説明

細胞およびそれらを得るための方法

再プログラミングされた体細胞、再プログラミングの方法、体細胞のための再プログラミング因子、ならびにそのような因子および細胞の使用が記載される。記載される核再プログラミング因子[NRF]は、レチノイン酸受容体(RAR/RXR)ファミリーメンバーからの遺伝子産物もしくは遺伝子産物をコードするポリ核酸、またはそのアゴニストもしくはアンタゴニスト; Lrh1ファミリーメンバーからの遺伝子産物、またはそのアゴニスト;レチノイン酸またはレチノイン酸を合成もしくは代謝することに関与する遺伝子産物、またはそのアゴニストもしくはアンタゴニスト;あるいはレチノイン酸ファミリーメンバーを輸送することに関与する遺伝子産物の1つまたは複数を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、再プログラミングされた体細胞、再プログラミングの方法、体細胞のための再プログラミング因子、ならびにそのような因子および細胞の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
マウス胚線維芽細胞(MEF)は、4つの転写因子(Yamanaka因子)、Oct4、Sox2、c-MycおよびKlf4の発現によって多能性状態に再プログラミングすることができる(1〜3)。マウス(4〜6)、ラットおよびヒト(7〜9)で様々な系統の体細胞を再プログラミングするために、同じ遺伝子セットまたはその変異体が後に適用された。誘導多能性幹細胞(iPS)への一次体細胞の再プログラミングは、遺伝子の変化および後成的変化を伴う複雑で段階的な過程である(37、51)。したがって、4つのYamanaka因子のトランスジェニック発現によって生成されるマウスiPSクローンは、多くの場合不均一で、完全におよび部分的に再プログラミングされた細胞の混合物である(52)。自己複製および他の重要な胚性幹細胞(ES)様特性のためには、外来性因子の持続的発現がiPS細胞で時々必要とされる(51、11)。したがって、完全に再プログラミングされた細胞を同定するための強力な選択スキームがないと、単なる連続継代およびサブクローニングによって生殖細胞コンピテントなマウスiPS細胞系を確立することは困難であることが判明した。Yamanaka因子に基づく様々なプラットホームを用いてヒトiPS細胞が生成されるが、これらの細胞も不均一性であると予測することが合理的である。内因性多能性遺伝子に関連付けられた蛍光または薬剤選択マーカーなどの信頼できるリポーターがないことが、利用できる再プログラミング因子を用いて生成されたヒトiPS細胞の不均一集団から完全に再プログラミングされた細胞を単離することを困難にする。
【0003】
胚に由来する現在のヒトES細胞は、それらの形態、遺伝子発現パターンおよびクローン原性でマウスES細胞と異なる(53、44)。最も明らかな差は、マウスES細胞の多能性が、白血病抑制因子(LIF)によるJak/Stat3経路の活性化(54)またはMek/Erk経路の阻害(40)に依存するということである。対照的に、ヒトES細胞はLIFに応答性でなく、FGFおよびアクチビン(44)によって維持することができるだけである。ヒトES細胞培養条件を用いたマウス原外胚葉幹細胞(EpiSC)の最近の誘導(55、56)は、多くの態様ではヒトES細胞が真に多能性のマウスES細胞にではなくマウスEpiSCに類似している可能性があることを示す。マウスES細胞の真のヒト対応物を現在欠くことは、ES細胞の多能性を支配している一般的なパラダイムが他の哺乳動物種で作動するかどうかについて証明することを困難にする。さらに、応用の観点からは、マウスES細胞に同等なヒト多能性幹細胞系の利用可能性は、マウスES細胞の自己複製、分化および遺伝子操作に関する豊富な知識をヒトES細胞に直接的に応用することを現実にする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】EP1970446
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Sambrookら、「Molecular Cloning: A Laboratory Manual」、第2版、9.47〜9.51頁、Cold Spring Harbor, N.Y.: Cold Spring Harbor Laboratory Press (1989)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一態様では、本発明は、体細胞の核再プログラミングによって誘導多能性幹細胞を調製する方法であって、体細胞を核再プログラミング因子[NRF]と接触させるステップを含み、前記因子は、以下の1つまたは複数を含む方法を提供する。
(i)レチノイン酸受容体(RAR/RXR)ファミリーメンバーからの遺伝子産物、またはそのアゴニストもしくはアンタゴニスト、
(ii)Lrh1ファミリーメンバーからの遺伝子産物、またはそのアゴニスト、
(iii)レチノイン酸またはレチノイン酸を合成もしくは代謝することに関与する遺伝子産物、またはそのアゴニストもしくはアンタゴニスト、
(iv)レチノイン酸ファミリーメンバーを輸送することに関与する遺伝子産物、
(v)上の(i)から(iv)のいずれかの遺伝子産物をコードするポリ核酸。
【課題を解決するための手段】
【0007】
一態様では、この方法は上の(i)および(ii)の両方を用いることを含む。
【0008】
一態様では、本発明は、体細胞を誘導多能性細胞に再プログラミングするための方法であって、以下のステップを含む方法に関する。
(a)体細胞を、
(i)レチノイン酸受容体(RAR/RXR)ファミリーメンバーからの遺伝子産物、またはそのアゴニスト、
(ii)Lrh1ファミリーメンバーからの遺伝子産物、またはそのアゴニスト、
(iii)レチノイン酸またはレチノイン酸ファミリーメンバーを合成もしくは代謝することに関与する遺伝子産物、またはそのアゴニストもしくはアンタゴニスト、
(iv)レチノイン酸ファミリーメンバーを輸送することに関与する遺伝子産物、
(v)上の(i)から(iv)のいずれかの遺伝子産物をコードするポリ核酸
の1つまたは複数を含むかまたはそれであるNRFと接触させるステップと、次に
(b)体細胞が再プログラムされたかどうか判定するために任意選択で検査するステップと、
(c)ステップ(a)からの生成物をRAまたはRAR/RXRファミリーメンバーのアンタゴニストと接触させるステップ、またはNRFとの接触を除去し、多能性を維持するステップ。
【0009】
一態様では、本発明は、以下の1つまたは複数を含むNRFを提供する。
(i)レチノイン酸受容体(RAR/RXR)ファミリーメンバーからの遺伝子産物、またはそのアゴニストもしくはアンタゴニスト、
(ii)Lrh1ファミリーメンバーからの遺伝子産物、またはそのアゴニスト、
(iii)Lrh1ファミリーメンバーからの遺伝子産物、
(iv)レチノイン酸またはレチノイン酸を合成もしくは代謝することに関与する遺伝子産物、またはそのアゴニストもしくはアンタゴニスト、
(v)レチノイン酸ファミリーメンバーを輸送することに関与する遺伝子産物、
(vi)上の(i)から(iv)のいずれかの遺伝子産物をコードするポリ核酸。
【0010】
一態様では、NRFは、体細胞を誘導多能性細胞に再プログラミングするためのものである。
【0011】
一態様では、本発明は、RARファミリーメンバーおよびLrh1ファミリーメンバーからの遺伝子産物を含むかまたはコードするNRFを提供する。
【0012】
さらなる態様では、本発明は、RARファミリーメンバー、Lrh1ファミリーメンバー、OctファミリーメンバーおよびMycファミリーメンバーからの遺伝子産物を含むかまたはコードするNRFを提供する。
【0013】
さらなる態様では、本発明は、RARファミリーメンバー、Lrh1ファミリーメンバー、Octファミリーメンバー、Klfファミリーメンバー、MycファミリーメンバーおよびSoxファミリーメンバーからの遺伝子産物を含むかまたはコードするNRFを提供する。
【0014】
本発明のさらなる態様では、NRFは、本明細書に記載される1つまたは複数の核再プログラミング因子をコードする1つまたは複数の核酸を含む1つまたは複数のベクターを含む。
【0015】
さらなる態様では、本発明は、一態様では本明細書に開示される方法によって得られるかまたは得ることができる、ヒトiPSなどの誘導多能性幹細胞を提供する。
【0016】
さらなる態様では、本発明は、以下の少なくとも1つを特徴とする誘導ヒト多能性細胞に関する。
・Oct4、Nanog、Rex1などの1つまたは複数の多能性マーカーの発現、
・FGFに依存しない増殖、
・継代後にスペクトル核型分析を用いて測定される、正常な核型を保持すること、
・マウスに注射されると、テラトーマを形成することが可能であること、
・Oct4、Nanog、Rex1の1つまたは複数のプロモーター領域の脱メチル化、
・二次的コロニーを形成することができる生存可能な単一細胞に細胞を解離することができること、
・M15+hLIF培地および/または2i+LIF培地での増殖
【0017】
さらに他の態様では、本発明は、外来性のDNA配列を含む誘導多能性幹細胞(iPS)を提供する。
【0018】
さらなる態様では、本発明は、本発明の誘導多能性幹細胞の分化によって誘導される体細胞を提供する。
【0019】
さらなる態様では、本発明は、そのゲノムが、レチノイン酸受容体(RAR/RXR)ファミリーメンバーをコードする核酸またはLrh1ファミリーメンバーからの遺伝子産物の発現の調節を可能にするように改変された細胞を提供する。
【0020】
さらなる態様では、本発明は、本発明の誘導多能性幹細胞の分化によって誘導される体細胞に由来するかまたはそれを含む、組織、または器官、またはヒト以外の動物を提供する。
【0021】
さらなる態様では、本発明は、本明細書に記載される核再プログラミング因子、ベクターまたは細胞または組織を、薬学的に許容される賦形剤と一緒に含む医薬組成物を提供する。
【0022】
さらなる態様では、本発明は、本明細書に記載される核再プログラミング因子、またはiPS細胞、またはiPS細胞に由来する体細胞もしくは組織もしくは器官の、医療における使用、および本明細書に記載される核再プログラミング因子、またはiPS細胞、またはiPS細胞に由来する体細胞もしくは組織もしくは器官の、それを必要とする患者の治療のための医薬の調製での使用を提供する。
【0023】
さらなる態様では、本発明は、本発明による核再プログラミング因子、iPS細胞、体細胞、組織または器官の1つの薬学的に許容される量の患者への送達を含む、それを必要とする患者で疾患を予防するか、疾患を治療する方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1A】再プログラミングでのRAシグナル伝達を示す図である。piggyBac(PB)転位による再プログラミング手法の図解。
【図1B】再プログラミングでのRAシグナル伝達を示す図である。4つのYamanaka因子と一緒にRaraまたはRargを発現させると、再プログラミングを大幅に促進したが、Rara-DNを発現させることによってRAシグナル伝達を阻害すると、再プログラミングを妨害した。
【図1C】再プログラミングでのRAシグナル伝達を示す図である。4つのYamanaka因子と一緒にRaraまたはRargを発現させると、再プログラミングを大幅に促進したが、Rara-DNを発現させることによってRAシグナル伝達を阻害すると、再プログラミングを妨害した。
【図1D】再プログラミングでのRAシグナル伝達を示す図である。再プログラミングでのRAシグナル伝達の時間的要件。
【図1E】再プログラミングでのRAシグナル伝達を示す図である。再プログラミングされた細胞での多能性遺伝子の発現。
【図1F】再プログラミングでのRAシグナル伝達を示す図である。再プログラミングされた細胞でのNanogおよびRex1遺伝子座のDNAメチル化。
【図1G】再プログラミングでのRAシグナル伝達を示す図である。RargアゴニストCD437によるiPSC品質の向上。
【図2A】Rarg(R)およびLrh-1(L)が、再プログラミングを相乗的に促進することを示す図である。Tet-On再プログラミング手法の図解。
【図2B】Rarg(R)およびLrh-1(L)が、再プログラミングを相乗的に促進することを示す図である。6つの因子(TRE-OCKSおよびTRE-RL)の4日間の発現は、Dox非依存性iPSCを得るために内因性Oct4の発現を完全に活性化するのに十分であった。
【図2C】Rarg(R)およびLrh-1(L)が、再プログラミングを相乗的に促進することを示す図である。トランスフェクションから6日後のコロニーの画像。
【図2D】Rarg(R)およびLrh-1(L)が、再プログラミングを相乗的に促進することを示す図である。RargまたはLrh-1を個々にでなく、RargおよびLrh-1(RL)を同時に発現させることは、iPSC品質を向上させた。
【図2E】RargもしくはLrh-1だけ、またはOCKSの発現は、ルシフェラーゼリポーター発現に対する実質的な影響を有さないが、ES細胞でRargおよびLrh-1を同時発現させることはリポーター発現を4〜5倍増加させることを示す図である。
【図3A】Dox非依存性マウスiPSCの特徴付けを示す図である。Oct4およびNanogを検出するためのiPS20-A1細胞の免疫染色。
【図3B】Dox非依存性マウスiPSCの特徴付けを示す図である。マウスiPSC、親のMEFおよび野生型ES細胞でのOct4、NanogおよびRex1のqRT-PCR。
【図3C】Dox非依存性マウスiPSCの特徴付けを示す図である。iPSC(iPS20-A1)でのOct4およびNanogのプロモーターでのほとんど完全な脱メチル化。
【図3D】Dox非依存性マウスiPSCの特徴付けを示す図である。iPSCに由来するテラトーマは、3つの胚葉全ての細胞型を含んでいた。
【図3E】Dox非依存性マウスiPSCの特徴付けを示す図である。キメラでの生殖細胞系へのiPSCの寄与。
【図4A】無血清、フィーダーなしの条件における、基底状態のiPSCへのMEFの再プログラミングを示す図である。PB-TRE-OCKS(4F)またはPB-TRE-OCKSプラスPB-TRE-RL(6F)のいずれかで再プログラミングされたAP+コロニーの数。
【図4B】無血清、フィーダーなしの条件における、基底状態のiPSCへのMEFの再プログラミングを示す図である。qRT-PCRによるiPSCの遺伝子発現分析。
【図4C】無血清、フィーダーなしの条件における、基底状態のiPSCへのMEFの再プログラミングを示す図である。NanogおよびSSEA-1発現のためのiPSC(6F)の免疫染色。
【図4D】無血清、フィーダーなしの条件における、基底状態のiPSCへのMEFの再プログラミングを示す図である。免疫染色によって検出される3つの胚葉を表す細胞型へのiPSC(6F)のin vitro分化。
【図5A】Dox非依存性のユニークなヒトiPSCの生成および特徴付けを示す図である。いくつかの哺乳動物種でのRAREoct配列の保存。
【図5B】Dox非依存性のユニークなヒトiPSCの生成および特徴付けを示す図である。Tet-On 6因子プラットホームを用いた、HDFn細胞の再プログラミング。
【図5C】Dox非依存性のユニークなヒトiPSCの生成および特徴付けを示す図である。一般的なヒトiPSCのコロニー形態およびAP染色。
【図5D】Dox非依存性のユニークなヒトiPSCの生成および特徴付けを示す図である。親のHDFn、ヒトiPSCおよびH1 hESC細胞での多能性遺伝子のqRT-PCR分析。
【図5E】Dox非依存性のユニークなヒトiPSCの生成および特徴付けを示す図である。ES細胞表面マーカーおよび多能性因子のためのヒトiPSCの免疫染色。
【図5F】Dox非依存性のユニークなヒトiPSCの生成および特徴付けを示す図である。ヒトiPSCのin vitro分化。抗体。
【図5G】Dox非依存性のユニークなヒトiPSCの生成および特徴付けを示す図である。ヒトiPSCから分化したテラトーマ。
【図5H】Dox非依存性のユニークなヒトiPSCの生成および特徴付けを示す図である。遺伝子発現(qRT-PCR)で測定されるヒトiPSCのシグナル伝達依存性。
【図5I】Dox非依存性のユニークなヒトiPSCの生成および特徴付けを示す図である。異なる条件で増殖するヒトiPSCでの遺伝子発現の変化。
【図6A】転写因子cDNAを運ぶPBトランスポゾンを示す図である。
【図6B】Oct4-IRES-Puro-Egfpノックイン対立遺伝子を示す図である。
【図6C】Oct4-IRES-Puro-Egfp MEF細胞およびOct4-IRES-Puro-EgfpノックインES細胞のフローサイトメトリー分析を示す図である。
【図6D】トランスフェクションで増加した量のRarg運搬トランスポゾンDNAによって、OCKSの再プログラミング効率が低下したことを示す図である。
【図6E】2つのピューロマイシン濃度を生き延びた、再プログラミングされたマウス細胞のフローサイトメトリー分析を示す図である。
【図7A】RargおよびLrh-1が再プログラミングを相乗的に促進することを示す図である。2A、口蹄疫ウイルス2A自己切断ペプチドをコードするDNAによって連結される複数のcDNAを運ぶPBトランスポゾン。
【図7B】RargおよびLrh-1が再プログラミングを相乗的に促進することを示す図である。一般的なiPSCコロニー。
【図7C】RargおよびLrh-1が再プログラミングを相乗的に促進することを示す図である。トランスフェクションから10日後のiPSCコロニーのアルカリホスファターゼ染色。
【図7D】RargおよびLrh-1が再プログラミングを相乗的に促進することを示す図である。ルシフェラーゼリポーターアッセイのためのDNA構築物の図。
【図8A】多能性についてのマウスiPSCの特徴付けを示す図である。SSEA1およびNanogを検出するためのiPS20-A1細胞の免疫染色。
【図8B】多能性についてのマウスiPSCの特徴付けを示す図である。マウスiPSCでの内因性多能性遺伝子の頑強な発現。
【図8C】多能性についてのマウスiPSCの特徴付けを示す図である。マウスiPSC系における外来性再プログラミング因子の発現のRT-PCR分析。
【図9A】フィーダーなしおよび無血清の条件における、MEFの再プログラミングを示す図である。A.トランスフェクトされたMEF。
【図9B】フィーダーなしおよび無血清の条件における、MEFの再プログラミングを示す図である。B.テラトーマのヘマトキシリンおよびエオシン染色パラフィン切片。
【図10A】6因子プラットホーム(CAGプロモーターバージョン)によるユニークなヒトiPSC細胞の生成を示す図である。M15プラスLIF培地または2i/LIF培地に形成したヒトiPSCコロニー。これらは、通常のマウスES細胞コロニーに類似していた。
【図10B】6因子プラットホーム(CAGプロモーターバージョン)によるユニークなヒトiPSC細胞の生成を示す図である。免疫染色によって検出されたヒトiPSCでの内因性多能性タンパク質の発現。
【図10C】6因子プラットホーム(CAGプロモーターバージョン)によるユニークなヒトiPSC細胞の生成を示す図である。RT-PCRによって検出されたヒトiPSCでの多能性遺伝子の発現。
【図10D】6因子プラットホーム(CAGプロモーターバージョン)によるユニークなヒトiPSC細胞の生成を示す図である。テラトーマにおける3つの胚葉の細胞型へのヒトiPSCの分化。
【図10E】6因子プラットホーム(CAGプロモーターバージョン)によるユニークなヒトiPSC細胞の生成を示す図である。長期継代(>20継代)の後のヒトiPSCでの正常な核型。
【図10F】6因子プラットホーム(CAGプロモーターバージョン)によるユニークなヒトiPSC細胞の生成を示す図である。ヒトiPSCのY染色体遺伝子タイピングは、ヒトiPSCのHDFn起源を確認した。
【図11A】6因子Tet-On系(Dox非依存性)を用いて生成されたユニークなヒトiPSCの特徴付けを示す図である。ヒトiPSCでの遺伝子発現のRT-PCR分析。
【図11B】6因子Tet-On系(Dox非依存性)を用いて生成されたユニークなヒトiPSCの特徴付けを示す図である。SSEA-4、Tra-1-60およびTra-1-81発現のためのヒトiPSCのFACS分析。
【図11C】6因子Tet-On系(Dox非依存性)を用いて生成されたユニークなヒトiPSCの特徴付けを示す図である。外来性の再プログラミング因子発現を示していないヒトiPSCでの再プログラミング因子発現のRT-PCR分析。
【図11D】6因子Tet-On系(Dox非依存性)を用いて生成されたユニークなヒトiPSCの特徴付けを示す図である。ヒトiPSCは、長期in vitro培養の後に正常な核型を有した。
【図11E】6因子Tet-On系(Dox非依存性)を用いて生成されたユニークなヒトiPSCの特徴付けを示す図である。HPRT遺伝子座への遺伝子トラップPBトランスポゾンの挿入。
【図12A】Rargドミナントネガティブ対立遺伝子が、ES細胞分化を妨害することを示す図である。強力なCAGプロモーター/エンハンサーおよび一対のスプライシング受容体の両方を運ぶPBトランスポゾンの図解。
【図12B】Rargドミナントネガティブ対立遺伝子が、ES細胞分化を妨害することを示す図である。Rex1-Puro-IRES-EgfpノックインマウスES細胞系の図。
【図12C】Rargドミナントネガティブ対立遺伝子が、ES細胞分化を妨害することを示す図である。レチノイン酸によって誘導されるES細胞分化を妨害することができる突然変異体を同定する、マウスES細胞での遺伝子スクリーニングの手法。
【図12D】Rargドミナントネガティブ対立遺伝子が、ES細胞分化を妨害することを示す図である。遺伝子スクリーニングで同定されたRarg遺伝子座の4つの独立突然変異。
【図12E】Rargドミナントネガティブ対立遺伝子が、ES細胞分化を妨害することを示す図である。RAは、RargまたはRaraドミナント形の過剰発現によって妨害されるES細胞分化を誘導した。
【図12F】Rargドミナントネガティブ対立遺伝子が、ES細胞分化を妨害することを示す図である。RAは、RargまたはRara特異的アンタゴニストによって妨害されるES細胞分化を誘導した。
【図13A】RAシグナル伝達が、iPS細胞へのマウスMEFの再プログラミングで重要な役割を演ずることを示す図である。iPS細胞のより高い品質は、ピューロマイシンのより高い濃度を生き延びることと相関していた。
【図13B】RAシグナル伝達が、iPS細胞へのマウスMEFの再プログラミングで重要な役割を演ずることを示す図である。Rarg-FLの過剰発現による再プログラミング効率の急激な増加。
【図13C】RAシグナル伝達が、iPS細胞へのマウスMEFの再プログラミングで重要な役割を演ずることを示す図である。Rargが再プログラミング効率を増加させることを示すiPS細胞培養プレート。細胞は、クリスタルバイオレットで染色された。
【図13D】RAシグナル伝達が、iPS細胞へのマウスMEFの再プログラミングで重要な役割を演ずることを示す図である。Rarg-DNの過剰発現もiPSクローンの品質を向上させるが、再プログラミング効率を低下させる。
【図13E】RAシグナル伝達が、iPS細胞へのマウスMEFの再プログラミングで重要な役割を演ずることを示す図である。Rargの用量は、再プログラミング効率に影響を及ぼす。
【図13F】RAシグナル伝達が、iPS細胞へのマウスMEFの再プログラミングで重要な役割を演ずることを示す図である。RargまたはRara特異的アゴニストによって再プログラミング効率が増加した。
【図13G】RAシグナル伝達が、iPS細胞へのマウスMEFの再プログラミングで重要な役割を演ずることを示す図である。Rarg特異的アゴニストは、iPS細胞の品質を向上させる。
【図14A】RargおよびLrh1が、相乗的に作用して再プログラミングを促進することを示す図である。Rarg特異的アンタゴニストによる処理は、部分的に再プログラミングされたiPSクローンの品質を向上させることができる。
【図14B】RargおよびLrh1が、相乗的に作用して再プログラミングを促進することを示す図である。Lrh1の過剰発現は、再プログラミングを促進する。
【図14C】RargおよびLrh1が、相乗的に作用して再プログラミングを促進することを示す図である。Puro耐性iPS細胞コロニーの非常に早期の出現によって示される、6つの因子によるMEFの迅速な再プログラミング。
【図14D】RargおよびLrh1が、相乗的に作用して再プログラミングを促進することを示す図である。完全に再プログラミングされた多能性を速やかに達成するために、RargおよびLrh1の発現が必要とされた。
【図14E】RargおよびLrh1が、相乗的に作用して再プログラミングを促進することを示す図である。RargおよびLrh1発現の量が、iPS細胞の品質のために重要である。
【図15】6つの因子によって再プログラミングされたiPS細胞の高品質を示す図である。A. RargおよびLrh1を用いて生成されたマウスiPS細胞は、ES細胞多能性マーカーの頑強な発現を有した。B. 6つの因子によって誘導されたマウスiPS細胞は、テラトーマで全ての系統に寄与することができた。
【図16】6つの因子を用いる高品質ヒトiPS細胞の生成を示す図である。A. M15プラスhLIF培地で生成されたヒトiPS細胞コロニー(上パネル)。2iプラスhLIF培養条件で増殖させたヒトiPS細胞コロニー(下パネル)。B.ヒトiPS細胞は、高レベルのOct4およびNANOGを発現する。C. RT-PCR分析は、ヒトiPS細胞での高レベルの多能性遺伝子の発現を確認する。4-1、4-2、4-3および4-5は、ヒトiPS細胞である。ES:ヒトES細胞対照。
【0025】

表1。推定上のRAREoctエレメントを含むマウス遺伝子プロモーターのリスト。
表2。推定上のRAREoctエレメントを含むヒト遺伝子プロモーターのリスト。
表3。cDNAクローニングで用いられるプライマー。
表4。Splinkerette PCRで用いられるプライマー。
表5。RT-PCRおよびDMR分析で用いられるプライマー。
表6。マウスおよびヒト遺伝子のリアルタイムRT-PCRのための、Applied Bioscienceの前設計Taqmanプローブ。
表7。カスタム設計のヒトQPCRプローブ。
【発明を実施するための形態】
【0026】
ここで、我々はマウスおよびヒト体細胞の速く、効率的な再プログラミングを報告する。マウスでは、胚性線維芽細胞(MEF)を再プログラミングした。生成されたiPSクローンは、形態および分子生物学基準により高度に均質であった。ヒト新生児包皮皮膚の線維芽細胞(HDFn)を再プログラミングするために同じ6つの因子を用いたとき、我々はヒト多能性幹細胞クローンを同定した。これらの細胞は、いかなる識別可能な染色体異常なしで、マウスES細胞培養条件において単一細胞密度でサブクローニングし、増殖させることもできる。これらのヒトiPS細胞で効率的な転位を達成することができ、その効率はマウスES細胞と同等であることも我々は示した。
【0027】
一態様では、本発明は、体細胞のための核再プログラミング因子(NRF)に関する。適切には、NRFは体細胞からのiPSの形成を促進することができる。
【0028】
一態様では、核再プログラミング因子は、レチノイン酸受容体RAR/RXRファミリーメンバー(例えばRarα、Rarγ、Rarβ、RXRα、RXRβ、RXRγ-本明細書で、一態様ではマウスまたはヒト配列を有するRara、Rarg、Rarb、RXRa、RXRb、RXRgとも呼ばれる)からの遺伝子産物、および/またはレチノイン酸、および/またはLrh1ファミリーメンバー(例えばLrh1、Sf1または核内受容体/nR5aステロイドホルモン受容体ファミリーのFtz-F1サブファミリーの他のメンバー)からの遺伝子産物、および/またはレチノイン酸ファミリーメンバーの輸送に関与する遺伝子産物を含む。
【0029】
前後関係からそうではないことが明白でない限り、RARファミリーへの言及はRXRファミリーへの参照を含む。一態様では、核再プログラミング因子は、レチノイン酸受容体RARファミリーメンバー(例えばRarα、Rarγ、Rarβ)およびLrh1ファミリーメンバーの両方、例えば完全長RargおよびLrh1を含む。一態様では、RARファミリーメンバーへの言及は、RARを指す。
【0030】
一態様では、核再プログラミング因子は、適切には10-8から10-10Mの間、適切には10-9Mの濃度のレチノイン酸、例えば全てのトランスRAまたは9-シスRAを含む。
【0031】
本明細書で、RARファミリーメンバーおよびLrh1ファミリーメンバーなどの、その遺伝子生成物をコードするポリ核酸を含むファミリーメンバーおよびその遺伝子生成物への言及は、適切には、最適には本出願に記載される方法によって評価される通りに、それらが単独で、または他の因子と一緒に、本明細書で開示される体細胞からのiPSの形成を促進することができるという点で機能的に同等である、1つの種の中の同じ遺伝子/タンパク質ファミリーのメンバー、異なる種のファミリーメンバーおよびその変異体、例えば置換、欠失または付加を有するタンパク質を含む。そのような遺伝子産物には、アミノ酸またはヌクレオチドレベルで本発明によるNRFの配列と少なくとも70%、好ましくは少なくとも80%、90%または95%の相同性または同一性を有し、最適には本出願に記載される方法によって評価される通りに、単独で、または他の因子と一緒に、本明細書で開示される体細胞からのiPSの形成を促進することができる配列が含まれる。好ましくは、RARファミリーメンバーは、ヒト完全長野生型RaryまたはRara配列である。好ましくは、LRH1ファミリーメンバーは、ヒト完全長野生型LRH1配列である。
【0032】
一態様では、本発明のいずれかの態様でのタンパク質または遺伝子産物への言及は、そのタンパク質または遺伝子産物のヒト完全長野生型配列を指す。
【0033】
一態様では、体細胞からのiPSの形成の促進は、例えばES細胞で見られるレベルでのOct4遺伝子発現の活性化によって、または本明細書で開示される特性のいずれかを有するiPS細胞の形成によって評価される。
【0034】
一態様では、遺伝子産物は、前記の通りにヒトまたはマウスの配列を有するタンパク質であるか、その変異体である。
【0035】
NRF構成成分との関連で本明細書で遺伝子産物への言及は、ポリ核酸からの発現によって作製されるタンパク質またはポリペプチドに限定されないが、例えば直接的に合成することができるタンパク質またはその断片を含む。
【0036】
遺伝子産物への言及には、RNAへのDNAの転写から生じるポリ核酸断片などの、遺伝子から生成することができる他の非タンパク質種も含まれる。
【0037】
レチノイン酸受容体(RAR/RXR)ファミリーメンバーからの遺伝子産物への言及には、レチノイン酸受容体(RAR/RXR)ファミリーメンバーからの遺伝子産物の一部の活性を有するRAR/RXRファミリーメンバーの突然変異体の遺伝子産物が含まれる。
【0038】
一態様では、本発明は、タンパク質機能が低減もしくは廃棄された突然変異体、または強化された活性を有する突然変異体などの、RAR/RXRファミリーメンバーおよび/またはLrh1ファミリーメンバーの突然変異体によってコードされるタンパク質を含む、体細胞のための核再プログラミング因子に関する。突然変異した親タンパク質の一部の活性を有する突然変異体は、上記のように、そのタンパク質の変異体とみなすことができる。
【0039】
一態様では、本発明は、RARファミリーメンバーおよび/またはLrh1ファミリーメンバーのドミナントネガティブ突然変異体によってコードされるタンパク質を含む、体細胞のための核再プログラミング因子に関する。適切には、ドミナントネガティブ突然変異体タンパク質は、レチノイン酸(RA)、最適には1.0μMなどの高濃度のRAによって誘導されるES細胞分化を阻止することができる。一態様では、核再プログラミング因子は、RargまたはRaraのドミナントネガティブ突然変異体によってコードされるタンパク質を含む。一態様では、そのタンパク質はRargタンパク質の一部のC末端欠失である。一態様では、突然変異体は、Rargの最後のイントロン(イントロン9)に対応するアミノ酸が削除されたRargの突然変異体である。一態様では、タンパク質はRara、最適にはRara-DNのドミナントネガティブ形である。
【0040】
野生型RARGの配列(配列番号1)
ATGGCCACCAATAAGGAGAGACTCTTTGCGCCCGGTGCCCTGGGGCCTGGATCTGGTTACCCAGGAGCAGGCTTCCCATTCGCCTTCCCAGGTGCACTCAGAGGGTCGCCACCATTTGAGATGCTGAGCCCTAGCTTCCGGGGCCTGGGCCAGCCTGACCTCCCCAAGGAGATGGCTTCTCTCTCGGTGGAGACACAGAGCACCAGCTCGGAGGAGATGGTACCCAGCTCTCCCTCACCCCCACCACCTCCTCGGGTCTATAAGCCATGCTTTGTATGCAATGACAAGTCTTCTGGCTACCACTATGGGGTCAGCTCCTGTGAAGGCTGCAAGGGCTTCTTCAGACGCAGCATTCAGAAAAACATGGTGTATACATGTCACCGTGACAAAAACTGTATCATCAACAAGGTCACCAGAAATCGATGCCAGTACTGCAGGCTACAAAAGTGTTTCGAAGTGGGCATGTCCAAGGAAGCTGTAAGGAACGATCGAAACAAGAAGAAAAAGGAGGTAAAAGAGGAGGGCTCGCCCGACAGCTATGAACTGAGTCCACAGTTAGAGGAACTCATCACCAAGGTCAGCAAAGCCCACCAGGAGACTTTTCCCTCACTCTGCCAGCTGGGCAAGTACACCACGAACTCCAGTGCAGATCACCGGGTGCAGCTGGACCTGGGGCTGTGGGACAAGTTCAGCGAGCTGGCCACCAAATGCATCATCAAGATTGTGGAGTTTGCGAAGCGGCTGCCTGGTTTTACAGGGCTCAGCATTGCCGACCAGATCACGCTGCTCAAGGCTGCTTGTCTGGACATCCTAATGCTGCGGATCTGTACAAGGTATACCCCAGAGCAGGACACTATGACATTCTCGGATGGGCTGACCCTGAACCGAACCCAGATGCACAATGCTGGCTTTGGGCCCCTTACAGACCTCGTCTTTGCCTTTGCCGGGCAGCTGCTGCCCCTGGAGATGGATGACACCGAGACTGGGCTACTTAGTGCTATCTGCCTCATCTGTGGAGACCGAATGGACCTGGAAGAGCCCGAGAAGGTGGACAAGCTGCAGGAGCCCCTGCTGGAAGCCCTGAGGCTCTATGCCCGGCGACGGAGACCCAGCCAACCCTACATGTTCCCAAGGATGCTGATGAAAATCACCGACCTCCGGGGCATCAGCACTAAGGGAGCAGAAAGGGCTATAACCCTGAAGATGGAGATTCCAGGCCCGATGCCACCCCTGATCCGAGAGATGCTGGAGAACCCGGAGATGTTTGAGGACGACTCCTCGAAGCCTGGCCCCCACCCCAAGGCTTCCAGTGAGGACGAAGCTCCAGGGGGCCAGGGCAAAAGGGGCCAAAGTCCCCAACCTGACCAGGGGCCCTGA
【0041】
突然変異体Rargの配列(配列番号2)
ATGGCCACCAATAAGGAGAGACTCTTTGCGCCCGGTGCCCTGGGGCCTGGATCTGGTTACCCAGGAGCAGGCTTCCCATTCGCCTTCCCAGGTGCACTCAGAGGGTCGCCACCATTTGAGATGCTGAGCCCTAGCTTCCGGGGCCTGGGCCAGCCTGACCTCCCCAAGGAGATGGCTTCTCTCTCGGTGGAGACACAGAGCACCAGCTCGGAGGAGATGGTACCCAGCTCTCCCTCACCCCCACCACCTCCTCGGGTCTATAAGCCATGCTTTGTATGCAATGACAAGTCTTCTGGCTACCACTATGGGGTCAGCTCCTGTGAAGGCTGCAAGGGCTTCTTCAGACGCAGCATTCAGAAAAACATGGTGTATACATGTCACCGTGACAAAAACTGTATCATCAACAAGGTCACCAGAAATCGATGCCAGTACTGCAGGCTACAAAAGTGTTTCGAAGTGGGCATGTCCAAGGAAGCTGTAAGGAACGATCGAAACAAGAAGAAAAAGGAGGTAAAAGAGGAGGGCTCGCCCGACAGCTATGAACTGAGTCCACAGTTAGAGGAACTCATCACCAAGGTCAGCAAAGCCCACCAGGAGACTTTTCCCTCACTCTGCCAGCTGGGCAAGTACACCACGAACTCCAGTGCAGATCACCGGGTGCAGCTGGACCTGGGGCTGTGGGACAAGTTCAGCGAGCTGGCCACCAAATGCATCATCAAGATTGTGGAGTTTGCGAAGCGGCTGCCTGGTTTTACAGGGCTCAGCATTGCCGACCAGATCACGCTGCTCAAGGCTGCTTGTCTGGACATCCTAATGCTGCGGATCTGTACAAGGTATACCCCAGAGCAGGACACTATGACATTCTCGGATGGGCTGACCCTGAACCGAACCCAGATGCACAATGCTGGCTTTGGGCCCCTTACAGACCTCGTCTTTGCCTTTGCCGGGCAGCTGCTGCCCCTGGAGATGGATGACACCGAGACTGGGCTACTTAGTGCTATCTGCCTCATCTGTGGAGACCGAATGGACCTGGAAGAGCCCGAGAAGGTGGACAAGCTGCAGGAGCCCCTGCTGGAAGCCCTGAGGCTCTATGCCCGGCGACGGAGACCCAGCCAACCCTACATGTTCCCAAGGATGCTGATGAAAATCACCGACCTCCGGGGCATCAGCACTAAGGGATGATGATGA
【0042】
一態様では、本発明は、RAR/RXRのアンタゴニストおよび/またはLrh1ファミリーメンバーのアンタゴニスト、ならびにIPS細胞の生成およびまたは維持における前記アンタゴニストの使用に関する。Rargの適するアンタゴニストは、CD2665である。Raraの適するアンタゴニストは、RO-41-5253である。さらなる態様では、アンタゴニストは5-アザシチジンおよび5-アザ-2'-デオキシシチジンなどのDNAメチル化阻害剤と一緒に用いられる。
【0043】
一態様では、再プログラミング因子は、RARおよび/またはLrh1ファミリーメンバーのアゴニスト、例えばAM580などのRaraのアゴニストまたはCD437であるRargのアゴニストを含む。
【0044】
一態様では、核再プログラミング因子は、上記のRARファミリーメンバー、Lrh1ファミリーメンバー、レチノイン酸、そのアゴニストならびにその突然変異体および/または変異体のいずれか1つまたは複数の組合せ、例えばRAR(完全長)およびLrh1(完全長)ファミリーメンバーの両方、例えばRargおよびLrh1の組合せを含む。
【0045】
最適には、下記のように例えば得られるiPS細胞の数および/または品質に関して相加的以上である、iPS再プログラミングに対する効果が観察されるという点で、RargおよびLrh1の効果は相乗的である。最適には、iPS再プログラミングは、前記のようにOct4の発現レベルを監視すること、および/またはiPS細胞について本明細書に記載される特性の1つまたは複数を有するiPSを生成する能力によって評価される。
【0046】
核再プログラミング因子は、他のさらなる構成成分をさらに含むことができる。最適には、NRFは体細胞を再プログラミングして、最適にはYamanaka因子単独より高い頻度でiPS細胞を形成することが可能である。Yamanaka因子はEP1970446に開示され、その教示は参照により本明細書に組み込まれる。
【0047】
NRFは、Yamanaka因子の1つまたは複数またはそれらをコードする核酸を含むことができる。一態様では、核再プログラミング因子は、MYCタンパク質、例えばC-MYCまたはそれをコードする核酸を含む。一態様では、核再プログラミング因子は、KLFタンパク質、例えばKLF4またはそれをコードする核酸を含む。一態様では、核再プログラミング因子は、SOX遺伝子、例えばSOX2またはそれをコードする核酸を含む。一態様では、核再プログラミング因子は、Oct4またはそれをコードする核酸を含む。一態様では、核再プログラミング因子は、C-MYC、KLF-4、Oct4およびSOX2またはC-MYC、KLF-4、Oct4およびSOX2をコードする核酸を含む。
【0048】
C-MYC、Oct4、KLF-4およびSOX2などの本明細書のいずれかの遺伝子またはタンパク質への言及には、C-MYC、KLF-4、Oct4およびSOX2と同一性を共有する遺伝子またはタンパク質が含まれ、ファミリーメンバーは、上記のように、最適には完全長野生型配列と共通して再プログラミング活性を少なくともある程度は有するタンパク質をコードする。
【0049】
本発明のNRFに包含させるためのタンパク質への言及には、最適には完全長野生型配列と共通して再プログラミング活性を少なくともある程度有する、付加、欠失または置換突然変異体などの変異体が含まれる。
【0050】
Yamanaka因子の構成成分を置換することができる様々な因子が同定されている。1つまたは複数のYamanaka因子を用いると本発明が記載される場合、本発明は各因子のためのYamanaka因子置換体の包含も企図すると理解される。例えばOct4非依存性再プログラミングは、oct4を置換することができるオーファン核内受容体Nr5a2の過剰発現を通して報告されている。報告によると、別のオーファン核内受容体Esrrbは、Klf4を置換することが可能である。したがって、本発明は、本発明の核再プログラミング因子とNr5a2またはEsrrbとの組合せを含むか、またはそれをコードする核酸を含むNRFに関する。
【0051】
一態様では、核再プログラミング因子は、以下の組合せを含む:
(i)上記のRAR/RXRファミリーメンバー、Lrh1ファミリーメンバー、そのアゴニスト、そのアンタゴニスト、ならびにその突然変異体および変異体、好ましくはRARおよびLrh1ファミリーメンバー、レチノイン酸ならびにRAシグナル伝達経路を調節するかそれによって調節される因子のリストから選択される遺伝子産物、またはいずれか1つまたは複数をコードするポリヌクレオチド、ならびに
(ii)分化細胞に多能性を付与するかまたは成熟細胞を多能性細胞に形質転換することができる因子の遺伝子産物またはそれをコードするポリヌクレオチドであって、因子は好ましくはOctファミリー遺伝子、Klfファミリー遺伝子およびMycファミリー遺伝子、およびSoxファミリー遺伝子またはその機能的同等物の1つまたは複数である。
【0052】
一態様では、Klf-4の機能的同等物はEsrrbである。一態様では、Oct4の機能的同等物は、Nr5a2である。
【0053】
一態様では、NRFは、RARファミリーメンバー、Lrh1ファミリーメンバー、OctファミリーメンバーおよびMycファミリーメンバーからの遺伝子産物、または前記遺伝子産物をコードする1つまたは複数のポリヌクレオチドを含む。
【0054】
一態様では、NRFは、RARファミリーメンバー、Lrh1ファミリーメンバー、KLF-4およびSOX2からの遺伝子産物を含み、C-MYCおよびOct4を含まない。
【0055】
好ましくは、IPS細胞にヒト体細胞を再プログラミングするためにそのようなNRFを用いる本発明による方法では、KLF-4およびSOX2の発現は体細胞の再プログラミングの間に達成されるが、生成されるヒトIPS細胞系は、染色体にKLF-4および/またはSOX2の挿入を有しない。一態様では、再プログラミングされる細胞の染色体へのKLF-4および/またはSOX2の組込みがなく、例えば本発明のヒトiPSC系へのそのような因子をコードするトランスポゾンの組込みがない。
【0056】
一態様では、NRFはOCT4、CMYC、LRH1およびRARGを含むかまたはコードし、さらなる態様では他の2つのYamanaka因子のいずれも含まない。
【0057】
一態様では、NRFは、少なくともOctファミリー遺伝子、Klfファミリー遺伝子およびMycファミリー遺伝子、またはその遺伝子産物を含む。適するファミリーメンバーには、Oct3/4、Klf4、c-Mycファミリー遺伝子およびSox2の遺伝子産物、または同じものをコードするポリヌクレオチドが含まれる。
【0058】
一態様では、本発明のNRFは、全ての4つのYamanaka因子、すなわちOctファミリー遺伝子産物、Klfファミリー遺伝子産物、Mycファミリー遺伝子産物およびSoxファミリー遺伝子産物、またはiPS細胞への体細胞の再プログラミングを促進することが可能であるこれらの遺伝子産物の機能的同等物を含むかまたはコードする。
【0059】
一態様では、核再プログラミング因子は、以下の1つまたは複数をさらに含むかまたはコードする。
Mycファミリー遺伝子の遺伝子産物と一緒のサイトカイン、あるいはMycファミリー遺伝子の遺伝子産物の代わりのサイトカイン。より好ましい実施形態として、サイトカインが塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)および/または幹細胞因子(SCF)である前記の因子が提供される。
Octファミリー遺伝子、Klfファミリー遺伝子、Mycファミリー遺伝子およびSoxファミリー遺伝子の各々の遺伝子産物に加えて、TERT遺伝子の遺伝子産物;
以下の遺伝子からなる群から選択される1種または複数種の遺伝子の1つまたは複数の遺伝子産物:Octファミリー遺伝子、Klfファミリー遺伝子、Mycファミリー遺伝子、Soxファミリー遺伝子およびTERT遺伝子の各々の遺伝子産物に加えてSV40ラージT抗原、HPV16 E6、HPV16 E7およびBmil
以下からなる群から選択される1種または複数種の遺伝子の1つまたは複数の遺伝子産物:Fbx15、Nanog、ERas、ECAT15-2、Tcl1およびβ-カテニン。
以下からなる群から選択される1種または複数種の遺伝子の1つまたは複数の遺伝子産物: ECAT1、Esg1、Dnmt3L、ECAT8、Gdf3、Sox15、ECAT15-1、Fth117、Sa114、Rex1、UTF1、Stella、Stat3およびGrb2。
【0060】
好ましいNRFは、最適には体細胞に送達可能で、細胞中で発現させることができる、完全長Oct3/4、Klf4、c-Mycファミリー遺伝子およびSox2、Lrh1およびRargを含むかまたはコードする。
【0061】
一態様では、上記のNRFは、RXRアルファ、ベータまたはガンマなどのRXRをさらに含むかまたはコードする。
【0062】
本発明の代替態様では、NRFは、本明細書で開示されるような体細胞の再プログラミングを促進する作用をすることができる、RAシグナル伝達経路の構成成分を含む。そのような構成成分は、RAの下流エフェクター、RARGもしくはLRH1の上流もしくは下流のモジュレーター、またはRAの生成に影響を及ぼす分子であってよい。本出願で開示されるアッセイは、経路の適する構成成分、すなわち記載されるiPS細胞を形成するための体細胞の再プログラミングが可能なものの同定、および再プログラミングを実行するためのそれらの構成成分の適する濃度の決定を可能にする。
【0063】
本発明のNRFには、内因性遺伝子または内因性遺伝子産物のモジュレーター、例えばRAR/RXRファミリーメンバーおよびLrh1ファミリーメンバーの遺伝子または遺伝子産物のモジュレーターが含まれてもよい。例えば、LRH1および/またはRARGの内因性発現を増加させることができる。宿主遺伝子発現の操作は、必要な強化された再プログラミング効果を提供するために発現を促進するプロモーターの挿入または操作によって達成することができる。そのようなプロモーターには、MSCV(レトロウイルス)からのLTS、CAGおよび誘導可能なプロモーターTet-Onが含まれてよい。そのようなNRFは、本発明の全ての記載されている態様で用いることができる。例として、4つのYamanaka因子またはその機能的同等物およびLrh1を含むかまたは発現する核再プログラミング因子は、細胞外因子による細胞の処理によって内因性Rarg発現が増加しているか増加させることができる細胞と一緒に用いることができる。そのような因子は、例えば、化学的または環境条件の変化であってよい。したがって、本発明は、細胞外因子に応じて内因性(RAR/RXR)ファミリーメンバーおよび/またはLrh1ファミリーメンバーの発現が増加または調節されるようにそのゲノムが改変されている細胞にも関する。
【0064】
NRFは、再プログラミングを促進するかまたは実際にNRFの効力の送達を改善する化合物または薬剤であってよい、他の化合物または薬剤と一緒に用いることができる。
【0065】
NRFは、前記のように、単独でまたは融合タンパク質の形で発現される、タンパク質などの遺伝子産物を含むことができる。
【0066】
一態様では、NRFは、体細胞に送達することができる上記再プログラミング因子の構成成分をコードするポリ核酸を含むかまたはそれからなることができる。したがって、再プログラミング因子は、タンパク質組成物、または細胞内で適するタンパク質の発現を可能にするように設計された核酸組成物、または実際にポリ核酸およびタンパク質の組合せを含むことができることを理解することができる。
【0067】
合成または精製された化学物質が、本発明のNRFの一部であってもよい。例えば、タンパク質のアゴニストまたはアンタゴニストが用いられるならば、NRFは、タンパク質機能を活性化または阻害するように設計された化学物質を適宜含むことができる。
【0068】
ポリ核酸が用いられる場合、および複数の遺伝子産物がNRFを形成する場合ならば、これらは同じかまたは異なるポリ核酸断片にコードされてもよい。例えば、一態様では、RargおよびLrh1遺伝子産物は1つのDNA構築物にコードすることができ、Yamanaka因子の1つ、2つ、3つまたは4つは別々のポリ核酸断片にコードすることができる。
【0069】
NRFのタンパク質構成成分をコードするポリ核酸は、裸のDNA、または送達剤との複合DNA、またはプラスミドもしくはトランスポゾンもしくはウイルスベクターなどの体細胞への送達に適するベクターの形であってよい。
【0070】
完全性のために、本発明が前記NRFの構成成分をコードするポリ核酸にも関する限り、本発明は前記NRF構成成分の変異体をコードするポリ核酸にも関し、前記構成成分は、本明細書に開示される体細胞からのiPSの形成を単独または併用で促進する能力を有する。
【0071】
本発明は、体細胞に限定されず、例えば形質転換またはトランスフェクションのための核酸の生成に適する細菌細胞などの細胞を含む、本発明のポリヌクレオチドおよびベクターを含む細胞にも関する。
【0072】
NRFの様々な構成成分は、調節系の支配下において単独または併用で発現させることができる。一態様では、1つまたは複数の構成成分、例えば4つのYamanaka因子(またはその同等物)のいずれか、RargまたはLrh1は、Tet-on(登録商標)系(Clonetech)の支配下で単独または併用で発現させることができる。したがって、一態様では、例えばLrh1またはRargの発現を制御するプロモーターは、テトラサイクリンの存在または非存在に応答するプロモーター内のエレメントによって制御される。
【0073】
本発明の再プログラミング因子は、低酸素などの他の再プログラミング技術と組み合わせて用いられてもよい。
【0074】
例として、本発明のNRFは、タンパク質として、または前記タンパク質をコードするDNAもしくはRNAとして、またはポリ核酸およびタンパク質の混合物として以下のものを含むことができる。
・RargおよびLrh1
・Rarg、Lrh1、Oct4およびcMyc
・Rarg、Lrh1、Sox2およびKlf4
・Rarg、Lrh1、Oct4、cMyc、Sox2およびKlf4。
【0075】
誤解を避けるため、NRFは単一構成成分タンパク質を含むことができるか、単一のタンパク質をコードする核酸を含むことができるか、または本明細書で開示される単一のアゴニストもしくはアンタゴニストをコードすることができる。
【0076】
Rargなどの特定のタンパク質の発現レベルは、再プログラミング効率に影響を及ぼすことができる。したがって、本発明は、NRFの適する再プログラミングレベルの特定のための方法であって、NRFまたはその構成成分の濃度を変更するステップ、およびiPS細胞の生成を直接的に、または例えばOct4の発現を監視することにより監視するステップ、および再プログラミングで使用するためのNRFの適する濃度を選択するステップを含む方法にも関する。本発明は、本明細書で開示される再プログラミングのための方法も含み、そこでは、上で判断されるような適量のNRFが再プログラミングを達成するために用いられる。
【0077】
本明細書で開示される様々なエレメントの適する濃度には、例えば、Ro-41-5253 RARaアンタゴニスト1μM、CD2665 RARgアンタゴニスト1μM、AM580 Raraアゴニスト10nM、CD437 RARgアゴニスト100nM、オールトランスRAおよび9-シスRA約1×10-9Mが含まれる。
【0078】
本発明のNRFは、本明細書で開示されるNRFの構成成分をコードするポリ核酸を有する、プラスミド、生きているウイルスベクターまたはトランスポゾンなどのベクターを含むことができる。詳細には、ベクターは、本明細書で記載される核再プログラミング因子の構成成分をコードする核酸を含む発現ベクターであってよい。
【0079】
本発明のベクターは、体細胞へのNRFの構成成分をコードする核酸の送達に一般に適し、核酸によってコードされるタンパク質の発現を可能にするかまたは促進するのに必要な配列を含むこともできる。
【0080】
ベクターは染色体外遺伝子座からNRFの構成成分を発現させることができるか、または染色体に統合されて染色体内から発現させるように設計されてもよい。
【0081】
PiggyBacなどのトランスポゾンは、体細胞への核酸の送達での使用、および本発明のiPS細胞への外来性DNAの送達での使用にも適することができる。
【0082】
本発明は、本明細書に記載される核再プログラミング因子を体細胞と接触させるステップを含む、体細胞の核再プログラミングによって誘導多能性幹細胞を調製するための方法にさらに関する。
【0083】
この方法は、例えば本明細書に記載される特性を有する細胞の選択またはスクリーニングによって、iPS細胞について選択またはスクリーニングするさらなるステップを任意選択で含むことができる。
【0084】
NRFを体細胞と接触させるステップは、いくつかの方法で起こることができる。例えば、核再プログラミング因子は、体細胞の培養、または体細胞に導入される核再プログラミング因子の構成成分をコードするベクターに加えることができる。ベクターは、例えばプラスミド、またはトランスポゾン、またはウイルスベクターであってよい。
【0085】
NRFがタンパク質を含むならば、最適には、NRFは培養の体細胞に、例えば3、4、5、6、7、8、9または10日間連続的に、一態様では8、9、10、11、12、13、14または15日間以下曝露される。
【0086】
体細胞は任意の適する細胞であってよく、再プログラミングされる体細胞の種類は特に限定されない。例えば、成熟体細胞または前駆体、ならびに胚期間の体細胞を用いることができる。誘導多能性幹細胞が疾患の治療的処置のために用いられる場合は、処置される患者から分離される体細胞を用いることが望ましい。例えば、疾患に関与する体細胞、疾患の治療的処置に関与する体細胞などを用いることができる。体細胞は、例えばヒト、マウス、ラット、ブタ、ヒツジまたはウシなどの任意の適する哺乳動物細胞であってよい。
【0087】
一態様では、体細胞が再プログラミングされると、体細胞と接触させた外来性の再プログラミング因子(外来性の因子または外来性のNRFとも呼ばれる)の発現はスイッチオフされる。これは、培地からDoxを除去することによって外来性の再プログラミング因子の発現をスイッチオフさせる、Tet-Onなどの誘導可能なプロモーターを用いて達成することができる。最適には、体細胞をNRFと接触させてから約4日後、外来性の再プログラミング因子からのさらなる投入の必要なしでiPS細胞への変換を可能にするのに十分に体細胞が再プログラミングされた段階で、外来性の再プログラミング因子の発現はスイッチオフされる。
【0088】
最適には、iPS細胞は、例えば本明細書に記載のOct4発現によって判断されるように、NRFによる細胞の処置から10日以内に、例えば3、4、5、6、7、8または9日以内に、最適には処置2日後に同定および選択することができる。
【0089】
本発明の方法によって培地に現れる誘導多能性幹細胞を選択する方法は特に限定されず、任意の周知の手段を好適に使用することができ、例えば、指標として薬剤耐性を用いて誘導多能性幹細胞を単離するために、マーカー遺伝子として薬剤耐性遺伝子などを用いることができる。ES細胞の未分化状態および多能性を維持することができる様々な培地、ならびにそのような特性を維持することができない様々な培地はこの分野で公知であり、誘導多能性幹細胞は適当な培地の組合せを用いることによって効率的に単離することができる。単離された誘導多能性幹細胞の分化および増殖能力は、ES細胞に広く適用される確認手段を用いて当業者が容易に確認することができる。
【0090】
さらなる一態様では、本発明は、ヒトまたはマウスなどの任意の細胞系のための、ES細胞培地またはiPS細胞培地でのRAアゴニストまたはアンタゴニスト、好ましくはRAアンタゴニストの、多能性を維持する適切な量での使用に関する。RAのアゴニストまたはアンタゴニストを含む細胞培地にも本発明は関する。
【0091】
一態様では、本発明は、RAシグナル伝達を一時的に増強することによって体細胞を誘導多能性細胞に再プログラミングするための方法を提供する。一態様では、RAシグナル伝達を増強することは、体細胞を以下の1つまたは複数と接触させることを含むことができる。
i レチノイン酸受容体(RAR/RXR)ファミリーメンバーからの遺伝子産物、またはその遺伝子産物のアゴニスト、
ii Lrh1ファミリーメンバーからの遺伝子産物、またはその遺伝子産物のアゴニスト、
iii レチノイン酸またはレチノイン酸ファミリーメンバーを合成もしくは代謝することに関与する遺伝子産物、またはその遺伝子産物のアゴニスト、
iv レチノイン酸ファミリーメンバーを輸送することに関与する遺伝子産物、
v (i)から(iv)のいずれかをコードするポリ核酸
【0092】
RAシグナル伝達は、最適には3、4、5、6、7または8日間、一態様では8日間以内増強される。
【0093】
iPS生成を最適化するために、当分野の技術者は遺伝子産物の適する用量を容易に決定することができる。上記ファミリーメンバーからのタンパク質などの遺伝子産物、またはその断片もしくは変異体は、細胞に直接的に加えることができるか、あるいは例えば所望の遺伝子産物を発現する発現ベクターの挿入、またはプロモーター挿入もしくは操作による宿主遺伝子発現の操作によって操作される細胞内で発現させることができる。
【0094】
したがって、本発明は、以下の遺伝子産物の1つまたは複数の発現レベルが、例えば標的挿入事象によって、宿主細胞ゲノムのトランスフェクションまたは遺伝子操作によって改変された体細胞にも関する。
i レチノイン酸受容体(RAR/RXR)ファミリーメンバーからの遺伝子産物、またはその遺伝子産物のアゴニスト、
ii Lrh1ファミリーメンバーからの遺伝子産物、またはその遺伝子産物のアゴニスト、
iii レチノイン酸ファミリーメンバーを合成もしくは代謝することに関与する遺伝子産物、またはその遺伝子産物のアゴニスト、
iv レチノイン酸ファミリーメンバーを輸送することに関与する遺伝子産物
【0095】
本発明は、本明細書に記載される方法によって得られるかまたは得ることができる誘導多能性幹細胞にさらに関する。iPSは任意の種からのものであってよいが、最適には出発物質としてマウスまたはヒトの体細胞から得られる。
【0096】
体細胞は、線維芽細胞などの任意の適する細胞であってよい。
【0097】
詳細には、本発明は、本明細書に記載される方法によって得られるかまたは得ることができる誘導ヒト多能性幹細胞に関する。
【0098】
本発明のiPS細胞は、最適には以下の特性の1つまたは複数を有する。
【0099】
iPS細胞は、最適には未分化多能性細胞である。多能性は、例えばOct4、Nanog、Rex1などの1つまたは複数の多能性マーカーの発現の検出によって、またはOct4、Nanog、Rex1の1つまたは複数のプロモーター領域の脱メチル化によって判断することができる。
【0100】
本出願の前後関係でOct4の発現は、IRES-Puro-Egfpカセットが下の実施例に記載され、図2aおよび図7に示されるOct4遺伝子座を標的にする、リポーターES細胞系での発現レベルと同等の発現を意味する。これらのリポーターES細胞は、2.0μg/mlピューロマイシンに耐性であった。
【0101】
最適には、iPS細胞は、適当な培地で細胞分裂が可能な、生存可能な単一の細胞に解離することができる。
【0102】
iPS細胞は、最適にはM15+hLIF培地で増殖することができる。(600mlのM15につき、500または504ml(82%)のGIBCO(商標)Knockout(商標)D-MEM(Invitrogen、カタログ番号:10829018)、90ml(15%)のウシ胎仔血清(ES細胞試験済)、6ml(1%)ペニシリン-ストレプトマイシン-グルタミン(100×)液(Invitrogen、カタログ番号:10378-016)、4.3μlのβ-メルカプトエタノール(Sigma、カタログ番号:M7522)。LIF(1×106単位)
【0103】
iPS細胞は、最適には2i+LIF培地で増殖することができる。(2i+LIF培地は、1μ/mLヒト組換えLIFを追加した2i培地である。2i培地は、1μM PD0325901および3μM CHIR99021を追加したN2B27培地である。N2B27培地は、改変されたN2(インスリン25μg/mL、アポトランスフェリン100μg/mL、プロゲステロン6ng/mL、プトレシン16μg/mL、亜セレン酸ナトリウム30nM、ウシ血清アルブミン分画V50μg/mL)を追加したDMEM/F12およびB27を追加したNeurobasal培地の1:1の混合物である。DMEM/F12、Neurobasal培地およびB27は、全てGibcoからのものである)
【0104】
本発明のIPS細胞は、最適には適する細胞培養条件で体細胞に分化することが可能である。
【0105】
最適には、本発明のiPS細胞は、胚盤胞注射に続いてキメラを生成し、生殖細胞伝達を実証するために用いることができる。
【0106】
最適には、iPS細胞はマウスに注射されるとテラトーマを形成することが可能である。
【0107】
一態様では、最適には、iPS細胞の増殖は、通常ヒトES細胞のために必要とされるFGFに依存しない。
【0108】
一次iPS細胞コロニーは、最適には単一の細胞に解離することができ、それらは、M15+LIFなどの適当な培地で二次コロニーおよび安定した細胞系を次に形成することが可能である。
【0109】
最適には、本発明のiPS細胞は、4つのYamanaka因子oct4、cmyc、sox2およびKlf4だけを用いて同じ条件下で調製されたものと形態的に異なる。
【0110】
一態様では、iPS細胞は前不活化状態の2つのX染色体を含む。マウス雌基底状態のES細胞中の2つのX染色体は前不活化状態であるが、マウスEpiSCはX不活化を既に経ている。6つの因子(Yamanaka因子、LRH1およびRARG)で生成された雌iPSCは、2つの活性X染色体を有していた。
【0111】
iPS細胞のゲノム統合性は、スペクトルの核型分析を用いて確認することができる。遺伝的安定性/ゲノム統合性は、in vitro培養の後でさえ、細胞が正常な核型を保持するという事実によって示される。最適には、iPS細胞は、継代の後(例えば、少なくとも2、3、4、5、6、7、8、9または10、15または20継代の後)に正常な核型を有する。
【0112】
したがって一態様では、本発明は、以下の少なくとも1つを特徴とする誘導ヒト多能性細胞に関する。
・Oct4、Nanog、Rex1などの1つまたは複数の多能性マーカーの発現、
・FGFに依存しない増殖、
・継代後にスペクトル核型分析を用いて測定される、正常な核型を保持すること、
・マウスに注射されると、テラトーマを形成することが可能であること、
・Oct4、Nanog、Rex1の1つまたは複数のプロモーター領域の脱メチル化、
・二次的コロニーを形成することができる生存可能な単一細胞に細胞を解離することができること、
・M15+hLIF培地および/または2i+LIF培地での増殖、
・外来性再プログラミング因子の発現(例えば、LRH1、Rarg、Oct4、Sox2、Klf4およびc-Mycまたはその同等物のいずれか1つまたは複数)が不在であるかまたは微々たるものであること。
【0113】
一態様では、本発明のiPS細胞は、外来性の再プログラミング因子を発現しない。明細書全体で論じられるように、これは、培地からDoxを除去することによって外来性の再プログラミング因子の発現をスイッチオフさせる、Tet-Onなどの誘導可能なプロモーターを用いて達成することができる。iPS細胞がいかなる外来性の再プログラミング因子も含まないように、iPS細胞の染色体への外来性の再プログラミング因子の組込みを阻止することによって、または組み込まれたいかなる外来性の再プログラミング因子をゲノムから除去することによってこれを達成することもできる。場合によっては、外来性の再プログラミング因子の発現を停止するために用いられるTet-Onなどのプロモーターは、RT-PCRにより検出可能であるが生物学的に意味のない外来性因子の多少の発現を可能にすることができる。
【0114】
一態様では、本発明のヒトiPS細胞はFGF培地で良好に増殖せず、多能性を保持しない。
【0115】
一態様では、本明細書に記載されるように、oct4-IRES-puro-egfpノックインを含む体細胞を構築することによって、iPS生成を評価することができる。哺乳動物であるとみなされる前記構築物を含む細胞、例えばマウスまたはヒトのiPS細胞は、最適には2μg/ml以上の濃度でピューロマイシンに耐性であり、好ましくは、最適にはフローサイトメトリーによって検出されるようにGFP陽性でもある。
【0116】
さらなる態様では、本発明は、本明細書に記載される誘導多能性幹細胞の分化に由来する体細胞、および本明細書に記載される誘導多能性幹細胞の分化に由来する1つまたは複数の体細胞を含む組織、器官またはヒト以外の動物に関する。当業者に公知である様々な因子、化合物または因子および化合物の組合せを用いることにより、分化をin vitroで達成することができる。
【0117】
それらは心不全、インスリン依存型糖尿病、パーキンソン病、癌および脊髄損傷などの様々な疾患のための幹細胞移植療法のために利用することができ、それによってヒト胚の使用および移植後の拒絶に関する倫理的問題を避けることができるので、本発明の細胞のiPS細胞の分化によって入手できる細胞(例えば、心筋細胞、インスリン産生細胞、神経細胞など)は潜在的に極めて有用である。
【0118】
本明細書で開示されるような、iPSからin vitro/ex vivoで生成される細胞、組織および器官は、医薬などの化合物の機能または毒性の評価に役立つことができる。したがって、本発明は、化合物または医療処置の効果の分析における、iPS細胞、ならびにそのようなiPS細胞に由来する組織、器官およびヒト以外の動物の使用にも関する。
【0119】
ヒトiPS細胞は、感染性因子に関連するハイスループットスクリーニング読み出しのために用いることができる。一態様では、iPS細胞から分化した、ホモ接合の突然変異体(主に機能喪失突然変異)を含む、遺伝子改変または遺伝子突然変異されたヒトiPS細胞または体細胞は、感染の抑制または増強を有する因子を同定するために病原体に感染させることができる。
【0120】
本発明は、前記の方法によって得られる誘導多能性幹細胞の分化を誘導することによって得られる様々な細胞を用いて、化合物、医薬、毒などの生理機能または毒性を評価するための方法をさらに提供する。
【0121】
本発明は、本明細書に記載される核再プログラミング因子、または細胞または組織を、薬学的に許容される賦形剤と一緒に含む医薬組成物にも関する。適する賦形剤には、とりわけ、薬学的に許容される緩衝剤、担体および水が含まれる。
【0122】
一態様では、本発明の組織または器官または動物は、ヒトiPS細胞に由来しない。代替態様では、組織または器官は、ヒトiPS細胞に由来する。一態様では、本発明は、ヒト胚または成人に拡張しないが、ヒトの器官もしくは組織に、または胚状態が特定される前の単一のiPS細胞に由来するヒト細胞の集団に拡張するかもしれない。
【0123】
一態様では、iPS細胞は単一のヒト細胞である。
【0124】
本発明のiPS細胞のゲノムは、最適には、例えばトランスポゾンによる遺伝子操作で扱いやすい。高効率で染色体に転置するトランスポゾンでヒトiPS細胞をトランスフェクトすることができることを、我々は実証した。したがって、本発明は、宿主染色体への外来性ポリヌクレオチド配列の送達、最適にはトランスポゾン、または遺伝子トラッピングもしくは遺伝子ターゲッティング構築物の送達を含む、iPS細胞の遺伝子改変の方法に関する。しかし、任意の適する構築物を本発明のiPS細胞に送達することができる。
【0125】
一態様では、本発明のiPS細胞は、最適には遺伝子突然変異の修正および可能性として患者細胞に新しい有益な遺伝子変化を導入することを可能にする、相同的組換えおよび/またはターゲティングで扱いやすい。
【0126】
本発明は、そのゲノムが外来性のDNA配列を含むiPS細胞にも関する。
【0127】
本発明は、医療処置の方法、および医療における本発明の使用にも関する。
【0128】
本明細書で開示されるiPS細胞またはそれから生成される体細胞は、療法での医薬として用いることができる。さらに、ヒト体細胞から患者特異的なヒトiPS系を生成する能力は、iPS細胞で患者特異的な遺伝子異常を修正すること、および遺伝子療法のための突然変異のない細胞を生成することを可能にする。本明細書に記載されるiPSから生成される組織および器官は、薬で用いることもできる。NRFは、それらが送達されてin vivoで直接的に効果を発揮する医薬として、ならびにiPSの生成で用いることもできる。
【0129】
したがって、本発明は、最適には本明細書に記載されるように薬での、核再プログラミング因子またはiPS細胞またはそれに由来する細胞、組織もしくは器官の使用に関する。
【0130】
本発明は、最適には本明細書に記載される再プログラミング因子もしくはiPS細胞もしくはそれに由来する細胞の薬学的に許容される量の送達、または本明細書に記載されるiPS細胞に由来する組織もしくは器官の送達を含む、それを必要とする患者を治療する方法にさらに関する。
【0131】
本発明は、それを必要とする患者の処置のための医薬の調製における、最適には本明細書に記載される核再プログラミング因子またはiPS細胞またはそれに由来する細胞の使用にさらに関する。
【0132】
体細胞が体から分離されてiPS細胞に再プログラミングされる場合には、最適には、細胞は処置される予定の患者からのものである。
【0133】
本発明は、例えば、分化細胞を生成する出発iPS細胞または細胞集団を生成するために、本発明の細胞またはNRFを用いて分化を促進する方法にさらに関する。一態様では、RARファミリーメンバー、例えばRarg、RaraまたはLRH1のアゴニストまたはアンタゴニストは、患者で細胞分化を促進するために用いることができる。
【0134】
本発明の代替態様は、再プログラミングよりもむしろ細胞の分化の促進に関する。本明細書で開示されるように、完全長RargおよびRaraの過剰発現は、RAによって誘導される分化を強化した。したがって、本発明は、RAと一緒に分化を導き出すために適当な濃度および持続期間で体細胞をRargまたはRaraなどの完全長RARと接触させるステップを含む、細胞の分化能力および/または増殖能力を向上させる方法に関する。
【0135】
任意の適する標的細胞を本発明で用いることができる。本発明のNRFによる処理に適する細胞には、肝細胞、胃細胞、皮膚細胞および単球が含まれる。一態様では、処理のための標的細胞は、LRH1/RARGを発現するか、低レベルのCOUP-TFI/IIおよび本明細書に記載の他の負のエフェクターを有するか、またはその両方である。
【0136】
本発明は、iPS細胞の品質および生産効率を向上させるmiRNAおよびsiRNA、例えばCOUP-TFI、COUP-TFII、GCNFおよびG9a、ならびに多能性遺伝子の調節因子であって、RA受容体およびLRH1ファミリーメンバーと相互作用する他のものにも関する。本発明は、iPS細胞の品質および生産効率を向上させるために、野生型または突然変異形のCOUP-TFI、COUP-TFII、GCNFおよびG9a、ならびに多能性遺伝子の他の調節因子を用いることにも関する。
【0137】
一態様では、本発明は、iPS細胞、例えばRARα、RargおよびLrh1の数および/または品質を向上させることができる特定のタンパク質およびタンパク質の組合せに関する。本明細書でタンパク質またはポリペプチドへの言及には、同じかまたは実質的に類似した生物活性を導き出すことが可能な前記タンパク質またはポリペプチドの機能的同等物が含まれるものとする。類似した活性は、最適には本明細書で開示される方法を用いて評価される、iPS細胞の生成および/またはiPS品質を刺激する能力であってよい。非限定例として、完全長RARαはiPS生成を増強することが公知であり、最適にはこのタンパク質の機能的同等物もiPS生成を最適にはRARαで見られるレベルの少なくとも20、30、40、50%以上増強する。機能的同等物には、同じか異なる種からのタンパク質ファミリーの他のメンバー、または置換、付加もしくは欠失突然変異体などのタンパク質の変異体が含まれてもよい。
【0138】
同様に、本発明が、例えば本明細書で開示されるタンパク質またはポリペプチドをコードするポリ核酸、またはその機能的同等物に関する限り、本発明は、前記配列、例えば天然に存在する配列または前記天然に存在する配列の変性同等物をコードする任意のポリ核酸に関する。その1本の鎖が、最適にはストリンジェントなハイブリダイゼーション条件下で、本発明のタンパク質またはポリペプチドに機能的に同等であるタンパク質またはポリペプチドをコードするポリ核酸とハイブリダイズすることができるポリヌクレオチドを本発明は含む。ストリンジェント条件には、例えば、ハイブリダイゼーションステップのために適用される約45℃の6×NaCl/クエン酸ナトリウム(SSC)、続いて50℃の2×SSCでの洗浄、あるいは5×SSC、20mM NaPO4、pH6.8、50%ホルムアミド中で42℃でのハイブリダイゼーション、および0.2×SSCで42℃での洗浄が含まれてもよい。ハイブリダイズする配列の長さおよびGCヌクレオチド塩基含量に基づいてこれらの条件を経験的に変更することが望ましいこと、およびそのような変更を判定するための方式が存在することを当業者は理解する(例えば、Sambrookら、「Molecular Cloning: A Laboratory Manual」、第2版、9.47〜9.51頁、Cold Spring Harbor, N.Y.: Cold Spring Harbor Laboratory Press (1989)を参照)。
【0139】
本明細書に記載される特定の実施形態は例示として示され、本発明の限定としてではないことが理解されよう。本発明の主な特徴は、本発明の範囲を逸脱せずに様々な実施形態で使用することができる。当業者は、通常の試験しか用いなくとも、本明細書に記載される特定の手法の多数の同等物を認識するか、確かめることができる。そのような同等物は、本発明の適用範囲内であるとみなされ、請求項に包含される。本明細書で指摘した全ての刊行物および特許出願は、本発明が関連する分野の技術者のレベルを示すものである。全ての刊行物および特許出願は、各個々の刊行物または特許出願が参照により組み込まれることが具体的におよび個々に示されるのと同じ程度に、参照により本明細書に組み込まれる。請求項および/または明細書で用語「含む」と一緒に用いられるとき、単語「a」または「an」の使用は、「1つ」を意味することがあるが、それは「1つまたは複数」、「少なくとも1つ」および「1つまたは1つを超える」の意味にも一致する。代替物だけを指すと、または代替物が互いに排他的であると明示されない限り、用語「または」の請求項での使用は、「および/または」を意味するものとして用いられるが、本開示は代替物だけおよび「および/または」を指す定義を支持する。本出願全体で、用語「約」は、ある値が、装置、値を判定するために使用される方法の誤差の固有の変動、または試験対象の間に存在する変動を含むことを示すものとして用いられる。
【0140】
本明細書および請求項で用いられるように、単語「含む(comprising)」(および任意の形の含む(comprising)、例えば「含む(comprise)」および「含む(comprises)」)、「有する(having)」(および任意の形の有する(having)、例えば「有する(have)」および「有する(has)」)、「含む(including)」(および任意の形の含む(including)、例えば「含む(includes)」および「含む(include)」)または「含む(containing)」(および任意の形の含む(containing)、例えば「含む(contains)」および「含む(contain)」)は包括的またはオープンエンドであり、列挙されていないさらなる要素または方法ステップを排除しない。一態様では、そのようなオープンエンド用語は、制限されたかまたはクローズドな定義、例えば「から事実上なる」、または「からなる」もそれらの範囲に含む。
【0141】
本明細書で用いるように、用語「またはその組合せ」は、その用語の前に記載されるアイテムの全ての順列および組合せを指す。例えば、「A、B、Cまたはその組合せ」は、A、B、C、AB、AC、BCまたはABC、および特定の前後関係で順序が重要である場合には、BA、CA、CB、CBA、BCA、ACB、BACまたはCABの少なくとも1つを含むものとする。この例に続けて、1つまたは複数のアイテムまたは用語、例えばBB、AAA、MB、BBC、AAABCCCC、CBBAAA、CABABBおよびその他の繰返しを含む組合せが明白に含まれる。前後関係から明らかでない限り、任意の組合せのアイテムまたは用語の数に一般的に制限はないことを当業者は理解する。
【0142】
本明細書で開示および請求される組成物および/または方法の全ては、本開示を考慮して過度の実験なしで作製および実行することができる。本発明の組成物および方法が好ましい実施形態に関して記載されたが、本発明の概念、精神および範囲を逸脱せずに、組成物および/または方法に、ならびに本明細書に記載される方法のステップまたはステップの順序に変更を加えることができることは当業者に明らかになる。当業者に明らかな全てのそのような類似した代替物および改変は、添付の請求項によって定義される本発明の精神、範囲および概念内にあると考えられる。
【0143】
本明細書で参照される全ての文書は、可能な限り最大限に参照により組み込まれる。
【0144】
本出願の前後関係から明らかでない限り、開示の任意の要素は開示の任意の他の要素と一緒に明白に企図される。
【0145】
本発明は、本発明を制限するものではない以下の実施例を参照してさらに記載される。
【実施例】
【0146】
実施例1
レチノイン酸受容体ガンマ(RARG)および肝臓受容体ホモログ1(LRH-1)を4つのYamanaka因子と一緒に発現させると、マウスおよびヒトの体細胞が基底状態iPSCに再プログラミングされる。
【0147】
要旨
幹細胞は、自己複製能力および異なる細胞型に分化する能力を有する。体細胞は4つの転写因子を発現させることによって誘導多能性幹細胞(iPSC)に再プログラミングすることができるが、その機構はなお明らかでない。ここでは、レチノイン酸(RA)シグナル伝達を調節することが、再プログラミングを著しく促進したことを我々は報告する。さらに、Rarg(レチノイン酸受容体ガンマ)およびLrh-1(肝臓受容体ホモログ1)を4つの因子と一緒に同時に発現させることは、既知組成2i培地で基底状態またはナイーヴなiPSCへのマウス胚線維芽細胞(MEF)の迅速な再プログラミングを直接もたらした。その因子の組合せが、増殖特性、遺伝子発現、シグナル伝達依存性および遺伝子改変への受容性がナイーヴなマウスES細胞に似ているiPSCにヒト線維芽細胞を再プログラミングしたので、再プログラミングでのRAシグナル伝達およびRARGおよびLRH-1の重要な機能は、進化的に保存されている。マウス胚線維芽細胞(MEF)は、4つのYamanaka因子、Oct4、Sox2、c-MycおよびKlf4の発現によってiPSCに再プログラミングすることができる(1〜3)。これらの因子は、マウス(4〜6)およびヒト(7〜9)で様々な体細胞系の細胞を再プログラミングすることもできる。Oct4の置換(10)、化合物の使用(11〜14)、Wntシグナル伝達などのシグナル伝達トランスダクション経路を調節すること(15)、p53などの細胞周期調節因子を混乱させること(16、17)、およびマウスiPSCの生殖細胞系コンピテンスを強化すること(18)を含む、元の再プログラミングプロトコルの多くの改良が記載されている。重要なことに、マウスiPSCは、四倍体相補性アッセイで満期成体マウスを生成することによって、最もストリンジェントな多能性検査を通過した(19〜21)。iPSC分野でのおびただしい進展にもかかわらず、多くの技術的な課題が残り、再プログラミング機構についてなおほとんど知られていない。例えば、マウスでは、MEFを再プログラミングすることは2〜3週を必要とし、再プログラミングされた細胞のわずかに少数が真のiPSCである(22、23)。ヒトでは、一次細胞から再プログラミングされたiPSCは従来のヒトES細胞に類似し、それはマウスEpiStem細胞の特徴をより表すと考えられる(24)。
【0148】
結果
RAシグナル伝達は、再プログラミングで必要とされる
レチノイン酸シグナル伝達は、脊椎動物の発生の間に複雑で多面的な機能を有する(25)。高濃度のRAへの長期曝露は、マウス胚性幹(ES)細胞および胎児性癌(EC)細胞の分化を誘導する。しかし、生化学試験は、低濃度のRAの存在下でRAREoct、Oct4遺伝子座のプロモーターに位置する複合RA応答性エレメントに結合するRAR:RXRヘテロダイマーを通して(26〜28)、RA受容体(RAR)がOct4発現を正に調節することができることを示す(28、29)。さらに、高レベルのヘテロダイマーは、COUP-TFなどのリプレッサーがRAREoctに結合することを競合により効果的に阻止する(28)。
【0149】
再プログラミングにおけるRAシグナル伝達の役割を調査するために、我々はOct4、Sox2、Klf4、cMyc、RaraおよびRargのcDNAを、cDNAの発現がMSCV LTRによって制御されるPB-MSCVベクターにクローニングした(図6A)。外来性のc-Mycは再プログラミングに必須でないが、それの省略は再プログラミング効率を低下させ、経過を遅らせる(23、30)。個々のPB-MSCV-cDNAベクターを、MEFにPBトランスポザーゼプラスミドと同時トランスフェクトした(図1A)。PB転位はゲノムへのPBトランスポゾンの効率的な組込みを促進し、このように、cDNAの安定した発現を保証する(31)。
【0150】
ES細胞の多能性は適切レベルのOct4(Pou5f1)の発現を必要とし(32)、Oct4の活性化は再プログラミングで重要な事象であることが知られている(3)。再プログラミングでの内因性Oct4遺伝子座の活性化を監視し、iPSC品質の公平な評価を可能にするために、IRES-Puro-GFPカセットがOct4遺伝子座の3'UTRにターゲッティングされているOct4リポーターマウス系を我々は作製した(図6B)。ターゲッティングされているES細胞は、2.0μg/mlのピューロマイシン(Puro)選択に耐性であった。これらのES細胞は蛍光顕微鏡下で可視的緑色でなかったが、フローサイトメトリーによって識別することができた(図6C)。生殖細胞系コンピテントキメラがこれらのES細胞から導かれたので、Oct4遺伝子座へのPuro-GFPカセットの挿入は、ES細胞の多能性に影響を及ぼさないようであった。したがって、Oct4リポーターマウスからのMEFが全てのMEF再プログラミング実験で用いられ、したがって、再プログラミングおよびiPSC品質は、Puro耐性またはiPSCでのGFP発現のいずれかによって都合よく監視および評価することができた。
【0151】
ES細胞様細胞からなるコロニーはトランスフェクションの3週間後に現れ始め、30日目までには、RaraおよびRargの発現はAP+ES細胞様コロニー数をそれぞれ1桁および2桁増加させた(図1B〜C)。対照的に、Raraドミナントネガティブ(DN)形を発現させること(33)は、ほとんどの実験で再プログラミングを完全に阻止し(図1B)、少数の成長するコロニーを安定した系に増殖させることは決してできなかった。したがって、これらの結果は、iPSCへのMEFの再プログラミングにおけるRAシグナル伝達の必須の役割を実証した。
【0152】
我々は、Rargに特異的なRAの合成アゴニストCD437を用いて、再プログラミングにおけるRAシグナル伝達の特異性および時間的要件を次に検討した(34)。推奨された濃度のCD437の培地への4または8日間の添加は、iPSCへのMEFの再プログラミングを大幅に増加させた(図1D)。しかし、トランスフェクションから8日を過ぎてからのCD437によるMEFの処理(図1D)、または増加させた量のPB-MSCV-RargプラスミドDNAのトランスフェクションは、再プログラミング効率を低下させ(図6D)、このことは再プログラミングでのRAシグナル伝達の時間的および用量依存的様式を反映する。
【0153】
内因性Oct4の発現は、4つのYamanaka因子によって再プログラミングされたiPSCでは不安定である(11)。4つの因子だけによって、または4因子に加えてRargによって再プログラミングされたにせよ、ほとんどのiPSC様コロニー(PBトランスフェクションから30日目に)がわずか1.0μg/mlのPuro選択を生き延び、GFP発現を検出することができなかった(図6E)ことも我々は見出し、これらの細胞での低レベルのOct4発現を示す。さらなる分析は、それらの部分的に再プログラミングされた状態を確認した:低レベルの内因性多能性遺伝子発現(図1E)、ならびにNanogおよびRex1プロモーターの差別的にメチル化された領域(DMR)での実質的なDNAメチル化の保持を確認した(図1F)。他方、2.0μg/ml Puroに耐性であり、多能性遺伝子発現、NanogおよびRex1プロモーターでの脱メチル化ならびにGFP発現に関してES細胞に類似していた少数のコロニーが得られた(図1E〜Fおよび図6E)。
【0154】
意外にも、CD437(1〜4日目)処理から得られたほとんどのコロニーはGFPを発現し、2.0μg/mlのPuro選択を生き延びた(図1G)。したがって、RAシグナル伝達を調節することは、再プログラミング効率を著しく増加させただけでなく、安定したOct4発現によって定義されるiPSC品質を向上させることもできた。以降の実験では、Oct4-Puro-GFP MEFから再プログラミングされたマウスの一次iPSCの多能性品質の代用基準として、我々は2.0μg/mlのPuroへの耐性またはGFP発現を用いた。
【0155】
RargおよびLrh-1を同時発現させることによる迅速再プログラミング
SF-1(Nr5a1)およびLRH-1(Nr5a2)は、Nr5aステロイドホルモンファミリーの2つのメンバーである。RAREoctに結合するヘテロダイマーを形成することによって、Sf-1およびRargはEC細胞でのOct4発現を相乗的に促進および維持する(29)。しかし、Sf-1でなくLrh-1はES細胞で発現され、胚発生の着床後の段階で必要とされる(35)。したがって、我々は2つのPBベクター、PB-CAG-OCKSおよびPB-CAG-RLを構築し、そこでは、4つのYamanaka因子(OCKS)、RargおよびLrh-1(RL)はそれぞれT2Aによって連結された(図7A)。これらの因子の発現は、CAGプロモーターによって制御された。再プログラミングのために、2つのPBベクターを同時にまたは別々にOct4リポーターMEFにトランスフェクトした。OCKSおよびRLの同時トランスフェクションの4日後すぐに、2.0μg/mlのPurorの顕微鏡的ES様コロニーが現れた。これらのPurorコロニーは大きなES様コロニーに成長し続け、増殖およびさらなる特徴付けのために通常7日目から10日目までに採取された(図7B)。トランスフェクションから10日目に、OCKSだけを発現する対照と比較して、最高20倍より多くの、6因子によって再プログラミングされたAP+コロニーがあった(図7C)。RLだけのトランスフェクションは、10日でいかなるコロニーも生成しなかった。
【0156】
ウイルスベースのドキシサイクリンによって誘導可能なベクターを用いる以前の試験は、外来性因子によって誘導される再プログラミングは、異なる細胞集団がiPSCになるように準備された既定の中間ステップを有する段階的な過程であることを示唆する(36、37)。細胞が自立した多能性状態に入る前に、Yamanaka因子を少なくとも10〜16日間発現させることを通常必要とする(36、37)。再プログラミングでの6つの外来性因子の時間的要件を判定するために、これらの因子の発現がドキシサイクリン(Dox)によって誘導可能であるように、我々はCAGプロモーターをテトラサイクリン応答エレメント(TRE)に変えた(図7A)。2つのPBベクター、PB-TRE-OCKSおよびPB-TRE-RL、ならびに逆テトラサイクリントランス活性化因子を発現するPB-CAG-rtTA(図7A)を、Oct4リポーターMEFにトランスフェクトした。Doxを培地に加え、その後いくつかの時点で取り出した(図2A)。Doxがない場合にiPSCコロニーに成長し続けた、2.0μg/mlピューロマイシンを生き延びた再プログラミングされた細胞を得るのに、4日間のDox処理で十分であった(図2B〜C)。対照的に、Yamanaka因子だけを発現させた場合(PB-TRE-OCKS)、2.0μg/mlピューロマイシン細胞を得るために少なくとも12日を必要とした(図2B)。したがって、Rarg/Lrh-1を同時発現させることは、再プログラミングを劇的に速めた。重要なことに、6つの因子で生成された大部分のiPSCは、2.0μg/ml Puroへのそれらの耐性およびGFP発現に基づくと高い品質のものであった(図2D)。対照的に、RargまたはLrh-1をOCKSと別々に発現させることは、再プログラミング動態にもiPSC品質にも見かけ上影響を及ぼさなかった(図2D)。
【0157】
Oct4リポーター系と同様に、我々は、GFP-IRES-PuroカセットがRex1遺伝子座に挿入されたRex1-GFPマウス系を作製し、Doxにより誘導可能な因子を用いて再プログラミング実験を実施するためにこれらのRex1-GFP MEFを用いた。Rex-1はES細胞だけで発現され、EpiSCでは発現されず(Bronsら、2007;Tesarら、2007)、このように完全に再プログラミングされた細胞の理想的なマーカーを表す。4つのYamanaka因子、Lrh1およびRargを用いて、4日間のDox処理の後にDox非依存性GFP陽性コロニーが再び現れた。
【0158】
Oct4などの多能性遺伝子の完全な活性化は、再プログラミングおよび体細胞クローニングで重要な事象である(38)。したがって、RargおよびLrh-1の発現が実際にOct4発現を速やかに活性化することができるかどうかについて、Oct4プロモーターに連結したルシフェラーゼ発現カセットを用いてリポーターアッセイで我々は調査した(図7D)。様々なcDNAを運ぶPB-CAGトランスポゾンを、MEFにリポータープラスミドと同時トランスフェクトし、それを2日後に収穫した。RargもしくはLrh-1だけ、またはOCKSの発現は、ルシフェラーゼリポーター発現に対する実質的な影響を有さなかった(図2E)。しかし、ES細胞でRargおよびLrh-1を同時発現させることはリポーター発現を4〜5倍増加させたが(図2E)、このことは、RargおよびSf-1がEC細胞でOct4発現を相乗的に活性化するとの以前の生化学知見に類似している(29)。したがって、RargおよびLrh-1の発現は、主に6因子再プログラミング系でのOct4遺伝子座の迅速な活性化を担い、OCKSはおそらく比較的後期の段階での再プログラミングに関与した。
【0159】
6つの因子でMEFから再プログラミングされたDox非依存性iPSCは、さらに特徴付けされた。これらのiPSCは、免疫染色およびqRT-PCR分析の両方によって検出される多能性遺伝子の適切なレベルを発現し、Oct4およびNanogのプロモーター領域でDNA脱メチル化を有していた(図3A〜Cおよび図8A〜B)。さらに、これらの細胞は、F1雑種マウスに注射された場合、テラトーマの3つの胚葉全てに相当する体細胞型に分化することができた(図3D)。最後に、これらのiPSCは、胚盤胞に注射されるとキメラの生殖細胞系に効率的に寄与した(図3E)。重要なことに、ほとんどのiPSC系は検出可能な外来性因子を発現せず(図8C)、キメラは腫瘍を発生しなかった(12カ月、n=7)。したがって、2.0μg/ml Puroへの耐性およびGFP発現は、Oct4リポーターMEFからの一次iPSCを評価するために適する基準であった。我々の6因子系を用いて再プログラミングされたほとんどのiPSCコロニーは完全に再プログラミングされたので、通常の再プログラミングのためにリポーターMEFを必要としなかった。我々は、野生型C57B6J MEFから容易にiPSCを生成することができた。さらに、全ての6因子(OCKSRL)のcDNAを運ぶ単一のPBトランスポゾンも、MEFを効率的に再プログラミングした。
【0160】
2i培地での基底状態iPSCへのMEFの直接的再プログラミング
MEFの再プログラミングは、血清または血清代替品を含む標準マウスES細胞培地で通常実施される。これらの培地の複雑な性質は、再プログラミングでの個々の化合物または増殖因子の機能の正確な決定を可能にしない。既知組成培地で体細胞を直接的に再プログラミングすることは、治療的iPSCの生成を同様に促進する。したがって、我々は、マウスES細胞の多能性を維持することができる既知組成培地、N2B27-LIFでの再プログラミングを試みた(39)。MEFをPB-TRE-OCKS単独で、またはPB-TRE-RLと一緒にトランスフェクトし、ゼラチン化プレートのDoxを用いてN2B27-LIF培地で最高17日の間培養した。ES細胞様コロニーは6因子を発現させてから5日後という早い時期に現れ、14〜17日目に、2つの阻害剤(2i/LIF培地)、PD(ERK1/2阻害剤PD0325901)およびCH(GSK3阻害剤CHIR99021)を加えたN2B27-LIFに増殖のために採取した。N2B27培地への2iの添加は、基底状態のマウスおよびラットのES細胞を選択して維持する(40、41)。各トランスフェクションでOCKSおよびRLを発現させることによって、我々は平均50個のiPSCコロニーを得、そのほとんど(83%)は2i/LIFで系に増殖させることができた(図4A)。対照的に、AP+コロニーはPB-TRE-OCKSをトランスフェクトした後の少なくとも12日目まで現れず、それらの少数(28%)だけを安定した系に増殖させることができた。
【0161】
我々は、2i/LIF培地でMEFをiPSCに直接的に再プログラミングすることを次に試みた。注目すべきことに、基底状態iPSCはOCKSに加えてRLを発現させることによって培養に速やかに現れたが、OCKSだけでは出現せず(図9A)、このことは、6つの因子を発現させたすぐ後にMEFのいくつかが、2i/LIF培地で基底状態多能性にさらに促進された中間再プログラミング段階に既にあったことを示す(11、36、37)。我々は、2i/LIFで再プログラミングされたiPSCの品質を次に検討した。これらのiPSCは適切なレベル(図4B〜C)で多能性遺伝子を発現し、in vitro(図4D)およびテラトーマ(図9B)で3つの胚葉全ての体細胞型に分化した。したがって、RargおよびLrh-1を発現させることによってレチノイン酸シグナル伝達を調節することは、基底状態またはナイーヴなiPSCにMEFを速やかに再プログラミングする。
【0162】
OCKSおよびRLは、ユニークな特性を有するヒトiPSCの生成を可能にした
内因性Oct4発現の効率的な誘導により高品質iPSCにMEFを速やかに再プログラミングするOCKSプラスRLの能力は、これらの因子がヒト体細胞の再プログラミングでも類似した役割を演ずるかどうかについて探究することを我々に促した。Oct4遺伝子座のRAREoctがいくつかの哺乳動物のゲノムで高度に保存されていることを、コンピュータ分析は確認した(図5A)。実験的な証拠も、ヒト細胞でOct4発現を調節するRAREoctの可能な役割を裏付ける(42)。興味深いことに、マウスおよびヒトの両ゲノムでは、RAREoct様エレメントが約30〜40個の遺伝子座で特定された(表S1およびS2)が、Oct4遺伝子座は両ゲノムで見出されたRAREoct部位を含む唯一のものであって、このことは、Oct4遺伝子座でのこのエレメントの機能的重要性を示している。
【0163】
したがって、我々は、マウスES細胞に類似しているヒトiPSCを生成する可能性を探究した。CAGプロモーターを用いて6つの因子を構成的に発現させることによって、我々はヒトiPSCを先ず生成した。PBトランスポザーゼを同時発現させることによって、ヒトOCKSおよびRL cDNAを運ぶPB-CAGトランスポゾンを、ヒト新生児包皮皮膚線維芽細胞(HDFn)に転置した。トランスフェクションの後の10日目に、マウスES細胞培地(M15-LIF)にコロニーが形成され、そのいくつかはマウスES細胞コロニーに形態的に類似していた(例えば、コンパクトな隆起コロニー、高い核対細胞質比および顕著な核小体)(図10A)。これらのコロニーを12〜14日目に採取し、標準マウスES細胞プロトコルを用いてその後培養した(図10A)。トリプシンによる単一細胞懸濁液への解離およびSTOフィーダー細胞への平面培養の結果、二次コロニーが効率的に形成され、最高70%の再平板培養効率であった。我々は、M15-LIF培地で少なくとも50継代の間フィーダーで維持することができた多くの一次コロニーから、安定した系を確立することができた。OCKSだけを用いる対照では、一次コロニーは、OCKSプラスRLで生成されたものと形態的に異なっていた(図10A)。以前の報告書と一貫して、我々は、M15-LIF培地でこれらのOCKSコロニーからの安定した系の確立に成功したことはなかった(7)。通常のマウスES細胞培地で増殖するそれらの能力の他に、これらのヒトiPSCは重要な多能性遺伝子を発現し(図10B〜C)、2i/LIF培地で維持することもでき、そのことは基底状態マウスES細胞へのそれらの類似性を確認した(40)(図10A)。これらのヒトiPSCの分化能力を判定するために、我々は免疫不全を起こしたNSGマウスの皮下にそれらを注射した(43)。CAGプロモーターからの外来性因子の連続的発現にもかかわらず、これらの細胞は、3つの胚葉全てを表す細胞型を有するテラトーマを形成した(図10D)。さらに、多大なin vitro培養の後でさえ、これらのiPSCは正常な核型を保持した(図10E)。Y染色体多形マーカーを用いて、我々はiPSC HDFn起源の確認もした(図10F)。
【0164】
外来性因子の発現に依存しない無関係のヒトiPSCを得るために、6つの因子のヒトcDNAがPB-TREプラスミドにクローニングされたTet-On系を用いた。これらのPB-TRE-cDNAプラスミドを、HDFn細胞にPBトランスポザーゼおよびrtTAプラスミドと同時トランスフェクトした。外来性因子の発現を誘導するために、Doxを加えた(図5B)。ES細胞様細胞を含むコロニーは、トランスフェクションの10〜15日後に現れた。これらのコロニーをトリプシン処理し、フィーダープレートのDoxなしのM15-LIF培地に再平板培養した。その後、Dox非依存性二次コロニーを、2つの阻害剤PDおよびCHを加えたKSR-LIF培地のフィーダーで系に増殖させた(KSR-2i-LIF)(40、41)。1つの実験から、我々は、KSR-2i-LIF培地で維持された5個のDox非依存性iPSC系を確立した(図5C)。マウスES細胞に類似して、これらのヒトiPSCは容易に増殖させられ、通常3〜4日おきに1対4の分割比で継代された。これらのDox非依存性iPSCの多能性を判定するために、我々は重要な多能性遺伝子の発現を検討した。それらはヒトES細胞でのそれと同等のレベルで内因性のOct4、Sox2およびNanogを発現し(図5Dおよび図11A)、ヒトES細胞表面マーカーについて陽性に染色された(図5Eおよび図11B)。重要なことに、外来性因子の発現は、RT-PCR分析でさえ検出可能でなかった(図11C)。最後に、Dox非依存性ヒトiPSCは、in vitroおよびin vivoで3つの胚葉の細胞に容易に分化させることができた(図5F〜G)。
【0165】
マウスES細胞での多能性維持のためのLif/Jak/Stat経路への依存と対照的に、胚に由来する従来のヒトES細胞はFGF2(塩基性FGF)を含む培地で培養され、LIFだけでは多能性を維持するには不十分である(44、45)。Dox非依存性ヒトiPSCは、培地にFGFを必要としなかった。実際、FGF受容体阻害剤SU54021の存在下でさえ、それらはKSR-2i-LIF培地で良好に生育し、多能性遺伝子発現を保った(図5H)。従来のヒトES細胞はJAK阻害剤(Jaki)に耐性であるが、BMP4の存在下で分化する。対照的に、我々のヒトiPSCはBMP4の存在下で良好に増殖したが、Stat3リン酸化を妨害するJAK阻害剤がKSR-2i-LIF培地に加えられる場合には、それらはOCT4およびNANOGの発現を失って速やかに分化した(図5H)。最後に、ヒトES細胞と比較して、我々のヒトiPSCは、KSR-2i-LIF培地でより低いレベルの系統特異的遺伝子、例えばPAX6、GATA6およびSOX17を発現した(図5H)。
【0166】
Dox非依存性ヒトiPSCがFGF依存性になる能力を有するかどうかについて判定するために、我々は培地をKSR-FGF2に変更した。3継代の後、これらの細胞はなお良好に生育し、KSR-2i-LIF培地での成長と比較して明らかな分化を示さなかった。それらはヒトES細胞に形態的に類似し、OCT4およびNANOGなどの多能性遺伝子の適切なレベルを発現した(図5I)。しかし、培地をKSR-2i-LIFに戻した場合、これらのiPSCは分化され、OCT4およびNANOGの発現の損失を伴って高レベルのSOX17およびSOX1を発現し(図5I)、これはヒトES細胞の挙動に類似していた(44)。したがって、KSR-2i-LIF培地で増殖するヒトiPSCは、従来のヒトES細胞に類似した細胞に変わる能力を有するが、その逆はないことをこれらのデータは実証した。したがって、我々の6因子プラットホームを用いて生成されたDox非依存性ヒトiPSCは、従来のヒトES細胞よりも未熟であり、それらの増殖特性、シグナル伝達依存および遺伝子発現に基づく基底状態マウスES細胞に似ていた(40、41)。したがって、我々はこれらのヒトiPSCをSangerヒトiPSCまたはSH-iPSCと名付けた。
【0167】
SH-iPSCがマウスES細胞に類似していたという事実は、それらが遺伝子の研究に有用であることを示唆した。in vitroでの多大な操作のためにこれらの細胞を用いる前に、我々はスペクトル核型分析を用いてSH-iPSCのゲノム統合性を検討した。長期のin vitro培養(20継代)の後でさえ、これらの細胞は正常な核型を保持し(図11D)、それらが遺伝的に安定していることが示された。したがって、SH-iPSCにPB-PGK-NeoトランスポゾンおよびPBaseプラスミドを同時トランスフェクトすることによって外来性のDNAをこれらの細胞に導入するために、我々はPB転位を実施した。1つのエレクトロポレーションから、我々は約500,000個のG418rコロニーを得、それはエレクトロポレーションを生き延びた細胞の約10%を占め、転位効率はマウスES細胞を用いるのと同等であった(31)。
【0168】
SH-iPSCでの効率的なPB転位は、ゲノム全体の突然変異のスクリーニングを実施する道を開く。この可能性を探究し始めるために、我々はSH-iPSCにPB-SA-βgeo遺伝子トラップトランスポゾンおよびPBトランスポザーゼプラスミドをトランスフェクトした。発現する遺伝子座へのSA-βgeoカセットの組込みは、βgeo発現を、およびトラッピング事象をG418耐性として評価することを可能にした。1つのエレクトロポレーションから、我々は22,000個のG418rコロニーを回収し、それはエレクトロポレーション後の生存細胞の0.3%に相当した。我々のヒトiPSC系は包皮線維芽細胞に由来し、したがってXYであったので、我々は、HPRT活性を失う細胞での6TG耐性を利用して、X染色体上のHPRT遺伝子座での突然変異効率を調査した。22,000個のG418耐性コロニーから、我々は1つの6TGコロニーを得た。このクローンの分子解析は、PBがイントロン2に挿入され、HPRT転写およびスプライシングを破壊したことを実証した(図11E)。したがって、SH-iPSCは、遺伝子操作およびスクリーニングに適していた。
【0169】
我々の6因子再プログラミング系のユニークな能力は、多能性幹細胞でのRAシグナル伝達および関連因子LRH-1の役割に帰することができる。レチノイン酸のよく特徴付けされた分化促進活性と対照的に、RAシグナル伝達はRAREoctを通してOct4の発現を正に調節することができる。RAREoctに特異的に結合する高レベルのRAR:RXRヘテロダイマーは、COUP-TFによる抑制を凌ぐ(28)。RAシグナル伝達によるOct4発現を調節するための代替経路は、RAREoct内のSF-1結合部位を通すものである。RARG/LRH-1ヘテロダイマーはRAREoctに結合し、リプレッサーを効果的に打ち負かすことによりOct4発現を相乗的に活性化する(29)。これらのステロイドホルモン受容体二量体は、さらなるクロマチンリモデリングを促進するために、Oct4遺伝子座にCBP/p300、P/CAFおよびSRC1/TIF2などの活性化補助因子をその後動員する(25、46)。したがって、体細胞再プログラミングで最も重要な障害物の1つ、すなわち内因性Oct4遺伝子座の活性化(47)は、外来性因子の発現の直後に容易に克服される。高レベルのLRH-1および低レベルのCOUP-TFを発現する細胞、例えばマウス肝細胞(48)は、より高い再プログラミング効率を有することが実証されたことに注目することは興味深い(5)。
【0170】
Oct4遺伝子座の活性化が早期の再プログラミング事象であり、重要な1つであることを我々のデータは明らかに示す。4つのYamanaka因子を発現することによるOct4遺伝子座の活性化は不安定であり、それは通常のES細胞培地で多くの部分的に再プログラミングされたコロニーをもたらすことが知られている(11)。Oct4リポーターMEFを用いる再プログラミングは、Oct4遺伝子座の活性化の直接可視化を可能にする。4つの因子だけが発現される場合、フローサイトメトリーで少数の細胞がGFP+であり、これらの細胞でのOct4活性化を示す。しかし、4つの因子によって媒介される長い再プログラミング過程と一貫して、GFP+細胞数は次の8日の間実質的に変わらなかった。対照的に、6つの因子を発現するMEFでは、GFP+細胞はトランスフェクションの後の3日目から指数的に増加した。さらに、少数のMEFは、6つの因子の発現のほとんど直後に(24時間)、高レベルのOct4発現を得た。しかし、この迅速なOct4活性化を維持することはできず、Dox誘導実験では自己持続可能なiPSCコロニーは外来性因子発現の3〜4日後に得られるだけだったので、2〜3日以上のYamanka因子の連続的発現なしでは以降の再プログラミングステップは中断されることがあった(図2)。
【0171】
Lrh1が欠失しているES細胞は重度の多能性欠陥を示さず、したがって、それは多能性回路の主要な必須成分でない(35)。しかし、それはES細胞分化の間、Oct4発現の維持のために必要とされる(35)。Lrh1が正規のWntシグナル伝達の下流で作用し、Oct4の他にNanogおよびTbx3などの他の多能性因子をも調節することも、最近の証拠は示唆する(64)。おそらく、Lrh1のこれらの重要な機能は、再プログラミングでOct4の代理をするその能力で重要な役割を演ずる(10)。しかし、4つのYamanaka因子と一緒のLrh1単独の発現は、iPSCの品質または動態に関して再プログラミングを有意に向上させないので、この代理は状況に依存する可能性があることを、我々のデータは実証する。RargとLrh1との間の相乗的相互関係だけが、速やかに基底状態マウスiPSCを生成する再プログラミングに著しく影響を及ぼし、基底状態マウスES細胞に極めて似ているヒトiPSCの生成を可能にする。興味深いことに、RargはMEFを含む多くの細胞型で発現されるが、その最も高い発現はES細胞で見出され、MEFまたはヒト線維芽細胞の内因性Rargは、外来性の導入されたLrh1と協力して迅速かつ効率的な再プログラミングを促進するのに十分ではないようである。
【0172】
二次線維芽細胞(iPSC由来の)を再プログラミングすることから得られたヒトiPSCは、2i/LIF培地+フォルスコリンで維持することができたことを、最近の報告は示す(49)。これらの細胞は基底状態マウスES細胞に類似しているようであり(40)、したがって、基底状態またはナイーヴな状態の多能性がヒトに存在する独立した証拠を提供する。それらのヒトiPSCはDox非依存性になることができたが、それらは緩やかに成長し、15〜20継代を超えて維持することができなかった。別の最近の試験は外来性因子の発現になお依存するマウスES細胞様ヒトiPCSも記載し(50)、それはPB-CAG-cDNAを用いて得られるPB-CAGヒトiPSCにある程度類似しているようである(図10)。これらの報告と対照的に、SH-iPSCは、外来性再プログラミング因子の発現に依存せずに、ヒト一次線維芽細胞から直接的に再プログラミングされており、2i/LIFを含む培地で50継代にわたって維持することができた。さらに、それらはFGF非依存性であったが、LIF-JAK-STAT経路に依存した。したがって、SH-iPSCは想定された基底状態のヒト多能性幹細胞に似ており、ヒトゲノムの機能精査のために有用なはずである。
【0173】
材料および方法
プラスミドベクター構築
PB-TRE、PB-MSCVおよびPB-CAGベクターを作製するために、Tet応答エレメント(TRE)をpTight(Clontech)から増幅し、MSCV LTRをpMSCV-Neo(Clontech)から増幅し、CAGGプロモーターをpBluescript-CAGベクター(未発表データ)から増幅して、PB-bpAベクターにクローニングした(未発表データ)。
【0174】
4つのマウスおよびヒトYamanaka因子のcDNAを、元のレトロウイルスベクター(Addgene)から増幅し(補足表3のプライマー)、それぞれPB-TRE、PB-MSCVおよびPB-CAGトランスポゾンベクターにクローニングした。マウスおよびヒトのRarg、Lrh1およびSf1をIMAGEクローン(Geneservice)から増幅し、トランスポゾンベクターにクローニングした。
【0175】
マウスおよびヒトのESおよびiPSCの培養
マウスES細胞およびiPSCは、通常M15培地:ノックアウトDMEM、15%ウシ胎児血清(FBS、Hyclone)、1×グルタミン-ペニシリン-ストレプトマイシン(GPS、Invitrogen)、1×非必須アミノ酸(NEAA、Invitrogen)、0.1mMβ-メルカプトエタノール(β-ME、Sigma)および106U/ml LIF(Millipore)で培養した。
【0176】
PB-CAGベクターによって再プログラミングされたヒトiPSCは、106U/mlヒト組換えLIFとM15培地で培養した。PB-TREベクターによって再プログラミングされたヒトiPSCは、1×GPS(Invitrogen)、20%ノックアウト血清代替物(Invitrogen)、1×NEAA、0.1mM β-メルカプトエタノール(β-ME、Sigma)および2つの阻害剤、CHIR99021(5μM)およびPD0325901(1μM)を含むDMEM/F12で維持した。
【0177】
ヒトES細胞系BG01V/hOG(Invitrogenから)およびH1(WiCellから)をhESC培地: Glutamax(Invitrogen)、20%ノックアウト血清代替物(Invitrogen)、1×NEAA、0.1mM β-メルカプトエタノール(β-ME、Sigma)および4.0ng/ml FGF2(Invitrogen)を含むDMEM/F12で培養した。
【0178】
再プログラミングのためのMEF細胞およびHDFn細胞の調製
MEFは、12.5 d.p.c. Oct4-IRES-Puro-Egfp胚から調製された。胚間の差を低減するために、同じ遺伝子型のいくつかの胚からのMEFを、M10培地での増殖のために混合した。MEFを一度継代してからそれらを数え、等分して冷凍した。エレクトロポレーションの前に、1×106個のMEFを1つのゼラチン化15cm組織培養プレートに平板培養した。MEFが70〜80%の集密のとき、それらをトリプシン処理(typsinized)してエレクトロポレーションのために収集した。M10:ノックアウトDMEM、10%ウシ胎児血清(FBS、Hyclone)、1×GPS、1×非必須アミノ酸(NEAA、Invitrogen)。
【0179】
HDFn細胞をInvitrogenから購入し、低濃度の血清増殖補助剤(Invitrogen)を追加した培地106で維持した。一次HDFn培養を一度継代してから数え、等分して冷凍した。エレクトロポレーションの前に、5×105個のHDFn細胞を3つのT75組織培養フラスコに平板培養した。HDFn細胞が70〜80%の集密のとき、それらをトリプシン処理し、エレクトロポレーションのために収集した。
【0180】
トランスフェクションおよび細胞培養
製造業者のプロトコル(プログラムA-023)によってAmaxa機器(Lonza)を用いて、MEFトランスフェクションを実施した。エレクトロポレーションの後、MEFをSTOフィーダー上のM15プラスLIFに播種した。Tet-On実験のために、ドキシサイクリン(1.0μg/ml)を含むM15をトランスフェクションの24時間後に加え、1日おきに交換した。iPSCコロニーを通常7日目から10日目に96穴プレートに採取し、標準マウスES細胞培養条件によって細胞を増殖させた。
【0181】
HDFn細胞のトランスフェクションは、製造業者のプロトコル(プログラムU-020)によってAmaxa機器を用いて達成した。エレクトロポレーションの後、HDFn細胞をSTOフィーダー上のM15プラスhLIFに播種した。Tet-On実験のために、ドキシサイクリン(2.0μg/ml)を含むM15をトランスフェクションの24時間後に加え、1日おきに交換した。PB-CAGベクターによって再プログラミングされたヒトiPSCコロニーは通常10日目に採取され、トリプシンで単一細胞懸濁液に解離した後に24穴フォーマットに播種された。PB-TREベクターによって再プログラミングされたヒトiPSCコロニーは、通常30日目(再平板培養の10日後)に採取され、トリプシンで単一細胞懸濁液に解離した後に24穴プレートに播種された。安定した系を二次コロニーから確立し、標準マウスES細胞培養条件によって維持した。
【0182】
白血球アルカリホスファターゼキット(Sigma)を用いて、アルカリホスファターゼ染色によってマウスおよびヒトのiPSCコロニーを可視化した。
【0183】
亜硫酸水素塩ゲノム配列決定
亜硫酸水素塩処理を、製造業者の推奨によってEpiTect亜硫酸水素塩キット(Qiagen)を用いて実施した。PCRプライマーは、補足表5に記載される。増幅生成物を、pGEM-T-easy(Promega)にクローニングした。ランダムに選択されたクローンを、各プロモーターについてM13フォワードおよびM13リバースプライマーで配列決定した。
【0184】
RT-PCR
RNeasyミニキット(Qiagen)を用いてRNAを単離した。試料をその後定量化し、gDNA WipeOutで処理した。第一鎖cDNAを、QuantiTect逆転写キット(Qiagen)を用いて調製した。各RT-PCR反応のために、我々は、補足表5に記載される50〜100ngのcDNAおよびプライマーを用いた。標準PCR条件は、94℃で30秒間、60℃で30秒間、68℃で30秒間を30サイクルであった。リアルタイムPCRのために、我々はTaqman遺伝子発現アッセイを用いた。Taqmanプローブは、いずれもApplied Biosciences(補足表6)から購入した。9700HT Fast Real-Time PCR System(Applied Biosciences)で全ての定量的PCRを実施した。マウス遺伝子発現は、ΔCt法を用いてマウスGadphと比較して判定した。ヒト遺伝子発現は、ΔCt法を用いてヒトGADPH遺伝子と比較して判定した。
【0185】
免疫染色およびフローサイトメトリー
12穴フィーダープレートで生育するiPSCをPBSで洗浄し、4% PFA/PBSに室温で10分間固定し、PBS中の0.3% Triton X-100で10分間透過性化し、5%ロバ血清で1時間ブロックし、一次抗体を4℃で一晩加えた。Nanog(1:150、Abeam); SSEA-3、SSEA-4、TRA-1-60、TRA-1-81(1:10、Peter W. Andrews博士からの快い寄贈)。細胞をPBSで洗浄し、二次抗体(Alexa488 IgGまたはIgM、1:1000;Alexa594 IgG、1:1000)を加え、室温で1時間インキュベートした。
【0186】
96穴フィーダープレートに生育するマウスiPSCをトリプシン処理し、M15に再懸濁した。iPSCを1,000rpmで3分間遠心分離し、ティッシュの上でプレートを逆さまにすることによって培地を除去した。iPSCをPBSに再懸濁し、Cytomics Fc-500(Beckman Coulter)によって分析した。
【0187】
6穴プレートに生育するヒトiPSCをトリプシン処理し、M15に再懸濁した。iPSCをPBSで一度洗浄し、遠心分離し、SSEA-4-FITC、TRA-1-60-PEまたはTRA-1-81-FITC抗体(BD Bioscience)と一緒に1時間インキュベートした。iPSCを次に洗浄し、PBSに再懸濁し、Cytomics Fc-500(Beckman Coulter)によって分析した。
【0188】
テラトーマ形成
マウスiPSCをM10に懸濁し、F1(129S5/C57B6)ハイブリッドマウスの両方の背側のわき腹に1×106個の細胞を皮下注射した。テラトーマを切開し、10%緩衝ホルマリンリン酸で一晩固定し、パラフィンに包埋した後に切片を作製した。ヒトiPSC(1×106)をNSGマウス(NOD.Cg-Prkdcscid ll2rgtm1Wjl/SzJ。The Jackson Laboratory)の両方の背側のわき腹に皮下注射した。固定および切片作製のために、注射の8週後にテラトーマを収穫した。切片をヘマトキシリンおよびエオシンで染色した。全ての動物実験は、英国の1986 Animals Scientific Procedure Actおよび地区機関の倫理委員会規則に従って実施された。
【0189】
Splinkerette PCR
PBゲノム組込み部位を判定するために、前述の通りsplinkerette PCRを実施した。TAでクローニングされたPCR生成物を、M13フォワードおよびリバースプライマーにより両端で配列決定をした。PB挿入部位は、BLASTを用いて決定した。外来性因子を除去されたiPS系のためのゲノムDNA PCRを、補足表4に記載されるプライマーを用いて実施した。
【0190】
統計分析
データは、平均および標準偏差で示される。全ての統計解析は、Excel 2008(Microsoft)またはPrism(Graphpad)で実行された。
【0191】
実施例2
ここでは、2つの新しい重要な転写因子、RargおよびLrh1を4つのYamanaka因子と一緒に発現させることが、わずか3日で内因性Oct4遺伝子座を速やかに活性化し、マウス胚性線維芽細胞(MEF)の非常に速くかつ効率的な再プログラミングを可能にしたことを我々は報告する。生成されたiPSクローンは、形態および分子解析に基づくと高品質であって、生殖細胞系を含む様々な細胞型にin vivoで分化することができた。ヒト新生児包皮皮膚の線維芽細胞(HDFn)の再プログラミングのために同じ手法を適用したとき、我々はLIF依存性であったがFGF非依存性であったヒトiPS細胞を容易に得た。さらに、ヒトiPS細胞は良好に増殖し、いかなる識別可能な染色体異常なしで、通常のマウスES細胞培養条件において単一細胞密度でサブクローニングし、長期にわたって増殖させることもできた。したがって、我々の新しいiPS細胞プラットホームは、2つの哺乳動物種で完全な多能性を達成するための、新規かつ高度に効率的な手法を提供する。生成されるヒトiPS細胞は、ヒトゲノム機能の探究のためのすばらしい資源である。
【0192】
Rargドミナントネガティブ対立遺伝子は、ES細胞の分化を妨害する
遺伝子突然変異の結果ES細胞の分化を妨害することができる遺伝子を同定しようとして、強力なCAGプロモーター/エンハンサーおよび一対のスプライシング受容体を運ぶpiggyBac DNAトランスポゾン(PB)を用いて、我々はマウスES細胞で遺伝子のスクリーニングを実施した(図12a)。マウスゲノムへのこのトランスポゾンの挿入は、挿入対立遺伝子の構造によって、挿入部位の近くの遺伝子を上方制御することができるか、またはそれらを破壊することができる。培養で分化されたES細胞を効率的に除去するために、我々はRex1遺伝子座をPuro-IRES-Egfpカセットの標的にした(図12b)。したがって、未分化ES細胞はピューロマイシン(Puro)選択に耐性で、フローサイトメトリーではGFP+になろうが、分化した細胞は、分化によるRex1発現の急速な喪失のためにPuro選択によって死滅し、GFP-になろう。
【0193】
突然変異ES細胞のライブラリーを1.0μMオールトランスレチノイン酸(RA)で4日間分化させ、その後ピューロマイシンで選択した(図12c)。いくつかのPuror ES細胞クローンが、独立した突然変異ES細胞プールから同定された。splinkrette PCR分析は、Rarg、PpargおよびGclcをコードする遺伝子で、PB組込み部位を特定した。Ppargについては、PB挿入は、タンパク質コード配列全体の過剰発現を引き起こした。対照的に、Rarg遺伝子座は4つの独立したPB挿入を有し、全てイントロン9(最後のイントロン)で見出された(図12d)。これらのPB挿入は、エクソン10によってコードされるアミノ酸を欠落させるRargのトランケーションを引き起こした。このトランケーションされたRargを過剰発現させることは、RAによって誘導されるES細胞の分化を妨害するその能力を確認した(図12e)。このトランケーションされたRargは、おそらく野生型Rargのドミナントネガティブの形(Rarg-DN)として機能した。RargおよびRara両方の完全長の形(Rarg-FLおよびRara-FL)の過剰発現はRAによって誘導された分化を強化したが、Raraの報告されたドミナントネガティブ形(Rara-DN)(20)は、高濃度のRAでさえES細胞の分化を妨害することができた。RargおよびRara特異的アンタゴニスト、CD2665およびRo-41-5253も、ES細胞の分化を妨害することができた(図12f)。したがって、これらのデータは、ES細胞の分化におけるRargおよびRaraの重要な役割を実証した。
【0194】
Rargを通してのシグナル伝達は、再プログラミング効率を増加させる
我々のスクリーニングで同定された遺伝子がiPS細胞の生成で役割を果たすことができるかどうかについて次に試験した。iPS細胞の品質を直接的に評価するために、我々はMEF細胞の調製のために、ES細胞のOct4遺伝子座の3'UTRをIRES-Puro-Egfpカセットの標的にした(図6a)(57)。これらの細胞はフローサイトメトリーでは緑色であり、2μg/mL Puroで良好に増殖する(図6b、データは示さず)。
【0195】
我々は4つのYamanaka因子をPBトランスポゾンに別々にクローニングし、そこでは各cDNAの発現はMSCVのLTRによって制御された(PB-MSCV-cDNA、図6c)。これらの4つのトランスポゾンおよびPBトランスポザーゼ(PBase)プラスミドは、Oct4-IRES-Puro-Egfp MEFにその後トランスフェクトさせた。通常のES細胞のそれらに似ているiPS細胞コロニーは、3週で現れた。ほとんどのiPSコロニーは、1.0または1.5μg/ml Puroを生き延びたが、ごく少数しか2.0μg/ml Puroで生育することができなかった。さらに、ほとんどのiPSコロニーはGFP陰性であり、そのことはこれらの細胞の内因性Oct4遺伝子座がES細胞でのレベルまで発現されなかったことを示した。それでも、2.0μg/mL Puroで生育したこれらのわずかな数のiPSコロニーの細胞は大部分GFP陽性であり、親のOct4-IRES-Puro-EgfpノックインES細胞のそれと同等の蛍光強度であった(図13A)。2.0μg/mL Puroで生育するこれらのiPSクローンは、多能性遺伝子発現およびこれらの遺伝子のプロモーターでのDNAメチル化に関して1.0または1.5μg/mL Puroによって選択されたクローンよりも通常のES細胞に類似していることをRT-PCRおよびDMR配列決定は確認した(データ示さず)。4つのYamanaka因子によって誘導されるほとんどのiPS細胞が部分的に再プログラミングされるだけであり、内因性Oct4遺伝子座は完全には活性化されないことをこれらの結果は実証し、多くの以前の試験と一貫していた。したがって、我々は、以降の実験でiPS細胞の品質を定量的に評価するために、2.0μg/mL以上の濃度のPuroをフローサイトメトリーと組み合わせて用いた。
【0196】
Yamanaka因子によって媒介される再プログラミングに対するそれらの効果を調査するために、我々はPB-MSCVトランスポゾンに、Rarg、Rara、PpargおよびGclcの完全長形ならびにRargおよびRaraのドミナントネガティブを次にクローニングした。PpargおよびGclcを過剰発現させることは、MEFのYamanaka因子媒介性再プログラミングに影響を及ぼさないようであった(データ示さず)。4つのYamanaka因子と一緒のRarg-DNの送達は、対照よりわずかに多くのiPSコロニーを生成した(図13B)。しかし、驚くことに、Rarg完全長cDNAの発現は、約100倍もiPSコロニー数を増加させた(図13Bおよび13C)。Rarg-FLより低い程度であるが、Rara-FLを発現させることも再プログラミング効率を有意に増加させた。対照的に、Rara-DNは、Yamanaka因子によって誘導される再プログラミングを完全に妨害する(図13B)。これらのデータは、再プログラミング過程でのレチノイン酸シグナル伝達の関わりを明らかに示唆した。
【0197】
ほとんどのコロニーがGFP陰性で、ほんのわずかなコロニーが2.0μg/mL Puro選択を生き延びたので、4つのYamanaka因子単独によって誘導される低品質のiPS細胞に類似して、Rarg-FLまたはRara-FLの過剰発現を加えることはiPS細胞の品質を明らかに向上させなかった。他方、Rarg-DNを過剰発現させることによるiPSクローンは、全再プログラミング過程でいかなる選択がなくとも、2.0μg/mL Puroで選択されたiPSクローンと同等のGFP陽性細胞の類似した百分率を有した(図13D)。
【0198】
Rarg-DNを発現させることがiPS細胞の品質を向上させ、Rara-DNの過剰発現がiPS過程を完全に妨害した事実は、RAシグナル伝達のレベルが重要なことを示唆する。したがって、Rargの発現レベルが再プログラミング効率に影響を及ぼすかどうかについて我々は試験した。再プログラミング効率の有意な低下は、PB-MSCV-Rarg-FL DNA量の増加と相関していた(図13E)。さらに、より強力なCAGプロモーターを用いてRarg-FLを発現させることは、Yamanaka因子だけを発現させた対照のレベルまで再プログラミング効率を低下させた(データ示さず)。再プログラミングに及ぼすRarg過剰発現の影響は投薬量感応性であることを、これらの結果は確認した。
【0199】
iPS細胞でのRargの役割をさらに調査するために、MEFの再プログラミングで、我々は4つのYamanaka因子と一緒に合成Rarg特異的アゴニスト、CD437を試験した。100nMのCD437を最高8日の間加えることは、iPS細胞コロニー数を大きく増加させた。さらに、FACSで測定されるiPS細胞の品質は有意に向上した(図13E)。しかし、8日を越えて(1〜12日目)CD437を用いる細胞の処理は、iPSコロニー数を実質的に減少させた。Rara特異的アゴニストAm580は、8日の間投与される場合は再プログラミング効率を向上させることもできるが、iPSクローンの品質にほとんど影響を及ぼさない(図13E)。Rargシグナル伝達は初期または早期の段階で再プログラミングを促進するが、過度のRargシグナル伝達は後期の段階でiPS細胞に対してネガティブな影響を及ぼすことをこれらの結果は示す。Rarg-FLまたはRara-FLを発現させるかそれらのアゴニストを用いることは再プログラミング効率を向上させたが、iPSコロニーが形成されるのになお約3週間かかったので、それらは再プログラミング時間を短縮しないようであった。
【0200】
RargおよびLrh1は再プログラミングを相乗的に促進する
Rargシグナル伝達の下方制御がRarg-DNのiPSクローンのより良い品質の主な理由であるかどうかについて探究するために、我々は、2つの独立した部分的に再プログラミングされたクローンを、5-AzaのありなしでRarg特異的アンタゴニスト、CD2665で処理した。部分的に再プログラミングされたクローンの品質を10μM CD2665が有意に向上させたが、5-Azaと一緒に用いられた場合にその効果はより明らかであったことに我々は気がついた(図14A)。それでも、クローンは処理後4日間なお大部分GFP陰性であった。これにより、我々は、Rargシグナル伝達の下方制御はRarg-DN iPS細胞が非常により良い品質であった理由の一部にすぎないかもしれないと提唱するようになった。
【0201】
マウス胎児性癌細胞(EC)では、Rargはオーファン受容体Sf1(Nr5a1)と複合体を形成し、それはOct4プロモーターの重要なRA応答エレメント、RAREoctに特異的に結合してOct4発現を相乗的に上方制御する(59)。Rargを発現させることがiPS細胞の生成を大いに促進したので、我々はSf1も類似した役割を演ずるかどうか調べることに決めた。Sf1は通常マウスES細胞または早期のマウス胚で発現されないので、我々は、ES細胞および早期胚の両方で発現されるそのサブファミリーメンバーLrh1(Nr5a2)も実験に含めた(62)。
【0202】
したがって、我々はSf1およびLrh1 cDNAをそれぞれPB-MSCVトランスポゾンにクローニングし、Yamanaka因子と一緒にMEFに同時トランスフェクトした。図14Bに示すように、Lrh1を発現させることは再プログラミング効率を有意に向上させたが、Rargがそうしたようにより低い程度であった。Sf1を発現させることはiPSコロニー数も増加させたが、多くのコロニーが分化したようであった(データ示さず)。Lrh1およびRargを同時発現させることは、iPSコロニー数をさらに増加させなかった。意外にも、多くのiPSコロニーは、通常の3週の代わりにトランスフェクションから10日目という早い時期に出現し、形態は野生型マウスES細胞からほとんど区別できなかった(データ示さず)。
【0203】
PBトランスポゾンによって運ばれる外来性因子の将来の切除を促進するために、4つのYamanaka因子がT2Aペプチド配列に連結されて単一のCAGプロモーターから発現される、PB-CAG-Oct4-2A-cMyc-2A-Klf4-2A-Sox2(PB-CAG-OCKS)トランスポゾンを我々は作製した。PB-CAG-OCKSによって誘導された一部のiPSコロニーは、トランスフェクションから4〜5日以内に顕微鏡下で見ることができた。しかし、これらのコロニー中の細胞は、後に形態が不均一になり(図7B)、10日目に採取された大部分のコロニー(90%)は2μg/mLに感受性であり、低い百分率のGFP陽性細胞を含んでいたので、見かけ上なお完全には再プログラミングされていなかった(図2D)。Yamanaka因子だけが用いられる場合、iPS細胞が完全に再プログラミングされるのにいくつかの継代を要するとの以前の発表と、これは一貫している。
【0204】
RargおよびLrhlを単一のプロモーターから同時発現させるために、我々は次にPB-CAG-Rarg-2A-Lrh1(PB-CAG-RL)トランスポゾンを作製した。PB-CAG-OCKSおよびPB-CAG-RLをMEFに同時トランスフェクトさせた4日後に、小さいES様コロニーをトランスフェクションから4〜5日以内に顕微鏡下で見ることができるようになった。これらのコロニーは形態が均一のようであり、増殖は通常のマウスES細胞に非常に類似していた(図7B)。さらに、PB-CAG-OCKSだけがトランスフェクトされた対照と比較して、およそ7倍より多くのiPS細胞コロニーがあった。興味深いことに、4〜6日目の間に互いに並んで形成された同じサイズの小さいコロニーを2つ、4つまたは8つでさえ我々はしばしば見たが、それらは8日目に1、2個の大きいコロニーに合併し、このことは、1つの親MEF細胞からの娘細胞の、可能性がある同時再プログラミングを反映している。驚くことに、ほとんど全てのこれらのコロニーは2μg/mL Puro選択に耐性であり、高い百分率のGFP陽性細胞からなっていたが(図2D)、このことは内因性Oct4遺伝子座からの頑強なOct4発現を示す。
【0205】
内因性Oct4遺伝子座をどれくらい速く活性化することができるかについて見出すために、我々はトランスフェクション後のいくつかの時点でPuro選択にMEFを曝露させた。Puro耐性のiPS細胞コロニーは、PB-CAG-OCKSおよびPB-CAG-RLの両方によるトランスフェクションの3日後という早い時期に選択することができ(図14C)、したがってこの条件下でのOct4遺伝子座の迅速な活性化が確認される。PB-CAG-OCKSだけでトランスフェクトされた対照MEFでは、Puro選択が8日目以後に開始された場合にPuro耐性コロニーが現れるだけであった。これらのPuro耐性コロニーについてさえも、一次コロニーで、およびサブクローニングの間に大部分の細胞の死滅を我々は通常観察し、これらの部分的に再プログラミングされたクローンの間での不均一性が示唆された。
【0206】
外来性因子の連続的発現が完全に再プログラミングされたiPSクローンの確立のために必要とされるかどうかについて判定するために、我々は、再プログラミング因子の発現がドキシサイクリン(DOX)によって誘導された、PB-TRE-Oct4-2A-cMyc-2A-Klf4-2A-Sox2(PB-TRE-OCKS)およびPB-TRE-Rarg-2A-Lrh1(PB-TRE-RL)構築物を作製した。2つのPBトランスポゾン構築物を、PB-CAG-rtTAベクターおよびPBaseプラスミドと一緒にMEFに同時トランスフェクトさせた。トランスフェクション直後にDOX誘導を6、8または10日間適用し、我々は10日目に2μg/ml Puro選択を加えた。DOXで誘導されたMEFで、Puro耐性コロニーがわずか6日間で得られ(図14D)、これらの6つの因子の6日間の発現が内因性Oct4遺伝子座を高レベルまで活性化するのに十分であったことが示唆された。対照的に、PB-TRE-OCKSおよびPB-CAG-rtTAだけでトランスフェクトされたMEFでは、非Puro耐性のコロニーが同じDOX誘導スキームの下で回収された。したがって、最高10日間の4つのYamanaka因子だけの発現は、内因性Oct4遺伝子座を完全に活性化するのに十分でなかった。内因性Oct4遺伝子座の迅速な活性化をさらに実証するために、我々は6因子Tet/On実験を繰り返したが、トランスフェクション後の4日間だけDOXでMEFを処理した。DOX中止の直後に、内因性Oct4活性化を有する細胞を選択するためにPuro選択を加えた。いくつかのPuro耐性コロニーが現れ、それらは、増殖させると優れたES細胞形態を示した。6つの転写因子を発現させることは内因性Oct4遺伝子座の迅速な活性化および高品質のiPS細胞の生成をもたらすことを、これらの結果は明らかに実証した。
【0207】
RargおよびLrh1がiPS細胞のためにどの程度必要とされるかについて見出すために、我々はPB-CAG-OCKSを、MSCVまたはCAGプロモーターによって作動されるRarg-FL、Rarg-DN、Lrh1またはRarg-2A-Lrh1を運ぶPBトランスポゾンと一緒にMEFにトランスフェクトさせた。PB-MSCV-RLはiPS品質を有意に向上させなかったので、iPS品質は用いられるプロモーターと直接的に相関していることが明らかになった(図14E)。どのプロモーターが用いられたとしても、RargまたはLrh1だけではiPS品質にいかなる影響も及ぼさなかった。しかし、MSCVプロモーターによって作動されるときに、Rarg-DNはiPS品質を有意に向上させることができる。
【0208】
単一のプロモーターから6つの転写因子全てを発現させるために、我々はPB-CAG-Oct4-2A-cMyc-2A-Rarg-2A-Lrh1-Klf4-2A-Sox2(PB-TRE-OCRLKS)を次に作製した。この構築物は、類似した時間ウインドウ内でMEFから類似した数の高品質iPS細胞を生成した。したがって、我々はPB-CAG-OCRLKSにMC1-tkカセットをクローニングして、PB-CAG-OCRLKS-MC1-tkトランスポゾンを形成した。PB-CAG-OCRLKSを用いるのと類似して、MEFへのトランスフェクションの4〜5日後に多くのiPS細胞コロニーを見ることができ、それらは通常8日目に採取された。増殖させたiPS細胞はガンシクロビル(Ganc)に感受性であって、MC1-tkカセットが機能的であることを示している。PBトランスポゾンは、PBaseによって組込み部位から正確に切り取られ、フットプリントを残さない。したがって、我々はpL623でiPS細胞をトランスフェクトすることによってPBaseを一時的に発現させ、細胞をGanc選択にかけた。一般に、単一のトランスフェクションから数百のGanc耐性コロニーが通常得られた。これらのGanc耐性細胞の特徴付けは、これらの細胞がPBトランスポゾンを除かれ、したがって外来性の転写性因子がないことを確認した。
【0209】
6つの因子によって誘導されるiPS細胞は、多能性である
当初6つの因子を発現させることによって生成されたが、外来性因子の発現のなかったiPS細胞をさらに特徴付けるために、我々はこれらの細胞で多能性遺伝子の発現を検出するためにRT-PCRを実施した。iPS細胞は、親のOct4-IRES-Puro-Egfp ES細胞のそれらと同等のレベルの、マウスES細胞の多能性マーカーの頑強な発現を有した(図15A)。我々は、重要な多能性遺伝子、Oct4、NanogおよびRex1のプロモーターで、DNAメチル化パターンも検討した。図3Cに示すように、これらの細胞でプロモーターは完全に脱メチル化された。
【0210】
6つの因子によって誘導されたiPS細胞は、それらのin vivoでの分化能を検討するために、129/C57B6ハイブリッドF1マウスの皮下に注射された。全てのマウスは2週間でテラトーマを発症し、腫瘍試料のために1カ月後にマウスを屠殺した。顕微鏡下で、全3つの胚葉を表す細胞型がテラトーマで見出された(図15B)。
【0211】
さらに、高品質のキメラが、胚盤胞注射から容易に得られた。キメラマウスをアルビノC57B6野生型マウスに戻し交配させたとき、アグーチコート色を帯びた生殖細胞系伝達子が特定され、注射されたiPS細胞の効率的な生殖細胞系の寄与が実証された(図3E)。
【0212】
6つの因子を用いる高品質ヒトiPS細胞の生成
内因性Oct4発現の効率的な誘導によるマウス線維芽細胞の迅速な再プログラミングは、RARGおよびLRH1がヒトでも再プログラミングの効率および品質を向上させることができるかどうかについて探究することを、我々に促した。ヒト、マウスおよびラットのゲノム配列を比較することによって、RAR-SF1結合部位、RAREoctが3つの種全てで高度に保存されていることを我々は確認し(図5A)、RARG-LRH1がヒト細胞でOct4活性化を調節する可能性が示唆された。我々は、6つのヒト因子cDNAを運ぶPB-CAGトランスポゾンを構築した。これらのPBトランスポゾンは、マウスcDNAを用いるのと同等に、MEFから高品質マウスiPS細胞を速やかに生成することができた(データ示さず)。
【0213】
我々は次に、ヒト新生児包皮皮膚の線維芽細胞(HDFn)に、6つのヒトcDNAを含むPB-CAGトランスポゾンをPBaseプラスミドと同時トランスフェクトさせた。次に、bFGFを追加した通常のヒトES培地、またはヒト白血病阻害因子(hLIF)を追加した通常のマウスES細胞培地(M15)で、これらのヒト線維芽細胞を培養した。我々は、bFGFを追加したヒトES培地で、ヒトES細胞様コロニーを特定した。意外にも、マウスES様コロニーは、M15プラスhLIF培地で出現した(図16A)。したがって、我々は、標準のマウスES細胞プロトコルを用いてこれらのコロニーを処理した。トリプシン処理によってヒトiPSコロニーを単一細胞懸濁液に解離し、STOフィーダー細胞の上に再び平板培養した。二次コロニーを形成することができ、10日目に採取された一次コロニーの半分から安定した系がM15+hLIFで容易に確立された。4つのYamanaka因子だけが用いられた対照群では、一次位コロニーは6つの因子で生成されたものと形態的に異なり(図16A)、10日目に採取されたコロニーから安定した系を確立することが決してできなかった。
【0214】
ERKキナーゼおよびGSK3シグナル伝達カスケード(2i)の阻害剤は、in vitroでナイーヴな多能性幹細胞の増殖を支える(40)が、EpiSCのような初回刺激された多能性幹細胞を支えない(57)。困難なマウス系統(40)から、およびラット胚盤胞(14、58)からES細胞を誘導するために、2i培地が都合よく用いられた。したがって、我々のヒトiPS細胞が2i+hLIF培地で生存し、増殖することができるかどうかについて、我々は試験した。図16Aに示すように、ヒトiPS細胞は2i+hLIF培地で良好に増殖し、STOフィーダー上で単一の細胞からES様コロニーを形成することができた。
【0215】
ヒトiPS細胞のサブクローニング効率を判定するために、1つのクローンからの細胞をトリプシンを使用して解離し数えた。100または1,000個の細胞を、M15+hLIF、20%KSR(ノックアウト血清代替物)+hLIFまたは2i+hLIF培養条件に平板培養した。これらの条件で最高60%が再びコロニーを形成することができた(クローニング効率)。これらの3つの異なる培養条件間でコロニー数に明らかな差は見出されなかったが、2i+hLIFで形成されたコロニーは一般により小さかった(図16A)。我々は二次コロニーを採取し、M15+hLIFまたは2i+hLIFでそれらを増殖させた。増殖させたクローンは正常に成長し、両培養条件で未分化のままであった。単一細胞密度に解離および希釈されると、それらは三次コロニーを形成することができ、in vitroでの長期操作に対するそれらの頑強さを示した。我々のヒトiPS細胞が通常のマウスES細胞培地で頑強に成長する事実は、ヒトiPS細胞がマウスES細胞におけるのと同じ核分子調節機構によって調節されることを示した。長期培養の後でさえ、iPS細胞のゲノムは、FISH分析により測定されるように元のままであった(図10E)。
【0216】
重要なES細胞特異的な遺伝子の発現を検討することによって、我々はヒトiPS細胞をさらに調べた。図16Bおよび16Cに示すように、これらの遺伝子は高レベルで発現され、DNAメチル化分析は、重要なヒト多能性遺伝子のプロモーターはメチル化されていないことを確認した。ヒトiPS細胞はマウスES細胞と同様にふるまい、したがって、ヒトゲノムを遺伝子操作するために非常に有望である。この可能性を探るために、我々は、外来性のDNAをこれらの細胞に導入するために、先ずPB転位を試験した。我々は、PBaseプラスミドと一緒にPB-SB-PGK-NeoトランスポゾンをヒトiPS細胞に同時トランスフェクトさせた(31)。1つのエレクトロポレーションから、我々は約520,000個のG418耐性コロニーを得ることができ、それは生存細胞の5%からなる。この転位効率は、マウスES細胞で観察される効率と同等である(31)。
【0217】
我々は、ヒトiPS細胞にPB-SB-SA-βgeoトラッピングトランスポゾンおよびPBaseプラスミドをその後トランスフェクトさせた。SA-βgeoカセットは、ヒトiPS細胞で遺伝子トラッピングを可能にし、したがってゲノムの挿入部位で遺伝子発現を破壊する能力を有する。1つのエレクトロポレーションから、我々は9,000個のG418耐性コロニーを回収し、それはエレクトロポレーション後に生存している細胞の0.09%に相当する。我々のヒトiPS細胞系は包皮線維芽細胞に由来し、したがって全て雄であった。したがって、HPRT活性の喪失は6TG耐性によって評価することができるので、我々はHPRT遺伝子座でPB-SB-SA-βgeo転位の突然変異効率を調査した。9,000個のG418耐性コロニーから、1つの6-TGコロニーが回収された。
【0218】
考察
内因性Oct4の効率的な活性化は、体細胞再プログラミング(3)のための、および核移植の成功(38)のための最も重要な公知の基準の1つである。胚発生の間、転写リプレッサーの結合、ヒストンのメチル化および脱アセチル、ならびに新規DNAメチル化を含むいくつかの層の抑制によって、Oct4遺伝子座は徐々に発現が低下した(47)。したがって、多能性状態に体細胞を再プログラミングすることは、Oct4発現のこれらの抑制層の各々をはがすことを必要とする。Yamanaka因子の2つ、Klf4およびcMycは、他の機能の中でもクロマチンリモデリングに関与することが知られている(59)。小分子阻害剤によるヒストン脱アセチル、ヒストンメチル化またはDNAメチル化を標的とする試みも、再プログラミング効率をある程度向上させた(51、35、13)。しかし、Oct4プロモーターからのCOUP-TFおよびGCNFなどの転写リプレッサー複合体の脱離、ならびにOct4プロモーターへの転写活性化物質の結合の両方を同時にどのように促進するべきかは探究されていない。その結果、現在のプラットホームを用いるiPS細胞でのOct4発現は、必ずしも適切に回復されないかもしれない(60)。
【0219】
レチノイン酸シグナル伝達は、Oct4プロモーターのRA応答性エレメント(RARE)、RAREoctを通してOct4発現を正に調節することを、生化学的証拠は示している(26)。RAREoctに特異的に結合するRAR:RXRヘテロダイマーは、低濃度のRAの存在下でのOct4転写の活性化を部分的に担う(28)。分化の間、RAREoctへの非常に高い親和性を有する、高濃度のRAによって誘導されるオーファン受容体ARP-1/COUP-TFIIおよびEAR-3/COUP-TFIは、RAREoctからRAR:RXRを追い出し、コリプレッサーを動員することによってOct4プロモーターを活発に低減させる(28)。RAR:RXRヘテロダイマーの過剰発現は、COUP-TFによるOct4の抑制を打ち負かすことができる(28)。
【0220】
RAREoctは、RAR認識部位と重複しているSF1結合部位を含み、それはRARがOct4を活性化するための第二の機構を提供する。SF1およびRARは、RAREoctに特異的に結合し、Oct4を相乗的に活性化する複合体を形成することができる(29)。興味深いことに、RAR-SF1複合体の形成もOct4のその活性化もRAを必要としない(29)。さらに、いくつかの他の遺伝子で同じcis作用性エレメントをめぐってSF1がCOUP-TFIと競合することが示されている(61、62)。したがって、RARおよびSF1/LRH1複合体は、おそらくRAREoctへの結合でCOUP-TFと拮抗することを通してOct4発現の正の調節因子として機能する。
【0221】
これらの公表された生化学データおよび我々の観察を一緒に考慮して、我々は体細胞再プログラミングでのRargおよびLrh1の作業モデルを提案する。Rargが単独で発現される場合、Lrh1およびSf1は通常MEFで発現されないので、RAREoctに結合するためにそれは主にRXRを動員し、内因性Oct4の転写を活性化する。しかし、RAREoctへのRAR:RXRヘテロダイマーの比較的低い結合親和性は、COUP-TFおよびGCNFなどのリプレッサーと競争することを困難にする。したがって、Oct4は完全には活性化されないか、または活性化は安定しない。このことは、Rargの過剰発現は再プログラミング効率を増加させるが、iPS細胞の品質を向上させないことを説明する。RargおよびLrh1を同時発現させることは、Rarg-Lrh1複合体が、RAREoctに結合するリプレッサーを追い出し、Oct4転写を効率的に活性化することを可能にする。その後、さらなるクロマチンリモデリングを促進するために、CBP/p300、P/CAFおよびSRC1/TIF2などの、RARと相互作用することが知られているいくつかの活性化補助因子(36)がOct4遺伝子座に動員される。したがって、Rarg- Lrh1複合体によるOct4プロモーターの重要なエレメントの安定した占有は、内因性Oct4の転写レベルを上方制御するだけでなく、Oct4プロモーターのクロマチン構造のリモデリングも促進する。したがって、体細胞再プログラミングで最も重要な障害物である内因性Oct4の活性化(47)は、再プログラミングの早期の段階で克服され、それは、再プログラミング過程の速度を劇的に上げ、iPS細胞の品質を向上させる。
【0222】
マウスES細胞系は着床前胚盤胞の内部細胞塊(ICM)から確立され、成体マウス組織の全ての系統に寄与することができる。他方、マウスEpiSCは着床後胚から分離され、胚盤胞のICMに定着することができないが、免疫欠損マウスに注射される場合にはそれらはテラトーマを生成することができる。おそらく、マウス胚形成の異なる段階に存在し、および異なる微小環境に存在し、したがって、ES細胞からの異なる外部シグナルに応答する、異なる多能性細胞型にEpiSCは相当する(63)。マウスEpiSCはヒトES細胞培地を用いて得られたので、既存のヒトESおよびiPS細胞系は幹細胞階層のさらに下の別の初回刺激された多能性状態を表すのかもしれない(63)。意外なことに、ここで報告されるヒトiPS細胞系はマウスES培養条件で頑強に生育し、マウスES細胞と同様にふるまい、そのことはマウスおよびヒトでのナイーヴな多能性幹細胞に共通する調節を示す。
【0223】
要約すると、Oct4遺伝子座の活性化におけるRargおよびLrh1の相乗的相互作用は、マウスおよびヒトの体細胞の迅速で効率的な再プログラミングをもたらすことを我々はここで報告する。生成されるマウスおよびヒトのiPS細胞は優れた品質であり、ヒトiPS細胞は通常のマウスES細胞に非常に類似しているが、既存のヒトES細胞およびiPS細胞とは異なる。生育、これらの細胞を増殖および遺伝子操作することにおけるこれらのヒトiPS細胞の頑強さは、ゲノム機能を探究すること、および患者に特異的な、突然変異のない、外来性因子のないヒトiPS細胞を生成することのためにそれらを魅力的にする。
【0224】
材料および方法
プラスミドベクター構築。
PB-TRE、PB-MSCVおよびPB-CAGベクターを作製するために、Tet応答エレメント(TRE)をpTight(Clontech)から増幅し、MSCV LTRをpMSCV-Neo(Clontech)から増幅し、CAGGプロモーターをpBluescript-CAGベクター(未発表データ)から増幅して、PB-bpAベクターにクローニングした(未発表データ)。
【0225】
4つのマウスおよびヒトYamanaka因子を、元のレトロウイルスベクター(Addgene)から増幅し、それぞれPB-TRE、PB-MSCVおよびPB-CAGトランスポゾンベクターにクローニングした。マウスおよびヒトのRarg、Lrh1およびSf1をIMAGEクローン(Geneservice)から増幅し、トランスポゾンベクターにクローニングした。
【0226】
MEF調製
12.5 d.p.c. Oct4-IRES-Puro-Egfp胚を切り落とし、内臓を抜き取り、0.25%トリプシンで解離し、M10(ノックアウトDMEM、10%ウシ胎児血清(FBS)、ペニシリン-ストレプトマイシンおよびglutamaxおよび非必須アミノ酸(NEAA))に平板培養した。HEFnをInvitrogenから購入し、低濃度の血清増殖補助剤(Invitrogen)を追加した培地106で維持した。
【0227】
トランスフェクションおよび細胞培養
エレクトロポレーションの後、STOフィーダープレート上のマウスLIFを加えたM15(ノックアウトDMEM、15% FBS、ペニシリン-ストレプトマイシン、glutamax、β-メルカプトエタノール(βME)、NEAA)にMEFを播種した。ドキシサイクリン(1μg/mL)を含むM15をトランスフェクションの24時間後に加え、毎日交換した。10日目にiPSコロニーを96穴フォーマットに採取し、標準のマウスES細胞培養条件によって維持した。
【0228】
ヒトLIFを加えたM15に線維芽細胞を播種したこと以外は、HDFnのトランスフェクションは同様に実施された。ドキシサイクリン(2μg/mL)を含むM15をトランスフェクションの24時間後に加え、毎日交換した。10日目にコロニーを24穴フォーマットに採取した。二次コロニーを生成したクローンを、標準のマウスES細胞培養条件によって増殖させ、維持した。
【0229】
Splinkerette PCR
PBゲノム組込み部位を判定するsplinkerette PCRを、記載のように実施した。TAでクローニングされたPCR生成物を、M13フォワードおよびリバースプライマーにより両方向で配列決定をした。PB挿入遺伝子座は、BLASTを用いて決定した。因子を除去したPBiPS系でのゲノムPCRは、記載されるプライマーを用いて実施した。
【0230】
RT-PCR
RNeasyミニキット(Qiagen)を用いてRNAを単離し、定量化し、gDNA WipeOutで処理し、QuantiTect逆転写キット(Qiagen)でcDNAを調製した。各RT-PCR反応のために、我々は50〜100ngのcDNAおよび記載のプライマーを用いた。標準PCR条件は、94℃で30秒間、58〜62℃で30秒間、72℃で15〜30秒間を30〜35サイクルであった。
【0231】
免疫染色およびフローサイトメトリー
12穴フィーダープレートの上で細胞を増殖させた。細胞をPBSで洗浄し、4% PFA/PBSに25℃で10分間固定し、PBS中の0.3% Triton X-100により25℃で10分間透過性化し、5%ロバ血清で1時間ブロックし、一次抗体を4℃で一晩加えた。試料をPBSで洗浄し、二次抗体(cy3 IgG、1:1,000;Alexa488 IgGまたはIgM、1:400;Alexa594 IgG、1:200)を25℃で1時間加えた。
【0232】
in vitro分化アッセイ
ヒトPB-iPS系を解離し、AggreWell 400プレート(StemCell Technologies)のhLIFなしのM15での集合によって胚様体を生成するために用いた。14日間の増殖の後、マトリゲルで被覆したカバーグラスまたは4チャンバースライドの上に胚様体を平板培養した。さらなる10日間の培養の後に免疫組織化学を実施した。
【0233】
テラトーマ形成
10% FBSを含むDMEMに細胞系を懸濁し、イソフルランで麻酔したヌードマウス(CByJ.Cg-Foxn1nu/J)の両方の背側のわき腹に100ml(1×106個の細胞)を皮下注射した。注射の6週後に、テラトーマを切開し、10%緩衝ホルマリンリン酸で一晩固定し、パラフィンに包埋した。切片は、ヘマトキシリンおよびエオシンで染色した。
【0234】
図の凡例
図1。再プログラミングでのRAシグナル伝達。A. piggyBac(PB)転位による再プログラミング手法の図解。Oct4リポーターMEFをPB-MSCV-cDNAトランスポゾンおよびトランスポザーゼプラスミドでトランスフェクトし、STOフィーダーの上に直接的に平板培養した。ES様コロニーは、通常3週で現れた。M10およびM15は、それぞれMEFおよびES細胞のための培地である。B〜C. 4つのYamanaka因子と一緒にRaraまたはRargを発現させると、再プログラミングを大幅に促進したが、Rara-DNを発現させることによってRAシグナル伝達を阻害すると、再プログラミングを妨害した。iPSCコロニーは、アルカリホスファターゼ染色によって可視化された。再プログラミング対照は、PB-PGK-NeoにYamanaka因子を加えた。**: P<0.005; ***: P<0.0005。FL:完全長cDNA; DN:ドミナントネガティブ形。D.再プログラミングでのRAシグナル伝達の時間的要件。Rargのアゴニスト(CD437)を再プログラミングの様々な段階で加えた。1〜4日目:トランスフェクションの後1日目から4日目までアゴニストを加えた。CD437のための溶媒DMSOを対照プレートに加えた。E〜F.再プログラミングされた細胞での多能性遺伝子の発現(E)およびNanogおよびRex1遺伝子座のDNAメチル化(F)。2.0μg/ml Puro選択に耐性の細胞だけが完全に再プログラミングされたiPSCであったが、1.0μg/ml Puroだけに耐性のものは部分的に再プログラミングされていた。ES: Oct4-IRES-Puro-EgfpノックインES細胞; MEF: Oct4-IRES-Puro-EgfpリポーターMEF細胞。G. RargアゴニストCD437によるiPSC品質の改良。iPSC(1〜4日目からのCD437)の品質は、フローサイトメトリーによってOct4遺伝子座からのGFP発現によって分析された。
【0235】
図1(D)のヒストグラムでは、第一のバーは1〜4日目を表し、第二のバーは1〜8日目を表し、第三のバーは1〜12日目を表し、第四のバーは4〜8日目を表し、第五のバーは4〜12日目を表す。
【0236】
図2。Rarg(R)およびLrh-1(L)は、再プログラミングを相乗的に促進する。A. Tet-On再プログラミング手法の図解。MEFをPB-TRE-cDNAトランスポゾン、PB-CAG-rtTAおよびPBトランスポザーゼプラスミドでトランスフェクトしたならば、それらをSTOフィーダーの上に平板培養した。Dox(1.0μg/ml)をトランスフェクションの24時間後に加えた。トランスフェクションの4、6、8および10日後に、Doxを培地から除去し、完全に活性化されたOct4遺伝子座を有する細胞を選択するために直ちにピューロマイシン選択(2.0μg/ml)を適用した。ピューロマイシンは、24時間以内にMEFおよびES細胞を死滅させる。B. 6つの因子(TRE-OCKSおよびTRE-RL)の4日間の発現は、Dox非依存性iPSCを得るために内因性Oct4の発現を完全に活性化するのに十分であった。対照的に、4つのYamanaka因子(TRE-OCKS)の少なくとも12日間の発現まで、Puror iPSCコロニーは現れなかった。C.トランスフェクションから6日後のコロニーの画像。目盛バー、10.0μm。D. RargまたはLrh-1を個々にでなく、RargおよびLrh-1(RL)を同時に発現させることは、iPSC品質を向上させた。個々のiPSCコロニーをトランスフェクションから10日目に採取し、フローサイトメトリーでのGFP発現のために96穴プレートで増殖させた。***: p<0.0005。E.ルシフェラーゼリポーターアッセイでOct4プロモーターを活性化するRargおよびLrh-1の相乗的相互作用。Oct4プロモーターに連結されたルシフェラーゼリポーターを、MEFにトランスフェクトさせた。48時間後にルシフェラーゼ活性を測定した。PB-Neoプラスミドがトランスフェクションで用いられた陰性対照にルシフェラーゼの発現を正規化させた。バーは、平均±標準偏差である。
【0237】
図3。Dox非依存性マウスiPSCの特徴付け。A〜B.マウスiPSCでの多能性遺伝子の頑強な発現。A. Oct4およびNanogを検出するためのiPS20-A1細胞の免疫染色。B.マウスiPSC、親のMEFおよび野生型ES細胞でのOct4、NanogおよびRex1のqRT-PCR。発現はGapdhと関連し、親のOct4リポーターマウスES細胞での遺伝子発現に対して正規化された。示す3つのiPSC系は、4日間(A1)、6日間(B1)または8日間(C1)の6つの因子(OCKS+RL)のDox誘導によって生成された。MEF: Oct4-IRES-Puro-EgfpリポーターMEF細胞; ES細胞: Oct4-IRES-Puro-EgfpノックインES細胞。C. iPSC(iPS20-A1)でのOct4およびNanogのプロモーターでのほとんど完全な脱メチル化。D. iPSCに由来するテラトーマは、3つの胚葉全ての細胞型を含んでいた。パネルは、軟骨細胞(左上)、ケラチノサイト(右上)、腸様上皮細胞(左下)およびニューロン細胞(右下)を示す。全ての写真は、同じ倍率(×200)で撮られた。E.キメラでの生殖細胞系へのiPSCの寄与。キメラは、野生型C57BL6の雌(アルビノ)と交配した。生殖細胞系伝達の子は、アグーチのものであった。
【0238】
図3(B)の各ヒストグラムでは、第一のバーはmESCを表し、第二のバーはMiPS20-A1を表し、第三のバーはMiPS20-B2を表し、第四のバーはMiPS20-C1を表す。
【0239】
図4。無血清、フィーダーなしの条件における、基底状態のiPSCへのMEFの再プログラミング。A. PB-TRE-OCKS(4F)またはPB-TRE-OCKSプラスPB-TRE-RL(6F)のいずれかで再プログラミングされたAP+コロニーの数。トランスフェクション後のMEFをゼラチン化6穴プレート(2×105/ウェル)のM15/LIF/DOXに1日間播種し、N2B27/LIF/Doxに最高17日間変えた。B. qRT-PCRによるiPSCの遺伝子発現分析。発現はGapdhと関連し、野生型ES細胞に正規化した。バーは、平均±標準偏差である。C. NanogおよびSSEA-1発現のためのiPSC(6F)の免疫染色。D.免疫染色によって検出される3つの胚葉を表す細胞型へのiPSC(6F)のin vitro分化。抗体: Tuj、ニューロン特異的なクラスIIIβ-チューブリン; SMA、平滑筋α-アクチン; AFP、α-フェトプロテイン。
【0240】
図4(B)の各ヒストグラムでは、第一のバーはESを表し、第二のバーは4FiPSを表し、第三のバーは6F-iPSを表し、第四のバーはMEFを表す。
【0241】
図5。Dox非依存性のユニークなヒトiPSCの生成および特徴付け。A.いくつかの哺乳動物種でのRAREoct配列の保存。B. Tet-On 6因子プラットホームを用いた、HDFn細胞の再プログラミング。PB-TRE-cDNAトランスポゾン、PB-CAG-rtTAおよびトランスポザーゼプラスミドをHDFにトランスフェクトさせ、それをSTOフィーダーの上に平板培養した。Dox(2.0μg/ml)をトランスフェクションの24時間後に加えた。Dox誘導は、通常15〜20日間持続した。トランスフェクションの最高30日後に、コロニーを増殖のために採取した。あるいは、Doxを除去してからすぐに、コロニーをトリプシン処理し、二次コロニー形成のために新しいフィーダープレートに再び平板培養した。C.一般的なヒトiPSCコロニーの形態およびAP染色。目盛バー: 10.0μm。D.親のHDFn、ヒトiPSCおよびH1 hESC細胞での多能性遺伝子のqRT-PCR分析。HiPS15-5および-10は、1つのトランスフェクションから生成された2つのDox非依存性iPSC系であった。E. ES細胞表面マーカーおよび多能性因子のためのヒトiPSCの免疫染色。F.ヒトiPSCのin vitro分化。抗体: Tuj、ニューロン特異的なクラスIIIβ-チューブリン; SMA、平滑筋α-アクチン; AFP、α-フェトプロテイン。G.ヒトiPSCから分化したテラトーマ。左パネル、軟骨(中胚葉);中パネル、神経組織(外胚葉);繊毛性腺上皮(内胚葉)。全ての写真は、同じ倍率(×200)で撮られた。H.遺伝子発現(qRT-PCR)で測定されるヒトiPSCのシグナル伝達依存性。FGF受容体阻害剤(FGFRi)の存在下での多能性遺伝子の頑強な発現であるが、JAK阻害剤(Jaki)が加えられた場合はない。KSR-FGF2(bFGF)またはKSR-2i-LIF培地(2i/LIF)で生育するH1 hESC細胞を対照として用いた。I.異なる条件で生育するヒトiPSCでの遺伝子発現の変化。2i/LIF培地で再び培養すると、FGF順応iPSCは速やかに分化した。SOX17およびSOX1の発現と同時に、これらの細胞でOCT4およびNANOGの発現は失われた。遺伝子発現の定量分析を、GADPHと比較して実施した。FGF2培地で生育するH1 hESC細胞での発現を、対照として用いた。バーは、平均±標準偏差である。
【0242】
図5(D)の最初の3つのヒストグラムでは、第一のバーはHihESCを表し、第二のバーはHiPS15-5を表し、第三のバーはHiPS15-10を表す。図5(D)の第四のヒストグラムでは、第一のバーはHDFnを表し、第二のバーはHihESCを表し、第三のバーはHiPS15-5を表し、第四のバーはHiPS15-10を表す。
【0243】
図5(H)の各ヒストグラムでは、存在する場合、第一のバーはH1 hESC細胞でのFGF2を表し、第二のバーはHiPS15-10での2i/LIFを表し、第三のバーはHiPS15-10細胞での2i/LIFからFGF2を表し、第四のバーはHiPS15-10細胞でのFGF2から2i/LIFを表す。
【0244】
図5(I)の各ヒストグラムでは、存在する場合、第一のバーはH1 hESC細胞でのFGF2を表し、第二のバーはH1 hESC細胞での2i/LIFを表し、第三のバーはHiPS15-10での2i/LIFを表し、第四のバーはHiPS15-10細胞での2i/LIF/BMP4を表し、第五のバーはHiPS15-10細胞での2i/LIF/JAKiを表し、第六のバーはHiPS15-10細胞での2i/LIF/FGFRiを表す。
【0245】
図6。A.転写因子cDNAを運ぶPBトランスポゾン。PB: piggyBacトランスポゾン; TR: PBの末端反復; MSCV:マウス幹細胞ウイルスのLTR; CAG: CAGプロモーター; TRE:テトラサイクリン応答エレメント; pA:ポリアデニル化シグナル伝達配列。B.Oct4-IRES-Puro-Egfpノックイン対立遺伝子。遺伝子座の活性化を監視し、選択するために、Oct4遺伝子座の3'UTRにIRES-Puro-Egfpカセットをターゲッティングした。C. Oct4-IRES-Puro-Egfp MEF細胞およびOct4-IRES-Puro-EgfpノックインES細胞のフローサイトメトリー分析。ターゲッティングされているES細胞だけが分析で緑色であった。D.トランスフェクションで増加した量のRarg運搬トランスポゾンDNAは、OCKSの再プログラミング効率を低下させた。対照: OCKSだけでPB-MSCV-Rargはない。E. 2つのピューロマイシン濃度を生き延びた、再プログラミングされたマウス細胞のフローサイトメトリー分析。ほとんどの1.0μg/ml Purorコロニーは、GFPを発現しなかった。他方、2.0μg/mlのピューロマイシン選択を生き延びた再プログラミングされた細胞は、全てGFP+であった。96穴プレートで生育する細胞を用いて、フローサイトメトリー分析を直接的に実施した。
【0246】
図7。RargおよびLrh-1は、再プログラミングを相乗的に促進する。A. 2A、口蹄疫ウイルス2A自己切断ペプチドをコードするDNAによって連結される複数のcDNAを運ぶPBトランスポゾン。CAG: CAGプロモーター; pA:ポリアデニル化シグナル伝達配列; rtTA、逆テトラサイクリン応答転写活性化物質(rtTA); TRE:テトラサイクリン応答エレメント。B. PB-CAG-OCKSを単独で(上の2パネル)、またはPB-CAG-RLと一緒に(下の2パネル)用いて再プログラミングされた一般的なiPSCコロニー。画像は、トランスフェクションの10日後に撮られた。C.トランスフェクションから10日後のiPSCコロニーのアルカリホスファターゼ染色。6つの因子(CAG-OCKSおよびCAG-RL)は、4つのYamanaka因子(CAG-OCKS)だけが用いられた場合より、最高20倍より多くのコロニー(右プレート)を生成した。D.ルシフェラーゼリポーターアッセイのためのDNA構築物の図。RAREoct部位に連なる460bpのOct4プロモーターDNA断片を、luc2コード配列の前にクローニングした。
【0247】
図8。多能性についてのマウスiPSCの特徴付け。A. SSEA1およびNanogを検出するためのiPS20-A1細胞の免疫染色。B.マウスiPSCでの内因性多能性遺伝子の頑強な発現。発現は、α-アクチンをPCR対照としてRT-PCRによって検出された。iPS20-A1、B1およびC1は、4日間(A1)、6日間(B1)または8日間(C1)の6つの因子(OCKS+RL)のDox誘導によって生成された3つのiPS細胞系であった。MEF: Oct4-IRES-Puro-EgfpノックインMEF; ES: Oct4-IRES-Puro-EgfpノックインES細胞。C.マウスiPSC系での外来性の再プログラミング因子の発現のRT-PCR分析。対照、外来性因子の発現を誘導するDoxの存在下で生育するマウスiPSC; ES、親のOct4-IRES-Puro-EgfpノックインES細胞。Oct4-cMyc-外来性、cMyc-Klf4-外来性、Klf4-Sox2-外来性は、PB-TRE-OCKS構築物のcDNAの間で接合部断片を検出する3つのプライマー対であった。Rarg-Lrh-1-外来性は、PB-TRE-RL構築物の隣接配列を検出するプライマー対であった。外来性因子の発現は、ほとんどのiPSC系で検出不能であった。
【0248】
図9。フィーダーなしおよび無血清の条件におけるMEFの再プログラミング。A. MEFをPB-TRE-OCKS(4-因子)またはPB-CAG-RLを加えたPB-TRE-OCKS(6-因子)でトランスフェクトし、示された日数の間N2B27プラスDox含有LIF培地に平板培養した。一次コロニーを採取したならば、それらを2i/LIF培地で培養した。8日間のDox処理で4つの因子を発現させることからコロニーは得られなかった。別の実験では、新たにトランスフェクトされたMEFを培養するために、2i/LIF培地を直接的に用いた。OCKSの発現からのいかなるコロニーも出現させるために、Doxを最高17日の間加えた。しかし、6つの外因性因子を用いたときだけ、コロニーが得られた。B.テラトーマのヘマトキシリンおよびエオシンで染色したパラフィン切片は、3つの胚葉全ての誘導体を含んでいた。表皮分化(ケラチンパールの形成による)および神経分化(ロゼットおよび神経管の形成による)を、上の2列の図に示す。内胚葉誘導体(矢印で示す)は、杯細胞、腸細胞様細胞およびパネート細胞が並ぶ腺構造で表される。中胚葉誘導体は、軟骨、未熟な脂肪組織および筋肉からなる。全ての写真は、同じ倍率(200×)で撮られた。
【0249】
図10。6因子プラットホーム(CAGプロモーターバージョン)によるユニークなヒトiPSC細胞の生成。A. M15プラスLIF培地または2i/LIF培地に形成したヒトiPSCコロニー、それは通常のマウスES細胞コロニーに類似していた。左上パネル、4つのYamanaka因子で再プログラミングされた一般的なコロニー;右上パネル、6つの因子を用いて再プログラミングされた一般的なヒトiPSCコロニー。画像は、トランスフェクションの10日後に撮られた。左下パネル、一次iPSCコロニーを解離してフィーダー細胞の上に再平板培養した後の二次コロニー;右下パネル、単一の細胞密度でサブクローニングした後の一般的なヒトiPSCコロニー。B.免疫染色によって検出されたヒトiPSCでの内因性多能性タンパク質の発現。C. RT-PCRによって検出されたヒトiPSCでの多能性遺伝子の発現。HiPS1-3および4、HiPS6-4および16は、4つの独立したiPSC系であった。HDF:ヒト皮膚の線維芽細胞; hESC:ヒトES細胞。D.テラトーマでの3つの胚葉の細胞型へのヒトiPSCの分化。左上パネル、時折ロゼット(矢印)を有する神経組織;右上、線維筋性線維(矢印);左下、ゆるい間充織(矢印);右下パネル、繊毛性腺上皮(矢印)。全ての写真は、同じ倍率(×200)で撮られた。E.長期継代(>20継代)の後のヒトiPSCでの正常な核型。上パネル、DAPI;下パネル、MFISH。F.ヒトiPSCのY染色体遺伝子タイピングは、ヒトiPSCのHDFn起源を確認した。16個のヒトY染色体マーカーを遺伝子タイピングのために用いた。
【0250】
図11。6因子Tet-On系(Dox非依存性)を用いて生成されたユニークなヒトiPSCの特徴付け。A.対照としてヒトGADPHを用いる、ヒトiPSCでの遺伝子発現のRT-PCR分析。HDF:ヒト皮膚の線維芽細胞; hESC: H1ヒトES細胞。B. SSEA-4、Tra-1-60およびTra-1-81の発現のためのヒトiPSCのFACS分析。左パネル、SSEA-4、TRA-1-60またはTRA-1-81を発現しなかったHDF対照。C.ヒトiPSCでの外来性因子発現のRT-PCR分析。対照、外来性因子の発現を誘導するDoxで生育するiPSC; hESC、H1ヒトES細胞。2つの系は、PCR増幅の後、外来性のOCT4、SOX2およびMYC、KLF4の明らかな発現を有さなかった。D.ヒトiPSCは、長期in vitro培養(>20継代)の後に正常な核型を有した。上パネル、DAPI;下パネル、MFISH。E.ヒトiPSCでHPRT活性を阻害したHPRT遺伝子座への遺伝子トラップPBトランスポゾンの挿入。遺伝子トラップPBトランスポゾンの組込みは、HPRT遺伝子座のイントロン2で見出された。下パネル、PBトランスポゾンおよびHPRTゲノムDNA接合部の配列。
【0251】
図12。Rargドミナントネガティブ対立遺伝子は、ES細胞分化を妨害する。
A.強力なCAGプロモーター/エンハンサーおよび一対のスプライシング受容体を運ぶPBトランスポゾンの図解。
B. Rex1-Puro-IRES-EgfpノックインマウスES細胞系の図。
C.レチノイド酸によって誘導されるES細胞分化を妨害することができる突然変異体を同定する、マウスES細胞での遺伝子スクリーニングの手法。
D.遺伝子スクリーニングで同定されたRarg遺伝子座の4つの独立突然変異。
E. RAは、RargまたはRaraドミナント形の過剰発現によって妨害されるES細胞分化を誘導した。
F. RAは、RargまたはRara特異的アンタゴニストによって妨害されるES細胞分化を誘導した。
【0252】
図12(E)の各ヒストグラムでは、存在する場合、第一のバーはPB-MSCV-Rara-DNを表し、第二のバーはPB-MSCV-Rarg-DNを表し、第三のバーはPB-PGK-Neoを表し、第四のバーはPB-MSCV-Rara-FLを表し、第五のバーはPB-MSCV-Rarg-FLを表す。
【0253】
図12(F)の各ヒストグラムでは、存在する場合、第一のバーはRA単独を表し、第二のバーはRA+Ro-41-5253を表し、第三のバーはRA+CD2665を表す。
【0254】
図13。RAシグナル伝達は、iPS細胞へのマウスMEFの再プログラミングで重要な役割を演ずる。
A. iPS細胞のより高い品質は、ピューロマイシンのより高い濃度を生き延びることと相関していた。
B. Rarg-FLの過剰発現による再プログラミング効率の急激な増加。
C.再プログラミング効率を増加させるRargを示すiPS細胞培養プレート。細胞は、クリスタルバイオレットで染色された。
D. Rarg-DNの過剰発現もiPSクローンの品質を向上させるが、再プログラミング効率を低下させる。
E. Rargの用量は、再プログラミング効率に影響を及ぼす。
F. RargまたはRara特異的アゴニストによって再プログラミング効率が増加した。
G. Rarg特異的アゴニストは、iPS細胞の品質を向上させる。
【0255】
図13(F)のヒストグラムでは、第一のバーは1〜4日目を表し、第二のバーは1〜8日目を表し、第三のバーは1〜12日目を表し、第四のバーは4〜8日目を表し、第五のバーは4〜12日目を表し、第六のバーは8〜12日目を表す。
【0256】
図14。RargおよびLrh1は、相乗的に作用して再プログラミングを促進する
A. Rarg特異的アンタゴニスト処理は、部分的に再プログラミングされたiPSクローンの品質を向上させることができる。
B. Lrh1の過剰発現は、再プログラミングを促進する。
C. Puro耐性iPS細胞コロニーの非常に早期の出現によって示される、6つの因子によるMEFの迅速な再プログラミング。
D.完全に再プログラミングされた多能性を速やかに達成するために、RargおよびLrh1の発現が必要とされた。
E. RargおよびLrh1発現の量が、iPS細胞の品質のために重要である。
【0257】
図14(A)のヒストグラムでは、第一のバーは1日目を表し、第二のバーは2日目を表し、第三のバーは3日目を表し、第四のバーは4日目を表す。
【0258】
図15。6つの因子によって再プログラミングされたiPS細胞の高品質
A. RargおよびLrh1を用いて生成されたマウスiPS細胞は、ES細胞多能性マーカーの頑強な発現を有した。
B. 6つの因子によって誘導されたマウスiPS細胞は、テラトーマで全ての系統に寄与することができた。
【0259】
図16。6つの因子を用いる高品質ヒトiPS細胞の生成
A. M15プラスhLIF培地で生成されたヒトiPS細胞コロニー(上パネル)。2iプラスhLIF培養条件で増殖させたヒトiPS細胞コロニー(下パネル)。
B.ヒトiPS細胞は、高レベルのOCT4およびNANOGを発現する。
C. RT-PCR分析は、ヒトiPS細胞での高レベルの多能性遺伝子の発現を確認する。4-1、4-2、4-3および4-5は、ヒトiPS細胞である。ES:ヒトES細胞対照。
【0260】
参考文献
【0261】
【化1】

【0262】
【化2】

【0263】
【表1A】

【0264】
【表1B】

【0265】
【表1C】

【0266】
【表1D】

【0267】
【表2A】

【0268】
【表2B】

【0269】
【表2C】

【0270】
【表3】

【0271】
【表4】

【0272】
【表5A】

【0273】
【表5B】

【0274】
【表6】

【0275】
【表7】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
体細胞の核再プログラミングによって誘導多能性幹細胞を調製する方法であって、体細胞を核再プログラミング因子NRFと接触させるステップを含み、前記因子は、
(i)レチノイン酸受容体(RAR/RXR)ファミリーメンバーからの遺伝子産物、またはそのアゴニストもしくはアンタゴニスト、
(ii)Lrh1ファミリーメンバーからの遺伝子産物、またはそのアゴニスト、
(iii)レチノイン酸またはレチノイン酸を合成もしくは代謝することに関与する遺伝子産物、またはそのアゴニストもしくはアンタゴニスト、
(iv)レチノイン酸ファミリーメンバーを輸送することに関与する遺伝子産物、
(v)上の(i)から(iv)のいずれかの遺伝子産物をコードするポリ核酸
の1つまたは複数を含む方法。
【請求項2】
NRFが、レチノイン酸受容体RARファミリーメンバーからの遺伝子産物または遺伝子産物をコードするポリヌクレオチド、およびLrh1ファミリーメンバーからの遺伝子産物または遺伝子産物をコードするポリヌクレオチドを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
NRFが、RargおよびLrh1遺伝子産物または前記遺伝子産物をコードするポリヌクレオチドを含む、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
C末端トランケーションを有するRargタンパク質を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
NRFが、Octファミリー遺伝子およびMycファミリー遺伝子の遺伝子産物もしくは遺伝子産物をコードするポリヌクレオチド、またはその同等物もしくは代替物を含む、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
NRFが、Klfファミリー遺伝子の遺伝子産物または遺伝子産物をコードするポリヌクレオチドをさらに含む、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
NRFが、Soxファミリーの遺伝子産物または遺伝子産物をコードするポリヌクレオチドをさらに含む、請求項5または6に記載の方法。
【請求項8】
(a)体細胞を、
(i)レチノイン酸受容体(RAR/RXR)ファミリーメンバーからの遺伝子産物、またはそのアゴニスト、
(ii)Lrh1ファミリーメンバーからの遺伝子産物、またはそのアゴニスト、
(iii)レチノイン酸、またはレチノイン酸ファミリーメンバーを合成もしくは代謝することに関与する遺伝子産物、またはそのアゴニストもしくはアンタゴニスト、
(iv)レチノイン酸ファミリーメンバーを輸送することに関与する遺伝子産物、
(v)上の(i)から(iv)のいずれかの遺伝子産物をコードするポリ核酸
の1つまたは複数であるNRFと接触させるステップと、次に
(b)体細胞が再プログラムされたかどうか判定するために任意選択で検査するステップと、
(c)ステップ(a)からの生成物をRAまたはRAR/RXRファミリーメンバーのアンタゴニストと接触させるステップ、またはNRFとの接触を除去し、多能性を維持するステップと
を含む、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
(i)レチノイン酸受容体RAR/RXRファミリーメンバーからの遺伝子産物、またはそのアゴニストもしくはアンタゴニスト、
(ii)Lrh1ファミリーメンバーからの遺伝子産物、またはそのアゴニストもしくはアンタゴニスト、
(iii)Lrh1ファミリーメンバーの遺伝子産物、
(iv)レチノイン酸またはレチノイン酸を合成もしくは代謝することに関与する遺伝子産物、またはそのアゴニスト、
(v)レチノイン酸ファミリーメンバーを輸送することに関与する遺伝子産物、
(vi)上の(i)から(iv)のいずれかの遺伝子産物をコードするポリ核酸
の1つまたは複数を含むNRF。
【請求項10】
体細胞を誘導多能性細胞に再プログラミングするための、請求項9に記載のNRF。
【請求項11】
少なくとも2つの遺伝子産物を含むかまたはコードする、請求項9または10に記載のNRF。
【請求項12】
RARファミリーメンバーおよびLrh1ファミリーメンバーからの遺伝子産物を含むかまたはコードする、請求項11に記載のNRF。
【請求項13】
RARGおよびLrh1からの遺伝子産物を含むかまたはコードする、請求項12に記載のNRF。
【請求項14】
Octファミリー遺伝子およびMycファミリー遺伝子からの遺伝子産物をさらに含むかまたはコードする、請求項9から13のいずれか一項に記載のNRF。
【請求項15】
Klfファミリー遺伝子からの遺伝子産物をさらに含むかまたはコードする、請求項14に記載のNRF。
【請求項16】
Soxファミリーの遺伝子産物をさらに含むかまたはコードする、請求項14または15に記載のNRF。
【請求項17】
請求項1から8のいずれか一項に記載の方法によって得られるかまたは得ることができる誘導多能性幹細胞。
【請求項18】
・Oct4、Nanog、Rex1などの1つまたは複数の多能性マーカーの発現、
・FGFに依存しない増殖、
・継代後にスペクトル核型分析を用いて測定される、正常な核型を保持すること、
・マウスに注射されると、テラトーマを形成することが可能であること、
・oct4、nanogもしくはrex1の1つまたは複数のプロモーター領域の脱メチル化、
・二次的コロニーを形成することができる生存可能な単一細胞に細胞を解離することができること、
・M15+hLIF培地および/または2i+LIF培地での増殖、
・外来性再プログラミング因子の発現が不在であるかまたは微々たるものであること
の少なくとも1つを特徴とする誘導ヒト多能性細胞。
【請求項19】
iPS細胞が外来性DNA配列を含む、請求項17または18に記載の誘導多能性幹細胞。
【請求項20】
外来性DNA配列が外来性再プログラミング因子の配列であり、外来性配列が発現されない、請求項19に記載の誘導多能性幹細胞。
【請求項21】
iPS細胞が外来性再プログラミング因子を含まない、請求項17または18に記載の誘導多能性幹細胞。
【請求項22】
生成されるiPS細胞が染色体にKLF-4および/またはSOX2挿入を有さない、請求項15または請求項16に記載のNRFを用いて生成される、請求項17または18に記載の誘導多能性幹細胞。
【請求項23】
請求項17から22のいずれか一項に記載の誘導多能性幹細胞の分化によって誘導される体細胞。
【請求項24】
請求項17から22のいずれか一項に記載の誘導多能性幹細胞の分化によって得られる体細胞を含む、組織、器官またはヒト以外の動物。
【請求項25】
請求項9から16のいずれか一項に記載の核再プログラミング因子、またはiPS細胞もしくはそれに由来する細胞、または請求項17から24に記載の組織もしくは器官を、薬学的に許容される賦形剤と一緒に含む医薬組成物。
【請求項26】
請求項9から16のいずれか一項に記載の核再プログラミング因子、またはiPS細胞もしくはそれから得られる細胞、または請求項17から24のいずれか一項に記載の組織もしくは器官の、医療における使用。
【請求項27】
それを必要とする患者で疾患を予防するかまたは疾患を治療する方法であって、任意選択で請求項25に記載の医薬組成物の形にある、薬学的に許容される量の、請求項9から16のいずれか一項に記載の再プログラミング因子、請求項17から23のいずれか一項に記載の細胞、または請求項24に記載の組織もしくは器官のうちの1つを患者に送達することを含む方法。
【請求項28】
任意選択で請求項25に記載の医薬組成物の形にある、請求項9から16のいずれか一項に記載の核再プログラミング因子、請求項17から23のいずれか一項に記載の細胞、または請求項24に記載の組織もしくは器官の、それを必要とする患者の治療のための医薬の調製における使用。
【請求項29】
再プログラミングのための体細胞が治療される予定の患者から得られる、請求項27または請求項28に記載の方法または体細胞の使用。

【図2C】
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【図3C】
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【図3E】
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【図5C】
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【図6A】
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【図6C】
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【図7A】
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【図7C】
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【図10C】
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【図10E】
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【図11A】
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【図11D】
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【図12A】
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【図13C】
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【図15A】
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【図15B】
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【図16A】
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【図16B】
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【図16C】
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【図1A】
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【図1B】
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【図1C】
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【図1D】
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【図1E】
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【図1F】
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【図1G】
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【図2A】
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【図2B】
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【図2D】
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【図2E】
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【図3A】
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【図3B】
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【図3D】
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【図4A】
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【図4B】
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【図4C】
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【図4D】
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【図5A】
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【図5B】
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【図5D】
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【図5E】
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【図5F】
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【図5G】
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【図5H】
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【図5I】
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【図6B】
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【図6D】
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【図6E】
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【図7B】
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【図7D】
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【図8A】
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【図8B】
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【図8C】
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【図9A】
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【図9B】
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【図10A】
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【図10B】
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【図10D】
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【図10F】
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【図11B】
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【図11C】
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【図11E】
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【図12B】
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【図12C】
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【図12D】
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【図12E】
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【図12F】
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【図13A】
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【図13B】
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【図13D】
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【図13E】
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【図13F】
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【図13G】
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【図14A】
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【図14B】
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【図14C】
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【図14D】
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【図14E】
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【公表番号】特表2013−503622(P2013−503622A)
【公表日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−527396(P2012−527396)
【出願日】平成22年9月7日(2010.9.7)
【国際出願番号】PCT/GB2010/051493
【国際公開番号】WO2011/027180
【国際公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【出願人】(512010753)ゲノム・リサーチ・リミテッド (3)
【Fターム(参考)】