説明

紡糸装置

【課題】外径調整工程において、光ファイバの破断を防止することが可能な紡糸装置を提供する。
【解決手段】母材10を加熱して光ファイバ1を線引する線引炉12と、光ファイバ1の外径を測定して外径の測定信号を生成する測定部14と、光ファイバ1に樹脂を被覆して光ファイバ素線3を形成する被覆部18と、光ファイバ1を、周回する一対の無端ベルト22a、22bの互いに対向する面で挟んで引き取り可能な第1引き取り部20と、光ファイバ1又は光ファイバ素線3を、回転するキャプスタン26と押えベルト28で挟んで引き取り可能な第2引き取り部24と、測定信号を取得して外径が目的とする設定値となるように第1引き取り部20及び第2引き取り部24の引き取り速度を制御する制御部16とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大口径光ファイバ用の紡糸装置に関する。
【背景技術】
【0002】
光ファイバ素線を製造する紡糸装置において、光ファイバ素線の引き取り手段の一つとしてベルトラップ型キャプスタンが用いられている。キャプスタンの直径は、光ファイバが破断に至らない最小の曲げ半径より大きくする必要がある。
【0003】
高密度の光エネルギ伝送を可能とするために、外径が0.125mmの一般の通信用光ファイバに対して、外径が0.2mm〜2mm程度以上の大口径光ファイバが使用されている。同じ直径のキャプスタンを用いて光ファイバ素線を引き取る場合、光ファイバの外径の増加に伴い、光ファイバに加わる曲げ歪も増加する。したがって、大口径光ファイバを引き取る場合、光ファイバ素線の外径に合わせて大型のベルトラップ型キャプスタンが採用されている。大型のキャプスタンを用いることで、大口径光ファイバ素線を紡糸することが可能である。
【0004】
通常、光ファイバ素線の紡糸では、紡糸作業開始前に、樹脂被覆を塗布せずに石英ガラスを直接線引して光ファイバの外径を安定させる外径調整工程が行われる。外径調整工程では、樹脂被覆のない光ファイバを引き取らねばならないので、光ファイバの破断が生じやすい。外径が0.2mm〜1.5mm程度の光ファイバであれば、従来の紡糸装置において、キャプスタンを大型化することにより外径調整工程を行うことが可能である。
【0005】
しかしながら、従来の紡糸装置では、キャプスタンの大型化は制限される。そのため、外径が1.5mm以上の光ファイバでは、外径調整工程において光ファイバが破断する可能性が非常に高くなる。このため、光ファイバ素線の紡糸工程の遅れが発生し、製造歩留まりが劣化してしまう。
【0006】
外径調整工程時にキャプスタンをフリーの状態にして、別途設けたピンチローラにより光ファイバを挟んで引き取りを行う方法が提案されている(特許文献1参照)。しかし、この方法では、ピンチローラで光ファイバを挟むため、押し付け力が一点に集中して加えられる。そのため、大口径光ファイバでは、外径調整工程において破断を回避することは困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平9−202653号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記問題点を鑑み、本発明の目的は、外径調整工程において、光ファイバの破断を防止することが可能な紡糸装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様によれば、母材を加熱して光ファイバを線引する線引炉と、光ファイバの外径を測定して外径の測定信号を生成する測定部と、光ファイバに樹脂を被覆して光ファイバ素線を形成する被覆部と、光ファイバを、周回する一対の無端ベルトの互いに対向する面で挟んで引き取り可能な第1引き取り部と、光ファイバ又は光ファイバ素線を、回転するキャプスタンと押えベルトで挟んで引き取り可能な第2引き取り部と、測定信号を取得して外径が目的とする設定値となるように第1引き取り部及び第2引き取り部の引き取り速度を制御する制御部とを備える紡糸装置が提供される。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、外径調整工程において、光ファイバの破断を防止することが可能な紡糸装置を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施の形態に係る紡糸装置の一例を示す図である。
【図2】本発明の実施の形態に係る紡糸装置の外径調整の一例を示す図である。
【図3】本発明の実施の形態に係る紡糸装置の第1引き取り部の一例を示す図である。
【図4】本発明の実施の形態に係る紡糸装置の外径調整の他の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下図面を参照して、本発明の形態について説明する。以下の図面の記載において、同一または類似の部分には同一または類似の符号が付してある。但し、図面は模式的なものであり、厚みと平面寸法との関係、各層の厚みの比率等は現実のものとは異なることに留意すべきである。したがって、具体的な厚みや寸法は以下の説明を参酌して判断すべきものである。また図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれていることは勿論である。
【0013】
又、以下に示す本発明の実施の形態は、本発明の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであって、本発明の技術的思想は、構成部品の材質、形状、構造、配置等を下記のものに特定するものでない。本発明の技術的思想は、特許請求の範囲に記載された技術的範囲内において、種々の変更を加えることができる。
【0014】
本発明の実施の形態に係る紡糸装置は、図1に示すように、線引炉12、測定部14、制御部16、被覆部18、第1引き取り部20、第2引き取り部24、補助プーリ30、32を備える。第1引き取り部20は、一対の無端ベルト22a、22bを備える。第2引き取り部24は、キャプスタン26、及び押えベルト28を備える。
【0015】
通常の光ファイバ素線の紡糸工程においては、図1に示したように、第1引き取り部20の無端ベルト22a、22bは光ファイバ素線3と接触しない位置に配置される。また、補助プーリ30、32も、光ファイバ素線3と接触しない位置に配置される。線引炉12は、石英ガラス等の母材10を加熱して光ファイバ1を線引する。測定部14は、線引炉12で線引された光ファイバ1の外径を測定し、外径の測定信号を生成する。被覆部18は、光ファイバ1に樹脂を被覆して光ファイバ素線3を形成する。第2引き取り部24は、光ファイバ素線3を回転するキャプスタン26と押えベルト28とで挟んで引き取りを行う。制御部16は、測定部14の測定信号に基づき、光ファイバ1の外径が所定の値となるようにキャプスタン26の回転速度を制御することにより、第2引き取り部24の引き取り速度を調整する。
【0016】
外径が0.125mmmの通信用光ファイバを紡糸する通常の紡糸装置を用いて、外径が0.2mm〜2mm程度以上の光ファイバ1を紡糸する場合、曲げ歪を緩和するためキャプスタン26の直径を大きくする必要がある。大型のキャプスタン26を用いることにより、外径が0.2mm〜2mm程度以上の光ファイバ1を用いる大口径の光ファイバ素線3の紡糸が可能となる。
【0017】
光ファイバ素線3の紡糸作業の開始前に、線引する光ファイバ1の外径を安定させるための外径調整工程が行われる。外径調整工程においては、石英ガラスの光ファイバ1を直接引き取りしなければならない。実施の形態に係る紡糸装置では、第1引き取り部20、又は第2引き取り部24を用いて、外径調整工程を実施することができる。なお、外径調整工程では、光ファイバ1は、被覆部18において樹脂被覆をは行わずに素通りする
第1引き取り部20を用いて外径調整を行う場合、図2に示すように、光ファイバ1は一対の無端ベルト22a、22bの間に挟まれて引き取られる。第2引き取り部24においては、押えベルト28を光ファイバ1と接触しないようにキャプスタン26から離間して配置し、フリー状態のキャプスタン26を光ファイバ1のプーリとして使用する。通常のキャプスタン26の外周面には誘導溝等がない。そのため、光ファイバ1がキャプスタン26から外れるのを防止するため、キャプスタン26の導入側及び導出側に配置された補助プーリ30、32により光ファイバ1を誘導することが望ましい。
【0018】
第1引き取り部20の無端ベルト22a、22bのそれぞれは、図3に示すように、駆動ローラ40、及び加圧ローラ42に巻きかけられる。無端ベルト22a、22bのそれぞれは、駆動ローラ40により駆動されて周回する。無端ベルト22a、22bのそれぞれの互に対向する平面が、加圧ローラ42により光ファイバ1に押し付けられる。無端ベルト22a、22bの周回速度を制御することにより、引き取り速度を調整することができる。無端ベルト22a、22bとして、耐熱ゴム、あるいは耐熱ウレタン等の軟質樹脂が用いられる。
【0019】
第1引き取り部20を用いる外径調整工程では、制御部16は、測定部14の測定信号に基づいて引き取り速度を制御して、光ファイバ1の外径を安定化させる。光ファイバ1は、無端ベルト22a、22bのそれぞれの互に対向する平面で挟まれるため、曲げ歪は生じない。また、無端ベルト22a、22bには、軟質樹脂が用いられる。その結果、光ファイバ1を破断することなく、引き取ることが可能である。しかし、第1の引き取り部20を用いる場合、無端ベルト22a、22bによる押し付け力が十分でないため、外径が1.5mmより小さな光ファイバ1では、引き取り時のスリップを防止することが困難である。
【0020】
第2引き取り部24を用いて外径調整を行う場合、図4に示すように、光ファイバ1は、キャプスタン26と押えベルト28とで挟まれて引き取りが行われる。この時、第1引き取り部20の無端ベルト22a、22bは光ファイバ素線3と接触しない位置に配置される。また、補助プーリ30、32も、光ファイバ素線3と接触しない位置に配置される。制御部16は、測定部14の測定信号に基づいて引き取り速度を制御して、光ファイバ1の外径を安定化させる。第2引き取り部24を用いる外径調整工程では、光ファイバ1は押えベルト28により回転するキャプスタン26に押し付けられるため、光ファイバ1にはキャプスタン26の直径に応じて曲げ歪が発生する。
【0021】
樹脂の被覆がない光ファイバ1は、曲げ歪に対して脆弱であり、光ファイバ素線3に比べて摩擦力が小さい。引き取り時のスリップを防止するため、光ファイバ素線3の引き取りの場合よりも大きな押え圧が押えベルト28に加えられる。したがって、第2引き取り部24の用いて光ファイバ1を引き取る場合は、より大型のキャプスタン26が要求される。
【0022】
光ファイバ1の曲げ歪は、外径にほぼ比例して増加する。現行の紡糸装置で装置レイアウトを変更せずに使用可能な大型のキャプスタン26では、光ファイバ1の外径が約1.5mmまでは、外径調整工程においても光ファイバ1の破断を防止することができる。
【0023】
上述のように、実施の形態では、大口径の光ファイバ1の外径調整工程を行う場合、光ファイバ1の外径に合わせて第1又は第2引き取り部20、24を用いればよい。具体的には、まず、制御部16に目的とする光ファイバ1の外径の設定値を設定する。設定値が1.5mm以上の範囲のときに、制御部16は第1引き取り部20により光ファイバ1を引き取るように制御する。設定値が0.2mm以上、1.5mm未満の範囲のときに、制御部16は第2引き取り部24により光ファイバ1を引き取るように制御する。したがって、外径調整工程において、光ファイバ1の破断を防止し、光ファイバ1をスリップすることなく安定して引き取ることができる。
【0024】
(その他の実施の形態)
上記のように、本発明の実施の形態を記載したが、この開示の一部をなす論述及び図面はこの発明を限定するものであると理解すべきではない。この開示から当業者にはさまざまな代替実施の形態、実施例及び運用技術が明らかとなろう。したがって、本発明の技術的範囲は上記の説明から妥当な特許請求の範囲に係わる発明特定事項によってのみ定められるものである。
【産業上の利用可能性】
【0025】
本発明は、大口径光ファイバ用の紡糸装置に適用することができる。
【符号の説明】
【0026】
1…光ファイバ
3…光ファイバ素線
10…母材
12…線引炉
14…測定部
16…制御部
18…被覆部
20…第1引き取り部
22a…無端ベルト
24…第2引き取り部
26…キャプスタン
28…押えベルト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
母材を加熱して光ファイバを線引する線引炉と、
前記光ファイバの外径を測定して前記外径の測定信号を生成する測定部と、
前記光ファイバに樹脂を被覆して光ファイバ素線を形成する被覆部と、
前記光ファイバを、周回する一対の無端ベルトの互いに対向する面で挟んで引き取り可能な第1引き取り部と、
前記光ファイバ又は前記光ファイバ素線を、回転するキャプスタンと押えベルトで挟んで引き取り可能な第2引き取り部と、
前記測定信号を取得して前記外径が目的とする設定値となるように第1引き取り部及び第2引き取り部の引き取り速度を制御する制御部
とを備えることを特徴とする紡糸装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記設定値が1.5mm以上の範囲のときに前記第1引き取り部により前記光ファイバを引き取るように制御することを特徴とする請求項1に記載の紡糸装置。
【請求項3】
前記第1引き取り部により前記光ファイバを引き取る場合、前記キャプスタンの導入側及び導出側に前記光ファイバを誘導する補助プーリを更に備えることを特徴とする請求項2に記載の紡糸装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記設定値が0.2mm以上、1.5mm未満の範囲のときに前記第2引き取り部により前記光ファイバを引き取るように制御することを特徴とする請求項1に記載の紡糸装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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