説明

細胞処理装置および細胞処理方法

【課題】移動時における細胞の損傷を防止して、細胞の生存率および回収率を向上することができる細胞処理装置を提供する。
【解決手段】細胞懸濁液Aとアルギン酸Bとの混合液を収容する処理容器12と、アルカリ性溶液Eを収容するアルカリ性溶液容器20と、アルカリ性溶液E中に混合液を滴下して混合液をゲル化する液滴下部16と、アルカリ性溶液容器20に接続されたチューブ25と、チューブ25に設けられ、アルカリ性溶液容器20中のゲル状の混合液を搬送するチュービングポンプP2とを備える細胞処理装置1を採用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞処理装置および細胞処理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、脂肪組織等の生体組織を消化酵素液とともに攪拌することにより消化し、得られた細胞懸濁液を遠心分離機によって濃縮することにより、脂肪由来細胞を回収する細胞処理装置が知られている(例えば、特許文献1および2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2005/012480号
【特許文献2】特開2008−220319号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記の特許文献1および2に開示されている細胞処理装置では、チューブとチュービングポンプを使用して、細胞の入った液体を容器間で移動させる。この場合、細胞には液体が移動するたびにせん断応力が加えられることとなるため、細胞の損傷が起こる。その結果、細胞の生存率の低下や、回収量の減少を招くという不都合がある。
【0005】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであって、移動時における細胞の損傷を防止して、細胞の生存率および回収率を向上することができる細胞処理装置および細胞処理方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明は以下の手段を提供する。
本発明の第1の態様は、細胞懸濁液とアルギン酸との混合液を収容する細胞懸濁液容器と、アルカリ性溶液を収容するアルカリ性溶液容器と、前記アルカリ性溶液中に前記混合液を滴下して前記混合液をゲル化する液滴下手段と、前記アルカリ性溶液容器に接続された管路と、該管路に設けられ、前記アルカリ性溶液容器中のゲル状の前記混合液を搬送する搬送手段とを備える細胞処理装置である。
【0007】
本発明の第1の態様によれば、液滴下手段により、細胞懸濁液容器内の細胞懸濁液とアルギン酸との混合液が、アルカリ性溶液容器内のアルカリ性溶液中に滴下され、該混合液がゲル化される。このようにゲル化された混合液は、搬送手段によりアルカリ性溶液容器から管路を通って搬送される。
【0008】
このようにすることで、細胞懸濁液中の細胞をアルギン酸で包み込むようにゲル化して、搬送手段により管路内を移動させることができる。これにより、細胞懸濁液中の細胞を、搬送手段からのせん断力や管路内壁からの摩擦力等を与えることなく搬送することができる。これにより、搬送時における細胞へのダメージを低減することができ、細胞の生存率および回収率を向上することができる。
【0009】
上記の第1の態様において、前記搬送手段により搬送されたゲル状の前記混合液を溶解させる酸性溶液を供給する酸性溶液供給手段を備えることとしてもよい。
このようにすることで、搬送手段により管路中を搬送された後に、酸性溶液供給手段により酸性溶液を供給することによって、ゲル状の混合液を溶解させることができ、ゲル内に封入されていた細胞を放出することができる。
【0010】
上記の第1の態様において、前記管路の他端側に接続され、前記酸性溶液供給手段により酸性溶液が供給された前記混合液中の細胞懸濁液を濃縮する濃縮部を備えることとしてもよい。
このようにすることで、酸性溶液により溶解された混合液中の細胞懸濁液を、濃縮部により濃縮することができ、濃縮された細胞懸濁液の中から細胞を効率的に回収することができる。
【0011】
上記の第1の態様において、前記濃縮部により濃縮された細胞懸濁液に洗浄液を供給する洗浄液供給手段を備えることとしてもよい。
このようにすることで、細胞懸濁液に対して洗浄液供給手段による洗浄液の供給と濃縮部による濃縮を行うことによって、細胞懸濁液中の消化酵素等の不純物を除去することができ、細胞の収率を向上することができる。
【0012】
上記の第1の態様において、前記アルカリ性溶液容器からアルカリ性溶液を排出する排液手段と、前記アルカリ性溶液容器内に輸液を供給する輸液供給手段とを備えることとしてもよい。
このようにすることで、排液手段によりアルカリ性溶液容器からアルカリ性溶液を排出した後、輸液供給手段により輸液を供給することによって、管路内を輸液とゲル状の混合液とで搬送することができる。これにより、ゲル状の混合液を溶解させるために供給する酸性溶液が、アルカリ性溶液の中和のために使用されてしまうことを防止することができ、供給する酸性溶液の量を減らすことができる。
【0013】
本発明の第2の態様は、生体組織を消化して細胞懸濁液を生成する消化工程と、該消化工程により生成された細胞懸濁液とアルギン酸との混合液をアルカリ性溶液中に滴下して前記混合液をゲル化する液滴下工程と、該液滴下工程によりゲル化された前記混合液を管路中で搬送する搬送工程とを含む細胞処理方法である。
【0014】
本発明の第2の態様によれば、消化工程により生成された細胞懸濁液とアルギン酸との混合液が、液滴下工程において、アルカリ性溶液中に滴下されてゲル化される。このようにゲル化された混合液は、搬送工程において管路中を搬送される。
【0015】
このようにすることで、細胞懸濁液中の細胞をアルギン酸で包み込むようにゲル化して、管路内を移動させることができる。これにより、細胞懸濁液中の細胞を、搬送工程における、例えばポンプからのせん断力や管路内壁からの摩擦力等を与えることなく搬送することができ、搬送工程における細胞へのダメージを低減することができる。
【0016】
上記の第2の態様において、前記搬送工程により搬送されたゲル状の前記混合液を溶解させる酸性溶液を供給する酸性溶液供給工程を含むこととしてもよい。
このようにすることで、搬送工程により管路中を搬送された後に、酸性溶液供給工程において酸性溶液を供給することによって、ゲル状の混合液を溶解させることができ、ゲル内に封入されていた細胞を放出することができる。
【0017】
上記の第2の態様において、前記酸性溶液供給工程において溶解された前記混合液中の細胞懸濁液を遠心分離して濃縮する濃縮工程を含むこととしてもよい。
このようにすることで、酸性溶液供給工程において溶解された混合液の中の細胞懸濁液を遠心分離して濃縮することができ、濃縮した細胞懸濁液の中から細胞を効率的に回収することができる。
【0018】
上記の第2の態様において、前記濃縮工程において濃縮された細胞懸濁液に洗浄液を供給する洗浄工程を含むこととしてもよい。
このようにすることで、細胞懸濁液に対して洗浄液の供給と濃縮を行うことによって、細細胞懸濁液中の消化酵素等の不純物を除去することができ、細胞の収率を向上することができる。
【0019】
上記の第2の態様において、前記液滴下工程により前記混合液をゲル化した後にアルカリ性溶液を排出する排液工程と、該排液工程によりアルカリ性溶液が排出された後に輸液を供給する輸液供給工程とを含むこととしてもよい。
このようにすることで、排液工程によりアルカリ性溶液を排出するとともに、輸液供給工程により輸液を供給することによって、管路内を輸液とゲル状の混合液とで搬送することができる。これにより、ゲル状の混合液を溶解させるために供給する酸性溶液が、アルカリ性溶液の中和のために使用されてしまうことを防止することができ、供給する酸性溶液の量を減らすことができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、移動時における細胞の損傷を防止して、細胞の生存率や回収率を向上することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の一実施形態に係る細胞処理装置を示す全体構成図である。
【図2】図1の細胞処理装置によりゲル化された混合液のイメージ図である。
【図3】図1の変形例に係る液滴下部の部分拡大図である。
【図4】図1の変形例に係る液滴下部の部分拡大図である。
【図5】図1のアルカリ性溶液容器の部分拡大図である。
【図6】図1の細胞処理装置により実行される細胞処理を示すフローチャートである。
【図7】図6の変形例に係る細胞処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の一実施形態に係る細胞処理装置について、図面を参照して説明する。
本実施形態に係る細胞処理装置1は、図1に示されるように、生体組織を消化して細胞懸濁液を生成する組織消化部10と、アルカリ性溶液を収容するアルカリ性溶液容器20と、細胞懸濁液を遠心分離する遠心分離機(濃縮部)30と、後述する各容器41〜46と、これらを接続するチューブ(管路)21〜28と、チューブ21〜28に設けられたチュービングポンプP1〜P3と、チューブ21〜28に設けられたバルブV1〜V8とを備えている。
【0023】
組織消化部10は、図1に示されるように、脂肪組織等の生体組織を消化処理するための装置であり、脂肪組織を収容する処理容器(細胞懸濁液容器)12と、処理容器12内に配置されたフィルタ13と、処理容器12が載置された振とう機14と、処理容器12の底部に接続された配管15とを備えている。
【0024】
処理容器12は、円筒状の容器であり、生体から採取された脂肪組織と脂肪組織を消化する消化酵素液との混合液を収容するようになっている。処理容器12は、底面12aが一方向に傾斜し、底面12aの最も低い位置に、配管15に接続される排出口12bが開口している。また、処理容器12は、上部が蓋12cにより塞がれており、蓋12cには、処理容器12内にアルギン酸Bを投入するためのアルギン酸投入口12dが設けられている。
【0025】
処理容器12内では、消化酵素液による脂肪組織の消化の進行とともに、脂肪組織を構成する脂肪由来細胞等(細胞D)が単離されて浮遊し、細胞懸濁液Aが生成される。また、処理容器12の周囲には、シートヒータ(図示略)が設けられ、処理容器12内を約37℃に保温するようになっている。
【0026】
フィルタ13は、脂肪組織よりも小さく細胞Dよりも大きな径の孔を多数有しており、底面12aの上方に略水平に配置されて、排出口12bを覆っている。これにより、脂肪組織は、体内から採取されたままの状態では排出口12bからの排出が制限され、消化酵素液により細胞Dが単離された状態において、フィルタ13の孔を通過して排出口12bから排出されるようになっている。
【0027】
振とう機14は、処理容器12を所定の円周軌道に沿って水平回転させるようになっている。振とう機14を作動させると、振とう機14に載置された処理容器12が所定の円周軌道に沿って水平回転させられる。これにより、脂肪組織が消化酵素液内において撹拌させられて、脂肪組織の消化が促進される。そして、振とう機14を停止して処理容器12を静置すると、比重の差により、消化された脂肪組織が上層に、脂肪組織から分離された細胞Dを含む消化酵素液、すなわち細胞懸濁液Aが下層に層分離させられる。
【0028】
このように生成された細胞懸濁液Aに対して、アルギン酸投入口12dからアルギン酸Bが投入される。この細胞懸濁液Aとアルギン酸Bとの混合液Cは、フィルタ13の孔を通過して排出口12bから配管15に流入する。
【0029】
配管15の途中位置にはバルブV1が設けられており、配管15の先端には液を滴下する液滴下部(液滴下手段)16が形成されている。これにより、配管15に流入した細胞懸濁液Aとアルギン酸Bとの混合液Cは、バルブV1を開くことにより、配管15の先端に形成された液滴下部16から、アルカリ性溶液容器20に滴下される。
【0030】
アルカリ性溶液容器20は、組織消化部10の下方に配置されており、配管15の先端に形成された液滴下部16が内部に挿入され、液滴下部16から液体が滴下されるようになっている。アルカリ性溶液容器20内には、例えば水酸化ナトリウム水溶液等のアルカリ性溶液が貯留されている。このアルカリ性溶液容器20内に細胞懸濁液Aとアルギン酸Bとの混合液Cを滴下することで、この混合液Cは、図2に示すように、細胞懸濁液A中の細胞Dをアルギン酸Bで包み込むようにゲル化する。
【0031】
なお、混合液Cをアルカリ性溶液中に滴下する方法として、図3に示すように、バルブV1に代えて、配管15の途中位置にポンプP4を設け、このポンプP4により流量を制御して液滴下部16からアルカリ性溶液容器20内に滴下することとしてもよい。
また、図4に示すように、液滴下部16の先端開口に複数の孔を設けることとしてもよい。このようにすることで、より細かくアルカリ性溶液容器20内に滴下する混合液Cの流量を制御することができ、ゲル状の混合液Cを所望の大きさとすることができる
【0032】
アルカリ性溶液容器20には、チューブ21が挿入されており、図5に示すように、その先端がアルカリ性溶液容器20の底部近傍に開口している。このようにすることで、チューブ21からゲル状の混合液Cを排出することなく、アルカリ性溶液容器20内の液体を排出することができる。なお、チューブ21の先端とアルカリ性溶液容器20の底部との距離Xは、ゲル状の混合液Cの径Yよりも小さく設定すればよく(すなわちX<Y)、例えば10mm以下に設定する。
【0033】
チューブ21は、途中位置においてチューブ22,23,24に分岐している。チューブ22,23,24は、それぞれ、輸液を収容する輸液容器41、アルカリ性溶液を収容するアルカリ性溶液容器42、廃液を収容する廃液容器43に接続されている。また、チューブ21にはチュービングポンプ(排液手段、輸液供給手段)P1が設けられ、チューブ22,23,24には、それぞれバルブV2,V3,V4が設けられている。
【0034】
チュービングポンプP1〜P3は、複数のローラ(図示略)によりチューブを押しつぶしながら回転させることで、チューブ内の液体を送るようになっている。チュービングポンプP1〜P3は、正逆運転が可能であり、回転方向を変えることで給液および排液を行うことができるようになっている。
【0035】
上記構成を有することで、バルブV2を開くとともに、チュービングポンプP1を正回転させることで、アルカリ性溶液容器20内に輸液容器41から輸液を供給することができる。ここで、輸液は、例えば乳酸リンゲル液や生理食塩水であり、生体適合性を有し、ゲル状の混合液Cをチューブ25内を搬送するための供給される液体である。
【0036】
また、バルブV3を開くとともに、チュービングポンプP1を正回転させることで、アルカリ性溶液容器20内にアルカリ性溶液容器42からアルカリ性溶液を供給することができる。
【0037】
また、バルブV4を開くとともに、チュービングポンプP1を逆回転させることで、廃液容器43にアルカリ性溶液容器20内の廃液を排出することができる。ここで、図1に示すように、アルカリ性溶液容器42の重量を測定するロードセル11を設け、ロードセル11により測定された重量に基づいて、アルカリ性溶液の供給および排出を行うこととしてもよい。
【0038】
アルカリ性溶液容器20の底部には、チューブ25が接続されている。チューブ25の他端側は、遠心分離機30に接続されている。チューブ25の途中位置には、チュービングポンプ(搬送手段)P2が設けられている。このような構成を有することで、アルカリ性溶液容器20内のゲル状の混合液Cは、チュービングポンプP2を作動させることで、チューブ25を通って遠心分離機30の遠心分離容器31a,31b内に送られる。
【0039】
遠心分離機30は、2つの遠心分離容器31a,31bと、これら遠心分離容器31a,31bに接続されたロータ32と、ロータ32を回転駆動させるモータ35とを備えている。
遠心分離容器31a,31b内には、アルカリ性溶液容器20内においてゲル化された混合液C(細胞懸濁液Aとアルギン酸Bとの混合液)が収容される。また、各遠心分離容器31a,31b内には、チューブ25a,25bがそれぞれ挿入されている。
【0040】
ロータ32は、モータ35により鉛直方向の軸線回りに回転駆動させられる支柱33と、支柱33から半径方向外方に延びた2本のアーム34と備えている。
アーム34の両端には、遠心分離容器31a,31bが、水平方向の軸線回りに揺動可能に支持されている。
【0041】
上記構成を有することで、モータ35によりロータ32を回転駆動させると、遠心分離容器31a,31bが、鉛直方向の軸線回りに一体的に回転させられる。そして、遠心力により、遠心分離容器31a,31bの底部が支柱33から離間する方向へ揺動し、底部を半径方向外方に向けて回転させられる。これにより、遠心分離容器31a,31b内の細胞懸濁液Aは、比重の違いによりその成分が遠心分離される。具体的には、遠心分離容器31a,31bの底部最下層には比重の大きな細胞Dが集められ、その上層には脂質や血漿等の上清が集められる。
【0042】
各遠心分離容器31a,31bに接続されたチューブ25a,25bの他端は、支柱33内の管路を介して遠心分離機30の外部に接続されている。支柱33のチューブ接続部には、例えばロータリージョイントが採用されており、支柱33が回転しても、支柱33に接続されたチューブが捩じれることなく、遠心分離容器31a,31bへの給排液が可能になっている。
【0043】
また、遠心分離機30(チューブ25)には、チューブ26が接続されている。
チューブ26は、途中位置においてチューブ27,28に分岐しており、チューブ26,27,28には、それぞれ、洗浄液を貯留する洗浄液槽44と、廃液を貯留する廃液槽45と、酸性溶液を貯留する酸性溶液貯留槽46とが接続されている。また、チューブ26にはチュービングポンプ(酸性溶液供給手段、洗浄液供給手段)P3が設けられ、チューブ26,27,28には、それぞれバルブV6,V7,V8が設けられている。
【0044】
上記構成を有することで、バルブV6を開くとともに、チュービングポンプP3を正回転させることで、遠心分離容器31a,31b内に洗浄液槽44から洗浄液を供給することができる。また、バルブV7を開くとともに、チュービングポンプP3を逆回転させることで、廃液槽45に遠心分離容器31a,31b内の廃液を排出することができる。また、バルブV8を開くとともに、チュービングポンプP1を正回転させることで、遠心分離容器31a,31b内に酸性溶液貯留槽46から酸性溶液を供給することができる。ここで、酸性溶液は、例えば塩酸であり、ゲル状の混合液Cを溶解させるために供給される液体である。
【0045】
上記構成を有する細胞処理装置1の作用について、図6に示すフローチャートを用いて以下に説明する。
まず、処理容器12内の脂肪組織の消化を行う(消化工程)。
具体的には、処理容器12内に生体内から採取した脂肪組織と消化酵素液を投入し、振とう機14を作動させて、処理容器12内で脂肪組織と消化酵素液とを攪拌させて、消化酵素による脂肪組織の消化を促進する。そして、振とう機14を停止して放置することにより、処理容器12内の脂肪組織を2層(上層は成熟脂肪組織、下層は消化後の細胞懸濁液A)に分離する。
【0046】
次に、このように生成された細胞懸濁液A中にアルギン酸Bを投入する(ステップS1)。
具体的には、処理容器12の蓋12cに設けられたアルギン酸投入口12dから、処理容器12中にアルギン酸Bを投入し、振とう機14を作動させて、処理容器12内で細胞懸濁液Aとアルギン酸Bとを攪拌して、混合液Cを生成する。
【0047】
次に、このように生成された混合液Cをアルカリ性溶液中に滴下する(ステップS2:液滴下工程)。
具体的には、バルブV1を開いて液滴下部16から、処理容器12内の細胞懸濁液Aとアルギン酸Bとの混合液Cを、アルカリ性溶液容器20内に滴下する。
【0048】
これにより、アルカリ性溶液中において、細胞懸濁液Aとアルギン酸Bとの混合液Cは、図2に示すように、細胞懸濁液A中の細胞Dをアルギン酸Bで包み込むようにゲル化する(ステップS3)。
【0049】
次に、アルカリ性溶液容器20内のアルカリ性溶液を排液する(ステップS4:排液工程)。
具体的には、バルブV4を開くとともに、チュービングポンプP1を逆回転させて、廃液容器43にアルカリ性溶液容器20内のアルカリ性溶液を排出する。
【0050】
次に、アルカリ性溶液容器20内に輸液を供給する(ステップS5:輸液供給工程)。
具体的には、バルブV2を開くとともに、チュービングポンプP1を正回転させ、アルカリ性溶液容器20内に輸液容器41から輸液を供給する。
【0051】
次に、アルカリ性溶液容器20内の輸液とゲル状の混合液Cを遠心分離容器31a,31b内に搬送する(ステップS6:搬送工程)。
具体的には、バルブV5を開くとともに、チュービングポンプP2を正回転させ、アルカリ性溶液容器20内の輸液とゲル状の混合液Cを遠心分離容器31a,31b内に搬送する。
【0052】
次に、遠心分離容器31a,31b内に酸性溶液を供給する(ステップS7:酸性溶液供給工程)。
具体的には、バルブV8を開くとともに、チュービングポンプP3を正回転させ、酸性溶液貯留槽46から酸性溶液を遠心分離容器31a,31b内に供給する。これにより、ゲル状の混合液Cが溶解され、ゲル内に封入されていた細胞Dが放出されて細胞懸濁液Aが生成される。
【0053】
次に、このように生成された細胞懸濁液Aを遠心分離して濃縮する(ステップS8:濃縮工程)。
具体的には、モータ35を作動させ、遠心分離容器31a,31bを底部が半径方向外方に向かうように回転させる。これにより、遠心分離容器31a,31b内の細胞懸濁液Aは、その成分の比重の差によって細胞Dと上澄み液とに遠心分離される。次に、モータ35を停止して遠心回転を止めた後、バルブV7を開くとともに、チュービングポンプP3を逆回転させ、遠心分離容器31a,31b内の上澄み液を廃液槽45に排出する。これにより、細胞懸濁液Aの濃縮が行われる。
【0054】
次に、このように濃縮された細胞懸濁液Aを洗浄する(ステップS9:洗浄工程)。
具体的には、バルブV6を開くとともに、チュービングポンプP3を正回転させ、洗浄液槽44から洗浄液を遠心分離容器31a,31b内に供給する。これにより、濃縮された細胞懸濁液Aは洗浄液中に再懸濁し、内部に含まれていた消化酵素等の不純物が洗浄液中に放出される。
【0055】
そして、モータ35を作動させ、遠心分離容器31a,31bを底部が半径方向外方に向かうように回転させる。これにより、遠心分離容器31a,31b内の細胞懸濁液Aは、その成分の比重の差によって細胞Dと上澄み液とに遠心分離される。
【0056】
次に、モータ35を停止して遠心回転を止めた後、バルブV7を開くとともに、チュービングポンプP3を逆回転させ、遠心分離容器31a,31b内の上澄み液を廃液槽45に排出する。
上記の動作を複数回繰り返すことで、遠心分離容器31a,31bの細胞懸濁液Aの洗浄が行われる。
そして、このように洗浄および濃縮された細胞懸濁液Aを最終生成物として回収する。
【0057】
以上のように、本実施形態に係る細胞処理装置1によれば、液滴下部16により、処理容器12内の細胞懸濁液Aとアルギン酸Bとの混合液Cが、アルカリ性溶液容器20内のアルカリ性溶液E中に滴下され、混合液Cがゲル化される。このようにゲル化された混合液Cは、チュービングポンプP2によりアルカリ性溶液容器20からチューブ25を通って搬送される。
【0058】
このようにすることで、細胞懸濁液A中の細胞Dをアルギン酸Bで包み込むようにゲル化して、チュービングポンプP2によりチューブ25内を移動させることができる。これにより、細胞懸濁液A中の細胞Dを、チュービングポンプP2からのせん断力やチューブ25内壁からの摩擦力等を与えることなく搬送することができる。これにより、搬送時における細胞Dへのダメージを低減することができ、細胞Dの生存率および回収率を向上することができる。
【0059】
また、チュービングポンプP2によりチューブ25中を搬送された後に、遠心分離容器31a,31b内に酸性溶液を供給することによって、遠心分離容器31a,31b内においてゲル状の混合液Cを溶解させることができ、ゲル内に封入されていた細胞Dを放出することができる。
【0060】
また、酸性溶液により溶解された混合液C中の細胞懸濁液Aを、遠心分離機30により濃縮することができ、濃縮された細胞懸濁液Aの中から細胞Dを効率的に回収することができる。
【0061】
また、細胞懸濁液Aに対して、遠心分離機30において洗浄液の供給と濃縮を行うことによって、細胞懸濁液A中の消化酵素等の不純物を除去することができ、細胞Dの品質を向上することができる。
【0062】
また、チュービングポンプP1によりアルカリ性溶液容器20からアルカリ性溶液Eを排出した後、チュービングポンプP1により輸液を供給することによって、チューブ25内を輸液とゲル状の混合液Cとで搬送することができる。これにより、ゲル状の混合液Cを溶解させるために遠心分離容器31a,31b内に供給する酸性溶液が、アルカリ性溶液Eの中和のために使用されてしまうことを防止することができ、供給する酸性溶液の量を減らすことができる。
【0063】
なお、本実施形態に係る細胞処理装置1において、図7に示すように、混合液Cをゲル化した後(ステップS3)、ステップS4に示す排液工程およびステップS5に示す輸液供給工程を行わずに、混合液Cとアルカリ性溶液Eとを遠心分離容器31a,31b内に搬送する(ステップS6)こととしてもよい。
この場合には、搬送後に遠心分離容器31a,31bに供給する酸性溶液の量は多く必要となるものの、アルカリ性溶液Eを輸液として機能させて、遠心分離容器31a,31bにゲル状の混合液Cを搬送することができる。
【0064】
以上、本発明の実施形態について図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等も含まれる。
【符号の説明】
【0065】
1 細胞処理装置
10 組織消化部
11 ロードセル
12 処理容器(細胞懸濁液容器)
13 フィルタ
14 振とう機
15 配管
16 液滴下部(液滴下手段)
20 アルカリ性溶液容器
30 遠心分離機(濃縮部)
21〜28 チューブ(管路)
A 細胞懸濁液
B アルギン酸
C 混合液
D 細胞
E アルカリ性溶液
P1 チュービングポンプ(排液手段、輸液供給手段)
P2 チュービングポンプ(搬送手段)
P3 チュービングポンプ(酸性溶液供給手段、洗浄液供給手段)
V1〜V8 バルブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞懸濁液とアルギン酸との混合液を収容する細胞懸濁液容器と、
アルカリ性溶液を収容するアルカリ性溶液容器と、
前記アルカリ性溶液中に前記混合液を滴下して前記混合液をゲル化する液滴下手段と、
前記アルカリ性溶液容器に接続された管路と、
該管路に設けられ、前記アルカリ性溶液容器中のゲル状の前記混合液を搬送する搬送手段とを備える細胞処理装置。
【請求項2】
前記搬送手段により搬送されたゲル状の前記混合液を溶解させる酸性溶液を供給する酸性溶液供給手段を備える請求項1に記載の細胞処理装置。
【請求項3】
前記管路の他端側に接続され、前記酸性溶液供給手段により酸性溶液が供給された前記混合液中の細胞懸濁液を濃縮する濃縮部を備える請求項2に記載の細胞処理装置。
【請求項4】
前記濃縮部により濃縮された細胞懸濁液に洗浄液を供給する洗浄液供給手段を備える請求項3に記載の細胞処理装置。
【請求項5】
前記アルカリ性溶液容器からアルカリ性溶液を排出する排液手段と、
前記アルカリ性溶液容器内に輸液を供給する輸液供給手段とを備える請求項1から4のいずれかに記載の細胞処理装置。
【請求項6】
生体組織を消化して細胞懸濁液を生成する消化工程と、
該消化工程により生成された細胞懸濁液とアルギン酸との混合液をアルカリ性溶液中に滴下して前記混合液をゲル化する液滴下工程と、
該液滴下工程によりゲル化された前記混合液を管路中で搬送する搬送工程とを含む細胞処理方法。
【請求項7】
前記搬送工程により搬送されたゲル状の前記混合液を溶解させる酸性溶液を供給する酸性溶液供給工程を含む請求項6に記載の細胞処理方法。
【請求項8】
前記酸性溶液供給工程において溶解された前記混合液中の細胞懸濁液を遠心分離して濃縮する濃縮工程を含む請求項7に記載の細胞処理方法。
【請求項9】
前記濃縮工程において濃縮された細胞懸濁液に洗浄液を供給する洗浄工程を含む請求項8に記載の細胞処理方法。
【請求項10】
前記液滴下工程により前記混合液をゲル化した後にアルカリ性溶液を排出する排液工程と、
該排液工程によりアルカリ性溶液が排出された後に輸液を供給する輸液供給工程とを含む請求項6から9のいずれかに記載の細胞処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−55256(P2012−55256A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−203001(P2010−203001)
【出願日】平成22年9月10日(2010.9.10)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】