説明

細胞の分化誘導装置、細胞の分化誘導方法、及び未分化細胞からの分化細胞の産生方法

【課題】新規な基材による物理的刺激、例えば機械的刺激及び/又は電気的刺激を用いる、細胞の分化誘導方法、細胞の分化誘導装置、及び未分化細胞からの分化細胞の産生方法の提供。
【解決手段】所定の表面電位を有する基材、例えば等電点が2〜6又は8〜12、好ましくは3〜5又は8.5〜11である材料をその表面に有する基材を有する細胞の分化誘導装置、並びに該装置を用いる分化誘導法及び分化細胞の産生法により、上記課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞の分化誘導装置、細胞の分化誘導方法、及び未分化細胞からの分化細胞の産生方法に関する。特に、本発明は、物理的刺激、例えば機械的刺激及び/又は電気的刺激を用いた、細胞の分化誘導装置、細胞の分化誘導方法、及び未分化細胞からの分化細胞の産生方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、胚性幹細胞からターゲットとする細胞へと分化させる研究が盛んに行われている。ここで、細胞の分化誘導法として、化学物質又は遺伝子を用いる方法、電気的刺激を用いる方法などが開発されている。
化学物質を用いて細胞の分化を誘導する方法として、特許文献1などに記載される方法がある。しかしながら、化学物質又は遺伝子を用いる方法は、細胞が所望の細胞へと分化した後に、その化学物質を除去しなければならない、という問題がある。また、細胞を全て分化誘導することができず、未分化細胞が残り、該未分化細胞がガン化するなどの問題がある。さらに、投与する化学物質又は遺伝子の影響により、分化細胞がガン化するなどの問題がある。
【0003】
電気的刺激を用いて細胞の分化を誘導する方法として、特許文献2及び特許文献3などに記載される方法がある。この方法は、上述の化学物質を用いる方法における問題、即ち化学物質の除去という問題が生じないが、未分化細胞が残り、該未分化細胞がガン化する、という問題は已然として解決されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】WO2006−126574。
【特許文献2】特開2004−105148。
【特許文献3】特開2004−129603。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、本発明の目的は、従来の細胞の分化誘導法に生じる課題、例えば化学物質を除去する工程を設ける必要のない方法、未分化細胞が生じないか又は生じてもその率が少ない方法を提供することにある。
具体的には、本発明の目的は、新規な基材による物理的刺激、例えば機械的刺激及び/又は電気的刺激を用いる、細胞の分化誘導方法、細胞の分化誘導装置、及び未分化細胞からの分化細胞の産生方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、次の発明を見出した。
<1> 所定の表面電位を有する基材を有する細胞分化誘導装置であって、該基材が細胞と接触又は近接し前記基材の表面電位により前記細胞の分化が誘導される、上記装置。
<2> 上記<1>において、所定の表面電位は、基材の表面を構成する材料に固有の静的電位であるのがよい。
<3> 上記<2>において、基材に電界を加える電界印加装置をさらに備え、所定の表面電位を、電界を印加することにより変化させるのがよい。
【0007】
<4> 上記<2>又は<3>において、静的電位は、基材の表面を構成する材料の等電点で表され、該等電点が2〜6又は8〜12、好ましくは3〜5又は8.5〜11であるのがよい。
<5> 上記<4>において、等電点が2〜6又は8〜12、好ましくは3〜5又は8.5〜11である材料が、S電子金属、アルカリ土類酸化物、遷移金属酸化物、イットリウム酸化物、希土類酸化物、アルミニウム酸化物、酸化亜鉛、インジウム酸化物、及びスズ酸化物からなる群から選ばれる少なくとも1種であるのがよい。
【0008】
<6> 上記<4>又は<5>において、等電点が2〜6又は8〜12、好ましくは3〜5又は8.5〜11である材料が、金、銀、銅、ストロンチウム酸化物、カルシウム酸化物、チタン酸化物、バナジウム酸化物、クロム酸化物、マンガン酸化物、鉄酸化物、コバルト酸化物、ニッケル酸化物、銅酸化物、ジルコニウム酸化物、イットリウム酸化物、アルミニウム酸化物、酸化亜鉛、インジウム酸化物、及びスズ酸化物からなる群から選ばれる少なくとも1種であるのがよい。
<7> 上記<4>〜<6>のいずれかにおいて、等電点が2〜6又は8〜12、好ましくは3〜5又は8.5〜11である材料が、金、SrO、CaO、TiO、V、Cr、MnO、Mn、Fe、Fe、Co、CoO、NiO、Ni、CuO、CuO、(ZrO1−x(Y(x=0.01〜0.2)、Al、ZnO、ZnGa、In、及びSnOからなる群から選ばれる少なくとも1種であるのがよい。
【0009】
<8> 上記<1>〜<7>のいずれかにおいて、基材は柱状体を複数備え、該柱状体の径が100μm以下、好ましくは0.01〜10μmであるのがよい。
<9> 上記<1>〜<8>のいずれかにおいて、柱状体の径は、細胞の大きさと同程度又はそれ以下であるのがよい。
<10> 上記<8>又は<9>において、細胞を、柱状体に接触又は近接させることにより、細胞の分化が誘導されるのがよい。
【0010】
<11> 上記<8>〜<10>のいずれかにおいて、複数の柱状体は、細胞1個に対して少なくとも1箇所以上、好ましくは3箇所以上、より好ましくは5箇所以上の接触領域を有する密度で有するのがよい。
<12> 上記<8>〜<11>のいずれかにおいて、複数の柱状体は、100μm内に1個以上、好ましくは5個以上、より好ましくは10個以上の密度で有するのがよい。
<13> 上記<8>〜<12>のいずれかにおいて、前記柱状体は、その表面が、等電点:2〜6又は8〜12、好ましくは3〜5又は8.5〜11である材料からなるのがよい。
【0011】
<14> 上記<13>において、等電点が2〜6又は8〜12、好ましくは3〜5又は8.5〜11である材料は、S電子金属、アルカリ土類酸化物、遷移金属酸化物、イットリウム酸化物、希土類酸化物、アルミニウム酸化物、酸化亜鉛、インジウム酸化物、及びスズ酸化物からなる群から選ばれる少なくとも1種であるのがよい。
<15> 上記<13>又は<14>において、等電点が2〜6又は8〜12、好ましくは3〜5又は8.5〜11である材料が、金、銀、銅、ストロンチウム酸化物、カルシウム酸化物、チタン酸化物、バナジウム酸化物、クロム酸化物、マンガン酸化物、鉄酸化物、コバルト酸化物、ニッケル酸化物、銅酸化物、ジルコニウム酸化物、イットリウム酸化物、アルミニウム酸化物、酸化亜鉛、インジウム酸化物、及びスズ酸化物からなる群から選ばれる少なくとも1種であるのがよい。
【0012】
<16> 上記<13>〜<15>のいずれかにおいて、等電点が2〜6又は8〜12、好ましくは3〜5又は8.5〜11である材料が、金、SrO、CaO、TiO、V、Cr、MnO、Mn、Fe、Fe、Co、CoO、NiO、Ni、CuO、CuO、(ZrO1−x(Y(x=0.01〜0.2)、Al、ZnO、ZnGa、In、及びSnOからなる群から選ばれる少なくとも1種であるのがよい。
【0013】
<17> 複数の柱状体を備える基材を有する細胞分化誘導装置であって、該柱状体の径が100μm以下、好ましくは0.01〜10μmであり、該柱状体が細胞と接触又は近接することにより前記細胞の分化が誘導される、上記装置。
<18> 上記<17>において、複数の柱状体は、細胞1個に対して少なくとも1箇所以上、好ましくは3箇所以上、より好ましくは5箇所以上の接触領域を有する密度で有するのがよい。
<19> 上記<8>〜<11>のいずれかにおいて、複数の柱状体は、100μm内に1個以上、好ましくは5個以上、より好ましくは10個以上の密度で有するのがよい。
【0014】
<20> 上記<1>〜<19>のいずれかにおいて、装置は、培地をさらに有するのがよい。
<21> 上記<1>〜<20>のいずれかにおいて、細胞が、幹細胞、多能性細胞、iPS細胞、及びES細胞からなる群から選ばれる少なくとも1種であるのがよい。
【0015】
<22> 細胞の分化を誘導する方法であって、
A)所定の表面電位を有する基材を、培地内に準備する工程;及び
B)基材が前記細胞と接触又は近接するように、配置する工程
を有し、基材の表面電位により細胞の分化が誘導される、上記方法。
【0016】
<23> 上記<22>のA)工程において、所定の表面電位は、基材の表面を構成する材料に固有の静的電位であるのがよい。
<24> 上記<23>のA)工程において、a)基材に電界を加えて、所定の表面電位を変化させる工程を有するのがよい。
<25> 上記<23>又は<24>において、静的電位は、基材の表面を構成する材料の等電点で表され、該等電点が2〜6又は8〜12、好ましくは3〜5又は8.5〜11であるのがよい。
【0017】
<26> 上記<25>において、等電点が2〜6又は8〜12、好ましくは3〜5又は8.5〜11である材料が、S電子金属、アルカリ土類酸化物、遷移金属酸化物、イットリウム酸化物、希土類酸化物、アルミニウム酸化物、酸化亜鉛、インジウム酸化物、及びスズ酸化物からなる群から選ばれる少なくとも1種であるのがよい。
<27> 上記<25>又は<26>において、等電点が2〜6又は8〜12、好ましくは3〜5又は8.5〜11である材料が、金、銀、銅、ストロンチウム酸化物、カルシウム酸化物、チタン酸化物、バナジウム酸化物、クロム酸化物、マンガン酸化物、鉄酸化物、コバルト酸化物、ニッケル酸化物、銅酸化物、ジルコニウム酸化物、イットリウム酸化物、アルミニウム酸化物、酸化亜鉛、インジウム酸化物、及びスズ酸化物からなる群から選ばれる少なくとも1種であるのがよい。
<28> 上記<25>〜<27>のいずれかにおいて、等電点が2〜6又は8〜12、好ましくは3〜5又は8.5〜11である材料が、金、SrO、CaO、TiO、V、Cr、MnO、Mn、Fe、Fe、Co、CoO、NiO、Ni、CuO、CuO、(ZrO1−x(Y(x=0.01〜0.2)、Al、ZnO、ZnGa、In、及びSnOからなる群から選ばれる少なくとも1種であるのがよい。
【0018】
<29> 上記<22>〜<28>のいずれかにおいて、基材は柱状体を複数備え、該柱状体の径が100μm以下、好ましくは0.01〜10μmであるのがよい。
<30> 上記<22>〜<29>のいずれかにおいて、柱状体の径は、細胞の大きさと同程度又はそれ以下であるのがよい。
<31> 上記<29>又は<30>において、細胞を、柱状体に接触又は近接させることにより、細胞の分化が誘導されるのがよい。
【0019】
<32> 上記<29>〜<31>のいずれかにおいて、複数の柱状体は、細胞1個に対して少なくとも1箇所以上、好ましくは3箇所以上、より好ましくは5箇所以上の接触領域を有する密度で有するのがよい。
<33> 上記<29>〜<32>のいずれかにおいて、複数の柱状体は、100μm内に1個以上、好ましくは5個以上、より好ましくは10個以上の密度で有するのがよい。
<34> 上記<29>〜<33>のいずれかにおいて、前記柱状体は、その表面が、等電点:2〜6又は8〜12である材料からなるのがよい。
【0020】
<35> 上記<34>において、等電点が2〜6又は8〜12、好ましくは3〜5又は8.5〜11である材料は、S電子金属、アルカリ土類酸化物、遷移金属酸化物、イットリウム酸化物、希土類酸化物、アルミニウム酸化物、酸化亜鉛、インジウム酸化物、及びスズ酸化物からなる群から選ばれる少なくとも1種であるのがよい。
<36> 上記<34>又は<35>において、等電点が2〜6又は8〜12、好ましくは3〜5又は8.5〜11である材料が、金、銀、銅、ストロンチウム酸化物、カルシウム酸化物、チタン酸化物、バナジウム酸化物、クロム酸化物、マンガン酸化物、鉄酸化物、コバルト酸化物、ニッケル酸化物、銅酸化物、ジルコニウム酸化物、イットリウム酸化物、アルミニウム酸化物、酸化亜鉛、インジウム酸化物、及びスズ酸化物からなる群から選ばれる少なくとも1種であるのがよい。
【0021】
<37> 上記<34>〜<36>のいずれかにおいて、等電点が2〜6又は8〜12、好ましくは3〜5又は8.5〜11である材料が、金、SrO、CaO、TiO、V、Cr、MnO、Mn、Fe、Fe、Co、CoO、NiO、Ni、CuO、CuO、(ZrO1−x(Y(x=0.01〜0.2)、Al、ZnO、ZnGa、In、及びSnOからなる群から選ばれる少なくとも1種であるのがよい。
【0022】
<38> 細胞の分化を誘導する方法であって、
A’)複数の柱状体を備える基材であって該柱状体の径が100μm以下、好ましくは0.01〜10μmである基材を、培地内に準備する工程;及び
B’)前記細胞を、該細胞が前記基材の前記柱状体と接触又は近接するように、配置する工程;
を有し、これにより、細胞の分化が誘導される、上記方法。
<39> 上記<38>において、複数の柱状体は、細胞1個に対して少なくとも1箇所以上、好ましくは3箇所以上、より好ましくは5箇所以上の接触領域を有する密度で有するのがよい。
<40> 上記<38>又は<39>において、複数の柱状体は、100μm内に1個以上、好ましくは5個以上、より好ましくは10個以上の密度で有するのがよい。
【0023】
<41> 上記<22>〜<40>のいずれかにおいて、細胞が、幹細胞、多能性細胞、iPS細胞、及びES細胞からなる群から選ばれる少なくとも1種であるのがよい。
【0024】
<42> 細胞を分化させて分化細胞を産生する方法であって、
A)所定の表面電位を有する基材を、培地内に準備する工程;及び
B)基材が細胞と接触又は近接するように、配置する工程
を有し、これにより、細胞を分化させて所望の分化細胞を得る、上記方法。
【0025】
<43> 上記<42>のA)工程において、所定の表面電位は、基材の表面を構成する材料に固有の静的電位であるのがよい。
<44> 上記<43>のA)工程において、a)基材に電界を加えて、所定の表面電位を変化させる工程を有するのがよい。
<45> 上記<43>又は<44>において、静的電位は、基材の表面を構成する材料の等電点で表され、該等電点が2〜6又は8〜12、好ましくは3〜5又は8.5〜11であるのがよい。
【0026】
<46> 上記<45>において、等電点が2〜6又は8〜12、好ましくは3〜5又は8.5〜11である材料が、S電子金属、アルカリ土類酸化物、遷移金属酸化物、イットリウム酸化物、希土類酸化物、アルミニウム酸化物、酸化亜鉛、インジウム酸化物、及びスズ酸化物からなる群から選ばれる少なくとも1種であるのがよい。
<47> 上記<45>又は<46>において、等電点が2〜6又は8〜12、好ましくは3〜5又は8.5〜11である材料が、金、銀、銅、ストロンチウム酸化物、カルシウム酸化物、チタン酸化物、バナジウム酸化物、クロム酸化物、マンガン酸化物、鉄酸化物、コバルト酸化物、ニッケル酸化物、銅酸化物、ジルコニウム酸化物、イットリウム酸化物、アルミニウム酸化物、酸化亜鉛、インジウム酸化物、及びスズ酸化物からなる群から選ばれる少なくとも1種であるのがよい。
<48> 上記<45>〜<47>のいずれかにおいて、等電点が2〜6又は8〜12、好ましくは3〜5又は8.5〜11である材料が、金、SrO、CaO、TiO、V、Cr、MnO、Mn、Fe、Fe、Co、CoO、NiO、Ni、CuO、CuO、(ZrO1−x(Y(x=0.01〜0.2)、Al、ZnO、ZnGa、In、及びSnOからなる群から選ばれる少なくとも1種であるのがよい。
【0027】
<49> 上記<42>〜<48>のいずれかにおいて、基材は柱状体を複数備え、該柱状体の径が100μm以下、好ましくは0.01〜10μmであるのがよい。
<50> 上記<42>〜<49>のいずれかにおいて、柱状体の径は、細胞の大きさと同程度又はそれ以下であるのがよい。
<51> 上記<49>又は<50>において、細胞を、柱状体に接触又は近接させることにより、細胞の分化が誘導されるのがよい。
【0028】
<52> 上記<49>〜<51>のいずれかにおいて、複数の柱状体は、細胞1個に対して少なくとも1箇所以上、好ましくは3箇所以上、より好ましくは5箇所以上の接触領域を有する密度で有するのがよい。
<53> 上記<49>〜<52>のいずれかにおいて、複数の柱状体は、100μm内に1個以上、好ましくは5個以上、より好ましくは10個以上の密度で有するのがよい。
<54> 上記<49>〜<53>のいずれかにおいて、前記柱状体は、その表面が、等電点:2〜6又は8〜12である材料からなるのがよい。
【0029】
<55> 上記<54>において、等電点が2〜6又は8〜12、好ましくは3〜5又は8.5〜11である材料は、S電子金属、アルカリ土類酸化物、遷移金属酸化物、イットリウム酸化物、希土類酸化物、アルミニウム酸化物、酸化亜鉛、インジウム酸化物、及びスズ酸化物からなる群から選ばれる少なくとも1種であるのがよい。
<56> 上記<54>又は<55>において、等電点が2〜6又は8〜12、好ましくは3〜5又は8.5〜11である材料が、金、銀、銅、ストロンチウム酸化物、カルシウム酸化物、チタン酸化物、バナジウム酸化物、クロム酸化物、マンガン酸化物、鉄酸化物、コバルト酸化物、ニッケル酸化物、銅酸化物、ジルコニウム酸化物、イットリウム酸化物、アルミニウム酸化物、酸化亜鉛、インジウム酸化物、及びスズ酸化物からなる群から選ばれる少なくとも1種であるのがよい。
【0030】
<57> 上記<54>〜<56>のいずれかにおいて、等電点が2〜6又は8〜12、好ましくは3〜5又は8.5〜11である材料が、金、SrO、CaO、TiO、V、Cr、MnO、Mn、Fe、Fe、Co、CoO、NiO、Ni、CuO、CuO、(ZrO1−x(Y(x=0.01〜0.2)、Al、ZnO、ZnGa、In、及びSnOからなる群から選ばれる少なくとも1種であるのがよい。
【0031】
<58> 細胞を分化させて分化細胞を産生する方法であって、
A’)複数の柱状体を備える基材であって該柱状体の径が100μm以下、好ましくは0.01〜10μmである基材を、培地内に準備する工程;及び
B’)細胞を、該細胞が基材の前記柱状体と接触又は近接するように、配置する工程;
を有し、これにより、細胞を分化させて所望の分化細胞を得る、上記方法。
【0032】
<59> 上記<58>において、複数の柱状体は、細胞1個に対して少なくとも1箇所以上、好ましくは3箇所以上、より好ましくは5箇所以上の接触領域を有する密度で有するのがよい。
<60> 上記<58>又は<59>において、複数の柱状体は、100μm内に1個以上、好ましくは5個以上、より好ましくは10個以上の密度で有するのがよい。
<61> 上記<42>〜<60>のいずれかにおいて、細胞が、幹細胞、多能性細胞、iPS細胞、及びES細胞からなる群から選ばれる少なくとも1種であるのがよい。
<62> 上記<42>〜<60>のいずれかにおいて、細胞が、慢性骨髄性白血病由来の多能性細胞であり、分化細胞が顆粒球であるのがよい。
【発明の効果】
【0033】
本発明により、従来の細胞の分化誘導法に生じる課題、例えば化学物質を除去する工程を設ける必要のない方法、未分化細胞が生じないか又は生じてもその率が少ない方法を提供することができる。
具体的には、本発明により、新規な基材による物理的刺激、例えば機械的刺激及び/又は電気的刺激を用いる、細胞の分化誘導方法、細胞の分化誘導装置、及び未分化細胞からの分化細胞の産生方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】分化細胞の数、顆粒球の数(即ち、実施例での分化能を示す)の基材依存性を示す図である。
【図2】実施例での、顆粒球の数の基材依存性を示す図である。
【図3】実施例での、顆粒球の数の基材依存性、特に基材の等電点の依存性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明は、細胞の分化誘導装置、並びに、該装置、特に該装置に含まれる基材を用いる、細胞の分化誘導方法及び未分化細胞からの分化細胞の産生方法を提供する。以下、順に説明する。
【0036】
<細胞の分化誘導装置>
本発明の細胞分化誘導装置は、一態様として、i)所定の表面電位を有する基材を有する。
また、本発明の細胞分化誘導装置は、他の態様として、ii)基材に複数の柱状体を複数備え、該柱状体の径が100μm以下、好ましくは0.01〜10μmである基材を有する。
本発明は、上記i)の基材の態様とii)の基材の態様の双方を共に有する基材も提供する。以下、i)の基材及びii)の基材について、順に説明する。
【0037】
<<i)の基材>>
i)の基材は、所定の表面電位を有する。該基材が細胞と接触又は近接し、基材の表面電位により細胞の分化が誘導される。
ここで、所定の表面電位は、基材の表面を構成する材料に固有の静的電位であるのがよい。特に、基材の表面を構成する材料の静的電位は、等電点で表すことができる。
ここで、等電点とは、材料、特に酸化物の表面は、媒質中において、媒質のpH値に代表される陽、陰イオンの存在比や電気化学ポテンシャルにより表面電荷が規定されるが、特定のpHにおいて見かけ上、電位がゼロとなるpHが存在し、その電位がゼロとなるpHをいう。
【0038】
なお、表面電位は、基材に電界を加えることにより、変化させることができる。本発明の装置において、電界印加装置をさらに備え、所定の表面電位を、電界を印加することにより変化させてもよい。
i)の基材により、細胞に電気的刺激を付与して、細胞の分化誘導を図ることができる。
【0039】
上述の等電点は、2〜6又は8〜12、好ましくは3〜5又は8.5〜11であるのがよい。
このような等電点を示す材料として、S電子金属、アルカリ土類酸化物、遷移金属酸化物、イットリウム酸化物、希土類酸化物、アルミニウム酸化物、酸化亜鉛、インジウム酸化物、及びスズ酸化物からなる群から選ばれる少なくとも1種であるのがよいが、これらに限定されない。
特に、この材料は、金、銀、銅、ストロンチウム酸化物、カルシウム酸化物、チタン酸化物、バナジウム酸化物、クロム酸化物、マンガン酸化物、鉄酸化物、コバルト酸化物、ニッケル酸化物、銅酸化物、ジルコニウム酸化物、イットリウム酸化物、アルミニウム酸化物、酸化亜鉛、インジウム酸化物、及びスズ酸化物からなる群から選ばれる少なくとも1種であるのが好ましく、より好ましくは、金、SrO、CaO、TiO、V、Cr、MnO、Mn、Fe、Fe、Co、CoO、NiO、Ni、CuO、CuO、(ZrO1−x(Y(x=0.01〜0.2)、Al、ZnO、ZnGa、In、及びSnOからなる群から選ばれる少なくとも1種であるのがよい。
【0040】
i)の基材は、その形態が特に限定されず、平板、曲面を有する板であってもよく、分化誘導の方法により適宜選択することができる。また、基材は、その表面に、細胞径以上の間隔の凹凸を有してもよい。基材は、分化誘導させる細胞と接触させるために、細胞に局所応力を発生させる形状であるのが好ましい。
i)の基材は、後述するii)の基材と同様に、特定の形状を有してもよい。即ち、基材は、柱状体を複数備え、該柱状体の径が100μm以下、好ましくは0.01〜10μmであるのがよい。または、柱状体の径は、細胞の大きさと同程度又はそれ以下であるのがよい。なお、本願において、「柱状体」は、錐体、錐台体、球体及び柱状体を含む意である。
この場合、細胞を、柱状体に接触又は近接させることにより、細胞の分化が誘導されるのがよい。
【0041】
また、複数の柱状体は、細胞1個に対して少なくとも1箇所以上、好ましくは3箇所以上、より好ましくは5箇所以上の接触領域を有する密度で有するのがよい。または、複数の柱状体は、100μm内に1個以上、好ましくは5個以上、より好ましくは10個以上の密度で有するのがよい。
なお、柱状体の長さは、特に限定されない。
さらに、上述の柱状体は、その表面が、等電点:2〜6又は8〜12、好ましくは3〜5又は8.5〜11である材料からなるのがよい。これらの材料は、上述したものを挙げることができる。
【0042】
<<ii)の基材>>
ii)の基材は、複数の柱状体を備え、該柱状体の径が100μm以下、好ましくは0.01〜10μmであり、該柱状体が細胞と接触又は近接することにより細胞の分化が誘導される。
複数の柱状体は、細胞1個に対して少なくとも1箇所以上、好ましくは3箇所以上、より好ましくは5箇所以上の接触領域を有する密度で有するのがよい。または、複数の柱状体は、100μm内に1個以上、好ましくは5個以上、より好ましくは10個以上の密度で有するのがよい。
【0043】
ii)の基材は、上記形状を有するのであれば、その形態が特に限定されず、i)の基材と同様に、平板、曲面を有する板であってもよく、分化誘導の方法により適宜選択することができる。また、基材は、その表面に、細胞径以上の間隔の凹凸を有してもよい。基材は、分化誘導させる細胞と接触させるために、細胞に局所応力を発生させる形状であるのが好ましい。
ii)の基材、特に基材の柱状体により、細胞に機械的刺激を付与して、細胞の分化誘導を図ることができる。
なお、i)及びii)の基材の双方の特徴を有することにより、細胞に機械的刺激及び電気的刺激を付与して、細胞の分化誘導を図ることができる。
【0044】
本発明の細胞分化誘導装置における、対象となる細胞は、分化能を有する細胞であれば特に限定されないが、例えば、幹細胞、多能性細胞、iPS細胞、及びES細胞からなる群から選ばれる少なくとも1種であるのがよく、好ましくは、これらのうち、血液細胞、神経細胞、及び脂肪前駆細胞からなる群から選ばれる少なくとも1種であり、より好ましくは、血液細胞及び神経細胞からなる群から選ばれる少なくとも1種であるのがよい。
【0045】
本発明の細胞分化誘導装置は、上述のi)及び/又はii)の基材の他に、培地、細胞培養担体、血清、各種試薬などを有してもよい。
ここで、培地は、細胞の分化誘導に用いられる従来の培地の他、インビボ(ヒト、マウスなどを含む)、血清、試薬などを挙げることができる。
なお、用いる基材、用いる細胞に依存するが、分化の方向性(分化する細胞の種類)、分化誘導の速度などを変化させることができる。
【0046】
<細胞の分化誘導方法>
次いで、本発明の細胞の分化誘導方法を説明する。
本発明の細胞の分化誘導法は、上述の細胞分化誘導装置、特に該装置に含まれる基材を用いる。
即ち、i)の基材を用いる場合、次のA)及びB)の工程を有し、これにより、細胞の分化を電気的刺激により誘導する。
A)所定の表面電位を有する基材を、培地内に準備する工程;及び
B)基材が細胞と接触又は近接するように、配置する工程
なお、基材、培地については、上述した通りであるので、説明を省略する。また、この方法で対象となる細胞も、上述した通りであるので、説明を省略する。
【0047】
A)工程において、a)基材に電界を加えて、所定の表面電位を変化させる工程を有してもよい。これにより、分化の方向性(分化する細胞の種類)、分化誘導の速度を変化させることができる。
加える電界は、1×10V/cm未満であるのがよい。
【0048】
また、本発明の細胞の分化誘導法として、ii)の基材を用いる場合、次のA’)及びB’)の工程を有し、これにより、細胞の分化を機械的刺激により誘導する。
A’)複数の柱状体を備える基材であって該柱状体の径が100μm以下、好ましくは0.01〜10μmである基材を、培地内に準備する工程;及び
B’)細胞を、該細胞が基材の柱状体と接触又は近接するように、配置する工程。
基材、培地、細胞については、上述した通りであるので、説明を省略する。
なお、基材として、i)及びii)の特徴を有する基材を用いてもよく、その場合、細胞の分化が機械的刺激及び電気的刺激により誘導される。
【0049】
<未分化細胞からの分化細胞の産生方法>
本発明の未分化細胞からの分化細胞の産生方法は、上述の細胞分化誘導方法と同じ工程を有する。
即ち、i)の基材を用いる場合、上述のA)及びB)の工程を有し、これにより、細胞の分化を電気的刺激により誘導し、ii)の基材を用いる場合、上述のA’)及びB’)の工程を有し、これにより、細胞の分化を機械的刺激により誘導し、分化細胞を産生する。
なお、基材として、i)及びii)の特徴を有する基材を用いてもよく、その場合、細胞の分化を機械的刺激及び電気的刺激により誘導し、分化細胞を産生する。
ここで、分化細胞は、用いるi)の基材の特性、例えば等電点、用いるii)の基材の柱状体の径及び/又は密度などに依存して、変化させることができる。
例えば、出発原料である未分化細胞が慢性骨髄性白血病由来の多能性細胞の場合、分化細胞として顆粒球を挙げることができるが、これらに限定されず、基材の選択により、所望の分化細胞、例えば赤血球、巨核球、マクロファージ、オートファージなどを産生することができる。
なお、基材、培地、細胞については、上述した通りであるので、説明を省略する。
以下、実施例に基づいて、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は本実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0050】
<基材の準備>
ZnO単結晶(表面積:10mm×5mm)を、電気炉を用いて大気中、約1100℃で約3時間アニールした。得られたZnO単結晶は、ステップ/テラス構造を有し、該ZnO単結晶を基材S−1として用いた。なお、ZnO単結晶は、ZnとOとが交互に積み重なったウルツ鉱型結晶を有し、亜鉛(Zn)が最上層表面であるもの(「Zn-polar」)と酸素(O)が最上層表面であるもの(「O-polar」)が単結晶の表裏に形成され、それら「Zn-polar」と「O-polar」との双方を、後述の細胞分化に用いた。
【0051】
<K562細胞の分化>
ヒト慢性骨髄性白血病由来の多能性細胞K562細胞を、10%ウシ胎仔血清(FBS)及び1%ペニシリン−ストレプトマイシン入りRPMI−1640に1日培養し、細胞数2×10個とした。なお、細胞培養の環境はpH7であり、基材の等電点は、下記表1に示す該材料の粉体の等電点と同じ値となる。
この培地に、上記で得られた基材S−1(表面積:10mm×5mm)を導入し、基板S−1上にK562細胞を培養した。分化方向の確認を、エステラーゼ2重染色を用いて行った。その結果、顆粒球への分化が確認された(図1を参照のこと)。
ここで、図1は、実施例1を含む各種基材による分化誘導の結果を示す図である。図1中、横軸は、実施例1の基材S−1を含む各種基材を示す。また、縦軸は、細胞分化実験対象として観測したシャーレ中、200〜400個の細胞を観察し、(分化した細胞数)/(カウントした総細胞数:分化細胞+未分化細胞)をパーセントで示したものである。なお、図1中、「Zn-polar」及び「O-polar」は、上述の通りである。
【実施例2】
【0052】
実施例1の基材S−1(ZnO単結晶)の代わりに、Al(0001)単結晶(基材S−2)を用いた以外、実施例1と同様に、K562細胞の分化を行った。その結果、顆粒球への分化が確認された(図1〜図3を参照のこと)。
なお、Al(0001)単結晶(基材S−2)は、実施例1の基材S−1(ZnO単結晶)と同様に、アニールすることにより得た。即ち、Al(0001)単結晶を、大気雰囲気下、約1000℃で約5時間熱アニール処理を施すことにより、原子レベルでステップ/テラス構造を有するAl(0001)単結晶(基材S−2)を得た。
なお、図1中、基材S−2の結果は、「sapphire」で示す。
また、図2は、実施例2を含む各種基材による分化誘導の結果を示す図である。図2中、横軸は、実施例2の基材S−2(図2中、「Al2O3」で示す)を含む各種基材を示す。また、縦軸は、図1と同様に、(分化した細胞数)/(カウントした総細胞数:分化細胞+未分化細胞)をパーセントで示したものである。
さらに、図3は、実施例2を含む各種基材による分化誘導の結果を、基材の等電点に依存することを示す図である。図3において、横軸は、基材の等電点を示し、縦軸は、細胞分化実験対象として観測した、約200個の細胞中、SiO2を用いた場合をコントロールとし、該コントロール実験においては未分化の条件において、顆粒球へ分化した細胞の数ち未分化細胞の数との比として規格化した値を示す。
【実施例3】
【0053】
実施例1の基材S−1(ZnO単結晶)の代わりに、Al(0001)単結晶(基材S−2)上にZnOナノロッドを複数有する基材S−3を用いた以外、実施例1と同様に、K562細胞の分化を行った。その結果、顆粒球への分化が確認され、図1の「Zn-polar」が示す値を超えることが確認された。
なお、Al(0001)単結晶(基材S−2)は、実施例2と同様に調製した。
Al(0001)単結晶基板の温度600〜800℃、酸素雰囲気(1Pa)中で、ZnOをパルスレーザ蒸着法(PLD法)によりレーザ蒸着した。ZnOナノロッドは、形状:20nmφの柱状;及びロッド密度:100nm□中に約5〜6本:の形態を有していた。
【実施例4】
【0054】
実施例1の基材S−1(ZnO単結晶)の代わりに、Au(基材S−4−1及び基材S−4−2)を用いた以外、実施例1と同様に、K562細胞の分化を行った。その結果、顆粒球への分化が確認された(図1〜図3を参照のこと)。
なお、Au(基材S−4−1)は、一般的な真空蒸着法により、SiO又はAl基板上に膜厚:約50μmのAu薄膜を形成したものを用いた。分化誘導の結果は、図1及び図3中、「Au」、図2中、「Au thin film」で示す。
また、Au(基材S−4−2)は、Au(基材S−4−1)の製法と、基板をAlにして且つ薄膜体積時間を5分未満にした以外、該製法と同じ条件下で真空蒸着法により得た。分化誘導の結果は、図2中、「Au dot」で示す。
【実施例5】
【0055】
実施例1の基材S−1(ZnO単結晶)の代わりに、TiOルチル型単結晶(100)(基材S−5)を用いた以外、実施例1と同様に、K562細胞の分化を行った。その結果、顆粒球への分化が確認された(図1及び図2を参照のこと)。
なお、TiOルチル型単結晶(100)((基材S−5)は、Al(0001)単結晶(基材S−2)と同様に、TiO単結晶を大気雰囲気下、約5時間熱アニール処理を施すことにより得た。
【0056】
(比較例1)
実施例1の基材S−1(ZnO単結晶)の代わりに、SiO(基材S−C1)(一般に培養皿として使用されるガラス)を用いた以外、実施例1と同様に、K562細胞の分化を行った。その結果、顆粒球への分化が確認されたが、その数又は割合は少ない又は乏しいものであった(図1〜図3を参照のこと。基材S−C1の結果は、図1及び図2中、「Control」で示す)。
なお、SiO(基材S−C1)は、SiOを大気雰囲気下、1300℃で5時間熱アニール処理を施すことにより、原子レベルでステップ/テラス構造を有するSiO(基材S−C1)を得た。
【0057】
(比較例2)
実施例1の基材S−1(ZnO単結晶)の代わりに、MgO(基材S−C2)を用いた以外、実施例1と同様に、K562細胞の分化を行った。その結果、顆粒球への分化は、比較例1と同様であるか、又は細胞死滅等の悪影響が確認された(図1及び図3を参照のこと)。
なお、MgO(基材S−C2)は、Al(0001)単結晶(基材S−2)と同様に、MgOを大気雰囲気下、1300℃で5時間熱アニール処理を施すことにより、原子レベルでステップ/テラス構造を有するMgO(基材S−C2)を得た。
【0058】
(比較例3)
実施例1の基材S−1(ZnO単結晶)の代わりに、(ZrO0.97(Y0.03(基材S−C3。以下、単に「YSZ」と略記する場合がある。)を用いた以外、実施例1と同様に、K562細胞の分化を行った。その結果、顆粒球への分化が確認された(図1及び図3を参照のこと。基材S−C3の結果は、図1及び図3中、「YSZ」で示す)。
なお、(ZrO0.97(Y0.03(基材S−6)は、(ZrO0.97(Y0.03単結晶基板を大気雰囲気下、1300℃で5時間熱アニール処理を施すことにより、原子レベルでステップ/テラス構造を有する(ZrO0.97(Y0.03(基材S−C3)を得た。
【0059】
実施例1〜5及び比較例1〜3、特に、図1〜図3及び表1を見ると、次のことがわかる。
即ち、図1から、ZnO(図1中、「Zn-polar」及び「O-polar」で示される。基材S−1、実施例1)、Al(0001)単結晶(基材S−2、実施例2)、Au(基材S−4−1及び基材S−4−2、実施例4)及びTiO単結晶(基材S−5、実施例5)を用いた場合、「Control」で表されるSiO基材(基材S−C1、比較例1)及びMgO(基材S−C2、比較例2)と比較して、高い分化効率を示すことがわかる。
また、図2から、Au薄膜(基材S−4−1)であっても、Au柱状体(基材S−4−2)であっても、「Control」で表されるSiO基材(基材S−C1、比較例1)よりも高い分化効率を示すことがわかる。
さらに、図3から、Au(基材S−4、実施例4)及びAl(0001)単結晶(基材S−2、実施例2)は、(分化細胞数/未分化細胞数)が高い値を示すことがわかる。また、図3から、分化効率が基材の等電点に依存することがわかる。
なお、YSZ(基材S−C3、比較例3)は、該比較例での環境では等電点7を示し、分化効率が低いことが図1及び図3からわかるが、環境を変化させることによりYSZの等電点が変化し、これにより好ましい分化効率を示す可能性がある。
【0060】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の表面電位を有する基材を有する細胞分化誘導装置であって、該基材が細胞と接触又は近接し前記基材の表面電位により前記細胞の分化が誘導される、上記装置。
【請求項2】
所定の表面電位は、前記基材の表面を構成する材料に固有の静的電位である請求項1記載の装置。
【請求項3】
前記基材に電界を加える電界印加装置をさらに備え、所定の表面電位を、電界を印加することにより変化させる請求項2記載の装置。
【請求項4】
前記静的電位は、前記基材の表面を構成する材料の等電点で表され、該等電点が2〜6又は8〜12である請求項2又は3記載の装置。
【請求項5】
等電点が2〜6又は8〜12である材料が、S電子金属、アルカリ土類酸化物、遷移金属酸化物、イットリウム酸化物、希土類酸化物、アルミニウム酸化物、酸化亜鉛、インジウム酸化物、及びスズ酸化物からなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項4記載の装置。
【請求項6】
等電点が2〜6又は8〜12である材料が、金、銀、銅、ストロンチウム酸化物、カルシウム酸化物、チタン酸化物、バナジウム酸化物、クロム酸化物、マンガン酸化物、鉄酸化物、コバルト酸化物、ニッケル酸化物、銅酸化物、ジルコニウム酸化物、イットリウム酸化物、アルミニウム酸化物、酸化亜鉛、インジウム酸化物、及びスズ酸化物からなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項4又は5記載の装置。
【請求項7】
等電点が2〜6又は8〜12である材料が、金、SrO、CaO、TiO、V、Cr、MnO、Mn、Fe、Fe、Co、CoO、NiO、Ni、CuO、CuO、(ZrO1−x(Y(x=0.01〜0.2)、Al、ZnO、ZnGa、In、及びSnOからなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項4〜6のいずれか1項記載の装置。
【請求項8】
前記基材に柱状体を複数備え、該柱状体の径が100μm以下である請求項1〜7のいずれか1項記載の装置。
【請求項9】
前記柱状体の径は、前記細胞の大きさと同程度又はそれ以下である請求項1〜8のいずれか1項記載の装置。
【請求項10】
細胞を、前記柱状体に接触又は近接させることにより、前記細胞の分化が誘導される請求項8又は9記載の装置。
【請求項11】
前記複数の柱状体は、前記細胞1個に対して少なくとも1箇所以上の接触領域を有する密度で有する請求項8〜10のいずれか1項記載の装置。
【請求項12】
前記複数の柱状体は、100μm内に1個以上の密度で有する請求項8〜11のいずれか1項記載の装置。
【請求項13】
前記柱状体は、その表面が、等電点:2〜6又は8〜12である材料からなる請求項8〜12のいずれか1項記載の装置。
【請求項14】
等電点が2〜6又は8〜12である材料は、S電子金属、アルカリ土類酸化物、遷移金属酸化物、イットリウム酸化物、希土類酸化物、アルミニウム酸化物、酸化亜鉛、インジウム酸化物、及びスズ酸化物からなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項13記載の装置。
【請求項15】
等電点が2〜6又は8〜12である材料が、金、銀、銅、ストロンチウム酸化物、カルシウム酸化物、チタン酸化物、バナジウム酸化物、クロム酸化物、マンガン酸化物、鉄酸化物、コバルト酸化物、ニッケル酸化物、銅酸化物、ジルコニウム酸化物、イットリウム酸化物、アルミニウム酸化物、酸化亜鉛、インジウム酸化物、及びスズ酸化物からなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項13又は14記載の装置。
【請求項16】
等電点が2〜6又は8〜12である材料が、金、SrO、CaO、TiO、V、Cr、MnO、Mn、Fe、Fe、Co、CoO、NiO、Ni、CuO、CuO、(ZrO1−x(Y(x=0.01〜0.2)、Al、ZnO、ZnGa、In、及びSnOからなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項13〜15のいずれか1項記載の装置。
【請求項17】
複数の柱状体を備える基材を有する細胞分化誘導装置であって、該柱状体の径が100μm以下であり、該柱状体が細胞と接触又は近接することにより前記細胞の分化が誘導される、上記装置。
【請求項18】
前記複数の柱状体は、前記細胞1個に対して少なくとも1箇所以上の接触領域を有する密度で有する請求項17記載の装置。
【請求項19】
前記複数の柱状体は、100μm内に1個以上の密度で有する請求項17又は18記載の装置。
【請求項20】
培地をさらに有する請求項1〜19のいずれか1項記載の装置。
【請求項21】
前記細胞が、幹細胞、多能性細胞、iPS細胞、及びES細胞からなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項1〜20のいずれか1項記載の装置。
【請求項22】
細胞の分化を誘導する方法であって、
A)所定の表面電位を有する基材を、培地内に準備する工程;及び
B)前記基材が前記細胞と接触又は近接するように、配置する工程
を有し、前記基材の表面電位により前記細胞の分化が誘導される、上記方法。
【請求項23】
前記A)工程において、所定の表面電位は、前記基材の表面を構成する材料に固有の静的電位である請求項22記載の方法。
【請求項24】
前記A)工程において、a)基材に電界を加えて、所定の表面電位を変化させる工程を有する請求項23記載の方法。
【請求項25】
前記静的電位は、前記基材の表面を構成する材料の等電点で表され、該等電点が2〜6又は8〜12である請求項23又は24記載の方法。
【請求項26】
等電点が2〜6又は8〜12である材料が、S電子金属、アルカリ土類酸化物、遷移金属酸化物、イットリウム酸化物、希土類酸化物、アルミニウム酸化物、酸化亜鉛、インジウム酸化物、及びスズ酸化物からなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項25記載の方法。
【請求項27】
等電点が2〜6又は8〜12である材料が、金、銀、銅、ストロンチウム酸化物、カルシウム酸化物、チタン酸化物、バナジウム酸化物、クロム酸化物、マンガン酸化物、鉄酸化物、コバルト酸化物、ニッケル酸化物、銅酸化物、ジルコニウム酸化物、イットリウム酸化物、アルミニウム酸化物、酸化亜鉛、インジウム酸化物、及びスズ酸化物からなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項25又は26記載の方法。
【請求項28】
等電点が2〜6又は8〜12である材料が、金、SrO、CaO、TiO、V、Cr、MnO、Mn、Fe、Fe、Co、CoO、NiO、Ni、CuO、CuO、(ZrO1−x(Y(x=0.01〜0.2)、Al、ZnO、ZnGa、In、及びSnOからなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項25〜27のいずれか1項記載の方法。
【請求項29】
前記基材は柱状体を複数備え、該柱状体の径が100μm以下である請求項22〜28のいずれか1項記載の方法。
【請求項30】
前記柱状体の径は、前記細胞の大きさと同程度又はそれ以下である請求項22〜29のいずれか1項記載の方法。
【請求項31】
細胞を、前記柱状体に接触又は近接させることにより、前記細胞の分化が誘導される請求項29又は30記載の方法。
【請求項32】
前記複数の柱状体は、前記細胞1個に対して少なくとも1箇所以上の接触領域を有する密度で有する請求項29〜31のいずれか1項記載の方法。
【請求項33】
前記複数の柱状体は、100μm内に1個以上の密度で有する請求項29〜32のいずれか1項記載の方法。
【請求項34】
前記柱状体は、その表面が、等電点:2〜6又は8〜12である材料からなる請求項29〜33のいずれか1項記載の方法。
【請求項35】
等電点が2〜6又は8〜12である材料は、S電子金属、アルカリ土類酸化物、遷移金属酸化物、イットリウム酸化物、希土類酸化物、アルミニウム酸化物、酸化亜鉛、インジウム酸化物、及びスズ酸化物からなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項34記載の方法。
【請求項36】
等電点が2〜6又は8〜12である材料が、金、銀、銅、ストロンチウム酸化物、カルシウム酸化物、チタン酸化物、バナジウム酸化物、クロム酸化物、マンガン酸化物、鉄酸化物、コバルト酸化物、ニッケル酸化物、銅酸化物、ジルコニウム酸化物、イットリウム酸化物、アルミニウム酸化物、酸化亜鉛、インジウム酸化物、及びスズ酸化物からなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項34又は35記載の方法。
【請求項37】
等電点が2〜6又は8〜12である材料が、金、SrO、CaO、TiO、V、Cr、MnO、Mn、Fe、Fe、Co、CoO、NiO、Ni、CuO、CuO、(ZrO1−x(Y(x=0.01〜0.2)、Al、ZnO、ZnGa、In、及びSnOからなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項34〜36のいずれか1項記載の方法。
【請求項38】
細胞の分化を誘導する方法であって、
A’)複数の柱状体を備える基材であって該柱状体の径が100μm以下である基材を、培地内に準備する工程;及び
B’)前記細胞を、該細胞が前記基材の前記柱状体と接触又は近接するように、配置する工程;
を有し、これにより、細胞の分化が誘導される、上記方法。
【請求項39】
前記複数の柱状体は、前記細胞1個に対して少なくとも1箇所以上の接触領域を有する密度で有する請求項38記載の方法。
【請求項40】
前記複数の柱状体は、100μm内に1個以上の密度で有する請求項38又は39記載の方法。
【請求項41】
前記細胞が、幹細胞、多能性細胞、iPS細胞、及びES細胞からなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項22〜40のいずれか1項記載の方法。
【請求項42】
細胞を分化させて分化細胞を産生する方法であって、
A)所定の表面電位を有する基材を、培地内に準備する工程;及び
B)前記基材が前記細胞と接触又は近接するように、配置する工程
を有し、これにより、細胞を分化させて所望の分化細胞を得る、上記方法。
【請求項43】
前記A)工程において、所定の表面電位は、前記基材の表面を構成する材料に固有の静的電位である請求項42記載の方法。
【請求項44】
前記A)工程において、a)基材に電界を加えて、所定の表面電位を変化させる工程を有する請求項43記載の方法。
【請求項45】
前記静的電位は、前記基材の表面を構成する材料の等電点で表され、該等電点が2〜6又は8〜12である請求項43又は44記載の方法。
【請求項46】
等電点が2〜6又は8〜12である材料が、S電子金属、アルカリ土類酸化物、遷移金属酸化物、イットリウム酸化物、希土類酸化物、アルミニウム酸化物、酸化亜鉛、インジウム酸化物、及びスズ酸化物からなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項45記載の方法。
【請求項47】
等電点が2〜6又は8〜12である材料が、金、銀、銅、ストロンチウム酸化物、カルシウム酸化物、チタン酸化物、バナジウム酸化物、クロム酸化物、マンガン酸化物、鉄酸化物、コバルト酸化物、ニッケル酸化物、銅酸化物、ジルコニウム酸化物、イットリウム酸化物、アルミニウム酸化物、酸化亜鉛、インジウム酸化物、及びスズ酸化物からなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項45又は46記載の方法。
【請求項48】
等電点が2〜6又は8〜12である材料が、金、SrO、CaO、TiO、V、Cr、MnO、Mn、Fe、Fe、Co、CoO、NiO、Ni、CuO、CuO、(ZrO1−x(Y(x=0.01〜0.2)、Al、ZnO、ZnGa、In、及びSnOからなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項45〜47のいずれか1項記載の方法。
【請求項49】
前記基材は柱状体を複数備え、該柱状体の径が100μm以下である請求項42〜48のいずれか1項記載の方法。
【請求項50】
前記柱状体の径は、前記細胞の大きさと同程度又はそれ以下である請求項42〜49のいずれか1項記載の方法。
【請求項51】
細胞を、前記柱状体に接触又は近接させることにより、前記細胞の分化が誘導される請求項49又は50記載の方法。
【請求項52】
前記複数の柱状体は、前記細胞1個に対して少なくとも1箇所以上の接触領域を有する密度で有する請求項49〜51のいずれか1項記載の方法。
【請求項53】
前記複数の柱状体は、100μm内に1個以上の密度で有する請求項49〜52のいずれか1項記載の方法。
【請求項54】
前記柱状体は、その表面が、等電点:2〜6又は8〜12である材料からなる請求項49〜53のいずれか1項記載の方法。
【請求項55】
等電点が2〜6又は8〜12である材料は、S電子金属、アルカリ土類酸化物、遷移金属酸化物、イットリウム酸化物、希土類酸化物、アルミニウム酸化物、酸化亜鉛、インジウム酸化物、及びスズ酸化物からなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項54記載の方法。
【請求項56】
等電点が2〜6又は8〜12である材料が、金、銀、銅、ストロンチウム酸化物、カルシウム酸化物、チタン酸化物、バナジウム酸化物、クロム酸化物、マンガン酸化物、鉄酸化物、コバルト酸化物、ニッケル酸化物、銅酸化物、ジルコニウム酸化物、イットリウム酸化物、アルミニウム酸化物、酸化亜鉛、インジウム酸化物、及びスズ酸化物からなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項54又は55記載の方法。
【請求項57】
等電点が2〜6又は8〜12である材料が、金、SrO、CaO、TiO、V、Cr、MnO、Mn、Fe、Fe、Co、CoO、NiO、Ni、CuO、CuO、(ZrO1−x(Y(x=0.01〜0.2)、Al、ZnO、ZnGa、In、及びSnOからなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項54〜56のいずれか1項記載の方法。
【請求項58】
細胞を分化させて分化細胞を産生する方法であって、
A’)複数の柱状体を備える基材であって該柱状体の径が100μm以下である基材を、培地内に準備する工程;及び
B’)前記細胞を、該細胞が前記基材の前記柱状体と接触又は近接するように、配置する工程;
を有し、これにより、細胞を分化させて所望の分化細胞を得る、上記方法。
【請求項59】
前記複数の柱状体は、前記細胞1個に対して少なくとも1箇所以上の接触領域を有する密度で有する請求項58記載の方法。
【請求項60】
前記複数の柱状体は、100μm内に1個以上の密度で有する請求項58又は59記載の方法。
【請求項61】
前記細胞が、幹細胞、多能性細胞、iPS細胞、及びES細胞からなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項42〜60のいずれか1項記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−24465(P2011−24465A)
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−172449(P2009−172449)
【出願日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成21年度、文部科学省、科学技術試験研究委託事業、産業技術力強化法第19条の規定の適用を受ける特許出願)
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【出願人】(504171134)国立大学法人 筑波大学 (510)
【Fターム(参考)】