説明

紡糸方法及び紡糸装置

【課題】ネッキングの位置を制御してネッキング延伸を行うことができ、かつネッキングの安定性を制御して直径のばらつきが小さい均質な糸が製造できる紡糸方法及び紡糸装置の提供。
【解決手段】糸状体に対し張力を付与し、張力が付与された該糸状体の一部を、糸状体の直径が実質的に変化しない温度から糸状体にネッキングが生ずる温度に昇温させることにより、前記糸状体をネッキング延伸して前記糸状体を紡糸する紡糸方法である。冷却手段によりネッキングが生じない温度にした後、加熱手段によりネッキングが生ずる温度に昇温させる態様が好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紡糸方法及び紡糸装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、ポリマー繊維の紡糸においては、溶融押出などされた糸状体を延伸する延伸工程が行われている。例えば、ポリマーを溶融し、紡糸口金より押出して糸状体とし、該糸状体を、冷却液を有する冷却槽で一旦冷却して固化した状態の未延伸糸として巻き取り、更にこの未延伸糸を熱水槽や熱オイル槽、水蒸気槽、加熱空気槽などに通して加熱した後に、延伸工程が行われている。
【0003】
そして、紡糸における延伸には、ネッキング延伸という延伸方法がある。前記ネッキング延伸は、前記糸状体の狭い範囲においてネッキング(くびれ)を生じさせ、前記糸状体を延伸させる延伸方法である。前記ネッキング延伸は、前記糸状体の狭い範囲において行われるため、延伸に用いる装置を小型化、簡便化できる利点がある。
【0004】
しかしながら、前記ネッキング延伸において、前記ネッキングの位置、安定性などを制御することは難しい。
前記ネッキング延伸においては、通常、前記ネッキングの位置を制御することができず、前記ネッキングの位置が、搬送や張力付与のためのロールと前記糸状体とが接する部位に移動する結果、前記糸状体が切れてしまい、安定して糸が製造できないという問題がある。そのため、前記ネッキングの位置を制御できることが望まれている。
また、前記ネッキングの安定性が制御できないと、ドローレゾナンスが生じやすくなり、断面形状、平均直径などが均一な糸が製造できないという問題がある。そのため、前記ネッキングの安定性を制御できることが望まれている。
【0005】
前記ネッキング延伸に関して、フィルム形態の製品を得るために、熱板を用い、該熱板に延伸されるフィルム入口側の低温部から延伸されたフィルム送出側の高温部へと温度勾配を設け、かつ延伸に伴いフィルムに生ずるネッキングを前記熱板の前記低温部で行ない、前記熱板の前記高温部で延伸を完了させる技術が提案されている(例えば、特許文献1)。
しかしながら、この提案では、前記ネッキングを生ずるフィルムの温度について検討されていないため、この技術を紡糸に適用しても、前記ネッキングの位置を制御できず、前記ネッキングの位置が移動する結果、糸状体が切れてしまうという問題があった。また、この技術を紡糸に適用しても、前記ネッキングの安定性を十分には制御できず、断面形状、平均直径などが均一な糸が製造できないという問題があった。
【0006】
ところで、糸は、機能性や審美性を向上させるべく、様々な工夫がなされている。例えば、結晶性を有するポリマーのみからなり、内部に空洞を有する断熱性及び金属光沢のある糸並びに該糸の製造方法が提案されている(例えば、特許文献2)。そして、この空洞を有する糸の製造方法の一例として、ネッキングを生じさせることにより内部に空洞を有する糸を製造することが提案されている。
しかしながら、この提案では、前記ネッキングを生ずる糸状体の温度について検討されていないため、前記ネッキングの位置を制御できず、前記ネッキングの位置が移動する結果、糸状体が切れてしまうという問題があった。また、前記ネッキングの安定性を十分には制御できず、断面形状、平均直径などが均一な糸が製造できないという問題があった。
【0007】
また、糸の機能性を向上させる技術として、例えば、糸の断面形状を変化させることにより、吸水性を向上させる技術がある。また、糸内部に空隙を作製することにより、柔らかい風合いを出したり、軽量性を高めたりする技術が提案されている(例えば、特許文献3)。また、糸の審美性を向上させる技術として、例えば、屈折率の異なる2種類のポリマーを交互に積層し、それらを保護層で被覆して複合糸とすることにより、構造性発色を発現する技術が提案されている(例えば、特許文献4)。
これらの糸は、その製造過程において、通常、延伸が行われる。この延伸において、前記ネッキング延伸を利用すれば、延伸に用いる装置を小型化、簡便化できる。
しかしながら、これらの糸の製造に前記ネッキング延伸を利用した場合にも、ネッキングの位置が制御できず、安定して糸が製造できないといった問題がある。また、ネッキングの安定性の制御ができず、断面形状が不均一になったり、糸内部の空隙が不均一になったり、複合糸の積層状態が制御できなくなったりする。そして、断面形状が不均一になると、得られる糸の吸水性が不均一になるといった問題がある。また、糸内部の空隙が不均一になると、得られる糸の風合いや軽量性が不均一になるといった問題がある。また、複合糸の積層状態が制御できないと、構造性発色の発色性が安定しないといった問題がある。
【0008】
したがって、ネッキングの位置を制御してネッキング延伸を行うことができ、かつネッキングの安定性を制御して直径のばらつきが小さい均質な糸が製造できる紡糸方法及び紡糸装置の提供が求められているのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平5−104619号公報
【特許文献2】特開2009−191382号公報
【特許文献3】特開2005−256243号公報
【特許文献4】特許第3356438号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、従来における前記諸問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明は、ネッキングの位置を制御してネッキング延伸を行うことができ、かつネッキングの安定性を制御して直径のばらつきが小さい均質な糸が製造できる紡糸方法及び紡糸装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記課題を解決するための手段としては、以下の通りである。即ち、
<1> 糸状体に対し張力を付与し、張力が付与された該糸状体の一部を、糸状体の直径が実質的に変化しない温度から糸状体にネッキングが生ずる温度に昇温させることにより、前記糸状体をネッキング延伸して前記糸状体を紡糸すること特徴とする紡糸方法である。
<2> 糸状体に対し張力を付与し、張力が付与された該糸状体の一部を、冷却手段により糸状体の直径が実質的に変化しない温度にした後、加熱手段により糸状体にネッキングが生ずる温度に昇温させることにより、前記糸状体をネッキング延伸して前記糸状体を紡糸する前記<1>に記載の紡糸方法である。
<3> 冷却手段が冷却可能な部材であり、加熱手段が加熱可能な部材であり、
糸状体が前記冷却手段及び前記加熱手段に接触した状態で、張力が付与される前記<2>に記載の紡糸方法である。
<4> 冷却手段による冷却温度が、糸状体のガラス転移点以下である前記<2>から<3>のいずれかに記載の紡糸方法である。
<5> 糸状体のX線回折における結晶性ピークの半値幅が2θとして9°未満である前記<1>から<4>のいずれか記載の紡糸方法である。
<6> 糸状体の平均直径が10μm〜500μmである前記<1>から<5>のいずれかに記載の紡糸方法である。
<7> 得られる糸が、内部に空洞を延伸方向に配向した状態で有してなり、該空洞の平均長さをL(μm)とし、前記空洞の配向方向と直交方向における該空洞の平均径をr(μm)とした際のL/r比が10以上である前記<1>から<6>のいずれかに記載の紡糸方法である。
<8> 得られる糸が、結晶性ポリマーのみからなる前記<1>から<7>のいずれかに記載の紡糸方法である。
<9> 得られる糸の反射率が、40%〜90%である前記<1>から<8>のいずれかに記載の紡糸方法である。
<10> ネッキングが生ずる温度に昇温させた糸状体にネッキングを生じさせ、前記糸状体をネッキング延伸するとともに、該ネッキングの位置を、糸状体の直径が実質的に変化しない温度に維持された糸状体近傍に移動させ、固定させる前記<1>から<9>のいずれかに記載の紡糸方法である。
<11> 加熱手段によりネッキングが生ずる温度に昇温させた糸状体にネッキングを生じさせ、前記糸状体をネッキング延伸するとともに、該ネッキングの位置を、冷却手段により糸状体の直径が実質的に変化しない温度に維持された糸状体近傍に移動させ、固定させる前記<1>から<10>のいずれかに記載の紡糸方法である。
<12> 糸状体に対し張力を付与する張力付与手段と、
前記張力付与手段により張力が付与された前記糸状体の一部を、糸状体の直径が実質的に変化しない温度から糸状体にネッキングが生ずる温度に昇温させるネッキング発生手段とを有すること特徴とする紡糸装置である。
<13> ネッキング発生手段が、張力が付与された糸状体の一部を、糸状体の直径が実質的に変化しない温度に冷却する冷却手段と、糸状体にネッキングが生ずる温度に昇温させる加熱手段とを有する前記<12>に記載の紡糸装置である。
<14> 冷却手段が冷却可能な部材であり、加熱手段が加熱可能な部材である前記<13>に記載の紡糸装置である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によると、従来における前記諸問題を解決することができ、ネッキングの位置を制御してネッキング延伸を行うことができ、かつネッキングの安定性を制御して直径のばらつきが小さい均質な糸が製造できる紡糸方法及び紡糸装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は、ネッキングの概略を示す図である。
【図2A】図2Aは、アスペクト比を具体的に説明するための図であって、糸の斜視図である。
【図2B】図2Bは、アスペクト比を具体的に説明するための図であって、図2Aにおける糸のA−A’断面図である。
【図2C】図2Cは、アスペクト比を具体的に説明するための図であって、図2Aにおける糸のB−B’断面図である。
【図3】図3は、本発明の紡糸装置の一態様の概略図である。
【図4】図4は、本発明の紡糸装置の一態様の概略図である。
【図5】図5は、本発明の紡糸装置の一態様の概略図である。
【図6】図6は、本発明の紡糸装置の一態様の概略図である。
【図7】図7は、本発明の紡糸装置の一態様の概略図である。
【図8】図8は、参考例に用いた紡糸装置の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(紡糸方法及び紡糸装置)
本発明の紡糸方法は、延伸工程を少なくとも含み、更に必要に応じて、その他の工程を含む。
前記延伸工程は、糸状体を延伸する工程であり、張力付与処理と、ネッキング発生処理とを少なくとも含み、更に必要に応じて、その他の処理を含む。
本発明の紡糸装置は、延伸機を少なくとも有し、更に必要に応じて、その他の機器を有する。
前記延伸機は、張力付与手段と、ネッキング発生手段とを少なくとも有し、更に必要に応じて、その他の手段を有する。
なお、本発明の紡糸方法において、前記延伸工程は、前記延伸機により行うことができる。また、前記張力付与処理は、前記張力付与手段により行うことができる。また、前記ネッキング発生処理は、前記ネッキング発生手段により行うことができる。
【0015】
<糸状体>
前記糸状体の材質としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、熱可塑性樹脂が挙げられる。
前記糸状体は、耐熱安定剤、酸化防止剤、有機の易滑剤、核剤、染料、顔料、分散剤、カップリング剤などを含有していてもよい。また、延伸後に、得られる糸内に空洞を作製させるための、無機微粒子、相溶しない樹脂などの空洞形成剤を含有していてもよい。
前記熱可塑性樹脂としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、結晶性ポリマー、非晶性ポリマーが挙げられる。これらの中でも、結晶性ポリマーが、無機微粒子、相溶しない樹脂などの空洞形成剤を使用せずに空洞を有する糸が得られる点で好ましい。
【0016】
−結晶性ポリマー−
一般に、ポリマーは、結晶性ポリマーと非晶性(アモルファス)ポリマーとに分けられるが、結晶性ポリマーといえども100%結晶ということはなく、分子構造の中に長い鎖状の分子が規則的に並んだ結晶性領域と、規則的に並んでいない非結晶(アモルファス)領域とを含んでいる。
したがって、前記結晶性ポリマーとしては、分子構造の中に少なくとも前記結晶性領域を含んでいればよく、結晶性領域と非結晶領域とが混在していてもよい。
【0017】
前記結晶性ポリマーとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ポリオレフィン類(例えば、低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、ポリプロピレンなど)、ポリアミド類(PA)(例えば、ナイロン−6など)、ポリアセタール類(POM)、ポリエステル類(例えば、PET、PEN、PTT、PBT、PPT、PHT、PBN、PES、PBSなど)、シンジオタクチック・ポリスチレン(SPS)、ポリフェニレンサルファイド類(PPS)、ポリエーテルエーテルケトン類(PEEK)、液晶ポリマー類(LCP)、フッ素樹脂、アイソタクティックポリプロピレン(isoPP)などが挙げられる。これらの中でも、耐久性、力学強度、製造及びコストの観点から、ポリオレフィン類、ポリエステル類、シンジオタクチック・ポリスチレン(SPS)、液晶ポリマー類(LCP)が好ましく、ポリオレフィン類、ポリエステル類がより好ましい。また、これらのうち2種以上のポリマーをブレンドしたり、共重合させたりして使用してもよい。
【0018】
前記結晶性ポリマーの溶融粘度としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、50Pa・s〜700Pa・sが好ましく、70Pa・s〜500Pa・sがより好ましく、80Pa・s〜300Pa・sが特に好ましい。前記溶融粘度が、前記好ましい範囲であると、溶融押出時に溶融押出口金(ノズル)から吐出される溶融体の形状が安定し、均一な径の糸状体にしやすくなる点で有利であり、前記特に好ましい範囲であると、前記効果が顕著となる点で有利である。
ここで、前記溶融粘度は、プレートタイプのレオメーターやキャピラリーレオメーターにより測定することができる。
【0019】
前記結晶性ポリマーの極限粘度(IV)としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、0.4〜1.3が好ましく、0.6〜1.0がより好ましく、0.7〜0.9が特に好ましい。前記IVが、前記好ましい範囲であると、得られる糸状体の引っ張り強度が高くなり、効率よく延伸することができる点で有利であり、前記特に好ましい範囲であると、前記効果が顕著となる点で有利である。
ここで、前記IVは、ウベローデ型粘度計により測定することができる。
【0020】
前記結晶性ポリマーの融点(Tm)としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、40℃〜350℃が好ましく、100℃〜300℃がより好ましく、100℃〜260℃が特に好ましい。前記融点が、前記好ましい範囲であると、通常の使用で予想される温度範囲で径を保ちやすくなる点、また、高温での加工に必要とされる特殊な技術を特に用いなくても、均一な紡糸ができる点で有利であり、前記特に好ましい範囲であると、前記効果が顕著となる点で有利である。
ここで、前記融点は、示差熱分析装置(DSC)により測定することができる。
【0021】
−−ポリエステル樹脂−−
前記ポリエステル類(以下、「ポリエステル樹脂」と称する。)は、エステル結合を主鎖の主要な結合鎖とするポリマーの総称を意味する。したがって、前記結晶性ポリマーとして好適な前記ポリエステル樹脂としては、前記例示したPET(ポリエチレンテレフタレート)、PEN(ポリエチレンナフタレート)、PTT(ポリトリメチレンテレフタレート)、PBT(ポリブチレンテレフタレート)、PPT(ポリペンタメチレンテレフタレート)、PHT(ポリヘキサメチレンテレフタレート)、PBN(ポリブチレンナフタレート)、PES(ポリエチレンサクシネート)、PBS(ポリブチレンサクシネート)だけでなく、ジカルボン酸成分とジオール成分との重縮合反応によって得られるポリマーが全て含まれる。
【0022】
前記ジカルボン酸成分としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、芳香族ジカルボン酸、脂肪族ジカルボン酸、脂環族ジカルボン酸、オキシカルボン酸、多官能酸などが挙げられる。
【0023】
前記芳香族ジカルボン酸としては、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、ジフェニルジカルボン酸、ジフェニルスルホンジカルボン酸、ナフタレンジカルボン酸、ジフェノキシエタンジカルボン酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸などが挙げられる。これらの中でも、テレフタル酸、イソフタル酸、ジフェニルジカルボン酸、ナフタレンジカルボン酸が好ましく、テレフタル酸、ジフェニルジカルボン酸、ナフタレンジカルボン酸がより好ましい。
【0024】
前記脂肪族ジカルボン酸としては、例えば、シュウ酸、コハク酸、エイコ酸、アジピン酸、セバシン酸、ダイマー酸、ドデカンジオン酸、マレイン酸、フマル酸などが挙げられる。前記脂環族ジカルボン酸としては、例えば、シクロヘキサンジカルボン酸などが挙げられる。前記オキシカルボン酸としては、例えば、p−オキシ安息香酸などが挙げられる。前記多官能酸としては、例えば、トリメリット酸、ピロメリット酸などが挙げられる。前記脂肪族ジカルボン酸及び脂環族ジカルボン酸の中では、コハク酸、アジピン酸、シクロヘキサンジカルボン酸が好ましく、コハク酸、アジピン酸がより好ましい。
【0025】
前記ジオール成分としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、脂肪族ジオール、脂環族ジオール、芳香族ジオール、ジエチレングリコール、ポリアルキレングリコールなどが挙げられる。これらの中でも、脂肪族ジオールが好ましい。
【0026】
前記脂肪族ジオールとしては、例えば、エチレングリコール、プロパンジオール、ブタンジオール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、トリエチレングリコールなどが挙げられる。これらの中でも、プロパンジオール、ブタンジオール、ペンタンジオール、ヘキサンジオールが特に好ましい。
前記脂環族ジオールとしては、例えば、シクロヘキサンジメタノールなどが挙げられる。
前記芳香族ジオールとしては、例えば、ビスフェノールA、ビスフェノールSなどが挙げられる。
【0027】
前記ポリエステル樹脂の溶融粘度としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、50Pa・s〜700Pa・sが好ましく、70Pa・s〜500Pa・sがより好ましく、80Pa・s〜300Pa・sが特に好ましい。前記溶融粘度が大きいほうが延伸時に空洞を発現しやすいが、前記溶融粘度が、前記好ましい範囲であると、溶融押出時に口金からの押出しがしやすくなったり、樹脂の流れが安定して滞留が発生しづらくなり、品質が安定したりする点、延伸時に延伸張力が適切に保たれるために、均一に延伸しやすくなり、破断しづらくなる点、及び、押出時に口金から吐出されるポリマーの形態が維持しやすくなって、安定的に紡糸できたり、製品が破損しにくくなったりするなど、物性が高まる点で有利であり、前記特に好ましい範囲であると、前記効果が顕著となる点で有利である。
【0028】
前記ポリエステル樹脂の極限粘度(IV)としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、0.4〜1.3が好ましく、0.6〜1.0がより好ましく、0.7〜0.9が特に好ましい。前記IVが大きいほうが延伸時に空洞を発現しやすいが、前記IVが、前記好ましい範囲であると、溶融押出時に口金からの押出しがしやすくなったり、樹脂の流れが安定して滞留が発生しづらくなり、品質が安定したりする点で有利であり、前記特に好ましい範囲であると、前記効果が顕著となる点で有利である。さらに、前記IVが、前記好ましい範囲であると、延伸時に延伸張力が適切に保たれるために、均一に延伸しやすくなり、装置に負荷がかかりにくい点で有利であり、前記特に好ましい範囲であると、前記効果が顕著となる点で有利である。加えて、前記IVが、前記好ましい範囲であると、製品が破損しにくくなって、物性が高まる点で有利であり、前記特に好ましい範囲であると、前記効果が顕著となる点で有利である。
【0029】
前記ポリエステル樹脂の融点としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、耐熱性などの観点から、70℃〜300℃が好ましく、90℃〜270℃がより好ましい。
【0030】
なお、前記ポリエステル樹脂として、前記ジカルボン酸成分と前記ジオール成分とが、それぞれ1種で重合してポリマーを形成していてもよく、前記ジカルボン酸成分及び/又は前記ジオール成分が、2種以上で共重合してポリマーを形成していてもよい。また、前記ポリエステル樹脂として、2種以上のポリマーをブレンドして使用してもよい。
【0031】
前記2種以上でのポリマーのブレンドにおいて、主たるポリマーに対して添加されるポリマーは、前記主たるポリマーに対して、溶融粘度及び極限粘度が近く、添加量が少量であるほうが、溶融押出時に物性が高まり、押出ししやすくなる点で好ましい。
【0032】
また、前記ポリエステル樹脂の流動特性の改良、光線透過性の制御、塗布液との密着性の向上などを目的として、前記ポリエステル樹脂に対してポリエステル系以外の樹脂を添加してもよい。
【0033】
前記糸状体は、X線回折において結晶性ピークの半値幅が確認できることが好ましい。半値幅としては、2θとして9°未満が好ましく、7°以下がより好ましく、5°以下が特に好ましい。前記半値幅が、9°以上であると、空洞を有する糸を得ることが困難である。前記半値幅が、特に好ましい範囲であると、光輝性の優れた外観の空洞を有する糸を安定した品質で製造できる点で有利である。
【0034】
前記半値幅は、例えば、X線回折装置(例えば、RINT TTR III、リガク社製)により測定することができる。
【0035】
前記糸状体の平均直径としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、10μm〜500μmであることが好ましく、20μm〜200μmであることがより好ましく、20μm〜50μmであることが特に好ましい。前記平均直径が、10μm未満であると、糸切れが起こりやすく、安定して連続製造することが難しくなることがある。また、糸の表面と内部での冷却速度の差が小さくなり、空洞を有する糸を作製する際に、空洞(ボイド)が発生しにくくなることがあり、500μmを超えると、得られる糸が剛直であるため、織物などに加工した際にゴワゴワして風合いが悪くなることがあり、また、糸を加工して得られる織物をインサート成形など2次加工する場合に形状が追随しにくいことがある。前記平均直径が、前記特に好ましい範囲であると、得られる糸がしなやかさ、加工性、及び風合いに優れる点で有利である。
【0036】
前記糸状体の平均直径は、例えば、キーエンス社製デジタル寸法測定器(LS−7600(コントローラー部)、LS−7010M(測定部))や、ミツトヨ社製のデジタルマイクロメータ(293−230MDC−25MJ)などを用いて、前記糸状体の直径を20点測定した際の平均値である。
【0037】
前記糸状体の製造方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、溶融紡糸、乾式紡糸などが挙げられる。
前記溶融紡糸としては、例えば、溶融押出機を用いて、原料を溶融させた後、該原料を断面形状が円形の口金から押出し、引き取りながら、冷却水槽中で固化させる方法が挙げられる。
【0038】
<張力付与処理及び張力付与手段>
前記張力付与処理は、前記張力付与手段により行うことができる。
【0039】
−張力付与手段−
前記張力付与手段としては、前記糸状体に対し張力を付与する手段であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、低速ロールと高速ロールとを有する張力付与手段、ロールと巻取り機とを有する張力付与手段、無端ベルトと巻取り機とを有する張力付与手段、糸状体を押し出すオリフィスと巻取り機とを有する張力付与手段などが挙げられる。これらの中でも、低速ロールと高速ロールとを有する張力付与手段が、前記糸状体に対し安定した張力を付与できる点で好ましい。
【0040】
前記低速ロールと高速ロールとを有する張力付与手段による張力の付与は、例えば、前記低速ロールと前記高速ロールを用いた前記糸状体の搬送において、前記糸状体の搬送方向の上流側に前記低速ロールを配置し、下流側に前記高速ロールを配置し、これらロールに接触するように前記糸状体を搬送させ、これらロールの周速差を用いて行われる。
【0041】
前記糸状体の搬送速度としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
前記低速ロールに接する位置における前記糸状体の搬送速度としては、前記高速ロールに接する位置における前記糸状体の搬送速度より低速であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、0.1〜200m/分が好ましく、0.5〜100m/分がより好ましく、1〜20m/分が特に好ましい。前記搬送速度が、0.1m/分未満であると、速度ムラが発生しやすく、空洞を有する糸を作製する際に安定的に空洞(ボイド)が発現しないことがあり、また、搬送速度が遅いために生産性に劣ることがあり、200m/分を超えると、ネッキング延伸の位置が安定せずに糸切れが起こり易くなることがある。前記搬送速度が、前記特に好ましい範囲であると、高い生産性で安定したネッキング延伸ができる点で有利である。
前記高速ロールに接する位置における前記糸状体の搬送速度としては、前記低速ロールに接する位置における前記糸状体の搬送速度より高速であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、0.5〜2,000m/分が好ましく、50〜1,500m/分がより好ましく、100〜1,000m/分が特に好ましい。前記搬送速度が、0.5m/分未満であると、空洞を有する糸を作製する際に安定的に空洞(ボイド)が発現しないことがあり、2,000m/分を超えると、ネッキング延伸の位置が安定せずに糸切れが起こり易くなることがある。前記搬送速度が、前記特に好ましい範囲であると、安定して高速延伸ができる点で有利である。
【0042】
ここで、前記低速ロールに接する位置における前記糸状体の搬送速度は、前記低速ロールの周速と同じ速度のため、前記低速ロールの周速から求めることができる。また、前記高速ロールに接する位置における前記糸状体の搬送速度は、前記高速ロールの周速と同じ速度のため、前記高速ロールの周速から求めることができる。
【0043】
前記低速ロールに接する位置における前記糸状体の搬送速度(l)と、前記高速ロールに接する位置における前記糸状体の搬送速度(h)との比(h/l)としては、1.0を超えれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、(h/l)=2〜20が好ましく、4〜15がより好ましく、4〜10が特に好ましい。前記比が、2未満であると、空洞を有する糸の作製の際に空洞(ボイド)が発生しにくいことがあり、20を超えると、糸切れが起こり易くなることがある。前記比が、前記特に好ましい範囲であれば、安定的に連続製造できる点で有利である。
【0044】
前記低速ロールと高速ロールとを有する張力付与手段は、更にニップロールを有していることが好ましい。前記ニップロールと、前記低速ロール及び前記高速ロールのいずれかとで前記糸状体をニップすることで、前記糸状体に張力を安定して付与できる。
【0045】
前記低速ロール、前記高速ロール、及び前記ニップロールの構造、大きさとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、曲率の大きいロールが好ましい。
前記低速ロール、前記高速ロール、及び前記ニップロールの形状としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、円柱状が挙げられる。
前記低速ロール、前記高速ロール、及び前記ニップロールの材質としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、金属に各種メッキを付したもの、ステンレス、シリコンゴム、ニトリルゴム、ウレタンゴム、NBR、各種エラストマーなどが挙げられる。
【0046】
また、前記低速ロールと高速ロールとを有する張力付与手段は、更に補助ロールを有していることが好ましい。前記補助ロールを有することで、前記糸状体へ張力を均一に付与できる。
【0047】
前記張力付与処理により前記糸状体に付与される張力としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、5MPa〜40MPaが好ましく、10MPa〜30MPaがより好ましく、10MPa〜20MPaが特に好ましい。前記張力が、5MPa未満であると、延伸ムラが発生しやすいことがあり、40MPaを超えると、糸切れが起こり易くなることがある。前記張力が、前記特に好ましい範囲であると、安定して高速延伸ができる点で有利である。
ここで、前記張力は、糸状体の張力を示す。
【0048】
<ネッキング発生処理及びネッキング発生手段>
前記ネッキング発生処理は、前記ネッキング発生手段により行うことができる。
【0049】
ここで、ネッキングとは、延伸の際に糸状体の狭い範囲において生じるくびれである。ネッキングの概略を図1に示す。図1において、Wは前記糸状体の直径を示し、Wは糸(延伸後の糸)の直径を示し、Lはネッキングが生じしている糸状体の範囲の長さである。通常、ネッキング延伸においては、Lの長さは、1mm〜5mmとなる。
【0050】
−ネッキング発生手段−
前記ネッキング発生手段としては、張力が付与された前記糸状体の一部を、前記糸状体の直径が実質的に変化しない温度から糸状体にネッキングが生ずる温度に昇温させる手段であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0051】
−−糸状体の直径が実質的に変化しない温度−−
前記糸状体の直径が実質的に変化しない温度とは、前記張力が付与された状態において前記糸状体の直径が実質的に変化しない温度であり、例えば、糸状体のガラス転移点(Tg)以下の温度である。
前記糸状体の直径が実質的に変化しない温度にする方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、冷却手段を用いて前記糸状体の直径が実質的に変化しない温度に保持する方法が挙げられる。
前記冷却手段により前記糸状体の直径が実質的に変化しない温度に冷却することにより、ネッキングの位置を、糸状体の直径が実質的に変化しない温度に維持された糸状体近傍に移動させ、固定させることができる。
ここで、糸状体の直径が実質的に変化しないとは、糸状体の平均直径の変化率が3%以下であることをいう。
ここで、前記ガラス転移点(Tg)は、示差熱分析装置(DSC)(例えば、SII社製、DSC220)などにより測定することができる。
【0052】
−−−冷却手段−−−
前記冷却手段としては、張力が付与された前記糸状体を糸状体の直径が実質的に変化しない温度に冷却できる手段であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、冷却可能な部材、冷風発生装置、前記紡糸装置を設置した部屋自体を冷却温度に設定することなどが挙げられる。これらの中でも、小型かつ前記糸状体を確実に冷却可能な点から、冷却可能な部材が好ましい。
【0053】
前記冷却可能な部材としては、その部材自体が冷却されることにより、前記糸状体を冷却できる部材であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、表面にフッ素樹脂等で易滑処理をしたアルミブロック、内部を冷媒が循環する無機部材、電子冷却を用いた冷却素子を張り付けた無機部材などが挙げられる。
前記無機部材の材質としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、熱伝導率が高く、かつ安価である点で、真鍮、銅、アルミニウム、鉄、ステンレスが好ましい。また、滑り性、耐摩耗性に優れる点から、セラミックが好ましい。
前記冷媒としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、冷却された気体、液体などが挙げられる。前記冷却された気体としては、例えば、冷却された空気が挙げられる。前記冷却された液体としては、例えば、冷却された水や不凍液などが挙げられる。
前記冷却可能な部材による前記糸状体の冷却は、例えば、前記糸状体を前記冷却可能な部材に接触させながら搬送することにより行うことができる。
【0054】
前記冷却可能な部材の大きさ、構造、材質としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
また、前記冷却可能な部材の形状としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、略円弧状の凸面を有する冷却可能な部材が、前記糸状体が接触しやすく前記糸状体の温度を制御し易い点で好ましい。
【0055】
前記略円弧状の凸面を有する冷却可能な部材としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、図4や図6に記載のごとく、略円弧状の凸面の端部が前記糸状体に接触しない構造の冷却可能な部材が、前記糸状体が前記端部に接触して切れることを防止できる点で好ましい。
【0056】
前記冷却可能な部材を用いる際には、前記糸状体が前記冷却可能な部材に接触した状態であることが、前記糸状体の温度を制御し易い点で好ましい。
【0057】
前記冷風発生装置としては、前記糸状体に冷風を当てることができる装置であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
前記冷風発生装置は、防塵フィルターを有していることが好ましい。防塵フィルターを設けることにより、冷風に含まれる塵、埃などを取り除くことができ、塵、埃などの付着がない、きれいな糸を製造することができる。
前記冷風発生装置による前記糸状体の冷却は、例えば、搬送されている前記糸状体の一部に乾燥冷風を吹き付けることにより行うことができる。
【0058】
前記冷却手段により冷却される前記糸状体の冷却温度としては、糸状体の直径が実質的に変化しない温度であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、糸状体のガラス転移点以下が好ましく、糸状体のガラス転移点より10℃以上低い温度がより好ましく、糸状体のガラス転移点より80℃低い温度から糸状体のガラス転移点より10℃低い温度の範囲の温度が特に好ましい。前記冷却温度が、糸状体のガラス転移点を超えると、ネッキング延伸の位置が加熱装置上から外れて糸切れが発生することがある。前記冷却温度が、前記特に好ましい範囲であると、加熱装置上で安定的にネッキング延伸ができる点で有利である。
【0059】
−−ネッキングが生ずる温度−−
前記ネッキングが生ずる温度とは、前記張力が付与された状態において前記糸状体にネッキングが生ずる温度であり、例えば、糸状体のガラス転移点より80℃低い温度から糸状体のガラス転移点より50℃高い温度の範囲の温度である。
前記ネッキングが生ずる温度にする方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、加熱手段によりネッキングが生ずる温度にする方法が挙げられる。
【0060】
−−−加熱手段−−−
前記加熱手段としては、張力が付与された前記糸状体をネッキングが生ずる温度に加熱できる手段であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、加熱可能な部材、加熱気体、炭酸ガスレーザーなどが挙げられる。これらの中でも、前記加熱可能な部材が好ましい。
【0061】
前記加熱可能な部材としては、その部材自体が加熱され、当該部材に糸状体を接触させることにより、前記糸状体を加熱できる部材であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、渦電流を用いた加熱装置、電気ヒーター、内部を熱媒が循環する金属部材などが挙げられる。
前記熱媒としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、加熱された気体、液体などが挙げられる。前記加熱された気体としては、例えば、加熱された空気が挙げられる。前記加熱された液体としては、例えば、加熱された水や熱媒油などが挙げられる。
【0062】
前記加熱可能な部材の大きさ、構造、材質としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
また、前記加熱可能な部材の形状としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、略円弧状の凸面を有する加熱可能な部材が、前記糸状体が接触しやすく前記糸状体の温度を制御し易い点で好ましい。
【0063】
前記略円弧状の凸面を有する加熱可能な部材としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、図3や図4に記載のごとく、略円弧状の凸面の端部が前記糸状体に接触しない構造の加熱可能な部材が、前記糸状体が前記端部に接触して切れることを防止できる点で好ましい。
【0064】
前記加熱可能な部材を用いる場合、前記糸状体が前記加熱可能な部材に接触した状態であることが、前記糸状体の温度を制御し易くする点、及びネッキング開始点を安定化させる点で好ましい。
【0065】
前記加熱気体としては、前記糸状体を加熱できる気体であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、熱風が挙げられる。前記熱風は、例えば、熱風炉により発生させることができる。
【0066】
前記加熱手段により加熱される前記糸状体の加熱温度としては、糸状体にネッキングが生ずる温度であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、糸状体のガラス転移点より80℃低い温度から糸状体のガラス転移点より50℃高い温度の範囲の温度が好ましく、糸状体のガラス転移点より20℃低い温度から糸状体のガラス転移点より40℃高い温度の範囲の温度がより好ましい。前記加熱温度が、糸状体のガラス転移点より80℃低い温度未満であると、ネッキングが生じると同時に糸が切れやすいことがあり、糸状体のガラス転移点より50℃高い温度を超えると、ネッキングが生じずに延伸してしまうことがある。前記加熱温度が、前記より好ましい範囲であると、ネッキングが生じやすくなるとともに、空洞を有する糸を作製する際に空洞(ボイド)が発生しやすくなる点で有利である。
【0067】
−−温度差−−
前記ネッキング発生処理における、前記糸状体の直径が実質的に変化しない温度(A)と前記糸状体にネッキングが生ずる温度(B)との温度差(B−A)の絶対値としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、5℃〜100℃が好ましく、10℃〜50℃がより好ましく、20℃〜40℃が特に好ましい。前記温度差が、5℃未満であると、ネッキングの起点が安定せずにムラになることがあり、100℃を越えると、糸状体が切れやすくなったり、ネッキングが発現し難くなることがある。前記温度差が、前記特に好ましい範囲であると、ネッキングが安定して発生する点で有利である。
また、前記糸状体の材質が、ポリエステル樹脂である場合には、前記温度差としては、40℃〜80℃が好ましく、40℃〜60℃がより好ましく、10℃〜40℃が特に好ましい。前記温度差が、10℃未満であると、ネッキングの起点が安定しなくなり、得られる糸の直径にばらつきが出やすくなることがあり、80℃を超えると、頻繁に切断したり、ネッキングが発現し難くなることがある。前記温度差が、前記特に好ましい範囲であると、安定してネッキング延伸ができる点で有利である。
【0068】
前記ネッキング発生処理において、ネッキングが生ずる温度に昇温させた前記糸状体にネッキングを生じさせ、前記糸状体をネッキング延伸するとともに、該ネッキングの位置を、糸状体の直径が実質的に変化しない温度に維持された前記糸状体近傍に移動させ、固定させることが、ネッキングの位置を制御し易い点から好ましい。
ネッキングの位置を、糸状体の直径が実質的に変化しない温度に維持された前記糸状体近傍に移動させ、固定させる方法としては、例えば、前記糸状体の搬送方向の下流側でネッキングを生じさせた後、ネッキングの位置を、次第に、ネッキングを生じた位置よりも前記糸状体の搬送方向の上流側であって、糸状体の直径が実質的に変化しない温度に維持された前記糸状体近傍にまで移動させて、その位置にネッキングの位置を固定させる方法が挙げられる。
【0069】
ここで、図4の紡糸装置を用いて、ネッキングの位置を、糸状体の直径が実質的に変化しない温度に維持された前記糸状体近傍に移動させ、固定させる方法について、一例を説明する。
図4の紡糸装置は、低速ロール3、高速ロール4、冷却可能な部材(冷却手段)5、加熱可能な部材(加熱手段)6a、ニップロール7、補助ロール8を有する。前記冷却可能な部材5は、略円弧状の凸面を有し、内部を冷媒が循環する金属部材であり、前記略円弧状の凸面は糸状体2に接触するが、前記略円弧状の凸面の端部は糸状体2に接触しない構造となっている。前記加熱可能な部材6aは、略円弧状の凸面を有し、内部を熱媒が循環する金属部材であり、前記略円弧状の凸面は糸状体2に接触するが、前記略円弧状の凸面の端部は糸状体2に接触しない構造となっている。
【0070】
前記ネッキングの位置を、糸状体の直径が実質的に変化しない温度に維持された前記糸状体近傍に移動させ、固定させる方法としては、まず、糸状体2を前記低速ロール3と前記高速ロール4との間で搬送させる。この際、前記低速ロール3よりも前記高速ロール4の周速を速くすることにより、前記糸状体2を、前記低速ロール3側から前記高速ロール4側に搬送させる。また、前記低速ロール3と前記高速ロール4の周速差により、前記糸状体2に張力を付与する。前記低速ロール3と前記ニップロール7により前記糸状体2をニップし、更に前記高速ロール4と前記ニップロール7により前記糸状体2をニップすることにより、前記糸状体2には張力が安定して付与される。
続いて、搬送している前記糸状体2の一部を、前記冷却可能な部材5に接触させることにより、糸状体の直径が実質的に変化しない温度に冷却する。続いて、糸状体の直径が実質的に変化しない温度に冷却された前記糸状体2の一部を、前記糸状体2の搬送により移動させ、前記加熱可能な部材6aに接触させて、ネッキングが生ずる温度に昇温する。この昇温により、前記糸状体2にネッキングが生じ、前記糸状体2はネッキング延伸される。
この際に、ネッキングは、前記糸状体2の搬送方向の下流側(図4のbの位置)で生じ、ネッキング延伸が開始する。そして、ネッキング延伸を続けると、ネッキングの位置は、前記糸状体2の搬送方向の上流側であって、前記冷却可能な部材5により糸状体の直径が実質的に変化しない温度に維持された前記糸状体2近傍(図4のaの位置)に遡るように移動し、ネッキングの位置は前記位置(図4のaの位置)で固定される。
【0071】
<糸>
前記紡糸方法により得られる糸の材質としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、結晶性ポリマーのみからなるものであってもよいし、結晶性ポリマー以外のその他の成分を含むものであってもよい。これらの中でも、前記糸が前記結晶性ポリマーのみからなることが、得られる糸が空洞を有する糸であり、かつ前記空洞を有する糸を安定した品質で製造できる点で好ましい。
【0072】
ここで、結晶性ポリマーのみからなる前記糸は、空洞の発現に寄与しない成分であれば、必要に応じて前記結晶性ポリマー以外のその他の成分を含んでいてもよい。前記その他の成分としては、耐熱安定剤、酸化防止剤、有機の易滑剤、染料、顔料、分散剤、カップリング剤などが挙げられる。前記その他の成分が空洞の発現に寄与したかどうかは、空洞内又は空洞の界面部分に、結晶性ポリマー以外の成分が検出されるかどうかで判別できる。
【0073】
−空洞を有する糸−
前記空洞を有する糸は、その内部に空洞を有する糸である。
【0074】
前記空洞とは、前記空洞を有する糸内部に存在する、真空状態のドメイン又は気相のドメインを意味する。前記空洞は、光学顕微鏡や走査型電子顕微鏡により撮影した写真により確認することができる。
【0075】
前記空洞を有する糸は、前記空洞を延伸方向に配向した状態で有してなり、該空洞のアスペクト比が特定範囲であることが好ましい。
【0076】
前記アスペクト比とは、前記空洞の平均長さをL(μm)とし、前記空洞の配向方向と直交方向における該空洞の平均径をr(μm)とした際のL/r比(以下、「アスペクト比」と省略することがある。)を意味する。
前記アスペクト比としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、10以上が好ましく、15以上がより好ましく、20以上が特に好ましい。
【0077】
図2A〜2Cは、アスペクト比を具体的に説明するための図であって、図2Aは、空洞を有する糸の斜視図であり、図2Bは、図2Aにおける空洞を有する糸のA−A’断面図であり、図2Cは、図2Aにおける空洞を有する糸のB−B’断面図である。
【0078】
前記空洞を有する糸の製造工程において、前記空洞は、通常、延伸方向に沿って配向する。したがって、前記「空洞の平均長さ(L(μm))」は、空洞を有する糸10の表面10aに垂直で、かつ、前記延伸方向に平行な断面(図2AにおけるB−B’断面)における空洞100の平均の長さL(図2C参照)に相当する。また、前記「空洞の平均径(r(μm))」は、空洞を有する糸10の表面10aに垂直で、かつ、延伸方向に直角な断面(図2AにおけるA−A’断面)における空洞100の平均の厚みr(図2B参照)に相当する。
【0079】
なお、前記紡糸方法においては、前記糸状体の搬送方向に沿ってネッキング延伸を行うため、このネッキング延伸の方向が前記延伸方向に相当する。
【0080】
ここで、前記空洞の平均長さ(L(μm))は、光学顕微鏡や電子顕微鏡の画像により測定することができる。同様に、前記空洞の平均径(r(μm))は、光学顕微鏡や電子顕微鏡の画像により測定することができる。
【0081】
前記空洞の配向方向と直交方向における前記空洞の平均の個数Pとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、5個以上が好ましく、10個以上がより好ましく、15個以上が特に好ましい。
【0082】
前記紡糸方法において、前記空洞は、通常、前記延伸方向に沿って配向する。したがって、前記「空洞の配向方向と直交方向における前記空洞の個数」は、前記空洞を有する糸10の表面10aに垂直で、かつ、前記延伸方向に直角な断面(図2AにおけるA−A’断面)に含まれる空洞100の個数に相当する。
ここで、前記空洞の配向方向と直交方向における前記空洞の平均の個数Pは、光学顕微鏡や電子顕微鏡の画像により測定することができる。
【0083】
前記糸の平均直径としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、10μm〜500μmであることが好ましく、20μm〜200μmであることがより好ましく、20μm〜50μmであることが特に好ましい。前記平均直径が、10μm未満であると、糸切れが起こりやすく、安定して連続製造することが難しくなることがあり、500μmを超えると、糸が剛直であるため、織物などに加工した際にゴワゴワして風合いが悪くなることがあり、また、糸を加工して得られる織物をインサート成形など2次加工する場合に形状が追随しにくいことがある。前記平均直径が、前記特に好ましい範囲であると、しなやかさ、加工性、及び風合いに優れる点で有利である。
【0084】
前記糸の平均直径は、例えば、キーエンス社製デジタル寸法測定器(LS−7600(コントローラー部)、LS−7010M(測定部))やミツトヨ社製のデジタルマイクロメータ(293−230MDC−25MJ)などを用いて、前記糸の直径を20点測定した際の平均値である。
【0085】
前記糸の反射率としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、40%〜90%であることが好ましく、40%〜80%であることがより好ましく、40%〜60%であることが特に好ましい。前記反射率が、前記特に好ましい範囲内であると、金属様光沢を有しかつ高級感のある風合いがある糸が得られる点で有利である。
【0086】
前記反射率は、日本分光社製(「V−570」;日本分光社製)に積分球を取り付けて波長200nmから2,500nmの範囲でスキャンした際の波長550nmにおける反射率である。また、装置付属の標準白板の測定値を100%とした。なお、得られた糸を平織りにして布形状に加工したものを測定試料とした。織る際には糸1本当り100gから200g程度の荷重を掛けて、充分厚密化した。
【0087】
<その他の工程及びその他の手段>
前記その他の工程としては、例えば、除電工程が挙げられる。
前記その他の手段としては、例えば、除電手段が挙げられる。
【0088】
−除電工程及び除電手段−
前記除電工程としては、前記糸の除電をすることができれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、除電手段を用いて前記糸に除電エアを吹き付けて前記糸を除電することが挙げられる。
前記除電手段としては、例えば、直流送風除電器(春日電機社製、KD−730B)が挙げられる。
前記除電工程を行うと、前記糸を清浄に保ちながら巻き取ることができる点で有利である。
【実施例】
【0089】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明は下記実施例に何ら限定されるもの
ではない。
【0090】
(製造例1)
<糸状体Aの製造>
極限粘度(IV)=0.71であるPBT(ポリブチレンテレフタレート100%樹脂)を、溶融押出機を用いて245℃で断面形状が円形の口金から押出し、ライン速度20m/分で引き取りながら14℃の冷却水槽中で固化させて、平均直径110μmの糸状体Aを得た。
得られた糸状体Aのガラス転移点は、36℃であった。
得られた糸状体Aの結晶性ピークの半値幅は、0.4°〜4.1°であった。
【0091】
<測定>
ガラス転移点及び結晶子サイズは以下の方法により測定した。
<<1>>ガラス転移点(Tg)
糸状体のガラス転移点(Tg)は、示差熱分析装置(DSC)により測定した。
【0092】
<<2>>結晶性ピークの半値幅の測定
得られた糸状体を幅25mmにわたってガラス試料ホルダ上に貼り付け、X線回折装置(RINT TTR III、リガク社製)を用いて、以下の測定条件で測定後、結晶性ピ−クと非晶性ピ−ク(2θ=20°)のピーク分離を行い、各ピ−クの半値幅を測定した。
−測定条件−
X線強度 :50kV−300mA
発散スリット :開放
発散縦スリット :10mm
散乱スリット :0.05mm
受光スリット :0.15mm
スキャン速度 :4°/min
スキャン範囲 :2θ=5°〜60°
【0093】
(製造例2)
<糸状体Bの製造>
極限粘度(IV)=0.90であるPET(ポリエチレンテレフタレート100%樹脂)を、溶融押出機を用いて280℃で断面形状が円形の口金から押出し、ライン速度15m/分で引き取りながら40℃の冷却水槽で固化させて、平均直径120μmの糸状体Bを得た。
得られた糸状体Bのガラス転移点は、72℃であった。
得られた糸状体Bの結晶性ピークの半値幅は、4.0°〜7.0°であった。
【0094】
(製造例3)
<糸状体Cの製造>
極限粘度(IV)=0.72であるPBT(ポリブチレンテレフタレート100%樹脂)を、溶融押出機を用いて250℃で断面形状が円形の口金から押出し、ライン速度20m/分で引き取りながら、45℃の冷却水槽中で固化させて、平均直径105μmの糸状体Cを得た。
得られた糸状体Cのガラス転移点は、34℃であった。
得られた糸状体Cの結晶性ピークの半値幅は、10°であった。
【0095】
(実施例1)
<糸状体の延伸>
図3に示す紡糸装置を用い、前記糸状体Aをネッキング延伸した。
まず、低速ロール3に接する位置における前記糸状体Aの搬送速度を20m/分、高速ロール4に接する位置における前記糸状体Aの搬送速度を101m/分とし、前記糸状体Aを前記低速ロール3から前記高速ロール4に向かって搬送させた。この際、前記糸状体Aに17MPaの張力を付与した。また、前記糸状体Aは、加熱可能な部材6aに接触するように搬送させた。
前記糸状体Aを搬送させつつ、前記加熱可能な部材6aよりも前記糸状体Aの搬送方向の上流側において、前記糸状体Aの一部を、25℃(糸状体の直径が実質的に変化しない温度)にした。25℃の前記糸状体Aの一部を、前記糸状体Aの搬送により搬送方向の下流側に移動させ、前記加熱可能な部材6aに接触させ40℃(ネッキングが生ずる温度)に昇温した。
これら処理により、前記糸状体Aにネッキングが生じた。ネッキングの位置は、ネッキング延伸を開始した直後には、図3のbの位置であったが、ネッキング延伸を続けると、図3のaの位置(糸状体の直径が実質的に変化しない温度に維持された糸状体A近傍)まで遡るように移動し、その位置で固定され、その後は移動しなくなった。
ネッキング延伸している際に、前記糸状体Aが切れることはなく、安定して紡糸できた。
得られた糸の平均直径は40μmであった。
得られた糸について以下の評価を行った。評価結果を表1に示す。
なお、糸状体Aの外観は透明だが、延伸により得られた空洞を有する糸の外観は銀色であった。そのため、延伸中の糸状体の外観を目視により観察することにより、ネッキングの位置は、容易に確認できた。
【0096】
<評価>
<<1>>糸状体及び糸の平均直径、並びに糸の直径のばらつき
キーエンス社製デジタル寸法測定器(LS−7600(コントローラー部)、LS−7010M(測定部))を用いて、糸状体及び糸の任意の位置で、糸状体及び糸の直径を20cm毎に20点測定し、その平均値を平均直径とした。また、糸の直径の20点の測定値から標準偏差(σ)を算出した。
【0097】
<<2>>空洞の有無
包埋樹脂であるエポキシ樹脂で包埋した糸を、ミクロトームを使って断面を露出させた後、走査型電子顕微鏡により撮影した写真を観察して、空洞の有無を確認した。
【0098】
<<3>>アスペクト比
糸の表面に垂直で、かつ、延伸方向(ネッキング延伸方向)に直角な断面(図2B参照)と、前記糸の表面に垂直で、かつ、前記延伸方向に平行な断面(図2C参照)を、走査型電子顕微鏡を用いて300倍〜3000倍の適切な倍率で検鏡し、前記各断面写真において計測枠をそれぞれ設定した。この計測枠は、その枠内に空洞が50個〜100個含まれるように設定した。
次に、計測枠に含まれる空洞の数を計測し、前記延伸方向に直角な断面の計測枠(図2B参照)に含まれる空洞の数をm個、前記延伸方向に平行な断面の計測枠(図2C参照)に含まれる空洞の数をn個とした。
そして、前記延伸方向に直角な断面の計測枠(図2B参照)に含まれる空洞の1個づつの厚み(r)を測定し、その平均の厚みを平均径rとした。また、前記延伸方向に平行な断面の計測枠(図2C参照)に含まれる空洞の1個づつの長さ(L)を測定し、その平均の長さをLとした。
即ち、r及びLは、それぞれ下記の(1)式及び(2)式で表すことができる。
r=(Σr)/m ・・・(1)
L=(ΣL)/n ・・・(2)
そして、L/rを算出し、アスペクト比とした。
【0099】
<<4>>反射率
日本分光社製(「V−570」;日本分光社製)に積分球を取り付けて波長200nmから2,500nmの範囲でスキャンした際の波長550nmにおける反射率を測定した。また、装置付属の標準白板の測定値を100%とした。なお、得られた糸を平織りにして布形状に加工したものを測定試料とした。織る際には糸1本当り100gから200g程度の荷重を掛けて、充分厚密化した。
【0100】
(実施例2)
<糸状体の延伸>
図4に示す紡糸装置を用い、前記糸状体Aをネッキング延伸した。
まず、低速ロール3に接する位置における前記糸状体Aの搬送速度を30m/分、高速ロール4に接する位置における前記糸状体Aの搬送速度を148m/分とし、前記糸状体Aを前記低速ロール3から前記高速ロール4に向かって搬送させた。この際、前記糸状体Aに19MPaの張力を付与した。また、前記糸状体Aは、冷却可能な部材5及び加熱可能な部材6aに接触するように搬送させた。
前記糸状体Aを搬送させつつ、前記糸状体Aの一部を、冷却可能な部材5に接触させ10℃(糸状体の直径が実質的に変化しない温度)に冷却した。冷却された前記糸状体Aの一部を、前記糸状体Aの搬送により搬送方向の下流側に移動させ、前記加熱可能な部材6bに接触させ40℃(ネッキングが生ずる温度)に昇温した。
これら処理により、前記糸状体Aにネッキングが生じた。ネッキングの位置は、ネッキング延伸を開始した直後には、図4のbの位置であったが、ネッキング延伸を続けると、図4のaの位置(糸状体の直径が実質的に変化しない温度に維持された糸状体A近傍)まで遡るように移動し、その位置で固定され、その後は移動しなくなった。
ネッキング延伸している際に、前記糸状体Aが切れることはなく、安定して紡糸できた。
得られた糸の平均直径は41μmであった。
得られた糸について実施例1と同様の評価を行った。評価結果を表1に示す。
【0101】
(実施例3)
<糸状体の延伸>
図5に示す紡糸装置を用い、前記糸状体Aをネッキング延伸した。なお、図5に示す紡糸装置において、低速ロール3と高速ロール4の間隔を20cmにした。また、加熱部6bは、前記低速ロール3から5cm離れた位置にその端部を設置し、かつ前記高速ロール4を覆うように設置した。なお、前記高速ロール4は加熱部6b外にあってもよい。
まず、前記低速ロール3に接する位置における前記糸状体Aの搬送速度を48m/分、前記高速ロール4に接する位置における前記糸状体Aの搬送速度を242m/分とし、前記糸状体Aを前記低速ロール3から前記高速ロール4に向かって搬送させた。この際、前記糸状体Aに16MPaの張力を付与した。
前記糸状体Aを搬送させつつ、前記加熱部6bの外であって、前記加熱部6bよりも前記糸状体Aの搬送方向の上流側において、前記糸状体Aの一部を、15℃(糸状体の直径が実質的に変化しない温度)にした。15℃の前記糸状体Aの一部を、前記糸状体Aの搬送により搬送方向の下流側に移動させ、前記加熱部6b内で40℃(ネッキングが生ずる温度)に昇温した。
これら処理により、前記糸状体Aにネッキングが生じた。ネッキングは、前記加熱部6b内で生じ、ネッキングの位置は前記加熱部6b内の所望の位置に固定された。
ネッキング延伸している際に、前記糸状体Aが切れることはなく、安定して紡糸できた。
得られた糸の平均直径は38μmであった。
得られた糸について実施例1と同様の評価を行った。評価結果を表1に示す。
【0102】
(実施例4)
<糸状体の延伸>
図6に示す紡糸装置を用い、前記糸状体Aをネッキング延伸した。なお、図6に示す紡糸装置において、低速ロール3と高速ロール4の間隔を20cmにした。また、加熱部6bは、前記低速ロール3から5cm離れた位置にその端部を設置し、かつ前記高速ロール4を覆うように設置した。なお、前記高速ロール4は加熱部6b外にあってもよい。
まず、前記低速ロール3に接する位置における前記糸状体Aの搬送速度を85m/分、前記高速ロール4に接する位置における前記糸状体Aの搬送速度を460m/分とし、前記糸状体Aを前記低速ロール3から前記高速ロール4に向かって搬送させた。この際、前記糸状体Aに17MPaの張力を付与した。
前記糸状体Aを搬送させつつ、前記糸状体Aの一部を、冷却可能な部材5に接触させ10℃(糸状体の直径が実質的に変化しない温度)に冷却した。冷却された前記糸状体Aの一部を、前記糸状体Aの搬送により搬送方向の下流側に移動させ、前記加熱部6b内で40℃(ネッキングが生ずる温度)に昇温した。
これら処理により、前記糸状体Aにネッキングが生じた。ネッキングは、前記加熱部6b内で生じ、ネッキングの位置は前記加熱部6b内の所望の位置に固定された。
ネッキング延伸している際に、前記糸状体Aが切れることはなく、安定して紡糸できた。
得られた糸の平均直径は37μmであった。
得られた糸について実施例1と同様の評価を行った。評価結果を表1に示す。
【0103】
(実施例5)
<糸状体の延伸>
図7に示す紡糸装置を用い、前記糸状体Aをネッキング延伸した。なお、図7に示す紡糸装置において、低速ロール3と高速ロール4の間隔を20cmにした。また、加熱部6bは、前記低速ロール3から5cm離れた位置にその端部を設置し、かつ冷却可能な部材5及び前記高速ロール4を覆うように設置した。なお、前記高速ロール4は加熱部6b外にあってもよい。
まず、前記低速ロール3に接する位置における前記糸状体Aの搬送速度を15m/分、前記高速ロール4に接する位置における前記糸状体Aの搬送速度を80m/分とし、前記糸状体Aを前記低速ロール3から前記高速ロール4に向かって搬送させた。この際、前記糸状体Aに18MPaの張力を付与した。
前記糸状体Aを搬送させつつ、前記糸状体Aの一部を、冷却可能な部材5に接触させ15℃(糸状体の直径が実質的に変化しない温度)に冷却した。冷却された前記糸状体Aの一部を、前記糸状体Aの搬送により搬送方向の下流側に移動させ、前記加熱部6b内で40℃(ネッキングが生ずる温度)に昇温した。
これら処理により、前記糸状体Aにネッキングが生じた。ネッキングは、前記加熱部6b内で生じ、ネッキングの位置は前記加熱部6b内の所望の位置に固定された。
ネッキング延伸している際に、前記糸状体Aが切れることはなく、安定して紡糸できた。
得られた糸の平均直径は38μmであった。
得られた糸について実施例1と同様の評価を行った。評価結果を表1に示す。
【0104】
(実施例6)
<糸状体の延伸>
実施例2において、冷却可能な部材5による糸状体Aの冷却温度を15℃にした以外は、実施例2と同じ方法により、糸状体Aをネッキング延伸した。
ネッキングの位置は、ネッキング延伸を開始した直後には、図4のbの位置であったが、ネッキング延伸を続けると、図4のaの位置(糸状体の直径が実質的に変化しない温度に維持された糸状体A近傍)まで遡るように移動し、その位置で固定され、その後は移動しなくなった。
ネッキング延伸している際に、前記糸状体Aが切れることはなく、安定して紡糸できた。
得られた糸の平均直径は41μmであった。
得られた糸について実施例1と同様の評価を行った。評価結果を表1に示す。
【0105】
(実施例7)
<糸状体の延伸>
実施例4において、低速ロール3に接する位置における前記糸状体Aの搬送速度を85m/分、高速ロール4に接する位置における前記糸状体Aの搬送速度を460m/分とし、冷却可能な部材5による糸状体Aの冷却温度を15℃にした以外は、実施例4と同じ方法により、糸状体Aをネッキング延伸した。
ネッキングは、前記加熱部6b内で生じ、ネッキングの位置は前記加熱部6b内の所望の位置に固定された。
ネッキング延伸している際に、前記糸状体Aが切れることはなく、安定して紡糸できた。
得られた糸の平均直径は37μmであった。
得られた糸について実施例1と同様の評価を行った。評価結果を表1に示す。
【0106】
(実施例8)
<糸状体の延伸>
実施例2において、糸状体の種類、冷却温度、加熱温度を表1に示す条件とした以外は、実施例2と同じ延伸方法で、糸状体Bをネッキング延伸した。
ネッキングの位置は、ネッキング延伸を開始した直後には、図4のbの位置であったが、ネッキング延伸を続けると、図4のaの位置(糸状体の直径が実質的に変化しない温度に維持された糸状体A近傍)まで遡るように移動し、その位置で固定され、その後は移動しなくなった。
ネッキング延伸している際に、前記糸状体Aが切れることはなく、安定して紡糸できた。
得られた糸の平均直径は43μmであった。
得られた糸について実施例1と同様の評価を行った。評価結果を表1に示す。
【0107】
(実施例9)
<糸状体の延伸>
実施例4において、糸状体の種類、冷却温度、加熱温度を表1に示す条件とした以外は、実施例4と同じ延伸方法で、糸状体Bをネッキング延伸した。
ネッキングは、前記加熱部6b内で生じ、ネッキングの位置は前記加熱部6b内の所望の位置に固定された。
ネッキング延伸している際に、前記糸状体Aが切れることはなく、安定して紡糸できた。
得られた糸の平均直径は42μmであった。
得られた糸について実施例1と同様の評価を行った。評価結果を表1に示す。
【0108】
(参考例1)
<糸状体の延伸>
図8に示す紡糸装置を用い、前記糸状体Aをネッキング延伸した。
まず、低速ロール3に接する位置における前記糸状体Aの搬送速度を20mm/分、高速ロール4に接する位置における前記糸状体Aの搬送速度を99mm/分とし、前記糸状体Aを前記低速ロール3から前記高速ロール4に向かって搬送させた。この際、前記糸状体Aに20MPaの張力を付与した。
前記糸状体Aを搬送させつつ、前記糸状体Aの一部を、予熱ロール9により40℃(ネッキングが生ずる温度)に加熱した。加熱された前記糸状体Aの一部を、前記糸状体Aの搬送により搬送方向の下流側に移動させ、前記加熱可能な部材6aに接触させ40℃(ネッキングが生ずる温度)に維持した。
これら処理により、前記糸状体Aにネッキングが生じた。
ネッキング延伸している間、ネッキングの状態が不安定な上に、ネッキングの位置が移動して低速ロールに接する部位に移動した結果、糸状体Aが切れることがたびたび起こり、安定した紡糸ができなかった。
得られた糸について実施例1と同様の評価を行った。評価結果を表1に示す。
【0109】
(参考例2)
<糸状体の延伸>
図3に示す紡糸装置を用い、前記糸状体Bをネッキング延伸した。
まず、低速ロール3に接する位置における前記糸状体Bの搬送速度を30m/分、高速ロール4に接する位置における前記糸状体Bの搬送速度を148m/分とし、前記糸状体Bを前記低速ロール3から前記高速ロール4に向かって搬送させた。この際、前記糸状体Bに51MPaの張力を付与した。また、前記糸状体Bは、加熱可能な部材6aに接触するように搬送させた。
前記糸状体Bを搬送させつつ、前記加熱可能な部材6aよりも前記糸状体Bの搬送方向の上流側において、前記糸状体Bの一部を、80℃にした。80℃の前記糸状体Bの一部を、前記糸状体Bの搬送により搬送方向の下流側に移動させ、前記加熱可能な部材6aに接触させ80℃を維持した。
これら処理により、前記糸状体Bは延伸されたものの、ネッキングは生じなかった。また、延伸している間、延伸の状態が不安定で糸状体Bが切れることがたびたび起こり、安定した紡糸ができなかった。
得られた糸について実施例1と同様の評価を行った。評価結果を表1に示す。
【0110】
(参考例3)
<糸状体の延伸>
図4に示す紡糸装置を用い、前記糸状体Cを延伸した。
まず、低速ロール3に接する位置における前記糸状体Cの搬送速度を30m/分、高速ロール4に接する位置における前記糸状体Cの搬送速度を148m/分とし、前記糸状体Cを前記低速ロール3から前記高速ロール4に向かって搬送させた。この際、前記糸状体Cに19MPaの張力を付与した。また、前記糸状体Cは、冷却可能な部材5及び加熱可能な部材6aに接触するように搬送させた。
前記糸状体Cを搬送させつつ、前記糸状体Cの一部を、冷却可能な部材5に接触させ10℃に冷却した。冷却された前記糸状体Cの一部を、前記糸状体Cの搬送により搬送方向の下流側に移動させ、前記加熱可能な部材6bに接触させ40℃に昇温した。
これら処理により、前記糸状体Cは延伸されたものの、ネッキングは生じなかった。
得られた糸の平均直径は39μmであった。
得られた糸について実施例1と同様の評価を行った。評価結果を表1に示す。
【0111】
【表1】

糸状体AのX線回折では9つの結晶性ピークが観察され、それらの半値幅は0.4°〜4.1°の範囲内であった。
糸状体BのX線回折では5つの結晶性ピークが観察され、それらの半値幅は4.0°〜7.0°の範囲内であった。
参考例2の糸においては、空洞はあるものの、空洞は均一ではなく、まだらに存在していた。
参考例2、及び参考例3は、安定した紡糸ができなかったことから、これらの平均直径、直径のばらつき及びアスペクト比は、測定できなかった。
実施例1から9の延伸方法で得られた糸は、直径のばらつきが小さく、かつ反射率の高かった。
【産業上の利用可能性】
【0112】
本発明の紡糸方法、及び紡糸装置は、例えば、空洞を有する糸の製造などに好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0113】
2 糸状体
3 低速ロール
4 高速ロール
5 冷却可能な部材(冷却手段)
6a 加熱可能な部材(加熱手段)
6b 加熱部(加熱手段)
7 ニップロール
8 補助ロール
9 予熱ロール
10 空洞を有する糸
10a 表面
100 空洞
L 空洞の配向方向における空洞の長さ
r 空洞の配向方向に直交する方向における空洞の厚み

【特許請求の範囲】
【請求項1】
糸状体に対し張力を付与し、張力が付与された該糸状体の一部を、糸状体の直径が実質的に変化しない温度から糸状体にネッキングが生ずる温度に昇温させることにより、前記糸状体をネッキング延伸して前記糸状体を紡糸すること特徴とする紡糸方法。
【請求項2】
糸状体に対し張力を付与し、張力が付与された該糸状体の一部を、冷却手段により糸状体の直径が実質的に変化しない温度にした後、加熱手段により糸状体にネッキングが生ずる温度に昇温させることにより、前記糸状体をネッキング延伸して前記糸状体を紡糸する請求項1に記載の紡糸方法。
【請求項3】
冷却手段が冷却可能な部材であり、加熱手段が加熱可能な部材であり、
糸状体が前記冷却手段及び前記加熱手段に接触した状態で、張力が付与される請求項2に記載の紡糸方法。
【請求項4】
冷却手段による冷却温度が、糸状体のガラス転移点以下である請求項2から3のいずれかに記載の紡糸方法。
【請求項5】
糸状体のX線回折における結晶性ピークの半値幅が2θとして9°未満である請求項1から4のいずれか記載の紡糸方法。
【請求項6】
糸状体の平均直径が10μm〜500μmである請求項1から5のいずれかに記載の紡糸方法。
【請求項7】
得られる糸が、内部に空洞を延伸方向に配向した状態で有してなり、該空洞の平均長さをL(μm)とし、前記空洞の配向方向と直交方向における該空洞の平均径をr(μm)とした際のL/r比が10以上である請求項1から6のいずれかに記載の紡糸方法。
【請求項8】
得られる糸が、結晶性ポリマーのみからなる請求項1から7のいずれかに記載の紡糸方法。
【請求項9】
得られる糸の反射率が、40%〜90%である請求項1から8のいずれかに記載の紡糸方法。
【請求項10】
ネッキングが生ずる温度に昇温させた糸状体にネッキングを生じさせ、前記糸状体をネッキング延伸するとともに、該ネッキングの位置を、糸状体の直径が実質的に変化しない温度に維持された糸状体近傍に移動させ、固定させる請求項1から9のいずれかに記載の紡糸方法。
【請求項11】
加熱手段によりネッキングが生ずる温度に昇温させた糸状体にネッキングを生じさせ、前記糸状体をネッキング延伸するとともに、該ネッキングの位置を、冷却手段により糸状体の直径が実質的に変化しない温度に維持された糸状体近傍に移動させ、固定させる請求項1から10のいずれかに記載の紡糸方法。
【請求項12】
糸状体に対し張力を付与する張力付与手段と、
前記張力付与手段により張力が付与された前記糸状体の一部を、糸状体の直径が実質的に変化しない温度から糸状体にネッキングが生ずる温度に昇温させるネッキング発生手段とを有すること特徴とする紡糸装置。
【請求項13】
ネッキング発生手段が、張力が付与された該糸状体の一部を、糸状体の直径が実質的に変化しない温度に冷却する冷却手段と、糸状体にネッキングが生ずる温度に昇温させる加熱手段とを有する請求項12に記載の紡糸装置。
【請求項14】
冷却手段が冷却可能な部材であり、加熱手段が加熱可能な部材である請求項13に記載の紡糸装置。

【図2B】
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【図1】
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【図2A】
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【図2C】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−46831(P2012−46831A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−187161(P2010−187161)
【出願日】平成22年8月24日(2010.8.24)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】