説明

紫外線光源装置

【課題】大出力、かつ短波長の紫外線を放射する点光源の光源装置を提供することである。
【解決手段】陰極10と陽極20の間の開放系空間にアークを生じさせて紫外線を発生させる構成において、前記アークの生じている領域に、前記陰極側より発光用ガスを供給する手段11と、前記アークの断面積を減少させる手段12と、前記アークにより発生した紫外線を取り出す反射ミラー3により構成されることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は紫外線光源装置に関する。特に、波長150〜300nmの紫外線を放射する点光源の紫外線光源装置に関する。
【背景技術】
【0002】
耐候試験装置、退色試験装置、表面処理装置などには、高強度の紫外線光源が求められる。従来、高強度の紫外線光源として2種類のものが存在していた。一つはショートアークランプであって擬似的に点光源と見なし、光学系と組み合わせて平行光や集光光を放射する方法である。光源としては、キセノンランプや超高圧水銀ランプが使われる。もう一つは、ロングアークランプのように線状の光源を使う方法である。直線状や渦流状の発光管を有するランプを簡単な構造の反射鏡と組み合わせて放射源とするものである。光源としては、高圧水銀ランプやキセノンロングアークランプが使われる。
【0003】
擬似点光源は従来から下記の問題があった。
第一に、管壁負荷の限界である。すなわち、キセノンランプや超高圧水銀ランプは石英ガラスなどの発光管が形成され、その内部空間で発生した紫外線が発光管を透過して放射される。しかし、波長の短い紫外線は発光管を透過することができず、また、波長の長い赤外線は発光管内表面で熱となり管材料を損傷させる問題がある。従って、管壁負荷には限界があり、消費電力などで上限値を規定している。また、発光管の容積を大きくすることで、単位面積当たりの放射の負荷量を減少させることも可能ではあるが、凹面反射鏡などの光学系を用いる場合には大きさも制限される。
【0004】
第二に、陽極の温度限界である。大電流が必要とされるアーク放電は、陽極に流入する熱量はきわめて大きく、陽極は消耗したり溶融する問題が発生する。このため、発光管の外面から空冷などの強制冷却を行なったり、電極内部に冷却水を流すことが提案されていた。
しかし、このような冷却手段は、放射される光出力との関係で採用可能な範囲が存在するというだけのことであり、光出力(あるいは消費電力)がより高くなると、上記冷却手段を施しても陽極の消耗などの問題を回避することはできなくなる。一般には、1000アンペアの電流が限界であり、それ以上の電流を流すと冷却手段を施しても陽極は損耗してしまう。
【0005】
波長の短い紫外線を放射する光源として、カドミウムや亜鉛を発光物質とした放電ランプが知られている。カドミウムを使った場合は波長214.4nmの紫外線を放射することができ、また、亜鉛を使った場合は波長202.6nmの紫外線を放射でき、いずれも水銀を発光物質とするランプよりも短波長の紫外線を放射することができる。この放電ランプは、例えば特許第2775694号に開示されている。
しかし、この放電ランプに流れる電流はせいぜい100A程度であり、また、放電ランプの消費電力も1KW程度にすぎない。
つまり、放射波長という点では好ましいかもしれないが、放電ランプの大型化、大出力化が困難であり、大出力を必要とする光源としては適するものはいえなかった。また、これら発光物質は環境面からも好ましいものではなかった。
【0006】
また、大出力の紫外線を放射する技術としてボルテックスアークが存在する。
このボルテックスアークは、管内に水を流して渦を作り、その中心で放電するという技術であり、例えば、「Aspect of energy transport in a vortex-stabilized arc」(J.Appl.Phys.64(1),1 July 1988)に開示されている。
しかし、この技術は大出力化を可能とするかもしれないが、点光源として使うことができない問題があった。
【特許文献1】特許第2775694号
【非特許文献1】「Aspect of energy transport in a vortex-stabilized arc」(J.Appl.Phys.64(1),1 July 1988)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
大出力、かつ短波長の紫外線を放射する点光源の光源装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、この発明の紫外線光源装置は、陰極と陽極の間の開放系空間にアークを生じさせて紫外線を発生させる構成において、前記アークの生じている領域に、前記陰極側より発光用ガスを供給する手段と、前記アークの断面積を減少させる手段と、前記アークにより発生した紫外線を取り出す反射ミラーにより構成されることを特徴とする。
また、前記アークの断面積を減少させる手段は、流体の吹き付けであることを特徴とする。
また、前記流体の吹き付けは、複数のノズルにより渦流を形成することを特徴とする。
また、前記陽極は回転することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
この発明の紫外線光源装置は、従来の放電ランプのように閉じられた発光管の内部においてアーク放電を生じさせるものではなく、開放系空間においてアーク放電を発生させるものであり、また、アークを絞る手段を有するので、上記管璧負荷の問題を解決することができ、かつ、点光源を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
図1は本発明に係る紫外線光源装置の概略構成を示す。
陰極部1と陽極部2と反射ミラー3より全体が構成される。
【0011】
陰極部1は、銅を主成分とする陰極本体10(「陰極」に相当)と、この陰極本体10を取り囲む陰極ケース11と、その周囲にノズル12より構成される。陰極本体10と陰極ケース11との間にはガス流通用空間が形成されており、発光ガスとなるアルゴンが陰極ケース11の後方から前方に向けて供給される。ノズル12の後方にはアルゴン供給装置30が接続される。陰極本体10は円柱形状であって、先端が円錐状に形成される
【0012】
陽極部2は、タングステンを主成分とする陽極本体20(「陽極」に相当)と、陽極本体20と一体化している中心軸21と、陽極本体20を取り込むケース22より構成される。
陽極本体20は円盤形状をしており、中心軸21により回転可能な構造となっている。ケース22は、例えばアルミニウム(材料)よりなり、陽極本体20との間隙をアルゴンガスが流れて強制排気される。
【0013】
陰極本体10と陽極本体20の間にアークが形成される。アークは陰極部1と陽極部2に接続された給電装置40に、両電極間に高電圧が印加されて発生する。
一例をあげると、アーク長(陰極本体10と陽極本体20の最短距離)は、3〜20mm程度であって、例えば、10mmである。陰極本体10の外径は3〜8mm程度であって、例えば、6mm、先端径は0〜20mm程度であって、例えば、1mmである。
陽極本体20の外径は80〜300mm程度であって、例えば、200mm、先端のRは5〜40mm程度であって、例えば、20mmである。
【0014】
反射ミラー3は、例えばアルミニウム(材料)よりなる凹面反射鏡であって、陰極本体10と陽極本体20の間に形成されるアークの位置がほぼ第一焦点になるように設計される。
なお、反射ミラー3の内部空間は、一般のランプのように閉じられた密閉空間ではなく、いわゆる開放系空間となっている。
反射ミラー23は平行光を放射するミラーであってもよく、また、集光させるミラーであってもよい。
【0015】
図2はノズル12より噴射されるアルゴンによりアークが絞られる状態を示す。
ノズル12の先端からアルゴンガスがアーク(「プラズマ柱」ともいう)に向けて吹き付けられる。このため、アークが陰極本体10の先端から陽極本体20に向けて広がって形成されることを抑え、断面積を絞るように作用する。
また、アークが絞られることで、絞られた部分の放電電流密度が高くなり、さらに、この部分における電位傾度が高くなるので大電力が入り、結果として、アークの放射輝度が高くできる。
なお、耐熱性セラミックなどから構成されるキャピラリー管を使ってアークを絞ることも考えられる。しかし、大電流放電のプラズマを生じる場合はキャピラリー管が熱負荷に耐えることができず損耗するおそれがあった。一方、流体を吹き付ける場合は、プラズマの周囲に生じる流体が熱せられるため温度の問題なくプラズマを絞ることができる。
流体は水のような液体であってもよいし、圧縮空気のような期待を用いることもできる。気体より液体の方がより高い出力までプラズマを絞ることができる。その一方で、気体の方が取扱が容易という利点を有する。
【0016】
アルゴンが発光用ガスとなり、すなわち、陰極本体11から放射される電子との衝突により、短波長の紫外線を放射する。具体的には、波長150nm〜300nmの紫外線を高効率で放射する。特に、波長200nm以下の紫外線が退行試験装置や表面処理装置の光源にとって相応しい。
供給ガスとしてアルゴンを採用すると、陰極本体10の先端が酸化することを防止できる。
なお、アークを絞るためのガスとして、アルゴン、窒素、水などを使うことができる。
【0017】
図3はアークを絞る手段(アークの断面積を減少させる手段)を図2とは異なる方向から見た状態を示す。
すなわち、ノズル4はアークの周囲に4箇所設けられて、アークの外縁に向けて流体を噴出させるものである。このように複数のノズルから流体を噴出することで、アークを絞ることができるとともに、アークに渦流を形成することができ、これによりアークをより安定できる。
【0018】
図4は陽極部2の構造を示す。
陽極部2は、例えば銅よりなる陽極本体20が中心軸21により回転する。これにより陽極本体20が局所的に高温化することを防止できる。回転数は、例えば600rpmである。なお、図では陽極本体20および中心軸21に保持手段が記載されていないが、適宜の構成により保持される。
陽極本体20と中心軸21は、内部に空間が形成され、中心軸21の一部より冷却媒体供給パイプ23が導かれる。冷却媒体導入パイプ23は、例えば水などの冷却用液体が導かれて、陽極本体20の内部空間に供給される。陽極本体20は高速回転しているため供給された液体は内部空間の内周端に位置する。これにより、陽極本体20の外周を効果的に冷却できる。特に、陽極本体20はアークが接触しているため、上記冷却手段により、陽極本体20を構成する材料の融点より低い温度を維持することができる。中心軸21の周囲には、回転用モータ24が配置しており、また、中心軸21の一部に給電用端子25が接触している。なお、供給された冷却媒体は高温により蒸発する。
【0019】
このような陽極本体20の内部に冷却媒体を供給する構造は、本発明の光源装置のように高温化する構造に特に有効であり、放電電流が1000Aを超える場合は、上記した回転機構が好適に利用され、放電電流が1000A以下の場合は陽極を固定として採用できる。
【0020】
上記構造の紫外線光源装置では、例えば、定格電力20kW(定格電圧20V、定格電流1000A)から定格電力100kW(定格電圧20V、定格電流5000A)の出力が可能となる。
【0021】
この発明の紫外線光源装置は、従来の放電ランプのように閉じられた発光管の内部においてアーク放電を生じさせるものではなく、開放系空間においてアーク放電を発生させるものであり、アークを絞る手段を有するので、管璧負荷の問題を解決できて、かつ、点光源を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明に係る紫外線光源装置を示す。
【図2】本発明に係る紫外線光源装置のアークの拡大図を示す。
【図3】本発明に係る紫外線光源装置のアークの拡大図を示す。
【図4】本発明に係る陽極構造を示す。
【符号の説明】
【0023】
1 陰極部
2 陽極部
3 反射ミラー
10 陰極本体
11 陰極ケース
12 ノズル
20 陽極本体
21 中心軸
22 陽極ケース
23 冷却媒体供給パイプ
24 回転用モータ
25 給電機構

【特許請求の範囲】
【請求項1】
陰極と陽極の間の開放系空間にアークを生じさせることで紫外線を発生させる紫外線光源装置において、
前記アークの生じている領域に、前記陰極側より発光用ガスを供給する手段と、前記アークの断面積を減少させる手段と、前記アークにより発生した紫外線を取り出す反射ミラーにより構成されることを特徴とする紫外線光源装置。
【請求項2】
前記アークの断面積を減少させる手段は、流体の吹き付けであることを特徴とする請求項1の紫外線光源装置。
【請求項3】
前記流体の吹き付けは、複数のノズルにより渦流を形成することを特徴とする請求項2の紫外線光源装置。
【請求項4】
前記陽極は回転することを特徴とする請求項1の紫外線光源装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−302806(P2006−302806A)
【公開日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−126200(P2005−126200)
【出願日】平成17年4月25日(2005.4.25)
【出願人】(000102212)ウシオ電機株式会社 (1,414)