説明

細胞シグナル伝達系のモデリングのためのベイジアンネットワークの使用

確率的グラフィカルモデルを適用することによって細胞ネットワークのモデルを構築する方法および使用する方法が提供される。1つの態様において、細胞カテゴリー内の細胞ネットワークのモデルを構築する方法が提供される。前記第1の細胞カテゴリーの第1の細胞を、前記第1の細胞の各々における細胞成分のセットに結合するプローブのセットと接触させる。ここで各プローブは、識別可能な標識で標識されている。前記細胞の各々における複数の前記細胞成分が、検出され、細胞の各々における前記細胞成分に関連した第1のデータセットを生成する。次いで確率的グラフィカルモデルアルゴリズムが、そのデータセットに適用されて、細胞の各々における個々の細胞成分間の第1の弧のセットを同定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
1.関連出願に対する相互参照
本願は、米国特許第60/646,757号に対する優先権を主張する。米国特許第60/646,757号は、本明細書中に参考として援用される。
【0002】
2.分野
本開示は、細胞シグナル伝達ネットワークを構築するための実験方法および計算方法を開示する。
【背景技術】
【0003】
3.背景
細胞外および/細胞内の合図は、情報の流れのカスケードを引き起こす。その中でシグナル伝達分子が、化学的、物理的または位置的に改変されるようになり、新しい機能の能力を得、そしてそのカスケード内の次の分子に影響を及ぼし、その結果、細胞応答の表現型として現れる。シグナル伝達経路の位置づけは、代表的には、多様な実験系からの個別の経路の構成要素の研究の集積から生じた直感的な推論を含む。経路の作用についての矛盾した報告(特に経路内のクロストークに関わるもの)は、特異的な誘引に応答する独特の経路と概念的に説明されることが多いが、任意の個別の経路または分離したモデル系に注目した解析によっては説明することができない、根底にある複雑さを反映していることが認識されている。癌、自己免疫および他のヒトの病態に関わるような細胞応答およびそれらの潜在的な調節不全を理解するために、包括的で多変量のアプローチが求められている(Ideker,T.,et al.,2001,Annu.Rev.Genomics Human Gen 2,343−72)。
【0004】
グラフィカルモデルの一形態である、ベイジアンネットワークは、相互作用する複数の構成要素間の確率的な依存関係を説明することによって、細胞シグナル伝達カスケードなどの複雑な系をモデル化するための有望な枠組みとして提案されている(Pearl,J.(1988)Probabilistic reasoning in intelligent systems:networks of plausible inference(Morgan Kaufmann Publishers,San Mateo,Calif.);Friedman,N.(2004)Science 303,799−805;Friedman,N.,Linial,M.,Nachman,I.&Pe’er,D.(2000)J Comput Biol 7,601−20;およびSachs,K.,Gifford,D.,Jaakkola,T.,Sorger,P.&Lauffenburger,D.A.(2002)Sci STKE 2002,PE38)。ベイジアンネットワークモデルは、互いに対する経路構成要素の影響を作用図の形態で模式化する。これらのモデルは、ネットワーク推論と呼ばれる統計に基づく計算手順を使用して実験データから得ることができる。本来はその関係性が統計的であるにもかかわらず、介入的データが使用されると、その関係性は、因果的影響関係として時折解釈され得る(非特許文献1;非特許文献2;非特許文献3;および非特許文献4)。
【非特許文献1】Pe’er,D.,Regev,A.,Elidan,G.&Friedman,N.(2001)Bioinformatics 17 Suppl 1,S215−24
【非特許文献2】Pearl,J.(2000)Causality:Models,Reasoning, and Inference(Cambridge University Press)
【非特許文献3】Hartemink,A.J.,Gifford,D.K.,Jaakkola,T.S.&Young,R.A.(2001)Pac Symp Biocomput,422−33
【非特許文献4】Woolf,P.J.,Prudhomme,Wendy,Daheron,Laurence,Daley,George&Q.and Lauffenburger,D.A.(2004)Bioinformatics
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0005】
4.一定の実施形態の要旨
確率的グラフィカルモデルを適用することによって細胞ネットワークのモデルを構築する方法および使用する方法が提供される。
【0006】
1つの態様において、細胞カテゴリー内の細胞ネットワークのモデルを構築する方法が提供される。前記第1の細胞カテゴリーの第1の細胞を、前記第1の細胞の各々における細胞成分のセットに結合するプローブのセットと接触させる。ここで各プローブは、識別可能な標識で標識されている。前記細胞の各々における複数の前記細胞成分が、検出され、細胞の各々における前記細胞成分に関連した第1のデータセットを生成する。次いで確率的グラフィカルモデルアルゴリズムが、そのデータセットに適用されて、細胞の各々における個々の細胞成分間の第1の弧のセットを同定する。
【0007】
この方法は、さらに第1の細胞カテゴリーの1つ以上の第2の細胞と薬剤とを接触させる工程を含み得る。次いでこの第2の細胞を、プローブセットと接触させる。第2の細胞の各々における複数の前記細胞成分を検出して、第2の細胞の各々における細胞成分に関連した第2のデータセットを生成する。確率的なグラフィックモデルアルゴリズムを第2のデータセットに適用して、第2の細胞の個々の細胞成分間の1つ以上の弧を決定する。第1および第2の弧のセットを比較して、薬剤の影響を決定する。
【0008】
一定の実施形態において、決定弧(decisional arc)は、その薬剤を被験体への治療薬として同定する。他の実施形態において、決定弧は、その薬剤を被験体への有害物質として同定する。なおも他の変形物においては、第1および第2の細胞集団は、疾患状態を有する被験体由来の細胞を含む。
【0009】
細胞成分は、任意の多くの技術を使用して検出され得る。例えば、細胞成分は、フローサイトメトリーまたは共焦点顕微鏡観察によって検出され得る。任意の確率的グラフィカルモデルアルゴリズムが使用され得る。例えば、確率的グラフィカルモデルアルゴリズムは、ベイジアンネットワーク構造推論アルゴリズム、因子グラフ、マルコフ確率場モデルおよび条件付き確率場モデルからなる群から選択され得る。一定の実施形態において、確率的グラフィカルモデルアルゴリズムは、ベイジアンネットワーク構造推論アルゴリズムである。
【0010】
一定の実施形態において、細胞成分は、生物学的分子(例えば、タンパク質(例えば、キナーゼまたはホスファターゼ)、基質分子、非タンパク質代謝物(例えば、炭水化物、リン脂質、脂肪酸、ステロイドまたは有機酸およびイオン)である。
【0011】
弧は、プローブに結合しているか、または結合していない細胞成分間に同定され得る。例えば、弧の1つ以上は、プローブの1つに結合している細胞成分とプローブの1つに結合していない細胞成分との間に同定され得る。あるいは、弧の1つ以上は、プローブに結合している細胞成分の少なくとも2つの間に同定され得る。
【0012】
他の実施形態において、疾患状態を特徴付ける方法が提供される。前記疾患状態を示す個々の細胞の測定からの細胞成分のセットに対して第1の弧のセットが提供される。弧の第2のセットは、前記疾患状態を示さない個々の細胞の測定から提供される。弧の第1および第2のセットが、比較されて、前記疾患状態を示している1つ以上の決定弧を確定する。
【0013】
別の実施形態において、被験体の疾患状態を診断する方法が提供される。前記疾患状態が存在するか、または存在しないことを示す決定弧のセットが提供される。第1の細胞のセットが被験体から得られる。第1の細胞のセットにおける細胞成分のセットに結合するプローブのセットが提供される。各プローブは、識別可能な標識で標識されている。第1の細胞のセットの個々の細胞における複数の細胞成分が検出されて、前記第1の細胞の各々における細胞成分に関連した第1のデータセットを生成する。次いで確率的グラフィカルモデルアルゴリズムが、第1のデータセットに適用されて、各細胞における個々の細胞成分間の弧のセットを同定する。弧のセットは、前記決定弧のセットに対応する。この疾患は、弧のセットと決定弧のセットとを比較することによって診断される。予後は、このアプローチを反映する。
【0014】
他の実施形態において、所与の細胞集団内の細胞の亜集団が、同定され得る。細胞の集団における各細胞の細胞ネットワークのモデルが、決定される。細胞の2つ以上の亜集団は、細胞の第2の亜集団と比較されるとき、前記第1の細胞の亜集団に存在する1つ以上の弧の存在、非存在または差異によって同定される。個々の細胞はまた、細胞ネットワークを構築すること、各細胞カテゴリーに対応する1つ以上の決定弧を同定することおよび1つ以上のカテゴリーの各々における各細胞を分類することによって分類され得る。
【0015】
細胞ネットワークのモデルを詳細に論ずる方法がまた提供される。集団内の個々の細胞は、細胞の1つ以上の亜集団に分類される。細胞ネットワークは、個々の細胞において構築される。確率的グラフィカルモデルアルゴリズムが適用されて、細胞ネットワークの微細なモデルが構築される。
【0016】
被験体に投与する薬剤の用量を決定する方法がまた提供される。前記疾患状態の処置の特徴を示す決定弧のセットが提供される。次いで薬剤が被験体に提供される。細胞のセットを被験体から得、そして前記細胞のセットにおける細胞成分のセットに結合するプローブのセットが、細胞のセットに提供される。各プローブは、識別可能な標識で標識されている。複数の細胞成分が、細胞のセットの個々の細胞において同定されて、前記細胞の各々における前記細胞成分に関連したデータセットを生成する。確率的グラフィカルモデルアルゴリズムがデータセットに適用されて、各細胞における個々の細胞成分間の弧のセットを同定する。その弧は、決定弧のセットと比較されて、用量の有効性が決定される。その用量は、最初の用量の有効性に基づいて変更され得る。
【0017】
細胞シグナル伝達ネットワークにおける因果関係を解明するための計算モデルを使用する方法が本明細書中で説明される。そのモデルは、単一細胞に存在する細胞成分の同時多変量測定から得られる実験データを利用する。例えば、確率的なモデリングアルゴリズムが適用されて、個々の細胞のセットにおける細胞成分間の因果的影響のグラフを決定し得る。シグナル伝達ネットワークを含む様々な細胞成分を刺激または阻害し得る薬剤の添加などの複数の独立した撹乱事象は、そのネットワークを含む様々なシグナル伝達構成要素間の影響の方向を推測するために使用され得る。各細胞が独立した観察結果として扱われるため、そのデータは、ネットワーク構造を予測するために使用され得る統計的に大きいサンプルを提供する。
【0018】
細胞シグナル伝達ネットワークのモデルを構築するために使用される実験データは、一般に2個以上の細胞のセットから得られるデータを含む。その細胞の各々は、細胞シグナル伝達ネットワークに関連した細胞成分を含む。本明細書中で説明される方法を使用して検出され得る細胞成分の例としては、タンパク質、骨格分子、基質分子および非タンパク質代謝物(例えば、炭水化物、リン脂質、脂肪酸、ステロイド、有機酸およびイオン)が挙げられるが、これらに限定されない。細胞の異なるセットを含む個々の細胞に存在する複数の細胞成分の活性のレベルの複数の観察結果は、細胞成分に関連した事象を含むデータセットを生成するために使用され得る。細胞成分に関連した事象としては、所与の細胞成分の存在、1つ以上のタンパク質の配座状態の変化(すなわち、タンパク質の異なる構造形態)、1つ以上のタンパク質の活性化状態の変化(すなわち、リン酸化、グリコシル化)、様々な細胞成分(すなわち、cAMP、カルシウム、メバロン酸、グルコースなど)の濃度の変化、様々な細胞成分(すなわち、グルタチオン、チオレドキシンなど)の酸化還元状態、酵素基質(すなわち、チモーゲンなど)の切断、分裂促進指標物(すなわち、KI−67、PCNA、ヒストン3−AX、サイクリンD、サイクリンB、サイクリンA、DNAなど)の細胞内の量ならびにRNAの2次構造および/または3次構造の存在が挙げられるが、これらに限定されない。
【0019】
細胞成分間の統計的関係および依存は、データセットから得られるデータを組み合わせることによって得られうる。例えば、ベイジアンネットワーク解析は、アクチベーターおよびインヒビターのアレイを使用して収集された多変量フローサイトメトリーデータに適用され得て、主要なヒト細胞の細胞内のシグナル伝達ネットワークに対する各々の影響の概略を記録する。新規に推論される因果ネットワークモデルが、生成され得て、そのネットワークを含む様々な構成要素間の関係を示す。モデルの妥当性は、経路内の2個以上の細胞成分間の関係を説明する公開された報告を検索することによってか、または予測される関係を実験的に検証することによって評価され得る。
【0020】
いくつかの実施形態において、シグナル伝達ネットワークの計算的なモデルは、第1および第2の細胞のセットから生成され、そのセットの各々は、細胞成分のセットを含む。一般に、第1の細胞のセットは、第1の細胞のセットを含む単一細胞の各々に存在する複数の細胞成分に結合するプローブのセットと接触する。第1のデータセットは、第1の細胞のセットを含む各細胞に存在する細胞成分に結合する標識されたプローブを検出することによって生成される。複数の細胞成分を変化させることができる薬剤が、第2の細胞のセットに加えられる。第1の細胞のセットを接触させるために使用された同じプローブのセットが、第2の細胞のセットに加えられて、第2のデータセットを生成する。第2の細胞のセットに存在する細胞成分のセットを活性化し得るか、または阻害し得る薬剤を加えるため、第2のデータセットは、第1のデータセットと異なる。第1および第2のデータセットは、解析され得て、第1および第2のデータセット内の様々な細胞成分間の相関のセットを生成する。例えば、その解析は、第1および第2のデータセットに存在する複数の様々な細胞成分間の因果関係を予測するベイジアンネットワーク構造推論アルゴリズムを適用する工程を含み得る。
【0021】
1つ以上の細胞成分を変化させることができる薬剤としては、アクチベーター、インヒビターおよび増強剤が挙げられる。本明細書中で説明される方法において使用される薬剤は、実際は物理的(すなわち、温度、pH、塩分、容積モル浸透圧濃度など)、化学的(すなわち、薬物などの小分子)または生物学的(すなわち、サイトカイン、ホルモン、抗体、ペプチドおよびタンパク質フラグメント、単独で、または細胞との関連のいずれかで、細胞自体、ウイルス、核酸など)であり得る。
【0022】
他の実施形態において、様々な細胞タイプは、第1および第2の細胞のセットを含み得る。例えば、いくつかの実施形態において、第1および/または第2の細胞のセットは、疾患状態を示している細胞を含み得る。他の実施形態において、第1および/または第2の細胞のセットは、様々な組織タイプまたは器官に属する細胞を含み得る。なおも他の実施形態において、第1および/または第2の細胞のセットは、同じ組織タイプに属する細胞を含み得る。
【0023】
代表的には、細胞成分に関連した事象は、標識されたプローブのセットを使用して検出される。その標識されたプローブは、所与の細胞成分に結合するように選択され得る。例えば、いくつかの実施形態において、標識されたプローブは、タンパク質を結合する。他の実施形態において、標識されたプローブは、特定の配座または活性化状態に関連したエピトープを結合する。他の実施形態において、標識されたプローブは、タンパク質、タンパク質、骨格分子、基質分子および非タンパク質代謝物(例えば、炭水化物、リン脂質、脂肪酸、ステロイド、有機酸およびイオン)である細胞成分に結合するように選択され得る。従って、標識されたプローブは、そのプローブすべてが、同じクラスの細胞成分(すなわち、タンパク質)を結合するように、そのプローブのいくつかが、同じクラスの細胞成分を結合し得て、そしてその他のものが、異なるクラスの細胞成分を結合し得るように、またはそのプローブすべてが異なるクラスの細胞成分を結合し得るように、選択され得る。
【0024】
プローブは、公知の検出方法(例えば、分光学的方法、光化学的方法、蛍光的方法または電気化学発光方法)を使用してこのようなプローブを検出可能にする任意の部分が、プローブに結合するとき、それで標識され得る。例えば、いくつかの実施形態において、プローブは、特定の条件下で検出可能な蛍光シグナルを生成または提供することができる蛍光部分で標識される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
6.詳細な説明
個々の細胞の細胞シグナル伝達ネットワークのモデルが本明細書中に提供される。このモデルは、1つ以上の確率的グラフィカルモデルを使用して実験データから得られうる。確率的グラフィカルモデルは、ノード(例えば、細胞成分)間の関係を示すグラフである。細胞成分間の弧は、上流の(「第1の」)細胞成分に対する下流の(「第2の」)細胞成分の統計的依存を示す。これに関連して、「上流の」および「下流の」は、方向性の構成要素を有する;しかしながら、本発明の方法によって生成される弧は、方向性を有する必要がない。一定の場合において、これらの統計的依存は、上流の細胞成分から下流の細胞成分への因果的影響と解釈され得る(例えば、Pearl,J.(2000)Causality:Models,Reasoning,and Inference(Cambridge University Press)を参照のこと)。
【0026】
いくつかの異なるタイプの確率的グラフィカルモデルが、当該分野で知られている。マルコフ確率場(MRF)またはマルコフネットワークとも呼ばれる無向グラフィカルモデルは、独立性の単純な定義を有する。例えば、第3のセットCが与えられるとき、AおよびBにおけるノード間のすべてのパスがCにおけるノードによって分離される場合、2つのノードAおよびB(またはノードのセット)は、条件付き独立である。対照的に、ベイジアンネットワークまたはBeliefネットワーク(BN)とも呼ばれる有向グラフィカルモデルは、より複雑な独立性の概念を有し、弧の方向性を考慮に入れる。確率的グラフィカルモデルの議論が開示される。例えば、A Brief Introduction to Graphical Models and Bayesian Networks,Kevin Murphy,published 1998,University of British Columbia Website,Department of Computer Science,Kevin Murphy pageおよびThesis of Dana Pe’er,School of Computer Science and Engineering,Hebrew University,Israel(これらの各々は、その全体が本明細書中に本明細書によって参考として援用される)。確率的グラフィカルモデルはまた、条件付き確率場モデルを含む。
【0027】
確率的グラフィカルモデルは、生物学的データセットからシグナル伝達ネットワークを推論するのに有用である。なぜなら、このモデルは、複数の相関する分子間の複雑な確率的非線形関係を表し得、そしてそれらの確率的な性質が、生物学的に得られたデータに固有であるノイズに適応し得るからである。さらに、確率的グラフィカルモデルは、直接的な分子相互作用ならびにさらなる観察されていない構成要素を介して進む間接的な影響、すなわち経路間のクロストークを含むこれまで未知の作用の発見にとって重大である性質を同定し得る。本明細書中で説明されるように、確率的グラフィカルモデルは、個々の細胞における細胞成分間の弧を同定するために使用され得ることによって、細胞成分の平均化を排除する。
【0028】
ベイジアンネットワークは、確率的グラフィカルモデルの例である。ベイジアンネットワークは、遺伝子制御経路の研究および発見のために遺伝子発現データに適用されている(Friedman,N.,Linial,M.,Nachman,I.&Pe’er,D.(2000)J Comput Biol 7,601−20;Pe’er,D.,Regev,A.,Elidan,G.&Friedman,N.(2001)Bioinformatics 17 Suppl 1,S215−24;Hartemink,A.J.,Gifford,D.K.,Jaakkola,T.S.&Young,R.A.(2001)Pac Symp Biocomput,422−33)。しかしながら、ベイジアンモデリングアプローチの確率的な性質に起因して、効率的な推論には、そのシステムの多くの観察結果を必要とする。Friedman et al.,前出;Pe’er,et al.,前出およびHartemink et al.,前出によって導かれた研究は、溶解物に基づいた方法を利用していた。溶解物に基づいた方法から得られるベイジアンネットワークは、不十分な大きさのデータセットによって制限され、そして不均一な細胞集団から得られる平均化されたサンプルに基づく測定を含む。このことは、膨大な数の細胞由来の溶解物を使用するときの、必然的な結果である(Sachs,K.,Gifford,D.,Jaakkola,T.,Sorger,P.&Lauffenburger,D.A.(2002)Sci STKE 2002,PE38;およびWoolf,P.J.,Prudhomme,Wendy,Daheron,Laurence,Daley.George&Q.and Lauffenburger,D.A.(2004)Bioinformatics)。
【0029】
本明細書中で説明される方法は、何千もの多くの個々の細胞におけるシグナル伝達ネットワークを含む複数の細胞成分の同時観察を可能にする検出方法を使用することによって溶解物に基づいた方法に関連した制限を克服する。例えば、いくつかの実施形態において、細胞内の多色フローサイトメトリーが使用される(Herzenberg,L.A.,Parks,D.,Sahaf,B.,Perez,O.&Roederer,M.(2002)Clin Chem 48,1819−27;およびPerez,O.D.&Nolan,G.P.(2002)Nat Biotechnol 20,155−62.)。細胞内多色フローサイトメトリーは、何千もの多くの個々の細胞における複数の細胞成分の同時観察を可能にするため、シグナル伝達ネットワークのベイジアンネットワークモデリングを含む確率的グラフィカルモデルに対して特に適切なデータソースである。そのうえ、細胞内の多色フローサイトメトリーの使用により、それらの天然の状況における生物学的状態の測定が可能になる。さらに、mRNA発現プロファイリングとは異なり、フローサイトメトリーは、目的のタンパク質の量を測定することができ、そして適用される技術に依存して、フローサイトメトリーは、リン酸化などのタンパク質改変状態の測定を含み得る(Perez,O.D.&Nolan,G.P.(2002)Nat Biotechnol 20,155−62;Perez OD,M.D.,Jager GC,South S,Murriel C,McBride J,Herzenberg LA,Kinoshita S,Nolan GP.(2003)Nat Immunol 11,1083−92;Irish JM,H.R.,Krutzik PO,Perez OD,Bruserud O,Gjertsen BT,Nolan GP.(2004)Cell 2,217−28;ならびに2001年8月2日に出願された米国特許出願番号60/310,141、2001年7月10日に出願された同60/304,434、2002年7月10日に出願された同10/193,462および2004年7月21日に出願された同10/898,734(これらのすべては、その全体が本明細書によって参考として援用される))。各細胞が独立した観察結果として扱われるため、フローサイトメトリーデータは、確率的グラフィカルモデル(例えば、ベイジアンネットワーク)の適用が正確にネットワーク構造を予測することができ得る統計的に大きいサンプルを提供する。確率的グラフィカルモデルは、細胞の群またはカテゴリーの中の細胞ネットワークのモデルを構築するために使用され得る。これらの細胞は、細胞の各々における細胞成分のセットに結合するプローブのセットと接触される。各プローブは、識別可能な標識で標識される。個々の細胞における複数の細胞成分は、個々の細胞における細胞成分に関連したデータセットを生成するために検出される。次いで確率的グラフィカルモデルアルゴリズムを、そのデータセットに適用して、各細胞における個々の細胞成分間の1つ以上の弧を同定する。
【0030】
従って、細胞シグナル伝達ネットワークを生成するために使用され得るデータセットを生成するために単一細胞に存在する細胞成分の多変量解析に適した方法が、本明細書中に提供される。本明細書中で「細胞シグナル伝達ネットワーク」とは、互いに相互作用する2個以上の細胞成分を含むネットワークのことを意味する。一定の実施形態において、細胞成分の1つ以上は、機能的に変化し、結果として、ネットワークにおける次の構成要素に影響を与え得る新しい機能的な能力を獲得する。細胞成分の機能的な変化は、例えば、化学的、物理的または位置的な改変から生じ得る。
【0031】
細胞成分は、同じ経路または異なる経路に位置され得る。従って、いくつかの実施形態において、ネットワークは、2個以上の細胞成分を含む単一経路を含み得る。図1Bの上のパネルは、同じ経路に位置する4つの異なる仮説細胞成分を表すシグナル伝達ネットワークの例を示す。XからYへの有向弧は、XがYを活性化することを示し、そしてYからZへおよびYからWへの有向弧は、YがZとWの両方を活性化することを示す。
【0032】
細胞に対する薬剤の生化学的作用が、特徴付けられ得る。細胞の群またはカテゴリーの中の細胞ネットワークのモデルが、構築され得る。次いで、細胞の群またはカテゴリーの中の第2のセットが、薬剤に提供される。各細胞における複数の細胞成分は、第2のデータセットを生成するために検出される。次いで確率的グラフィカルモデルアルゴリズムを、第2のデータセットに適用して、第2の細胞の個々の細胞成分間の第2の弧のセットを決定する。弧の第1および第2のセットは、薬剤の生化学的作用を示す1つ以上の決定弧のセットを同定するために比較される。
【0033】
本明細書中で使用されるとき、「決定弧」とは、他の弧との比較のために使用される弧のことをいう。決定弧は、値および/または方向性を有し得る。1つ以上の弧の存在、非存在または変化は、1つ以上の決定弧と比較されるとき、疾患の機能の変化を確定し得る。決定弧は、例えば、薬剤の生化学的な作用を特徴付けるためか、疾患状態を有する被験体を診断するためか、または疾患状態の予後を提供するために使用され得る。
【0034】
多次元的なフローサイトメトリーデータを使用したベイジアンネットワーク推論解析の例示的な実施形態を、図1Aに示す。図1Aにおいて、様々な細胞成分間の相関を示す影響図(6)は、細胞の個々のセット(1)から推論され得る。細胞の個々のセットは、細胞の個々のセットに存在する細胞成分を活性化、阻害または調節する薬剤の添加などの様々な撹乱条件(1)に曝露され得る。各セットを含む個々の細胞における様々な細胞成分のレベル(3)は、多パラメーターフローサイトメトリー(2)を使用して同時に記録され得る。細胞の個々のセットから得られたデータは、ベイジアンネットワーク解析(5)を使用して解析され得、そして測定された成分の影響図(6)が生成された。
【0035】
他の実施形態において、ネットワークは、2個以上の経路を含み得、その各々は、2個以上の細胞成分を含み、クロストークが、そのネットワークを含む様々な経路に位置する細胞成分間に生じる。例えば、図3Aは、3つの経路、例えば、RafからAkt、PKCからP38/JnKおよびPlcγからPIP2を含む例示的なシグナル伝達ネットワークを示し、クロストークがその3つの異なる経路間で生じる。
【0036】
解析される細胞成分は、代表的には個々の細胞を含む細胞のセットに存在する。セット内の個々の細胞の数は、検出される細胞成分に部分的に依存して変化し得る。例えば、セットは、1〜10、10、10、10、10、10、10または10細胞を含み得る。アッセイに使用されるセットの数もまた、シグナル伝達ネットワークを含む細胞成分間の因果関係を得るために使用される薬剤の数に部分的に依存して変化し得る。例えば、いくつかの実施形態において、2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個またはそれ以上の細胞のセットを使用する。他の実施形態において、9〜100個の細胞のセットを使用する。本明細書中に開示される細胞セットに関連して、特定されないかぎり、「第1の」、「第2の」などの使用は、順序または順位を意味しない。
【0037】
「細胞カテゴリー」または「細胞タイプ」は、本明細書中で交換可能に使用され、機能的または構造的な特徴によって既定される任意の細胞の群のことをいう。本発明の利点の1つは、個々の細胞からのデータを使用することによって、細胞集団に伴う問題点が解消されることである。つまり、本明細書中で使用される技術は、2つ以上の細胞タイプ(例えば、ヘルパーT細胞ならびに細胞傷害性T細胞)を偶発的に含み得る細胞サンプルの同定を可能にし、そして結果的にそれに応じてデータを識別する。例えば、いくつかの場合において、本発明の方法は、異なる細胞タイプに対する薬剤の作用を識別し得る、すなわち、決定弧の異なるセットが同定されることになる。
【0038】
細胞成分は、直接的または間接的のいずれかで細胞シグナル伝達ネットワークに強い影響を与え得る細胞に存在する任意の分子を含み得る。用語「細胞成分」とは、生物体または細胞内に見られる分子量に関係のない分子のことをいう。細胞成分は、同じクラスの化合物または異なるクラスの化合物由来であり得る。本明細書中で説明される方法を使用して検出され得る細胞成分の例としては、代謝物、タンパク質、核酸、炭水化物、脂質、脂肪酸、有機酸、骨格、酵素基質、サイトカイン、ホルモン、有機酸およびイオンが挙げられるが、これらに限定されない。
【0039】
「タンパク質」、「ペプチド」、「ポリペプチド」および「オリゴペプチド」は、交換可能に使用され、アミノ酸残基の重合体のことをいう。本明細書中で使用されるとき、用語「タンパク質」とは、少なくとも2つの共有結合したアミノ酸を意味する。タンパク質は、天然に存在するアミノ酸およびペプチド結合または薬剤として使用される場合は合成ペプチド模倣物構造で構成され得る。従って、「アミノ酸」または「ペプチド残基」は、本明細書中で使用されるとき、天然に存在するアミノ酸および合成アミノ酸の両方を意味する。例えば、ホモフェニルアラニン、シトルリンおよびノルロイシン(noreleucine)は、本発明の目的でアミノ酸と考えられる。「アミノ酸」はまた、イミノ酸残基(例えば、プロリンおよびヒドロキシプロリン)を含む。側鎖は、(R)配置または(S)配置のいずれかであり得る。好ましい実施形態において、アミノ酸は、(S)配置またはL−配置である。天然に存在しない側鎖が使用される場合、例えば、インビボ分解を防ぐかまたは遅らせるために非アミノ酸置換基が使用され得る。天然に存在しないアミノ酸を含むタンパク質は、合成され得るか、またはいくつかの場合において組換えで生成され得る;van Hest et al.,FEBS Lett 428:(1−2)68−70 May 22 1998およびTang et al.,Abstr.Pap Am.Chem.S218:U138 Part 2 August 22,1999(これらの両方が本明細書中に参考として明白に援用される)を参照のこと。
【0040】
「核酸」または「オリゴヌクレオチド」または本明細書中の文法上の等価物は、ともに共有結合した少なくとも2つのヌクレオチドを意味する。以下に概要を述べるようないくつかの場合において、核酸が薬剤として使用される場合、例えば、ホスホルアミド結合(Beaucage et al.,Tetrahedron 49(10):1925(1993)およびこの中における参考文献;Letsinger,J.Org.Chem.35:3800(1970);Sprinzl et al.,Eur.J.Biochem.81:579(1977);Letsinger et al.,Nucl.Acids Res.14:3487(1986);Sawai et al,Chem.Lett.805(1984),Letsinger et al.,J.Am.Chem.Soc.110:4470(1988);およびPauwels et al.,Chemica Scripta 26:141 91986))、ホスホロチオエート結合(Mag et al.,Nucleic Acids Res.19:1437(1991);および米国特許第5,644,048号)、ホスホロジチオエート結合(Briu et al.,J.Am.Chem.Soc.111:2321(1989)、O−メチルホスホロアミダイト(O−methylphophoroamidite)結合(Eckstein,Oligonucleotides and Analogues:A Practical Approach,Oxford University Pressを参照のこと)ならびにペプチド核酸骨格および結合(Egholm,J.Am.Chem.Soc.114:1895(1992);Meier et al.,Chem.Int.Ed.Engl.31:1008(1992);Nielsen,Nature,365:566(1993);Carlsson et al.,Nature 380:207(1996)を参照のこと。これらすべてが参考として援用される)を含む代替の骨格を有し得る核酸アナログが含まれるが、本発明の核酸は、一般にホスホジエステル結合を含む。他のアナログ核酸は、正電荷の骨格(Denpcy et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 92:6097(1995);非イオン性の骨格(米国特許第5,386,023号、同第5,637,684号、同第5,602,240号、同第5,216,141号および同第4,469,863号;Kiedrowshi et al.,Angew.Chem.Intl.Ed.English 30:423(1991);Letsinger et al.,J.Am.Chem.Soc.110:4470(1988);Letsinger et al.,Nucleoside&Nucleotide 13:1597(1994);Chapters 2 and 3,ASC Symposium Series 580,“Carbohydrate Modifications in Antisense Research”,Ed.Y.S.Sanghui and P.Dan Cook;Mesmaeker et al.,Bioorganic&Medicinal Chem.Lett.4:395(1994);Jeffs et al.,J.Biomolecular NMR 34:17(1994);Tetrahedron Lett.37:743(1996))ならびに米国特許第5,235,033号および同第5,034,506号ならびにChapters 6 and 7,ASC Symposium Series 580,“Carbohydrate Modifications in Antisense Research”,Ed.Y.S.Sanghui and P.Dan Cookに記載されているものを含む非リボース骨格を有するものを含む。1つ以上の炭素環式の糖を含む核酸はまた、核酸の定義内に含まれる(Jenkins et al.,Chem.Soc.Rev.(1995)pp169−176を参照のこと)。いくつかの核酸アナログは、Rawls,C&E News June 2,1997 page35に記載されている。これらの参考文献のすべてが本明細書によって参考として明白に援用される。リボース−リン酸骨格のこれらの改変は、標識などの付加部分の付加を促進するためか、または生理学的環境におけるこのような分子の安定性および半減期を増大させるためになされ得る。
【0041】
当業者によって理解されるため、これらの核酸アナログのすべては、本発明における用途を認め得る。さらに、天然に存在する核酸とアナログとの混合物を生成することができる。あるいは、様々な核酸アナログの混合物および天然に存在する核酸とアナログとの混合物が生成され得る。
【0042】
核酸は、一本鎖であってもよいし、二本鎖であってもよく、または明記されるとき、二本鎖配列または一本鎖配列の両方の部分を含んでもよい。核酸が、デオキシリボヌクレオチドおよびリボヌクレオチドの任意の組み合わせおよびウラシル、アデニン、チミン、シトシン、グアニン、イノシン、キサンチン(xathanine)ヒポキサンチン(hypoxathanine)、イソシトシン,イソグアニンなどを含む塩基の任意の組み合わせを含む場合、核酸は、DNA、ゲノムDNAとcDNAの両方、RNAまたはハイブリッドであり得る。本明細書中で使用されるとき、用語「ヌクレオシド」は、ヌクレオチドおよびヌクレオシドおよびヌクレオチドアナログおよびアミノ改変ヌクレオシドなどの改変ヌクレオシドを含む。さらに、「ヌクレオシド」は、天然に存在しないアナログ構造を含む。従って、例えば、ペプチド核酸の個々の単位(その各々が塩基を含む)は、本明細書中でヌクレオシドといわれる。
【0043】
核酸は、天然に存在する核酸、ランダム核酸または「偏った」ランダム核酸であり得る。例えば、原核生物または真核生物のゲノムの消化物は、本明細書中に概要を述べられるように薬剤タンパク質として使用され得る。最終的な発現産物が、核酸である場合、少なくとも10、好ましくは少なくとも12、より好ましくは少なくとも15、最も好ましくは少なくとも21ヌクレオチドがランダム化に必要であり、ランダム化が決して完全でない場合、もっと長いものが好ましい。同様に、最終的な発現産物が、タンパク質である場合、少なくとも5、好ましくは少なくとも6、より好ましくは少なくとも7アミノ酸がランダム化に必要である;さらに、ランダム化が決して完全でない場合、もっと長いものが好ましい。
【0044】
用語「炭水化物」は、一般式(CHO)を有する任意の化合物を含むと意味される。好ましい炭水化物の例は、二糖、三糖およびオリゴ糖ならびに多糖(例えば、グリコーゲン、セルロースおよびデンプン)である。
【0045】
用語「脂質」とは、動物細胞または植物細胞から非極性溶媒によって抽出することができる物質のことを一般にいう。このカテゴリーに入る物質としては、脂肪酸、脂肪(例えば、モノアシルグリセリド、ジアシルグリセリドおよびトリアシルグリセリド、ホスホグリセリド、スフィンゴ脂質、ろう、テルペンおよびステロイド)が挙げられる。脂質はまた、他のクラスの分子と結合され得て、リポタンパク質、リポアミノ酸、リポ多糖、リン脂質およびプロテオリピドとなる。
【0046】
炭化水素鎖が数個の炭素の長さ(例えば、酢酸、プロピオン酸、n−酪酸)くらい短いかもしれないが、「脂肪酸」とは、一方の端がカルボン酸基によって終結している長鎖炭化水素(例えば、6〜28個の炭素原子)のことを一般にいう。いくつかの天然に存在する脂肪酸が奇数の炭素原子を有するが、最も代表的には、炭化水素鎖は、非環式で分枝しておらず、そして偶数の炭素原子を含む。脂肪酸の特定の例としては、カプロン酸(caprioic acid)、ラウリン酸,ミリスチン酸,パルミチン酸,ステアリン酸およびアラキジン酸が挙げられる。炭化水素鎖は、飽和であってもよいし、不飽和であってもよい。
【0047】
「骨格分子」とは、一般に、別の分子が結合し得る3次元の枠組みを提供する核酸またはタンパク質のことをいう。
【0048】
「ホルモン」とは、内分泌組織によって合成され、そして別の組織または器官の機能を制御するメッセンジャーとして作用する化学物質のことをいう。ホルモンの例としては、副腎皮質ホルモン、副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)、抗利尿ホルモン、コルチコステロイド、内分泌ヒト成長ホルモンおよびLehninger Principles of Biochemistry,3rd ed,(2000)Worth Publishers(この全体が本明細書中に参考として援用される)に教示されている他のものが挙げられるが、これらに限定されない。
【0049】
「有機酸」とは、1つ以上のカルボン酸基を有する、任意の有機分子のことをいう。有機酸は、様々な長さであり得、そして飽和であってもよく、不飽和であってもよい。有機酸の例としては、クエン酸、ピルビン酸、コハク酸、リンゴ酸、マレイン酸、オキサロ酢酸およびα−ケトグルタル酸が挙げられるが、これらに限定されない。有機酸は、カルボン酸基に加えて、例えば、ヒドロキシル基、カルボニル基およびリン酸基を含む他の官能基を含み得る。
【0050】
「イオン」とは、1つ以上の電子を得るか、または失うことによって正味の電荷を獲得した原子または原子の群のことをいう。イオンの例としては、Ca2+、Na、Cl、Mg2+、POおよびMn2+などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0051】
本明細書中で説明される方法を使用して細胞シグナル伝達ネットワークに属すると同定され得る細胞成分および/または経路の正確な数は、細胞成分を検出するために使用されるプローブの数およびネットワークを含む1つ以上の細胞成分に変化を誘導するために使用される薬剤の数に部分的に依存して変化し得る。従って、細胞シグナル伝達ネットワークは、2〜100個の細胞成分、2〜75個の細胞成分、2〜50個の細胞成分、2〜25個の細胞成分、2〜15個の細胞成分、2〜10個の細胞成分および2〜5個の細胞成分を含み得る。当業者に理解されているように、ネットワークを含む構成要素は、同じ経路または異なる経路に存在し得る。例えば、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10またはそれ以上の経路がネットワークに含まれ得る。
【0052】
シグナル伝達ネットワークを含む細胞成分の多変量解析は、同時に目的の多数の条件を調べる。多変量解析は、アッセイの間か、またはアッセイが完了した後に細胞成分またはそれらに関連したデータを分類する能力に頼る。多変量アッセイを実施するとき、検出される細胞成分は、活性化事象(例えば、リン酸化に関してか、または薬剤の添加に応答して、活性化され得るか、阻害され得るか、または非応答性(すなわち、「非活性」)であり得る。「活性化された」細胞成分は、1つの形態から別の形態へ転換することができ、そして活性化事象に応答して、少なくとも1つの検出可能な生物学的、生化学的または物理的な特性または活性(例えば、エピトープの存在、化学部分(chemical moiety)の存在、配座変化、1つ以上のアイソフォーム、酵素活性など)を示す。適当な活性化事象の例としては、細胞シグナル伝達事象、リン酸化、切断、プレニル化、分子間のクラスター形成、配座変化、グリコシル化、アセチル化、システイニル化(cysteinylation)、ニトロシル化、メチル化、ユビキン化(ubiquination)、硫酸化、特定のアイソフォームの存在およびインヒビター分子の非共有結合が挙げられるが、これらに限定されない。「非活性」細胞成分は、検出可能な、生物学的、生化学的または物理的な特性または活性を有しないか、その低いレベルを有する成分である。
【0053】
いくつかの実施形態において、活性化事象は、アミノ酸の側鎖におけるヒドロキシル基からリン酸基への置換、すなわち、リン酸化を含む。特定のタンパク質基質上のセリン残基、トレオニン残基またはチロシン残基のリン酸化を触媒する幅広い様々なタンパク質が知られている。このようなタンパク質は、一般に「キナーゼ」と呼ばれている。リン酸化され得る基質タンパク質は、リンタンパク質といわれることが多い。一旦リン酸化されると、基質タンパク質は、リン酸化された基質タンパク質を特異的に認識するタンパク質ホスファターゼの作用によってヒドロキシル基に戻されるそのリン酸化された残基を有し得る。タンパク質ホスファターゼは、セリン残基、トレオニン残基またはチロシン残基上のヒドロキシル基によるリン酸基の置換を触媒する。キナーゼおよびホスファターゼの作用を介して、タンパク質は、様々な残基上で可逆的または不可逆的にリン酸化され得、そしてその活性は、それらによって制御され得る。
【0054】
いくつかの実施形態において、活性化事象は、ヒストンのアセチル化を含む。様々なアセチラーゼおよびデアセチラーゼの活性を介して、ヒストンタンパク質のDNA結合機能は、厳重に制御される。
【0055】
いくつかの実施形態において、活性化事象は、細胞成分の切断を含む。例えば、タンパク質制御の一形態は、ペプチド結合のタンパク分解性切断を含む。無作為化または誤ったタンパク分解性切断は、タンパク質の活性に不利益であり得るが、多くのタンパク質は、特異的なペプチド結合を認識し、そして切断するプロテアーゼの作用によって活性化される。多くのタンパク質は、前駆体タンパク質またはプロタンパク質から誘導され、特異的なペプチド結合のタンパク分解性切断の後にタンパク質の成熟型を生じる。多くの成長因子は、この様式で合成およびプロセシングされ、このタンパク質の成熟型は、代表的には前駆体型が示さない生物学的活性を有する。多くの酵素はまた、この様式で合成およびプロセシングされ、このタンパク質の成熟型は、代表的には酵素的に活性であり、そしてこのタンパク質の前駆体型は、酵素的に不活性である。カテプシンおよびカスパーゼならびに「チモーゲン」を含むセリンプロテアーゼおよびシステインプロテアーゼは、タンパク分解的に活性化される酵素である。
【0056】
いくつかの実施形態において、活性化事象は、細胞成分のプレニル化を含む。本明細書中で「プレニル化」は、細胞成分への任意の脂質基の付加を意味する。プレニル化の通常の例としては、ファルネシル基の付加、ゲラニルゲラニル基の付加、ミリストイル化およびパルミトイル化が挙げられる。他の結合も使用され得るが、一般にこれらの基は、チオエーテル結合を介して細胞成分に結合する。
【0057】
いくつかの実施形態において、活性化事象は、細胞成分の分子間のクラスター形成として検出され得る細胞シグナル伝達事象を含む。「クラスター形成」または「多量体化」および本明細書中で使用される文法上の等価物は、1つ以上のシグナル伝達エレメントの任意の可逆的または不可逆的な会合を意味する。クラスターは、2、3、4個などのエレメントで構成され得る。2個のエレメントのクラスターは、二量体と呼ばれる。3個またはそれ以上のエレメントのクラスターは、一般にオリゴマーと呼ばれ、クラスターの個々の数は、それ自体の名称となる;例えば、3個のエレメントのクラスターは、三量体であり、4個のエレメントのクラスターは、四量体であるなど。
【0058】
クラスターは、同一のエレメントまたは異なるエレメントで構成され得る。同一のエレメントのクラスターは、「ホモ」クラスターと呼ばれ、異なるエレメントのクラスターは、「ヘテロ」クラスターと呼ばれる。従って、クラスターは、β2−アドレナリンレセプターの場合のようにホモ二量体であり得る。あるいは、クラスターは、GABAB−Rの場合のようにヘテロ二量体であり得る。他の実施形態において、クラスターは、TNFαの場合のようにホモ三量体であるか、またはアポトーシスを調節する膜結合型CD95および可溶性CD95によって形成されるもののようなヘテロ三量体である。さらなる実施形態において、クラスターは、甲状腺刺激ホルモン放出ホルモンレセプターの場合のようにホモオリゴマーであるか、またはTGFβ1の場合のようなヘテロオリゴマーである。
【0059】
エレメントは、3つの異なるメカニズムを介して:a)リガンドに結合することによる膜結合型レセプターとして(リガンドは、天然に存在するリガンドまたは合成リガンドの両方を含む)、b)他の表面分子に結合することによる膜結合型レセプターとしてまたはc)リガンドに結合する細胞内の(膜結合型ではない)レセプターとして、活性化されてクラスター形成し得る。リガンドまたは他の表面分子および膜結合型でないレセプターエレメントに結合することによってクラスター形成する種々の膜結合型レセプターエレメントは、2004年7月21日に出願された同時係属中の出願番号10/898,734(この開示は、本明細書中に参考として援用される)に教示されている。
【0060】
いくつかの実施形態において、活性化事象は、核酸の切断、共有結合性または非共有結合性の改変を含む。例えば、多くの触媒性のRNA、例えば、ハンマーヘッド型リボザイムは、切断が起きるまでリボザイムの触媒性活性を不活性化する不活性化リーダー配列を有するように設計され得る。共有結合性改変の例は、DNAのメチル化である。他の例は、2004年7月21日に出願された同時係属中の出願番号10/898,734(この開示は、本明細書中に参考として援用される)に教示されている。
【0061】
いくつかの実施形態において、1つの形態から別の形態へ切り替わらないので活性化事象に応答して検出可能な特性を示す細胞成分が、検出され得る。「活性化可能」でないが、本明細書中で説明される方法を使用して検出され得る細胞成分の例としては、小分子、炭水化物、脂質、有機酸、イオンまたは他の天然に存在する化合物または合成化合物が挙げられるが、これらに限定されない。特異的な例として、cAMP(環状アデノシン一リン酸)の活性化は、cAMPの存在ではなく、非環状AMPから環状AMPへの変換として検出され得る。
【0062】
別の特異的な例として、細胞成分の濃度の変化が検出され得る。例えば、高レベルのcAMPは、PKAの放出を誘導するため、cAMPの濃度の変化は、PKAの活性化の指標として検出され得る。他の例としては、カルシウム、メバロン酸、チミジンおよびグルコースが挙げられるが、これらに限定されない。例えば、高レベルのカルシウムは、カルシウム依存性キナーゼ(例えば、CAMKII、PLCgおよびPKC)を活性化する。高レベルのメバロン酸は、イソプレノール誘導体(例えば、コレステロール、ユビキノンおよびジホール(dihol))の合成ならびに特定のタンパク質(例えば、Ras、Rho、DNAj、Rap1)のファルネシル化およびゲラニル化を誘導する。そのうえ、非常に高濃度のメバロン酸は、負のフィードバックループを誘導し、そしてメバロン酸合成を触媒する酵素であるHMG−COAレダクターゼの活性を停止させる。高濃度のチミジンヌクレオチドは、細胞における生合成経路のすべてを停止させ得る。高濃度の二重−チミジン二量体は、SOS応答経路などのDNA修復経路を誘導し得る。高濃度のグルコースは、インスリンの産生を誘導し、細胞を代謝状態からアミロースの合成および貯蔵によって特徴付けられる異化状態に切り替え得る。
【0063】
他の実施形態において、細胞の酸化還元状態に関連したシグナル伝達ネットワークは、酸化/還元反応を受けやすい細胞成分、例えば、グルタチオン、チオレドキシン、反応性酸素種(ROS)、金属などを検出することによって生成され得る。例えば、マイトジェン活性化プロテインキナーゼ(MAPK)シグナル伝達経路は、高いROSレベルに応答して酸化的シグナルの伝達に能動的に関連すると報告されている。
【0064】
「活性化可能」ではないが、本明細書中で説明される方法を使用して検出され得る他の細胞成分の例としては、転写停止を開始し得るRNAの二次構造および三次構造、bad/bcl2などのミトコンドリアハウスキーピング遺伝子の比ならびに細胞内の分裂促進の指標(mitogenic indicator)(例えば、KI−67、PCNA、ヒストン3−AX、サイクリンD、サイクリンB、サイクリンAおよびDNA)の量が挙げられるが、これらに限定されない。
【0065】
いくつかの実施形態において、シグナル伝達ネットワークは、最終的に弧データセットの変化を生じ、それによって決定弧を同定するために作用し得る、外因的に加えられた薬剤による撹乱を使用して評価され、特徴付けられる。例えば、撹乱されていない細胞の弧データセットと薬物で処理された細胞の弧データセットとを比較することによって、差が時折決定弧の形態で確定され得る。いくつかの場合において、これらの薬剤は、シグナル伝達ネットワークを含む細胞成分間の因果関係を導くために使用され得る。一般に、この薬剤は、シグナル伝達ネットワークを含む1つ以上の細胞成分を調節し、その結果、弧データを調節する。「調節する」とは、本明細書中で薬剤が、細胞成分と相互作用して、その細胞成分が1つの状態または1つの型から別の状態または型へ切り替わることを意味する。この文脈で「薬剤」は、化合物ならびに物理的パラメータを含む。例えば、薬剤は、物理的パラメータ(例えば、熱、冷、放射物(例えば、UV、可視線、赤外線)、pH、塩分、容積モル浸透圧濃度、酸化還元電位、電気的勾配、磁場およびX線照射野)を含み得る。薬剤としての用途に適した化合物の例としては、生物学的分子(ペプチドを含むタンパク質、抗体、サイトカイン、脂質、核酸、炭水化物など)、非生物学的分子、小分子薬物、細胞、ウイルス、有機酸、イオンなどを含む実質的に任意の分子または化合物が挙げられるが、これらに限定されない。「細胞成分」として適当で、上で説明された化合物の多くは、薬剤として作用し得る。例示的な薬物としては、例えば、The Merck Index:An Encyclopedia of Chemicals,Drugs,and Biologicals,13th Ed.(Merck)(Whitehouse Station,NJ)(その全体が本明細書中に参考として援用される)に記載されている任意の化合物または組成物が挙げられる。
【0066】
代表的には、薬剤は、アクチベーターまたはインヒビターであり得る。例えば、アクチベーターは、DNAに結合することによって転写の割合を増大させる、DNA結合タンパク質などの転写活性化因子であり得る。アクチベーターの別の例は、結合することによって不活性型と活性型との間の配座変化を媒介するアロステリック酵素の正の調節因子(modulator)である。正の調節因子としては、酵素基質、補助因子、天然かもしくは合成の、代謝的に活性かもしくは不活性の、ステロイドまたはステロイドアナログが挙げられる。インヒビターとして作用し得る薬剤は、細胞成分が活性型から不活性型へ切り替えられるように、一般に細胞成分と相互作用する。適当なインヒビターの例としては、タンパク質キナーゼインヒビター、スタチン分子、HMG−COAレダクターゼインヒビター、FLT3キナーゼインヒビターおよび転写インヒビターが挙げられる。
【0067】
増強剤を含む、細胞のシグナル伝達ネットワークに強い影響を与えることができる薬剤の他の例は、2004年7月21日に出願された同時係属中の出願番号10/898,734(この開示は、本明細書中に参考として援用される)に教示されている。
【0068】
1つ以上の薬剤は、例えば、シグナル伝達ネットワークを含む細胞間の因果関係を導く独立した撹乱事象を生成するために使用され得る。例えば、1つの薬剤が使用され得る。別の例としては、2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個、10個またはそれ以上の薬剤が使用され得る。なおも別の例においては、様々な薬剤によって誘導される撹乱事象が本明細書中に説明される方法を使用して検出され得る条件で、10〜100個の薬剤が使用され得る。
【0069】
薬剤が、同じ作用をすべて有し得、薬剤のいくつかが、同じ作用を有し得、そして他のものが、異なる作用を有し得るか、または薬剤すべてが、異なる作用を有し得る。例えば、インヒビターおよびアクチベーターの組み合わせは、複数の独立した撹乱事象を生成するために使用され得る。その組み合わせは、アクチベーターとインヒビターとが同じ数か、またはアクチベーターとインヒビターとが異なる数を含み得る。例えば、2つのアクチベーターおよび2つのインヒビターが使用され得る。別の例としては、2つのアクチベーターおよび5つのインヒビターが使用される。従って、アクチベーターおよびインヒビターの任意の数および組み合わせが使用され得る。但し、各々によって生成される作用が、検出され得、そして様々な細胞成分間の相関が、本明細書中で説明される方法を使用して生成される。疾患状態がまた、特徴付けられ得る。前記疾患状態を示す個々の細胞由来の細胞成分のセットについて第1の弧のセットが、提供される。次いで第2の弧のセットが、疾患状態を示さない個々の細胞由来の細胞成分のセットに提供される。次いで第1および第2のセットが、前記疾患状態を示す1つ以上の決定弧を確定するために比較される。
【0070】
疾患は、本明細書中に開示される方法を使用して診断または予後を判定され得る。例えば、疾患状態の存在または非存在を示す1つ以上の決定弧のセットが提供される。被験体から得られた各細胞における細胞ネットワークのモデルは、1つ以上の弧のセットを得るために検出される。次いでその弧は、被験体の疾患状態を診断するために決定弧のセットと比較される。あるいは、その手順は、被験体の疾患状態の予後を判定するために適応され得る。
【0071】
いくつかの実施形態において、様々な細胞タイプが、細胞シグナル伝達ネットワークを生成する薬剤の代わりに使用され得る。代表的には、様々な細胞タイプは、2個、3個、4個、5個またはそれ以上の集団の細胞を含む。本明細書中で「集団」とは、特異的な器官、組織または個体から単離された細胞の群のことを意味する。細胞集団は、同一の器官、組織もしくは個体または異なる器官、組織もしくは個体から単離され得る。例えば、いくつかの実施形態において、細胞集団は、1つ以上の個体から単離され得、そして病的な状態でない場合であっても幅広い様々な疾患状態に関わる細胞タイプを含み得る。適当な真核細胞タイプとしては、すべてのタイプの腫瘍細胞(原発腫瘍細胞、黒色腫、骨髄性白血病、肺、乳房、卵巣、結腸、腎臓、前立腺、膵臓および精巣の癌腫を含む)、心筋細胞、樹状細胞、内皮細胞、上皮細胞、リンパ球(T細胞およびB細胞)、マスト細胞、好酸球、血管内膜細胞(vascular intimal cell)、マクロファージ、ナチュラルキラー細胞、赤血球、肝細胞、単核白血球を含む白血球、幹細胞(例えば、造血幹細胞、神経幹細胞、皮膚幹細胞、肺性肝細胞、腎幹細胞、肝幹細胞および筋幹細胞)(分化および脱分化因子をスクリーニングするときの用途のため)、破骨細胞、軟骨細胞および他の結合組織細胞、ケラチノサイト、メラノサイト、肝臓細胞、腎臓細胞および脂肪細胞が挙げられるが、これらに限定されない。疾患状態としては、癌、自己免疫疾患(関節リウマチ,多発性硬化症(multiple schlerosis)および狼瘡(lupis)を含む)、炎症、心臓の異常、アレルギーおよびぜん息およびうつおよび他の神経性障害を含む、列挙された細胞タイプのいずれかに関連する疾患が挙げられるが、これらに限定されない。
【0072】
別の特定の例としては、細胞集団は、ホメオスタシスに関わるシグナル伝達ネットワークを生成する同じ器官または異なる器官から単離され得る。そのうえ、特定の主要な細胞タイプ(sell type)と細胞亜集団との差は、本明細書中で説明される方法を使用してシグナル伝達ネットワークを生成するために使用され得る。いくつかの実施形態において、この方法は、Caenorhabditis elegansまたはDrosophila larvaにおけるリン酸化状態の全身の蛍光イメージングなどの動物の全身にわたる研究を包含するまで拡げられ得る。
【0073】
細胞シグナル伝達ネットワークを含む細胞成分は、種々の異なる方法を使用して検出され得る。例えば、タンパク質の特定のアイソフォーム(例えば、TGF−βの3つのアイソフォームのうち1つ)を検出するプローブが、設計され得る。別の例としては、細胞成分の配座変化の結果露出するエピトープを検出するプローブがまた設計され得る。別の例において、化学基の付加または除去によって引き起こされるような細胞成分の改変を検出するプローブが設計され得る。他の例において、撹乱事象、リン脂質、有機酸、イオンなどに起因する形態または状態の変化を起こさない細胞成分を検出するプローブが設計され得る。細胞成分を検出するための方法のさらなる例は、2004年7月21日に出願された同時係属中の出願番号10/898,734(この開示は、その全体が本明細書中に参考として援用される)に教示されている。
【0074】
一般に、プローブのセットは、1つ以上の細胞成分の存在または非存在を検出するために使用される。プローブのセットは、単一のプローブまたは2つ以上のプローブを含み得る。例えば、いくつかの実施形態において、セットは、1個、2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個、10個、11個、12個、13個、14個、15個、16個、17個、18個、19個、20個またはそれ以上のプローブを含み得る。セット内のプローブの数は、アッセイに存在する特有の細胞成分の数または所与のアッセイ形式に利用可能な様々な検出可能な標識の数などの多くの因子に基づいて選択され得る。
【0075】
実質的に任意の分子が、本明細書中で説明される細胞成分の1つ以上を検出するプローブとして使用され得る。適当なプローブとしては、タンパク質、ペプチド、核酸、抗体、有機化合物、小分子および炭水化物が挙げられるが、これらに限定されない。本明細書中で説明される方法においてプローブとしての用途に適した結合エレメントのさらなる例は、2004年7月21日に出願された同時係属中の出願番号10/898,734(この開示は、その全体が本明細書中に参考として援用される)に教示されている。
【0076】
いくつかの実施形態において、抗体が、プローブとして使用され得る。「抗体」は本明細書中で、認識されている免疫グロブリン遺伝子のすべてまたは一部によって実質的にコードされる1つ以上のポリペプチドからなるタンパク質を意味する。その認識されている免疫グロブリン遺伝子としては、例えば、ヒトにおいて、カッパ(k)、ラムダ(l)および無数の可変領域遺伝子ならびにそれぞれIgM、IgD、IgG、IgEおよびIgAアイソタイプをコードする、定常領域遺伝子のミュー(u)、デルタ(d)、ガンマ(g)、シグマ(e)およびアルファ(a)を含む重鎖遺伝子座が挙げられる。本明細書中の抗体は、完全長抗体および抗体フラグメントを含むと意味され、そして以下にさらに定義されるような、任意の生物体由来の天然抗体、操作された抗体または実験、治療もしくは他の目的のために組換えで生成された抗体のことを呼び得る。用語「抗体」は、当該分野で公知であるような抗体フラグメント(例えば、Fab,Fab’,F(ab’)2,Fv,scFv)もしくは抗体全体の改変によって生成されるか、または組換えDNA技術を使用して新規に合成される抗体の他の抗原結合配列を含む。本明細書中で説明されるようなFc改変体を含む完全長抗体が特に好ましい。用語「抗体」は、モノクローナル抗体およびポリクローナル抗体を含む。抗体は、アンタゴニスト、アゴニスト、中和抗体、阻害抗体または刺激抗体であり得る。
【0077】
抗体は、非ヒト、キメラ、ヒト化または完全ヒト抗体であり得る。キメラ抗体およびヒト化抗体の概念の説明については、Clark et al.,2000およびこれに引用されている参考文献(Clark,2000,Immunol Today 21:397−402)を参照のこと。キメラ抗体は、非ヒト抗体の可変領域、例えば、ヒト抗体の定常領域に作動可能に連結されたマウスまたはラット起源のVHドメインおよびVLドメインを含む(例えば、米国特許第4,816,567号を参照のこと)。好ましい実施形態において、本発明の抗体は、ヒト化されている。「ヒト化」抗体は、本明細書中で使用されるとき、非ヒト(通常マウスまたはラット)抗体由来のヒトフレームワーク領域(FR)および1つ以上の相補性決定領域(CDR)を含む抗体を意味する。CDRを提供する非ヒト抗体は、「ドナー」と呼ばれ、そしてフレームワークを提供するヒト免疫グロブリンは、「アクセプター」と呼ばれる。ヒト化は、アクセプター(ヒト)VLおよびVHフレームワークにドナーCDRを移植することにもっぱら頼っている(Winter米国特許第5225539号)。このストラテジーは、「CDR移植法」といわれる。選択されたアクセプターフレームワーク残基の対応するドナー残基への「復帰突然変異」が、最初に移植された構築物で失われた結合性を回復するために必要とされることが多い(米国特許第5530101号;同第5585089号;同第5693761号;同第5693762号;同第6180370号;同第5859205号;同第5821337号;同第6054297号;同第6407213号)。ヒト化抗体はまた、最適には、免疫グロブリン定常領域の少なくとも一部、代表的にはヒト免疫グロブリンの一部を含み、従って、代表的にはヒトFc領域を含む。非ヒト抗体をヒト化するための方法は、当該分野で周知であり、基本的にWinterおよび共同研究者の方法に従って実施され得る(Jones et al.,1986,Nature 321:522−525;Riechmann et al.,1988,Nature 332:323−329;Verhoeyen et al.,1988,Science,239:1534−1536)。ヒト化マウスモノクローナル抗体のさらなる例はまた、当該分野で公知であり、例えば、ヒトプロテインCに結合する抗体(O’Connor et al.,1998,Protein Eng 11:321−8)、インターロイキン2レセプターに結合する抗体(Queen et al.,1989,Proc Natl Acad Sci,USA 86:10029−33)およびヒト上皮成長因子レセプター2に結合する抗体(Carter et al.,1992,Proc Natl Acad Sci USA 89:4285−9)である。代替の実施形態において、本発明の抗体は、抗体の配列が完全にヒトまたは実質的にヒトである、完全ヒト抗体である。トランスジェニックマウス(Bruggemann et al.,1997,Curr Opin Biotechnol 8:455−458)または選択方法と結び付けたヒト抗体ライブラリー(Griffiths et al.,1998,Curr Opin Biotechnol 9:102−108)の使用を含む完全ヒト抗体を生成するための多くの方法が当該分野で知られている。
【0078】
グリコシル化されていない(aglycosylated)抗体は、「抗体」の定義内に含まれる。本明細書中の「グリコシル化されていない抗体」は、Fc領域の297位に結合する炭水化物を有しない抗体を意味する。ここで付番は、KabatのEUシステムに従う。グリコシル化されていない抗体は、脱グリコシル化(deglycosylated)抗体であってもよく、その抗体は、Fc炭水化物が、例えば化学的または酵素的に除去されている抗体である。あるいは、グリコシル化されていない抗体は、非グリコシル化(nonglycosylated)抗体または非グリコシル化(unglycosylated)抗体であってもよく、それは、例えば、グリコシル化パターンをコードする残基の変異によってか、またはタンパク質に炭水化物を結合しない生物体、例えば、細菌における発現によってFc炭水化物なしで発現された抗体である。
【0079】
Fc改変体部分を含む完全長抗体もまた、「抗体」の定義内に含まれる。本明細書中の「完全長抗体」は、可変領域および定常領域を含む、抗体の天然の生物学的形態を構成する構造を意味する。例えば、ヒトおよびマウスを含むほとんどの哺乳動物において、IgGクラスの完全長抗体は、四量体であり、そして2本の免疫グロブリン鎖の2つの同一の対からなり、各対は、1本の軽鎖および1本の重鎖を有し、各軽鎖は、免疫グロブリンドメインVLおよびCLを含み、そして各重鎖は、免疫グロブリンドメインVH、Cg1、Cg2およびCg3を含む。いくつかの哺乳動物、例えば、ラクダおよびラマにおいて、IgG抗体は、2本の重鎖だけからなり得、各重鎖は、Fc領域に結合される可変ドメインを含む。「IgG」は、本明細書中で使用されるとき、認識される免疫グロブリンガンマ遺伝子によって実質的にコードされる抗体のクラスに属するポリペプチドを意味する。ヒトにおいて、このクラスは、IgG1、IgG2、IgG3およびIgG4を含む。マウスにおいて、このクラスは、IgG1、IgG2a、IgG2b、IgG3を含む。
【0080】
抗体は、細胞成分の特定の活性化状態に関連した特異的な抗原またはエピトープを結合するように設計され得る。例えば、既知の酵素、タンパク質の特定のアイソフォームまたは共有結合性の改変もしくは非共有結合性の改変の存在もしくは非存在について遷移状態を認識する抗体が、設計され得る(例えば、2004年7月21日に出願された同時係属中の出願番号10/898,734(この開示は、その全体が本明細書中に参考として援用される)を参照のこと)。
【0081】
プローブは、代表的には、標識されたプローブが細胞成分に結合するとき検出可能なシグナルを生成することができるレポーターまたはシグナル標識を含む。標識されたプローブは、そのプローブに直接結合されていて、検出可能であるかまたは検出可能なシグナルを生成する標識を含み得る。標識は、実質的に任意の位置で標識されたプローブに結合され得る。例えば、プローブが核酸である場合、標識は、末端か、末端の核酸塩基もしくは内部の核酸塩基か、または骨格に結合され得る。プローブが抗体である場合、標識が細胞成分へのプローブの結合を干渉しない条件で、標識は任意のアミノ酸残基に結合され得る。標識のタイプが成功に対して重要ではないが、使用される標識は、検出可能なシグナルを生成するのが当然である。プローブのセットの様々な検出可能な標識は、異なっているべきであり、かつ識別可能であるべきである。本発明者らは、標識が互いにスペクトル的に分解可能であり得ることを「識別可能」と意味する。
【0082】
プローブセットで使用される標識の数は、スペクトル的に分解可能で利用可能な標識および標識方法の数に依存し得る。例えば、1個〜7個のフルオロフォアが、プローブ用の標識として使用され得る。対照的に、量子ドットがプローブを標識するために使用される場合、スペクトル的に分解可能な標識の数は、アッセイ条件に依存して1〜24個または24個以上にまで及び得る。
【0083】
標識されたプローブは、フルオロフォアである標識を含み得る。本明細書中で説明される方法で使用されるプローブを標識するのに適したフルオロフォアの非限定的な例としては、Spectrum−OrangeTM、Spectrum−GreenTM、Spectrum−AquaTM、Spectrum−RedTM、Spectrum−BlueTM、Spectrum−GoldTM、フルオレセインイソチオシアネート、ローダミンおよびFluroRedTM、5(6)−カルボキシフルオレセイン(Flu)、6−((7−アミノ−4−メチルクマリン−3−アセチル)アミノ)ヘキサン酸(Cou)、5(および6)−カルボキシ−X−ローダミン(Rox)、シアニン2(Cy2)色素、シアニン3(Cy3)色素、シアニン3.5(Cy3.5)色素、シアニン5(Cy5)色素、シアニン5.5(Cy5.5)色素シアニン7(Cy7)色素、シアニン9(Cy9)色素(シアニン色素2、3、3.5、5および5.5は、NHSエステルとしてAmersham,Arlington Heights,ILから入手可能である)またはAlexa色素シリーズ(Molecular Probes,Eugene,OR)が挙げられる。
【0084】
蛍光特性を介して検出され得るさらなる標識としては、Alexa Fluor 350、Alexa Fluor 430、Alexa Fluor 488、Alexa Fluor 546、Alexa Fluor 568、Alexa Fluor 594、Alexa Fluor 633、Alexa Fluor 660、Alexa Fluor 680、Cascade Blue、Cascade YellowおよびR−フィコエリトリン(PE)(Molecular Probes)(Eugene,Oregon)、FITC、ローダミンおよびTexas Red(Pierce,Rockford,Illinois)Cy5、Cy5.5、Cy7(Amersham Life Science,Pittsburgh,Pennsylvania)が挙げられるが、これらに限定されず、これらは、2004年7月21日に出願された同時係属中の出願番号10/898,734(この開示は、本明細書中に参考として援用される)に教示されている。
【0085】
いくつかの実施形態において、標識は、当該分野で「量子ドット」と通常いわれるスペクトルコードを含むミクロスフェアであり得る(米国特許第6,500,622号(この開示は、本明細書中に参考として援用される)を参照のこと)。スペクトルコードは、少なくとも1つの異なる蛍光特徴、例えば、励起波長、発光波長、発光強度などを有する1つ以上の半導体ナノ結晶を含み得る。識別可能なスペクトルの範囲を有する量子ドットにプローブを結合することによって、既存のフルオロフォアを使用して現在解析可能な細胞成分よりも多くの細胞成分の同時解析が可能である。例えば、12個以上のスペクトル的に分解可能な標識が単一アッセイで使用され得る。このような標識形式は、異なる識別可能で検出可能な標識がおびただしい多様性を有するため、多重アッセイにおける用途に特に適している。
【0086】
単一アッセイで使用されるスペクトル的に分解可能な標識の数はまた、コンビナトリアルラベリングまたはレシオメトリックな標識を使用することによって増加され得る。コンビナトリアルラベリングにおいて、すべての可能な組み合わせの数は、式X=2−1(ここでnは、使用される標識の数を表す)によって説明される。3つの蛍光で標識されたヌクレオチド(FITC−dUTP、Cy3−dUTPおよびAMCA−dUTP)を使用して、7つの異なるDNAプローブが標識され得、そしてハイブリダイゼーション後に色の組み合わせに基づいて同時に同定され得る。例えば、FITCで標識されたDNAプローブは、緑色の蛍光を発し、AMCAで標識された別のプローブは、青色の蛍光を発し、他方では、FITCおよびAMCAで標識された第3のプローブは、緑がかった青色の蛍光を発する。同様に、一方のプローブが赤色で標識され、そして他方のプローブが緑色で標識されたプローブの組み合わせは、黄色のシグナルをもたらす。青色および赤色で標識されたプローブの組み合わせは、赤紫色のシグナルをもたらす。他方では、1つのプローブがFITC−緑色で標識され、別のプローブがAMCA−青色で標識され、そして第3のプローブがCy3−橙色/赤色で標識されているプローブの組み合わせは、「白色」の蛍光を発する。
【0087】
比標識(ratio labeling)が使用される場合、理論上は多くの標的がいくつかの標識で識別され得る。比標識を用いるとき、プローブの混合物が使用され、各プローブは、分解可能な標識で標識される。混合物中で使用される各プローブの量は、互いに対するセット比である。各標的は、使用される色の異なる比を有することによって識別される。例えば、2つの標識、赤色および緑色を使用すると、第1の標的は、赤色標識されたプローブのみを使用して検出され得(すなわち、標的は赤色を表す)、第2の標的は、緑色標識されたプローブのみを使用して検出され得(すなわち、標的は緑色を表す)、第3の標的は、赤色標識されたプローブと緑色標識されたプローブとの75:25の比の混合物を使用して検出され得るため、第3の標的は、観察された赤色の色調に基づいて第1の標的と識別され(すなわち、第3の標的は、赤色の色調がより弱い)、第4の標的は、赤色標識されたプローブと緑色標識されたプローブとの65:35の比の混合物を使用して検出され得るため、第4の標的は、観察された赤色の色調に再度基づいて第1の標的および第3の標的と識別され(すなわち、第4の標的は橙色を表す)、第5の標的は、赤色標識されたプローブと緑色標識されたプローブとの50:50の比の混合物を使用して検出され得るため、第5の標的は、黄色などを表す。様々な比を十分に識別するためにコンピュータソフトウェアが必要とされることが多い。
【0088】
多色、多パラメーターフローサイトメトリーの使用は、規定されたフルオロフォアとタンパク質との(「FTP」)比の主要な結合体化抗体を必要とする。一般に、FTP比の範囲を与えることは、十分ではないが、2分子異なるFTP比がホスホ−エピトープ染色で著しい減少を示し得るため、最終生成物を徹底的に定量することが必要である。各フルオロフォアの最適FTPが、固有であり、そしてホスホ−エピトープに対する抗体クローン間で異なり得ると述べられていることも重要である。
【0089】
いくつかの実施形態において、任意のタンパク質フルオロフォア(すなわち、PE、APC、PE−TANDEM CONJUGATES(PE−TR、PE−Cy5、PE−CY5.5、PE−CY7、PE−Alexa color(PE−AX610、PE−AX647、PE−680、PE−AX700、PE−AX750)、APC−TANDEM CONJUGATES APC−AX680、APC−AX700、APC−AX750、APC−CY5.5、APC−CY7)、GFP、BFP、CFP、DSREDおよびフィコビリタンパク質(phycobilliprotein)を含む藻類タンパク質のすべての誘導体についての最適な比は、1:1(1つのabと1つのタンパク質色素)である。
【0090】
さらなる実施形態において、内部染色(internal stain)について、FTP比は、1〜6である;AX488について、FTPは、好ましくは2〜5、そしてより好ましくは4である;AX546について、FTP比は、好ましくは2〜6、そしてより好ましくは2である;AX594について、FTP比は、好ましくは2〜4である;AX633について、FTPは、好ましくは1〜3である;AX647について、FTP比は、好ましくは1〜4、そしてより好ましくは2である。AX405、AX430、AX555、AX568、AX680、AX700、AX750について、FTP比は、好ましくは2〜5である。
【0091】
あるいは、2004年7月21日に出願された同時係属中の出願番号10/898,734(この開示は、その全体が参考として援用される)に詳細に議論されているFRETに基づく検出システムは、本明細書中で説明される方法において使用され得る。
【0092】
「標識酵素」、「2次標識」のような多くの他の標識、放射性同位体およびこれらの標識を検出するための方法は、2004年7月21日に出願された同時係属中の出願番号10/898,734(この開示は、その全体が参考として援用される)に教示されている。
【0093】
任意の原核細胞または真核細胞は、本明細書中で説明される方法において使用され得る。適当な原核細胞としては、細菌、例えば、E.coli、様々なBacillus種および好熱菌などの好極限性細菌などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0094】
適当な真核細胞としては、Aspergillus,TrichodermaおよびNeurospora種を含む酵母および糸状菌類などの菌類;トウモロコシ、ソルガム、タバコ、アブラナ、ダイズ、ワタ、トマト、ジャガイモ、アルファルファ、ヒマワリなどの細胞を含む植物細胞;および魚類、鳥類および哺乳動物を含む動物細胞が挙げられるが、これらに限定されない。適当な魚類細胞としては、サケ、マス、テラピア、マグロ、コイ、ヒラメ、オヒョウ、メカジキ、タラおよびゼブラフィッシュ種由来の細胞が挙げられるが、これらに限定されない。適当な鳥類細胞としては、ニワトリ、アヒル、ウズラ、キジおよびシチメンチョウおよび他のジャングルの悪鳥(jungle foul bird)または猟鳥の細胞が挙げられるが、これらに限定されない。適当な哺乳動物細胞としては、ウマ、ウシ、スイギュウ、シカ、ヒツジ、ウサギ、げっ歯類(例えば、マウス、ラット、ハムスターおよびモルモット)、ヤギ、ブタ、霊長類、イルカおよびクジラを含む海洋哺乳動物由来の細胞ならびに細胞株(例えば、任意の組織または幹細胞タイプならびに多能性幹細胞および非多能性幹細胞を含む幹細胞のヒト細胞株)ならびに非ヒト接合子が挙げられるが、これらに限定されない。上で議論したように、適当な細胞はまた、幅広く様々な疾患状態に関わる細胞タイプを含む。
【0095】
適当な細胞はまた、公知の研究細胞(research cell)を含む。それらとしては、ジャーカットT細胞、NIH3T3細胞、CHO、COSなどが挙げられるが、これらに限定されない。適当な細胞はまた、被験体から得られた初代細胞を含む。本明細書によって参考として明確に援用されるATCC細胞株カタログを参照のこと。
【0096】
多くの様々な方法が、シグナル伝達ネットワークを含む細胞成分を検出するために使用され得る。例えば、基質のリン酸化は、その基質のリン酸化に関与するキナーゼの活性化を検出するために使用され得る。同様に、基質の切断は、このような切断に関与するプロテアーゼの活性化の指標として使用され得る。このような指標を検出可能なシグナル(例えば、上で説明された標識およびタグ)に結合することを可能にする方法は、当該分野で周知である。
【0097】
細胞成分は、当該分野の任意の方法によって検出され得る。いくつかの実施形態において、その方法は、FACSを使用して個々の細胞における標識されたプローブを含む細胞成分を検出する工程を含む。様々なタイプの蛍光モニタリングシステム、例えばFACSシステムが、標識された細胞成分を検出するために使用され得る。例えば、ハイスループットスクリーニング、例えば、96ウェルまたはそれ以上のマイクロタイタープレート専用のFACSシステムが、使用され得る。蛍光物質に基づくアッセイを実施する方法は、当該分野で周知であり、例えば、Lakowicz,J.R.,Principles of Fluorescence Spectroscopy,New York:Plenum Press(1983);Herman,B.,Resonance energy transfer microscopy,in:Fluorescence Microscopy of Living Cells in Culture,Part B,Methods in Cell Biology,vol.30,ed.Taylor,D.L.&Wang,Y.−L.,San Diego:Academic Press(1989),pp.219−243;Turro,NJ.,Modern Molecular Photochemistry,Menlo Park:Benjamin/Cummings Publishing Col,Inc.(1978),pp.296−361に説明されている。
【0098】
サンプルにおける蛍光は、蛍光光度計を使用して測定され得る。一般に、第1の波長を有する励起源からの励起放射は、励起側の構成部分(excitation optics)を通過する。励起側の構成部分は、サンプルを励起する励起放射をもたらす。それに応じて、サンプル中の蛍光タンパク質は、励起波長と異なる波長を有する放射を発する。次いで収集用の構成部分(collection optics)がサンプルからの発光を収集する。そのデバイスは、走査されている間、特定の温度でサンプルを維持するための温度制御器を備え得る。1つの実施形態によれば、多軸の並進ステージは、露出される様々なウェルを位置させるために複数のサンプルの入ったマイクロタイタープレートを移動する。多軸の並進ステージ、温度制御器、自動焦点方式特性ならびにイメージングおよびデータ収集に関連したエレクトロニクスは、適切にプログラムされたデジタルコンピュータによって管理され得る。このコンピュータはまた、アッセイ中に収集されたデータを表示用の別の形式に変換し得る。一般に、公知のロボットのシステムおよびコンポーネントが使用され得る。
【0099】
いくつかの実施形態において、フローサイトメトリーが、蛍光を検出するために使用される。蛍光を検出する他の方法がまた、使用され得る。その方法は、例えば、量子ドット法(例えば、Goldman et al.,J.Am.Chem.Soc.(2002)124:6378−82;Pathak et al.J.Am.Chem.Soc.(2001)123:4103−4;およびRemacle et al.,Proc.Natl.Sci.USA(2000)18:553−8(これらの各々は、本明細書中に参考として明確に援用される)を参照のこと)および共焦点顕微鏡観察である。一般に、フローサイトメトリーは、レーザー光路を通る個々の細胞の通過を含む。細胞に結合しているか、またはその中に見られる任意の蛍光分子の散乱光および励起光が、光電子増倍管によって検出され、読みやすい出力、例えば、大きさ、粒度または蛍光の強度を生成する。
【0100】
検出、選別または単離する工程は、蛍光標示式細胞分取(FACS)技術を必要とし得、ここでFACSは、特定の表面マーカーを含む集団から細胞を選択するために使用される。または選択工程は、標的細胞の捕捉および/またはバックグラウンドの除去のための回収可能な支持物として磁力的に反応性の粒子の使用を必要とし得る。種々のFACSシステムは、当該分野で公知であり、本明細書中で説明される方法において使用され得る(例えば、1999年4月16日に出願されたWO99/54494;2001年7月5日に出願された米国特許出願番号20010006787(この各々が本明細書中に参考として明確に援用される)を参照のこと)。特定の例としては、FACSセルソーター(例えば、FACSVantageTM Cell Sorter、Becton Dickinson Immunocytometry Systems,San Jose,Calif.)は、標識されたプローブが細胞成分に結合しているか否かに基づいて細胞を選別および回収するために使用され得る。
【0101】
FACSを使用して細胞成分を検出するためのさらなる方法は、2004年7月21日に出願された同時係属中の出願番号10/898,734(この開示は、その全体およびその実施例が本明細書中に参考として援用される)に説明されている。
【0102】
アレイおよび共焦点顕微鏡観察を使用するなどの細胞成分を検出するための他の方法は、2004年7月21日に出願された同時係属中の出願番号10/898,734(この開示は、その全体が本明細書中に参考として援用される)に教示されている。
【0103】
FACSを使用して細胞成分を検出するためのプロトコールは、2004年7月21日に出願された同時係属中の出願番号10/898,734(この開示は、その全体およびその実施例が本明細書中に参考として援用される)に教示されている。
【0104】
ベイジアンネットワークは、多色フローサイトメトリーを使用して得られた細胞成分の複数の測定を解析するために使用され得る。ベイジアンネットワーク(Pearl,J.(1988),前出)は、多変量同時確率分布の簡潔な図画による表示を提供する。この表示は、そのノードが確率変数に対応する非閉路有向グラフからなり、その確率変数の各々は、データセットにおける生体分子の測定されたレベルを表す。弧は、上流の(親)変数に対する下流の変数の統計的依存を表す。一定の場合において、これらの統計的依存は、下流の変数(分子)に対する親からの因果的影響と解釈され得る(Pearl,J.(2000)Causality:Models,Reasoning,and Inference(Cambridge University Press)。ベイジアンネットワークは、各変数Xi、グラフにおけるその親が条件とされている確率分布(Pa)に関連する。直観的に、親の値は、Xiについての値に直接影響を与える。グラフ構造は、グラフにその親が与えられたとき、各変数が非子孫から独立しているという依存性の仮定(dependency assumption)を表す;従って、同時分布は、以下の積形式に分解され得る:
【0105】
【数1】

ベイジアンネットワーク推論の目的は、可能なグラフを探索することおよび経験的なデータにおいて観察される依存関係を最もうまく説明するグラフを選択することである。スコアに基づくアプローチを使用する場合、データに関して各ネットワークを評価し、そして最も高いスコアリングネットワークを探索する統計的に誘導されたスコア関数が導入される。本明細書中で説明される方法を使用して生成されるデータセットが、測定された生体分子(すなわち、細胞成分)のレベルを直接操作する条件を含むため、(Pe’er,D.,Regev,A.,Elidan,G.&Friedman,N.(2001)Bioinformatics 17 Suppl 1,S215−24,Yoo,C.a.C.G.F.(1999)in Uncertainty in Artificial Intelligence,pp.116−125)に説明されているようなこれらの介入を明確にモデル化する標準ベイジアンスコアリングメトリック(standard Bayesian scoring metric)(Heckerman,D.(1995)in Microsoft Research,Vol.MSR−TR−95−06)の適応が使用される。このスコアは、データを生成した可能性があった、すなわち、その根底にある分布が、データの経験分布に近い比較的単純なモデル(すなわち、わずかな弧)を与える。
【0106】
一旦、スコアが特定され、そしてデータが与えられると、ネットワーク推論は、そのスコアを最大にする構造を探すことになる。可能なグラフ構造の数は、変数(測定された生体分子)の数に対して超指数的であり、その探索空間の大きさゆえに、網羅的探索(exhaustive search)が妨げられる。従って、ヒューリスティック(heuristic)シミュレーテッドアニーリング探索法が使用される。各状態が可能なネットワーク構造をとり、演算子のセットが1つの構造から別の構造へ変換させ、単一の弧の追加、欠失または反転を定義する場合、探索空間が定義される。探索を最初のランダムな構造から始め、高スコアリングネットワークを探索する演算子を使用してこの空間がトラバースされる。探索手順の各工程において、ランダムな演算子が、グラフを変化させるために使用され、生じた構造が記録され、そしてその変化が、スコアに改善をもたらす場合は、その変化を取り入れる。極大を避けるために、変化がスコアを減少させるとしても、その変化を時折取り入れる。高スコアなグラフが見つかるまでこの手順を繰り返す。
【0107】
このプロセスは、様々なランダムグラフで初期化され得、そして何回も(例えば、500回)繰り返され得て、探索空間の様々な領域を探る。代表的には、生じたモデルの多くは、それらの間でほぼ等しいデータを説明する。得られた推論において統計的なロバストネスを得るために、単一の高スコアリング構造に依存する代わりに、モデル平均を、高スコアリングネットワークの要約について実施してもよい(Pe’er,D.,Regev,A.,Elidan,G.&Friedman,N.(2001)Bioinformatics 17 Suppl 1,S215−24)。このことは、高スコアリングネットワーク構造のほとんどが一致する共通の特徴(弧)からなる平均されたネットワークをもたらす。最終的な推論されたネットワークは、85%以上の信頼度の弧からなる。
【0108】
いくつかの実施形態において、様々な細胞成分間の相関関係は、ボンフェローニ補正されたp値を使用して作成され得る。
【0109】
図1BおよびCは、仮説シグナル伝達ネットワークへのベイジアンネットワーク推論アルゴリズムの適用を図解する。図1B(上のパネル、「a」図)は、4つの異なる仮説生体分子(すなわち、細胞成分)を表すベイジアンネットワークの例を示す。XからYへの有向弧は、XからYへの因果的影響;例えば、Xは、このネットワークにおいてYの親であると解釈される。XがYを活性化する場合、フローサイトメトリーによって測定されるこの2つのタンパク質の活性レベルの相関が、予測され、そして観察される(図1Cのパネルaのシミュレートされたデータを参照のこと)。因果関係をこの関係に割り当てるために、測定される分子の状態を直接撹乱させる事象が使用される(図1Cのパネルbを参照のこと)。例えば、分子Xの阻害によって、XおよびYの両方が阻害され、他方では分子Yの阻害によってはYが阻害されるだけであるため、Xは、図1B(上のパネル「a」)のもとの図により、Xの上流であると推論される。さらに、フローサイトメトリーが、各細胞内の複数の分子を測定することができるため、複数のタンパク質を含む複雑な因果的影響関係を同定することが可能である。XとZとの間を含む、各対の測定される活性間に相関が存在する場合(図1Cのパネルd)、XからYへ、YからZへの(図1Bの上のパネル)シグナル伝達カスケードを考慮しなければならない。ベイジアンネットワーク推論は、最も簡潔なモデルを選択し、そのモデルによってすでに説明された依存性に基づいた弧を自動的に排除する。従って、X−YおよびY−Zの関係(それぞれ図1Cのパネルaおよびc)が、X−Zの相関を説明するため、それらの間に相関があるにも関わらず、XとZとの間の弧は省略される。同様に、ZおよびWの両方が、それらの共通の原因Yによって活性化されるため、それらの活性は、相関すると予測されるが、Yからのそれぞれの弧が、この依存性を媒介するので(データセットは示さず)それらの間に弧は現れない。最終的に、分子Yが測定されなかったシナリオを考慮しなければならない。このシナリオでは、XおよびZの観察された活性の間の統計的相関関係は、Yの観察に依存しないため、それらの相関は、なおも検出されることになる。Yの活性が、観察されないため、この依存性を説明し得るデータに分子は存在しない。従って、間接的な弧が、XからZに生じる(図1B、下のパネル「b」図)。
【0110】
図3Aおよび3Bは、ヒトプライマリーナイーブCD4+T細胞における11個のリンタンパク質およびリン脂質(Raf−259、Erk1/2−T202/T204、p38−T180/Y182、Jnk−T183/Y185、Akt−S473、Mek1/2−S217/S221、PKA基質、PKC−S660、Plcg−Y783、PIP2、PIP3)のフローサイトメトリー測定を使用して得られるデータセットへのベイジアンネットワーク推論アルゴリズムの適用を図解する。11個のリンタンパク質およびリン脂質を活性化または阻害するために使用される薬剤は、下記の実施例1に示す。生じた新規に推論される因果ネットワークモデルを、様々な構成要素間に得られる17個の信頼性の高い因果弧(causal arc)を含む図3Aに示す。
【0111】
このモデルの妥当性を評価するために、以前の文献の報告を用いてモデル弧と、存在しないが可能性のある弧との比較を行った。図3Aに示されるモデル内の17個の弧のうち、14個は予測どおりに分類され、16個は文献に見られ(予測されていたものか、または既に報告されているもの)、1個は以前に報告されておらず(未解明)、そして4個が、伝統的に予測されているが、欠測であった(図3A)。モデル弧に対応する影響の、可能性のあるパス(probable path)を、下記の表1に示す。
表1:
【0112】
【表1】

E=予測されていたもの、U=未解明のもの、R=既に報告されているもの
比較のために使用した参考文献:M.P.Carroll,W.S.May,J Biol Chem 269,1249(Jan 14,1994),R.Marais,Y.Light,H.F.Paterson,C.J.Marshall,Embo J 14,3136(Jul 3,1995),R.Marais et al.,Science 280,109(Apr 3,1998),W.M.Zhang,T.M.Wong,Am J Physiol 274,C82(Jan,1998),R.Fukuda,B.Kelly,G.L Semenza,Cancer Res 63,2330(May 1,2003),P.A.Steffen M,Aach J,D’haeseleer P,Church G.,BMC Bioinformatics.1,34(Nov 1,2002),Y.B.Kelley BP,Lewitter F,Sharan R,Stockwell BR,Ideker T.,Nucleic Acids Res.32,W83(Jul 1,2004),K.M.Nir Friedman,and Stuart Russell,paper presented at the Uncertainty in Artificial Intelligence,Madison,Wisconsin,July 1998,J.D.G.Irene M.Ong,and David Page,Bioinformatics 18,S241(2002),M.Roederer,J.M.Brenchley,M.R.Betts,S.C.De Rosa,Clin Immunol 110,199(Mar,2004),およびA.Perfetto,Chattopadhyay,P.,Roederer,M.,Nature Reviews Immunology 4,648(2004).
上記モデルの完全な議論については、実施例を参照のこと。
【0113】
多様なモデル細胞タイプおよび生物体から照合される経路構造の伝統的な理解は、基礎的なシグナル伝達ネットワークの基本的な一致を証明するが、様々な主要な細胞サブタイプに存在するわずかな差を容易に明らかにしない。分子、細胞タイプ、疾患状態および介入(例えば、siRNAおよびドミナントネガティブスクリーニングまたは薬学的物質)のセットへのベイジアンネットワーク解析の適用は、特に、経路間の複雑な非線形のクロストークに関して、1つの実験的/計算的なアプローチにおいてシグナル伝達ネットワークを構築するために使用され得る。疾患状態の過程または薬学的物質の存在下での細胞サブセットに特異的なシグナル伝達ネットワークの生化学的探求においてこのアプローチを適用すると、臨床的関連性の重要な機構的情報が潜在的に提供され得る。例えば、この方法は、癌に罹患した患者における化学療法への応答の間の差を説明するシグナル伝達分子のセットを同定するために使用され得る(Marais,R.,Light,Y.,Mason,C,Paterson,H.,Olson,M.F.&Marshall,C.J.(1998)Science 280,109−12)。
【0114】
すべての出版物、特許出願および本明細書中で言及された同様のものは、それらの全体が、任意の目的で本明細書によって参考として援用される。援用されたもの(定義された用語、用語の用法、説明された技術などが挙げられるが、これらに限定されない)の1つ以上が本出願と異なるか、または矛盾する場合には、本出願が支配する。
【0115】
以下の実施例は、開示される組成物および方法の実例であって、本明細書中で説明される様々な実施形態の範囲を制限すると意図されない。本教示の精神および範囲を逸脱することなく、本教示の様々な変更および改変は、当業者に明らかであり、本教示は様々な用途および条件に適用され得る。従って、他の実施形態が含まれる。
【実施例】
【0116】
7.1.ベイジアンネットワーク推論アルゴリズム使用した細胞シグナル伝達ネットワークのモデリング
本発明者らは、多変量フローサイトメトリーデータにベイジアンネットワーク解析を適用した。一連の刺激性合図(例えば、アクチベーター)および阻害性介入(表2を参照のこと)後、データを収集し、固定により細胞応答を刺激後15分で停止して、ヒトプライマリーナイーブCD4+T細胞の細胞内のシグナル伝達ネットワークである、CD3、CD28およびLFA−1活性化の下流に対する各条件の作用の概略を記録した(現在容認されているコンセンサスネットワークについては図2を参照のこと)。
【0117】

表2:
【0118】
【表2−1】

【0119】
【表2−2】

以下の11個のリン酸化されたタンパク質およびリン脂質のフローサイトメトリー測定を実施した:S259位でリン酸化されたRaf、T202およびY204でリン酸化されたマイトジェン活性化プロテインキナーゼErk1およびErk2、T180およびY182でリン酸化されたp38 MAPK、T183およびY185でリン酸化されたJNK、S473でリン酸化されたAKT、S217およびS221でリン酸化されたMek1およびMek2(これらのタンパク質のどちらのアイソフォームも、同じ抗体で認識される)、コンセンサスリン酸化モチーフを含むPKA基質(CREB、PKA、CAMKII、カスパーゼ10、カスパーゼ2)のリン酸化、Y783におけるPLCgのリン酸化、S660におけるPKCのリン酸化ならびにホスホル−イノシトール4,5二リン酸[PIP2]およびホスホイノシトール3,4,5三リン酸[PIP3](表3、材料および方法ならびにWayman GA,T.H.,Soderling TR.(1997)J Biol Chem 26,16073−6を参照のこと)。
【0120】

表3:
【0121】
【表3】

このデータセットにおける独立した各サンプルは、単一細胞から同時に測定される11個のリン酸化された分子の定量的な量の各々からなる(*付録1、データセットを参照のこと)。説明の目的で、予想される相関関係にプロットされた実際のFACSデータの例を図5に示す。ほとんどの場合において、この例は、測定された条件下で、モニターされたキナーゼの活性化状態を反映するか、またはPIP3およびPIP2の場合においては、主要な細胞におけるこれらの第2メッセンジャー分子のレベルを反映する。9個の刺激性または阻害性の介入的条件を使用した(表2、材料および方法ならびにWayman GA,T.H.,Soderling TR.(1997)J Biol Chem 26,16073−6を参照のこと)。完全なデータセットをベイジアンネットワーク構造推論アルゴリズム(Pe’er,D.,Regev,A.,Elidan,G.&Friedman,N.(2001)Bioinformatics 17 Suppl 1,S215−24,Marais,R.,Light,Y.,Paterson,H.F.&Marshall,C.J.(1995)Embo J 14,3136−45)で解析した。生じた新規の因果ネットワークモデルを様々な構成要素間の17個の信頼性の高い因果弧を用いて推論した(図3A)。
【0122】
このモデルの妥当性を評価するために、本発明者らは、このモデルの弧および存在しないが可能性のある弧を文献に記載されているものと比較した。弧を以下のように分類した:[i]「予測されていたもの」は、複数のモデルシステムにおいて数多くの条件下で証明されてきた、文献において確立された関係に対して;[ii]「既に報告されているもの」は、周知ではないが、少なくとも1つの引用文献を見出すことができた関係に対して;[iii]「未解明のもの」は、その弧が本発明者らのモデルから推論されたが、以前の文献報告では見いだされなかったことを示唆し;および[iv]「欠測のもの」は、本発明者らのベイジアンネットワーク解析では見出すことができなかった、予測されていた関係を示す。本明細書中で使用されるとき、「未知の」弧は、「未解明の」弧と同義である。本発明者らのモデルにおいて、17個の弧のうち、14個は、予測されていたものであり、16個は、予測されていたものか、または既に報告されているものであり、1個は以前に報告されていない(未解明の)ものであり、そして4個は欠測であった(図3A)(Jaumot,M.&Hancock,J.F.(2001)Oncogene 20,3949−58,Marshall,C.J.(1994)Curr Opin Genet Dev 4,82−9,Carroll,M.P.&May,W.S.(1994)J Biol Chem 269,1249−56,Clerk,A.,Pham,F.H.,Fuller,S.J.,Sahai,E.,Aktories,K.,Marais,R.,Marshall,C.&Sugden,P.H.(2001)Mol Cell Biol 21,1173−84およびZhang,W.M.&Wong,T.M.(1998)Am J Physiol 274,C82−7)。表1に、公開された報告を調査することによって決定されたモデル弧に対応する影響の、可能性の高いパス(probable path)を列挙する。
【0123】
このモデルにおける既知の関係のいくつかは、直接的な酵素−基質関係である(図3B):PKAとRaf、RafとMek、MekとErk、PlcgとPIP2;およびリン酸化に導くリクルートの関係の1つであるPlcgとPIP3。ほとんどすべての場合において、因果的影響の方向は、正確に推論された(例外は、弧が逆向きと推論されたPlcgとPIP3であった)。すべての影響は、1つの大域的モデル内に含まれるため、弧の因果方向は、これらがモデル内の他の構成要素に一致するように無理に従わせることが多い。これらの大域的制約は、アッセイにおいて撹乱されない分子からの因果的影響の検出を可能にした。例えば、Rafは任意の測定された条件で撹乱されないが、この方法は、十分に特徴付けられたRaf−Mek−Erkシグナル伝達経路について予測されるように、RafからMekへの有向弧を正確に推論した。いくつかの場合において、別の分子に対する1つの分子の影響は、データセットにおいて測定されなかった中間分子によって媒介される。その結果、これらの間接的な関係が同様に検出された(図3B、パネルb)。例えば、MAPK p38およびJnkに対するPKAおよびPKCの影響は、それらのそれぞれの(測定されていない)MAPKキナーゼキナーゼを介しておそらく進んだ。したがって、因果リンクを有しない静的な生化学的関連マップ(static biochemical association map)を提供するシグナル伝達ネットワーク(例えば、タンパク質−タンパク質相互作用マップ(Dhillon,A.S.,Pollock,C.,Steen,H.,Shaw,P.E.,Mischak,H.&Kolch,W.(2002)Mol Cell Biol 22,3237−46;Mischak,H.,Seitz,T.,Janosch,P.,Eulitz,M.,Steen,H.,Schellerer,M.,Philipp,A.&Kolch,W.(1996)Mol Cell Biol 16,5409−18))を解明するために使用された他のいくつかのアプローチとは異なって、ベイジアンネットワーク法は、直接的および間接的の両方の因果関係を検出し得るため、シグナル伝達ネットワークのより状況的な図を提供し得る。
【0124】
このモデルの別の重要な特徴は、他のネットワーク弧によってすでに説明されている関係を棄却する能力である(例えば、図3Bパネルcを参照のこと)。これは、Raf−Mek−Erkカスケードに見られる。p44/42としても知られるErkは、Rafの下流であり、それゆえRafに依存しているが、RafからMekへの関係およびMekからErkへの関係は、Rafに対するErkの依存を説明するため、RafからErkへの弧は現れない。従って、間接的な弧は、1つ以上の中間分子がデータセットに存在しないときだけ現れるはずであり、そうでなければその関係がこの分子を介して進むことになる。介在性分子はまた、共通親であり得る。例えば、p38とJnkとのリン酸化状態は、相関する(図6)が、これらの共通親(PKCおよびPKA)がこれらの間の依存性を媒介するため、これらは、直接的に結合されない。このモデルは、弧が直接的または間接的な影響を表すか否かを示唆しないが、このモデルが本発明者らの測定において観察される任意の分子によって媒介される間接的な弧を含むことはないだろう。相関は、緊密な関係性がある経路で起きうるため、このデータセット内のほとんどの分子対の間に存在する(ボンフェローニ補正されたp値あたり、図6を参照のこと)。従って、このモデルにおける弧の相対的な「欠失」(図3A)は、推論されるモデルの精度および解釈可能性に大きく寄与した。
【0125】
より複雑な実施例は、Rafに媒介されると知られている、Mekに対するPKCの影響である(図3B、パネルd)。PKCは、2つの影響のパスを介してMekに影響を及ぼすことが知られている。各パスは、タンパク質Rafの活性なリン酸化された異なる形態によって媒介される。PKCは、S499およびS497でRafを直接リン酸化するが、本発明者らは、S259でのRafのリン酸化に特異的な抗体だけを使用しているため、この事象は、本発明者らの測定によって検出されない(表2)。従って、本発明者らのアルゴリズムは、推定されるが測定されていない、S497およびS499でリン酸化されたRaf中間体によって媒介される、PKCからMekへの間接的な弧を検出する(Jaumot,M.&Hancock,J.F.(2001)Oncogene 20,3949−58)。PKCからRafへの弧は、Rasであると推定される、測定されていない分子を介して進む間接的な影響を表す(Marshall,C.J.(1994)Curr Opin Genet Dev 4,82−9,Carroll,M.P.&May,W.S.(1994)J Biol Chem 269,1249−56)。本発明者らは、重複する弧を棄却するための本発明者らのアプローチの能力について上で議論する。この場合は、PKCからMekへ導く2つのパスが存在する。なぜなら、各パスが、PKCからMekへの影響の別個の手段(一方は、S259でリン酸化されたRafを介するものそして他方はS497およびS499でリン酸化されたRafを介するもの)に対応するからである。従って、両方のパスが、重複していない。この結果から、この解析が分子上の特定のリン酸化部位に鋭敏であり、分子間の影響の2つ以上の経路を検出することができるという重要な特性が証明される。
【0126】
4つの確立された影響関係:PIP2とPKC、PLCgとPKC、PIP3とAktおよびRafとAktは、このモデルに現れない。ベイジアンネットワークは、非閉路であることを強いるため、基礎をなすネットワークがフィードバックループを含む場合、本発明者らは、必ずしもすべての関係を明らかにすることを予測できない(図7)。例えば、本発明者らのモデルでは、RafからAktへの(MekおよびErkを介した)パスは、この非閉路性制約に起因してAktからRafへの弧を含めることを妨げる。適当な時間的なデータの有効性により、この制限は、動的ベイジアンネットワークを使用して克服することが可能である(Fortino,V.,Torricelli,C,Gardi,C,Valacchi,G.,Rossi Paccani,S.&Maioli,E.(2002)Cell Mol Life Sci 59,2165−71,およびZheng,M.,Zhang,S.J.,Zhu,W.Z.,Ziman,B.,Kobilka,B.K.&Xiao,R.P.(2000)J Biol Chem 275,40635−40)。
【0127】
このモデルにおける3つの影響関係:PKAに対するPKC、Aktに対するErkおよびErkに対するPKAは、文献では確立されていない。これらの提案された因果的影響の妥当性を探索するために、本発明者らは、この文献中の以前の報告を検索した。これらの3つの関係のうち、2つ、ラット心室筋細胞におけるPKCとPKAとの関係および結腸癌細胞株におけるErkとAktとの関係が、以前に報告されていた(Clerk,A.,Pham,F.H.,Fuller,S.J.,Sahai,.E.,Aktories,K.,Marais,R.,Marshall,C.&Sugden,P.H.(2001)Mol Cell Biol 21,1173−84,Zhang,W.M.&Wong,T.M.(1998)Am J Physiol 274,C82−7)。重要な目的は、ネットワーク内の撹乱されていない分子からの因果的影響を正確に推論するためにフローサイトメトリーデータのベイジアンネットワーク解析の能力を検定することである。例えば、Erkは、サンプルセットにおけるどのアクチベーターまたはインヒビターによっても直接作用されなかったが、Erkは、Aktとの影響関係を示した。従って、このモデルは、Erkの直接的な撹乱が、Aktに影響を及ぼし得ると予測する(図8A)。他方では、ErkとPKAとは、相関するが(図6を参照のこと)、ボンフェローニ(Bonferoni)補正されたp値に基づくモデルは、Erkの撹乱がPKAに影響を及ぼし得ないことを予測する。
【0128】
これらの予測の検定として(図4A)、本発明者らは、Erk1またはErk2のいずれかのsiRNA阻害を使用し、次いでS473リン酸化されたAktおよびリン酸化されたPKAの量を測定した。モデル予測と一致して、Erk1のsiRNAノックダウン後にAkt(p<9.4e−5)リン酸化が減少したが、PKAの活性(p<0.28)は減少しなかった(図4Bおよび4C)。Aktリン酸化は、Erk2のノックダウンによって影響されなかった。Erk1とAktとの間の関係は、直接的または間接的であり得、まだ理解されていない仲介分子を含むが、その関係は、このモデルおよび立証実験の両方によって裏づけられる。
【0129】
3つの特徴は、本発明者らのデータと現在到達できる生物学的データセットの大部分とを区別する。第1には、本発明者らは、個々の細胞において同時に複数のタンパク質状態を測定し、興味深い相関を不明瞭にし得る作用を平均する集団を排除した。第2には、その測定が、単一細胞に基づくため、何千ものデータポイントを各実験において収集した。観察結果の莫大な数によって根底にある確率的な関係の正確な判定が可能となり、それゆえ「ノイズの多い」データからの複雑な関係の抽出が可能となるため、この特徴は、ベイジアンネットワークモデリングについてはなはだしい強みを構成する。第3には、介在性アッセイが、介入1つあたり何百もの個々のデータポイントを生成したので(フローサイトメトリーが、集団内の単一細胞を測定するので)、因果関係の推論を増加させることが可能となった。これらの特徴の重要性を評価するために、本発明者らは、本発明者らのもとのデータセットに対して変形物を作った:[i]1200個のデータポイントの観察結果のみのデータセット(すなわち、どの介入的データも含まない);[ii]集団で平均した(すなわち、シミュレートされたウエスタンブロット)データセットおよび[iii]シミュレートされたウエスタンブロットデータセットに匹敵する大きさの切断された個々の細胞データセット(すなわち、データのほとんどをその大きさを減少させるために無作為に排除されたもとのデータセット。方法を参照のこと)。ベイジアンネットワーク推論をデータの各セットについて実施した。1200個の観察によるデータポイントから推論されたネットワークは、10個の弧だけを含んでおり、すべてが無向であった。そのうちの7個は、予測されていたものであるか、または既に報告されているものであり、11個の弧が、欠測であった。(図4A〜4C)。このことから、介入は、効果的な推論に有効であり、特に関係の方向性を確立するために有効であることが証明される(図1Bも参照のこと)。切断された単一細胞のデータセット(420個のデータポイント)によって、精度が大きく(11個の弧)低下し、より大きい(5400個データポイント)その対応物よりも関係の欠測が多く、そしてそれよりも未解明の弧の報告が多い(図8A)ことが示される。この結果は、ネットワーク推論では十分に大きいデータセットの大きさが重要であることを強調する。平均されたデータから推論されるネットワーク(図8C)は、同数の単一細胞のデータポイントから推測されるものと比較して、さらに4個の弧の精度の低下を示し、単一細胞のデータの重要性を強調する。集団平均がデータに存在するシグナルのいくつかを無効化するという事実は、技術を平均することによって隠される不均一な細胞のサブセットの存在を反映し得る。
【0130】
示したように、本明細書中で説明される方法を使用して、ヒトT細胞シグナル伝達、すなわち、過去20年間にわたって伝統的な生化学および遺伝的解析によって構築されたマップにおける多くの重要なリン酸化されたタンパク質を連結する伝統的に理解されてきたシグナル伝達ネットワークについてのモデルの生成が可能であった。このネットワークは、経路結合性の推測的な知識を伴わずに構築された。従って、ベイジアンネットワークの単一細胞のフローサイトメトリーへの適用は、インビボ介入後の主要な細胞における事象を測定する能力(例えば、組織における状況特異的なシグナル伝達生物学を測定すること)、有向弧およびその中の因果関係の推論ならびに間接的および直接的な関係を検出する能力を含む独特な利点を有する。この後者のポイントは、関係する分子の既知のリストが網羅的でない可能性があるとき強力な特徴であり、そしてネットワークがシステム撹乱の作用を評価するために使用されるとき(薬学的状況のような)、特に重要になり得る。
【0131】
細胞シグナル伝達ネットワークをモデル化するためにベイジアンネットワークを使用する別の利点は、観察されていない変数の存在に比較的強いこと、例えば、測定されていない分子を介する間接的な影響を検出する能力である。このような隠された変数の存在および位置を自動的に推論する方法の開発は、ベイジアンネットワーク研究の最前線である。現在の報告が、細胞1個あたり11個のリン酸化された分子の測定に限定されているが、フローサイトメトリーによって測定される同時パラメータの数は、着実に伸びている(Lange−Carter,C.A.&Johnson,G.L.(1994)Science 265,1458−61,Jaiswal,R.K.,Moodie,S.A.,Wolfman,A.&Landreth,G.E.(1994)Mol Cell Biol 14,6944−53)。測定システムが改良され、より多いプローブがシグナル伝達ネットワークに関連する細胞成分を検出するために利用可能になると、より多くの数の体内のシグナル伝達事象を容易かつ正確に測定する能力が上昇し、新規な影響構造および経路構造を発見するさらなる機会を提供する。
【0132】
材料および方法
試薬。使用したタンパク質および化学試薬(および製造供給元)は、以下のとおりであった:8−ブロモ−cAMP(8−ブロモアデノシン3’,5’−環状一リン酸、b2cAMP)、AKTインヒビター、G06976、LY294002、プシテクトリゲニン(Psitectorigenin)およびU0126:Calbiochem.PMA:Sigma。組換えヒトICAM2−FCを報告(1)されているとおりに生成した。Alexa fluor色素シリーズ(488、546、568、594、633、647、680)、cascade yellow、cascade blue、アロフィコシアニン(APC)およびR−フィコエリトリン(PE):Molecular Probes;シアニン色素(Cy5、Cy5.5、Cy7:Amersham Life Sciences。PECy5、PECy5.5、PECy7、APCCy5.5およびAPCCy7についてのタンデム結合体化プロトコールは、容易に入手可能である。a−CD3(クローンUCHT1)およびa−CD28(クローン28.2):BD−Pharmingen;リンタンパク質Raf−259、Erk1/2−T202/T204、p38−T180/Y182、Jnk−T183/Y185、Akt−S473、Mek1/2−S217/S221、PKA基質(PKA活性化の基準)、PKC−S660およびPlcg−Y783に対する抗体:Cell Signaling Technologies;PIP2およびPIP3に対する抗体:Molecular Probes;Erk1/2−T202/T204−フィコエリトリンおよびPKA−S114に対する抗体:BD−Pharmingen。図3中のリン酸化AKT−S473は、Biosource製である。
【0133】
細胞培養。ヒト末梢血リンパ球を健常ドナー(Stanford Blood Bank)から全血のフィコールプラーク密度遠心分離(Amersham Pharmacia,Uppsala,Sweden)によって得て、そして接着細胞を除いた。磁気標示式細胞選別(Magnetically activated cell sorting)をナイーブCD4+細胞を陰電気的に単離するために使用した(Dynal,Oslo,Norway)。ヒト細胞を、5%ヒト血清AB(Irvine Scientific)および1%PSQ(2mM L−グルタミンを補充した1000単位のペニシリン)を補充したRPMI−1640中に維持した。細胞を加湿恒温器内で/370C、5%CO2で維持した。
【0134】
フローサイトメトリー。細胞内および細胞外染色を、記載(Perez,O.D.&Nolan,G.P.(2002)Nat Biotechnol 20,155−62)されているように実施した。活性なキナーゼに対する細胞内プローブを、記載されているようにリン酸特異的抗体をAlexa Fluor色素シリーズに結合体化することによって作製し、リン酸化タンパク質の染色に使用した(Perez,O.D.,Krutzik,P.O.&Nolan,G.P.(2004)Methods Mol Biol 263,67−94,Perez,O.D.&Nolan,G.P.(2002)Nat Biotechnol 20,155−62)。簡潔には、精製ヒトCD4+T細胞を、96ウェルに分配し、化学インヒビターで30分間処理し、次いで刺激剤で15分間処理した。解析を、37℃に維持され、同期化された(time−synchronized)96ウェル(すなわち、1枚の96ウェルプレート)に固定緩衝液を直接適用することによって実施した。2%パラホルムアルデヒド(200uL)を0.5×10細胞(100uL中)に加え、示されるように刺激した。固定を、予め冷却された96ウェル金属保持器上で40℃にて30分間実施した。次いでプレートを遠心分離し(1500RPM、5分、40℃)そして予め力価測定された多色抗体カクテルで染色した。細胞を3回洗浄し、そして解析した。フローサイトメトリーデータは、少なくとも3回の独立した実験の代表である。MoFlo electronics(Cytomation,Fort Collins CO)に接続され、顧客用に設定された機械である改変FACStar bench(Becton Dickenson)でデータを収集した(Tung,J.W.,Parks,D.R.,Moore,W.A.&Herzenberg,L.A.(2004)Methods Mol Biol 271,37−58)。この立体配置により、サンプルの11色解析およびスペクトル重複のリアルタイム補正(前方散乱光および側方散乱光に対して2つのチャネルを加えて)が可能となる。データをDeskソフトウェア(Stanford University)を使用して収集し、補正し(光線内およびフルオロフォアスペクトル重複分離(demixing))そしてFlowjoソフトウェア(Treestar)を使用して解析した。
【0135】
siRNA阻害。Erk1 mRNAに相補的なsiRNAをSuperarray Biosciencesから購入した。Erk2 mRNAに相補的なsiRNAをUpstate Biotechnologiesから購入した。siRNAオリゴヌクレオチド(100nM)を、Amaxaヌクレオフェクターシステム(Amaxa Biosystems)を使用して主な細胞トランスフェクションに使用した(Lenz,P.,Bacot,S.M.,Frazier−Jessen,M.R.&Feldman,G.M.(2003)FEBS Lett 538,149−54)。
【0136】
使用した条件。以下の条件をモデル推論に使用した:1:(抗CD3および抗CD28),2:(抗CD3,抗CD28および細胞間接着タンパク質−2(ICAM−2)タンパク質)、3:PMA(ホルボールミリステートアセテート)、4:b2cAMP(8−ブロモアデノシン3’,5’−環状一リン酸)、5:(抗CD3、抗CD28およびU0126)、6:(抗−CD3、抗−CD28およびG06976)、7:(抗CD3、抗CD28およびプシテクトリゲニン)、8:(抗CD3、抗CD28およびAkt−インヒビター)および9:(抗CD3,抗CD28およびLY294002。各条件は、600個の細胞を、総計5400のデータポイントに提供した。シミュレートされたウエスタンブロットデータセットおよびその単一細胞の等価物について、以下の条件も使用した:1(抗CD3、抗CD28、ICAM2タンパク質およびU0126)、2(抗CD3、抗CD28、ICAM2タンパク質およびG06976)、3(抗CD3、抗CD28、ICAM2タンパク質およびAkt−インヒビター)、4(抗CD3、抗CD28、ICAM2タンパク質およびプシテクトリゲニン)および5(抗CD3、抗CD28、ICAM2タンパク質およびLY294002)。同数の細胞(600個)を各条件から無作為に選択して、任意の特定の条件にネットワークが偏らないようにした。
【0137】
データの処理。データを以下のとおりに予備処理した:平均値から標準偏差の3倍以上であったデータポイントは除外した。次いでデータを、変数間の対の相互情報量の損失を最小にしようとする凝集型アプローチを使用して3つのレベル(低、中または高レベルのリン酸化されたタンパク質)に離散化した(Hartemink,A.J.&Massachusetts Institute of Technology.Dept.of Electrical Engineering and Computer Science.(2001),pp.206)。化学的介入の条件下で、阻害された分子をレベル1(「低」)と設定し、活性化された分子をレベル3(「高」)と設定した。
【0138】
シミュレートされたウエスタンブロット。シミュレートされたウエスタンブロットデータセットを作成するために、以下のことを各条件について繰り返した:すべての細胞が平均される(1条件あたり30個のシミュレートされたウエスタンブロットデータポイントを得る)まで20個の細胞を無作為に選択して平均した。平均によって、データセットの大きさがもとの大きさの20分の1に減少するため、ICAM2(上記を参照のこと)を含む5個の追加の条件を、合計420個のデータポイントについてシミュレートされたウエスタンブロットデータセットを作成するために使用した。等しい大きさの単一細胞データセットについて、14個の条件の各々から30個の細胞を無作為に選択した。この処理を10回繰り返し(その各々は、異なる乱数種を含む)、10個の異なるシミュレートされたウエスタンブロットおよび切断されたデータセットを生成した。ベイジアンネットワーク推論手順(下記を参照)をこのような各データセットに独立して適用した。
【0139】
ベイジアンネットワーク構造推論。本発明者らは、本明細書およびPe’er,D.,Regev;A.,Elidan,G.&Friedman,N.(2001)Bioinformatics 17 Suppl 1,S215−24およびYoo,C.a.C.G.F.(1999)in Uncertainty in Artificial Intelligence,pp.116−125(この開示は、本明細書中に参考として援用される)に説明されているようにベイジアンネットワーク推論を実行した。この方法論についての概説としては、本明細書中に参考として援用されるFriedman(Friedman,N.(2004)Science 303,799−805)もまた参照のこと。
【図面の簡単な説明】
【0140】
【図1−1】図1Aは、ベイジアンネットワーク解析を使用して実験データから得られるシグナル伝達ネットワークの例示的な実施形態を示す。
【図1−2】図1Bおよび1Cは、仮説タンパク質X、Y、ZおよびWについてベイジアンネットワークの適用を示す。
【図2】図2は、説明された細胞分子についてのコンセンサスネットワークを示す。
【図3】図3Aは、フローサイトメトリーデータから推論される細胞シグナル伝達ネットワークを示す。図3Bは、ベイジアンネットワークのいくつかの特徴を示す。
【図4】図4A〜4Cは、ErkとAktとの間の関係を予測するモデルを示し(図4A)、そしてこのモデルの確認(図4Bおよび4C)を示す。
【図5】図5Aおよび5Bは、予測される相関関係の形態にプロットされた実際のFACSデータの例を示す。
【図6】図6は、ボンフェローニ補正されたp値が基準を満たす相関関係を示す。
【図7】図7は、信頼性の低い弧を含む推論結果を示す。
【図8】図8Aは、アクチベーターおよびインヒビターを使用せずに得られたネットワークを示す。図8Bは、集団平均されたデータセットを使用して得られたネットワークを示す。図8Cは、データセットの大きさを小さくするために無作為に排除されたデータのほとんどを含む個々の細胞データセットを使用して得られたネットワークを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の細胞カテゴリー内の細胞ネットワークのモデルを構築する方法であって、該方法は以下:
a)該第1の細胞カテゴリーの第1の細胞を、該第1の細胞の各々における細胞成分のセットに結合するプローブセットと接触させる工程であって、ここで各プローブは、識別可能な標識で標識されている、工程;
b)該第1の細胞の各々における複数の前記細胞成分を検出して、該第1の細胞の各々における該細胞成分に関連した第1のデータセットを生成する工程;および
c)確率的グラフィカルモデルアルゴリズムを該第1のデータセットに適用して、該第1の細胞の各々における個々の細胞成分間の第1の弧のセットを同定する工程、
を含む、方法。
【請求項2】
前記検出工程が、フローサイトメトリーおよび共焦点顕微鏡観察からなる群から選択される検出技術を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記確率的グラフィカルモデルアルゴリズムが、ベイジアンネットワーク構造推論アルゴリズム、因子グラフ、マルコフ確率場モデルおよび条件付き確率場モデルからなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記確率的グラフィカルモデルアルゴリズムが、ベイジアンネットワーク構造推論アルゴリズムである、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記既知細胞成分が、1つ以上のタンパク質を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記タンパク質の1つ以上が、キナーゼである、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記タンパク質の1つ以上が、ホスファターゼである、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
前記細胞成分が、1つ以上の基質分子を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記既知細胞成分が、1つ以上の非タンパク質代謝物を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記非タンパク質代謝物が、炭水化物、リン脂質、脂肪酸、ステロイド、有機酸およびイオンからなる群から選択される、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記弧の1つ以上が、前記プローブの1つと結合する前記細胞成分の1つと前記プローブの1つと結合しない細胞成分との間に同定される、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記弧の1つ以上が、前記プローブと結合する前記細胞成分の少なくとも2つとの間に同定される、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
疾患状態を特徴付ける方法であって、該方法は、以下:
a)該疾患状態を示す個々の細胞の測定からの細胞成分のセットに第1の弧のセットを提供する工程;
b)該疾患状態を示さない個々の細胞の測定からの該細胞成分のセットに第2の弧のセットを提供する工程;および
c)該第1の弧のセットと第2の弧のセットとを比較して、該疾患状態を示す1つ以上の決定弧を確定する工程
を含む、方法。
【請求項14】
被験体の疾患状態を診断する方法であって、該方法は、以下:
a)該疾患状態の存在または非存在を示す決定弧のセットを提供する工程;
b)該被験体から第1の細胞のセットを得る工程;
c)該第1の細胞のセットにおける細胞成分のセットに結合するプローブのセットを提供する工程であって、ここで、各プローブは、識別可能な標識で標識されており;
d)該第1の細胞のセットの個々の細胞における複数の前記細胞成分を検出して、該第1の細胞の各々における該細胞成分に関連した第1のデータセットを生成する工程;および
e)確率的グラフィカルモデルアルゴリズムを該第1のデータセットに適用して、該各細胞における個々の細胞成分間の弧のセットを同定する工程であって、ここで、該弧のセットは、該決定弧のセットに対応しており;および
f)該弧のセットと該決定弧のセットとを比較して、該被験体の該疾患状態を診断する工程
を含む、方法。
【請求項15】
被験体の疾患状態の予後を判定する方法であって、該方法は、以下:
a)該疾患状態の予後を示す決定弧のセットを提供する工程;
b)該被験体から細胞のセットを得る工程;
c)該細胞のセットにおける細胞成分のセットに結合するプローブのセットを提供する工程であって、ここで各プローブは、識別可能な標識で標識されており;
d)該細胞のセットの個々の細胞における複数の該細胞成分を検出して、該細胞の各々における該細胞成分に関連したデータセットを生成する工程;および
e)確率的グラフィカルモデルアルゴリズムを該データセットに適用して、該各細胞における個々の細胞成分間の弧のセットを同定する工程であって、ここで、該弧のセットは、該決定弧のセットに対応しており;および
f)該弧のセットと該決定弧のセットとを比較して、該被験体の該疾患状態を診断する工程
を含む、方法。
【請求項16】
請求項1に記載の方法であって、該方法は、さらに以下:
a)前記第1の細胞カテゴリーの1つ以上の第2の細胞を薬剤と接触させる工程;
b)該第2の細胞を前記プローブのセットと接触させる工程;
c)該第2の細胞の各々における複数の前記細胞成分を検出して、該第2の細胞の各々における該細胞成分に関連した第2のデータセットを生成する工程;
d)確率的なグラフィックモデルアルゴリズムを該第2のデータセットに適用して、該第2の細胞の個々の細胞成分間の1つ以上の弧を決定する工程;および
e)前記第1の弧のセットと前記第2の弧とを比較する工程
を含む、方法。
【請求項17】
前記1つ以上の決定弧が、前記薬剤を前記被験体への治療薬と同定する、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記1つ以上の決定弧が、前記薬剤を前記被験体への有毒物質と同定する、請求項16に記載の方法。
【請求項19】
前記第1および第2の細胞集団が、疾患状態を有する被験体由来の細胞を含む、請求項16に記載の薬剤の生化学的作用を特徴付ける方法。
【請求項20】
細胞の集団内の細胞の亜集団を同定する方法であって、該方法は、以下:
a)請求項1に記載の細胞の集団内の個々の細胞において細胞ネットワークのモデルを構築して、1つ以上の弧のセットを得る工程;および
b)2つ以上の細胞の亜集団を同定する工程であって、ここで該細胞の第2の亜集団には存在しない、該細胞の第1の亜集団の1つ以上の弧の存在、非存在または差異は、該細胞の第1および第2の亜集団を形成する、工程
を含む、方法。
【請求項21】
細胞の集団内の個々の細胞を1つ以上の細胞カテゴリーに分類する方法であって、該方法は、以下:
a)請求項1の記載の方法に従って、該細胞の集団内の該個々の細胞の細胞ネットワークを構築する工程;
b)該各細胞カテゴリーに対応する1つ以上の決定弧を同定する工程;および
c)該各細胞を1つ以上のカテゴリーの各々に分類する工程
を含む、方法。
【請求項22】
細胞ネットワークのモデルを洗練させる方法であって、該方法は、以下:
a)請求項21の方法に従って、細胞の集団内の個々の細胞を1つ以上の細胞の亜集団に分類する工程;
b)請求項1に記載の細胞の該各亜集団内の個々の細胞において細胞ネットワークを構築して、細胞ネットワークの該モデルを洗練させる工程;および
c)該各亜集団の特徴を示す1つ以上の弧を同定して、細胞ネットワークの洗練されたモデルを定義する工程
を含む、方法。
【請求項23】
前記各亜集団が、疾患状態に対応する、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
薬剤によって影響を受ける1つ以上の細胞成分を同定する方法であって、該方法は、以下:
請求項16に記載の集団に対する薬剤の1つ以上の生化学的作用を特徴付ける工程;
該薬剤に対応する該1つ以上の生化学的作用を同定する工程
を含む、方法。
【請求項25】
被験体に投与する薬剤の用量を決定する方法であって、該方法は、以下:
a)前記疾患状態の処置の特徴を示す決定弧のセットを提供する工程;
b)該被験体に薬剤を提供する工程;
c)該被験体由来の細胞のセットを得る工程;
d)細胞の該セットにおける細胞成分のセットに結合するプローブのセットを提供する工程であって、ここで各プローブは、識別可能な標識で標識されており;
e)該細胞のセットの個々の細胞における複数の該細胞成分を検出して、該細胞の各々における該細胞成分に関連したデータセットを生成する工程;および
f)確率的グラフィカルモデルアルゴリズムを該データセットに適用して、該細胞における個々の細胞成分間の弧のセットを同定する工程であって、ここで該弧のセットは、前記決定弧のセットに対応しており;および
g)該弧のセットと該決定弧のセットとを比較して、該用量の有効性を決定する工程
を含む、方法。
【請求項26】
前記用量の有効性に基づいて該用量を変更する工程をさらに含む、請求項25に記載の方法。

【図1−1】
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【図1−2】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5A】
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【図5B】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2008−528975(P2008−528975A)
【公表日】平成20年7月31日(2008.7.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−552386(P2007−552386)
【出願日】平成18年1月24日(2006.1.24)
【国際出願番号】PCT/US2006/002583
【国際公開番号】WO2006/079092
【国際公開日】平成18年7月27日(2006.7.27)
【出願人】(599108976)ザ・ボード・オブ・トラスティーズ・オブ・ザ・レランド・スタンフォード・ジュニア・ユニバーシティ (61)
【氏名又は名称原語表記】THE BOARD OF TRUSTEES OF THE LELAND STANFORD JUNIOR UNIVERSITY
【出願人】(596060697)マサチューセッツ・インスティテュート・オブ・テクノロジー (233)
【Fターム(参考)】