説明

細砕セルロース繊維材のスラリーを処理する方法

【課題】 環境に優しく(ECF)、かつ商業的に実行可能な細砕セルロース繊維材から完全に漂白されたセルロースパルプ(普通は白色度ISO89または90%超)を製造する。
【解決手段】 細砕セルロース繊維材から漂白された化学パルプを製造する方法が、
(a)化学添加物の存在下に化学パルプ製造法でセルロース材を処理し、添加物を少なくともある程度含む化学パルプを製造するステップと、
(b)少なくとも一つの単体塩素を含まない漂白剤で化学パルプを処理して、化学添加物の存在による少なくともある程度の変色を有する漂白された化学パルプを製造するステップと、
(c)漂白されたパルプを、少なくとも一つの酸化剤で処理して、化学添加剤の存在で被った変色を除去するステップと、
を含むことを特徴とする細砕セルロース繊維材から漂白された化学パルプを製造する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細砕セルロース繊維材を処理する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
化学パルプ製造と漂白工程が環境に及ぼす影響が益々憂慮される状況下、製紙に使用されるセルロースパルプを製造するセルロース材の処理において含塩素化合物を特に制限しようとする試みがなされている。これは、特にセルロースパルプの漂白の場合にそうであり、酸化性の含塩素化合物の使用に代替して、酸素や過酸化物やオゾンなどのより環境に優しい含酸素化合物を使用しようとする試みがなされている。例えば、米国環境保護庁(EPA)が最近に提案し、立法化した「クラスター・ルール(Cluster Rules)」と称される規制は、パルプ工場から排出されるガスおよび液流出物双方に含まれる含塩素漂白剤関連のある種の化学物質の排出を制限している。
【0003】
その結果、多岐にわたる完全塩素フリー(TCF)あるいは単体塩素フリー(ECF)漂白法が提案され、幾つかの方法は商業運転に用いられている。例えば、TCF漂白では、塩素を含有しない化合物、特に無塩素(Clまたは略称して「C」)あるいは無二酸化塩素(ClO、略称「D」)薬剤がパルプ漂白に使用されている。ECF漂白では、単体塩素を漂白プラントから追放して、より環境に優しい二酸化塩素が好まれて使用されている。普通、TCF漂白法は、酸素ガス(O、略称「O」)、オゾンガス(O、略称「Z」)および過酸化水素(H、略称「P」)が特に使用され、一方ECF漂白法では、二酸化塩素(D)の使用も行われている。
【0004】
また、TCFやECF漂白法は、特に溶解している鉄(Fe)、銅(Cu)、マンガン(Mn)などのような溶解金属イオンの存在によって被毒作用を受けやすい。これら「非プロセス元素」はTCFやECF漂白法の「クローズドサイクル」漂白排出物中で濃縮される恐れがあるばかりでなく、これらの金属、特にMnは無塩素漂白剤、特に過酸化水素とパルプとの効果的な処理に有害であると認識されている。その結果、パルプ工場の内部およびその周辺のパルプおよび液処理流中にそのような溶解金属が存在することを制限することも望ましい。これらの金属の存在を最小限に抑えるのに用いられる典型的な処理法は、酸洗滌であり、キレート処理、例えば、従来のキレート化剤、なかんずくEDTAとDPTAを用いる方法である。
【0005】
また、パルプ工場から排出されるガスから悪臭のある含硫黄化合物、例えば、特に硫化水素(HS)、メチルメルカプタン(CHSH)、硫化ジメチル(CHSCH)、二硫化ジメチル(CHCH)など(全還元性硫黄(TRS)ガスと総称する)を含むガスの排出を低減することも興味あることである。これらの含硫黄ガスは、主なパルプ製造薬剤が硫化ナトリウム(NaS)や水酸化ナトリウム(NaOH)である「サルフェート」、つまり「クラフト」パルプ製造法に関連して発生するのが普通である。クラフト法に対する別法は、「ソーダ」法であり、この方法では活性パルプ製造薬剤はNaOHだけに限られ、含硫黄薬剤はパルプ製造に使用されない(もっとも、ある程度の硫黄は原料木材経由あるいは工場のボイラーで焚かれる石油経由で導入されることはある)。
【0006】
しかし、ソーダ法では、クラフト法に較べて少々劣った品質の製品が製造されると認識されている。すなわち、ソーダ法では普通、クラフト法より収率が低く、強度特性が劣ったパルプが製造される。ソーダ法のこの制約に対処するため、ソーダ法に強度または収率向上剤を導入して、製造されたパルプの品質を改良しようとする試みが行われている。最も有名なものに、アントラキノン(AQ)を導入する「ソーダAQ」法として知られるものがあるが、成功は限定的なものであった。
【発明の概要】
【0007】
セルロース材、すなわち、木材チップをAQで処理して得られる効果で、最近認識された効果は、AQ処理して得たパルプが有する望ましくない「黄色化」である。すなわち、AQの存在下で製造されたパルプが黄色または橙色を呈したことで、これは、特に完全漂白を行ったパルプには望ましくない。本発明で認識されたことは、この望ましくない変色を低減しあるいは無くすのに効果的な方法は、AQで処理されたパルプを酸化剤、例えば、空気、酸素ガス、過酸化物あるいは最も望ましくはオゾンガスで処理することである。
【0008】
更に、最近認識されたことは、米国特許第5,489,363号公報、第5,536,366号公報、第5,547,012号公報、第5,575,890号公報、第5,620,562号公報、第5,662,775号公報などに記載の方法、およびニューヨーク州グレンス フォールス(Glens Falls)のアンドリッツ・アールストローム社(Andritz−Ahlstrom Inc.)が商標ロー・ソリッド(LO−SOLIDS)下に販売の方法が、従来の方法で製造されるパルプと比較して、特にソーダ法と比較して改良された強度特性(粘度上昇として示される)を有するセルロースパルプを製造するということである。更に、オゾンを使用すると、パルプ粘度に負の影響を与えることも知られている。従って、ロー・ソリッド蒸解法とAQ処理とを採用する本発明の実施の形態では、製造されたパルプの品質と強度とに与えるソーダ蒸解とオゾン漂白の負の影響を打ち消すことが可能である。
【0009】
従って、本発明は、パルプ製造法に存在する硫黄と漂白法に存在する塩素とを無くし、あるいは最小限に抑え、しかも一方では品質(すなわち、製造された漂白パルプの強度と収率)を維持または改良することによって、環境に優しくかつ商業的に実行可能な細砕セルロース繊維材から完全漂白のセルロースパルプを製造する方法を提供する。
【0010】
本発明の態様の一つは、(a)第一段でオゾン含有のガスを使用してセルロース材を処理するステップと(b)第二段で二酸化塩素含有の液を使用してセルロース材を処理するステップとを含む細砕セルロース繊維材のスラリーを処理して、漂白された化学パルプを製造する方法を提供するが、その際、ステップ(a)とステップ(b)との間でセルロース材をアルカリ液で処理し、ステップ(b)の前でセルロース材のpHを上げ、ステップ(a)とステップ(b)との間では洗滌は行わないことを特徴とする。好ましくは、ステップ(a)とステップ(b)との間でセルロース材のpHは少なくとも約6.0、好ましくは少なくとも7.0に上げる。本発明は記号(ZEND)と表すことができる。ここで、Zはオゾン含有ガスで酸性化処理を行うこと、ENはアルカリ中和処理、Dは二酸化塩素でアルカリ中和処理を行うことを示す。勿論、これらの処理ステップの間では洗滌は行わない。
【0011】
本発明では、アルカリ中和処理、ENは少なくとも二つの認識された機能を果たす。第一には、大略中性のpH、すなわち、pHが約6〜8の範囲、好ましくは約7のpHにアルカリ性を上げると、前のZ工程からの反応生成物が可溶化する。例えば、Z工程で酸化された含リグニン化合物が、オゾン処理されたパルプにアルカリ添加することによって溶液状に保たれる。従来のアルカリ抽出工程では、これらの可溶化された化合物がその後のパルプの洗滌で更に処理される前に除かれてしまうが、本発明では洗滌(用語「洗滌」は圧搾したり濃縮することも含む)が不要なので、可溶化された含リグニン化合物は次のアルカリ性二酸化塩素処理まで送られる。含リグニン化合物は、後になって二酸化塩素工程に続く洗滌工程で除くことができる。第二に、中和工程でアルカリを導入すると、後のアルカリD工程により適合した範囲までパルプのpHを上げることができる。アルカリ状態で二酸化塩素処理を開始するのが好ましいということが当該技術で知られているが、二酸化塩素処理の際にpHは普通、酸が生じるにつれて低下する。つまり、EN工程に導入されたアルカリは、D工程でpHを調整するのに添加が必要なアルカリ量を一部相殺してしまうことになる。本発明では、得られるパルプのより効果的な処理、すなわち、発色性の化合物のより効果的な除去が行われるのみならず、高価な洗滌装置の必要性も無くなる。
【0012】
好ましい態様では、ステップ(a)に先だって、セルロース材はアルカリ性化学パルプ製造法、好ましくは硫黄分を実質的に使わないパルプ製造法、例えば、ソーダ式パルプ製造法で処理される。このアルカリ性パルプ製造法はまた、強度増進剤または収率向上剤、例えば、アントラキノンもしくはポリサルファイド、またはこれらの同等品もしくはこれらの誘導体を用いるのが好ましい。好ましい添加剤はアントラキノン、略称AQである。AQは、クラフト法に比較してソーダ法が特徴とする収率低下を補うことが知られているからである。更に、このアルカリ性パルプ製造法は、バルク脱リグニン工程を備えるのが好ましく、この製造法は、バルク脱リグニン工程の前あるいはその間に少なくとも一工程を備える。この工程で、第一レベルの溶解有機物を含む液がセルロース材から除かれ、より少ないレベルの(例えば、少なくとも50%低い)溶解有機物を有する第二液で置換される。これらのことは前述の特許に記載されている(これらの開示内容を本明細書に参考文献として引用する)。
【0013】
また、ステップ(a)の処理の前に、(c)二酸化塩素含有の液でセルロース材を処理するステップ、その後に(d)アルカリ液でセルロース材を処理するステップを設けるのが好ましい。具体的に言えば、処理ステップ(c)が二酸化塩素(D)処理であり、ステップ(d)がアルカリ液で処理して、ステップ(c)で生成された酸化生成物を可溶化し抽出(E)する処理であることが好ましい。ステップ(d)のアルカリ液は普通、水酸化ナトリウムである。すなわち、好ましい態様の一つは、漂白シーケンスD−E−(ZEND)である。ここで、洗滌は第一D工程と第一E工程の前と、間と、後に行われる(上の漂白シーケンス表示でハイフンで示したように)が、Z、ENおよびD工程の間では洗滌は行われない(上の漂白シーケンス表示で括弧内のこれらのシンボルをお互いにハイフン無しで閉じて示したように)。アルカリ液での最初の処理(E)は、酸素、過酸化物または両者を使用することも含むことも差し支えない。すなわち、この工程は、Eo、EpまたはEopでも差し支えない。
【0014】
本発明の態様の別の一つは、(a)化学添加物の存在下に化学パルプ製造法でセルロース材を処理し、添加物を少なくともある程度含む化学パルプを製造するステップと、(b)少なくとも一つの単体塩素を含まない漂白剤で化学パルプを処理して、化学添加物の存在による少なくともある程度の変色を有する漂白された化学パルプを製造するステップと、(c)漂白されたパルプを、少なくとも一つの酸化剤で処理して、化学添加剤の存在で被った変色を除去するステップを含む細砕セルロース繊維材から漂白された化学パルプを製造する方法を提供する。好ましい態様では、ステップ(a)のパルプ製造法に使用される化学添加剤は、アントラキノンまたはその同等品もしくはその誘導体である。添加剤、普通はAQの存在によるパルプ変色の特徴は、パルプにつけられた黄色または橙色の色相である。
【0015】
処理ステップ(b)に使用される少なくとも一つの漂白剤は、以下の漂白剤:酸素、二酸化塩素、水酸化ナトリウム、オゾン、過酸化水素の一つまたは複数であることが好ましいが、少なくとも二酸化塩素を含むことが最も好ましい。処理ステップ(c)に使用される酸化剤は普通、空気、オゾン、酸素または過酸化物であるが、オゾン含有ガスであることが好ましい。
【0016】
本発明の別の態様に従えば、ソーダ/AQの蒸解を行い、その後でD−Ep−(ZEND)、D−Eo−(ZEND)またはD−Eop−(ZEND)の一つを行うシーケンスを含む細砕セルロース繊維材のECF処理を行う方法が提供される。このようにして製造されたパルプは白色度が少なくともISO89%または90%、粘度21cPまたは22cP超を有する。
【0017】
以上、本発明に従えば、環境に優しく、商業的に実行可能な細砕セルロース繊維材から完全漂白セルロースパルプを製造するのに用いられる方法が提供される。本発明は、現在最も実際的でかつ好ましい態様であると考えられるものに関連して記載されたものであるので、本発明は開示した態様に限定されるものではなく、反対に、多岐にわたる修正や等価の組合せや方法を含むものであり、従来技術のみによって限定されることが理解されねばならない。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の例示的態様の一つの完全なパルプ製造系統の概略図である。
【図2】図1のパルプ製造系統のサブシステムの詳細図である。
【図3】粘度対白色度のグラフで、本発明に従って製造されたパルプの性質を多くの従来技術の方法と比較して示すグラフである。
【図4】図3と同様なグラフで、白色度対二酸化塩素消費量をプロットして示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
【実施例】
【0020】
図1は、本発明の典型的な完全に環境に優しく、かつ商業的に実行可能な繊維素またはセルロース材処理システム10の概略図を示す。細砕セルロース繊維材11、普通は広葉樹または針葉樹チップが蒸解缶12へ導入される。最も、どんな形の細砕セルロース繊維材も本発明で処理することができる。本発明は連続蒸解缶で処理するのが最も好適ではあるが、蒸解缶12は回分式蒸解缶でも差し支えない。本発明の好ましい態様に従えば、パルプ製造法は硫黄を含まない蒸解法、好ましくはソーダ/AQ法であることが好ましい。苛性ソーダ、即ち水酸化ナトリウムがチップと一緒に導管13経由で蒸解缶12へ導入され、AQまたはその同等品もしくはその誘導体が導管14経由で導入される。処理されたパルプは蒸解缶から導管15へ排出される。
【0021】
従来のように、蒸解されたパルプは一基または複数基の褐色粗パルプ洗滌機16で処理され、蒸解薬剤を一部分回収し、次の処理に先だってパルプスラリーをきれいに洗滌する。きれいにされたパルプは、選択的ではあるが、導管17経由でアルカリ性酸素脱リグニン工程18へ送られ、次いで導管19で酸素脱リグニン後の洗滌工程20へ送られる。酸素処理は中程度のコンシステンシー、すなわち、約8〜18%のパルプコンシステンシーで一段または複数段で行うのが好ましい。洗滌されたパルプは、酸素処理されたものであるなしにかかわらず、導管21経由で後段の処理に送られる。
【0022】
導管21は、第一の正式な漂白工程22へパルプを送る。この工程はアルカリ性二酸化塩素処理Dであることが好ましい。この処理22は中程度のコンシステンシーまたは低コンシステンシー、すなわち、約0.5〜18%、好ましくは約2〜8%の(およびこの広い範囲の中の他の全ての狭い範囲の)パルプコンシステンシーで行うことができる。処理されたパルプは次いで導管23経由で洗滌機24へ送られる。洗滌機24は、どんな形の従来の洗滌機、例えば、真空ドラム洗滌機、洗滌プレス、拡散洗滌機、またはベルト洗滌機で差し支えない。一基または複数基の洗浄機24での洗滌は、従来と同じように低または中程度のコンシステンシーで行って差し支えない。
【0023】
洗滌されたパルプは、次いで導管25経由でアルカリ抽出工程(E)26(これはEo、EpまたはEop工程でも差し支えない)へ送られる。この工程は、工程22の反応生成物を可溶化する水酸化ナトリウムを用いる従来のアルカリ処理である。抽出工程26からのパルプは、導管27経由で、工程24と同じ様なもう一つ別の従来の洗滌工程28へ送られる。洗滌されたパルプは導管29経由でオゾン処理工程30へ送られる。
【0024】
処理工程30、34および38が本発明の最も広い範囲の態様を構成する。工程29では、パルプが、導管31経由で導入される含オゾンガスで処理される。パルプは中程度のコンシステンシー(例えば、約6〜18%)が好ましいが、低コンシステンシー(0.5〜5%)あるいは高コンシステンシー(18%超)でも差し支えない。この含オゾンガスは普通、キャリヤガス、例えば、酸素または空気を用いて5%より高く、普通は約5〜15%の範囲の濃度で発生され、導入される。この含オゾンガスは普通、内部で発生されて使用されるが、外部ソースから供給することも差し支えない。この含オゾンガスは普通、加圧状態で高強度ミキサー、例えば、ニューヨーク州グレンス フォールスのアンドリッツ−アールストローム社製のAMZミキサーに供給される。工程30の処理は普通、酸性環境下、普通は5より低いpH,好ましくは約2〜3の範囲のpHで行われる。オゾン処理30の後、処理されたパルプは、導管32経由でアルカリ処理工程34へ送られる。所望ならば、導管31経由でパルプへ導入されたガス量は比較的膨大なので、処理30の後でかつ処理34の前で、ある程度の脱気33を行うことができるが、洗滌(この用語は圧搾したり濃縮することも含む)は行わない。
【0025】
アルカリ処理34は普通、オゾン処理されたパルプを、導管35経由で導入されたアルカリ、普通はNaOHに比較的短時間曝すことである。処理34の滞留時間は普通、30分未満、好ましくは15分未満である。上で議論したように、処理34は、なかんずく、処理30から排出された酸性のパルプを中和するので、処理30の反応生成物は溶解状態に維持される。工程34のpHは普通、約6〜8の範囲で、好ましくは約7である。しかし、従来技術と異なって、これらの可溶化された化合物は処理34の後でもパルプから洗い落とされないで、導管36経由でアルカリ処理38、Dへ直接送られる。前と同じように、ある程度の脱気37を、必要ならば工程34と工程38の間で行うこともできる。洗滌されていないパルプは、導管36経由で処理38へ送られ、二酸化塩素,ClOで処理される。二酸化塩素は導管39とミキサー(図2のミキサー59を参照のこと)、例えば、従来の高強度ミキサー経由でパルプへ導入される。
【0026】
処理されたパルプは、次いで導管40経由で工程41の従来の洗滌工程へ送られ、その後所望ならば、導管42経由で、例えば、更に単体塩素を含まない漂白工程(その結果パルプの処理全体はECFとなる)へ、貯槽へ、工場が一貫生産の製紙工場ならば製紙機械の前の原料調製へ、あるいは工場がパルプ販売の工場ならばパルプ乾燥機へと送られる。
【0027】
図2は、図1に示される工程30、34および38の特別な態様を示す。図1のものと同様な図2の構造は、同様な参照番号で認識されるが、図2では参照番号は頭に数字「1」が付いている。例えば、図2の導管129は図1の導管29と実質的に同じである。
【0028】
図1の洗滌機28から流れてきたパルプは図2では導管129経由で処理130へ導入される。処理130はミキサー50内で行われるのが好ましい。ミキサー50には含オゾンガス、普通は酸素キャリヤガス中のオゾンが導管131経由で送られる。オゾン処理ステップは普通、系のエネルギー平衡に依存して100℃未満の温度、例えば、約20〜70℃の温度で行われる。酸性オゾン処理130は普通、pH5未満で、好ましくはpH約2〜3の間で行われる。しかし、オゾン処理130は、pH5より高いpH、あるいはpH7より高いpHでさえも、このような高pH値でオゾン分解やセルロース損傷が回避あるいは最小化できるならば、行うことができる。
【0029】
オゾン処理されたパルプは、ミキサー50から導管132へ排出される。オゾンのパルプとの反応は極めて急速であり、例えば、この反応は普通、30秒未満で起こるので、ミキサー50の後には保持槽は通常は不要であり、オゾン処理されたパルプはアルカリ中和工程134へ直接送られる。しかし、所望ならば、保持槽51をミキサー50の後に用いることができる。図2には示されていないけれども、ミキサー50の後、工程134の前でパルプを脱気することも差し支えない。
【0030】
オゾン処理されたパルプは、導管132経由でアルカリ中和工程134へ導入される。処理134は、導管135経由でアルカリ、好ましくはNaOHをミキサー52へ、この場合も好ましくは高強度ミキサーへ導入することによって行われる。またこの場合も、オゾンとパルプとの反応が、特に中程度のコンシステンシーでは急速なので、導管135中のアルカリは導管62と導管131経由でミキサー150に直接導入することができる。本発明の特別な態様では、ミキサー52を取り去って、含オゾンガスとアルカリとをミキサー50へ導入することもできる。
【0031】
二基のミキサー50および52を用いて示されている態様を前提に、アルカリをミキサー52経由でパルプに導入した後、パルプは導管53から排出される。パルプはこのアルカリ状態で普通、約20〜70℃の温度、好ましくは約50〜70℃の温度で、少なくとも約15分間、好ましくは少なくとも約30〜60分間保持される。この保持は、通常の保持槽(図示せず)あるいはポンプ供給シュート54内で行われる。好ましい態様では、どんな好適な従来の方法でもよいが、パルプが供給シュート54に導入される時少なくともある程度のパルプの脱気137が行われる。このパルプは、所望ならば特殊設計の回転式脱気装置で脱気することもできる。
【0032】
供給シュート54または保持槽(図示せず)から、パルプはポンプ55経由で二酸化塩素処理138へポンプ移送される。ポンプ55は脱気タイプポンプがよく、このポンプからガスが導管56経由で除かれる。ポンプ55はパルプを導管57からミキサー59へ移送する。ここでも、このミキサーは高強度ミキサーであることが好ましく、このミキサーには二酸化塩素が導管139経由で導入される。所望ならば、導管57中のパルプはスチームを導管58で導入することによって加熱することができる。槽61に排出されるパルプのpHは普通、少なくとも5であり、好ましくは少なくとも6である。パルプに更にアルカリを、例えば、導管63経由で添加することもできる。二酸化塩素はミキサー59中でパルプと完全に混合され、導管60経由で保持槽61に排出される。アルカリ性で塩素化されたパルプは従来の保持槽(例えば、上向き流槽)61に少なくとも1時間保持される。パルプは普通、約1.5〜6時間、好ましくは約2〜4時間、約20〜70℃の温度、好ましくは約50〜70℃の温度で保持される。処理されたパルプは導管140経由で従来の洗滌機141へ排出され、洗滌され、次いで導管142経由で前に議論したように、以降の処理を行うために送られる。
【0033】
図3は、3種類の異なる処理シナリオについてプロットしたグラフを示す。参照番号70で示されるのは本発明によるD−Eop−(ZEND)処理シーケンスであり、71で示されるのはD−Eop−D−P、72で示されるのはD−Eop−Dの2種の従来技術手順である。分かるように、本発明の処理70は手順71のものと同等な白色度を達成し、しかも粘度は遥かに高く、実際72で示されたものと同等である。図3に示された手順70、71および72の全てにおいて、処理シーケンスの前の原料パルプは、ロー・ソリッド(LO-SOLIDS)(登録商標)蒸解の混合広葉樹パルプをカッパ数9まで酸素脱リグニンしたもので、各処理70、71および72に対して正確に同じ原料パルプを用いた。
【0034】
図4は、図3と同じパルプと処理シーケンスのグラフで、白色度を二酸化塩素消費量に対してグラフ表示したものである。ここでも分かるように、本発明の処理手順73は手順74のものと白色度が同等で、手順75よりも遥かに高い白色度を有し、二酸化塩素の消費量は大略同一(僅かに高い)である。
【0035】
図3と図4とから明らかなように、本発明の処理シーケンスD−E(普通はEo、EpまたはEop)−(ZEND)は、白色度が少なくともISO89%または90%、粘度が少なくとも21cPまたは22cPを有する。
【0036】
本発明は、上記の広い範囲内の特定の狭い範囲は全て含む。例えば、コンシステンシー6〜18%は、6〜12%、8〜11%、9〜18%、およびこの広い範囲内の他の狭い範囲全てを意味する。
【0037】
以上本発明では、細砕セルロース繊維材から完全に漂白されたセルロースパルプを製造する、環境に優しく、かつ商業的に実行可能な方法が提供される。本発明は、最も実際的かつ好ましい実施の形態であると現在考えられるものについて記載したものであるので、本発明は開示された態様に限定されず、逆に、本発明の精神と特許請求の範囲内に含まれる多くの部分的修正や等価の組合せや方法を含むものであることを理解しなければならない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
細砕セルロース繊維材から漂白された化学パルプを製造する方法が、
(a)化学添加物の存在下に化学パルプ製造法でセルロース材を処理し、添加物を少なくともある程度含む化学パルプを製造するステップと、
(b)少なくとも一つの単体塩素を含まない漂白剤で化学パルプを処理して、化学添加物の存在による少なくともある程度の変色を有する漂白された化学パルプを製造するステップと、
(c)漂白されたパルプを、少なくとも一つの酸化剤で処理して、化学添加剤の存在で被った変色を除去するステップと、
を含むことを特徴とする細砕セルロース繊維材から漂白された化学パルプを製造する方法。
【請求項2】
請求項1記載の方法において、ステップ(a)が、パルプ製造法に使用される化学添加剤として、アントラキノンまたはその同等品もしくはその誘導体を用いて行われることを特徴とする方法。
【請求項3】
請求項1記載の方法において、ステップ(b)が、少なくとも一つの漂白剤として、以下の漂白剤:酸素、二酸化塩素、水酸化ナトリウム、オゾン、過酸化水素の一つまたは複数を用いて行われることを特徴とする方法。
【請求項4】
請求項1記載の方法において、ステップ(b)が、変色がパルプにつけられた黄色または橙色の色相によって特徴付けられるように行われることを特徴とする方法。
【請求項5】
請求項1記載の方法において、ステップ(c)が酸化剤として空気、酸素、過酸化物またはオゾンのうちの少なくとも一つを用いて行われることを特徴とする方法。
【請求項6】
請求項2記載の方法において、ステップ(c)が酸化剤として含オゾンガスを用いて行われ、ステップ(a)がソーダ/AQパルプ製造法で、ステップ(b)が少なくとも一つの漂白剤として以下の漂白剤:酸素、二酸化塩素、水酸化ナトリウム、オゾン、過酸化水素の一つまたは複数を用いて行われることを特徴とする方法。
【請求項7】
細砕セルロース繊維材のECF処理方法が、ソーダ/AQ蒸解、その後でD−Ep−(ZEND)、またはD−Eo−(ZEND)またはD−Eop−(ZEND)の一つを行うシーケンスを含むことを特徴とする細砕セルロース繊維材のECF処理方法。
【請求項8】
請求項7記載の方法において、前記処理が、ISO89%を超える白色度のパルプを製造するように行われることを特徴とする方法。
【請求項9】
請求項8記載のように製造されるパルプにおいて、21cPを超える粘度を有することを特徴とするパルプ。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−74234(P2009−74234A)
【公開日】平成21年4月9日(2009.4.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−3068(P2009−3068)
【出願日】平成21年1月9日(2009.1.9)
【分割の表示】特願2000−367014(P2000−367014)の分割
【原出願日】平成12年12月1日(2000.12.1)
【出願人】(502075342)アンドリッツ インコーポレーテッド (27)
【Fターム(参考)】