説明

細胞にインプリンティングの正常パターンを復元するための組成物および方法

【課題】癌の診断方法およびインプリンティングに関与する薬剤の同定方法を提供する。
【解決手段】器官または組織からの細胞のインプリンティングパターンを判定することで癌を発症する哺乳類の傾向を診断する。また、薬剤を細胞に投与して該細胞のインプリンティングパターンを判定することで、インプリンティングに関与する薬剤を同定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
連邦政府支援による研究開発
本発明は、米国国立衛生研究所からの認可の下で政府の援助を受けて成された。政府は本発明に対して一定の権利を有する。
【0002】
発明の分野
本発明は、親由来の特異的染色体または遺伝子変化に関連したヒト疾患、特にインプリンティングの異常パターンに関連した疾患を診断し、防止し、そして治療する組成物および方法に関する。本発明は、細胞のインプリンティングパターンに影響を及ぼす薬剤、特に異常にインプリントされた細胞に対してインプリンティングの正常パターンを復元し得る薬剤の発見方法にも関する。
【背景技術】
【0003】
ゲノムインプリンティングは、子孫の体細胞中の遺伝子の2つの対立遺伝子の単一対立遺伝子の発現または特異的な遺伝子発現を引き起こす配偶子または接合子における特定の親染色体の後成的な修飾である。インプリンティングは、細胞間シグナル化、RNAプロセッシング、細胞周期制御、そして細胞分裂および成長の促進または阻止を含めた種々の不可欠な細胞および発生過程に影響を及ぼす。
【0004】
単一の遺伝子レベルでのインプリンティングの第一の結論は、父系遺伝によるその発現の依存関係を示すトランスジェニックC−myc遺伝子に関係していた。サイレント母系遺伝コピーはメチル化された(非特許文献1)。
【0005】
ノックアウト実験におけるインスリン様増殖因子II(IGF2)遺伝子の破壊は、IGF2が通常は父系対立遺伝子からのみインプリントされ、発現されることを、そしてIGF2は2つの神経組織、即ち脈絡叢および軟髄膜において両親由来的に発現されることを示した(非特許文献2)。これらの画期的な研究は、ゲノムインプリンティングが正常な内在性遺伝子に影響を及ぼし、そしてインプリンティングは組織特異的な調節を示すということを示した。
【0006】
新規にインプリントされた遺伝子を同定するために開発された直接的アプローチを以下に挙げる:他の既知のインプリントされた遺伝子付近のインプリントされた遺伝子を同定するポジショナルクローニング(非特許文献3);単為生殖胚と正常胚との遺伝子発現の比較(非特許文献4);および制限ランドマークゲノムスキャニング(非特許文献6)。最後のアプローチは、ヘテロ接合性多形性部位の近くのDNAメチル化を査定することにより、腫瘍におけるクローン性の分析を包含する(非特許文献6)。
【0007】
単一の遺伝子の異常は、近位ゲノム領域のインプリンティングに影響を及ぼし、突然変異化遺伝子の親由来の表現型である多数の疾患を引き起こす遺伝子を破壊し得る。極めて接近したインプリントされたヒト疾患遺伝子座の2つの例は、第15染色体上にある。これらの遺伝子座のインプリンティング破壊は、精神遅滞を伴うプラダー−ヴィリ症候群(PWS)およびアンジェルマン症候群(AS)の原因の1つである。PWSは肥満も引き起こし、そしてASは肉眼的運動障害を伴う。各障害は、親由来の特異的片親性二染色体(非特許文献7、非特許文献8)または染色体欠失(非特許文献9、非特許文献10)により引き起こされ得る。AS遺伝子は、今日まで単離されていない。PWSは小核リボ核タンパク質ポリペプチドN(SNRPN)遺伝子における突然変異または欠失のためであ
ると考えられる(非特許文献11で再検討されている)。SNRPNの翻訳されていない上流エキソンのスプライシングに影響を及ぼす突然変異も、他の遺伝子座の異常インプリンティングと同様に、ASを引き起こし得る(非特許文献12)。
【0008】
特定の染色体に関するUPDはしばしば多先天性異常に関連するため、さらに多数の別のインプリントされたヒト疾患遺伝子座が同定されると思われる(非特許文献13)。この現象を示すと思われる染色体としては、第2、6、7、11、14、15、16、20およびX染色体が挙げられる(非特許文献13)。
【0009】
癌におけるゲノムインプリンティングの関係は、2つの胚芽腫瘍、即ち胞状奇胎および完全卵巣奇形腫の研究から得られたが、これらは正常な胚を作るためには46本の染色体が必要なだけでなく、母系と父系の染色体の均衡も必要であることを示した。相対的不均衡は腫瘍性増殖を引き起こし、新生物の型は母系または父系遺伝的過剰が存在するか否かによっている。
【0010】
明らかにインプリンティングに関連した別の腫瘍は、よく知られているパラガングリオンまたは糸球腫瘍である。すべての場合において、伝達親は父親である(非特許文献14)。その遺伝子は近年、11q22.3−q23に限局された(非特許文献15)。
【0011】
小児期ウィルムス腫瘍におけるヘテロ接合性の損失(LOH)は第11染色体上で起こり、特定的関与領域は11p15である(非特許文献16)。(非特許文献17)は、5例のLOHのうちの5例において、損失されたのは母系対立遺伝子であることに注目した。この観察は、胚芽起源の他の腫瘍、例えば胚芽細胞腫および横紋筋肉腫にまで及んだ(非特許文献18)。
【0012】
第2染色体上のN−myc遺伝子は神経芽細胞腫における父系対立遺伝子の選択的増幅を示す(非特許文献19)。N−myc増幅を示す進行神経芽細胞腫も、母系第1染色体の選択的LOHを示すが、一方、N−myc増幅を伴わない初期段階の腫瘍は示さない(非特許文献20)。したがって、所定の癌の種類におけるインプリントされた遺伝子に関与する遺伝的障害は、多染色体を同時に伴う場合がある。
【0013】
非特許文献21では、網膜芽細胞腫における同一親由来の伝達比の歪曲、13q損失の一致および第6同腕染色体を見出したが、これは癌の危険性の増大につながる胚形成におけるインプリンティングの全身性障害のメカニズムと一致する。
【0014】
ベックウィズ−ヴィーデマン症候群(BWS)は、出生前過剰増殖および癌の障害で、常染色体優性形質として伝達されるか、または散発的に生じる。ゲノムインプリンティングに関する役割に対する手掛かりは、BWSが母親から遺伝される場合、疾患浸透度の増大である(非特許文献22)。小児の腫瘍は、母系11p15の選択的損失を示し(非特許文献17、非特許文献18)、これはインプリントされた遺伝子座がBWSを引き起こし得ること、そして散発性腫瘍にも関与し得ることを示唆する。
【0015】
遺伝子連鎖の分析は、BWSが広汎性破壊というこの考え方に一致して11p15に局限し、WT1遺伝子が限局された11p13には局所限定されない、ということを示した(非特許文献23、非特許文献24)。
【0016】
BWSの11p15のゲノムインプリンティングに関するさらに直接的な証拠は、何名かのBWS患者が、β−グロビン遺伝子座からRAS遺伝子に延びる領域を伴う父系UPDを有するということを示す研究から得られた(非特許文献25)。大型10Mb領域はインプリントされた遺伝子の正確な局所限定を提供しないが、一方それはこの染色体上の
インプリントされた遺伝子座についての後の研究の基礎を提供する。
【0017】
ウィルムス腫瘍(WT)からのRNAの検査により、一方でなく両方のIGF2対立遺伝子がウィルムス腫瘍の70%で発現されたという発見がもたらされた(非特許文献26、非特許文献27)。さらに、30%の症例で、H19の両対立遺伝子が発現された(非特許文献26)。これに対比して、正常組織からのRNAの検査は、IGF2およびH19の一方の対立遺伝子の発現に伴う正常インプリンティングを示す。これは、ヒトにおけるインプリンティングの最初の証拠であった。この新規の遺伝的変化に関する用語は、インプリンティングの損失(LOI)(非特許文献26)であり、これは選択的親由来の特異的遺伝子発現の損失が、両対立遺伝子発現をもたらす正常サイレント対立遺伝子の異常発現化、または、遺伝子座の後成的サイレントをもたらす正常発現対立遺伝子のサイレント化を伴うことを単に意味する(非特許文献26、非特許文献28、非特許文献29)。したがって、癌における異常なインプリンティングは、増殖促進遺伝子の正常サイレント対立遺伝子の活性化を引き起こし得る(非特許文献26、非特許文献28、非特許文献29)。
【0018】
その後、LOIは種々の型の腫瘍に関係があるとされてきた。最初に、LOIは、その他の小児期腫瘍、例えば胚芽細胞腫(非特許文献30、非特許文献31)、横紋筋肉腫(非特許文献32)およびユーイング肉腫(非特許文献33)において見出された。IGF2およびH19のLOIも、多数の成人腫瘍、例えば子宮癌(非特許文献34)、頸部癌(非特許文献35)、食道癌(非特許文献36)、前立腺癌(非特許文献37)、肺癌(非特許文献38)、絨毛癌(非特許文献39)、胚芽細胞腫瘍(非特許文献40)、BWS(非特許文献41、非特許文献42)およびウィルムス腫瘍(非特許文献43)において現在見出されている。したがって、LOIはヒトの癌における最も一般的な遺伝子変化の1つである。
【0019】
11p15における別のインプリントされた遺伝子は、p53の標的であるp21WAF1/Cip1とそのCDK阻害ドメイン中で同様のサイクリン依存性キナーゼ(CDK)阻害剤であるp57KIP2である(非特許文献44、非特許文献45)。遺伝子は、その中断点に対して末端小粒的に置かれるIGF2およびH19に対比して、40kbの一群のBWS均衡生殖系列染色体再配列中断点内に局在した(非特許文献46)。ヒトp57KIP2は、母系対立遺伝子からの選択的発現によりインプリントされることが見出された(非特許文献47)。p57KIP2も、いくつかの腫瘍およびBWS患者において異常インプリンティングおよび後成的なサイレントを示す(非特許文献48)。
【0020】
シトシンDNAメチル化は、酵素シトシン(DNA−5)−メチルトランスフェラーゼ(以下、DNAメチルトランスフェラーゼと呼ぶ)により触媒される。
【0021】
DNAメチル化は、CpGジヌクレオチドでほとんど排他的に起こる(非特許文献49で再検討されている)。DNAメチル化のパターンは、体細胞により遺伝可能で、DNA複製後、非メチル化DNAに対する親和性より、半メチル化DNA(即ち、親鎖はメチル化され、娘鎖はメチル化されない)に対する親和性が100倍以上大きいDNAメチルトランスフェラーゼにより保持される(非特許文献49)。しかしながら、配偶子および胚の発生中の細胞は、メチル化の損失とデノボ(de novo)でのメチル化の両方によりDNAメチル化において劇的なシフトを蒙る(非特許文献49)。
【0022】
DNAメチル化のオリジナルパターンを確立するメカニズムは分かっていない。
【0023】
ゲノムにおいては、2種類のシトシンDNAのメチル化が存在する。第一の一般的に遺伝子のサイレント化に関連するものは、組織特異的発現を示す遺伝子上で起こる。この型
は遺伝子発現の変化の前と後の両方で起こるために、必ずしも発生中の遺伝子発現の変化の原因であるとは言えない;しかし、むしろ既定のパターンの遺伝子発現を「ロックイン」するのに役立ち得る(非特許文献49、非特許文献50)。第二の種類は、正常細胞ではほとんど常にメチル化されず、そして通常はハウスキーピング遺伝子のプロモーターまたは第一エキソン内にあるCpGアイランドを包含する(非特許文献51で再検討されている)。しかしながら、重要な例外は不活性X染色体上のCpGアイランドであり、これはメチル化される。したがって、CpGアイランドメチル化は、非CpGアイランドメチル化とは違って、不活性X染色体の後成的なサイレント化および/またはマーキングに関与すると考えられる(非特許文献52で再検討されている)。
【0024】
証拠のいくつかの方向は、ゲノムインプリンティングの制御においてDNAメチル化にある役割を提供する。第一に、マウスにおけるいくつかのインプリントされた遺伝子、例えばH19は、CpGアイランドの親由来の特異的組織非依存性メチル化を示す(非特許文献53、非特許文献54)。このメチル化は父系染色体上のインプリンティングを示し、遺伝子発現における変化に対して二次的でない。第二に、DNAメチルトランスフェラーゼを欠失し、広範なゲノム低メチル化を示すノックアウトマウスは、H19CpGアイランドの対立遺伝子特異的メチル化を示さず、そしてH19の二対立遺伝子発現およびIGF2の発現の損失を示す(非特許文献55)。同様の親由来の特異的メチル化は、IGF2受容体遺伝子(IGF2R)の母系遺伝、発現対立遺伝子の第一イントロンにおけるCpGアイランドに関しても観察されている(非特許文献56)。メチルトランスフェラーゼ−欠失ノックアウトマウスは、IGF2Rのメチル化の損失およびその遺伝子の後成的無症候化を示す(非特許文献55)。
【0025】
ヒト腫瘍におけるDNAメチル化の大幅な変化は15年前に発見され(非特許文献28)、依然としてヒトの癌で最も一般的に見出される変化である。これらの変化は、良性および悪性の両方の新生物に遍在する(非特許文献57)。これらの変化の正確な役割は依然として明らかでない;しかし、メチル化の減少および増大の両方が、定量的なDNのAメチル化の全体的減少を伴って、腫瘍の特定部位で見出されている(非特許文献58、非特許文献59、非特許文献60)。
【0026】
ヒトにおいては、マウスと同様に、H19遺伝子およびそのプロモーターのCpGアイランドの父系対立遺伝子は正常にメチル化され、母系対立遺伝子はメチル化されない(非特許文献61、非特許文献53、非特許文献62)。IGF2のLOIを伴う腫瘍はH19の発現減少を示したため、H19のメチル化パターンがLOIを有する腫瘍で検査された。IGF2のLOIを示す全症例において、H19プロモーターは、母系遺伝対立遺伝子上の正常ではメチル化されない部位で90〜100%のメチル化を示す(非特許文献61、非特許文献63)。したがって、母系対立遺伝子は父系パターンのメチル化を獲得したが、これはこれらの腫瘍における同一母系由来染色体上のIGF2の観察された発現と一致する。
【0027】
これに対比して、IGF2のLOIを伴わない腫瘍はH19のメチル化の変化を示さず、このことはこれらの変化が異常なインプリンティングに関係し、悪性疾患それ自体には関係がないことを示す(非特許文献61、非特許文献63)。H19の母系対立遺伝子のメチル化における同一変化は、IGF2のLOIを伴うBWS患者で見出される(非特許文献61、非特許文献64、非特許文献65)。
【0028】
LOIについての第二の考え得るメカニズムは、第15染色体のBWS/AS領域に関して近年記載されたものと同様の、第11染色体上のインプリンティング制御センター(中心)の破壊を包含する(非特許文献66)。一群の5つのBWS均衡生殖系列染色体再配列中断点は、セントロメア側上のp57KIP2とテロメア側のIGF2およびH19との
間にある。(非特許文献67)。
【0029】
したがって、この領域に広がる遺伝子の破壊は、少なくとも生殖系列により遺伝される場合、BWSおよび/または癌と同様に、異常インプリンティングを引き起こし得る。
【0030】
LOIに関する別の考え得るメカニズムは、一旦このようなパターンが生殖系列において確立されれば、ゲノムインプリンティングの正常パターンを確立し、保持し得るトランス作用因子の損失を包含する。導入遺伝子のインプリンティングは宿主株依存性であるため、インプリンティングのトランス作用修飾因子が存在すると思われる(非特許文献68)。したがって、このような遺伝子はヒトおよびその他の種において腫瘍サプレッサー遺伝子として作用する。
【0031】
癌において破壊され得るインプリンティングのさらに別の考え得るメカニズムは、ヒストン脱アセチル化を伴い、これは哺乳類ではX不活性化(非特許文献69)に、酵母菌ではテロメアサイレント化(非特許文献70)に関連する。ヒストンアセチラーゼおよびヒストンデアセチラーゼの両方に関する遺伝子は、近年単離された(非特許文献71、;非特許文献72)。
【0032】
さらに、酵母菌におけるテロメア無症候化も、特定の遺伝子、例えばSIR1−SIR4の作用を伴い、このいくつかは哺乳類における相同物を有する(非特許文献73)。同様に、哺乳類における遺伝子サイレント化のいくつかの例は、位置依存性後成的サイレント化の一形態であるショウジョウバエにおける位置−作用変動に類似し得る(非特許文献74)。
【0033】
最後に、母系および父系染色体上のインプリントされた遺伝子座は、DNA複製中に相互作用し得る。インプリントされた遺伝子を保有する染色体領域は、複製および同時性を示す(非特許文献75)。さらに、いくつかのインプリントされた遺伝子のうちの2つの親相同物は、後期S期において非無作為的な近位性を示す(非特許文献76)が、このことはショウジョウバエにおける後成的なサイレント化に関して観察されているように、ある形態の染色体クロストークを示唆する(非特許文献77)。
【0034】
ヒトIGF2およびH19遺伝子は正常にインプリントされる。即ち特定の親対立遺伝子の選択的発現を示す(非特許文献26、非特許文献78、非特許文献79、非特許文献80、非特許文献81)。
【0035】
さらに、前記のように、いくつかの腫瘍は癌におけるインプリンティングの損失(LOI)を蒙り、下記の1つ又はそれ以上を伴い:IGF2の二対立遺伝子発現(非特許文献26、非特許文献81)、H19の後成的なサイレント化(非特許文献61、非特許文献64)、および/または父系H19対立遺伝子の異常発現(非特許文献82)、そしてこの観察は広範な種々の小児期および成人の悪性疾患にまで及んだ(非特許文献82、非特許文献83)。
【0036】
LOIは正常な非メチル化母系H19対立遺伝子の異常なメチル化に関連するため、正常なインプリンティングは、H19の対立遺伝子特異的、組織非依存性メチル化により一部保持され得る(非特許文献61、非特許文献63)。
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【非特許文献78】Zhang,Y.and Tycko,B.(1992) Nat.Genet.1 : 40-44
【非特許文献79】Giannoukakis et al.(1993) Nat.Genet.4 : 98-101
【非特許文献80】Ohisson et al.(1993) Nature Genet.4 : 94-97
【非特許文献81】Ogawa et al.(1993b) Nature 362 : 749-751
【非特許文献82】Rainier et al.(1993)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 85 : 6384-6388
【非特許文献83】Suzuki et al.(1994)Nat.Genet.6:332-333
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0037】
ゲノムインプリンティングの変化は、近年、ヒトの癌で同定されており、一般に小児期および成人の悪性疾患の両方に現れる。当業界では異常なインプリンティングおよび疾患状態とのその関連が教示されているが、しかしこのような細胞に対して正常なインプリンティングを復元する方法は、当該技術分野にはない。
【0038】
したがって、細胞への正常パターンのインプリンティングを復元する方法が、当該技術分野には必要である。
【課題を解決するための手段】
【0039】
インプリンティングに関連した疾患の診断および治療のための組成物および方法が提供される。このような組成物および方法は、細胞へのインプリンティングの正常なパターンを復元するのに有用である。組成物は、インプリンティングに関与する薬剤を包含する。
この薬剤は、細胞へのインプリンティングの正常なパターンを復元し得る。このように、この組成物および方法は、異常なインプリンティングに関連した疾患を有する患者の治療に用途を見出す。このような方法は、インプリンティングの正常なパターンを復元するための薬剤による治療に反応するであろう患者において、ある種の癌または悪性細胞増殖を含む疾患および疾患サブタイプを同定するための診断マーカーとしても用いられ得る。
【0040】
本発明の方法は、異常にインプリントされた染色体および遺伝子に対して、正常にインプリンティングを復元させることによりそれらの効果を発揮する薬理学的化合物を同定するための手段を含む。この実施態様では、どの薬剤が、そして他の薬剤を開発するためのどのリード化合物がインプリンティング関連疾患の診断および治療に有用であるかを判定するために、基準となる細胞系(即ち、正常または異常なインプリンティングを伴う細胞系)に対して薬剤を試験するための方法が提供される。
【0041】
どの薬剤がインプリンティングに関連する疾患の診断および治療に有用であるかを判定するために、国立癌研究所National Cancer Institute(NCI)データベース中の細胞系のように基準となる細胞系に対して薬剤を試験するための方法が提供される。
【0042】
さらに、このような化合物、このような化合物を含む組成物、およびそれらの使用方法が包含される。
【0043】
本発明はさらに、癌または悪性細胞増殖を発症する個体の傾向を判定するための方法である。このような診断は、関心の細胞に対するインプリンティングのパターンの判定を含む。判定後は、異常なインプリンティングが見出されるところで予防的な療法をすることができる。これらの場合、本発明の方法を用いて悪性細胞を治療し、そしてインプリンティングの異常なパターンを示す正常なまたは前疾患の細胞に正常パターンのインプリンティングを復元することができる。
【0044】
同様に、本発明の方法を用いて、特定の個体における特定の悪性増殖の治療のために特殊化されたレジメン(養生法)が開発され得る。このような個別化なレジメンは、正常細胞に対して最小限の損傷しか与えない癌または悪性疾患の治療として有用である。
【0045】
多数のタイプの癌または臓器の特異的な悪性細胞増殖のように、特に親由来の特異的染色体のまたは遺伝子の改変に関連し、異常なインプリンティングに関連したヒト疾患の診断および治療に有用な薬剤組成物が提供される。根元的なインプリンティングメカニズムが未だ明らかにされていないインプリンティングに関連する癌または悪性細胞増殖の診断および治療に有用な薬剤組成物を本発明は包含する、ということに留意することは重要である。言い換えれば、本発明は、悪性な増殖を抑制することにより、開示した治療方法に応答するあらゆる好結果の癌の診断および治療を包含する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0046】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0047】
異常なインプリンティングパターンを有する細胞にインプリンティングの正常パターンを復元するための組成物および方法が提供される。組成物は、細胞へのインプリンティングの正常パターンに関与し、そして復元することができる薬剤を含む。本発明の組成物および方法は、あらゆる種類の細胞において正常なインプリンティングを復元するために使用することができる。特に興味深いのは真核細胞、特に植物および哺乳類の細胞、特にヒトの細胞である。
【0048】
インプリンティングは、植物および哺乳類の真核細胞で観察されている(Yoder and Bes
tor(1996)Biol.Chem.377(10):605-610)。ヒトまたはその他の哺乳類では、正常インプリンティングはいくつかの基本的な細胞のおよび発生の過程が土台となる。したがって、異常なインプリンティングパターンは、広範な種々の破局的なヒト疾患に関係がある。本発明により提供されるような正常なインプリンティングパターンの復元は、異常なインプリンティングに関連した疾患の診断、予防および治療に有用である。
【0049】
インプリンティングは、配偶子または接合子中のそれが存在する遺伝子または染色体の特定の親対立遺伝子の後成的な修飾と定義され、子孫の体細胞中の2つの対立遺伝子の特異な発現を引き起こす。
【0050】
本発明の方法は、細胞にインプリンティングの正常パターンを復元するのに使用することができる。「インプリンティングの正常パターン」とは、インプリントされた遺伝子の片親対立遺伝子の選択的な発現および/またはインプリントされた遺伝子の片親対立遺伝子の選択的なメチル化を意味する。「インプリンティングの損失またはLOI」とは、正常パターンのインプリンティングの損失、即ち、インプリントされた遺伝子の片親対立遺伝子の選択的な発現の損失および/またはインプリントされた遺伝子の片親対立遺伝子の選択的なメチル化の損失を意味する。LOIは、種々の異常な発現パターンにより示される。
【0051】
このようなパターンとしては、以下のものが挙げられるが、これらに限定されない:両対立遺伝子の等しい発現;正常例が1つの対立遺伝子の完全なサイレント化である場合における正常なサイレント対立遺伝子の有意(>5%)な発現;インプリントされた遺伝子の正常な発現コピーの後成的なサイレント化;正常例は単一の対立遺伝子のメチル化である場合における、両対立遺伝子のメチル化の非存在および/または両対立遺伝子のメチル化。
【0052】
本発明の組成物および方法は、このような正常パターンのインプリンティングを復元するよう働く。このような方法および組成物は、遺伝子発現の程度およびパターンの両方を調整することができる。
【0053】
したがって、本発明の目的のためには、「正常インプリンティングの復元」とは、インプリントされた遺伝子の片親対立遺伝子の選択的な発現を復元することを意味する。正常なインプリンティングを復元するためには種々のメカニズムが利用可能であり、このようなメカニズムはすべて本明細書中に包含されると認識される。このようなメカニズムを以下に挙げる:処置前に有意な比較可能なレベルで両対立遺伝子が発現される場合における対立遺伝子対の1つのコピーの相対的なサイレント化;正常に発現される同一親対立遺伝子の選択的な発現の復元;正常な組織中で観察されるものとは逆のパターンでの特定の対立遺伝子の選択的な発現(対立遺伝子スイッチング);2つのコピーがサイレント化されていた場合のインプリントされた遺伝子の1つのコピーの再発現;対立遺伝子対のメチル化の正常パターンの復元、即ち、一方の対立遺伝子がメチル化され、他方の対立遺伝子がメチル化されない場合、異常なインプリンティングが両対立遺伝子上のメチル化の非存在により、あるいは両対立遺伝子のメチル化により示される場合;ならびにその他のメカニズムである。各メカニズムで重要なことは、片親対立遺伝子の選択的発現が復元されることである。
【0054】
本発明の組成物および方法は、異常なインプリンティングに関連した疾患の治療に有用である。いくつかの場合、異常なインプリンティングを示す遺伝子が明らかにされている。癌の場合には、特に、多数の遺伝子が正常な発現対立遺伝子の後成的にサイレント化を伴うインプリンティングの損失を示す。このような遺伝子としてはH19、IGF2、p57KIP2が挙げられるが、これらに限定されない(Matsuoda et al.(1996)Proc.Natl.
Acad.Sci.USA 93:3026-3030;およびThompson et al.(1996)Cancer Res.56:5723-5727);TSSC3;KvLQT1(Lee et al.(1997)Nature Genetics 15:181-185;Rainier et al.(1993)Nature 362:747-749)。しかしながら、本発明の方法は、疾患に関与する遺伝子の認知に依らない。本発明の組成物および方法は、関与する遺伝子または遺伝子群が分からない場合でも、インプリンティングの正常パターンを復元するよう働く。
【0055】
本発明の方法は、多数の組織に影響を及ぼす一連の疾患に関与する細胞にインプリンティングの正常パターンを復元するための使用を提供する。今日までのところ、このような疾患としては以下のものが挙げられる:親特異的二染色体により引き起こされるプラーダーヴィリおよびアンゲルマン症候群(Nicholls et al.(1989)Nature 342:281-285;Knoll
et al.(1989)Am.J.Med.Genet.32:285-290;Knoll et al.(1990)Am.J.Hum.Genet.47:149-155;Mattei et al.(1984)Hum.Genet 666:313-334;Nicholls et al.(1993)Curr.Opin.,Genet.Dev.3:445-446;Dittrich et al.(1996)Nat.Genet.14:163-170;Ledbetter et al.(1995)Hum.Mol.Genet.4:1757-1764);筋緊張性ジストロフィー(DM)、ハンチントン病(HD)、1型脊髄小脳性運動失調(SCA1)、脆弱X症候群(FRAXA)、ならびに1および2型神経繊維腫症(Chatkupt et al.(1995)J.Neurol.Sci.130:1-10);精神分裂病(Ohara et al.(1997)Biol.Psychiatry 42(9):760-766);自己免疫疾患(Politaev and Selifanova(1994)Life Sci.54:1377-1381;Kerzin Storrar et al.(1988)Neurology 38:38-42)。
【0056】
さらに、正常なインプリンティングパターンの損失は、腫瘍形成および特定の癌、例えばウィルムス腫瘍(Ogawa et al.(1993)Nature 362:749-751);横紋筋肉腫(Zhan et al.(1994)J.Clin.Invest.94:445-448)、ユーイング肉腫(Zhan et al(1995)Oncogene 11:2503-2507);生殖細胞腫瘍(van Gurp et al.(1994)J.Natl.Cancer Inst.86:1070-1075);絨毛癌(Hashimoto et al.(1995)Nat.Genet.9:109-110)、肺癌(Suzuki et al.(1994)Nat.Genet.6:332-333)、胚芽細胞腫瘍(Rainier et al.(1995)Cancer Res.55:1836-1838);胞状奇胎(Kajii and Ohama(1977)Nature 268:633);単為生殖性卵巣tetromas(Linder et al.(1975)N.Eng.J.Med.292:63-66);パラガングリオーマまたは糸球腫瘍(Van Der May et al.(1989)Lancet 2:1291-1294);神経芽細胞腫における父系対立遺伝子の選択的増幅を示す(Cheng et al.(1993)Nature Genet.4:187-190);網膜芽細胞種(Naumova et al.(1994)Am.J.Hum.Genet.54:274-281);白血病(Momparler et al.(1997)Anti-Cancer Drugs 8:358-368;Petti et al.(1993)Leukemia 7(Supp.1):36-41);肝細胞癌およびそれらの正常組織(Takeda et al.(1996)Oncogene 12:1589-1592);食道癌(Hibi et al.(1996)Cancer Res.56:480-482);肺癌(Suzuki et al.(1994)Nat.Genet.6:332-333およびKondo et al.(1995)Oncogene 10:1193-1198);副腎皮質癌、乳癌、膀胱癌、卵巣癌、結腸癌、精巣癌、前立腺癌(Hu et al.(1997)Genomics 46:9-17,Jarrard et al.(1995)Clin.Cancer Res.1:1471-1478)、ならびにベックウィズ−ヴィーデマン症候群(BWS)(Henry et al.(1991)Nature 35:609-610)の進行に特に関連する(Rainier et al.(1993)Nature 362:747-749;Feinberg et al.(1993)Nature Genet.4:110-113;Feinberg et al.(1995)J.Natl.Cancer Inst.Monographs 17:21-26)。黒色腫、白血病、そして卵巣、腎臓および中枢神経系起源の癌も含まれる。
さらに別の癌および/または疾患も異常なインプリンティングに関連する、と認識されている。
【0057】
本発明の方法は、これらの疾患に適用可能であり、この場合、インプリンティングの正常パターンがこのような細胞中に復元され得る。
【0058】
LOIは、増殖促進遺伝子の正常なサイレントコピーの活性化、腫瘍サプレッサー遺伝子の正常な転写コピーのサイレント化、またはその両方を伴い得る。これらの変化は、ある染色体から後遺伝子型の他の染色体へのスイッチングを伴い得る。例えば、母系染色体
は後遺伝子型の父系染色体にスイッチングされ得る。
【0059】
本発明の組成物は、細胞のインプリンティングパターンを変え得る薬剤を含む。このような薬剤としては、DNAメチルトランスフェラーゼ、トポイソメラーゼII、DNA合成、微小管形成およびヒストン脱アセチル化の阻害剤などのようなDNAのメチル化に関与する薬剤が挙げられる(Wachsman(1997)Mutat Res 375(1):1-8)。このような薬剤の特定の例としては、5−azaCdR、トリコスタチンA、ランカシジン、ベンゼンアミン、ブループラチナウラシル、シクロヘキサン酢酸およびメチル 13−ヒドロキシ−15−オキソ−カウレノエートなどが挙げられる。
【0060】
ゲノムインプリンティングに関与するさらに別の薬剤を同定するための方法が提供される。特に興味深いのは、異常にインプリントされた細胞にインプリンティングの正常パターンを復元することができる薬剤の同定である。このような薬剤の同定方法は、細胞への薬剤の投与、予備処置期間の細胞または基準となる細胞系のものと比較した場合の細胞のインプリンティングのパターンの判定を含む。多数のヒト癌細胞系は、関心のある薬剤によるインプリンティングの作用を試験するために利用可能である(例えば、Weinstein et
al.(1997)Science 275:343-349(この記載内容は、参照により本明細書中に含まれる)参照)。関心のある薬剤の投与は、単独で、または他の薬剤との組合せて行うことが可能である。
【0061】
細胞は、異常にインプリントされた細胞にインプリンティングの正常パターンを復元することができる既知の薬剤に対するそれらの性質を基礎にして選択され得る(例えば、本明細書中の実施例を参照)。
【0062】
インプリンティングに関与する薬剤を試験するための組合せアプローチを用い得る、ということも認識される。したがって、細胞にインプリンティングの正常パターンを復元することができる化学化合物の選択方法が提供される。このような方法は、Weinstein et al.(1997)Science 275:343-349に記載されているような薬剤発見プログラム系への化合物の投与を包含する。インプリンティングの正常パターンを復元する能力に関して試験される化合物は、このような細胞に投与される。LOIの逆転を示すこれらの化合物が、さらなる試験のために選択される。
【0063】
試験される化合物は、有機化合物、ペプチド、化学的修飾または置換を含有するペプチドなどである。このような化合物の合成方法は、当該技術分野のものを利用することができる。組合せによる化学的なアプローチを用いることもできる。このようなアプローチは、選択のために利用可能な分子の多様性の範囲を増大させ、生物学的活性の調査がされる分子の無作為的な収集の範囲をより大きく広げる(一般的には、John N.Abelson(ed.)Methods in Enzymology,Combinatorial Chemistry,Vol.267,Academic Press(1996)(この記載内容は、すべて参照により本明細書中に含まれる)参照)。
【0064】
同様にして、一旦リード化合物が同定されると、それらはこのような組合せによる化学的な方法を用いて修飾することができ、より大きい作用または安定性を有する化合物または薬剤を選択することができる。
【0065】
ペプチドは無作為に合成され、その後、インプリンティングに関与するものに関して試験してもよい。このような無作為ペプチドライブラリーの作成方法は、既知である(例えば、米国特許第5,270,170号;第5,498,530号;およびH.M.Sassenfeld(1990)TIBTECH 8:88-93(これらの記載内容は、参照により本明細書中に含まれる)参照)。
【0066】
同一効果は、活性を示すタンパク質の一部の遺伝子の伝達によっても成し遂げ得る。遺伝子の伝達のためのこのようなベクターは当業界で利用可能であり、その例としては以下のものが挙げられる:SV40ウイルス(例えば、Okayama et al.(1985)Molec.Cell Biol.5:1136-1142参照);ウシパピローマウイルス(例えば、DiMaio et al.(1982)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 79:4030-4034参照);アデノウイルス(例えば、Morin et al.(1987)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 84:4626;Yifan et al.(1995)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 92:1401-1405;Yang et al.(1996)Gene Ther.3:137-144;Tripathyet al.(1996)Nat.Med.2:545-550;Quantin et al.(1992)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 89:2581-2584;Rosenfeld et al.(1991)Science 252:431-434;Wagner(1992)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 89:6099-6103;Curiel et al.(1992)Human Gene Therapy 3:147-154;Curiel(1991)Proc.Natl.Acad.Sci.USA88:8850-8854;LeGal LaSalle et al.(1993)Science 259:590-599;Kass-Eisler et al.(1993)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 90:11498-11502参照);アデノ関連ウイルス(例えば、Muzyczka et al.(1994)J.Clin.Invest.94:1351;Xiao et al.(1996)J.Virol.70:8098-8108参照);単純ヘルペスウイルス(例えば、Geller et al.(1988)Science 241:1667;Huard et al.(1995)Gene Therapy 2:385-392;米国特許第5,501,979号参照);レトロウィルスベースのベクター(例えば、Curran et al.(1982)J.Virol.44:674-682;Gazit et al.(1986)J.Virol.60:19-28;Miller,A.D.(1992)Curr.Top.Microbiol.Immunol.158:1-24;Cavanaugh et al.(1994)Proc.Natl.Acad.Sci.USA91:7071-7075;Smith et al.(1990)Molecular and Cellular Biology 10:3268-3271参照)(これらの記載内容は、参照により本明細書中に含まれる)。
【0067】
同様に、ペプチドはあらゆる哺乳類発現ベクターに用い得る(例えば、Wu et al.(1991)J.Biol.Chem.266:14338-14342;Wu and Wu(J.Biol.Chem.(1988)263:14621-14624;Wu et al.(1989)J.Biol.Chem.264:16985-16987;Zenke et al.(1990)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 87:3655-3659;Waqner et al.(1990)87:3410-3414)参照)。
【0068】
本発明のベクターの構築のための標準的技法は当業者には周知であり、Sambrook et al.,Molecular Cloning:A Laboratory Manual,2nd ed.(Cold Spring Harbor,New York,1989)といった参考文献に見出される。DNAの断片を結紮するために種々の戦略が利用可能であり、その選択はDNA断片の末端の性質に依っており、選択は当業者により容易になされ得る。
【0069】
インプリンティングのパターンの判定方法は、当業界では知られている。本方法は分析される遺伝子によって変わり得る、と認識される。一般に、対立遺伝子特異的遺伝子発現の検定方法では、RNAは逆転写酵素により逆転写され、次に、その部位が多形的である(即ち、集団で正常に変化可能である)エキソン内の部位に及ぶPCRプライマーを用いてPCRが実施され、そしてこの分析は多形性に関してヘテロ接合性である(即ち情報を与え得る)個体で実施される。次に、多数の検出計画のいずれかを用いて、一方または両方の対立遺伝子が発現されるか否かを判定する。遺伝子発現、対立遺伝子の特異的遺伝子発現およびDNAのメチル化の査定方法が包含される(本明細書中の実施例の項を参照)。
【0070】
さらに、新規のインプリントされた遺伝子を同定するための直接的アプローチとしては以下のものが挙げられる:他の既知のインプリントされた遺伝子の近くのインプリントされた遺伝子を同定する目的でのポジショナルクローニング(Barlow et al.(1991)Nature 349:84-87)の試み;単為生殖胚における遺伝子発現と正常胚の場合とを比較する技術(Kuroiwa et al.(1996)Nat.Genet.12:186-190);そして制限ランドマークゲノムスキャニング(Nagai et al.(1995)Biochem.Biophys.Res.Commun.213:258-265)。Rainier et al.(1993)Nature 362:747-749(これは、RNAを逆転写し、ネスティドPCRというよりむしろ単一の環を可能にする新規のプライマーを用いてPCRによりcDNAを増幅することによるIGF2およびH19の対立遺伝子の特異的な発現の査定を教示する)
;Matsuoka et al.(1996)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 93:3026-3030(p57KIP2における転写多形の同定を教示);Thompson et al.(1996)Cancer Research 56:5723-5727(P57KIP2の対立遺伝子の特異的な発現のRPAおよびRT−PCR分析によるmRNAレベルの確定を教示);そしてLee et al.(1997)Nature Genetics 15:181-185(2つの多形部位のRT−PCR SSCP分析を教示)も参照のこと。このような開示は、参照により本明細書中に含まれる。
【0071】
一旦薬剤が同定されれば、それらの薬剤は癌の、即ち組織または器官の悪性増殖、ならびに前記のような異常インプリンティングに関連した他の疾患の治療または予防のための方法に用い得る。このような方法は、それが必要な患者にインプリンテイングの正常パターンを復元し得る有効量の薬剤の投与する工程を含む。治療の必要性は、患者が標的細胞における根元的な異常パターンのインプリンティングおよび特定の疾患に伴う症状の両方を示すという観察に基づく。予防の必要性は、標的細胞における根元的な異常インプリンティングパターンの観察に基づく。
【0072】
「有効量」とは、それらの細胞にインプリンティングの正常パターンを復元するのに必要な標的器官のまたは組織の細胞中における薬剤の濃度を誘導する量を意図する。このような有効量は、薬剤(または化合物)毎に変わり得る。
【0073】
このような有効量は、二次的作用である正常細胞への細胞毒性が最小限に保持され得るように、培養中の癌細胞に投与され得る、ということが示されている。例えば、このような結果は、0.3〜1.0μMの5−azaCdR中で24時間培養された腫瘍細胞を用いて得られた(本明細書の実施例の項参照)。
【0074】
本明細書中に記載された同一または同様の薬剤のいくつかは一般的な細胞毒性作用を通して抗癌活性を示し得るが、本発明は、異常なインプリンティングを有する標的細胞に及ぼす一般的な非特異的な細胞毒性作用から明瞭に且つ別個にそれらの第一の作用を発揮する方法および組成物を述べる、ということを強調すべきである。
【0075】
特定の薬剤の用量は、腫瘍細胞でインビトロ(in vitro)で用いられた用量を基礎にして予測され得る。化合物または薬剤が前に用いられたことがない場合、用いられたことのある他の薬剤とのその関係に基づいて予測をすることができる。特定の薬剤の予測できる範囲は、in vitroにおいて標的細胞に対応する細胞でさらに試験して、異常なインプリンティングを変えるのに必要な濃度を決めることができる。このような有効濃度を用いて、患者における適切な用量および投与方法を推定し得る。
【0076】
本発明はこのようには結びつかないが、一般的に細胞毒性作用を発揮するために薬剤が用いられた場合には、有効量としてここに包含される量は、当該技術分野で教示されている量を下回る。例えば、5−アザ−2'−デオキシシチジンを用いる場合、白血病に関する治療で教示されている従来技術では0.86〜1.3mMである。本発明の目的のための同一薬剤の有効量は、約0.3〜約1.0μMであり、当該技術分野で教示されている値の1000分の1の用量である。
【0077】
薬剤の有効量は疾患の種類および程度、各々の特定の薬剤の薬理学的なパラメーター、ならびに特定の薬剤による治療に対する個々の患者の反応性によって変わる、と認識される。
【0078】
本発明の方法は悪性な増殖または癌に対する個々のレジメン計画を処方するのに用いることができる。この計画は、上記の変数の点で、特定の患者における特定の種類の癌に対して有効な薬剤の決定に基づく。例えば、患者から得られる癌性組織および正常組織を用
いて、細胞のインプリンティングパターンを決定することができる。得られた組織から確立される細胞系または一次培養は、細胞への正常インプリンティングを復元し、ならびに悪性細胞の増殖を抑制し得る標的細胞中での薬剤の種類および有効濃度を決定するために使用することができる。これにより、正常細胞に対する最小度の細胞毒性を有する有効なレジメンの提供が可能になる。
【0079】
特定の作用物質または薬剤は、特定の患者のいくつかの癌には有効であるが、他のものでは有効でない、と当業技術分野では認識される。本明細書中の方法により、医者はある個体に特に適したレジメンを設計できる。
【0080】
本発明の組成物は、非経口(例えば、皮下、皮内、筋肉内、静脈内および関節内)投与に適した薬剤処方物として提供され得る。本発明の処方物は、生理学的または製薬上許容可能な担体、例えば水性担体中に薬剤を包含する。このような投与は、全身的、あるいは特定の組織または器官への還流を提供する。処方物は単位投与形態で調製するのが便利であり、当該技術分野で周知のいずれかの方法により調製され得る。このような処方物は、例えばRemington's Pharmaceutical Sciences 19th ed.,Osol,A.(ed.),Mack Easton PA(1980)に記載されている(この記載内容は、参照により本明細書中に含まれる)。指示されたあらゆる場合に最も適した投与経路は、被験者、処置される症状の性質および重症度、そして使用中の特定の活性化合物による。
【0081】
本発明は、種々の疾病のための薬剤の調製のための前記の特徴を有する薬剤の使用を提供する。本発明による薬剤の製造においては、薬剤または薬剤群が典型的には、とりわけ許容可能な担体と混合される。あらゆる不活性な製薬上許容可能な担体、許容可能な純度の滅菌食塩水または水、あるいはリン酸緩衝化生理食塩水、または本発明の方法に用いるために本発明の組成物が適切な溶解度特性を有するこのようなあらゆる担体を用い得る。担体は、もちろん、処方物中の他のあらゆる成分と相溶性であるという意味で許容可能でなければならず、そして患者に有害であってはならない。担体は、固体または液体である。
【0082】
本発明の1つ以上の薬剤が本発明の処方物に混入され得るが、これらは本質的に、任意に1つ以上の補助治療成分を含めた成分を混合することからなる薬学上周知な技術のいずれかにより調製され得る。
【0083】
処方物の水性および非水性の滅菌懸濁液は、沈殿防止剤および増粘剤を含み得る。処方物は、単位投与のまたは多段階投与の容器中に、例えば密封アンプルおよびバイアル中に存在し、使用直前に注入するために滅菌液体担体、例えば食塩水または水を付加するだけでよいフリーズドライ(凍結乾燥)状態で保存され得る。
【0084】
さらに別の製薬法が作用持続期間を制御するために使用できる。制御された放出をする薬剤は、組成物と複合体を形成するかまたは組成物を吸収するためのポリマーの使用により成し遂げ得る。制御された供給は、適切な高分子物質(例えばポリエステル、ポリアミノ酸、ポリビニルピロリドン、エチレン−ビニルアセテート、メチルセルロース、カルボシメチルセルロースまたは硫酸プロタミン)を選択することにより行うことができる。薬剤の放出速度は、このような高分子物質の濃度を変えることにより制御され得る。
【0085】
作用持続時間を制御するための別の可能な方法は、ポリエステル、ポリアミノ酸、ヒドロゲル、ポリ(乳酸)またはエチレンビニルアセテートコポリマーの粒子のような高分子物質の中に治療薬を組み入れることを含む。あるいは、例えばコアセルベーション技法により、または界面重合により、例えばヒドロキシメチルセルロースあるいはそれぞれゼラチン−マイクロカプセルまたはポリ(メチルメタクリレート)マイクロカプセルの使用に
より調製されるマイクロカプセル中に、もしくはコロイド薬剤送達系中に、例えばリポソーム、アルブミン、ミクロスフェア、ミクロエマルション、ナノ粒子、ナノカプセル中に、またはマクロエマルション中に閉じ込め得る。このような教示は、Remington's Pharmaceutical Sciences(1980)に開示されている。
【0086】
投与される薬剤の用量は、実施される特定の方法に依り、被験者に投与されている場合には、疾患、被験者の症状、特定の処方物、投与経路等による。概して、化合物の量は、前記のようにインプリンティングの正常パターンを有効に復元するために細胞中に必要な化合物の濃度を基礎にして算出される。この量は、化合物によって変わる。
【0087】
本発明の組成物は、単独でまたは他の薬剤および癌および悪性の細胞増殖の治療のための治療薬と、ならびに異常なインプリンティングに関連したその他の疾患の治療に有用な他の薬剤と組合せて用い得る。他の薬剤は、当該技術分野では既知である。
【0088】
癌または悪性な増殖の一モデルでは、悪性細胞の正常アポトーシス経路は破壊されている、と仮定される。したがって、細胞は突然変異後に死なず、むしろ生き残り増殖する。異常なインプリンティングはアポトーシスを抑制し得る(Christofori et al.(1994)Nature 369:414-418およびChristofori et al.(1995)Nature Genetics 10:196-201)。本明細書中ではこの仮説に限定されないが、しかし本発明の作用物質および方法は、インプリンティングの正常パターンを復元することにより、これらの細胞におけるアポトーシス経路を復元するのに役立ち得る。このように、本発明の薬剤は、腫瘍細胞を治療する場合に他の薬または薬剤の作用を増強するよう働く。
【0089】
本発明の方法は、インプリンティングの異常パターンに関連した疾患の診断および分類に、そしてこのような疾患がインプリンティングの正常パターンを復元する薬剤の投与後に治療に反応するか否かを決定するのにも有用である。例えば、本明細書中の仕事は、結腸直腸癌患者が癌組織でLOIを示すがこれらの癌患者の正常粘膜細胞もLOIを示すことを実証する。したがって、LOIは癌の発症に先行し、癌あるいは悪性または腫瘍増殖の発症に対する個体の傾向を予測するのに用い得ると考えられる。
【0090】
したがって、本発明の方法は癌を発症する個体の傾向を判定するのに使用することができる。異常パターンが検出された場合、本発明の薬剤を用いて悪性な増殖または疾患の開始を予防し得る。このような投与は、正常パターンのインプリンティングおよび正常一対立遺伝子発現の復元を生じる。特異的インプリントされた遺伝子座の特定の疾患との関連に関してさらに多くの情報が利用できるようになるので、本発明の方法は、このような疾患に対する個体の傾向を確定する場合に、そしてこのような疾患の予防および治療のための有効な療法を提供する場合により広い適用性を獲得する。
【実施例】
【0091】
〔実施例1〕
腫瘍細胞におけるインプリンティングの損失の逆転材料と方法 細胞培養および5−azaCdRによる処置。
JEG−3ヒト絨毛癌およびCOLO−205ヒト結腸腺癌細胞系を、ATTCから入手した。細胞を、抗生物質を含有するRPMI 1640、10%ウシ胎仔血清、5%CO2中で培養した。6cm皿中の104〜105個の細胞を0.3〜10μM 5−azaCdRで24時間処置した。培養をハンクの緩衝化生理食塩溶液中で洗浄し、集密増殖させた。0.3〜3.0μMの濃度で最小度(0〜30%)の細胞毒性が生じた。
【0092】
遺伝子発現の分析。
遺伝子発現の定量的分析のために、全RNAを前記(Chomczynski,P.and Sacchi,N.(
1987)Anal.Biochem.162:156-159)のように単離し、10μgをホルムアルデヒドを含有する1.2%アガロースゲル中で電気泳動処理し、Hybond-N+膜(Amersham)に移して、前記のようにH19およびIGF2プローブとハイブリダイズさせた(Steenrnan et al.(1994)Nature Genet.7:433-439)。GAPDHとのハイブリダイゼーションを、RNA負荷に関する対照として用いた。対立遺伝子特異的発現の分析のために、0.5μgのRNAをDNアーゼI(Boehringer Mannheim)で処理し、95℃に7分間加熱して、IGF2およびH19の両方に関して前記のようにRT−PCRを実施した(Rainier et al.(1993)Nature 362:747-749)が、しかし、プライマーHP1およびHP2を用いたネスティドPCR(Hashimoto et al.(1995)Nat.Genet.9:109-110)をH19分析のために実施した。
【0093】
PCR生成物を、前記のように(Tadokoro et al.(1991)Nucleic Acids Res.19:6967)、Apa I(IGF2分析のために)またはAlu I(H19分析のために)で消化し、4%Nusieve−アガロース(3:1)ゲル上で電気泳動処理した。各試料を、逆転写酵素の存在下および非存在下で2回分析して、DNA夾雑物を除去した。ゲルをブロティングして、32P−標識化内部特異的オリゴヌクレオチドプローブ(Rainier et al.(1993)Nature 362:747-749)とハイブリダイズして、Phosphorimager(Molecular Dynamics)を用いて定量した。
【0094】
DNAメチル化の分析。
DNAメチル化の定量分析のために、前記のように(Rainier et al.(1993)Nature 362:747-749)ゲノムDNAを調製し、H19プロモーターCpGアイランドのメチル化のサザン分析を、前記のように(Reik et al.(1994)Hum.Mol.Genet.4:2379-2385)実施した。フィルターをH19の1.8kb pst I断片とハイブリダイズさせた。これはインプリント特異的メチル化を検出する(Steenman et al.(1994)Nature Genet.7:433-439)。対立遺伝子特異的メチル化の分析のために、1μgのDNAをBamH IまたはBamH I+Hpaで消化した。
【0095】
消化後、100℃に10分間加熱して酵素を不活性化し、50ngの消化DNAを、プライマーHP1(5'-TACAACC-ACTGCACTACCTG-3')およびH3(5'-TGGAATGCTTGAAGGCTGCT-3')(Hashimoto et al.(1995)Nat.Genet.9:109-110)を含有する緩衝液F(Invitrogen)中のPCR反応ミックスに付加した。最初のサイクル(94℃、4分)の後に、94℃で1分、60℃で1分、72℃で1分の処理を28サイクル施した。PCR生成物(227 bp)をAlu Iで消化して、3%Nusieve/1%アガロースゲル上で電気泳動処理し、Hybond-N+膜(Arnersham)に移して、内部オリゴヌクレオチドプローブ HP2(5'-TGGCCATGAAGATGGAGTCG-3')とハイブリダイズさせて、次にPhosphorimager(Molecular Dynamics)を用いて定量した。
【0096】
結果
ここに記載した実験の目的は、腫瘍細胞におけるインプリンティングの損失(L0I)の何らかの特徴が、DNAのメチル化の特異的阻害剤である5−アザ−2'−デオキシシチジン(5'−azaCdR)により逆転可能であるか否かを判定することであった。2つの判定基準:即ちそれらはIGF2およびH19における転写多形に関してヘテロ接合性であって、したがってインプリンティング試験に関する情報を有していた;そして、それらはLOIを示した:の2点を満たしたものに関して細胞系をスクリーニングすることにより、我々は、モデル系として2つの腫瘍細胞系、JEG−3絨毛癌およびCOLO−205結腸直腸癌細胞を選定する。細胞を、我々の実験室(Rainier,S.and Feinberg,A.P.(1988)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 85:6384-6388)および他の実験室(Taylor,S.M.and Jones,P.A.(1979)Cell 17:771-779)の両方で実験的に決定された濃度で、5−azaCdRで24時間(約1細胞分裂)処理し、低メチル化を最大にし、細胞毒性を最小
限にした。
【0097】
IGF2のLOIに及ぼす5−azaCdRの作用を、我々は先ず調べた。LOIを有する腫瘍細胞は、特異的な親対立遺伝子の選択的発現を示す正常なインプリンティングに対比して、IGF2の等しい二対立遺伝子発現を示す(Rainier et al.(1993)Nature 362:747-749;Ogawa et al.(1993b)Nature 362:749-751;Rainier et al.(1995)Cancer Res.55:1836-1838;Zhan et al.(1994)J.clin.Invest.94:445-448;Suzuki et al.(1994)Nat.Genet.6:332-333)。
【0098】
予想通り、未処置腫瘍細胞、ならびにPBSで処置したコントロール腫瘍細胞は、IGF2の2つの対立遺伝子とほぼ等しい発現を示した(図1A)が、これはLOIを示す。これに対比して、5−azaCdRの量を増加させる処置は、2つのIGF2対立遺伝子の等しくない発現を生じさせ、Apa I多形部位を欠く対立遺伝子の選択的な発現を伴った(図1A)。対立遺伝子の選択的な発現は部分的であり、絶対的ではないが、これらの実験を5回繰り返すと常に同一結果が生じ、主に発現される対立遺伝子は常に、上部バンドにより示された。したがって、一対立遺伝子の優勢発現へのスイッチングは5−azaCdRの無作為作用というわけではなかったが、しかし一つの対立遺伝子に特異的であった。5−azaCdRによる等しい二対立遺伝子発現から片親対立遺伝子の選択的な発現への一貫したスイッチングは、二次癌細胞株に関しても観察された。したがって、CQLO−205結腸直腸癌細胞の処置もIGF2の二対立遺伝子発現から主に一対立遺伝子発現へのスイッチングを示し、同一対立遺伝子は反復実験で選択的に発現された(データは示されていない)。したがって、5−azaCdRは、LOIを有する腫瘍細胞におけるIGF2の等しい二対立遺伝子発現のパターンを部分的に阻止した。
【0099】
次に、H19の全体的発現に及ぼす5−azaCdR処置の影響を、我々は調べた。早期に我々、そして他の人たちが見出したように、IGF2のLOIはウィルムス腫瘍におけるH19のダウンレギュレーションに連関する(Steenman et al.(1994)Nature Genet.7:433-439;Moulton et al.(1994)Nature Genet.7:440-447)。未処置JEG−3細胞は、ウィルムス腫瘍と同様に、H19の発現をほとんどかまたは全く示さなかった(図1B)。0.3μMまたは1.0μMの5−azaCdRによる処置後、腫瘍細胞はH19発現の実質的増大を示し(図1B)、Phosphorimager分析により確定した場合、それぞれ30倍または50倍であった。これらの変化も、二次癌細胞系で再現可能であった。したがって、COLO−205細胞は、処置前はH19の発現をほとんど全く示さなかった。1.0μMの5−azaCdRによる処置後、細胞はH19発現を20倍増大した(データは示されていない)。したがって、5−azaCdRはLOIを有する腫瘍細胞におけるH19の後成的なサイレント化を阻止した。
【0100】
腫瘍中ではH19の全休的定量的な発現は相対的に低いにもかかわらず、ウィルムス腫瘍におけるIGF2のLOIはH19の二対立遺伝子発現に関連する(Rainier et al.(1993)Nature 362:747-749)、ということも、我々は早期に観察している。H19の二対立遺伝子発現は、JEG−3細胞の特徴でもある(Hashimoto et al.(1995)Nat.Genet.9:109-110)。したがって、H19の対立遺伝子特異的発現を我々は調べた。対立遺伝子特異的発現を反映するRT−PCR検定(Rainier et al.(1993)Nature 362:747-749)を我々は用いたが、しかし全RNAレベルを定量するために用いるべきではない。5−azaCdR処置は、二対立遺伝子発現から単一のH19対立遺伝子の選択的な発現へ変化させた。この変化は、IGF2に関して観察されたものより劇的でさえあり、A1u I多形部位を含有する対立遺伝子の一対立遺伝子発現を伴うものであった(図1C)。
【0101】
LOIは、父系対立遺伝子の正常なメチル化と同様の程度に、正常に非メチル化さている母系H19プロモーターの異常なメチル化に関連するということを、我々そして他の人
々は早期に示した(Steenman et al.(1994)Nature Genet.7:433-439;Moulton et al.(1994)Nature Genet.7:440-447;Reik et al.(1994)Hum.Mol.Genet.3:1297-1301)。5−azaCdRによる処置がこのインプリント特異的領域のメチル化を変えたか否かを確かめるために、前記のように(Reik et al.(1994)Hum.Mol.Genet.3:1297-1301)、細胞をPst IおよびSma Iで消化した。父系対立遺伝子はメチル化され、母系対立遺伝子はメチル化されないため、正常細胞は約50%のメチル化を示す(Steenman et al.(1994)Nature Genet.7:433-439;Moulton et al.(1994)Nature Genet.7:440-447;Reik
et al.(1994)Hum.Mol.Genet.3:1297-1301)。LOIを有する細胞はメチル化の増大を示し、これは母系対立遺伝子の異常メチル化を反映する(Steenman et al.(1994)Nature
Genet.7:433-439;Moulton et al.(1994)Nature Genet.7:440-447;Reik et al.(1994)Hum.Mol.Genet.3:1297-1301)。
【0102】
予想通り、PBSで処理したコントロール細胞は、H19 CpGアイランドのメチル化の増大を示した(図2A)。しかしながら、5−azaCdRによる処置後は、H19 CpGアイランドは50%に近づくメチル化のパターンを示した(図2A)。5−azaCdR処置後のIGF2インプリンティングの変化と同様に、DNAメチル化のこれらの変化も二次癌細胞株COLO−205で再現可能であった(データは示されていない)。
【0103】
最後に、これらの変化がゲノムインプリンティングにおける変化に関連し、両方のメチル化された対立遺伝子に及ぼす5−azaCdRの無作為的に作用には関連しない場合に予測されたように、5−azaCdRの作用が単一の対立遺伝子に特異的であるか否かを、我々は問うた。インプリント特異的メチル化を示すHpa II部位、ならびに遺伝子の2つの対立遺伝子を識別するAlu I多形を含有するH19の領域を、我々はPCR増幅した。PCR前にゲノムDNAをHpa IIで消化することにより、5−azaCdRによる細胞の処置の前および後に対立遺伝子がメチル化されることを我々は決定することができる。この分析は、予想通り、両対立遺伝子が5−azaCdRの非存在下でメチル化されることを示した(図2B)。しかしながら、5−azaCdRによる処置後、Alu I多形部位を欠く対立遺伝子が主として増幅された(図2B)。したがって、5−azaCdR処置後、Alu Iを含有しない対立遺伝子は依然としてメチル化されたままであるが、一方Alu Iを含有する対立遺伝子はメチル化されないようになる。したがって、一対立遺伝子は5−azaCdRにより選択的に影響を受けた。さらに、IGF2メチル化の変化は、5−azaCdRによる影響を受けず(データは示されていない)、これもこれらの細胞に及ぼす5−azaCdRの特異的作用を示す。
【0104】
要するに、5−azaCdRは、以下の判定基準の各々により、LOIを有する腫瘍細胞への正常なゲノムインプリンティングのパターンを復元した:IGF2の等しい二対立遺伝子発現は5回の反復実験において同一対立遺伝子の選択的発現にスイッチングした;H19の後成的なサイレント化は逆転された;H19の二対立遺伝子発現はすべての実験において同一対立遺伝子の一対立遺伝子発現にスイッチングした;そしてH19プロモーターの低メチル化は、一方の対立遺伝子の脱メチル化(他方はそうでない)にスイッチングした。LOIを有する腫瘍細胞に及ぼすこれらの作用は無作為的ではなく、各場合に、一方の対立遺伝子に特異的であり、それらは細胞系内および系間の両方で再現可能であった。5−azaCdRは反復実験においてIGF2を母系および父系の対立遺伝子のほぼ等しい発現を特異的な親対立遺伝子の優勢発現にスイッチングし、そしてH19の二対立遺伝子発現から一対立遺伝子発現へのスイッチングを、そしてH19発現の定量的活性化を引き起こす、ということを我々は示した。
【0105】
これらの作用は5−azaCdRに対する無作為的な反応ではなく、または他の腫瘍細胞はIGF2およびH19の両対立遺伝子の等しい発現を示し続けた。これらの実験における5−azaCdRの非無作為的な作用と一致して、H19プロモーターのDNAのメ
チル化の損失は一対立遺伝子に特異的であった。したがって、5−azaCdR処置はLOIを有する腫瘍細胞に正常パターンのゲノムインプリンティングを付与する。IGF2の場合は両対立遺伝子が発現されるため、このパターンはH19に関しては完全であり、IGF2に関しては部分的であったが、しかし同一対立遺伝子は反復実験では選択的に発現された。
【0106】
これらの結果は、3つの重要な意味を有する。第一に、腫瘍細胞における異常なインプリンティングは薬学的に修飾され得る、ということをそれらは示している。5−azaCdRに関する従来の研究により、これらの薬剤が単に両方の染色体の低メチル化を起こすと当業者は結論づけたため、これらの結果は予測されない。例えば、第7染色体に関する母系二染色体を用いたマウス細胞の5−azaCdR処置は、その染色体上の正常では無症候性の母系IGF2遺伝子の後成的活性化を引き起こすことを、Eversole−Cire等は過去に示した(Eversole−Cire et al.(1993)Mol.Cell.Biol.13:4928-4938)。同様に、Hu等は、5−azaCdRによる正常ヒト脳細胞の処置がIGF2を一対立遺伝子の選択的発現のパターンから等しい二対立遺伝子発現にスイッチングする、ということを近年見出した(Hu et al.(1993)J.Biol.Chem.271:18253-18262)。
【0107】
これに対比して、LOIを有する腫瘍細胞を用いた本明細書に記載した実験では、IGF2の対立遺伝子特異的発現のパターンは、予期に反して、等しい二対立遺伝子発現から単一対立遺伝子の優勢発現にスイッチングされた。したがって、ここに記載した結果は、従来技術で教示されたものと反対である。
【0108】
第二に、これらの実験はいくつかのインプリント特異的な情報は依然としてLOIを有する腫瘍細胞中に存在するにちがいないことを示す。
これらの結果は、予期に反して、発現に影響を及ぼすH19プロモーターのメチル化がインプリントとは無関係であり、そしてインプリントは無傷であるが、異常なメチル化によりマスクされる、ということを示す。
【0109】
第三に、これらの研究は、IGF2およびH19のそのインプリンティングの点で異なる同遺伝子系細胞系を生じるために、癌における異常なインプリンティングの分子的基礎の理解に向けての新規の実験的戦略を提供し得る。次に、例えばインプリントされることを我々が見出したp57KIP2のような付加的な標的部位での変化に関して(Matsuoka et al.(1996)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 93:3026-3030)、またはこれらの作用を仲介するために5−azaCdRにより活性化されていたトランス作用因子の変化に関して、これらの細胞株を試験し得る。ゲノムインプリンティングに影響を及ぼし得る他の薬剤を発見するために、本明細書中に記載したような細胞または実験を用い得る。
【0110】
5−azaCdRを用いた結果は薬剤開発のための戦略を示すが、しかしこのアイデアは特定の化合物に限定されない。さらに別の薬剤を試験して、それらがインプリンティングの変化を示すか否かを決定した。インプリンティングおよび/または細胞毒性作用で少なくとも何らかの変化を示す薬剤としては、ランカシジン、ベンゼンアミン、ブループラチナウラシル、シクロヘキサン酢酸、メチル 13−ヒドロキシ−15−オキシ−カウレノエート等が挙げられる。インビボ(in vivo)においてインプリンティングの作用を及ぼさない薬剤でも、生物利用能、薬剤供給、安定性等を増強するために薬剤が生化学的に修飾されると、このような作用を示し得る。
【0111】
〔実施例2〕
個体の癌または悪性的成長の傾向の確定材料と方法 以下の結腸癌患者および正常コントロールの組織から、DNAおよびRNAを調製した。結腸癌、同一患者からの正常粘膜、および結腸癌は有さないが、他の理由、例えば憩室炎のために結腸を除去された患者か
らの正常粘膜。液体窒素中で組織を粉砕し、その後5mlのTE9[500mM Tris、20mM EDTA、10mM NaCl、pH9.0]中に再懸濁することにより、DNAを抽出した。プロテイナーゼKを100μg/mlに、そしてSDSを1%の最終濃度に加えた後に、試料を55℃で一夜インキュベートした。試料をフェノール−クロロホルムで2回、クロロホルムで1回抽出し、試料中のDNAをエタノール沈殿させて、洗浄し、TE[3mM Tris、0.2mM EDTA、pH7.5]中に再懸濁した。MicroFastTrack mRNA単離キット(Invitrogen)を用いて、RNAを調製した。
【0112】
結果
8例の情報提供可能な結腸直腸癌を、IGF2のLOIを用いて同定した。適合正常組織の実験は、これら8名のうち6名の患者が正常結腸粘膜細胞のLOIを有したことを明示した。これに対比して、直腸結腸癌を有さない16名の情報提供可能な患者のうち、3名だけが正常粘膜のLOIを有した。これらの患者は癌を発症する危険性があった、と予測される。結果を下記の表に示す。
【0113】
【表1】

【0114】
これらのデータは統計学的に非常に有意である(p=0.013)。
したがって、正常粘膜中のLOIは、LOIを有する癌が存在するところに、癌が存在しない場合より有意に高い割合で認められる。このようなLOIを有する「正常」細胞では、LOIは、LOIを有する癌細胞と本明細書中に記載したアプローチにより可逆的になり得ることが予測される。したがって、そのアプローチは、LOIを有する結脳癌に対する化学的な予防戦略として用途を提供する。
【0115】
同様に、本方法は、LOIを伴うその他の癌または腫瘍形成の増殖またはその他の疾患に用途を提供する。
【0116】
〔実施例3〕
参照データベースを用いたインプリンティングの正常パターンを復元するための新規のリード化合物の同定 5−アザ−2'−デオキシシチジンがLOIを有する腫瘍細胞に対する正常インプリンティングを復元し得ることを示す結果に基づいて、Weinstein et al.(1997)Science 275:343-349(この記載内容は、参照により本明細書中に含まれる)に記載された薬剤発見プログラムを用いて分析を実施した。本プログラムは、特に相関集団、即ち60例の参照細胞系に対する5−アザ−2'−デオキシシチジンと同様の生物学的活性の最大度の相関を示す化合物を探すために用いられた。最高相関を以下に示す。127716、619003、626883、624646、145118、1850512、626884、626886、622810、176889、622616、620358、619948、622461、624645、15309、638737、294734、112152、153174、204816、79037、628082、6203
19(NCI参照番号)。これらは、それらが正常インプリンティングを復元するかまたはそうするように化学的に修飾されるかを決定するためのリード化合物であると考えられる。
【0117】
本アプローチの一次試験として、これらの化合物のうちの12のインビトロ(in vitro)における作用を、ネガティブコントロールとして生理的食塩水を用いて分析した。
【0118】
【表2】

【0119】
このようにして同定されたリード化合物は、LOIを逆転させた。化合物が一旦同定されると、それらは最大の効果または安定性を得るよう指定してもよい。
【0120】
このようにして、前記のように同定された化合物を基礎にして、多数の新規の化合物を開発し得る。このような修飾化合物は、同一データベース中で別々に用いられて、第二の階級のリード化合物を同定し得る。修飾および選択のこのサイクルは、えり抜きの化合物または作用物質が得られるまで繰り返される。
Hollingshead et al.(1995)Life Sci.57:131-141(この記載内容は、参照により本明
細書中に含まれる)に記載されたような中空繊維検定を用いて、癌細胞に及ぼすそれらのインビボ(in vivo)細胞毒性作用に関して、化合物を付加的に試験した。これらの化合物のうち、以下のものが、異種移植片検定に関する参照のための閾値を上回るスコア、即ち全有効スコア>20を有し、多価、または直接観察されたインビボ(in vivo)細胞屠殺作用を示した。15309、112152、127716(5−アザ−デオキシ−シチジン、即ち、in vitro作用と同様のin vivo作用)、204816、620358、624646。したがって、文献では教示されていない腫瘍および/または用量に関して、いくつかの新規の潜在的に有効な化学療法薬が同定された。
【0121】
LOIを有するNCIセットの細胞系とLOIを有さないものを同定することにより、NCIデータベースの異なる使用が実施された。例えば下表を参照。
【0122】
【表3】

【0123】
A群に対しては有効な作用物質であるが、B群に対してはそうでない化合物を同定した。このような化合物は、A群の腫瘍に対する正常なインプリンティングを復元する効力および能力に関して試験されるリード化合物である。このような化合物は、以下のものに対して全身性効力を有する。すなわち、1)一般にLOIを示す種類の腫瘍、2)特別用途の化学療法のためのLOIを有する患者からの個々の腫瘍、そして3)LOIを有する組織における化学予防。
【0124】
【表4】

注:天然誘導体であるために、またはデータベースに入れられてはいるがヒトで試験されていないために、多数の化合物に名称がない(ヒトで試験されていない化合物が同定される場合、このような検定方法は当該分野では利用可能である)。
【0125】
本明細書に記載した出版物および特許出願はすべて、本発明が属する技術分野の当業者のレベルを示す。本明細書に記載した出版物および特許出願はすべて、個々の出版物または特許出願が特定的に及び別々に参照により組み込まれることが示されるのと同程度に、参照により本明細書中に含まれる。
【0126】
前記した本発明は理解を明瞭にするための説明および実施例により詳細に記載されているが、添付の請求の範囲の範囲内であれば、ある種の変更および修正が実施され得ることは明らかである。
【0127】
本発明の多数の修正およびその他の実施態様は、前記の説明および関連図面に示された教示の利点を有すると、本発明が属する当業者は思い至る。したがって、本発明は開示された特定の実施態様に限定されないと理解されるべきである。
【0128】
特定の用語が用いられているが、それらは包括的且つ説明のために用いられているだけであり、それらに限定されるものではなく、修正および実施態様は添付の請求の範囲内に含まれるものとする。
【図面の簡単な説明】
【0129】
添付の図面を参照しながら以下の詳細な説明を読めば、本発明はさらによく理解される
。この場合、同一の参照番号は全体を通して同一のエレメントを示す。
【図1】LOIを伴う腫瘍細胞のインプリンティングに及ぼす5−azaCdRの作用を示す。(A)IGF2の選択的な対立遺伝子の発現へのスイッチング。 0、0.3、0.6または1.0μM 5−azaCdR(表示された)により1回、24時間の処置をした後にJEG−3細胞から抽出されたRNA全体について、RT−PCRを実施した。2つのレーンは、逆転写酵素を用いた場合と用いない場合の同時実験を示す。PCR生成物をApa Iで消化した。aおよびb対立遺伝子は、それぞれ236および173bpである。(B)H19発現の誘導。 5−azaCdRによる処置後のJEG−3細胞におけるU19の発現を、ノーザンブロット分析により測定した。ブロットを、負荷に対する対照としてのGAPDHと再ハイブリダイズした。(C)H19の一対立遺伝子の発現へのスイッチング。 前記(A)と同様に、RT−PCRを実施した。PCR生成物をAlu Iで消化して、対立遺伝子の特異的発現を検出した。aおよびb対立遺伝子は、それぞれ227および100bpである。RT−PCRアッセイは定量的ではなく、3組のRNAの合計量は正規化されなかったことに留意しておく。
【図2】H19プロモーターのメチル化に及ぼす5−azaCdRの作用を示す。(A)5−azaCdRで処置後のH19のメチル化の減少。 0、0.3、または1.0μM 5−azaCdRで処置した細胞からDNAを抽出し、Pst IおよびSma Iで消化して、前記のようにDNAのメチル化を検定した。1.8kb断片はメチル化されているDNAを示し、1.0kb断片は非メチル化されているDNAを示す。(B)メチル化による変化の対立遺伝子の特異性。 BamH IおよびHpa IIにより消化したDNAをPCRにより増幅し、Alu Iで消化して、対立遺伝子に特異的なメチル化を検出した。AおよびBの対立遺伝子(表示)は、それぞれ227および100bpである。
【図3】ウィルムス腫瘍のような数種の癌で生じる、LOIの統一モデルを示し、これは腫瘍のサプレッサー遺伝子の後成的なサイレント化、ならびに増殖促進遺伝子の正常なサイレント対立遺伝子の活性化の両方を説明する。このモデルによれば、LOIは、例えばウィルムス腫瘍の場合、母系から父系への、後成型の染色体領域におけるスイッチングを包含する。したがって、IGF2は、二対立遺伝子発現を示し、H19は後成的なサイレント化を受ける。しかしながら、このモデルは普遍的であることを意味しない。例えば、すべての腫瘍が3つの遺伝子、即ちIGF2、H19およびp57KIP2の発現においてスイッチングを示す訳ではない。胚芽細胞腫はIGF2のLOIを示すが、しかしIGF2の二対立遺伝子発現を伴う腫瘍は必ずしもH19の後成的なサイレント化を受けない。 実際、正常パターンのインプリンティングがLOIを示す細胞で復元されることができ、多数の経路またはメカニズムが利用可能になることを本発明は実証した、と目下認識されている。したがって、本発明は、インプリンティングの正常なパターンの復元においていかなる特定のメカニズムにも限定されない。 特に、図3は、クロマチン構造の変化を経由して(DNAループとして示されている)、IGF2およびその他のインプリントされた遺伝子(青色楕円形)に長期シス作用を及ぼすインプリント組織化センター(赤色長方形)を示す。このインプリント組織化センターは、インプリンティングマークを母系または父系として確定する。この作用は、X染色体上の組織化センターと同様に、発生中に外に向かって伝えられる。インプリンティングは、CpGアイランドの対立遺伝子の特異的なメチル化、ならびにトランス作用タンパク質(緑色円形)との相互作用により、一部保持される。このモデルによれば、インプリンティングの損失は、下記のいくつかのメカニズム(図に番号を付した)のいずれによっても生じ得る:(1)インプリンティング組織化センターそれ自体における欠失または突然変異で、これにより生殖系列の親起源の特異的なスイッチングの故障が引き起こされる;(2)BWS生殖系列の染色体再配列の場合に認められるような、インプリントされた標的遺伝子からのインプリント組織化センターの分離;(3)CpGアイランドの異常なメチル化;(4)標的のインプリントされた遺伝子それ自体を制御する調節配列の局所突然変異;または(5)正常なインプリンティングを保持するトランス作用因子のための遺伝子の損失または突然変異。図は、Feinberg et al.(1994)Cambridge University Press,19:273-292(この記載内容は、参照により本明細書中に含まれる)からの修正を加えた図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
標的とする器官または組織中で癌を発症する哺乳類(但しヒトを除く)の傾向を診断する方法であって、前記の器官または組織からの細胞のインプリンティングパターンを判定する工程を含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記の器官または組織は結腸、乳房、前立腺、肝臓、肺、膀胱、腎臓、卵巣および精巣からなる群から選択される請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ゲノムインプリンティングに関与する薬剤を同定する方法であって、薬剤を細胞(但しヒトのインビボ細胞を除く)に投与する工程および前記細胞のインプリンティングパターンを判定する工程を含むことを特徴とする方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−72197(P2009−72197A)
【公開日】平成21年4月9日(2009.4.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−272942(P2008−272942)
【出願日】平成20年10月23日(2008.10.23)
【分割の表示】特願平10−530254の分割
【原出願日】平成9年12月29日(1997.12.29)
【出願人】(508317354)ザ ジョンズ ホプキンズ ユニバーシティ スクール オブ メディスン (1)
【Fターム(参考)】