5:9の範囲であることを特徴とする。
【0010】
請求項3に記載の発明は、電力ケーブルであって、請求項1又は2に記載の素線絶縁導体を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、銅線上から絶縁皮膜が除去されたか否かを低コストかつ容易に確認することができ、銅線上に絶縁皮膜を残留させないようにすることができる。また、絶縁皮膜のうち着色部分の比率を小さくすることで、素線絶縁導体及びそれを用いた電力ケーブルの製造コストを大きく削減できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】素線絶縁導体の断面図及びその拡大図である。
【図2】電力ケーブルのセグメントの断面図である。
【図3】電力ケーブルを示す図である。
【図4】従来の素線絶縁導体の確認装置を示す図である。
【図5】従来の素線絶縁導体の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、本発明を実施するための形態について図面を用いて説明する。ただし、以下に述べる実施形態には、本発明を実施するために技術的に好ましい種々の限定が付されているが、発明の範囲を以下の実施形態及び図示例に限定するものではない。
【0014】
図1(a)は素線絶縁導体1の断面図であり、図1(b)は図1(a)に示された一点鎖線に囲まれた部分Aの拡大図である。図2は、複数本の素線絶縁導体1により構成された電力ケーブルのセグメント6の断面図である。
【0015】
図1(a)に示すように、素線絶縁導体1は、銅からなる裸導線(以下「裸銅線」と記す)2の表面にエナメル皮膜(絶縁皮膜)3を被覆してなる。このエナメル皮膜3により裸銅線2の表面が絶縁されている。なお、エナメル皮膜3は裸銅線2の表面を絶縁できる性質を有する皮膜であればよく、エナメルでなくポリエチレン、ポリエステル等の絶縁性樹脂の皮膜であってもよい。また、裸銅線2の外径は2.79mm、エナメル皮膜3の厚さは0.028mmが例示されるが、この寸法に限るものではない。
【0016】
図1(b)に示すように、エナメル皮膜3は第一の層4と第二の層5とからなる。第一の層4は1層、第二の層5は複数層からなる。第一の層4は裸銅線2の表面を被覆しており、第二の層5は第一の層4の表面を被覆している。第一の層4は裸銅線2との間で識別性が高い色で着色されており、例えば緑色、青色等を呈している。これにより、暗所等の視界が悪い作業場においても裸銅線2と第一の層4との識別が容易である。ここで、目視による識別性向上及び低コスト化の観点から、第一の層の膜厚と第二の層の膜厚は1:6〜5:9の比率になっていることが好ましい。具体的には、第一の層の膜厚は4〜10mm、第二の層の膜厚は10〜18mmが例示される。なお、第一の層4は複数層からなるものであってもよい。
【0017】
第一の層4及び第二の層5からなるエナメル皮膜3は次のようにして形成される。まず、裸銅線2に対して所定の前処理を行う。続いて、裸銅線2の表面に第一の層4の原料である第一の塗布剤を塗布する。第一の塗布剤は顔料等により所定の色に着色されているものである。そして、第一の塗布剤を塗布した上に、第二の層5の原料である第二の塗布剤を塗布する。第二の塗布剤は着色を施していないものである。塗布剤を塗布した後、これを高温で焼き付け処理して塗布剤に含まれる溶剤を除去することで、裸銅線2上にエナメル皮膜3が形成される。複数回にわたって塗布を繰り返すことで裸銅線2の表面に高い絶縁性を施すことができる。また、第二の塗布剤の塗布回数は第二の層5が所望の膜厚となるように調整する。具体的には、第二の塗布剤を8回程度塗布することが好ましい。第一の塗布剤は1回塗布することで本発明の目的を十分に達成し得るが、複数回塗布してもよい。
【0018】
第一の塗布剤及び第二の塗布剤の組成成分としては、従来のエナメル皮膜の原料である樹脂、溶剤等を任意に用いることができる。
例えば、第二の塗布剤は、ポリアミドイミド樹脂を主要樹脂として、N−メチルピロリドン(CNO)、ジメチルアセトアミド(CHCON(CH)及び高沸点ナフサ(炭素数9〜10のアルキルベンゼンが主成分)を構成成分としており、これに溶剤を加えた粘性液体である。またその含有量は、ポリアミドイミド樹脂が30〜40%、N−メチルピロリドンが45〜55%、ジメチルアセトアミドが5〜15%、高沸点ナフサが1〜10%である。
一方、第一の塗布剤は、第二の塗布剤に染料を添加して所望の色に着色したものである。ここで用いる染料としては、皮膜の絶縁性を損なわないものである必要があり、単一または複数組み合わせて用いることが出来る。具体的には、オラゾールブルー(チバ・ガイギー(株)製商品名)、オイルスカーレット(オリエント化学(株)製商品名)等の市販の染料が好適に用いられる。エナメル皮膜3の絶縁性・耐熱性等を損なわず、かつ裸銅線2との識別が十分にできる程度に着色するためには、着色剤の配合率は3〜8%程度であることが好ましい。なお、本実施形態では第一の塗布剤と第二の塗布剤とは同様の組成成分であるが、これらは異なる組成成分であってもよい。
【0019】
素線絶縁導体1から構成される電力ケーブルの一例について図3を参照して説明する。
図3は、素線絶縁導体1から構成される電力ケーブル7を示す図である。図3に示すように電力ケーブル7は、導体8を絶縁体9で被覆して構成されている。導体8は複数のセグメント導体10からなり、セグメント導体10は複数の素線絶縁導体1を撚り合わせたものを圧縮してなる。絶縁体9は、例えば架橋ポリエチレンによって形成されている。
なお素線絶縁導体1は、図示例に限らず、架空配電線、電気機器用電線、制御用ケーブルその他の電力ケーブルに適用可能である。
【0020】
以上のような素線絶縁導体からなる電力ケーブルを接続等する場合において、マンホール等の視界が悪い作業場でエナメル皮膜3を除去しようとするとき、上層(第二の層5)から徐々にエナメル皮膜を除去していくと下層の第一の層4が現れる。さらに第一の層4を除去していくと裸銅線2の表面が現れる。第一の層4は裸銅線2との間で識別が容易な色に形成されているため、視界が悪い作業場においても、第一の層4が除去されている箇所と第一の層4が除去されていない箇所とが明確に識別できる。また、第一の層4はエナメル皮膜3のうち最下層(最内層)に位置しているため、第一の層4が除去された箇所はエナメル皮膜3が完全に除去されていることを意味している。従って裸銅線2の表面が全て目視できるようになるまでエナメル皮膜3の除去を行うことで、エナメル皮膜3の除去の完了を容易に確認できることとなる。これにより視界が悪い作業場においても、裸銅線2上にエナメル皮膜3を残留させることなく完全な除去を行うことができる。また、本発明はエナメル皮膜3のうち最内層のみを着色しているので、素線絶縁導体及びそれを用いた電力ケーブルの製造コストを大きく削減できる。
【0021】
なお、本実施形態では、第二の層5は着色を施していない無着色となっているが、第二の層5を第一の層4との識別が容易な色となるようにしてもよい。これにより、エナメル皮膜3の除去の進行度合が段階的に把握できるため、エナメル皮膜3の除去完了の確認をより容易かつ確実に行えるようになる。
【符号の説明】
【0022】
1 素線絶縁導体
2 裸銅線(裸導線)
3 エナメル皮膜(絶縁皮膜)
4 第一の層
5 第二の層
6 セグメント
7 電力ケーブル
8 導体
9 絶縁体
10 セグメント導体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
裸導線と、
前記裸導線を被覆する絶縁皮膜と、を備え、
前記絶縁皮膜は、前記裸導線の表面を被覆する第一の層と、前記第一の層の表面を被覆する第二の層と、を有し、
前記第一の層は、目視により前記裸導線と識別容易な色に着色されていることを特徴とする素線絶縁導体。
【請求項2】
前記第一の層の膜厚と前記第二の層との膜厚の比率が1:6〜5:9の範囲であることを特徴とする請求項1に記載の素線絶縁導体。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の素線絶縁導体を備えることを特徴とする電力ケーブル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−103179(P2011−103179A)
【公開日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−256647(P2009−256647)
【出願日】平成21年11月10日(2009.11.10)
【出願人】(502308387)株式会社ビスキャス (205)
【出願人】(000005186)株式会社フジクラ (4,463)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【Fターム(参考)】