説明

紡機の繊維束集束装置

【課題】吸引パイプを気密性を保持した状態で高い位置精度でエンドプラグを介して支持することができ、吸引パイプとエンドプラグとの組付け、分解工数を低減することができる紡機の繊維束集束装置を提供する。
【解決手段】繊維束集束装置の吸引パイプは、エンドプラグ20を介して紡機の機台に支持され、エンドプラグ20は、吸引パイプの端部に挿入された状態で吸引パイプを支持する吸引パイプ支持部26を備えている。吸引パイプ支持部26は、吸引パイプの端部内面に嵌合されて吸引パイプを位置決めした状態で支持可能な剛性支持部27と、剛性支持部27の先端側に一体化されるとともに剛性支持部27に支持された吸引パイプの内面に気密状態で接触する軟質シール部28とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紡機の繊維束集束装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ドラフトされた繊維束を撚り掛けの前に予め集束し、毛羽の低減や糸強力等の糸品質の向上を目的とした繊維束集束装置が種々提案されている(例えば、特許文献1参照。)。特許文献1の繊維束集束装置は、ドラフト装置を構成する最終ローラ対の下流に、ニップローラ対、吸引パイプ及び通気エプロン(通気搬送ベルト)を備えている。ニップローラ対のトップニップローラはボトムニップローラに通気エプロンを介して押圧される。吸引パイプは、ニップローラ対のニップ点を挟んで繊維束の移動方向の上流側に設けられ、吸引孔(吸引スリット)を備えた案内面を有する。また、ニップローラ対のニップ点を挟んで下流側には断面円弧状の巻き掛け部材(ガイド)を備えている。繊維束集束装置を通過する繊維束は吸引パイプに設けられた吸引孔に発生する吸引流により集束されつつニップ点へと移送される。吸引パイプ及び巻掛け部材は、一対のエンドプラグにそれぞれ両端部が嵌合された状態で支持されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−107808号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
吸引パイプをエンドプラグを介して支持する構成では、エンドプラグに形成された嵌合凸部を吸引パイプの端部内側に嵌合するか、エンドプラグに形成された嵌合穴に吸引パイプの端部を嵌合することにより、吸引パイプはエンドプラグを介して所定の位置に支持される。そして、エンドプラグと吸引パイプ間の気密はエンドプラグと吸引パイプとの面シールによってなされている。しかし、エンドプラグ及び吸引パイプはいずれも高剛性の材質にて形成されており、吸引パイプとエンドプラグとの間に生じた微小な隙間を原因とするエアリークが発生する場合がある。エアリークを防止するためにエンドプラグと吸引パイプとを接着剤で固着した場合は、吸引パイプ内の清掃のためにエンドプラグを吸引パイプから取り外すことができなくなる。
【0005】
吸引パイプに対してエアリークの発生を防止した状態で取り外し可能にエンドプラグを固定するため、吸引パイプとエンドプラグとの間にオーリング等のシール材を介在させる方法や、エンドプラグそのものを例えばゴムのような変形しやすい材質で構成する方法が考えられる。しかし、シール材を介在させる方法では、シール材を変形しやすい材質で構成すると上記と同様にエンドプラグで保持された吸引パイプの位置が安定しない。シール材をオーリング等の比較的変形し難い材質で構成すると、シール材を吸引パイプとエンドプラグとの間に介在させた状態で両者を所定の状態に嵌合させたり、分解したりする作業に手間がかかる。一方、吸引パイプには通気エプロンを介して曲げ力が作用するため、エンドプラグそのものを変形しやすい材質で構成する方法は、エンドプラグで保持された吸引パイプの位置が安定せず支持部としての機能を果たさない。
【0006】
本発明は前記従来の問題に鑑みてなされたものであって、その目的は、吸引パイプを気密性を保持した状態で高い位置精度でエンドプラグを介して支持することができ、吸引パイプとエンドプラグとの組付け、分解工数を低減することができる紡機の繊維束集束装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記の目的を達成するため、請求項1に記載の発明は、紡機のドラフト装置の最終送出ローラ対の下流側に設けられ、繊維束の移動方向に延びる吸引孔を有する吸引パイプと、前記吸引パイプに巻き掛けられた状態で回転されて繊維束を搬送する通気搬送ベルトとを備えた紡機の繊維束集束装置である。そして、前記吸引パイプは、エンドプラグを介して紡機の機台に支持され、前記エンドプラグは、前記吸引パイプの端部に挿入された状態で前記吸引パイプを支持する吸引パイプ支持部を備えている。また、前記吸引パイプ支持部は、前記吸引パイプの端部内面に嵌合されて前記吸引パイプを位置決めした状態で支持可能な剛性支持部と、前記剛性支持部の先端側に一体化されるとともに前記剛性支持部に支持された前記吸引パイプの内面に気密状態で接触する軟質シール部とを有する。
【0008】
この発明では、吸引パイプはエンドプラグを介して紡機の機台に支持される。吸引パイプは、その端部にエンドプラグの吸引パイプ支持部が挿入された状態で支持される。吸引パイプ支持部は、剛性支持部が吸引パイプの端部内面に嵌合されて吸引パイプを位置決めした状態で支持し、剛性支持部の先端側に一体化された軟質シール部が吸引パイプの内面に気密状態で接触することによりエンドプラグと吸引パイプとの間のエアリークを防止する。したがって、吸引パイプを気密性を保持した状態で高い位置精度でエンドプラグを介して支持することができる。また、吸引パイプとエンドプラグとの組付け、分解工数を低減することができ、吸引パイプ内の清掃を容易に行うことができる。
【0009】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記エンドプラグは、複数の錘の各錘と対応する箇所に前記通気搬送ベルトが巻き掛けられるボトムローラ部を有する回転軸の端部を、軸受を介して回転可能に支持する。この発明では、通気搬送ベルトを駆動する構成として、通気搬送ベルトが巻き掛けられるボトムローラ部を有する回転軸を用いる。そして、吸引パイプを支持するエンドブロックで回転軸も支持するため、吸引パイプと回転軸とを支持するための構成部品を少なくすることができるとともに、その構成部品が占めるスペースを小さくすることができる。
【0010】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は請求項2に記載の発明において、前記軟質シール部は、前記吸引パイプ支持部が前記吸引パイプに挿入される前の状態では、その外側形状が前記吸引パイプの内側形状より大きな状態に保持され、前記吸引パイプ支持部が前記吸引パイプに挿入された状態では、その外面が前記吸引パイプの内面に気密状態で面接触可能な環状の鍔部を備えている。ここで、「軟質シール部の外側形状」とは、軟質シール部の挿入方向と直交する断面における軟質シール部の外面が成す形状を意味する。また、「吸引パイプの内側形状」とは、吸引パイプの長手方向と直交する断面における吸引パイプの内面が成す形状を意味する。
【0011】
この発明では、吸引パイプ支持部が吸引パイプに挿入される際に、軟質シール部の環状の鍔部が変形しながら吸引パイプの内面に気密状態で面接触する状態となる。また、吸引パイプが異形断面形状のため、鍔部の周方向全長の一部に隙間が生じる場合があっても、吸引パイプに負圧が作用した状態において鍔部が変形し、その隙間が塞がれて吸引パイプと鍔部との気密が確保される。
【0012】
請求項4に記載の発明は、請求項1又は請求項2に記載の発明において、前記軟質シール部は、前記吸引パイプ支持部が前記吸引パイプに挿入される前の状態において、その外側形状が前記吸引パイプの内側形状より大きな状態に形成されている。したがって、この発明では、吸引パイプ支持部が吸引パイプに挿入される際に、軟質シール部は吸引パイプの内面と対向する部分が吸引パイプの内面と密着する状態になり、吸引パイプとエンドプラグとの気密性が確保される。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、吸引パイプを気密性を保持した状態で高い位置精度でエンドプラグを介して支持することができ、吸引パイプとエンドプラグとの組付け、分解工数を低減することができる紡機の繊維束集束装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】(a)は一実施形態の繊維束集束装置の一部破断概略側面図、(b)はエンドプラグ、吸引パイプ、回転軸の関係を示す部分斜視図。
【図2】(a)は繊維束集束装置を繊維束移動方向前方から見た部分概略図、(b)は回転軸の正面図。
【図3】エンドプラグの概略斜視図。
【図4】(a)はエンドプラグの部分正面図、(b)はエンドプラグの部分断面図。
【図5】(a),(b)は吸引パイプをエンドプラグに固定する場合の作用を示す模式図。
【図6】(a),(b)はそれぞれ別の実施形態におけるエンドプラグの吸引パイプ支持部の図4(b)に対応する断面図、(c)は別の実施形態におけるエンドプラグの吸引パイプ支持部の図5(a)に対応する断面図。
【図7】別の実施の形態の一部破断部分側面図。
【図8】別の実施の形態の一部破断部分側面図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を精紡機に装備される繊維束集束装置に具体化した一実施形態を図1〜図5にしたがって説明する。
図1(a)に示すように、繊維束集束装置11は、ドラフト装置の最終送出ローラ対12の下流側に設けられている。繊維束集束装置11は送出部13、吸引パイプ14、通気搬送ベルト15及びガイド部16を備えている。送出部13は、最終送出ローラ対12のフロントボトムローラ12aと平行に配設された回転軸17に形成されたボトムローラ部としてのボトムニップローラ17aと、ボトムニップローラ17aに通気搬送ベルト15を介して押圧されるトップニップローラ18とで構成されている。吸引パイプ14は、ボトムニップローラ17aのニップ点を挟んで繊維束(フリース)Fの移動方向の上流側に延びる吸引用スリットとしての吸引孔14aが形成された案内面を有する。吸引パイプ14は、通気搬送ベルト15をフロントボトムローラ12aとフロントトップローラ12bとのニップ点の近傍に至るように案内可能な形状に形成されている。
【0016】
トップニップローラ18はドラフト装置のフロントトップローラ12bと同様に2錘毎に、支持部材19を介してウエイティングアーム(図示せず)に支持されている。支持部材19はフロントトップローラ12bの支持部材と一体に形成されている。吸引パイプ14は、送出部13のニップ点に対して繊維束Fの移動方向の上流側に設けられている。通気搬送ベルト15は、例えば、適度な通気性を確保できる織布により形成されている。通気搬送ベルト15は、一部が吸引パイプ14に、一部がガイド部16に、一部がボトムニップローラ17aに接触するように巻き掛けられた状態で回転されて繊維束Fを搬送する。
【0017】
吸引パイプ14、ガイド部16及び回転軸17は、複数錘(例えば、8錘)と対応する所定長さに形成され、図2(a)に示すように、その両端(片側のみ図示)において一対のエンドプラグ20を介してドラフト装置のローラスタンド21の支持部21a間に支持されている。また、吸引パイプ14は接続管22を介して繊維束集束装置11用の吸引源(負圧源)としてのダクト(図示せず)に接続されている。なお、ガイド部16の下方近傍には、糸切れ時にドラフト装置から送出される繊維束Fを吸引する作用をなすシングルタイプのニューマ装置の吸引ノズル23の先端がそれぞれ配設されている。吸引ノズル23の基端は全錘共通のニューマダクト(図示せず)に接続されている。
【0018】
図2(b)に示すように、回転軸17は、ボトムニップローラ17aが錘ピッチで形成されている。また、回転軸17にはギヤ部17bが形成されるとともに、両端(片側のみ図示)には軸受24が固定されている。図1(b)及び図2(a)に示すように、回転軸17は、軸受24がエンドプラグ20に嵌合され、エンドプラグ20が嵌合部20aにおいてローラスタンド21に設けられた支持部21aに支持されている。そして、回転軸17には、フロントボトムローラ12aの回転が、フロントボトムローラ12aに形成されたギヤ部、中間ギヤ25及び回転軸17に形成されたギヤ部17bを介して伝達されるようになっている。
【0019】
図3に示すように、エンドプラグ20には軸受24が嵌合される嵌合凹部20bの他に、ガイド部16が嵌合される嵌合凹部20cと、吸引パイプ14の端部に嵌合される吸引パイプ支持部26とが形成されている。そして、吸引パイプ14、ガイド部16及び回転軸17はそれぞれ適正な位置関係に保持された状態でエンドプラグ20を介してローラスタンド21の支持部21a間に支持される。
【0020】
エンドプラグ20の吸引パイプ支持部26を詳述すると、図4(a),(b)に示すように、吸引パイプ支持部26は、吸引パイプ14の端部内面に嵌合されて吸引パイプ14を位置決めした状態で支持可能な剛性支持部27と、剛性支持部27の先端側(図4(b)の左側)に一体化されるとともに剛性支持部27に支持された吸引パイプの内面に気密状態で接触する軟質シール部28とを有する。剛性支持部27は、硬質合成樹脂製のエンドプラグ20の本体に一体成型されるとともに、その先端面に軟質シール部28が固定されている。
【0021】
軟質シール部28は、柔らかな材質、例えば、一般にエラストマーと呼ばれる材料で形成されている。軟質シール部28は、その外側形状が吸引パイプ14の内側形状と同じ形状に形成されている。即ち、軟質シール部28は、その周面は外側に凸の曲面が連続する形状ではなく、図4(a)に示すように、外側に凸の曲面と、内側に凸の曲面とが連続する異形断面形状に形成されている。図4(a),(b)に示すように、軟質シール部28は、押さえ部材29を収容するための段差部を有する収容孔28aを有する。そして、収容孔28aに収容された押さえ部材29を貫通し、押さえ部材29が収容孔28a内に固定する抜け止め部27aが剛性支持部27から突設されている。抜け止め部27aは、押さえ部材29が収容孔28aに収容されるまでは、図4(b)に2点鎖線で示すように、押さえ部材29の移動を許容する形状に形成され、押さえ部材29が収容孔28aに収容された後、その先端側が溶融されてリベットのように押さえ部材29の移動を阻止する状態に変形される。
【0022】
また、軟質シール部28は、吸引パイプ支持部26が吸引パイプ14に挿入される前の状態ではその外側形状が吸引パイプ14の内側形状より大きな状態に保持され、吸引パイプ支持部26が吸引パイプ14に挿入された状態ではその外面が吸引パイプ14の内面に気密状態で面接触可能な環状の鍔部28bを備えている。環状の鍔部28bは、軟質シール部28の先端側から基端側に向かって次第に太くなる筒状に形成されている。
【0023】
次に前記のように構成された装置の作用を説明する。
精紡機が運転されると、繊維束Fはドラフト装置でドラフトされた後、最終送出ローラ対12から繊維束集束装置11へ案内される。ボトムニップローラ17a及びトップニップローラ18は最終送出ローラ対12の表面速度と略同等の速度で回転され、繊維束Fは適度な緊張状態でボトムニップローラ17a及びトップニップローラ18のニップ点(送り出しニップ点)を過ぎた後、転向して撚り掛けを受けながら下流側へ移動する。
【0024】
また、ダクトの吸引作用が接続管22を介して吸引パイプ14に及び、案内面に形成された吸引孔14aの吸引作用が通気搬送ベルト15を介して繊維束Fに及ぶ。そして、繊維束Fが吸引孔14aと対応する位置に吸引集束された状態で移動する。したがって、繊維束集束装置11の装備されない紡機に比較して、毛羽の発生や落綿が抑制されて糸質が改善される。
【0025】
繊維束集束装置11を通過する繊維束Fは、吸引パイプ14に設けられた吸引孔14aに発生する吸引流により集束されて送り出しニップ点へと移送される。吸引孔14aの最下流側端部から送り出しニップ点までの距離が長くなると、吸引孔14aにて集束された繊維束Fが送り出しニップ点に到達するまでに集束状態が乱れる懸念がある。また、吸引孔14aの最上流側端部から最終送出ローラ対12のニップ点までの距離が長くなると、吸引パイプ14の案内面上を移送される通気搬送ベルト15への繊維束Fの受渡しの際にうまく受け渡されずに浮遊繊維となる繊維が発生する懸念がある。そのため、吸引パイプ14は、所定の適切な位置に精度良く保持される必要がある。
【0026】
吸引パイプ14は、ローラスタンド21の支持部21aに支持されるエンドプラグ20の剛性支持部27に嵌合された状態で支持されるため、所定の適切な位置に精度良く保持される。エンドプラグ20及び吸引パイプ14は、いずれも高剛性の材質にて形成されているため、吸引パイプ14が剛性支持部27に嵌合されただけでは、吸引パイプ14と剛性支持部27との間に生じた微小な隙間を原因とするエアリークが発生する場合がある。しかし、剛性支持部27の先端に一体化された軟質シール部28が存在するため、少なくとも吸引パイプ14に負圧が作用した状態において吸引パイプ14と鍔部28bとの気密が確保される。
【0027】
軟質シール部28の作用を詳述すると、図5(a)に示すように、軟質シール部28の鍔部28bは、吸引パイプ支持部26が吸引パイプ14に挿入される前の状態ではその外側形状が吸引パイプ14の内側形状より大きな状態に保持されている。しかし、鍔部28bの外形寸法Aは、吸引パイプ14の内形寸法Bよりもわずかに大きく設計され、吸引パイプ14内に挿入した際にわずかな弾性力で吸引パイプ14の内面に押さえつけられるようになっている。そのため、吸引パイプ支持部26が吸引パイプ14に挿入される際には、図5(b)に示すように、軟質シール部28の環状の鍔部28bが変形しながら吸引パイプ14の内面に気密状態で面接触する状態となる。そして、吸引パイプ14に負圧が作用する状態において、鍔部28bは図5(b)の矢印方向に力を受けて吸引パイプ14の内面に押さえ付けられるため、より高い気密性が確保される。
【0028】
また、吸引パイプ14は、吸引孔14aが形成される面は外側に凸となるように湾曲形成され、フロントボトムローラ12aと対向する面及びボトムニップローラ17aと対向する面は内側に凸となるように湾曲形成されている異形断面形状である。そのため、軟質シール部28が吸引パイプ14に挿入された状態で、鍔部28bの周方向全長の一部に隙間が生じる場合がある。しかし、吸引パイプ14に負圧が作用する状態において、鍔部28bは図5(b)の矢印方向に力を受けて吸引パイプ14の内面に押さえ付けられるため、その隙間が塞がれて吸引パイプ14と鍔部28bとの気密が確保される。
【0029】
吸引パイプ14を嵌合支持する剛性支持部27に、吸引パイプ14とエンドプラグ20との気密性、即ち吸引パイプ14と剛性支持部27との気密性を保持する軟質シール部28を一体化せずにエンドプラグ20と別体のシール部材を吸引パイプ14に嵌合させることも考えられる。しかし、シール部材をエンドプラグ20と別体とした場合、シール部材は吸引パイプ14内面との嵌合力(摩擦抵抗)のみでその位置を保つ必要がある。シール部材を、比較的弱い嵌合力で気密性を保持する形状に形成した場合、成形寸法のバラツキや、経時劣化や使用環境の影響による収縮等により吸引パイプ14との嵌合力が低下した場合、吸引パイプ14の吸引作用により位置ずれを起こし、吸引パイプ14に設けられた吸引孔14aを塞いでしまう虞がある。
【0030】
使用時における前記嵌合力の低下の対策として吸引パイプ14の内側形状に対してシール部材の外側形状を大きく作ると、挿入作業のやり難さや、挿入時に意図せぬ形に変形して吸引パイプ14との間に隙間が生じるなどの懸念がある。また、吸引パイプ14内の清掃等のため、エンドプラグ20を吸引パイプ14から取り外し、シール部材を吸引パイプ14から取り出す作業を行う場合がある。その際、シール部材は吸引パイプ14内に圧入されているため、組付け時よりも工数が多大となる上、シール部材は小型部品のため紛失する虞もある。
【0031】
それに対して、吸引パイプ支持部26が剛性支持部27と、剛性支持部27に一体化された軟質シール部28とで構成された場合は、軟質シール部28と吸引パイプ14内面との嵌合力が小さくても、軟質シール部28は吸引パイプ14の吸引作用により位置ずれを起こす虞がない。また、軟質シール部28と吸引パイプ14との嵌合力を極力小さくすることにより、吸引パイプ14内の清掃や回転軸17の軸受24交換等を目的として、エンドプラグ20を吸引パイプ14から取り外す場合の作業性を向上させることができる。また、吸引パイプ14への組付け時の工数も別体のシール部材が存在する場合に比べて小さく、別体のシール部材が存在しないため、小型部品のシール部材を紛失する虞もない。
【0032】
この実施形態によれば、以下に示す効果を得ることができる。
(1)繊維束集束装置11は、紡機のドラフト装置の最終送出ローラ対12の下流側に設けられ、繊維束Fの移動方向に延びる吸引孔14aを有する吸引パイプ14と、吸引パイプ14に巻き掛けられた状態で回転されて繊維束Fを搬送する通気搬送ベルト15とを備えている。吸引パイプ14は、エンドプラグ20を介して紡機の機台に支持され、エンドプラグ20は、吸引パイプ14の端部に挿入された状態で吸引パイプ14を支持する吸引パイプ支持部26を備えている。吸引パイプ支持部26は、吸引パイプ14の端部内面に嵌合されて吸引パイプ14を位置決めした状態で支持可能な剛性支持部27と、剛性支持部27の先端側に一体化されるとともに剛性支持部27に支持された吸引パイプ14の内面に気密状態で接触する軟質シール部28とを有する。したがって、吸引パイプ14を気密性を保持した状態で高い位置精度でエンドプラグ20を介して支持することができる。また、吸引パイプ14とエンドプラグ20との組付け、分解工数を低減することができ、吸引パイプ14内の清掃を容易に行うことができる。
【0033】
(2)エンドプラグ20は、複数の錘の各錘と対応する箇所に通気搬送ベルト15が巻き掛けられるボトムニップローラ17aを有する回転軸17の端部を、軸受24を介して回転可能に支持する。したがって、吸引パイプ14と回転軸17とを支持するための構成部品を少なくすることができるとともに、その構成部品が占めるスペースを小さくすることができる。
【0034】
(3)軟質シール部28は、吸引パイプ支持部26が吸引パイプ14に挿入される前の状態では、その外側形状が吸引パイプ14の内側形状より大きな状態に保持され、吸引パイプ支持部26が吸引パイプ14に挿入された状態では、その外面が吸引パイプ14の内面に気密状態で面接触可能な環状の鍔部28bを備えている。したがって、吸引パイプ支持部26が吸引パイプ14に挿入される際に、軟質シール部28の環状の鍔部28bが変形しながら吸引パイプ14の内面に気密状態で面接触する状態となる。また、吸引パイプ14が異形断面形状のため、鍔部28bの周方向全長の一部に隙間が生じる場合があっても、吸引パイプ14に負圧が作用した状態において鍔部28bが変形し、その隙間が塞がれて吸引パイプ14と鍔部28bとの気密が確保される。
【0035】
(4)環状の鍔部28bは、軟質シール部28の先端側から基端側に向かって次第に太くなる筒状に形成されている。したがって、吸引パイプ支持部26を吸引パイプ14に挿入する際、鍔部28bの外面が吸引パイプ14の内面に接触しつつ、弱い力で挿入し易い。
【0036】
(5)軟質シール部28を剛性支持部27に一体化する構成として、軟質シール部28と別体に形成された押さえ部材29を使用する。そして、押さえ部材29が軟質シール部28の段差部を有する収容孔28aに剛性支持部27と反対側から収容された状態で、剛性支持部27に突設された抜け止め部27aによって抜け止めされることにより、軟質シール部28が剛性支持部27に固定されている。したがって、軟質シール部28を接着剤で剛性支持部27の先端に接着固定した場合と異なり、接着剤の経時変化により軟質シール部28が剛性支持部27から離脱する虞がない。
【0037】
実施形態は前記に限定されるものではなく、例えば、次のように具体化してもよい。
○ 吸引パイプ支持部26を構成する軟質シール部28を剛性支持部27と一体化する方法は、押さえ部材29と抜け止め部27aとを用いて一体化する方法に限らない。例えば、図6(a)に示すように、剛性支持部27の先端部にその軸方向(吸引パイプ14の挿入方向)と直交する断面形状が先端側に向かって細くなる嵌合凹部27bを形成し、軟質シール部28の剛性支持部27と対向する側に、嵌合凹部27bと嵌合可能な嵌合凸部28cを形成する。そして、別体に形成された軟質シール部28の嵌合凸部28cを剛性支持部27の嵌合凹部27bに嵌合させて、軟質シール部28を剛性支持部27と一体化させてもよい。また、剛性支持部27及び軟質シール部28に両者を機械的に結合して一体化させる構造は特別設けずに、図6(b)に示すように、剛性支持部27の先端面に軟質シール部28の基端を接着剤で固着してもよい。また、押さえ部材29を用いずに抜け止め部27aで直接軟質シール部28の抜け止めをしたり、抜け止め部27aを形成するのではなしに押さえ部材29を剛性支持部27に接着等で一体化してもよい。
【0038】
○ 別体に形成した軟質シール部28をエンドプラグ20の剛性支持部27に後から取り付ける代わりに、基端にインサート用の凸部を有する軟質シール部28を別体に形成する。そして、エンドプラグ20の成形時にインサート用の凸部が剛性支持部27を構成する樹脂で包まれるように軟質シール部28を成形型内に配置してインサート成形を行うことにより、軟質シール部28を剛性支持部27と一体化してもよい。
【0039】
○ 軟質シール部28の鍔部28bは、軟質シール部28の先端側から基端側に向かって次第に太くなる筒状に形成されている構成に限らず、一般のフランジのように軟質シール部28の周面と直交する方向に延びる板状に形成されたり、軟質シール部28の周面と直交する方向に対して多少傾いた状態で延びる板状に形成されたりしてもよい。
【0040】
○ 吸引パイプ14への挿入時には吸引パイプ14の内面に接触しながら容易に移動可能で、剛性支持部27が吸引パイプ14に嵌合された状態で吸引パイプ14に負圧が作用する状態では吸引パイプ14と軟質シール部28との気密が確保される軟質シール部28の構成は、鍔部28bを有する構成に限らない。例えば、軟質シール部28を単独気泡型(独立気泡型)の硬質スポンジにより形成したり、柔らかいもの、例えば、鍔部28bを有する軟質シール部28の材質より低硬度のエラストマーで形成したりする。そして、図6(c)に示すように、吸引パイプ支持部26が吸引パイプ14に挿入される前の状態において、その外側形状が吸引パイプ14の内側形状より大きな状態に形成する。この場合、吸引パイプ支持部26が吸引パイプ14に挿入された状態では、軟質シール部28は吸引パイプ14の内面による押圧力で圧縮されて吸引パイプ14の内面に密着するようになり、吸引パイプ14と軟質シール部28との気密が確保される。
【0041】
○ 鍔部28bを有さない前記実施形態の軟質シール部28を剛性支持部27に一体化する方法にも、鍔部28bを有する軟質シール部28を剛性支持部27に一体化する前記の方法を採用することができる。
【0042】
○ 送出部13のニップ点に対して繊維束Fの移動方向の下流側に設けられるガイド部16はガイド面が円弧面状のものに限らない。また、その配置位置もガイド部16の一端が送出部13のニップ点の近傍となる位置に限らず、例えば、図7に示すように、ガイド部30をボトムニップローラ17aの下方に配置し、通気搬送ベルト15がボトムニップローラ17aの繊維束案内側と反対側においてはボトムニップローラ17aから離れた位置を移動するようにしてもよい。この場合、ガイド部30は、通気搬送ベルト15に対してテンション付与可能に構成されている。ガイド部30は、両端がエンドプラグ20に嵌合固定されるバー30aと、バー30aに対してその幅方向に移動可能に支承される押圧部材30bと、押圧部材30bをその屈曲部がバー30aから離れる方向に付勢するばね部材(図示せず)とで構成される。
【0043】
○ 繊維束集束装置11の送出部13は、ボトムニップローラ17a及びトップニップローラ18からなるニップローラ対を装備し、ボトムニップローラ17aの回転駆動により通気搬送ベルト15を移動させる構成に限らない。例えば、図8に示すように、断面略卵形の吸引パイプ31を設け、吸引パイプ31の所定位置に吸引孔31aを形成する。そして、吸引パイプ31及びテンションローラ32の外周に沿って通気搬送ベルト15を摺動可能に巻き掛ける。また、ギヤ33を介してフロントトップローラ12bの回転をトップニップローラ18に伝達し、トップニップローラ18を通気搬送ベルト15に圧接しながら駆動することで通気搬送ベルト15を駆動するようにしてもよい。この場合、通気搬送ベルト15を移動させる構成として、通気搬送ベルト15が巻き掛けられるボトムニップローラ17aを有する回転軸17は不要となる。また、吸引孔31aの最下流側端部から繊維束送り出しニップ点までの距離及び吸引孔31aの最下流側端部からドラフト装置の最終ローラ対のニップ点までの距離は、いずれも前記実施形態に比べて短くすることができる。
【0044】
○ 実施形態において、ガイド部16,30を省略して吸引パイプ14とボトムニップローラ17aにのみ通気搬送ベルト15が巻き掛けられるようにしたり、図8に示す別の実施形態において、テンションローラ32を省略して吸引パイプ31にのみ通気搬送ベルト15が巻き掛けられるようにしたりしてもよい。
【0045】
以下の技術的思想(発明)は前記実施形態から把握できる。
(1)請求項3に記載の発明において、前記環状の鍔部は、前記軟質シール部の先端側から基端側に向かって次第に太くなる筒状に形成されている。
【0046】
(2)請求項1〜請求項4及び前記技術的思想(1)のいずれか1項に記載の発明において、前記軟質シール部は前記剛性支持部に対して機械的に結合されることにより一体化されている。
【符号の説明】
【0047】
F…繊維束、11…繊維束集束装置、12…最終送出ローラ対、14,31…吸引パイプ、14a,31a…吸引孔、15…通気搬送ベルト、17…回転軸、17a…ボトムローラ部としてのボトムニップローラ、20…エンドプラグ、24…軸受、26…吸引パイプ支持部、27…剛性支持部、28…軟質シール部、28b…鍔部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
紡機のドラフト装置の最終送出ローラ対の下流側に設けられ、繊維束の移動方向に延びる吸引孔を有する吸引パイプと、前記吸引パイプに巻き掛けられた状態で回転されて繊維束を搬送する通気搬送ベルトとを備えた紡機の繊維束集束装置であって、
前記吸引パイプは、エンドプラグを介して紡機の機台に支持され、前記エンドプラグは、前記吸引パイプの端部に挿入された状態で前記吸引パイプを支持する吸引パイプ支持部を備えており、前記吸引パイプ支持部は、前記吸引パイプの端部内面に嵌合されて前記吸引パイプを位置決めした状態で支持可能な剛性支持部と、前記剛性支持部の先端側に一体化されるとともに前記剛性支持部に支持された前記吸引パイプの内面に気密状態で接触する軟質シール部とを有する紡機の繊維束集束装置。
【請求項2】
前記エンドプラグは、複数の錘の各錘と対応する箇所に前記通気搬送ベルトが巻き掛けられるボトムローラ部を有する回転軸の端部を、軸受を介して回転可能に支持する請求項1に記載の紡機における繊維束集束装置。
【請求項3】
前記軟質シール部は、前記吸引パイプ支持部が前記吸引パイプに挿入される前の状態ではその外側形状が前記吸引パイプの内側形状より大きな状態に保持され、前記吸引パイプ支持部が前記吸引パイプに挿入された状態ではその外面が前記吸引パイプの内面に気密状態で面接触可能な環状の鍔部を備えている請求項1又は請求項2に記載の紡機における繊維束集束装置。
【請求項4】
前記軟質シール部は、前記吸引パイプ支持部が前記吸引パイプに挿入される前の状態において、その外側形状が前記吸引パイプの内側形状より大きな状態に形成されている請求項1又は請求項2に記載の紡機における繊維束集束装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−144464(P2011−144464A)
【公開日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−4755(P2010−4755)
【出願日】平成22年1月13日(2010.1.13)
【出願人】(000003218)株式会社豊田自動織機 (4,162)
【Fターム(参考)】