説明

細胞カップリングモジュール、細胞カップリング装置及び細胞カップリング方法

【課題】 マイクロ流路内での細胞カップリングを簡便かつ正確に行うことができる細胞カップリングモジュール、細胞カップリング装置及び細胞カップリング方法を提供する。
【解決手段】
搬送媒体とともに卵子13及びドナー細胞15を搬送する前段流路12と、前段流路12に連続する後段流路16と、後段流路16に交流電界を生じさせるための電極対19と、後段流路16に設けられた誘電体31、32の間隙からなり交流電界の作用により生成する電界により卵子13を捕捉するための捕捉ギャップ33と、後段流路16の上流側に接続され搬送媒体の供給により後段流路16内に二層流を生じさせて卵子13及びドナー細胞15を捕捉ギャップ33に近接して流動させる媒体注入路18とを設ける。捕捉ギャップ33の裏面側には、搬送媒体を吸引して卵子13を捕捉ギャップ33に捕捉するための吸引路17を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞カップリングモジュール、細胞カップリング装置及び細胞カップリング方法に関し、更に詳細には、クローン胚の作出、細胞融合などに際して、簡便にしかも確実に細胞同士をカップリングさせることができる細胞カップリングモジュール、細胞カップリング装置及び細胞カップリング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
生化学の分野を中心に微小流路をガラス基板やプラスチック基板に形成し、その微小閉空間内で化学反応を起こすマイクロ(化学)チップが開発されている。特にDNAのPCR(Polymerase Chain Reaction)法の応用として、従来技術と比較し数倍〜十数倍の高速分離検出を可能とした多くの製品開発がされている(例えば、非特許文献1参照。)。現在その応用先は生化学反応を中心とした分野であり、細胞の分離や加工などの操作における細胞単体の個別搬送、個別加工などの技術は確立されていない。
【0003】
ところで、クローン技術の確立は今後の医療・化学産業を革新的に変化させると期待される技術である。ファンクショナルジェノミクスの分野では、遺伝子の影響を調べるために特定の遺伝子を持ったマウス(KOマウス)を作成し、様々な創薬や治療の研究に使われている。KOマウスの作成方法では、主として、ES細胞からキメラマウスを作り、その子孫からKOマウスを作成する方法が採られているが、安定したクローン技術により、ES細胞から直接クローン技術でKOマウスを作る方法や、体細胞で遺伝子をノックアウトしてクローンマウスを作る方法が有用となってくる。特に、ES細胞が樹立されていない動物種やマウスの系統では、体細胞からのクローン体の作成は非常に有効である。一方、現状のクローニングにおける核移植作業は、移植工程中に多くの手作業が含まれており(例えば、非特許文献2参照。)、研究の効率化、妥当な評価の障害になっている。例えば、移植後の卵細胞に対し、添加薬品の効果を比較する場合、手作業による卵子の損傷のばらつきが大きいと、薬品の効果を正確に評価することができない。
【0004】
このように自動化による研究の省力化と実験条件の安定化はファンクショナルジェノミクスの技術発展に必要不可欠であり、また、今後の産業化を考慮する上でも作業の自動化は重要であることに鑑み、種々の検討が行われている(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】特開2006−325429号公報
【非特許文献1】ANDREW J.DEMELLO, “Microfluidics: DNA amplification moves on”, Nature 422, 28-29 (06March 2003); doi:10.1038/422028a.
【非特許文献2】T. WAKAYAMA,A. C. F. PERRY, M. ZUCCOTTI, K. R. JOHNSON, R. YANAGIMACHI, “Full-termdevelopment of mice from enucleated oocytes injected with cumulus cell nuclei”,Nature 394, 369-374 (23 July 1998); doi:10.1038/28615.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、マイクロ流路内での細胞カップリングを簡便かつ正確に行うことができる細胞カップリングモジュール、細胞カップリング装置及び細胞カップリング方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の細胞カップリングモジュールは、マイクロ流路内の搬送媒体中において複数の細胞のカップリングを行う細胞カップリングモジュールであって、前記搬送媒体とともに前記細胞を搬送する前段流路と、該前段流路に連続する後段流路と、該後段流路に交流電界を生じさせるための電極対と、該後段流路に設けられた誘電体の間隙からなり、前記交流電界の作用により生成する電界により前記細胞を捕捉するための捕捉ギャップと、前記後段流路の上流側に接続され、搬送媒体の注入により前記後段流路内に二層流を生じさせて前記細胞を前記捕捉ギャップに近接して流動させる媒体注入路とを備えたことを特徴とする。
【0007】
本発明の細胞カップリングモジュールにおいては、後段流路内の細胞の搬送媒体中に電極対を用いて交流電界を生じさせ、その交流電界中には誘電体の間隙からなる捕捉ギャップが設けられている。捕捉ギャップには電場集中による電場勾配が生じ、その近傍を通過する細胞は、その電場勾配の方向に誘電泳動力を受けて捕捉ギャップに捕捉されることになる。ここで、誘電泳動力は(電場)2の勾配に比例するため、捕捉ギャップからの距離の増大に伴って著しく小さくなる。そのため、後段流路の幅が広く細胞が捕捉ギャップから遠い場所を通過する場合には、十分な大きさの誘電泳動力が細胞に作用せず、細胞を捕捉できない可能性がある。このような場合、捕捉ギャップからの距離に応じて電極対間の印加電圧を高くする必要があるが、強い電場による細胞損傷の虞があり、また、誘電泳動力以外の力又は流れが発生したり、機器の高出力化によるの影響が懸念される。本発明では、この点に鑑み、細胞が捕捉ギャップ近傍を通過するように、前段流路内に二層流を生じさせて細胞を捕捉ギャップに近づけるための媒体注入路が前段流路に接続されている。
【0008】
更に、本発明の細胞カップリングモジュールにおいては、捕捉ギャップに細胞が捕捉されると、捕捉ギャップにおける電場分布は変化し、捕捉された細胞の表面を頂点とする電場勾配が新たに生じることとなる。そして、捕捉された細胞の近傍を更に他の細胞が通過すれば、その細胞にも上記新たな電場勾配により誘電泳動力が作用し、先に捕捉されている細胞に付着することとなる。このようにして、細胞のカップリングが成立する。
【0009】
本発明の細胞カップリングモジュールにおいては、前記後段流路における前記捕捉ギャップから前記搬送媒体を吸引して前記細胞を捕捉ギャップに捕捉するための吸引路を更に備えていてもよい。この吸引路を設けたことにより、確実に細胞を捕捉ギャップに捕らえることができる。
【0010】
ここで、前記後段流路における前記捕捉ギャップは、前記後段流路の流れを妨げないように、前記後段流路の延設方向に平行に開口するように設けられていることが好ましい。
【0011】
本発明の細胞カップリングモジュールは、前記複数の細胞の一つが卵子であり、前記複数の細胞の他の一つがドナー細胞である場合に好適に使用することができる。
【0012】
本発明の細胞カップリング装置は、上記の細胞カップリングモジュールと、前記前段流路に前記細胞を搬送するための前記搬送媒体を送出する第1の送液ポンプと、前記媒体注入路に前記搬送媒体を送出して二層流を生じさせる第2の送液ポンプとを備えたことを特徴とする。
【0013】
更に、本発明の細胞カップリング装置は、前記吸引路から前記搬送媒体を吸引する吸引ポンプを備えていてもよい。
【0014】
加えて、前記後段流路における画像を撮像する画像センサと、該画像センサで撮像された画像に基づいて、前記第1の送液ポンプ及び前記第2の送液ポンプによる送液をコントロールするコントローラとを設けてもよく、このコントローラにより、前記吸引ポンプによる搬送媒体の吸引をコントロールしてもよい。
【0015】
本発明の細胞カップリング方法は、上記の細胞カップリングモジュールを用いた細胞カップリング方法であって、前記前段流路に前記搬送媒体を送出して前記複数の細胞のうちの第1の細胞を前記後段流路まで搬送するとともに、前記媒体注入路から前記搬送媒体を送出して前記後段流路内に二層流を生じさせることにより、前記第1の細胞が前記捕捉ギャップ近傍を通過するようにするとともに、前記捕捉ギャップに生成している電界により前記第1の細胞を前記捕捉ギャップに捕捉し、前記前段流路に前記搬送媒体を送出して前記複数の細胞のうちの第2の細胞を前記後段流路まで搬送するとともに、前記媒体注入路から前記搬送媒体を送出して前記後段流路内に二層流を生じさせることにより、前記第2の細胞が前記第1の細胞の近傍を通過するようにして、前記交流電界の捕捉ギャップを構成する誘電体及び前記第1の細胞への作用により生成する電界により前記第2の細胞を前記第1の細胞にカップリングさせ、前記電極対による交流電界の発生を止めることにより、前記カップリング後の前記第1及び前記第2の細胞を前記捕捉ギャップから離脱させて搬送することを特徴とする。
【0016】
また、前記細胞を捕捉するための吸引路を備えた細胞カップリングモジュールの場合には、前記交流電界の作用により生成する電界と、前記媒体注入路からの搬送媒体の送出により生ずる二層流と、前記吸引路からの前記前記搬送媒体の吸引とにより前記第1の細胞を前記捕捉ギャップに捕捉し、前記電極対による交流電界の発生を止めるとともに、前記吸引路からの前記前記搬送媒体を送出することにより、前記カップリング後の前記第1及び前記第2の細胞を前記捕捉ギャップから離脱させて搬送するように構成することもできる。
【発明の効果】
【0017】
本発明の細胞カップリングモジュール、細胞カップリング装置及び細胞カップリング方法を使用すれば、交流電界に置かれた誘電体からなる捕捉ギャップに形成された電界と二層流との作用により、細胞を確実に捕捉ギャップに捕捉することができる。また、捕捉ギャップから搬送媒体を吸引する吸引路を備えた構成では、更に確実に細胞を捕捉ギャップに捕捉することが可能となる。
【0018】
これにより、細胞を機械的に把持するような機構は不要となる。また、細胞の捕捉により後段流路で搬送媒体の流れが変化しても後段流路は十分な幅を有しているので、捕捉された細胞が搬送媒体の圧力によって離脱することもなく、搬送媒体の流速を細かく制御する必要もない。そのため、マイクロ流路の製造が容易となり、付随する装置も簡略化することができる。
【0019】
また、細胞のサイズや硬さのばらつきがあっても、種々の細胞を捕捉ギャップに捕捉することが可能となり、細胞の捕捉による搬送媒体の流量の乱れに対しても安定して細胞を保持することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。本実施形態では、卵子からクローン胚を作出する際の操作を例として説明する。クローン胚の作出に際しては、卵子の透明帯が除去された後、卵子が二分割され、分割されたうちの無核卵子(核の無い方)にドナー細胞がカップリングされる。ここで、本明細書におけるカップリングとは、例えば電気融合において電圧を印加する前において、融合すべき細胞同士を接着した状態にすることを言う。
【0021】
図1は、本発明の一実施形態に係る細胞カップリング装置の概略構成図である。本実施形態の細胞カップリング装置は、マイクロ流路11を形成したPDMS(ポリジメチルシロキサン)からなる細胞カップリングモジュール10と、ZFM(Zimmerman's fusion medium)などの搬送媒体をマイクロ流路11内に送出する卵子用送液ポンプ20、ドナー用送液ポンプ22及び注入用送液ポンプ23と、マイクロ流路11から搬送媒体を吸引する吸引ポンプ25と、卵子用送液ポンプ20、ドナー用送液ポンプ22及び注入用送液ポンプ23の送液量(速度)並びに吸引ポンプ25の吸引量を制御するコントローラ24と、マイクロ流路11の画像を撮像する画像センサ28と、マイクロ流路11の画像の監視と装置全体の運転状況を表示及び監視するためのモニタ26とを備えている。
【0022】
本実施形態における細胞カップリングモジュール10の詳細を図2に示す。また、図2におけるA部の拡大平面図を図3に示す。図2及び図3に示すように、マイクロ流路11は、無核卵子13を搬送媒体とともに搬送する前段流路12と、前段流路12に続く幅の広くなった後段流路16とを有しており、この後段流路16は、図2に示すように、相対する電極19a及び電極19bからなる電極対19と、この電極対19の延長上に設けられたPDMSとによって形成されている。電極19a及び電極19bからなる電極対19は、後段流路16に交流電界を生じさせるために設けられている。また、マイクロ流路11は、前段流路12と後段流路16との接続部分近傍に接続された媒体注入路18と、卵子にカップリングするためのドナー細胞を搬送媒体とともに搬送するドナー搬送流路14と、後述する捕捉ギャップ33に連なる吸引路17とを有している。本実施形態では、図3に示すように、前段流路12の幅W1=120μm、媒体注入路18の幅W2=50μm、後段流路16の幅W3=400μm、吸引路17の幅W5=100μmである。図2に示すように、前段流路12、ドナー搬送流路14及び媒体注入路18の端部には、搬送媒体の流量を急激な変動を抑制するための緩衝部12a,14a,18aがそれぞれ設けられている。また、吸引路17及び後段流路16の端部にも、搬送媒体を吸引するための緩衝部17a,16aがそれぞれ設けられている。
【0023】
更に、本実施形態の細胞カップリングモジュールでは、後段流路16の前段流路12との接続部側にPDMSからなる突起部31と、島状部32とが設けられており、この突起部31と島状部32との間に、卵子等の細胞を捕捉するための捕捉ギャップ33が形成されている。捕捉ギャップ33は後段流路16の延設方向、即ち搬送媒体の流れの方向に沿って開口するように設けられており、捕捉ギャップ33の裏面側には、前述の吸引路17が接続されている。
【0024】
本実施形態では、捕捉ギャップ33の開口部の幅d=40μmであり、突起部31の幅D1=100μm、長さL1=500μm、島状部32の長さL2=400μm、幅D2=200μmである。ここで、捕捉ギャップ33の開口部の幅dは、捕捉すべき卵子13の直径より小さく、卵子13の直径の2分の1程度が好ましい。また、後段流路16の突起部31及び島状部32が形成されている部分での流路の幅W4=200μmである。この幅W4は、卵子13の直径の2〜3倍程度が好ましい。更に、本実施形態では、媒体注入路18の前段流路12への接続部から捕捉ギャップ33までの距離L3=700μmである。この距離L3は、後述する二層流により卵子13が捕捉ギャップ33に最も近接するように決められるが、卵子13が捕捉ギャップ33に捕捉されるために十分な距離であればよい。
【0025】
本実施形態におけるマイクロ流路11は、以下のようにして作成される。まず、基板上にリソグラフィー用の光硬化剤(レジスト)の塗膜を形成し、次に、フォトマスクを用いてマイクロ流路11の形状の部分に光照射して硬化させる。更に、未照射の部分を除去することにより、マイクロ流路11の形状の凸状パターンを基板上に形成する。次に、このパターンを覆って基板上にPDMS(ポリジメチルシロキサン)を塗布し、これを硬化させた後に基板から取り外することにより、凹状のマイクロ流路11が形成された細胞カップリングモジュール10が得られる。このようにして作成したマイクロ流路11の断面形状はほぼ矩形であり、その深さは、本実施形態では120μmとなっている。
【0026】
以上の構成を有する装置における細胞カップリング方法について説明する。まず、卵子用送液ポンプ20及び/又はドナー用送液ポンプ22と、注入用送液ポンプ23から搬送媒体を送出し、マイクロ流路11のすべてを搬送媒体で満たす。
【0027】
次に、電極19a及び電極19bの間に交流電圧を印加し、後段流路16内に交流電界を生じさせる。後段流路16に何も存在しなければ、交流電圧の印加により後段流路16には一様な交流電界が形成されるが、後段流路16内には誘電体(PDMS)からなる突起部31及び島状部32が形成されているため、突起部31及び島状部32の間の捕捉ギャップ33近傍では電界は一様とはならない。図5は、後段流路16内における捕捉ギャップ33近傍に形成される電界を解析により求めたものである。解析の際の交流は、1MHz,1Vrmsとした。同図に示すように、生成する電界は捕捉ギャップ33近傍では一様とならず、電場勾配を生じている。このような電場勾配が生じている捕捉ギャップ33の近傍を卵子13が通過すると、卵子13は誘電泳動力により捕捉ギャップ33に捕捉されることとなる。なお、卵子などの誘電体が電場勾配から何れの方向に誘電泳動力を受けるかは、誘電体の誘電率、交流の周波数などの条件によって決まることが知られている。本実施形態では、卵子13が捕捉ギャップ33に引かれるような条件に設定されている。
【0028】
このような電界が形成された後、マイクロピペット、ガラス毛細管などを用いて卵子13が緩衝部12aから前段流路12に導入される。なお、卵子13及び後述するドナー細胞15は、接着性を高めるために予めPHA(Phytohemagglutinin)で処理してある。次に、前段流路12に卵子用送液ポンプ20及び/又はドナー用送液ポンプ22から搬送媒体が送出されるとともに、媒体注入路18にも搬送媒体が送出される。前段流路12における搬送媒体の流量は、0.05〜0.2μl/分である。また、媒体注入路18には、前段流路12における搬送媒体の2〜3倍の量の搬送媒体が送出される。卵子用送液ポンプ20、ドナー用送液ポンプ22及び注入用送液ポンプ23からの搬送媒体の送出量は、画像センサ28からの後段流路16の画像に基づいてコントローラ24により制御されている。
【0029】
上述のように、後段流路16では、前段流路12からの搬送媒体と、媒体注入路18からの搬送媒体とが合流することになる。このように2つの流れが合流すると、その合流地点から下流には二層流が形成されることが知られている。即ち、図3の破線34に示すように、前段流路12からの搬送媒体の流れは媒体注入路18が接続されている側とは反対側に押しやられ、前段流路12からの搬送媒体と媒体注入路18からの搬送媒体との間に境界面が生じることとなる。この境界面は消滅せずに後段流路16の下流まで移動し、少なくとも捕捉ギャップ33の位置まで維持される。その結果、前段流路12内を搬送媒体とともに搬送されてきた卵子13は、後段流路16内で媒体注入路18からの搬送媒体によって突起部31及び島状部32の側に押しやられることとなる。そして、上述のように捕捉ギャップ33には電場勾配が形成されているため、卵子13は捕捉ギャップ33に容易に捕捉されることとなる。また、本実施形態では、捕捉ギャップ33の裏面側には吸引路17が形成されているので、この吸引路17からの搬送媒体の吸引により、卵子13を捕捉ギャップ33に更に容易に捕捉することが可能となっている。
【0030】
次に、ドナー細胞15がマイクロピペット、ガラス毛細管などを用いて緩衝部14aからドナー搬送流路14に導入される。ドナー細胞15も前段流路12に誘導され、更に後段流路16に到達する。後段流路16では、ドナー細胞15も卵子13と同様に二層流の影響を受けて、突起部31及び島状部32の側に押しやられて下流へと移動する。
【0031】
後段流路16には前述と同様に交流電界が生じているが、捕捉ギャップ33には前述のように既に卵子13が捕捉されているので、図5とは異なる電界が生じている。図6は捕捉ギャップ33に卵子13が捕捉されている場合の電界を解析により求めたものである。解析の際の交流は、前述と同様に1MHz,1Vrmsである。卵子13が捕捉されている場合、同図に示すように、捕捉された卵子13を頂点とする電場勾配が新たに生じていることがわかる。このような電場勾配が生じている卵子13の近傍をドナー細胞15が通過すると、図4に示すように、その電場勾配によりドナー細胞15は卵子13にカップリングされることとなる。
【0032】
次に、電極19a及び電極19bへの交流電圧の印加を止め、更に必要に応じて吸引路17から搬送媒体を送出することにより、カップリングした卵子13及びドナー細胞15は捕捉ギャップ33から離れて後段流路16を流動して緩衝部16a(図2)で回収されることとなる。
【0033】
本実施形態の細胞カップリングモジュールを使用すれば、交流電界に置かれた誘電体の間の捕捉ギャップ33に形成された電界と二層流との作用により、卵子13を確実に捕捉ギャップ33に捕捉するとともに、ドナー細胞15を卵子13にカップリングさせることができる。また、捕捉ギャップ33から搬送媒体を吸引する吸引路17を備えているので、更に確実に卵子13を捕捉ギャップ33に捕捉することが可能となる。
【0034】
また、卵子13の捕捉により後段流路16において搬送媒体の流れが変化しても、後段流路16は十分な幅を有しているので卵子13が離脱することはなく、搬送媒体の流速を細かく制御する必要もない。
【0035】
また、卵子13のサイズや硬さのばらつきがあっても、種々の卵子13を捕捉ギャップに保持することが可能となり、卵子13の捕捉による搬送媒体の流量の乱れに対しても安定して卵子13を保持することができ、ドナー細胞15の卵子13への接触も確実に行うことが可能となる。
【0036】
なお、上記ではドナー搬送流路14からドナー細胞15を供給したが、ドナー搬送流路14を設けることなく、前段流路12からドナー細胞15を供給するように構成してもよい。
【0037】
また、上記で説明した実施形態では、第1の細胞が分割した卵子であり、第2の細胞がドナー細胞である場合について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、2つの細胞をカップリングする操作について適用することができる。その場合、第1の細胞及び第2の細胞の大きさに応じて、前段流路12、ドナー搬送流路14、媒体注入路18、後段流路16、捕捉ギャップ33等の大きさや幅を変更する必要があることは言うまでもない。
【0038】
更に、本実施形態では、マイクロ流路11の断面形状が矩形の場合について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、断面が矩形以外の例えば円形であっても差し支えない。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明の細胞カップリングモジュール、細胞カップリング装置及び細胞カップリング方法は、細胞融合、クローン家畜生産などに有用なので、バイオ産業、畜産業などにおいて利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】図1は、本発明の一実施形態に係る細胞カップリング装置の概略構成図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る細胞カップリングモジュールの詳細平面図である。
【図3】図2におけるA部の拡大平面図である。
【図4】捕捉ギャップに捕捉された卵子にドナー細胞がカップリングされた様子を示す平面図である。
【図5】後段流路内における捕捉ギャップ近傍に形成される電界を解析により求めた平面図である。
【図6】後段流路内に卵子が捕捉されている場合における捕捉ギャップ近傍に形成される電界を解析により求めた平面図である。
【符号の説明】
【0041】
10 細胞カップリングモジュール
11 マイクロ流路
12 前段流路
12a 緩衝部
13 卵子
14 ドナー搬送流路
14a 緩衝部
15 ドナー細胞
16 後段流路
16a 緩衝部
17 吸引路
17a 緩衝部
18 媒体注入路
18a 緩衝部
19 電極対
19a 電極
19b 電極
20 卵子用送液ポンプ
22 ドナー用送液ポンプ
23 注入用送液ポンプ
24 コントローラ
25 吸引ポンプ
26 モニタ
28 画像センサ
31 突起部
32 島状部
33 捕捉ギャップ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マイクロ流路内の搬送媒体中において複数の細胞のカップリングを行う細胞カップリングモジュールであって、
前記搬送媒体とともに前記細胞を搬送する前段流路と、
該前段流路に連続する後段流路と、
該後段流路に交流電界を生じさせるための電極対と、
該後段流路に設けられた誘電体の間隙からなり、前記交流電界の作用により生成する電界により前記細胞を捕捉するための捕捉ギャップと、
前記後段流路の上流側に接続され、搬送媒体の注入により前記後段流路内に二層流を生じさせて前記細胞を前記捕捉ギャップに近接して流動させる媒体注入路と
を備えたことを特徴とする細胞カップリングモジュール。
【請求項2】
前記後段流路における前記捕捉ギャップから前記搬送媒体を吸引して前記細胞を捕捉ギャップに捕捉するための吸引路を更に備えている請求項1記載の細胞カップリングモジュール。
【請求項3】
前記後段流路における前記捕捉ギャップは、前記後段流路の延設方向に平行に開口するように設けられている請求項1又は2記載の細胞カップリングモジュール。
【請求項4】
前記複数の細胞の一つが卵子であり、前記複数の細胞の他の一つがドナー細胞である請求項1乃至3の何れかに記載の細胞カップリングモジュール。
【請求項5】
請求項1乃至4の何れかに記載の細胞カップリングモジュールと、
前記前段流路に前記細胞を搬送するための前記搬送媒体を送出する第1の送液ポンプと、
前記媒体注入路に前記搬送媒体を送出して二層流を生じさせる第2の送液ポンプと
を備えたことを特徴とする細胞カップリング装置。
【請求項6】
請求項2記載の細胞カップリングモジュールと、
前記前段流路に前記細胞を搬送するための前記搬送媒体を送出する第1の送液ポンプと、
前記媒体注入路に前記搬送媒体を送出して二層流を生じさせる第2の送液ポンプと、
前記吸引路から前記搬送媒体を吸引して細胞を捕捉する吸引ポンプと
を備えたことを特徴とする細胞カップリング装置。
【請求項7】
請求項1乃至4の何れかに記載の細胞カップリングモジュールを用いた細胞カップリング方法であって、
前記前段流路に前記搬送媒体を送出して前記複数の細胞のうちの第1の細胞を前記後段流路まで搬送するとともに、前記媒体注入路から前記搬送媒体を送出して前記後段流路内に二層流を生じさせることにより、前記第1の細胞が前記捕捉ギャップ近傍を通過するようにするとともに、前記捕捉ギャップに生成している電界により前記第1の細胞を前記捕捉ギャップに捕捉し、
前記前段流路に前記搬送媒体を送出して前記複数の細胞のうちの第2の細胞を前記後段流路まで搬送するとともに、前記媒体注入路から前記搬送媒体を送出して前記後段流路内に二層流を生じさせることにより、前記第2の細胞が前記第1の細胞の近傍を通過するようにして、前記交流電界の捕捉ギャップを構成する誘電体及び前記第1の細胞への作用により生成する電界により前記第2の細胞を前記第1の細胞にカップリングさせ、
前記電極対による交流電界の発生を止めることにより、前記カップリング後の前記第1及び前記第2の細胞を前記捕捉ギャップから離脱させて搬送する
ことを特徴とする細胞カップリング方法。
【請求項8】
請求項2記載の細胞カップリングモジュールを用いた細胞カップリング方法であって、
前記前段流路に前記搬送媒体を送出して前記複数の細胞のうちの第1の細胞を前記後段流路まで搬送するとともに、前記媒体注入路から前記搬送媒体を送出して前記後段流路に二層流を生じさせることにより、前記第1の細胞が前記捕捉ギャップ近傍を通過するようにするとともに、前記捕捉ギャップに生成している電界と前記吸引路からの前記前記搬送媒体の吸引とにより、前記捕捉ギャップ近傍を通過する前記第1の細胞を前記捕捉ギャップに捕捉し、
前記前段流路に前記搬送媒体を送出して前記複数の細胞のうちの第2の細胞を前記後段流路まで搬送するとともに、前記媒体注入路から前記搬送媒体を送出して前記後段流路内に二層流を生じさせることにより、前記第2の細胞が前記第1の細胞の近傍を通過するようにして、前記交流電界の捕捉ギャップを構成する誘電体及び前記第1の細胞への作用により生成する電界により前記第2の細胞を前記第1の細胞にカップリングさせ、
前記電極対による交流電界の発生を止めるとともに、前記吸引路からの前記前記搬送媒体を送出することにより、前記カップリング後の前記第1及び前記第2の細胞を前記捕捉ギャップから離脱させて搬送する
ことを特徴とする細胞カップリング方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−130946(P2010−130946A)
【公開日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−309806(P2008−309806)
【出願日】平成20年12月4日(2008.12.4)
【出願人】(000000974)川崎重工業株式会社 (1,710)
【Fターム(参考)】