説明

紡機のドラフト装置

【課題】各トップローラ軸心と対応するボトムローラ軸心との距離(オフセット距離)が、紡出繊維の種類に対応した適正な状態に設定されていることを容易に判別する。
【解決手段】複数のトップローラ17〜19がそれぞれトップローラ支持体20〜22を介してウエイティングアーム14のフレーム15に支持されている。フレーム15の上壁15aにはその長手方向に延びる長孔30a〜30cが形成され、トップローラ支持体20〜22は、長孔30a〜30cを貫通するボルト23を介してフレーム15に固定されている。トップローラ支持体20〜22のフレーム15に対する固定位置の位置決めを行う位置決めピース31〜33は、トップローラ支持体20〜22の位置を規定する規定部36により規定されるトップローラ支持体20〜22のフレーム15に対する固定位置を表示する表示部(オフセット距離Δ毎に異なる色)を備え、トップローラ支持体20〜22毎に独立して取り外し可能にフレーム15に固定されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紡機のドラフト装置に係り、詳しくはトップローラのボトムローラに対する位置決め構造に特徴を有する紡機のドラフト装置に関する。
【背景技術】
【0002】
精紡機や粗紡機等の紡機においては繊維束を引き伸ばすドラフト装置を備えている。ドラフト装置においては、紡出する繊維の種類に応じて隣り合うローラ対のボトムローラとトップローラによる繊維束のニップ点の間隔(ゲージ)を適正な値に調整する必要がある。そのため、トップローラは、ウエイティングアームに対して前後方向(繊維束の走行方向)に位置調整可能に固定される支持部材を介して支持されている。
【0003】
従来、ドラフト装置のドラフトゲージ調節方法(ドラフト機構のラッチ調節方法)として、図9に示すような、調節ゲージ50を用いて支持部材のウエイティングアームに対する位置を決定してウエイティングアームに固定する方法が提案されている(特許文献1参照。)。調節ゲージ50は、基体51を備えており、基体51に対して2本の側方レール52がピン53とねじ54により固定されている。側方レール52は、ウエイティングアームをローラスタンドに回動可能に支持する支持軸60に対して嵌合可能な切欠きを備え、側方レール52はこの切欠きにより支持軸60上に載置可能になっている。また、基体51には2本の他の側方レール55が、側方レール52と平行にスライド可能、かつスリット案内部55aを貫通するねじ56により固定可能に支持されている。側方レール55は、一端にトップローラの軸61に嵌合可能な切欠きを備え、他端においてボルト57により固定されている。側方レール55はこの切欠きにより軸61上に装着可能になっている。
【0004】
調節ゲージ50を使用する場合は、ねじ56を弛めて側方レール55がスライド可能な状態で、側方レール52を支持軸60上に載置し、側方レール55の切欠きをトップローラの軸61に嵌合させる。そして、側方レール55を移動させてトップローラの軸61と支持軸60との間隔を所望の間隔に調節した後、ねじ56を締め付けて側方レール55を基体51に対して固定する。そして、このゲージが調節された調節ゲージ50を用いてトップローラの調節が個々のドラフト装置において行われる。
【0005】
また、図10に示すように、クレードル基体71の上面に、ドラフトパートのドラフトローラ軸に対応する複数のドラフトローラ軸押圧ロッド72を嵌合するゲージ溝73を所定間隔で設けてなる上部ゲージプレート74を固定したドラフト装置も提案されている(特許文献2参照。)。クレードル基体71は、中央に上方が開いたスプリングボックス部75を有し、スプリングボックス部75を覆うようにガイドプレート76がねじ76aにより固定されている。そして、上部ゲージプレート74は、ガイドプレート76上に載置されるとともに、止めねじ77によりガイドプレート76に固定されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平2−127528号公報
【特許文献2】特開平8−246261号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
実操業においては、例えば、リング精紡機では1台当たり400〜1000錘有するため、工場全体では、数千〜数万の支持部材に対して位置決めを行う必要がある。このため、特許文献1のように調節ゲージ50を用いる場合は、調節ゲージ50の使用時の操作ミス等により、ウエイティングアームによっては支持部材の位置が適正位置からずれる場合がある。その結果、ウエイティングアーム間にて支持部材のボトムローラに対する位置が異なる可能性が充分にあり、結果として糸品質の錘間バラツキに繋がる。
【0008】
また、特許文献2のように各ウエイティングアームに上部ゲージプレート74を固定してゲージ調整(調節)を行う場合は、調節ゲージ50の使用ミス等による位置決めの不具合はない。しかし、隣り合うローラ対のボトムローラとトップローラによる繊維束のニップ点の間隔(ゲージ)に加えて各トップローラ軸心と対応するボトムローラ軸心との距離(オフセット距離)も紡出繊維の種類に対応した適切な状態に設定される必要があるが、特許文献2のような上部ゲージプレート74をでは、ゲージはすぐに判別できるもののオフセット距離は判別できない。
【0009】
本発明は前記の問題点に鑑みてなされたものであって、その目的は各トップローラ軸心と対応するボトムローラ軸心との距離(オフセット距離)が、紡出繊維の種類に対応した適正な状態に設定されていることを容易に判別することができる紡機のドラフト装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記の目的を達成するため、請求項1に記載の発明は、複数のトップローラがそれぞれトップローラ支持体を介してウエイティングアームに支持された紡機のドラフト装置である。前記ウエイティングアームのフレームの上壁にはその長手方向に延びる長孔が形成され、前記トップローラ支持体は、前記長孔を貫通するボルトを介して前記フレームに固定されている。そして、前記トップローラ支持体の前記フレームに対する固定位置の位置決めが、前記ボルト又は前記トップローラ支持体と当接して前記トップローラ支持体の前記フレームに対する固定位置を規定する規定部及び前記規定部により規定される前記トップローラ支持体の前記フレームに対する固定位置を表示する表示部を備え、前記トップローラ支持体毎に独立して取り外し可能に前記フレームに固定される位置決めピースにより行われる。
【0011】
この発明では、トップローラ支持体は、ウエイティングアームのフレームの上壁にその長手方向に延びるように形成された長孔を貫通するボルトを介してフレームに固定され、ボルトを長孔に沿って移動させて締め付け位置を変更することにより、トップローラ支持体のフレームに対する固定位置が調整される。そして、トップローラ支持体のフレームに対する固定位置の位置決めが、前記ボルト又は前記トップローラ支持体と当接して前記トップローラ支持体の位置を規定する規定部及び前記規定部により規定される前記トップローラ支持体の前記フレームに対する固定位置を表示する表示部を備え、トップローラ支持体毎に独立して取り外し可能にフレームに固定される位置決めピースを介して行われる。したがって、各トップローラ軸心と対応するボトムローラ軸心との距離(オフセット距離)が、紡出繊維の種類に対応した適正な状態に設定されていることを容易に判別することができる。
【0012】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記位置決めピースは、前記ボルトの頭部周面と当接する前記規定部を有する。この発明では、位置決めピースをフレームに固定した状態で、ボルトをトップローラ支持体と共にフレームの長手方向に沿って移動させ、ボルトの頭部が位置決めピースの規定部と当接する状態でボルトを締め付けることにより、トップローラ支持体を所定の位置に位置決めされた状態でフレームに固定することができる。
【0013】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は請求項2に記載の発明において、前記位置決めピースは、前記フレームの側壁に形成された孔を介して前記フレームに固定され、前記孔が形成される高さ位置は、前記位置決めピースと対応するトップローラ毎に異なる。ここで、「孔を介してフレームに固定される。」とは、位置決めピース自身がその孔に嵌合する凸部を有し、その凸部が孔と嵌合してフレームに固定される場合と、位置決めピースにはその孔と対向可能な孔を有し、両孔に嵌合されるピンによりフレームに固定される場合とを含む。この発明では、位置決めピースは、フレームの側壁に形成された孔を介してフレームに固定され、その孔の高さ位置がトップローラ毎に異なるため、他のトップローラ用の位置決めピースを誤って取り付けることが回避される。
【0014】
請求項4に記載の発明は、請求項1又は請求項2に記載の発明において、前記位置決めピースは、前記フレームの上壁に形成された孔と係合する凸部と、前記フレームの側壁の下端に掛止される掛止部を有し、前記凸部を介して固定位置が位置決めされ、前記フレームの側壁の上下方向の長さは、前記位置決めピースと対応するトップローラ毎に異なる。この発明では、位置決めピースは、凸部がフレームの上壁に形成された孔と係合して位置決めされ、掛止部がフレームの側壁の下端に掛止された状態でフレームに固定される。そして、掛止部の位置がトップローラ毎に異なるため、他のトップローラ用の位置決めピースを誤って取り付けることが回避される。
【0015】
請求項5に記載の発明は、請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の発明において、前記位置決めピースの前記表示部は、前記フレームの側壁外面に沿って延びる。
ウエイティングアームは、フレームの上側にトップローラをボトムローラに対して加圧状態に保持する加圧位置と、加圧状態を解放する解放位置とに回動操作されるレバーを備えており、レバーが加圧位置に配置された状態では、フレームの上壁はレバーにより覆われた状態になる。この発明では、位置決めピースの表示部がフレームの側壁外面に沿って延びるように形成されているため、レバーが加圧位置に配置された状態、即ち運転状態においても表示部を目視で容易に確認でき、適切な位置決めピースが使用されているか否かを判断することができる。
【0016】
請求項6に記載の発明は、請求項1〜請求項5のいずれか一項に記載の発明において、前記位置決めピースの前記表示部は、各トップローラ軸心と対応するボトムローラ軸心との距離(オフセット距離)により色分けされた着色部分である。したがって、この発明では、位置決めピースの色を確認することで、トップローラの組み付け時に誤ったオフセット距離の位置決めピースを使用することを防止することができる。また、組み付け後に、誤ったオフセット距離の位置決めピースが間違って使用されていないかの確認が容易になる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、各トップローラ軸心と対応するボトムローラ軸心との距離(オフセット距離)が、紡出繊維の種類に対応した適正な状態に設定されていることを容易に判別することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】(a)は第1の実施形態のドラフト装置の一部破断側面図、(b)はウエイティングアームのレバーを省略した平面図、(c)は(b)の二点鎖線で囲んだ部分の拡大図、(d)はオフセット距離を示す模式図。
【図2】位置決めピースの斜視図。
【図3】(a)は位置決めピースとウエイティングアームとの関係を示す一部省略模式正面図、(b)は位置決めピースの凸部とフレームの孔との関係を示す部分断面図。
【図4】第2の実施形態のドラフト装置の一部破断部分側面図。
【図5】同じく一部省略平面図
【図6】(a)は位置決めピースの斜視図、(b)は係合凸部とウエイティングアームとの関係を示す部分断面図。
【図7】別の実施形態のドラフト装置の一部省略平面図。
【図8】(a)は凸部と位置決めピースとボルトとの関係を示す一部省略断面図、(b)は位置決めピースの斜視図、(c)は位置決めピースの斜視図。
【図9】従来技術の調節ゲージの側面図。
【図10】別の従来技術のカバーを取った状態のドラフト装置の平面図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
(第1の実施形態)
以下、本発明を精紡機の2錘一体型のドラフト装置に具体化した第1の実施形態を図1〜図3にしたがって説明する。
【0020】
図1(a)に示すように、ドラフト装置10は、フロントボトムローラ11、ミドルボトムローラ12及びバックボトムローラ13を備えた3線式の構成となっている。各ボトムローラ11,12,13は、図示しないローラスタンドに対して支持されている。
【0021】
ウエイティングアーム14は下方が開放されて断面略逆U字状に形成されたフレーム15を備え、フレーム15はその基端において支持軸16を介してローラスタンドに回動可能に支持されている。フレーム15にはフロントトップローラ17、ミドルトップローラ18及びバックトップローラ19が、それぞれフロントボトムローラ11、ミドルボトムローラ12及びバックボトムローラ13と対応する位置に、トップローラ支持体20,21,22を介して支持されている。
【0022】
トップローラ支持体20,21,22は、それぞれフレーム15の上壁15aの下面にボルト23により締め付け固定される支持部24と、支持部24の下端後部に設けられた支軸25を介して支持部24に対して回動可能に支持された支持アーム26とで構成されている。ボルト23として六角穴付きボルトが使用されている。支持アーム26の先端には各トップローラ17,18,19の支軸17a,18a,19aが嵌合され、図1(b)に示すように、支軸17a,18a,19aの両端にトップローラ17,18,19が回転可能に支持されている。
【0023】
図1(a)及び図3(a),(b)に示すように、各支持部24には支持アーム26を各トップローラ17,18,19が各ボトムローラ11,12,13に圧接される方向に回動付勢するコイルばね27が設けられている。
【0024】
図1(a)に示すように、フレーム15の上側には、レバー28が、支持軸16と平行に延びる軸29を介してその基端側においてフレーム15に対して回動可能に支持されている。レバー28は、その先端側下部がフレーム15の上壁15aと当接する図1(a)に示す位置に配置された状態では、フレーム15がウエイティングアーム14に支持された各トップローラ17〜19を各ボトムローラ11〜13側に押圧する加圧位置(紡出位置)にロック状態で保持される。また、レバー28が図1(a)に示す状態から上方の解放位置に回動された状態では、前記ロック状態が解除されるようになっている。
【0025】
図1(b)に示すように、フレーム15の上壁15aには長孔30a,30b,30cが形成され、支持部24は長孔30a,30b,30cに嵌挿されたボルト23を介してフレーム15に固定されている。支持部24はその上部に雌ねじ部が形成され、雌ねじ部に螺合されるボルト23によりフレーム15の下面に締付け固定可能に形成され、ボルト23を弛めた状態で支持部24をボルト23とともに所定位置に移動配置した後、ボルト23を締め付けることにより所定位置に固定されるようになっている。なお、長孔30a,30b,30cは、フロントトップローラ17、ミドルトップローラ18及びバックトップローラ19を紡出条件に対応してフロントボトムローラ11、ミドルボトムローラ12及びバックボトムローラ13と適切に対応する位置に支持可能な範囲にわたるように形成されている。
【0026】
図1(a),(b)に示すように、フレーム15には、トップローラ支持体20,21,22のフレーム15に対する固定位置の位置決めを行うための位置決めピース31,32,33が、トップローラ支持体20,21,22毎に独立してフレーム15に対して取り外し可能に固定されている。図2に示すように、位置決めピース31,32,33は、それぞれ略逆U字状に形成され、本体31a,32a,33aと、可撓性を有する一対の脚部31b,32b,33bとを備えている。位置決めピース31,32,33は、それぞれ脚部31b,32b,33bの長さが異なり、この実施形態では、フロントトップローラ17用の位置決めピース31の脚部31bが最も短く、ミドルトップローラ18用の位置決めピース32の脚部32b、バックトップローラ19用の位置決めピース33の脚部33bの順に長く形成されている。位置決めピース31,32,33には、各脚部31b,32b,33bの内側下端寄りに凸部34がそれぞれ形成されている。
【0027】
フレーム15の側壁15bには、各位置決めピース31,32,33用の孔35a,35b,35cが形成されている。孔35a,35b,35cが形成される高さ位置は、位置決めピース31,32,33と対応するトップローラ17〜19毎に異なる。位置決めピース31,32,33は、フレーム15の上壁15a及び両側壁15bの外面に係合し、凸部34が孔35a,35b,35cに係合する状態でフレーム15に固定されている。即ち、位置決めピース31,32,33は、その脚部31b,32b,33bがフレーム15の側壁15bの外面に沿って延びる状態でフレーム15に固定されている。なお、図1(a)に示すように、レバー28には、レバー28が加圧位置に配置された状態において、位置決めピース32,33と対応する箇所に本体32a,33aとの干渉を回避するための切り欠き部28aが形成されている。
【0028】
位置決めピース31,32,33は、トップローラ支持体20,21,22の位置を規定する規定部36をそれぞれ本体31a,32a,33aに備えている。規定部36は円弧状に形成され、トップローラ支持体20,21,22をフレーム15に固定するボルト23の頭部周面23aと当接してトップローラ支持体20,21,22の位置を規定する。詳述すると、フレーム15の側壁15bに形成された孔35a,35b,35cは、それぞれ所定の位置に精度良く形成されており、各位置決めピース31,32,33の規定部36と凸部34との位置関係も精度良く形成されている。そのため、各位置決めピース31,32,33がフレーム15に固定されると、規定部36の位置は、ボルト23の頭部周面23aと当接することにより、トップローラ支持体20,21,22の位置を所定位置に規定する。フロントボトムローラ11はローラスタンド上に位置不変に固定されており、ミドルボトムローラ12及びバックボトムローラ13は所望のゲージに応じてそれぞれフロントボトムローラとの距離が設定されている。したがって、各位置決めピース31,32,33の規定部36と凸部34との位置関係により各トップローラ17〜19のオフセット距離が一義的に定まる。位置決めピース31,32,33として、規定部36と凸部34との位置関係が異なる複数種の位置決めピースがオフセット距離の所望の調整量に応じて準備される。
【0029】
また、位置決めピース31,32,33は、オフセット距離により色分けされている。ここで、オフセット距離とは、対応するボトムローラ及びトップローラの軸心、例えば、図1(d)に示すように、ミドルボトムローラ12の軸心とミドルトップローラ18の軸心との、繊維束の移動方向における距離Δを意味する。したがって、異なるトップローラ用の位置決めピースであっても、オフセット距離が同じ場合は、同じ色になる。
【0030】
次に前記のように構成された装置の作用を説明する。
ドラフト装置10は、レバー28が加圧位置に配置されると、各トップローラ17〜19が各ボトムローラ11〜13側にそれぞれ押圧される状態に保持され、その状態でドラフト装置10が駆動されると、ボトムローラ11〜13の回転によりトップローラ17〜19が回動されて繊維束(図示せず)を引き伸ばしつつ移送する。そして、紡出する繊維の条件(例えば、繊維長、繊維束の太さ、繊維の種類の違い)によって、隣り合うローラ対のボトムローラとトップローラによる繊維束のニップ点の間隔(ゲージ)及び各トップローラ軸心と対応するボトムローラ軸心との距離(オフセット距離)を適正な値に調整する必要がある。
【0031】
紡出条件の変更によりゲージ及びオフセット距離調整を行う場合は、レバー28を開放位置に配置した状態で、調整を行う必要があるトップローラ、例えば、フロントトップローラ17のトップローラ支持体20を固定しているボルト23を弛める。次に位置決めピース31をフレーム15から取り外す。位置決めピース31は、脚部31bが可撓性を有しており、脚部31bが撓むことにより、凸部34が孔35aから容易に離脱してフレーム15から取り外すことができる。
【0032】
次に所望のオフセット距離に変更するのに適した位置決めピース31をフレーム15に取り付ける。位置決めピース31の取り付けは、凸部34が孔35aとほぼ対応する位置で、位置決めピース31を一対の脚部31b先端間を若干拡げた状態でフレーム15の上側からフレーム15に係合させて下方へ移動させる。そして、凸部34が孔35aに係合する位置まで移動させると、凸部34が孔35aに係合して位置決めピース31がフレーム15の所定位置に固定される。即ち、位置決めピース31は、凸部34が孔35aに係合するようにフレーム15に固定することにより、所定位置にワンタッチで簡単に固定される。その状態で、ボルト23をトップローラ支持体20と共に、頭部周面23aが規定部36と当接する位置まで移動させ、頭部周面23aが規定部36と当接する位置でボルト23を締め付け固定すると、トップローラ支持体20が所定位置に固定される。そして、トップローラ支持体20に支持されたフロントトップローラ17の軸心と、フロントボトムローラ11の軸心との距離が調整すべき値、即ち変更すべき所定オフセット距離に設定される。ボルト23の締め付け固定が終了した後、レバー28を加圧位置に回動すると、そのドラフト装置10の調整が完了する。以下、同様にして全てのドラフト装置10のゲージ及びオフセット距離の調整を行う。
【0033】
精紡機においては、紡出条件の変更によりドラフト装置10のゲージ調整を行う場合、ブレーキドラフトゲージ(ミドルローラ〜バックローラのゲージ)を一定のまま、フロントローラ〜ミドルローラのゲージを調整する頻度が高い。この実施形態では、ミドルトップローラ18用のトップローラ支持体21及びバックトップローラ19用のトップローラ支持体22と無関係にトップローラ支持体20のフレーム15に対する固定位置を変更できるため、フロントローラ〜ミドルローラのゲージ調整を簡単に行うことができる。
【0034】
この実施形態によれば、以下に示す効果を得ることができる。
(1)ドラフト装置10は、複数のトップローラ(フロントトップローラ17、ミドルトップローラ18、バックトップローラ19)がそれぞれトップローラ支持体20〜22を介してウエイティングアーム14に支持されている。ウエイティングアーム14のフレーム15の上壁15aにはその長手方向に延びる長孔30a〜30cが形成され、トップローラ支持体20〜22は、長孔30a〜30cを貫通するボルト23を介してフレーム15に固定されている。トップローラ支持体20〜22のフレーム15に対する固定位置の位置決めが、トップローラ支持体20〜22の位置を規定する規定部36及び規定部36により規定されるトップローラ支持体20〜22のフレーム15に対する固定位置を表示する表示部(オフセット距離毎に異なる色)を備え、トップローラ支持体20〜22毎に独立して取り外し可能にフレーム15に固定される位置決めピース31〜33により行われる。したがって、各トップローラ17〜19の軸心と対応するボトムローラ11〜13の軸心との距離Δ(オフセット距離)が、紡出繊維の種類に対応した適正な状態に設定されていることを容易に判別することができる。また、紡出条件の変更によりドラフト装置10のゲージ調整を行う場合、ブレーキドラフトゲージを一定のまま、フロントローラ〜ミドルローラのゲージを調整する頻度が高い。この実施形態では、トップローラ支持体20のフレーム15に対する固定位置のみを変更することで簡単に対応することができる。
【0035】
(2)位置決めピース31〜33は、フレーム15に固定され、ボルト23の頭部周面23aと当接する規定部36を有する。したがって、位置決めピース31〜33をフレームに固定した状態で、ボルト23の頭部周面23aが規定部36と当接する状態でボルト23を締め付けることにより、トップローラ支持体20〜22を所定の位置に位置決めされた状態でフレーム15に固定することができる。
【0036】
(3)位置決めピース31〜33は、フレーム15の側壁15bに形成された孔35a〜35cを介してフレーム15に固定され、孔35a〜35cが形成される高さ位置は、位置決めピース31〜33と対応するトップローラ17〜19毎に異なる。したがって、位置決めピース31〜33は、フレーム15の側壁15bに形成された孔35a〜35cを介してフレーム15に固定され、その孔35a〜35cの高さ位置がトップローラ17〜19毎に異なるため、他のトップローラ用の位置決めピースを誤って取り付けることが回避される。
【0037】
(4)位置決めピース31〜33は、本体31a,32a,33aと、可撓性を有する一対の脚部31b,32b,33bとを備え、側壁15bに形成された孔35a,35b,35cとそれぞれ係合する凸部34が脚部31b,32b,33bの内側に形成されている。したがって、位置決めピース31〜33は、ワンタッチでフレーム15に簡単に取り付けることができる。
【0038】
(5)位置決めピース31〜33は、フレーム15の側壁15b外面に沿って延びるとともに位置決めピース31〜33のオフセット距離を表示する表示部として機能する脚部31b,32b,33bを備えている。ウエイティングアーム14のレバー28が加圧位置に配置された状態では、フレーム15の上壁15aは、フロントトップローラ17用の位置決めピース31の固定位置より後部側(バックローラ側)の部分がレバー28により覆われた状態になる。そのため、位置決めピース32,33が上壁15aと同じ幅に形成された場合は、レバー28が加圧位置に配置された状態では、位置決めピース32,33はレバー28により覆われた状態になる。しかし、この実施形態では、レバーが加圧位置に配置された状態、即ち運転状態においても、位置決めピース31〜33の脚部31b,32b,33bを目視で容易に確認でき、適切な位置決めピースが使用されているか否かを判断することができる。
【0039】
(6)位置決めピース31〜33は、オフセット距離により色分けされている。したがって、位置決めピース31〜33の色を確認することで、トップローラ17〜19の組み付け時に誤ったオフセット距離の位置決めピース31〜33を使用することを防止することができる。また、組み付け後に、誤ったオフセット距離の位置決めピース31〜33が間違って使用されていないかの確認が容易になる。
【0040】
(第2の実施形態)
次に第2の実施形態を図4〜図6にしたがって説明する。この実施形態では、位置決めピース31〜33のフレーム15に対する固定構造が第1の実施形態と異なっており、位置決めピース31〜33を介したトップローラ支持体20〜22の位置決め構造は第1の実施形態と同じである。第1の実施形態と同一部分は同一符号を付して詳しい説明を省略する。
【0041】
図4に示すように、フレーム15の側壁15bの上下方向の長さは、位置決めピース31〜33と対応するトップローラ17〜19毎に異なり、側壁15bの下端は上壁15aと平行に形成されている。なお、バックトップローラ19及びそれと対応する位置決めピース33は、一部の図示を省略している。
【0042】
図4及び図5に示すように、位置決めピース31等は、フレーム15の上壁15aに形成された孔としての長孔30a等と係合する凸部37が本体31a等の下面に形成されている。また、図6(a),(b)に示すように、位置決めピース31等の脚部31bの下部内側には、フレーム15の側壁15bの下端に掛止される掛止部38が形成されている。脚部31b等の長さは、フロントトップローラ17用の位置決めピース31の脚部31bが最も短く、ミドルトップローラ18用の位置決めピース32の脚部32b、バックトップローラ19用の位置決めピース33の脚部33bの順に長く形成されている。
【0043】
位置決めピース31等は、凸部37が長孔30a等の前端と当接係合することにより位置決めされ、かつ掛止部38が側壁15bの下端と掛止する状態でフレーム15に固定される。そして、頭部周面23aが規定部36と当接する状態でボルト23が締め付けられることにより、トップローラ支持体20〜22がフレーム15の所定位置に固定される。
【0044】
したがって、この第2の実施形態によれば、第1の実施形態の(1),(2),(5),(6)と同様な効果に加えて以下の効果を得ることができる。
(7)位置決めピース31〜33は、凸部37がフレーム15の上壁15aに形成された孔(長孔30a〜30c)と係合して位置決めされ、掛止部38がフレーム15の側壁15bの下端に掛止された状態でフレーム15に固定される。したがって、脚部31b〜33bの内側に形成された凸部34が側壁15bに形成された孔35a〜35cと係合することによりフレーム15に固定される第1の実施形態の構成に比べて、より簡単にフレーム15に固定することができる。
【0045】
(8)フレーム15の側壁15bの下端は上壁15aと平行に形成されている。したがって、側壁15bの下端が上壁15aと平行でない場合に比べて、位置決めピース31〜33をフレーム15の所定位置に簡単に取り付けることができる。
【0046】
(9)凸部37の位置決めを行うために上壁15aに形成される孔としてボルト23が挿通される長孔30a〜30cが利用されているため、凸部37の位置決め専用の孔を別に形成する必要がない。
【0047】
(第3の実施形態)
次に第3の実施形態を図7及び図8(a)〜(c)にしたがって説明する。この実施形態では、位置決めピース40のフレーム15に対する固定構造及びトップローラ支持体20〜22の位置決め構造が第1及び第2の実施形態と異なっている。位置決めピース40がトップローラ17〜19毎に異なるのではなく、基本構造は共通でオフセット距離毎に形状が異なる点が第1及び第2の実施形態と大きく異なっている。第1の実施形態と同一部分は同一符号を付して詳しい説明を省略する。
【0048】
位置決めピース40は、一対の脚部が上側からフレーム15に跨るように固定される構成ではなく、図7及び図8(a)〜(c)に示すように、位置決めピース40は、中央にボルト23の頭部周面23aに嵌合可能な孔41が形成された円環状に形成されている。フレーム15の上壁15aには位置決めピース40の外周面40aと当接して位置決めピース40の固定位置を規定する凸部42が形成されている。位置決めピース40の外周面40aはトップローラ支持体20〜22の位置を規定する規定部として機能する。凸部42は、上壁15aの一部を切り起こして形成したり、別部品を固定(固着)したりして形成される。
【0049】
位置決めピース40は、外周面40aがボルト23の頭部周面23aに嵌合する状態でボルト23に固定され、外周面40aが凸部42と当接する位置までボルト23と共に移動されて、その位置でボルト23が締め付けられてフレーム15に固定される。そして、所望のオフセット距離に対応する外径の位置決めピース40を準備して、オフセット距離に対応した位置決めピース40が使用される。位置決めピース40の外径がレバー28の内幅より大きな場合は、図8(b)に示すように、位置決めピース40は大径部40bと小径部40cを有するように形成され、大径部40bは一部が切り欠き部28aと干渉しない厚さに形成される。また、位置決めピース40の外径がレバー28の内幅より小さな場合は、図8(c)に示すように、位置決めピース40は単なる円筒状に形成される。
【0050】
位置決めピース40は、トップローラ17〜19によって区別して使用するのではなく、オフセット距離に対応した位置決めピース40を使用することにより、各トップローラ17〜19が所望のオフセット距離になるようにトップローラ支持体20〜22の位置決めを行う。位置決めピース40のオフセット距離の違いによる区別は、位置決めピース40の色をオフセット距離毎に異なる色にすることで行われる。
【0051】
したがって、この第3の実施形態によれば、第1の実施形態の(1),(6)と同様な効果に加えて以下の効果を得ることができる。
(10)位置決めピース40は、トップローラ17〜19によって区別して使用する必要はなく、オフセット距離に対応した位置決めピース40を使用することにより、各トップローラ17〜19が所望のオフセット距離になるようにトップローラ支持体20〜22の位置決めを行う。その結果、位置決めピース40の種類を少なくすることができる。
【0052】
実施形態は前記に限定されるものではなく、例えば、次のように具体化してもよい。
○ 第1及び第2の実施形態のように本体31a等及び脚部31bを備えた形状の位置決めピース31を使用する場合、各トップローラ17〜19毎に異なる形状(長さの異なる脚部)の位置決めピース31〜33を使用せずに、同じ形状即ち脚部の長さを同じにしてもよい。
【0053】
○ 位置決めピース31〜33をそれぞれ異なる1色で区別するのではなく、トップローラ17〜19を区別する色と、オフセット距離を区別する色の2色に色分けされた構成としてもよい。
【0054】
○ 位置決めピース31〜33として脚部の長さを同じにした場合、フレーム15の側壁15bに形成される孔35a,35b,35cの高さ位置を位置決めピース31〜33毎に異なる高さにするとともに、凸部34の位置を孔35a,35b,35cの高さ位置に対応して異なる位置にしてもよい。
【0055】
○ 位置決めピース31〜33の本体31a〜33aに形成された規定部36は、ボルト23の頭部周面23aと当接した状態において、トップローラ支持体20〜22の位置決めを精度良く行うことができればよく、円弧状に限らない。例えば、ボルト23の頭部の一部が進入可能な矩形状や二等辺三角形状にしてもよい。
【0056】
○ 第1の実施形態において、位置決めピース31〜33は、フレーム15の側壁15bに形成された孔35a〜35cを介してフレーム15に固定される構成であればよく、位置決めピース31〜33自身がその孔35a〜35cに嵌合する凸部34を有する構成に限らない。例えば、位置決めピース31〜33の凸部34を形成すべき位置に凸部34に代えて孔を形成し、両孔に嵌合されるピンにより位置決めピース31〜33がフレーム15に固定される構成にしてもよい。
【0057】
○ 第2の実施形態において、位置決めピース31〜33の凸部37の位置決めを行うためにフレーム15の上壁15aに形成する孔を、ボルト23を挿通する長孔30a〜30cと共用するのではなく、凸部37専用の孔を設けてもよい。
【0058】
○ 第3の実施形態において、位置決めピース40のオフセット距離の違いによる区別は、色で行う方法に限らず、形状で行うようにしてもよい。例えば、位置決めピース40の上部の外形を円ではなく円の一部を切り欠いた形状や多角形にしてもよい。位置決めピース40の上部を円以外の形状としても、下部の外周面40aが凸部42と当接することで、位置決めに支障はない。
【0059】
○ 位置決めピース40は、円筒状や段付きの円筒状に限らず、図8(a),(b)に2点鎖線で示すようにスリット43が形成された形状としてもよい。この場合、ボルト23の頭部に対する嵌合や取り外しを、スリット43が形成されていない場合に比べて簡単になる。
【0060】
○ 位置決めピースの規定部を、ボルトを介することなく、トップローラ支持体に直接当接させてもよい。例えば、トップローラ支持体の上壁部に、ウェイティングアームのフレームに設けられた長孔から突出する当接部を形成し、該当接部を位置決めピースの規定部に当接させてトップローラ支持体の位置決めを行ってもよい。
【0061】
○ 精紡機に限らず、例えば、粗紡機のドラフト装置に適用してもよい。
以下の技術的思想(発明)は前記実施形態から把握できる。
(1)請求項3に記載の発明において、前記位置決めピースは、前記フレームの側壁に形成された孔と係合する凸部を有し、前記凸部を介して前記フレームに固定されている。
【符号の説明】
【0062】
Δ…距離、10…ドラフト装置、14…ウエイティングアーム、15…フレーム、15a…上壁、15b…側壁、17…フロントトップローラ、18…ミドルトップローラ、19…バックトップローラ、17−19…トップローラ、20,21,22…トップローラ支持体、23…ボルト、23a…頭部周面、30a,30b,30c…長孔、31,32,33,40…位置決めピース、34,37,42…凸部、35a,35b,35c,41…孔、36…規定部、38…掛止部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のトップローラがそれぞれトップローラ支持体を介してウエイティングアームに支持された紡機のドラフト装置であって、
前記ウエイティングアームのフレームの上壁にはその長手方向に延びる長孔が形成され、前記トップローラ支持体は、前記長孔を貫通するボルトを介して前記フレームに固定され、前記トップローラ支持体の前記フレームに対する固定位置の位置決めが、前記ボルト又は前記トップローラ支持体と当接して前記トップローラ支持体の前記フレームに対する固定位置を規定する規定部及び前記規定部により規定される前記トップローラ支持体の前記フレームに対する固定位置を表示する表示部を備え、前記トップローラ支持体毎に独立して取り外し可能に前記フレームに固定される位置決めピースにより行われる紡機のドラフト装置。
【請求項2】
前記位置決めピースは、前記ボルトの頭部周面と当接する前記規定部を有する請求項1に記載の紡機のドラフト装置。
【請求項3】
前記位置決めピースは、前記フレームの側壁に形成された孔を介して前記フレームに固定され、前記孔が形成される高さ位置は、前記位置決めピースと対応するトップローラ毎に異なる請求項1又は請求項2に記載の紡機のドラフト装置。
【請求項4】
前記位置決めピースは、前記フレームの上壁に形成された孔と係合する凸部と、前記フレームの側壁の下端に掛止される掛止部を有し、前記凸部を介して固定位置が位置決めされ、前記フレームの側壁の上下方向の長さは、前記位置決めピースと対応するトップローラ毎に異なる請求項1又は請求項2に記載の紡機のドラフト装置。
【請求項5】
前記位置決めピースの前記表示部は、前記フレームの側壁外面に沿って延びる請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の紡機のドラフト装置。
【請求項6】
前記位置決めピースは、各トップローラ軸心と対応するボトムローラ軸心との距離により色分けされている請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載の紡機のドラフト装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−236529(P2011−236529A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−110251(P2010−110251)
【出願日】平成22年5月12日(2010.5.12)
【出願人】(000003218)株式会社豊田自動織機 (4,162)
【Fターム(参考)】