説明

紫外光発光蛍光体

【課題】真空紫外光によって紫外光発光蛍光体を励起させて紫外光を発光させる蛍光ランプの紫外光発光蛍光体として有利に利用することができる蛍光体を提供する。
【解決手段】フッ素を0.0013質量%以上、0.010質量%未満の範囲の量にて含有するフッ素含有酸化マグネシウム粉末を含む紫外光発光蛍光体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空紫外光によって紫外光発光蛍光体を励起させて紫外光を発光させる蛍光ランプ用の紫外光発光蛍光体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
低圧水銀ランプから放出される波長254nmの紫外光は、殺菌、消毒、樹脂の硬化促進、蛍光分析などの用途に利用されている。しかしながら、低圧水銀ランプで用いられる水銀ガスは人体に対して有害であり、ランプの破損あるいは回収処理に際して、大気中に放出される可能性がある。このため低圧水銀ランプの代替品として、人体に対して無害とされているキセノンガスを用い、キセノンガスの放電により発生する真空紫外光によって紫外光発光蛍光体を励起させて紫外光を発光させる蛍光ランプが検討されている。キセノンガスの放電による発光には、波長146nmの真空紫外光が発生する共鳴線発光と、波長172nmの真空紫外光が発生する分子線発光とがある。蛍光ランプでは、真空紫外光の発光効率を上げるために、キセノンガスの濃度を高くして、分子線発光を強くするのが一般的である。すなわち、蛍光ランプで主に利用される真空紫外光の波長は172nmである。
【0003】
特許文献1には、紫外光発光蛍光体に、少なくともガドリニウムとプラセオジウムからなる希土類元素を含み、ガドリニウム及び/又はプラセオジウムを付活剤とする、酸素化合物からなる紫外発光物質を用いた蛍光ランプが記載されている。この特許文献1によれば、ガドリニウム及び/又はプラセオジウムを付活剤とする紫外発光物質は、真空紫外光によって励起されると、300〜400nmの波長帯域内の紫外光(ピーク波長は約311nm)を発光する。
【0004】
特許文献2には、フッ素を0.01〜10質量%の範囲で含有する、酸化マグネシウム純度が99.8質量%以上(但し、酸化マグネシウム純度は、含まれるフッ素を除いた総量中の酸化マグネシウム純度である)で、かつBET比表面積が0.1〜30m2/gの範囲にあるフッ素含有酸化マグネシウム粉末は、キセノンガスの放電によって発生する紫外光によって励起されて波長250nm付近の紫外光を発生することが記載されている。さらに、特許文献2には上記フッ素含有酸化マグネシウム粉末の用途として、フッ素含有酸化マグネシウム粉末から製造された酸化マグネシウム膜をAC型PDPや蛍光体ランプなどのガス放電発光装置の放電空間内に配置することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−172624号公報
【特許文献2】特開2007−254269号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載されているガドリニウムやプラセオジウムを付活剤とする紫外発光物質を紫外光発光蛍光体に用いた蛍光ランプは放出される紫外光の波長帯域が300〜400nmであり、低圧水銀ランプから放出される紫外光(波長254nm)より長い波長であるため、低圧水銀ランプの代替品として使用するのに適さない場合がある。
【0007】
一方、特許文献2に記載されているフッ素含有酸化マグネシウム粉末は、真空紫外光の励起によって発生する紫外光の波長が250nm付近にあり、低圧水銀ランプから放出される紫外光に波長が近い。しかしながら、本発明者の検討によると、特許文献2に記載されているフッ素含有酸化マグネシウム粉末は、蛍光ランプで主に使用されている波長172nmの真空紫外光で連続的に励起したときの発光強度の維持率が充分でないことが判明した。
従って、本発明の目的は、真空紫外光によって紫外光発光蛍光体を励起させて紫外光を発光させる蛍光ランプの紫外光発光蛍光体として有利に利用することができる蛍光体、すなわち波長172nmの真空紫外光による励起を連続的に実施しても、発光強度が高いレベルで安定するフッ素含有酸化マグネシウム粉末を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、フッ素含有酸化マグネシウム粉末について、フッ素含有量と波長172nmの真空紫外光で励起させたときの発光強度の維持率との関係を調べ、その結果、発光強度の維持率はフッ素の含有量が少ない方が高くなる傾向にあることを見出した。そして、フッ素を0.0013質量%以上、0.010質量%未満の範囲にて含有するフッ素含有酸化マグネシウム粉末は、初期発光強度と発光強度の維持率とが、蛍光ランプの紫外光発光蛍光体として使用するのに実用上満足できるレベルにあることを確認して、本発明に到達した。
【0009】
従って、本発明は、フッ素を0.0013質量%以上、0.010質量%未満の範囲の量にて含有するフッ素含有酸化マグネシウム粉末を含む、真空紫外光によって紫外光発光蛍光体を励起させて紫外光を発光させる蛍光ランプ用の紫外光発光蛍光体にある。
【0010】
本発明の紫外光発光蛍光体の好ましい態様は、次の通りである。
(1)フッ素含有酸化マグネシウム粉末のフッ素の含有量が0.0013質量%以上、0.0080質量%以下の範囲にある。
(2)真空紫外光が、波長172nmに最大ピークを有する真空紫外光である。
【発明の効果】
【0011】
本発明の紫外光発光蛍光体を用いた蛍光ランプは、波長250nm付近にピークを有する紫外光を長期間にわたって安定して高い発光強度で放出する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明のフッ素含有酸化マグネシウム粉末を含む紫外光発光蛍光体を用いた蛍光ランプの一例の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の紫外光発光蛍光体に含まれるフッ素含有酸化マグネシウム粉末は、フッ素を0.0013質量%以上、0.010質量%未満の範囲にて含有する。フッ素含有酸化マグネシウム粉末のフッ素含有量は0.090質量%以下であることが好ましく、0.080質量%以下であることがより好ましい。また、フッ素含有量は0.0020質量%以上であることが好ましい。本発明で用いるフッ素含有酸化マグネシウム粉末は、通常は波長220〜270nmの範囲にピークを有する紫外光を発光する。
【0014】
フッ素含有酸化マグネシウム粉末に含有されているフッ素は、酸化マグネシウムの結晶内に取り込まれていることが好ましい。フッ素は、酸化マグネシウムの酸素原子と置換していることが好ましい。
【0015】
フッ素含有酸化マグネシウム粉末は、BET比表面積が0.20〜2.0m2/gの範囲にあることが好ましく、0.30〜1.0m2/gの範囲にあることがより好ましい。BET比表面積が大きくなりすぎると、発光強度の維持率が低くなる傾向がある。
【0016】
本発明で使用するフッ素含有酸化マグネシウム粉末は、例えば、酸化マグネシウム原料粉末をフッ素源の存在下にて焼成する方法により製造することができる。
酸化マグネシウム原料粉末には、酸化マグネシウム粉末及び加熱により酸化マグネシウム粉末を生成するマグネシウム化合物粉末を用いることができる。マグネシウム化合物粉末の例としては、水酸化マグネシウム粉末、塩基性炭酸マグネシウム粉末、硝酸マグネシウム粉末、シュウ酸マグネシウム粉末及び酢酸マグネシウム粉末を挙げることができる。酸化マグネシウム原料粉末には、酸化マグネシウム粉末を用いることが好ましい。酸化マグネシウム粉末は、気相法により製造された酸化マグネシウム粉末であることが好ましい。気相法とは、金属マグネシウム蒸気と酸素含有気体とを気相中にて接触させ、金属マグネシウム蒸気を酸化させて酸化マグネシウム粉末を製造する方法である。
【0017】
酸化マグネシウム原料粉末をフッ素源の存在下にて焼成する方法としては、酸化マグネシウム原料粉末とフッ素含有化合物粉末との粉末混合物を焼成する方法、あるいはフッ素含有気体雰囲気中にて酸化マグネシウム原料粉末を焼成する方法を用いることができる。フッ素含有化合物粉末の例としては、フッ化マグネシウム粉末、フッ化アンモニウム粉末を挙げることができる。フッ素含有気体の例としては、フッ化水素ガス、フッ素含有有機化合物ガス(CF4,C26、C38等)、及びフッ化アンモニウム粉末を加熱して気化させたガスを挙げることができる。
【0018】
酸化マグネシウム原料粉末とフッ素含有化合物粉末との粉末混合物を焼成する場合は、粉末混合物の焼成は外気雰囲気から遮断された雰囲気内で、例えば、蓋を閉じた耐熱性容器内にて行なうことが好ましい。焼成温度は、好ましくは1000〜1500℃の範囲、特に好ましくは1200〜1500℃の範囲にある。焼成時間は、一般に30分以上、好ましくは30分〜10時間の範囲にある。
【0019】
次に、本発明のフッ素含有酸化マグネシウム粉末を紫外光発光蛍光体として用いた蛍光ランプを、添付図面の図1を参照しながら説明する。
図1において、蛍光ランプは、ガラス部材であるガラス管1、ガラス管1の内部空間2に充填された放電ガス、ガラス管1の内壁面に形成された紫外光発光蛍光体層3、ガラス管1の長手方向の両側端部にそれぞれ設けられた一対の電極4a、4b、そして電極4a、4bと外部電源(図示せず)とを電気的に接続するための導電線5a、5bからなる。内部空間2に充填されている放電ガスには、キセノンガスを含む希ガスの混合ガスが用いられる。
【0020】
紫外光発光蛍光体層3は、上記のフッ素含有酸化マグネシウム粉末を含む紫外光発光蛍光体から形成されている。紫外光発光蛍光体層3中のフッ素含有酸化マグネシウム粉末含有量は、80質量%以上であることが好ましく、90質量%以上であることがより好ましい。紫外光発光蛍光体層3の形成方法としては、有機溶剤にフッ素含有酸化マグネシウム粉末と有機バインダとを加えて調製した分散液を、ガラス管に塗布し、乾燥して有機溶剤を揮発させた後、焼成する方法を用いることができる。
【0021】
図1の蛍光ランプにおいて、電極4a、4bとの間に電圧を印加すると、内部空間2に充填されたキセノンガスの放電により波長172nmに最大ピークを有する真空紫外光が発生する。この真空紫外光が紫外光発光蛍光体層3に照射されると、紫外光発光蛍光体層3中のフッ素含有酸化マグネシウム粉末が励起されて、波長220〜270nmの範囲にピークを有する紫外光が発光する。
【実施例】
【0022】
[実施例1]
気相法により製造された酸化マグネシウム粉末(2000A、宇部マテリアルズ(株)製、純度:99.98質量%、BET比表面積:9.6m2/g)250gと、フッ化マグネシウム粉末(純度:99.1質量%、BET比表面積:6.4m2/g)0.125gとを混合して粉末混合物を得た。得られた粉末混合物を容量1000mLのアルミナセッターに投入し、アルミナセッターに蓋をして電気炉に入れ、240℃/時間の昇温速度で炉内温度を1250℃まで上昇させ、次いで該温度で3時間加熱焼成した。その後、炉内温度を240℃/時間の降温速度で室温まで冷却した。そして、電気炉からアルミナセッターを取り出して、フッ素含有酸化マグネシウム粉末を得た。
得られたフッ素含有酸化マグネシウム粉末についてフッ素含有量、BET比表面積、波長172nmの真空紫外光励起での発光強度を測定した。その結果を表1に示す。なお、フッ素含有量及び紫外光発光強度は以下の方法により測定した。
【0023】
[フッ素含有量の測定方法]
フッ素含有酸化マグネシウム粉末を塩酸で溶解して調製した溶液中のフッ素量をJIS−0102(工場排水試験方法)の34.1に記載の方法により測定する。
【0024】
[波長172nmの真空紫外光励起での発光強度の測定方法]
フッ素含有酸化マグネシウム粉末にキセノンガスの放電により生成した波長172nmの真空紫外光を照射して発光スペクトルを測定する。得られた発光スペクトルの220〜270nmの波長範囲の中で最大ピーク強度を求め、これを発光強度とする。真空紫外光は12時間連続的に照射する。真空紫外光の照射開始直後の発光強度を初期強度とし、12時間照射した時点での発光強度を12時間後強度とする。なお、表1の初期強度及び12時間後強度は、後述の比較例1で得たフッ素含有酸化マグネシウム粉末の初期強度を100とした相対値である。また、維持率は初期強度に対する12時間後強度の百分率である。
【0025】
[実施例2]
酸化マグネシウム粉末の量を250gとし、フッ化マグネシウム粉末の量を0.25gとしたこと以外は、実施例1と同様にしてフッ素含有酸化マグネシウム粉末を得た。
得られたフッ素含有酸化マグネシウム粉末についてフッ素含有量、BET比表面積、波長172nmの真空紫外光励起での発光強度を実施例1と同様に測定した。その結果を表1に示す。
【0026】
[比較例1]
酸化マグネシウム粉末の量を250gとし、フッ化マグネシウム粉末の量を0.05gとしたこと以外は、実施例1と同様にしてフッ素含有酸化マグネシウム粉末を得た。
得られたフッ素含有酸化マグネシウム粉末についてフッ素含有量、BET比表面積、波長172nmの真空紫外光励起での発光強度を実施例1と同様に測定した。その結果を表1に示す。
【0027】
[比較例2]
酸化マグネシウム粉末の量を250gとし、フッ化マグネシウム粉末の量を0.75gとしたこと以外は、実施例1と同様にしてフッ素含有酸化マグネシウム粉末を得た。
得られたフッ素含有酸化マグネシウム粉末についてフッ素含有量、BET比表面積、波長172nmの真空紫外光励起での発光強度を実施例1と同様に測定した。その結果を表1に示す。
【0028】
表1
────────────────────────────────────────
発光強度
フッ素含有量 BET比表面積 ───────────────────
(質量%) (m2/g) 初期強度 12時間後強度 維持率(%)
────────────────────────────────────────
実施例1 0.0027 0.50 153 148 97
実施例2 0.0051 0.54 162 154 95
────────────────────────────────────────
比較例1 0.0010 0.48 100 99 99
比較例2 0.0130 0.53 162 147 91
────────────────────────────────────────
【0029】
表1の結果から明らかなように、フッ素を本発明の範囲で含有するフッ素含有酸化マグネシム粉末(実施例1、2)は、初期の発光強度と12時間発光後の発光強度の維持率とのバランスがよく高い値を示す。一方、フッ素含有量が少ないフッ素含有酸化マグネシム粉末(比較例1)は初期強度が低く、フッ素含有量が多いフッ素含有酸化マグネシム粉末(比較例2)は維持率が低い。
【符号の説明】
【0030】
1 ガラス管
2 内部空間
3 紫外光発光蛍光体層
4a、4b 電極
5a、5b 導電線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ素を0.0013質量%以上、0.010質量%未満の範囲の量にて含有するフッ素含有酸化マグネシウム粉末を含む、真空紫外光によって紫外光発光蛍光体を励起させて紫外光を発光させる蛍光ランプ用の紫外光発光蛍光体。
【請求項2】
フッ素含有酸化マグネシウム粉末のフッ素の含有量が0.0013質量%以上、0.0080質量%以下の範囲にある請求項1に記載の紫外光発光蛍光体。
【請求項3】
真空紫外光が、波長172nmに最大ピークを有する真空紫外光である請求項1に記載の紫外光発光蛍光体。

【図1】
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【公開番号】特開2012−236948(P2012−236948A)
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−108281(P2011−108281)
【出願日】平成23年5月13日(2011.5.13)
【出願人】(000119988)宇部マテリアルズ株式会社 (120)
【Fターム(参考)】