説明

細胞の培養方法

【課題】 細胞の生存率および増殖率を高めつつ、工程を簡素化して自動化を容易にすることができ、また、十分な量の培地を容器内に収容できて、pHの上昇を抑制する。
【解決手段】 上部開口3bと底面3aとを有する容器3内に、所定の培地2を貯留するとともに、該培地2内に細胞を播種した顆粒状の生体組織補填材1を配置し、容器3内を所定の培養条件に維持しつつ、容器3を略水平な軸線回りに往復揺動させる細胞の培養方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、細胞の培養方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、生体組織補填材に播種した付着性の細胞を効率的に培養する方法として、ローラーボトル法を用いた培養方法が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
ローラーボトル法を用いた培養方法によれば、短期間で効率的に生体組織補填材上で細胞を成長させた生体組織補填体を製造することができる。
【特許文献1】特開2005−66028号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、ローラーボトル法を用いた培養方法によれば、上述したように効率的に生体組織補填体を製造できる利点があるが、円筒状の容器の円筒内面に付着した顆粒状の生体組織補填材に播種された細胞に対し、培地を接触させる必要がある。このため、容器の開口部を蓋で密閉して容器を横向きに倒し、ローラー上で回転させなければならないという不都合がある。
【0004】
すなわち、ローラーボトル法を用いた細胞の培養方法を自動化しようとする場合には、開口部を上にして立てた容器内に、細胞を付着させた生体組織補填材および培地を投入し、蓋を密閉し、容器を横転させるという複数の工程を行う必要があり、工程が複雑で時間がかかる不都合がある。また、横倒しにした容器内に培地を投入するため、培地を多く入れた場合には蓋の緩みによる容器からの培地の漏出が起こる可能性があり、投入できる培地の量が制限されるという問題が考えられる。加えて、培地の量の制限に伴い、培養中に培地内のpHが上昇してしまう不都合が考えられる。
【0005】
本発明は上述した事情に鑑みてなされたものであって、生体組織補填材への播種効率を高めつつ、工程を簡素化して自動化を容易にすることができ、また、十分な量の培地を容器内に収容できて、pHの上昇を抑制し、細胞の生存率を向上することができる細胞の培養方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明は、以下の手段を提供する。
本発明は、上部開口と底面とを有する容器内に、所定の培地を貯留するとともに、該培地内に細胞を播種した顆粒状の生体組織補填材を配置し、前記容器内を所定の培養条件に維持しつつ、容器を略水平な軸線回りに往復揺動させる細胞の培養方法を提供する。
【0007】
本発明によれば、容器の上部開口を上向きにし、底面に細胞を播種した顆粒状の生体組織補填材を敷き詰め、略水平な軸船回りに容器を往復揺動させるので、上部開口を上向きにして行われる培地交換工程と、細胞の培養工程との間で容器の姿勢を変更する必要がない。このようにすることで、複雑な工程を省いて自動化を容易にすることができる。また、容器を揺動させることで、生体組織補填材播種されている細胞に対して培地を相対的に移動させることができ、ローラーボトル法と同様にして、細胞に栄養分を供給し、細胞からの老廃物を取り除くことができ、効率的に細胞を増殖させることができる。上部開口を上方に向けて配置する本発明によれば、容器内に十分な量の培地を貯留することができ、培地内の培養中における培地内のpHの上昇を抑え、細胞の生存率を向上することができる。
【0008】
上記発明においては、容器の底面のほぼ全面に、細胞を播種した生体組織補填材を敷き詰め、前記生体組織補填材がほぼ移動しないように往復揺動角度および往復揺動速度を設定することが好ましい。
このようにすることで、静止している生体組織補填材に対して培地を相対的に移動させ、攪拌された培地を全ての細胞に供給することができる。この場合に、容器の揺動動作によっても生体組織補填材が移動しないように往復揺動角度および往復揺動速度が設定されているので、生体組織補填材どうしの接触により細胞が損傷を受けることが防止され、生存率を向上することができる。
【0009】
また、上記発明においては、生体組織補填材の少なくとも一部が培地から露出する往復揺動角度に設定されていることが好ましい。
このように構成することで、生体組織補填材を培地に浸ったままの状態とするよりも、培地内における細胞の移動量を増大させて、培地を十分に攪拌し培養効率をさらに向上することができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、細胞の培養効率を高めつつ、工程を簡素化して培地交換等の自動化を容易にすることができ、また、十分な量の培地を容器内に収容できて、pHの上昇を抑制し、細胞の生存率を向上することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の一実施形態に係る細胞の培養方法について説明する。
本実施形態に係る細胞の培養方法は、図1に示されるように、細胞(図示略)を付着させた顆粒状の生体組織補填材1および培地2を容器3内に収容し、該容器3を搭載した揺動装置4を作動させることにより行われる。
【0012】
容器3は、例えば、円筒状容器であって、平坦な底面3aと、蓋5によって密封状態に開閉可能な上部開口3bとを有している。
生体組織補填材1は、例えば、顆粒状のβリン酸三カルシウム多孔体からなり、その平均粒径は約1mm〜3mmである。生体組織補填材1は、容器3の底面3aに、例えば、1層〜3層程度の量で隙間なく敷き詰められる程度の量だけ投入される。
【0013】
細胞は、例えば、ヒト骨髄由来間葉系幹細胞である。
培地2は、例えば、所定量、例えば、図2に示されるように容器3が傾斜したときに、容器3の底面に配されている生体組織補填材1が露出する程度の量だけ貯留されている。
【0014】
揺動装置4は、ベース6と、ベース6から立ち上がる支柱7上に、水平な軸線回りに揺動可能に支持された載置台8と、水平な軸線回りに回転させられるディスク9と、該ディスク9と載置台8とに揺動可能に接続されたリンク10と、ディスク9を一方向に回転させるモータ11とを備えている。
【0015】
載置台8は、容器3を嵌合させる嵌合部8aを備え、該載置台8が傾いても容器3を一体的に保持するように構成されている。載置台8の揺動角度は、例えば、±45°以下の範囲に設定されている。また、載置台8の揺動速度は、例えば、25往復/min程度速さに設定されている。
載置台8の揺動角度および揺動速度は、容器3の底面3aに層状に敷き詰められた生体組織補填材1が、移動することなく、層状を維持するように設定されている。
【0016】
このように構成された揺動装置4を用いて生体組織補填材1に播種された細胞を培養するには、細胞が播種された顆粒状の生体組織補填材1および培地2収容した容器3を載置台8の嵌合部8aに嵌合させた状態で、モータ11を作動させる。これにより、図2に示されるように、ディスク9が一方向に所定の回転速度で回転させられることによって、リンク9を介して載置台8が所定の揺動速度で揺動させられる。
【0017】
載置台8の揺動速度および揺動角度は、容器3内部の生体組織補填材1が層状を維持して転がらない程度に設定されているので、容器3内では、生体組織補填材1は容器3の底面3aとともに傾斜する一方、容器3内に貯留されている培地2は、ほぼ水平な表面状態に維持されようとする。したがって、容器3内において培地2と生体組織補填材1との間に相対速度が生じ、生体組織補填材1の表面を培地2が流動させられることになる。
【0018】
特に、本実施形態においては、容器3が最も傾いた状態で、容器3の底面3aに配置されている生体組織補填材1の一部が培地2表面から外部に露出するように揺動させられる。したがって、生体組織補填材1が培地2に対して長距離にわたって相対移動させられることになる。また、生体組織補填材1表面の環境は、培地2に接触している状態と接触していない状態との間で繰り返し大きく変化させられる。
【0019】
培地2内には、細胞の成長に必要な栄養分が含有されているので、生体組織補填材1に付着している細胞に対して培地2が流動させられることにより、その流動の間に細胞に栄養分を付与し、また、細胞からの老廃物を取り去ることができる。また、培地2内に常に浸漬された状態で生体組織補填材1が相対移動させられる場合と比較して、生体組織補填材1表面の環境を大きく変化させることで、培地2を十分に攪拌する機能を生じさせ、培地2内の成分を全体に均一に分散させ、全ての細胞に対して平均的に供給することができる。
【0020】
本実施形態に係る細胞の播種方法によれば、上部に開口部3bを有する容器3を略水平な軸線回りに揺動させるので、ローラーボトル法のように、容器3を横に倒す必要がない。したがって、培地交換に際して、容器の姿勢を変更することなく、上部の開口部3bから容器3内部に培地2を供給することができ、容器2のハンドリング作業をなくして、作業工程を簡略化し、自動化を容易にすることができるという利点がある。
【0021】
また、上方に開口部3bを有する容器3を立てたまま利用できるので、開口部3bを蓋5によって閉塞しなくてもよく、作業工程をさらに簡略化することもできる。また、ローラーボトル法と比較して、容器3内に貯留する培地2量を増やすことができる。したがって、培地2内の二酸化炭素の放散によるpHの上昇を抑えることができ、細胞の生存率を向上することができる。
【実施例】
【0022】
本実施形態に係る細胞の培養方法について、以下の通りに実施した。
細胞としてはヒト骨髄由来間葉系幹細胞を用いた。
培地としては、Dulbecco's Modified Eagle Medium+10% Fetal Bovine Serum+
50μg/ml gentamicin+ 250ng/ml amphotercin B+ 50μg/ml L-ascorbic acid
phosphate magnesium salt n-hydrate+ 10mmol/l β-glycerophosphate+ 10-7mol/l dexamethasoneを用いた。
生体組織補填材としては、βリン酸三カルシウム多孔体(平均粒径1.0〜3.0mm)を用いた。
容器としては、125mlストレージボトルを使用した。
【0023】
[第1の実施例]
本実施形態に係る細胞の培養方法の第1の実施例について以下に説明する。
まず、本実施例の細胞の培養方法の実施に先立って、生体組織補填材に細胞を播種する工程を実施した。細胞の播種工程は、ヒト骨髄由来間葉系幹細胞を培地に懸濁し、1.50×10個/mlの細胞密度に調製した細胞懸濁液を作成し、予め、培養培地で洗浄された生体組織補填材(7g)を入れた容器内に懸濁液20mlと培地30mlとを投入し、容器を振って、生体組織補填材が容器の底面に均等に配置されるようにしてから、揺動装置に装着し、温度を37℃、揺動角度を±20°、揺動速度を10往復/minとして22時間作動させた。
22時間後にWST−8法により生体組織補填材に付着したヒト骨髄由来間葉系幹細胞の細胞数を測定した。その結果、生体組織補填材1gあたりに、1.56×10個のヒト骨髄由来間葉系幹細胞が付着した(加えた細胞数のうち36.5%が付着した。)。
【0024】
次いで、本実施例の培養工程を実施した。
まず、測定後に、培地50mlを容器内に供給し、同じ作動条件でさらに3日間培養した。その結果、生体組織補填材1g当たりに1.23×10個のヒト骨髄由来間葉系幹細胞が生存していた。これは播種された細胞数のうち78.9%に相当し、揺動しなかった場合が55.1%であるのと比較して大幅に高い生存率である。
【0025】
さらに、培地を全量(100ml)新しい培地に交換し、同じ条件で3日間培養した。その結果、生体組織補填材1g当たりに0.966×10個のヒト骨髄由来間葉系幹細胞が生存していた。これは、播種された細胞のうち61.9%に相当し、揺動しない場合が42.4%であるのと比較して大幅に高い生存率が示された。
【0026】
[第2の実施例]
本実施形態に係る細胞の培養方法の第2の実施例について以下に説明する。
まず、細胞の播種工程において、ヒト骨髄由来間葉系幹細胞を培地に懸濁し、1.50×10個/mlの細胞密度に調製した細胞懸濁液を作成し、予め、培養培地で洗浄された生体組織補填材(7g)を入れた容器内に懸濁液20mlと培地30mlとを投入し、容器を振って、生体組織補填材が容器の底面に均等に配置されるようにしてから、揺動装置に装着し、温度を37℃、揺動角度を±20°、揺動速度を10往復/minとして19.5時間作動させた。
19.5時間後にWST−8法により生体組織補填材に付着したヒト骨髄由来間葉系幹細胞の細胞数を測定した。その結果、生体組織補填材1gあたりに、2.16×10個のヒト骨髄由来間葉系幹細胞が付着した(加えた細胞数のうち50.2%が付着した。)。
【0027】
次いで、細胞の培養工程においては、測定後に、培地50mlを容器内に供給し、同じ作動条件でさらに3日間培養した。その結果、生体組織補填材1g当たりに2.65×10個のヒト骨髄由来間葉系幹細胞が生存していた。これは播種された細胞数の1.23倍に相当し、揺動しなかった場合が1.05倍であるのと比較して大幅に高い増殖率である。
【0028】
さらに、培地を全量(100ml)新しい培地に交換し、同じ条件で3日間培養した。その結果、生体組織補填材1g当たりに2.35×10個のヒト骨髄由来間葉系幹細胞が生存していた。これは、増殖した細胞のうちの88.9%に相当し、揺動しない場合が73.3%であるのと比較して大幅に高い生存率が示された。
【0029】
これらの実施例によれば、本実施形態に係る細胞の培養方法により、高い生存率および増殖率で細胞を培養することができることがわかった。これらの生存率および増殖率は、ローラーボトル法による培養方法と比較しても大幅に高い値を示すものである。
したがって、本実施形態によれば、ローラーボトル法によるよりも高い生存率および増殖率を得ることができるとともに、作業工程を削減して自動化を容易にすることができるというローラーボトル法と比較して優れた効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の一実施形態に係る細胞の培養方法に用いられる揺動装置を模式的に示す正面図である。
【図2】図1の揺動装置の作動状態を説明する正面図である。
【符号の説明】
【0031】
1 生体組織補填材
2 培地
3 容器
3a 底面
3b 上部開口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上部開口と底面とを有する容器内に、所定の培地を貯留するとともに、該培地内に細胞を播種した顆粒状の生体組織補填材を配置し、
前記容器内を所定の培養条件に維持しつつ、容器を略水平な軸線回りに往復揺動させる細胞の培養方法。
【請求項2】
容器の底面のほぼ全面に、細胞を播種した生体組織補填材を敷き詰め、前記生体組織補填材がほぼ移動しないように往復揺動角度および往復揺動速度を設定する請求項1に記載の細胞の培養方法。
【請求項3】
生体組織補填材の少なくとも一部が培地から露出する往復揺動角度に設定されている請求項1または請求項2に記載の細胞の培養方法。

【図1】
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【図2】
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