説明

紡糸巻取装置への糸掛け方法、紡糸巻取装置、及びサクションガン

【課題】 サクションガンからの撚りと振動による複数の糸同士の絡み合い、振動を防止し、糸掛け作業を容易とする紡糸巻取装置への糸掛け方法、紡糸巻取装置、サクションガンを提供する。
【解決手段】 紡糸巻取装置の第1ローラ21又は第1糸道ガイド22により糸道が規制された複数の糸Yを、サクションガン61を用いて第1ローラ21又は第1糸道ガイド22より下流側の第2ローラ又は第2糸道ガイド23に掛ける、紡糸巻取装置への糸掛け方法として、サクションガン61と、第2ローラ又は第2糸道ガイド23との間で、複数の糸Yに第3ローラ24を接触させる第1工程と、複数の糸Yを第3ローラ24に接触させた状態で、第2ローラ又は第2糸道ガイド23に複数の糸Yを掛ける第2工程と、第2ローラ又は第2糸道ガイド23に複数の糸Yを掛けた後、第3ローラ24を複数の糸Yから離間させる第3工程と、を含む糸掛け方法とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紡糸巻取装置への糸掛け方法、紡糸巻取装置、及び紡糸巻取装置への糸掛けに用いられるサクションガンに関する。
【背景技術】
【0002】
複数の糸を紡糸し、紡糸した糸をそれぞれパッケージに巻き取る紡糸巻取装置には、糸道を規制する多数のローラーや糸道ガイドが設けられている。紡糸装置から糸が供給され、糸の巻き取りを開始する前には、糸の走行方向の上流側から下流側に向けて各ローラー及び各糸道ガイドへ糸を供給するため、各ローラー及び各糸道ガイドに糸を掛ける糸掛け作業を順次行う必要がある。特に糸道ガイドへの糸掛け作業では、複数の糸を1本1本分離する作業(分繊作業)を行って、糸道ガイドの個々のガイドに1本づつ糸を導き入れる必要がある。
【0003】
ローラー及び糸道ガイドへの糸掛け作業では、複数の糸を纏めてハンドリングするためサクションガンを用いている。オペレーターはサクションガンを用いて複数の糸を纏めて吸引し、この状態でサクションガンの位置や方向を変えながら、各ローラー及び各糸道ガイドへ順次糸掛け作業を行っている(例えば、特許文献1、2参照。)。
【0004】
ところで、近年は一台の紡糸巻取装置で紡糸する糸の本数が増加(多エンド化)しているとともに、紡糸速度及び巻取速度も上昇している。糸の巻き取りを開始する前の糸掛け作業中においても、紡糸される多数の糸に対してサクションガンで所定のテンションを付与しつつ高速で吸引することが求められている。サクションガンの糸吸引力を向上させて、紡糸巻取装置の多エンド化、高速化に対応させるべく、サクションガンは内部に高速のエアー旋回流を発生させており、このエアー旋回流によって糸を吸引している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−239294号公報
【特許文献2】特開2008−297078号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、サクションガン内部に発生させるエアー旋回流は、糸吸引力を向上させるものの、サクションガンに吸引される複数の糸に対して撚りと振動を与えてしまう。この撚りと振動は、サクションガンよりも上流側の糸に伝播し、サクションガンの上流側にある直前のローラー又は糸道ガイド付近まで、複数の糸同士が絡み合って振動するという問題がある。
【0007】
つまり、ローラーや糸道ガイドに糸が掛けられると、そのローラーや糸道ガイドは糸道を規制するため、そのローラーや糸道ガイドの上流側まではサクションガンによる撚りと振動は伝播しない。しかしながら、サクションガンとサクションガンの上流側にある直前のローラーや糸道ガイドとの間では、糸道を規制するものがないため、サクションガンの上流側にある直前のローラー又は糸道ガイド付近まで、撚りと振動は伝播して、複数の糸同士が絡み合って振動する。これを図を用いて説明する。
【0008】
図15は、従来の紡糸巻取装置111の正面図である。紡糸装置112で複数の糸Yを紡糸し、紡糸した複数の糸Yを巻取装置113でそれぞれパッケージPに巻き取る構成である。紡糸巻取装置111には、糸道を規制する多数のローラーや糸道ガイドが設けられている。図の2点鎖線は糸道を示している。この紡糸巻取装置111では、糸Yの走行方向の上流側から下流側に向けて、第1糸道ガイド122、インターレース128、転送用糸送りローラ129、直前糸送りローラ130、131等が設けられている。インターレース128は、糸道ガイドとしての役割も有しており、インターレース128を構成する個々のガイドに1本づつ糸を導き入れる必要がある。このような従来の紡糸巻取装置111において、インターレース128に糸掛け作業を行う場合を例に挙げて説明する。
【0009】
図16Aは、従来の紡糸巻取装置111のインターレース128に糸掛け作業を行う状態を示す拡大正面図、図16Bは、図16Aの状態におけるインターレース128付近の拡大斜視図である。図16A、図16Bに示すように、図示しないオペレーターがサクションガン161で糸Yを吸引しながら糸掛け作業を行っており、インターレース128の直前の糸道ガイドである第1糸道ガイド122まで糸掛けされているとする。糸Yが掛けられた第1糸道ガイド122は糸道を規制するため、第1糸道ガイド122の上流側まではサクションガン161による撚りと振動は伝播していない。しかしながら、サクションガン161とサクションガン161の上流側にある直前の糸道ガイドである第1糸道ガイド122との間では、糸道を規制するものがないため、図16Bに示すように、第1糸道ガイド122付近まで、撚りと振動は伝播して、複数の糸Y同士が絡み合って振動するのである。
【0010】
このようにサクションガン161の上流側にある第1糸道ガイド122付近まで、複数の糸Y同士が絡み合って振動した状態であると、インターレース128への糸掛け作業において次のような問題がある。すなわち、インターレース128への糸掛け作業では、前述のように分繊作業を行って複数の糸Yを1本1本分離した後、インターレース128を構成する個々のガイドに1本づつ糸Yを導き入れる作業を行わなければならない。ところが、これから糸掛け作業を行おうとするインターレース128は、サクションガン161とサクションガン161の上流側にある第1糸道ガイド122との間に存在する。つまり、糸掛け作業の対象となるインターレース128付近では、複数の糸Y同士が絡み合って振動している。
【0011】
オペレーターが1人で糸掛け作業を行うとすると、オペレーターはサクションガン161を保持しながら絡み合って振動する複数の糸Yを1本1本分離する分繊作業を行い、インターレース128を構成する個々のガイドに1本づつ糸Yを導き入れる作業を行わなければならない。実際にはオペレーターが1人でこのような糸掛け作業を行うことは非常に困難である。このため、糸掛け作業は2人以上のオペレーターによる作業にならざるを得ない。また、糸掛け作業に非常に多くの時間が必要となってしまう。
【0012】
以上の説明では、インターレースに糸掛け作業を行う場合を例に挙げて説明したが、紡糸巻取装置に設けられる各ローラーや各糸道ガイドへの糸掛け作業においても同様の問題がある。
【0013】
本発明は、上記課題を解決すべくなされたものである。第1の目的は、サクションガンからの撚りと振動で複数の糸同士が絡み合って振動することを防止し、糸掛け作業を容易とする紡糸巻取装置への糸掛け方法、紡糸巻取装置、及びサクションガンを提供することである。第2の目的は、オペレーターが1人で糸掛け作業を行うことができ、糸掛け作業の時間を短縮することのできる紡糸巻取装置への糸掛け方法、紡糸巻取装置、及びサクションガンを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段を説明する。
【0015】
即ち、第1の発明は、紡糸巻取装置の第1ローラ又は第1糸道ガイドにより糸道が規制された複数の糸を、サクションガンを用いて前記第1ローラ又は前記第1糸道ガイドより下流側の第2ローラ又は第2糸道ガイドに掛ける、紡糸巻取装置への糸掛け方法であって、
前記サクションガンと、前記第2ローラ又は前記第2糸道ガイドとの間で、前記複数の糸に第3ローラを接触させる第1工程と、
前記複数の糸を前記第3ローラに接触させた状態で、前記第2ローラ又は前記第2糸道ガイドに前記複数の糸を掛ける第2工程と、
前記第2ローラ又は前記第2糸道ガイドに前記複数の糸を掛けた後、前記第3ローラを前記複数の糸から離間させる第3工程と、
を含むことを特徴とする紡糸巻取装置への糸掛け方法である。
【0016】
第2の発明は、第1の発明であって、前記第3ローラは、紡糸巻取装置に設けられていることを特徴とする紡糸巻取装置への糸掛け方法である。
【0017】
第3の発明は、第1の発明であって、前記第3ローラは、サクションガンに設けられていることを特徴とする紡糸巻取装置への糸掛け方法である。
【0018】
第4の発明は、紡糸巻取装置であって、
複数の糸の糸道を規制する第1ローラ又は第1糸道ガイドと、
前記第1ローラ又は前記第1糸道ガイドより下流側の第2ローラ又は第2糸道ガイドと、
サクションガンを用いて前記複数の糸を前記第2ローラ又は前記第2糸道ガイドに掛ける場合に、前記サクションガンと、前記第2ローラ又は前記第2糸道ガイドとの間で前記複数の糸に接触し、前記複数の糸に接触した状態で、前記第2ローラ又は前記第2糸道ガイドに前記複数の糸を掛けた後、前記複数の糸から離間する第3ローラと、
を備えたことを特徴とする紡糸巻取装置である。
【0019】
第5の発明は、紡糸巻取装置への糸掛けに用いられるサクションガンであって、
複数の糸の糸道を規制する第1ローラ又は第1糸道ガイドより下流側の第2ローラ又は第2糸道ガイドに前記複数の糸を掛ける場合に、吸入口と、前記第2ローラ又は前記第2糸道ガイドとの間で、前記複数の糸に接触し、前記複数の糸に接触した状態で、前記第2ローラ又は前記第2糸道ガイドに前記複数の糸を掛けた後、前記複数の糸から離間する第3ローラを備えたことを特徴とするサクションガンである。
【発明の効果】
【0020】
本発明の効果として、以下に示すような効果を奏する。
【0021】
第1の発明によれば、サクションガンと、糸掛け作業の対象である第2ローラ又は第2糸道ガイドとの間において、糸掛け作業の間、複数の糸に第3ローラを一時的に接触させる。これによりサクションガンからの撚りと振動は第3ローラ付近まで伝播するが、第3ローラを超えて上流まで伝播することはなく、糸掛け作業の対象である第2ローラ又は第2糸道ガイド付近の複数の糸同士が絡み合って振動することはない。このため、複数の糸を第3ローラに接触させた状態での分繊作業が容易であり、第2ローラ又は第2糸道ガイドに複数の糸を掛ける糸掛け作業を容易に行うことができる。第2ローラ又は第2糸道ガイドに複数の糸を掛けた後は、第3ローラを複数の糸から離間させるため、本来の糸道の障害物となることもない。このように、糸掛け作業の間、複数の糸に第3ローラを一時的に接触させることで糸掛け作業が容易となるため、オペレーターが1人で糸掛け作業を行うことができ、糸掛け作業の時間も短縮するができる。
【0022】
第2の発明によれば、第3ローラは紡糸巻取装置に設けられているため、最も作業性の良い位置に第3ローラを設置することで、糸掛け作業を容易に行うことができる。
【0023】
第3の発明によれば、第3ローラはサクションガンに設けられているため、紡糸巻取装置に個別に第3ローラを設ける必要が無い。サクションガンの操作により、糸掛け作業の間、複数の糸に第3ローラを一時的に接触させることで、糸掛け作業を容易に行うことができる。
【0024】
第4の発明によれば、サクションガンと、糸掛け作業の対象である第2ローラ又は第2糸道ガイドとの間において、糸掛け作業の間、複数の糸に紡糸巻取装置に設けられた第3ローラを一時的に接触させる。これによりサクションガンからの撚りと振動は第3ローラ付近まで伝播するが、第3ローラを超えて上流まで伝播することはなく、糸掛け作業の対象である第2ローラ又は第2糸道ガイド付近の複数の糸同士が絡み合って振動することはない。このため、複数の糸を第3ローラに接触させた状態での分繊作業が容易であり、第2ローラ又は第2糸道ガイドに複数の糸を掛ける糸掛け作業を容易に行うことができる。第2ローラ又は第2糸道ガイドに複数の糸を掛けた後は、第3ローラを複数の糸から離間させるため、本来の糸道の障害物となることもない。このように、糸掛け作業の間、複数の糸に第3ローラを一時的に接触させることで糸掛け作業が容易となるため、オペレーターが1人で糸掛け作業を行うことができ、糸掛け作業の時間も短縮するができる。
【0025】
第5の発明によれば、サクションガンと、糸掛け作業の対象である第2ローラ又は第2糸道ガイドとの間において、糸掛け作業の間、複数の糸にサクションガンに設けられた第3ローラを一時的に接触させる。これによりサクションガンからの撚りと振動は第3ローラ付近まで伝播するが、第3ローラを超えて上流まで伝播することはなく、糸掛け作業の対象である第2ローラ又は第2糸道ガイド付近の複数の糸同士が絡み合って振動することはない。このため、複数の糸を第3ローラに接触させた状態での分繊作業が容易であり、第2ローラ又は第2糸道ガイドに複数の糸を掛ける糸掛け作業を容易に行うことができる。第2ローラ又は第2糸道ガイドに複数の糸を掛けた後は、第3ローラを複数の糸から離間させるため、サクションガンの操作の障害物となることもない。このように、糸掛け作業の間、複数の糸に第3ローラを一時的に接触させることで糸掛け作業が容易となるため、オペレーターが1人で糸掛け作業を行うことができ、糸掛け作業の時間も短縮するができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】複数の糸Yが掛けられた第1ローラ21と第3ローラ24を示す模式図。
【図2】実施例1に係る紡糸巻取装置11への糸掛け方法を示す模式図。
【図3】実施例1に係る紡糸巻取装置11への糸掛け方法を示す模式図。
【図4】実施例2に係る紡糸巻取装置11の正面図。
【図5】実施例2に係る紡糸巻取装置11における糸掛け作業を示す図。
【図6】実施例2に係る紡糸巻取装置11における糸掛け作業を示す図。
【図7】実施例2に係る紡糸巻取装置11における糸掛け作業を示す図。
【図8】実施例2に係る紡糸巻取装置11における糸掛け作業を示す図。
【図9】実施例3に係るサクションガン61の先端部付近の側面図。
【図10】第3ローラ24の断面図。
【図11】実施例3に係るサクションガン61を用いた糸掛け作業を示す図。
【図12】実施例3に係るサクションガン61を用いた糸掛け作業を示す図。
【図13】実施例3に係るサクションガン61を用いた糸掛け作業を示す図。
【図14】実施例3に係るサクションガン61を用いた糸掛け作業を示す図。
【図15】従来の紡糸巻取装置111の正面図。
【図16】従来の紡糸巻取装置111における糸掛け作業を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0027】
次に、発明の実施の形態について図を用いて説明する。
【0028】
まず、本発明がどのようにしてサクションガンからの撚りと振動を糸掛け作業の対象であるローラ又は糸道ガイドまで伝播させないのかを説明するため、ローラに複数の糸Yが掛けられた場合の糸Yの挙動特性について、模式図を用いて詳しく説明する。図1Aは複数の糸Yが掛けられた第1ローラ21と第3ローラ24の側面図であり、図1Bは図1Aの平面図である。
【0029】
図1A、図1Bに示すように、糸走行方向に対して上流側の第1ローラ21には、所定の間隔をおいて複数の糸Yが掛けられている。第1ローラ21において各糸Yは、第1ローラ21の回転方向に対して上流側の接触開始点21aで第1ローラ21の周面に接触し、それよりも下流側の接触終了点21bで第1ローラ21の周面から離れるものとする。このとき、接触開始点21aから接触終了点21bまでは、各糸Yは第1ローラ21の周面に対して、第1ローラ21の軸21cに直交するように接触する。これは、第1ローラ21の周面と各糸Yとの間の摩擦力によるものであり、各糸Yが第1ローラ21の周面に接触している間は、各糸Yは第1ローラ21の軸21c方向にずれないためであると説明できる。従って、所定の間隔をおいて第1ローラ21に接触した複数の糸Yは、そのまま所定の間隔をおいて第1ローラ21から離れていくこととなる。
【0030】
ここで第1ローラ21の下流側において、仮に複数の糸Yの間隔を変化(広く、あるいは狭く)させたとする。この間隔の変化は第1ローラ21付近、正確には、第1ローラ21の接触終了点21b付近まで影響が及ぶが、接触終了点21bから接触開始点21a、更には第1ローラ21の上流側には影響は及ばない。これは、接触開始点21aから接触終了点21bまでは、各糸Yは第1ローラ21の周面に対して、第1ローラ21の軸21cに直交するように接触しており、第1ローラ21の周面と各糸Yとの間の摩擦力により、各糸Yは第1ローラ21の軸21c方向にずれないためである。このため、第1ローラ21の下流側での糸Yの間隔の変化は、第1ローラ21の接触終了点21bよりも上流側には影響が及ばない。
【0031】
続いて、第1ローラ21の周面から離れた複数の糸Yは、所定の間隔をおいて第3ローラ24の周面に接触する。第3ローラ24において各糸Yは、第3ローラ24の回転方向に対して上流側の接触開始点24aで第3ローラ24の周面に接触し、それよりも下流側の接触終了点24bで第3ローラ24の周面から離れるものとする。このとき、第1ローラ21の場合と同様に、接触開始点24aから接触終了点24bまでは、各糸Yは第3ローラ24の周面に対して、第3ローラ24の軸24cに直交するように接触する。従って、所定の間隔をおいて第3ローラ24に接触した複数の糸Yは、そのまま所定の間隔をおいて第3ローラ24から離れていくこととなる。
【0032】
ここで第3ローラ24の下流側において、仮に複数の糸Yの間隔を変化(広く、あるいは狭く)させたとする。この間隔の変化は、先に第1ローラ21で説明したのと同様の理由により、第3ローラ24付近、正確には、第3ローラ24の接触終了点24b付近まで影響が及ぶが、接触終了点24bから接触開始点24a、更には第3ローラ24の上流側には影響は及ばない。従って、第3ローラ24の下流側での糸Yの間隔の変化は、第3ローラ24の接触終了点24bよりも上流側には影響が及ばず、第3ローラ24と第1ローラ21との間の糸Yの間隔にも全く影響を及ぼさないのである。
【0033】
このように、ローラに複数の糸が掛けられた場合、ローラの下流側における糸の間隔の変化の影響はローラの上流側には及ばず、これが糸の撚りや振動であっても、その影響はローラの上流側には及ばないという糸の挙動特性がある。本発明は、このような糸の挙動特性を利用したものである。すなわち、ローラ又は糸道ガイドに糸掛け作業を行う場合に、サクションガンと糸掛け作業の対象であるローラ又は糸道ガイドとの間において、糸掛け作業の間、複数の糸に別のローラを一時的に接触させるというものである。これによりサクションガンからの撚りと振動はこの一時的に接触させたローラ付近まで伝播するが、このローラを超えて上流まで伝播することはなく、糸掛け作業の対象であるローラ又は糸道ガイド付近の複数の糸同士が絡み合って振動することはない。このため、糸掛け作業を容易に行うことができるのである。
【実施例1】
【0034】
次に、本発明の実施例1に係る紡糸巻取装置への糸掛け方法について、紡糸巻取装置のローラ及び糸道ガイドの配列を模式化した図2、図3を用いて説明する。
【0035】
図2、図3に示すように、上流から第1ローラ21、第2糸道ガイド23、第4ローラ27が配列されており、上流からこの順に糸Yが掛けられる。図2、図3に示す糸掛け作業は、複数の糸Yはすでに第1ローラ21に掛けられて糸道が第1ローラ21によって規制されており、サクションガン61を用いて第1ローラ21より下流側の第2糸道ガイド23に糸Yを掛けるものである。
【0036】
図2Aは、糸掛け作業の前段階を示している。第2糸道ガイド23への糸掛け作業では、分繊作業を行って複数の糸Yを1本1本分離した後、第2糸道ガイド23を構成する個々のガイドに1本づつ糸Yを導き入れる作業を行わなければならない。ところが、これから糸掛け作業を行おうとする第2糸道ガイド23は、サクションガン61とサクションガン61の上流側にある第1ローラ21との間に存在しており、サクションガン61の上流側では、複数の糸Y同士が絡み合って振動している。つまり、糸掛け作業の対象となる第2糸道ガイド23付近では、複数の糸Y同士が絡み合って振動している状態である。
【0037】
図2Bは糸掛け作業の第1工程を示している。第3ローラ24を図示上方に移動させるとともに、サクションガン61を操作して、サクションガン61と糸掛け作業の対象である第2糸道ガイド23との間で、複数の糸Yに第3ローラ24を接触させている。第3ローラ24は糸掛け作業の間だけ、複数の糸Yに一時的に接触させるものである。第3ローラ24として自由回転ローラを用いており、第3ローラ24は走行する複数の糸Yに接触することで従動回転する。複数の糸Yに第3ローラ24を接触させると、前述の糸Yの挙動特性により、第3ローラ24の下流側において糸Yの撚りや振動があったとしても、その影響は第3ローラ24の上流側には及ばない。尚、複数の糸Yと第3ローラ24との接触は、点接触やこれに近い短い距離での接触では、第3ローラ24の周面と各糸Yとの間の摩擦力が十分でない。そのため、複数の糸Yと第3ローラ24とを接触させる距離は、糸Y及び第3ローラ24の摩擦係数にもよるが、摩擦力が十分作用する距離とし、好ましくは第3ローラ24の周長の1/4以上接触させるものとする。
【0038】
図3Aは糸掛け作業の第2工程を示している。第2工程では、複数の糸Yを第3ローラ24に接触させた状態のまま、第3ローラ24を図示下方に移動させ、複数の糸Yの糸道が第2糸道ガイド23を通るようにする。その上で、第2糸道ガイド23を構成する個々のガイドに1本づつ糸Yを導き入れて第2糸道ガイド23に複数の糸Yを掛ける。本実施例では第3ローラ24を図示下方に移動させることで複数の糸Yが第2糸道ガイド23に入るようにしているが、これ以外の方法で複数の糸Yが第2糸道ガイド23に入るようにしてもよい。また、第1ローラ21での複数の糸Yの間隔を第2糸道ガイド23の個々のガイドの間隔に合わせ、各糸Yと個々のガイドの位置を合わせておいてもよい。このようにすることで、第3ローラ24を図示下方に移動させるだけで、第2糸道ガイド23を構成する個々のガイドに1本づつ糸Yが入り、糸掛け作業をより迅速に行うことができる。
【0039】
図3Bは糸掛け作業の第3工程を示している。第3工程では、第2糸道ガイド23に複数の糸Yを掛けた後、サクションガン61を操作して複数の糸Yを第4ローラ27に掛けるようにし、その上で第3ローラ24を更に図示下方に移動させて複数の糸Yから離間させる。
【0040】
以上説明した実施例1に係る紡糸巻取装置11への糸掛け方法によれば、次のような効果を有する。
【0041】
サクションガン61と、糸掛け作業の対象である第2糸道ガイド23との間において、糸掛け作業の間、複数の糸Yに第3ローラ24を一時的に接触させる。これによりサクションガン61からの撚りと振動は第3ローラ24付近まで伝播するが、第3ローラ24を超えて上流まで伝播することはなく、糸掛け作業の対象である第2糸道ガイド23付近の複数の糸Y同士が絡み合って振動することはない。このため、複数の糸Yを第3ローラ24に接触させた状態においては分繊作業が容易であり、第2糸道ガイド23に複数の糸Yを掛ける糸掛け作業を容易に行うことができる。第2糸道ガイド23に複数の糸Yを掛けた後は、第3ローラ24を複数の糸Yから離間させるため、本来の糸道の障害物となることもない。このように、糸掛け作業の間、複数の糸Yに第3ローラ24を一時的に接触させることで糸掛け作業が容易となるため、オペレーターが1人で糸掛け作業を行うことができ、糸掛け作業の時間も短縮するができる。
【実施例2】
【0042】
次に、本発明の実施例2に係る紡糸巻取装置11について、図4から図8を用いて説明する。本実施例では第3ローラ24が紡糸巻取装置11に設けられている点が他の実施例とは大きく異なっている。
【0043】
図4は実施例2に係る紡糸巻取装置11の正面図である。図4を参照して本実施例に係る紡糸巻取装置11の全体構成を説明する。紡糸巻取装置11は、主に紡糸装置12と巻取装置13とから構成されており、高温で溶解させた熱可塑性樹脂(ポリマー)を細いノズルから押し出し、冷却しながら巻き取って糸Yにする装置である。一般に紡糸巻取装置11には、POY(一部延伸糸)を巻取るPOY用紡糸巻取装置と、FDY(延伸糸)を巻取るFDY用紡糸巻取装置と、の2種類の装置がある。本発明に係る紡糸巻取装置11は、POY用紡糸巻取装置及びFDY用紡糸巻取装置のどちらにも適用できるが、本実施例はPOY用紡糸巻取装置である。
【0044】
紡糸装置12は、複数本のフィラメントを紡出し、紡出されたフィラメントを上方から下方に向けて供給するものである。紡糸装置12に投入された合繊原料(フィラメントの原料)は押出機を用いて圧送され、スピニングヘッド(図示略)に設けられた複数の紡出口から紡出する。スピニングヘッドの紡出口から紡出された複数のフィラメントは、所定の本数毎に束ねられて複数本の糸Yを構成し、巻取装置13へ導かれる。つまり、フィラメントを所定の本数束ねて成る糸Yが複数本構成されて、この複数本の糸Yが巻取装置13へ導かれるのである。
【0045】
巻取装置13は、紡糸装置12からの複数本の糸Yを複数のボビンBで巻き取って、複数のパッケージPとするものである。巻取装置13は、糸Yの走行方向に沿って上流側から、第1糸道ガイド22、第2糸道ガイドとしてのインターレース28、第3ローラ24、第4ローラとしての転送用糸送りローラ29、直前糸送りローラ30、31、及びパッケージ形成部15を備えている。
【0046】
第1糸道ガイド22は、紡糸装置12からの複数本の糸Yの糸道を規定して、下流側のインターレース28に糸Yをガイドするものである。インターレース28は、流体噴射ノズルを用いることで糸Yを構成するフィラメントを相互に絡み合わせて集束性を付与し、繊維間の広がりや分離を抑制するものである。インターレース28は、糸道ガイドとしての役割も有しており、インターレース28を構成する個々のガイドに1本づつ糸Yを導き入れる必要がある。インターレース28への糸掛け作業について後に詳しく説明する。
【0047】
第3ローラ24は、インターレース28への糸掛け作業の間、複数の糸Yを一時的に接触させるローラである。第3ローラ24は、インターレース28から下流の転送用糸送りローラ29までの糸道からオフセットされており、インターレース28への糸掛け作業の後、本来の糸道の障害物とならないように配置されている。また、第3ローラ24は、サクションガン61によるインターレース28への糸掛け作業において、最も作業性の良い位置に設置するものとする。
【0048】
転送用糸送りローラ29は紡糸装置12からの複数の糸Yを引き取るローラである。転送用糸送りローラ29の下流側には直前糸送りローラ30、31が設けられている。直前糸送りローラ30、31は、パッケージ形成部15に向けて糸Yを送り出すローラである。
【0049】
インターレース28には、糸掛装置41が併設されている。糸掛装置41はインターレース28への糸掛け作業において用いられるものであり、インターレース28に導き入れられる糸Yの糸道を一時的に変更したり、インターレース28に導き入れたりする(図5B、図6B参照。)。糸掛装置41は、アーム42と、糸掛ガイドバー43とを備えている。糸掛ガイドバー43は摩擦の小さい素材で形成されており、複数の糸Yに接触するものである。アーム42は糸掛ガイドバー43を支持し、軸44を中心に糸掛ガイドバー43を揺動させて糸Yの糸道を変更させるものである。糸掛装置41の動作については後に詳しく説明する。
【0050】
パッケージ形成部15は、直前糸送りローラ30、31から送り出された複数本の糸YをそれぞれのボビンBに巻き取るものである。パッケージ形成部15は、回転することによって糸Yを巻き取るボビンBと、複数のボビンBが装着されるボビンホルダ軸17と、ボビンBに巻き取られる糸Yを綾振するトラバース装置20と、ボビンBならびにボビンB上に形成されたパッケージPを従動回転させる回転ローラ(図示略)と、トラバース装置20や回転ローラを駆動する駆動装置18とから構成される。
【0051】
パッケージ形成部15に導かれたそれぞれの糸Yは、トラバース装置20によって左右方向(ボビンホルダ軸17の軸方向)に綾振されて回転するボビンBに巻き取られる。そして、ボビンBに巻き取られた糸Yは、ボビンB上にパッケージPを形成するのである。
【0052】
続いて、紡糸巻取装置11のインターレース28への糸掛け作業について説明する。図5Aは、紡糸巻取装置11のインターレース28への糸掛け作業の前段階を示す拡大正面図、図5Bは、図5Aの状態におけるインターレース28付近の拡大斜視図である。図5A、図5Bに示すように、図示しないオペレーターがサクションガン61で糸Yを吸引しながら糸掛け作業を行っており、インターレース28の直前の第1糸道ガイド22まで糸掛けされているものとする。
【0053】
第1糸道ガイド22での複数の糸Yの間隔は、インターレース28の個々のガイドの間隔に合わせられており、第1糸道ガイド22とインターレース28の位置関係は、第1糸道ガイド22を通過した各糸Yがそのまま真っ直ぐ走行すれば、インターレース28の個々のガイドに入るように設定されている。
【0054】
しかしながら、糸掛け作業の対象であるインターレース28は、サクションガン61とサクションガン61の上流側にある第1糸道ガイド22との間に存在しており、図5Bに示すように、サクションガン61の上流側では、複数の糸Y同士が絡み合って振動している。つまり、糸掛け作業の対象となるインターレース28付近では、複数の糸Y同士が絡み合って振動している状態であり、この状態では、インターレース28を構成する個々のガイドに容易に糸Yを導き入れることはできない。
【0055】
図6Aは、紡糸巻取装置11のインターレース28への糸掛け作業の第1工程を示す拡大正面図、図6Bは、図6Aの状態におけるインターレース28付近の拡大斜視図である。第1工程では、サクションガン61を操作して、サクションガン61と糸掛け作業の対象であるインターレース28との間で、複数の糸Yを第3ローラ24に接触させている。第3ローラ24は糸掛け作業の間だけ、複数の糸Yに一時的に接触させるものである。複数の糸Yに第3ローラ24を接触させると、糸Yの挙動特性により、第3ローラ24の下流側において糸Yの撚りや振動があったとしても、その影響は第3ローラ24の上流側には及ばない。
【0056】
このとき、糸掛装置41の糸掛ガイドバー43は、アーム42の揺動により、インターレース28を構成する個々のガイドの導入口の外側において、複数の糸Yに接触する位置に配置される。糸掛ガイドバー43をこの位置に配置することにより、本来インターレース28の中を通る各糸Yの糸道を一時的にインターレース28から離している。これにより、第1工程でオペレーターがサクションガン61を操作している間に不用意に糸Yがインターレース28に接触したり、インターレース28の個々のガイドの間違った位置に糸Yが入り込むことを防止することができる。
【0057】
図7Aは、紡糸巻取装置11のインターレース28への糸掛け作業の第2工程を示す拡大正面図、図7Bは、図7Aの状態におけるインターレース28付近の拡大斜視図である。第2工程では、複数の糸Yを第3ローラ24に接触させた状態のまま、インターレース28を構成する個々のガイドに糸Yを導き入れてインターレース28に複数の糸Yを掛ける。本実施例では、糸掛装置41の糸掛ガイドバー43がアーム42の揺動によって複数の糸Yの糸道から離れることにより、第1糸道ガイド22を通過した各糸Yはそのまま真っ直ぐ走行し、各糸Yがインターレース28の個々のガイドに導き入れられる。このように、第1糸道ガイド22を通過した各糸Yがそのまま真っ直ぐ走行すれば、インターレース28の個々のガイドに入るように設定しておくことにより、糸掛装置41を作動させるだけで、インターレース28を構成する個々のガイドに1本づつ糸Yが入るため、糸掛け作業をより迅速に行うことができる。
【0058】
図8Aは、紡糸巻取装置11のインターレース28への糸掛け作業の第3工程を示す拡大正面図、図8Bは、図8Aの状態におけるインターレース28付近の拡大斜視図である。第3工程では、インターレース28に複数の糸Yを掛けた後、サクションガン61を操作して複数の糸Yを転送用糸送りローラ29に掛け、続いて直前糸送りローラ30に掛けている。第3ローラ24は、インターレース28から下流の転送用糸送りローラ29までの糸道からオフセットされており、複数の糸Yを転送用糸送りローラ29に掛けることで、第3ローラ24は複数の糸Yの糸道から離間する。複数の糸Yを転送用糸送りローラ29に掛けることで、インターレース28への糸掛け作業は実質的に終了する。
【0059】
以上説明した実施例2に係る紡糸巻取装置11によれば、次のような効果を有する。
【0060】
サクションガン61と、糸掛け作業の対象であるインターレース28との間において、糸掛け作業の間、複数の糸Yに紡糸巻取装置11に設けられた第3ローラ24を一時的に接触させる。これによりサクションガン61からの撚りと振動は第3ローラ24付近まで伝播するが、第3ローラ24を超えて上流まで伝播することはなく、糸掛け作業の対象であるインターレース28付近の複数の糸Y同士が絡み合って振動することはない。このため、複数の糸Yを第3ローラ24に接触させた状態での分繊作業が容易であり、インターレース28に複数の糸Yを掛ける糸掛け作業を容易に行うことができる。インターレース28に複数の糸Yを掛けた後は、第3ローラ24を複数の糸Yから離間させるため、本来の糸道の障害物となることもない。このように、糸掛け作業の間、複数の糸Yに第3ローラ24を一時的に接触させることで糸掛け作業が容易となるため、オペレーターが1人で糸掛け作業を行うことができ、糸掛け作業の時間も短縮することができる。
【実施例3】
【0061】
本発明の実施例3に係るサクションガン61及びその使用について、図9から図14を用いて説明する。本実施例では第3ローラ24がサクションガン61に設けられている点が他の実施例とは大きく異なっている。
【0062】
図9は、サクションガン61の先端部付近の側面図である。図9Aに示すように、サクションガン61の先端部付近には、アーム63が装着されている。アーム63は図9Bに示すように、軸64を中心に所定の角度だけ揺動できるように構成されている。アーム63には第3ローラ24が設けられている。第3ローラ24は糸掛け作業の間、複数の糸Yを一時的に接触させるローラである。
【0063】
図9A、図9Bに示すように、アーム63を揺動させることにより、サクションガン61の吸引口62に対して第3ローラ24の位置を変更することができる。図9Aにおける第3ローラ24の位置は、サクションガン61に真っ直ぐ吸引される糸Yに接触する位置であり、図9Bにおける第3ローラ24の位置は、サクションガン61に真っ直ぐ吸引される糸Yには接触せず、糸Yから離間する位置である。
【0064】
図10は、第3ローラ24の形状の例を示す断面図である。図10Aに示すように、糸Yに対する接触面25の形状を略V字状としてもよく、図10Bに示すように、糸Yに対する接触面25の形状を平坦とし、両側に糸落ちを防止するフランジ26を設けてもよい。第3ローラ24に接する糸Yの挙動特性より、第3ローラ24の上流側において糸Yは広がろうとするため、図10Bの形状のほうが糸Yの接触する幅を広くすることができる。尚、図10は、第3ローラ24の形状の例であり、この寸法や形状、寸法の比率等に限定されるものではない。
【0065】
続いて、本実施例に係るサクションガン61の使用の一例について説明する。以下に説明するサクションガン61の使用は、紡糸巻取装置11の糸掛装置51への糸掛け作業に用いる場合である。
【0066】
まず、紡糸巻取装置11及び糸掛装置51について説明する。図11は糸掛装置51に糸掛けを行う前の紡糸巻取装置11の斜視図、図12は、図11の状態から糸Yに第3ローラ24を接触させた状態の斜視図、図13は糸掛装置51の糸掛け部材54に糸掛けを行った状態の紡糸巻取装置11の斜視図、図14は糸掛装置51の糸掛け部材54を展開した状態の紡糸巻取装置11の斜視図である。紡糸巻取装置11は、主として本体フレーム14と、水平軸回りに回転するタレット板16と、タレット板16に突設された2本のボビンホルダ軸17A、17Bと、ボビンホルダ軸17A、17Bを回転駆動する駆動装置18と、本体フレーム14に沿って垂直に上昇または下降する支持枠19と、支持枠19に設けられるタッチローラ(図示略)、及びトラバース装置(図示略)とから構成されている。
【0067】
紡出機からの紡糸速度は一定であり、ボビンホルダ軸17A、17Bは、所定の巻取速度を維持するように回転駆動される。パッケージが満巻になると、タレット板16が180度回転し、満巻のパッケージのボビンホルダ軸17Aが待機位置bとなり、空ボビンBのボビンホルダ軸17Bが巻取位置aとなる。満巻のパッケージから空ボビンBへと糸渡しが行われて連続的に巻取りが行われる。満巻のパッケージのボビンホルダ軸17Aは徐々に減速して停止し、満巻のパッケージと空ボビンBとが差し替えられる。
【0068】
ところで、このタレット式の紡糸巻取装置11においては、満巻ボビンBから空ボビンBへの糸渡しは糸渡し装置(図示略)により連続運転で自動的に行えるが、連続運転開始前の糸巻き取り開始時等には、糸掛装置51を用いてマニュアル操作で空ボビンBへの糸掛けを行う必要がある。
【0069】
そこで糸掛装置51について説明すると、糸掛装置51は糸掛用シリンダ装置52と、旋回セパレータ56とを備えている。糸掛け用シリンダ装置は、筒体53と、糸掛け部材54と、ロッド55とを有している。糸掛け部材54の数はボビンBの数と等しい。糸掛け部材54は筒体53内を摺動自在であり、糸掛け部材54同士はベルトによって所定間隔で連結されている。図示左側端の糸掛け部材54は筒体53に固定されており、図面右側端の糸掛け部材54はロッド55の先端と連結されている。図11、図12、図13に示すように、ロッド55を筒体53から引き出すと、糸掛け部材54は筒体53の左側端に集合する。図14に示すように、ロッド55を筒体53に押し込むと、糸掛け部材54はベルトの長さで決まる所定ピッチで展開する。旋回セパレータ56には所定ピッチでガイド溝57が設けられており、アクチュエータにより作動される。
【0070】
続いて糸掛装置51の動作を説明する。図11、図12に示すように、ロッド55を引き出して糸掛け部材54を図面左側端に集合させておく。そして綾振りガイド71を経て繰り出される複数の糸Yを、支持枠19の間を通り抜けさせ、サクションガン61に纏めて吸引する。そして、図13に示すように、各糸Yの1本ずつを糸掛け部材54に掛ける。糸掛け部材54への糸掛け作業については後に詳しく説明する。
【0071】
図14に示すように、ロッド55を筒体53の中に押し込むと、糸掛け部材54はピッチで展開する所定位置となり、糸Yは綾振りガイド71の真下に走行する。旋回セパレータ56のアクチュエータを作動させ、旋回セパレータ56を図示E方向に旋回させる。各糸Yは旋回セパレータ56のガイド溝57に入り、糸道がボビンホルダ軸17AのボビンB側に屈曲され、各糸Yが同時に各ボビンBのスリットBaにキャッチされ、ボビンBへの巻取が開始される。
【0072】
以上が紡糸巻取装置11及び糸掛装置51の構成であり、次に、糸掛け部材54への糸掛け作業について詳しく説明する。図11に示すように、図示しないオペレーターがサクションガン61で糸Yを吸引しながら糸掛け作業を行っており、第2糸道ガイドとしての糸掛け部材54に対して、直前の第1糸道ガイドである綾振りガイド71まで糸掛けされている。
【0073】
糸掛け作業の対象である糸掛け部材54は、サクションガン61とサクションガン61の上流側にある綾振りガイド71との間に存在しており、サクションガン61の上流側では、複数の糸Y同士が絡み合って振動している。つまり、糸掛け作業の対象となる糸掛け部材54付近では、複数の糸Y同士が絡み合って振動している状態であり、この状態では、分繊作業は非常に困難であり、各糸掛け部材54に容易に糸Yを導き入れることはできない。
【0074】
図12は、糸掛け部材54への糸掛け作業の第1工程を示している。第1工程では、サクションガン61のアーム63を操作して、サクションガン61と糸掛け作業の対象である糸掛け部材54との間で、複数の糸Yを第3ローラ24に接触させている。第3ローラ24は糸掛け作業の間だけ、複数の糸Yに一時的に接触させるものである。複数の糸Yに第3ローラ24を接触させると、糸Yの挙動特性により、第3ローラ24の下流側において糸Yの撚りや振動があったとしても、その影響は第3ローラ24の上流側には及ばない。
【0075】
図13は、糸掛け部材54への糸掛け作業の第2工程を示している。第2工程では、複数の糸Yを第3ローラ24に接触させた状態のまま、各糸掛け部材54に糸Yを掛ける。本実施例では、複数の糸Yに第3ローラ24を接触させることにより、サクションガン61からの糸Yの撚りや振動が第3ローラ24の上流側には伝わらない。このため分繊作業を容易に行うことができ、各糸掛け部材54に糸Yを掛ける糸掛け作業を容易に行うことができる。
【0076】
図14は、糸掛け部材54への糸掛け作業の第3工程を示している。第3工程では、各糸掛け部材54に糸Yを掛けた後、サクションガン61のアーム63を操作して第3ローラ24を複数の糸Yの糸道から離間させている。そして、ロッド55を筒体53の中に押し込むことにより、糸掛け部材54はベルトの長さで決まる所定ピッチで展開する。サクションガン61のアーム63を操作して第3ローラ24を複数の糸Yの糸道から離間させることで、糸掛け部材54への糸掛け作業は実質的に終了する。
【0077】
以上説明した実施例3に係るサクションガン61によれば、次のような効果を有する。
【0078】
サクションガン61と、糸掛け作業の対象である糸掛け部材54との間において、糸掛け作業の間、複数の糸Yにサクションガン61に設けられた第3ローラ24を一時的に接触させる。これによりサクションガン61からの撚りと振動は第3ローラ24付近まで伝播するが、第3ローラ24を超えて上流まで伝播することはなく、糸掛け作業の対象である糸掛け部材54付近の複数の糸Y同士が絡み合って振動することはない。このため、複数の糸Yを第3ローラ24に接触させた状態においては分繊作業が容易であり、各糸掛け部材54に糸Yを掛ける糸掛け作業を容易に行うことができる。糸掛け部材54に糸Yを掛けた後は、第3ローラ24を複数の糸Yから離間させるため、サクションガン61の操作の障害物となることもない。このように、糸掛け作業の間、複数の糸Yに第3ローラ24を一時的に接触させることで糸掛け作業が容易となるため、オペレーターが1人で糸掛け作業を行うことができ、糸掛け作業の時間も短縮するができる。
【0079】
また、第3ローラ24はサクションガン61に設けられているため、紡糸巻取装置11に個別に第3ローラ24を設ける必要が無い。サクションガン61の操作により、糸掛け作業の間、複数の糸Yに第3ローラ24を一時的に接触させることで、糸掛け作業を容易に行うことができる。
【0080】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、様々な変更が可能である。例えば、実施例2においてはインターレース28の糸掛け作業のために用いる第3ローラ24を紡糸巻取装置11に設けたが、他のローラ又は糸道ガイドへの糸掛け作業のために用いる別の第3ローラ24を紡糸巻取装置11に設けてもよい。
【0081】
また、実施例3では、サクションガン61に設けた第3ローラ24を糸Yに一時的に接触させる構造として、揺動可能なアーム63に第3ローラ24を設ける構造としたが、この構造に限定されない。実施例3では、サクションガン61の第3ローラ24を用いた糸掛け作業として、紡糸巻取装置11の糸掛装置51への糸掛け作業について説明したが、他のローラ又は糸道ガイドへの糸掛け作業、例えば実施例2で説明したインターレース28への糸掛け作業等に使用できることはいうまでもない。
【0082】
以上説明した本発明の技術的範囲は、上記実施例に限定されるものではなく、上記実施例の形状に限定されない。本発明の技術的範囲は、本明細書及び図面に記載した事項から明らかになる本発明が真に意図する技術的思想の範囲全体に、広く及ぶものである。
【符号の説明】
【0083】
11 紡糸巻取装置
12 紡糸装置
13 巻取装置
14 本体フレーム
15 パッケージ形成部
16 タレット板
17A、17B ボビンホルダ軸
18 駆動装置
19 支持枠
20 トラバース装置
21 第1ローラ
21a 接触開始点
21b 接触終了点
22 第1糸道ガイド
23 第2糸道ガイド
24 第3ローラ
24a 接触開始点
24b 接触終了点
25 接触面
26 フランジ
27 第4ローラ
28 インターレース
29 転送用糸送りローラ
30、31 直前糸送りローラ
41 糸掛装置
42 アーム
43 糸掛ガイドバー
44 軸
51 糸掛装置
52 糸掛用シリンダ装置
53 筒体
54 糸掛け部材
55 ロッド
56 旋回セパレータ
57 ガイド溝
61 サクションガン
62 吸引口
63 アーム
64 軸
B ボビン
P パッケージ
Y 糸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
紡糸巻取装置の第1ローラ又は第1糸道ガイドにより糸道が規制された複数の糸を、サクションガンを用いて前記第1ローラ又は前記第1糸道ガイドより下流側の第2ローラ又は第2糸道ガイドに掛ける、紡糸巻取装置への糸掛け方法であって、
前記サクションガンと、前記第2ローラ又は前記第2糸道ガイドとの間で、前記複数の糸に第3ローラを接触させる第1工程と、
前記複数の糸を前記第3ローラに接触させた状態で、前記第2ローラ又は前記第2糸道ガイドに前記複数の糸を掛ける第2工程と、
前記第2ローラ又は前記第2糸道ガイドに前記複数の糸を掛けた後、前記第3ローラを前記複数の糸から離間させる第3工程と、
を含むことを特徴とする紡糸巻取装置への糸掛け方法。
【請求項2】
請求項1に記載の紡糸巻取装置への糸掛け方法であって、
前記第3ローラは、紡糸巻取装置に設けられていることを特徴とする紡糸巻取装置への糸掛け方法。
【請求項3】
請求項1に記載の紡糸巻取装置への糸掛け方法であって、
前記第3ローラは、サクションガンに設けられていることを特徴とする紡糸巻取装置への糸掛け方法。
【請求項4】
紡糸巻取装置であって、
複数の糸の糸道を規制する第1ローラ又は第1糸道ガイドと、
前記第1ローラ又は前記第1糸道ガイドより下流側の第2ローラ又は第2糸道ガイドと、
サクションガンを用いて前記複数の糸を前記第2ローラ又は前記第2糸道ガイドに掛ける場合に、前記サクションガンと、前記第2ローラ又は前記第2糸道ガイドとの間で前記複数の糸に接触し、前記複数の糸に接触した状態で、前記第2ローラ又は前記第2糸道ガイドに前記複数の糸を掛けた後、前記複数の糸から離間する第3ローラと、
を備えたことを特徴とする紡糸巻取装置。
【請求項5】
紡糸巻取装置への糸掛けに用いられるサクションガンであって、
複数の糸の糸道を規制する第1ローラ又は第1糸道ガイドより下流側の第2ローラ又は第2糸道ガイドに前記複数の糸を掛ける場合に、吸入口と、前記第2ローラ又は前記第2糸道ガイドとの間で、前記複数の糸に接触し、前記複数の糸に接触した状態で、前記第2ローラ又は前記第2糸道ガイドに前記複数の糸を掛けた後、前記複数の糸から離間する第3ローラを備えたことを特徴とするサクションガン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2012−21240(P2012−21240A)
【公開日】平成24年2月2日(2012.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−158891(P2010−158891)
【出願日】平成22年7月13日(2010.7.13)
【出願人】(502455511)TMTマシナリー株式会社 (91)
【Fターム(参考)】