説明

細胞内のカルシニューリンの分解を検出する方法

【課題】 細胞内のカルシニューリンの分解を簡便に検出または定量すること。
【解決手段】 細胞内のカルシニューリンの分解を検出する方法であって、第一の蛍光物質で標識された、カルパインにより切り離されるカルシニューリンAのC末部分と、第二の蛍光物質で標識された、カルシニューリンAのN末部分とカルシニューリンBから成る残りの部分とから構成される蛍光標識カルシニューリンを生細胞内で発現させる工程と、細胞の測定位置を選定し、第一の蛍光物質および第二の蛍光物質の挙動を一分子蛍光分析で測定、解析する工程と、解析結果に基いて、カルシニューリンが分解されたか否かを判断する工程とを含む方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞内のカルシニューリンの分解を検出する方法に関する。また、本発明は、細胞内のカルシニューリンの分解を定量的に測定する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
カルシニューリンは、Ca2+依存性脱リン酸化酵素であり、細胞内で生理的範囲のカルシウムイオンの上昇が起こると、可逆的に活性化され、プロテインホスファターゼとしての機能を果たすが、過剰なカルシウムイオン上昇を伴う病的条件下では、カルパインにより不可逆的に分解され、細胞死を引き起こすことが報告されている(非特許文献1)。カルシニューリンを介したかかるシグナル伝達の概要を、図1に模式的に示す。
【0003】
図1において、カルシニューリンは、カルシニューリンAサブユニット(CnA)とカルシニューリンBサブユニット(CnB)から構成されるヘテロ2量体であることが示され、生理的条件下でカルシウムイオンの上昇が起こると可逆的に活性化されカルモジュリン(CaM)と結合し、転写因子NFAT(Nuclear Factor of Activated T cell)の核内および核外移行を脱リン酸化により制御し、生理的機能を果たすことが示されている。また、図1には、過剰なカルシウムイオンの条件下においてカルシニューリンは、カルパインによりCnAのC末部分が不可逆的に分解され、カスパーゼ経路の活性化を介して、細胞死を引き起こすことが示されている。
【0004】
また、カルシニューリンに関して以下の知見も得られている:脳内に全タンパク質の約1%の割合で発現していること;免疫抑制剤であるCsA、タクロリムスFK506の標的であり、T細胞の活性化における必須の酵素であること;T細胞においてカルシニューリンの基質である転写因子NFAT(Nuclear Factor of Activated T cell)の核内および核外移行がカルシニューリンの脱リン酸化により制御されていること;記憶・学習のメカニズム、神経突起の伸長、神経栄養因子の発現、神経細胞死の誘導に重要な役割を果たしていること;カルシウム依存性の唯一のセリン/スレオニン脱リン酸化酵素であること。
【0005】
このようにカルシニューリンを介したシグナル伝達は、虚血性脳疾患(脳梗塞や脳出血)などの異常なカルシウムイオン上昇の後に起こる神経細胞死の重要なメカニズムであるといわれ、注目されている。しかし、細胞内カルシウム代謝異常に起因して遅発的に起こる細胞のアポトーシスを、細胞が生きた状態でモニターすることはこれまで困難であり、かつアポトーシスの起こる細胞を予見することも困難であった。
【非特許文献1】Critical Role of Calpain-mediated Cleavage of Calcineurin in Excitotoxic Neurodegeneration, JBC, 279, 6, 4929-4940, 2004
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記事情に鑑み、本発明は、細胞のアポトーシスを引き起こすきっかけとなるカルシニューリンの分解に着目し、細胞内におけるカルシニューリンの分解を簡便に検出または定量する方法を提供することを目的とする。また、本発明は、細胞内のカルシニューリンの分解を検出または定量することにより、細胞のアポトーシスを予測する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、以下の(1)〜(3)の工程を含む、細胞内におけるカルシニューリンの分解を検出する方法を提供する。
【0008】
(1)第一の蛍光物質で標識された、カルパインにより切り離されるカルシニューリンAサブユニットのC末部分と、第二の蛍光物質で標識された、カルシニューリンAサブユニットのN末部分およびカルシニューリンBサブユニットから成る残りの部分とから構成される蛍光標識カルシニューリンを生細胞内で発現させる工程;
(2)細胞の測定位置を選定し、第一の蛍光物質および第二の蛍光物質の挙動を一分子蛍光分析で測定、解析する工程;および
(3)解析結果に基いて、カルシニューリンが分解されたか否かを判断する工程。
【0009】
別の側面によれば、本発明は、上記(1)および(2)の工程と、解析結果に基いて、分解されたカルシニューリンの量を算出する工程とを含む、細胞内におけるカルシニューリンの分解を検出する方法を提供する。
【0010】
更に別の側面によれば、本発明は、上記(1)および(2)の工程と、解析結果に基いて、カルシニューリンが分解されていると判断された場合、細胞内で異常なカルシウムイオンの増大が起こっていると判定し、カルシニューリンが分解されていないと判断された場合、細胞内で異常なカルシウムイオンの増大が起こっていないと判定する工程とを含む、細胞内で異常なカルシウムイオンの増大が起こっているか否かを検査する方法を提供する。
【0011】
更に別の側面によれば、本発明は、上記(1)および(2)の工程と、解析結果に基いて、カルシニューリンが分解されていると判断された場合、細胞のアポトーシスが起こると推定し、カルシニューリンが分解されていないと判断された場合、細胞のアポトーシスが起こらないと推定する工程とを含む、細胞のアポトーシスを予測する方法を提供する。
【0012】
また、別の側面によれば、本発明は、アポトーシス抑制物質のスクリーニング方法であって、
上記(1)の工程と、
前記工程により得られた細胞(被検細胞)を、カルパインの分解を引き起こす条件下で被検物質とともに培養し、一方で前記工程により得られた細胞(コントロール細胞)を、カルパインの分解を引き起こす条件下で培養する工程と、
前記被検細胞と前記コントロール細胞のそれぞれについて、細胞の測定位置を選定し、第一の蛍光物質および第二の蛍光物質を一分子蛍光分析で測定し、測定結果を解析する工程と、
前記被検細胞におけるカルシニューリンの分解が、前記コントロール細胞におけるカルシニューリンの分解より減少している場合に、前記被検物質をアポトーシス抑制物質と判定する工程とを含む方法を提供する。
【0013】
更に別の側面によれば、本発明は、アポトーシス誘因物質のスクリーニング方法であって、
上記(1)の工程と、
前記工程により得られた細胞(被検細胞)を被検物質の存在下で培養し、一方で前記工程により得られた細胞(コントロール細胞)を被検物質の非存在下で培養する工程と、
前記被検細胞と前記コントロール細胞のそれぞれについて、細胞の測定位置を選定し、第一の蛍光物質および第二の蛍光物質を一分子蛍光分析で測定し、測定結果を解析する工程と、
前記被検細胞におけるカルシニューリンの分解が、前記コントロール細胞におけるカルシニューリンの分解より増大している場合に、前記被検物質をアポトーシス誘因物質と判定する工程とを含む方法を提供する。
【発明の効果】
【0014】
本発明に従って、細胞内におけるカルシニューリンの分解を簡便に検出または定量する方法が提供される。また、本発明に従って、カルシニューリンの分解に着目することにより、細胞のアポトーシスを予測する方法が提供される。
【0015】
加えて、本発明の方法によれば、細胞ごとにカルシニューリンの分解が起こっている様子を簡便に検出、定量することができ、これにより、各細胞についてアポトーシスを予測することが可能である。このように本発明では、個別の細胞内での計測が可能であり、細胞ごとの情報を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
カルシニューリンは、図1に示されるとおり、異常なカルシウムイオン上昇を伴う病的条件下において、タンパク質分解酵素であるカルパインにより不可逆的に分解され、細胞死を引き起こす。すなわち、カルシニューリンの分解がきっかけとなってアポトーシスは引き起こされる。
【0017】
カルシニューリンは、カルシニューリンAサブユニット(61 kDa;カルモジュリン結合触媒サブユニット)とカルシニューリンBサブユニット(19 kDa;Ca2+結合調節サブユニット)から構成されるヘテロ2量体である。以下、本明細書において、カルシニューリンAサブユニットおよびカルシニューリンBサブユニットは、単にカルシニューリンAおよびBとも称される。
【0018】
カルパインの作用により、カルシニューリンは、C末側のカルシニューリンAの一部が切り離される。すなわち、カルパインの作用により、カルシニューリンは、「カルシニューリンAのN末部分とカルシニューリンBから成る部分」と、「カルシニューリンAのC末部分」に分解される(上述の非特許文献1参照)。カルシニューリンが分解される様子を模式的に図2に示す。図2において“CnA”は、カルシニューリンAを示し、C末端において第一の蛍光物質により標識されている。一方“CnB”は、カルシニューリンBを示し、何れかの位置(たとえばN末端またはC末端)において第二の蛍光物質により標識されている。
【0019】
カルシニューリンの切断される位置については、上述の非特許文献1に、ラット由来のカルシニューリンに関する情報が記載されているが、ヒト由来のカルシニューリンに関する情報は得られていない。なお、ラットのカルシニューリンの切断位置からヒトのカルシニューリンの切断位置を推定した場合、401番目のアミノ酸残基(R)と402番目のアミノ酸残基(K)との間、および433番目のアミノ酸残基(K)と434番目のアミノ酸残基(G)との間で切断されることが推定され得る。
【0020】
本発明は、このようなカルシニューリンの分解を検出する方法に関し、本発明の方法は、
(1)第一の蛍光物質で標識された、カルパインにより切り離されるカルシニューリンAのC末部分と、第二の蛍光物質で標識された、カルシニューリンAのN末部分とカルシニューリンBから成る残りの部分とから構成される蛍光標識カルシニューリンを生細胞内で発現させる工程と、
(2)細胞の測定位置を選定し、第一の蛍光物質および第二の蛍光物質の挙動を一分子蛍光分析で測定、解析する工程と、
(3)解析結果に基いて、カルシニューリンが分解されたか否かを判断する工程と
を含む。
【0021】
以下、(1)〜(3)の工程の順に説明する。
【0022】
(1)蛍光標識カルシニューリンを生細胞内で発現させる工程
本発明では、カルシニューリンの分解を検出するため、最初の工程で、蛍光標識カルシニューリンを生細胞内で発現させる。これは、蛍光標識カルシニューリンを発現する細胞を調製し、得られた細胞を適切な条件下で培養することにより行われる。
【0023】
本発明において「蛍光標識カルシニューリン」は、「第一の蛍光物質で標識された、カルパインにより切り離されるカルシニューリンAのC末部分」と、「第二の蛍光物質で標識された、カルシニューリンAのN末部分とカルシニューリンBから成る残りの部分」とから構成される。すなわち、本発明では、カルシニューリンの分解を検出するために、「カルパインの作用により切り離されるカルシニューリンAのC末部分」と、「カルシニューリンAのN末部分とカルシニューリンBから成る残りの部分」が、それぞれ異なる蛍光物質で標識されている必要がある。「蛍光標識カルシニューリン」は、好ましくは、「カルパインにより切り離されるC末部分において第一の蛍光物質で標識されたカルシニューリンA」と「第二の蛍光物質で標識されたカルシニューリンB」とから構成される。
【0024】
蛍光物質としては、たとえばGFP(Green Fluorescent Protein)、CFP(Cyan Fluorescent Protein)、YFP(Yellow Fluorescent Protein)、mdsRed(monomeric-dsRed)、RFP(Red Fluorescent Protein)などの蛍光タンパク質;たとえばFITC(Fluorescein-isothiocyanate)、TOTO 1、Acridine-Orange、Texas-Redなどの蛍光色素;あるいはRhodamine Green、Cy5、TMR(Tetramethylrhodamine)、5-Tamra(5-carboxytetramethylrhodamine)などを使用することができる。本発明において第一の蛍光物質と第二の蛍光物質は、互いに識別して検出され得るものである。すなわち、第一の蛍光物質と第二の蛍光物質は、互いに異なる波長の蛍光を放射し、区別して検出され得るものである。なお、異なる波長の蛍光を放射させるための励起波長は、同一波長である場合もあるし、異なる波長である場合もある。第一の蛍光物質と第二の蛍光物質との組合せは、たとえば、EGFPとDsRed monomer、Cy3とCy5などが挙げられる。
【0025】
カルシニューリンを発現させる細胞としては、カルシニューリンはほとんどの細胞で発現しているため、カルシニューリンを発現している種々の任意の細胞を使用することができる。あるいは、カルシニューリンを発現していない細胞を使用することもできる。カルシニューリンを発現させる細胞としては、たとえば、特に臨床的に意義のある神経細胞、免疫細胞などを使用することができる。
【0026】
蛍光標識カルシニューリンの細胞内での発現は、蛍光標識カルシニューリン遺伝子を細胞内に導入することにより遺伝子工学的な手法で行ってもよいし、あるいは、蛍光標識カルシニューリンを試験管内で調製し、細胞に注入することにより行ってもよい。遺伝子工学的な手法で行う場合、蛍光物質としては蛍光タンパク質が使用される。たとえば、「カルシニューリンAをコードする遺伝子と第一の蛍光タンパク質をコードする遺伝子とをN末からこの順に連結した融合遺伝子」、および「カルシニューリンBをコードする遺伝子と第二の蛍光タンパク質をコードする遺伝子との融合遺伝子」を細胞に導入することにより、蛍光標識カルシニューリンを発現させることができる(後述の実施例参照)。たとえば、融合遺伝子の細胞への導入は、融合遺伝子を含むベクターを、Lipofectoamine 2000(インビトロジェン)またはEffectene(キアゲン)などの市販のトランスフェクションキットを用いて細胞に導入することにより行うことができる。
【0027】
本発明において第一の蛍光物質が付される位置は、分解により切り離されるカルシニューリンAのC末部分の任意の位置であり、第二の蛍光物質が付される位置は、カルシニューリンAのN末部分とカルシニューリンBから成る残りの部分の任意の位置である。遺伝子工学的な手法でカルシニューリンの蛍光標識を行う場合、標識操作が簡便であるという理由やカルシニューリンの立体構造や生理機能に影響を及ぼさないという理由から、第一の蛍光物質(第一の蛍光タンパク質)を、カルシニューリンAのC末端に付着し、第二の蛍光物質(第二の蛍光タンパク質)を、カルシニューリンBのN末端またはC末端に付着することが好ましい。すなわち、以下のA〜Bのとおり蛍光標識を行うことが好ましい。
【0028】
A.カルシニューリンAのC末端に第一の蛍光タンパク質を付着し、カルシニューリンBのN末端に第二の蛍光タンパク質を付着する。
【0029】
B.カルシニューリンAのC末端に第一の蛍光タンパク質を付着し、カルシニューリンBのC末端に第二の蛍光タンパク質を付着する。
【0030】
カルシニューリンA遺伝子およびカルシニューリンB遺伝子は公知であり、その塩基配列は、DDBJデータベースにて公開される。後述の実施例に記載されるとおり、カルシニューリンAは、DDBJデータベース、ACCESSION:M29551、VERSION:M29551.1にて公開され、
カルシニューリンBは、ACCESSION:M30773、VERSION:M30773.1にて公開される。
【0031】
遺伝子工学的な手法で蛍光標識カルシニューリンを発現させる場合、カルシニューリンA遺伝子とカルシニューリンB遺伝子は、それぞれ別々のベクターに組み込まれていてもよいし、一つのベクターに組み込まれていてもよい。後述の実施例に記載のとおり、予め所望の蛍光タンパク質をコードする遺伝子を含むベクターにカルシニューリンAまたはB遺伝子を組み込むことにより融合遺伝子を作成し、融合タンパク質を発現させることが可能である。
【0032】
カルシニューリンAおよびB遺伝子の単離、各カルシニューリン遺伝子と蛍光タンパク質をコードする遺伝子の融合遺伝子の作成、融合遺伝子の宿主細胞への導入は、公知の遺伝子工学的手法により、具体的には後述の実施例に記載されるとおり行うことが可能である。
【0033】
以上述べたとおり、第一および第二の蛍光物質により標識された蛍光標識カルシニューリンを発現する細胞(以下、本発明の細胞ともいう)が調製され、本発明の方法で使用される。本発明の細胞を、適切な培地(たとえば本発明の細胞が神経細胞Neuro2aの場合、D−MEM)で、たとえば4〜48時間培養することにより、蛍光標識カルシニューリンを発現させることができる。
【0034】
(2)測定・解析工程
次の工程では、蛍光標識カルシニューリンを発現させた本発明の細胞を、一分子蛍光分析により測定、解析する。すなわち、本発明の細胞の測定位置を選定し、第一の蛍光物質および第二の蛍光物質の挙動を一分子蛍光分析で測定、解析する。
【0035】
一分子蛍光分析は、共焦点レーザー光学系を利用して、微小領域内の蛍光分子の挙動を解析する技術であり、具体的には、蛍光相関分光法(Fluorescence Correlation Spectroscopy;FCS)、蛍光強度分布解析(Fluorescence Intensity Distribution Analysis;FIDA)、蛍光相互相関分光法(Fluorescence Cross Correlation Spectroscopy;FCCS)が公知である。
【0036】
蛍光相関分光法(FCS)は、レーザ光照射により励起照射される微小な共焦点領域(計測領域)において、蛍光分子の媒質中におけるゆらぎ運動を測定し、自己相関関数(Autocorrelation function)を決定することにより、蛍光分子の数、分子量等の物理量のデータを算出することができる。
【0037】
蛍光強度分布解析(FIDA)は、微小な共焦点領域(計測領域)において、蛍光分子の媒質中におけるゆらぎ運動を測定し、ポアソン分布関数解析により、一分子あたりの蛍光強度、蛍光分子の数のデータを算出することができる。
【0038】
蛍光相互相関分光法(FCCS)は、微小な共焦点領域(計測領域)において、2種類の蛍光分子のそれぞれの媒質中におけるゆらぎ運動を同時に測定し、相互相関関数(2種類の蛍光分子の挙動の同調性を表す関数)を決定することにより、2種類の蛍光分子の時間的、空間的同時性のデータを求めることができる。
【0039】
一分子蛍光分析の詳細については、たとえば、以下の文献を参照することができる:
「蛍光相関分光法による1分子検出」、蛋白質核酸酵素、1999、Vol.44、No.9、p.1431-1438
「細胞生物学における蛍光相関分光法と蛍光相互相関分光法」、蛋白質核酸酵素、2006、Vol.51、No.14、p.1998-2005
“Direct detection of caspase-3 activation in single live cells by cross-correlation analysis”, BBRC, 324, 849-854, 2004。
【0040】
また、共焦点蛍光顕微鏡とFCCS装置を合わせたシステムについては、特開2005-283264号公報および特開2006-17628号公報を参照することができる。たとえば、本発明では、かかるシステムとして、二つの励起光源と、各励起光を同一の試料部位に照射する光学系と、各励起光の照射により試料から発せられる各蛍光を各検出器に導く光学系と、試料から発せられた各蛍光を検出する二つの検出器と、検出される各蛍光の蛍光強度を解析して相互相関関数を決定するコンピュータとを備えたシステムを使用することができ、後述の実施例で使用される。
【0041】
本発明の細胞で発現される蛍光標識カルシニューリンは、第一の蛍光物質と第二の蛍光物質の両物質により蛍光標識されているため、カルパインにより分解されていないときには、第一の蛍光物質と第二の蛍光物質は同一の挙動を示すが、カルパインにより分解されると、第一の蛍光物質と第二の蛍光物質は別々の挙動を示す。したがって、本発明では、FCCSを使用して、第一の蛍光物質と第二の蛍光物質の時間的、空間的同時性のデータを求めることにより、第一の物質と第二の物質が同一の挙動を示すか、あるいは別々の挙動を示すかを判定することが好ましい。
【0042】
あるいは、FCSを使用して、たとえば第一の蛍光物質の付着している分子の分子量のデータを算出することにより、分解されていないカルシニューリン(第一および第二の蛍光物質が付着しているカルシニュリンAとBの複合体)と、分解されたカルシニューリン(第一の蛍光物質のみが付着しているカルシニューリンAの一部)とを、分子量の差異により識別することも可能である。
【0043】
また、FIDAを使用して、一分子あたりの蛍光強度のデータを算出することにより、分解されていないカルシニューリン(第一および第二の蛍光物質の両方が付着している)と、分解されたカルシニューリン(第一の蛍光物質が付着しているカルシニューリンAの一部と、第二の蛍光物質が付着している残りの部分とは独立に存在する)とを、一分子あたりの蛍光強度の差異により識別することも可能である。
【0044】
(3)判断・判定工程
最後に、上述の一分子蛍光分析の解析結果に基いて、カルシニューリンが分解されたか否かを判断する。たとえばFCCSを用いて測定を行い、その解析結果において2種類の蛍光物質の挙動の相互相関性が観察される場合、カルシニューリンは分解されていないと判断し、2種類の蛍光物質の挙動の相互相関性の低下が観察される場合、カルシニューリンは分解されたと判断することができる。
【0045】
被検細胞のカルシニューリン分解の判断においては、コントロール細胞の相互相関関数を決定しておく必要がある。一般的には、2種類の蛍光物質の挙動の相互相関性が観察されるポジティブコントロール細胞と、相互相関性が観察されないネガティブコントロール細胞のそれぞれの相互相関関数を決定しておく。具体的には、ポジティブコントロール細胞として、本発明の蛍光標識カルシニューリンを発現させた、形状が正常な本発明の細胞を用い、ネガティブコントロール細胞として、本発明の蛍光標識カルシニューリンを発現させ、人為的にアポトーシスを引き起こした、形状が異常な本発明の細胞を用いて、これらコントロール細胞の相互相関関数をそれぞれ決定しておくことができる。あるいは、ネガティブコントロール細胞として、2種類の蛍光物質をそれぞれ個別に発現させた細胞(当該細胞において2種類の蛍光物質の挙動は独立している)を用いることもできる。
【0046】
これらコントロール細胞の相互相関関数と試料細胞で決定された相互相関関数との対比により、試料細胞における2種類の蛍光物質の挙動の相互相関性の有無を判定することができる。好ましくは、コントロール細胞と試料細胞のそれぞれについて、得られた相互相関関数を、何れか一方の蛍光物質の自己相関関数で割ることにより規格化した相互相関値を求め、これら相互相関値の対比により、試料細胞における2種類の蛍光物質の挙動の相互相関性の有無を判断することができる。
【0047】
たとえば、ポジティブコントロール細胞における相互相関値とネガティブコントロール細胞における相互相関値との差が1の場合、試料細胞の相互相関値とネガティブコントロール細胞の相互相関値との差が0に近づくほどカルシニューリンがより多く分解されたと判断し、その差が1に近いほど、より多くのカルシニューリンが分解されていないと判断することができる。
【0048】
また、本発明では、上記(2)の工程で得られた解析結果に基いて、分解されたカルシニューリンの量を算出することにより、カルシニューリンの分解を定量的に測定することも可能である。分解されたカルシニューリンの量は、以下のとおり算出することができる。すなわち、FCCSにより、被検細胞内の二種類の蛍光分子(たとえばGFPとmdsRed)の蛍光強度を所定時間にわたって同時測定し;これらの測定値から相互相関関数を計算し;これを、何れか一方の蛍光分子(たとえばGFP)の自己相関関数で割ることにより規格化した相互相関値を求める。次いで、ポジティブコントロール細胞(PC)と被検細胞(TC)の相互相関値の差を、ポジティブコントロール細胞(PC)とネガティブコントロール細胞(NC)の相互相関値の差で割ることにより、すなわち下記式により、分解されたカルシニューリンの割合を算出することができる。
【0049】
「分解されたカルシニューリンの割合」=(PCの相互相関値−TCの相互相関値)/(PCの相互相関値−NCの相互相関値)。
【0050】
あるいは、FCSを用いて測定、解析を行い、その解析結果において、被検細胞における第一の蛍光物質の付着している分子の拡散時間が、カルシニューリンの分子量に相当する拡散時間に相当する場合、カルシニューリンは分解されていないと判断し、第一の蛍光物質の付着している分子の拡散時間の低下が観察される場合、カルシニューリンは分解され分子量が小さくなったと判断することができる。
【0051】
また、FIDAを用いて測定、解析を行い、その解析結果において、被検細胞におけるカルシニューリン一分子の蛍光強度が、2種類の蛍光物質に由来する蛍光強度である場合、カルシニューリンは分解されていないと判断し、カルシニューリン一分子の蛍光強度の低下が観察される場合、カルシニューリンは分解されたと判断することができる。
【0052】
上述の本発明の方法に従って、特定の細胞に対し、所定時間にわたって一定の時間間隔で細胞内のカルシニューリンの分解を検出・定量することにより、本発明では、カルシニューリンの分解をモニターすることが可能である。
【0053】
また、本発明では、一分子蛍光分析の解析結果に基いて、カルシニューリンが分解されていると判定された場合、細胞内で異常なカルシウムイオンの増大が起こっていると判定し、カルシニューリンが分解されていないと判定された場合、細胞内で異常なカルシウムイオンの増大が起こっていないと判定することができ、これにより、細胞内で異常なカルシウムイオンの増大が起こっているか否かを検査することが可能である。ここで、「異常なカルシウムイオンの増大」とは、虚血性脳疾患などの病的状況下の細胞内で起こる異常なカルシウムの増大を意味する。
【0054】
更に本発明では、一分子蛍光分析の解析結果に基いて、カルシニューリンが分解されていると判断された場合、細胞のアポトーシスが起こると推定し、カルシニューリンが分解されていないと判断された場合、細胞のアポトーシスが起こらないと推定することができ、これにより、細胞のアポトーシスを予測することが可能である。
【0055】
[別の側面]
別の側面によれば、本発明では、蛍光標識カルシニューリンを発現している本発明の細胞を、カルシニューリンの分解を引き起こす条件下に置き、そこに被検物質を添加し、カルシニューリン分解の減少を引き起こした物質を、アポトーシス抑制物質として選択することができる。ここで、「カルシニューリンの分解を引き起こす条件下」とは、たとえば、細胞内カルシウムイオンの異常な増大(病的状況時に起こる程度の増大)を引き起こす条件下であり、この条件は、当該技術分野で公知のとおり、たとえばATP、カイニン酸、カルシウムイオノフォア、グルタミン酸などで細胞を刺激することによりつくることができる。あるいは、種々のストレス、たとえば温度変化、栄養削除などによっても細胞内カルシウムイオンを異常に増大させることができる。
【0056】
更に別の側面によれば、本発明では、蛍光標識カルシニューリンを発現している本発明の細胞を、被検物質の存在下に置き、被検物質の非存在下と比較して、カルシニューリン分解の増大を引き起こした物質を、アポトーシス誘因物質として選択することができる。
【0057】
これら方法において、カルシニューリンの分解は、本発明の方法に従って検出または定量することが可能である。
【実施例】
【0058】
[1]蛍光標識カルシニューリンを発現している細胞の調製
カルシニューリンAサブユニットに相当するcalcineurin A2については、C末端にEGFPが融合したタンパク質を発現するプラスミドを以下の方法で作製した。カルシニューリンBサブユニットに相当するcalcineurin Bについては、それぞれN末端とC末端にDsRed monomerが融合したタンパク質を発現するプラスミドを以下の方法で作製した。
【0059】
ヒト脳または、リンパ節のcDNAライブラリー(TAKARA)をテンプレートとし、Human calcineurin A2は、DDBJデータベースACCESSION:M29551、VERSION:M29551.1、の配列を参考に、5’-ggatccctcgagaccATGGCCGCCCCGGAGCCGGCCCGG-3’(Bam HIとXho I制限酵素サイトを付加、小文字)(配列番号1)と5’-tctagaacgcgtaCTGGGCAGTATGGTTGCCCGTCCC-3’(Xba IとMlu Iの制限酵素サイトを付加、小文字)(配列番号2)のプライマーを用いてPCRを行った。PCR産物をTA-cloning vector pCR IIにてクローニングし、DNAシーケンサーにて配列を確認した。
【0060】
同様にcalcineurin Bは、ACCESSION:M30773、VERSION:M30773.1、の配列を参考に、5’-ggatccctcgagaccATGGGAAATGAGGCAAGTTAT-3’(Bam HIとXho I制限酵素サイトを付加、小文字)(配列番号3)と5’-tctagaacgcgtaCACATCTACCACCATCTTTTTGTG-3’(Xba IとMlu Iの制限酵素サイトを付加、小文字)(配列番号4)のプライマーを用いてPCRを行った。PCR産物をTA-cloning vector pCR IIにてクローニングし、DNAシーケンサーにて配列を確認した。
【0061】
次にcalcineurin A2のC末端およびcalcineurin BのC末端にMlu Iでフレームをあわせて、それぞれEGFP遺伝子およびDsRed遺伝子を組み込み、EGFPの融合タンパク質およびDsRed monomerの融合タンパク質を細胞で発現させるため、pEGFP-N1ベクター(クロンテック)およびpDsRed-Monomer-N1ベクター(クロンテック)のマルチクローニングサイトにMlu Iサイトを入れる操作を、5’-ATTCTGCAGtacgcgtTACCGCGGGCC-3’(配列番号5)と5’-GGCCCGCGGTAacgcgtaCTGCAGAAT-3’(配列番号6)のプライマーを用いQuikChange Site-Directed Mutagenesis Kit(STRATAGENE)を利用して取扱説明書に従い行った。作製したベクターをMlu IとXho I制限酵素で消化し、pCR IIにてクローニングしたcalcineurin A2または、calcineurin B遺伝子を、Mlu IとXho I制限酵素で消化し、ligatio Kit(TAKARA)を用いて組み込み、「calcineurin A2のC末端にEGFPが融合したタンパク質を発現するプラスミド」および「calcineurin BのC末端にDsRed monomerが融合したタンパク質を発現するプラスミド」を作製した。
【0062】
calcineurin BのN末端にDsRed monomerを融合したタンパク質を発現させるプラスミドについては、まずpDsRed mono N1ベクターのXba Iサイトのメチル化を取り除き制限酵素Xba Iで切断できるよう、dam-の大腸菌IVN110 (invitrogen)でpDsRed-Monomer-C1ベクター(クロンテック)を増やした。このベクターをBamHIとXba I制限酵素で消化し、pCR IIにてクローニングしたcalcineurin B遺伝子をBamHIとXba I制限酵素で消化し、ligatio Kit(TAKARA)を用いて組み込み、「calcineurin BのN末端にDsRed monomerが融合したタンパク質を発現するプラスミド」を作製した。
【0063】
プラスミドの神経培養細胞neuro2a(ATCC)への導入は、Effectene(エフェクティン)トランスフェクションキット(キアゲン)を用い、キットプロトコールに従って行った。目的プラスミド(0.1μg/μl)1μlに、エンハンサー、その後エフェクティンを添加し、室温でインキュベートし、D-MEMを添加し、これを細胞に添加した。最終プラスミド濃度は、0.1μg/5×103細胞であった。
【0064】
このようにして、「EGFPでC末端において標識されたカルシニューリンAとDsRed monomerで標識されたカルシニューリンBから構成される蛍光標識カルシニューリンを発現する細胞」を作成した。
【0065】
[2]過剰カルシウムイオンの存在下におけるカルシニューリン分解の検出・定量
本実施例では、カルシウム代謝異常の細胞モデルにおけるカルシニューリン分解の検出・定量を行った。その測定手順の概要を図3に示す。
【0066】
上述のとおり作成された細胞(蛍光タンパク質融合カルシニューリンA、Bを共発現させた細胞)に、グルタミン酸受容体刺激として高濃度グルタミン酸(500μM)を15分間添加した。ここで、グルタミン酸受容体刺激は、細胞内のカルシウムイオン濃度を上昇させる。グルタミン酸を添加後、細胞を洗浄してもとの培養液に戻した後、12時間以上経過してから(たとえば24時間後)、共焦点蛍光顕微鏡とFCCS装置を合わせたシステムを用いて、細胞の蛍光像観察とFCCS測定を行った。
【0067】
グルタミン酸未添加のコントロール細胞に比べて、いくつかの細胞で形状変化が見られ、それらについてFCCS測定を行い、コントロールである正常細胞と比較した。
【0068】
FCCS測定は488nm、543nmの2波長レーザーを同時に細胞に照射し、GFP及びmdsRedそれぞれの蛍光シグナルを検出し、相互相関関数を求めた。相互相関値はGFPの自己相関関数で割ることによって規格化したものとした。
【0069】
測定結果(相互相関値)を図4に示す。
【0070】
図4は、左から順に、グルタミン酸(図中、Glutと表記する)未添加のコントロールNeuro2a細胞(N=6)、グルタミン酸で処理したNeuro2a細胞(N=6)、カルパインインヒビター(図中、CalpIと表記する)で処理したNeuro2a細胞(N=6)、グルタミン酸とカルパインインヒビターで処理したNeuro2a細胞(N=6)の相互相関値を示す。
【0071】
カルパインインヒビター(Sigma)は、カルシニューリンAの分解に関与する酵素の阻害剤であり、細胞をグルタミン酸で刺激する前に、25μMの濃度で30分間(グルタミン酸刺激前)、細胞に添加した。
【0072】
グルタミン酸刺激無しのコントロール細胞では、相互相関値は約0.3であり、これは、計測されたGFP分子のうち30%がmdsRedと結合して同一の挙動をとることを示す。
【0073】
グルタミン酸刺激無しのコントロール細胞に比べてグルタミン酸刺激の細胞では顕著に相互相関値の低下が見られた。これは、GFP及びmdsRedの蛍光シグナルが同一の挙動を示す割合が低下し、相互相関性が低下したこと、すなわちカルシニューリンが分解されたことを示す。
【0074】
図4において、「グルタミン酸未添加のコントロールNeuro2a細胞の相互相関値」と「グルタミン酸で処理したNeuro2a細胞の相互相関値」との差は、p<0.001と有意であり、グルタミン酸刺激の細胞においてカルシニューリンが分解されたと判断することができる。
【0075】
「グルタミン酸未添加のNeuro2a細胞の相互相関値」=0.305±0.016(平均値±SE、N=15)
「グルタミン酸で処理したNeuro2a細胞の相互相関値」=0.223±0.016(平均値±SE、N=15)
t=3.73 t検定 p<0.001。
【0076】
また図4において、「グルタミン酸未添加のコントロールNeuro2a細胞の相互相関値」と「グルタミン酸で処理したNeuro2a細胞の相互相関値」との差は、分解されたカルシニューリンの量を反映しているため、これら値を用いて分解されたカルシニューリンの割合を以下のとおり算出することができる。
【0077】
「分解されたカルシニューリンの割合」=[(0.305−0.223)/0.305]=0.27
(ただし、GFPとmdsRedが完全に相関しない場合のネガティブコントロールの相互相関値は0とした。)
一方、カルパインインヒビターにより、グルタミン酸刺激前に細胞を処理した細胞群では、相互相関の低下は見られなかった。これは、カルパインインヒビターが、カルパインによるカルシニューリンの分解を阻害したことを示す。
【0078】
以上より、蛍光標識カルシニューリンを発現する本発明の細胞を用いて、カルシニューリンの分解を検出・定量可能であることが確認された。また、本発明の細胞を用いて、細胞内のカルシウムイオンの増大を検出可能であることが確認された。
【0079】
[3]形状が正常な細胞と異常な細胞におけるカルシニューリン分解の検出・定量
グルタミン酸刺激をした細胞のうち、形状が正常に保たれている細胞と明らかに形状が異常でアポトーシスへ移行していると思われる細胞とで相互相関値を比較した。
【0080】
測定結果(相互相関値)を図5に示す。
【0081】
図5は、形状が異常な細胞において顕著に相互相関値が低下することを示す。図5における「形状が正常な細胞の相互相関値」と「形状が異常な細胞の相互相関値」用いて、分解されたカルシニューリンの割合を以下のとおり算出することができる。
【0082】
「形状が正常な細胞の相互相関値」=0.31±0.02(平均値±SE、N=7)
「形状が異常な細胞の相互相関値」=0.22±0.22(平均値±SE、N=7)
t=3.37 p<0.01
「分解されたカルシニューリンの割合」=[(0.31−0.22)/0.31]=0.29。
【0083】
グルタミン酸刺激では、全てが過剰カルシウムの影響を受けてアポトーシスに進むのではなく、個々の細胞によってその反応が異なる。従来の生化学的な方法では正常、異常細胞の両者を含めた平均値としてしか評価できなかったのに対して、本発明では個々の細胞についてカルシニューリン分解の検出、定量が可能となり、より詳細な代謝過程を追跡することが出来る。
【0084】
以上の結果から、本発明によるFCCS計測によって、細胞内の過剰カルシウムが引き起こした代謝異常によってカルパイン活性が上昇してカルシニューリンAを分解するという過程を個々の細胞でモニターすることが可能となった。
【図面の簡単な説明】
【0085】
【図1】カルシニューリンを介したシグナル伝達を模式的に示す図。
【図2】カルシニューリンが分解される様子を模式的に示す図。
【図3】カルシウム代謝異常モデルをFCCSにより測定する手順を示す図。
【図4】過剰カルシウムイオンの存在下におけるカルシニューリン分解の測定結果を示すグラフ。
【図5】形状が正常な細胞と異常な細胞におけるカルシニューリン分解の測定結果を示すグラフ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞内のカルシニューリンの分解を検出する方法であって、
第一の蛍光物質で標識された、カルパインにより切り離されるカルシニューリンAサブユニットのC末部分と、第二の蛍光物質で標識された、カルシニューリンAサブユニットのN末部分およびカルシニューリンBサブユニットから成る残りの部分とから構成される蛍光標識カルシニューリンを生細胞内で発現させる工程と、
細胞の測定位置を選定し、第一の蛍光物質および第二の蛍光物質の挙動を一分子蛍光分析で測定、解析する工程と、
解析結果に基いて、カルシニューリンが分解されたか否かを判断する工程と
を含む方法。
【請求項2】
前記蛍光標識カルシニューリンが、カルパインにより切り離されるC末部分において第一の蛍光物質で標識されたカルシニューリンAサブユニットと、第二の蛍光物質で標識されたカルシニューリンBサブユニットとから構成されることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記一分子蛍光分析が、蛍光相互相関分析であることを特徴とする、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
細胞内のカルシニューリンの分解を定量的に測定する方法であって、
第一の蛍光物質で標識された、カルパインにより切り離されるカルシニューリンAサブユニットのC末部分と、第二の蛍光物質で標識された、カルシニューリンAサブユニットのN末部分およびカルシニューリンBサブユニットから成る残りの部分とから構成される蛍光標識カルシニューリンを生細胞内で発現させる工程と、
細胞の測定位置を選定し、第一の蛍光物質および第二の蛍光物質の挙動を一分子蛍光分析で測定、解析する工程と、
解析結果に基いて、分解されたカルシニューリンの量を算出する工程と
を含む方法。
【請求項5】
細胞内で異常なカルシウムイオンの増大が起こっているか否かを検査する方法であって、
第一の蛍光物質で標識された、カルパインにより切り離されるカルシニューリンAサブユニットのC末部分と、第二の蛍光物質で標識された、カルシニューリンAサブユニットのN末部分およびカルシニューリンBサブユニットから成る残りの部分とから構成される蛍光標識カルシニューリンを生細胞内で発現させる工程と、
細胞の測定位置を選定し、第一の蛍光物質および第二の蛍光物質の挙動を一分子蛍光分析で測定、解析する工程と、
解析結果に基いて、カルシニューリンが分解されていると判断された場合、細胞内で異常なカルシウムイオンの増大が起こっていると判定し、カルシニューリンが分解されていないと判断された場合、細胞内で異常なカルシウムイオンの増大が起こっていないと判定する工程と
を含む方法。
【請求項6】
細胞のアポトーシスを予測する方法であって、
第一の蛍光物質で標識された、カルパインにより切り離されるカルシニューリンAサブユニットのC末部分と、第二の蛍光物質で標識された、カルシニューリンAサブユニットのN末部分およびカルシニューリンBサブユニットから成る残りの部分とから構成される蛍光標識カルシニューリンを生細胞内で発現させる工程と、
細胞の測定位置を選定し、第一の蛍光物質および第二の蛍光物質の挙動を一分子蛍光分析で測定、解析する工程と、
解析結果に基いて、カルシニューリンが分解されていると判断された場合、細胞のアポトーシスが起こると推定し、カルシニューリンが分解されていないと判断された場合、細胞のアポトーシスが起こらないと推定する工程と
を含む方法。
【請求項7】
アポトーシス抑制物質のスクリーニング方法であって、
第一の蛍光物質で標識された、カルパインにより切り離されるカルシニューリンAサブユニットのC末部分と、第二の蛍光物質で標識された、カルシニューリンAサブユニットのN末部分およびカルシニューリンBサブユニットから成る残りの部分とから構成される蛍光標識カルシニューリンを生細胞内で発現させる工程と、
前記工程により得られた細胞(被検細胞)を、カルパインの分解を引き起こす条件下で被検物質とともに培養し、一方で前記工程により得られた細胞(コントロール細胞)を、カルパインの分解を引き起こす条件下で培養する工程と、
前記被検細胞と前記コントロール細胞のそれぞれについて、細胞の測定位置を選定し、第一の蛍光物質および第二の蛍光物質を一分子蛍光分析で測定し、測定結果を解析する工程と、
前記被検細胞におけるカルシニューリンの分解が、前記コントロール細胞におけるカルシニューリンの分解より減少している場合に、前記被検物質をアポトーシス抑制物質と判定する工程と
を含む方法。
【請求項8】
アポトーシス誘因物質のスクリーニング方法であって、
第一の蛍光物質で標識された、カルパインにより切り離されるカルシニューリンAサブユニットのC末部分と、第二の蛍光物質で標識された、カルシニューリンAサブユニットのN末部分およびカルシニューリンBサブユニットから成る残りの部分とから構成される蛍光標識カルシニューリンを生細胞内で発現させる工程と、
前記工程により得られた細胞(被検細胞)を被検物質の存在下で培養し、一方で前記工程により得られた細胞(コントロール細胞)を被検物質の非存在下で培養する工程と、
前記被検細胞と前記コントロール細胞のそれぞれについて、細胞の測定位置を選定し、第一の蛍光物質および第二の蛍光物質を一分子蛍光分析で測定し、測定結果を解析する工程と、
前記被検細胞におけるカルシニューリンの分解が、前記コントロール細胞におけるカルシニューリンの分解より増大している場合に、前記被検物質をアポトーシス誘因物質と判定する工程と
を含む方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−106230(P2009−106230A)
【公開日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−283807(P2007−283807)
【出願日】平成19年10月31日(2007.10.31)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】