説明

細胞培養における生存度及び生産性の改善方法

細胞内のMDM2のD300A変異型を過剰発現することによって、真核細胞の流加培養において分泌タンパク質の生存度及び産生を増加させる方法が開示される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流加真核細胞培養において分泌タンパク質の生存度及び生産を向上させる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
哺乳動物細胞培養物は、適正な翻訳後修飾を伴うタンパク質を産生するその能力により、多くの組換えタンパク質製造方法に選択されるシステムである。製造の需要の増加とともに、生成物の収量を増大させて製造効率を向上させたいという強い動機が存在する。商業的製造方法における生物学的療法剤のグラム/リットル生産レベルの達成は、哺乳動物細胞培養及び技術手法の両方の最適化に依存する。
【0003】
高密度の培養を特徴とする無タンパク質哺乳動物細胞培養には、細胞死の問題があり、アポトーシスは、典型的な流加生物反応器で最大80%を占める可能性があり、栄養素及び増殖因子の欠乏、酸素欠乏、毒素蓄積、及び剪断応力などのストレス要因に応答して誘発される(Goswami et al.,Biotechnol.Bioeng.62:632〜640(1999))。アポトーシスは、最大生細胞密度を制限し、死滅期の開始を早め、異種タンパク質収量を潜在的に減少させる(Chiang and Sisk,Biotechnol.Bioeng.91:779〜792(2005)、Figueroa et al.,Biotechnol.Bioeng.73:211〜222(2001),Metab.Eng.5:230〜245(2003),Biotechnol Bioeng.85:589〜600(2004)、Mercille and Massie,Biotechnol.Bioeng.44:1140〜1154(1994))。
【0004】
アポトーシスは、細胞内外の両方からのシグナル経路の複雑なネットワークの結果であり、細胞死の最終段階を行うカスパーゼの活性化に至る。哺乳動物細胞培養における長期生産工程中に細胞生存度を維持するために、アポトーシス阻止の様々な方法が用いられてきた(Arden and Betenbaugh,Trends Biotechnol.22:174〜180(2004);Vives et al.,Metab.Eng.5:124〜132(2003))。増殖因子、加水分解産物、及び制限栄養素の培地補給を介して細胞外環境を変化させることによって、タンパク質生産が増加し、かつアポトーシスが減少した(Burteau et al.,In Vitro Cell Dev.Biol.Anim.39:291〜296(2003);Zhang and Robinson,Cytotechnology 48:59〜74(2005))。細胞内部からのアポトーシスシグナリングカスケードを阻害するために、他の研究者らは化学的及び遺伝子的戦略に取り組んできた(Sauerwald et al.,Biotechnol.Bioeng.77:704〜716(2002),Biotechnol.Bioeng.81:329〜340(2003))。研究者らは、癌細胞において増加していることが見出された遺伝子の過剰発現がカスパーゼ活性の上流のアポトーシスを阻害することによって生物反応器内で成長する細胞生存度を延長できることを見出した(Goswami et al.,supra;Mastrangelo et al.,Trends Biotechnol.16:88〜95(1998);Meents et al.,Biotechnol.Bioeng.80:706〜716(2002);Tey et al.,J Biotechnol.79:147〜159(2000)and Biotechnol.Bioeng.68:31〜43(2000))。
【0005】
ミトコンドリアアポトーシス経路で機能する抗アポトーシス遺伝子は、3つのグループ、即ち、1)経路の初期に作用するもの、例えば、タンパク質のBcl−2ファミリーのメンバー、2)経路の中間で作用してアポトソーム複合体を崩壊する又は阻害するもの、例えば、アベナ、及び3)経路の後期に作用するもの、例えば、カスパーゼ阻害剤、XIAPに分類され得る。これら遺伝子の大部分の機能性は、これらを哺乳動物の発現システムで過剰発現させることにより研究されており、場合によっては、それぞれが経路の異なる部位から誘導された2つ以上の遺伝子の複合過剰発現の効果が解明されている。例には、1)CHO細胞におけるBcl−XL及びXIAPの欠失変異体(XIAPΔ)の相加効果(Figueroa et al.,Metab.Eng.5:230〜245(2003))、2)BHK細胞におけるE1B−19K及びアベナ(Nivitchanyong et al.,Biotechnol.Bioeng.98:825〜841(2007))、及び3)Bcl−XL、アベナ及びXIAPΔ(Sauerwald et al.,Biotechnol.Bioeng.81:329〜340(2003))が挙げられる。
【0006】
アポトーシスカスケードの主要活性化因子はp53タンパク質である。p53がアポトーシスを活性化させる1つのメカニズムは、BNIP3などのプロアポトーシスタンパク質のサブセットの増加による(Yasuda et al.,J.Biol.Chem.273:12415〜21(1998))。したがって、p53の増加は、アポトーシスを誘発する主な要因の1つであり得る。p53は、ユビキチン介在性分解経路によってMDM2を介して細胞で分解され得る(Bond et al.,Current Cancer Drug Target 5:3〜8(2005))。したがって、MDM2の過剰発現は、p53レベルを低下させ、かつ拡大解釈すれば、アポトーシスを阻害する可能性を有する。これまでに、ストレスシグナルの存在下では、MDM2を過剰発現するCHO細胞株は、バッチ培養における野生型CHOと比較して培養液中でより長く生存できることが示されている(Arden et al.,Biotechnol.Bioeng.97:601〜614(2007))。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
タンパク質生産性を上げるための上記の様々な手法は様々な程度に成功してきた。それでもなお、特に大規模商業生産において、タンパク質産生を上げるための方法を開発する継続的な必要性が存在している。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様は、MDM2D300Aを過剰発現する哺乳動物細胞株を培養することを含む、流加哺乳動物細胞培養において細胞生存度を増加させる方法である。
【0009】
本発明の別の態様は、MDM2D300A及びE1B19Kを過剰発現する哺乳動物細胞株を培養することを含む、流加哺乳動物細胞培養において細胞生存度を増加させる方法である。
【0010】
本発明の別の態様は、MDM2D300A及び分泌タンパク質をコードする1つ以上の遺伝子を過剰発現するCHO細胞株を培養することを含む、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)流加細胞培養において分泌タンパク質の産生を増加させる方法である。
【0011】
本発明の別の態様は、MDM2D300A及びE1B19K及び分泌タンパク質をコードする1つ以上の遺伝子を過剰発現するCHO細胞株を培養することを含む、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)流加細胞培養において分泌タンパク質の産生を増加させる方法である。
【0012】
本発明の別の態様は、MDM2及びE1B19K並びに分泌タンパク質をコードする1つ以上の遺伝子を過剰発現するCHO細胞株を培養することを含む、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)流加細胞培養において分泌タンパク質の産生を増加させる方法である。
【0013】
本発明の別の態様は、配列番号4に示されるアミノ酸配列を含むポリペプチドをコードする単離ポリヌクレオチドである。
【0014】
本発明の別の態様は、配列番号4に示される配列を有するポリペプチドを含む単離ポリペプチドである。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1A】Bcl−2Δ、MDM−2及びXIAPΔの同時トランスフェクションから作成された細胞株の増殖プロファイル。
【図1B】Bcl−2Δ、MDM−2及びXIAPΔの同時トランスフェクションから作成された細胞株の増殖プロファイル。
【図2A】Bcl−XL、MDM−2及びXIAPΔの同時トランスフェクションから作成された細胞株の増殖プロファイル。
【図2B】Bcl−XL、MDM−2及びXIAPΔの同時トランスフェクションから作成された細胞株の増殖プロファイル。
【図3】E1B19K及びMDM−2の同時トランスフェクションから作成された細胞株の増殖プロファイルである。A)生細胞密度、B)積算生細胞密度、C)カスパーゼ3/7の減少。
【図4A】振盪フラスコバッチ培養でMDM2D300Aがトランスフェクションされた細胞株の増殖プロファイル。
【0016】
トランスフェクションされた宿主は1013A。
【図4B】振盪フラスコバッチ培養でMDM2D300Aがトランスフェクションされた細胞株の増殖プロファイル。
【0017】
トランスフェクションされた宿主はC1835A。
【図5A】振盪フラスコ流加培養でDM2D300Aがトランスフェクションされた1013A細胞株の増殖プロファイル。A)生細胞密度、B)%生存度。
【図5B】振盪フラスコ流加培養でDM2D300Aがトランスフェクションされた1013A細胞株の増殖プロファイル。A)生細胞密度、B)%生存度。
【図6】流加CHO培養中の抗体力価。
【発明を実施するための形態】
【0018】
特許及び特許出願を含むがそれらには限定されない全ての刊行文献は、本明細書への参照により、完全に説明されているごとくに、本願に包含される。
【0019】
本明細書及び特許請求の範囲で使用されるとき、文脈で明確に指示されない限り、単数形「a」、「and」、及び「the」は、複数形の言及を含む。したがって、例えば、「ポリペプチド」への言及は1つ以上のポリペプチドへの言及であり、当業者には既知のそれらの等価物を包含する。
【0020】
本明細書で使用するとき、用語「MDM2」は、GenBank登録番号NP_002383(配列番号1及び2)に示されるポリペプチド配列を有するヒトMDM2(MDM2 p53結合タンパク質ホモログ)を指す。
【0021】
本明細書で使用するとき、用語「E1B19K」は、GenBank登録番号NP_004322(配列番号5及び6)に示されるポリペプチド配列を有するヒトE1B19Kタンパク質を指す。
【0022】
本明細書で使用するとき、用語「アポトーシスR遺伝子」は、細胞内で過剰発現すると、トランスフェクションされていない細胞と比べて、細胞死に対する増強された耐性を付与するタンパク質をコードする遺伝子を指す。例示のアポトーシスR遺伝子は、Bcl−2、Bcl−XL、Blc−w又はE1B19K等のBcl−2ファミリーの抗アポトーシスメンバー、カスパーゼ阻害剤、例えばXIAP及びXIAPΔ等のIAPファミリー(アポトーシス阻害物質)、及び細胞周期の調節に関与するその他のタンパク質、例えばp27及びMDM2(Arden et al.,BioProcessing J.March/April 23〜28(2004)、Sauerwald et al.,Bioprocessing J.Summer 2002,61〜68(2002)、Arden et al.,Biotechnol.Bioengineer.97:601〜614,(2007))である。細胞死は、例えば生細胞密度(VCD)及びパーセント(%)生存度を測定する、及び積算生細胞密度(IVCC)を算出するなど、当該技術分野において周知の方法によって測定することができる。アポトーシスの活性化は、周知の方法を用いてカスパーゼ活性を測定することによって測定することができる。
【0023】
用語「ポリペプチド」は、ポリペプチドを形成するためにペプチド結合によって結合された少なくとも2つのアミノ酸残基を含む分子を意味する。50個のアミノ酸未満の小さなポリペプチドは「ペプチド」と呼ばれる場合がある。ポリペプチドはまた、「タンパク質」とも呼ばれる場合がある。
【0024】
用語「ポリヌクレオチド」は、糖−リン酸骨格又は他の等価な共有結合化学によって共有結合されたヌクレオチド鎖を含む分子を意味する。二本鎖及び一本鎖のDNA及びRNAが、ポリヌクレオチドの典型的な例である。
【0025】
用語「相補配列」は、第1の単離ポリヌクレオチド配列と逆平行であり、第1のポリヌクレオチド配列におけるヌクレオチドに対して相補的なヌクレオチドを含む第2の単離ポリヌクレオチド配列を意味する。典型的には、このような「相補配列」は、適切な条件下で第1の単離ポリヌクレオチド配列と組み合わされたときに、二本鎖DNA又は二本鎖RNAのような二本鎖のポリヌクレオチド分子を形成することができる。
【0026】
用語「ベクター」は、生体系内で複製されることができる、又はこうした系の間で移動可能である、ポリヌクレオチドを意味する。ベクターポリヌクレオチドは典型的に、生体系においてこれらのポリヌクレオチドの複製又は維持を促進するように機能する複製起点、ポリアデニル化信号又は選択マーカーのような因子を含有する。このような生体系の例としては、細胞、ウイルス、動物、植物、及びベクターを複製することのできる生物学的構成成分を利用して再構成された生体系を挙げることができる。ベクターを含むポリヌクレオチドは、DNA若しくはRNA分子又はこれらのハイブリッドであってよい。
【0027】
用語「発現ベクター」は、生体系又は再構成された生体系において、その発現ベクター中に存在するポリヌクレオチド配列によってコードされたペプチドの翻訳を命令するために利用することができるベクターを意味する。
【0028】
本明細書で使用するとき、用語「流加細胞培養」は、培養液への増殖制限栄養養基質の供給に基づく細胞培養プロセスを意味する。流加方式は、典型的には、生物反応器中で高細胞密度に達するための生物工業的方法で用いられる。流加細胞培養物の生存度及び最終的には生産性を向上させるために多くの方式が考案されてきた。本発明では、アポトーシスR遺伝子の組み合わせが宿主細胞内で過剰発現される代替的手法が記載される。分泌タンパク質の産生の予想外に高い増加は、MDM−2単独の発現は生産性を最高2倍まで増加させ(Arden et al.,Biotechn.Bioengin.97:601〜614,2007)、E1B19Kの発現は、アポトーシスを阻害しかつ細胞収量を向上させるが、細胞内の分泌タンパク質の産生を増加させない(WO2007/124106A2、Betenbaugh)ことを説明している公表された結果を踏まえて、MDM2及びE1B19Kの双方を過剰発現するように操作された細胞によって実証された。更に、以下の実施例に記載の研究の間に作成された、E1B19Kのみを過剰発現した細胞株は、最適に満たない増殖特性及び低い発現レベルを有した。したがって、本発明は、MDM2及びE1B19Kの同時発現による哺乳動物細胞内の分泌タンパク質の産生の有意な利益を実証した。
【0029】
本発明はまた、本発明の方法において有用な非自然発生的な変異MDM2を記載している。
【0030】
本発明の一実施形態は、1つ以上のアポトーシスR遺伝子を過剰発現する哺乳動物細胞株を培養することと、細胞生存度を評価することとを含む、流加哺乳動物細胞培養における細胞生存度を増加させる方法である。
【0031】
本発明の方法は、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞培養、骨髄腫又はハイブリドーマ細胞培養などの哺乳動物流加細胞培養において生存度を増加させるのに有用である。特に、本発明の方法は、CHO細胞培養物の積算生細胞計数(IVCC)を増加させるのに有用である。本発明の方法に有用な細胞株は、1つ以上のアポトーシスR遺伝子を発現する。特に、MDM2(配列番号1及び2)、MDM2D300A(配列番号3及び4)、E1B19K(配列番号5及び6)、アベナ(配列番号7及び8)、Bcl−LX(配列番号9及び10)、Bcl−2Δ(配列番号11及び12),及びXIAPΔ(配列番号13及び14)をコードする遺伝子を使用することができる。アポトーシスR遺伝子の発現は、当業者に既知のトランスフェクション技術によって達成され得る。作成された細胞株は、ペプチド、ペプチド融合、増殖因子、ホルモン、抗体、設計されたアンキリン反復タンパク質(DARPins)及び治療、診断又は研究目的に有用なその他のポリペプチド等の目的のタンパク質を発現する生産細胞株の作成のための優れた宿主である。本発明の方法において有用なCHO細胞株には、CHO−K1(Invitrogen,Carlsbad,CA)及びCHOK1SV(Lonza Biologics,Slough,UK)が挙げられる。本発明の方法において有用な骨髄腫株には、NS0及びSp2/0が挙げられる。
【0032】
本発明において、アポトーシスR遺伝子を過剰発現する細胞株の使用は、これらの細胞株が、対照細胞よりも約2倍高いIVCC値に達し、流加培養物の寿命を最大7日増加させ、分泌タンパク質の産生を2〜7倍改善するのを可能にする。このような改善された産生は有意であり、複雑な生物材料の生産コストを安くすることにつながり、同時に、溶解した細胞は生成物を分解するプロテアーゼを放出するので、非生細胞の細胞溶解の不在により優れた品質の生成物を作ることができる。したがって、これらの株は、目的のタンパク質(1つ又は複数)を発現する生産細胞株の成長のための優れた宿主である。例えば、MDM2D300Aを過剰発現するCHO細胞株は、2倍に増加したIVCC値に達し、対照細胞株と比べて培養液中で7日長く生存した。
【0033】
本発明の別の実施形態は、少なくとも1つのアポトーシスR遺伝子及び分泌タンパク質をコードする1つ以上の遺伝子を過剰発現するCHO細胞株を培養することと、分泌タンパク質の力価を測定することとを含む、CHO流加細胞培養における分泌タンパク質の産生を増加させる方法である。本発明の方法において特に有用な細胞株は、MDM2及びE1B19Kを過剰発現するCHO細胞、及びMDM2D300Aのみを過剰発現する細胞株である。本発明の方法においてこれらの細胞株を使用することにより、最大21日の流加培養において分泌タンパク質の力価が5〜7倍増加した。
【0034】
細胞内でのタンパク質の過剰発現は、既知の方法によって、一時的に又は安定した発現によってのいずれかで達成され得る(Davis et al.,Basic Methods in Molecular Biology,2nd ed.,Appleton & Lange,Norwalk,CT,1994、Sambrook et al.,Molecular Cloning:A Laboratory Manual,3rd ed.,Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,NY,2001)。
【0035】
本発明はまた、単離された変異MDM2ポリヌクレオチド、これらポリヌクレオチドを含むベクター、単離された宿主細胞、これらポリヌクレオチドの発現から得られるポリペプチド、本発明のポリペプチドを発現する方法、及び本発明のポリヌクレオチド及びポリペプチドの使用方法を提供する。本発明の組成物及び方法は、様々な具体的な用途のために使用することができる。本発明のポリヌクレオチド及びベクターは、変異MDM2ポリペプチドをコードし、かつこれらポリペプチドを発現するのに用いることができるので、有用である。変異MDM2ポリペプチドは、組み換え技術によって過剰発現されると、又は他の手段によって宿主動物又は組織の中に導入されると、細胞生存度を改善しかつ細胞内の分泌タンパク質の産生を増加させるために使用することができるので、有用である。
【0036】
本発明の1つの態様は、配列番号3に示される配列又はその相補配列を有するポリヌクレオチドを含む単離ポリヌクレオチドである。配列番号3に示されるポリヌクレオチド配列は、変異ヒトMDM2D300Aを含むポリペプチドをコードする。野生型MDM2内で同定された推定カスパーゼ切断部位(AspValProAspCysLysLys)であるMDM2D300Aは、分解への更なる耐性をMDM2に付与し、かつ培養中の細胞内のMDM2レベルを更に増加させるために破壊された。本発明のポリヌクレオチドは、自動ポリヌクレオチド合成機での固相ポリヌクレオチド合成のような化学合成により生成されてよい。あるいは、本発明のポリヌクレオチドは、PCRに基づく複製、ベクターに基づく複製、又は制限酵素に基づくDNA操作技術などの他の技術によって生成されてよい。所与の既知の配列のポリヌクレオチドを生成する又は得るための技術は、当該技術分野において周知である。
【0037】
本発明のポリヌクレオチドはまた、転写されているが翻訳されていない配列、終結シグナル、リボソーム結合部位、mRNA安定化配列、イントロン及びポリアデニル化シグナルなどの、少なくとも1つの非コード配列を含んでもよい。ポリヌクレオチド配列はまた、追加のアミノ酸をコードする追加の配列を含んでもよい。これら追加のポリヌクレオチド配列は、例えば、融合ポリペプチドの精製を促進するヘキサヒスチジンペプチド(Gentz et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.(USA)86:821〜284(1989))又はHAペプチドタグ(Wilson et al.,Cell 37:767〜778(1984))などのマーカー又はタグ配列をコードできる。
【0038】
本発明の別の実施形態は、配列番号3に示される配列を有する単離ポリヌクレオチドを含むベクターである。本発明のベクターは、ポリヌクレオチドを維持し、ポリヌクレオチドを複製し、又は再構成された生体系を包含する生体系において本発明のベクターによりコードされたポリペプチドの発現を促進するために有用である。ベクターは、細菌プラスミド、バクテリオファージ、トランスポゾン、酵母エピソーム、挿入因子、酵母染色体因子、バキュロウイルス、SV40などのパポバウイルス、ワクシニアウイルス、アデノウイルス、家禽ジフテリアウイルス、仮性狂犬病ウイルス、ピコロナウイルス及びレトロウイルスに由来するベクター、並びにコスミド及びファージミドなどのこれらの組み合わせに由来するベクターのような、染色体由来、エピソーム由来及びウイルス由来のものであってよい。
【0039】
本発明のベクターは、アジュバント、脂質、緩衝液又は特定用途に適当なその他の賦形剤とともに、微小粒子中に処方されることができる。
【0040】
本発明の一実施形態では、ベクターは発現ベクターである。発現ベクターは典型的に、このようなベクターによってコードされたポリペプチの発現を制御し、調整し、引き起こし又は許容することができる核酸配列因子を含む。このような因子は、転写エンハンサー結合部位、RNAポリメラーゼ開始部位、リボソーム結合部位、及び所与の発現システムにおけるコードされたポリペプチドの発現を促進する他の部位を含んでよい。このような発現システムは、当該技術分野において周知の、細胞に基づく、又は無細胞のシステムであってよい。コードされたポリペプチドの発現に使用するのに好適な核酸配列因子及び親ベクター配列もまた、当該技術分野において周知である。本発明のポリペプチドの発現のために有用な代表的なプラスミド由来発現ベクターは、大腸菌複製起点、aph(3’)−1aカナマイシン耐性遺伝子、イントロンAを有するHCMV前初期プロモーター、合成ポリA配列及びウシ成長ホルモンターミネータを含む。他の代表的なプラスミド由来の発現ベクターは、大腸菌複製起点、ant(4’)−1aカナマイシン耐性遺伝子、ラウス肉腫ウイルス長末端反復配列、HCMV前初期プロモーター及びSV40 lateポリA配列を含む。
【0041】
本発明の他の実施形態は、本発明のベクターを含む単離宿主細胞である。代表的な宿主細胞の例としては、古細菌細胞、細菌細胞、例えば連鎖球菌、ブドウ球菌、腸球菌、大腸菌、ストレプトミセス、シアノバクテリア、枯草菌、及び黄色ブドウ球菌、真菌細胞、例えばクリベロマイセス、サッカロミセス、担子菌、カンジダアルビカンス又はアスペルギルス、昆虫細胞、例えばドロソフィラS2及びスポドプテラSf9、動物細胞、例えばCHO、COS,HeLa、C127、3T3、BHK、293、CV−1、ボーズメラノーマ及び骨髄腫、並びに植物細胞、例えば裸子植物又は被子植物細胞が挙げられる。本発明の方法における宿主細胞は、個々の細胞として提供されても、細胞群として提供されてもよい。細胞群は、単離された培養された細胞群、又は組織などのマトリックス中に存在する細胞を含んでよい。
【0042】
ベクターなどのポリヌクレオチドの宿主細胞への導入は、当業者には周知の方法によって行われることができる(Davis et al.,Basic Methods in Molecular Biology,2nd ed.,Appleton & Lange,Norwalk,CT,1994、Sambrook et al.,Molecular Cloning:A Laboratory Manual,3rd ed.,Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,NY,2001)。これらの方法としては、リン酸カルシウムトランスフェクション、DEAE−デキストラン媒介トランスフェクション、マイクロインジェクション、カチオン性脂質媒介トランスフェクション、エレクトロポレーション、形質導入、スクレープローディング、衝撃導入及び感化が挙げられる。
【0043】
本発明の別の実施形態は、配列番号4に示される配列を有するポリペプチドを含む単離ポリペプチドである。配列番号4は、D300A置換を有する変異型ヒトMDM2タンパク質を含むポリペプチドである。本発明のポリペプチドは、自動ペプチド合成機で固相ペプチド合成などの化学合成により生成されてよい。あるいは、本発明のポリペプチドは、これらのペプチド鎖をコードするポリヌクレオチドから、網状赤血球溶血液に基づく発現システム、小麦胚抽出物に基づく発現システム、及び大腸菌抽出物に基づく発現システムなどのセルフリー発現システムを使用することによって得ることができる。本発明のポリペプチドはまた、容易に単離されるアフィニティ標識されたポリペプチドの組み換え発現などの当該技術分野において周知の技術により、本発明の核酸配列を内包する細胞から発現及び単離することによって得ることもできる。当業者は、本発明のポリペプチドを得るための他の技術を認識するであろう。本発明のポリペプチドは、第2のポリペプチドと融合した本発明のポリペプチドを含む融合ポリペプチドを含むことができる。このような第2のポリペプチドは、リーダー又は分泌シグナル配列、プレ−若しくはプロ−又はプレプロ−タンパク質配列、並びに自然発生の、又は一部が自然発生の配列に由来する部分的に合成の配列又は全合成の配列であってよい。
【0044】
本発明の別の実施形態は、本発明の宿主細胞を提供する工程と、配列番号4に示される配列を含む少なくとも1つのポリペプチドの発現に十分な条件下でこの宿主細胞を培養する工程と、を含むポリペプチドの発現方法である。
【0045】
宿主細胞は、所与のタイプの宿主細胞を維持し又は増殖させるのに好適な、かつポリペプチドを発現させるために十分なあらゆる条件下で培養されることができる。ポリペプチドの発現に十分な培養条件、培地、及び関連する方法は、当該技術分野において周知である。例えば、多くの哺乳動物細胞タイプは、適切に緩衝されたDMEM培地を用いて37℃において好気的に培養することができ、一方、細菌、酵母及び他の細胞タイプは、LB培地中適切な雰囲気条件下で37℃にて培養されてよい。
【0046】
本発明の方法では、ポリペプチドの発現は、当該技術分野において周知の種々の異なる技術を用いて確認することができる。例えば、MDM2A300Dの発現は、ウエスタンブロット法又はMDM2A300Dのカスパーゼに対する阻害能をアッセイすることによって確認することができる。
【0047】
ここで、以下の具体的かつ非限定的な実施例を参照して、本発明を説明する。
【実施例】
【0048】
以下の実施例では、アポトーシスR遺伝子を過剰発現するCHO細胞株を、振盪フラスコ培養において、ピーク生細胞密度、寿命、カスパーゼ3/7活性、及び改善された分泌タンパク質の産生に関して分析した。
【0049】
材料及び方法
細胞培養:
対照細胞株C1013Aとして設計されたCHOK1SV細胞株(Lonza Biologics,Slough,UK)、及び対照細胞株C1835として設計されたCHOK1(American Type Culture Collection,Manassas,USA)を、30mMのグルコースを含有し、6mMのL−グルタミン(Invitrogenカタログ番号10313−021)で補足されたCD−CHO培地(カタログ番号10743−011、Invitrogen,Carlsbad,CA)で培養した。場合によっては、60mMグルコースなどの様々な濃度を含有する他の動物タンパク質を含まない培地(高濃度グルコース培地と定義される)を用いた。ウシ胎児血清をHyclone Labs,Logan,UT(カタログ番号SH30071.03)から購入した。Cedex細胞自動計数装置(Innovatis,Germany)で細胞培養をモニターした。積算生細胞計数(IVCC、細胞−日数/mL)を、次の式を用いて算出した。
IVCC(d1)=[VCD(d0)+VCD(d1)]/2+VCD(d0)
(式中、VCD=生細胞密度)
【0050】
発現ベクター:
Bcl−2Δ(配列番号11)のコード配列は、CMVプロモーター下でNeo(登録商標)を有するpCDNA(商標)3.1(+)ベクターにクローニングされた。Bcl−XL(配列番号9)のコード配列は、CMVプロモーター下でZeo(登録商標)を有するpCDNA(商標)3.1(+)ベクターにクローニングされた。MDM2(配列番号3)のコード配列は、CMVプロモーター下でNeo(登録商標)を有するpCDNA(商標)3.1(+)ベクターにクローニングされた。単独で又はアベナ(CMVプロモーター)とともにE1B−19K(EF−1aプロモーター)を構成的に発現するように設計されたpBUDCE4.1ベクターが記載されている(Nivitchanyong et al.,Biotechnol.Bioeng.98:825〜841(2007))。XIAPΔ(CMVプロモーター)を発現するベクターが記載されている(Sauerwald et al.,Biotechnol.Bioeng.77:704〜716(2002))。MDM2D300A発現ベクターは、MDM2発現ベクターからインビトロ突然変異により作成された。モデル抗体(Ab#1)発現ベクターは、重鎖及び軽鎖cDNAをグルタミンシンターゼ(GS)発現ベクター(研究許可を受けてLonza Biologics,Slough,UKより入手)にクローニングすることによって構築された。
【0051】
アポトーシスR細胞株の作成:
CHOK1SV細胞株の対数期培養物を、表1に示される様々な組み合わせの発現ベクターでトランスフェクションした。400μg/mLハイグロマイシン、400μg/mLゲンチシン、又は300μg/mLゼオシンの組み合わせを用いてトランスフェクトーマを選択した。約200の得られたトランスフェクトーマを24ウェルプレートに拡大培養し、カスパーゼ3/7活性をAPO−ONEアッセイ(Promega,Madison,WI)によって判定した。測定は2回、即ち、a)アポトーシスを誘発するためにスタウロスポリンで処理した後の増殖期初期(播種後3日まで)、及びb)野生型細胞のサブセットがアポトーシスに進行した増殖期後期(播種後10日まで)に行われた。いずれの場合にもカスパーゼ3/7活性を低減したトランスフェクトーマを更に拡大培養し、上位2〜4つのクローンを振盪フラスコバッチ増殖プロファイル研究に供した。
【0052】
有望な細胞株は凍結保存された。選択された株の振盪フラスコ培養物を、低減したカスパーゼ3活性に関して、カスパーゼ3特異的蛍光標識抗体(BD Bioscience、カタログ番号68652X/550557)を用いてフローサイトメトリーによって試験した。選択した細胞株はCコード化され、細胞バンクに提出された。これら細胞株は、選択剤として使用された抗生物質なしで10〜15継代安定性試験を受けた。作成された細胞株が表1に示されている。細胞株の選択セットにおけるそれぞれの導入遺伝子の発現がウエスタンブロット法によって確認された。
【0053】
【表1】

【0054】
アポトーシスR細胞株の振盪フラスコ培養:
選択されたアポトーシスR細胞株を、6mMグルタミン及び必要な抗生物質選択剤で補足されたCD−CHO培地においてバッチモードで培養した。CD−CHO培地には30mMグルコースを配合した。加えて、選択されたAb発現細胞株は、6mMグルタミン及び60mMグルコースで補足された、特別に配合された動物タンパク質を含まない培地で培養された。
【0055】
カスパーゼ3/7活性アッセイ:
それぞれのクローンの約3×105細胞を、24ウェルプレート中の増殖培地1mLに播種した。播種後4日目(d4)に、約1×105細胞を96ウェルプレートの3つの穴に移した。スタウロスポリン(2μM fc)を添加し、APO−ONEキット(BD Labs)でカスパーゼ3/7活性のアッセイを行う前に、細胞を16時間インキュベートした。スタウロスポリンを加えなかったことを除き、この手順をd10に繰り返した。この両日に有意に低いカスパーゼ3/7活性を有したクローンを振盪フラスコの中で拡大培養した。選択されたクローンのアポトーシスR性が、フローサイトメトリー分析によって確認された(以下を参照)。
【0056】
フローサイトメトリーによるアポトーシスRクローンの分析:
対数期培養からの約1×106細胞を、それぞれの振盪フラスコから24ウェルプレートに採取し、スタウロスポリン(2μM fc)とともに16時間インキュベートし、収集してPBS中で1回洗浄した。次に、細胞をCytoPerm(カタログ番号2075KK、BD BioScience)とともにインキュベートし、これらを固定しかつ透過処理した。PBS洗浄後、細胞は、フローサイトメトリーによる分析に供される前に、FITCで標識された抗カスパーゼ3(カタログ番号68654、BD BioScience)抗体とともにインキュベートされた。
【0057】
(実施例1)
MDM2がBcl−2Δ発現細胞株に与える影響
Bcl−2Δ、MDM2及びXIAPΔを発現するBMX−13及びBMX−39、並びにBcl−2Δ及びXIAPΔを発現する二重トランスフェクトされた細胞株BX−61、Bcl−2Δのみを発現するB−31、及び対照C1013Aの増殖プロファイル(SF/バッチ)を分析した。対照細胞株のピーク生細胞計数(VCD)は6×10e6細胞に達したのに対し、BMXクローンのピーク生細胞計数は約11×10e6細胞/mLに達した。Bcl−2Δ及び/又はXIAPΔを発現する細胞株は中間VCDを有した(図1A)。BMXクローンは、B−31又はBX−61と比べてより高い積算生細胞計数(IVCC)を有した。BMX−39のIVCCは、B−31の23%と比べて、対照より44%の増加であった。XIAPΔは、Bcl−2Δとともに用いられると、IVCCに対する増加作用を有さなかった(図1B)。高いIVCCは、生物反応器中での長期培養における細胞の高い生存度と相関関係があり、生成物の収量増加をもたらす。更に、アポトーシスR宿主細胞株より誘導される生産細胞株から作成される生物医薬品は優れた品質であり得る。細胞株BMX−13及びBMX−39は、対照C1013Aと比べた場合に、カスパーゼ3/7の10倍及び16倍の減少をそれぞれ実証し、CHO細胞株の遺伝子の抗アポトーシス効果が確認された。B−31及びBX−61はカスパーゼの12倍及び6倍の減少を有した。
【0058】
(実施例2)
MDM2がBcl−XL発現細胞株に与える影響
Bcl−XLのみを発現するBx−51並びに対照細胞株C1013と比較した、Bcl−XL、MDM2、及びXIAPΔを発現する三重トランスフェクトされたBxMX−01、BxMX11及びBxMX−25の増殖プロファイルを評価した。対照細胞株のピーク生細胞計数(VCD)は6×10e6細胞/mLに達したのに対し、BxMXクローンのピーク生細胞計数は約12×10e6細胞/mLに達した(図2A)。Bcl−XLを発現する細胞株は中間VCDを有したのみであった。例えば、細胞株Bx−51のピークVCDは10×10e6細胞/mLであった。Bx−51の18%と比べると、BxMXクローンはIVCCが対照より34%増加し、Bx−51より高いIVCCを有した(図2B)。Bcl−XL及びMDM2のみ(XIAPΔなし)の同時トランスフェクションは、高いVCD又は長い寿命を有する細胞株を作成できなかった(データは示されず)。したがって、XIAPΔ及びMDM2は、BxMX−01、BxMX−11及びBxMX−25細胞株に見られる高いIVCCの達成に向けて相乗的に機能すると思われる。カスパーゼ3/7活性は、対照C1013Aと比べて、BxMX−01、BxMX−11及びBxMX−25においてそれぞれ7倍、5倍、及び8倍減少した。
【0059】
(実施例3)
MDM2がE1B19K発現細胞株に与える影響
E1B19K及びMDM2を発現するEM−15及びEM−70の増殖プロファイルを図3に示す。比較の目的で、別の実験では、E1B19K及びアベナ(EA−167)を発現する細胞株、又はE1B19K、アベナ及びXIAPΔ(EAX−197)を発現する細胞株、並びにトランスフェクション宿主細胞株を含んだ。対照細胞株のピーク生細胞密度(VCD)は6×10e6細胞/mLに達したのに対し、EMクローンのピーク生細胞密度は約12×10e6細胞/mL〜16×10e6細胞/mLに達した。EA−167及びEAX−197の最大VCDは、13.6〜13.9×10e6細胞/mLであった。EMクローンは、EA−167又はEAX−197と比べて高いIVCCを有した。EM−70は、EA−167の対照より23%の増加と比べて、IVCCの100%増加を有した。このデータは、E1B19Kのみを発現する細胞株はこの実験で観察される高いIVCCを達成するのに十分でないという事実(Nivitchanyong et al.,Biotechnol Bioeng 98:825〜841(2007))とともに、MDM2がEM−15及びEM−70細胞株に見られるIVCCの増加に貢献したことを示唆する。E1B19K、MDM2、及びXIAPΔの同時トランスフェクションは、と比べて高いVCD又はIVCCを有する細胞株を作成できなかった(データは示されず)。EM−15及びEM−70細胞株のカスパーゼ3/7活性は、それぞれ、対照C1013Aの13%及び30%であった。比較のために、EA−167及びEAX−197は、C1013A対照のカスパーゼ3/7活性の37%及び20%であった。アポトーシスは、上記のようにフローサイトメトリーによっても確認された。対照細胞の91%がカスパーゼ3/7陽性であるのに対して、アポトーシスR遺伝子を発現する細胞株内の1〜30%がカスパーゼ3/7陽性細胞であった。カスパーゼ3/7活性が最も低い細胞株(例えばB−31)は、必ずしも最も高いIVCCを有さなかった。
【0060】
(実施例4)
変異MDM2のクローニング及び発現
野生型ヒトMDM2完全長cDNAを発現するベクター(GenBank登録番号M92424.1)をJohn Hopkins Universityより入手した。MDM2D300A発現ベクターを、変異誘発プライマ5’gctgaagagggcttt gatgtgccggcttgt aaaaaaactatagtg 3’(配列番号15)を使用してインビトロ突然変異誘発によって作成し、その結果、予測したMDM2D300Aタンパク質では位置899のAがCで置換され、アラニンがアスパラギン酸で置換された。突然変異生成はシークエンシングにより確認した。MDM2D300ADNA配列は配列番号3に示され、予測したMDM2D300Aタンパク質配列は配列番号4に示される。この新しい変異ベクター並びにその野生型カウンターパートを一時的なトランスフェクション又は安定したトランスフェクションに使用した。
【0061】
MDM2D300A及びMDM2野生型タンパク質はHek293細胞内で一時的に発現された。ウエスタンブロット法により、野生型MDM2と比べて高レベルのMDM2D300Aが細胞内に存在することが実証され、変異タンパク質は野生型MDM2よりもタンパク質分解に対してより耐性があることが示唆された。
【0062】
(実施例5)
MDM2D300A発現細胞株の作成
MDM2D300A又は野生型MDM2タンパク質を過剰発現する安定細胞株を、実施例1に記載の通りに作成した。2つの宿主細胞株、C1013A及びC1835A、を使用した。増殖プロファイル研究で使用した細胞株のリストを表2に示す。
【0063】
【表2】

【0064】
(実施例6)
MDM2がCHOK1宿主細胞株の寿命及び生存度に与える影響
MDM2D300A遺伝子を発現するC1013A由来及びC1835A由来の細胞株D6、B1及びB5の増殖プロファイル及び生存度(振盪フラスコ/バッチ)を図4に示す。Centocorが所有しているタンパク質を含まない培地を使用すると、C1013A対照細胞株のピーク生細胞密度(VCD)は8×106細胞/mLであり、C1835A対照細胞株のピーク生細胞密度は5×106細胞/mLであった。MDM2D300Aを過剰発現する細胞株は、対照細胞株と比べて寿命が長かった。流加培養では、B1及びB5細胞株は最大20日間培養液中で維持されたのに対し、トランスフェクションされていない宿主細胞並びにMDM2D300Aでトランスフェクションした後にバルク選択集団から誘導された細胞は、培養の14日目までに生存度を失った(図5)。
【0065】
(実施例7)
MDM2を過剰発現するCHO細胞株の安定性
MDM2D300Aを過剰発現するC1013A由来及びC1835A由来のCHO細胞株D6及びB5を、選択剤であるゲネチシン(geneticin)を有して及び有さずに15継代安定性研究に供した。安定性研究の最初と最後に細胞株の増殖曲線研究を行い、ピーク生細胞密度(細胞株安定性を示す)を記録した。ゲネチシンを選択しない培養物及び高い継代数の培養物は同等又は高いVCDを有するので、選択試薬なしで非常に安定していると考えることができる(表3)。
【0066】
【表3】

【0067】
(実施例8)
MDM2過剰発現宿主細胞株を使用した生産性研究
MDM2を過剰発現する細胞株A4及びMDM2D300Aを過剰発現する細胞株B1を、組み換え抗体重鎖及び軽鎖発現ベクターでトランスフェクションした。トランスフェクション混合物を、まず、グルタミンシンセターゼサプリメントと25μM MSXとを含有するグルタミンを含まない培地を使用してバルク選択した。続いて、個々のクローンを単離するために、混合物をMethoCultに播いた。トランスフェクション当たり約100の得られたトランスフェクトーマを24ウェルプレートに拡大培養し、比濁法によって14日後の力価を測定した。CNTO328を発現するMDM2及びMDM2D300A細胞株の平均力価は90mg/Lであり、C1013Aから誘導されたクローンの平均力価21.3mg/Lより有意に高かった。
【0068】
別の実験では、CHOK1SV細胞をMDM2及びE1B19Kでトランスフェクションし、E1B19K及びMDM2を安定発現する1つのクローンEM70を組み換え抗体重鎖及び軽鎖発現ベクターでトランスフェクションした(Dorai et al.,Biotechnol.Bioeng.,103:592〜608(2009))。トランスフェクション混合物を、まず、グルタミンシンセターゼサプリメントと25μM MSXとを含有するグルタミンを含まない培地を使用してバルク選択した。比較は、C1013A(対照)、C1013M、C1013J、C1013K、A4、B5、BMX13を含むいくつかのその他の細胞株。29日間のバルク選択の後、生存する細胞を振盪フラスコ流加研究に供した。EM70はd23に700mg/Lを超える抗体力価をもたらしたのに対し、残りの細胞株の力価は100mg/Lを超えなかった(図6)。
【0069】
CHOK1SVの対数期培養物を、E1B19K及びMDM2を発現するベクターでトランスフェクションした。2日後に抗生物質選択プロトコルを開始した。29日までに、トランスフェクションされていない細胞全てが排除されたのに対し、耐抗生物質の細胞(トランスフェクションされた集団)は生き残った。
【0070】
これら細胞を、振盪フラスコ流加増殖プロファイル研究を実施するのに使用した。サプリメントを含有するMach−1培地に2e5細胞/mLを播種した。2日目から、グルコースとアミノ酸の栄養素混合物を培養物に毎日供給した。細胞数及び力価を毎日測定した。
【0071】
本発明はここに完全に記述され、添付の本発明の請求項の趣旨及び範囲を逸脱しない範囲での、本発明に対する多くの変更及び改良をなしうることは、当業者にとり明白である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
MDM2D300Aを過剰発現する哺乳類細胞株を培養することを含む、流加哺乳類細胞培養において細胞生存度を増加させる方法。
【請求項2】
MDM2D300A及びE1B19Kを過剰発現する哺乳類細胞株を培養することを含む、流加哺乳類細胞培養において細胞生存度を増加させる方法。
【請求項3】
前記哺乳類細胞株が、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞株である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記CHO細胞株が、CHO−K1である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記CHO細胞株が、CHO−K1SVである、請求項3に記載の方法。
【請求項6】
前記哺乳類細胞株が、骨髄腫細胞株である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項7】
前記骨髄腫細胞株が、NS0である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記骨髄腫細胞株が、Sp2/0である、請求項6に記載の方法。
【請求項9】
前記哺乳類細胞株が、ハイブリドーマ細胞株である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項10】
前記細胞生存度が、前記流加細胞培養の14日目で少なくとも50%である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項11】
前記細胞生存度が、前記流加細胞培養の20日目で少なくとも40%である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項12】
前記生細胞密度が、前記流加細胞培養の15日目で少なくとも4×106細胞/mLである、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項13】
MDM2D300A及び分泌タンパク質をコードする1つ以上の遺伝子を過剰発現するCHO細胞株を培養することを含む、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)流加細胞培養において該分泌タンパク質の産生を増加させる方法。
【請求項14】
MDM2D300A及びE1B19K並びに分泌タンパク質をコードする1つ以上の遺伝子を過剰発現するCHO細胞株を培養することを含む、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)流加細胞培養において該分泌タンパク質の産生を増加させる方法。
【請求項15】
MDM2及びE1B19K並びに分泌タンパク質をコードする1つ以上の遺伝子を過剰発現するCHO細胞株を培養することを含む、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)流加細胞培養において該分泌タンパク質の産生を増加させる方法。
【請求項16】
前記分泌タンパク質の力価が、少なくとも600mg/Lである、請求項13〜15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記CHO細胞株が、CHO−K1である、請求項13〜15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
前記CHO細胞株が、CHO−K1SVである、請求項13〜15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
前記分泌タンパク質が、抗体重鎖及び抗体軽鎖である、請求項13〜15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
配列番号4に示されるアミノ酸配列を含むポリペプチドをコードする単離ポリヌクレオチド。
【請求項21】
配列番号3に示される配列又はその相補配列を有する、請求項19に記載の単離ポリヌクレオチド。
【請求項22】
配列番号3に示される配列を有する単離ポリヌクレオチドを含むベクター。
【請求項23】
発現ベクターである、請求項21に記載のベクター。
【請求項24】
請求項21に記載のベクターを含む、単離された宿主細胞。
【請求項25】
配列番号4に示される配列を有するポリペプチドを含む単離ポリペプチド。
【請求項26】
ポリペプチドを発現する方法であって、
a.請求項23に記載の宿主細胞を提供する工程と、
b.配列番号4に示される前記配列を含む前記ポリペプチドの前記発現に十分な条件下で前記宿主細胞を培養する工程と、を含む方法。

【図1A】
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【図1B】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【図5A】
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【図5B】
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【図6】
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【公表番号】特表2011−524173(P2011−524173A)
【公表日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−513724(P2011−513724)
【出願日】平成21年6月12日(2009.6.12)
【国際出願番号】PCT/US2009/047185
【国際公開番号】WO2009/152417
【国際公開日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【出願人】(509087759)セントコア・オーソ・バイオテツク・インコーポレーテツド (77)
【Fターム(参考)】