説明

細胞付着のためリガンドを同定する高スループット法

細胞全体において所望の生物学的反応を起こすことができる作用物質を同定する高スループット法を実現する。この方法は、培養表面を有する複数の容器を用意するステップ、単一作用物質からなる異なる混合物を統計計画に従って前記複数の容器のうちの選択された容器中に加えるステップ、および単一作用物質からなる混合物を、培養表面に固定するステップを含む。この方法は、さらに、固定された作用物質を細胞全体に接触させること、及び接触した細胞内の所望の生物学的反応を示すデータを取得することを含む。この方法は、さらに、単一作用物質からなるどの混合物および/またはそれらの混合物内のどの単一作用物質が、接触された細胞内の所望の生物学的反応を起こすのに効果的であるかを判定するための、取得されたデータの統計的モデリングを使用することを含む。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般に、高スループットスクリーニング法の分野に関する。特に、本発明は、細胞内の所望の生物学的反応を引き出す単一作用物質の混合物および混合物内の単一作用物質を同定するために使用できる高スループットスクリーニング法に関する。
【背景技術】
【0002】
付着依存性細胞は、in vitroでの細胞培養に耐え抜くために、細胞付着を可能にする好適な培地材を必要とすることが知られている。通常、培地内のタンパク質は、細胞培地材の表面に随意に固定し、細胞が付着できる層を形成する。細胞表面受容体、例えば、インテグリンは、例えば、この血清タンパク質層内に存在し生物活性を保っているフィブロネクチンなどの細胞外マトリックス(ECM)タンパク質と反応することにより、そのようなタンパク質層への細胞付着を媒介する。細胞表面受容体−リガンド相互作用を介して表面への細胞付着が生じると、細胞内の内部シグナル伝達経路が活性化され、これにより最終的に細胞の運命、例えば、生存、増殖、または分化が決定される。培地に含まれる血清タンパク質を使用して細胞を細胞培地材に付着させることの欠点は、in vivoの生物学的過程とは対照的に、シグナル伝達経路が、非特異的な随意に形成される血清タンパク質層により非特異的に随意に活性化されるという点にある。他の欠点は、培地から基材上に吸着されているタンパク質が可溶化されて培地に戻り、そうして表面から離れるため、その結果基材表面の特徴がはっきりしなくなることがあるという点である。
【0003】
他の従来の細胞培養系では、細胞が付着できるタンパク質は、細胞培養用培地内に細胞を加える前に、培養容器に施されたタンパク質コーティングの形をとることができる。培養表面のコーティングとして吸着されているタンパク質は、可溶化されて培地に戻り、そうして培養表面から離れるようにできる。
【0004】
ヒトの疾患を治療したり治癒させるため様々な療法で使用される細胞にとっては、細胞がin vitro培養で保持されるときに、細胞の運命、例えば細胞の生存、増殖および分化を制御することが望ましい。したがって、体外培地材上に存在するリガンドとの細胞表面受容体の相互作用を制御する必要がある。細胞表面の相互作用を制御するために、血清タンパク質が培地内で使用される場合であっても、ポリスチレンなどの適当な培地材を細胞付着させないポリマーでコーティングすることができる。したがって、このコーティングにより、血清タンパク質の制御されない、随意の吸着をなくすることができる。次いで、細胞表面受容体との相互作用に適している生物活性リガンドを、このコーティング上に固定させるが、その際に、リガンドの生物活性は保持される。この概念は知られている。例えば、ヒアルロン酸またはアルギン酸を表面コーティングとして使用し、コーティングと細胞接着リガンドとの間の安定な共有結合をもたらす化学反応を利用することにより、この表面コーティング上に細胞接着リガンドを固定できることが知られている。これによって細胞接着リガンドが可溶化が防がれ、表面から離れることが防がれる。さらに、コーティング自体が細胞接着を補助することはない。これは、文献の中で説明されている(例えば2002年9月30日に出願した権利者共通の同時係属出願である特許文献1を参照)。
【0005】
1つの固定されたリガンドおよび特定の細胞型に対するその影響を一度に研究することが知られている。しかし、所望の細胞の運命を成就するために、細胞接着リガンドと外部因子の混合物が必要になると思われる。多数の細胞接着リガンドが知られており、細胞接着研究で使用されている。したがって、所与の細胞型について最適な細胞接着が行われるように、細胞培養表面に置かれる正しい細胞接着リガンドまたは細胞接着リガンドの組合せを見つけるのは退屈な作業といえる。
【0006】
【特許文献1】米国特許出願第10/259,797号明細書
【特許文献2】米国特許出願第10/259,817号明細書
【非特許文献1】E. Junowicz and S.Charm, "The Derivatization of Oxidized Polysaccharides for Protein Immobilization and Affinity Chromotography", Biochimica et. Biophysica Acta, Vol. 428: p. 157-165 (1976)
【非特許文献2】"Protein Immobilization: Fundamentals and Applications", Richard F. Taylor, Ed. (M. Dekker, NY, 1991)
【非特許文献3】"Peptide Growth Factors and Their Receptors I" M. B. Sporn and A. B. Roberts, Eds. (Springer-Verlag, NY, 1990)
【非特許文献4】Kleinman et al., "Use of Extracellular Matrix Components for Cell Culture," Analytical Biochemistry 166: 1-13 (1987)
【非特許文献5】Freshney, "Cell Culture, A Manual of Basic Technique" 3rd Edition (Wiley-Liss, NY, 1994)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、所与の細胞型について、細胞接着リガンドおよび/または外部因子を同定するより高いスループット法が当技術分野で必要である。これは、従来の細胞培養系では生存しない、またはその分化の状態を根本的に変えることでしか生存しない細胞の場合に特に興味深く、主要な例は、一次哺乳類細胞である。特に、所与の細胞型について所望の運命を成就するために必要な因子の混合物間の相互作用を、体系的に調べるために使用することができる統計的実験計画が当技術分野では必要である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、細胞全体において所望の生物学的反応を起こすことができる作用物質を同定する高スループット法を提供する。特に、この方法は、培養表面を有する複数の容器を用意するステップ、単一作用物質からなる異なる混合物を、統計計画に従って前記複数の容器のうちの選択された容器の中に加えるステップ、および単一作用物質からなる混合物を培養表面に固定するステップを含む。この方法は、さらに、固定された作用物質を細胞全体に接触させ、接触した細胞内の所望の生物学的反応を示すデータを取得することを含む。この方法は、さらに、取得されたデータの統計的モデリングを使用して、単一作用物質からなるどの混合物および/またはそれらの混合物内のどの単一作用物質が、接触した細胞内の所望の生物学的反応を起こさせるのに効果的であるかを判定することを含む。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本明細書で定義されている「作用物質」は、細胞に結合し、標的細胞または組織の生存、分化、増殖、または成熟を調整する成長エフェクター分子である。本発明で使用するのに好適な作用物質の例は、成長因子、細胞外マトリックス分子、ペプチド、ホルモン、およびサイトカインを含む。
【0010】
「作用物質固定物質」は、本明細書では、培養表面と作用物質との間の結合として作用することができる生体適合性ポリマーとして定義される。
【0011】
本明細書で定義されている「固定する」、「固定された」などの用語は、(複数の)作用物質、つまり、成長エフェクター分子を、ウェル表面またはウェル内に含まれる足場の表面などの培養表面に固定することを意味する。この用語は、培養表面への作用物質の直接的または間接的共有結合はもちろんのこと、作用物質の培養表面への受動的吸着を包含することを意図している。
【0012】
「因子」は、実験における変数の名前であり、実験により1回の試験または試行(例えば、1ウェルについて)から次の試験または試行で変化するものを表す。本発明では、「因子」は、単一作用物質または単一作用物質の混合物に対する総称である。統計計画に従って因子を組み合わせて、実験における様々な混合物を形成する。
【0013】
「統計計画」は、本明細書で定義されているように、最良の実験結果を生み出す調整可能な変数(つまり、因子)の組合せを見つけて、その目的を達成するために必要な実験回数を劇的に減らすのを手助けする実験計画である。本発明では、試験対象の作用物質を表す総称的因子名を使用して、適当な統計計画を作成する。この計画は、その複数の因子の量および/または濃度とすることができる因子水準、または因子の実際の量および/または濃度に変換できる因子水準を含む。この計画は、さらに、番号が割り当てられた、実験試行も含む。実験試行では、因子の組合せおよび試験に対するその水準を指定し、例えば、それぞれは、マルチウェルプレート上の単一ウェルに対応する。実験試行は、汎用マルチウェルプレート上のウェルにマッピングすることができる。
【0014】
本明細書で使用されている「前処理」および「前処理された」という用語は、官能基を表面または他の基材に添加することを意味し、その後、該官能基は作用物質固定物質(つまり、生体適合性ポリマー)と共有結合を形成することで化学的に関与する。例えば、マイクロタイターウェルの表面をアミノプラズマ処理して、作用物質固定物質を結合できるアミンの多い表面を生成できる。
【0015】
上述のように、本発明は、細胞全体において所望の生物学的反応を生じることができる作用物質を同定する高スループット法に関する。この方法は、培養表面を有する容器を用意するステップ、単一作用物質からなる異なる混合物を、統計計画に従って容器のうちの選択的な1つの中に置くステップ、単一作用物質からなる混合物を、培養表面に固定するステップ、および固定された作用物質を、細胞全体に接触させるステップを含む。この方法は、さらに、接触した細胞内の所望の生物学的反応を示すデータを取得すること、および取得されたデータの統計的モデリングを使用して、単一作用物質からなるどの混合物および/またはそれらの混合物内のどの単一作用物質が所望の生物学的反応を発生させる際に効果的であるかを判定することを含む。望ましい一実施形態では、所望の生物学的反応は、細胞接着、細胞生存、細胞分化、細胞成熟、細胞増殖、およびそれらの組合せから選択することができる。
【0016】
上述のように、所望の細胞の運命を成就するために、単一作用物質の混合物が必要になることがある。多数の成長エフェクターが知られている。例えば、細胞表面受容体に結合するか、またはイオンチャネルまたは輸送を通じて取り込まれ、それらの細胞の生存、分化、増殖、または成熟を調整する成長エフェクター分子は、成長因子、細胞外マトリックス分子、ペプチド、ホルモン、およびサイトカインを含み、それらについて多数の例がある。したがって、所与の細胞型について所望の細胞の運命を成就するように細胞培養表面に置く正しい成長エフェクターまたは成長エフェクターの組合せを見つけるのは退屈な作業といえる。
【0017】
本発明は、所与の細胞型について所望の生物学的反応を引き出す作用物質の混合物を同定する高スループット法を実現することにより当技術分野で必要性を解決する。
【0018】
本発明の方法の好ましいいくつかの実施形態では、単一作用物質の混合物は、容器表面などの培養表面上の作用物質固定物質に共有結合で固定される。また、単一作用物質の混合物を、培養表面上に受動的に吸着できることは十分に本発明の考察の範囲内にある。作用物質を固定する培養表面は、さらに、容器内に含まれる足場とすることもできる。
【0019】
ここで図1を参照すると、作用物質固定物質16を付着できるアミノ化された表面14を形成するために、容器10がアミノプラズマ処理できる表面12を備える好ましい一実施形態が示されている。以下でさらに詳しく説明するが、作用物質固定物質16は、好ましくは、アミノ化された表面14に結合されている生体適合性ポリマーである。単一作用物質20、例えば、20a〜dの混合物18は、作用物質固定物質16に共有結合で固定されるのが望ましい。
【0020】
次に図2を参照すると、本発明により、単一作用物質の異なる混合物は、統計計画に従って容器内に配置されるが、これについては、以下でさらに詳しく説明する。図2に示されているように、容器10a内の作用物質20a〜dの組成は、第2の容器10b内の作用物質の組成と異なり、この組成は、単一作用物質20e〜hを含む。しかし、複数の容器が同じ作用物質を含むことができることに留意されたい。例えば、所与の作用物質は、他の作用物質の特定の組合せの環境にある場合に所望の細胞の運命を成就することについてプラスの効果を持つことができ、またこの同じ作用物質は、作用物質の異なる組合せの環境にある場合に所望の細胞の運命を成就することについて中立的効果を持つか、またはまったく効果を持つことができないことは十分本発明の考察の範囲内にある。したがって、これらの効果を評価するために、異なる組成の作用物質を他の作用物質とともに用意することは有益であろう。再び図2を参照すると、作用物質20が統計計画に従って、異なる混合物として様々な容器10中に置かれた後、それらの混合物18は、細胞全体22と接触する。作用物質20は細胞22に結合し、接触した細胞における所望の生物学的反応の1つまたは複数を起こすことができる。その細胞型における所望の反応を引き出すにあたって作用物質の所与の混合物または混合物内の単一作用物質の有効性に関する決定は、取得された実験データに基づいて確認される。前記データは、限定はしないが、免疫細胞化学的分析、顕微鏡使用、または機能的アッセイを含む方法を使用して取得することができる。
【0021】
次に図3〜6を参照し、統計計画のいくつかの態様についてさらに詳しく説明することにする。特に図3を参照すると、96ウェルプレート24のウェルに対応する容器10が示されている。この96ウェルプレートは、行A〜H、および列1〜12からなる。図3に示されているように、図1および2の中の単一作用物質20または混合物18の素性が、総称的因子名により表されることは本発明の一態様である。これらの因子は、実験における変数である。
【0022】
例えば、図3に示されているように、総称的因子1〜10は、ボックス28で示されている10個の単一細胞外マトリックスタンパク質を表している。この実施例では、総称的因子1はコラーゲンI、総称的因子2はコラーゲンIIIなどである。これらの因子のそれぞれを、他の因子の1つまたは複数と組み合わせ、プレート・レイアウト用の混合物をつくることができる。
【0023】
次に図4を参照すると、これらの総称的因子1〜10は、それぞれ複数の作用物質を表すことができることも、十分に本発明の考察の範囲内にある。例えば、ボックス30に示されているように、この実施例内の総称的因子1は、コラーゲンIとフィブロネクチンの混合物を表し、総称的因子2は、コラーゲンIIIとビトロネクチンの混合物を表す、といったように示されている。これらの総称的因子のそれぞれを、同様に、他の総称的因子と組み合わせ、プレート・レイアウト用の複雑な混合物をつくることができる。
【0024】
図5および6は、図3に示されている実施形態を参照しつつ説明されるが、総称的因子1〜10はそれぞれ、所与の濃度における単一作用物質に対応する。
【0025】
図5に概略が示されているように、容器10内の全液量が10個の等体積の区画32に分けられるシナリオが提示されている。96ウェルプレートのそれぞれのウェルは、10個の因子すべて(例えば、単一作用物質)またはそれらの因子のサブセットを含むことができる。図5のAに示されているように、ケース1では、10個の因子はすべて存在し、10個の因子はすべて、流体区画32を占有する。図5のAに示されているウェル10内の総因子濃度は、[10/10]=[1]である。これは、ウェル1つ当たり[1]に相当する因子の総濃度を与える。図5のBは、例えば、同じ96ウェルプレート上の異なるウェルを表す。この状況(ケース2)では、10個の因子のうち5個だけが存在する。再び、この液量は、10個の等しい区画32に分けられる。ケース2では、ある因子が存在すれば、その流体区画はその因子で満たされる。しかし、ケース2では、10個の容積区画のうちの5個は、因子で満たされず、むしろ、媒質などの「プレース・ホルダ(place holder)」で満たされる。図5のBのケース2では、総因子濃度は、[0.5]に等しい。したがって、図5のBに示されているウェル内の総因子濃度は、1ウェル当たり[0.5]因子である。ケース1の総因子濃度は、ケース2の総因子濃度と等価でない。したがって、本発明の一実施形態では、それぞれの容器内の作用物質の総濃度は、異なる場合がある。さらに、ケース1とケース2の両方において、単一因子の濃度は、ウェル間で同じである。例えば、単一のコラーゲンIリガンドを表すことができる因子1の濃度は、ウェル間で同じである。
【0026】
次に図6を参照すると、界面化学の要件について具体的に考察する他のシナリオが提示されている。特にこのシナリオでは、因子の総密度は、ウェル間で一定に保たれ、ウェル間では因子組成の変化のみが許される。つまり、因子の濃度は、ウェル間で異なることができるが、それぞれのウェルは、全体として同じ量の因子が固定されるということである。図6に示されているように、所与のウェル内に存在する全液量は、存在する因子の数に基づいて分けられる。ここでもまた、簡略化のため、1つの因子は1つの単一作用物質に対応すると仮定することができるが、本発明はこのような状況に限られるわけではない。図6のAに示されているように、10個の因子がすべて存在し、総因子濃度は、1ウェル当たり[1]因子の総因子濃度について[10/10]=[1]に等しい。図6のBにおいて、10個の因子のうち5個だけが存在するが、それら5個の因子のそれぞれの液量32は、図6のAに示されている因子のそれぞれの容積32の液量の2倍である。その結果、図6のBに示されている総因子濃度は、1ウェル当たり[1]因子の総濃度について図6のAに示されているのと同じである。したがって、本発明の一実施形態では、それぞれの容器内の作用物質の総濃度は同じである。図6に基づき、総因子濃度は図6のAのウェルと図6のBのウェルの間で一定であるが、単一因子の濃度は、それらのウェル間で異なる場合があることがわかる。特に、コラーゲンIを表すことができる因子1を参照すると、図6のBのこの単一作用物質の濃度は、図6のAに示されている濃度の2倍となるであろう。したがって、本発明の他の実施形態では、個々の作用物質の濃度は、容器間で異なる。
【0027】
図5および6に示されているシナリオはそれぞれ、実現可能であり、細胞接着リガンドのスクリーニングに使用することができるが、以下の実施例の節に提示されている統計計画が、図6に示されているシナリオを使用して策定されたことに留意されたい。
【0028】
本発明は、96ウェルプレートフォーマットなどのフォーマットを使用して、細胞内の所望の反応を引き出す能力に関して、作用物質の複数の異なる混合物を並行してスクリーニングする方法を実現する。一実施形態では、この方法は、統計計画に従って、作用物質の異なる混合物をマルチウェルプレートの選択的ウェルに入れることを含む。この方法は、さらに、単一作用物質を複数のウェルの他方に入れるステップを含むことができる。これらの作用物質は、その後、ウェル表面などの培養表面に固定される。この方法は、さらに、細胞型を含む流体試料をウェルに加えることも含む。様々なウェル内の細胞と試料との間の適切なインキュベーション時間の経過後、細胞とウェル構成要素との間の相互作用の証拠を、直接的または間接的のいずれかで検出することができる。例えば、機能的アッセイ、免疫細胞化学、または顕微鏡を使用してデータを取得することができる。
【0029】
本発明とともに使用するのに好適な統計計画は、限定はしないが、以下の物を含む。すなわち、一部実施要因計画、D−最適計画、混合計画、およびPlackett−Burman計画を含む。好ましい一実施形態では、統計計画は、混合計画である。他の実施形態では、この実験計画は、範囲基準(coverage criteria)に基づく空間充填計画、格子計画、またはラテン方陣計画である。
【0030】
望ましいいくつかの実施形態では、前処理ができる培養表面を、作用物質固定物質でコーティングする。作用物質固定物質は、細胞接着を補助することはないが、培養表面と作用物質との間の柔軟なリンク(繋留)として使用できる生体適合性ポリマーであるのが望ましい。好適なポリマーの実施例は、ポリエチレンオキシド(PEO)、ポリビニルアルコール、ポリヒドロキシルエチルメタクリレート、ポリアクリルアミド、およびヒアルロン酸およびアルギン酸などの天然ポリマーなどの合成ポリマーを含む。
【0031】
望ましいいくつかの実施形態では、培養表面は、限定はしないが、以下のものから選択される。すなわち、ポリスチレン、ポリエチレン酢酸ビニル、ポリプロピレン、ポリメタクリレート、ポリアクリレート、ポリエチレン、ポリエチレンオキシド、ガラス、ポリシリケート、ポリカーボネート、ポリテトラフルオロエチレン、過フッ化炭化水素(fluorocarbons)、およびナイロンから選択される。また、培地材は、全体としてまたは部分的に生物分解性物質を含むことができ、該生物分解性物質としては、ポリ無水物;ポリグリコール酸;ポリ乳酸、ポリグリコール酸、およびポリ乳酸−ポリグリコール酸共重合体などのポリヒドロキシ酸;ポリオルトエステル;ポリヒドロキシブチレート;ポリホスファゼン;ポリプロピルフマレート;および生物分解性ポリウレタンなどを含むことができる。
【0032】
作用物質を吸着または繋留できる培養表面は、前処理することができる。例えば、1級アミンを有する細胞培養表面は、アンモニア環境においてポリマーのプラズマ放電処理により調製できる。作用物質固定物質は、その後、標準固定化学反応を使用してそれらのアミン化された表面に共有結合的に付着できる(例えば、内容全体が参照により本明細書に組み込まれる、2002年9月30日に出願した、権利者共通の同時係属出願である特許文献1を参照)。組織培養処理ポリスチレンを作製するために商業的に使用されている2つのプロセスは、大気プラズマ処理(コロナ放電とも呼ばれる)および真空プラズマ処理であり、それぞれ、当技術分野ではよく知られている。プラズマは、気体イオンおよび遊離基からなる極めて反応性に富む混合物である。アミノプラズマ処理または酸素/窒素プラズマ処理を使用してアミンに富む表面を作製でき、カルボジイミドバイオ抱合体化学反応(carbodiimide bioconjugate chemistries)を使用して、カルボキシル基を通じ、ヒアルロン酸(HA)またはアルギン酸(AA)などの生体適合性ポリマーを該表面上に結合できる(例えば、特許文献1を参照)。その結果得られる表面では、高い、例えば、10〜20%の血清タンパク質濃度が細胞培地内に存在する場合でも、細胞は付着できない。作用物質固定物質を介して作用物質を共有結合するために使用できる前処理済み組織培養ポリスチレン生成物の例は、PRIMARIA(商標)組織培養生成物(Becton Dickinson Labware)であり、これは、ポリスチレンの酸素−窒素プラズマ処理を使用して作製され、またその結果、アミノおよびアミド基などの酸素および窒素含有官能基が組み込まれる。
【0033】
細胞外マトリックスタンパク質、ペプチドなどの作用物質は、その後、タンパク質/ペプチド上のアミン基、およびHAまたはAA上のカルボキシ基、または例えば過ヨウ素酸ナトリウムを使用してHAまたはAA上に作製されたアルデヒド基を利用して、上述のHAまたはAA表面に共有結合できる。
【0034】
例えば、ヒト胎盤性ヒアルロン酸の末端糖鎖は、過ヨウ素酸塩手順により活性化できる(例えば、参照により本明細書に組み込まれる非特許文献1を参照)。この手順では、過ヨウ素酸ナトリウムまたはカリウムをヒアルロン酸溶液に添加し、そうして、細胞外マトリックスタンパク質上の末端アミノ基などの、作用物質上の遊離アミノ基に化学的に架橋できる末端糖鎖を活性化する必要がある。他の好ましい実施形態では、カルボジイミドを架橋剤として使用して、生体適合性ポリマー(例えば、HAまたはAA)上の遊離カルボキシ基を、作用物質上の遊離アミノ基に化学的に架橋できる。他の標準的な固定化学反応も、当業者に知られており、これを使用して、培養表面を生体適合性ポリマーに結合させ、生体適合性ポリマーを作用物質に結合させることができる。(例えば、非特許文献2または2002年9月30日に出願され、同時係属する特許文献1を参照)。
【0035】
生体適合性ポリマーを介して作用物質をアミノ化された組織培養表面に繋留することは、本発明の一実施形態であるが、それらの作用物質は、さらに、標準的な固定化学反応を使用して、生体適合性ポリマーを介し、カルボキシル化された表面またはヒドロキシル化された表面に繋留することもできることに留意されたい。付着作用物質の例は、臭化シアン、スクシニミド、アルデヒド、塩化トシル、アビジン−ビオチン、光架橋剤、エポキシド、およびマレイミドである。
【0036】
上述のように、作用物質の混合物が容器の選択的な1つに含まれることは本発明の一態様である。さらに、他の容器が単一作用物質を含むことができることも本発明の他の一態様である。これらの作用物質は、単独でまたは組み合わせて、前処理済み組織培養表面に繋留することができる。作用物質は、所望の任意の割合で組み合わせることができる。培養表面上に存在する異なる作用物質の相対量は、例えば、コーティング組成の中の作用物質の濃度により制御することができる。それとは別に、装填密度は、培養表面に結合された生体適合性ポリマーの限界容量(capacity)を調整することにより制御することができる。これは、例えば、作用物質と反応できるポリマー上の反応基の個数を制御するか、または培養表面上の生体適合性ポリマー分子の密度を制御することにより達成することができる。さらに、作用物質は、最初に、生体適合性ポリマーに別々に結合し(繋留)、その後、「装填された」繋留を所望の割合で混合し、前処理済み基材に付着することができる。
【0037】
上述のように、作用物質は、生体適合性ポリマーを介して、アミンに富むのが望ましい前処理済み組織培養表面に共有結合で固定されることが好ましい。しかし、この方法で作用物質を共有結合的に表面に固定するというよりは、作用物質を表面に受動的吸着させることにより培養表面(例えば、ウェル表面)に作用物質を固定することができることは十分に本発明の考察の範囲内にあることに留意されたい。また、作用物質は、足場に固定するか、または足場内に含浸することができ、足場は、容器内に配置し、細胞を含む流体と接触させることができることも十分に本発明の考察の範囲内にある。本発明で使用するのに好適な足場およびそこに作用物質を固定またはその中に作用物質を固定する方法は、他の文献で説明されている(例えば、内容全体が参照により本明細書に組み込まれる、2002年9月30日に出願した権利者共通の同時係属共通出願の特許文献2を参照)。
【0038】
本発明で使用する容器は、通常の形態をとることができるが、組織培養皿、マルチウェルプレート、フラスコ、チューブ、およびローラーボトルであるのが望ましい。マイクロタイターウェルおよびチューブなどの形状は、本発明では特に有用であり、多数の試料の同時アッセイを手作業で効率よく、使いやすい形で実行できる。アッセイは、さらに、例えば、マイクロタイターウェルを使用して自動化することもでき、自動ピペッターおよびプレートリーダーにより広範な自動化が可能である。他の固相、特に他の塑性固相担体も使用できる。
【0039】
本発明の方法手順は容易に自動化できることに留意されたい。これは、特に、マイクロタイタープレートをフォーマットとして使用する場合にそうである。したがって、本発明の一実施形態では、容器は、96ウェルマイクロタイタープレートを含むことができる。自動ピペッティング装置(試薬添加および洗浄ステップ用)およびカラーリーダーは、すでにマイクロタイタープレート用に存在している。本発明を実施するため自動化されたデバイスの実施例は、ピペッティングステーションおよび検出装置を含むことができ、ピペッティングステーションは、温度自動調節環境(つまり、温度制御環境)で特定の時刻に試薬をウェルへ添加および除去する順次操作を実行できる。
【0040】
上述のように、本発明で使用する作用物質は、細胞表面上の受容体を結合するか、またはイオンチャネルまたは輸送を通じて取り込まれ、標的細胞または組織の成長、複製、または分化を調整する成長エフェクター分子である。一実施形態では、これらの作用物質は、細胞接着リガンドおよび/または外部因子である。望ましいいくつかの実施形態では、作用物質は、細胞外マトリックスタンパク質、細胞外マトリックスタンパク質断片、ペプチド、成長因子、サイトカイン、およびそれらの組合せとすることができる。
【0041】
好ましい作用物質は、成長因子および細胞外マトリックス分子である。成長因子の実施例は、限定はしないが、血管内皮由来成長因子(VEGF)、上皮細胞成長因子(EGF)、血小板由来成長因子(PDGF)、形質転換成長因子(TGFα、TGFβ)、肝細胞成長因子、ヘパリン結合因子、インスリン様成長因子IまたはII、線維芽細胞成長因子、エリスロポエチン神経成長因子、骨形態形成タンパク質、筋肉形態形成タンパク質、および当業者に知られているその他の因子を含む。他の好適な成長因子は、他の文献の中で説明されている(例えば、非特許文献3を参照)。
【0042】
成長因子は、当技術分野で知られている方法を使用して組織から分離することができる。例えば、成長因子を組織から分離するか、または組換え手段により生成することができる。例えば、EGFは、マウス顎下腺から分離することができ、Genentech社(カリフォルニア州南サンフランシスコ)は組換えによりTGF−βを生成している。他の成長因子は、Sigma Chemical Co.(ミズーリ州セントルイス)、R&D Systems(ミネソタ州ミネアポリス)、BD Biosciences(カリフォルニア州サンノゼ)、およびInvitrogen Corporation(カリフォルニア州カールズバッド)などのベンダから入手でき、天然のものと組換えのものの両方がある。
【0043】
本発明で使用するのに好適な細胞外マトリックス分子の実施例は、ビトロネクチン、テネイシン、トロンボスポンジン、フィブロネクチン、ラミニン、コラーゲン、およびプロテオグリカンを含む。他の細胞外マトリックス分子は、他の文献で説明されているか(例えば、非特許文献4を参照)、または当業者に知られている。
【0044】
本発明で使用される追加の作用物質は、インターロイキンおよびGM−コロニー刺激因子などのサイトカイン、およびインスリンなどのホルモンを含む。これらは、文献の中で説明されており、市販されている。
【0045】
本発明とともに使用する細胞は、潜在的に作用物質に反応することができるか、または成長用の作用物質を必要とする細胞とすることができる。例えば、細胞は、確立された細胞系統から得ることができるか、または分離組織から分けることができる。好適な細胞は、大半の上皮および内皮細胞型、例えば、肝細胞、膵島細胞、線維芽細胞、軟骨細胞、骨芽細胞、外分泌細胞、腸内発生細胞、胆管細胞、副甲状腺細胞、甲状腺細胞、副腎−視床下部−下垂体アクセス細胞、心筋細胞、腎上皮細胞、腎管細胞、腎基底膜細胞、神経細胞、血管細胞、硬骨および軟骨を形成する細胞、平滑筋、および骨格筋などの実質細胞を含む。他の有用な細胞は、作用物質の選択混合に反応して表現型の変化を受けるであろう幹細胞を含むことができる。他の好適な細胞は、血液細胞、臍帯血由来細胞、臍帯血由来幹細胞、臍帯血由来前駆細胞、臍帯由来細胞、胎座由来細胞、骨髄由来細胞、および羊水からの細胞を含む。これらの細胞は、遺伝子操作することができる。好ましいいくつかの実施形態では、これらの細胞は、生体適合性ポリマーを介して、96ウェルマイクロタイタープレートの(複数の)ウェル表面などの培地材に繋留されている作用物質で培養される。これらの細胞は、多数のよく知られている細胞培養技術を使用して培養することができる(例えば、非特許文献5を参照)。他の細胞培地および技術は、当業者によく知られており、本発明で使用することができる。
【0046】
次に本発明による統計的に計画された実験について説明する。
【実施例1】
【0047】
ヒアルロン酸のアミンに富む組織培養表面への結合
酸素/窒素プラズマは、PRIMARIA(商標)組織培養生成物を作製するためにBecton Dickinson Labwareにより使用されている。特に、ポリスチレン生成物の酸素/窒素プラズマ処理を行うと、アミノおよびアミド基などの酸素および窒素含有官能基が組み込まれる。この実験では、HAは、当技術分野でよく知られているカルボジイミドバイオ抱合体化学反応を使用し、HA上のカルボキシル基を介してPRIMARIA(商標)マルチウェルプレート上のアミンに富む表面に結合された(例えば、非特許文献2または特許文献1を参照)。
【実施例2】
【0048】
ECMタンパク質のヒアルロン酸への結合
ECM作用物質は、培養表面に繋留されたHAポリマーに共有結合された。特に、アルデヒド基は、過ヨウ素酸塩手順を使用してHA上で作製された(例えば、非特許文献1を参照)。この手順では、過ヨウ素酸ナトリウムをHAの溶液に添加し、そうして末端糖鎖を活性化する必要があった。その後、活性化されたHAは、標準的な固定化学反応を使用しECMタンパク質上のアミン基に結合された(例えば、非特許文献2または特許文献1を参照)。
【実施例3】
【0049】
統計的に計画された実験(混合計画)を使用した異なるECMタンパク質の同時スクリーニング
本発明の実施例では、統計計画は混合計画である。この計画は、細胞反応にプラスの影響を及ぼした因子の対または単一因子を同定するために使用され、これにより、2つのECMの間の相互作用を調べることができる。この実施例では、それぞれ単一の「因子」を表す10個の単一ECMを使用して、ECM混合物を作製し図3に示されているような96ウェルプレートのウェル内に配置する。ECMは、培養表面上の生体適合性ポリマーに共有結合的に付着する(実施例1および2を参照)。その実験に対する統計計画がないと、所与の細胞型に対し他のものとともに10個のECMのそれぞれを検定するために210(1024)回の単一実験、または11個の96ウェルプレートを使用することになるであろうことに留意されたい。
【0050】
この実施例では、10個の接着リガンドの群を選択し、96ウェルプレートをこのスクリーニングのフォーマットとして選択した。均一でない蒸発による周辺効果(border effect)をなくすために、96ウェルプレートの内側60のウェルのみを実験に使用することにする。したがって、プレートの外側の行と列のウェルは、適当な対照として使用することができる。
【0051】
細胞培養試薬としての一般的用途、商業的入手性、および価格に基づいて、コラーゲンI(CI)、コラーゲンIII(CIII)、コラーゲンIV(CIV)、コラーゲンVI(CVI)、エラスチン(ELA)、フィブロネクチン(FN)、ビトロネクチン(VN)、ラミニン(LAM)、ポリリシン(PL)、およびポリオルニチン(PO)の10個の接着リガンドが選択された。
【0052】
界面化学の要件を特に考慮して統計計画が策定された。特に、この実験では、図6に示されているシナリオを使用し、そこでは、ウェル間で全体的な接着リガンド密度は一定に保たれ、接着リガンド組成のみが変化できた。つまり、単一接着リガンドの濃度は、ウェル間で異なることができるが、それぞれのウェルは、全体として同じ量の接着リガンドが固定されるということであった。このシナリオについては、さらに上で説明されている。このような計画の実施例は、図7のスプレッドシートに示されている。図7の一番上の行は、この特定のスクリーニングで使用される10個の細胞接着リガンドの一覧である。第1の列は、96ウェルプレート内のウェルに変わる実験点のリストであり、例えば、この場合52個のウェルである。スプレッドシート内の数値は、特定のウェルに加えられる因子の実際の量(μL単位)である。この特定の計画では、3つの容積、例えば、5μL、25μL、または50μLでウェルに因子が加えられる。この場合のウェルの合計量は50μLである。したがって、1つの因子が50μLで加えられたウェルでは、最終ウェル組成は、ウェル表面上に共有結合で固定された単一接着リガンドを含むことになる。それに応じて、25μLの因子がウェルに追加された場合、第2の因子はさらに25μLで加えられ、最終ウェル組成は、ウェル表面上に共有結合で固定された2つの異なる細胞接着リガンドの混合物を含む。5μLの因子が加えられると、同様に他の9つの因子はそれぞれ5μLで加えられ、その結果、ウェル表面上に10個の細胞接着リガンドすべての混合物を含むウェルが得られる。10個の接着リガンドすべてを含むこれらの実験点は、「中点」と呼ばれ、この実施例の統計計画のなくてはならない部分である。
【0053】
次に図8を参照すると、96ウェルプレートのレイアウトが示されており、これは、図7に示されている特定の統計計画から変換されたものである。特に、96ウェルプレートは、図7に示されているウェル組成、例えば、それぞれのウェルの底部に固定された細胞接着リガンドの組合せを含む。特に、図7の実験試行は、図8の行/列に対応し、以下のようになる。すなわち、図7の実験計画の試行1〜10は図8のプレート・レイアウト上の行B、列2〜11をそれぞれ表し、試行11〜20は、行C、列2〜11を表し、試行21〜30は、行D、列2〜11を表し、試行31〜40は、行E、列2〜11を表し、試行41〜50は、行F、列2〜11を表し、試行51および52は、それぞれ、行G、列2および3を表す。図7の統計計画、および図8の対応する96ウェルプレート・レイアウトにより示されているように、作用物質の混合物に加えて、単一作用物質を容器内に配置できることは、本発明の一実施形態である。
【実施例4】
【0054】
MC3T3−E1骨芽細胞に固有のECMスクリーニング
MC3T3−E1細胞は、デューク大学のL.D.Quarles博士によって考案され、チャペルヒルのノースカロライナ大学のGale Lester博士に快く提供されたものである。これらの細胞は、標準的な細胞培養技術を使用して増殖させた。MC3T3−E1は、最も一般的に使用されている組織培養表面に強く接着するため選択された十分に特徴的な成長速度の速い骨芽細胞株である。
【0055】
細胞は、当技術分野でよく知られている方法に従ってトリプシンEDTAを使用し細胞培養フラスコから取り出された。細胞は、計数し、回転沈殿させ、血清を含まない培地あるいは10%ウシ胎仔血清を含む培地内に再懸濁させた。細胞は、図8に示され、上の実施例3で説明されているレイアウトに従って96ウェルプレートのウェル内に置かれた。播種密度は、1ウェル当たり細胞約10,000個であった。細胞は、プレート上で37℃の温度により一晩培養された。翌日、培地およびウェル表面上の固定された作用物質に接着していない細胞は、取り除かれた。接着された細胞は、少なくとも15分間かけてホルマリンに曝して固定した。ヨウ化プロピジウムを使用して、前記固定した接着細胞の核を蛍光標識した。蛍光顕微鏡(Discovery−1、ペンシルバニア州ダウニングタウンのMolecular Devices社の子会社のUniversal Imaging Corporation)を使用して、ECMスクリーニングプレート内のウェルに接着している蛍光標識細胞の画像を取得した。96ウェルプレートから取得した画像の例は、図9に示す。特に、このレイアウトは図8に示されているのと同じであるが、ただし、行G、列4〜11は、対照ウェルとして使用されている。図9では、10%ウシ胎仔血清含有培地内のMC3T3−E1細胞は、ヒアルロン酸表面に繋留されている作用物質の混合物を含むウェル内に置かれたが、ただし、ウェルG4からG9は、ヒアルロン酸表面のみを含み、ウェルG10およびG11は、組織培養グレードのポリスチレンのみを含んでいた。予想どおり、ウェルG4〜G9内にあるヒアルロン酸表面のみが細胞接着を妨げた。ウェルG10およびG11内のポリスチレン表面への細胞接着は、この実施例では、驚くほど低かった。対照的に、細胞接着リガンドを含むいくつかのウェルは、それぞれ接着細胞の核を表す多数の白色スポットからわかるように、強い細胞接着を示した。
【0056】
画像解析ソフトウェアパッケージ(Meta Morph、ペンシルバニア州ダウニングタウンのMolecular Devices社の子会社のUniversal Imaging Corporation)を使用して、図9の蛍光標識細胞核を列挙し、図10に、ウシ胎仔血清を含まない培地および10%ウシ胎仔血清を含む培地内の両方の細胞に対する核カウント結果が示されている。図10では、ウェル1〜10は図9の行B、列2〜11に対応し、図10では、ウェル11〜20は図9の行C、列2〜11に対応し、というように続く。
【0057】
図10では、10%のウシ胎仔血清の存在下で、多数のウェルについて細胞接着を観察した。血清がない場合、細胞接着は少なくなるが、それでも、多数のウェル内に細胞接着が観察された。両方の場合において、統計的に計画された実験に従って細胞接着リガンドを含むいくつかのウェル内の細胞接着は、プレーンの組織培養グレードのポリスチレン上で培養された細胞を超えた(図9のウェル59および60)。得られた結果から、最も一般的に使用される細胞培養担体である、組織培養グレードポリスチレンよりも優れているMC3T3−E1接着を担持する多数の表面を同定できた。
【0058】
表面を最適化するために、2つの手掛かり、例えば、「最良ウェル」組成または「最良因子」に従うことができる。「最良因子」の決定は、実験結果の厳密な統計的分析に従って行われる。
【0059】
「最良ウェル」アプローチでは、最良の実験結果が得られるウェルが、さらに最適化のため選択される。図10に示されている実施例では、最大数の細胞核があるウェル40(またはウェルE11)を選択する。このウェルは、図8に示されているプレート・レイアウトによるコラーゲン型VIおよびコラーゲン型IIIの混合物を含んでいた。ECMスクリーニングプレート作製における固定ステップ用に選択されたコラーゲン型VIおよびコラーゲン型IIIの濃度は、モデルECM、フィブロネクチンを使用するMC3T3−E1を使う初期濃度依存研究に基づいた。調査対象の1つの細胞型に対し最適な濃度は、他の細胞型に対しては最適でない場合があることに留意されたい。さらに、所与の細胞型に対し最適な特定のECMの濃度は、同じ細胞型が使用されるとしても、他のECMの最適な濃度とならない場合がある。同様に、「当たりのウェル」内の混合物の組成も最適でない場合がある。例えば、「最良ウェル」であったウェルE11の表面は、コラーゲン型VIおよびコラーゲン型IIIの50/50混合物を含んでいた。追跡実験を実施して、固定ステップに選択された両方のリガンドの濃度とともに、所与のセル型に対する「当たりの」ウェルの表面に結合された混合物の組成(50/50混合物は、最適な組成でない場合がある)を最適化することができる。
【0060】
「最良因子」アプローチでは、統計モデルを使用して実験結果を分析する。上述の実施例では、MC3T3−E1データの混合モデル分析から、コラーゲンIV、ラミニン、およびポリ−L−リジン(限界効果)は、図11に示されているように血清なしでかなりの量が存在する場合に細胞カウント数を増やすように見えることがわかる。すべての直線が交差する点は、中点に対応し、そこでは、10個のECMすべてがそれぞれ5μLで存在した。このグラフは、ウェル組成がこの基準「中点」ブレンドからどれだけ逸脱しているかに応じて、細胞カウント数の変化を示す。これからわかるように、コラーゲンIVまたはラミニンの量が増大すると、細胞カウント数も増える。
【0061】
次に、図12を参照すると、血清は10%であり、図11に示されていたポリ−L−リジンの効果は減少し、コラーゲンIVおよびラミニンのみが引き続き細胞カウント数に対するプラスの効果を示す。
【0062】
「最良ウェル」および「最良因子」アプローチは両方とも有効であるが、それぞれのアプローチからは異なる表面組成が得られることに留意されたい。本発明の実施例では、「最良ウェル」アプローチでは、コラーゲン型VIおよびコラーゲン型IIIを含む表面が得られるが、「最良因子」アプローチでは、コラーゲン型VIおよびラミニンを含む表面が得られる。
【実施例5】
【0063】
統計的に計画された実験(Plackett−Burman計画)を使用した異なる30個の作用物質実験計画のスクリーニング
計画
本発明の実施例では、SAS Institute(ノースカロライナ州カリー)の市販のソフトウェアパッケージJMP(商標)を使用して生成された図13A〜Dに示されているようなPlackett−Burman(PB)計画を説明する。特に、スクリーニング計画は、SAS/JMP V4.0.5のカスタムデザイン機能を使用して生成された。このソフトウェアパッケージは、GUI指向パッケージであり、コードは表示されない。図13Aを参照すると、第1の列は、96ウェルプレート内のウェルに変換される実験点(試行)のリストであり、例えば、この場合60個のウェルである。スプレッドシート自体の中の数(−1または1)(図13A〜D)は、因子の水準を示す。この実施例では、「1」は、因子のあることを示し、「−1」は因子のないことを示す。さらに、この実施例では、所与のウェル内に因子が存在する場合、ウェルの総体積に関して常に同じ濃度である。作用物質の総濃度は、対応する実験試行に含まれる作用物質の数に基づいてウェル間で異なることがある。総称的因子名は、図13A〜Dの一番上の行に示されている。図14は、この実験の総称的因子F01からF30のそれぞれの素性を示す。例えば、第1の列内の実験試行1は、96ウェルプレートのウェル1を表すことができる。図13A〜Dに示されている統計計画から、以下の因子の存在(つまり、水準「1」)がわかる。すなわち、ウェル1内に、F04、F08、F09、F11、F12、F14、F16、F20、F23、F25、F26、F27、およびF29である。
【0064】
データの提案された取得および統計分析
細胞を、図13A〜Dのスプレッドシートに示されている実験計画に従って96ウェルプレートのウェル内に置く。播種密度は、1ウェル当たり細胞約10,000個である。細胞を、プレート上で37℃の温度により一晩培養する。次の日、ウェル表面上の固定された作用物質に接着していない培地および細胞を、取り除き、接着された細胞を、15分間ホルマリンに曝して固定させる。固定された接着細胞の核は、蛍光標識し、上の実施例4で説明されているように、蛍光顕微鏡で画像を取得する。画像解析ソフトウェアパッケージ(Meta Morph、Universal Imaging Corporation)を使用して、蛍光標識された細胞核を計数し、それらの細胞に対する核カウント結果を得る。これらの結果に基づき、最良の実験結果(例えば、最大数の細胞核)を持つウェルを、さらに最適化対象として選択する。最良の結果を与えるウェルの内容を調べることにより、どの因子および/または因子群が有益な効果をもたらすかに関する情報が得られる。実験計画に多数の因子を含めることにより、因子間の潜在的にさらに複雑な相互作用を調べることができる。追跡スクリーニング実験では、1回目のスクリーニングで発見された特に興味深い因子組合せを重点的に取り扱うことができる。
【0065】
第1のスクリーニングに従い、主効果が推定され、検討される。「主効果」とは、独立に作用する単一作用物質の効果のことである。相互作用効果とは、作用物質が一斉に(独立にではなく)作用するときの複数の単一作用物質の組合せ効果を意味する。この時点で、作用物質間の関連する相互作用は、通常、統計モデルでは推定されないが、作用物質間の相互作用により、最良の実験試行、つまり、最良のウェルが得られると予想されるであろう。1回目のスクリーニングの後、最良ウェルおよびそれらのウェルに含まれる因子(水準=「1」)が同定される。予備的な統計分析にプラス、中性、またはマイナスの効果があったかどうかに関係なく、ウェル内に含まれるすべての因子を使用してそれぞれの最良ウェルについて追跡実験を実行できる。実験は、最良ウェル内で同定された作用物質のサブセットを使用し、1つの細胞内で所望の反応を生じるために因子の最適なサブセットに到達するまで反復できる。さらに、実験を反復することができ、最良ウェル内の作用物質の濃度は変化させる。さらに、追跡実験も、統計的に有意な主効果のあった単一作用物質のサブセットを使用して実行することができるか、または最良の単一作用物質のサブセットを、最良混合物で同定された作用物質のサブセットと組み合わせて実行することができる。
【0066】
細胞外条件を介した細胞表現型の制御は、細胞外環境の因子間の高次相互作用の支配を受けることが提案されている。ここに提示されているPlackett−Burman計画は、主効果のよい統計的推定を与えると考えられ、また、その実験試行の間の因子の組合せの多様な集まりを観察する機会も与える。この場合、高次相互作用により、特定の実験試行は、最良ウェル内の作用物質の個別の主効果により予測することができるであろうものを越え、それより上の「最良ウェル」となることが予想される。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】本発明で使用される好ましい方法手順の略図である。
【図2】例示的な試験ウェルの略図である。
【図3】単一作用物質の異なる混合物を含む、96ウェルプレート・レイアウトの略図である。該レイアウトは、実験計画における一般因子がそれぞれ単一作用物質を表す統計計画を使用して作成される。
【図4】単一作用物質の異なる混合物を含む、96ウェルプレート・レイアウトの略図である。レイアウトは、実験計画における一般因子がそれぞれ作用物質の混合物を表す統計計画を使用して作成される。
【図5】本発明の方法の統計計画を開発する際に使用できるシナリオの略図である。
【図6】本発明の方法の統計計画を開発する際に使用できる他のシナリオの略図である。
【図7】ウェル内の全液量が、存在する因子の数に基づいて分けられる図6のシナリオを使用して開発された、96ウェルプレート・レイアウトの混合計画を示すスプレッドシートである。
【図7a】四分割した図7の左上部分である。
【図7b】四分割した図7の左下部分である。
【図7c】四分割した図7の右上部分である。
【図7d】四分割した図7の右下部分である。
【図8】図7のスプレッドシートの統計計画に基づいて作製された、96ウェルプレートレイアウトを示す図である。
【図9】図8に示されているレイアウトを備える96ウェルプレートのウェルに付着している、蛍光標識された細胞の蛍光顕微鏡画像である。
【図10】図9の顕微鏡画像の分析に従って得られた、核のカウント数対ウェル番号のグラフである。
【図11】Ln(細胞カウント数−血清なし+1)対図6〜10の情報の混合物モデル分析を使用して得られた、基準ブレンドからの偏差のグラフである。
【図12】Ln(細胞カウント数−10%血清+1)対図6〜10の情報の混合物モデル分析を使用して得られた、基準ブレンドからの偏差のグラフである。
【図13A】96ウェルプレート・レイアウトに対するPlackett−Burman統計計画を示すスプレッドシートである。
【図13A−1】二分割した図13Aの上半分である。
【図13A−2】二分割した図13Aの下半分である。
【図13B】96ウェルプレートのレイアウトに対するPlackett−Burman統計計画を示すスプレッドシートである。
【図13B−1】二分割した図13Bの上半分である。
【図13B−2】二分割した図13Bの下半分である。
【図13C】96ウェルプレートのレイアウトに対するPlackett−Burman統計計画を示すスプレッドシートである。
【図13C−1】二分割した図13Cの上半分である。
【図13C−2】二分割した図13Cの下半分である。
【図13D】96ウェルプレートのレイアウトに対するPlackett−Burman統計計画を示すスプレッドシートである。
【図13D−1】二分割した図13Dの上半分である。
【図13D−2】二分割した図13Dの下半分である。
【図14】図13の統計計画の因子の素性を示す図である。
【図14a】二分割した図14の上半分である。
【図14b】二分割した図14の下半分である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞全体において所望の生物学的反応を生じることができる作用物質を同定する高スループット法であって、
(a)培養表面を有する複数の容器(receptacles)を用意するステップと、
(b)前記単一作用物質からなる異なる混合物を、統計計画に従って前記複数の容器のうちの選択された容器の中に加えるステップと、
(c)単一作用物質からなる前記混合物を、前記培養表面に固定するステップと、
(d)(c)からの前記作用物質を、前記細胞全体に接触させるステップと、
(e)前記接触させた細胞内での、前記所望の生物学的反応を示すデータを取得するステップと、
(f)前記取得されたデータの統計的モデリングを使用して、単一作用物質からなるどの前記混合物および/または前記混合物内のどの単一作用物質が、前記接触された細胞内の前記所望の生物学的反応を発生させる際に効果的であるかを同定するステップとを含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
さらに、前記単一作用物質を前記複数の容器のうちの前記選択された容器以外の容器に加えるステップを含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記培養表面を、作用物質固定物質でコーティングすることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記作用物質固定物質は、ヒアルロン酸、アルギン酸、ポリエチレンオキシド、ポリヒドロキシエチルメタクリレート、およびそれらの組合せからなる群から選択された生体適合性ポリマーであることを特徴とする請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記作用物質固定物質は、前記作用物質を共有結合で固定するための反応基を含むことを特徴とする請求項3に記載の方法。
【請求項6】
前記培養表面上の前記作用物質固定物質は、細胞接着を補助しないことを特徴とする請求項3に記載の方法。
【請求項7】
前記作用物質は、細胞接着リガンドおよび/または外部因子であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記作用物質は、細胞外マトリックスタンパク質、細胞外マトリックスタンパク質断片、ペプチド、成長因子、サイトカイン、およびそれらの組合せからなる群から選択されることを特徴とする請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記データは、免疫細胞化学分析、顕微鏡検査、または機能アッセイにより取得されることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記所望の生物学的反応は、細胞接着、細胞生存、細胞分化、細胞成熟、細胞増殖、およびそれらの組合せからなる群から選択されることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記複数の容器は、96ウェルプレートのウェルであることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項12】
各容器内の前記作用物質の総濃度は同じであることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項13】
各容器内の前記作用物質の総濃度は異なることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記単一作用物質の濃度は、前記複数の容器間で異なることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記統計計画は、一部実施要因計画、D−最適計画、混合計画、およびPlackett−Burman計画からなる群から選択されることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項16】
前記統計計画は、範囲基準(coverage criteria)に基づく空間充填計画、格子計画、またはラテン方陣計画であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項17】
さらに、単一作用物質の前記同定された混合物のサブセットで前記ステップを反復することを含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項18】
さらに、前記ステップを反復することを含み、前記同定された混合物内の作用物質の濃度は、変化することを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項19】
前記統計的モデリングは、前記取得されたデータを前記統計計画と比較するアルゴリズムであることを特徴とする請求項1に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図7a】
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【図7b】
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【図7c】
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【図7d】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13A】
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【図13A−1】
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【図13A−2】
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【図13B】
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【図13B−1】
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【図13B−2】
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【図13C】
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【図13C−1】
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【図13C−2】
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【図13D】
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【図13D−1】
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【図13D−2】
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【図14】
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【図14a】
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【図14b】
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【公表番号】特表2007−505623(P2007−505623A)
【公表日】平成19年3月15日(2007.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−526947(P2006−526947)
【出願日】平成16年9月10日(2004.9.10)
【国際出願番号】PCT/US2004/029578
【国際公開番号】WO2005/029071
【国際公開日】平成17年3月31日(2005.3.31)
【出願人】(595117091)ベクトン・ディキンソン・アンド・カンパニー (539)
【氏名又は名称原語表記】BECTON, DICKINSON AND COMPANY
【住所又は居所原語表記】1 BECTON DRIVE, FRANKLIN LAKES, NEW JERSEY 07417−1880, UNITED STATES OF AMERICA
【Fターム(参考)】