説明

細胞の生長を制御するためのアルギネートマトリックスの使用

【課題】細胞の生長および増殖が制御されそれによりビーズの崩壊、細胞のもれおよび以後の免疫応答を防ぐ組成物を使用する方法、疾患の治療にこれら組成物を使用する方法、並びに埋め込み可能な組成物および部材の提供。
【解決手段】アルギネートポリマーおよびストロンチウムを含むアルギネートマトリックス内に細胞を維持する複数の増殖細胞の増殖を阻害する方法、並びにその外部表面上に該マトリックスを含む埋め込み可能な部材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞の増殖を阻害するためのアルギネートマトリックスおよび組成物および部材におけるそれらの使用に関する。本発明は、またそれらに付着した細胞の単層を有するアルギネート処方物、構築物および部材、並びにそれらの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
アルギネートは、一定の温度で生理学的な条件下で、高度に生体適合性なそして強いゲルを形成するそれらの能力のために、細胞の内包のための使い道の多い物質として周知である(本明細書で参考として引用される非特許文献1および2)。アルギネートに基づく組織構築物の移植は、複数の疾患の治療に有用である。アルギネートは、マイクロビーズ内に細胞を捕捉するのに使用して、従って宿主および物理的ストレスからの免疫の攻撃に対して細胞を守ることができる(本明細書で参考として引用される非特許文献1−8)。治療する分子を排出するアルギネートビーズ内に捕捉された細胞は、がん、糖尿病、パーキンソン病、慢性の痛みおよび肝臓の疾患を含む非常に多くの疾患の治療における埋め込み可能なバイオリアクターとして使用できる(本明細書で参考として引用される非特許文献6、8−17)。そのため、アルギネートは、治療する用途のためのバイオリアクターシステムの開発において細胞または組織に対する固定化材料として現在広く使用されている。
【0003】
アルギネートは、また他のタイプの医学的応用において生体構造物質として研究中である。製造方法に応じて、アルギネートは、種々の形例えばペースト、スポンジ、繊維、棒および管をとることができる。アルギネートスポンジは、細胞の移植用の材料(本明細書で参考として引用される非特許文献18および19)および神経の再生(本明細書で参考として引用される非特許文献20−22)として研究中である。さらに、軟骨細胞を含むアルギネートペーストは、尿道逆流の問題の有効な治療として小児に注入されており(本明細書で参考として引用される非特許文献23)、そして軟骨の欠損中にゲル溶液を直接添加することによりその場でゲル化したアルギネート中の軟骨細胞のインプラントは、将来性がある(本明細書で参考として引用される非特許文献24)。
【0004】
アルギネート構造と直接接触する細胞を含む応用では、細胞とアルギネートマトリックスとの間の相互作用は、非常に重要である。特にアルギネートバイオリアクターシステムについてさらに、主要な障害は、生産細胞の源の選択および利用性である。医学的な使用直前に新鮮な器官を処理する代わりに、バイオリアクター生産用の制限のない源として生体外で細胞を生長させるいくつかの利点がある。これらの細胞は、治療用生成物を生産する能力およびより良い性質について遺伝子操作をすることができる。
【0005】
一般に、アルギネートを捕捉した増殖細胞では、細胞の生長は、多少制御されなければならない。アルギネートゲルマトリックス内の細胞の生長がゲルの網状構造のタイプに依存することは確かめられているが(本明細書で参考として引用される非特許文献25および26)、しかし生長は細胞のタイプにも依存する(本明細書で参考として引用される非特許文献27)。低含有量のグルロン酸を含むより弱いアルギネートゲルに捕捉された細胞は、より強いすなわちより高いグルロン酸含量のゲルに捕捉された細胞に比べてより急速に生長することが示されている(非特許文献25および26)。ゲルの網状構造内の細胞の生長およびコロニーの形成の結果として、ビーズは崩壊しそしてビーズからの細胞の漏れが生ずる(本明細書で参考として引用される非特許文献25および28)。従って、アルギネートビーズ中の増殖する細胞を使用するときの特別な問題は、細胞が生長および増殖をし続け、そして生ずるビーズの崩壊および細胞の漏れが細胞を免疫系に曝すことである。
【0006】
動物の細胞は、隣接する細胞および細胞外のマトリックスに応答しそして反応することに極めて分化している。このような応答は、特定の遺伝子により制御されている。主要な普通の細胞外のマトリックス成分であるコラーゲンが、アポトーシスに細胞がなるのを阻害しそれにより細胞の生存および分化のための基質をもたらすことが立証されている(本明細書で参考として引用される非特許文献29)。しかし、細胞とアルギネートマトリックスとの間の相互作用の背後にある分子的メカニズムは、知られていない。捕捉された細胞はゲルの網状構造内に回転楕円体様のコロニーを形成するが、細胞がアルギネートゲルの表面に付着して生長することが最近立証されている(本明細書で参考として引用される非特許文献30)。ラットの骨髄の細胞が、ゲル基質の化学的な修飾なしに生体外でアルギネートゲルの表面上で生長できることが確かめられている(非特許文献30)。アルギネートマトリックス内の細胞の生長について従来観察されたこととは対照的に、Wangらは、低含量のグルロン酸に比べて高いアルギネートのゲル上でより高い増殖率も見いだした。しかし、化学的修飾がされていないアルギネートの表面にC2C12筋芽細胞を生長させる能力の欠如が、また観察されており、一方アルギネート基質に結合したRGDペプチド配列は細胞の生長を可能にした(本明細書で参考として引用される非特許文献31および32)。しかし、これらの研究者は、高い含量のグルロン酸を含むアルギネートにより製造されたアルギネートゲル上の筋芽細胞の最良の増殖も見いだした。
【0007】
動物中へのアルギネートビーズの埋め込みを含む適用における他の共通な問題は、選択されたビーズの表面での繊維芽細胞およびマクロファージの生長である(本明細書で参考として引用される非特許文献33−35)。この問題は、また他の外来の物体例えば部材を埋め込むときに生ずる。アルギネートマトリックスと接触したときの細胞の生長および付着の作用についてより良い知識が、そのために明らかに必要とされている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】スケジャク−ブラク G,and T.Espevik Carbohydrates in Europe 1996;14;19−25
【非特許文献2】Strand BL,et al.Minerva Biotecnologica 2000;12:223−233
【非特許文献3】Yang H,et al.Cell Encapsulation Technology and Therapeutics.Boston,Birkhaeuser,1999:pp.3−17
【非特許文献4】Uludag H,et al.Adv Drug Deliv Rev 2000;42:29−64
【非特許文献5】Orive G,et al.Nature Medicine 2003;9:104−107
【非特許文献6】Emerlich DF and HC Salzberg Cell Transplant 2001;10:3−24
【非特許文献7】Sambanis A,Diabetes Technol Ther 2000;2:81−89
【非特許文献8】Lanza RP,and DK Cooper.Molecular Medicine Today 1999;4:39−45
【非特許文献9】Wang T,et al.Nat Biotechnol 1997;15:358−362
【非特許文献10】Read T−A,et al.Nat Biotechnol 2001;19:29−34
【非特許文献11】Cai J,et al.Hepatology 2002;36:386−394
【非特許文献12】Canaple L,et al.Ann N Y Acad Sci 2001;944:350−361
【非特許文献13】Glicklis R,et al.In:Ikada Y,Ok ano T(Eds.)Tissue Engineering for Therapeutic Use.1999:pp.119−131
【非特許文献14】Emerich DF,Cell Transplant 2002;11:1−3
【非特許文献15】Emerich DF,et al.Neurosci Biobehav Rev 1992;16:437−447
【非特許文献16】Hagihara Y,et al.Cell Transplant 1997;6:527−530
【非特許文献17】Risbud MV and RR Bhonde J Biomater Sci Polymer Edn 2001;12:1243−1252
【非特許文献18】Miralles G,et al.Journal of Biomedical Materials Research 2001;57:268−278
【非特許文献19】Shapiro L and S.Cohen Biomaterials 1997;18:583−590
【非特許文献20】Sufan W,et al.Journal of Neurotrauma 2001;18:329−338
【非特許文献21】Kataoka K,et al.J Biomed Mater Res 2001;54:373−384
【非特許文献22】Hashimoto T,et al.Exp Brain Res 2002;146:356−368
【非特許文献23】Diamond DA and AA Caldamone J Urol 1999;162:1185−1188
【非特許文献24】Fragonas E,et al.Biomaterials 2000;21:795−801
【非特許文献25】Constantinidis I,et al.Biomaterials 1999;20:2019−2027
【非特許文献26】Stabler C,et al.Biomaterials 2001;22:1301−1310
【非特許文献27】Rokstad AM,et al.Cell Transplant 2002;11:313−324
【非特許文献28】Stabler CL,et al.Ann N Y Acad Sci 2002;961:130−133
【非特許文献29】O’Conner SM,et al.Neurosci Lett 2001;304:189−193
【非特許文献30】Wang L,et al.Biomaterials 2003;24:3475−3481
【非特許文献31】Rowley JA,et al.Journal of Biomedical Materials Research 2003;60:217−223
【非特許文献32】Rowley JA,et al.Biomaterials 1999;20:45−53
【非特許文献33】Vandenbossche GMR,et al.J Pharmacol 1993;45:115−120
【非特許文献34】Rokstad AM,et al.Ann N Y Acad Sci 2001;944:216−225
【非特許文献35】Siebers U,et al.Journal of Molecular Medicine 1999;77:215−218
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
アルギネート中に内包された増殖細胞を含む組成物、そして細胞の生長および増殖が制御されそれによりビーズの崩壊、細胞のもれおよび以後の免疫応答を防ぐこれらの組成物を使用する方法を提供する必要がある。
【0010】
アルギネート中に内包された細胞を含む組成物、そして細胞が治療する分子を放出するこれら組成物を使用する方法が必要とされている。
アルギネート中に内包された細胞を含む組成物、そして疾患の治療にこれら組成物を使用する方法が必要とされている。
【0011】
埋め込み可能な組成物および部材、そしてこれら埋め込み可能な組成物および部材の表面上の望まない宿主細胞の生長が制御されるこれら埋め込み可能な組成物および部材を使用する方法を提供することを必要としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、複数の増殖細胞の増殖を阻害する方法に関する。方法は、アルギネートポリマーおよびストロンチウムを含むアルギネートマトリックス内に細胞を維持することを含む。
【0013】
本発明は、また、人体中の組成物上の細胞の生長を阻害する方法に関する。方法は、人体中に組成物を維持することを含む。組成物は、ストロンチウムを含むアルギネートゲルを含む。
【0014】
本発明は、また、180日以上動物中の組成物上の細胞の生長を阻害する方法に関する。方法は、180日以上動物の体内に組成物を維持することを含む。組成物は、ストロンチウムを含むアルギネートゲルを含む。
【0015】
本発明は、また、動物中の部材上の細胞の生長を阻害する方法に関する。方法は、動物中に部材を維持することを含む。部材は、ストロンチウムを含むアルギネートゲルを含む。
本発明は、また、ストロンチウムを含むアルギネートマトリックスをそれらの外部表面に有する部材に関する。
【0016】
本発明は、アルギネートマトリックスにより無細胞の組成物または部材の外部表面を被覆またはカバーする方法に関する。方法は、アルギネート溶液により無細胞の組成物または部材またはそれらのコンポーネントをまずカバーまたは被覆し、そして連続してまたは次に浸漬、サブマージョン、噴霧、微粒化または他の技術により二価の架橋イオンを加え、それにより部材を被覆するアルギネート溶液のアルギネートポリマーが二価の架橋イオンにより架橋されそして部材を被覆するアルギネートマトリックスが形成されることからなる。本発明は、また、アルギネート本体の外部表面を被覆する細胞の単一層を含むアルギネート本体を含む。アルギネート本体は、カルシウム、バリウム、亜鉛および銅の1つ以上を含む。
【0017】
本発明は、また、表面上に細胞の単一層を含むアルギネートのシートに関する。アルギネートシートは、カルシウム、バリウム、亜鉛または銅の1つ以上を含む。
本発明は、また、人工組織の製造法に関する。方法は、細胞の複数のシートを生長させ、その際細胞のシートのそれぞれは、カルシウム、バリウム、亜鉛または銅の1つ以上およびアルギネートポリマーを含むアルギネートマトリックスを含有するシート上に細胞の単一層を含み、細胞の1つのシートの底部を細胞の他のシートの細胞の上に置くことにより細胞のシートを積み重ね、そしてそれぞれのシートのアルギネートマトリックスが溶解しそれにより細胞のそれぞれの単一層が細胞の少なくとも1つの他の単一層と直接接触するようになって細胞の複数の層を有する組織を生成することを含む。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】約1.5ヶ月間カルシウム(左)およびストロンチウム(右)のアルギネートビーズに内包されたHEK293Endo細胞の光学顕微鏡像を示す。
【図2】培養約2.5ヶ月後のカルシウム(左)およびストロンチウム(右)のアルギネートビーズに内包されたMDCK細胞の光学顕微鏡像を示す。すべてのカルシウムアルギネートビーズは、付着された細胞により完全にカバーされている。ストロンチウムアルギネートビーズでは、単一の細胞および細胞の凝集物がビーズ内に見ることができる。
【図3】カルシウムまたはストロンチウムのアルギネートビーズ中の内包後の時間の関数としてのMDCK細胞の異常増殖を有するビーズのフラクションを示すグラフである。不完全な異常増殖を有するカルシウムアルギネートビーズの数も数えられた。
【図4】PRONOVA UP LVGアルギネートビーズ中の4週後のHEK293Endo細胞の光学顕微鏡図である。生長する細胞の大きなコロニー(回転楕円体)をビーズの中心に見ることができる。回転楕円体の中心は、結局壊死するようになる。下方右でのビーズは、ビーズ表面でそして表面の下で生長する細胞を示す。
【図5】MDCK細胞を有するカルシウムアルギネート(PRONOVA SLG)ビーズの図を示す。1つのビーズ(下方)では、細胞は表面を完全にカバーし、一方表面上の他の生長はまだ開始されていない。
【図6】4−6ヶ月後のアルギネートビーズにおけるMDCK細胞の図を示す。細胞は、50mMのCaCl(左)および50mMのSrCl(右)中の1.8%PRONOVA UP LVGアルギネートに捕捉された。カルシウムアルギネートに捕捉された細胞では、100%のビーズが細胞の球状の単層により完全にカバーされるが、一方他のビーズのどれもそれらの表面上に付着した細胞を有しない。ビーズはなおもとのままであるが、或る細胞の増殖がこれらのビーズの内側で見ることができる。
【図7】より大きなアルギネートビーズに捕捉されたカルシウムアルギネートビーズ上のMDCK細胞の球状の単層の図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明は、アルギネートマトリックスを生成するのに使用される二価のカチオンのタイプが、これらのアルギネートマトリックスと接触するようになる細胞の増殖に影響を及ぼすことを証明する発見から生じている。これらの発見は、細胞の増殖を阻害または支持する要望に基づいて、特定のタイプのアルギネートマトリックスを含む特定の組成物および部材のデザインおよび製造を可能にする。本発明のいくつかの態様は、細胞の増殖を阻害するアルギネートマトリックスと関連する組成物および部材およびそれらの使用を提供する。本発明のいくつかの側面は、制御された細胞の生長を促進しそれにより細胞が細胞の単一の単層として生長し維持されるアルギネートマトリックスと関連する組成物および部材およびそれらの使用を提供する。
【0020】
細胞の増殖の阻害を含む本発明の側面のいくつかの態様によれば、アルギネートマトリックス内に内包された細胞の増殖は、アルギネートマトリックス内に増殖する細胞を維持することに関連する問題、特にこれらのアルギネートマトリックスに内包された増殖する細胞が動物に埋め込まれるときに生ずる問題を防ぐために阻害できる。同様に、細胞の増殖は、阻害されて、長期にわたって宿主の身体に維持される埋め込まれた組成物および部材上の宿主自身の細胞によるインプラントの過剰な生長を防ぐ。細胞の過剰生長の阻害は、埋め込み可能な組成物および部材の使用に関連する問題を克服し、そして改善された組成物、部材および方法を提供する。
【0021】
アルギネートマトリックス中のストロンチウムの存在が、細胞の生存に影響することなく、細胞の増殖を阻害することが見いだされている。この発見は、驚くほど長い期間これらマトリックス内の増殖する細胞の増殖を阻害する方法を提供し、そしてこれらの組成物および部材が驚くほど長い期間宿主の身体中に維持できるように埋め込まれた組成物および部材上の細胞の異常増殖を防ぐ、細胞の増殖を阻害する方法を提供する。
【0022】
宿主の身体中に物質を放出することを目的とする細胞がアルギネートマトリックスに内包される埋め込み可能な組成物の場合、ストロンチウムの存在は、もし存在すれば物質が組成物から宿主の身体中に放出されることを防ぐ、宿主の身体からの細胞の異常増殖を阻害する。異常増殖を防ぐことによって、組成物からの放出は、長時間妨害されることなく続く。
【0023】
アルギネートマトリックスに内包された生存力のある細胞を含む組成物中の細胞の異常増殖の防止は、また、マトリックス内の細胞が、驚くほど長い期間生存を続けるのに必要な栄養素および物質を入手し続けることを可能にする。
【0024】
組成物が増殖する細胞を内包するアルギネートマトリックスである態様では、ストロンチウムの存在は、内包された細胞の増殖を阻害し、それは、これらの組成物の長期の使用を妨げる多くの問題を生じさせることが知られている。本明細書で使用されるとき、「増殖する細胞」は、細胞の増殖を阻害するのに有効なレベルで存在するストロンチウムの不存在で細胞が維持される条件下で、連続かつ反復する細胞の分裂が可能な細胞をさすことを意味する。連続する細胞の増殖の阻害は、マトリックスの完全さの崩壊そして身体中への細胞の次の漏れを妨げる。従って、本発明のいくつかの態様は、増殖する細胞を含む組成物がマトリックスの崩壊および細胞の漏れなしに驚くほど長い期間宿主の身体に維持されることを可能にする。
【0025】
ストロンチウムを含むアルギネートマトリックスによる細胞の増殖の阻害は、埋め込まれた部材および組成物上の細胞の異常増殖を阻害する方法を可能にし、それにより埋め込まれた部材および組成物の使用に関連する問題を克服する。改善された部材および部材を使用する改善された方法が提供される。改善された部材例えば外部表面上にストロンチウム含有アルギネートマトリックスを有するもの、およびこれら組成物を使用する方法が提供される。これらの部材は、それらの使用が多くの埋め込まれた部材に関連する細胞の異常増殖およびこのような細胞の異常増殖の問題および望ましくない結果の阻害を特徴とするために、特に有用である。改善された組成物は、上述のようなアルギネートマトリックス内に内包される細胞を含むもの、並びに無細胞の組成物例えばアルギネートマトリックスを含むまたはこれからなるものおよびこれらの組成物を使用する方法も提供される。いくつかの態様では、組成物は、埋め込まれた組成物から身体に放出される医薬または蛋白を内包するアルギネートマトリックスを含む。いくつかの態様では、組成物は、例えば必要なとき支持するかまたは覆うかまたは部材および組織により調整されるようになる空間を占めることができる生体適合性の物質を提供するのに使用できるかさ高剤として使用可能である。
【0026】
本発明のいくつかの態様によれば、複数の増殖する細胞の増殖を阻害する方法が提供される。方法は、アルギネートポリマーおよびストロンチウムを含むアルギネートマトリックス内に増殖する細胞を維持することを含む。いくつかの態様では、内包された細胞は、動物の体内に維持される。いくつかの態様では、動物は、哺乳動物好ましくはヒト、けっ歯動物例えばマウスまたはラット、またはウシ、ヒツジ、ウマ、イヌまたはネコの種である。いくつかの態様では、動物は、魚または鳥の種である。いくつかの態様では、細胞は、少なくとも7日間好ましくは少なくとも30日間、いくつかの態様では少なくとも60日間、いくつかの態様では少なくとも90日間、さらに好ましくは少なくとも180日間そしてより好ましくは1年以上アルギネートマトリックス内に維持される。好ましい態様では、アルギネートマトリックス内の細胞は、少なくとも7日間、好ましくは少なくとも30日間、いくつかの態様では少なくとも60日間、いくつかの態様では少なくとも90日間、さらに好ましくは少なくとも180日間そしてより好ましくは1年以上、動物の体内に維持される。いくつかの態様では、アルギネートマトリックス内の細胞は、動物の体内に維持できる容器のような埋め込み可能な部材内に維持される。いくつかの態様では、埋め込み可能な部材内に維持されるアルギネートマトリックス内の細胞は、少なくとも7日間、好ましくは少なくとも30日間、いくつかの態様では少なくとも60日間、いくつかの態様では少なくとも90日間、さらに好ましくは少なくとも180日間そしてより好ましくは1年以上維持できる。いくつかの態様では、アルギネートマトリックス内の増殖する細胞は、アルギネートマトリックス内に内包されたアルギネート本体の外部表面に単層として付着している。いくつかの態様では、そのアルギネート本体は、アルギネートマトリックスポリマーとカルシウムとを含む。いくつかの態様では、そのアルギネート本体は、カルシウム、バリウム、亜鉛および銅の1つ以上とアルギネートポリマーとを含む。
【0027】
本発明のいくつかの態様によれば、7日以上ヒトの体内で複数の細胞を含む組成物の外部表面上の細胞の生長を阻害する方法が提供される。方法は、7日以上ヒトの体内で、ストロンチウム含有アルギネートマトリックスに内包された複数の細胞を含む組成物を維持することを含む。複数の細胞を含む組成物の外部表面上の細胞の生長を阻害する方法が提供される。細胞は、増殖する細胞、増殖しない細胞または両者の組み合わせであってよい。いくつかの態様では、組成物は、ヒトの体内に1年以上維持される。
【0028】
本発明のいくつかの態様によれば、少なくとも180日間動物の体内で複数の細胞を含む組成物の外部表面上の細胞の生長を阻害する方法が提供される。方法は、7日以上動物の体内に、ストロンチウム含有アルギネートマトリックスに内包された複数の細胞を含む組成物を維持することを含む。細胞は、増殖する細胞、増殖しない細胞または両者の組み合わせであってよい。いくつかの態様では、組成物は、動物の体内に1年以上維持される。
【0029】
細胞がアルギネートマトリックス内に内包されるいくつかの態様では、マトリックスは、一般に回転楕円体である。いくつかの態様では、マトリックスは不規則な形をとる。一般に、アルギネートマトリックスは、有効な数の細胞を受容するのに十分に大きくなければならず、一方マトリックスの外部表面の表面積がマトリックス内の容積に関して十分に大きいように十分に小さい。本明細書で使用されるとき、アルギネートマトリックスのサイズは、一般に、本質的に回転楕円体であるマトリックスについて提供され、そしてサイズは、最大の断面積の測定として表示される。球状のマトリックスの場合には、このような断面積の測定は、直径になるだろう。いくつかの態様では、アルギネートマトリックスは、回転楕円体であり、そしてそのサイズは、約20μmから約1000μmの間である。いくつかの態様では、アルギネートマトリックスのサイズは、100μmより小さく、例えば20μmと100μmとの間であり、いくつかの態様では、アルギネートマトリックスのサイズは、800μmより大きく、例えば800−1000μmの間である。いくつかの態様では、アルギネートマトリックスのサイズは、約100μmであり、いくつかの態様では、アルギネートマトリックスのサイズは、約200μmであり、いくつかの態様では、アルギネートマトリックスのサイズは、約300μmであり、いくつかの態様では、アルギネートマトリックスのサイズは、約400μmであり、いくつかの態様では、アルギネートマトリックスのサイズは、約500μmであり、いくつかの態様では、アルギネートマトリックスのサイズは、約600μmであり、そしていくつかの態様では、約700μmである。
【0030】
細胞がアルギネートマトリックス内に内包されるいくつかの態様では、内包された細胞は、哺乳動物の細胞、好ましくはヒトの細胞である。内包された細胞が増殖しない細胞であるいくつかの態様では、増殖しない細胞は、膵島、肝細胞、神経細胞、腎皮質細胞、血管内皮細胞、甲状腺および上皮小体細胞、副腎細胞、胸腺細胞、卵巣細胞および一次起源の他の細胞のタイプからなる群から選ばれることができるが、これらに限定されない。内包された細胞が増殖する細胞であるいくつかの態様では、増殖する細胞は、確立された細胞系例えばHEK293、MDCKおよびC2C12細胞系から誘導されるが、これらに限定されない。いくつかの態様では、内包される細胞は、細胞が維持されるとき発現する1つ以上の蛋白をエンコードする発現ベクターを含む。いくつかの態様では、蛋白は、サイトカイン、生長因子、インスリンまたは血管形成阻害剤例えばアンジオスタチンまたはエンドスタチンである。約60−70kDより小さいような低分子量を有する蛋白は、ゲルの網状構造の孔度のために特に良好な候補である。いくつかの態様では、内包された細胞は、アルギネートマトリックス内に内包されたアルギネート本体の外部表面に単層として付着している。いくつかの態様では、アルギネート本体は、アルギネートポリマーとカルシウムとを含む。
【0031】
本発明のいくつかの態様によれば、7日間以上動物の体内で無細胞の組成物の外部表面上の細胞の生長を阻害する方法が提供される。方法は、動物の体内に、ストロンチウム含有アルギネートマトリックスを含む無細胞の組成物を維持することを含む。いくつかの態様では、無細胞の組成物は、アルギネートマトリックス内に内包された医薬を含む。いくつかの態様では、無細胞の組成物は、アルギネートマトリックス内に内包された蛋白を含む。いくつかの態様では、無細胞の組成物は、組織かさ高インプラントである。いくつかの態様では、無細胞の組成物は、アルギネートポリマーとストロンチウムとから本質的になる組織かさ高インプラントである。
【0032】
本発明のいくつかの態様によれば、動物の体内で部材の外部表面上の細胞の生長を阻害する方法が提供される。方法は、ストロンチウム含有アルギネートマトリックスを部材の外部表面上に被覆することからなる動物の体内に部材を維持することを含む。いくつかの態様では、部材は、ステント、心臓ペースメーカー、カテーテル、埋め込み可能な補てつ物、外科用ねじ、外科用ワイヤ、組織かさ増しインプラント、食道逆流阻害インプラント、失禁阻害インプラント、固体部材またはマクロカプセルのようなアルギネートマトリックスの表面の外部に被覆されたおよび/またはアルギネートマトリックスに内包された細胞を保持するのに好適なコンテナー、乳房インプラント、あごインプラント、頬インプラント、胸部インプラント、臀部インプラントおよび歯科インプラントからなる群から選ばれる。
【0033】
いくつかの好ましい態様では、無細胞の組成物または部材は、哺乳動物好ましくはヒト、けっ歯動物例えばマウスまたはラット、またはウシ、ヒツジ、ウマ、イヌまたはネコの種である。いくつかの態様では、動物は、魚または鳥の種である。いくつかの態様では、部材は、少なくとも7日間好ましくは少なくとも30日間、さらに好ましくは少なくとも60日間、より好ましくは少なくとも90日間、さらに好ましくは少なくとも180日間そしてより好ましくは1年以上動物の体内に維持される。
【0034】
本発明は、また、外部表面にストロンチウム含有アルギネートマトリックスを被覆した埋め込み可能な部材に関する。いくつかの態様では、部材は、ステント、心臓ペースメーカー、カテーテル、埋め込み可能な補てつ物、外科用ねじ、外科用ワイヤ、組織かさ増しインプラント、食道逆流阻害インプラント、失禁阻害インプラント、固体部材またはマクロカプセルのようなアルギネートマトリックスの表面の外部に被覆されたおよび/またはアルギネートマトリックスに内包された細胞を保持するのに好適なコンテナー、乳房インプラント、あごインプラント、頬インプラント、胸部インプラント、臀部インプラントおよび歯科インプラントからなる群から選ばれる。
【0035】
本発明は、まずアルギネート溶液により無細胞の組成物または部材またはそのコンポーネントをカバーまたは被覆する段階、そして連続してまたは次に、浸漬、サブマージョン、噴霧、微粒化または他の技術により二価の架橋イオン例えばカルシウム、バリウム、銅、亜鉛またはストロンチウムを施し、それにより部材を被覆するアルギネート溶液のアルギネートポリマーが二価の架橋イオンにより架橋されるようになりそしてそれにより部材を被覆するアルギネートマトリックスが形成される段階からなる、アルギネートマトリックスにより無細胞の組成物または部材の外部表面を被覆またはカバーする方法に関する。これらの態様では、最初の被覆またはカバーに使用されるアルギネート溶液は、無細胞の組成物または部材を有効に被覆またはカバーするのに十分な粘度のものである。いくつかの態様では、最初の被覆またはカバーは、水和(湿った)状態でさらに架橋される。いくつかの態様では、最初の被覆またはカバーは、架橋イオンとの反応前にまず乾燥される。
【0036】
細胞の増殖の阻害を含む本発明のこれらの種々の側面は、それぞれ、ストロンチウムを含むアルギネートマトリックスを用意する。いくつかの態様では、アルギネートマトリックスは、最初、カルシウム、バリウム、亜鉛および銅の1つ以上を本質的に含まない。いくつかの好ましい態様では、アルギネートマトリックス中の二価のカチオンは、ストロンチウムからなる。いくつかの態様では、アルギネートマトリックスは、アルギネートポリマーとストロンチウムとから本質的になる。いくつかの態様では、アルギネートマトリックスのアルギネートポリマーは、50%より多いα−L−グルロン酸を含む。いくつかの態様では、アルギネートマトリックスのアルギネートポリマーは、60%より多いα−L−グルロン酸を含む。いくつかの態様では、アルギネートマトリックスのアルギネートポリマーは、60−80%のα−L−グルロン酸を含む。いくつかの態様では、アルギネートマトリックスのアルギネートポリマーは、65−75%のα−L−グルロン酸を含む。いくつかの態様では、アルギネートマトリックスのアルギネートポリマーは、70%より多いα−L−グルロン酸を含む。いくつかの態様では、アルギネートマトリックスのアルギネートポリマーは、20−500kDの平均分子量を有する。いくつかの態様では、アルギネートマトリックスのアルギネートポリマーは、50−500kDの平均分子量を有する。いくつかの態様では、アルギネートマトリックスのアルギネートポリマーは、100−500kDの平均分子量を有する。いくつかの態様では、アルギネートマトリックスは、ポリカチオン性アミノ酸を含まない。
【0037】
アルギネートマトリックスの表面に付着した細胞が、カルシウム、亜鉛およびバリウムの1つ以上を含むアルギネートマトリックスを使用して単層として維持できることが見いだされている。この発見は、アルギネートマトリックスから作られたアルギネート本体およびそれらの表面に付着した細胞の単層を有するアルギネートマトリックスのシート、並びにこれらのアルギネート本体およびアルギネーシートを使用する方法に関する本発明の側面をもたらす。これらのアルギネート本体およびアルギネートシートに付着した細胞が、単層として安定な形で維持されることが見いだされている。アルギネート本体およびアルギネートシートは、細胞を維持し、増殖しそして取り扱う安定なプラットホームを提供する。アルギネート本体およびアルギネートシートは、単層として表面に付着した複数の増殖しない細胞を含むことができ、取り扱いの容易さ、有効な維持、大量のさらに規則的な分散、およびこれら細胞の凝集の防止を可能にする。その上、これらのアルギネート本体およびアルギネートシートは、細胞を非常に高い密度に維持するのに使用でき、細胞の生存を保持する栄養素の交換を可能にし、それにより治療用生成物の放出能率を増大させる。アルギネートの表面上の細胞の単層の生長および維持は、細胞/マトリックスの組成物の特定の形状をもたらすのに有用である。さらに、単層として細胞を生長させることにより、細胞は、最適な方法で配列されて、細胞が非常に高い濃度で生存を続けることを可能にする。いくつかの態様では、細胞は、部材またはマクロカプセルに関連して配合されるかまたはそれ以外の方法で使用される。アルギネート表面上に単層として細胞を維持することにより、細胞は、部材またはマクロカプセル内により最適に配置される。これは、体積が小さくそして細胞濃度の最適化が厳密を要するような部材で特に有用である。
【0038】
複数の増殖する細胞を含むアルギネート本体およびアルギネートシートは、増殖しない細胞を有するものと同じ利点を有し、単層として細胞のさらに制御された増殖を可能にする追加の利点を有する。
【0039】
いくつかの態様では、組成物は、アルギネート本体の外部表面上の細胞の単一の層を含むアルギネート本体を含み、その際アルギネート本体はカルシウム、バリウム、亜鉛および銅の1つ以上を含む。いくつかの態様では、アルギネート本体は、一般に、形状が回転楕円体であり、そしてアルギネート本体のサイズは、600μmより小さく、いくつかの態様では、500μmより小さく、いくつかの態様では、400μmより小さく、いくつかの態様では、300μmより小さく、いくつかの態様では、200μmより小さく、そしていくつかの態様では、100μmより小さい。
【0040】
いくつかの態様では、細胞は、ほ乳動物の細胞、好ましくはヒトの細胞である。態様では、細胞は、増殖しない細胞、好ましくは幹細胞、膵島、肝細胞、神経細胞、腎皮質細胞、血管内皮細胞、甲状腺および上皮小体細胞、副腎細胞、胸腺細胞、卵巣細胞からなる群から選ばれるがこれらに限定されない細胞である。いくつかの態様では、細胞は、増殖する細胞、例えば確立された細胞系例えばHEK293細胞およびC2C12細胞系から由来する細胞である。いくつかの態様では、細胞は、細胞が維持されるとき発現する蛋白をエンコードする発現ベクターを含む。いくつかの態様では、蛋白は、サイトカイン、生長因子、インスリンまたは血管発生阻害剤例えばアンジオスタチンまたはエンドスタチンである。
【0041】
いくつかの態様では、そのアルギネート本体は、アルギネートマトリックス例えばアルギネートポリマーとストロンチウムとを含むアルギネートマトリックス内に内包される。いくつかの態様では、単層は、次に末端が分化したまたは他の増殖しない状態に転換される増殖する細胞を使用して生長する。いくつかの態様では、それに付着した細胞の単層を有するアルギネート本体は、埋め込み可能な部材内に含まれる。
【0042】
本発明のいくつかの態様では、アルギネートポリマーとストロンチウムとを含むアルギネートマトリックス内に含まれる内包された細胞は、アルギネートポリマーとストロンチウムとを含むアルギネートマトリックス内に所望により被覆される埋め込み可能な部材中に配合される。このようないくつかの態様では、アルギネートマトリックス内の細胞は、アルギネートポリマーとカルシウム、バリウム、亜鉛、銅および/またはマグネシウムとを好ましくは含むアルギネート本体の外部表面に単層として付着する。このような態様で使用される細胞は、好ましくは、幹細胞、膵島、肝細胞、神経細胞、腎皮質細胞、血管内皮細胞、甲状腺および上皮小体細胞、副腎細胞、胸腺細胞、卵巣細胞、HEK293細胞およびC2C12細胞からなる群から選ばれる細胞である。いくつかの態様では、細胞は、例えばサイトカイン、生長因子、インスリンまたは血管発生阻害剤例えばアンジオスタチンまたはエンドスタチンのような細胞が維持されるとき発現する蛋白をエンコードする発現ベクターを含む。
【0043】
本発明のいくつかの態様では、アルギネートポリマーとストロンチウムとを含むアルギネートマトリックス内に含まれる内包されたインスリン生成細胞例えば膵島細胞を含む埋め込み可能な部材は、糖尿病にかかった個体を治療するのに使用される。その内側と外側との間の物質の移動を可能にする部材は、個体に埋め込まれそして維持され、そして部材内の細胞は、個体の身体中に移動するインスリンを生成しそして放出する。これらのいくつかの態様では、埋め込まれる部材は、アルギネートポリマーとストロンチウムとを含むアルギネートマトリックスにより被覆される。これらのいくつかの態様では、アルギネートマトリックス内に含まれるインスリン生成細胞は、アルギネートポリマーとカルシウム、バリウム、亜鉛、銅および/またはマグネシウムとを好ましくは含むアルギネート本体の外部表面に単層として付着する。
【0044】
いくつかの態様では、組成物は、カルシウムを含むアルギネートシートの表面上に細胞の単一の層を含むアルギネートシートを含む。いくつかの態様では、細胞は、哺乳動物の細胞好ましくはヒトの細胞である。態様では、細胞は、増殖しない細胞、好ましくは幹細胞、膵島、肝細胞、神経細胞、腎皮質細胞、血管内皮細胞、甲状腺および上皮小体細胞、副腎細胞、胸腺細胞および卵巣細胞からなる群から選ばれるがこれらに限定されない細胞である。いくつかの態様では、細胞は、増殖する細胞例えば確立された細胞系から由来する細胞、例えばHEK293、MDCKおよびC2C12細胞系(しかしこれらに限定されない)である。いくつかの態様では、細胞は、細胞が維持されるとき発現する1つ以上の蛋白をエンコードする発現ベクターを含む。いくつかの態様では、人工組織を製造する方法が提供される。細胞の複数のシートが生長され、その際、細胞のシートのそれぞれは、アルギネートポリマーとカルシウムとを含むアルギネートマトリックスを含むシート上に細胞の単一層を含む。細胞のシートは、細胞の1つのシートの底部を細胞の他のシートの頂部に置くことにより積み重ねられる。細胞の積み重ねられたシートは、各シートのアルギネートマトリックスが溶解しそれにより細胞の各単一層が細胞の少なくとも1つの他の単一層と直接接触するようになって細胞の複数の層を有する組織を生成する条件下、維持される。いくつかの態様では、細胞の複数のシートは、外皮細胞の複数のシートを含む。いくつかの態様では、細胞の複数のシートは、線維芽細胞の1つ以上のシートをさらに含む。いくつかの態様では、細胞の複数のシートは、肝細胞の複数のシートを含む。いくつかの態様では、細胞の複数のシートは、島細胞の1つ以上のシートを含む。いくつかの態様では、本発明で使用される細胞は幹細胞である。いくつかの態様によれば、外皮組織は、人工皮膚として構成される。外皮細胞(ケラチン生成細胞および他のもの)の層は、結合組織(繊維芽細胞)の層に加えられて患者の損傷した皮膚の置換に使用される。
【0045】
アルギネート本体またはシート上の単層として細胞を維持することを含む本発明のこれらの種々の側面は、カルシウム、バリウム、亜鉛および銅の1つ以上を含むアルギネートマトリックスをもたらす。いくつかの態様では、アルギネートマトリックスは、ストロンチウムを本質的に含まない。いくつかの好ましい態様では、アルギネートマトリックス中の二価のカチオンは、カルシウムからなる。いくつかの好ましい態様では、アルギネートマトリックスは、アルギネートポリマーとカルシウムとから本質的になる。いくつかの態様では、アルギネートマトリックスのアルギネートポリマーは、50%より多いα−L−グルロン酸モノマーである。いくつかの態様では、アルギネートマトリックスのアルギネートポリマーは、60%より多いα−L−グルロン酸を含む。いくつかの態様では、アルギネートマトリックスのアルギネートポリマーは、60−80%のα−L−グルロン酸を含む。いくつかの態様では、アルギネートマトリックスのアルギネートポリマーは、70%より多いα−L−グルロン酸を含む。いくつかの態様では、アルギネートマトリックスのアルギネートポリマーは、65−75%のα−L−グルロン酸を含む。いくつかの態様では、アルギネートマトリックスのアルギネートポリマーは、20−500kDの平均分子量を有する。いくつかの態様では、アルギネートマトリックスのアルギネートポリマーは、50−500kDの平均分子量を有する。いくつかの態様では、アルギネートマトリックスのアルギネートポリマーは、100−500kDの平均分子量を有する。いくつかの態様では、アルギネートマトリックスは、ポリカチオン性アミノ酸を含まない。
【実施例1】
【0046】
この実施例では、アルギネートビーズに捕捉された細胞培養を研究し、そして経時のビーズ内そして表面上のそれらの生長を観察した。細胞の生長が、ビーズの表面で生じ、そして細胞が球状の単層としてビーズをカバーし、さらにこの現象がゲル化イオンに依存することを見いだした。これらの観察は、細胞とアルギネートマトリックスとの間の相互反応の背後にあるメカニズムを理解するのに有意義なものである。
【0047】
材料および方法
細胞培養および内包方法
ヒトHEK293Endo細胞(エンドスタチン生成のためにトランスフェクションされた胚腎細胞)およびイヌMDCK細胞を使用した(成犬の雌のコッカースパニエルの見かけ上正常な腎臓から由来した)。細胞は、単層細胞培養として従来通り生長させ、そして1週間3回再培養した。それぞれの実験において、細胞をトリプシン処理し、1.8%のPRONOVA SLG20アルギネート溶液と混合し、そして参考として本明細書に引用されるKlokk TI,and JE Melvik,J Microencapsulation;19:415−424に既述されているように静電ビーズ発生器を使用することによってアルギネートビーズに捕捉した。約400μmのサイズをもつビーズは、外径0.35っmのノズルを使用しそしてノズル先端とゲル化浴との間の距離が約1cmで約6kV/cmの静電圧でビーズ発生器を操作することにより製造された。ゲル化中のナトリウムイオンの存在は、より良好な性質を有する不均一なビーズを得るために、浸透質としてマンニトールを使用することによって可能な限り避けた(本明細書において参考として引用されるStrand BL,et al.Biotechnol Bioeng 2003;82:386−394)。使用したゲル化溶液は、50mMのCaCl、SrClまたはBaClを含んだ。ゲル化後、ビーズは、細胞培養フラスコ中に移し、そして通常の細胞生長培地を加えた。生長培地は、各週2−3回変え、そしてフラスコの生長の表面上のビーズから解放される細胞の過剰な生長を避けるために、ビーズをまた規則的に新しいフラスコ中に移した。ビーズおよび細胞の生長は、光学または蛍光顕微鏡を使用することにより経時的に追跡された。
【0048】
捕捉された細胞のライブ・デッド染色
生存および死滅した細胞の検出は、LIVE/DEAD Viability/Cytotoxicity Kit(Molecular Probes,Oregon,USA)を使用することにより行われた。細胞の染色は、キットに添付された方法に記載されたように行われた。緑色の蛍光は、生存細胞の指標として細胞内エステラーゼ転換カルシン(calcein)から検出され、一方赤色の蛍光は、死んだ細胞(漏れる細胞膜)の同時のエチジウム染色から検出される。細胞を含むアルギネートビーズは、共焦点画像化顕微鏡により観察された。
結果
【0049】
ヒトHEK293Endo細胞およびイヌMDCK細胞を、全く被覆材料なしにカルシウムおよびストロンチウムのアルギネートビーズに内包し、そして実験中光学顕微鏡で肉眼で観察された。2つの細胞系の生長挙動は、明らかに異なった。わずか数日後、細胞の生長がビーズの内部で観察でき、そしてこれはHEK293Endo細胞で明らかに顕著であった。大きな細胞の凝集物がビーズ内で発達し、そして1ヶ月より短い期間後に、ビーズの外部の細胞の生長を見ることができた。図1は、ストロンチウムおよびカルシウムの両者のアルギネートビーズにおける培養中の1.5ヶ月後のHEK293Endo細胞の像を示す。ビーズ内の細胞の増殖は、ビーズ内の細胞の量がストロンチウムイオンでは少ないので、ゲル化イオンに明らかに依存した。両者の培養では、細胞の漏れは、細胞のコロニーが培養フラスコの底部に付着しそしてそこでコロニーを生じさせるために、生じた。しかし、カルシウムアルギネートのビーズでは、細胞は、また、ビーズのいくつかの表面で生長でき、そしてビーズに多少緩やかに付着した細胞の凝集物も観察できた。しかし、このような細胞の異常増殖は、ストロンチウムアルギネートのビーズでは観察されなかった。
【0050】
アルギネートビーズに捕捉されたMDCK細胞では、増殖率は、HEK293Endo細胞についてよりもかなり低かった。この実験では(図2)、2×10細胞/mLの濃度の細胞は、ストロンチウムまたはカルシウムのアルギネートの何れかの350μmビーズに捕捉された。細胞の生長は、数日後両方のタイプのビーズ内で見ることができ、そしてこれはカルシウムビーズにおいてより顕著であった。いくらかのMDCK細胞も両方のビーズのタイプから逃げ出し、そして培養フラスコの表面でコロニーを発生させた。またこれらの細胞では、カルシウムアルギネートビーズとストロンチウムアルギネートビーズとの間では、ビーズ表面での細胞の生長に大きな相違が存在した。図2では、培養中の約2.5ヶ月後のMDCK細胞を含む2つのアルギネートゲルビーズの像を示す。この段階では、すべてのカルシウムアルギネートのビーズは、細胞により完全に転換されたが、一方ストロンチウムビーズのどんなものも細胞の異常増殖を示さなかった。ビーズ表面での生長の挙動は、細胞がビーズ表面に多少緩く付着した大きな凝集物として生長を続けるHEK293Endo細胞とは対照的に、MDCK細胞はカルシウムビーズの表面で単層として細胞をカバーするために、2つの細胞のタイプの間では明らかに異なる。
【0051】
ビーズ上の細胞の異常増殖は、光学顕微鏡で容易に観察できた。ビーズの制限された数を数えることにより、ビーズ表面での細胞に関する生長パターンは、特徴的であった(図3)。ビーズが細胞により完全にまたはわずか部分的にカバーされたかどうかも注目された。図3で見ることができるように、カルシウムアルギネートビーズ上の細胞の生長は、約3週間後に生じそして付着した細胞を有するビーズの部分は、すべてのビーズが内包約40日後細胞によりカバーされるまで、急速に増大した。実験中、わずか約25%以内のカルシウムアルギネートビーズが、一度に細胞により不完全にカバーされた。これは、ビーズ表面での生長が開始されると直ぐに生ずる急速な細胞の異常増殖と一致した。別の実験で、5ヶ月より長く、ビーズについて観察した。カルシウムアルギネートのビーズは、MDCK細胞の完全に球状の単層によりカバーされていたが、一方ストロンチウムビーズのどれも表面での細胞の生長を全く示さないことが観察された。
【0052】
細胞によりカバーされたビーズからの細胞が、細胞培養に新しい空のビーズを添加することにより空のビーズに移動し付着することができるかどうかについてテストした。ビーズは、新しいビーズへの細胞の伝達の徴候なしに数週間観察された(図示せず)。
【0053】
ビーズの表面内および表面での細胞の生長は、また細胞の「ライブ・デッド(live dead)」染色および共焦点画像化技術により検討された。この実験では、緑色の蛍光は、生存する細胞の細胞内エステラーゼ転換カルシンから放出され、一方赤色の蛍光は、死んだ細胞(漏れる細胞膜)のエチジウム染色からである。共焦点蛍光像は、ビーズ全体の断面として示された。従って、ビーズ内の蛍光細胞の一部のみが、像に示された(図示せず)。カルシウムアルギネートのビーズでは、生存する細胞の球状の単層は明らかに見られるが、一方ビーズの中心の細胞は死んでいる。ビーズ内の壊死の理由は、細胞の球状の単層からの消費の結果として酸素および他の栄養素の欠如により説明できるものと思われる。対照的に、ストロンチウムアルギネートビーズは、細胞によりカバーされずそして生存する細胞を含んだ。しかし、ストロンチウムビーズ内の細胞の大きなコロニーが、時間とともに壊死の中心を有する細胞の凝集物を生じさせることも注目すべきことである。
検討
【0054】
不純物を非常に低いレベルで含む十分に規定された医薬品グレードのアルギネート(それぞれ本明細書で参考として引用されるDornish JM,et al.Ann N Y Acad Sci 2001;944:388−397 and Skaugrud,et al.Biotechnol Genet Eng Rev 1999;16:23−40)を使用した。そのため、ほとんどの商品としてのアルギネートに多い量または未知の量で通常存在するエンドトキシンまたは他の不純物が、得られた観察に影響を及ぼすことは、ほとんどないと思われる(Skaugrud,et al.supra)。
【0055】
アルギネートゲル網状構造内の細胞の生長パターンは、2つの細胞系の間で明らかに相違した(図1および2)。MDCK細胞が単層の培養で、より急速な生長を示したが、ゲルの網状構造内の生長は、HEK293Endo細胞に比べて遅かった。同様な相違は、すでに報告されている(Rokstad AM,et al.supra)。しかし、ストロンチウムゲル網状構造のより高い強さは、カルシウムビーズに比べて、長時間内包された細胞系の両者についてビーズの一体性を維持した。アルギネート網状構造のミクロ構造の強さは、細胞の生長速度に直接影響するように思われる(Rokstad AM,et al.supraおよびStabler CL and A Sambanis supra)。ゲル網状構造の強さは、また、細胞の増殖の結果としてばかりかゲルと生長培地との間のイオン交換の結果として、時間とともに変化する(それぞれ本明細書で参考として引用されるRokstad AM,et al.supra;スミドスロッド O and G スケジャク−ブラク.TIBTECH 1990;8:71−78;and Read T−A,et al.Int Devl Neuroscience 1999;17:653−663)。ゲル網状構造の分解に関する酵素的メカニズムの存在は、また示唆されている(Rokstad AM,et al.supra)。カルシウムアルギネートゲルに比べて、ストロンチウムアルギネートゲルは、低濃度のゲル化イオンを有する溶液中で時間の経過とともに分解されることが少ないだろう。異なるビーズからの細胞の放出は、ビーズのいくらかの崩壊の結果ばかりか細胞の生長およびゲルの網状構造を通る移動の結果として生ずるものと思われる。
【0056】
ビーズ表面での細胞の生長パターンは、また、2つの細胞系の間で非常に異なった。HEK293Endo細胞は、ビーズに多少付着して生長したが(図1)、MDCK細胞は、完全な球状の単層としてビーズをカバーした(図2)。明らかに、MDCK細胞は、共焦点画像化により立証されるように、カルシウムアルギネートビーズの表面に強固に付着した。カルシウムビーズの表面への強い付着は、特定の付着メカニズムを含む足場依存性の生長を示唆する。さらに、ストロンチウムゲル表面での生長の欠落は、ゲルの網状構造内の特定のゲル化イオンの存在が必須であることを示唆する。これは、ゲル化イオンのみの存在またはゲル構造中の相違に直接関係するだろう。ゲル化イオンの重要性は、本明細書において参考として引用されるAttramdal A.Journal of Peridonal Research 1969;4:281−285により支持され、彼は、カルシウムイオンとは対照的にストロンチウムイオンが、ガラス表面への細胞の付着を支持しなかったことを観察した。細胞外マトリックスまたは細胞への正常な細胞の付着が、インテグリンおよびカドヘリンのような膜蛋白に依存することも現在周知である。その上、これらの膜付着蛋白は、また、基質付着のための二価のカチオンに依存することが知られている(本明細書において参考として引用されるHynes RO.Cell 2002;110:673−687)。本発明を特定の理論に限定されることを決して望まないが、二価のイオンに依存する足場メカニズムが、カルシウムゲル表面への細胞の付着に含まれることが妥当と思われる説明である。ストロンチウムイオンの化学的性質はカルシウムイオンのそれらと同様であるが、細胞付着メカニズムは、ストロンチウムゲル網状構造により支持できない。5ヶ月を超えた後、どんな付着した細胞もストロンチウムビーズ上に観察されなかったが、生存する細胞は、すべてのカルシウムビーズを完全にカバーし続けていた。
【0057】
カルシウムアルギネートビーズの表面上のMDCK細胞の異常増殖は、約3週間後に始まった(図3)。ビーズ表面上の生長なしのこの比較的長い開始時間は、驚くべきことである。また、ビーズ表面上の生長期間は、部分的に異常増殖したビーズの少ない部分により反映されるように、短い。これは、ある開始メカニズムおよびビーズ表面上の急速な生長速度を示唆する。これらの観察に関する説明は、ある細胞の適合メカニズムを恐らく含むだろうが、恐らくまたカルシウム放出の結果としてゲル網状構造の変化に関係するだろう(スミドスロッド O and G.スケジャク−ブラク supra)。細胞によりカバーされたビーズが細胞を空のビーズの表面に移動させなかったという観察は、ゲルの表面のある崩壊または細胞とゲル表面との間の強い最初の接触が、生長の開始を可能にするために必要であることを示す。
【0058】
アルギネート表面上の生長が、また、Wang et al.supraにより報告され、彼は、少ないグルロン酸含量に比べて多い含量のアルギネート上の良好な生長を見いだした。2つのタイプのゲルの間のゲル構造および強さの違いが、相違を説明できることが示唆された。同様な結果は、また、RGD変性アルギネートについて報告されている(Rowley JA and DJ Mooney DJ supra)。低グルロン酸含量アルギネートに比べて高グルロン酸含量アルギネートを含むアルギネート上の良好な生長は、また、高グルロン酸アルギネートゲル網状構造に存在するカルシウムのより高い含量が、より良好な細胞の付着およびより強い生長を促進できる事実により影響される(予備的な観察も、低グルロン酸含量のアルギネートに比べて、高グルロン酸含量のアルギネートから製造されたアルギネートビーズ上のHEK293Endo細胞のより急速な生長を示す)。
【0059】
動物に埋め込まれた空のアルギネートビーズの表面上の線維芽細胞およびマクロファージの生長は、一般に観察されている(Vandenbossche GMR,et al.supra;Rokstad AM,et al.(2001)supra;Siebers U,et al.supra)。埋め込まれたビーズに向かう宿主の応答は、いくつかの場合に、ビーズに向かう有害な免疫学的に関連する反応の開始よりむしろ、宿主からの細胞のための生長基質としてアルギネート表面の作用である。アルギネートゲルにおいてゲル化イオンとしてストロンチウムを使用することは、次に、細胞の異常増殖を避けるために有利である。ストロンチウムの使用は、従来、良好な生体適合性および高いゲルの強さのために、内包技術への応用が示唆され(本明細書において参考として引用されるWideroe H and S Danielsen.Die Naturwissenschaften 2001;88:224−228.44)、そしてストロンチウム阻害細胞増殖を示すこの文献のデータは、このゲル化イオンを使用するとき、追加の予想されない利点をもたらす。ストロンチウムビーズのライブ/デッド分析は、培養数ヶ月後のビーズ内の生存する細胞の存在を明白に示した。
【0060】
アルギネート表面上の細胞の生長は、細胞の生長を支持する足場物質としての応用に興味のある可能性を有する(それぞれ本明細書において参考として引用されるWang L.supra;Alsberg E,et al.Proc Natl Acad Sci USA 2002;99:12025−12030;and Loebsack A,et al.Journal of Biomedical Materials Research 2001;57:575−581)。アルギネート表面上の単層としての細胞の生長は、増殖する細胞の生長を制御しそして壊死を避けるのに恐らく使用できるだろう。アルギネートゲル構造の表面に付着した細胞の密集した単層の使用は、生産システムまたは組織構築物の製造において異なる応用に使用される可能性を有する。球状の層として付着した細胞は、非常に高い密度で維持でき、一方なお栄養物、廃棄物並びに生産物質の交換の良好な利用性を可能にする。しかし、外来の細胞の埋め込みを含む内包の応用では、付着した細胞を保護する追加の被覆方法またはマクロカプセルは、より実際的な技術を利用することを必要とする。また、細胞によりカバーされたアルギネートビーズ内に捕捉された細胞は、栄養素の欠乏の結果として必ず死ぬことになるだろう。
【実施例2】
【0061】
序文
バイオポリマーに基づく組織構築物の移植は、多数の疾患の治療において、有望な将来がある。生体適合性のバイオポリマーは、マイクロビーズ内に細胞を捕捉するのに使用でき、そのため宿主および物理的ストレスからの免疫攻撃に対して細胞を保護する。他のポリマーに比べて、アルギネートは、特に、固定化剤として良好な性質を有し、その性質は、生理学的に関連する温度で発達し固化できる熱安定性ゲルを形成する能力にある。治療用の分子を排出するアルギネートビーズに捕捉された細胞は、がん、糖尿病、パーキンソン病、慢性の痛みおよび肝臓の不全を含む広範囲の疾患の治療に生体内でバイオリアクターとして使用できる。そのため、アルギネートは、治療の用途に関してバイリアクターシステムの開発において細胞または組織のための固定化物質として現在広く使用されている。
【0062】
医学的使用の直前に新鮮な器官を処理する代わりに、バイオリアクターシステム用の連続する源として生体外での細胞の生長も使用できる。これらの細胞は、周知の技術により遺伝子学的に操作されて、治療用の製品を生成し、そのため新しいバイオリアクターシステムの開発における魅力的な候補である。アルギネートビーズに固定された異なる確立された細胞系が検討され、そして結果がここに提供される。
【0063】
方法
生体外で単層として通常培養された異なる確立された細胞系からの細胞は、アルギネートゲルビーズに捕捉され、そしてそれらの生長の挙動が検討された。以下の細胞系が検討された。ヒトHEK293Endo細胞(エンドスタチン生産のためにトランスフェクションされた胚腎細胞)、ヒトNHK3025細胞(子宮頚部カルシノーマ)、イヌMDCK細胞(成犬の雌コッカースパニエルの見かけ上正常な腎から由来する)およびマウスC2C12細胞。細胞をまずPRONOVAアルギネート溶液と混合し、そして静電ビーズ発生器を使用して選択されたサイズのアルギネートビーズに捕捉した。150−約600μmに及ぶ異なるサイズのビーズを、異なるノズルを選びそして約5kV/cmの静電圧で発生器を操作することにより製造した。アルギネートの濃度は、ほとんどの実験で、1.5−1.8%であり、そしてゲル化中のNaの存在は、マンニトール(不均一ビーズ)を使用することにより可能な限り避けた。使用したゲル化溶液は、ほとんど50mMのCaClまたはSrClであったが、BaClもテストした。ゲル化後、ビーズを単層細胞培養フラスコに移し、そして通常の細胞生長培地を加えた。生長培地は、各週で2−3回変え、そしてフラスコ生長表面上のビーズから放出される細胞の過剰の生長を避けるために、ビーズを新しいフラスコ中に規則的に移した。ビーズおよび細胞の生長は、光学顕微鏡または他の技術を使用して経時的に追跡された。
【0064】
結果および検討
アルギネートビーズに捕捉された細胞は、長期間の生体外培養中良好な生存性を示し、そしてアルギネートによる細胞に対する有害な作用はないように思われた。これは、既に発表されたデータと一致する。また、他の発表されたデータによれば、アルギネートゲルに捕捉された細胞が、ゲル内で増殖し続けることが観察された。細胞は、ビーズの大部分をコロニー化しそしてビーズの外ですら生長した。図4は、アルギネートビーズに捕捉された約1ヶ月後のHEK293Endo細胞を示す。見て分かるように、大きな回転楕円体がビーズ内に形成されそして細胞もビーズの外で生長した。ビーズの外側のいくつかの細胞は、ビーズ表面に付着して存在したか、または細胞が凝集するにつれビーズの外側で生長した。アルギネートビーズ内の細胞の増殖は、アルギネートゲルに依存した(すなわち、使用したアルギネートのタイプおよびゲル化条件)。一般に、弱いゲル網状構造を生成する低グルロン酸(G)含量のアルギネートは、細胞の増殖をさらに容易に可能にした。細胞の増殖は、高いGのアルギネートに捕捉された細胞について第一日中非常に制限された。或る最初の生長の遅延(代表的に2−3日)後、細胞はより急速に生長を開始した。これは、細胞生長培地中のゲル化イオン(Ca2+)の低含量による、その期間中のゲル網状構造の弱さの結果であろう。ゲル化イオンは、そのため、ゲル網状構造から失われ、それによりさらに容易な細胞の増殖を可能にする。
【0065】
アルギネートゲル内の細胞の増殖は、このような細胞の増殖がビーズの分解を生じさせるために、ヒトまたは動物におけるビーズ(または他の構造)の埋め込みを含む応用には明らかに問題である。細胞は、また、生体内でビーズの外で生長し始めることが予想でき、もしそうならば、外来の起源の細胞は、宿主の免疫システムに曝されるだろう。この問題は以下のように処理できる。
【0066】
カルシウムアルギネートビーズ中の異なる細胞系の生長の挙動が検討され、そしてアルギネートビーズの表面上およびその内部の異なる細胞の生長パターンにおけるいくつかの明らかな相違が観察された。特に、MDCK細胞は、検討された他の細胞系に比べて、驚くほど異なる生長パターンに従うことが分かった。MDCK細胞は、溶液中の大きな細胞の凝集物の形成なしにビーズをカバーする球状の単層としてビーズの表面上で生長することが観察された。図5は、2つのアルギネートビーズの図を示し、1つは細胞の完全な球状の単層によりカバーされ、そして1つは表面での生長のないビーズを示す。生長期間中細胞により完全にカバーされたまたはカバーされていないかの何れかのビーズを見ることは一般的に生じた。これは、各ビーズのコロニー化が、それが開始されると直ぐに拡大する急速なプロセスであったことを意味する(約1−2日)。しかし、最初の異常増殖後数日で、100%のビーズは、細胞により完全にカバーされた。検討された他の細胞系とは対照的に、MDCK細胞は、表面に多少付着する大きな細胞の凝集なしに規則的な球状の単層としてビーズの表面で生長し続けた。ビーズが細胞によりカバーされた後、ビーズの外側でさらなる生長は見られなかった(密集)。しかし、ビーズから欠落する細胞が、細胞培養の表面に付着して通常の単層として増殖できることが観察された。蛍光技術および共焦点画像化により、球状の単層の細胞は、5ヶ月より長い間(テストされた全継続時間)生存していることが示され、一方ビーズ内に位置する細胞は、ほとんど死んだ。しかし、いくらかの増殖が生じ、ビーズの表面から欠落する単一の細胞を置換することができた。球状の単層としてカルシウムアルギネートビーズに付着したMDCK細胞は、ビーズ内またはビーズ表面で拡大する増殖が全く生ずることなく、生長を阻害する状態にあった。
【0067】
驚くべきことに、細胞が、カルシウムアルギネートゲルの表面でのみ生長するに過ぎないようであり、そしてゲル化イオンとしてストロンチウムにより製造されたゲル上ではないことが見いだされた。ストロンチウムビーズに捕捉された細胞は、培養中数ヶ月後であってもゲル表面で全く生長せず、一方平行するカルシウムビーズでは、細胞は、1ヶ月以内にビーズを完全にカバーした(図6)。これについての1つの説明は、カルシウムアルギネート表面での細胞の生長がカルシウムに直接依存するということである。アルギネートビーズ内に捕捉された細胞では、ストロンチウムの使用は、ビーズ内の細胞の増殖が極めて制限されそして細胞がビーズの表面で生長しなかったために、カルシウムより良好なように見える。しかし、ストロンチウムビーズ内の細胞の生存性は、なお良好であった。
【0068】
細胞の球状の単層によりカバーされたアルギネートビーズは、細胞のさらなる保護のために、大きなアルギネートビーズまたは他のゲル構造中の第二の捕捉(他のバイオマテリアルおよび/または部材を使用する内包または含有を含む)を受けやすい(図7)。ビーズは、アルギネートまたは他のバイオポリマー物質の1つ以上の層により被覆できる。それゆえ、細胞の生長を制御するこの原則は、生体内の生産システムの生成における異なる応用または他の応用に使用できる。球状の単層として付着した細胞は、非常に高い細胞数対ビーズ体積の濃度を保持し、そして細胞はまた栄養素および生産物質の交換に良好に利用される。
【0069】
動物中に埋め込まれたカルシウムアルギネートビーズが、宿主からの細胞(リンパ球、線維芽細胞など)により完全にカバーされるようになることが一般に観察された。これは、栄養素の欠乏のために、捕捉された細胞の細胞死を最終的にもたらす。生長する細胞の生体外の観察に基づいて、ビーズ表面でのこの生長は、イオンに依存しそして宿主の有害な(免疫学的)反応に関係しないようである。ストロンチウムによりゲル化された純粋なアルギネートビーズは、線維芽細胞によりカバーされず、そのためまた「さらに生体適合性」である。細胞に付着する蛋白がカルシウムに依存する(カドヘリンなど)ことは周知である。それゆえ、ゲル網状構造に関係するカルシウムが、カルシウム結合蛋白との関係により細胞の付着を促進できる。
【0070】
要約
生体外で培養された細胞は、アルギネートゲルの表面で急速に生長することが観察された。アルギネートゲル表面上の細胞の生長は、ゲル化イオンに依存した。細胞は、カルシウムアルギネートゲル上でのみ生長し、そしてストロンチウムゲル上ではそうでなかった。細胞に関する生長パターンは、異なる細胞系間で変化し、そして最初の生長は、足場依存性細胞生長を可能にする細胞の突出またはゲル表面の崩壊に関連したようである。いくつかの細胞例えばMDCK細胞は、球状の単層としてビーズを完全にカバーした。最初の生長が開始したとき、ビーズは、短時間内で細胞によりカバーされた。球状の単層としての生長は、ビーズ内の細胞のさらなる生長を止めた(栄養素の欠乏)。球状の単層としてビーズを完全にカバーする細胞は、生長を続けるさらなるスペースがなかったため、阻害により表面での増殖を止めた。生長は、普通の生体外の培養表面上の生長(すなわち、密集)と同じ原則に従うように思われた。
【0071】
カルシウムアルギネートゲルの表面での細胞の選択的生長およびストロンチウムでの生長がないことは、ゲル化イオンがビーズ表面への細胞の付着に重要な役割をはたすばかりか、ゲル構造それ自体における変化も含まれることを示唆している。ゲル網状構造からのカルシウムは、足場依存性蛋白(カドヘリンなど)に影響する。アルギネート表面上の細胞の生長は、組織培養の応用に使用できる。アルギネートゲルは、異なる形状で形成でき、そしてそれらの上で生長する細胞を有する部材は、組織構築および移植組織に使用できる。アルギネートゲルは、細胞の再生長後に恐らく取り出すことができ、そしてこの方法は、次に、組織エンジニアリング方法の一部として、そこなわれていない細胞の層を引き離すのに使用できる。
【0072】
カルシウムイオンに比べて、ビーズ内の細胞の生長は、一般に、より高いビーズの強さを示すストロンチウムゲルでは阻害された。同様に、ストロンチウムビーズ上の細胞の生長は、阻害された。細胞の増殖は、ストロンチウムおよびバリウムのアルギネートビーズでは阻害された。
【0073】
望ましくない細胞(宿主の線維芽細胞およびマクロファージなど)がビーズ上で生長するのを防ぐために(すなわち物理的な保護または免疫的保護)、細胞の球状の単層によりカバーされたビーズは、さらに、ビーズの保護のために被覆されるかまたは二重の内包を受ける。これは、高い細胞濃度を有する最適化された生産システムとして使用されて改善された生産能力を有し、そして細胞は長期間生存を保ち、一方生長は制御される。
【0074】
ヒトまたは動物に埋め込まれたアルギネートビーズは、免疫学的拒絶を受けることがある。埋め込まれたアルギネートビーズは、生長する細胞(リンパ球、線維芽細胞など)によりカバーされるようになることが観察されている。この観察は、生体内でのアルギネートビーズ上の宿主細胞の付着および生長が、カルシウム含有ゲルの表面が細胞の付着および増殖のための足場基質であるため、免疫学的反応によって必ずしも生じないことを示す。埋め込まれたビーズの細胞の異常増殖は、従って、細胞を含むアルギネートマトリックス内にストロンチウムを配合することにより阻害される。追加の方法は、ストロンチウムゲル化マトリックス内に固定化された単層として外側の表面に細胞を生長させるカルシウムビーズを配合することであろう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルギネートマトリックスからなる組成物であって、前記アルギネートマトリックスはアルギネートポリマーおよびストロンチウムからなり、前記アルギネートマトリックス内に細胞を維持することを特徴とする複数の増殖細胞の増殖を阻害するための組成物。
【請求項2】
前記細胞が固体の身体内に維持される請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記細胞が少なくとも7日間維持される請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
前記細胞が少なくとも1年間維持される請求項1から3のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項5】
前記アルギネートマトリックスの二価のカチオンがストロンチウムからなる請求項1から4のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項6】
前記細胞が、前記細胞が維持されるとき発現する蛋白をエンコードする発現ベクターを含む請求項1から5のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項7】
前記アルギネートマトリックスが、約20μmと約1000μmとの間の断面を有する回転楕円体である請求項1から6のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項8】
前記アルギネートマトリックスはアルギネート本体を内包し、前記アルギネートマトリックス内の細胞が前記アルギネート本体の外部表面に単層として付着している請求項1から7のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項9】
前記アルギネート本体が、カルシウム、バリウム、亜鉛および銅の1つ以上とアルギネートポリマーとからなる請求項8に記載の組成物。
【請求項10】
アルギネートマトリックスからなる埋め込み可能な組成物であって、前記アルギネートマトリックスはアルギネートポリマーおよびストロンチウムからなり、前記埋め込み可能な組成物を固体中に7日間以上維持することを特徴とする、前記埋め込み可能な組成物上の宿主細胞の生長を阻害するための埋め込み可能な組成物。
【請求項11】
アルギネートマトリックスからなる埋め込み可能な組成物であって、前記アルギネートマトリックスはアルギネートポリマーおよびストロンチウムからなり、前記埋め込み可能な組成物を固体の体内に180日間以上維持することを特徴とする、前記埋め込み可能な組成物上の宿主細胞の生長を阻害するための埋め込み可能な組成物。
【請求項12】
前記埋め込み可能な組成物が、前記アルギネートマトリックスに内包された細胞、生理学的に活性な化合物、蛋白またはペプチドを含む請求項10または11に記載の埋め込み可能な組成物。
【請求項13】
前記埋め込み可能な組成物が、蛋白をエンコードする発現ベクターを含む細胞を含む請求項10または11に記載の埋め込み可能な組成物。
【請求項14】
前記アルギネートマトリックスが、約20μmと約1000μmとの間の断面を有する回転楕円体である請求項10から13のいずれか1項に記載の埋め込み可能な組成物。
【請求項15】
前記アルギネートマトリックスはアルギネート本体を内包し、前記アルギネートマトリックス内の細胞が前記アルギネート本体の外部表面に単層として付着している請求項10から14のいずれか1項に記載の埋め込み可能な組成物。
【請求項16】
前記アルギネート本体が、カルシウム、バリウム、亜鉛および銅の1つ以上とアルギネートポリマーとからなる請求項15に記載の埋め込み可能な組成物。
【請求項17】
アルギネートポリマーおよびストロンチウムを含むアルギネートマトリックス内に内包されていることを特徴とする細胞を含む埋め込み可能な部材。
【請求項18】
前記埋め込み可能な部材が、アルギネートポリマーおよびストロンチウムを含むアルギネートマトリックス内に被覆されている請求項17の埋め込み可能な部材。
【請求項19】
前記アルギネートマトリックスはアルギネート本体を内包し、前記アルギネートマトリックス内の前記細胞が前記アルギネート本体の外部表面に単層として付着している請求項17または18に記載の埋め込み可能な部材。
【請求項20】
前記細胞が、幹細胞、膵島、肝細胞、神経細胞、腎皮質細胞、血管内皮細胞、甲状腺および上皮小体細胞、副腎細胞、胸腺細胞、卵巣細胞、HEK293細胞およびC2C12細胞からなる群から選ばれる請求項28−30のいずれか1項に記載の埋め込み可能な部材。
【請求項21】
前記細胞がインスリン生成細胞である請求項17−20のいずれか1項に記載の埋め込み可能な部材。
【請求項22】
請求項17−21のいずれか1項に記載の埋め込み可能な部材であって、個体の身体中に前記埋め込み可能な部材を埋め込むことを特徴とする糖尿病の個体を治療するための埋め込み可能な部材。
【請求項23】
前記埋め込み可能な部材が、アルギネートポリマーおよびストロンチウムを含むアルギネートマトリックス内に被覆されている請求項22に記載の埋め込み可能な部材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−32290(P2011−32290A)
【公開日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−257251(P2010−257251)
【出願日】平成22年11月17日(2010.11.17)
【分割の表示】特願2006−547488(P2006−547488)の分割
【原出願日】平成16年12月23日(2004.12.23)
【出願人】(504369661)エフエムシー バイオポリマー エイエス (14)
【Fターム(参考)】