説明

紫外線遮蔽能を有するガラス物品および紫外線遮蔽膜形成用微粒子分散組成物

【課題】紫外線遮蔽能の持続性に優れた紫外線遮蔽膜を有するガラス物品を提供する。
【解決手段】本発明による紫外線遮蔽膜には、酸化ケイ素と共に、常温で固体であるとともに分子量が5000以下である有機化合物Aの平均粒径150nm以下の微粒子が含まれている。このガラス物品は、例えば2%以下の紫外線透過率(TUV380)を有し、好ましくは70%を超える波長550nmにおける光線透過率(T550)を兼ね備える。紫外線遮蔽膜は、ポリエーテル化合物、ポリオール化合物等の有機化合物Bをさらに含んでいてもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス板とその上に形成された紫外線遮蔽膜とを備えたガラス物品に関する。また、本発明は、紫外線遮蔽膜を形成するための微粒子分散組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ガラス板には可視光線を透過させながら紫外線を遮蔽する特性が求められている。特に窓ガラス用途では、日焼け防止などの観点から、紫外線を遮蔽する機能(紫外線遮蔽能)を付加したガラス板への需要が高まっている。このため、酸化鉄(III;Fe23)など紫外線を吸収する無機成分の比率を高めた組成を有するガラス板が製造され、販売されている。
【0003】
ガラス板の組成の調整のみでは紫外線の遮蔽に限界があるため、ガラス板の上に紫外線遮蔽能を有する膜(紫外線遮蔽膜)を形成することが提案されている。例えば、国際公開第2006/137454号パンフレット(特許文献1)には、ガラス板上に、酸化ケイ素(シリカ)を主成分とし、有機物として親水性有機ポリマーおよび紫外線吸収剤を含む紫外線遮蔽膜を形成する技術が開示されている。この技術は、同じく本発明者による国際公開第2005/095101号パンフレット(特許文献2)に開示された耐摩耗性に優れた有機無機複合膜に紫外線遮蔽能を付加したものである。特許文献1には、紫外線吸収剤として、ベンゾトリアゾール系、ポリメチン系、イミダゾリン系などの有機化合物が開示されている。
【0004】
ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤は、広い波長域にわたって紫外線を吸収し、光線吸収能にも優れているため、紫外線によるプラスチックの劣化を防ぐ添加剤などとして広く用いられている。特許文献1の各実施例において使用されている紫外線吸収剤もベンゾトリアゾール系の化合物である。特許文献1に開示されている技術では、ゾルゲル法により膜を形成することとしている。ゾルゲル法により膜を形成するための溶液には極性溶媒である低級アルコールが用いられる。このため、特許文献1の各実施例では、常温で液体であるとともに低級アルコールに溶かすことができるベンゾトリアゾール系の紫外線吸収剤「チバ・スペシャリティ・ケミカルズ製TINUVIN1130」が選択され、この紫外線吸収剤が膜の形成溶液に添加されている。
【0005】
特開2009−184882号公報(特許文献3)には、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤を含み、非極性溶媒を含む溶液から形成した紫外線遮蔽膜を備えたガラス板が開示されている。この膜は、ゾルゲル法ではなく、低温硬化型のポリシラザンを含む溶液を用いて形成される。この溶液には非極性溶媒(例えばキシレン)が溶媒として用いられているため、紫外線吸収剤の選択肢は極性溶媒を用いる場合と比較して広くなる。特許文献3の実施例(調製例3)では、紫外域の長波長側における吸収能に優れたベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤「チバ・スペシャリティ・ケミカルズ製TINUVIN109」が用いられている。TINUVIN109も常温で液体である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2006/137454号パンフレット
【特許文献2】国際公開第2005/095101号パンフレット
【特許文献3】特開2009−184882号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記従来の紫外線遮蔽膜には、長期間にわたって屋外で使用されたときの紫外線遮蔽効果の低下を十分に抑制できないという問題がある。そこで、本発明の目的は、紫外線遮蔽効果の持続性に優れた紫外線遮蔽膜を備えたガラス物品を提供することにある。また、本発明の別の目的は、紫外線遮蔽効果の持続性に優れた紫外線遮蔽膜の形成に適した紫外線遮蔽膜形成用微粒子分散液を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、その一側面から、
ガラス板と、前記ガラス板上に形成された紫外線遮蔽膜と、を有し、
前記紫外線遮蔽膜が、酸化ケイ素とともに、
紫外線遮蔽成分として、常温で固体であるとともに分子量が5000以下である有機化合物Aの微粒子を含み、
前記微粒子の平均粒径が150nm以下である、紫外線遮蔽能を有するガラス物品、を提供する。
【0009】
本発明は、その別の一側面から、
液体である分散媒と、前記分散媒中に分散した紫外線遮蔽成分とを含み、
前記紫外線遮蔽成分が、常温で固体であるとともに分子量が5000以下である有機化合物Aの微粒子であり、
前記微粒子の平均粒径が150nm以下である、紫外線遮蔽膜形成用微粒子分散組成物、を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、長期間にわたって屋外で使用しても、紫外線遮蔽効果が低下しにくい紫外線遮蔽膜を備えたガラス物品を提供することができる。従来、ガラス板上の紫外線遮蔽膜に添加する紫外線吸収剤としては、溶液を用いた成膜法に適合するように、常温で液体である化合物が選択されていた。これに対し、本発明による紫外線遮蔽膜には、常温で固体である紫外線吸収剤である有機化合物Aが可視光線の透過を大幅に引き下げない程度の粒径を有する微粒子として添加されており、これにより、可視光線の透過率を維持しつつ紫外線遮蔽効果の持続性を改善することが可能となった。
【0011】
また、本発明では、分子量が5000以下である紫外線吸収剤を用いることとした。常温で固体である紫外線吸収剤としては、重合可能な紫外線吸収剤を重合させて得た高分子量の紫外線吸収剤も知られている。しかし、このような高分子紫外線吸収剤は、(メタ)アクリル基などの重合性官能基を導入した紫外線吸収剤を重合させて製造されるため、単位質量あたりで比較すると紫外線吸収に効果がある成分の量においては低分子量の紫外線吸収剤に劣る。本発明による紫外線遮蔽膜には、低分子量でありながらも常温で固体である紫外線吸収剤が膜に添加されており、これにより、良好な紫外線遮蔽効果を長期間維持することが可能となった。
【0012】
また、本発明による紫外線遮蔽膜形成用微粒子分散組成物は、紫外線遮蔽効果の持続性に優れた紫外線遮蔽膜を、量産に適した液相成膜法によりガラス板上に形成することを可能とする。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明によるガラス物品の一形態を示す断面図である。
【図2】実施例A11で作製した紫外線遮蔽膜付きガラス板のX線回折チャートである。
【図3】実施例B6で作製した紫外線遮蔽膜付きガラス板のX線回折チャートである。
【図4】実施例D1,D2で調製した分散液および比較例D1,D2で作製した溶液についての分光吸光度曲線を示す図である。
【図5】本発明によるガラス物品をドアガラスとして用いるときの形態を示す平面図である。
【図6】本発明によるガラス物品をドアガラスとして用いるときの別の形態を示す平面図である。
【図7】本発明によるガラス物品をドアガラスとして用いるときの形態を示す部分断面である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1に例示した本発明によるガラス物品は、ガラス板1と、その表面に直接形成された紫外線遮蔽膜2とを備えている。
【0015】
紫外線遮蔽膜2は、無機物(酸化ケイ素)とともに、有機物として、有機化合物Aの微粒子を含み、好ましくは有機化合物B(詳細は後述するが、例えばポリエーテルおよび/またはポリオールに相当する化合物)をさらに含む。紫外線遮蔽膜2は、有機物として、シランカップリング剤またはシランカップリング剤に由来する構造単位をさらに含んでいてもよい。「シランカップリング剤に由来する構造単位」とは、具体的には、シランカップリング剤が他の有機物または無機物と反応して生成した構造(シランカップリング剤誘導体)を指す。
【0016】
有機化合物Aは、常温で固体であるとともに分子量が5000以下であり、平均粒径が150nm以下となるように粉砕できるものであれば特に制限はなく、ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系、トリアジン系、ポリメチン系、イミダゾリン系など従来から公知の紫外線吸収剤を用いることができる。また、紫外線遮蔽能を有する限り、後述するベンゼンチオール銅錯体誘導体のように、従来は他の用途で用いられてきた有機化合物を使用してもよい。
【0017】
有機化合物Aの分子量は、3000以下が好ましく、2000以下がより好ましく、1500以下がさらに好ましく、場合によっては1300以下、さらに1200以下、特に900以下、とりわけ800以下であってもよい。ただし、有機化合物Aの分子量が低すぎると常温で固体を維持することが困難となる。したがって、有機化合物Aの分子量は、200以上が好ましく、300以上がより好ましく、500以上がさらに好ましい。
【0018】
また、有機化合物Aは、分子中に、重合可能な炭素−炭素二重結合を含まないことが好ましい。重合可能な炭素−炭素二重結合としては、ビニル基、ビニレン基、ビニリデン基などの重合性官能基に含まれる二重結合が挙げられる。有機化合物Aは、分子中にこれらの官能基を含まないことが好ましい。
【0019】
有機化合物Aの好ましい一例は、下記式(1)により示される官能基を2つ以上、例えば2〜8個、好ましくは2〜4個を、分子中に有する有機化合物αである。
【0020】
【化1】

【0021】
ここで、A1〜A5は、それぞれ独立に、水素原子、水酸基、直鎖のもしくは分岐を有する炭素数1〜20、好ましくは炭素数5〜15、より好ましくは炭素数7〜13のアルキル基、または下記式(2)により示される官能基である。ただし、A1〜A5の少なくとも1つは、下記式(2)により示される官能基である。
【0022】
【化2】

【0023】
有機化合物αは、分子中に少なくとも2つのベンゾトリアゾール構造(式(2)参照)を含むベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤である。1分子中に少なくとも2つ存在するベンゾトリアゾール構造は、有機化合物αによる紫外線遮蔽効果に貢献し、有機化合物αが常温で固体状態となる程度に分子量を大きく保つことにも寄与する。周知のとおり、化合物の融点は分子量のみによって定まるわけではないが、分子量は融点を大きく左右する因子である。有機化合物αは、紫外線遮蔽効果の持続性に優れ、ガラス物品の場合には特に重視される特性であるヘイズ率が低い紫外線遮蔽膜の形成に適した化合物である。
【0024】
式(1)により示される官能基は、例えば、A1〜A5のうち、1つが水酸基であり、1つが上記で規定したアルキル基であり、1つが式(2)により示される官能基であり、残り2つが水素原子であってもよい。具体的には、有機化合物αは、以下の式(3)で示される官能基を2つ以上分子中に有することが好ましい。式(3)において、R1は、直鎖のもしくは分岐を有する炭素数1〜20、好ましくは炭素数5〜15、より好ましくは炭素数7〜13のアルキル基である。
【0025】
【化3】

【0026】
なお、有機化合物αに含まれるアルキル基の炭素数は、多いほど分子全体の疎水性が高くなる傾向があるため、分散媒を水とする分散液から作製する膜において、微粒子として存在させることが容易となる。ただし、炭素数が多くなりすぎると、立体障害などの影響によって有機化合物αの融点が下がる傾向がある。
【0027】
本発明の好ましい一形態において、有機化合物αは、式(3)により示される2つの官能基がアルキレン基により結合されている構造単位を有する。アルキレン基を構成する炭素数は、好ましくは3以下、特に好ましくは2以下である。
【0028】
有機化合物αは、以下の式(4)で示される化合物であってもよい。
【0029】
【化4】

【0030】
ここで、R1およびR2は、互いに独立して、直鎖のもしくは分岐を有する炭素数1〜20、好ましくは炭素数5〜15、より好ましくは炭素数7〜13のアルキル基である。
【0031】
有機化合物Aの別の好ましい一例は、下記式(5)により示される構造単位を分子中に有する有機化合物βである。有機化合物βは、ベンゼンチオール銅錯体誘導体である。
【0032】
【化5】

【0033】
ベンゼンジチオール銅錯体は、式(5)に示された構造に由来する共鳴効果により、波長400nm程度の光線の吸収に寄与する。共鳴効果により吸収される波長はCuが他の金属原子に置換すればシフトする(例えば、CuをZnやAlに置換すればより短い波長域において共鳴効果が得られる)。波長400nm程度の光線の吸収能を重視すべき場合は、金属原子としてはCuが最適である。
【0034】
ガラス板の紫外線遮蔽特性への要求の高まりにより、その遮蔽の程度のみならず、紫外域の光線をより長波長側に至るまで遮蔽することが期待されるようになっている。近年では、紫外域というよりは可視域の短波長域(400nm程度の波長域)の波長を有する光線まで遮蔽することが要求されることもある。式(5)に示す構造を有する有機化合物βの使用は、紫外域のみならず、400nm程度の波長域における光線の遮蔽にも効果がある。
【0035】
有機化合物βは、以下の式(6)で示される構造を有することが好ましく、式(7)で示される構造を有することがさらに好ましく、例えば式(11)の化合物であってよい。
【0036】
【化6】

【0037】
【化7】

【0038】
ここで、LおよびMは、それぞれ独立に、以下の式(8)、(9)、(10)のいずれかにより示される基である。また、Aは第四級アンモニウム塩である。第四級アンモニウム塩としては、テトラメチルアンモニウム塩、テトラエチルアンモニウム塩、テトライソプロピルアンモニウム塩、テトラブチルアンモニウム塩、テトラフェニルアンモニウム塩、テトラベンジルアンモニウム塩、トリメチルベンジルアンモニウム塩を例示できる。
【0039】
【化8】

【0040】
ここで、R3、R4は、それぞれ独立に、炭素数が1〜4の直鎖のまたは分岐を有するアルキル基を指す。
【0041】
【化9】

【0042】
ここで、nは3〜5の整数である。
【0043】
【化10】

【0044】
【化11】

【0045】
ここで、Buは直鎖のまたは分岐を有するブチル基である。
【0046】
有機化合物Aは常温において固体である。本明細書において、「常温」は25℃を意味する用語として使用する。上述のとおり、従来、溶液から形成される紫外線遮蔽膜には常温で液体である紫外線吸収剤が用いられてきた。このような紫外線吸収剤をエマルション化して得た溶液を用いて形成された紫外線遮蔽膜には、紫外線吸収剤が微細な液体として分散している。また、従来、膜に均質に分布させるために、常温で固体である有機化合物は、溶媒に溶かしてから膜に導入するのが通常であった。ガラス板上に形成される膜に固形のまま導入された有機化合物は、ガラス物品の透明性を損なうことが多いためである。これに対し、本発明では、紫外線遮蔽膜中に、平均粒径が150nm以下の微粒子として有機化合物Aが分散している。平均粒径が150nm以下となる程度にまで有機化合物Aを細かく砕いてから膜に導入することにより、その膜は、透明性を損なうことなく紫外線遮蔽能の持続性に優れたものとなり得る。このようにして膜中に導入された有機化合物Aは、好ましくは、膜中においても結晶状態を保持している。膜中の有機化合物Aが結晶状態を保持していることはX線回折により確認できる。
【0047】
有機化合物Aは、ボールミルなど公知の乾式または湿式の粉砕装置を用いて細かく砕き、分散媒に分散させた状態の分散液(微粒子分散組成物)として調製し、これを別途調製した膜の形成溶液と混合することにより、膜に導入するとよい。分散媒としては、水、低級アルコールが適しているが、水が最も適している。低級アルコールとしては、メタノール、エタノール、イソプロパノールなど炭素数1〜3のアルコールが好適である。分散液には、必要に応じ、湿潤剤、防腐剤、防カビ剤、消泡剤、安定化剤などを添加してもよい。また、分散液は、有機化合物B、シランカップリング剤など有機化合物Aとともに紫外線遮蔽膜に添加してもよい他の成分を含んでいてもよく、膜中の酸化ケイ素を供給するシリコン含有化合物を含んでいても構わない。シリコン含有化合物を含む分散液は、そのまま膜の形成溶液として用いることができる。
【0048】
有機化合物Aが粉砕されて所定の平均粒径に到達する時間は、粉砕装置の種類、投入量、さらには回転数などの粉砕条件に依存する。このため、量産に際しては、予め、粉砕装置による粉砕を適宜中断してサンプリングした粉砕物の平均粒径を確認することを繰り返しながら、所定の平均粒径が得られるまでの時間を定めておくとよい。なお、粉砕に際しては、粉砕するべき有機化合物Aに、界面活性剤、水溶性樹脂などを適宜添加してもよい。
【0049】
有機化合物Aは、平均粒径が150nm以下、好ましくは10〜150nm、より好ましくは50〜140nm、特に好ましくは70〜140nm、の微粒子として膜に分散させるとよい。微粒子分散液(微粒子分散組成物)の調製においても、この範囲の平均粒径を有するように有機化合物Aを粉砕しておくことが好ましい。微粒子の平均粒径は、大きすぎると膜の透明性を低下させるが、小さすぎると紫外線吸収能が劣化したり、その持続性が低下したりおそれがある。なお、上記「平均粒径」は、後述する実施例の欄における測定値も含め、光子相関法の一種である動的光散乱法による測定値に基づく数値であり、具体的には、球相当径の体積基準による分布において累積頻度が50%となる粒子径である。「平均粒径」は、例えば、日機装社製「マイクロトラック超微粒子粒度分布計9340−UPA150」を用いて測定することができる。
【0050】
膜中に分散した有機化合物Aの微粒子は、走査型電子顕微鏡(SEM)または透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて観察すれば、その存在を確認できる。SEMまたはTEMを用いて観察した膜断面に存在する各微粒子の最大長さの上位10%の平均値Aは、上述の定義による「平均粒径」の値を下回ることはない。したがって、上記平均値Aが150nm以下であれば「平均粒径」を150nm以下とみなすことができる。また、上記膜断面に存在する各微粒子の最大長さを規定する方向と直交する方向についての長さの下位10%の平均値Bは、上述の定義による「平均粒径」の値を上回ることはない。したがって、例えば上記平均値Bが50nm以上であれば「平均粒径」を50nm以上とみなしてもよい。
【0051】
有機化合物Aは、これを溶かしうる有機溶媒に溶解させた溶質として膜に導入することもできるが、このような導入法は、紫外線遮蔽能の持続性の十分な向上をもたらさない。有機化合物Aを微粒子として膜に導入することにより、膜の紫外線遮蔽能の持続性は向上する。さらに、有機化合物Aを微粒子として添加することにより、溶質としての添加よりも好ましい分光吸収特性が得られることが見出された。
【0052】
具体的には、微粒子として添加することにより、溶解させた場合よりも、分光吸光度曲線における有機化合物Aによる吸収ピークを長波長側にシフトさせることが可能になる。これを利用することにより、可視域に極めて近い紫外域、具体的には波長380〜390nm程度の紫外線を効果的に遮蔽することができる。本発明の好ましい一形態によれば、紫外線遮蔽膜を形成するための分散液(微粒子分散組成物)であって、紫外線遮蔽成分(微粒子である有機化合物A)の含有率を0.002質量%、光路長を1cmとして測定した吸光度が、波長390nmにおいて0.20以上であり、波長400nmにおいて0.18以下である分散液を提供できる。波長390nmにおける吸光度は、0.21以上がより好ましい。波長400nmにおける吸光度は、0.15以下、さらには0.10以下、特に0.08以下がより好ましい。また、波長380nmにおける吸光度は、0.40以上、さらには0.50以上、特に0.60以上が好ましい。
【0053】
紫外域の長波長側における吸収特性に優れた紫外線吸収剤を用いたとしても、波長390nm程度の光線を遮蔽しながら波長400nm程度の光線が十分透過するように、分光吸収特性を調整するのは容易でない。波長400nm程度の光線は、上記のとおり遮蔽が求められることもあるが、この波長近傍の光線の遮蔽による膜の着色が問題を引き起こすことがある。膜の着色防止を優先するべき場合、波長400nmにおける吸光度が低下するように紫外線吸収剤の含有率を低下させると、380〜390nm程度の波長域における吸光度も低下する。波長380nm近傍で大きな吸光度を示すとともに波長380nmから400nmにかけて吸光度が大きく低下する理想的な紫外線吸収剤は知られていない。しかし、紫外線吸収剤を平均粒径が150nm以下である微粒子として添加することによりその吸収剤による吸収ピークを長波長側にシフトさせれば、既存の紫外線吸収剤を用いて、波長390nmにおける吸光度が高く波長400nmにおける吸光度が低い紫外線遮蔽膜を得ることが可能となる。
【0054】
有機化合物Aによる吸収ピークのシフトの程度は、有機化合物Aの種類によって相違する。本発明者の検討によると、特に大きなシフトが得られるのは有機化合物αである。上記測定条件(含有率0.002質量%、光路長1cm)を適用して測定した分散液の分光吸光度曲線において、微粒子として添加した有機化合物αによる吸収ピークを、溶質として添加した有機化合物αによる吸収ピークよりも、8nm以上長い波長に位置させることが可能である。これに止まらず、微粒子として添加した有機化合物αによる吸収ピークにおける吸光度は、溶質として添加した有機化合物αによる吸収ピークにおける吸光度よりも、0.05以上、さらには0.07以上大きくなることがある。
【0055】
なお、含有率が上記測定条件(0.002質量%)から外れた分散液を試料として吸光度を測定する場合は、含有率を下げるべきときにはその分散液が含む分散媒を試料に添加して、含有率を上げるべきときには試料から分散媒の一部を除去して有機化合物Aの含有率を調整し、測定を実施すればよい。含有率が上記程度に低い条件で測定することとしたのは、350〜400nmの範囲におけるトップピークの吸光度を考慮したためである。
【0056】
有機化合物Aは、膜中の酸化ケイ素(SiO2換算)に対しては、質量%により表示して、1〜80%、さらには5〜60%、特に5〜50%、とりわけ7〜30%の範囲で含まれていることが好ましい。これを考慮すると、有機化合物Aは、膜の形成溶液の液量に対しては、同じく質量%により表示して、0.5〜25%、より好ましくは0.5〜15%となるように添加することが好ましい。
【0057】
有機化合物Bは、有機化合物A(ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤)との相互作用によって、有機化合物Aの膜中における分散性の向上に寄与し、この化合物による光線遮蔽能を高め、さらにはこの化合物の劣化を抑制する成分である。紫外線遮蔽膜2をゾルゲル法などの液相成膜により比較的厚く(例えば300nmを超える厚さ、さらには500nm以上の厚さ)形成する際には、膜の形成溶液に含まれる液体成分の蒸発に伴ってクラックが発生することがある。有機化合物Bは、クラックの発生を抑制しながら厚膜の形成を可能にする成分でもある。
【0058】
有機化合物Bは、好ましくはポリエーテル化合物、ポリオール化合物、ポリビニルピロリドン類およびポリビニルカプロラクタム類から選ばれる少なくとも1種である。有機化合物Bは、ポリエーテル型の界面活性剤などのポリエーテル化合物であってもよいし、ポリカプロラクトンポリオール、ビスフェノールAポリオールなどのポリオール化合物であってもよい。有機化合物Bは、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールなどであっても構わない。ポリエーテル化合物は2以上のエーテル結合を含む化合物、ポリオール化合物はジオール、トリオールを含む多価アルコールをそれぞれ意味する。ポリビニルピロリドン類は、具体的には、ポリビニルピロリドンおよびその誘導体を指し、ポリビニルカプロラクタム類は、具体的には、ポリビニルカプロラクタムおよびその誘導体を指す。
【0059】
有機化合物Bは、膜中の酸化ケイ素(SiO2換算)に対し、質量%で表示して、0〜75%、さらには0.05〜50%、特に0.1〜40%、とりわけ1〜30%、場合によっては10%以下、必要に応じて7%以下となるように、膜に添加することが好ましい。なお、有機化合物Aが多い場合は、その量に応じて有機化合物Bを減らしてもよい。
【0060】
シランカップリング剤は、その種類が特に制限されるものではないが、RSiX3(Rは、ビニル基、グリシドキシ基、メタクリル基、アミノ基およびメルカプト基から選ばれる少なくとも1種を含む有機官能基であり、Xは、ハロゲン元素またはアルコキシル基である)で示される有機化合物が好ましい。シランカップリング剤は、そのR基が有機物とX基が無機物とそれぞれ反応する。この反応を通じて、シランカップリング剤は、有機化合物Aの膜中における分散性の向上に寄与し、クラックの発生を抑制しながら厚膜の形成を可能にする効果を奏する。シランカップリング剤は、膜中の酸化ケイ素(SiO2換算)に対し、モル%で表示して、0〜40%、好ましくは0.1〜20%、より好ましくは1〜10%となるように、膜に添加することが好ましい。
【0061】
本発明による紫外線遮蔽膜には、有機化合物A,Bおよびシランカップリング剤以外の機能性成分を含んでいてもよい。例えば、近赤外線の吸収剤として知られているインジウム錫酸化物(ITO)微粒子は紫外線遮蔽膜への添加が好ましい成分の一つである。
【0062】
ITO微粒子は、平均粒径が200nm以下、好ましくは5〜150nm、の微粒子として膜に分散させるとよい。有機化合物Aの微粒子と同様、粒径が大きすぎると膜の透明性を低下させ、小さすぎると添加による効果が十分得られない。ITO微粒子も予め分散液を調製しておいて、これを膜の形成溶液に添加するとよい。
【0063】
紫外線遮蔽膜2は、無機成分として酸化ケイ素を含む。ただし、紫外線遮蔽膜2は、酸化ケイ素以外の無機成分を含んでいてもよい。酸化ケイ素以外の無機成分としては、上記ITO微粒子に加え、ゾルゲル法で用いた酸触媒に由来する成分(例えば、塩素、窒素、硫黄原子)などが挙げられる。紫外線遮蔽膜2に含まれる酸化ケイ素は、シリコンアルコキシドなどのシリコン含有化合物(シリコン化合物)として膜の形成溶液に添加される。
【0064】
紫外線遮蔽膜2中の酸化ケイ素は、膜全体の30質量%以上、好ましくは40質量%以上、さらに好ましくは50質量%以上(この場合は酸化ケイ素が膜の主成分となる)、場合によっては70質量%以上、を占めるようにするとよい。紫外線遮蔽膜2は、好ましくは、酸化ケイ素を主成分とし、Si−O結合のネットワーク中に有機化合物Aの微粒子やその他の成分が分散している形態を有する。このような形態を有する膜は、窓ガラスなどとしての屋外での使用に適している。
【0065】
以下、紫外線遮蔽膜2をゾルゲル法により成膜する場合の好ましい方法について説明する。
【0066】
ゾルゲル法に用いる有機溶媒は、シリコンアルコキシドや水との相溶性が高く、ゾルゲル反応を進行させることができる溶媒であることが必要であり、炭素数が1〜3の低級アルコールが適している。シリコンアルコキシドとしては、特に制限はないが、シリコンテトラメトキシド、シリコンテトラエトキシド(TEOS)、シリコンテトライソプロポキシドなどを用いればよい。シリコンアルコキシドの加水分解物をシリコン原料として用いてもよい。ゾルゲル法による形成溶液におけるシリコンアルコキシドの濃度は、シリコンアルコキシドをSiO2換算したときのSiO2濃度により表示して、3〜15質量%、特に3〜13質量%が好ましい。この濃度が高すぎると、膜にクラックが発生することがある。
【0067】
水は、シリコンアルコキシドに対し、モル比により表示して、4倍以上、具体的には4〜40倍、好ましくは4〜35倍が好適である。加水分解触媒としては、酸触媒、特に塩酸、硝酸、硫酸、トリクロロ酢酸、トリフルオロ酢酸、メタンスルホン酸、パラトルエンスルホン酸などの強酸を用いることが好ましい。酸触媒に由来する有機物は膜硬度を低下させることがあるため、酸触媒としては無機酸が好ましい。塩酸は、揮発性が高く、膜に残存しにくいため、最も好ましい酸触媒である。酸触媒の濃度は、酸からプロトンが完全に解離したと仮定したときのプロトンの質量モル濃度により表示して0.001〜2mol/kgの範囲とすることが好ましい。
【0068】
上記程度に水を過剰に加え、上記程度の濃度となるように酸触媒を加えると、特許文献2に解説されているように、ゾルゲル法により、有機物の分解を防ぐことができる温度域で比較的厚い膜を容易に形成できる。
【0069】
上記に挙げた成分を含むゾルゲル法による膜の形成溶液を、有機化合物Aの微粒子を分散させた分散液と混合し、さらに必要に応じて有機化合物Bなどを添加すれば、紫外線遮蔽膜の形成溶液を準備できる。ただし、紫外線遮蔽膜の形成溶液の調製方法がこれに限られるわけではなく、微粒子分散液にゾルゲル法による成膜に必要な成分を順次添加してもよいし、ゾルゲル法以外の方法により膜を形成することとして有機化合物Aの微粒子とともにその方法に必要な成分(例えばポリシラザン)を含む形成溶液を調製しても構わない。
【0070】
形成溶液の塗布工程では、雰囲気の相対湿度を40%未満、さらには30%以下に保持することが好ましい。相対湿度を低く保持すると、膜が雰囲気から水分を過剰に吸収することを防止できる。雰囲気から水分が多量に吸収されると、膜のマトリックス内に入り込んで残存した水が膜の強度を低下させるおそれがある。
【0071】
形成溶液の乾燥工程は、塗布環境下における風乾工程と、加熱を伴う加熱乾燥工程とを含むように実施することが好ましい。風乾工程は、相対湿度を40%未満、さらには30%以下に保持した雰囲気に形成溶液の塗布膜を曝すことにより、実施するとよい。加熱乾燥工程では、加水分解により生成したシラノール基の縮重合反応が進行するとともに、膜に残存する液体成分の除去、特に水の除去、が進行し、酸化ケイ素のマトリックス(Si−O結合のネットワーク)が発達する。加熱乾燥工程では、300℃以下、例えば100〜200℃の雰囲気に、塗布膜を曝すことにより、実施するとよい。
【0072】
以上説明した一連の工程、すなわち、a)有機化合物Aの微粒子その他を含む紫外線遮蔽膜の形成溶液の調製工程、b)形成溶液のガラス板上への塗布工程、c)形成溶液の乾燥工程を順次実施することにより、液相成膜法により、本発明のガラス物品を得ることができる。
【0073】
この製造方法は、シリコンアルコキシドなどのシリコン含有化合物を溶質として含み、常温で固体であるとともに平均分子量が5000以下である有機化合物Aを平均粒径150nm以下の微粒子として含む紫外線遮蔽膜の形成溶液を調製する工程と、この形成溶液をガラス板上に塗布する工程と、このガラス板上において上記形成溶液を乾燥させて紫外線遮蔽膜を形成する工程と、を含む、紫外線遮蔽膜を有するガラス物品の製造方法である。この製造方法は本発明の別の一側面を構成する。この製造方法では、本発明による微粒子分散組成物(微粒子分散液)を用いて膜の形成溶液を調製することができる。また、この製造方法は、固体である有機化合物Aを粉砕して平均粒径150nm以下の微粒子とする工程をさらに含んでいてもよい。
【0074】
紫外線遮蔽膜の膜厚は、300nmを超え15μm以下、さらには500nm以上10μm以下、特に1000nm以上5000nm以下、が好ましい。膜が薄すぎると十分な紫外線遮蔽能が得られないことがあり、膜が厚すぎると膜の透過率が低下して物品の透明性を損なうことがある。
【0075】
ガラス板1は、特に制限されないが、Fe23の濃度を高め、必要に応じてTiO2、CeO2などその他の紫外線吸収成分を添加した組成を有するソーダ石灰珪酸塩ガラス板を用いることが好ましい。
【0076】
ガラス板1としては、0.2質量%以上、好ましくは0.5質量%以上、のFe23を含むガラス組成を有し、波長380nmにおける光線透過率が70%以下、好ましくは50%以下、波長550nmにおける光線透過率が75%以上であるソーダ石灰珪酸塩ガラス板が好適である。もっとも、Fe23の含有量が0.1質量%以下、好ましくは0.02%〜0.06%であるソーダ石灰珪酸塩ガラス板を用いることもできる。なお、上記において、Fe23濃度は、ガラス板に含まれる全酸化鉄(酸化鉄はFeOとしてもガラス中に存在する)をFe23に換算して算出される数値である。
【0077】
ただし、ガラス板1は、上記に限らず、可視域における光線透過率が低いものであってもよい。このようなガラス板としては、車両の窓ガラス用として製造されている波長550nmにおける光線透過率が20〜60%のガラス板が挙げられる。ガラス板を構成する成分のみでは、特に長波長域の紫外域を十分に遮蔽することが困難であるから、可視光透過率が低いガラス板についても、上記で説明した紫外線遮蔽膜2の適用は有用である。
【0078】
実施例の欄に示す実験結果により確認されているように、本発明の好ましい一形態によれば、ISO9050(1990年度版)に基づく紫外線透過率(TUV380)が5%以下、好ましくは3%以下、さらに好ましくは2%以下、より好ましくは1.5%以下、特に好ましくは1%以下である、紫外線遮蔽能を有するガラス物品を提供できる。また、波長400nm付近における遮蔽能に優れた有機化合物Aを用いることにより、あるいは有機化合物Aを微粒子として添加することによる吸収ピークのシフトを利用することにより、ISO13837(convention A)に従って算出した紫外線透過率TUV400が5%以下、好ましくは3%以下、さらに好ましくは2%以下、より好ましくは1.5%以下、特に好ましくは1%以下である、紫外線遮蔽能を有するガラス物品を提供することも可能である。さらに、本発明の好ましい一形態によれば、上記程度の紫外線遮蔽能を有しながらも、波長550nmにおける光線透過率(T550)が70%を超えるガラス物品、さらには可視光透過率YAも70%を超えるガラス物品を提供できる。本発明の好ましい一形態によれば、例えば、紫外線透過率(TUV380)が2%以下であり、かつ波長550nmにおける光線透過率(T550)が70%を超えるガラス物品を提供することが可能であり、また例えば、紫外線透過率(TUV380)および光線透過率(T550)が上記範囲にあり、ヘイズ率が4%以下、好ましくは3%以下、より好ましくは1.5%以下であるガラス物品、を提供することが可能である。
【0079】
またさらに、本発明の好ましい一形態によれば、上記程度の紫外線遮蔽能を有する程度に紫外線吸収剤を膜中に含みながらも、日本工業規格(JIS)R3221に準拠した500g荷重、1000回転のテーバー摩耗試験後にも紫外線遮蔽膜がガラス板から剥離しないガラス物品、特に同試験後のヘイズ率の上昇幅が3%以下に抑制された耐摩耗性に優れた紫外線遮蔽膜を備えたガラス物品を提供できる。
【0080】
本発明による紫外線遮蔽能を有するガラス物品は、建築物および車両、特に自動車の窓ガラスとしての使用に適している。しかし、自動車のドアガラスに代表されるように、昇降可能(開閉可能)な窓ガラスとして使用される場合には、ガラス板の周縁部の表面が、ランチャネル等と呼ばれる端部保持部材に繰り返し当接することになる。このため、長期にわたる使用期間中に膜が剥離し、窓ガラスの外観が損なわれるおそれがある。したがって、このような用途では、図5および図6に示すように、端部保持部材に当接する周縁領域12においては、窓ガラス10,20を構成するガラス板に紫外線遮蔽膜11を形成しないことが好ましい。また、紫外線遮蔽膜11の存在により昇降部材を用いたドアガラスの安定的な保持が困難になる場合には、図5に示すように、昇降部材に接続するための底部領域13,14においても、紫外線遮蔽膜11を形成しないことが好ましい。ただし、昇降部材とドアガラスとの接続の方法または膜の種類によっては、底部領域13,14における膜の形成が接続に支障を来さないこともある。一般に、水との接触角が50度以下である膜は接続に対する影響が小さい。このような場合は、底部領域13,14から紫外線遮蔽膜11を除外する必要はない(図6)。以上のように、紫外線遮蔽膜11は、ガラス板の表面の一部、特に他の部材と接触する周縁部においては形成しないこととしてもよい。ただし、この場合も、窓を閉じたときに室内外を隔てることになるガラス板の主要領域の全面には、紫外線の遮蔽のため、紫外線遮蔽膜11を形成するべきである。
【0081】
ガラス板の表面の一部に膜を形成しない領域を確保する場合には、膜を形成する主要領域から膜を形成しない周縁領域にかけて膜厚が漸減するように、紫外線遮蔽膜を形成することが好ましい。このように形成すれば、膜を形成する領域と膜を形成しない領域との境界が目立たず、外観の低下を防止できる。膜厚を漸減させた領域を有する窓ガラス(ドアガラス)の一例を図7に示す。図7に示した形態では、ドアガラスとして用いられている窓ガラス10,20が閉じられており、窓ガラス10,20の主要領域(図示左側の室外から図示右側の室内へと紫外線を含む外光が透過する領域)を構成するガラス板15の室内側表面には、紫外線遮蔽膜11が紫外線遮蔽に望ましい所定膜厚となるように形成されている。他方、ガラス板15とランチャネル30とが接触するガラス板先端Aから周縁Bにかけての周縁領域においては、ガラス板15の表面に紫外線遮蔽膜11が形成されていない。そして、周縁Cから周縁Bに向かうにつれて、紫外線遮蔽膜11はその膜厚が徐々に薄くなるように形成されている。図7には、ランチャネル30の先端と周縁Cとが一致している形態(ランチャネルに覆われず露出しているガラス板の表面全域に紫外線遮蔽膜が一定の膜厚で形成されている形態)を示したが、窓ガラス10,20の主要領域において所望の紫外線遮蔽能が得られる限り、ランチャネル30の先端と周縁Cとが一致している必要はない。また、図示したように、周縁Bからやや周縁C側に後退した位置において漸減した膜厚がゼロになる形態としてもよいが、周縁Bと膜厚がゼロになる位置とが一致しても構わない。なお、図5〜図7には、ガラス板の周縁部に膜を形成しないドアガラスを示したが、本発明によるガラス物品がこのような形態に限られないことは言うまでもない。ドアガラスとして用いる場合であっても、ガラス板の全面に紫外線遮蔽膜を形成してもよいし、あるいは端部保持部材に当接する周縁領域12においては膜を形成する一方、底部領域13,14において膜を形成しないこととしても構わない。
【実施例】
【0082】
以下、実施例により、本発明をさらに詳細に説明する。まず、各実施例、比較例で作製したサンプル(紫外線遮蔽膜付きガラス板)の特性を評価するために実施した試験の内容を説明する。
【0083】
<光学特性>
光学特性は、分光光度計(島津製作所製、UV−3100PC)を用いて測定した。測定した透過率は、波長550nmおよび1550nmにおける透過率、可視光透過率YA、ISO9050(1990年度版)に従って算出した紫外線透過率TUV380、ならびにISO13837(convention A)に従って算出した紫外線透過率TUV400である。なお、TUV380は波長280nm〜380nmにおける光線の透過率に基づいて、TUV400は波長300〜400nmにおける光線の透過率に基づいてそれぞれ算出される値である。また、スガ試験機社製HZ−1Sを用いてヘイズ率を測定した。
【0084】
<耐摩耗性>
膜の耐摩耗性は、JIS R3221に準拠した摩耗試験により評価した。すなわち、市販のテーバー摩耗試験機(TABER INDUSTRIES社製5150 ABRASER)を用い、500gの荷重で1000回摩耗を行い、摩耗試験前後のヘイズ率の測定を行った。なお、ヘイズ率は、上記と同様の装置を用いて測定した。
【0085】
<耐光性(耐紫外線特性)>
耐光性(耐紫外線特性)は、岩崎電気社製の紫外線照射装置(EYE SUPER UV TESTER SUV−W13)を用い、波長295〜450nm、照度76mW/cm2、ブラックパネル温度83℃、湿度50%RHの条件を適用し、所定時間(10時間、64時間または100時間)、紫外線を、ガラス板の膜が形成されていない面から紫外線遮蔽膜付きガラス板に照射することにより実施した。紫外線照射試験後の光学特性(TUV380,TUV400)を測定し、同試験前後の変化を算出した。
【0086】
(実施例A1)
式(4)において、R1およびR2がともに1,1,3,3−テトラメチルブチル基であるベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤(チバ・スペシャリティ・ケミカルズ製「TINUVIN360」;有機化合物α)を分散質として含み、水を分散媒とする分散液(紫外線吸収剤含有率10重量%、平均粒径110nm)を準備した。なお、上記ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤は、予め、上記平均粒径となるように、ペイントコンディショナーを用い、ジルコニアビーズとともに混合して粉砕したものを用いた。この紫外線吸収剤分散液とともに、純水、エチルアルコール(片山化学製)、グリセリンにプロピレンオキシドが付加したトリオール(ADEKA製G−300;平均分子量300;有機化合物B)、テトラエトキシシラン(TEOS;信越化学工業製)、濃塩酸(関東化学製;35質量%)、を混合、攪拌し、紫外線遮蔽膜の形成溶液を得た。形成溶液は、各成分の濃度(含有率)が表1の値となるように調製した。表1には、実施例A2〜A12、比較例A1で調製した形成溶液における各成分の濃度も併せて示す。
【0087】
次いで、洗浄したソーダ石灰珪酸塩ガラス基板(日本板硝子製UVカットグリーンガラス100×100mm、厚さ3.1mm)上に、湿度30%、室温下でこの形成溶液をフローコート法にて塗布した。そのまま、室温で約5分程度乾燥した後、予め200℃に昇温したオーブンに投入し15分加熱し、その後冷却し、紫外線遮蔽膜を形成した。なお、用いたUVカットグリーンガラスは、波長380nmにおける光線透過率(T380)が40%、波長550nmにおける光線透過率(T550)が77%である。このUVカットグリーンガラス板は、Fe23に換算した全酸化鉄を0.9質量%程度含有している。
【0088】
こうして得た紫外線遮蔽膜付きガラス板について、上記測定を実施した。結果を表2に示す。表2には、実施例A2〜A12、比較例A1で作製した紫外線遮蔽膜付きガラス板についての測定結果も示す。
【0089】
(実施例A2〜A12)
形成溶液における各成分の濃度および紫外線吸収剤の平均粒径を表1に示したとおりに変更した以外は実施例A1と同様にして紫外線遮蔽膜付きガラス板を得た。なお、実施例A8〜A12については、形成溶液に、シランカップリング剤であるグリシドキシプロピルトリメトキシシラン(GPTMS;3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン;信越化学工業製)をさらに添加した。
【0090】
(比較例A1)
常温で液体であるベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤(チバ・スペシャリティ・ケミカルズ社製「TINUVIN1130」)、シアニン系有機色素(zenzoxazolium系)、エチルアルコール(片山化学製)、テトラエトキシシラン(信越化学工業製)、濃塩酸(35質量%)を表1に示した濃度となるように混合、撹拌し、形成溶液を得た。この形成溶液は、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤を含むエマルションである。次いで、この形成溶液を用い、実施例A1と同様にして、紫外線遮蔽膜付きガラス板を得た。なお、上記シアニン系有機色素は、エチルアルコールに可溶であり、上記形成溶液中に溶質として存在する。
【0091】
(実施例A21〜A23)
実施例A21〜A23では、機能性微粒子としてITO微粒子をさらに添加した。
【0092】
実施例A1で用いた紫外線吸収剤分散液とともに、純水、エチルアルコール(片山化学製)、ポリエーテル化合物(ポリエーテルリン酸エステル系ポリマー;日本ルーブリゾール製ソルスパース41000;有機化合物B)、テトラエトキシシラン(TEOS;信越化学工業製)、濃塩酸(関東化学製;35質量%)、を混合、攪拌し、さらに、ITO微粒子分散液(ITO微粒子を40質量%含むエチルアルコール溶液;三菱マテリアル製;平均粒径(公称)100nm以下)を加え、さらに撹拌し、紫外線とともに赤外線を遮蔽する膜の形成溶液を得た。形成溶液は、各成分の濃度(含有率)が表3の値となるように調製した。なお、実施例A23では、ポリエーテル化合物として、ソルスパース41000とともに、ポリエチレングリコール(PEG200;関東化学製)を添加した。
【0093】
次いで、上記形成溶液と実施例A1で用いたソーダ石灰珪酸塩ガラス基板とを用いて、この基板上に紫外線遮蔽膜(紫外線赤外線遮蔽膜)を形成した。
【0094】
こうして得た紫外線遮蔽膜付きガラス板について、上記測定を実施した。結果を表4に示す。
【0095】
(実施例B1)
式(11)においてBuがn−ブチル基である構造式を有する市販の酸化防止剤(ベンゼンジチオール銅錯体誘導体;(ビス(4−モルホリノスルホニル−1,2ジチオフェラート)銅テトラ−n−ブチルアンモニウム);住友精化製EST−5;有機化合物β)を分散質として含み、水を分散媒とする分散液(上記銅錯体含有率2重量%、平均粒径135nm)を準備した。なお、上記酸化防止剤は、予め、上記平均粒径となるように、ペイントコンディショナーを用い、ジルコニアビーズとともに混合して粉砕したものを用いた。このベンゼンジチオール銅錯体分散液とともに、純水、エチルアルコール(片山化学製)、ポリエーテル化合物(ポリエーテルリン酸エステル系ポリマー;日本ルーブリゾール製ソルスパース41000)、テトラエトキシシラン(TEOS;信越化学工業製)、濃塩酸(35質量%、関東化学製)を混合、攪拌し、紫外線遮蔽膜の形成溶液を得た。形成溶液は、各成分の濃度(含有率)が表5の値となるように調製した。表5には、実施例B2〜B6、比較例B1〜B4で調製した形成溶液における各成分の濃度も併せて示す。
【0096】
次いで、上記形成溶液と実施例A1で用いたソーダ石灰珪酸塩ガラス基板とを用い、実施例A1と同様にして、この基板上に紫外線遮蔽膜を形成した。
【0097】
こうして得た紫外線遮蔽膜付きガラス板について、上記測定を実施した。結果を表6に示す。表6には、実施例B2〜B6、比較例B1〜B4で作製した紫外線遮蔽膜付きガラス板についての測定結果も示す。
【0098】
(実施例B2〜B6)
形成溶液における成分およびその濃度ならびに紫外線吸収剤の平均粒径を表5に示したとおりに変更した以外は実施例B1と同様にして紫外線遮蔽膜付きガラス板を得た。なお、実施例B4〜B5では、上述したITO微粒子分散液を用い、膜にITO微粒子を添加した。また、実施例B6では、濃塩酸に代えてパラトルエンスルホン酸を使用するとともに、テトラヒドロフラン(THF)と上述したGPTMSとをさらに添加した。
【0099】
(比較例B1,B3)
形成溶液における成分の濃度およびベンゼンジチオール銅錯体誘導体の平均粒径を変更したことを除いては、実施例B1と同様にして、紫外線遮蔽膜付きガラス板を得た。なお、比較例B3では、上述したITO微粒子分散液を用い、膜にITO微粒子を添加した。
【0100】
(比較例B2,B4)
形成溶液における成分の濃度を変更するとともに、上記市販の酸化防止剤(ベンゼンジチオール銅錯体誘導体;住友精化製EST−5)を分散液としてではなく有機溶媒(アセトン)に溶かした溶液として添加したことを除いては、実施例B1と同様にして、紫外線遮蔽膜付きガラス板を得た。なお、比較例B4では、上述したITO微粒子分散液を用い、膜にITO微粒子を添加した。
【0101】
(比較例C1)
分子量が100万を超える高分子紫外線吸収剤(ベンゾフェノン系紫外線吸収剤)を分散質として含み、水を分散媒とする市販の分散液(BASF社製「UVA−383MG」;紫外線吸収剤含有率30重量%)を準備した。なお、この分散液に含まれている高分子紫外線吸収剤の平均粒径は100nm以下である。この高分子紫外線吸収剤分散液とともに、純水、エチルアルコール(片山化学製)、ポリエーテル化合物(ポリエーテルリン酸エステル系ポリマー;日本ルーブリゾール製ソルスパース41000)、テトラエトキシシラン(TEOS;信越化学工業製)、濃塩酸(35質量%、関東化学製)を混合、攪拌し、紫外線遮蔽膜の形成溶液を得た。形成溶液は、各成分の濃度(含有率)が表7の値となるように調製した。表7には、比較例C2で調製した形成溶液における各成分の濃度も併せて示す。
【0102】
次いで、上記形成溶液と実施例A1で用いたソーダ石灰珪酸塩ガラス基板とを用い、実施例A1と同様にして、この基板上に紫外線遮蔽膜を形成した。
【0103】
こうして得た紫外線遮蔽膜付きガラス板について、上記測定を実施した。結果を表8に示す。表8には、比較例C2で作製した紫外線遮蔽膜付きガラス板についての測定結果も示す。なお、比較例C1,C2については、十分に低いTUV380が得られなかったため、耐紫外線特性の測定は実施しなかった。
【0104】
(比較例C2)
高分子紫外線吸収剤分散液として、分子量が100万を超える高分子紫外線吸収剤(ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤)を分散質として含み、水を分散媒とする分散液(BASF社製「UVA−1383MG」;紫外線吸収剤含有率30重量%)を用いたことを除いては、比較例C1と同様にして紫外線遮蔽膜付きガラス板を得た。なお、上記分散液に含まれている高分子紫外線吸収剤の平均粒径は100nm以下である。
【0105】
【表1】

【0106】
【表2】

【0107】
【表3】

【0108】
【表4】

【0109】
【表5】

【0110】
【表6】

【0111】
【表7】

【0112】
【表8】

【0113】
常温で液体の紫外線吸収剤を用いた比較例A1の紫外線遮蔽膜付きガラス板は、紫外線照射試験前には極めて良好な紫外線遮蔽能を有していたものの、紫外線照射によって紫外線透過率が大きく上昇した。各実施例の紫外線遮蔽膜付きガラス板は、初期の紫外線遮蔽特性では比較例A1にやや劣るものの、長時間の紫外線照射後にも安定した紫外線遮蔽効果を維持していた。長期間にわたる紫外線遮蔽効果の持続が望まれる窓ガラスなどの用途では、各実施例の紫外線遮蔽膜付きガラス板がより適している。
【0114】
平均粒径が大きすぎる紫外線吸収剤を用いた比較例B1,B3の紫外線遮蔽膜付きガラス板は、ヘイズ率が高く、窓ガラスとしての使用には適していないものとなった。実施例B1と比較例B1との対比から明らかなとおり、平均粒径が150nmを超えると、ヘイズ率が急激に上昇する。
【0115】
紫外線遮蔽能を有する化合物を溶解して添加した比較例B2,B4の紫外線遮蔽膜付きガラス板からは、紫外線遮蔽能が十分に得られなかった。ベンゼンチオール銅錯体誘導体は、酸化防止剤として使用されてきたものであってこの機能のみを期待するのであれば溶媒に溶かして膜に添加すれば足りる。他方、これまでに知られていなかったことであるが、この有機化合物の紫外線吸収能を実用に供しうる程度に引き出すためには、固体微粒子として膜に添加することが必要になる。
【0116】
高分子紫外線吸収剤を用いた比較例C1,C2の紫外線遮蔽膜付きガラス板からも、紫外線遮蔽能が十分に得られなかった。高分子紫外線吸収剤は、重合に寄与する官能基(比較例1,2で用いた吸収剤ではメタクリル基)と紫外線吸収基とを含む化合物を重合して製造される。この重合体では、分子鎖の側鎖の一部に紫外線吸収能を有する官能基を有するが、分子鎖それ自体やその他の側鎖から構成される主要部は紫外線吸収能を有さない。このため、高分子量の重合体は、固体として添加するには適した形態であるものの、紫外線の吸収に寄与する基の比率が相対的に低くなり、十分な紫外線遮蔽能を付与するには適していない。また、高分子紫外線吸収剤の添加は、耐摩耗性を維持する観点からも適していない。
【0117】
各実施例の紫外線遮蔽膜付きガラス板は、3%以下のヘイズ率、70%以上のT550、1.5%以下のTUV380、1.5%以下のΔTUV380を有し、屋外で使用するガラス物品として優れた特性を備えていた。また、膜にITO微粒子をさらに添加したガラス板は、25%以下のT1550を有し、優れた赤外線遮蔽能を兼ね備えていた。
【0118】
各実施例で得た紫外線遮蔽膜付きガラス板の断面を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察したところ、有機化合物Aが微粒子となって膜に分散していることが確認できた。また、X線回折装置を用いて膜を解析したところ、微粒子として存在する有機化合物Aに由来するピークが観察された。これは、有機化合物Aが結晶として膜中に存在していることを示している。実施例A11のX線回折チャートを図2として、実施例B6のX線回折チャートを図3として示す。
【0119】
なお、X線回折の測定条件は以下のとおりとした。用いた測定装置はリガク製「SmartLab」である。
・測定条件:Cukα線、管電圧45kV、管電流200mA(9.0kW)
・測定方法:out-of-plane薄膜X線回折法(平行ビーム光学系;ω固定2θスキャン)
・X線回折角:0.50°
・2θスキャン範囲:3〜60°
・サンプリング角度:0.02°
・スキャンスピード:1.0°/分
【0120】
各実施例における紫外線遮蔽特性が比較例よりも大幅に優れたものとなったことには、紫外線吸収能を有する有機化合物Aが結晶状態で膜中に存在することが寄与していると考えられる。
【0121】
(実施例D1)
実施例A1と同様にして調製したベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤(チバ・スペシャリティ・ケミカルズ製「TINUVIN360」;有機化合物α)を分散質として含み、水を分散媒とする分散液を準備した。ただし、この分散液は、紫外線吸収剤の平均粒径が83nm、固形分濃度が0.002質量%となるように調製した。この分散液について、分光光度計(島津製作所製、UV−1700)を用い、吸光度の波長依存性を測定した。測定に用いたセルの光路長は1cmである。結果を、実施例D2および比較例D1,D2の結果とともに図4および表9に示す。
【0122】
(実施例D2)
ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤に代えて、以下の式に示すトリアジン系紫外線吸収剤を用いたことを除いては、実施例1と同様にして分散液を調製した。分散液は、紫外線吸収剤の平均粒径が90nm、固形分濃度が0.002質量%となるように調製した。この分散液について、実施例D1と同様にして吸光度を測定した。
【0123】
【化12】

【0124】
(比較例D1)
ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤をテトラヒドロフラン(THF)に溶解させた溶液を調製した。溶液は、紫外線吸収剤の濃度が0.002質量%となるように調製した。この溶液について、実施例D1と同様にして吸光度を測定した。
【0125】
(比較例D2)
実施例2で用いたトリアジン系紫外線吸収剤をテトラヒドロフラン(THF)に溶解させた溶液を調製した。溶液は、紫外線吸収剤の濃度が0.002質量%となるように調製した。この溶液について、実施例D1と同様にして吸光度を測定した。
【0126】
【表9】

【0127】
実施例D1による吸光度は、波長380nmにおいて0.40以上、波長390nmにおいて0.20以上、波長400nmにおいて0.18以下となった。実施例1による分光吸光度曲線の吸収ピーク波長は、波長358nmであって比較例D1の同ピーク波長よりも8nm以上長く、その波長における吸光度(最大吸光度)は比較例D1の最大吸光度よりも0.05以上大きくなった。
【産業上の利用可能性】
【0128】
本発明による紫外線遮蔽能を有するガラス物品は、屋外に面する窓、太陽電池用カバーガラスなどにおける使用に適した製品として大きな利用価値を有する。
【符号の説明】
【0129】
1 ガラス板
2 紫外線遮蔽膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス板と、前記ガラス板上に形成された紫外線遮蔽膜と、を有し、
前記紫外線遮蔽膜が、酸化ケイ素とともに、
紫外線遮蔽成分として、常温で固体であるとともに分子量が5000以下である有機化合物Aの微粒子を含み、
前記微粒子の平均粒径が150nm以下である、紫外線遮蔽能を有するガラス物品。
【請求項2】
ISO9050(1990年度版)に従って算出した紫外線透過率(TUV380)が2%以下である、請求項1に記載のガラス物品。
【請求項3】
波長550nmにおける光線透過率(T550)が70%を超える、請求項2に記載のガラス物品。
【請求項4】
前記紫外線遮蔽膜の50質量%以上を酸化珪素が占める、請求項1〜3のいずれか1項に記載のガラス物品。
【請求項5】
前記有機化合物Aが、下記式(1)により示される官能基を2つ以上分子中に有する、請求項1〜4のいずれか1項に記載のガラス物品。
【化1】

ここで、A1〜A5は、それぞれ独立に、水素原子、水酸基、直鎖のもしくは分岐を有する炭素数1〜20のアルキル基、または下記式(2)により示される官能基であり、A1〜A5の少なくとも1つは、下記式(2)により示される官能基である。
【化2】

【請求項6】
前記有機化合物Aが、下記式(3)により示される官能基を2つ以上分子中に有する請求項5に記載のガラス物品。
【化3】

ここで、R1は、直鎖のもしくは分岐を有する炭素数1〜20のアルキル基である。
【請求項7】
前記有機化合物Aが、前記式(3)により示される2つの官能基が炭素数3以下のアルキレン基により結合されている構造単位を有する請求項6に記載のガラス物品。
【請求項8】
前記有機化合物Aが、下記式(4)により示される化合物である請求項7に記載のガラス物品。
【化4】

ここで、R1およびR2は、互いに独立して、直鎖のもしくは分岐を有する炭素数1〜20のアルキル基である。
【請求項9】
前記有機化合物Aが、下記式(5)により示される構造単位を分子中に有する、請求項1〜3のいずれか1項に記載のガラス物品。
【化5】

【請求項10】
前記紫外線遮蔽膜が、ポリエーテル化合物、ポリオール化合物、ポリビニルピロリドン類およびポリビニルカプロラクタム類から選ばれる少なくとも1種に相当する有機化合物Bをさらに含む、請求項1〜9のいずれか1項に記載のガラス物品。
【請求項11】
前記紫外線遮蔽膜が、シランカップリング剤またはシランカップリング剤に由来する構造単位をさらに含む、請求項1〜10のいずれか1項に記載のガラス物品。
【請求項12】
前記紫外線遮蔽膜が、インジウム錫酸化物(ITO)微粒子をさらに含む、請求項1〜11のいずれか1項に記載のガラス物品。
【請求項13】
液体である分散媒と、前記分散媒中に分散した紫外線遮蔽成分とを含み、
前記紫外線遮蔽成分が、常温で固体であるとともに分子量が5000以下である有機化合物Aの微粒子であり、
前記微粒子の平均粒径が150nm以下である、紫外線遮蔽膜形成用微粒子分散組成物。
【請求項14】
前記紫外線遮蔽成分の含有率を0.002重量%、光路長を1cmとして測定した吸光度が、波長390nmにおいて0.20以上であり、波長400nmにおいて0.18以下である、請求項13に記載の微粒子分散組成物。
【請求項15】
前記有機化合物Aが、下記式(1)により示される官能基を2つ以上分子中に有する、請求項13または14に記載の微粒子分散組成物。
【化6】

ここで、A1〜A5は、それぞれ独立に、水素原子、水酸基、直鎖のもしくは分岐を有する炭素数1〜20のアルキル基、または下記式(2)により示される官能基であり、A1〜A5の少なくとも1つは、下記式(2)により示される官能基である。
【化7】


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−180260(P2012−180260A)
【公開日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−143918(P2011−143918)
【出願日】平成23年6月29日(2011.6.29)
【出願人】(000004008)日本板硝子株式会社 (853)
【出願人】(591064508)御国色素株式会社 (28)
【Fターム(参考)】