説明

紫外線硬化樹脂の状態推定方法

【課題】紫外線の照射により蛍光を放射する基材とともに存在してなる状態にある紫外線硬化樹脂に適用可能な、紫外線硬化樹脂の状態を推定する方法等を提供する。
【解決手段】紫外線照射により蛍光を放射する光重合開始剤を含む紫外線硬化樹脂の状態を推定する方法であり、紫外線硬化樹脂が、紫外線照射により蛍光を放射する基材とともに存在してなる状態にあり、紫外線硬化樹脂に、基材が放射する蛍光の強度が光重合開始剤が放射する蛍光の強度を上回らないような波長を有する紫外線を照射するステップと、紫外線を受けて基材が放射する蛍光と光重合開始剤が放射する蛍光との両者のうち後者が優先的又は選択的に測定されるような波長における蛍光強度を測定するステップと、測定される蛍光強度に基づいて、紫外線硬化樹脂の状態を推定するステップとを含む紫外線硬化樹脂の状態推定方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紫外線の照射によって硬化する紫外線硬化樹脂の状態を推定する方法である。
【背景技術】
【0002】
近年、多くの産業分野において、接着剤やコーティング剤の硬化方法として紫外線硬化法(Ultraviolet Curing Method)が利用されている。紫外線硬化法は、熱エネルギーを利用する熱硬化方法と比較して、有害物質を大気中に放散しない、硬化時間が短い、熱に弱い材料にも適応できる等の多くの利点を有している。
【0003】
紫外線硬化法は、紫外線照射前は通常液体であるが、紫外線照射後には固体に変化する紫外線硬化樹脂に用いられる。このような紫外線硬化樹脂は、モノマーおよびオリゴマーからなる群から選ばれる少なくとも一つの主剤を含み、さらに光重合開始剤を含む。光重合開始剤は、照射される紫外線を受けてラジカルやカチオンを発生し、発生したラジカルやカチオンがモノマーやオリゴマーと硬化反応を生じる。この硬化反応に伴いモノマーやオリゴマーはポリマーに変化し、分子量が極めて大きくなるとともに、融点が低下する。この結果、紫外線硬化樹脂は液体状態を維持できなくなって固体に変化する。したがって、紫外線硬化法においては、紫外線硬化樹脂の硬化度は、重合度に応じて定まることになる。
【0004】
一方、目視による紫外線硬化樹脂の硬化度や品質異常有無の判断は困難であり、硬化反応に伴う紫外線硬化樹脂の状態を容易に判断する方法が要望されている。
【0005】
例えば、特許文献1には、硬化可能なコーティング材料の硬化度を監視する方法が開示されており、その方法は、紫外線硬化可能材料と、当該紫外線硬化可能材料の硬化度の関数として変化するような発光を行なう蛍光成分を含むプローブとからなる材料系に対して、紫外線硬化可能材料の硬化度を測定するためにプローブの発光を測定するステップを含んでいる。
【0006】
また、特許文献2には、紫外線硬化樹脂に対する紫外線照射に応じて、紫外線硬化樹脂に含まれる光重合開始剤自体が紫外線硬化樹脂の状態(例えば、硬化度)と相関のある観測可能な蛍光を放射するという知見に基づいた紫外線硬化樹脂の状態推定方法が開示されており、その方法は、CPU(Central Processing Unit)が蛍光測定用ヘッド部へ照射指令を与えるステップと、当該蛍光測定用ヘッド部は、測定用紫外線を、対象とする紫外線硬化樹脂へ照射するステップと、測定用紫外線を受けて当該紫外線硬化樹脂に含まれる光重合開始剤から放射される蛍光の蛍光強度を、CPUが、蛍光測定用ヘッド部から取得するステップと、CPUが、記憶部に蓄積されている所定数の過去の蛍光強度データを読出し、平均化処理(移動平均)を実行して、当該時点の蛍光強度を算出するステップと、CPUが、算出された蛍光強度に基づいて、紫外線硬化樹脂の状態推定処理を実行するステップとを含んでいる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第2651036号公報
【特許文献2】特許第4185939号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に開示されている方法は、硬化可能材料の硬化度の関数として変化するように発光するプローブを用いるという点で、コスト的に不利であり、また、品質上の観点からプローブを紫外線硬化樹脂に添加することが許されない場合も多く、汎用的な紫外線硬化法に適用することが困難である場合が多い。
【0009】
また、特許文献2に開示されている方法は、紫外線硬化樹脂が、紫外線の照射によって蛍光を放射する材料を含有する基材とともに存在している場合には、紫外線の照射により当該基材に含まれる紫外線の照射によって蛍光を放射する材料から放射される蛍光が光重合開始剤から放射される蛍光の測定の妨害となるという問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、このような状況下、鋭意検討した結果、照射ステップにおいて照射される紫外線の波長と、前記照射ステップにおいて照射される紫外線を受けて放射される蛍光を測定するための波長との両者の組み合わせを見出し、当該知見と、紫外線の照射により蛍光を放射する材料を含有する基材とともに存在する紫外線硬化樹脂であり、且つ、光重合開始剤の特性に基づいて紫外線が照射されることによって硬化する紫外線硬化樹脂の状態を推定する方法とを組み合わせることに成功し、本発明に至った。
【0011】
すなわち、本発明は、
[1]モノマーおよびオリゴマーからなる群から選ばれる少なくとも一つの主剤と、紫外線の照射によって蛍光を放射する光重合開始剤とを含む紫外線硬化樹脂の状態を推定する方法であって、
前記紫外線硬化樹脂が、紫外線の照射によって蛍光を放射する材料を含有する基材とともに存在している紫外線硬化樹脂であり、
前記材料から放射される蛍光の強度が、前記光重合開始剤から放射される蛍光の強度を上回らない波長を有する紫外線を、前記紫外線硬化樹脂に照射する照射ステップと、
前記照射ステップにおいて照射される紫外線を受けて、前記材料から放射される蛍光と前記光重合開始剤から放射される蛍光との両者のうち、後者が優先的または選択的に測定されるような蛍光の波長における蛍光強度を測定する測定ステップと、
前記測定ステップにおいて測定される蛍光強度に基づいて、前記紫外線硬化樹脂の状態を推定する推定ステップと、を含む紫外線硬化樹脂の状態推定方法;
[2]前記推定ステップが、前記紫外線硬化樹脂の硬化反応を生じさせるための硬化用紫外線の照射中において、前記紫外線硬化樹脂の硬化反応に伴って生じる蛍光強度の時間的変化に基づいて、前記紫外線硬化樹脂の状態を推定するステップである[1]記載の紫外線硬化樹脂の状態推定方法;
[3]前記推定ステップが、測定される蛍光強度の時間的変化と、予め設定された基準となる時間的変化とを比較することにより前記紫外線硬化樹脂の状態を推定するステップである[2]記載の紫外線硬化樹脂の状態推定方法;
[4]前記推定ステップが、特定の基準時点から蛍光強度が特定の時間的変化を生じるまでの所要時間を取得し、当該取得した所要時間を予め設定された基準値と比較することにより前記紫外線硬化樹脂の状態を推定するステップである[2]記載の紫外線硬化樹脂の状態推定方法;
[5]前記推定ステップが、前記紫外線硬化樹脂の硬化反応を生じさせるための硬化用紫外線の照射前において測定される蛍光強度に基づいて、前記紫外線硬化樹脂の状態を推定するステップである[1]記載の紫外線硬化樹脂の状態推定方法;
[6]前記推定ステップが、前記紫外線硬化樹脂の硬化反応を生じさせるための硬化用紫外線の照射後において測定される蛍光強度に基づいて、前記紫外線硬化樹脂の状態を推定するステップである[1]記載の紫外線硬化樹脂の状態推定方法;
[7](A)紫外線の照射によって蛍光を放射する材料を含有する基材と紫外線硬化樹脂とから、紫外線の照射によって蛍光を放射する材料を含有する基材とともに存在している紫外線硬化樹脂を調製する工程、
(B)調製された紫外線硬化樹脂に、硬化用紫外線を照射して、前記紫外線硬化樹脂を硬化させる工程、
(C)前記材料から放射される蛍光の強度が、前記光重合開始剤から放射される蛍光の強度を上回らない波長を有する紫外線を、硬化させた紫外線硬化樹脂に照射する工程、
(D)前記工程(C)において照射される紫外線を受けて、前記材料から放射される蛍光と前記光重合開始剤から放射される蛍光との両者のうち、後者が優先的または選択的に測定されるような蛍光の波長における蛍光強度を測定する工程、および
(E)前記工程(D)において測定される蛍光強度に基づいて、硬化させた紫外線硬化樹脂の状態を推定し、該紫外線硬化樹脂の品質の良否を判断する工程、を含むことを特徴とする紫外線の照射によって蛍光を放射する材料を含有する基材とともに存在している紫外線硬化樹脂の製造方法;等を提供するものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、紫外線の照射によって蛍光を放射する材料を含有する基材とともに存在している紫外線硬化樹脂の状態を容易に推定できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は、照射される測定用紫外線の波長が250nmである場合における、照射された硬化用紫外線の積算光量毎(パラメーターA:0mJ/cm、パラメーターB:750mJ/cm、パラメーターC:1050mJ/cm)での、蛍光スペクトルアナライザーにより測定される蛍光の波長(横軸)と、モデル試料から放射される蛍光の強度(縦軸)との関係、即ち、蛍光スペクトルを示す図である。
【0014】
【図2】図2は、照射される測定用紫外線の波長が300nmである場合における、照射された硬化用紫外線の積算光量毎(パラメーターA:0mJ/cm、パラメーターB:750mJ/cm、パラメーターC:1050mJ/cm)での、蛍光スペクトルアナライザーにより測定される蛍光の波長(横軸)と、モデル試料から放射される蛍光の強度(縦軸)との関係、即ち、蛍光スペクトルを示す図である。
【0015】
【図3】図3は、照射される測定用紫外線の波長が350nmである場合における、照射された硬化用紫外線の積算光量毎(パラメーターA:0mJ/cm、パラメーターB:750mJ/cm、パラメーターC:1050mJ/cm)での、蛍光スペクトルアナライザーにより測定される蛍光の波長(横軸)と、モデル試料から放射される蛍光の強度(縦軸)との関係、即ち、蛍光スペクトルを示す図である。
【0016】
【図4】図4は、実証用試料に照射された硬化用紫外線の積算光量(横軸)と、蛍光強度測定装置により測定される、実証用試料から放射された蛍光の強度(縦軸)との相関関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の状態推定方法は、モノマーおよびオリゴマーからなる群から選ばれる少なくとも一つの主剤と、紫外線の照射によって蛍光を放射する光重合開始剤とを含む紫外線硬化樹脂の状態を推定する方法であって、
前記紫外線硬化樹脂が、紫外線の照射によって蛍光を放射する材料を含有する基材とともに存在している紫外線硬化樹脂であり、
前記材料から放射される蛍光の強度が、前記光重合開始剤から放射される蛍光の強度を上回らない波長を有する紫外線を、前記紫外線硬化樹脂に照射する照射ステップと、
前記照射ステップにおいて照射される紫外線を受けて、前記材料から放射される蛍光と前記光重合開始剤から放射される蛍光との両者のうち、後者が優先的または選択的に測定されるような蛍光の波長における蛍光強度を測定する測定ステップと、
前記測定ステップにおいて測定される蛍光強度に基づいて、前記紫外線硬化樹脂の状態を推定する推定ステップと、を含む。
【0018】
(紫外線硬化樹脂)
本発明の状態推定方法の対象となる「紫外線硬化樹脂」は、紫外線照射前においては通常液体であるが、紫外線照射後においては固体に変化(硬化)する。なお、本明細書内において、「紫外線硬化樹脂」とは、紫外線照射前における液体の状態、および、紫外線照射後における固体の状態のいずれも含む総称的な意味で使用する。
【0019】
紫外線照射前(硬化前)における紫外線硬化樹脂は、モノマーおよびオリゴマーからなる群から選ばれる少なくとも一つの主剤および光重合開始剤を含み、さらに各種添加剤を含んでもよい。紫外線の照射を受けて光重合開始剤が発生するラジカルやカチオンによりモノマーおよびオリゴマーの硬化反応(主鎖反応および架橋反応等)を生じる。そして、この硬化反応に伴いモノマーおよびオリゴマーは、ポリマーに変化して分子量が極めて大きくなるとともに融点が低下する。この結果、紫外線硬化樹脂は、液体から固体へ変化する。
【0020】
モノマーおよびオリゴマーの具体例としては、ポリエステルアクリレート、ウレタンアクリレート、ポリブタジエンアクリレート、シリコンアクリレートおよびエポキシアクリレートが挙げられる。モノマーは、単量体とも呼ばれ、硬化反応によって重合体を合成する場合の原料となる状態である。オリゴマーは、低重合体とも呼ばれ、重合度が2〜20程度の比較的重合度の低い状態である。
【0021】
モノマーおよびオリゴマーは、キャリア(電子)が分子内をスムーズに動きにくい構造をとることから、蛍光を殆ど発しないと考えられる。
【0022】
紫外線硬化樹脂は、紫外線の照射によって蛍光を放射する材料を含有する基材とともに存在している。紫外線の照射によって蛍光を放射する材料を含有する基材は、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリエーテルスルホン等の紫外線の照射によって蛍光を放射する材料を含有する基材である。ここで「基材とともに存在している」とは、前記基材と前記紫外線硬化樹脂とが共存し、且つ、前記基材の少なくとも一部と前記紫外線硬化樹脂の少なくとも一部とが接触している状態を意味する。また、前記基材は、紫外線の照射によって蛍光を放射しない材料を含有してもよい。基材の形状は制限されないが、フィルム状の基材が好ましい。具体的には、紫外線の照射によって蛍光を放射する材料からなるフィルムと紫外線の照射によって蛍光を放射しない材料からなるフィルムと、紫外線硬化樹脂の層とからなり、各フィルムの間に紫外線硬化樹脂の層が設けられた積層フィルムが挙げられる。
【0023】
(光重合開始剤)
本発明の状態推定方法における「光重合開始剤」とは、紫外線の照射によって蛍光を放射する光重合開始剤である。このような光重合開始剤は、(1)紫外線を受けてラジカルを発生するラジカル重合開始剤、および、(2)紫外線を受けてカチオンを発生するカチオン重合開始剤に大別される。ラジカル重合開始剤は、主剤が、アクリル系モノマーまたはそのオリゴマーである場合に使用され、カチオン重合開始剤は、主剤が、エポキシ系モノマー、ビニールエーテル系モノマーまたはそれらのオリゴマーである場合に使用される。ラジカル重合開始剤およびカチオン重合開始剤の混合物からなる光重合開始剤を用いることもある。
【0024】
ラジカル重合開始剤は、ラジカルの発生過程に応じて、水素引抜型および分子内開裂型に大別される。水素引抜型のラジカル重合開始剤としては、ベンゾフェノンおよびオルソベンゾイル安息香酸メチルが挙げられる。分子内開裂型のラジカル重合開始剤としては、ベンゾインエーテル、ベンジルジメチルケタール、α−ヒドロキシアルキルフェノン、α−アミノアルキルフェノン、オキソベンゾイル安息香酸メチル、4−ベンゾイル−4’−メチルジフェニルサルファイド、イソプロピルチオキサントン、ジエチルチオキサントン、エチル 4−(ジエチルアミノ)ベンゾエート、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−プロパン−オン、ベンジルジメチルケタールおよび1,2α−ヒドロキシアルキルフェノンが挙げられる。
【0025】
カチオン重合開始剤としては、ジフェニルヨードニウム塩が挙げられる。
なお、本明細書内において、「光重合開始剤」は、光重合反応を開始させる能力が残存しているものに限らず、当初の光重合開始剤が光重合反応に寄与することによって変化したり、光重合反応の対象となるモノマーやオリゴマーがその周囲に存在しなかったりすることにより、光重合反応の開始に寄与しない物質となったものをも含む。光重合開始反応に寄与した後の光重合開始剤は、多くの場合、ほぼ当初の分子の大きさを保持したまま、あるいは、2つまたはそれ以上の数の分子に分裂した状態で、ポリマーの末端に結合している。当初の光重合開始剤の分子が分裂した場合には、分裂後の分子のうちの少なくとも一部のものが蛍光放射に寄与すると考えられる。
【0026】
紫外線硬化樹脂は、紫外線を受けて硬化反応を生じることで硬化するように構成されている。そのため、このような硬化反応を生じさせる光重合開始剤は、(1)硬化反応を開始させるための活性種(ラジカルや酸等)を生成する能力(量子収率、モル吸光係数)が高い、(2)反応性の高い活性種を生成する、(3)活性種の生成能力を発揮するための励起エネルギーのスペクトル域が紫外線領域である、等の性質を有している。すなわち、光重合開始剤は、紫外線を吸収しやすい分子構造のものが採用され、紫外線の吸収により生じる(電子)エネルギーを他の分子に与えやすいものとなっている。
【0027】
光重合開始剤から放射される蛍光強度は、このような光重合開始剤の化学的状態に応じて変化するものと考えられる。そこで、測定される蛍光強度の時間的変化のうち、蛍光強度の変化速度に基づいて、光重合開始剤が実質的に消費された時点を推定する。なお、紫外線硬化樹脂には、収率や温度変動等を考慮して、理論的必要量に対して所定の余裕率を乗じた量の光重合開始剤が含まれていることが多い。そのため、光重合開始剤が「実質的に消費される」とは、硬化反応を十分に生じるだけの活性種(ラジカルや酸等)が光重合開始剤から生じた状態を意味する。光重合開始剤が「実質的に消費される」と、測定される蛍光強度の増加が抑制されると考えられる。そこで、蛍光強度の増加が開始した後において、その増加速度が低下する場合、増加が停止する(変化速度がゼロとなる)場合、および、蛍光強度が減少する(変化速度がマイナス値となる)場合等の特徴を捉えて、光重合開始剤が実質的に消費されたとみなすことができる。
【0028】
(照射ステップ)
本発明の状態推定方法における「照射ステップ」とは、紫外線の照射によって蛍光を放射する材料から放射される蛍光の強度が、前記光重合開始剤から放射される蛍光の強度を上回らない波長を有する紫外線を、前記紫外線硬化樹脂に照射する照射ステップである。
【0029】
光重合開始剤から放射される蛍光強度が微弱であることに加えて、紫外線の照射によって蛍光を放射する材料を含有する基材とともに存在している紫外線硬化樹脂の場合には、紫外線の照射によって前記基材から放射される蛍光が妨害となり、光重合開始剤によって放射される蛍光を測定することが困難になる場合が多いため、上記のような波長を有する紫外線を照射する必要がある。波長の選択・決定方法については「(照射ステップにおいて照射される紫外線の波長と測定ステップにおいて測定される蛍光の波長の選択・決定方法)」の欄で後述する。
【0030】
(測定ステップ)
本発明の状態推定方法における「測定ステップ」とは、前記照射ステップにおいて照射される紫外線を受けて、前記材料から放射される蛍光と前記光重合開始剤から放射される蛍光との両者のうち、後者が優先的または選択的に測定されるような蛍光の波長における蛍光強度を測定する測定ステップである。
【0031】
上記のように、紫外線硬化樹脂に含まれる光重合開始剤は、紫外線を受けると蛍光を放射するが、同時に、前記紫外線硬化樹脂とともに存在している基材に含有される材料も前記紫外線を受けて蛍光を放射する。すなわち、光重合開始剤と基材とは、それぞれ紫外線を受けて蛍光を放射する。このため、紫外線硬化樹脂に含まれる光重合開始剤から放射される蛍光が、前記紫外線硬化樹脂とともに存在している基材に含有される材料から放射される蛍光と同じ波長域を含む場合、前記光重合開始剤から放射される蛍光の強度と、前記材料から放射される蛍光の強度との両者が同時に測定されてしまい、紫外線硬化樹脂に含まれる光重合開始剤から放射される蛍光の強度変化を正確に把握することができない。そこで、前記材料から放射される蛍光の強度の影響を受けることなく、前記光重合開始剤から放射される蛍光の強度を把握するためには、(A)照射ステップにおいて照射する紫外線の波長として、「前記基材に含有される材料から放射される蛍光の強度が、前記光重合開始剤から放射される蛍光の強度を上回らないような波長」を選択・決定すること、(B)測定ステップにおいて強度を測定する蛍光の波長として、「前記照射ステップにおいて照射される紫外線を受けて、前記材料から放射される蛍光と前記光重合開始剤から放射される蛍光との両者のうち後者が優先的または選択的に測定されるような波長」を選択・決定すること、の両者が重要となる。ここで、上記(A)と(B)とが関連性を有する技術的な要件であり、各々独立して存在するような非連携な要件でないことが極めて大切なことである。そして、選択・決定された測定波長に関しては、蛍光強度の測定部に、例えば、波長上で当該測定波長のみを分離可能な測定用フィルタ(カットフィルタおよび/または色補正フィルタ)を設けることで、当該測定波長を優先的または選択的に測定すればよい。
【0032】
(照射ステップにおいて照射される紫外線の波長と測定ステップにおいて測定される蛍光の波長の選択・決定方法)
照射ステップにおいて照射される紫外線の波長と、測定ステップにおいて測定される蛍光の波長は、例えば、以下の方法に準じて選択・決定すればよい。
(I)モノマーおよびオリゴマーからなる群から選ばれる少なくとも一つの主剤と、紫外線の照射によって蛍光を放射する光重合開始剤とを含む紫外線硬化樹脂を、紫外線の照射によって蛍光を放射する材料を含有する基材に、一定の厚みで塗布することにより、モデル試料を作製する。
(II)上記工程(I)で作製されたモデル試料に、所定の波長を有する硬化用紫外線を、任意の積算光量で照射して、紫外線硬化樹脂が未硬化状態から完全に硬化した状態までのいずれかの硬化段階にあるモデル試料を作製する。次いで、硬化用紫外線の積算光量を変えて、同様な方法により硬化段階の異なるモデル試料を作製する。このようにして、異なる硬化段階にある複数のモデル試料を作製する。
(III)上記工程(II)で作製された複数のモデル試料について、蛍光スペクトルアナライザーを用いて、照射される蛍光測定用紫外線を受けて放射される蛍光の強度を、蛍光スペクトルとして測定することにより、照射される蛍光測定用紫外線の波長別(例えば、図別での表示)に、照射された硬化用紫外線の積算光量毎(すなわち、同一図におけるパラメーター別での表示)に、蛍光スペクトル(横軸:蛍光スペクトルアナライザーにより測定される蛍光の波長、縦軸:モデル試料から放射される蛍光の強度)を取得する。
(IV)取得された蛍光スペクトルの波形から、紫外線硬化樹脂の硬化段階(すなわち、照射された硬化用紫外線の積算光量毎)に応じて、モデル試料から放射される蛍光の強度が変化する波形を有する(すなわち、照射された硬化用紫外線の積算光量毎で蛍光スペクトルの波形に差異を有する)「照射される蛍光測定用紫外線の波長」を選択する。好ましくは、顕著な差異を有するものがよい。
(V)さらに、照射された硬化用紫外線の積算光量毎での蛍光スペクトルの波形において、有意な差異を示している領域(すなわち、「蛍光スペクトルアナライザーにより測定される蛍光の波長」)を選択する。
【0033】
(推定ステップ)
本発明の状態推定方法における「推定ステップ」とは、前記測定ステップにおいて測定される蛍光強度に基づいて、前記紫外線硬化樹脂の状態を推定するステップである。
ここで「前記紫外線硬化樹脂の状態を推定する」方法としては、例えば、下記のような状態推定のための方法を挙げることができる。
【0034】
(蛍光強度の時間的変化にみられる特徴)
前記推定ステップは、前記紫外線硬化樹脂の硬化反応を生じさせるための硬化用紫外線の照射中において、前記紫外線硬化樹脂の硬化反応に伴って生じる蛍光強度の時間的変化に基づいて、前記紫外線硬化樹脂の状態を推定する。
【0035】
(1)蛍光強度の変化速度に基づく硬化度についての状態推定
放射される蛍光強度は、紫外線硬化樹脂の硬化反応の進行の程度に応じて変化するものと考えられる。
そこで、測定される蛍光強度の時間的変化のうち、蛍光強度の変化速度に基づいて、紫外線硬化樹脂の硬化度が最大硬化度に到達した時点を推定する。なお、紫外線硬化樹脂には、製造者等により硬化度の規格値(カタログ硬度)が規定されていることが多いが、ここでいう「最大硬化度」とは、各照射条件において当該紫外線硬化樹脂が到達可能な硬化度を意味し、以下も同様とする。また、この最大硬化度は規格値(カタログ硬度)とは必ずしも一致しない。
【0036】
紫外線硬化樹脂の硬化度が最大硬化度に到達すると、測定される蛍光強度の増加が抑制されると考えられる。そこで、蛍光強度の増加に続いて、その増加速度が低下する場合、増加が停止する(変化速度がゼロとなる)場合、および蛍光強度が減少する(変化速度がマイナス値となる)場合等の特徴を捉えて、紫外線硬化樹脂の硬化度が最大硬化度に到達したとみなすことができる。
【0037】
蛍光強度の変化速度に基づく硬化度についての状態推定によれば、紫外線硬化樹脂硬化度が最大硬化度に到達した時点を容易に推定できる。これにより、硬化用紫外線の照射時間が不足して、紫外線硬化樹脂における硬化反応が不十分になる事態を回避できる。特に、紫外線硬化樹脂は、温度や経年劣化等によってその性質が変化するが、この方法によれば、各処理時点における最適な照射時間で硬化反応を生じさせることができる。
【0038】
(2)蛍光強度の変化量に基づく硬化度についての状態推定
放射される蛍光強度は、紫外線硬化樹脂の硬化反応の進行の程度に応じて変化するものと考えられる。そこで、測定される蛍光強度の時間的変化のうち、蛍光強度の変化前後の変化量に基づいて、紫外線硬化樹脂が特定の硬化度に到達した時点を推定する。一例として、蛍光強度の増加が開始した後において、増加開始前の蛍光強度に対する蛍光強度の差または比が予め設定された閾値を超過した時点を見出して、紫外線硬化樹脂の硬化度が特定の硬化度に到達したとみなすことができる。例えば、判断の基準とする蛍光強度の変化量を適切に選ぶことにより、紫外線硬化樹脂の硬化度が最大硬化度に到達した、すなわち、紫外線硬化樹脂の硬化反応が十分進行したと判断することができる。また、より小さな蛍光強度の変化量を判断の基準とすることにより、紫外線硬化樹脂の硬化度が最大硬化度よりも小さな特定の硬化度に到達したとみなすこともできる。この場合には、蛍光強度に所定の変化量が生じたことを捉えて、その時点で所望の程度の硬化度まで、例えば、紫外線硬化樹脂で仮止めした部材が大きくは動かない程度の硬化度まで、硬化が進行したと判断することができる。紫外線硬化樹脂の多くは、紫外線照射によりある程度まで硬化反応を進行させると、その後は紫外線を照射しなくても連鎖反応によりしだいに硬化が進行する性質を有する。半硬化状態の紫外線硬化樹脂を加熱するとこの連鎖反応が促進される。このような、紫外線硬化樹脂が十分硬化していない段階で紫外線照射をやめる硬化のさせ方も可能である。紫外線硬化樹脂と基材または他の部材との接着を行なうに際し、紫外線照射による仮止めをしたい場合に利用される。仮止めをした後には、まだ紫外線硬化樹脂が柔らかいので接着される基材または他の部材の位置の微調整をすることもできる。また、このような硬化のさせ方は、短時間の紫外線照射により接着箇所が半硬化状態とされた多数の製品をまとめて加熱して硬化促進する場合にも利用される。こうすると、硬化箇所毎に最大硬化度に至るまで紫外線を照射する場合に比べて、硬化処理全体の時間を短縮できることがある。
【0039】
蛍光強度の変化量に基づく硬化度についての状態推定によれば、紫外線硬化樹脂の硬化度が最大硬化度に到達した時点を容易に推定できる。これにより、硬化用紫外線の照射時間が不足して、紫外線硬化樹脂の硬化反応が不十分になる事態を回避できる。特に、紫外線硬化樹脂は、温度や経年劣化等によってその性質が変化するが、この方法によれば、各処理時点における最適な照射時間で硬化反応を生じさせることができる。
【0040】
(3)蛍光強度の絶対値に基づく硬化度についての状態推定
放射される蛍光強度は、紫外線硬化樹脂の硬化反応の進行の程度に応じて変化するものと考えられる。そこで、測定される蛍光強度の時間的変化のうち、蛍光強度の絶対値に基づいて、紫外線硬化樹脂の硬化度が特定の硬化度に到達した時点を推定する。一例として、測定される蛍光強度が予め設定された閾値を超過した時点を見出して、紫外線硬化樹脂の硬化度が特定の硬化度に到達したとみなすことができる。特定の硬化度は、最大硬化度または最大硬化度よりも小さな値の任意の硬化度でありうることは前記の場合と同様である。
【0041】
蛍光強度の絶対値に基づく硬化度についての状態推定によれば、紫外線硬化樹脂の硬化度が最大硬化度に到達した時点を容易に推定できる。これにより、硬化用紫外線の照射時間が不足して、紫外線硬化樹脂の硬化反応が不十分になる事態を回避できる。この方法によれば、比較的安定した条件下で繰り返し硬化作業を行なうような場合に、各処理時点における最適な照射時間で硬化反応を生じさせることができる。
【0042】
(4)基準となる時間的変化との比較による紫外線硬化樹脂の状態推定
製造ライン等では、略同一の照射条件において、同一種類の紫外線硬化樹脂が繰り返し硬化処理される。そのため、紫外線硬化樹脂の種類別に蛍光強度の代表的な時間的変化を予め取得しておき、当該蛍光強度の代表的な時間的変化を基準となる時間的変化として、当該基準となる時間的変化との比較により、紫外線硬化樹脂の状態推定を行なうことが実用的かつ有効的である。
【0043】
なお、取得した蛍光強度の時間的変化と、基準となる時間的変化との比較には、ある時点における蛍光強度(絶対値)だけではなく、ある時点からの所定期間における蛍光強度の特徴的変化等を抽出して用いることもできる。
【0044】
基準となる時間的変化との比較による紫外線硬化樹脂の状態推定によれば、基準となる時間的変化に対する相対的な紫外線硬化樹脂の状態を容易に推定できる。また、基準となる時間的変化からの乖離の有無を監視することで、紫外線硬化樹脂等の異常を早期に発見することができる。
【0045】
上記の蛍光強度が特定の時間的変化を生じるまでの所要時間に基づく紫外線硬化樹脂の状態推定によれば、蛍光強度が特定の時間的変化を生じるまでの所要時間を基準値と比較することで、紫外線硬化樹脂の異常を発見することができる。これにより、不良品の大量発生等を抑制でき、生産歩留り向上を実現できる。
【0046】
(5)蛍光強度が特定の時間的変化を生じるまでの所要時間に基づく紫外線硬化樹脂の状態推定
上記の状態推定方法と同様に、略同一の照射条件において、同一種類の紫外線硬化樹脂が繰り返し処理される場合には、予め代表的なサンプルについての蛍光強度の時間的変化を取得しておき、当該蛍光強度の時間的変化との比較により、紫外線硬化樹脂の状態推定を行なうことが実用的かつ有効的である。一例として、蛍光強度の時間的変化において特定の時間的変化が生じるまでの所要時間を取得し、当該所要時間を予め設定された基準値と比較することにより、紫外線硬化樹脂の状態を推定する。
【0047】
(6)硬化用紫外線の照射前後における紫外線硬化樹脂の状態推定
製造ライン等においては、硬化用紫外線の照射前および照射後(照射終了時)において、紫外線硬化樹脂の状態を推定し、異常の有無を判断できればより効率的な製造が可能となる。すなわち、硬化用紫外線の照射前においては、紫外線硬化樹脂の種類の誤り、紫外線硬化樹脂の量の誤り、紫外線硬化樹脂の品質の変化、および紫外線硬化樹脂の保管中における意図しない硬化反応の進行等を発見することができる。また、硬化用紫外線の照射後(照射終了時)においては、紫外線硬化樹脂の種類の誤り、紫外線硬化樹脂の量の誤り、紫外線硬化樹脂の品質の変化、および硬化用紫外線の照射不足あるいは照射過多等を発見することができる。一例として、前記紫外線硬化樹脂の硬化反応を生じさせるための硬化用紫外線の照射前において測定される蛍光強度に基づいて、前記紫外線硬化樹脂の状態を推定する。
【0048】
上記の硬化用紫外線の照射前における紫外線硬化樹脂の状態推定によれば、硬化反応を生じさせる前に紫外線硬化樹脂の異常の有無を検査できる。これにより、当初から異常な紫外線硬化樹脂に対して、硬化用紫外線を無駄に照射しなくても済む。したがって、製造ライン等の生産効率を向上させることができる。
【0049】
また、同様に、硬化用紫外線の照射後(照射終了時)における紫外線硬化樹脂の状態推定によれば、硬化反応が完了した紫外線硬化樹脂の異常の有無を検査できる。これにより、硬化用紫外線の照射不足あるいは照射過多等の規格に不適合な紫外線硬化樹脂を発見できる。一例として、紫外線硬化樹脂の硬化反応を生じさせるための硬化用紫外線の照射後において測定される蛍光強度に基づいて、前記紫外線硬化樹脂の状態を推定する。
【0050】
(状態推定装置)
本発明の状態推定方法を実現する一つの実施形態である状態推定装置について以下説明する。
【0051】
状態推定装置は、状態推定部を備えており、状態推定部は、CPU(Central Processing Unit)と、表示部と、操作部と、記憶部と、照射警告部とからなる。
【0052】
CPUは、操作部からの操作の指示および硬化用紫外線照射装置からの照射状態信号に応じて、蛍光測定用ヘッド部に対して、蛍光測定用紫外線の照射指示を出力する。CPUは、蛍光測定用ヘッド部に対する蛍光測定用紫外線の照射指示に対応して、蛍光測定用ヘッド部から放射される蛍光測定用紫外線に対する防護を促すために、照射警告部を点灯または点滅する。そして、CPUは、蛍光測定用ヘッド部により測定された蛍光強度を受けて、対象となる紫外線硬化樹脂の状態を推定し、その推定結果等を表示部へ出力する。それと同時に、CPUは、蛍光測定用ヘッド部により測定された蛍光強度を示す信号(アナログ,デジタル)を外部装置等へ出力する。さらに、CPUは、記憶部から予め格納された各種データを読出し、また計測されたデータ等を記憶部へ格納する。
【0053】
表示部は、例えば、LCD(Liquid Crystal Display)やCRT(Cathode-Ray tube)等のディスプレイを含み、CPUから受けた蛍光強度変化のグラフ等を表示する。
【0054】
操作部は、各種スイッチ等からなり、ユーザからの操作を受け付けて、その操作に応じた操作の指示をCPUへ出力する。
【0055】
照射警告部は、例えば、LEDやランプ等からなり、状態推定装置に近接する位置にいるユーザ等に対して、蛍光測定用紫外線が照射中であることを表示する。
【0056】
記憶部は、例えば、EEPROM(Electrically Erasable and Programmable Read only Memory)等からなり、測定データや紫外線硬化樹脂の種類と対応付けられた各種データ等を格納する。
【0057】
蛍光測定用ヘッド部は、投光駆動回路と、投光素子と、ハーフミラーと、光フィルタと、受光素子と、HPF(High Pass Filter)と、増幅回路と、S/H(Sample and Hold)と、アナログデジタル変換部(ADC)とからなる。
【0058】
投光駆動回路は、CPUから受けた蛍光測定用紫外線の照射指示に従い、所定の周期でパルス状の電圧を投光素子へ印加する。
【0059】
投光素子は、例えば、紫外線LEDからなり、投光駆動回路により印加されたパルス電圧に応じて、蛍光測定用紫外線を発生して放射する。この発明の実施の形態においては、投光素子は、主発光ピークを365nmにもつ蛍光測定用紫外線を照射する。
【0060】
ハーフミラーは、投光素子と同一の光軸上に配置され、投光素子から放射される蛍光測定用紫外線を透過する一方、測定対象である紫外線硬化樹脂により放射される蛍光の伝播経路を変化させて、光フィルタへ導く。例えば、ハーフミラーの反射面は、金属蒸着により形成される。
【0061】
光フィルタは、投光素子から照射される蛍光測定用紫外線等の外乱光を取除くために配置されたものであり、紫外領域の光を減衰させる一方で可視領域の光を透過するように構成される。この発明の実施の形態においては、光フィルタは、波長が410nm以上の光を透過する誘電体多層膜のフィルタである。
【0062】
受光素子は、一例としてフォトダイオードからなり、光フィルタを透過して入射する蛍光の強度に応じた電流を発生し、HPFへ出力する。
【0063】
HPFは、受光素子から受けた蛍光強度信号のうち、直流成分および低周波成分を除去し、蛍光測定用紫外線により生じた成分を抽出するように所定の周波数以上の信号だけを通過させる。
【0064】
増幅回路は、HPFを通過した信号を所定の増幅率(電流電圧変換率)で増幅して、S/H回路へ出力する。
【0065】
S/H回路は、投光素子の発光タイミングと同期して受光強度信号をサンプリングし、サンプリングした信号値を次回のサンプリング時まで保持することにより、パルス状の投光が行われる所定の周期毎に各周期における信号の最大振幅値を測定し、測定した最大振幅値を各周期内において維持する。
【0066】
アナログデジタル変換部は、S/H回路から出力される電圧信号(アナログ信号)をデジタル値に変換して、CPUへ出力する。
【0067】
次いで、蛍光測定用ヘッド部の光学系の概略を説明する。
【0068】
蛍光測定用ヘッド部は、集束レンズをさらに備える。そして、投光素子、ハーフミラー、集束レンズおよび対象とする紫外線硬化樹脂が同一直線上に配置され、投光素子から照射された蛍光測定用紫外線が、集束レンズを介して紫外線硬化樹脂において特定の直径範囲に集束するように構成される。そして、紫外線硬化樹脂から放射された蛍光は、蛍光測定用紫外線と同一の経路を逆方向に伝播してハーフミラーで反射されて伝播経路を変化させる。さらに、蛍光は、光フィルタを介して受光素子へ入射する。なお、投光素子の照射面から集束レンズまでの距離と、集束レンズから紫外線硬化樹脂までの距離とは、略同一となるように構成される。
【0069】
蛍光強度測定装置(例えば、OL301;センテック社製)に、前記基材に含有される材料から放射される蛍光の強度が、前記光重合開始剤から放射される蛍光の強度を上回らないような蛍光測定用紫外線の照射波長を有する投光素子(例えば、当該紫外線の照射波長特性を有するLED)を具備させればよい。前記と同じ蛍光強度測定装置に、蛍光強度の測定部に、前記照射ステップにおいて照射される蛍光測定用紫外線を受けて、基材に含有される材料から放射される蛍光と前記光重合開始剤から放射される蛍光との両者のうち後者が優先的または選択的に測定されるような波長を除去するフィルタ(例えば、カットフィルタ)を具備させればよい。
【0070】
(紫外線硬化樹脂の状態推定)
例えば、下記のような処理に従い、紫外線硬化樹脂の状態推定を行なう。以下に、パターンA〜Dの4種のパターンを順に説明する。なお、このような状態推定は、基材としてポリエステル樹脂を用いること以外は、特許第4185939号に記載されている。
【0071】
(パターンA)
まず、CPUは、硬化用紫外線の照射開始直後であるか否かを判断する(以下、ステップ11という)。硬化用紫外線の照射開始直後である場合には、前回蛍光強度に取得した蛍光強度をセットし、ステップ11に戻る。
【0072】
ステップ11において、硬化用紫外線の照射開始直後でないと判断した場合には、CPUは、蛍光強度の増加開始後であるか否かを判断する。なお、蛍光強度の増加開始後とは、下記のステップ12において、CPUが蛍光速度の増加開始であると判定した後を意味する。
【0073】
蛍光強度の増加開始後でない場合には、CPUは、今回取得した蛍光強度と前回蛍光強度との差から変化速度を算出する。そして、CPUは、算出した変化速度がゼロより大きいか否かを判断する。算出した変化速度がゼロより大きい場合には、CPUは、蛍光強度の増加開始であると判定し(以下、ステップ12という)、その時点の蛍光強度を基準蛍光強度として格納し、元の処理に戻る。一方、算出した変化速度がゼロより大きくない場合には、CPUは、元の処理に戻る。なお、蛍光速度の増加開始を判断するための値は、ゼロ以外の予め定められた正の値でもよい。
【0074】
蛍光強度の増加開始後である場合には、CPUは、基準蛍光強度に対する蛍光強度の変化量が予め設定された閾値を超過したか否かを判断する。具体的には、CPUは、基準蛍光強度に対する今回取得した蛍光強度の差が閾値を超過しているか否か、または基準蛍光強度に対する今回取得した蛍光強度の比が閾値を超過しているか否かのうちいずれかを判断する。いずれの判断基準を採用するかは、あらかじめユーザが指定することもできる。そして、基準蛍光強度に対する蛍光強度の変化量が予め設定された閾値を超過している場合には、CPUは、光紫外線硬化樹脂の硬化度が最大硬化度に到達したとみなし、元の処理(ステップ11)に戻る。
【0075】
一方、基準蛍光強度に対する蛍光強度の変化量が予め設定された閾値を超過していない場合には、CPUは、元の処理(ステップ11)に戻る。
【0076】
(パターンB)
CPUは、硬化用紫外線照射装置からの照射状態信号に基づいて、硬化用紫外線の照射が開始されたか否かを判断する。硬化用紫外線の照射が開始されていない場合には、CPUは、スタート時点(以下、ステップ21という)へ戻る。
【0077】
硬化用紫外線の照射が開始されている場合には、CPUは、蛍光測定用ヘッド部へ蛍光測定用紫外線の照射指示を与える(以下、ステップ22という)。すると、蛍光測定用ヘッド部は、蛍光測定用紫外線を対象とする紫外線硬化樹脂へ照射する。そして、CPUは、蛍光測定用紫外線を受けて、当該紫外線硬化樹脂に含まれる光重合開始剤から放射される蛍光の蛍光強度を蛍光測定用ヘッド部から取得する。
【0078】
続いて、CPUは、取得した蛍光強度を記憶部へ格納するとともに、所定数以上の蛍光強度データが記憶部に蓄積されているか否かを判断する。所定数以上の蛍光強度データが蓄積されていない場合には、CPUは、ステップ22へ戻る。
【0079】
所定数以上の蛍光強度データが蓄積されている場合には、CPUは、記憶部から所定数の蛍光強度データを読出し、平均化処理(移動平均)を実行して、当該時点の蛍光強度を算出する。
【0080】
さらに、CPUは、算出された蛍光強度に基づいて、紫外線硬化樹脂の状態推定処理を実行する(以下、ステップ23という)。具体的には、CPUは、下記のような処理フローを含むサブルーチンを呼び出して実行する。
【0081】
続いて、CPUは、状態推定処理の結果等を表示部等へ出力し、測定終了条件を満たすかどうか判断する。測定終了条件としては、硬化用紫外線の照射が開始されてから所定の時間が経過したこと、ステップ23において、例えば、紫外線硬化樹脂の硬化度が最大硬化度に到達したと判定されたというような特定の結果が得られたこと等の条件が適宜採用される。測定終了条件が満たされていない場合には、CPUは、ステップ22へ戻る。一方、測定終了条件が満たされた場合には、CPUは、スタート時点(ステップ21)へ戻る。
【0082】
(パターンC)
CPUは、ユーザ等から入力される紫外線硬化樹脂および照射条件等の特定情報を取得し、取得した特定情報に基づいて、記憶部等から基準となる特定の時間的変化および所要時間を読出す。そして、CPUは、取得した蛍光強度に特定の時間的変化が生じているか否かを判断する。
【0083】
取得した蛍光強度に特定の時間的変化が生じている場合には、CPUは、硬化用紫外線の照射開始からの所要時間を算出する。さらに、CPUは、基準となる所要時間に対する算出した所要時間の偏差が予め設定された閾値以上であるか否かを判断する。基準となる所要時間に対する算出した所要時間の偏差が予め設定された閾値以上でない場合には、CPUは、対象とする紫外線硬化樹脂が正常であると推定する。一方、基準となる所要時間に対する算出した所要時間の偏差が予め設定された閾値以上である場合には、CPUは、対象とする紫外線硬化樹脂が異常であると推定する。そして、CPUは、元の処理に戻る。
【0084】
また、取得した蛍光強度に特定の時間的変化が生じていない場合には、CPUは、元の処理に戻る。
【0085】
(パターンD)
硬化用紫外線の照射前後における紫外線硬化樹脂の状態推定に係るフローチャートを下記する。
【0086】
CPUは、硬化用紫外線照射装置からの硬化用紫外線の照射状態信号に基づいて、硬化用紫外線の照射前または照射後であるか否かを判断する。いずれの判断基準を採用するかは、あらかじめユーザが指定することもできる。硬化用紫外線の照射前または照射後でない場合には、CPUは、硬化用紫外線の照射前または照射後まで待つ。
【0087】
硬化用紫外線の照射前または照射後である場合には、CPUは、硬化用紫外線の照射前または照射後に応じた、紫外線硬化樹脂および照射条件等の特定情報を取得し、取得した特定情報に基づいて、記憶部等から基準となる蛍光強度を読出す(ステップ41)。そして、CPUは、蛍光測定用ヘッド部へ照射指令を与える(ステップ42)。すると、蛍光測定用ヘッド部は、蛍光測定用紫外線を、対象とする紫外線硬化樹脂へ照射する。そして、CPUは、蛍光測定用紫外線を受けて、当該紫外線硬化樹脂に含まれる光重合開始剤により放射される蛍光の蛍光強度を蛍光測定用ヘッド部から取得する。
【0088】
続いて、CPUは、取得した蛍光強度を記憶部へ格納するとともに、所定数以上の蛍光強度データが記憶部に蓄積されているか否かを判断する(ステップ42)。所定数以上の蛍光強度データが蓄積されていない場合には、CPUは、ステップ41〜42を繰返し実行する。
【0089】
所定数以上の蛍光強度データが蓄積されている場合には、CPUは、記憶部から所定数の蛍光強度データを読出し、平均化処理を実行して、当該時点の蛍光強度を算出する。
【0090】
さらに、CPUは、算出した蛍光強度がステップ41において読出した基準となる蛍光強度に対する算出した当該時点の蛍光強度の偏差が予め設定された閾値以上であるか否かを判断する。基準となる蛍光強度に対する算出した当該時点の蛍光強度の偏差が予め設定された閾値以上でない場合には、CPUは、硬化用紫外線の照射前または照射後の紫外線硬化樹脂が正常であると推定する。一方、基準となる蛍光強度に対する算出した当該時点の蛍光強度の偏差が予め設定された閾値以上である場合には、CPUは、照射前または照射後の紫外線硬化樹脂が異常であると推定する。そして、CPUは、処理を終了する。
【0091】
なお、上記で得られた蛍光強度の測定結果に基づいて、基材および紫外線硬化樹脂の接着性を評価することができる。基材および紫外線硬化樹脂の接着性を評価する方法は、基準選定ステップおよび評価ステップを含む。
【0092】
(基準選定ステップ)
「基準選定ステップ」は、同種のサンプル(基材および紫外線硬化樹脂)について、接着性の良否を判断する基準を選定するステップである。
例えば、まず、複数の同種の基準選定用サンプルについて、上記のように蛍光強度を測定した後、公知の接着性評価方法で、前記サンプルの接着性を評価する。同種の基準選定用サンプルとは、基材および紫外線硬化樹脂の種類が同じであり、基材および紫外線硬化樹脂の膜厚が同じであるサンプルをいう。公知の接着性評価方法としては、例えば、カッターナイフ試験、ピール試験等の剥離試験等が挙げられる。
蛍光強度測定結果および公知の接着性評価方法から、蛍光強度がある一定の強度よりも高ければ、同種のサンプルについては、接着性は良好であると推定することができる基準となる蛍光強度の値(基準値)を選定する。
【0093】
(評価ステップ)
「評価ステップ」は、基準選定ステップにおいて選定された基準値に基づいて、基材および紫外線硬化樹脂の接着性を評価する評価ステップである。
例えば、基準選定に用いたサンプルと同種の評価用サンプルについて、蛍光強度を測定し、蛍光強度が基準選定ステップで選定された基準値よりも高ければ、該サンプルについては、接着性は良好であると推定することができる。また、基準選定に用いたサンプルと同種のサンプルについて、蛍光強度を測定し、蛍光強度が基準選定ステップで選定された基準値よりも低ければ、該サンプルについては、接着性は良好ではないと推定することができる。このようにして、同種のサンプルを、剥離試験等のサンプルの破壊を伴う試験に供することなく、接着性評価を行うことができる。
この接着性評価は、インラインで実行することができる。
【0094】
上記の紫外線硬化樹脂と基材との接着性評価方法と本発明の紫外線硬化樹脂の状態推定方法とを組み合わせることにより、紫外線硬化樹脂の状態を推定するとともに、当該樹脂と基材との接着性についても同時に評価することができる。
【0095】
最後に、モノマーおよびオリゴマーからなる群から選ばれる少なくとも一つの主剤と、紫外線の照射によって蛍光を放射する光重合開始剤とを含む紫外線硬化樹脂を硬化させることによる硬化樹脂の製造方法について説明する。
【0096】
本製造方法は、
(A)紫外線の照射によって蛍光を放射する材料を含有する基材と紫外線硬化樹脂とから、紫外線の照射によって蛍光を放射する材料を含有する基材とともに存在している紫外線硬化樹脂を調製する工程、
(B)調製された紫外線硬化樹脂に、硬化用紫外線を照射して、前記紫外線硬化樹脂を硬化させる工程、
(C)前記材料から放射される蛍光の強度が、前記光重合開始剤から放射される蛍光の強度を上回らない波長を有する紫外線を、硬化させた紫外線硬化樹脂に照射する工程、
(D)前記工程(C)において照射される紫外線を受けて、前記材料から放射される蛍光と前記光重合開始剤から放射される蛍光との両者のうち、後者が優先的または選択的に測定されるような蛍光の波長における蛍光強度を測定する工程、
(E)前記工程(D)において測定される蛍光強度に基づいて、硬化させた紫外線硬化樹脂の状態を推定し、該紫外線硬化樹脂の品質の良否を判断する工程、を有する。
【0097】
かかる製造方法によれば、製造された紫外線硬化樹脂を含む製品を抜き取って検査する必要なく、より容易に、また、より早く紫外線硬化樹脂の品質の良否を判断することができる。また、より早く紫外線硬化樹脂の品質の良否を判断することができるため、判断結果が否であった場合には、製品の不良に早期に気付くことができ、その結果、規格に適合しない製品の製造を減らすことができ、また、早期に製品の製造条件(例えば、硬化用紫外線の照射量など)等の変更を行うことができる。特に、製品を連続的に製造する場合に、本製造方法は好適である。このような製品としては、偏光フィルムが挙げられる。
【0098】
工程(A)では、紫外線の照射によって蛍光を放射する材料を含有する基材と紫外線硬化樹脂とから、紫外線の照射によって蛍光を放射する材料を含有する基材とともに存在している紫外線硬化樹脂が調製される。具体的には、前記基材に、前記紫外線硬化樹脂を塗布する工程等が挙げられる。該基材には、紫外線の照射によって蛍光を放射しない材料が含まれていてもよい。例えば、紫外線の照射によって蛍光を放射する材料からなるフィルムと紫外線の照射によって蛍光を放射しない材料からなるフィルムとを、紫外線硬化樹脂により貼合させて、各フィルムの間に紫外線硬化樹脂の層が設けられた積層フィルムを調製する工程が挙げられる。
【0099】
工程(B)は、前記工程(A)で調製された紫外線硬化樹脂に、硬化用紫外線を照射して、前記紫外線硬化樹脂を硬化させる工程である。硬化用紫外線の波長や照射時間は、紫外線硬化樹脂の種類等により適宜選択される。
【0100】
工程(C)は、前記材料から放射される蛍光の強度が、前記光重合開始剤から放射される蛍光の強度を上回らない波長を有する紫外線(蛍光測定用紫外線)を、硬化させた紫外線硬化樹脂に照射する工程であり、前記した本発明の状態推定方法の「照射ステップ」と同様の操作が、前記工程(B)で得られた硬化させた紫外線硬化樹脂に対して行われる。蛍光測定用紫外線は、例えば、一定時間経過ごと等の予め定められた間隔で、照射してもよいし、連続的に照射してもよい。連続的に蛍光測定用紫外線を照射することが好ましく、連続的に紫外線を照射することにより、後述の工程(D)において、蛍光強度を連続的に測定することができ、その結果、紫外線硬化樹脂の品質の良否を判断するのみならず、品質のささいな変化についての情報も得ることができ、品質異常をより早く発見することができ、より安定して紫外線硬化樹脂を製造することができる。
【0101】
工程(D)は、前記工程(C)において照射される紫外線を受けて、前記材料から放射される蛍光と前記光重合開始剤から放射される蛍光との両者のうち、後者が優先的または選択的に測定されるような蛍光の波長における蛍光強度を測定する工程であり、前記した本発明の状態推定方法の「測定ステップ」と同様の操作が行われる。
【0102】
工程(E)は、前記工程(D)において測定される蛍光強度に基づいて、硬化させた紫外線硬化樹脂の状態を推定し、該紫外線硬化樹脂の品質の良否を判断する工程であり、前記した本発明の状態推定方法の「推定ステップ」と同様の操作が行われ、硬化させた紫外線硬化樹脂の状態を推定し、予め定めた紫外線硬化樹脂の品質の良否を判断する基準と前記状態とから、紫外線硬化樹脂の品質の良否、つまり、紫外線硬化樹脂の硬化反応が略終了しているか否かを判断する工程である。例えば、前記工程(D)で測定された蛍光強度が所定の値以上であれば、紫外線硬化樹脂の硬化反応が略終了している状態であり、良好な製品が製造されている、と判断する。一方、前記工程(D)で測定された蛍光強度が所定の値を下回る場合には、紫外線硬化樹脂の硬化反応が終了していない状態であり、製品不良である、と判断する。製品不良と判断された場合には、例えば、製造をストップし、製造条件(例えば、硬化用紫外線の照射量)、基材の種類等が正常であるかどうかの確認を行い、製造条件の変更等を行い、製造を再度開始する。
【実施例】
【0103】
本発明の実施形態に従う紫外線硬化樹脂の状態推定方法を実現する一実施形態の概略を下記する。
【0104】
本発明の実施形態に従う紫外線硬化樹脂の状態推定方法は、状態推定装置と、硬化用紫外線照射装置とを用いて、試料台上に配置された紫外線硬化樹脂の状態を推定する。そして、状態推定装置は、硬化用紫外線照射装置からの硬化用紫外線により硬化反応を生じる紫外線硬化樹脂の状態を推定する。
【0105】
状態推定装置は、蛍光測定用ヘッド部と、状態推定部とからなる。蛍光測定用ヘッド部は、状態推定部から受けた蛍光測定用紫外線の照射指示に応じて、蛍光を測定するための蛍光測定用紫外線を紫外線硬化樹脂に向けて照射する一方、紫外線硬化樹脂から放射される蛍光を受光して、測定される蛍光強度を状態推定部へ出力する。
【0106】
状態推定部は、硬化用紫外線照射装置からの硬化用紫外線の照射状態信号に基づいて、蛍光測定用ヘッド部へ蛍光測定用紫外線の照射指示を与える。そして、状態推定部は、蛍光測定用ヘッド部において測定された蛍光強度に基づいて、紫外線硬化樹脂の状態を推定する。
【0107】
硬化用紫外線照射装置は、紫外線照射ヘッド部と、照射制御部とからなる。紫外線照射ヘッド部は、照射制御部からの硬化用紫外線の照射指示に応じて、紫外線硬化樹脂に対して、硬化用紫外線を照射する。照射制御部は、ユーザ等の外部からの指示に応じて、紫外線照射ヘッド部へ硬化用紫外線の照射指示を与えるとともに、その照射指示に同期して硬化用紫外線の照射状態信号を状態推定部へ出力する。
【0108】
次に、照射ステップにおいて照射される紫外線の波長と測定ステップにおいて測定される蛍光の波長との選択・決定方法の一例を記す。
【0109】
エポキシ樹脂(エピコートYX8000;ジャパンエポキシレジン社製)10gと紫外線の照射によって蛍光を放射する光重合開始剤である光カチオン重合開始剤(SP−500;ADEKA社製)4gとを褐色のスクリュー管に量り取り、混合して、紫外線硬化樹脂Xを調製した。
紫外線の照射によって蛍光を放射する材料として、ポリエチレンテレフタレート(以下、PETと略す。)からなるフィルムを用いた。紫外線の照射により蛍光を放射しない材料として、ポリビニルアルコール(以下、PVAと略す。)からなるフィルム、および、シクロオレフィンポリマー(以下、COPと略す。)からなるフィルムを用いた。これらフィルムを基材とした。
PVAからなるフィルムおよびCOPからなるフィルムの上に紫外線硬化樹脂Xをそれぞれ載せた。PETからなるフィルム、紫外線硬化樹脂Xが載せられたPVAからなるフィルムおよび紫外線硬化樹脂Xが載せられたCOPからなるフィルムを、フィルム貼合機(LPA3301;FUJIPLA社製)を用いて密着させることにより、PETからなるフィルム、PVAからなるフィルムおよびCOPからなるフィルムが、この順で積層され、各フィルムの間に紫外線硬化樹脂Xの層を有するフィルムを作製した。このようにして、「紫外線硬化樹脂が、紫外線の照射により蛍光を放射する材料を含有する基材とともに存在する紫外線硬化樹脂」を調製した。
【0110】
次いで、作製したフィルムを、所定の波長を有する硬化用紫外線を照射するように予め設定された露光機(CV−1100−G;フュージョンUVシステムズ・ジャパン社製)に入れ、当該露光機の内を任意の一定速度で通過させることにより、任意の積算光量(具体的には、0mJ/cm、750mJ/cm、1050mJ/cm)で紫外線が照射されたモデル試料を作製した。このようにして、紫外線硬化樹脂Xが未硬化状態から完全に硬化した状態までの硬化段階において異なる硬化段階にある、3種のモデル試料を準備した。
【0111】
次いで、作製した3種のモデル試料について、蛍光スペクトルアナライザー(Fluoro Max−3;堀場製作所社製)を用いて、当該装置により照射される蛍光測定用紫外線を受けて放射される蛍光の強度を、蛍光スペクトルとして測定することにより、照射される蛍光測定用紫外線の波長別(図1〜図3参照、図1:250nm、図2:300nm、図3:350nm)に、照射された硬化用紫外線の積算光量毎(すなわち、図1〜図3の各図におけるパラメーター別での表示参照、パラメーターA:0mJ/cm、パラメーターB:750mJ/cm、パラメーターC:1050mJ/cm)に、蛍光スペクトル(横軸:蛍光スペクトルアナライザーにより測定される蛍光の波長、縦軸:モデル試料から放射される蛍光の強度)を取得した。
【0112】
図1(250nm)および図3(350nm)では、照射された硬化用紫外線の各積算光量(パラメーターA:0mJ/cm、パラメーターB:750mJ/cm、パラメーターC:1050mJ/cm)において、蛍光スペクトルの波形に差異を有するものは存在していなかった。すなわち、紫外線硬化樹脂の硬化段階に応じて、モデル試料から放射される蛍光の強度が変化する波形を有する「照射される蛍光測定用紫外線の波長」は存在しないことが判明した。
一方、図2(300nm)では、照射された硬化用紫外線の各積算光量(パラメーターA:0mJ/cm、パラメーターB:750mJ/cm、パラメーターC:1050mJ/cm)において、蛍光スペクトルの波形に差異を有しており、紫外線硬化樹脂の硬化段階に応じて、モデル試料から放射される蛍光の強度が変化する波形を有する「照射される蛍光測定用紫外線の波長」が存在することが判明した。
以上の結果から、照射される蛍光測定用紫外線の波長として、300nmを選択した。
【0113】
さらに、図2(300nm)から、照射された硬化用紫外線の各積算光量(パラメーターA:0mJ/cm、パラメーターB:750mJ/cm、パラメーターC:1050mJ/cm)における蛍光スペクトルの波形において、450nm以上の波長領域で、その蛍光強度に有意な差異を示していることが判明した。
以上の結果から、蛍光スペクトルアナライザーにより測定される蛍光の波長として、450nm以上を選択した。
【0114】
上記した方法に準じることにより、種々の紫外線硬化樹脂について、照射ステップにおいて照射される蛍光測定用紫外線の波長(すなわち、前記基材に含有される材料から放射される蛍光の強度が、前記光重合開始剤から放射される蛍光の強度を上回らないような波長)と、測定ステップにおいて測定される蛍光の波長(すなわち、基材に含有される材料から放射される蛍光と前記光重合開始剤から放射される蛍光との両者のうち後者が優先的または選択的に測定されるような波長)とを選択・決定することができる。
【0115】
次に、本発明の紫外線硬化樹脂の状態推定方法を実証するための試験例の一例を記載する。
【0116】
エポキシ樹脂(エピコートYX8000;ジャパンエポキシレジン社製)10gと紫外線の照射によって蛍光を放射する光重合開始剤である光カチオン重合開始剤(SP−500;ADEKA社製)4gとを褐色のスクリュー管に量り取り、混合して、紫外線硬化樹脂Yを調製した。紫外線硬化樹脂Yは、紫外線硬化樹脂Xと同じモノマーおよび光重合開始剤を含有する。
紫外線の照射によって蛍光を放射する材料として、PETからなるフィルムを用い、紫外線の照射により蛍光を放射しない材料として、PVAからなるフィルムおよびCOPからなるフィルムを用いた。これらフィルムを基材とした。
PVAからなるフィルムおよびCOPからなるフィルムの上に紫外線硬化樹脂Yをそれぞれ載せた。PETからなるフィルム、紫外線硬化樹脂Yが載せられたPVAからなるフィルムおよび紫外線硬化樹脂Yが載せられたCOPからなるフィルムを、フィルム貼合機(LPA3301;FUJIPLA社製)を用いて密着させることにより、PETからなるフィルム、PVAからなるフィルムおよびCOPからなるフィルムが、この順で積層され、各フィルムの間に紫外線硬化樹脂Yの層を有するフィルムを作製した。このようにして、「紫外線硬化樹脂が、紫外線の照射により蛍光を放射する材料を含有する基材とともに存在する紫外線硬化樹脂」を調製した。
【0117】
次いで、作製したフィルムを、所定の波長を有する硬化用紫外線を照射するように予め設定された露光機(CV−1100−G;フュージョンUVシステムズ・ジャパン社製)に入れ、当該露光機内を任意の一定速度で通過させることにより、任意の積算光量(具体的には、0mJ/cm、50mJ/cm、100mJ/cm、300mJ/cm、600mJ/cm、1000mJ/cm)で紫外線が照射された実証用試料を作製した。このようにして、紫外線硬化樹脂Yが未硬化状態から完全に硬化した状態までの硬化段階において異なる硬化段階にある、6種の実証用試料を準備した。
【0118】
次いで、蛍光強度測定装置(OL301;センテック社製)において、その光源をLEDランプ(出力波長特性310nm)に変更し、ついで蛍光測定のために450nm以下の波長をカットするフィルタを具備させた。そして、上記で作製した6種の実証用試料について、当該装置により照射される蛍光測定用紫外線を受けて放射される蛍光の強度を測定した。
得られた結果を図4(横軸:実証用試料に照射された硬化用紫外線の積算光量、縦軸:蛍光強度測定装置により測定される、実証用試料から放射された蛍光の強度)に示した。
【0119】
図4から明らかなように、実証用試料に照射された硬化用紫外線の積算光量が増加するとともに、蛍光強度測定装置により測定される、実証用試料から放射された蛍光の強度が増加しており、その相関関係は正の相関があるものであった。なお、別途検討された、赤外線分光分析による「使用された紫外線硬化樹脂」の硬化挙動解析結果から、照射された硬化用紫外線の積算光量が200mJ/cm以上になれば、当該紫外線硬化樹脂の硬化反応はほぼ終了していることが既に判っている。当該知見を加えて、上記試験例の結果を解析した結果、蛍光強度測定装置により測定される、実証用試料から放射された蛍光の強度が0.4V以上に至れば、当該紫外線硬化樹脂の硬化反応がほぼ終了している(すなわち、紫外線硬化樹脂の状態)と推定できる。
【0120】
エポキシ樹脂(エピコートYX8000;ジャパンエポキシレジン社製)と紫外線の照射によって蛍光を放射する光重合開始剤である光カチオン重合開始剤(SP−500;ADEKA社製)とを混合して、紫外線硬化樹脂を調製する。
PETからなるフィルムのPVAに接する面およびCOPからなるフィルムのPVAに接する面に、上記で調製した紫外線硬化樹脂を塗布し、紫外線硬化樹脂が塗布されたPETからなるフィルム、PVAからなるフィルムおよび紫外線硬化樹脂が塗布されたCOPからなるフィルムを、フィルム貼合機(LPA3301;FUJIPLA社製)を用いて、連続的に密着させて、PETからなるフィルム、PVAからなるフィルムおよびCOPからなるフィルムが、この順で積層され、各フィルムの間に紫外線硬化樹脂層を有するフィルムを連続的に製造する。製造されたフィルムを、所定の波長を有する硬化用紫外線を照射するように予め設定された露光機(CV−1100−G;フュージョンUVシステムズ・ジャパン社製)に入れ、当該露光機内を一定速度で通過させることにより、所定の積算光量で紫外線が照射されたフィルムを製造するとともに、製造されたフィルムに対して、蛍光強度測定装置(OL301;センテック社製)により蛍光測定用紫外線を連続的に照射し、該蛍光測定用紫外線を受けて放射される蛍光の強度を連続的に測定し、測定される蛍光の強度の値が、予め設定された、紫外線硬化樹脂の硬化反応が略終了している状態であると判断可能な所定値以上であるか否かをチェックする。これにより、良好な品質のフィルムが連続的に製造されているか否かをより容易に判断することができる。
【0121】
上記PETからなるフィルムに代えて、ポリカーボネートからなるフィルムを用いる以外は上記と同様にして、ポリカーボネートからなるフィルム、PVAからなるフィルムおよびCOPからなるフィルムが、この順で積層され、各フィルムの間に紫外線硬化樹脂層を有するフィルムを作製し、作製したフィルムについて、上記と同様に実施することにより、紫外線硬化樹脂の状態を推定することができる。上記PETからなるフィルムに代えて、ポリエーテルスルホンからなるフィルムを用いる以外は上記と同様にして、ポリエーテルスルホンからなるフィルム、PVAからなるフィルムおよびCOPからなるフィルムが、この順で積層され、各フィルムの間に紫外線硬化樹脂層を有するフィルムを作製し、作製したフィルムについて、上記と同様に実施することにより、紫外線硬化樹脂の状態を推定することができる。
【0122】
上記COPからなるフィルムに代えて、PETからなるフィルムを用いる以外は上記と同様にして、PETからなるフィルム、PVAからなるフィルムおよびPETからなるフィルムが、この順で積層され、各フィルムの間に紫外線硬化樹脂層を有するフィルムを作製し、作製したフィルムについて、上記と同様に実施することにより、紫外線硬化樹脂の状態を推定することができる。
【産業上の利用可能性】
【0123】
本発明によれば、紫外線の照射により蛍光を放射する材料を含有する基材とともに存在している紫外線硬化樹脂に適用可能であり、光重合開始剤の特性に基づいて紫外線硬化樹脂の状態を推定する方法等を実現できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
モノマーおよびオリゴマーからなる群から選ばれる少なくとも一つの主剤と、紫外線の照射によって蛍光を放射する光重合開始剤とを含む紫外線硬化樹脂の状態を推定する方法であって、
前記紫外線硬化樹脂が、紫外線の照射によって蛍光を放射する材料を含有する基材とともに存在している紫外線硬化樹脂であり、
前記材料から放射される蛍光の強度が、前記光重合開始剤から放射される蛍光の強度を上回らない波長を有する紫外線を、前記紫外線硬化樹脂に照射する照射ステップと、
前記照射ステップにおいて照射される紫外線を受けて、前記材料から放射される蛍光と前記光重合開始剤から放射される蛍光との両者のうち、後者が優先的または選択的に測定されるような蛍光の波長における蛍光強度を測定する測定ステップと、
前記測定ステップにおいて測定される蛍光強度に基づいて、前記紫外線硬化樹脂の状態を推定する推定ステップと、を含む紫外線硬化樹脂の状態推定方法。
【請求項2】
前記推定ステップが、前記紫外線硬化樹脂の硬化反応を生じさせるための硬化用紫外線の照射中において、前記紫外線硬化樹脂の硬化反応に伴って生じる蛍光強度の時間的変化に基づいて、前記紫外線硬化樹脂の状態を推定するステップである請求項1記載の紫外線硬化樹脂の状態推定方法。
【請求項3】
前記推定ステップが、測定される蛍光強度の時間的変化と、予め設定された基準となる時間的変化とを比較することにより前記紫外線硬化樹脂の状態を推定するステップである請求項2記載の紫外線硬化樹脂の状態推定方法。
【請求項4】
前記推定ステップが、特定の基準時点から蛍光強度が特定の時間的変化を生じるまでの所要時間を取得し、当該取得した所要時間を予め設定された基準値と比較することにより前記紫外線硬化樹脂の状態を推定するステップである請求項2記載の紫外線硬化樹脂の状態推定方法。
【請求項5】
前記推定ステップが、前記紫外線硬化樹脂の硬化反応を生じさせるための硬化用紫外線の照射前において測定される蛍光強度に基づいて、前記紫外線硬化樹脂の状態を推定するステップである請求項1記載の紫外線硬化樹脂の状態推定方法。
【請求項6】
前記推定ステップが、前記紫外線硬化樹脂の硬化反応を生じさせるための硬化用紫外線の照射後において測定される蛍光強度に基づいて、前記紫外線硬化樹脂の状態を推定するステップである請求項1記載の紫外線硬化樹脂の状態推定方法。
【請求項7】
モノマーおよびオリゴマーからなる群から選ばれる少なくとも一つの主剤と、紫外線の照射によって蛍光を放射する光重合開始剤とを含む紫外線硬化樹脂を硬化させることによる硬化樹脂の製造方法において、
(A)紫外線の照射によって蛍光を放射する材料を含有する基材と紫外線硬化樹脂とから、紫外線の照射によって蛍光を放射する材料を含有する基材とともに存在している紫外線硬化樹脂を調製する工程、
(B)調製された紫外線硬化樹脂に、硬化用紫外線を照射して、前記紫外線硬化樹脂を硬化させる工程、
(C)前記材料から放射される蛍光の強度が、前記光重合開始剤から放射される蛍光の強度を上回らない波長を有する紫外線を、硬化させた紫外線硬化樹脂に照射する工程、
(D)前記工程(C)において照射される紫外線を受けて、前記材料から放射される蛍光と前記光重合開始剤から放射される蛍光との両者のうち、後者が優先的または選択的に測定されるような蛍光の波長における蛍光強度を測定する工程、および
(E)前記工程(D)において測定される蛍光強度に基づいて、硬化させた紫外線硬化樹脂の状態を推定し、該紫外線硬化樹脂の品質の良否を判断する工程、を含むことを特徴とする紫外線の照射によって蛍光を放射する材料を含有する基材とともに存在している紫外線硬化樹脂の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−80974(P2011−80974A)
【公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−16535(P2010−16535)
【出願日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】