説明

細胞分離方法

【課題】敗血症患者血液に含まれる大量の血球を安価かつ簡便に、加えて確実に分離除去して、極微量に含まれる敗血症起因菌を高効率に回収する事が目的である。更には、本発明により、敗血症起因菌の遺伝子検査の高感度化に供与する事が目的である。
【解決手段】脂質二重膜に対して親和性である、疎水性部分と親水性部分とを含む化合物を、担体に固定する工程と、動物細胞と病原体とを含む検体を前記担体に接触させて、前記動物細胞を前記担体に固定する工程と、を含むことを特徴とする動物細胞を検体から分離除去する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、動物細胞を検体から分離する方法に関する。より詳細には、脂質二重膜に親和性を有する担体を用いた、血球細胞と細菌の高精度な分離方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
細菌に起因する感染症の中でも、その症状の重篤性および迅速性の観点から菌血症および敗血症の診断方法、治療方法の改良が強く望まれている。
【0003】
菌血症、敗血症の治療としては、起因菌に対する抗生物質や抗真菌薬等を投与することが第一であるが、そのためには敗血症の正しい診断と起因菌の同定が重要である。現在、一般的には患者から採血した血液を適当な培地に混合し、インキュベーションして菌の発育を確認する血液培養法が行われている。血液培養法では、ある程度の菌数まで増菌しなければ判定できないため、判定までに1〜数日の時間かかる。採血時点では起因菌が好気性なのか嫌気性なのか真菌なのかも分かっておらず、それぞれに適した培地を選択することは困難であり、陽性率の低下につながっている。また、敗血症は迅速な治療が求められるために、起因菌の同定を待たずに抗生物質等の薬剤を投与されている場合が多く、採血した血液中に菌が含まれていたとしても、増菌せずに検出されないことが多い。これらの原因により、血液培養法の陽性率は非常に低い。
【0004】
さらに、血液培養では血中の菌の有無しか分からないことから、起因菌の同定には追加処理が必要である。一般的には、血液培養検体をさらにさまざまな選択培地に移植して同定培養を行うことが多い。また、培養液から特異的な抗体で検出する方法や、菌特有の遺伝子配列を検出する核酸分析方法が利用されることもある。これらの操作を加味すると、少なくとも検体採取から菌の選択的分離に1〜2日、増菌に1日、同定操作に1日以上、合計で3〜4日かかる。迅速・確実な診断が求められるにもかかわらず、従来の検査診断方法では十分対応できていなかったのが実情である。
【0005】
このような検査法に対して迅速化を目指して技術開発が行われており、血液から各種細菌の遺伝子を標的として当該菌を検出・同定する技術も開発されている。血液から直接または若干の培養を経て起因菌を検出および同定するために、血液培養法と比較して大幅な時間短縮が可能となっている(例えば特許文献1)。核酸検出法とは、検体から抽出した核酸を増幅して検出する方法である。一般的には、抽出された核酸に対して、特定菌種の持つ特異的な配列を増幅するためのプライマーセットを含んだ反応溶液でPCR反応を行って核酸増幅してその増幅産物を確認する(例えば特許文献2)。一方で、敗血症では起因菌の迅速同定が求められるので、広範囲の菌種を同時に検出する事が望ましい。そのため、広範囲の菌が有する遺伝子部位をPCRで核酸増幅し、菌種特異的な遺伝子配列のプローブとハイブリダイズさせて検出する方法も開発されている(例えば特許文献3)。
【0006】
しかし現状においては、血液培養法の性能を越えるような技術は確立されていない。時間や投与薬剤の影響等があるにも関わらず、血液培養法が未だに一般的である理由は、血液中に存在する菌数があまりにも少ないことである。
【0007】
遺伝子検査は血液培養と比較して非常に迅速に検出、同定が行われるメリットがある一方、血液培養よりも感度が低いために、未だ一般的な診断方法に活用されることが少ない。これは遺伝子検査に投入できる血液量が少ないことに起因する。血液培養では血液数ml〜20ml程度を培養するため、この中に活性をもつ菌が数菌含まれていれば検出できる可能性が高い。菌血症、敗血症の患者内血液の菌濃度は平均して数菌/mlといわれているので、血液培養液中には数菌含まれる可能性は高いと考えられる。一方で遺伝子検査ではせいぜい数百μl〜1ml程度の血液しか処理できないので、この中に含まれる菌数は非常に少ない。また、核酸増幅においてもある程度の菌数から開始しなければ検出可能な量まで遺伝子増幅されないことが多いため、数菌では十分に増幅できない可能性が高い。また、遺伝子検査では核酸増幅を行うが、この増幅工程に投入する総核酸量を数百ng程度に抑えることが望ましい。あまりに核酸量が多くなると増幅の効率が非常に低下する。血液には白血球等のヒトゲノム核酸を持つ細胞が多数存在しているために、遺伝子検査に利用できる血液量は多くても1ml程度に制限されている。血液培養と同程度の感度を達成するためには現状の数倍の血液から遺伝子抽出することが望ましいが、それではヒトゲノム由来の核酸量も増えてしまい、核酸増幅が正常に行われない。よって、血液中に含まれる菌体のみを分離することによって、検査に投入する検体量を増やす必要がある。
【0008】
一般的に溶液中の細菌を分離するためには、不織布を用いたフィルタレーション法や遠心分離が行われている。しかしながら、不織布を用いたフィルタレーションでは、血液成分の大部分を占める赤血球や白血球が即座に詰まってしまい、それらよりも微少な細菌を透過させなくしてしまうために有用ではなかった。また遠心分離では、血球と菌双方の密度が非常に似ているために正確に分離することが困難であった。このような問題を克服するためには、例えば、細胞表面抗原に結合する抗体を固定した担体を用いて目的の細胞をアフィニティ分離するような固相分離手法が有効である(例えば特許文献4)。このような抗体を固定した担体は、細胞種によって明確に異なる抗原の違いに基づくアフィニティ分離であるため、高い分離能(厳密な分離)が期待されるが、コストや分離効率の点で課題がある。具体的に述べると、抗体自体が非常に高価である事に加え、一般的に細胞種により抗原種、抗原の発現量が異なるので、血液中に含まれる血球をほぼ完全にトラップするためには、複数種の抗体を大量に使用する必要がある。更には、抗体は分子量の大きなタンパク質なので担体上の占有密度が低く高密度化には制限があるため、細胞と担体との十分な結合力を確保する事が困難である。よって、上述したような課題があるため、敗血症患者血液から血球細胞をトラップする手段として抗体固定担体を適用する事は現実的ではない。
【特許文献1】特開平05−049477号公報
【特許文献2】特開平06−070771号公報
【特許文献3】特開2004−313181号公報
【特許文献4】特開2005−253465号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記背景技術における課題(特に抗体固定担体を使用したアフィニティ分離法における課題)を解決するための細胞分離方法である。即ち、敗血症患者血液に含まれる大量の血球を安価かつ簡便に、加えて確実に分離除去して、極微量に含まれる敗血症起因菌を高効率に回収する事が目的である。更には、敗血症起因菌の遺伝子検査の高感度化に供与する事が目的である。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、脂質二重膜に親和性を有する物質を固定した担体を動物細胞と病原体を含む検体に接触して、前記担体に前記動物細胞を固定させる事により、動物細胞を高効率に分離除去でき、病原体を高効率に回収できることを見出した。
【0011】
脂質二重膜に親和性を有する物質とは、本発明において具体的には親水性−疎水性複合化合物を指す。親水性−疎水性複合化合物は、界面活性的な作用により脂質二重膜の親水性−疎水性界面に配向するように吸着すると考えられる。血球細胞に限らず、動物細胞は最表層が脂質二重膜であり、脂質二重膜の外表面の親水基は主にコリン(−CH2CH2+(CH33)等の小分子から成る。立体障害がほとんど無いので、効率良く親水性−疎水性複合化合物が脂質二重膜に界面吸着されると考えられる。一方、細菌はマイコプラズマ、ファイトプラズマなど一部の細菌を除き、ほぼ全ての細菌が細胞壁を有している。細菌はグラム陽性菌、グラム陰性菌と大きく二つに分類されるが、グラム陽性細菌の細胞壁では最表層が100nm程度の厚いペプチドグリカン層を有している。グラム陰性細菌の細胞壁では最表層がLPS(Lipopolysaccharide)となっている。グラム陽性菌、グラム陰性細菌は共に、脂質二重膜(内膜)は内部に包まれている状態にある。加えて、ペプチドグリカン、LPSは共に、分子構造から推測するに、親水的な物質と考えられる。つまり、細菌表面の細胞壁は立体障害が大きい親水的バリヤーとなっているので、前記化合物の疎水部分が内部の脂質二重膜へ到達する事が困難になり、菌体細胞壁にはアンカーリングされにくい事が期待できる。本発明者らは、細菌と血球細胞における最表面構造の違いに着目し、本発明の細胞アフィニティ分離方法に至った。
【0012】
脂質二重膜に親和性を有する物質は、K.Kato,et.al, Biotechnol.Prog.,20,897−904(2004)に記載のように、BAM(biocompatible anchor for cell membrane)試薬として公知である。具体的なBAM試薬の分子構造として、ポリエチレングリコール鎖とオレイル基が直鎖状に結合した分子のポリエチレングリコール鎖末端にNHS(N−ヒドロキシスクシンイミド)エステル基のような活性エステル基が修飾された化合物で紹介されている。上記文献では、BAM分子のNHS基に蛍光色素分子またはタンパクを修飾する事により、BAM分子がマウス細胞膜に修飾出来ている事が確認されている。
【0013】
また、上記BAM試薬を固定した担体も公知である(WO2003/074691)。この文献では、浮遊細胞やリン脂質小胞等を固相表面に固定化する、安価で簡便な方法として、疎水性鎖と親水性鎖を持つ担体に細胞を接触させて細胞を固定化する方法が記載されている。具体的には、上記BAM分子のNHS基を固相のアミノ基に結合させる事で細胞アレイ等を構築している。しかしながら、これら公知文献には、細胞表面の修飾や細胞を固定する手法が記載されているものの、本発明のようなアフィニティ分離手法に関する記述は一切見られない。
【0014】
また、本発明を完成させるにあたり、血球の高い除去率を保持したまま、より細菌の回収率を向上させる手法も考案した。
【0015】
第一には、親水性−疎水性複合化合物を固定した担体に、さらに表面処理、即ちアニオン化処理する事である。親水性−疎水性複合化合物を固定した担体と細菌が多少相互作用する事があっても、あらゆる細菌は負電荷を有しているので、上記担体の負電荷を大きくする事により静電的な反発が大きくなり、上記担体への細菌の望ましくない相互作用が低減できる。
【0016】
第二には、担体の単位面積あたりの細胞に作用する親水性−疎水性複合化合物の密度を調節する事である。細菌と親水性−疎水性複合化合物が相互作用しても、親水性−疎水性複合化合物が必要最低限の量に調節されていれば、それだけ細菌との相互作用も減るからである。その手法としては、一つは、親水性−疎水性複合化合物と親水化分子と競合的に担体に反応させる事である。単に、親水性−疎水性複合化合物の反応濃度を極度に減らせば、担体の単位面積あたりの親水性−疎水性複合化合物の数は減ると思われる。しかしながら、基材の表面が露呈してしまうので、その部分で細菌と相互作用してしまう可能性がある。よってその露呈した部分にペギレーション(PEGylation)試薬のような親水化分子が存在していれば、非特異吸着を防止できる。また、別手法として、親水性−疎水性複合化合物に結合する成分、具体的には血清(主にアルブミン)が検体に極微量存在していれば、細胞へ結合可能な担体上の親水性−疎水性複合化合物の数が減らせるので、細菌との望ましくない相互作用を防止する事が可能となる。
【0017】
親水性−疎水性複合化合物を固定する担体として磁性体を使用する場合、粒子状、網目状、繊維状、板状または多孔質体を用いる事が可能である。磁性体を用いない場合、親水性−疎水性複合化合物を固定する担体は、平面状(例えば基板のようなもの)でも良い。流体フロー系のデバイスを適用するのであれば、流路の壁面や、チャンバ壁面に親水性−疎水性複合化合物を固定して用いる事も可能である。
【発明の効果】
【0018】
本発明において、脂質二重膜に親和性のある物質を固定した担体は、ほぼ全種類の血球細胞表面に必ず存在する脂質二重膜に結合するので、1種類の担体を用いるだけでよい。抗体固体担体のように複数種類の担体を準備する必要が無いので、低コスト化が可能である。また、脂質二重膜に親和性のある物質は抗体よりも分子量が小さい物質を適用する事が可能なので、担体上の物質を抗体よりも高密度にする事ができる。したがって、抗体よりも細胞への十分な結合力が確保できる。以上の効果より、本発明の細胞分離方法は、安価且つ高効率に細菌と血球細胞のアフィニティ分離を達成する事が可能である。さらに上記担体のアニオン性度を高める事で、病原細菌の回収率向上が図れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
脂質二重膜に対して親和性である、疎水性部分と親水性部分とを含む化合物を、担体に固定する工程と、動物細胞と病原体とを含む検体を前記担体に接触させて、前記動物細胞を前記担体に固定する工程と、を含む方法により、動物細胞を検体から分離除去することができる。
【0020】
本発明において、脂質二重膜に親和性を有する物質とは、例えば疎水性部分と親水性部分とを含む化合物、即ち親水性−疎水性複合化合物である。具体的に言うならば、固相に固定可能な界面活性剤分子とも言える。一般的な界面活性剤の場合、ミセル化能を有するので細胞膜を破壊してしまうが、固定する事により界面活性剤分子が束縛され、ミセルを形成できなくなるので、細胞を破壊せずに担体に固定する事が可能となる。
【0021】
脂質二重膜に親和性を有する物質の具体的な化学構造として、細胞膜である脂質二重膜の疎水性部分にアンカーリング可能な疎水基を有している事が望ましい。それは、単鎖であっても複数鎖であってもよく、置換基を有していてもよい、飽和または不飽和の炭化水素鎖や複合脂質鎖から適宜選択される。たとえば、炭素数6〜22の範囲の飽和または不飽和の炭化水素鎖であって、ミリスチル基(C14)、パルミチル基(C16)、ステアリル基(C18)等の飽和アルキル基やオレイル基(CH3(CH2)7CH=CH(CH2)8)、等の不飽和炭化水素等が例示される。なかでもリノール基、リノレイル基等も含めた、炭素数14〜18のものが好適なものとして例示される。さらにリン脂質やコレステロールも例示される。さらに、これらの疎水性鎖は、N、S、O等のヘテロ原子や置換基を有していてもよい。なかでも生体膜を構成するリン脂質の一部であるオレイル基は好ましいものである。一方、親水性鎖は、蛋白質、オリゴペプチド、ポリペプチド、ポリアクリルアミド、ポリエチレングリコールおよびデキストラン等の多糖類、あるいはグリコール酸誘導体や乳酸誘導体、p−ジオキサン誘導体の重合体や共重合体等から選択される。生体適合性の点から、ポリエチレングリコール(PEG)が好ましい。このような親水性鎖は、さらに、官能基を有していたり、化学修飾されていてもよく、たとえば末端にコハク酸を結合してカルボキシル基としたり、NHS(N−ヒドロキシスクシンイミド)等の活性エステル基を有していてもよい。このように親水性鎖を化学修飾すると、親水性−疎水性複合化合物を固相へ結合する事が可能となる。親水基の長さは、例えばポリエチレングリコール鎖の場合、−(CH2CH2O)n−基はある程度の長さを必要とする。それは、膜タンパクが脂質二重膜の外表面から突き出た状態で存在しており、その突き出た分だけ立体障害の原因になるからである。具体的に必要な長さは、nが10以上が望ましい。
【0022】
本発明において脂質二重膜に親和性を有する物質を固定した担体に、さらに表面処理、即ちアニオン性化処理をすることを特徴とする。アニオン性化処理によって修飾されるアニオン性基は、アニオン性であれば種類を問わない。特にカルボキシル基(−COOH)、スルホン基(−SO3H)、またはこれらの官能基のナトリウム塩もしくはカリウム塩が好ましく適用できる。基材に存在している官能基がアミノ基であれば、アミノ基に反応する官能基であるNHS(ヒドロキシスクシンイミド)エステル基等の活性エステル、ホルミル基、カルボキシル基、イソシアネート基等を片方の末端に有し、もう片方の末端にはアニオン性基を有するホモまたはヘテロ架橋剤などを用いる事ができる。もしくは、無水コハク酸等の環状酸無水物を反応させて表面をカルボキシル化する事も好適に適用出来る。また、末端が基材に結合可能な官能基を有しており、もう片方の末端がマレイミド基等の別の反応性基を有している架橋剤を上記親水−疎水複合化合物と競合的に固相に反応させた後、上記マレイミド基に対しアニオン性試薬を反応させる事で表面をアニオン性化させる手法も考えられるが、これらに限定されるものではない。また、基材上の官能基でアミノ基以外の官能基に対しても、その官能基と反応し得る適切な各種架橋剤を反応させる事により、アニオン性化処理を達成する事が可能となる。
【0023】
アニオン性化の方法は、基材に脂質二重膜に親和性を有する物質を固定した後にアニオン性化処理する手法が可能であり、また、脂質二重膜に親和性を有する物質とアニオン性化試薬とを競合的に基材に反応させる手法も可能である。
【0024】
クーロンの法則により同符号の電荷粒子はその電荷に比例して発生する力が大きくなるが、上記アニオン性処理によって得られる担体の表面電位は、その電位の範囲がゼータ電位として、−10〜−100mVの範囲内である事が望ましい。表面電位が低すぎると細菌との十分な反発力を確保できず、逆に高すぎると血球細胞は負電荷を有しているため担体への十分な結合力を確保できない。なお、脂質二重膜に親和性を有する物質を担体に固定した時点で望ましい範囲の負電荷を有していれば、敢えてアニオン性化処理を行う必要は無い。
【0025】
本発明において、担体の親水性−疎水性複合化合物の密度を調節する手法として、親水性化処理が挙げられる。本発明における親水性化処理とは、親水性−疎水性複合化合物の担体上の固定密度を低下させた事により露呈した基材表面での細菌との望ましくない相互作用を防止するために有効な手法である。具体的には、ペギレーション(PEGylation)試薬を好適に用いる事ができる。ペギレーション(PEGylation)試薬と親水性−疎水性複合化合物とを混合した反応液を基材に反応させる事により、効果的に親水性−疎水性複合化合物の担体上の固定密度を調節させる事が可能となる。親水性−疎水性複合化合物とペギレーション(PEGylation)試薬との反応液における混合モル比は、脂質二重膜に親和性を有する物質1に対して、ペギレーション(PEGylation)試薬は、0〜1、好ましくは0.1〜0.5の範囲内である。ペギレーション試薬としては、CH3O(CH2CH2O)n−X−NHS、CH3O(CH2CH2O)n−X−CHO、CH3O(CH2CH2O)n−X−SH(Xは各種リンカー;−CH2−、−CO−CH2−CH2−COO−、−CO−CH2−CH2−CH2−COO−など)を好適に用いる事ができるが、これらに限定されるものではない。
【0026】
本発明において、担体の親水性−疎水性複合化合物の密度を調節する別手法として、親水性−疎水性複合化合物に結合する成分、具体的には、血清(主にアルブミン)がサンプル液に極微量存在していればよい。細胞へ結合可能な担体上の親水性−疎水性複合化合物の密度が低下されるので、細菌との望ましくない相互作用を防止する事が可能となる。親水性−疎水性複合化合物と血球細胞との結合を阻害し始める検体中の血清濃度は約3%である。また、血清中には約10%のアルブミンが含まれているので、検体中の血清3%に含まれるアルブミン濃度は検体に対し約0.3%となる。担体や親水性−疎水性複合化合物の種類にも依ると思われるが、血清濃度3%未満、アルブミン濃度0.3%未満の検体であれば、担体の血球細胞への結合力を削ぐ事無く担体の単位面積あたりの親水性−疎水性複合化合物の数を減らす事ができる。つまり細菌との望ましくない相互作用を防止する事が可能となる。また、血球細胞と細菌を含む血液を強力な遠心力(1000〜20000rpm)により、血液に含まれる全細胞を容器の底に全沈させ上清を除去してPBS(リン酸緩衝生理食塩水)等の適切な緩衝液で置換する操作を複数回行う。これにより血液に含まれる細胞をほとんどロスする事なく、上記範囲の血清濃度、アルブミン濃度に調整することも可能である。
【0027】
本発明において、脂質二重膜に親和性を有する物質を固定する担体(基材)の形状は、血球細胞の高度な除去率を達成するためには、表面積を大きくする事が可能な、粒子状(網目状、繊維状、板状、多孔質体形状の破片でもよい)を用いる事が可能である。更に、上記基材は酸化鉄(III)、クロム酸化鉄(フェリクロム、FeCr)、コバルト酸化鉄、メタル磁性体、バリウムフェライト(BaFe)等の磁性体で製造すると、磁石で簡単に収集可能となり、簡便化さらに自動化にも対応可能である。一方、脂質二重膜に親和性を有する物質を固定する担体(基材)の形状は、必ずしも前述したような粒子状にする必要はない。例えば、平面状でもよく、流体フロー系のデバイスを適用するのであれば、流路の壁面やチャンバ壁面に親水性−疎水性複合化合物を固定して用いる事も可能である。このような形状の担体では、担体を水平に設置して、その上部から細菌と血球細胞を含む検体を滴下する事によって高分離能を達成できる。その理由は、細菌(数μm)よりも血球細胞(白血球は10〜20μm)の方が大きいため、血球細胞の方が掛かる重力が大きいことによる。よって、上記検体を滴下した後に一定時間放置した時、親水性−疎水性複合化合物を固定した担体表面に接触している血球細胞数が細菌よりも多くなるからである。特に流体フロー系においては、図1に示したチャンバの入口から上記検体を導入し、血球細胞が沈む適切な時間が経過するまで放置してから、チャンバ出口から吸引して検体を排出する。その検体は、菌をほぼ完全に回収でき、血球細胞の数が激減しているという効果が得られる(図2)。
【0028】
本発明における動物細胞とは、最表面が脂質二重膜となっている細胞であり、白血球に限らず、赤血球や血小板も含まれる。本発明の課題として、白血球由来のヒトゲノムが大量にPCRテンプレートに持ち込まれてしまう点を挙げているので、核を有する白血球を除去できればよい。しかし、赤血球溶解物はPCRを阻害する事が知られているため、核酸抽出工程を行う前に赤血球もまた除去できれば、核酸抽出工程での精製負荷が低減できるので有効である。
【0029】
また、病原体として病原性細菌やウイルスを挙げることができるが、本発明においては特に病原性細菌を指す。但し、ウイルスに関しても、図1および図2に示したような流体フローデバイスでアフィニティ分離を実施すれば、ウイルスは細菌よりも圧倒的に小さくほとんど重力が掛からず分散状態にあるので、高度のアフィニティ分離を達成できると考えられる。
【実施例】
【0030】
本発明の実施例において、脂質二重膜に親和性を有する物質として、図3に示したBAM試薬(SUNBRIGHT OE−020CS;日本油脂株式会社製)を使用した。上記BAM試薬を使用した細菌と血球細胞のアフィニティ分離の定性的評価(実施例1)は、ガラスボトム培養皿を上記BAM試薬担体として用いて行い、定量的評価(実施例2)は、表面アミノ化磁性ビーズを上記BAM試薬担体として用いて行った。
【0031】
<実施例1;定性的評価>
BAM塗布ガラスに細胞(白血球・細菌)が結合するか否か、直接顕微鏡観察を行う事により検証した。なお、実験に供した細胞は、白血球については10%FBSを含むRPMI1640培地中で37℃、3日間培養したK562細胞を用いた。実験に供する前に、K562細胞培養液をPBSに3回遠心置換(1000rpm、3分間)したものを使用した。遠心置換後はPBSで希釈して106個/mlの濃度になるように調製した。細菌は、グラム陽性菌では黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)、グラム陰性菌では大腸菌(Escherichia coli)を使用した。普通ブイヨン寒天平板培地で両細菌を37℃一晩培養した後に使用した。培養後の細菌は、コロニーピックしてPBSに懸濁させて106個/mlの濃度になるように調製した。
【0032】
(i)BAM結合担体の作製方法(BAM塗布ガラスボトム培養皿)
直接観察用のBAM結合担体として、ガラスボトム培養皿(ガラス部分dia.10m;MatTek製)を使用した。そのガラス部分にBSA(Alubumin from bovine serum powder、Fatty acid free、low endotoxin;シグマ)を物理吸着コート後、図3に示したBAM試薬のNHS基をBSAのアミノ基に共有結合させて、BAM試薬をガラスボトム部分に固定した。なお、BAMの効果を確認するために、BSAコートのみのガラスボトム培養皿を、細胞が固定されない事(非特異吸着が起こらない事)のリファレンスとした。
【0033】
コーティングプロセスは、まず、ガラスボトム培養皿のガラスボトム部分に0.1%BSA/PBS 200μlを滴下した状態で一晩常温放置し、その後純水で5回リンスし、N2スプレーで乾燥させた。次に、10mM BAM/DMSO溶液をPBSで100倍希釈して100μMとし、その溶液200μlを上記BSAコーティング済みのガラスボトム部分に滴下した状態で常温1時間放置して反応させた。その後純水で5回リンスし、N2スプレーで乾燥させて、BAM結合担体を得た。
【0034】
(ii)BAM結合担体と細胞の結合条件(BAM塗布ガラスボトム培養皿)
上記作製したBAM塗布ガラスボトム培養皿に細胞/PBS液を滴下し、一定時間、常温で放置後、PBSで洗浄して、BAM塗布面に細胞が固定されているかを観察した。
【0035】
詳細に説明すると、BAM塗布ガラスボトム部分に細胞/PBS液を100μl滴下して、そのまま30分間放置した後、液を除去してから、新しいPBSを200μl滴下して、ピペッティングにより3回撹拌洗浄した。続いて、PBS100μlを滴下してキーエンスBiozero顕微鏡にてBAMがコーティングされたガラスボトム表面を観察した。
【0036】
(iii)BAM結合担体と細胞の結合結果(BAM塗布ガラスボトム培養皿)
観察時のガラスボトム面の写真を図4に示した。白血球細胞であるK562のインキュベーション結果(図4)を見ると、BSAコート面ではK562細胞は洗浄により除去されたが、BAMコート面では洗浄により除去されず、ほとんど結合して残存した状態になった。一方、黄色ブドウ球菌および大腸菌では、BSAコート面では洗浄されるが、BAMコート面でも結合を観察する事はできなかった。よって、BAM分子に対して血球細胞は結合するが、細菌についてはグラム陽性菌およびグラム陰性菌は共に結合しない事が確認された。BAMコート面へ細菌が結合しないのは、本実験系では細菌に掛かる重力が小さいため、結合に必要なBAMコート面への十分な圧力が確保されなかった要因も多少含まれると考えられる。しかしながら、BAM分子は脂質二重膜を最表面に有するK562細胞に親和性を有し、再表面が細胞壁である細菌には親和性がほとんど無いのは明白であった。
【0037】
<実施例2;定量的評価>
前記定性的評価では、定量的議論は困難であったので、BAMコート面への接触条件が白血球と細菌で同じになるよう、BAM試薬を磁性ビーズに固定した担体を用いて、血球除去率、菌回収率の定量測定を行った。ここでは、市販されている抗血球抗体固定ビーズを比較例として、BAM化磁性ビーズ、更にはアニオン性化処理を施したBAM化磁性ビーズのアフィニティ分離性能比較を行った。
【0038】
(i)担体1(アニオン性化処理なしBAM化磁性ビーズ)の作製方法
表面アミノ化磁性ビーズ(商品名:M−PVA N12、粒径1〜3μm、chemagen製)100μl(5mg)をマイクロチューブに取り、保存液を除去する。続いて、500μlの0.1%BSA/PBS液を加え常温で3時間撹拌後、純水で5回リンスした。次に、500μlの100μM BAM溶液(10mM BAM/DMSOをPBSで希釈)を加え、常温で1時間撹拌した後、純水で5回リンスした。最後に500μlの超純水に懸濁させBAM化磁性ビーズを得た。本担体の表面電位は−4.0mVであった(測定装置はZetasizer 3000 ;Malvern Instruments Ltd.を使用)。
【0039】
(ii)担体2(無水コハク酸処理BAM化磁性ビーズ)の作製方法
担体1で作製したBAM化磁性ビーズ500μlをマイクロチューブに取り、純水を除去する。続いて、500μlの1mM 無水コハク酸溶液(10mM 無水コハク酸/DMSOをPBSで希釈)を加え、常温で30分間撹拌した後、純水で5回リンスした。最後に500μlの超純水に懸濁させ、カルボキシル基が導入されたアニオン性BAM化磁性ビーズを得た。本担体の表面電位は−17.6mVであった(測定装置はZetasizer 3000;Malvern Instruments Ltd.を使用)。
【0040】
(iii)担体3(スルホン化処理BAM化磁性ビーズ)の作製方法
表面アミノ化磁性ビーズ(商品名:M−PVA N12、粒径1〜3μm、chemagen製)100μl(5mg)をマイクロチューブに取り、保存液を除去する。続いて、500μlの0.1%BSA/PBS液を加え、常温で3時間撹拌した後、純水で5回リンスした。次に、500μlのBAM/NHS−PEG−マレイミド架橋剤溶液(3.75μlの10mM BAM/DMSO+1.25μlの10mM MAL−dPEG(商標) NHS ester(図5、東洋紡)/DMSO+495μl PBS)を加え、常温で1時間撹拌した後、純水で3回リンスして表面にマレイミド基とBAMが導入されたビーズを得た。続いて、500μlの100μM 3−メルカプト−1−プロパンスルホン酸ナトリウム(シグマ)/PBSを加え、常温で1時間撹拌した後、純水で5回リンスして、最後に純水500μlに懸濁し、マレイミド基がスルホン化されたアニオン性BAM化磁性ビーズを得た。本担体の表面電位は−38.2mVであった(測定装置はZetasizer 3000 ;Malvern Instruments Ltd.を使用)。
【0041】
(iv)担体4(デキストラン硫酸処理BAM化磁性ビーズ)の作製方法
担体1で作製したBAM化磁性ビーズ500μlをマイクロチューブに取り、純水を除去する。続いて、500μlのデキストラン硫酸ナトリウム溶液(10mM デキストラン硫酸ナトリウム(分子量5000、和光純薬工業製)/H2O)を加え、常温で60分撹拌した後、純水で5回リンスした。最後に500μlの超純水に懸濁させ、表面がスルホン基を有する親水ポリマーに覆われたアニオン性BAM化磁性ビーズを得た。本担体の表面電位は−46.4mVであった(測定装置はZetasizer 3000 ;Malvern Instruments Ltd.を使用)。
【0042】
(v)担体5(抗CD33抗体結合磁性ビーズ)の使用前準備手順;比較例
マイクロチューブ中に細胞/PBSサンプル50μlを入れ、更に200μlのFcRブロッキング試薬(ミルテニーバイオテク社製)を添加して混合した。そして、更に200μlのCD33抗体結合磁性ビーズ(粒径50nm、ミルテニーバイオテク社製)を入れて攪拌混合した後に、4℃で15分インキュベートを行うことにより、細胞サンプルに磁性ビーズを標識した(総液量は450μl)。FcRブロッキング試薬中の本担体の表面電位は−6.3mVであった(測定装置はZetasizer 3000 ;Malvern Instruments Ltd.を使用)。
【0043】
(vi)各担体と細胞の結合条件(BAM化磁性ビーズ、抗血球抗体磁性ビーズ)
上記作製した各種BAM化磁性ビーズ、上記準備した抗CD33抗体結合磁性ビーズを、細胞/PBSに混合して、一定時間、常温で放置後、磁石でBAM化磁性ビーズを回収して残液中の細胞数を測定する事により、初期サンプル細胞濃度と比較する事で、血球除去率、菌回収率を算出した。なお、実験に供した細胞は、白血球1種類と細菌1種類を用い、白血球については10%FBSを含むRPMI1640培地中で37℃、3日間培養したK562細胞を用いた。実験に供する前に、K562細胞培養液をPBSに3回遠心置換(1000rpm、3分間)したものを使用した。遠心置換後はPBSで希釈して106個/mlの濃度になるように調製した。一方、細菌については、普通ブイヨン寒天平板培地で37℃一晩培養した黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)を使用した。培養後の細菌は、コロニーピックしてPBSに懸濁させて106個/mlの濃度になるように調製した。
【0044】
詳細な結合条件を述べると、各種BAM化磁性ビーズについては、マイクロチューブに種類別にビーズを200μlずつ入れ、磁気スタンド(Magna−Sep;インビトロジェン社製)でチューブ壁面にビーズを回収後、保存水を抜き、50μlの細胞/PBSに懸濁させた。ビーズの自重により沈殿するので、5分おきにピペットで撹拌操作を入れながら20分間常温で放置し、上記磁気スタンドでビーズをチューブ壁面に回収して、透明になった残液を回収した。
【0045】
抗CD33抗体結合磁性ビーズについては、LDカラム(ミルテニーバイオテク社製)を用い、細胞分離用緩衝液(PBS pH7.2,0.5% BSA,2mM EDTA, degassed)2mlを注入し、10分間放置することにより、カラムのリンスを行った。次に、上記工程によって得た磁気ビーズ標識細胞サンプル450μl、細胞分離用緩衝液1mlを2回注入し、カラムからの溶出液を細胞数計測に用いた(細胞と抗CD33磁性ビーズが接触している時間は20分程度であった)。
【0046】
評価方法について、K562細胞は細胞計算盤であるCELLOMETERTM(Nexcelom製)を用いて細胞数計数を行い、黄色ブドウ球菌はコロニーカウント法(普通ブイヨン寒天培地に希釈したサンプルをスプレッダーで撒き、37℃一晩培養後、コロニーを計数)を用いて細胞数計測を行った。
【0047】
(vii)各担体と細胞のアフィニティ分離結果(BAM化磁性ビーズ、抗血球抗体磁性ビーズ)
図6に各担体によるK562白血球細胞のアフィニティ分離結果、図7に各担体による黄色ブドウ球菌のアフィニティ分離結果を示す。
【0048】
まず、K562白血球細胞(図6)については、担体5抗CD33固定化磁性ビーズのK562細胞除去率が67.2%であるのに対し、担体3を除き担体1、2、4のBAM化磁性ビーズはいずれも99%以上と非常に高いK562細胞除去率を示した。なお、計算盤で測定できないほどの極微量であったため、残液中のK562細胞を直接数えた。本発明で課題としている敗血症診断において、PCRを阻害しないヒトゲノムは数百ng程度であるので、それに応じた白血球除去率は99%以上である事が望ましい。それを踏まえると担体5の抗体固定ビーズでは、敗血症診断においてPCRの感度が確保出来ない事を示唆する。
【0049】
また、黄色ブドウ球菌(図7)については、ゼータ電位に比例して黄色ブドウ球菌の回収率が比例的に向上する(R2=0.8224、比例式y=−0.4162x+68.376)。これは、黄色ブドウ球菌が負電荷粒子であり、ビーズも負電荷粒子であるため、クーロンの法則により負電荷同士の反発力が大きくなったという事を意味している。よって、細菌の回収率を向上するために、担体のアニオン性化処理が有効である事が分かった。今回の実施例では88.4%の回収率が最高であったが、回収率(y)を100%にするためには、比例式よりゼータ電位(x)は−75mV以上必要である事が分かる。100%の回収率を達成するためには、そのゼータ電位に応じたアニオン性化処理法の構築が必要となる。
【0050】
本実施例において、BAM化磁性ビーズ(担体1)がK562細胞に結合している様子を撮影できたのでその写真を図8に示す。顕微鏡観察下で図8の状態になったBAM化磁性ビーズ結合K562細胞に対して磁石を近づけると、BAM化磁性ビーズがK562細胞から剥がれる事無く、且つ、K562が壊れる事無く磁石の方へ移動した事も確認できた。1〜3μmと大きな粒子であっても細胞から剥がれないので、かなり強固に結合している事も確認された。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】脂質二重膜に親和性を有する物質がチャンバ底面に結合した流体フローデバイスを示す図である。
【図2】脂質二重膜に親和性を有する物質がチャンバ底面に結合した流体フローデバイスを用いた細菌と血球細胞のアフィニティ分離の様子を示す図である。
【図3】実施例で用いたBAM試薬(SUNBRIGHT OE‐020CS)を示す図である。
【図4】K562細胞インキュベーション後のBAM塗布面を示す図である。
【図5】MAL−dPEG(商標) NHS ester(PEG鎖長12)を示す図である。
【図6】各種担体とのアフィニティ分離結果(K562血球細胞)を示す図である。
【図7】各種担体とのアフィニティ分離結果(黄色ブドウ球菌)を示す図である。
【図8】BAM化ビーズとK562細胞が結合している様子を示す図である。
【符号の説明】
【0052】
1.流体フローデバイス
2.チャンバ入口流路
3.チャンバ(底面に脂質二重膜に親和性を有する物質が結合している)
4.チャンバ出口流路
5.脂質二重膜に親和性を有する物質
6.担体(基材)
7.血球細胞(白血球)
8.病原体(細菌)
9.血球細胞に掛かる重力
10.病原体に掛かる重力(重力は血球細胞の方が大きい)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂質二重膜に対して親和性である、疎水性部分と親水性部分とを含む化合物を、担体に固定する工程と、動物細胞と病原体とを含む検体を前記担体に接触させて、前記動物細胞を前記担体に固定する工程と、
を含むことを特徴とする動物細胞を検体から分離除去する方法。
【請求項2】
前記親水性部分は、固相へ結合可能な官能基を有していることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記親水性部分は、ポリエチレングリコール鎖であることを特徴とする、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記ポリエチレングリコール鎖は、−(CH2CH2O)n−単位でnが10以上であることを特徴とする請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記疎水性部分は、炭素数6〜22の炭化水素鎖であることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
前記脂質二重膜に親和性を有する化合物を固定した担体は、動物細胞に対する結合力と、病原体に対する結合力に差が出るように表面処理されていることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記表面処理はアニオン性化処理であることを特徴とする請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記アニオン性化処理によって得られる担体のゼータ電位は−10〜−100mVの範囲であることを特徴とする請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記表面処理は親水性化処理であることを特徴とする請求項6に記載の方法。
【請求項10】
前記親水性化処理はペギレーション(PEGylation)試薬で処理する事を特徴とする請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記動物細胞と病原体を含む検体は、該検体に対し3%までの範囲の血清を含む事を特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記動物細胞と病原体を含む検体は、該検体に対し0.3%までの範囲のアルブミンを含む事を特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記担体は、粒子状、網目状、繊維状、板状または多孔質体である事を特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記担体は磁性体であることを特徴とする請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記担体は平面状であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項16】
前記動物細胞は血球細胞であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項17】
前記病原体は病原細菌であることを特徴とする請求項1に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図4】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−247320(P2009−247320A)
【公開日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−102557(P2008−102557)
【出願日】平成20年4月10日(2008.4.10)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】