細胞培養における低温および低pHの使用
本発明は、培養された細胞、特に哺乳動物細胞によるタンパク質産生を改善する方法を提供する。特に、本発明は、タンパク質産物、例えば糖タンパク質産物、の製造方法であって、細胞培養環境を操作することによって当該タンパク質産物の特性を制御する方法に関する。本発明は、細胞培養物を低温および/または低pHで増殖させることによって細胞培養物におけるタンバク質のミスフォールディングおよび凝集を低減するための、新規の方法を提供する。その結果として、細胞培養物において産生されるタンパク質の品質が大いに向上する。したがって、本発明は、細胞培養物において産生される治療用タンパク質の有効性における改良を促進するものである。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、2007年4月23日に出願された米国仮特許出願第60/913,382号の利益を主張する。米国仮特許出願第60/913,382号は、その全体が本明細書中に参考として援用される。
【0002】
本発明は、培養された細胞、特に哺乳動物細胞によるタンパク質産生を改善する方法を提供する。特に、本発明は、タンパク質産物(単数または複数)、例えば糖タンパク質産物(単数または複数)、の製造方法であって、細胞培養環境を操作することによって当該タンパク質産物の特性を制御する方法に関する。本発明はさらに、例えば細胞培養物の温度および/またはpHを下げることによりタンパク質のグリコシル化を操作してタンパク質の凝集およびミスフォールディングを低減することによって、哺乳動物細胞で産生されるタンパク質産物(単数または複数)、例えば糖タンパク質産物(単数または複数)、の治療効果および/または免疫原性を改善する方法に関する。
【背景技術】
【0003】
市販または開発中に関わらず、バイオテクノロジー製品の大部分は、タンパク質治療薬である。動物細胞培養物におけるタンパク質の産生、並びにそのような産生に関する改善された方法に対する需要は大きく、また増加している。多くの形態のタンパク質治療薬、例えば、翻訳後修飾タンパク質、特にグリコシル化タンパク質など、を製造するためには、一般的に、動物細胞の細胞機構が必要とされるため、上記のような改善された方法が必要とされている。
【0004】
大規模な治療用タンパク質の製造において生じる共通の問題は、タンパク質産物の大部分が、ミスフォールドした形態または凝集した形態、すなわち、高分子量凝集体(「HMWA:high molecular weight aggregate」)の形態において産生されるということである。例えば、細胞におけるポリペプチドの組み換え型過剰発現は、小胞体(ER:endoplasmic reticulum)機構に過負荷をかける場合があり、それによって、分解経路を逃れERを出て行くミスフォールドしたタンパク質および/または凝集したタンパク質の数が増加し得る。したがって、現在のタンパク質製造方法では、産物の大部分が凝集して機能せず、そのため、製造物として使用できない。ミスフォールドしたタンパク質および/または凝集したタンパク質は、投与における有害事象、例えば、これに限定されるものではないが、投与における免疫原性の可能性(例えば補体活性化または過敏症)など、の原因となり得るため、そのようなタンパク質の存在は望ましくない。したがって、過剰な治療用タンパク質のミスフォールディングおよび/または凝集は、例えば臨床試験における失敗の原因となり得る。そのため、タンパク質のミスフォールディングおよび/または凝集を抑制または低減する新規の方法が当技術分野において必要とされている。
【0005】
タンパク質のグリコシル化は、一般的な翻訳後修飾法であり、これにより、ERにおいて専用の酵素−グリコトランスフェラーゼおよびグリコシダーゼ−の一連の作用を通じて複合糖部分がタンパク質に追加される。この方法は、正しくフォールドされたポリペプチドだけがERを出て、ミスフォールドしたタンパク質は分解されるように、新たに合成されたポリペプチドの正しいフォールディングを制御することができる。タンパク質グリコシル化のパターンは、タンパク質の標的化、構造、熱力学的安定性、および酵素活性に影響を及ぼす(例えば、非特許文献1;非特許文献2を参照のこと)。例えば、N−グリカンシアリル化は、糖タンパク質の寿命の延長に関連している。というのは、そのような糖タンパク質は、シアリル化されていないタンパク質を分解の標的とするアシアロ糖蛋白受容体によって認識されないためである(例えば、非特許文献3を参照のこと)。したがって、タンパク質グリコシル化を変えることは、産物の品質と有効性に影響を及ぼし得る。
【0006】
その上、異常なタンパク質グリコシル化は、最終的な治療用タンパク質製品の免疫原性の原因となり得る。非天然型の非最適条件下で産生されたタンパク質は、天然ではヒトタンパク質には見られない糖および糖パターンを獲得し得て、その結果、対象者において免疫原性反応を生じさせ得る(非特許文献4)。このような非天然型グリコシル化は、タンパク質治療薬、例えば、抗体治療薬または可溶性受容体Fc融合タンパク質治療などのFc融合タンパク質治療薬、において特に一般的である。
【0007】
これらの理由から、FDAは、治療用タンパク質のグリコ型プロフィールが厳しい制限内に維持されることを要求する。したがって、タンパク質グリコシル化のレベルの制御を可能にする、細胞培養物において治療用タンパク質を製造する方法が、製薬業において必要とされている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Sola et al.(2007) Cell.Mol.Life Sci.64:2133−52
【非特許文献2】Sola and Griebenow(2006) FEBS Lett.580:1685−90
【非特許文献3】Bork et al.(2007) FEBS Letters 581:4195−98
【非特許文献4】Jefferis(2006) Biotechnol.Prog.21:11−16
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0009】
したがって、本発明は、ミスフォールドしたタンパク質および/または凝集したタンパク質の産生が減少するように、(a)細胞培養物において低温で細胞を増殖させること、並びに(b)細胞培養物において低pHで細胞を増殖させること、の少なくとも1つを含む、細胞培養物においてタンパク質を製造する方法である。実施形態では、細胞を、細胞培養物において低温および低pHで増殖させる。
【0010】
好ましい実施形態において、本発明は、哺乳動物細胞培養物、特にチャイニーズハムスター卵巣(「CHO(Chinese Hamster Ovary)」)細胞培養物における、ミスフォールドしたタンパク質および/または凝集したタンパク質の産生を低減するために、pHパラメータおよび温度パラメータを変更することを対象としている。好ましい実施形態において、当該細胞培養物は、可溶性レセプターであるタンパク質、例えば、これに限定されるものではないが、TNFR−Fcタンパク質またはsIL−13Rタンパク質など、を産生する(「産生されたタンパク質」)。これらの好ましい実施形態において、低温は、27.0℃〜30.0℃未満の範囲であり得る。さらに他の好ましい実施形態において、低pHは、6.80〜7.00未満あり得る。前述の範囲におけるpHおよび温度の組み合わせも使用することができる。
【0011】
別の態様において、本発明は、細胞培養物においてタンパク質を製造する方法であって、細胞培養物の温度および/またはpHを変更することによって産生されたタンパク質のタンパク質グリコシル化のレベルを制御する方法である。したがって、グリコシル化、例えば、これに限定されるものではないが、N−グリカンシアリル化など、のレベルは、温度および/またはpHを上げるより増加し得、あるいは温度および/またはpHを下げることによって減少し得る。
【0012】
別の態様において、本発明は、上記のパラメータを制御して、治療用タンパク質を製造する方法である。さらに別の態様において、本発明は、そのような方法によって製造された治療用タンパク質と薬学的に許容される担体とを含む医薬組成物である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1A】TNFR−FcでトランスフェクトしたCHO細胞をそれぞれ27.0℃[◆]、28.0℃[▲]、29.0℃[■]、または30.0℃[○]で増殖させた時の、時間(X軸;培養日数[日])に対する、平均収穫日IVCに正規化した統合生存細胞数(Y軸;IVC[正規化e9細胞*日/L])を示す。
【図1B】同じ細胞の、時間(X軸;培養時間[日]に対する細胞生存率(Y軸)を示す。
【図2A】TNFR−FcでトランスフェクトしたCHO細胞をそれぞれ27.0℃[◆]、28.0℃[▲]、29.0℃[■]、または30.0℃[○]で増殖させた細胞培養物における、時間(X軸;培養時間[日])に対する残存グルコースプロフィール(Y軸;グルコース[g/L])を示す。
【図2B】同じ細胞の、時間(X軸;培養時間[日])に対するグルタミンプロフィール(Y軸;グルタミン[mM])を示す。
【図3A】TNFR−FcでトランスフェクトしたCHO細胞をそれぞれ27.0℃[◆]、28.0℃[▲]、29.0℃[■]、または30.0℃[○]で培養させた細胞培養物における、時間(X軸;培養時間[日])に対する培地のラクテート濃度(Y軸;ラクテート[g/L])を示す。
【図3B】同じ細胞の、時間(X軸;培養時間[日])に対するアンモニウムプロフィール(Y軸;NH4+[mM])を示す。
【図4A】TNFR−FcでトランスフェクトしたCHO細胞をそれぞれ27.0℃[◆]、28.0℃[▲]、29.0℃[■]、または30.0℃[○]で増殖させた細胞培養物における、時間(X軸;培養時間[日])に対する、平均収穫日累加平均Qpに正規化した累加平均Qp(X軸;累加平均Qp[正規化mg/e9細胞/日])によって表された細胞特異的生産性を示す。
【図4B】同じ細胞の、時間(X軸;培養時間[日])に対する、平均収穫日力価に正規化したTNFR−Fc力価(X軸;産物力価[正規化mg/L])を示す。
【図5A】ミスフォールドおよび/または凝集したTNFR−Fcの産生(Y軸;%ミスフォールド/凝集した産物)に対する、TNFR−FcでトランスフェクトしたCHO細胞の細胞培養物中における産生温度(X軸;[℃])を変える効果を示す。
【図5B】HMWAの産生に対する温度の効果(Y軸;%高分子量種)を示す。
【図6A】TNFR−Fcの全シアリル化(N−およびO−結合シアリル化)の割合(Y軸;参照試料の総シアリル化の割合)に対する、TNFR−FcでトランスフェクトされたCHO細胞の細胞培養物における産生温度(X軸;温度[℃])を変更する効果を示す。使用した参照試料は、アッセイの結果を比較するための好ましいクリコシル化パターンを有する公知のTNFR−Fcにおける特定のアリコートであった。
【図6B】同じ細胞の、シアリル化(□)または非シアリル化(●)の総N−結合グリカンの割合(Y軸;総N−結合グリカンの割合)に対する、細胞培養物における産生温度(X軸;温度[℃])を変更する効果を示す。
【図7】異なる温度(27.0℃[◆]、28.0℃[▲]、29.0℃[■]、30.0℃[○])で細胞を増殖させた時の、CHO細胞培養物中のpH(Y軸)に対する効果を、時間(X軸;培養時間[日])に対して示す。
【図8A】TNFR−FcでトランスフェクトされたCHO細胞をそれぞれ7.20[◇]、7.10[■]、7.00[◆]、6.90[●]、または6.80[▲]のpH設定値で増殖させた時の、時間(X軸;培養時間[日])に対する、平均収穫日IVCに正規化した統合生存細胞数(Y軸;IVC[正規化e9細胞*日/L])を示す。
【図8B】同じ細胞の、時間(X軸;培養時間[日])に対する細胞生存率(Y軸)を示す。
【図9A】TNFR−FcでトランスフェクトされたCHO細胞をそれぞれ7.20[◇]、7.10[■]、7.00[◆]、6.90[●]、または6.80[▲]のpH設定値で増殖させた細胞培養物における、時間(X軸;培養時間[日])に対するグルコースプロフィール(Y軸;グルコース[g/L])を示す。
【図9B】同じ細胞の、時間(X軸;培養時間[日])に対するグルタミンプロフィール(Y軸;グルタミン[mM])を示す。
【図10A】TNFR−FcでトランスフェクトしたCHO細胞をそれぞれ7.20[◇]、7.10[■]、7.00[◆]、6.90[●]、または6.80[▲]のpH設定値で増殖させた細胞培養物における、時間(X軸;培養時間[日])に対する、培地中のラクテート濃度(Y軸;ラクテート[g/L])を示す。
【図10B】同じ細胞の、時間(X軸;培養時間[日])に対するアンモニアプロフィール(Y軸;NH4+[mM])を示す。
【図11A】時間(X軸;培養時間[日])に対する、TNFR−FcでトランスフェクトされたCHO細胞をそれぞれ7.20[◇]、7.10[■]、7.00[◆]、6.90[●]、または6.80[▲]のpH設定値で増殖させた細胞培養物のpHの、pH設定値からのずれ(X軸;培養物pH)を示す。
【図11B】同じ細胞をそれぞれ7.20[◇]、7.10[■]、7.00[◆]、6.90[●]、または6.80[▲]のpH設定値で増殖させた時の、時間(X軸;培養時間[日])に対するオスモル濃度(X軸;オスモル濃度[mOsm/kg])を示す。
【図12A】TNFR−FcでトランスフェクトされたCHO細胞をそれぞれ7.20[◇]、7.10[■]、7.00[◆]、6.90[●]、または6.80[▲]のpH設定値で増殖させた細胞培養物における、時間(X軸;培養時間[日])に対する、平均収穫日累加平均Qpに正規化した累加平均Qp(X軸;累加平均Qp[正規化mg/e9細胞/日])で表される、細胞特異的産生能を示す。
【図12B】時間(培養時間[日])に対する、同じ細胞の平均収穫日の力価に正規化したTNFR−Fc力価(X軸;産生物の力価[正規化mg/L])を示す。
【図13A】ミスフォールド/凝集したTNFR−Fcの産生(Y軸;%ミスフォールド/凝集した産生)に対する、TNFR−FcでトランスフェクトされたCHO細胞の培養のpH設定値(X軸;pH)を変える効果を示す。
【図13B】HMWAの産生(Y軸;%高分子量種)に対する、細胞培養物のpH設定値(X軸;pH)を変える効果を示す。
【図14A】TNFR−Fcの総シアリル化の割合(Y軸;参照試料の総シアリル化の割合)に対する、TNFR−FcでトランスフェクトされたCHO細胞の培養におけるpH設定値(X軸;pH)を変える効果を示す。
【図14B】シアリル化(□)又は非シアリル化(●)総N−結合グリカンの割合(Y軸;総N−結合グリカンの割合)に対する、同じ細胞の細胞培養物の細胞培養物pH設定値(X軸;pH)を変える効果を示す。
【図15】ヒドラジン放出2−アミノベンズアミド−(2−AB)−標識タンパク質グリコ型を順相クロマトグラフィにかけた場合に観察される、N−結合グリカンシアリル化を表す典型的な蛍光(Y軸;蛍光、mVで測定)対滞留時間(X軸;分)プロフィールを表す。
【図16】ヒドラジン放出2−アミノベンズアミド−(2−AB)−標識タンパク質グリコ型を順相クロマトグラフィにかけた場合に観察される、培養のpH設定値を変えた場合の、TNFR−FcでトランスフェクトされたCHO細胞の細胞培養物におけるN−結合グリカンシアリル化を表す蛍光(Y軸;mV)の、滞留時間(X軸;分)に対するプロフィールを表す。
【図17A】sIL−13R過剰発現細胞を37.0℃[◆]、33.0℃[■]、32.0℃[●]、31.0℃[◇]、29.0℃[△]、または室温[□]で増殖させた細胞培養物における、時間(X軸;培養時間[日])に対する生存細胞密度(Y軸;細胞/mL)を示す。
【図17B】sIL−13R過剰発現細胞を37.0℃[◆]、33.0℃[■]、32.0℃[●]、31.0℃[◇]、29.0℃[△]、または室温[□]で増殖させた細胞培養物における、時間(X軸;培養時間[日])に対する、生存細胞と非生存細胞の両方を含む全細胞密度(Y軸;細胞/mL)を示す。
【図17C】sIL−13R過剰発現細胞を37.0℃[◆]、33.0℃[■]、32.0℃[●]、31.0℃[◇]、29.0℃[△]、または室温[□]で増殖させた細胞培養物における、時間(X軸;培養時間[日])に対する細胞生存率(Y軸)を示す。
【図17D】sIL−13R過剰発現細胞を37.0℃[◆]、33.0℃[■]、32.0℃[●]、31.0℃[◇]、29.0℃[△]、または室温[□]で増殖させた細胞培養物における、時間(X軸;培養時間[日])に対する統合生存細胞数(IVC)(Y軸;e9細胞*日/L)を示す。
【図18】37.0℃[◆]、33.0℃[■]、32.0℃[●]、31.0℃[◇]、29.0℃[△]、または室温[□]で増殖させた時の、sIL−13Rを過剰発現する細胞培養物における、時間(X軸;培養時間[日])に対する二量体およびHMWAの両方のsIL−13R力価(Y軸;sIL−13R[mg/L])を示す。
【図19A】37.0℃、33.0℃、32.0℃、31.0℃、29.0℃、または室温で増殖させた時の、sIL−13Rを過剰発現する細胞培養物における、様々な時間間隔(X軸)での1日の特異的sIL−13R産生率(Y軸;Qp[ug/e9細胞/日])を示す。
【図19B】37.0℃、33.0℃、32.0℃、31.0℃、29.0℃、または室温で増殖させた時の、sIL−13Rを過剰発現する細胞培養物における、時間(X軸;培養時間[日])に対する累加平均細胞特異的産生能(Y軸;累加平均Qp[mg/e9細胞/日])を示す。
【図20】37.0℃、33.0℃、32.0℃、31.0℃、29.0℃、または室温で増殖させた時の、sIL−13Rを過剰発現する細胞培養物における、様々な時間間隔(X軸)での1日の特異的グルコース消費率(Y軸;Qglc[g/e9細胞/日])を示す。
【図21】37.0℃、33.0℃、32.0℃、31.0℃、29.0℃、または室温で増殖させた時の、sIL−13Rを過剰発現する細胞培養物における、様々な時間間隔(X軸)での1日の特異的グルタミン消費率(Y軸;Qgln[mmol/e9細胞/日])を示す。
【図22】37.0℃[◆]、33.0℃[■]、32.0℃[●]、31.0℃[◇]、29.0℃[△]、または室温[□]で増殖させた時の、sIL−13Rを過剰発現する細胞の細胞培養培地における、時間(X軸;培養時間[日])に対するラクテート濃度(Y軸;ラクテート[g/L])を示す。
【図23】37.0℃[◆]、33.0℃[■]、32.0℃[●]、31.0℃[◇]、29.0℃[△]、または室温[□]で増殖させた時の、sIL−13Rを過剰発現する細胞の細胞培養培地における、時間(X軸;培養時間[日])に対するアンモニウム濃度(Y軸;アンモニア[mM])を示す。
【図24】sIL−13Rを過剰発現する細胞の培養9日目における、HMWAの産生(Y軸;%高分子量種)に対する細胞培養物温度(X軸;産生時の温度[℃])の効果を表す。
【図25】sIL−13Rを過剰発現する細胞の培養18日目における、HMWAの産生(Y軸;%高分子量種)に対する細胞培養物温度(X軸;産生時の温度[℃])の効果を示す。
【図26A】それぞれ37.0℃[◆]、33.0℃[■]、32.0℃[●]、31.0℃[◇]、29.0℃[△]、または室温[□]で増殖させた時の、時間(X軸;培養時間[日])に対する、sIL−13R過剰発現細胞の馴化培地で産生された総sIL−13Rタンパク質から回収されるsIL−13R二量体の割合(Y軸;%sIL−13R二量体)を示す。
【図26B】sIL−13R過剰発現細胞の馴化培地における、時間(X軸;培養時間[日])に対する全sIL−13RにおけるHMWAの割合(Y軸;%高分子量種)を示す。
【図27】細胞をそれぞれ37.0℃[◆]、33.0℃[■]、32.0℃[●]、31.0℃[◇]、29.0℃[△]、または室温[□]で増殖させた時の、時間(X軸;培養時間[日])に対する馴化培地中のsIL−13R二量体力価(Y軸;sIL−13R二量体のみ[mg/L])を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
哺乳類の細胞培養物において治療用タンパク質を製造するためには、一般的に、産生期中の温度は少なくとも30.0℃、かつpHは少なくとも7.00でなければならないと考えられている。しかしながら、産生期中に30.0℃を超える温度および7.00より高いpHで細胞培養物中において細胞を増殖させた場合、タンパク質の凝集(本明細書においては、高分子量凝集体形成またはHMWA形成とも呼ぶ)及びタンパク質のミスフォールディングの増加を引き起こす場合があり、したがって、より低い量の機能性で使用可能なタンパク質が産生され得る。
【0015】
本発明は、細胞培養物においてタンパク質を製造の新規の方法であってタンパク質のミスフォールディングおよび/またはタンパク質の凝集を低減する方法を提供する。他の態様においては、本発明は、タンパク質のグリコシル化のレベルを制御する方法を提供する。
【0016】
本発明の方法によって製造されたタンパク質
本明細書で使用される場合、「ポリペプチド」または「ポリペプチド産物」なる語句は、それぞれ、「タンパク質」および「タンパク質産生」なる用語と同義であり、一般的に、当技術分野において、連続したペプチド結合を介して結合したアミノ酸の少なくとも1つの鎖を意味する。ある特定の実施形態において、「対象となるタンパク質」または「対象となるポリペプチド」などは、宿主細胞にトランスフェクトまたはトランスフォームされた、例えば宿主細胞に一過性的にまたは安定的にトランスフェクトまたはトランスフォームされた、外因性核酸分子によってコード化されるタンパク質である。ある特定の実施形態において、宿主細胞にトランスフェクトまたはトランスフォームされた外因性DNAが「対象となるタンパク質」をコードする場合、当該外因性DNAの核酸配列がアミノ酸の配列を決定する。この配列は、自然に生じる配列であっても、あるいは人為的に設計された配列であってもよい。ある特定の実施形態において、「対象となるタンパク質」は、宿主細胞の内因性核酸分子によってコード化されるタンパク質である。そのような対象となる内因性タンパク質の発現は、例えば、1つ以上の調節配列を含み得る外因性核酸分子および/または対象となるタンパク質の発現を高めるタンパク質をコード化し得る外因性核酸分子を、宿主細胞にトランスフェクトすることによって変えることができる。本発明の実施形態において、対象となるポリペプチドは、細胞培養物において産生され、例えば、その後に精製される。
【0017】
「糖タンパク質」および「グリコシル化タンパク質」などの用語は、タンパク質のアスパラギン側鎖(N−グリコシル化)あるいはセリン側鎖および/またはトレオニン側鎖(O−グリコシル化)のいずれかに結合した糖残基、例えばオリゴ糖部分、を有するタンパク質を意味する。例えば、一般的な種類のタンパク質N−グリコシル化としては、タンパク質シアリル化(N−グリカンシアリル化としても知られている)が挙げられる。分泌タンパク質および膜タンパク質(例えば、膜レセプター)の大部分は、ERおよび/またはゴルジ体においてグリコシル化される。グリコシル化が、ERにおけるタンパク質のフォールディングと放出を制御することは、当技術分野において公知である。その上、グリコシル化/脱グリコシル化のいくつもの段階がゴルジ体において生じる。ERおよびゴルジ体の両方におけるタンパク質のグリコシル化過程について現在わかっていることは、Helenius et al.(2001) Science 291:2364−69、Parodi(2000) Biochem.J.348:1−13、およびParodi(2000) Annu.Rev.Biochem.69:69−93に概説されている。したがって、本発明のある特定の実施形態において、対象となるポリペプチドは、対象となる糖タンパク質であり、当該対象となる糖タンパク質は、細胞培養物において産生され、例えば、その後精製される。本発明のある実施形態において、対象となる糖タンパク質は、レセプターであり、可溶性レセプターであってもよい。
【0018】
本発明の方法および組成物は、これに限定されるものではないが、医薬用特性、診断用特性、農業用特性、並びに/あるいは商業用途、実験用途、および/または他の用途において有用な様々な他の特性のいずれかを有するタンパク質などの、任意の対象となるタンパク質を製造するために使用することができる。加えて、対象となるタンパク質は、タンパク質治療薬であってもよい。すなわち、タンパク質治療薬(または治療用タンパク質)は、体のある領域に対して生物学的効果を有するタンパク質であり、その領域において機能するか、あるいはその領域から離れて中間体を介して機能する。ある特定の実施形態において、本発明の方法および/または組成物を用いて製造されたタンパク質は、治療用タンパク質として対象者に投与される前に、処理および/または修飾してもよい。
【0019】
本発明は、例えば、製薬的又は商業的に関連する酵素、レセプター、レセプター融合物、可溶性レセプター、可溶性レセプター融合物、抗体(例えば、モノクローナル抗体および/またはポリクローナル抗体)、抗体の抗原結合性断片、Fc融合タンパク質、SMIP、サイトカイン、ホルモン、調節因子、成長因子、凝固因子/凝固因子、または抗原結合性薬剤など、任意の治療用タンパク質の有利な製造のための細胞を培養するために使用することができる。上に列挙したタンパク質は、単なる例示であり、限定するためのものではない。当業者であれば、本発明に従って製造することができる他のタンパク質を知っているであろうし、そのようなタンパク質を製造するために本明細書に開示された方法を用いることができるであろう。
【0020】
「抗体」なる用語は、少なくとも1つの、通常は2つのVHドメインもしくはその一部、および/または、少なくとも1つの、通常は2つのVLドメインもしくはその一部、を有する蛋白を含む。ある特定の実施形態において、抗体は、2本の免疫グロブリン重鎖および2本の免疫グロブリン軽鎖からなる四量体であり、この場合、免疫グロブリンの重鎖と軽鎖とが、例えばジスルフィド結合によって、相互接続している。抗体またはその一部は、これに限定されるものではないが、げっ歯類、霊長類(例えば、ヒトおよび非ヒトの霊長類)、ラクダ科、サメをはじめとするいずれかの由来から得ることができ、同様に、組み換えによる例えばキメラ化した製造、ヒト化、および/またはインビトロにおいて、例えば当業者に周知の方法によって発生させることもできる。
【0021】
さらに、本発明は、「抗体の抗原結合断片」を包含し、その例としては、(i)Fab断片、すなわち、VLドメイン、VHドメイン、CLドメイン、およびCH1ドメインからなる一価の断片;(ii)F(ab’)2断片、すなわち、ヒンジ領域においてジスルフィド結合によって連結されている2つのFab断片を含む二価の断片;(iii)VHドメインおよびCH1ドメインからなるFd断片;(iv)抗体の単一アームのVLドメインおよびVHドメインからなるFv断片;(v)dAb断片、これは、VHドメインからなる;(vi)ラクダまたはラクダ化の可変ドメイン、例えば、VHHドメイン;(vii)単鎖Fv(scFv);(viii)二重特異性抗体;ならびに(ix)Fc領域に融合した、免疫グロブリンの1つ以上の抗原結合性断片、が挙げられる。さらに、Fv断片の2つのドメインであるVLおよびVHは、別々の遺伝子によってコードされるが、それらは、組換えの方法を用いて、それらをVL領域およびVH領域の対が一価の分子(単鎖Fv(scFv)として知られている;例えば、Bird et al.(1988) Science 242:423−26;Huston et al.(1988) Proc.Natl.Acad.Sci. U.S.A.85:5879−83を参照のこと)を形成している単一のタンパク質鎖として作製することができる合成リンカーによってつなぎ合わせることができる。そのような単鎖の抗体も、抗体の「抗原結合断片」なる用語の範囲内に包含されることが意図される。これらの抗体断片は、当業者に公知の従来の技術を用いて得ることができ、当該断片は、完全な状態の抗体の場合と同様にして機能を評価される。
【0022】
さらに、本発明は、単一ドメイン抗体を包含する。単一ドメイン抗体は、単一ドメインポリペプチドの一部である相補性決定領域を有する抗体を含み得る。例としては、重鎖抗体、天然に軽鎖が欠けている抗体、従来型四本鎖抗体に由来する単一ドメイン抗体、改変抗体、および抗体に由来するもの以外の単一ドメインスカフォールドなどが挙げられるが、これに限定されるものではない。単一ドメイン抗体は、当分野のいずれかの単一ドメイン抗体、又は任意の将来の単一ドメイン抗体であってもよい。単一ドメイン抗体は、マウス、ヒト、ラクダ、ラマ、ヤギ、ウサギ、ウシ、およびサメを含む任意の種に由来し得るが、これらに限定されるものではない。本発明の1つの態様によると、本明細書において使用される場合、単一ドメイン抗体は、軽鎖が欠けている重鎖抗体として公知の、自然発生的な単一ドメイン抗体である。そのような単一ドメイン抗体は、例えば、国際公開第9404678号において開示されている。明確にするために、本明細書では、四本鎖免疫グロブリンの従来型VHと区別して、この天然に軽鎖が欠けている重鎖抗体由来の可変ドメインをVHHまたはナノボディと呼ぶ。そのようなVHH分子は、ラクダ科種、例えば、ラクダ、ラマ、ヒトコブラクダ、アルカパ、およびグアナコにおいて産生された抗体に由来してもよい。ラクダ科以外の他の種が、天然で軽鎖が欠けている重鎖抗体を生成する場合もあり、そのようなVHHは、本発明の範囲内に含まれる。さらに、単一ドメイン抗体は、サメIgNARを含む(例えば、Dooley et al.,Proc.Natl.Acad.Sci. U.S.A.,103:1846−1851(2006)を参照のこと)。
【0023】
「二重特異性」抗体または「二機能性」抗体を除き、抗体は、その各結合部位が全く同一であると理解される。「二重特異性」または「二機能性抗体」は、2つの異なる重鎖/軽鎖の対および2つの異なる結合部位を有する人為的なハイブリッド抗体である。二重特異性抗体は、ハイブリドーマの融合またはFab’断片の連結をはじめとする、様々な方法によって生成することができる。例えば、Songsivilai & Lachmann, Clin.Exp.Immunol.79:315−321(1990);Kostelny et al.,J.Immunol.148,1547−1553(1992)を参照のこと。
【0024】
実施形態において、タンパク質が抗体またはそれらの断片の場合、それらは、少なくとも1つ、もしくは2つの全長重鎖、および少なくとも1つ、もしくは2つの軽鎖を含み得る。あるいは、抗体またはそれらの断片は、抗原結合性断片(例えば、Fab、F(ab’)2、Fv、又は一本鎖Fv断片など)のみを含み得る。当該抗体またはそれらの断片は、モノクローナル抗体または単一特異性抗体であってもよい。抗体またはそれらの断片は、ヒト抗体、ヒト化抗体、キメラ抗体、CDRグラフト化抗体、又はインビトロ発生抗体であってもよい。さらに他の実施形態において、当該抗体は、例えばIgG1、IgG2、IgG3、またはIgG4から選択される重鎖定常領域を有する。別の実施形態において、当該抗体は、例えばκ又はλから選択される軽鎖を有する。一実施形態において、抗体の特性を改変するために(例えば、Fc受容体結合、抗体グリコシル化、システイン残基の数、エフェクター細胞機能、または補体機能の1つ以上を増加又は減少させるために)、当該定常領域を変化、例えば変異させる。通常は、抗体またはそれらの断片は、同定済みの抗原、例えば神経変性疾患、代謝性疾患、炎症性疾患、自己免疫性疾患、および/または悪性疾患などの疾患に関連する抗原、に特異的に結合する。
【0025】
本明細書に記載のタンパク質はさらに、必要に応じて、例えば、安定性、エフェクター細胞機能、または補体結合の1種以上を増強する部分を含んでいてもよい。例えば、抗体または抗原結合タンパク質はさらに、ペグ化部分、アルブミン、あるいは重鎖および/または軽鎖の定常領域を含んでいてもよい。
【0026】
抗体は、一般的に、例えば、従来のハイブリドーマ技術(Kohler et al.,Nature 256:495 499(1975))、組換えDNA法(米国特許第4,816,567号)、または抗体ライブラリーを使用するファージディスプレー技術(Clackson et al.,Nature 352:624 628(1991);Marks et al.,J.Mol.Biol.222:581 597(1991))によって作製される。他の様々な抗体生成技術については、Antibodies:A Laboratory Manual,eds.Harlow et al.,Cold Spring Harbor Laboratory,1988を参照のこと。
【0027】
さらに、検出可能な標識または機能性標識によって抗体をタグ付けすることもできる。これらの標識としては、放射性標識(例えば、131Iまたは99Tc)、酵素標識(例えば、ワサビペルオキシダーゼまたはアルカリホスファターゼ)、および他の化学的部分(例えば、ビオチン)が挙げられる。
【0028】
「低分子免疫薬学的」または(SMIP(商標))薬物(Trubion Pharmaceuticals社、Seattle、WA)は、抗原またはカウンターレセプターなどの同族構造に対する結合ドメイン、1つのシステイン残基を有するかもしくは有さないヒンジ領域ポリペプチド、並びに免疫グロブリンCH2およびCH3ドメインから構成される一本鎖ポリペプチドである(www.trubion.comも参照のこと)。SMIPならびにそれらの使用および用途については、例えば、米国特許出願第2007/002159号、同第2003/0118592号、同第2003/0133939号、同第2004/0058445号、同第2005/0136049号、同第2005/0175614号、同第2005/0180970号、同第2005/0186216号、同第2005/0202012号、同第2005/0202023号、同第2005/0202028号、同第2005/0202534号、および同第2005/0238646号、ならびにそれらの関連特許ファミリーパテントにおいて開示されている。なお、これらすべては、参照によりその全体が本明細書に援用されるものとする。
【0029】
本発明の一実施形態において、対象となるタンパク質は、可溶性レセプター、例えば可溶性レセプター融合タンパク質である。膜タンパク質、例えばレセプター、は、通常、グリコシル化タンパク質である。したがって、本発明の方法は、凝集しておらず適正にフォールドされたグリコシル化可溶性レセプター融合タンパク質の製造において特に有益である。
【0030】
可溶性タンパク質、例えば可溶性レセプター、は、当技術分野において周知の方法によって製造することができる。本発明の一実施形態において、可溶性レセプターは、レセプターの細胞外領域、またはレセプターの細胞外領域の断片を含む。本発明の別の実施形態において、可溶性レセプターは、2つのポリペプチドを含む。第一のポリペプチドは、全長レセプターを含むか、あるいは、第一のポリペプチドは、レセプターの全長より短い部分、例えばレセプターの細胞外部分、を含む。本発明の一実施形態において、第一のポリペプチドは、全長サイトカインレセプターを含むか、あるいは、第一のポリペプチドは、サイトカインレセプターの全長より短い部分、例えばサイトカインレセプターの細胞外部分、を含む。さらに、そのような可溶性レセプターは、さらなるポリペプチド、例えば、GST、Lex−A、MBPポリペプチド配列、あるいは、Fc断片や、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgM、IgA1、IgA2、IgD、およびIgEなどの様々なイソタイプの重鎖定常領域などをはじめとする免疫グロブリン鎖、なども含んでいてもよい。
【0031】
本発明の一実施形態において、第二のポリペプチドは、好ましくは可溶性である。いくつかの実施形態において、第二のポリペプチドは、結合しているポリペプチドの半減期、(例えば、血漿半減期または循環半減期)を延長する。好ましい実施形態において、第二のポリペプチドは、少なくとも免疫グロブリンポリペプチドの領域を含む。免疫グロブリン融合ポリペプチドは、当技術分野において公知であり、例えば、米国特許第5,516,964号;同第5,225,538号;同第5,428,130号;同第5,514,582号;同第5,714,147号;および同第5,455,165号に記載されている。可溶性融合タンパク質は、産生中に凝集の影響を受けやすいことが知られており、したがって、本発明による方法は、この種のタンパク質を産生する細胞培養物に関して、特に有益である。
【0032】
いくつかの実施形態において、第二のポリペプチドは全長免疫グロブリンポリペプチドを含む。あるいは、第二のポリペプチドは、全長より短い免疫グロブリンポリペプチド、例えば、重鎖、軽鎖、Fab、Fab2、Fv、またはFcなど、を含む。第二のポリペプチドは、免疫グロブリンポリペプチドの重鎖を含み得る。第二のポリペプチドは、免疫グロブリンポリペプチドのFc領域を含み得る。
【0033】
本発明の一実施形態において、可溶性レセプター融合タンパク質は、腫瘍壊死因子インヒビターを含む。ある特定の実施形態において、腫瘍壊死因子インヒビターは、腫瘍壊死因子αおよびβレセプター(TNFR−1:1991年3月20日に公開された欧州特許第417,563号;およびTNFR−2:1991年3月20日に公開された欧州特許第417,014号、これらはいずれも、参照によりその全体が本明細書に援用されるものとする)の形態において、本発明の系および方法により発現する(概説に関しては、Naismith and Sprang,J.Inflamm.47(1−2):1−7,1995−96を参照のこと。なお、この文献は、参照によりその全体が本明細書に援用されるものとする)。いくつかの実施形態により、腫瘍壊死因子インヒビターは、可溶性TNF(tumor necrosis factor)レセプターを含む。ある特定の実施形態において、本発明のTNFインヒビターは、TNFRIおよびTNFRIIの可溶性形態である。ある特定の実施形態において、本発明のTNFインヒビターは、可溶性TNF結合タンパク質である。ある特定の実施形態において、本発明のTNFインヒビターは、TNFR融合タンパク質、例えば、TNFR−IgまたはTNFR−Fcなど、である。本明細書で使用する場合、「エタネルセプト」は、TNFR−Fcを意味し、これは、p75TNF−αレセプターの細胞外部分の2つの分子の二量体であり、この各分子は、ヒトIgG1の235アミノ酸Fc部分から成る。本発明により、TNFR−Fcを発現する細胞は、TNFR−Fcの産生中におけるミスフォールドされたタンパク質および/または高分子量凝集体の量を減らすため、低温および/または低pHで細胞培養物において培養される。ある特定の実施形態において、TNFR−Fcを発現する細胞は、TNFR−Fcの産生中のグリコシル化を調整するため、低温および/または低pHで細胞培養物において培養される。
【0034】
本発明の他の実施形態において、当該可溶性レセプター融合タンパク質は、sIL−13Rである。本明細書で使用される場合、可溶性IL−13レセプター(sIL−13R:soluble IL−13 receptor)は、ヒトインターロイキン(IL:interleukin)−13−α2レセプターの細胞外ドメイン(ECD:extracellular domain)とヒトIgG1重鎖のFc領域を含む組み換え融合タンパク質を意味する。sIL−13Rは、2つの同一のポリペプチド鎖で構成され(すなわち、2つのポリペプチド鎖の二量体)、これは、分子間ジスルフィド結合によって結合しているようである。sIL−13R可溶性レセプター融合タンパク質およびその使用については、米国特許第5,710,023号において開示されている。なお、ここの文献は、参照によりその全体が本明細書に援用されるものとする。
【0035】
いくつかの実施形態において、第二のポリペプチドは、野生型免疫グロブリン重鎖のFc領域のエフェクター機能より少ないエフェクター機能を有する。Fcエフェクター機能としては、例えば、Fcレセプター結合性、補体結合、およびT細胞枯渇活性などが挙げられる(例えば、米国特許第6,136,310号を参照のこと)。T細胞枯渇活性、Fcエフェクター機能、および抗体安定性を分析評価する方法は、当技術分野において公知である。一実施形態において、第二のポリペプチドは、Fcレセプターに対して親和性が低いかもしくは親和性を有しない。別の実施形態において、第二のポリペプチドは、補体タンパク質C1qに対して親和性が低いかもしくは親和性を有しない。
【0036】
融合タンパク質、例えば可溶性レセプター融合タンパク質、は、可溶性レセプターまたはその断片を第二の部分に接続するリンカー配列をさらに含んでいてもよい。例えば、融合たんぱく質は、ペプチドリンカー、例えば、約2〜20、より好ましくは約5〜10、の長さのアミノ酸のペプチドリンカー、を含んでいてもよい。
【0037】
他の実施形態において、発現、検出、および/または単離もしくは精製を容易にするために、さらなるアミノ酸配列を融合タンパク質のN−末端またはC−末端に付加させることができる。例えば、可溶性レセプター融合タンパク質を、1つ以上のさらなる部分、例えば、GST、His6タグ、FLAGタグなど、に結合させてもよい。例えば、融合タンパク質を、さらに、融合タンパク質配列がGST(すなわち、グルタチオンS−トランスフェラーゼ)配列のC−末端に融合しているGST融合タンパク質に結合させてもよい。そのような融合タンパク質は、可溶性を促進することができ、すなわち、正確なフォールディングを増加させ、したがって、融合タンパク質の精製を向上させ得る。
【0038】
細胞培養物におけるタンパク質製造方法
「培養物」および「細胞培養物」なる用語は、本明細書で使用される場合、細胞集団の生存および/または増殖に好適な条件下において細胞培養培地に接触している細胞集団を意味する。本明細書で使用される場合、これらの用語は、細胞集団(例えば、動物細胞培養物)および当該細胞集団が接触している培地を含む組み合わせを意味する。
【0039】
本発明において使用される細胞は、組換え型宿主細胞、例えば、真核生物宿主細胞、すなわち、対象となるポリペプチドをコード化する核酸を含む発現コンストラクトでトランスフェクトされた細胞、であってもよく、例えば、動物細胞が挙げられる。「動物細胞」なる語句は、無脊椎動物、非哺乳類脊椎動物(例えば、鳥類、爬虫類、および両生類)、並びに哺乳動物の細胞を包含する。無脊椎動物細胞の非限定的な例としては、以下の昆虫:Spodoptera frugiperda(毛虫)、Aedes aegypti(蚊)、Aedes albopictus(蚊)、Drosophila melanogaster(みばえ)、およびBombyx mori(カイコ/絹ガ)の細胞を含む。好ましい実施形態において、細胞培養物は、哺乳動物細胞培養物である。
【0040】
多くの哺乳動物細胞株が、対象となるポリペプチドの組み換え発現に好適な宿主細胞である。哺乳動物宿主細胞株としては、例えば、COS、PER.C6、TM4、VERO076、MDCK、BRL−3A、W138、Hep G2、MMT、MRC5、FS4、CHO、293T、A431、3T3、CV−1、C3H10T1/2、Colo205、293、HeLa、L細胞、BHK、HL−60、FRhL2、U937、HaK、Jurkat細胞、Rat2、BaF3、32D、FDCP−1、PC12、M1x、マウスミエローマ(例えば、SP2/0およびNS0)、並びにC2C12細胞、同様に、トランスフェクトされた霊長類細胞株、ハイブリドーマ、正常二倍体細胞、並びに第1次組織および初代移植体のインビトロ培養物に由来する細胞株が挙げられる。対象となるポリペプチドを発現することのできる任意の真核細胞が、開示された方法において使用することができる。多くの細胞株が商業的な供給元、例えば、アメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション(ATCC:American Type Culture Collection)など、から入手可能である。本発明の一実施形態において、細胞培養物、例えば大規模細胞培養物など、にCHO細胞を用いる。
【0041】
ある特定の実施形態において、当該細胞培養物は、哺乳動物細胞を含むが、当業者であれば、酵母などの下等真核生物において、あるいはバクテリアなどの原始核細胞において、対象となるポリペプチドを、組み換えにより製造することが可能であることを理解するであろう。当業者であれば、酵母およびバクテリアの細胞培養物のための培養条件は、動物細胞の培養条件と異なっているであろうことを知っているであろうし、これらの条件を、細胞増殖および/またはタンパク質産生を最適化するために、どのように調整しなければならないかを理解するであろう。
【0042】
好適な菌株には、Escherichia coli、Bacillus subtilis、Salmonella typhimurium、または対象となるポリペプチドを発現することのできる任意の菌株が含まれる。バクテリアにおける発現は、その結果として当該組み換えタンパク質を組み込む封入体の形成を生じ得る。したがって、組み換えタンパク質のリフォールディングは、活性物質もしくはより活性な物質を産生するために必要であり得る。正しくにフォールドされた異種タンパク質をバクテリアの封入体から得るためのいくつかの方法が、当技術分野において公知である。これらの方法は、一般的に、封入体から当該タンパク質を可溶化する工程、次いでカオトロピック試薬を使用して当該タンパク質を完全に変性させる工程を含む。システイン残基が当該タンパク質の一次アミノ酸配列中に存在する場合、ジスルフィド結合の正しい形成を可能にする環境(レドックス系)において当該リフォールディングを達成することが、しばしば必要である。リフォールディングの一般的な方法は、当技術分野において公知であり、例えば、Kohno(1990) Meth.Enzymol.185:187−95、欧州特許第0433225号、及び米国特許第5,399,677号において開示されている。
【0043】
ポリペプチド産生のために好適な酵母株には、Saccharomyces cerevisiae、Schizosaccharomyces pombe、Pichia pastoris、Kluyveromyces属株、Candida、または対象となるポリペプチドを発現することのできる任意の酵母株が含まれる。
【0044】
「バイオリアクター」なる用語は、本明細書で使用される場合、真核性細胞培養物、例えば、動物細胞培養物(例えば、哺乳動物細胞培養物)の増殖に使用される任意の容器を意味する。バイオリアクターは、細胞、例えば哺乳動物細胞、の培養に有用である限り、任意のサイズであってよい。通常、バイオリアクターは、少なくとも30mlであるが、少なくとも1、10、100、250、500、1000、2500、5000、8000、10,000、12,000リットル以上、あるいは任意の中間的容量であってもよい。バイオリアクターの内部条件、例えば、これに限定されるものではないが、pHおよび温度などは、通常、培養期間中において制御される。「製造用バイオリアクター」なる用語は、本明細書で使用される場合、対象となるポリペプチドおよびタンパク質の製造において使用される最終的なバイオリアクターを意味する。大規模な細胞培養物の製造用バイオリアクターの容量は、一般的に約100mlより大きく、通常は、少なくとも約10リットルであり、500、1000、2500、5000、8000、10,000、12,000リットル以上、あるいは任意の中間的容量であってもよい。好適なバイオリアクターまたは製造用バイオリアクターは、本発明の培養条件下において培地中に懸濁している細胞培養物を保持するのに好適であり、かつ細胞の増殖および生存の助けとなる任意の材料、例えば、ガラス、プラスチック、または金属など、から構成され(すなわち、構築され)ていてもよく、すなわち、当該材料(単数または複数)は、製造された産物、例えば治療用タンパク質産物、の発現または安定性を妨げてはならない。当業者であれば、本発明の実施における使用に好適なバイオリアクターについて知っているであろうし、選択することができるであろう。
【0045】
「培地」、「細胞培養培地」、および「培養培地」なる用語は、本明細書で使用される場合、増殖する動物細胞、例えば哺乳動物細胞、に栄養分を与える栄養物を含有する溶液を意味し、さらに細胞との組み合わせにおける培地も意味し得る。「接種培地」なる用語は、細胞培養物を形成するために使用される培地を意味する。接種培地は、細胞増殖期の他の期間に使用される培地と組成が異なっていても、または異なっていなくてもよい。通常、培地溶液は、これに限定されるものではないが、少なくとも最小限の増殖および/または生存のために細胞によって必要とされる、必須および非必須アミノ酸、ビタミン、エネルギー源、脂質、および微量元素を提供する。さらに、当該溶液は、ホルモンおよび成長因子などの、最小限の速度を超えて成長および/または生存を高める成分を含有していてもよい。当該溶液は、好ましくは、細胞の生存および増殖のために最適なpHおよび塩濃度に処方される。少なくとも一実施形態において、当該培地は、規定培地である。規定培地は、その中の全ての成分が既知の化学構造を有する培地である。本発明の他の実施形態において、当該培地は、任意の供給源もしくは当技術分野において公知の方法に由来するアミノ酸(単数または複数)を含有していてもよく、その例としては、これに限定されるものではないが、単一アミノ酸付加物(単数または複数)またはペプトンもしくはタンパク質加水分解付加物(単数または複数)(動物性供給源または植物性供給源を含む)のいずれかに由来するアミノ酸(単数または複数)が挙げられる。本発明のさらに別の実施形態において、細胞増殖期に使用される培地は、濃縮培地、すなわち、培養に通常必要とされ、かつ通常供給される濃度より高い濃度の栄養物を含有する培地、を含有してもよい。当業者であれば、どのような細胞媒質、接種媒質等が、特定の細胞、例えば動物細胞(例えば、CHO細胞)を培養するために適切であるか、並びにグルコースおよび他の栄養物(例えば、グルタミン、鉄分、微量D元素)の量、あるいは培地が含有すべき、他の培養変数(例えば、発泡量、オスモル濃度)を制御するように設計された薬剤の量について認識するであろう(例えば、Mather,J.P.,et al.(1999) ”Culture media,animal cells,large scale production,” Encyclopedia of Bioprocess Technology:Fermentation,Biocatalysis,and Bioseparation,Vol.2:777−85、米国特許出願公開第2006/0121568号を参照のこと。なお、これにより、この両文献は、参照によりその全体が本明細書に援用されるものとする)。さらに、本発明は、そのような既知の媒質の変形、例えば、そのような媒質の栄養物リッチな変形なども想到する。本明細書で使用される場合、「細胞密度」なる用語は、培地の所定量中に存在する細胞の数を意味する。本明細書で使用される場合、「生存細胞密度」なる用語は、所定の一連の実験条件下において、培地の所定量中に存在する生きた細胞の数を意味する。
【0046】
本明細書で使用される場合、「細胞生存率」なる用語は、所定の一連の培養条件下または実験変量下において生存するための培養物における細胞の能力を意味する。さらに、本明細書で使用される場合、当該用語は、特定の時期に培養物中において生存している細胞及び死んでいる細胞の総数に対する、その時期に生存している細胞の割合も意味する。
【0047】
本明細書で使用される場合、「統合生存細胞密度」、「統合生存細胞数」、または「IVC(integrated viable cell)」なる用語は、培養期間中の生存細胞の平均密度に、培養を行った期間を乗じたものを意味する。産生されるタンパク質の量が、培養期間中に存在する生存細胞の数に比例する場合、統合生存細胞密度は、培養期間中に産生されるタンパク質の量を見積もるための有用なツールである。
【0048】
本発明の方法は、バッチ培養、流加培養、潅流培養、修正流加培養(米国特許仮出願第60/954,922号を参照のこと)、バッチ再供給培養、またはそれらの任意の組み合わせにおいて増殖される細胞に適切である。
【0049】
本明細書で使用される場合、「バッチ培養」なる用語は、細胞の培養において最終的に使用されるであろう、培地および細胞自体も含む全ての成分を培養工程の最初に供給する、細胞の培養方法を意味する。バッチ培養は、通常は、ある時点で停止して、培地中の細胞および/または成分を収穫し、必要に応じて精製する。
【0050】
本明細書で使用される場合、「流加培養」なる用語は、追加的な成分を、培養工程開始後のある時点で培養物に供給する、細胞の培養方法を意味する。供給される成分は、通常、培養工程中に消費されてしまった細胞のための栄養補給剤を含む。流加培養は、通常は、ある時点で停止して、培地中の細胞および/または成分を収穫し、必要に応じて精製する。
【0051】
本明細書で使用される場合、「潅流培養」なる用語は、培養物に対して(培養工程開始後に)、ある期間にわたって連続的に、又はある期間に断続的に、追加的な新鮮な培地を供給し、同時に消費された培地を除去する、細胞の培養方法を意味する。当該新鮮な培地は、通常、培養工程中に消費されてしまった細胞のための栄養補給剤を提供する。消費された培地中に存在し得るポリペプチド産物は、必要に応じて精製してもよい。さらに、潅流によって、バイオリアクター中で増殖する細胞培養物からの細胞の老廃物の除去(フラッシング)も可能になる。
【0052】
本明細書で使用される場合、「修正流加培養」なる用語は、流加培養法と潅流培養法の両方を組み合わせた、細胞の培養方法を意味する。修正流加培養法は、米国特許仮出願第60/954,922号に記載されている。なお、当該文献は、参照によりその全体が本明細書に援用されるものとする。
【0053】
さらに、本発明は、バッチ再供給法で実施することもできる。低pHは、この種の細胞培養物において、タンパク質のミスフォールディングおよび/または凝集、並びにグリコシル化の修正に対して良好な制御方法を提供すると考えられる。
【0054】
本発明の一実施形態において、当該方法は、最初に細胞培養物の増殖期中に接種培地によって細胞培養物を接種する工程、それに続いて細胞を産生期に切り替える工程を含み、この場合、細胞培養物の温度及び/又はpHは、低温及び/又は低pHに調節される。本明細書で使用される場合、増殖期は、細胞が増殖してタンパク質産生に最適な細胞密度を達成する、細胞培養物における段階を意味する。
【0055】
別の実施形態では、増殖期に続いて、細胞を産生期へと切り替えてもよく、これは、増殖期とは異なる温度および/または異なるpH、例えば、低温及び/又は低pHで生じ得る。実施形態において、細胞培養物は、接種後1日で増殖期から産生期へと切り替えることができる。他の実施形態では、細胞培養物は、接種後5日で増殖期から産生期へと切り替えることができる。細胞培養物を増殖期から産生期へと切り替える場合、その移行は比較的ゆるやかであってもよい。あるいは、急激に移行してもよい。緩やかにシフトする場合、温度および/またはpHを着実に調節することができる、例えば低下させることができる。あるいは、温度及び/又はpHを不連続な間隔で調整することもできる。
【0056】
細胞培養物の産生期は、細胞が、対象となるポリペプチド、例えば治療用タンパク質、を産生するのに最適な条件下で当該細胞を増殖させる、細胞培養物における段階である。産生期において、細胞培養物の低温及び/又は低pHは、細胞培養物が生存し続ける温度および/またはpH、高濃度のタンパク質が産生される温度および/またはpH、代謝老廃物、例えば乳酸およびアンモニア、の産生及び蓄積が最小となる温度および/またはpH、タンパク質の産生品質が適切に制御される温度および/またはpH、および/またはこれらの要因もしくは実施者が重要であると考える他の要因の任意の組み合わせに基づいて選択することができる。
【0057】
本発明の別の実施形態において、本発明の方法は、産生期の初期において温度またはpHのシフトが必要ないような、低温および/または低pHで細胞培養物を接種する工程を含む。熟練者であれば、温度およびpHが、設定された温度およびpHの設定値から逸脱することのないように、細胞培養物の温度およびpHを監視するであろう。例えば、熟練者であれば、塩基、例えば炭酸ナトリウム塩基、を使用して、培養物が下記の設定pHから逸脱するのを防ぐであろう。
【0058】
本明細書の下記の実施例において、細胞培養培地は、目標のpH設定値より高いpHで開始しており、pH設定値への細かな調節は行っていない。ただし、当業者によって理解されるように、細胞培養の経過中のpH調節の使用を含んでもよい。同様に、調節を行わずに培養を低温で開始することも可能である。例えば、本方法は、産生期のみを含んでもよい。
【0059】
本明細書で使用される場合、「低温」は、その種類の細胞の細胞増殖のための従来の温度(細胞が典型的に増殖する温度)より低い温度を意味する。例えば、本発明の実施形態において、細胞が哺乳動物細胞の場合、産生期の細胞培養物は、好ましくは24.0℃〜30.0℃未満の範囲であり、より好ましくは27.0℃〜30.0℃未満の範囲である。例えば、細胞培養物の低温は、24.0℃、24.5℃、25.0℃、25.5℃、26.0℃、26.5℃.27.0℃、27.5℃、28.0℃、28.5℃、29.0℃、29.5℃、29.6℃、29.7℃、29.8℃、および29.9℃である。本明細書に記載されている本発明の最も好ましい実施形態において、細胞培養物の低温は、約29.5℃である。哺乳動物以外の細胞に対する低温は、当業者により個別に決定され得る。
【0060】
本明細書で使用される場合、「低pH」は、特定の細胞種の細胞増殖のための従来のpH(細胞が典型的に増殖するpH)より低いpH設定値を意味する。本発明の実施形態において、細胞が哺乳動物細胞の場合、産生期の細胞培養物の低pHは、7.00未満である。本発明の実施形態において、細胞培養物の低pHは、6.50〜7.00未満の範囲、好ましくは6.80〜7.00未満の範囲である。例えば、細胞培養物の低pHは、6.80、6.85、6.90、6.95、6.96、6.97、6.98、および6.99である。本発明の最も好ましい実施形態において、細胞培養物の低pHは、約6.95である。哺乳動物以外の細胞に対する低pHは、当業者により、個別に決定され得る。
【0061】
当業者であれば、細胞培養物の細胞の種類に応じて、従来温度および従来pH(低温および低pHと区別して)が異なることは理解するであろう。例えば、ほとんどの哺乳動物細胞、例えばCHO細胞、のための従来温度および従来pHは、それぞれ、30.0℃より上(例えば、37.0℃)、および7.00より上(例えば、7.20)である。さらに、当業者であれば、他の細胞種、例えば昆虫の細胞、のための従来温度および従来pHは、哺乳動物細胞の従来の温度と異なっているため、本発明の方法は、そのような細胞に対しては、異なる低温および異なる低pHが用いられることは理解されるであろう。
【0062】
本発明のある特定の実施形態において、実施者は、増殖する細胞培養物の特定の状態を定期的に監視することが有益または必要であることを見出し得る。非限定的な実施例の場合、例えば、温度、pH、溶存酸素、細胞密度、細胞生存率、統合生存細胞密度、ラクテート濃度、アンモニア濃度、グルコース濃度、グルタミン濃度、オスモル濃度、発現したポリペプチドの力価などを監視することは有益であり得、または必要であり得る。そのような状態/基準を測定するための多くの技術が、当業者に公知である。例えば、細胞密度は、血球計、自動化された細胞計数装置(例えば、Coulterカウンター、Beckman Coulter Inc.社、Fullerton, CA)、または細胞密度検査(例えば、CEDEX(登録商標)、Innovatis社, Malvern,PA)を用いて測定することができる。生存細胞密度は、培養物試料をトリパンブルーで染色することによって決定することができる。ラクテート濃度、アンモニア濃度、グルコース濃度、およびグルタミン濃度、並びに溶存酸素およびpHは、例えば、細胞培養培地中の重要な栄養素、代謝物質、および気体の測定値を計測するBioProfile 400 Chemistry Analyzer(Nova Biomedical社、Waltham、MA)によって測定することができる。さらに、溶存酸素およびpHは、例えば、血液ガス分析装置(例えば、Bayer Rapidlab 248 pH/血液ガス分析装置(Bayer HealthCare LLC社、East Walpole、MA))を用いて測定することができる。さらに、温度、pH、および溶存酸素は、例えば、様々な種類のインサイチュプローブによっても測定することができる。細胞培養物のオスモル濃度は、例えば、凝固点オスモメーターによって測定することができる。HPLCを使用して、例えば、ラクテート、アンモニア、又は発現したポリペプチドもしくはタンパク質のレベルを決定することができる。本発明の一実施形態において、発現したポリペプチドのレベルは、例えば、タンパク質A HPLCを使用して決定することができる。あるいは、発現したポリペプチドもしくはタンパク質のレベルは、標準的な技術、例えば、SDS−PAGEゲルのクマシー染色、ウエスタンブロット法、ブラッドフォードアッセイ、ローリーアッセイ、ビウレットアッセイ、及びUV吸光度など、によって決定することができる。発現したポリペプチドもしくはタンパク質の翻訳後修飾、例えばグリコシル化、を監視することは必要であり得る。さらに、タンパク質の他の翻訳後修飾、例えばリン酸化等、を監視することも有益であり得る。ある特定の細胞培養条件を監視するために、分析用に培養物から少量のアリコートを採取することが必要であり得る。当業者であれば、そのような採取は、汚染物を細胞培養物に導入する可能性のあることを理解するであろうし、そのような汚染物のリスクを最小にするための適切な配慮を行うことができるであろう。
【0063】
本発明の一実施形態において、実施者は、低細胞培養物温度および/または低細胞培養物pHでの統合生存細胞数を監視するであろう。好ましくは、低温および/または低pHでの細胞の増殖は、統合生存細胞密度を20%まで、より好ましくは20%未満(例えば、15%)まで減少させる。本発明の別の実施形態において、実施者は、低細胞培養物温度および/または低細胞培養物pHでの細胞生存率を監視するであろう。好ましくは、低温および/または低pHでの細胞の増殖は、細胞生存率を15%未満まで、より好ましくは5%未満まで減少させる。
【0064】
グルコースは、細胞培養物にとって主要なエネルギー源である。細胞培養物におけるグルコース消費量の著しい逸脱は、細胞培養物の健康に対する細胞培養条件の負の効果を示している場合がある。したがって、本発明の好ましい実施形態において、低温および/または低pHで細胞を増殖させることにより、結果として細胞培養物のグルコース消費における変化、例えば減少、が最小となる。
【0065】
グルタミンは、細胞培養物のための代替エネルギー源であり、かつ細胞培養物における様々な分子、例えばアミン酸、の重要な窒素源である。したがって、本発明の好ましい実施形態において、低温および/または低pHで細胞を増殖させることにより、結果として細胞培養物のグルタミン消費における変化、例えば減少、が最小となる。
【0066】
本発明の別の実施形態において、実施者は、細胞培養物における老廃物の産生、例えば、ラクテートおよびアンモニアの産生、を監視するであろう。したがって、本発明の好ましい実施形態において、低温および/または低pHで細胞を増殖させることにより、結果としてラクテートおよびアンモニアの産生における変化、例えば増加、が最小となる。本発明のいくつかの実施形態において、低温および/または低pHで細胞を増殖させることにより、ラクテートおよびアンモニアの産生を最小にすることができる。
【0067】
さらに、本発明の好ましい実施形態において、低温および/または低pHで細胞を増殖させることにより、結果として累加平均産生能及び産物力価における減少が最小となる。本明細書で使用される場合、「力価」なる用語は、細胞培養物(例えば、動物細胞培養物)によって産生される、対象となるポリペプチド、例えば対象となる糖タンパク質、の総量を、所定の量の培地容積で除したものを意味する。すなわち、「力価」は濃度を意味する。力価は、通常、培地1リットル当たりのポリペプチドのミリグラム単位で表現される。好ましくは、細胞培養物において生じる細胞産生能および産物力価の減少は、凝集タンパク質産物またはミスフォールドタンパク質産物の産生の減少、例えばHMWAの産生の減少、によって相殺される。
【0068】
本明細書で使用される場合、「凝集したタンパク質」なる用語は、非機能性の、又は最適でない、あるいは望ましくないタンパク質産物を産生するタンパク質集団、すなわち、高分子量凝集体を意味する。「ミスフォールドしたタンパク質」なる用語は、不適切に折り重ねられたタンパク質を意味し、しばしば、もはや正常な生物活性、例えば、正常な酵素活性、を示し得ないタンパク質を意味する。当業者であれば、タンパク質凝集体が、正しくフォールドされたタンパク質および/またはミスフォールドされたタンパク質のいずれか、またはその両方を含み得ることを知っているだろう。凝集またはミスフォールドしたタンパク質は、一般的に、過剰発現細胞培養物、例えば、糖タンパク質などの対象となるタンパク質を過剰発現する細胞培養物、において形成される。例えば、凝集体は、フォールドされていないポリペプチド鎖の非特異的な疎水性相互作用によって、あるいはフォールドしている中間体の相互作用によって生じ得る。本発明の一実施形態において、低温および/または低pHで細胞を増殖させることにより、結果としてタンパク質のミスフォールディング/凝集が少なくとも50%、好ましくは約60%減少する。当業者であれば、タンパク質の凝集/ミスフォールディングを監視するために必要な技術、例えば、疎水性相互作用HPLC(HIC−HPLC)など、を知っているであろう。
【0069】
「高分子量凝集体」(HMWA)なる用語は、少なくとも2つのタンパク質間の会合から生じる、タンパク質産物の望ましくない副産物を意味する。「高分子量凝集体」は、少なくとも2つの同一のタンパク質間の会合および/または対象となるタンパク質と細胞培養物中に存在する他のタンパク質、例えば宿主細胞タンパク質、との間の会合であり得る。当該会合は、例えば、これに限定されるものではないが、共有結合性架橋、非共有結合性架橋、二硫化架橋、および/または、非還元性架橋などの任意の方法によって生じ得る。当業者であれば、タンパク質が多量体の形態(例えば、二量体の形態)において活性である場合、すなわち、2つ以上のポリペプチド鎖がタンパク質活性に必要な場合、「高分子量凝集体」なる用語は、2つ以上のそのような多量体形態の間の会合を意味する。本発明の一実施形態において、多量体形態で活性なタンパク質は、レセプター、例えばサイトカインレセプター(例えば、sIL−13R))、である。一実施形態において、低温および/または低pHで細胞を増殖させることにより、結果として高分子凝集体が、少なくとも約10%の減少し、好ましくは約40%の減少し、より好ましくは約50%の減少し、さらにより好ましくは約80%以上減少し、あるいは任意の中間値となる。当業者であれば、高分子量凝集体の産生を監視するために必要な技術、例えば立体排除高速液体クロマトグラフィ(SEC−HPLC)、を知っているであろう。
【0070】
本発明の別の態様において、細胞培養物の温度及び/又はpHは、タンパク質グリコシル化、例えばタンパク質シアリル化、を所定のレベルに変えるために使用される。例えば、細胞培養物のpHおよび/または温度を低下させることにより、N−結合グリコシル化およびO−結合グリコシル化の両方が減少し得、例えばN−グリカンシアリル化が減少し得る。タンパク質グリコシル化(例えば、シアリル化)における変化は、治療用タンパク質の安定性、酵素活性、循環寿命、および免疫原性に影響を及ぼし得る。当業者であれば、温度および/またはpHを変化させることで、タンパク質グリコシル化の所望の種類およびレベルが達成されることを確認するため、グリコシル化(例えば、シアリル化)の程度を監視し得る。タンパク質産物のタンパク質グリコシル化を監視するために、クロマトグラフィ技術、例えば、順相クロマトグラフィ(NPC:Normal Phase Chromatography)、を使用することができる。
【0071】
産生期の終了時に、細胞を収穫し、対象となるポリペプチドを収集して精製する。好ましくは、産生期の終了時に、対象となるポリペプチドは、ミスフォールディングおよび/または凝集の減少を示すと同時に、許容可能なグリコシル化パターンを維持している。本発明の一実施形態において、対象となるポリペプチドは、産生期の終了時において、可溶性の形態である(例えば、対象となるポリペプチドは、可溶性レセプター、例えば、可溶性サイトカインレセプターである)。ポリペプチドのそのような可溶性の形態は、馴化培地から精製することができる。
【0072】
ポリペプチドの膜結合性形態は、発現細胞から総膜分画を調製し、TRITON(登録商標)X−100(EMD Biosciences社、San Diego、CA)などの非イオン性洗浄剤で膜を抽出することにより精製することができる。サイトゾルタンパク質または核タンパク質は、(機械的力、パールボンブ、超音波処理、洗浄剤により)宿主細胞を溶解させ、遠心分離で細胞膜分画を除去し、上澄みを残すことによって調製することができる。
【0073】
当該ポリペプチドは、当業者に既知の他の方法を用いて精製することもできる。例えば、開示された方法によって製造されたポリペプチドは、市販のタンパク質濃縮フィルター、例えばAMICON(登録商標)またはPELLICON(登録商標)限外濾過ユニット(Millipore社、Billerica、MA)、を用いて濃縮することができる。濃縮工程後、当該濃縮物を、ゲル濾過媒体などの精製マトリックスに適用することができる。あるいは、アニオン交換樹脂(例えば、MonoQカラム、Amersham Biosciences社、Piscataway、NJ)を用いてもよく、そのような樹脂は、ペンダント型ジエチルアミノエチル(DEAE:diethylaminoethyl)基またはポリエチレンイミン(PEI:polyethylenimine)基を有するマトリックスまたは基質を含有している。精製に用いられるマトリックスは、アクリルアミド、アガロース、デキストラン、セルロース、またはタンパク質精製において通常用いられる他の種類のものであってもよい。あるいは、タンパク質の精製に、カチオン交換工程を用いてもよい。好適なカチオン交換体としては、スルホプロピル基またはカルボキシメチル基を含む様々な不溶性マトリックス(例えば、S−SEPHAROSE(登録商標)カラム、Sigma−Aldrich社、St.Louis、MO)が挙げられる。
【0074】
さらに、培養上清からのポリペプチドの精製は、親和性樹脂による1つ以上のカラム工程、例えば、コンカナバリンA−アガロース、AF−HEPARIN650、ヘパリン−TOYOPEARL(登録商標)、またはシバクロンブルー3GA SEPHAROSE(登録商標)(Tosoh Biosciences社、San Francisco、CA);フェニルエーテル、ブチルエーテル、もしくはプロピルエーテルなどの樹脂を使用する疎水相互作用クロマトグラフィカラム;または標識タンパク質に対する抗体を使用するイムノアフィニティーカラムなどを含み得る。最終的に、タンパク質をさらに精製するために、疎水性HPLC媒体、例えばペンダント型メチル基又は他の脂肪族基を有するシリカゲル(例えば、Ni−NTAカラム)など、を用いた1つ以上のHPLC工程を用いてもよい。あるいは、ポリペプチドを、組み換えにより、精製を容易にする形態において発現させてもよい。例えば、当該ポリペプチドは、タンパク質との融合体、例えば、マルトース結合タンパク質(MBP:maltose−binding protein)、グルタチオン−S−トランスフェラーゼ(GST)、またはチオレドキシン(TRX:thioredoxin)など、として発現させてもよく、このような融合タンパク質の発現および精製のためのキットは、それぞれNew England BioLabs社(Beverly、MA)、Pharmacia社(Piscataway、NJ)、およびInvitrogen社(Carlsbad、CA)から市販されている。さらに、小さいエピトープ(例えば、His、myc、もしくはFlagタグ)でタンパク質にタグ付けし、続いて選択したエピトープに対する特異的な抗体を用いて同定および精製することもできる。共通エピトープに対する抗体は、様々な商業的供給元から入手可能である。本発明の方法によって製造された対象となるポリペプチド、例えば治療用タンパク質、を精製するために、上記のいつくかの精製工程、または全ての精製工程の様々な組み合わせ、または他の公知の方法との組み合わせを用いることができる。
【0075】
薬学的組成物
本発明のある特定の実施形態において、本発明の1つ以上の方法に従って製造されたタンパク質は、製薬剤の製造において有用であり得る。本発明の1つ以上の方法に従って製造されたタンパク質は、対象者に投与してもよいし、あるいは、これに限定されるものではないが、非経口(例えば、静脈内)、皮内、皮下、経口、経鼻、気管支、眼、経皮(局所)、経壁、直腸、および経膣などの経路を含む任意の利用可能な経路による送達のために最初に製剤化してもよい。発明の医薬組成物は、通常、薬学的に許容される担体との組み合わせにおいて、哺乳動物細胞株から発現した精製タンパク質、送達用薬剤(例えば、上記で記載したようなカチオン性ポリマー、ペプチド分子トランスポーター、界面活性物質など)を含む。本明細書で使用される場合、「薬学的に許容される担体」なる言葉は、有効成分(単数または複数)、例えば、医薬品の投与に適合し得る溶媒、分散媒体、コーティング剤、抗菌剤および抗真菌剤、等張化剤および吸収遅延化剤など、の生物学的活性の有効性を妨げない無毒性物質を含む。当該担体の特徴は、投与経路に応じて変わる。さらに補足的活性化合物を、当該組成物に組み込むこともできる。
【0076】
医薬組成物は、その意図された投与経路に適合するように製剤化される。本発明の1つ以上の方法に従って製造された治療用タンパク質が経口形態で投与される場合、当該医薬組成物は、錠剤、カプセル剤、粉末、溶液、またはエリキシル剤の形態であろう。錠剤形態で投与される場合、本発明の医薬組成物は、ゼラチンまたは補助剤などの固体担体を追加的に含んでいてもよい。当該錠剤、カプセル剤、および粉末は、約5〜95%の結着剤、好ましくは約25〜90%の結着剤を含む。液体形態で投与される場合、水、石油、動物性油又は植物性油、例えば、ゴマ油、ピーナッツ油(人口におけるアレルギー反応の発生頻度を考慮して)、鉱油、または大豆油、またはゴマ油など、あるいは合成油、などの液体の担体を添加してもよい。液体形態の医薬組成物は、さらに、生理食塩水、デキストロースもしくは他の糖類の溶液、またはグリコール、例えばエチレングリコール、プロピレングリコール、もしくはポリエチレングリコールなど、を含んでいてもよい。液体形態で投与される場合、医薬組成物は、約0.5〜90重量%の結着剤、好ましくは約1〜50重量%の結着剤を含む。
【0077】
本発明の1つ以上の方法に従って製造された治療用タンパク質が、静脈内注射、皮膚注射、又は皮下注射によって投与される場合、当該治療用タンパク質は、発熱物質を含まない非経口的に許容される水溶液の形態であろう。pH、等張性、安定性などに対する相応の注意を要する、そのような非経口的に許容されるタンパク質溶液の調製は、当業者の技術範囲内である。静脈内注射、皮膚注射、もしくは皮下注射のための好ましい医薬組成物は、治療用タンパク質に加えて、等張ビヒクル、例えば、塩化ナトリウム注射液、リンガー注射液、デキストロース注射液、デキストロースおよび塩化ナトリウム注射液、乳酸リンガー注射液、あるいは当該技術分野において既知の他のビヒクルなど、を含有すべきである。さらに、本発明の医薬組成物は、安定化剤、保存剤、緩衝液、酸化防止剤、または当業者に既知の他の添加剤を含んでいてもよい。
【0078】
本発明の1つ以上の方法で製造された治療用タンパク質を含む医薬組成物を追加的に処方することは、当業者に既知であろう。当業者であれば、本発明に従って製造されたタンパク質に適した単位投与配合組成についても分かるであろう。
【0079】
これにより、本明細書中において引用した全ての参照、特許、および特許出願の全内容は、参照により本明細書に援用されるものとする。
【実施例】
【0080】
本発明の理解を助けるために、下記実施例を詳細に説明するが、いかなる意味においても、本発明の範囲を限定することを意図するものでなくかつ限定するものとして解釈すべきではない。実施例は、慣用法、例えばクローニング、トランスフェクション、および細胞株においてタンパク質を過剰発現させるための方法の基本的側面に関する詳細な記述を含んでいない。そのような方法は、当業者に周知である。
【0081】
(実施例1)
TNFR−Fcタンパク質の製造
実施例1.1:組み換え型CHO細胞の細胞培養物性能およびTNFR−Fc融合タンパク質の産生品質に対する低温の効果
実施例1.1.1:材料および方法
組み換え型糖タンパク質TNFR−Fcを過剰発現するチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞は、同一の濃度および条件で、4つの別々のベンチスケールのバイオリアクターに37.0℃で接種した。細胞は、流加培養において1日増殖させ、その後、30.0℃、29.0℃、28.0℃、または27.0℃に温度シフトさせた。培養物の初期pH設定値下限は、7.00であった。培養物から細胞試料を毎日採取し、細胞培養物の様々な状態、例えば、統合生存細胞数、細胞生存率、残存グルコースプロフィール、残存グルタミンプロフィール、ラクテートおよびアンモニアの濃度、累加平均細胞産生能(Qp:Cumulative average cell productivity)、産物力価、ミスフォールド/凝集した産物のレベル、高分子量凝集体のレベル、シアリル化のレベル、およびpHなど、を測定した。
【0082】
統合生存細胞数(IVC:Integrated viable cell)は、細胞密度検査(例えば、CEDEX(登録商標)、Innovatis社、Malvern、PA)を使用して細胞密度を測定することよって計算し、平均収穫日IVCに正規化した。平均収穫日IVCは、試験した全ての実験条件に対して収穫日(例えば、10日)統合生存細胞密度の算術平均を計算することによって決定した。次いで、全ての個々のIVC値を、平均収穫IVCに合わせて調整し、正規化した値を得た。
【0083】
細胞生存率は、トリパンブルーで染色し細胞密度試験(例えば、CEDEX(登録商標)、Innovatis社、Malvern、PA)を用いて測定した。さらに、細胞培養物における残存グルコースプロフィールおよび残存グルタミンプロフィールは、BioProfile Chemistry Analyzer(Nova Biomedical社、Waltham、MA)を使用して測定した。老廃物、ラクテート、およびアンモニアの濃度は、BioProfile Chemistry Analyzer(Nova Biomedical社、Waltham、MA)を使用して測定した。
【0084】
累加平均細胞産生能(Qp)および産物力価は、タンパク質A HPLCを使用して測定し、平均収穫日累加平均Qpおよび平均収穫日力価に正規化した。平均収穫日力価は、試験した全ての実験条件に対して収穫日(例えば、10日)力価の算術平均を計算することによって決定した。次いで、全ての個々の力価値を平均収穫日力価に合わせて調整し、正規化した値を得た。平均収穫日累加平均Qpは、試験した全ての実験条件に対して収穫日累加平均Qpの算術平均を計算することによって決定した。次いで、全ての個々の値を平均収穫日力価に合わせて調整し、正規化した値を得た。
【0085】
ミスフォールドした産物/凝集した産物のレベルは、HIC−HPLCを使用して測定し、高分子量凝集体のレベルはSEC−HPLCを使用して測定した。総グリカンシアリル化およびN−結合グリカンシアリル化のレベルは、2−アミノベンズアミド−(2−AB)−標識タンパク質グリコ型を順相クロマトグラフィ(NPC:Normal Phase Chromatography)にかけることよって測定した。総シアリル化(N−結合およびO−結合)の量は、参照試料、すなわち、既知の好ましいシアリル化パターンを有するTNFR−Fcアリコート、の総シアリル化の量に対する割合として定義した。細胞培養物のpHは、血液ガス分析装置(Bayer Rapidlab 248 pH/血液ガス分析装置(Bayer Healthcare LLC社、East Walpole、MA))によるオフライン計測により決定した。
【0086】
実施例1.1.2:結果
低温での細胞の増殖は、IVC数に対して最小の効果を有していた。特に、作業温度が低いほどで、最終的なIVC数も少なかった。しかしながら、細胞培養温度を27℃まで下げても影響は小さく、すなわち、IVC数において約20%の減少が観察されただけであった(図1A)。細胞生存率は、温度の低下にはあまり影響を受けず、すなわち、最も低い温度条件(すなわち、27℃)で、収穫日生存率は5%の低下であった(図1B)。
【0087】
その上、低作業温度では、残存グルコースプロフィールが高く、このことは、細胞培養物のグルコース消費がより低いことを示している(図2A)。しかしながら、グルタミンプロフィールは、低温でもあまり変わらなかった(図2B)。
【0088】
場合によっては、細胞培養の晩期において、乳酸およびアンモニアも細胞培養によって消費される場合がある。乳酸およびアンモニアの産生の中断あるいは乳酸およびアンモニアの消費は、細胞生存率、細胞産生能を高め、並びにポリペプチド産物力価を高める効果を有する。低温での細胞の増殖は、流加培養の後半においてラクテートの純消費を変える効果を有していた(図3A)。低温では、アンモニアの産生も高くなった(図3B)。低温では、細胞特異的産生能が低く(下側のQp)(図4A)、並びに産物力価も低かった(図4B)。産物力価が低いのは、細胞特異的産生能及び統合生存細胞数が低いためである。しかしながら、産物力価及び細胞産生能が低いことは、ミスフォールドした産物および凝集した産物の割合が著しく低いことで相殺された(図5A)。その上、細胞培養の温度を下げることで、細胞培養物中の高分子量凝集体の割合が著しく減少した(図5B)。したがって、温度を下げることによって、結果としてTNFR−Fcタンパク質産生が改善された。
【0089】
この温度における低下は、総産物シアリル化(N−結合シアリル化およびO−結合シアリル化の両方)と相関していた(図6A)。実際のところ、細胞培養物温度を下げることとシアリル化されたN−結合グリカンの割合の減少との間には直接の因果関係が存在し(図6B)、産生温度を選択して、HMWAおよびタンパク質ミスフォールディングが減少する有益効果と、グリコシル化が減少するという不利益効果とのバランスを取らなければならないことを示している。例えば、29.5℃の低温で細胞を増殖させることにより、ミスフォールドしたTNFR−Fcおよび凝集したTNFR−Fcの濃度が著しく減少するが、一方でTNFR−Fcグリコシル化に対しては最小の効果を有していた。
【0090】
異なる温度で増殖させた細胞培養の間におけるラクテートの純消費の違いは、収穫の時点での細胞培養のpHに違いを生じさせた(図7)。これは、ラクテート(乳酸)の純消費が大きいほど、酸が環境から除去されるために、培養物pHも上昇するという事実によるものである。
【0091】
実施例1.2:組み換え型CHO細胞の細胞培養性能およびTNFR−Fc融合タンパク質の産物品質に関する低pHの効果
実施例1.2.1:材料および方法
組み換え型糖タンパク質TNFR−Fcを過剰発現するCHO細胞を、同じ濃度で37.0℃にて、それぞれ7.20、7.10、7.00、6.90、または6.80のpH設定値で接種した。炭酸ナトリウム塩基を加えることにより、培養物が設定値pHより下に逸脱するのを防いだ。設定値pHより上に対しては、pH制御は行わなかった。バイオリアクターは、1日(接種後1日、すなわち、実験開始後1日)で30.0℃に温度シフトした。細胞培養の様々な条件は、実施例1.1.1で記載されているのと同様に測定した。
【0092】
実施例1.2.2:結果
7.00から0.2pHずつ下げたpH設定値で細胞を増殖させることにより、IVCがわずかに減少し、特にpH6.80での細胞増殖は、pH7.00での細胞増殖と比較してIVCにおいて約15%減少していた(図8A)。さらに、pH7.20での細胞増殖では、細胞生存率が低下した(図8B)。
【0093】
さらに、作業pH設定値が低いほど、グルコースの消費も低かった(図9A)。グルタミンプロフィールは、6.80〜7.10のpH設定値で細胞を増殖させてもあまり変化はなかった。
【0094】
当然のことながら、作業pH設定値が高いほど、ラクテートの産生も高かった(図10A)。pH6.80の設定値では、流加培養の後半においてラクテートの純消費が生じなかった。作業pH設定値が低いほど、アンモニアの産生も高かった(図10B)。
【0095】
pHを維持するために酸を用いず塩基だけを添加したので、実験の後半におけるラクテートの純消費の違いから、作業pH設定値からの培養物pHのずれが生じた(図11A)。pH設定値、ラクテートプロフィール、および滴定剤添加における違いの結果として、pH条件間でオスモル濃度も異なっていた(図11B)。
【0096】
7.00から0.2pHずつ下げたpH設定値で培養物を増殖させることにより、細胞特異的産生能(すなわち、Qp)はわずかに低下した(図12A)。6.80または7.20のpH設定値を用いた場合では、細胞特異的産生能と統合生存細胞数の両方が低下したために、産物力価が低下した(図12B)。
【0097】
しかしながら、低い作業pH設定値では、産物のミスフォールディングおよび凝集が減少した(図13A)。さらに、低いpH設定値において、高分子量凝集体の割合における著しい減少が観察された(図13B)。
【0098】
作業pH設定値を低くすることで、総シアリル化(N−およびO−結合グリカンの両方)が低下し(図14A)、同様にN−結合グリカンシアリル化も低下した(図14B)。総シアリル化(N−およびO−結合)の量は、参照試料の総シアリル化の量に対する割合として定義されるため、100%を下回る値は、総シアリル化の減少を表し、100%を超える値は、総シアリル化の増加を表している。グリコシル化のパターンは、糖タンパク質のグリカンのプロフィールとして表すことができる(図15)。低pHで細胞を増殖させることにより、グリコシル化プロフィール全体が著しく変わった(図16)。低pHでは、新しいグリコ型は検出されないが、存在するグリコ型の比は著しく変わった。すなわち、低pHで細胞を増殖させることにより、ジ−シアリル化グリコ型とモノ−シアリル化グリコ型の複合物が減少した。タンパク質のグリコシル化に対する低pHの潜在的な好ましくない効果のために、タンパク質グリコシル化に対する有害な効果と、ミスフォールドタンパク質および/または凝集タンパク質の減少に対する有益な効果とのバランスが取れるように、細胞培養のpHを選択しなければならない。例えば、低pH6.95で細胞を増殖させることにより、ミスフォールドおよび凝集したTNFR−Fcタンパク質の割合を著しく減少させると同時に、TNFR−Fcのグリコシル化に対する影響が最小になる。
【0099】
実施例1.3:議論
これらの研究は、27.0〜30.0℃の温度範囲内、または6.80〜7.20のpH設定値範囲内において、細胞培養物の細胞増殖および特異的産生能はかなり影響されることを示している。ただし、温度をわずか1〜2℃およびpH設定値をわずか0.1〜0.2変えても細胞増殖および特異的産生能にはあまり影響しなかったが、一方でタンパク質のフォールディングおよびタンパク質の凝集においては著しい(好ましい)違いが観察された。したがって、細胞の増殖、生存率、または産生能にはあまり影響を及ぼさない細胞培養条件における小さな違いは、例えば、タンパク質のフォールディング及びタンパク質の凝集を減少させたり、又はグリコシル化に影響を及ぼしたりするなど、産生品質を著しく変化させ得る。
【0100】
(実施例2)
sIL−13R産生に対する温度の効果および新規のsIL−13R産生細胞株の評価
実施例2.1:材料および方法
組み換え型糖タンパク質sIL−13Rを過剰発現する安定にトランスフェクトされたチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞を、Applikonバイオリアクターにおいて、消泡剤(Dow Corning Corporation社、Midland、MI)を用いて、3×105細胞/mLで接種培地に播種した。必要に応じて、さらなる消泡剤を加えた。濃縮した栄養培地を、供給培地として使用した。pH設定値下限は6.80であった。dO2設定値は、7%CO2/93%空気のスパージガスを用いて23%であった。一方、アジテーションは200rpmであった。バイオリアクターは、5日目で37.0℃に温度シフトした。産生期の温度は、37.0℃、33.0℃、32.0℃、28.0℃、又は室温(RT(room temperature):約24.0℃)のいずれかとした。実験条件のための供給計画をまとめて表1に示す。供給液量は、バイオリアクター中の培養液量の割合として一覧してある。細胞培養に対する温度シフトは、約6×106細胞/mLで行った。
【0101】
【表1】
実施例2.2:結果
温度シフト後に達成された生存細胞密度は、室温(約6×106細胞/mL)および29.0℃(約7×106細胞/mL)の方が、より高い温度での生存細胞密度(約8×106細胞/mL)よりもわずかに低くかった(図17A)。同様に、温度シフト後に達成された総細胞密度は、室温(約6.5×106細胞/mL)および29.0℃(約7.5×106細胞/mL)の方が、より高い温度での総細胞密度(約8〜9×106細胞/mL)よりもわずかに低かった(図17B)。生存率は、温度が低いほど、流加培養全体を通じてより良好に維持された(図17C)。生存率における衰退速度は、温度で変わった。すなわち、室温及び29.0℃の生存率プロフィールは、培養物を31.0℃、32.0℃、33.0℃、および37.0℃に維持した場合より著しく高かった(図17C)。
【0102】
18日間の流加培養の終了時に、最も高い力価(sIL−13R二量体およびHMWAの力価の組み合わせ)は、31.0℃での培養によって達成され、以下、32.0℃での培養(188mg/L)、29.0℃での培養(178mg/L)、および33.0℃での培養(151mg/L)と続いた(図18)。室温での培養および37.0℃での培養は、非常に低い力価であった。sIL−13R産生細胞株の細胞特異的産生能、または1日の特異的sIL−13R産生率(Qp)は、室温および37.0℃において著しく減少した(図19A)。さらに、累加平均特異的産生能、または累加平均Qpも、37.0℃および室温において低かった(図19B)。興味深いことに、特異的産生能では、培養生存率の著しい減少(データはしめしていない)に一致して、37.0℃、33.0℃、32.0℃、および31.0℃での培養において、終了に向かって著しい増加が見られた。
【0103】
特異的グルコース消費(Qglc)は、温度の低下により減少した(図20)。特異的グルタミン消費(Qgln)も、温度の低下により減少しているように見える(図21)。しかしながら、特異的グルタミン消費に関するデータでは、温度を上げることでより大きく生じるであろう培地におけるグルタミン分解を説明できないということは注目すべきである。したがって、特異的グルタミン消費に対する温度の影響は歪められ得る。室温、29.0℃、31.0℃、および32.0℃での培養に対するラクテート濃度プロフィールは、ラクテート濃度が温度シフト日またはその付近でピークに達するまでは同じであり、その後、18日までに0.7〜2.0g/L減少した(図22)。33.0℃および37.0℃の培養に対しては、ラクテートプロフィールは、増殖期では他の培養と同じであるが、産生期では著しく異なっている。33.0℃での培養に対しては、ラクテート濃度は、温度シフトの後でも減少せず、基本的に一定のままであった。37.0℃での培養では、ラクテートが流加培養の期間全体を通して増加した。
【0104】
アンモニア濃度は、産生期中において、温度に従って変化した(図23)。29.0℃の培養では、アンモニア濃度は、温度シフト日またはその付近でピークに達し、流加培養の中期において減少し、流加培養の後期において増加した。29.0℃より上の温度では、流加培養の後期におけるアンモニア濃度の増加が、より早く、より大きく生じた。37.0℃の培養では、アンモニア濃度は流加培養中一貫して増加した。室温の培養では、アンモニア濃度は、温度シフト後、ほぼ一定のままであった。
【0105】
これら実行中のバイオリアクターからの培養上清の試料は、バッチ結合性タンパク質Aの溶離液のサイズ排除クロマトグラフィ(SEC:size−exclusion chromatography)によって、高分子量凝集体(HMWA)を分析した。細胞株の結果から明らかな傾向は、温度を上げると、培養上清中に存在するHMWAの割合が相対的に増加するということであった(図24および図25)。したがって、低温で細胞を増殖させることにより、結果としてsIL−13R産生凝集体が減少した。
【0106】
sIL−13R二量体の割合における減少は、HMWAの割合の増加に相関していた(図26Aおよび26B)。室温での培養では、他の培養より%HMWAが低く(図26B)、同様に二量体形成の割合も高かった(図26A)。室温での培養および31.0℃での培養では、同様の二量体のみの力価が得られ、一方で、29.0℃での培養では、最も高い二量体だけの力価が得られた(図27)。
【0107】
SEC分析からの結論を実証するために、ウエスタンブロットを使用して馴化培地試料を分析した。二量体に対して、HMWA種として存在するsIL−13Rの量における質的な違いを調べた。ウエスタンブロットは、馴化培地中に存在するHMWA凝集体の量が、存在する二量体の量と比較して、温度上昇により増加することを実証している(データは示していない)。
【0108】
これらの実験は、sIL−13R二量体の容量産生能に関して、生存率および生存細胞密度、特異的産生能、並びにHMWA形成の温度依存性変数間の相互作用の重要性を示す。31.0℃での培養において、最も高い力価(HMWAおよび二量体を含む測定)を達成したが、二量体だけに関して測定した場合、低温(例えば、29.0℃)での培養では、それに匹敵するか、もしくはより向上した体積産生能が得られ得る。
【技術分野】
【0001】
本願は、2007年4月23日に出願された米国仮特許出願第60/913,382号の利益を主張する。米国仮特許出願第60/913,382号は、その全体が本明細書中に参考として援用される。
【0002】
本発明は、培養された細胞、特に哺乳動物細胞によるタンパク質産生を改善する方法を提供する。特に、本発明は、タンパク質産物(単数または複数)、例えば糖タンパク質産物(単数または複数)、の製造方法であって、細胞培養環境を操作することによって当該タンパク質産物の特性を制御する方法に関する。本発明はさらに、例えば細胞培養物の温度および/またはpHを下げることによりタンパク質のグリコシル化を操作してタンパク質の凝集およびミスフォールディングを低減することによって、哺乳動物細胞で産生されるタンパク質産物(単数または複数)、例えば糖タンパク質産物(単数または複数)、の治療効果および/または免疫原性を改善する方法に関する。
【背景技術】
【0003】
市販または開発中に関わらず、バイオテクノロジー製品の大部分は、タンパク質治療薬である。動物細胞培養物におけるタンパク質の産生、並びにそのような産生に関する改善された方法に対する需要は大きく、また増加している。多くの形態のタンパク質治療薬、例えば、翻訳後修飾タンパク質、特にグリコシル化タンパク質など、を製造するためには、一般的に、動物細胞の細胞機構が必要とされるため、上記のような改善された方法が必要とされている。
【0004】
大規模な治療用タンパク質の製造において生じる共通の問題は、タンパク質産物の大部分が、ミスフォールドした形態または凝集した形態、すなわち、高分子量凝集体(「HMWA:high molecular weight aggregate」)の形態において産生されるということである。例えば、細胞におけるポリペプチドの組み換え型過剰発現は、小胞体(ER:endoplasmic reticulum)機構に過負荷をかける場合があり、それによって、分解経路を逃れERを出て行くミスフォールドしたタンパク質および/または凝集したタンパク質の数が増加し得る。したがって、現在のタンパク質製造方法では、産物の大部分が凝集して機能せず、そのため、製造物として使用できない。ミスフォールドしたタンパク質および/または凝集したタンパク質は、投与における有害事象、例えば、これに限定されるものではないが、投与における免疫原性の可能性(例えば補体活性化または過敏症)など、の原因となり得るため、そのようなタンパク質の存在は望ましくない。したがって、過剰な治療用タンパク質のミスフォールディングおよび/または凝集は、例えば臨床試験における失敗の原因となり得る。そのため、タンパク質のミスフォールディングおよび/または凝集を抑制または低減する新規の方法が当技術分野において必要とされている。
【0005】
タンパク質のグリコシル化は、一般的な翻訳後修飾法であり、これにより、ERにおいて専用の酵素−グリコトランスフェラーゼおよびグリコシダーゼ−の一連の作用を通じて複合糖部分がタンパク質に追加される。この方法は、正しくフォールドされたポリペプチドだけがERを出て、ミスフォールドしたタンパク質は分解されるように、新たに合成されたポリペプチドの正しいフォールディングを制御することができる。タンパク質グリコシル化のパターンは、タンパク質の標的化、構造、熱力学的安定性、および酵素活性に影響を及ぼす(例えば、非特許文献1;非特許文献2を参照のこと)。例えば、N−グリカンシアリル化は、糖タンパク質の寿命の延長に関連している。というのは、そのような糖タンパク質は、シアリル化されていないタンパク質を分解の標的とするアシアロ糖蛋白受容体によって認識されないためである(例えば、非特許文献3を参照のこと)。したがって、タンパク質グリコシル化を変えることは、産物の品質と有効性に影響を及ぼし得る。
【0006】
その上、異常なタンパク質グリコシル化は、最終的な治療用タンパク質製品の免疫原性の原因となり得る。非天然型の非最適条件下で産生されたタンパク質は、天然ではヒトタンパク質には見られない糖および糖パターンを獲得し得て、その結果、対象者において免疫原性反応を生じさせ得る(非特許文献4)。このような非天然型グリコシル化は、タンパク質治療薬、例えば、抗体治療薬または可溶性受容体Fc融合タンパク質治療などのFc融合タンパク質治療薬、において特に一般的である。
【0007】
これらの理由から、FDAは、治療用タンパク質のグリコ型プロフィールが厳しい制限内に維持されることを要求する。したがって、タンパク質グリコシル化のレベルの制御を可能にする、細胞培養物において治療用タンパク質を製造する方法が、製薬業において必要とされている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Sola et al.(2007) Cell.Mol.Life Sci.64:2133−52
【非特許文献2】Sola and Griebenow(2006) FEBS Lett.580:1685−90
【非特許文献3】Bork et al.(2007) FEBS Letters 581:4195−98
【非特許文献4】Jefferis(2006) Biotechnol.Prog.21:11−16
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0009】
したがって、本発明は、ミスフォールドしたタンパク質および/または凝集したタンパク質の産生が減少するように、(a)細胞培養物において低温で細胞を増殖させること、並びに(b)細胞培養物において低pHで細胞を増殖させること、の少なくとも1つを含む、細胞培養物においてタンパク質を製造する方法である。実施形態では、細胞を、細胞培養物において低温および低pHで増殖させる。
【0010】
好ましい実施形態において、本発明は、哺乳動物細胞培養物、特にチャイニーズハムスター卵巣(「CHO(Chinese Hamster Ovary)」)細胞培養物における、ミスフォールドしたタンパク質および/または凝集したタンパク質の産生を低減するために、pHパラメータおよび温度パラメータを変更することを対象としている。好ましい実施形態において、当該細胞培養物は、可溶性レセプターであるタンパク質、例えば、これに限定されるものではないが、TNFR−Fcタンパク質またはsIL−13Rタンパク質など、を産生する(「産生されたタンパク質」)。これらの好ましい実施形態において、低温は、27.0℃〜30.0℃未満の範囲であり得る。さらに他の好ましい実施形態において、低pHは、6.80〜7.00未満あり得る。前述の範囲におけるpHおよび温度の組み合わせも使用することができる。
【0011】
別の態様において、本発明は、細胞培養物においてタンパク質を製造する方法であって、細胞培養物の温度および/またはpHを変更することによって産生されたタンパク質のタンパク質グリコシル化のレベルを制御する方法である。したがって、グリコシル化、例えば、これに限定されるものではないが、N−グリカンシアリル化など、のレベルは、温度および/またはpHを上げるより増加し得、あるいは温度および/またはpHを下げることによって減少し得る。
【0012】
別の態様において、本発明は、上記のパラメータを制御して、治療用タンパク質を製造する方法である。さらに別の態様において、本発明は、そのような方法によって製造された治療用タンパク質と薬学的に許容される担体とを含む医薬組成物である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1A】TNFR−FcでトランスフェクトしたCHO細胞をそれぞれ27.0℃[◆]、28.0℃[▲]、29.0℃[■]、または30.0℃[○]で増殖させた時の、時間(X軸;培養日数[日])に対する、平均収穫日IVCに正規化した統合生存細胞数(Y軸;IVC[正規化e9細胞*日/L])を示す。
【図1B】同じ細胞の、時間(X軸;培養時間[日]に対する細胞生存率(Y軸)を示す。
【図2A】TNFR−FcでトランスフェクトしたCHO細胞をそれぞれ27.0℃[◆]、28.0℃[▲]、29.0℃[■]、または30.0℃[○]で増殖させた細胞培養物における、時間(X軸;培養時間[日])に対する残存グルコースプロフィール(Y軸;グルコース[g/L])を示す。
【図2B】同じ細胞の、時間(X軸;培養時間[日])に対するグルタミンプロフィール(Y軸;グルタミン[mM])を示す。
【図3A】TNFR−FcでトランスフェクトしたCHO細胞をそれぞれ27.0℃[◆]、28.0℃[▲]、29.0℃[■]、または30.0℃[○]で培養させた細胞培養物における、時間(X軸;培養時間[日])に対する培地のラクテート濃度(Y軸;ラクテート[g/L])を示す。
【図3B】同じ細胞の、時間(X軸;培養時間[日])に対するアンモニウムプロフィール(Y軸;NH4+[mM])を示す。
【図4A】TNFR−FcでトランスフェクトしたCHO細胞をそれぞれ27.0℃[◆]、28.0℃[▲]、29.0℃[■]、または30.0℃[○]で増殖させた細胞培養物における、時間(X軸;培養時間[日])に対する、平均収穫日累加平均Qpに正規化した累加平均Qp(X軸;累加平均Qp[正規化mg/e9細胞/日])によって表された細胞特異的生産性を示す。
【図4B】同じ細胞の、時間(X軸;培養時間[日])に対する、平均収穫日力価に正規化したTNFR−Fc力価(X軸;産物力価[正規化mg/L])を示す。
【図5A】ミスフォールドおよび/または凝集したTNFR−Fcの産生(Y軸;%ミスフォールド/凝集した産物)に対する、TNFR−FcでトランスフェクトしたCHO細胞の細胞培養物中における産生温度(X軸;[℃])を変える効果を示す。
【図5B】HMWAの産生に対する温度の効果(Y軸;%高分子量種)を示す。
【図6A】TNFR−Fcの全シアリル化(N−およびO−結合シアリル化)の割合(Y軸;参照試料の総シアリル化の割合)に対する、TNFR−FcでトランスフェクトされたCHO細胞の細胞培養物における産生温度(X軸;温度[℃])を変更する効果を示す。使用した参照試料は、アッセイの結果を比較するための好ましいクリコシル化パターンを有する公知のTNFR−Fcにおける特定のアリコートであった。
【図6B】同じ細胞の、シアリル化(□)または非シアリル化(●)の総N−結合グリカンの割合(Y軸;総N−結合グリカンの割合)に対する、細胞培養物における産生温度(X軸;温度[℃])を変更する効果を示す。
【図7】異なる温度(27.0℃[◆]、28.0℃[▲]、29.0℃[■]、30.0℃[○])で細胞を増殖させた時の、CHO細胞培養物中のpH(Y軸)に対する効果を、時間(X軸;培養時間[日])に対して示す。
【図8A】TNFR−FcでトランスフェクトされたCHO細胞をそれぞれ7.20[◇]、7.10[■]、7.00[◆]、6.90[●]、または6.80[▲]のpH設定値で増殖させた時の、時間(X軸;培養時間[日])に対する、平均収穫日IVCに正規化した統合生存細胞数(Y軸;IVC[正規化e9細胞*日/L])を示す。
【図8B】同じ細胞の、時間(X軸;培養時間[日])に対する細胞生存率(Y軸)を示す。
【図9A】TNFR−FcでトランスフェクトされたCHO細胞をそれぞれ7.20[◇]、7.10[■]、7.00[◆]、6.90[●]、または6.80[▲]のpH設定値で増殖させた細胞培養物における、時間(X軸;培養時間[日])に対するグルコースプロフィール(Y軸;グルコース[g/L])を示す。
【図9B】同じ細胞の、時間(X軸;培養時間[日])に対するグルタミンプロフィール(Y軸;グルタミン[mM])を示す。
【図10A】TNFR−FcでトランスフェクトしたCHO細胞をそれぞれ7.20[◇]、7.10[■]、7.00[◆]、6.90[●]、または6.80[▲]のpH設定値で増殖させた細胞培養物における、時間(X軸;培養時間[日])に対する、培地中のラクテート濃度(Y軸;ラクテート[g/L])を示す。
【図10B】同じ細胞の、時間(X軸;培養時間[日])に対するアンモニアプロフィール(Y軸;NH4+[mM])を示す。
【図11A】時間(X軸;培養時間[日])に対する、TNFR−FcでトランスフェクトされたCHO細胞をそれぞれ7.20[◇]、7.10[■]、7.00[◆]、6.90[●]、または6.80[▲]のpH設定値で増殖させた細胞培養物のpHの、pH設定値からのずれ(X軸;培養物pH)を示す。
【図11B】同じ細胞をそれぞれ7.20[◇]、7.10[■]、7.00[◆]、6.90[●]、または6.80[▲]のpH設定値で増殖させた時の、時間(X軸;培養時間[日])に対するオスモル濃度(X軸;オスモル濃度[mOsm/kg])を示す。
【図12A】TNFR−FcでトランスフェクトされたCHO細胞をそれぞれ7.20[◇]、7.10[■]、7.00[◆]、6.90[●]、または6.80[▲]のpH設定値で増殖させた細胞培養物における、時間(X軸;培養時間[日])に対する、平均収穫日累加平均Qpに正規化した累加平均Qp(X軸;累加平均Qp[正規化mg/e9細胞/日])で表される、細胞特異的産生能を示す。
【図12B】時間(培養時間[日])に対する、同じ細胞の平均収穫日の力価に正規化したTNFR−Fc力価(X軸;産生物の力価[正規化mg/L])を示す。
【図13A】ミスフォールド/凝集したTNFR−Fcの産生(Y軸;%ミスフォールド/凝集した産生)に対する、TNFR−FcでトランスフェクトされたCHO細胞の培養のpH設定値(X軸;pH)を変える効果を示す。
【図13B】HMWAの産生(Y軸;%高分子量種)に対する、細胞培養物のpH設定値(X軸;pH)を変える効果を示す。
【図14A】TNFR−Fcの総シアリル化の割合(Y軸;参照試料の総シアリル化の割合)に対する、TNFR−FcでトランスフェクトされたCHO細胞の培養におけるpH設定値(X軸;pH)を変える効果を示す。
【図14B】シアリル化(□)又は非シアリル化(●)総N−結合グリカンの割合(Y軸;総N−結合グリカンの割合)に対する、同じ細胞の細胞培養物の細胞培養物pH設定値(X軸;pH)を変える効果を示す。
【図15】ヒドラジン放出2−アミノベンズアミド−(2−AB)−標識タンパク質グリコ型を順相クロマトグラフィにかけた場合に観察される、N−結合グリカンシアリル化を表す典型的な蛍光(Y軸;蛍光、mVで測定)対滞留時間(X軸;分)プロフィールを表す。
【図16】ヒドラジン放出2−アミノベンズアミド−(2−AB)−標識タンパク質グリコ型を順相クロマトグラフィにかけた場合に観察される、培養のpH設定値を変えた場合の、TNFR−FcでトランスフェクトされたCHO細胞の細胞培養物におけるN−結合グリカンシアリル化を表す蛍光(Y軸;mV)の、滞留時間(X軸;分)に対するプロフィールを表す。
【図17A】sIL−13R過剰発現細胞を37.0℃[◆]、33.0℃[■]、32.0℃[●]、31.0℃[◇]、29.0℃[△]、または室温[□]で増殖させた細胞培養物における、時間(X軸;培養時間[日])に対する生存細胞密度(Y軸;細胞/mL)を示す。
【図17B】sIL−13R過剰発現細胞を37.0℃[◆]、33.0℃[■]、32.0℃[●]、31.0℃[◇]、29.0℃[△]、または室温[□]で増殖させた細胞培養物における、時間(X軸;培養時間[日])に対する、生存細胞と非生存細胞の両方を含む全細胞密度(Y軸;細胞/mL)を示す。
【図17C】sIL−13R過剰発現細胞を37.0℃[◆]、33.0℃[■]、32.0℃[●]、31.0℃[◇]、29.0℃[△]、または室温[□]で増殖させた細胞培養物における、時間(X軸;培養時間[日])に対する細胞生存率(Y軸)を示す。
【図17D】sIL−13R過剰発現細胞を37.0℃[◆]、33.0℃[■]、32.0℃[●]、31.0℃[◇]、29.0℃[△]、または室温[□]で増殖させた細胞培養物における、時間(X軸;培養時間[日])に対する統合生存細胞数(IVC)(Y軸;e9細胞*日/L)を示す。
【図18】37.0℃[◆]、33.0℃[■]、32.0℃[●]、31.0℃[◇]、29.0℃[△]、または室温[□]で増殖させた時の、sIL−13Rを過剰発現する細胞培養物における、時間(X軸;培養時間[日])に対する二量体およびHMWAの両方のsIL−13R力価(Y軸;sIL−13R[mg/L])を示す。
【図19A】37.0℃、33.0℃、32.0℃、31.0℃、29.0℃、または室温で増殖させた時の、sIL−13Rを過剰発現する細胞培養物における、様々な時間間隔(X軸)での1日の特異的sIL−13R産生率(Y軸;Qp[ug/e9細胞/日])を示す。
【図19B】37.0℃、33.0℃、32.0℃、31.0℃、29.0℃、または室温で増殖させた時の、sIL−13Rを過剰発現する細胞培養物における、時間(X軸;培養時間[日])に対する累加平均細胞特異的産生能(Y軸;累加平均Qp[mg/e9細胞/日])を示す。
【図20】37.0℃、33.0℃、32.0℃、31.0℃、29.0℃、または室温で増殖させた時の、sIL−13Rを過剰発現する細胞培養物における、様々な時間間隔(X軸)での1日の特異的グルコース消費率(Y軸;Qglc[g/e9細胞/日])を示す。
【図21】37.0℃、33.0℃、32.0℃、31.0℃、29.0℃、または室温で増殖させた時の、sIL−13Rを過剰発現する細胞培養物における、様々な時間間隔(X軸)での1日の特異的グルタミン消費率(Y軸;Qgln[mmol/e9細胞/日])を示す。
【図22】37.0℃[◆]、33.0℃[■]、32.0℃[●]、31.0℃[◇]、29.0℃[△]、または室温[□]で増殖させた時の、sIL−13Rを過剰発現する細胞の細胞培養培地における、時間(X軸;培養時間[日])に対するラクテート濃度(Y軸;ラクテート[g/L])を示す。
【図23】37.0℃[◆]、33.0℃[■]、32.0℃[●]、31.0℃[◇]、29.0℃[△]、または室温[□]で増殖させた時の、sIL−13Rを過剰発現する細胞の細胞培養培地における、時間(X軸;培養時間[日])に対するアンモニウム濃度(Y軸;アンモニア[mM])を示す。
【図24】sIL−13Rを過剰発現する細胞の培養9日目における、HMWAの産生(Y軸;%高分子量種)に対する細胞培養物温度(X軸;産生時の温度[℃])の効果を表す。
【図25】sIL−13Rを過剰発現する細胞の培養18日目における、HMWAの産生(Y軸;%高分子量種)に対する細胞培養物温度(X軸;産生時の温度[℃])の効果を示す。
【図26A】それぞれ37.0℃[◆]、33.0℃[■]、32.0℃[●]、31.0℃[◇]、29.0℃[△]、または室温[□]で増殖させた時の、時間(X軸;培養時間[日])に対する、sIL−13R過剰発現細胞の馴化培地で産生された総sIL−13Rタンパク質から回収されるsIL−13R二量体の割合(Y軸;%sIL−13R二量体)を示す。
【図26B】sIL−13R過剰発現細胞の馴化培地における、時間(X軸;培養時間[日])に対する全sIL−13RにおけるHMWAの割合(Y軸;%高分子量種)を示す。
【図27】細胞をそれぞれ37.0℃[◆]、33.0℃[■]、32.0℃[●]、31.0℃[◇]、29.0℃[△]、または室温[□]で増殖させた時の、時間(X軸;培養時間[日])に対する馴化培地中のsIL−13R二量体力価(Y軸;sIL−13R二量体のみ[mg/L])を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
哺乳類の細胞培養物において治療用タンパク質を製造するためには、一般的に、産生期中の温度は少なくとも30.0℃、かつpHは少なくとも7.00でなければならないと考えられている。しかしながら、産生期中に30.0℃を超える温度および7.00より高いpHで細胞培養物中において細胞を増殖させた場合、タンパク質の凝集(本明細書においては、高分子量凝集体形成またはHMWA形成とも呼ぶ)及びタンパク質のミスフォールディングの増加を引き起こす場合があり、したがって、より低い量の機能性で使用可能なタンパク質が産生され得る。
【0015】
本発明は、細胞培養物においてタンパク質を製造の新規の方法であってタンパク質のミスフォールディングおよび/またはタンパク質の凝集を低減する方法を提供する。他の態様においては、本発明は、タンパク質のグリコシル化のレベルを制御する方法を提供する。
【0016】
本発明の方法によって製造されたタンパク質
本明細書で使用される場合、「ポリペプチド」または「ポリペプチド産物」なる語句は、それぞれ、「タンパク質」および「タンパク質産生」なる用語と同義であり、一般的に、当技術分野において、連続したペプチド結合を介して結合したアミノ酸の少なくとも1つの鎖を意味する。ある特定の実施形態において、「対象となるタンパク質」または「対象となるポリペプチド」などは、宿主細胞にトランスフェクトまたはトランスフォームされた、例えば宿主細胞に一過性的にまたは安定的にトランスフェクトまたはトランスフォームされた、外因性核酸分子によってコード化されるタンパク質である。ある特定の実施形態において、宿主細胞にトランスフェクトまたはトランスフォームされた外因性DNAが「対象となるタンパク質」をコードする場合、当該外因性DNAの核酸配列がアミノ酸の配列を決定する。この配列は、自然に生じる配列であっても、あるいは人為的に設計された配列であってもよい。ある特定の実施形態において、「対象となるタンパク質」は、宿主細胞の内因性核酸分子によってコード化されるタンパク質である。そのような対象となる内因性タンパク質の発現は、例えば、1つ以上の調節配列を含み得る外因性核酸分子および/または対象となるタンパク質の発現を高めるタンパク質をコード化し得る外因性核酸分子を、宿主細胞にトランスフェクトすることによって変えることができる。本発明の実施形態において、対象となるポリペプチドは、細胞培養物において産生され、例えば、その後に精製される。
【0017】
「糖タンパク質」および「グリコシル化タンパク質」などの用語は、タンパク質のアスパラギン側鎖(N−グリコシル化)あるいはセリン側鎖および/またはトレオニン側鎖(O−グリコシル化)のいずれかに結合した糖残基、例えばオリゴ糖部分、を有するタンパク質を意味する。例えば、一般的な種類のタンパク質N−グリコシル化としては、タンパク質シアリル化(N−グリカンシアリル化としても知られている)が挙げられる。分泌タンパク質および膜タンパク質(例えば、膜レセプター)の大部分は、ERおよび/またはゴルジ体においてグリコシル化される。グリコシル化が、ERにおけるタンパク質のフォールディングと放出を制御することは、当技術分野において公知である。その上、グリコシル化/脱グリコシル化のいくつもの段階がゴルジ体において生じる。ERおよびゴルジ体の両方におけるタンパク質のグリコシル化過程について現在わかっていることは、Helenius et al.(2001) Science 291:2364−69、Parodi(2000) Biochem.J.348:1−13、およびParodi(2000) Annu.Rev.Biochem.69:69−93に概説されている。したがって、本発明のある特定の実施形態において、対象となるポリペプチドは、対象となる糖タンパク質であり、当該対象となる糖タンパク質は、細胞培養物において産生され、例えば、その後精製される。本発明のある実施形態において、対象となる糖タンパク質は、レセプターであり、可溶性レセプターであってもよい。
【0018】
本発明の方法および組成物は、これに限定されるものではないが、医薬用特性、診断用特性、農業用特性、並びに/あるいは商業用途、実験用途、および/または他の用途において有用な様々な他の特性のいずれかを有するタンパク質などの、任意の対象となるタンパク質を製造するために使用することができる。加えて、対象となるタンパク質は、タンパク質治療薬であってもよい。すなわち、タンパク質治療薬(または治療用タンパク質)は、体のある領域に対して生物学的効果を有するタンパク質であり、その領域において機能するか、あるいはその領域から離れて中間体を介して機能する。ある特定の実施形態において、本発明の方法および/または組成物を用いて製造されたタンパク質は、治療用タンパク質として対象者に投与される前に、処理および/または修飾してもよい。
【0019】
本発明は、例えば、製薬的又は商業的に関連する酵素、レセプター、レセプター融合物、可溶性レセプター、可溶性レセプター融合物、抗体(例えば、モノクローナル抗体および/またはポリクローナル抗体)、抗体の抗原結合性断片、Fc融合タンパク質、SMIP、サイトカイン、ホルモン、調節因子、成長因子、凝固因子/凝固因子、または抗原結合性薬剤など、任意の治療用タンパク質の有利な製造のための細胞を培養するために使用することができる。上に列挙したタンパク質は、単なる例示であり、限定するためのものではない。当業者であれば、本発明に従って製造することができる他のタンパク質を知っているであろうし、そのようなタンパク質を製造するために本明細書に開示された方法を用いることができるであろう。
【0020】
「抗体」なる用語は、少なくとも1つの、通常は2つのVHドメインもしくはその一部、および/または、少なくとも1つの、通常は2つのVLドメインもしくはその一部、を有する蛋白を含む。ある特定の実施形態において、抗体は、2本の免疫グロブリン重鎖および2本の免疫グロブリン軽鎖からなる四量体であり、この場合、免疫グロブリンの重鎖と軽鎖とが、例えばジスルフィド結合によって、相互接続している。抗体またはその一部は、これに限定されるものではないが、げっ歯類、霊長類(例えば、ヒトおよび非ヒトの霊長類)、ラクダ科、サメをはじめとするいずれかの由来から得ることができ、同様に、組み換えによる例えばキメラ化した製造、ヒト化、および/またはインビトロにおいて、例えば当業者に周知の方法によって発生させることもできる。
【0021】
さらに、本発明は、「抗体の抗原結合断片」を包含し、その例としては、(i)Fab断片、すなわち、VLドメイン、VHドメイン、CLドメイン、およびCH1ドメインからなる一価の断片;(ii)F(ab’)2断片、すなわち、ヒンジ領域においてジスルフィド結合によって連結されている2つのFab断片を含む二価の断片;(iii)VHドメインおよびCH1ドメインからなるFd断片;(iv)抗体の単一アームのVLドメインおよびVHドメインからなるFv断片;(v)dAb断片、これは、VHドメインからなる;(vi)ラクダまたはラクダ化の可変ドメイン、例えば、VHHドメイン;(vii)単鎖Fv(scFv);(viii)二重特異性抗体;ならびに(ix)Fc領域に融合した、免疫グロブリンの1つ以上の抗原結合性断片、が挙げられる。さらに、Fv断片の2つのドメインであるVLおよびVHは、別々の遺伝子によってコードされるが、それらは、組換えの方法を用いて、それらをVL領域およびVH領域の対が一価の分子(単鎖Fv(scFv)として知られている;例えば、Bird et al.(1988) Science 242:423−26;Huston et al.(1988) Proc.Natl.Acad.Sci. U.S.A.85:5879−83を参照のこと)を形成している単一のタンパク質鎖として作製することができる合成リンカーによってつなぎ合わせることができる。そのような単鎖の抗体も、抗体の「抗原結合断片」なる用語の範囲内に包含されることが意図される。これらの抗体断片は、当業者に公知の従来の技術を用いて得ることができ、当該断片は、完全な状態の抗体の場合と同様にして機能を評価される。
【0022】
さらに、本発明は、単一ドメイン抗体を包含する。単一ドメイン抗体は、単一ドメインポリペプチドの一部である相補性決定領域を有する抗体を含み得る。例としては、重鎖抗体、天然に軽鎖が欠けている抗体、従来型四本鎖抗体に由来する単一ドメイン抗体、改変抗体、および抗体に由来するもの以外の単一ドメインスカフォールドなどが挙げられるが、これに限定されるものではない。単一ドメイン抗体は、当分野のいずれかの単一ドメイン抗体、又は任意の将来の単一ドメイン抗体であってもよい。単一ドメイン抗体は、マウス、ヒト、ラクダ、ラマ、ヤギ、ウサギ、ウシ、およびサメを含む任意の種に由来し得るが、これらに限定されるものではない。本発明の1つの態様によると、本明細書において使用される場合、単一ドメイン抗体は、軽鎖が欠けている重鎖抗体として公知の、自然発生的な単一ドメイン抗体である。そのような単一ドメイン抗体は、例えば、国際公開第9404678号において開示されている。明確にするために、本明細書では、四本鎖免疫グロブリンの従来型VHと区別して、この天然に軽鎖が欠けている重鎖抗体由来の可変ドメインをVHHまたはナノボディと呼ぶ。そのようなVHH分子は、ラクダ科種、例えば、ラクダ、ラマ、ヒトコブラクダ、アルカパ、およびグアナコにおいて産生された抗体に由来してもよい。ラクダ科以外の他の種が、天然で軽鎖が欠けている重鎖抗体を生成する場合もあり、そのようなVHHは、本発明の範囲内に含まれる。さらに、単一ドメイン抗体は、サメIgNARを含む(例えば、Dooley et al.,Proc.Natl.Acad.Sci. U.S.A.,103:1846−1851(2006)を参照のこと)。
【0023】
「二重特異性」抗体または「二機能性」抗体を除き、抗体は、その各結合部位が全く同一であると理解される。「二重特異性」または「二機能性抗体」は、2つの異なる重鎖/軽鎖の対および2つの異なる結合部位を有する人為的なハイブリッド抗体である。二重特異性抗体は、ハイブリドーマの融合またはFab’断片の連結をはじめとする、様々な方法によって生成することができる。例えば、Songsivilai & Lachmann, Clin.Exp.Immunol.79:315−321(1990);Kostelny et al.,J.Immunol.148,1547−1553(1992)を参照のこと。
【0024】
実施形態において、タンパク質が抗体またはそれらの断片の場合、それらは、少なくとも1つ、もしくは2つの全長重鎖、および少なくとも1つ、もしくは2つの軽鎖を含み得る。あるいは、抗体またはそれらの断片は、抗原結合性断片(例えば、Fab、F(ab’)2、Fv、又は一本鎖Fv断片など)のみを含み得る。当該抗体またはそれらの断片は、モノクローナル抗体または単一特異性抗体であってもよい。抗体またはそれらの断片は、ヒト抗体、ヒト化抗体、キメラ抗体、CDRグラフト化抗体、又はインビトロ発生抗体であってもよい。さらに他の実施形態において、当該抗体は、例えばIgG1、IgG2、IgG3、またはIgG4から選択される重鎖定常領域を有する。別の実施形態において、当該抗体は、例えばκ又はλから選択される軽鎖を有する。一実施形態において、抗体の特性を改変するために(例えば、Fc受容体結合、抗体グリコシル化、システイン残基の数、エフェクター細胞機能、または補体機能の1つ以上を増加又は減少させるために)、当該定常領域を変化、例えば変異させる。通常は、抗体またはそれらの断片は、同定済みの抗原、例えば神経変性疾患、代謝性疾患、炎症性疾患、自己免疫性疾患、および/または悪性疾患などの疾患に関連する抗原、に特異的に結合する。
【0025】
本明細書に記載のタンパク質はさらに、必要に応じて、例えば、安定性、エフェクター細胞機能、または補体結合の1種以上を増強する部分を含んでいてもよい。例えば、抗体または抗原結合タンパク質はさらに、ペグ化部分、アルブミン、あるいは重鎖および/または軽鎖の定常領域を含んでいてもよい。
【0026】
抗体は、一般的に、例えば、従来のハイブリドーマ技術(Kohler et al.,Nature 256:495 499(1975))、組換えDNA法(米国特許第4,816,567号)、または抗体ライブラリーを使用するファージディスプレー技術(Clackson et al.,Nature 352:624 628(1991);Marks et al.,J.Mol.Biol.222:581 597(1991))によって作製される。他の様々な抗体生成技術については、Antibodies:A Laboratory Manual,eds.Harlow et al.,Cold Spring Harbor Laboratory,1988を参照のこと。
【0027】
さらに、検出可能な標識または機能性標識によって抗体をタグ付けすることもできる。これらの標識としては、放射性標識(例えば、131Iまたは99Tc)、酵素標識(例えば、ワサビペルオキシダーゼまたはアルカリホスファターゼ)、および他の化学的部分(例えば、ビオチン)が挙げられる。
【0028】
「低分子免疫薬学的」または(SMIP(商標))薬物(Trubion Pharmaceuticals社、Seattle、WA)は、抗原またはカウンターレセプターなどの同族構造に対する結合ドメイン、1つのシステイン残基を有するかもしくは有さないヒンジ領域ポリペプチド、並びに免疫グロブリンCH2およびCH3ドメインから構成される一本鎖ポリペプチドである(www.trubion.comも参照のこと)。SMIPならびにそれらの使用および用途については、例えば、米国特許出願第2007/002159号、同第2003/0118592号、同第2003/0133939号、同第2004/0058445号、同第2005/0136049号、同第2005/0175614号、同第2005/0180970号、同第2005/0186216号、同第2005/0202012号、同第2005/0202023号、同第2005/0202028号、同第2005/0202534号、および同第2005/0238646号、ならびにそれらの関連特許ファミリーパテントにおいて開示されている。なお、これらすべては、参照によりその全体が本明細書に援用されるものとする。
【0029】
本発明の一実施形態において、対象となるタンパク質は、可溶性レセプター、例えば可溶性レセプター融合タンパク質である。膜タンパク質、例えばレセプター、は、通常、グリコシル化タンパク質である。したがって、本発明の方法は、凝集しておらず適正にフォールドされたグリコシル化可溶性レセプター融合タンパク質の製造において特に有益である。
【0030】
可溶性タンパク質、例えば可溶性レセプター、は、当技術分野において周知の方法によって製造することができる。本発明の一実施形態において、可溶性レセプターは、レセプターの細胞外領域、またはレセプターの細胞外領域の断片を含む。本発明の別の実施形態において、可溶性レセプターは、2つのポリペプチドを含む。第一のポリペプチドは、全長レセプターを含むか、あるいは、第一のポリペプチドは、レセプターの全長より短い部分、例えばレセプターの細胞外部分、を含む。本発明の一実施形態において、第一のポリペプチドは、全長サイトカインレセプターを含むか、あるいは、第一のポリペプチドは、サイトカインレセプターの全長より短い部分、例えばサイトカインレセプターの細胞外部分、を含む。さらに、そのような可溶性レセプターは、さらなるポリペプチド、例えば、GST、Lex−A、MBPポリペプチド配列、あるいは、Fc断片や、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgM、IgA1、IgA2、IgD、およびIgEなどの様々なイソタイプの重鎖定常領域などをはじめとする免疫グロブリン鎖、なども含んでいてもよい。
【0031】
本発明の一実施形態において、第二のポリペプチドは、好ましくは可溶性である。いくつかの実施形態において、第二のポリペプチドは、結合しているポリペプチドの半減期、(例えば、血漿半減期または循環半減期)を延長する。好ましい実施形態において、第二のポリペプチドは、少なくとも免疫グロブリンポリペプチドの領域を含む。免疫グロブリン融合ポリペプチドは、当技術分野において公知であり、例えば、米国特許第5,516,964号;同第5,225,538号;同第5,428,130号;同第5,514,582号;同第5,714,147号;および同第5,455,165号に記載されている。可溶性融合タンパク質は、産生中に凝集の影響を受けやすいことが知られており、したがって、本発明による方法は、この種のタンパク質を産生する細胞培養物に関して、特に有益である。
【0032】
いくつかの実施形態において、第二のポリペプチドは全長免疫グロブリンポリペプチドを含む。あるいは、第二のポリペプチドは、全長より短い免疫グロブリンポリペプチド、例えば、重鎖、軽鎖、Fab、Fab2、Fv、またはFcなど、を含む。第二のポリペプチドは、免疫グロブリンポリペプチドの重鎖を含み得る。第二のポリペプチドは、免疫グロブリンポリペプチドのFc領域を含み得る。
【0033】
本発明の一実施形態において、可溶性レセプター融合タンパク質は、腫瘍壊死因子インヒビターを含む。ある特定の実施形態において、腫瘍壊死因子インヒビターは、腫瘍壊死因子αおよびβレセプター(TNFR−1:1991年3月20日に公開された欧州特許第417,563号;およびTNFR−2:1991年3月20日に公開された欧州特許第417,014号、これらはいずれも、参照によりその全体が本明細書に援用されるものとする)の形態において、本発明の系および方法により発現する(概説に関しては、Naismith and Sprang,J.Inflamm.47(1−2):1−7,1995−96を参照のこと。なお、この文献は、参照によりその全体が本明細書に援用されるものとする)。いくつかの実施形態により、腫瘍壊死因子インヒビターは、可溶性TNF(tumor necrosis factor)レセプターを含む。ある特定の実施形態において、本発明のTNFインヒビターは、TNFRIおよびTNFRIIの可溶性形態である。ある特定の実施形態において、本発明のTNFインヒビターは、可溶性TNF結合タンパク質である。ある特定の実施形態において、本発明のTNFインヒビターは、TNFR融合タンパク質、例えば、TNFR−IgまたはTNFR−Fcなど、である。本明細書で使用する場合、「エタネルセプト」は、TNFR−Fcを意味し、これは、p75TNF−αレセプターの細胞外部分の2つの分子の二量体であり、この各分子は、ヒトIgG1の235アミノ酸Fc部分から成る。本発明により、TNFR−Fcを発現する細胞は、TNFR−Fcの産生中におけるミスフォールドされたタンパク質および/または高分子量凝集体の量を減らすため、低温および/または低pHで細胞培養物において培養される。ある特定の実施形態において、TNFR−Fcを発現する細胞は、TNFR−Fcの産生中のグリコシル化を調整するため、低温および/または低pHで細胞培養物において培養される。
【0034】
本発明の他の実施形態において、当該可溶性レセプター融合タンパク質は、sIL−13Rである。本明細書で使用される場合、可溶性IL−13レセプター(sIL−13R:soluble IL−13 receptor)は、ヒトインターロイキン(IL:interleukin)−13−α2レセプターの細胞外ドメイン(ECD:extracellular domain)とヒトIgG1重鎖のFc領域を含む組み換え融合タンパク質を意味する。sIL−13Rは、2つの同一のポリペプチド鎖で構成され(すなわち、2つのポリペプチド鎖の二量体)、これは、分子間ジスルフィド結合によって結合しているようである。sIL−13R可溶性レセプター融合タンパク質およびその使用については、米国特許第5,710,023号において開示されている。なお、ここの文献は、参照によりその全体が本明細書に援用されるものとする。
【0035】
いくつかの実施形態において、第二のポリペプチドは、野生型免疫グロブリン重鎖のFc領域のエフェクター機能より少ないエフェクター機能を有する。Fcエフェクター機能としては、例えば、Fcレセプター結合性、補体結合、およびT細胞枯渇活性などが挙げられる(例えば、米国特許第6,136,310号を参照のこと)。T細胞枯渇活性、Fcエフェクター機能、および抗体安定性を分析評価する方法は、当技術分野において公知である。一実施形態において、第二のポリペプチドは、Fcレセプターに対して親和性が低いかもしくは親和性を有しない。別の実施形態において、第二のポリペプチドは、補体タンパク質C1qに対して親和性が低いかもしくは親和性を有しない。
【0036】
融合タンパク質、例えば可溶性レセプター融合タンパク質、は、可溶性レセプターまたはその断片を第二の部分に接続するリンカー配列をさらに含んでいてもよい。例えば、融合たんぱく質は、ペプチドリンカー、例えば、約2〜20、より好ましくは約5〜10、の長さのアミノ酸のペプチドリンカー、を含んでいてもよい。
【0037】
他の実施形態において、発現、検出、および/または単離もしくは精製を容易にするために、さらなるアミノ酸配列を融合タンパク質のN−末端またはC−末端に付加させることができる。例えば、可溶性レセプター融合タンパク質を、1つ以上のさらなる部分、例えば、GST、His6タグ、FLAGタグなど、に結合させてもよい。例えば、融合タンパク質を、さらに、融合タンパク質配列がGST(すなわち、グルタチオンS−トランスフェラーゼ)配列のC−末端に融合しているGST融合タンパク質に結合させてもよい。そのような融合タンパク質は、可溶性を促進することができ、すなわち、正確なフォールディングを増加させ、したがって、融合タンパク質の精製を向上させ得る。
【0038】
細胞培養物におけるタンパク質製造方法
「培養物」および「細胞培養物」なる用語は、本明細書で使用される場合、細胞集団の生存および/または増殖に好適な条件下において細胞培養培地に接触している細胞集団を意味する。本明細書で使用される場合、これらの用語は、細胞集団(例えば、動物細胞培養物)および当該細胞集団が接触している培地を含む組み合わせを意味する。
【0039】
本発明において使用される細胞は、組換え型宿主細胞、例えば、真核生物宿主細胞、すなわち、対象となるポリペプチドをコード化する核酸を含む発現コンストラクトでトランスフェクトされた細胞、であってもよく、例えば、動物細胞が挙げられる。「動物細胞」なる語句は、無脊椎動物、非哺乳類脊椎動物(例えば、鳥類、爬虫類、および両生類)、並びに哺乳動物の細胞を包含する。無脊椎動物細胞の非限定的な例としては、以下の昆虫:Spodoptera frugiperda(毛虫)、Aedes aegypti(蚊)、Aedes albopictus(蚊)、Drosophila melanogaster(みばえ)、およびBombyx mori(カイコ/絹ガ)の細胞を含む。好ましい実施形態において、細胞培養物は、哺乳動物細胞培養物である。
【0040】
多くの哺乳動物細胞株が、対象となるポリペプチドの組み換え発現に好適な宿主細胞である。哺乳動物宿主細胞株としては、例えば、COS、PER.C6、TM4、VERO076、MDCK、BRL−3A、W138、Hep G2、MMT、MRC5、FS4、CHO、293T、A431、3T3、CV−1、C3H10T1/2、Colo205、293、HeLa、L細胞、BHK、HL−60、FRhL2、U937、HaK、Jurkat細胞、Rat2、BaF3、32D、FDCP−1、PC12、M1x、マウスミエローマ(例えば、SP2/0およびNS0)、並びにC2C12細胞、同様に、トランスフェクトされた霊長類細胞株、ハイブリドーマ、正常二倍体細胞、並びに第1次組織および初代移植体のインビトロ培養物に由来する細胞株が挙げられる。対象となるポリペプチドを発現することのできる任意の真核細胞が、開示された方法において使用することができる。多くの細胞株が商業的な供給元、例えば、アメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション(ATCC:American Type Culture Collection)など、から入手可能である。本発明の一実施形態において、細胞培養物、例えば大規模細胞培養物など、にCHO細胞を用いる。
【0041】
ある特定の実施形態において、当該細胞培養物は、哺乳動物細胞を含むが、当業者であれば、酵母などの下等真核生物において、あるいはバクテリアなどの原始核細胞において、対象となるポリペプチドを、組み換えにより製造することが可能であることを理解するであろう。当業者であれば、酵母およびバクテリアの細胞培養物のための培養条件は、動物細胞の培養条件と異なっているであろうことを知っているであろうし、これらの条件を、細胞増殖および/またはタンパク質産生を最適化するために、どのように調整しなければならないかを理解するであろう。
【0042】
好適な菌株には、Escherichia coli、Bacillus subtilis、Salmonella typhimurium、または対象となるポリペプチドを発現することのできる任意の菌株が含まれる。バクテリアにおける発現は、その結果として当該組み換えタンパク質を組み込む封入体の形成を生じ得る。したがって、組み換えタンパク質のリフォールディングは、活性物質もしくはより活性な物質を産生するために必要であり得る。正しくにフォールドされた異種タンパク質をバクテリアの封入体から得るためのいくつかの方法が、当技術分野において公知である。これらの方法は、一般的に、封入体から当該タンパク質を可溶化する工程、次いでカオトロピック試薬を使用して当該タンパク質を完全に変性させる工程を含む。システイン残基が当該タンパク質の一次アミノ酸配列中に存在する場合、ジスルフィド結合の正しい形成を可能にする環境(レドックス系)において当該リフォールディングを達成することが、しばしば必要である。リフォールディングの一般的な方法は、当技術分野において公知であり、例えば、Kohno(1990) Meth.Enzymol.185:187−95、欧州特許第0433225号、及び米国特許第5,399,677号において開示されている。
【0043】
ポリペプチド産生のために好適な酵母株には、Saccharomyces cerevisiae、Schizosaccharomyces pombe、Pichia pastoris、Kluyveromyces属株、Candida、または対象となるポリペプチドを発現することのできる任意の酵母株が含まれる。
【0044】
「バイオリアクター」なる用語は、本明細書で使用される場合、真核性細胞培養物、例えば、動物細胞培養物(例えば、哺乳動物細胞培養物)の増殖に使用される任意の容器を意味する。バイオリアクターは、細胞、例えば哺乳動物細胞、の培養に有用である限り、任意のサイズであってよい。通常、バイオリアクターは、少なくとも30mlであるが、少なくとも1、10、100、250、500、1000、2500、5000、8000、10,000、12,000リットル以上、あるいは任意の中間的容量であってもよい。バイオリアクターの内部条件、例えば、これに限定されるものではないが、pHおよび温度などは、通常、培養期間中において制御される。「製造用バイオリアクター」なる用語は、本明細書で使用される場合、対象となるポリペプチドおよびタンパク質の製造において使用される最終的なバイオリアクターを意味する。大規模な細胞培養物の製造用バイオリアクターの容量は、一般的に約100mlより大きく、通常は、少なくとも約10リットルであり、500、1000、2500、5000、8000、10,000、12,000リットル以上、あるいは任意の中間的容量であってもよい。好適なバイオリアクターまたは製造用バイオリアクターは、本発明の培養条件下において培地中に懸濁している細胞培養物を保持するのに好適であり、かつ細胞の増殖および生存の助けとなる任意の材料、例えば、ガラス、プラスチック、または金属など、から構成され(すなわち、構築され)ていてもよく、すなわち、当該材料(単数または複数)は、製造された産物、例えば治療用タンパク質産物、の発現または安定性を妨げてはならない。当業者であれば、本発明の実施における使用に好適なバイオリアクターについて知っているであろうし、選択することができるであろう。
【0045】
「培地」、「細胞培養培地」、および「培養培地」なる用語は、本明細書で使用される場合、増殖する動物細胞、例えば哺乳動物細胞、に栄養分を与える栄養物を含有する溶液を意味し、さらに細胞との組み合わせにおける培地も意味し得る。「接種培地」なる用語は、細胞培養物を形成するために使用される培地を意味する。接種培地は、細胞増殖期の他の期間に使用される培地と組成が異なっていても、または異なっていなくてもよい。通常、培地溶液は、これに限定されるものではないが、少なくとも最小限の増殖および/または生存のために細胞によって必要とされる、必須および非必須アミノ酸、ビタミン、エネルギー源、脂質、および微量元素を提供する。さらに、当該溶液は、ホルモンおよび成長因子などの、最小限の速度を超えて成長および/または生存を高める成分を含有していてもよい。当該溶液は、好ましくは、細胞の生存および増殖のために最適なpHおよび塩濃度に処方される。少なくとも一実施形態において、当該培地は、規定培地である。規定培地は、その中の全ての成分が既知の化学構造を有する培地である。本発明の他の実施形態において、当該培地は、任意の供給源もしくは当技術分野において公知の方法に由来するアミノ酸(単数または複数)を含有していてもよく、その例としては、これに限定されるものではないが、単一アミノ酸付加物(単数または複数)またはペプトンもしくはタンパク質加水分解付加物(単数または複数)(動物性供給源または植物性供給源を含む)のいずれかに由来するアミノ酸(単数または複数)が挙げられる。本発明のさらに別の実施形態において、細胞増殖期に使用される培地は、濃縮培地、すなわち、培養に通常必要とされ、かつ通常供給される濃度より高い濃度の栄養物を含有する培地、を含有してもよい。当業者であれば、どのような細胞媒質、接種媒質等が、特定の細胞、例えば動物細胞(例えば、CHO細胞)を培養するために適切であるか、並びにグルコースおよび他の栄養物(例えば、グルタミン、鉄分、微量D元素)の量、あるいは培地が含有すべき、他の培養変数(例えば、発泡量、オスモル濃度)を制御するように設計された薬剤の量について認識するであろう(例えば、Mather,J.P.,et al.(1999) ”Culture media,animal cells,large scale production,” Encyclopedia of Bioprocess Technology:Fermentation,Biocatalysis,and Bioseparation,Vol.2:777−85、米国特許出願公開第2006/0121568号を参照のこと。なお、これにより、この両文献は、参照によりその全体が本明細書に援用されるものとする)。さらに、本発明は、そのような既知の媒質の変形、例えば、そのような媒質の栄養物リッチな変形なども想到する。本明細書で使用される場合、「細胞密度」なる用語は、培地の所定量中に存在する細胞の数を意味する。本明細書で使用される場合、「生存細胞密度」なる用語は、所定の一連の実験条件下において、培地の所定量中に存在する生きた細胞の数を意味する。
【0046】
本明細書で使用される場合、「細胞生存率」なる用語は、所定の一連の培養条件下または実験変量下において生存するための培養物における細胞の能力を意味する。さらに、本明細書で使用される場合、当該用語は、特定の時期に培養物中において生存している細胞及び死んでいる細胞の総数に対する、その時期に生存している細胞の割合も意味する。
【0047】
本明細書で使用される場合、「統合生存細胞密度」、「統合生存細胞数」、または「IVC(integrated viable cell)」なる用語は、培養期間中の生存細胞の平均密度に、培養を行った期間を乗じたものを意味する。産生されるタンパク質の量が、培養期間中に存在する生存細胞の数に比例する場合、統合生存細胞密度は、培養期間中に産生されるタンパク質の量を見積もるための有用なツールである。
【0048】
本発明の方法は、バッチ培養、流加培養、潅流培養、修正流加培養(米国特許仮出願第60/954,922号を参照のこと)、バッチ再供給培養、またはそれらの任意の組み合わせにおいて増殖される細胞に適切である。
【0049】
本明細書で使用される場合、「バッチ培養」なる用語は、細胞の培養において最終的に使用されるであろう、培地および細胞自体も含む全ての成分を培養工程の最初に供給する、細胞の培養方法を意味する。バッチ培養は、通常は、ある時点で停止して、培地中の細胞および/または成分を収穫し、必要に応じて精製する。
【0050】
本明細書で使用される場合、「流加培養」なる用語は、追加的な成分を、培養工程開始後のある時点で培養物に供給する、細胞の培養方法を意味する。供給される成分は、通常、培養工程中に消費されてしまった細胞のための栄養補給剤を含む。流加培養は、通常は、ある時点で停止して、培地中の細胞および/または成分を収穫し、必要に応じて精製する。
【0051】
本明細書で使用される場合、「潅流培養」なる用語は、培養物に対して(培養工程開始後に)、ある期間にわたって連続的に、又はある期間に断続的に、追加的な新鮮な培地を供給し、同時に消費された培地を除去する、細胞の培養方法を意味する。当該新鮮な培地は、通常、培養工程中に消費されてしまった細胞のための栄養補給剤を提供する。消費された培地中に存在し得るポリペプチド産物は、必要に応じて精製してもよい。さらに、潅流によって、バイオリアクター中で増殖する細胞培養物からの細胞の老廃物の除去(フラッシング)も可能になる。
【0052】
本明細書で使用される場合、「修正流加培養」なる用語は、流加培養法と潅流培養法の両方を組み合わせた、細胞の培養方法を意味する。修正流加培養法は、米国特許仮出願第60/954,922号に記載されている。なお、当該文献は、参照によりその全体が本明細書に援用されるものとする。
【0053】
さらに、本発明は、バッチ再供給法で実施することもできる。低pHは、この種の細胞培養物において、タンパク質のミスフォールディングおよび/または凝集、並びにグリコシル化の修正に対して良好な制御方法を提供すると考えられる。
【0054】
本発明の一実施形態において、当該方法は、最初に細胞培養物の増殖期中に接種培地によって細胞培養物を接種する工程、それに続いて細胞を産生期に切り替える工程を含み、この場合、細胞培養物の温度及び/又はpHは、低温及び/又は低pHに調節される。本明細書で使用される場合、増殖期は、細胞が増殖してタンパク質産生に最適な細胞密度を達成する、細胞培養物における段階を意味する。
【0055】
別の実施形態では、増殖期に続いて、細胞を産生期へと切り替えてもよく、これは、増殖期とは異なる温度および/または異なるpH、例えば、低温及び/又は低pHで生じ得る。実施形態において、細胞培養物は、接種後1日で増殖期から産生期へと切り替えることができる。他の実施形態では、細胞培養物は、接種後5日で増殖期から産生期へと切り替えることができる。細胞培養物を増殖期から産生期へと切り替える場合、その移行は比較的ゆるやかであってもよい。あるいは、急激に移行してもよい。緩やかにシフトする場合、温度および/またはpHを着実に調節することができる、例えば低下させることができる。あるいは、温度及び/又はpHを不連続な間隔で調整することもできる。
【0056】
細胞培養物の産生期は、細胞が、対象となるポリペプチド、例えば治療用タンパク質、を産生するのに最適な条件下で当該細胞を増殖させる、細胞培養物における段階である。産生期において、細胞培養物の低温及び/又は低pHは、細胞培養物が生存し続ける温度および/またはpH、高濃度のタンパク質が産生される温度および/またはpH、代謝老廃物、例えば乳酸およびアンモニア、の産生及び蓄積が最小となる温度および/またはpH、タンパク質の産生品質が適切に制御される温度および/またはpH、および/またはこれらの要因もしくは実施者が重要であると考える他の要因の任意の組み合わせに基づいて選択することができる。
【0057】
本発明の別の実施形態において、本発明の方法は、産生期の初期において温度またはpHのシフトが必要ないような、低温および/または低pHで細胞培養物を接種する工程を含む。熟練者であれば、温度およびpHが、設定された温度およびpHの設定値から逸脱することのないように、細胞培養物の温度およびpHを監視するであろう。例えば、熟練者であれば、塩基、例えば炭酸ナトリウム塩基、を使用して、培養物が下記の設定pHから逸脱するのを防ぐであろう。
【0058】
本明細書の下記の実施例において、細胞培養培地は、目標のpH設定値より高いpHで開始しており、pH設定値への細かな調節は行っていない。ただし、当業者によって理解されるように、細胞培養の経過中のpH調節の使用を含んでもよい。同様に、調節を行わずに培養を低温で開始することも可能である。例えば、本方法は、産生期のみを含んでもよい。
【0059】
本明細書で使用される場合、「低温」は、その種類の細胞の細胞増殖のための従来の温度(細胞が典型的に増殖する温度)より低い温度を意味する。例えば、本発明の実施形態において、細胞が哺乳動物細胞の場合、産生期の細胞培養物は、好ましくは24.0℃〜30.0℃未満の範囲であり、より好ましくは27.0℃〜30.0℃未満の範囲である。例えば、細胞培養物の低温は、24.0℃、24.5℃、25.0℃、25.5℃、26.0℃、26.5℃.27.0℃、27.5℃、28.0℃、28.5℃、29.0℃、29.5℃、29.6℃、29.7℃、29.8℃、および29.9℃である。本明細書に記載されている本発明の最も好ましい実施形態において、細胞培養物の低温は、約29.5℃である。哺乳動物以外の細胞に対する低温は、当業者により個別に決定され得る。
【0060】
本明細書で使用される場合、「低pH」は、特定の細胞種の細胞増殖のための従来のpH(細胞が典型的に増殖するpH)より低いpH設定値を意味する。本発明の実施形態において、細胞が哺乳動物細胞の場合、産生期の細胞培養物の低pHは、7.00未満である。本発明の実施形態において、細胞培養物の低pHは、6.50〜7.00未満の範囲、好ましくは6.80〜7.00未満の範囲である。例えば、細胞培養物の低pHは、6.80、6.85、6.90、6.95、6.96、6.97、6.98、および6.99である。本発明の最も好ましい実施形態において、細胞培養物の低pHは、約6.95である。哺乳動物以外の細胞に対する低pHは、当業者により、個別に決定され得る。
【0061】
当業者であれば、細胞培養物の細胞の種類に応じて、従来温度および従来pH(低温および低pHと区別して)が異なることは理解するであろう。例えば、ほとんどの哺乳動物細胞、例えばCHO細胞、のための従来温度および従来pHは、それぞれ、30.0℃より上(例えば、37.0℃)、および7.00より上(例えば、7.20)である。さらに、当業者であれば、他の細胞種、例えば昆虫の細胞、のための従来温度および従来pHは、哺乳動物細胞の従来の温度と異なっているため、本発明の方法は、そのような細胞に対しては、異なる低温および異なる低pHが用いられることは理解されるであろう。
【0062】
本発明のある特定の実施形態において、実施者は、増殖する細胞培養物の特定の状態を定期的に監視することが有益または必要であることを見出し得る。非限定的な実施例の場合、例えば、温度、pH、溶存酸素、細胞密度、細胞生存率、統合生存細胞密度、ラクテート濃度、アンモニア濃度、グルコース濃度、グルタミン濃度、オスモル濃度、発現したポリペプチドの力価などを監視することは有益であり得、または必要であり得る。そのような状態/基準を測定するための多くの技術が、当業者に公知である。例えば、細胞密度は、血球計、自動化された細胞計数装置(例えば、Coulterカウンター、Beckman Coulter Inc.社、Fullerton, CA)、または細胞密度検査(例えば、CEDEX(登録商標)、Innovatis社, Malvern,PA)を用いて測定することができる。生存細胞密度は、培養物試料をトリパンブルーで染色することによって決定することができる。ラクテート濃度、アンモニア濃度、グルコース濃度、およびグルタミン濃度、並びに溶存酸素およびpHは、例えば、細胞培養培地中の重要な栄養素、代謝物質、および気体の測定値を計測するBioProfile 400 Chemistry Analyzer(Nova Biomedical社、Waltham、MA)によって測定することができる。さらに、溶存酸素およびpHは、例えば、血液ガス分析装置(例えば、Bayer Rapidlab 248 pH/血液ガス分析装置(Bayer HealthCare LLC社、East Walpole、MA))を用いて測定することができる。さらに、温度、pH、および溶存酸素は、例えば、様々な種類のインサイチュプローブによっても測定することができる。細胞培養物のオスモル濃度は、例えば、凝固点オスモメーターによって測定することができる。HPLCを使用して、例えば、ラクテート、アンモニア、又は発現したポリペプチドもしくはタンパク質のレベルを決定することができる。本発明の一実施形態において、発現したポリペプチドのレベルは、例えば、タンパク質A HPLCを使用して決定することができる。あるいは、発現したポリペプチドもしくはタンパク質のレベルは、標準的な技術、例えば、SDS−PAGEゲルのクマシー染色、ウエスタンブロット法、ブラッドフォードアッセイ、ローリーアッセイ、ビウレットアッセイ、及びUV吸光度など、によって決定することができる。発現したポリペプチドもしくはタンパク質の翻訳後修飾、例えばグリコシル化、を監視することは必要であり得る。さらに、タンパク質の他の翻訳後修飾、例えばリン酸化等、を監視することも有益であり得る。ある特定の細胞培養条件を監視するために、分析用に培養物から少量のアリコートを採取することが必要であり得る。当業者であれば、そのような採取は、汚染物を細胞培養物に導入する可能性のあることを理解するであろうし、そのような汚染物のリスクを最小にするための適切な配慮を行うことができるであろう。
【0063】
本発明の一実施形態において、実施者は、低細胞培養物温度および/または低細胞培養物pHでの統合生存細胞数を監視するであろう。好ましくは、低温および/または低pHでの細胞の増殖は、統合生存細胞密度を20%まで、より好ましくは20%未満(例えば、15%)まで減少させる。本発明の別の実施形態において、実施者は、低細胞培養物温度および/または低細胞培養物pHでの細胞生存率を監視するであろう。好ましくは、低温および/または低pHでの細胞の増殖は、細胞生存率を15%未満まで、より好ましくは5%未満まで減少させる。
【0064】
グルコースは、細胞培養物にとって主要なエネルギー源である。細胞培養物におけるグルコース消費量の著しい逸脱は、細胞培養物の健康に対する細胞培養条件の負の効果を示している場合がある。したがって、本発明の好ましい実施形態において、低温および/または低pHで細胞を増殖させることにより、結果として細胞培養物のグルコース消費における変化、例えば減少、が最小となる。
【0065】
グルタミンは、細胞培養物のための代替エネルギー源であり、かつ細胞培養物における様々な分子、例えばアミン酸、の重要な窒素源である。したがって、本発明の好ましい実施形態において、低温および/または低pHで細胞を増殖させることにより、結果として細胞培養物のグルタミン消費における変化、例えば減少、が最小となる。
【0066】
本発明の別の実施形態において、実施者は、細胞培養物における老廃物の産生、例えば、ラクテートおよびアンモニアの産生、を監視するであろう。したがって、本発明の好ましい実施形態において、低温および/または低pHで細胞を増殖させることにより、結果としてラクテートおよびアンモニアの産生における変化、例えば増加、が最小となる。本発明のいくつかの実施形態において、低温および/または低pHで細胞を増殖させることにより、ラクテートおよびアンモニアの産生を最小にすることができる。
【0067】
さらに、本発明の好ましい実施形態において、低温および/または低pHで細胞を増殖させることにより、結果として累加平均産生能及び産物力価における減少が最小となる。本明細書で使用される場合、「力価」なる用語は、細胞培養物(例えば、動物細胞培養物)によって産生される、対象となるポリペプチド、例えば対象となる糖タンパク質、の総量を、所定の量の培地容積で除したものを意味する。すなわち、「力価」は濃度を意味する。力価は、通常、培地1リットル当たりのポリペプチドのミリグラム単位で表現される。好ましくは、細胞培養物において生じる細胞産生能および産物力価の減少は、凝集タンパク質産物またはミスフォールドタンパク質産物の産生の減少、例えばHMWAの産生の減少、によって相殺される。
【0068】
本明細書で使用される場合、「凝集したタンパク質」なる用語は、非機能性の、又は最適でない、あるいは望ましくないタンパク質産物を産生するタンパク質集団、すなわち、高分子量凝集体を意味する。「ミスフォールドしたタンパク質」なる用語は、不適切に折り重ねられたタンパク質を意味し、しばしば、もはや正常な生物活性、例えば、正常な酵素活性、を示し得ないタンパク質を意味する。当業者であれば、タンパク質凝集体が、正しくフォールドされたタンパク質および/またはミスフォールドされたタンパク質のいずれか、またはその両方を含み得ることを知っているだろう。凝集またはミスフォールドしたタンパク質は、一般的に、過剰発現細胞培養物、例えば、糖タンパク質などの対象となるタンパク質を過剰発現する細胞培養物、において形成される。例えば、凝集体は、フォールドされていないポリペプチド鎖の非特異的な疎水性相互作用によって、あるいはフォールドしている中間体の相互作用によって生じ得る。本発明の一実施形態において、低温および/または低pHで細胞を増殖させることにより、結果としてタンパク質のミスフォールディング/凝集が少なくとも50%、好ましくは約60%減少する。当業者であれば、タンパク質の凝集/ミスフォールディングを監視するために必要な技術、例えば、疎水性相互作用HPLC(HIC−HPLC)など、を知っているであろう。
【0069】
「高分子量凝集体」(HMWA)なる用語は、少なくとも2つのタンパク質間の会合から生じる、タンパク質産物の望ましくない副産物を意味する。「高分子量凝集体」は、少なくとも2つの同一のタンパク質間の会合および/または対象となるタンパク質と細胞培養物中に存在する他のタンパク質、例えば宿主細胞タンパク質、との間の会合であり得る。当該会合は、例えば、これに限定されるものではないが、共有結合性架橋、非共有結合性架橋、二硫化架橋、および/または、非還元性架橋などの任意の方法によって生じ得る。当業者であれば、タンパク質が多量体の形態(例えば、二量体の形態)において活性である場合、すなわち、2つ以上のポリペプチド鎖がタンパク質活性に必要な場合、「高分子量凝集体」なる用語は、2つ以上のそのような多量体形態の間の会合を意味する。本発明の一実施形態において、多量体形態で活性なタンパク質は、レセプター、例えばサイトカインレセプター(例えば、sIL−13R))、である。一実施形態において、低温および/または低pHで細胞を増殖させることにより、結果として高分子凝集体が、少なくとも約10%の減少し、好ましくは約40%の減少し、より好ましくは約50%の減少し、さらにより好ましくは約80%以上減少し、あるいは任意の中間値となる。当業者であれば、高分子量凝集体の産生を監視するために必要な技術、例えば立体排除高速液体クロマトグラフィ(SEC−HPLC)、を知っているであろう。
【0070】
本発明の別の態様において、細胞培養物の温度及び/又はpHは、タンパク質グリコシル化、例えばタンパク質シアリル化、を所定のレベルに変えるために使用される。例えば、細胞培養物のpHおよび/または温度を低下させることにより、N−結合グリコシル化およびO−結合グリコシル化の両方が減少し得、例えばN−グリカンシアリル化が減少し得る。タンパク質グリコシル化(例えば、シアリル化)における変化は、治療用タンパク質の安定性、酵素活性、循環寿命、および免疫原性に影響を及ぼし得る。当業者であれば、温度および/またはpHを変化させることで、タンパク質グリコシル化の所望の種類およびレベルが達成されることを確認するため、グリコシル化(例えば、シアリル化)の程度を監視し得る。タンパク質産物のタンパク質グリコシル化を監視するために、クロマトグラフィ技術、例えば、順相クロマトグラフィ(NPC:Normal Phase Chromatography)、を使用することができる。
【0071】
産生期の終了時に、細胞を収穫し、対象となるポリペプチドを収集して精製する。好ましくは、産生期の終了時に、対象となるポリペプチドは、ミスフォールディングおよび/または凝集の減少を示すと同時に、許容可能なグリコシル化パターンを維持している。本発明の一実施形態において、対象となるポリペプチドは、産生期の終了時において、可溶性の形態である(例えば、対象となるポリペプチドは、可溶性レセプター、例えば、可溶性サイトカインレセプターである)。ポリペプチドのそのような可溶性の形態は、馴化培地から精製することができる。
【0072】
ポリペプチドの膜結合性形態は、発現細胞から総膜分画を調製し、TRITON(登録商標)X−100(EMD Biosciences社、San Diego、CA)などの非イオン性洗浄剤で膜を抽出することにより精製することができる。サイトゾルタンパク質または核タンパク質は、(機械的力、パールボンブ、超音波処理、洗浄剤により)宿主細胞を溶解させ、遠心分離で細胞膜分画を除去し、上澄みを残すことによって調製することができる。
【0073】
当該ポリペプチドは、当業者に既知の他の方法を用いて精製することもできる。例えば、開示された方法によって製造されたポリペプチドは、市販のタンパク質濃縮フィルター、例えばAMICON(登録商標)またはPELLICON(登録商標)限外濾過ユニット(Millipore社、Billerica、MA)、を用いて濃縮することができる。濃縮工程後、当該濃縮物を、ゲル濾過媒体などの精製マトリックスに適用することができる。あるいは、アニオン交換樹脂(例えば、MonoQカラム、Amersham Biosciences社、Piscataway、NJ)を用いてもよく、そのような樹脂は、ペンダント型ジエチルアミノエチル(DEAE:diethylaminoethyl)基またはポリエチレンイミン(PEI:polyethylenimine)基を有するマトリックスまたは基質を含有している。精製に用いられるマトリックスは、アクリルアミド、アガロース、デキストラン、セルロース、またはタンパク質精製において通常用いられる他の種類のものであってもよい。あるいは、タンパク質の精製に、カチオン交換工程を用いてもよい。好適なカチオン交換体としては、スルホプロピル基またはカルボキシメチル基を含む様々な不溶性マトリックス(例えば、S−SEPHAROSE(登録商標)カラム、Sigma−Aldrich社、St.Louis、MO)が挙げられる。
【0074】
さらに、培養上清からのポリペプチドの精製は、親和性樹脂による1つ以上のカラム工程、例えば、コンカナバリンA−アガロース、AF−HEPARIN650、ヘパリン−TOYOPEARL(登録商標)、またはシバクロンブルー3GA SEPHAROSE(登録商標)(Tosoh Biosciences社、San Francisco、CA);フェニルエーテル、ブチルエーテル、もしくはプロピルエーテルなどの樹脂を使用する疎水相互作用クロマトグラフィカラム;または標識タンパク質に対する抗体を使用するイムノアフィニティーカラムなどを含み得る。最終的に、タンパク質をさらに精製するために、疎水性HPLC媒体、例えばペンダント型メチル基又は他の脂肪族基を有するシリカゲル(例えば、Ni−NTAカラム)など、を用いた1つ以上のHPLC工程を用いてもよい。あるいは、ポリペプチドを、組み換えにより、精製を容易にする形態において発現させてもよい。例えば、当該ポリペプチドは、タンパク質との融合体、例えば、マルトース結合タンパク質(MBP:maltose−binding protein)、グルタチオン−S−トランスフェラーゼ(GST)、またはチオレドキシン(TRX:thioredoxin)など、として発現させてもよく、このような融合タンパク質の発現および精製のためのキットは、それぞれNew England BioLabs社(Beverly、MA)、Pharmacia社(Piscataway、NJ)、およびInvitrogen社(Carlsbad、CA)から市販されている。さらに、小さいエピトープ(例えば、His、myc、もしくはFlagタグ)でタンパク質にタグ付けし、続いて選択したエピトープに対する特異的な抗体を用いて同定および精製することもできる。共通エピトープに対する抗体は、様々な商業的供給元から入手可能である。本発明の方法によって製造された対象となるポリペプチド、例えば治療用タンパク質、を精製するために、上記のいつくかの精製工程、または全ての精製工程の様々な組み合わせ、または他の公知の方法との組み合わせを用いることができる。
【0075】
薬学的組成物
本発明のある特定の実施形態において、本発明の1つ以上の方法に従って製造されたタンパク質は、製薬剤の製造において有用であり得る。本発明の1つ以上の方法に従って製造されたタンパク質は、対象者に投与してもよいし、あるいは、これに限定されるものではないが、非経口(例えば、静脈内)、皮内、皮下、経口、経鼻、気管支、眼、経皮(局所)、経壁、直腸、および経膣などの経路を含む任意の利用可能な経路による送達のために最初に製剤化してもよい。発明の医薬組成物は、通常、薬学的に許容される担体との組み合わせにおいて、哺乳動物細胞株から発現した精製タンパク質、送達用薬剤(例えば、上記で記載したようなカチオン性ポリマー、ペプチド分子トランスポーター、界面活性物質など)を含む。本明細書で使用される場合、「薬学的に許容される担体」なる言葉は、有効成分(単数または複数)、例えば、医薬品の投与に適合し得る溶媒、分散媒体、コーティング剤、抗菌剤および抗真菌剤、等張化剤および吸収遅延化剤など、の生物学的活性の有効性を妨げない無毒性物質を含む。当該担体の特徴は、投与経路に応じて変わる。さらに補足的活性化合物を、当該組成物に組み込むこともできる。
【0076】
医薬組成物は、その意図された投与経路に適合するように製剤化される。本発明の1つ以上の方法に従って製造された治療用タンパク質が経口形態で投与される場合、当該医薬組成物は、錠剤、カプセル剤、粉末、溶液、またはエリキシル剤の形態であろう。錠剤形態で投与される場合、本発明の医薬組成物は、ゼラチンまたは補助剤などの固体担体を追加的に含んでいてもよい。当該錠剤、カプセル剤、および粉末は、約5〜95%の結着剤、好ましくは約25〜90%の結着剤を含む。液体形態で投与される場合、水、石油、動物性油又は植物性油、例えば、ゴマ油、ピーナッツ油(人口におけるアレルギー反応の発生頻度を考慮して)、鉱油、または大豆油、またはゴマ油など、あるいは合成油、などの液体の担体を添加してもよい。液体形態の医薬組成物は、さらに、生理食塩水、デキストロースもしくは他の糖類の溶液、またはグリコール、例えばエチレングリコール、プロピレングリコール、もしくはポリエチレングリコールなど、を含んでいてもよい。液体形態で投与される場合、医薬組成物は、約0.5〜90重量%の結着剤、好ましくは約1〜50重量%の結着剤を含む。
【0077】
本発明の1つ以上の方法に従って製造された治療用タンパク質が、静脈内注射、皮膚注射、又は皮下注射によって投与される場合、当該治療用タンパク質は、発熱物質を含まない非経口的に許容される水溶液の形態であろう。pH、等張性、安定性などに対する相応の注意を要する、そのような非経口的に許容されるタンパク質溶液の調製は、当業者の技術範囲内である。静脈内注射、皮膚注射、もしくは皮下注射のための好ましい医薬組成物は、治療用タンパク質に加えて、等張ビヒクル、例えば、塩化ナトリウム注射液、リンガー注射液、デキストロース注射液、デキストロースおよび塩化ナトリウム注射液、乳酸リンガー注射液、あるいは当該技術分野において既知の他のビヒクルなど、を含有すべきである。さらに、本発明の医薬組成物は、安定化剤、保存剤、緩衝液、酸化防止剤、または当業者に既知の他の添加剤を含んでいてもよい。
【0078】
本発明の1つ以上の方法で製造された治療用タンパク質を含む医薬組成物を追加的に処方することは、当業者に既知であろう。当業者であれば、本発明に従って製造されたタンパク質に適した単位投与配合組成についても分かるであろう。
【0079】
これにより、本明細書中において引用した全ての参照、特許、および特許出願の全内容は、参照により本明細書に援用されるものとする。
【実施例】
【0080】
本発明の理解を助けるために、下記実施例を詳細に説明するが、いかなる意味においても、本発明の範囲を限定することを意図するものでなくかつ限定するものとして解釈すべきではない。実施例は、慣用法、例えばクローニング、トランスフェクション、および細胞株においてタンパク質を過剰発現させるための方法の基本的側面に関する詳細な記述を含んでいない。そのような方法は、当業者に周知である。
【0081】
(実施例1)
TNFR−Fcタンパク質の製造
実施例1.1:組み換え型CHO細胞の細胞培養物性能およびTNFR−Fc融合タンパク質の産生品質に対する低温の効果
実施例1.1.1:材料および方法
組み換え型糖タンパク質TNFR−Fcを過剰発現するチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞は、同一の濃度および条件で、4つの別々のベンチスケールのバイオリアクターに37.0℃で接種した。細胞は、流加培養において1日増殖させ、その後、30.0℃、29.0℃、28.0℃、または27.0℃に温度シフトさせた。培養物の初期pH設定値下限は、7.00であった。培養物から細胞試料を毎日採取し、細胞培養物の様々な状態、例えば、統合生存細胞数、細胞生存率、残存グルコースプロフィール、残存グルタミンプロフィール、ラクテートおよびアンモニアの濃度、累加平均細胞産生能(Qp:Cumulative average cell productivity)、産物力価、ミスフォールド/凝集した産物のレベル、高分子量凝集体のレベル、シアリル化のレベル、およびpHなど、を測定した。
【0082】
統合生存細胞数(IVC:Integrated viable cell)は、細胞密度検査(例えば、CEDEX(登録商標)、Innovatis社、Malvern、PA)を使用して細胞密度を測定することよって計算し、平均収穫日IVCに正規化した。平均収穫日IVCは、試験した全ての実験条件に対して収穫日(例えば、10日)統合生存細胞密度の算術平均を計算することによって決定した。次いで、全ての個々のIVC値を、平均収穫IVCに合わせて調整し、正規化した値を得た。
【0083】
細胞生存率は、トリパンブルーで染色し細胞密度試験(例えば、CEDEX(登録商標)、Innovatis社、Malvern、PA)を用いて測定した。さらに、細胞培養物における残存グルコースプロフィールおよび残存グルタミンプロフィールは、BioProfile Chemistry Analyzer(Nova Biomedical社、Waltham、MA)を使用して測定した。老廃物、ラクテート、およびアンモニアの濃度は、BioProfile Chemistry Analyzer(Nova Biomedical社、Waltham、MA)を使用して測定した。
【0084】
累加平均細胞産生能(Qp)および産物力価は、タンパク質A HPLCを使用して測定し、平均収穫日累加平均Qpおよび平均収穫日力価に正規化した。平均収穫日力価は、試験した全ての実験条件に対して収穫日(例えば、10日)力価の算術平均を計算することによって決定した。次いで、全ての個々の力価値を平均収穫日力価に合わせて調整し、正規化した値を得た。平均収穫日累加平均Qpは、試験した全ての実験条件に対して収穫日累加平均Qpの算術平均を計算することによって決定した。次いで、全ての個々の値を平均収穫日力価に合わせて調整し、正規化した値を得た。
【0085】
ミスフォールドした産物/凝集した産物のレベルは、HIC−HPLCを使用して測定し、高分子量凝集体のレベルはSEC−HPLCを使用して測定した。総グリカンシアリル化およびN−結合グリカンシアリル化のレベルは、2−アミノベンズアミド−(2−AB)−標識タンパク質グリコ型を順相クロマトグラフィ(NPC:Normal Phase Chromatography)にかけることよって測定した。総シアリル化(N−結合およびO−結合)の量は、参照試料、すなわち、既知の好ましいシアリル化パターンを有するTNFR−Fcアリコート、の総シアリル化の量に対する割合として定義した。細胞培養物のpHは、血液ガス分析装置(Bayer Rapidlab 248 pH/血液ガス分析装置(Bayer Healthcare LLC社、East Walpole、MA))によるオフライン計測により決定した。
【0086】
実施例1.1.2:結果
低温での細胞の増殖は、IVC数に対して最小の効果を有していた。特に、作業温度が低いほどで、最終的なIVC数も少なかった。しかしながら、細胞培養温度を27℃まで下げても影響は小さく、すなわち、IVC数において約20%の減少が観察されただけであった(図1A)。細胞生存率は、温度の低下にはあまり影響を受けず、すなわち、最も低い温度条件(すなわち、27℃)で、収穫日生存率は5%の低下であった(図1B)。
【0087】
その上、低作業温度では、残存グルコースプロフィールが高く、このことは、細胞培養物のグルコース消費がより低いことを示している(図2A)。しかしながら、グルタミンプロフィールは、低温でもあまり変わらなかった(図2B)。
【0088】
場合によっては、細胞培養の晩期において、乳酸およびアンモニアも細胞培養によって消費される場合がある。乳酸およびアンモニアの産生の中断あるいは乳酸およびアンモニアの消費は、細胞生存率、細胞産生能を高め、並びにポリペプチド産物力価を高める効果を有する。低温での細胞の増殖は、流加培養の後半においてラクテートの純消費を変える効果を有していた(図3A)。低温では、アンモニアの産生も高くなった(図3B)。低温では、細胞特異的産生能が低く(下側のQp)(図4A)、並びに産物力価も低かった(図4B)。産物力価が低いのは、細胞特異的産生能及び統合生存細胞数が低いためである。しかしながら、産物力価及び細胞産生能が低いことは、ミスフォールドした産物および凝集した産物の割合が著しく低いことで相殺された(図5A)。その上、細胞培養の温度を下げることで、細胞培養物中の高分子量凝集体の割合が著しく減少した(図5B)。したがって、温度を下げることによって、結果としてTNFR−Fcタンパク質産生が改善された。
【0089】
この温度における低下は、総産物シアリル化(N−結合シアリル化およびO−結合シアリル化の両方)と相関していた(図6A)。実際のところ、細胞培養物温度を下げることとシアリル化されたN−結合グリカンの割合の減少との間には直接の因果関係が存在し(図6B)、産生温度を選択して、HMWAおよびタンパク質ミスフォールディングが減少する有益効果と、グリコシル化が減少するという不利益効果とのバランスを取らなければならないことを示している。例えば、29.5℃の低温で細胞を増殖させることにより、ミスフォールドしたTNFR−Fcおよび凝集したTNFR−Fcの濃度が著しく減少するが、一方でTNFR−Fcグリコシル化に対しては最小の効果を有していた。
【0090】
異なる温度で増殖させた細胞培養の間におけるラクテートの純消費の違いは、収穫の時点での細胞培養のpHに違いを生じさせた(図7)。これは、ラクテート(乳酸)の純消費が大きいほど、酸が環境から除去されるために、培養物pHも上昇するという事実によるものである。
【0091】
実施例1.2:組み換え型CHO細胞の細胞培養性能およびTNFR−Fc融合タンパク質の産物品質に関する低pHの効果
実施例1.2.1:材料および方法
組み換え型糖タンパク質TNFR−Fcを過剰発現するCHO細胞を、同じ濃度で37.0℃にて、それぞれ7.20、7.10、7.00、6.90、または6.80のpH設定値で接種した。炭酸ナトリウム塩基を加えることにより、培養物が設定値pHより下に逸脱するのを防いだ。設定値pHより上に対しては、pH制御は行わなかった。バイオリアクターは、1日(接種後1日、すなわち、実験開始後1日)で30.0℃に温度シフトした。細胞培養の様々な条件は、実施例1.1.1で記載されているのと同様に測定した。
【0092】
実施例1.2.2:結果
7.00から0.2pHずつ下げたpH設定値で細胞を増殖させることにより、IVCがわずかに減少し、特にpH6.80での細胞増殖は、pH7.00での細胞増殖と比較してIVCにおいて約15%減少していた(図8A)。さらに、pH7.20での細胞増殖では、細胞生存率が低下した(図8B)。
【0093】
さらに、作業pH設定値が低いほど、グルコースの消費も低かった(図9A)。グルタミンプロフィールは、6.80〜7.10のpH設定値で細胞を増殖させてもあまり変化はなかった。
【0094】
当然のことながら、作業pH設定値が高いほど、ラクテートの産生も高かった(図10A)。pH6.80の設定値では、流加培養の後半においてラクテートの純消費が生じなかった。作業pH設定値が低いほど、アンモニアの産生も高かった(図10B)。
【0095】
pHを維持するために酸を用いず塩基だけを添加したので、実験の後半におけるラクテートの純消費の違いから、作業pH設定値からの培養物pHのずれが生じた(図11A)。pH設定値、ラクテートプロフィール、および滴定剤添加における違いの結果として、pH条件間でオスモル濃度も異なっていた(図11B)。
【0096】
7.00から0.2pHずつ下げたpH設定値で培養物を増殖させることにより、細胞特異的産生能(すなわち、Qp)はわずかに低下した(図12A)。6.80または7.20のpH設定値を用いた場合では、細胞特異的産生能と統合生存細胞数の両方が低下したために、産物力価が低下した(図12B)。
【0097】
しかしながら、低い作業pH設定値では、産物のミスフォールディングおよび凝集が減少した(図13A)。さらに、低いpH設定値において、高分子量凝集体の割合における著しい減少が観察された(図13B)。
【0098】
作業pH設定値を低くすることで、総シアリル化(N−およびO−結合グリカンの両方)が低下し(図14A)、同様にN−結合グリカンシアリル化も低下した(図14B)。総シアリル化(N−およびO−結合)の量は、参照試料の総シアリル化の量に対する割合として定義されるため、100%を下回る値は、総シアリル化の減少を表し、100%を超える値は、総シアリル化の増加を表している。グリコシル化のパターンは、糖タンパク質のグリカンのプロフィールとして表すことができる(図15)。低pHで細胞を増殖させることにより、グリコシル化プロフィール全体が著しく変わった(図16)。低pHでは、新しいグリコ型は検出されないが、存在するグリコ型の比は著しく変わった。すなわち、低pHで細胞を増殖させることにより、ジ−シアリル化グリコ型とモノ−シアリル化グリコ型の複合物が減少した。タンパク質のグリコシル化に対する低pHの潜在的な好ましくない効果のために、タンパク質グリコシル化に対する有害な効果と、ミスフォールドタンパク質および/または凝集タンパク質の減少に対する有益な効果とのバランスが取れるように、細胞培養のpHを選択しなければならない。例えば、低pH6.95で細胞を増殖させることにより、ミスフォールドおよび凝集したTNFR−Fcタンパク質の割合を著しく減少させると同時に、TNFR−Fcのグリコシル化に対する影響が最小になる。
【0099】
実施例1.3:議論
これらの研究は、27.0〜30.0℃の温度範囲内、または6.80〜7.20のpH設定値範囲内において、細胞培養物の細胞増殖および特異的産生能はかなり影響されることを示している。ただし、温度をわずか1〜2℃およびpH設定値をわずか0.1〜0.2変えても細胞増殖および特異的産生能にはあまり影響しなかったが、一方でタンパク質のフォールディングおよびタンパク質の凝集においては著しい(好ましい)違いが観察された。したがって、細胞の増殖、生存率、または産生能にはあまり影響を及ぼさない細胞培養条件における小さな違いは、例えば、タンパク質のフォールディング及びタンパク質の凝集を減少させたり、又はグリコシル化に影響を及ぼしたりするなど、産生品質を著しく変化させ得る。
【0100】
(実施例2)
sIL−13R産生に対する温度の効果および新規のsIL−13R産生細胞株の評価
実施例2.1:材料および方法
組み換え型糖タンパク質sIL−13Rを過剰発現する安定にトランスフェクトされたチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞を、Applikonバイオリアクターにおいて、消泡剤(Dow Corning Corporation社、Midland、MI)を用いて、3×105細胞/mLで接種培地に播種した。必要に応じて、さらなる消泡剤を加えた。濃縮した栄養培地を、供給培地として使用した。pH設定値下限は6.80であった。dO2設定値は、7%CO2/93%空気のスパージガスを用いて23%であった。一方、アジテーションは200rpmであった。バイオリアクターは、5日目で37.0℃に温度シフトした。産生期の温度は、37.0℃、33.0℃、32.0℃、28.0℃、又は室温(RT(room temperature):約24.0℃)のいずれかとした。実験条件のための供給計画をまとめて表1に示す。供給液量は、バイオリアクター中の培養液量の割合として一覧してある。細胞培養に対する温度シフトは、約6×106細胞/mLで行った。
【0101】
【表1】
実施例2.2:結果
温度シフト後に達成された生存細胞密度は、室温(約6×106細胞/mL)および29.0℃(約7×106細胞/mL)の方が、より高い温度での生存細胞密度(約8×106細胞/mL)よりもわずかに低くかった(図17A)。同様に、温度シフト後に達成された総細胞密度は、室温(約6.5×106細胞/mL)および29.0℃(約7.5×106細胞/mL)の方が、より高い温度での総細胞密度(約8〜9×106細胞/mL)よりもわずかに低かった(図17B)。生存率は、温度が低いほど、流加培養全体を通じてより良好に維持された(図17C)。生存率における衰退速度は、温度で変わった。すなわち、室温及び29.0℃の生存率プロフィールは、培養物を31.0℃、32.0℃、33.0℃、および37.0℃に維持した場合より著しく高かった(図17C)。
【0102】
18日間の流加培養の終了時に、最も高い力価(sIL−13R二量体およびHMWAの力価の組み合わせ)は、31.0℃での培養によって達成され、以下、32.0℃での培養(188mg/L)、29.0℃での培養(178mg/L)、および33.0℃での培養(151mg/L)と続いた(図18)。室温での培養および37.0℃での培養は、非常に低い力価であった。sIL−13R産生細胞株の細胞特異的産生能、または1日の特異的sIL−13R産生率(Qp)は、室温および37.0℃において著しく減少した(図19A)。さらに、累加平均特異的産生能、または累加平均Qpも、37.0℃および室温において低かった(図19B)。興味深いことに、特異的産生能では、培養生存率の著しい減少(データはしめしていない)に一致して、37.0℃、33.0℃、32.0℃、および31.0℃での培養において、終了に向かって著しい増加が見られた。
【0103】
特異的グルコース消費(Qglc)は、温度の低下により減少した(図20)。特異的グルタミン消費(Qgln)も、温度の低下により減少しているように見える(図21)。しかしながら、特異的グルタミン消費に関するデータでは、温度を上げることでより大きく生じるであろう培地におけるグルタミン分解を説明できないということは注目すべきである。したがって、特異的グルタミン消費に対する温度の影響は歪められ得る。室温、29.0℃、31.0℃、および32.0℃での培養に対するラクテート濃度プロフィールは、ラクテート濃度が温度シフト日またはその付近でピークに達するまでは同じであり、その後、18日までに0.7〜2.0g/L減少した(図22)。33.0℃および37.0℃の培養に対しては、ラクテートプロフィールは、増殖期では他の培養と同じであるが、産生期では著しく異なっている。33.0℃での培養に対しては、ラクテート濃度は、温度シフトの後でも減少せず、基本的に一定のままであった。37.0℃での培養では、ラクテートが流加培養の期間全体を通して増加した。
【0104】
アンモニア濃度は、産生期中において、温度に従って変化した(図23)。29.0℃の培養では、アンモニア濃度は、温度シフト日またはその付近でピークに達し、流加培養の中期において減少し、流加培養の後期において増加した。29.0℃より上の温度では、流加培養の後期におけるアンモニア濃度の増加が、より早く、より大きく生じた。37.0℃の培養では、アンモニア濃度は流加培養中一貫して増加した。室温の培養では、アンモニア濃度は、温度シフト後、ほぼ一定のままであった。
【0105】
これら実行中のバイオリアクターからの培養上清の試料は、バッチ結合性タンパク質Aの溶離液のサイズ排除クロマトグラフィ(SEC:size−exclusion chromatography)によって、高分子量凝集体(HMWA)を分析した。細胞株の結果から明らかな傾向は、温度を上げると、培養上清中に存在するHMWAの割合が相対的に増加するということであった(図24および図25)。したがって、低温で細胞を増殖させることにより、結果としてsIL−13R産生凝集体が減少した。
【0106】
sIL−13R二量体の割合における減少は、HMWAの割合の増加に相関していた(図26Aおよび26B)。室温での培養では、他の培養より%HMWAが低く(図26B)、同様に二量体形成の割合も高かった(図26A)。室温での培養および31.0℃での培養では、同様の二量体のみの力価が得られ、一方で、29.0℃での培養では、最も高い二量体だけの力価が得られた(図27)。
【0107】
SEC分析からの結論を実証するために、ウエスタンブロットを使用して馴化培地試料を分析した。二量体に対して、HMWA種として存在するsIL−13Rの量における質的な違いを調べた。ウエスタンブロットは、馴化培地中に存在するHMWA凝集体の量が、存在する二量体の量と比較して、温度上昇により増加することを実証している(データは示していない)。
【0108】
これらの実験は、sIL−13R二量体の容量産生能に関して、生存率および生存細胞密度、特異的産生能、並びにHMWA形成の温度依存性変数間の相互作用の重要性を示す。31.0℃での培養において、最も高い力価(HMWAおよび二量体を含む測定)を達成したが、二量体だけに関して測定した場合、低温(例えば、29.0℃)での培養では、それに匹敵するか、もしくはより向上した体積産生能が得られ得る。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞培養物においてタンパク質を製造する方法であって、ミスフォールドしたタンパク質および/または凝集したタンパク質の産生を低減するために、
(a)該細胞培養物において低温で細胞を増殖させること、並びに
(b)該細胞培養物において低pHで細胞を増殖させること
の少なくとも1つを含む、方法。
【請求項2】
前記細胞培養物において、細胞を低温および低pHで増殖させることを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記細胞培養物が大規模細胞培養物である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記細胞培養物が流加培養細胞培養物である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記細胞培養物が哺乳動物細胞培養物である、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記細胞培養物がCHO細胞培養物である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記低温が、27.0℃〜30.0℃未満の範囲である、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
前記低pHが、6.80〜7.00未満の範囲である、請求項5に記載の方法。
【請求項9】
製造された前記タンパク質が可溶性レセプターである、請求項5に記載の方法。
【請求項10】
前記可溶性レセプターがTNFR−Fcである、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記低温が29.5℃である、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記低pHが6.95である、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
前記可溶性レセプターがsIL−13Rである、請求項9に記載の方法。
【請求項14】
細胞培養物においてタンパク質を製造する方法であって、
(a)該細胞培養物の温度を変更することによって、該製造されるタンパク質のタンパク質グリコシル化のレベルを所定のレベルへ変更すること、
(b)該細胞培養物のpHを変更することによって、該製造されるタンパク質のタンパク質グリコシル化のレベルを所定のレベルへ変更すること、
の少なくとも1つを含む、方法。
【請求項15】
前記タンパク質グリコシル化がN−グリカンシアリル化である、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記細胞培養物が大規模細胞培養物である、請求項14に記載の方法。
【請求項17】
前記細胞培養物が流加培養細胞培養物である、請求項14に記載の方法。
【請求項18】
前記細胞培養物が哺乳動物細胞培養物である、請求項14に記載の方法。
【請求項19】
前記細胞培養物がCHO細胞培養物である、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記方法が、27.0℃〜30.0℃未満の範囲の温度で前記細胞培養物を増殖させることを含む、請求項18に記載の方法。
【請求項21】
前記方法が、6.80〜7.00未満の範囲のpHで前記細胞培養物を増殖させることを含む、請求項18に記載の方法。
【請求項22】
前記製造されるタンパク質が可溶性レセプターである、請求項18に記載の方法。
【請求項23】
前記可溶性レセプターがTNFR−Fcである、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記可溶性レセプターがsIL−13Rである、請求項22に記載の方法。
【請求項25】
前記製造されるタンパク質が治療用タンパク質である、請求項1に記載の方法。
【請求項26】
請求項25に記載の方法によって作られた前記治療用タンパク質と薬学的に許容される担体とを含む医薬組成物。
【請求項27】
前記製造されるタンパク質が治療用タンパク質である、請求項14に記載の方法。
【請求項28】
請求項27に記載の方法によって作られた前記治療用タンパク質と薬学的に許容される担体とを含む医薬組成物。
【請求項29】
請求項1〜25または27のいずれか1項に記載の方法であって、前記細胞培養物から前記タンパク質を単離する工程をさらに含む、方法。
【請求項30】
前記タンパク質がさらに、処方のために精製または処理される、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
前記タンパク質が医薬組成物中に処方される、請求項30に記載の方法。
【請求項1】
細胞培養物においてタンパク質を製造する方法であって、ミスフォールドしたタンパク質および/または凝集したタンパク質の産生を低減するために、
(a)該細胞培養物において低温で細胞を増殖させること、並びに
(b)該細胞培養物において低pHで細胞を増殖させること
の少なくとも1つを含む、方法。
【請求項2】
前記細胞培養物において、細胞を低温および低pHで増殖させることを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記細胞培養物が大規模細胞培養物である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記細胞培養物が流加培養細胞培養物である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記細胞培養物が哺乳動物細胞培養物である、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記細胞培養物がCHO細胞培養物である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記低温が、27.0℃〜30.0℃未満の範囲である、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
前記低pHが、6.80〜7.00未満の範囲である、請求項5に記載の方法。
【請求項9】
製造された前記タンパク質が可溶性レセプターである、請求項5に記載の方法。
【請求項10】
前記可溶性レセプターがTNFR−Fcである、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記低温が29.5℃である、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記低pHが6.95である、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
前記可溶性レセプターがsIL−13Rである、請求項9に記載の方法。
【請求項14】
細胞培養物においてタンパク質を製造する方法であって、
(a)該細胞培養物の温度を変更することによって、該製造されるタンパク質のタンパク質グリコシル化のレベルを所定のレベルへ変更すること、
(b)該細胞培養物のpHを変更することによって、該製造されるタンパク質のタンパク質グリコシル化のレベルを所定のレベルへ変更すること、
の少なくとも1つを含む、方法。
【請求項15】
前記タンパク質グリコシル化がN−グリカンシアリル化である、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記細胞培養物が大規模細胞培養物である、請求項14に記載の方法。
【請求項17】
前記細胞培養物が流加培養細胞培養物である、請求項14に記載の方法。
【請求項18】
前記細胞培養物が哺乳動物細胞培養物である、請求項14に記載の方法。
【請求項19】
前記細胞培養物がCHO細胞培養物である、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記方法が、27.0℃〜30.0℃未満の範囲の温度で前記細胞培養物を増殖させることを含む、請求項18に記載の方法。
【請求項21】
前記方法が、6.80〜7.00未満の範囲のpHで前記細胞培養物を増殖させることを含む、請求項18に記載の方法。
【請求項22】
前記製造されるタンパク質が可溶性レセプターである、請求項18に記載の方法。
【請求項23】
前記可溶性レセプターがTNFR−Fcである、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記可溶性レセプターがsIL−13Rである、請求項22に記載の方法。
【請求項25】
前記製造されるタンパク質が治療用タンパク質である、請求項1に記載の方法。
【請求項26】
請求項25に記載の方法によって作られた前記治療用タンパク質と薬学的に許容される担体とを含む医薬組成物。
【請求項27】
前記製造されるタンパク質が治療用タンパク質である、請求項14に記載の方法。
【請求項28】
請求項27に記載の方法によって作られた前記治療用タンパク質と薬学的に許容される担体とを含む医薬組成物。
【請求項29】
請求項1〜25または27のいずれか1項に記載の方法であって、前記細胞培養物から前記タンパク質を単離する工程をさらに含む、方法。
【請求項30】
前記タンパク質がさらに、処方のために精製または処理される、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
前記タンパク質が医薬組成物中に処方される、請求項30に記載の方法。
【図1A】
【図1B】
【図2A】
【図2B】
【図3A】
【図3B】
【図4A】
【図4B】
【図5A】
【図5B】
【図6A】
【図6B】
【図7】
【図8A】
【図8B】
【図9A】
【図9B】
【図10A】
【図10B】
【図11A】
【図11B】
【図12A】
【図12B】
【図13A】
【図13B】
【図14A】
【図14B】
【図15】
【図16】
【図17A】
【図17B】
【図17C】
【図17D】
【図18】
【図19A】
【図19B】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26A】
【図26B】
【図27】
【図1B】
【図2A】
【図2B】
【図3A】
【図3B】
【図4A】
【図4B】
【図5A】
【図5B】
【図6A】
【図6B】
【図7】
【図8A】
【図8B】
【図9A】
【図9B】
【図10A】
【図10B】
【図11A】
【図11B】
【図12A】
【図12B】
【図13A】
【図13B】
【図14A】
【図14B】
【図15】
【図16】
【図17A】
【図17B】
【図17C】
【図17D】
【図18】
【図19A】
【図19B】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26A】
【図26B】
【図27】
【公表番号】特表2010−524503(P2010−524503A)
【公表日】平成22年7月22日(2010.7.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−506424(P2010−506424)
【出願日】平成20年4月22日(2008.4.22)
【国際出願番号】PCT/US2008/061123
【国際公開番号】WO2008/131374
【国際公開日】平成20年10月30日(2008.10.30)
【出願人】(591011502)ワイス エルエルシー (573)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成22年7月22日(2010.7.22)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年4月22日(2008.4.22)
【国際出願番号】PCT/US2008/061123
【国際公開番号】WO2008/131374
【国際公開日】平成20年10月30日(2008.10.30)
【出願人】(591011502)ワイス エルエルシー (573)
【Fターム(参考)】
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