細胞凝集塊誘導ペプチド、及びその細胞凝集塊誘導ペプチドを用いた細胞凝集塊の形成方法
【課題】細胞培養系に添加するだけで、細胞凝集塊を形成することができる、細胞凝集塊誘導用ペプチド、及びその細胞凝集塊誘導用ペプチドを用いた細胞凝集塊の形成方法を提供することを課題とする。
【解決手段】リシンとプロリンを、次式(1)で示すように構成繰り返し単位として細胞凝集塊誘導用ペプチドに含むことを特徴とする。
(Lys−Pro)n ・・・(1)
(ただし、nは9以上、30以下の整数である。)
【解決手段】リシンとプロリンを、次式(1)で示すように構成繰り返し単位として細胞凝集塊誘導用ペプチドに含むことを特徴とする。
(Lys−Pro)n ・・・(1)
(ただし、nは9以上、30以下の整数である。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞凝集塊誘導ペプチド、及びその細胞凝集塊誘導用ペプチドを用いた細胞凝集塊の形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、ディッシュやマルチウェルプレート等の一般的な培養容器を使用して細胞を培養する場合、細胞は容器表面に接着・伸展し、敷石状に増殖するが、そのような培養方法では基材からの影響や細胞間のインタラクションが不足することによって、本来その細胞が生体内において有している機能を発現しない場合がある。その様な機能を発現させるために、三次元培養と呼ばれる、細胞をより生体内に近い凝集塊(スフェロイド)の状態にして培養する方法が知られている。
【0003】
従来、このような三次元培養により細胞凝集塊を誘導する技術としては、下記非特許文献1に記載されているように、ハンギングドロップ法、容器底部の非接着表面を用いた方法、旋回培養法、3次元スカフォールド法、遠心法等が採用されている。ハンギングドロップ法は、水滴状に垂れ下げた培養液の中で細胞を培養する方法であり、マルチウェルプレート等の蓋の各ウェル上に細胞を含む培養懸濁液を液滴となるようにスポッティングし、マルチウェルプレートにかぶせて培養する方法である。このようなハンギングドロップ法は、たとえば下記非特許文献2、3等に記載されている。
【0004】
また、容器底部の非接着表面を用いた方法は、培養ディッシュ等の容器底部に超親水性処理を施して非接着表面とする技術であり、そのような技術として、たとえば下記特許文献1のような特許出願がなされている。
【0005】
その他、旋回培養法、3次元スカフォールド法、遠心法等の方法も採用されているが、上記ハンギングドロップ法や容器底部の非接着表面を用いた方法も含め、これら各種の方法は、いずれも物理的な手法であるため、細胞凝集塊の作成方法の検討や、細胞凝集塊の大きさ等をコントロールすることが困難であった。いずれにしても、化学物質を添加するだけで細胞凝集塊を作成する手法は未だに見出されていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】R.−Z.Lin,et.al.Biotechno.,J.3,1172−1184(2008)
【非特許文献2】EXPERIMENTAL CELL RESEARCH,200,326−332(1992)
【非特許文献3】Keller,J.Physiol.(Lond)168:131−139,1998
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特表2001−502959号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、このような問題点を解決するためになされたもので、細胞培養系に添加するだけで、細胞凝集塊を形成することができる、細胞凝集塊誘導用ペプチドを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、このような課題を解決するためになされたもので、リシンとプロリンを、次式(1)で示すように構成繰り返し単位として含むことを特徴とする細胞凝集塊誘導用ペプチドを提供するものである。
(Lys−Pro)n ・・・(1)
(ただし、nは9以上、30以下の整数である。)
【0010】
また本発明は、リシンとプロリンを、次式(2)で示すように構成繰り返し単位として含むことを特徴とする細胞凝集塊誘導用ペプチドをも提供するものである。
(Lys−Pro−(H−Lys−Pro)mLys−Pro)n ・・・(2)
(ただし、mは2以上、10以下の整数、nは3以上、30以下の整数である。)
【0011】
さらに本発明は、上記(1)式のような細胞凝集塊誘導用ペプチド、又は上記(2)式のような細胞凝集塊誘導用ペプチドを、培養細胞の培地に添加して細胞凝集塊を形成することを特徴とする細胞凝集塊の形成方法を提供するものである。
【0012】
さらに本発明は、リシンを、次式(3)で示すように構成繰り返し単位として含む細胞凝集塊誘導用ペプチドを、培養細胞の培地に添加して細胞凝集塊を形成することを特徴とする細胞凝集塊の形成方法を提供するものである。
(Lys)n ・・・(3)
(ただし、nは9以上、30以下の整数である。)
【発明の効果】
【0013】
本発明によって、上記のようなペプチドを細胞培養液に添加するだけで、細胞凝集塊を容易に作成することが可能となる効果がある。
【0014】
また、上記のようなペプチドの濃度を変化させることで細胞凝集塊の大きさを調整することができるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】一例としての合成ペプチドについてのMALDI−TOF−MSのチャート。
【図2】他の例の合成ペプチドについてのMALDI−TOF−MSのチャート。
【図3】さらに他の例の合成ペプチドについてのMALDI−TOF−MSのチャート。
【図4】一例としての合成ペプチドを組織培養用プレートに添加した顕微鏡写真。
【図5】他の例の合成ペプチドを組織培養用プレートに添加した顕微鏡写真。
【図6】さらに他の例の合成ペプチドを組織培養用プレートに添加した顕微鏡写真。
【図7】一例としての合成ペプチドを添加した組織培養用プレートのウェルで形成した細胞凝集塊の個数を示すグラフ。
【図8】一例としての合成ペプチドを添加した浮遊培養用プレートのウェルで形成した細胞凝集塊の個数を示すグラフ。
【図9】他の例の合成ペプチドを添加した組織培養用プレートのウェルで形成した細胞凝集塊の個数を示すグラフ。
【図10】他の例の合成ペプチドを添加した浮遊培養用プレートのウェルで形成した細胞凝集塊の個数を示すグラフ。
【図11】さらに他の例の合成ペプチドを添加した組織培養用プレートのウェルで形成した細胞凝集塊の個数を示すグラフ。
【図12】さらに他の例の合成ペプチドを添加した浮遊培養用プレートのウェルで形成した細胞凝集塊の個数を示すグラフ。
【図13】一例としての合成ペプチドを添加した組織培養用プレートのウェルで形成した細胞凝集塊の大きさを示すグラフ。
【図14】他の例の合成ペプチドを添加した組織培養用プレートのウェルで形成した細胞凝集塊の大きさを示すグラフ。
【図15】さらに他の例の合成ペプチドを添加した組織培養用プレートのウェルで形成した細胞凝集塊の大きさを示すグラフ。
【図16】一例としての合成ペプチドを添加した組織培養用プレートのウェルで形成した細胞凝集塊の大きさの分布を示すグラフ(ペプチドの濃度1.0mg/ml)。
【図17】一例としての合成ペプチドを添加した組織培養用プレートのウェルで形成した細胞凝集塊の大きさの分布を示すグラフ(ペプチドの濃度0.5mg/ml)。
【図18】一例としての合成ペプチドを添加した組織培養用プレートのウェルで形成した細胞凝集塊の大きさの分布を示すグラフ(ペプチドの濃度0.2mg/ml)。
【図19】一例としての合成ペプチドを添加した組織培養用プレートのウェルで形成した細胞凝集塊の大きさの分布を示すグラフ(ペプチドの濃度0.1mg/ml)。
【図20】生死判別試験の方法を示す概略平面図。
【図21】生死判別試験の方法を示す概略斜視図。
【図22】細胞凝集塊の生死判別試験の結果を示す播種直後の顕微鏡写真。
【図23】細胞凝集塊の生死判別試験の結果を示す2日後の顕微鏡写真。
【図24】細胞凝集塊の生死判別試験の結果を示す4日後の写真。
【図25】細胞凝集塊の生死判別試験の結果を示す6日後の写真。
【図26】生死判別試験の他の方法を示す概略平面図。
【図27】生死判別試験の他の方法を示す概略斜視図。
【図28】細胞凝集塊の生存率を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の細胞凝集塊誘導用ペプチドは、上述のように、リシンとプロリンを、次式(1)で示すように構成繰り返し単位として含むものである。
(Lys−Pro)n ・・・(1)
【0017】
ここで、nは9以上、30以下の整数である。すなわち、リシンとプロリンの構成繰り返し単位の重合度が9以上、30以下であることを意味する。「9以上」としたのは、9未満のペプチドでは、細胞凝集塊を形成することができると認められないからである。一方、30以下としたのは、30を超えるペプチドの合成が難しいと認められ、また細胞凝集塊を形成することができるか定かではないからである。
【0018】
また本発明の他の細胞凝集塊誘導用ペプチドは、リシンとプロリンを、次式(2)で示すように構成繰り返し単位として含むものである。
(Lys−Pro−(H−Lys−Pro)mLys−Pro)n ・・・(2)
【0019】
ここで、mは2以上、10以下の整数であり、nは3以上、30以下の整数である。すなわち、枝分かれしたH−Lys−Proの構成繰り返し単位の重合度が2以上、10以下であることを意味し、Lys−Pro−(H−Lys−Pro)mLys−Proの全体の構成繰り返し単位の重合度が3以上、30以下であることを意味する。かかる範囲の重合度のものが、細胞凝集塊を形成することができると認められるからである。
【0020】
さらに本発明は、上記(1)式のような細胞凝集塊誘導用ペプチド、又は上記(2)式のような細胞凝集塊誘導用ペプチドを、培養細胞の培地に添加して細胞凝集塊を形成する細胞凝集塊の形成方法を提供するものである。
【0021】
さらに本発明は、リシンを、次式(3)で示すように構成繰り返し単位として含む細胞凝集塊誘導用ペプチドを、培養細胞の培地に添加して細胞凝集塊を形成する細胞凝集塊の形成方法を提供するものである。
(Lys)n ・・・(3)
【0022】
ここで、nは9以上、30以下の整数である。すなわち、リシンの構成繰り返し単位の重合度が9以上、30以下であることを意味する。「9以上」としたのは、9未満のペプチドでは、細胞凝集塊を形成することができると認められないからである。一方、30以下としたのは、30を超えるペプチドの合成が難しいと認められ、また細胞凝集塊を形成することができるか定かではないからである。
【0023】
上記のような細胞凝集塊の形成方法に用いる培養細胞の培地の種類は特に限定されるものではないが、たとえばウシ胎児血清を含有させたMEM培地のようなものを用いることができる。
【0024】
また、上記のようなペプチドの合成方法は特に限定されるものではなく、一般的な固相合成方法や液相合成方法を任意に用いることができる。たとえば、固相合成方法の一般的な工程は次のとおりである。
【0025】
保護基でN末端の保護されたアミノ酸(保護アミノ酸)を、固相担体に、該保護アミノ酸のC末端で、リンカーを介して結合させる。次に、未反応の保護アミノ酸、すなわち担体に結合していない保護アミノ酸を除去する。次いで、担体に結合された保護アミノ酸が担体から遊離しない条件で、保護アミノ酸の保護基を除去する。別途、担体に結合されたアミノ酸と結合させるアミノ酸のN末端を保護基で保護した第2の保護アミノ酸を調製しておく。第2の保護アミノ酸を担体に結合したアミノ酸に添加し、担体に結合したアミノ酸のN末端と第2の保護アミノ酸のC末端を縮合する。次に、未反応の第2の保護アミノ酸を除去し、次いで、第2の保護アミノ酸の保護基を除去する。保護基でN末端の保護された第3のアミノ酸を添加して、第2のアミノ酸のN末端と第3の保護アミノ酸のC末端を縮合する。この操作を繰り返し、担体と結合した所望のアミノ酸配列を有するペプチドを合成する。このペプチドを担体から分離することによって所望のペプチドが得られる。
【0026】
固相担体としては、たとえばスチレン樹脂、アクリルアミド樹脂、ポリエチレングリコール−アクリルアミド複合樹脂、ポリオキシエチレングラフテッドスチレン樹脂等が例示されるが、これらに限定されない。これらはジビニルベンゼンで架橋されていてもよく、また、1種単独若しくは2種以上組み合わせてもよい。
【0027】
またリンカーとしては、たとえばクロロメチル、ヒドロキシメチル、ベンズヒドリルアミン、アミノメチル、4−ベンジルオキシベンジルアルコール、4−メチルベンズヒドリルアミン、フェニルアセトアミドメチル、4−ヒドロキシメチルフェニルアセトアミドメチル、4−(2',4'−ジメトキシフェニル−ヒドロキシメチル)フェノキシ、2−クロロトリチルクロライド樹脂、4−ヒドロキシメチルフェノキシ酢酸(HMPA)、4−ヒドロキシメチル安息香酸(HMBA)、2,4−ジメトキシ−4−ヒドロキシベンゾフェノン等が例示されるが、これらに限定されない。これらは1種単独でも又は2種以上組み合わせてもよい。
【0028】
さらにアミノ酸又はペプチドのアミノ基の保護基としては、たとえば、ベンジルオキシカルボニル(Z)、ターシャリーブトキシカルボニル(Boc)、ターシャリーアミルオキシカルボニル、イソボルニルオキシカルボニル、4−メトキシベンジルオキシカルボニル、2−クロロベンジルオキシカルボニル(Cl−Z)、2−ブロモベンジルオキシカルボニル(Br−Z)、アダマンチルオキシカルボニル、トリフルオロアセチル、フタリル、ホルミル、2−ニトロフェニルスルフェニル、ジフェニルホスフィノチオイル、9−フルオレニルメチルオキシカルボニル(Fmoc)等が例示される。
【0029】
またカルボキシル基の保護基としては、たとえばメチル、エチル、プロピル、ブチル、ターシャリーブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル、シクロオクチル等のアルキル基を有するアルキルエステル、ベンジルエステル、2−ニトロベンジルエステル、4−メトキシベンジルエステル、4−クロロベンジルエステル、ベンズヒドリルエステル、フェナシルエステル、ベンジルオキシカルボニルヒドラジド、ターシャリーブトキシカルボニルヒドラジド、トリチルヒドラジド等が例示される。
【0030】
一方、液相合成方法では、生成するペプチドを保持するための固相担体は利用しないが、保護アミノ酸及び/又は保護ペプチド以外の試薬(例えば縮合剤、塩基等)を樹脂に保持させた形態で試薬を利用することがあり、このような合成方法も本発明で用いることができる。アミノ基の保護基やカルボキシル基の保護基には、上記固相合成と同様のものを用いることができる。
【実施例】
【0031】
以下、本発明の実施例について説明する。
(合成例1)
本合成例では、固相合成法によって、リシンとプロリンを構成繰り返し単位とするペプチドを合成した。固相合成には、アミノ酸としてN−α−(9−フルオレニルメトキシカルボニル)−L−プロリン(Fmco−Pro−OH)[渡辺化学工業株式会社製]、及びN−α−(9−フルオレニルメトキシカルボニル)−O−ブトキシカルボニル−L−リシン(Fmco−Lys(Boc)−OH)[渡辺化学工業株式会社製]を用いた。
また、アミノ酸の保護基には、9−フルオレニルメトキシカルボニル(Fmco)を用いた。
さらに、不溶性樹脂担体としては、N−α−(9−フルオレニルメトキシカルボニル)−O−ブトキシカルボニル−L−プロリントリエチルアミドメチルエステルポリエチレングリコールハンドルポリスチレン(Fmco−Pro−TrtA−PEG Resin)[渡辺化学工業株式会社製]を用いた。
さらに縮合剤としては、4−(4,6−ジメトキシ−1,3,5−トリアジン−2−イル)−4−メチルモルホリウムクロライド(DMT−MM)を用い、その縮合剤の合成原料としては、炭酸水素ナトリウム[シグマアルドリッチジャパン株式会社製]、塩化シアヌル[東京化成工業株式会社製]、及びN−メチルモルフォリン[シグマアルドリッチジャパン株式会社製]を用いた。
さらに、保護基除去剤としてはピペリジン[シグマアルドリッチジャパン株式会社製]を用い、樹脂の膨潤及び切り出しには、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)[和光純薬株式会社製]を用いた。
さらに脱保護、脱樹脂反応には、トリフルオロ酢酸(TFA)[渡辺化学工業株式会社製]を用いた。
分離、精製用の担体としては、セファデックスG−25M PD−10カラム[GEヘルスケア社製]を用いた。
【0032】
(試験例1)
合成例1で合成したペプチドについて、マトリックス支援レーザー脱イオン化法(MALDI:Matrix Assisted Laser Desorption Ionization)と飛行時間型(TOF:Time Of Flight)質量分析計(MS)を組み合わせたMALDI−TOF−MSを用いて質量分析を行った。
【0033】
MALDI−TOF−MSとしては、株式会社島津製作所社製のAXIMA−CFRを用いた。MALDI−TOF−MSのマトリックスには、CHCA(α−シアノ−4−ヒドロキシ−けい皮酸)を用い、カチオン化剤にはトリフルオロ酢酸ナトリウムを用いた。
【0034】
質量分析の結果を図1に示す。図1からも明らかなように、〔M+Na〕+のピークが942.3の位置に現れ、〔M+H〕+のピークが920.4の位置に現れた。一方、上記(1)式の(Lys−Pro)nにおけるnが4の場合の(Lys−Pro)4の式量は、919.16である。図1のピークの位置が、(Lys−Pro)4の式量とほぼ一致することから、上記合成例1で合成されたペプチドが(Lys−Pro)4であることが確認できた。
【0035】
(合成例2)
本合成例では、固相合成法によって、リシンとプロリンを構成繰り返し単位とする別のペプチドを合成した。アミノ酸、不溶性樹脂担体、縮合剤及びその合成原料、保護基除去剤、樹脂の膨潤及び切り出しの薬剤、脱保護、脱樹脂反応の薬剤、及び分離、精製用の担体には、上記合成例1と同じものを用いた。
【0036】
(試験例2)
合成例2で合成したペプチドについて、上記試験例1と同じMALDI−TOF−MSを用いて質量分析を行った。マトリックスやカチオン化剤も上記試験例1と同じものを用いた。
【0037】
質量分析の結果を図2に示す。図2からも明らかなように、〔M+H〕+のピークが1821.5の位置に現れ、〔M+K〕+のピークが1858.8の位置に現れ、
〔M+Na〕+のピークが1842.9の位置に現れた。一方、上記(1)式の(Lys−Pro)nにおけるnが8の場合の(Lys−Pro)8の式量は、1820.32である。図2のピークの位置が、(Lys−Pro)8の式量とほぼ一致することから、上記合成例2で合成されたペプチドが(Lys−Pro)8であることが確認できた。
【0038】
(合成例3)
本合成例では、液相合成法によって、リシンとプロリンを構成繰り返し単位とする、さらに別のペプチドを合成した。液相合成には、アミノ酸としてN−α−tert−ブトキシカルボニル−L−プロリン(Boc−Pro−OH)[渡辺化学工業株式会社製]、及びN−α−tert−ブトキシカルボニル−O−塩化ベンジルオキシカルボニル−L−リシン(Boc−Lys(Z−Cl)−OH)[渡辺化学工業株式会社製]を用いた。
また液相合成のアミノ基側の保護基にはtert−ブトキシカルボニルを用い、カルボキシル基側の保護基にはフェナシルエステル(Pac)を用いた。
さらに縮合剤としては、4−(4,6−ジメトキシ−1,3,5−トリアジン−2−イル)−4−メチルモルホリウムクロライド(DMT−MM)を用い、その縮合剤の合成原料としては、炭酸水素ナトリウム[シグマアルドリッチジャパン株式会社製]、塩化シアヌル[東京化成工業株式会社製]、及びN−メチルモルフォリン[シグマアルドリッチジャパン株式会社製]を用いた。
さらに、カルボキシル基側の保護基除去剤としては酢酸及び亜鉛を用い、アミノ基側の保護基除去剤としては、4mol/l−HCl/ジオキサン(4mol/l−HCl/DIO[渡辺化学工業株式会社製]を用いた。
さらに、脱保護反応には、トリフルオロ酢酸(TFA)[渡辺化学工業株式会社製]を用いた。
【0039】
(試験例3)
合成例3で合成したペプチドについて、上記試験例1、2と同じMALDI−TOF−MSを用いて質量分析を行った。マトリックスやカチオン化剤も上記試験例1と同じものを用いた。
【0040】
質量分析の結果を図3に示す。図3からも明らかなように、nが8〜16の範囲でピークが現れ、Lys−Proを繰り返し単位とする重合度が8〜16のペプチドであるpoly(Lys−Pro)が合成されていることが確認できた。
【0041】
(合成例4)
本合成例では、液相合成法によって、リシンとプロリンを構成繰り返し単位とする、さらに別のペプチドを合成した。上記合成例1〜3では、直鎖状のペプチドを合成したのに対し、本合成例では、枝分かれしたペプチドであるbranched(Lys−Pro−(H−Lys−Pro)mLys−Pro)n〔以下、単にbpoly(Lys−Pro)と略す〕を合成した。液相合成のアミノ基側の保護基、カルボキシル基側の保護基、縮合剤及びその合成原料、カルボキシル基側の保護基除去剤、アミノ基側の保護基除去剤、脱保護反応の薬剤には、上記合成例3と同じものを用いた。
【0042】
(合成例5)
本合成例では、液相合成法によって、リシンを構成繰り返し単位とするペプチドであるpoly(Lys)を合成した。液相合成のアミノ酸には、N−α−tert−ブトキシカルボニル−O−塩化ベンジルオキシカルボニル−L−リシン(Boc−Lys(Boc)−OH)[渡辺化学工業株式会社製]を用いた。また保護基にはフェナシルエステル(Pac)を用い、保護基除去剤には酢酸及び亜鉛を用いた。さらに縮合剤及びその合成原料、脱保護反応の薬剤には、上記合成例3、4と同じものを用いた。
【0043】
(合成例6)
本合成例では、液相合成法によって、アルギニンを構成繰り返し単位とするペプチドであるpoly(Arg)を合成した。液相合成のアミノ酸には、N−α−tert−ブトキシカルボニル−O−メシチレンスルフォニル−L−アルギニン(Boc−Arg(Mts)−OH)[渡辺化学工業株式会社製]を用いた。また保護基にはフェナシルエステル(Pac)を用い、保護基除去剤には酢酸及び亜鉛を用いた。さらに縮合剤及びその合成原料、脱保護反応の薬剤には、上記合成例3〜5と同じものを用いた。
【0044】
(合成例7)
本合成例では、液相合成法によって、アルギニンとプロリンを構成繰り返し単位とするペプチドであるpoly(Arg−Pro)を合成した。液相合成のアミノ酸には、N−α−tert−ブトキシカルボニル−L−プロリン(Boc−Pro−OH)[渡辺化学工業株式会社製]、及びN−α−tert−ブトキシカルボニル−O−メシチレンスルフォニル−L−アルギニン(Boc−Arg(MTs)−OH)[渡辺化学工業株式会社製]を用いた。
また液相合成のアミノ基側の保護基にはtert−ブトキシカルボニルを用い、カルボキシル基側の保護基にはフェナシルエステル(Pac)を用いた。さらに、カルボキシル基側の保護基除去剤としては酢酸及び亜鉛を用い、アミノ基側の保護基除去剤としては、4mol/l−HCl/ジオキサン(4mol/l−HCl/DIO[渡辺化学工業株式会社製]を用いた。
さらに脱保護反応の薬剤には、トリフルオロメタンスルホン酸(TFMSA)[渡辺化学工業株式会社製]を用いた。
さらに縮合剤及びその合成原料、脱保護反応の薬剤には、上記合成例3〜6と同じものを用いた。
【0045】
(調製例1)
マウス由来繊維芽細胞(L929)を、10重量%のウシ胎児血清(FBS)を含有させたMEM培地で培養し、さらにトリプシン処理を行った。トリプシン/EDTA溶液の除去を行い、無血清MEM培地で再懸濁させ、2.5×104cell/mlに細胞数を調整した培養液を調製した。L929は理化学研究所製のものを用い、FBSはハイクローン社製のものを用い、MEM培地は日水製薬製のイーグルMEMを用い、トリプシンはMPバイオメディカル社製のTRYPSIN 1:250 VIRUSFREEを用い、EDTA(エチレンジアミン四酢酸四ナトリウム)は片山化学工業株式会社製のものを用いた。
【0046】
(調製例2)
また、上記合成例1〜7で合成したペプチドについて、1.0mg/ml、0.5mg/ml、0.2mg/ml、及び0.1mg/mlの4種類の濃度の調製液を調製し、計28種類の調製液の試料を準備した。分散媒としては、水とpH7.4に調整したリン酸緩衝液を用いた。
【0047】
(試験例4)
上記調製例1のように調整した培養液200μl(5.0×104cell/well)を、96ウェルプレートの各ウェルに播種し、さらに上記調製例2のように調整した7種類のペプチドの計28種類の試料を、96ウェルプレートの各ウェルにそれぞれ50μlずつ添加した。
【0048】
96ウェルプレートとしては、プレート底部に細胞が接着する一般の細胞培養基盤とした組織培養用プレートと、プレート底部に細胞が接着しにくい細胞培養基盤とした浮遊培養用プレートとの2種を用い、細胞の接着、伸展が生物活性に及ぼす影響を検討した。一方、上記調製例2のように調整した計28種類の試料をウェルに添加していないものをネガティブコントロールとした。組織培養用プレートとしてはIWAKI社製のものを用い、浮遊培養用プレートとしては住友ベークライト株式会社製の浮遊培養用マルチプレートを用いた。
【0049】
上記のような調製後、24時間毎に形態を顕微鏡(位相差顕微鏡)によって観察した。7日後の観察結果の顕微鏡写真を図4〜6に示す。図4は、濃度を1.0mg/mlに調整した(Lys−Pro)4を組織培養用プレートに添加したものの顕微鏡写真である。図4からも明らかなように、濃度1.0mg/mlの(Lys−Pro)4を組織培養用プレートに添加したものの場合には、7日後においても、細胞凝集塊が認められなかった。これは、ネガティブコントロールの場合と同様の形態を示していた。
【0050】
また、図で顕微鏡写真を示してはいないが、0.5mg/ml、0.2mg/ml、及び0.1mg/mlの3種の濃度の(Lys−Pro)4を組織培養用プレートに添加したものの場合にも、7日後において細胞凝集塊は認められなかった。さらに、1.0mg/ml、0.5mg/ml、0.2mg/ml、及び0.1mg/mlの4種の濃度の(Lys−Pro)4を浮遊培養用プレートに添加したものの場合にも、7日後において細胞凝集塊は認められなかった。
【0051】
さらに、リシン−プロリンの繰り返し単位の重合度が8である(Lys−Pro)8を1.0mg/ml、0.5mg/ml、0.2mg/ml、及び0.1mg/mlに調製した4種の試料を組織培養用プレートに添加した場合にも7日後において細胞凝集塊は認められず、またこれらを浮遊培養用プレートに添加した場合にも7日後において細胞凝集塊は認められなかった。
【0052】
次に、図5は、濃度を1.0mg/mlに調整したpoly(Arg−Pro)を組織培養用プレートに添加したものの顕微鏡写真である。図5からも明らかなように、濃度1.0mg/mlのpoly(Arg−Pro)を組織培養用プレートに添加したものの場合には、7日後において細胞凝集塊が認められないばかりでなく、細胞毒性を示し、細胞膜に凹凸が観察された。
【0053】
また、図で顕微鏡写真を示してはいないが、0.5mg/ml、0.2mg/ml、及び0.1mg/mlの3種の濃度のpoly(Arg−Pro)を組織培養用プレートに添加したものの場合にも、7日後において細胞凝集塊は認められず、また細胞毒性を示し、細胞膜に凹凸が観察された。さらに、1.0mg/ml、0.5mg/ml、0.2mg/ml、及び0.1mg/mlの4種の濃度のpoly(Arg−Pro)を浮遊培養用プレートに添加したものの場合にも、7日後において細胞凝集塊は認められず、細胞毒性を示し、細胞膜に凹凸が観察された。
【0054】
さらに、poly(Arg)を1.0mg/ml、0.5mg/ml、0.2mg/ml、及び0.1mg/mlに調製した4種の試料を組織培養用プレートに添加した場合にも7日後において細胞凝集塊は認められないばかりか、細胞毒性を示し、細胞膜に凹凸が観察された。またこれらを浮遊培養用プレートに添加した場合にも、7日後において同様に細胞毒性を示し、細胞膜に凹凸が観察された。
【0055】
次に、図6は、濃度を0.5mg/mlに調整したpoly(Lys−Pro)を組織培養用プレートに添加したものの顕微鏡写真である。図6からも明らかなように、濃度0.5mg/mlのpoly(Lys−Pro)を組織培養用プレートに添加した場合にも、7日後において細胞凝集塊の形成が認められた。
【0056】
また、図で顕微鏡写真を示してはいないが、0.5mg/ml、0.2mg/ml、及び0.1mg/mlの3種の濃度のpoly(Lys−Pro)を組織培養用プレートに添加したものの場合にも、7日後において細胞凝集塊の形成が認められた。さらに、1.0mg/ml、0.5mg/ml、0.2mg/ml、及び0.1mg/mlの4種の濃度のpoly(Lys−Pro)を浮遊培養用プレートに添加した場合にも、7日後において細胞凝集塊の形成が認められた。
【0057】
さらに、図で顕微鏡写真を示してはいないが、4種の濃度のbpoly(Lys−Pro)を、それぞれ組織培養用プレート及び浮遊培養用プレートに添加した場合にも、7日後において細胞凝集塊の形成が認められた。
【0058】
さらに、図で顕微鏡写真を示してはいないが、4種の濃度のpoly(Lys)を、それぞれ組織培養用プレート及び浮遊培養用プレートに添加した場合にも、7日後において細胞凝集塊の形成が認められた。
【0059】
〔総括〕
以上の試験例4の結果を総括すると、poly(Lys−Pro)、bpoly(Lys−Pro)、及びpoly(Lys)の場合には、いずれの濃度の場合にも、また組織培養用プレート及び浮遊培養用プレートのいずれの場合にも、細胞凝集塊の形成が認められ、細胞凝集塊を誘導する作用を有することが確認できた。
【0060】
これに対して、(Lys−Pro)4及び(Lys−Pro)8の場合には、いずれの濃度の場合にも、また組織培養用プレート及び浮遊培養用プレートのいずれの場合にも、細胞凝集塊が認められず、ネガティブコントロールの場合と同様の形態を示していた。
【0061】
さらに、poly(Arg−Pro)及びpoly(Arg)の場合には、いずれの濃度の場合にも、また組織培養用プレート及び浮遊培養用プレートのいずれの場合にも、細胞凝集塊が認められないばかりでなく、細胞毒性を示し、細胞膜に凹凸が観察された。
【0062】
(試験例5)
本試験例は、組織培養用プレート、浮遊培養用プレートの各ウェルで形成した細胞凝集塊の個数を計数したものである。
【0063】
細胞凝集塊の個数の計数は、位相差顕微鏡での肉眼観察によって行った。
【0064】
計数の結果を図7〜12に示す。図7〜12において、縦軸には形成された細胞凝集塊の個数(cells/well)が示され、横軸には培養日数が示されている。図7は、poly(Lys−Pro)を添加した組織培養用プレートのウェルで形成した細胞凝集塊の個数を棒グラフで示したものである。1〜7日後にそれぞれ計数した細胞凝集塊の個数が、poly(Lys−Pro)の4種類の濃度1.0mg/ml、0.5mg/ml、0.2mg/ml、0.1mg/mlについてそれぞれ示されている。
【0065】
図7からも明らかなように、1日後には未だ細胞凝集塊の形成は認められなかったが、2日後には、濃度1.0mg/mlのpoly(Lys−Pro)を添加したウェルの細胞凝集塊の個数が100個を超えていた。また3日後には、濃度0.5mg/mlのpoly(Lys−Pro)を添加したウェルの細胞凝集塊の個数が約100個となり、濃度0.2mg/mlのpoly(Lys−Pro)を添加したウェルの細胞凝集塊の個数が100個を超えていた。さらに、4日後には、濃度0.1mg/mlのpoly(Lys−Pro)を添加したウェルの細胞凝集塊の個数が100個を超えた。ただし、いずれの濃度のpoly(Lys−Pro)を添加したウェルの細胞凝集塊の個数は、1〜7日の間、200個を超えることはなかった。
【0066】
図8は、poly(Lys−Pro)を添加した浮遊培養用プレートのウェルで形成した細胞凝集塊の個数を棒グラフで示したものである。図7と同様に、1〜7日後の細胞凝集塊の個数が、poly(Lys−Pro)の4種類の濃度についてそれぞれ示されている。
【0067】
図8からも明らかなように、1日後には未だ細胞凝集塊の形成は認められなかったが、2日後には、1.0mg/mlのpoly(Lys−Pro)を添加したウェルの細胞凝集塊の個数が100個を超え、0.5mg/mlのpoly(Lys−Pro)を添加したウェルの細胞凝集塊の個数は200個を超え、0.2mg/mlのpoly(Lys−Pro)を添加したウェルの細胞凝集塊の個数は200個を超えていた。また0.1mg/mlのpoly(Lys−Pro)を添加したウェルの細胞凝集塊の個数は、6日後に100個を超えた。さらに、1.0mg/mlのpoly(Lys−Pro)を添加したウェルの細胞凝集塊の個数は、6日後には200個を超えた。
【0068】
図7及び図8からも明らかなように、poly(Lys−Pro)を添加したものに関しては、0.1mg/mlの濃度のものを除けば、全体として、浮遊培養用プレートのウェルで形成した細胞凝集塊の個数は、組織培養用プレートのウェルで形成した細胞凝集塊の個数よりも多かった。
【0069】
図9は、bpoly(Lys−Pro)を添加した組織培養用プレートのウェルで形成した細胞凝集塊の個数を棒グラフで示したものである。図7及び図8と同様に、1〜7日後の細胞凝集塊の個数が、4種類の濃度についてそれぞれ示されている。
【0070】
図9からも明らかなように、1日後には未だ細胞凝集塊の形成は認められなかったが、2日後には、濃度1.0mg/mlのbpoly(Lys−Pro)を添加したウェルの細胞凝集塊の個数が100個を超えていた。また3日後には、濃度0.5mg/mlのbpoly(Lys−Pro)を添加したウェルの細胞凝集塊の個数が100個を超え、濃度0.2mg/mlのbpoly(Lys−Pro)を添加したウェルの細胞凝集塊の個数が約100個となった。さらに、5日後には、濃度0.1mg/mlのbpoly(Lys−Pro)を添加したウェルの細胞凝集塊の個数が100個を超えた。
【0071】
図10は、bpoly(Lys−Pro)を添加した浮遊培養用プレートのウェルで形成した細胞凝集塊の個数を棒グラフで示したものである。図7〜9と同様に、1〜7日後の細胞凝集塊の個数が、4種類の濃度についてそれぞれ示されている。
【0072】
図10からも明らかなように、1日後には未だ細胞凝集塊の形成は認められなかったが、2日後には、濃度0.2mg/mlのbpoly(Lys−Pro)を添加したウェルの細胞凝集塊の個数が100個を超えていた。また3日後には、濃度0.5mg/mlのbpoly(Lys−Pro)を添加したウェルの細胞凝集塊の個数が100個を超え、5日後には、濃度1.0mg/mlのbpoly(Lys−Pro)を添加したウェルの細胞凝集塊の個数が約100個となった。
【0073】
図9及び図10からも明らかなように、bpoly(Lys−Pro)を添加したものに関しては、全体として、浮遊培養用プレートのウェルで形成した細胞凝集塊の個数と、組織培養用プレートのウェルで形成した細胞凝集塊の個数とに、さほどの相違はなかった。
【0074】
図11は、poly(Lys)を添加した組織培養用プレートのウェルで形成した細胞凝集塊の個数を棒グラフで示したものである。図7〜図10と同様に、1〜7日後の細胞凝集塊の個数が、4種類の濃度についてそれぞれ示されている。
【0075】
図11からも明らかなように、1日後には未だ細胞凝集塊の形成は認められなかったが、2日後には、濃度0.2mg/mlのpoly(Lys)を添加したウェルの細胞凝集塊の個数が約300個となり、濃度0.1mg/mlのpoly(Lys)を添加したウェルの細胞凝集塊の個数が約100個となった。また3日後には、濃度0.1mg/mlのpoly(Lys)を添加したウェルの細胞凝集塊の個数が300個に近い数値となった。しかし、濃度1.0mg/mlのpoly(Lys)を添加したウェルの細胞凝集塊の個数と、濃度0.5mg/mlのpoly(Lys)を添加したウェルの細胞凝集塊の個数は、1〜7日経過の間に50個を超えることはなかった。
【0076】
図12は、poly(Lys)を添加した浮遊培養用プレートのウェルで形成した細胞凝集塊の個数を棒グラフで示したものである。図7〜図11と同様に、1〜7日後の細胞凝集塊の個数が、4種類の濃度についてそれぞれ示されている。
【0077】
図12からも明らかなように、1日後には未だ細胞凝集塊の形成は認められなかったが、2日後には、濃度1.0mg/ml、及び濃度0.5mg/mlのpoly(Lys)を添加したウェルの細胞凝集塊の個数が200個近くとなり、濃度0.2mg/mlのpoly(Lys)を添加したウェルの細胞凝集塊の個数が200個を超えた。また3日後には、濃度1.0mg/mlのpoly(Lys)を添加したウェルの細胞凝集塊の個数は200個を超え、濃度0.5mg/mlのpoly(Lys)を添加したウェルの細胞凝集塊の個数は約300個となり、濃度0.2mg/mlのpoly(Lys)を添加したウェルの細胞凝集塊の個数は300個を超えた。しかし、濃度0.1mg/mlのpoly(Lys)を添加したウェルの細胞凝集塊の個数は、6日経過後に100個を超えるにとどまった。
【0078】
図11及び図12からも明らかなように、poly(Lys)を添加したものに関しては、1.0mg/mlの濃度のもの、及び0.5mg/mlの濃度のものについては、浮遊培養用プレートのウェルで形成した細胞凝集塊の個数は、組織培養用プレートのウェルで形成した細胞凝集塊の個数よりも非常に多かった。これに対して、0.1mg/mlの濃度のものについては、浮遊培養用プレートのウェルで形成した細胞凝集塊の個数の方が多かった。0.2mg/mlの濃度のものについては、浮遊培養用プレートのウェルで形成した細胞凝集塊の個数と、組織培養用プレートのウェルで形成した細胞凝集塊の個数とに、さほどの相違はなかった。
【0079】
〔総括〕
以上の試験例5の結果を総括すると、poly(Lys−Pro)、及びpoly(Lys)を浮遊培養用プレートのウェルに添加した場合に、細胞凝集塊の個数が多くなり、特にpoly(Lys−Pro)の濃度0.5mg/ml及び0.2mg/mlの濃度のものを浮遊培養用プレートのウェルに添加した場合に、細胞凝集塊の個数が多くなることがわかった。このことから、細胞凝集塊の個数を調整するに際して、細胞凝集塊の個数を増加させるには、濃度0.2〜0.5mg/mlの範囲に調整したpoly(Lys−Pro)が最適であることがわかった。
【0080】
(試験例6)
本試験例は、組織培養用プレートの各ウェルで形成した細胞凝集塊の大きさを測定したものである。
【0081】
細胞凝集塊の大きさの測定は、位相差顕微鏡で観察したものをデジタルカメラで撮影し、顕微鏡写真の倍率及びデジタルカメラの画素数から細胞凝集塊の大きさを算出した。
【0082】
測定の結果、細胞凝集塊の大きさの分布が図13〜15に示されている。図13〜15において、縦軸には、細胞凝集塊の大きさの分布の割合(%)が示され、横軸には、細胞凝集塊の大きさ(μm)の範囲が示されている。図13〜15では、細胞凝集塊の大きさの分布が、4種類の濃度1.0mg/ml、0.5mg/ml、0.2mg/ml、0.1mg/mlについてそれぞれ示されている。それぞれの濃度についての割合の総数が100%となる。
【0083】
図13は、poly(Lys−Pro)を添加した組織培養用プレートのウェルで形成した細胞凝集塊の大きさの分布を示したものである。図13からも明らかなように、濃度1.0mg/mlのpoly(Lys−Pro)を添加したウェルの細胞凝集塊に関しては、30〜45μmの大きさのものが全体の70〜75%程度を占め、15〜30μmの大きさのものが全体の10〜15%程度を占め、45〜60μmの大きさのものが全体の10%程度を占めていた。また、わずかではあるが、60〜75μmの大きさのものや75〜90μmの大きさのものも存在していた。また濃度0.5mg/mlのpoly(Lys−Pro)を添加したウェルの細胞凝集塊に関しては、45〜60μmの大きさのものが全体の約50%を占め、60〜75μmの大きさのものが全体の20〜25%程度を占め、30〜45μmの大きさのものが全体の10〜15%程度を占めていた。また、大きい75〜90μmのものや、90〜105μmの大きさのものも、全体の約5%程度存在していた。
【0084】
さらに、濃度0.2mg/mlのpoly(Lys−Pro)を添加したウェルの細胞凝集塊に関しては、30〜45μmの大きさのものが全体の50〜55%程度を占め、45〜60μmの大きさのものが全体の25〜30%程度を占め、60〜75μmの大きさのものが全体の15〜20%程度を占めていた。15〜30μmの大きさのものは全体の5%以下であった。大きい75〜90μmのものや、90〜105μmの大きさのものも、わずかではあるが存在していた。また濃度0.1mg/mlのpoly(Lys−Pro)を添加したウェルの細胞凝集塊に関しては、15〜30μmの大きさのものが全体の約55%を占め、30〜45μmの大きさのものが全体の35〜40%を占め、45〜60μmの大きさのものが全体の5〜10%を占めていた。
【0085】
図14は、bpoly(Lys−Pro)を添加した組織培養用プレートのウェルで形成した細胞凝集塊の大きさの分布を示したものである。図14からも明らかなように、濃度1.0mg/mlのbpoly(Lys−Pro)を添加したウェルの細胞凝集塊に関しては、30〜45μmの大きさのものが全体の45〜50%程度を占め、15〜30μmの大きさのものが全体の40〜45%程度を占め、45〜60μmの大きさのものが全体の5〜10%程度を占めていた。60〜75μmや75〜90μmの大きさのものも、わずかではあるが存在していた。濃度0.5mg/mlのbpoly(Lys−Pro)を添加したウェルの細胞凝集塊に関しては、30〜45μmの大きさのものが全体の約45%程度を占め、15〜30μmの大きさのものが全体の30〜35%程度を占め、45〜60μmの大きさのものが全体の約15%程度を占めていた。また60〜75μmの大きさのものも5〜10%程度存在していた。
【0086】
さらに、濃度0.2mg/mlのbpoly(Lys−Pro)を添加したウェルの細胞凝集塊に関しては、30〜45μmの大きさのものが全体の50〜55%程度を占め、15〜30μmの大きさのものが全体の30%程度を占め、45〜60μmの大きさのものが全体の5%程度を占めていた。また60〜75μmの大きさのものも5%程度存在し、75〜90μmのものもわずかではあるが存在していた。濃度0.1mg/mlのbpoly(Lys−Pro)を添加したウェルの細胞凝集塊に関しては、15〜30μmの大きさのものが全体の45〜50%程度を占め、30〜45μmの大きさのものが全体の45%程度を占め、45〜60μmの大きさのものが全体の5%程度を占めていた。また60〜75μmのものや、75〜90μmの大きさのものも、わずかではあるが存在していた。
【0087】
図15は、poly(Lys)を添加した組織培養用プレートのウェルで形成した細胞凝集塊の大きさの分布を示したものである。図15からも明らかなように、濃度1.0mg/mlのpoly(Lys−Pro)を添加したウェルの細胞凝集塊に関しては、30〜45μmの大きさのものが全体の60〜65%程度を占め、45〜60μmの大きさのものが全体の25〜30%程度を占め、15〜30μmの大きさのものが全体の10%程度を占めていた。また濃度0.5mg/mlのpoly(Lys)を添加したウェルの細胞凝集塊に関しては、30〜45μmの大きさのものが全体の約50%を占め、15〜30μmの大きさのものが全体の約45%を占め、45〜60μmの大きさのものは全体の5%以下であった。
【0088】
また、濃度0.2mg/mlのpoly(Lys−Pro)を添加したウェルの細胞凝集塊に関しては、30〜45μmの大きさのものが全体の50〜55%程度を占め、15〜30μmの大きさのものが全体の約25%を占め、45〜60μmの大きさのものは全体の15〜20%程度であった。60〜75μmの大きさのものや75〜90μmの大きさのものも、わずかではあるが存在していた。さらに、濃度0.1mg/mlのpoly(Lys−Pro)を添加したウェルの細胞凝集塊に関しては、15〜30μmの大きさのものが全体の45〜50%を占め、30〜45μmの大きさのものが全体の40〜45%程度を占め、45〜60μmの大きさのものは全体の5〜10%程度であった。60〜75μmの大きさのものも、わずかではあるが存在していた。
【0089】
〔総括〕
以上の試験例6の結果を総括すると、poly(Lys−Pro)の場合に、45μm以上の大きさの細胞凝集塊の占有率が高いことがわかった。特に、濃度0.5mg/mlのpoly(Lys−Pro)を用いた場合に、45μm以上の大きさの細胞凝集塊の占有率が高かった。たとえば再生医学への応用等の観点からは、45μm以上の大きさの細胞凝集塊を利用することが有用であり、その意味では、poly(Lys−Pro)を添加したものが、再生医学等への応用の可能性があると認められる。
【0090】
(試験例7)
本試験例は、組織培養用プレートの各ウェルで形成した細胞凝集塊の大きさの分布を示したものである。具体的には、poly(Lys−Pro)を添加した組織培養用プレートのウェルで形成した細胞凝集塊の大きさを、15〜80μmの分布範囲で示している。細胞凝集塊の大きさの測定は、位相差顕微鏡で観察したものをデジタルカメラで撮影し、顕微鏡写真の倍率及びデジタルカメラの画素数から細胞凝集塊の大きさを算出した。
【0091】
測定の結果、細胞凝集塊の大きさの分布が図16〜19に示されている。図16〜19において、縦軸には、細胞凝集塊の大きさの分布の割合(%)が示され、横軸には、細胞凝集塊の大きさ(μm)が示されている。それぞれの細胞凝集塊の大きさについての割合の総数が100%となる。
【0092】
図16はpoly(Lys−Pro)の濃度が1.0mg/mlの場合のグラフであり、図17はpoly(Lys−Pro)の濃度が0.5mg/mlの場合のグラフであり、図18はpoly(Lys−Pro)の濃度が0.2mg/mlの場合のグラフであり、図19はpoly(Lys−Pro)の濃度が0.1mg/mlの場合のグラフである。
【0093】
図16においては、大きさ30〜45μmの範囲の細胞凝集塊が多く存在しており、図17においては、大きさ40〜65μmの範囲の細胞凝集塊が多く存在しており、図18においては、大きさ30〜70μmの範囲に平均的に分布して細胞凝集塊が存在しており、図19においては、大きさ20〜35μmの範囲の細胞凝集塊が多く存在していた。
【0094】
(試験例8)
本試験例は、細胞凝集塊を形成している細胞の生死を判別する試験についての試験例である。
【0095】
本試験例においては、96ウェルプレートにおいて細胞凝集塊を形成している各ウェル中、濃度0.5mg/mlのpoly(Lys−Pro)を添加したウェルにおける細胞凝集塊を、図20に示すようにピペッティングにより物理的に回収し、図21に示すようにEMEM血清含有培地で培養し、24時間毎に細胞凝集塊の形態を顕微鏡によって観察した。
【0096】
その結果を図22〜25に示す。図22は播種直後の顕微鏡写真であり、図23は2日後の顕微鏡写真であり、図24は4日後の顕微鏡写真であり、図25は6日後の顕微鏡写真である。図22〜25からも明らかなように、播種直後に比べて2日後には細胞凝集塊が大きくなっていた。4日後、6日後には、細胞凝集塊の大きさに変化はなかった。ただし、図25では、細胞凝集塊の中心部が黒化しており、細胞凝集塊の中心部の細胞は死滅していると認められる。
【0097】
(試験例9)
本試験例は、細胞凝集塊崩壊後の細胞の生存率についての試験例である。96ウェルプレートにおいて、細胞凝集塊を形成している各ウェルにトリプシン処理を行い、図26に示すようにエリスロシンを用いて生死細胞を染色し、図27に示すように、セルカウンターにより生存率を算出した。
【0098】
その生存率の試験結果を図28のグラフに示す。図28のグラフでは、細胞凝集塊の形成が認められたpoly(Lys−Pro)、bpoly(Lys−Pro)、及びpoly(Lys)を添加した場合であって、濃度1.0mg/ml、0.5mg/ml、0.2mg/ml、0.1mg/mlの4種類のものについて、細胞の生存率を示した。
【0099】
図28からも明らかなように、poly(Lys−Pro)を添加したウェルの細胞凝集塊については、4種類のいずれの濃度のものに関しても生存率が80%を超えていた。またbpoly(Lys−Pro)を添加したウェルの細胞凝集塊については、4種類のいずれの濃度のものに関しても、生存率は75〜80%程度であった。さらにpoly(Lys)を添加したウェルの細胞凝集塊については、濃度1.0mg/ml及び0.5mg/mlのものは生存率が70%を少し超えていたが、濃度0.2mg/ml及び0.1mg/mlのものは生存率が65%程度であった。
【0100】
〔総括〕
以上の試験例8及び試験例9の結果を総括すると、上記試験例8では、poly(Lys−Pro)を添加したウェルにおける細胞凝集塊の中心部に、6日後の観察で、中心部に死滅していると認められる部分が存在したが、試験例9の細胞凝集塊崩壊後の細胞の生存率の試験では、生存率が80%を超え、bpoly(Lys−Pro)を添加した場合やpoly(Lys)を添加した場合に比べて良好な結果となっていた。
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞凝集塊誘導ペプチド、及びその細胞凝集塊誘導用ペプチドを用いた細胞凝集塊の形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、ディッシュやマルチウェルプレート等の一般的な培養容器を使用して細胞を培養する場合、細胞は容器表面に接着・伸展し、敷石状に増殖するが、そのような培養方法では基材からの影響や細胞間のインタラクションが不足することによって、本来その細胞が生体内において有している機能を発現しない場合がある。その様な機能を発現させるために、三次元培養と呼ばれる、細胞をより生体内に近い凝集塊(スフェロイド)の状態にして培養する方法が知られている。
【0003】
従来、このような三次元培養により細胞凝集塊を誘導する技術としては、下記非特許文献1に記載されているように、ハンギングドロップ法、容器底部の非接着表面を用いた方法、旋回培養法、3次元スカフォールド法、遠心法等が採用されている。ハンギングドロップ法は、水滴状に垂れ下げた培養液の中で細胞を培養する方法であり、マルチウェルプレート等の蓋の各ウェル上に細胞を含む培養懸濁液を液滴となるようにスポッティングし、マルチウェルプレートにかぶせて培養する方法である。このようなハンギングドロップ法は、たとえば下記非特許文献2、3等に記載されている。
【0004】
また、容器底部の非接着表面を用いた方法は、培養ディッシュ等の容器底部に超親水性処理を施して非接着表面とする技術であり、そのような技術として、たとえば下記特許文献1のような特許出願がなされている。
【0005】
その他、旋回培養法、3次元スカフォールド法、遠心法等の方法も採用されているが、上記ハンギングドロップ法や容器底部の非接着表面を用いた方法も含め、これら各種の方法は、いずれも物理的な手法であるため、細胞凝集塊の作成方法の検討や、細胞凝集塊の大きさ等をコントロールすることが困難であった。いずれにしても、化学物質を添加するだけで細胞凝集塊を作成する手法は未だに見出されていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】R.−Z.Lin,et.al.Biotechno.,J.3,1172−1184(2008)
【非特許文献2】EXPERIMENTAL CELL RESEARCH,200,326−332(1992)
【非特許文献3】Keller,J.Physiol.(Lond)168:131−139,1998
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特表2001−502959号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、このような問題点を解決するためになされたもので、細胞培養系に添加するだけで、細胞凝集塊を形成することができる、細胞凝集塊誘導用ペプチドを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、このような課題を解決するためになされたもので、リシンとプロリンを、次式(1)で示すように構成繰り返し単位として含むことを特徴とする細胞凝集塊誘導用ペプチドを提供するものである。
(Lys−Pro)n ・・・(1)
(ただし、nは9以上、30以下の整数である。)
【0010】
また本発明は、リシンとプロリンを、次式(2)で示すように構成繰り返し単位として含むことを特徴とする細胞凝集塊誘導用ペプチドをも提供するものである。
(Lys−Pro−(H−Lys−Pro)mLys−Pro)n ・・・(2)
(ただし、mは2以上、10以下の整数、nは3以上、30以下の整数である。)
【0011】
さらに本発明は、上記(1)式のような細胞凝集塊誘導用ペプチド、又は上記(2)式のような細胞凝集塊誘導用ペプチドを、培養細胞の培地に添加して細胞凝集塊を形成することを特徴とする細胞凝集塊の形成方法を提供するものである。
【0012】
さらに本発明は、リシンを、次式(3)で示すように構成繰り返し単位として含む細胞凝集塊誘導用ペプチドを、培養細胞の培地に添加して細胞凝集塊を形成することを特徴とする細胞凝集塊の形成方法を提供するものである。
(Lys)n ・・・(3)
(ただし、nは9以上、30以下の整数である。)
【発明の効果】
【0013】
本発明によって、上記のようなペプチドを細胞培養液に添加するだけで、細胞凝集塊を容易に作成することが可能となる効果がある。
【0014】
また、上記のようなペプチドの濃度を変化させることで細胞凝集塊の大きさを調整することができるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】一例としての合成ペプチドについてのMALDI−TOF−MSのチャート。
【図2】他の例の合成ペプチドについてのMALDI−TOF−MSのチャート。
【図3】さらに他の例の合成ペプチドについてのMALDI−TOF−MSのチャート。
【図4】一例としての合成ペプチドを組織培養用プレートに添加した顕微鏡写真。
【図5】他の例の合成ペプチドを組織培養用プレートに添加した顕微鏡写真。
【図6】さらに他の例の合成ペプチドを組織培養用プレートに添加した顕微鏡写真。
【図7】一例としての合成ペプチドを添加した組織培養用プレートのウェルで形成した細胞凝集塊の個数を示すグラフ。
【図8】一例としての合成ペプチドを添加した浮遊培養用プレートのウェルで形成した細胞凝集塊の個数を示すグラフ。
【図9】他の例の合成ペプチドを添加した組織培養用プレートのウェルで形成した細胞凝集塊の個数を示すグラフ。
【図10】他の例の合成ペプチドを添加した浮遊培養用プレートのウェルで形成した細胞凝集塊の個数を示すグラフ。
【図11】さらに他の例の合成ペプチドを添加した組織培養用プレートのウェルで形成した細胞凝集塊の個数を示すグラフ。
【図12】さらに他の例の合成ペプチドを添加した浮遊培養用プレートのウェルで形成した細胞凝集塊の個数を示すグラフ。
【図13】一例としての合成ペプチドを添加した組織培養用プレートのウェルで形成した細胞凝集塊の大きさを示すグラフ。
【図14】他の例の合成ペプチドを添加した組織培養用プレートのウェルで形成した細胞凝集塊の大きさを示すグラフ。
【図15】さらに他の例の合成ペプチドを添加した組織培養用プレートのウェルで形成した細胞凝集塊の大きさを示すグラフ。
【図16】一例としての合成ペプチドを添加した組織培養用プレートのウェルで形成した細胞凝集塊の大きさの分布を示すグラフ(ペプチドの濃度1.0mg/ml)。
【図17】一例としての合成ペプチドを添加した組織培養用プレートのウェルで形成した細胞凝集塊の大きさの分布を示すグラフ(ペプチドの濃度0.5mg/ml)。
【図18】一例としての合成ペプチドを添加した組織培養用プレートのウェルで形成した細胞凝集塊の大きさの分布を示すグラフ(ペプチドの濃度0.2mg/ml)。
【図19】一例としての合成ペプチドを添加した組織培養用プレートのウェルで形成した細胞凝集塊の大きさの分布を示すグラフ(ペプチドの濃度0.1mg/ml)。
【図20】生死判別試験の方法を示す概略平面図。
【図21】生死判別試験の方法を示す概略斜視図。
【図22】細胞凝集塊の生死判別試験の結果を示す播種直後の顕微鏡写真。
【図23】細胞凝集塊の生死判別試験の結果を示す2日後の顕微鏡写真。
【図24】細胞凝集塊の生死判別試験の結果を示す4日後の写真。
【図25】細胞凝集塊の生死判別試験の結果を示す6日後の写真。
【図26】生死判別試験の他の方法を示す概略平面図。
【図27】生死判別試験の他の方法を示す概略斜視図。
【図28】細胞凝集塊の生存率を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の細胞凝集塊誘導用ペプチドは、上述のように、リシンとプロリンを、次式(1)で示すように構成繰り返し単位として含むものである。
(Lys−Pro)n ・・・(1)
【0017】
ここで、nは9以上、30以下の整数である。すなわち、リシンとプロリンの構成繰り返し単位の重合度が9以上、30以下であることを意味する。「9以上」としたのは、9未満のペプチドでは、細胞凝集塊を形成することができると認められないからである。一方、30以下としたのは、30を超えるペプチドの合成が難しいと認められ、また細胞凝集塊を形成することができるか定かではないからである。
【0018】
また本発明の他の細胞凝集塊誘導用ペプチドは、リシンとプロリンを、次式(2)で示すように構成繰り返し単位として含むものである。
(Lys−Pro−(H−Lys−Pro)mLys−Pro)n ・・・(2)
【0019】
ここで、mは2以上、10以下の整数であり、nは3以上、30以下の整数である。すなわち、枝分かれしたH−Lys−Proの構成繰り返し単位の重合度が2以上、10以下であることを意味し、Lys−Pro−(H−Lys−Pro)mLys−Proの全体の構成繰り返し単位の重合度が3以上、30以下であることを意味する。かかる範囲の重合度のものが、細胞凝集塊を形成することができると認められるからである。
【0020】
さらに本発明は、上記(1)式のような細胞凝集塊誘導用ペプチド、又は上記(2)式のような細胞凝集塊誘導用ペプチドを、培養細胞の培地に添加して細胞凝集塊を形成する細胞凝集塊の形成方法を提供するものである。
【0021】
さらに本発明は、リシンを、次式(3)で示すように構成繰り返し単位として含む細胞凝集塊誘導用ペプチドを、培養細胞の培地に添加して細胞凝集塊を形成する細胞凝集塊の形成方法を提供するものである。
(Lys)n ・・・(3)
【0022】
ここで、nは9以上、30以下の整数である。すなわち、リシンの構成繰り返し単位の重合度が9以上、30以下であることを意味する。「9以上」としたのは、9未満のペプチドでは、細胞凝集塊を形成することができると認められないからである。一方、30以下としたのは、30を超えるペプチドの合成が難しいと認められ、また細胞凝集塊を形成することができるか定かではないからである。
【0023】
上記のような細胞凝集塊の形成方法に用いる培養細胞の培地の種類は特に限定されるものではないが、たとえばウシ胎児血清を含有させたMEM培地のようなものを用いることができる。
【0024】
また、上記のようなペプチドの合成方法は特に限定されるものではなく、一般的な固相合成方法や液相合成方法を任意に用いることができる。たとえば、固相合成方法の一般的な工程は次のとおりである。
【0025】
保護基でN末端の保護されたアミノ酸(保護アミノ酸)を、固相担体に、該保護アミノ酸のC末端で、リンカーを介して結合させる。次に、未反応の保護アミノ酸、すなわち担体に結合していない保護アミノ酸を除去する。次いで、担体に結合された保護アミノ酸が担体から遊離しない条件で、保護アミノ酸の保護基を除去する。別途、担体に結合されたアミノ酸と結合させるアミノ酸のN末端を保護基で保護した第2の保護アミノ酸を調製しておく。第2の保護アミノ酸を担体に結合したアミノ酸に添加し、担体に結合したアミノ酸のN末端と第2の保護アミノ酸のC末端を縮合する。次に、未反応の第2の保護アミノ酸を除去し、次いで、第2の保護アミノ酸の保護基を除去する。保護基でN末端の保護された第3のアミノ酸を添加して、第2のアミノ酸のN末端と第3の保護アミノ酸のC末端を縮合する。この操作を繰り返し、担体と結合した所望のアミノ酸配列を有するペプチドを合成する。このペプチドを担体から分離することによって所望のペプチドが得られる。
【0026】
固相担体としては、たとえばスチレン樹脂、アクリルアミド樹脂、ポリエチレングリコール−アクリルアミド複合樹脂、ポリオキシエチレングラフテッドスチレン樹脂等が例示されるが、これらに限定されない。これらはジビニルベンゼンで架橋されていてもよく、また、1種単独若しくは2種以上組み合わせてもよい。
【0027】
またリンカーとしては、たとえばクロロメチル、ヒドロキシメチル、ベンズヒドリルアミン、アミノメチル、4−ベンジルオキシベンジルアルコール、4−メチルベンズヒドリルアミン、フェニルアセトアミドメチル、4−ヒドロキシメチルフェニルアセトアミドメチル、4−(2',4'−ジメトキシフェニル−ヒドロキシメチル)フェノキシ、2−クロロトリチルクロライド樹脂、4−ヒドロキシメチルフェノキシ酢酸(HMPA)、4−ヒドロキシメチル安息香酸(HMBA)、2,4−ジメトキシ−4−ヒドロキシベンゾフェノン等が例示されるが、これらに限定されない。これらは1種単独でも又は2種以上組み合わせてもよい。
【0028】
さらにアミノ酸又はペプチドのアミノ基の保護基としては、たとえば、ベンジルオキシカルボニル(Z)、ターシャリーブトキシカルボニル(Boc)、ターシャリーアミルオキシカルボニル、イソボルニルオキシカルボニル、4−メトキシベンジルオキシカルボニル、2−クロロベンジルオキシカルボニル(Cl−Z)、2−ブロモベンジルオキシカルボニル(Br−Z)、アダマンチルオキシカルボニル、トリフルオロアセチル、フタリル、ホルミル、2−ニトロフェニルスルフェニル、ジフェニルホスフィノチオイル、9−フルオレニルメチルオキシカルボニル(Fmoc)等が例示される。
【0029】
またカルボキシル基の保護基としては、たとえばメチル、エチル、プロピル、ブチル、ターシャリーブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル、シクロオクチル等のアルキル基を有するアルキルエステル、ベンジルエステル、2−ニトロベンジルエステル、4−メトキシベンジルエステル、4−クロロベンジルエステル、ベンズヒドリルエステル、フェナシルエステル、ベンジルオキシカルボニルヒドラジド、ターシャリーブトキシカルボニルヒドラジド、トリチルヒドラジド等が例示される。
【0030】
一方、液相合成方法では、生成するペプチドを保持するための固相担体は利用しないが、保護アミノ酸及び/又は保護ペプチド以外の試薬(例えば縮合剤、塩基等)を樹脂に保持させた形態で試薬を利用することがあり、このような合成方法も本発明で用いることができる。アミノ基の保護基やカルボキシル基の保護基には、上記固相合成と同様のものを用いることができる。
【実施例】
【0031】
以下、本発明の実施例について説明する。
(合成例1)
本合成例では、固相合成法によって、リシンとプロリンを構成繰り返し単位とするペプチドを合成した。固相合成には、アミノ酸としてN−α−(9−フルオレニルメトキシカルボニル)−L−プロリン(Fmco−Pro−OH)[渡辺化学工業株式会社製]、及びN−α−(9−フルオレニルメトキシカルボニル)−O−ブトキシカルボニル−L−リシン(Fmco−Lys(Boc)−OH)[渡辺化学工業株式会社製]を用いた。
また、アミノ酸の保護基には、9−フルオレニルメトキシカルボニル(Fmco)を用いた。
さらに、不溶性樹脂担体としては、N−α−(9−フルオレニルメトキシカルボニル)−O−ブトキシカルボニル−L−プロリントリエチルアミドメチルエステルポリエチレングリコールハンドルポリスチレン(Fmco−Pro−TrtA−PEG Resin)[渡辺化学工業株式会社製]を用いた。
さらに縮合剤としては、4−(4,6−ジメトキシ−1,3,5−トリアジン−2−イル)−4−メチルモルホリウムクロライド(DMT−MM)を用い、その縮合剤の合成原料としては、炭酸水素ナトリウム[シグマアルドリッチジャパン株式会社製]、塩化シアヌル[東京化成工業株式会社製]、及びN−メチルモルフォリン[シグマアルドリッチジャパン株式会社製]を用いた。
さらに、保護基除去剤としてはピペリジン[シグマアルドリッチジャパン株式会社製]を用い、樹脂の膨潤及び切り出しには、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)[和光純薬株式会社製]を用いた。
さらに脱保護、脱樹脂反応には、トリフルオロ酢酸(TFA)[渡辺化学工業株式会社製]を用いた。
分離、精製用の担体としては、セファデックスG−25M PD−10カラム[GEヘルスケア社製]を用いた。
【0032】
(試験例1)
合成例1で合成したペプチドについて、マトリックス支援レーザー脱イオン化法(MALDI:Matrix Assisted Laser Desorption Ionization)と飛行時間型(TOF:Time Of Flight)質量分析計(MS)を組み合わせたMALDI−TOF−MSを用いて質量分析を行った。
【0033】
MALDI−TOF−MSとしては、株式会社島津製作所社製のAXIMA−CFRを用いた。MALDI−TOF−MSのマトリックスには、CHCA(α−シアノ−4−ヒドロキシ−けい皮酸)を用い、カチオン化剤にはトリフルオロ酢酸ナトリウムを用いた。
【0034】
質量分析の結果を図1に示す。図1からも明らかなように、〔M+Na〕+のピークが942.3の位置に現れ、〔M+H〕+のピークが920.4の位置に現れた。一方、上記(1)式の(Lys−Pro)nにおけるnが4の場合の(Lys−Pro)4の式量は、919.16である。図1のピークの位置が、(Lys−Pro)4の式量とほぼ一致することから、上記合成例1で合成されたペプチドが(Lys−Pro)4であることが確認できた。
【0035】
(合成例2)
本合成例では、固相合成法によって、リシンとプロリンを構成繰り返し単位とする別のペプチドを合成した。アミノ酸、不溶性樹脂担体、縮合剤及びその合成原料、保護基除去剤、樹脂の膨潤及び切り出しの薬剤、脱保護、脱樹脂反応の薬剤、及び分離、精製用の担体には、上記合成例1と同じものを用いた。
【0036】
(試験例2)
合成例2で合成したペプチドについて、上記試験例1と同じMALDI−TOF−MSを用いて質量分析を行った。マトリックスやカチオン化剤も上記試験例1と同じものを用いた。
【0037】
質量分析の結果を図2に示す。図2からも明らかなように、〔M+H〕+のピークが1821.5の位置に現れ、〔M+K〕+のピークが1858.8の位置に現れ、
〔M+Na〕+のピークが1842.9の位置に現れた。一方、上記(1)式の(Lys−Pro)nにおけるnが8の場合の(Lys−Pro)8の式量は、1820.32である。図2のピークの位置が、(Lys−Pro)8の式量とほぼ一致することから、上記合成例2で合成されたペプチドが(Lys−Pro)8であることが確認できた。
【0038】
(合成例3)
本合成例では、液相合成法によって、リシンとプロリンを構成繰り返し単位とする、さらに別のペプチドを合成した。液相合成には、アミノ酸としてN−α−tert−ブトキシカルボニル−L−プロリン(Boc−Pro−OH)[渡辺化学工業株式会社製]、及びN−α−tert−ブトキシカルボニル−O−塩化ベンジルオキシカルボニル−L−リシン(Boc−Lys(Z−Cl)−OH)[渡辺化学工業株式会社製]を用いた。
また液相合成のアミノ基側の保護基にはtert−ブトキシカルボニルを用い、カルボキシル基側の保護基にはフェナシルエステル(Pac)を用いた。
さらに縮合剤としては、4−(4,6−ジメトキシ−1,3,5−トリアジン−2−イル)−4−メチルモルホリウムクロライド(DMT−MM)を用い、その縮合剤の合成原料としては、炭酸水素ナトリウム[シグマアルドリッチジャパン株式会社製]、塩化シアヌル[東京化成工業株式会社製]、及びN−メチルモルフォリン[シグマアルドリッチジャパン株式会社製]を用いた。
さらに、カルボキシル基側の保護基除去剤としては酢酸及び亜鉛を用い、アミノ基側の保護基除去剤としては、4mol/l−HCl/ジオキサン(4mol/l−HCl/DIO[渡辺化学工業株式会社製]を用いた。
さらに、脱保護反応には、トリフルオロ酢酸(TFA)[渡辺化学工業株式会社製]を用いた。
【0039】
(試験例3)
合成例3で合成したペプチドについて、上記試験例1、2と同じMALDI−TOF−MSを用いて質量分析を行った。マトリックスやカチオン化剤も上記試験例1と同じものを用いた。
【0040】
質量分析の結果を図3に示す。図3からも明らかなように、nが8〜16の範囲でピークが現れ、Lys−Proを繰り返し単位とする重合度が8〜16のペプチドであるpoly(Lys−Pro)が合成されていることが確認できた。
【0041】
(合成例4)
本合成例では、液相合成法によって、リシンとプロリンを構成繰り返し単位とする、さらに別のペプチドを合成した。上記合成例1〜3では、直鎖状のペプチドを合成したのに対し、本合成例では、枝分かれしたペプチドであるbranched(Lys−Pro−(H−Lys−Pro)mLys−Pro)n〔以下、単にbpoly(Lys−Pro)と略す〕を合成した。液相合成のアミノ基側の保護基、カルボキシル基側の保護基、縮合剤及びその合成原料、カルボキシル基側の保護基除去剤、アミノ基側の保護基除去剤、脱保護反応の薬剤には、上記合成例3と同じものを用いた。
【0042】
(合成例5)
本合成例では、液相合成法によって、リシンを構成繰り返し単位とするペプチドであるpoly(Lys)を合成した。液相合成のアミノ酸には、N−α−tert−ブトキシカルボニル−O−塩化ベンジルオキシカルボニル−L−リシン(Boc−Lys(Boc)−OH)[渡辺化学工業株式会社製]を用いた。また保護基にはフェナシルエステル(Pac)を用い、保護基除去剤には酢酸及び亜鉛を用いた。さらに縮合剤及びその合成原料、脱保護反応の薬剤には、上記合成例3、4と同じものを用いた。
【0043】
(合成例6)
本合成例では、液相合成法によって、アルギニンを構成繰り返し単位とするペプチドであるpoly(Arg)を合成した。液相合成のアミノ酸には、N−α−tert−ブトキシカルボニル−O−メシチレンスルフォニル−L−アルギニン(Boc−Arg(Mts)−OH)[渡辺化学工業株式会社製]を用いた。また保護基にはフェナシルエステル(Pac)を用い、保護基除去剤には酢酸及び亜鉛を用いた。さらに縮合剤及びその合成原料、脱保護反応の薬剤には、上記合成例3〜5と同じものを用いた。
【0044】
(合成例7)
本合成例では、液相合成法によって、アルギニンとプロリンを構成繰り返し単位とするペプチドであるpoly(Arg−Pro)を合成した。液相合成のアミノ酸には、N−α−tert−ブトキシカルボニル−L−プロリン(Boc−Pro−OH)[渡辺化学工業株式会社製]、及びN−α−tert−ブトキシカルボニル−O−メシチレンスルフォニル−L−アルギニン(Boc−Arg(MTs)−OH)[渡辺化学工業株式会社製]を用いた。
また液相合成のアミノ基側の保護基にはtert−ブトキシカルボニルを用い、カルボキシル基側の保護基にはフェナシルエステル(Pac)を用いた。さらに、カルボキシル基側の保護基除去剤としては酢酸及び亜鉛を用い、アミノ基側の保護基除去剤としては、4mol/l−HCl/ジオキサン(4mol/l−HCl/DIO[渡辺化学工業株式会社製]を用いた。
さらに脱保護反応の薬剤には、トリフルオロメタンスルホン酸(TFMSA)[渡辺化学工業株式会社製]を用いた。
さらに縮合剤及びその合成原料、脱保護反応の薬剤には、上記合成例3〜6と同じものを用いた。
【0045】
(調製例1)
マウス由来繊維芽細胞(L929)を、10重量%のウシ胎児血清(FBS)を含有させたMEM培地で培養し、さらにトリプシン処理を行った。トリプシン/EDTA溶液の除去を行い、無血清MEM培地で再懸濁させ、2.5×104cell/mlに細胞数を調整した培養液を調製した。L929は理化学研究所製のものを用い、FBSはハイクローン社製のものを用い、MEM培地は日水製薬製のイーグルMEMを用い、トリプシンはMPバイオメディカル社製のTRYPSIN 1:250 VIRUSFREEを用い、EDTA(エチレンジアミン四酢酸四ナトリウム)は片山化学工業株式会社製のものを用いた。
【0046】
(調製例2)
また、上記合成例1〜7で合成したペプチドについて、1.0mg/ml、0.5mg/ml、0.2mg/ml、及び0.1mg/mlの4種類の濃度の調製液を調製し、計28種類の調製液の試料を準備した。分散媒としては、水とpH7.4に調整したリン酸緩衝液を用いた。
【0047】
(試験例4)
上記調製例1のように調整した培養液200μl(5.0×104cell/well)を、96ウェルプレートの各ウェルに播種し、さらに上記調製例2のように調整した7種類のペプチドの計28種類の試料を、96ウェルプレートの各ウェルにそれぞれ50μlずつ添加した。
【0048】
96ウェルプレートとしては、プレート底部に細胞が接着する一般の細胞培養基盤とした組織培養用プレートと、プレート底部に細胞が接着しにくい細胞培養基盤とした浮遊培養用プレートとの2種を用い、細胞の接着、伸展が生物活性に及ぼす影響を検討した。一方、上記調製例2のように調整した計28種類の試料をウェルに添加していないものをネガティブコントロールとした。組織培養用プレートとしてはIWAKI社製のものを用い、浮遊培養用プレートとしては住友ベークライト株式会社製の浮遊培養用マルチプレートを用いた。
【0049】
上記のような調製後、24時間毎に形態を顕微鏡(位相差顕微鏡)によって観察した。7日後の観察結果の顕微鏡写真を図4〜6に示す。図4は、濃度を1.0mg/mlに調整した(Lys−Pro)4を組織培養用プレートに添加したものの顕微鏡写真である。図4からも明らかなように、濃度1.0mg/mlの(Lys−Pro)4を組織培養用プレートに添加したものの場合には、7日後においても、細胞凝集塊が認められなかった。これは、ネガティブコントロールの場合と同様の形態を示していた。
【0050】
また、図で顕微鏡写真を示してはいないが、0.5mg/ml、0.2mg/ml、及び0.1mg/mlの3種の濃度の(Lys−Pro)4を組織培養用プレートに添加したものの場合にも、7日後において細胞凝集塊は認められなかった。さらに、1.0mg/ml、0.5mg/ml、0.2mg/ml、及び0.1mg/mlの4種の濃度の(Lys−Pro)4を浮遊培養用プレートに添加したものの場合にも、7日後において細胞凝集塊は認められなかった。
【0051】
さらに、リシン−プロリンの繰り返し単位の重合度が8である(Lys−Pro)8を1.0mg/ml、0.5mg/ml、0.2mg/ml、及び0.1mg/mlに調製した4種の試料を組織培養用プレートに添加した場合にも7日後において細胞凝集塊は認められず、またこれらを浮遊培養用プレートに添加した場合にも7日後において細胞凝集塊は認められなかった。
【0052】
次に、図5は、濃度を1.0mg/mlに調整したpoly(Arg−Pro)を組織培養用プレートに添加したものの顕微鏡写真である。図5からも明らかなように、濃度1.0mg/mlのpoly(Arg−Pro)を組織培養用プレートに添加したものの場合には、7日後において細胞凝集塊が認められないばかりでなく、細胞毒性を示し、細胞膜に凹凸が観察された。
【0053】
また、図で顕微鏡写真を示してはいないが、0.5mg/ml、0.2mg/ml、及び0.1mg/mlの3種の濃度のpoly(Arg−Pro)を組織培養用プレートに添加したものの場合にも、7日後において細胞凝集塊は認められず、また細胞毒性を示し、細胞膜に凹凸が観察された。さらに、1.0mg/ml、0.5mg/ml、0.2mg/ml、及び0.1mg/mlの4種の濃度のpoly(Arg−Pro)を浮遊培養用プレートに添加したものの場合にも、7日後において細胞凝集塊は認められず、細胞毒性を示し、細胞膜に凹凸が観察された。
【0054】
さらに、poly(Arg)を1.0mg/ml、0.5mg/ml、0.2mg/ml、及び0.1mg/mlに調製した4種の試料を組織培養用プレートに添加した場合にも7日後において細胞凝集塊は認められないばかりか、細胞毒性を示し、細胞膜に凹凸が観察された。またこれらを浮遊培養用プレートに添加した場合にも、7日後において同様に細胞毒性を示し、細胞膜に凹凸が観察された。
【0055】
次に、図6は、濃度を0.5mg/mlに調整したpoly(Lys−Pro)を組織培養用プレートに添加したものの顕微鏡写真である。図6からも明らかなように、濃度0.5mg/mlのpoly(Lys−Pro)を組織培養用プレートに添加した場合にも、7日後において細胞凝集塊の形成が認められた。
【0056】
また、図で顕微鏡写真を示してはいないが、0.5mg/ml、0.2mg/ml、及び0.1mg/mlの3種の濃度のpoly(Lys−Pro)を組織培養用プレートに添加したものの場合にも、7日後において細胞凝集塊の形成が認められた。さらに、1.0mg/ml、0.5mg/ml、0.2mg/ml、及び0.1mg/mlの4種の濃度のpoly(Lys−Pro)を浮遊培養用プレートに添加した場合にも、7日後において細胞凝集塊の形成が認められた。
【0057】
さらに、図で顕微鏡写真を示してはいないが、4種の濃度のbpoly(Lys−Pro)を、それぞれ組織培養用プレート及び浮遊培養用プレートに添加した場合にも、7日後において細胞凝集塊の形成が認められた。
【0058】
さらに、図で顕微鏡写真を示してはいないが、4種の濃度のpoly(Lys)を、それぞれ組織培養用プレート及び浮遊培養用プレートに添加した場合にも、7日後において細胞凝集塊の形成が認められた。
【0059】
〔総括〕
以上の試験例4の結果を総括すると、poly(Lys−Pro)、bpoly(Lys−Pro)、及びpoly(Lys)の場合には、いずれの濃度の場合にも、また組織培養用プレート及び浮遊培養用プレートのいずれの場合にも、細胞凝集塊の形成が認められ、細胞凝集塊を誘導する作用を有することが確認できた。
【0060】
これに対して、(Lys−Pro)4及び(Lys−Pro)8の場合には、いずれの濃度の場合にも、また組織培養用プレート及び浮遊培養用プレートのいずれの場合にも、細胞凝集塊が認められず、ネガティブコントロールの場合と同様の形態を示していた。
【0061】
さらに、poly(Arg−Pro)及びpoly(Arg)の場合には、いずれの濃度の場合にも、また組織培養用プレート及び浮遊培養用プレートのいずれの場合にも、細胞凝集塊が認められないばかりでなく、細胞毒性を示し、細胞膜に凹凸が観察された。
【0062】
(試験例5)
本試験例は、組織培養用プレート、浮遊培養用プレートの各ウェルで形成した細胞凝集塊の個数を計数したものである。
【0063】
細胞凝集塊の個数の計数は、位相差顕微鏡での肉眼観察によって行った。
【0064】
計数の結果を図7〜12に示す。図7〜12において、縦軸には形成された細胞凝集塊の個数(cells/well)が示され、横軸には培養日数が示されている。図7は、poly(Lys−Pro)を添加した組織培養用プレートのウェルで形成した細胞凝集塊の個数を棒グラフで示したものである。1〜7日後にそれぞれ計数した細胞凝集塊の個数が、poly(Lys−Pro)の4種類の濃度1.0mg/ml、0.5mg/ml、0.2mg/ml、0.1mg/mlについてそれぞれ示されている。
【0065】
図7からも明らかなように、1日後には未だ細胞凝集塊の形成は認められなかったが、2日後には、濃度1.0mg/mlのpoly(Lys−Pro)を添加したウェルの細胞凝集塊の個数が100個を超えていた。また3日後には、濃度0.5mg/mlのpoly(Lys−Pro)を添加したウェルの細胞凝集塊の個数が約100個となり、濃度0.2mg/mlのpoly(Lys−Pro)を添加したウェルの細胞凝集塊の個数が100個を超えていた。さらに、4日後には、濃度0.1mg/mlのpoly(Lys−Pro)を添加したウェルの細胞凝集塊の個数が100個を超えた。ただし、いずれの濃度のpoly(Lys−Pro)を添加したウェルの細胞凝集塊の個数は、1〜7日の間、200個を超えることはなかった。
【0066】
図8は、poly(Lys−Pro)を添加した浮遊培養用プレートのウェルで形成した細胞凝集塊の個数を棒グラフで示したものである。図7と同様に、1〜7日後の細胞凝集塊の個数が、poly(Lys−Pro)の4種類の濃度についてそれぞれ示されている。
【0067】
図8からも明らかなように、1日後には未だ細胞凝集塊の形成は認められなかったが、2日後には、1.0mg/mlのpoly(Lys−Pro)を添加したウェルの細胞凝集塊の個数が100個を超え、0.5mg/mlのpoly(Lys−Pro)を添加したウェルの細胞凝集塊の個数は200個を超え、0.2mg/mlのpoly(Lys−Pro)を添加したウェルの細胞凝集塊の個数は200個を超えていた。また0.1mg/mlのpoly(Lys−Pro)を添加したウェルの細胞凝集塊の個数は、6日後に100個を超えた。さらに、1.0mg/mlのpoly(Lys−Pro)を添加したウェルの細胞凝集塊の個数は、6日後には200個を超えた。
【0068】
図7及び図8からも明らかなように、poly(Lys−Pro)を添加したものに関しては、0.1mg/mlの濃度のものを除けば、全体として、浮遊培養用プレートのウェルで形成した細胞凝集塊の個数は、組織培養用プレートのウェルで形成した細胞凝集塊の個数よりも多かった。
【0069】
図9は、bpoly(Lys−Pro)を添加した組織培養用プレートのウェルで形成した細胞凝集塊の個数を棒グラフで示したものである。図7及び図8と同様に、1〜7日後の細胞凝集塊の個数が、4種類の濃度についてそれぞれ示されている。
【0070】
図9からも明らかなように、1日後には未だ細胞凝集塊の形成は認められなかったが、2日後には、濃度1.0mg/mlのbpoly(Lys−Pro)を添加したウェルの細胞凝集塊の個数が100個を超えていた。また3日後には、濃度0.5mg/mlのbpoly(Lys−Pro)を添加したウェルの細胞凝集塊の個数が100個を超え、濃度0.2mg/mlのbpoly(Lys−Pro)を添加したウェルの細胞凝集塊の個数が約100個となった。さらに、5日後には、濃度0.1mg/mlのbpoly(Lys−Pro)を添加したウェルの細胞凝集塊の個数が100個を超えた。
【0071】
図10は、bpoly(Lys−Pro)を添加した浮遊培養用プレートのウェルで形成した細胞凝集塊の個数を棒グラフで示したものである。図7〜9と同様に、1〜7日後の細胞凝集塊の個数が、4種類の濃度についてそれぞれ示されている。
【0072】
図10からも明らかなように、1日後には未だ細胞凝集塊の形成は認められなかったが、2日後には、濃度0.2mg/mlのbpoly(Lys−Pro)を添加したウェルの細胞凝集塊の個数が100個を超えていた。また3日後には、濃度0.5mg/mlのbpoly(Lys−Pro)を添加したウェルの細胞凝集塊の個数が100個を超え、5日後には、濃度1.0mg/mlのbpoly(Lys−Pro)を添加したウェルの細胞凝集塊の個数が約100個となった。
【0073】
図9及び図10からも明らかなように、bpoly(Lys−Pro)を添加したものに関しては、全体として、浮遊培養用プレートのウェルで形成した細胞凝集塊の個数と、組織培養用プレートのウェルで形成した細胞凝集塊の個数とに、さほどの相違はなかった。
【0074】
図11は、poly(Lys)を添加した組織培養用プレートのウェルで形成した細胞凝集塊の個数を棒グラフで示したものである。図7〜図10と同様に、1〜7日後の細胞凝集塊の個数が、4種類の濃度についてそれぞれ示されている。
【0075】
図11からも明らかなように、1日後には未だ細胞凝集塊の形成は認められなかったが、2日後には、濃度0.2mg/mlのpoly(Lys)を添加したウェルの細胞凝集塊の個数が約300個となり、濃度0.1mg/mlのpoly(Lys)を添加したウェルの細胞凝集塊の個数が約100個となった。また3日後には、濃度0.1mg/mlのpoly(Lys)を添加したウェルの細胞凝集塊の個数が300個に近い数値となった。しかし、濃度1.0mg/mlのpoly(Lys)を添加したウェルの細胞凝集塊の個数と、濃度0.5mg/mlのpoly(Lys)を添加したウェルの細胞凝集塊の個数は、1〜7日経過の間に50個を超えることはなかった。
【0076】
図12は、poly(Lys)を添加した浮遊培養用プレートのウェルで形成した細胞凝集塊の個数を棒グラフで示したものである。図7〜図11と同様に、1〜7日後の細胞凝集塊の個数が、4種類の濃度についてそれぞれ示されている。
【0077】
図12からも明らかなように、1日後には未だ細胞凝集塊の形成は認められなかったが、2日後には、濃度1.0mg/ml、及び濃度0.5mg/mlのpoly(Lys)を添加したウェルの細胞凝集塊の個数が200個近くとなり、濃度0.2mg/mlのpoly(Lys)を添加したウェルの細胞凝集塊の個数が200個を超えた。また3日後には、濃度1.0mg/mlのpoly(Lys)を添加したウェルの細胞凝集塊の個数は200個を超え、濃度0.5mg/mlのpoly(Lys)を添加したウェルの細胞凝集塊の個数は約300個となり、濃度0.2mg/mlのpoly(Lys)を添加したウェルの細胞凝集塊の個数は300個を超えた。しかし、濃度0.1mg/mlのpoly(Lys)を添加したウェルの細胞凝集塊の個数は、6日経過後に100個を超えるにとどまった。
【0078】
図11及び図12からも明らかなように、poly(Lys)を添加したものに関しては、1.0mg/mlの濃度のもの、及び0.5mg/mlの濃度のものについては、浮遊培養用プレートのウェルで形成した細胞凝集塊の個数は、組織培養用プレートのウェルで形成した細胞凝集塊の個数よりも非常に多かった。これに対して、0.1mg/mlの濃度のものについては、浮遊培養用プレートのウェルで形成した細胞凝集塊の個数の方が多かった。0.2mg/mlの濃度のものについては、浮遊培養用プレートのウェルで形成した細胞凝集塊の個数と、組織培養用プレートのウェルで形成した細胞凝集塊の個数とに、さほどの相違はなかった。
【0079】
〔総括〕
以上の試験例5の結果を総括すると、poly(Lys−Pro)、及びpoly(Lys)を浮遊培養用プレートのウェルに添加した場合に、細胞凝集塊の個数が多くなり、特にpoly(Lys−Pro)の濃度0.5mg/ml及び0.2mg/mlの濃度のものを浮遊培養用プレートのウェルに添加した場合に、細胞凝集塊の個数が多くなることがわかった。このことから、細胞凝集塊の個数を調整するに際して、細胞凝集塊の個数を増加させるには、濃度0.2〜0.5mg/mlの範囲に調整したpoly(Lys−Pro)が最適であることがわかった。
【0080】
(試験例6)
本試験例は、組織培養用プレートの各ウェルで形成した細胞凝集塊の大きさを測定したものである。
【0081】
細胞凝集塊の大きさの測定は、位相差顕微鏡で観察したものをデジタルカメラで撮影し、顕微鏡写真の倍率及びデジタルカメラの画素数から細胞凝集塊の大きさを算出した。
【0082】
測定の結果、細胞凝集塊の大きさの分布が図13〜15に示されている。図13〜15において、縦軸には、細胞凝集塊の大きさの分布の割合(%)が示され、横軸には、細胞凝集塊の大きさ(μm)の範囲が示されている。図13〜15では、細胞凝集塊の大きさの分布が、4種類の濃度1.0mg/ml、0.5mg/ml、0.2mg/ml、0.1mg/mlについてそれぞれ示されている。それぞれの濃度についての割合の総数が100%となる。
【0083】
図13は、poly(Lys−Pro)を添加した組織培養用プレートのウェルで形成した細胞凝集塊の大きさの分布を示したものである。図13からも明らかなように、濃度1.0mg/mlのpoly(Lys−Pro)を添加したウェルの細胞凝集塊に関しては、30〜45μmの大きさのものが全体の70〜75%程度を占め、15〜30μmの大きさのものが全体の10〜15%程度を占め、45〜60μmの大きさのものが全体の10%程度を占めていた。また、わずかではあるが、60〜75μmの大きさのものや75〜90μmの大きさのものも存在していた。また濃度0.5mg/mlのpoly(Lys−Pro)を添加したウェルの細胞凝集塊に関しては、45〜60μmの大きさのものが全体の約50%を占め、60〜75μmの大きさのものが全体の20〜25%程度を占め、30〜45μmの大きさのものが全体の10〜15%程度を占めていた。また、大きい75〜90μmのものや、90〜105μmの大きさのものも、全体の約5%程度存在していた。
【0084】
さらに、濃度0.2mg/mlのpoly(Lys−Pro)を添加したウェルの細胞凝集塊に関しては、30〜45μmの大きさのものが全体の50〜55%程度を占め、45〜60μmの大きさのものが全体の25〜30%程度を占め、60〜75μmの大きさのものが全体の15〜20%程度を占めていた。15〜30μmの大きさのものは全体の5%以下であった。大きい75〜90μmのものや、90〜105μmの大きさのものも、わずかではあるが存在していた。また濃度0.1mg/mlのpoly(Lys−Pro)を添加したウェルの細胞凝集塊に関しては、15〜30μmの大きさのものが全体の約55%を占め、30〜45μmの大きさのものが全体の35〜40%を占め、45〜60μmの大きさのものが全体の5〜10%を占めていた。
【0085】
図14は、bpoly(Lys−Pro)を添加した組織培養用プレートのウェルで形成した細胞凝集塊の大きさの分布を示したものである。図14からも明らかなように、濃度1.0mg/mlのbpoly(Lys−Pro)を添加したウェルの細胞凝集塊に関しては、30〜45μmの大きさのものが全体の45〜50%程度を占め、15〜30μmの大きさのものが全体の40〜45%程度を占め、45〜60μmの大きさのものが全体の5〜10%程度を占めていた。60〜75μmや75〜90μmの大きさのものも、わずかではあるが存在していた。濃度0.5mg/mlのbpoly(Lys−Pro)を添加したウェルの細胞凝集塊に関しては、30〜45μmの大きさのものが全体の約45%程度を占め、15〜30μmの大きさのものが全体の30〜35%程度を占め、45〜60μmの大きさのものが全体の約15%程度を占めていた。また60〜75μmの大きさのものも5〜10%程度存在していた。
【0086】
さらに、濃度0.2mg/mlのbpoly(Lys−Pro)を添加したウェルの細胞凝集塊に関しては、30〜45μmの大きさのものが全体の50〜55%程度を占め、15〜30μmの大きさのものが全体の30%程度を占め、45〜60μmの大きさのものが全体の5%程度を占めていた。また60〜75μmの大きさのものも5%程度存在し、75〜90μmのものもわずかではあるが存在していた。濃度0.1mg/mlのbpoly(Lys−Pro)を添加したウェルの細胞凝集塊に関しては、15〜30μmの大きさのものが全体の45〜50%程度を占め、30〜45μmの大きさのものが全体の45%程度を占め、45〜60μmの大きさのものが全体の5%程度を占めていた。また60〜75μmのものや、75〜90μmの大きさのものも、わずかではあるが存在していた。
【0087】
図15は、poly(Lys)を添加した組織培養用プレートのウェルで形成した細胞凝集塊の大きさの分布を示したものである。図15からも明らかなように、濃度1.0mg/mlのpoly(Lys−Pro)を添加したウェルの細胞凝集塊に関しては、30〜45μmの大きさのものが全体の60〜65%程度を占め、45〜60μmの大きさのものが全体の25〜30%程度を占め、15〜30μmの大きさのものが全体の10%程度を占めていた。また濃度0.5mg/mlのpoly(Lys)を添加したウェルの細胞凝集塊に関しては、30〜45μmの大きさのものが全体の約50%を占め、15〜30μmの大きさのものが全体の約45%を占め、45〜60μmの大きさのものは全体の5%以下であった。
【0088】
また、濃度0.2mg/mlのpoly(Lys−Pro)を添加したウェルの細胞凝集塊に関しては、30〜45μmの大きさのものが全体の50〜55%程度を占め、15〜30μmの大きさのものが全体の約25%を占め、45〜60μmの大きさのものは全体の15〜20%程度であった。60〜75μmの大きさのものや75〜90μmの大きさのものも、わずかではあるが存在していた。さらに、濃度0.1mg/mlのpoly(Lys−Pro)を添加したウェルの細胞凝集塊に関しては、15〜30μmの大きさのものが全体の45〜50%を占め、30〜45μmの大きさのものが全体の40〜45%程度を占め、45〜60μmの大きさのものは全体の5〜10%程度であった。60〜75μmの大きさのものも、わずかではあるが存在していた。
【0089】
〔総括〕
以上の試験例6の結果を総括すると、poly(Lys−Pro)の場合に、45μm以上の大きさの細胞凝集塊の占有率が高いことがわかった。特に、濃度0.5mg/mlのpoly(Lys−Pro)を用いた場合に、45μm以上の大きさの細胞凝集塊の占有率が高かった。たとえば再生医学への応用等の観点からは、45μm以上の大きさの細胞凝集塊を利用することが有用であり、その意味では、poly(Lys−Pro)を添加したものが、再生医学等への応用の可能性があると認められる。
【0090】
(試験例7)
本試験例は、組織培養用プレートの各ウェルで形成した細胞凝集塊の大きさの分布を示したものである。具体的には、poly(Lys−Pro)を添加した組織培養用プレートのウェルで形成した細胞凝集塊の大きさを、15〜80μmの分布範囲で示している。細胞凝集塊の大きさの測定は、位相差顕微鏡で観察したものをデジタルカメラで撮影し、顕微鏡写真の倍率及びデジタルカメラの画素数から細胞凝集塊の大きさを算出した。
【0091】
測定の結果、細胞凝集塊の大きさの分布が図16〜19に示されている。図16〜19において、縦軸には、細胞凝集塊の大きさの分布の割合(%)が示され、横軸には、細胞凝集塊の大きさ(μm)が示されている。それぞれの細胞凝集塊の大きさについての割合の総数が100%となる。
【0092】
図16はpoly(Lys−Pro)の濃度が1.0mg/mlの場合のグラフであり、図17はpoly(Lys−Pro)の濃度が0.5mg/mlの場合のグラフであり、図18はpoly(Lys−Pro)の濃度が0.2mg/mlの場合のグラフであり、図19はpoly(Lys−Pro)の濃度が0.1mg/mlの場合のグラフである。
【0093】
図16においては、大きさ30〜45μmの範囲の細胞凝集塊が多く存在しており、図17においては、大きさ40〜65μmの範囲の細胞凝集塊が多く存在しており、図18においては、大きさ30〜70μmの範囲に平均的に分布して細胞凝集塊が存在しており、図19においては、大きさ20〜35μmの範囲の細胞凝集塊が多く存在していた。
【0094】
(試験例8)
本試験例は、細胞凝集塊を形成している細胞の生死を判別する試験についての試験例である。
【0095】
本試験例においては、96ウェルプレートにおいて細胞凝集塊を形成している各ウェル中、濃度0.5mg/mlのpoly(Lys−Pro)を添加したウェルにおける細胞凝集塊を、図20に示すようにピペッティングにより物理的に回収し、図21に示すようにEMEM血清含有培地で培養し、24時間毎に細胞凝集塊の形態を顕微鏡によって観察した。
【0096】
その結果を図22〜25に示す。図22は播種直後の顕微鏡写真であり、図23は2日後の顕微鏡写真であり、図24は4日後の顕微鏡写真であり、図25は6日後の顕微鏡写真である。図22〜25からも明らかなように、播種直後に比べて2日後には細胞凝集塊が大きくなっていた。4日後、6日後には、細胞凝集塊の大きさに変化はなかった。ただし、図25では、細胞凝集塊の中心部が黒化しており、細胞凝集塊の中心部の細胞は死滅していると認められる。
【0097】
(試験例9)
本試験例は、細胞凝集塊崩壊後の細胞の生存率についての試験例である。96ウェルプレートにおいて、細胞凝集塊を形成している各ウェルにトリプシン処理を行い、図26に示すようにエリスロシンを用いて生死細胞を染色し、図27に示すように、セルカウンターにより生存率を算出した。
【0098】
その生存率の試験結果を図28のグラフに示す。図28のグラフでは、細胞凝集塊の形成が認められたpoly(Lys−Pro)、bpoly(Lys−Pro)、及びpoly(Lys)を添加した場合であって、濃度1.0mg/ml、0.5mg/ml、0.2mg/ml、0.1mg/mlの4種類のものについて、細胞の生存率を示した。
【0099】
図28からも明らかなように、poly(Lys−Pro)を添加したウェルの細胞凝集塊については、4種類のいずれの濃度のものに関しても生存率が80%を超えていた。またbpoly(Lys−Pro)を添加したウェルの細胞凝集塊については、4種類のいずれの濃度のものに関しても、生存率は75〜80%程度であった。さらにpoly(Lys)を添加したウェルの細胞凝集塊については、濃度1.0mg/ml及び0.5mg/mlのものは生存率が70%を少し超えていたが、濃度0.2mg/ml及び0.1mg/mlのものは生存率が65%程度であった。
【0100】
〔総括〕
以上の試験例8及び試験例9の結果を総括すると、上記試験例8では、poly(Lys−Pro)を添加したウェルにおける細胞凝集塊の中心部に、6日後の観察で、中心部に死滅していると認められる部分が存在したが、試験例9の細胞凝集塊崩壊後の細胞の生存率の試験では、生存率が80%を超え、bpoly(Lys−Pro)を添加した場合やpoly(Lys)を添加した場合に比べて良好な結果となっていた。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リシンとプロリンを、次式(1)で示すように構成繰り返し単位として含むことを特徴とする細胞凝集塊誘導用ペプチド。
(Lys−Pro)n ・・・(1)
(ただし、nは9以上、30以下の整数である。)
【請求項2】
リシンとプロリンを、次式(2)で示すように構成繰り返し単位として含むことを特徴とする細胞凝集塊誘導用ペプチド。
(Lys−Pro−(H−Lys−Pro)mLys−Pro)n ・・・(2)
(ただし、mは2以上、10以下の整数、nは3以上、30以下の整数である。)
【請求項3】
請求項1記載の細胞凝集塊誘導用ペプチドを、培養細胞の培地に添加して細胞凝集塊を形成することを特徴とする細胞凝集塊の形成方法。
【請求項4】
請求項2記載の細胞凝集塊誘導用ペプチドを、培養細胞の培地に添加して細胞凝集塊を形成することを特徴とする細胞凝集塊の形成方法。
【請求項5】
リシンを、次式(3)で示すように構成繰り返し単位として含む細胞凝集塊誘導用ペプチドを、培養細胞の培地に添加して細胞凝集塊を形成することを特徴とする細胞凝集塊の形成方法。
(Lys)n ・・・(3)
(ただし、nは9以上、30以下の整数である。)
【請求項1】
リシンとプロリンを、次式(1)で示すように構成繰り返し単位として含むことを特徴とする細胞凝集塊誘導用ペプチド。
(Lys−Pro)n ・・・(1)
(ただし、nは9以上、30以下の整数である。)
【請求項2】
リシンとプロリンを、次式(2)で示すように構成繰り返し単位として含むことを特徴とする細胞凝集塊誘導用ペプチド。
(Lys−Pro−(H−Lys−Pro)mLys−Pro)n ・・・(2)
(ただし、mは2以上、10以下の整数、nは3以上、30以下の整数である。)
【請求項3】
請求項1記載の細胞凝集塊誘導用ペプチドを、培養細胞の培地に添加して細胞凝集塊を形成することを特徴とする細胞凝集塊の形成方法。
【請求項4】
請求項2記載の細胞凝集塊誘導用ペプチドを、培養細胞の培地に添加して細胞凝集塊を形成することを特徴とする細胞凝集塊の形成方法。
【請求項5】
リシンを、次式(3)で示すように構成繰り返し単位として含む細胞凝集塊誘導用ペプチドを、培養細胞の培地に添加して細胞凝集塊を形成することを特徴とする細胞凝集塊の形成方法。
(Lys)n ・・・(3)
(ただし、nは9以上、30以下の整数である。)
【図1】
【図2】
【図3】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図26】
【図27】
【図28】
【図4】
【図5】
【図6】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図2】
【図3】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図26】
【図27】
【図28】
【図4】
【図5】
【図6】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【公開番号】特開2011−20961(P2011−20961A)
【公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−168070(P2009−168070)
【出願日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【出願人】(399030060)学校法人 関西大学 (208)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【出願人】(399030060)学校法人 関西大学 (208)
【Fターム(参考)】
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