説明

細胞培養基材及び細胞培養方法

【課題】 柔軟かつ強靱な細胞培養基材、さらには培養した細胞を分離回収する際に細胞の破損や基材の混入がなく、迅速に培養した細胞を回収できる細胞培養基材、及び培養した細胞の回収が容易な細胞培養方法を提供すること。
【解決手段】 水溶性有機モノマーの重合体と、水膨潤性粘土鉱物とから構成される三次元網目構造を有する高分子ヒドロゲルからなり、該高分子ヒドロゲル中の水溶性有機モノマーの重合体に対する水膨潤性粘土鉱物の質量比が0.3〜0.8の範囲であり、かつ、外部環境変化にともない親水性と疎水性とが可逆的に変化する細胞培養基材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水溶性有機モノマーの重合体と水膨潤性粘土鉱物とから構成される三次元網目構造を有する有機無機複合高分子ヒドロゲルからなる細胞培養基材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、動物組織等の細胞培養基材としては、プラスチック(例:ポリスチレン)やガラスの容器が使用されてきた。これら容器は、細胞培養を有効に行わせるために、その表面にプラズマ処理や、シリコンや細胞接着因子等のコーティングなどの表面処理が施されている。従って、これら細胞培養容器を培養基材として用いた場合には、培養・増殖した細胞が表面処理された容器表面に接着しており、細胞を単離・回収するためには、トリプシン等のタンパク質加水分解酵素や化学薬品を用いて、容器表面から剥離する必要があった。このような酵素や化学薬品により細胞を剥離する操作は工程が煩雑であるほか、雑菌やDNAあるいはRNA等の不純物が混入する恐れがあった。また、細胞と基材の結合部分が切断されるだけではなく、細胞同士の結合も切断されるため、細胞を増殖している形状(例:シート状)のままで取り出すことができなかったり、細胞の性質が変化してしまう問題があった。また、複数種の細胞培養を行う際には、複数の培養液等を交換して用いる必要があるが、容器の交換が出来ないために、容器内部に各種薬品等が残留してしまい、これらが培養細胞に混入するおそれがあるなど、培養細胞の利用の点から多くの課題を抱えていた。
【0003】
近年、細胞培養容器の表面に温度応答性ポリマーを極薄くコーティングした基材を使用して、細胞培養温度ではポリマーを疎水性状態に保持して細胞を接着させ、培養後にポリマーを低温処理して親水性状態にすることにより、細胞とポリマーとの接着性を低下させ、細胞を加水分解酵素や化学薬品を使用することなしに基材から細胞をシート状に剥離するという技術が報告されている(例えば特許文献1及び2、非特許文献1参照)。しかしながら、上記基材はポリマーの架橋度によって性能が大きく変化し、架橋が不十分な場合は、細胞を剥離する際に、細胞と共にポリマーも基材から一部剥離してしまい、細胞と基材との分離が困難であった。また架橋が十分な場合には、温度応答性の応答速度が非常に悪くなり、ポリマーを親水性にするために長時間を要する問題があり、且つ、その間、細胞も低温状態にさらされる問題があった。さらに、該基材を使用した場合には、培養した細胞を次の実験に用いる場合(例えば動物の体内に移植する場合や、他の細胞と共培養を行う場合など)、シート状となった細胞をポリマーコーティングされた容器から剥離して支持体なしで移動させる必要があり、非常に強度の弱い剥離細胞シートを強引に掴んで次の使用位置等に移動させなければならず、細胞シートが傷つきやすかったり、操作性が非常に悪いという問題を有していた。これらのことから、細胞を培養した後、汚染や損傷させることなく、短時間で完全に基材から分離させること、且つ任意の場所で細胞シートを取り出し、次の工程に移動させ用いられるようにすることなどが求められていた。
【0004】
一方、水溶性有機高分子と層状粘土鉱物とが複合化して形成された三次元網目を有する高分子ヒドロゲルが開示されている(特許文献3参照)。該高分子化合物は優れた吸水性や極めて高い伸張性などの特徴を有し、各種分野において有用な材料であるが、細胞培養基材としての有用性は知られていなかった。
【0005】
【特許文献1】特公平6−104061公報
【特許文献2】特開平5−192138公報
【特許文献3】特開2002−53629号公報
【非特許文献1】大和雅之、岡野光夫「ナノバイオテクノロジーの最前線」第6章P.340−P.347、シーエムシー出版(2003年出版)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、柔軟かつ強靱な細胞培養基材、さらには培養した細胞を分離回収する際に細胞の破損や基材の混入がなく、迅速に培養した細胞を回収できる細胞培養基材、及び培養した細胞の回収が容易な細胞培養方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明において使用する細胞培養基材は、水溶性有機モノマーの重合体と、水膨潤性粘土鉱物とから構成され、水溶性有機モノマーの重合体に対する水膨潤性粘土鉱物の質量比が0.3〜0.8の範囲であり、且つ、三次元網目構造を有する高分子ヒドロゲルは、その状態が外部環境変化により親水性と疎水性が可逆的に変化することにより、その表面が疎水性である状態では、その表面上で好適に細胞を培養、増殖させることができ、また親水性を示す条件下では、細胞との接着性を低下させることができるため、培養、増殖させた細胞の破損や、基材の剥離混入を生じることなく、容易かつ迅速に剥離回収することができる。また柔軟かつ強靱な材料であることから、細胞をその表面上で各種形状のシート状に培養して、その形状を保った状態で次の実験に用いることを実現できる。
【0008】
即ち本発明は、水溶性有機モノマーの重合体と、水膨潤性粘土鉱物とから構成される三次元網目構造を有する高分子ヒドロゲルからなり、該高分子ヒドロゲル中の水溶性有機モノマーの重合体に対する水膨潤性粘土鉱物の質量比が、0.3〜0.8の範囲にあり、かつ、外部環境変化にともない親水性と疎水性とが可逆的に変化することを特徴とする細胞培養基材、該細胞培養基材上で細胞を培養する細胞培養方法、および該細胞培養基材上で細胞を培養した後、該基材を親水性を示す温度とすることで培養した細胞を該細胞培養基材から分離する細胞分離方法を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の細胞培養基材は、水溶性有機モノマーの重合体と、水膨潤性粘土鉱物とから構成される三次元網目構造を有する高分子ヒドロゲルであり、水溶性有機モノマーの重合体に対する水膨潤性粘土鉱物の質量比が0.3〜0.8の範囲であり、且つ、外部環境変化にともない親水性と疎水性が可逆的に変化することを特徴とするため、高分子ヒドロゲルの表面の平滑性及び疎水性等を細胞の接着及び伸展に適した状態に制御出来るため、優れた培養性能を有する。また本発明の高分子ヒドロゲルは、水膨潤性粘土鉱物の水溶性有機モノマーの重合体に対する質量比が0.3〜0.8の範囲にあることにより、特に優れた柔軟性と強靱さを有することから、培養した細胞を基材ごと移送する際にも形状を保持したまま、安定に培養した細胞を移送できる。さらに最初の細胞培養後に共培養を行う場合等には、培養液や薬品による汚染がなく、再度の培養を行うことが可能である。
【0010】
親水性と疎水性とが外部環境により可逆的に変化する高分子ヒドロゲルからなる細胞培養基材は、疎水性条件下では細胞と優れた接着性を示すため、細胞を好適に培養、増殖させることができ、また親水性条件下では、細胞との接着性を低下させることができるため、トリプシン等のタンパク質加水分解酵素や化学薬品を使用せずに細胞を剥離できるため、細胞の破損や、基材の剥離混入を生じることなく、容易に細胞の回収が可能である。さらに、疎水性から親水性、あるいは親水性から疎水性への変化が迅速であるため、温度をはじめとする外部環境を変化させる際に細胞に与える影響が少ない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の細胞培養基材は、水溶性有機モノマーの重合体と水膨潤性粘土鉱物とから構成される三次元網目構造を有する高分子ヒドロゲルからなる。
【0012】
本発明の高分子ヒドロゲルに用いる水溶性有機モノマーは、水に溶解する性質を有し、水に均一分散可能な水膨潤性の粘土鉱物と相互作用を有するものであればよく、例えば、粘土鉱物と水素結合、イオン結合、配位結合、共有結合等を形成できる官能基を有するものが好ましい。これらの官能基を有する水溶性有機モノマーとしては、具体的には、アミド基、アミノ基、エステル基、水酸基、テトラメチルアンモニウム基、シラノール基、エポキシ基などを有する水溶性有機モノマーが挙げられ、なかでもアミド基を有する水溶性有機モノマーが好ましい。また、本発明で言う水には、水と混和する有機溶媒との混合溶媒で水を主成分とするものを含む。
【0013】
本発明における水溶性有機モノマーの重合体は、水膨潤性粘土鉱物と三次元網目構造を形成して形状が安定な高分子ヒドロゲルを形成できることが必要で、アクリル系化合物や、ビニル系化合物などを使用できる。なかでも、得られる細胞培養基材から容易に培養した細胞を分離できることから、外部環境変化にともない水溶性または水を吸湿する親水性と疎水性が可逆的に変化するものであることが有効である。特に水溶液中でのポリマーの親水性と疎水性が温度、pH、溶質濃度、溶媒組成で変化するものが好んで用いられる。具体的には、例えば温度の場合、臨界温度(Tc)以上では疎水性となる下限臨界共溶温度(Lower Critical Solution Temperature:以下LCSTと略記する。)を持つポリマーや、Tc以上で親水性となる、上限臨界共溶温度(Upper Critical Solution Temperature:以下UCSTと略記する。)を持つポリマーがより好んで用いられる。また、溶質濃度の場合は、例えばある温度において、溶媒中の塩化ナトリウムの濃度が一定濃度以上では疎水性となり、一定濃度以下では親水性となるポリマーも好んで用いられる。さらに、溶媒組成の場合は、例えばある温度において、溶媒中の水に対するメタノール濃度が一定以上の濃度の場合は疎水性となり、一定濃度以下では親水性となるポリマーも好んで用いられる。
【0014】
このような重合体を与える水溶性有機モノマーの例としては、N−置換アクリルアミド誘導体、N,N−ジ置換アクリルアミド誘導体、N−置換メタクリルアミド誘導体、N,N−ジ置換メタクリルアミド誘導体などを好ましく使用することができ、具体的にはN−イソプロピルアクリルアミド、N−イソプロピルメタクリルアミド、N−n−プロピルアクリルアミド、N−n−プロピルメタクリルアミド、N−シクロプロピルアクリルアミド、N−シクロプロピルメタクリルアミド、N−エトキシエチルアクリルアミド、N−エトキシエチルメタクリルアミド、N−テトラヒドロフルフリルアクリルアミド、N−テトラヒドロフルフリルメタクリルアミド、N−エチルアクリルアミド、N−エチル−N−メチルアクリルアミド、N,N−ジエチルアクリルアミド、N−メチル−N−n−プロピルアクリルアミド、N−メチル−N−イソプロピルアクリルアミド、N−アクリロイルピペリディン、N−アクリロイルピロリディンがあげられる。
【0015】
かかる有機モノマーの重合体としては、例えば、ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)、ポリ(N−n−プロピルアクリルアミド)、ポリ(N−シクロプロピルメタクリルアミド)、ポリ(N−イソプロピルメタクリルアミド)、ポリ(N−n−プロピルメタクリルアミド)、ポリ(N−エトキシエチルアクリルアミド)、ポリ(N−エトキシエチルメタクリルアミド)、ポリ(N−テトラヒドロフルフリルアクリルアミド)、ポリ(N−テトラフルフリルメタクリルアミド)、ポリ(N−エチルアクリルアミド)、ポリ(N,N−ジエチルアクリルアミド)、ポリ(N−アクリロイルピペリディン)、ポリ(N−アクリロイルピロリディン)が例示される。
【0016】
また水溶性有機モノマーの重合体としては、以上のような単一水溶性有機モノマーからの重合体の他、これらから選ばれる複数の異なる水溶性有機モノマーを重合して得られる共重合体を用いることも有効である。また上記水溶性有機モノマーからなる重合体が好ましいが、上記水溶性有機モノマーとそれ以外の水溶性有機モノマーまたは有機溶媒可溶性有機モノマーとの共重合体も、得られた重合体が親水性及び疎水性の両方を示すものであれば使用することが出来る。共重合に用いられる有機モノマーとしては、具体的にはN−アルキルアクリルアミド、N,N−ジアルキルアクリルアミド、アクリルアミド等のアクリルアミド類、または、N−アルキルメタクリルアミド、N,N−ジアルキルメタクリルアミド、メタクリルアミド等のメタクリルアミド類が挙げられる。なお、より好ましくは、N−アルキルアクリルアミドまたはN,N−ジアルキルアクリルアミドが用いられる。アルキル基としては、炭素数が1〜4のものが好ましく選択される。その他には、アクリロイルモルフォリン、N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド、N−アクリロイルメチルホモピペラディン、N−アクリロイルメチルピペラディン等も用いることが出来る。
【0017】
本発明の細胞培養基材に用いられる粘土鉱物は、水又は水溶液中で層間が膨潤する性質を有することが必要である。より好ましくは少なくとも一部が水中で層状に剥離して分散できるものであり、更に好ましくは水中で1ないし10層以内の厚みに、特に好ましくは水中で1ないし3層以内の厚みに層状に剥離して均一分散できる層状粘土鉱物である。例えば、水膨潤性スメクタイトや水膨潤性雲母などを用いることができ、具体的には、ナトリウムを層間イオンとして含む水膨潤性ヘクトライト、水膨潤性モンモリロナイト、水膨潤性サポナイト、水膨潤性合成雲母が挙げられる。
【0018】
本発明の細胞培養基材を構成する水溶性有機モノマーと粘土鉱物との比率は、用いる水溶性有機モノマーや粘土鉱物の種類により適宜選択されるが、特に本発明においては、力学物性、表面平滑性、及び疎水性状態での細胞培養特性などに優れることなどから、水溶性有機モノマーの重合体に対する粘土鉱物の質量比が0.3〜0.8であることが好ましく、0.35〜0.7であることがより好ましい。質量比が0.3以上では、特に高分子ヒドロゲルが疎水性時に、柔軟性や強靱さを保持しながら、さらに表面平滑性に優れることから、細胞を培養後、次の使用位置に容易に移動を行うことが出来、また、質量比が0.8以下の場合は、外部環境変化にともない高分子ヒドロゲルが十分に疎水性を示し、細胞の接着及び伸展に適した状態になり、非常に優れた細胞培養特性を示す。
【0019】
本発明の細胞培養基材に用いられる高分子ヒドロゲルは、上記水膨潤性粘土鉱物と水溶性有機モノマーの重合体が三次元網目構造を有し、水溶性有機モノマーの重合体に対する水膨潤性粘土鉱物の質量比が0.3〜0.8の範囲であることから、特に柔軟性及び強靱さに優れており、該高分子ヒドロゲルからなる細胞培養基材は、細胞を培養した後、移動したり、細胞を剥離する際に破壊することがなく、形状を維持できる特徴を有する。すなわち該高分子ヒドロゲルは、含水率90%の条件において、5kPa以上の引っ張り弾性率、50kPa以上の引っ張り強度、及び100%以上の破断伸びのものを実現でき、これら特性を有するものは好ましく使用できる。また引っ張り弾性率が10kPa以上、引っ張り強度が100kPa以上であればより好ましく使用できる。
【0020】
含水率90%の条件において、このような力学物性をもつ高分子ヒドロゲルは、細胞培養を行う際、疎水性を示す状態においても優れた力学物性を保持し、細胞を培養後、形状にかかわらず、優れた形状安定性、取り扱い性、移動性などを示す。
【0021】
該高分子ヒドロゲルは、三次元網目構造を形成する上記水溶性有機モノマーの重合体により、外部環境条件に応じて親水性と疎水性とを有する。このため、該高分子ヒドロゲルからなる細胞培養基材は細胞を好適に培養でき、かつ培養した細胞の破壊や基材の剥離混入を生じることなく、培養した細胞を容易かつ迅速に剥離回収することができる。
【0022】
高分子ヒドロゲルの親水性と疎水性とが変化する臨界温度は、細胞を好適に培養・剥離できることから、該臨界温度は0〜50℃程度の温度範囲にあることが好ましい。該臨界温度は、使用するモノマーの重合体が有するUCST、LCSTに影響されるため、UCST、LCSTが概ね該温度範囲内にあるものを選択し、使用する水膨潤性粘土鉱物の種類や、水溶性有機モノマーと水膨潤性粘土鉱物との比率などを適宜調整することで実現できる。
【0023】
本発明の細胞培養基材に用いられる高分子ヒドロゲルは、単独で用いられる他、金属、セラミック、プラスチック等の平滑表面または凹凸表面を有する支持体に被覆して用いられる。また、高い力学物性のため、各種形状に形成が可能であり、シート状、繊維状、中空繊維状、球状で用いることができる。
【0024】
本発明において細胞培養基材に用いられる高分子ヒドロゲルに含まれる溶媒としては、水または水を主成分とする水溶液が用いられる。溶媒の量は、目的に応じて設定され一概には規定されないが、高分子ヒドロゲルが上記の力学物性を発揮するためには、好ましくは疎水性状態となっている高分子ヒドロゲル中の固形分に対する溶媒の質量比が0.1〜50のものが用いられ、さらに好ましくは0.1〜10のものが用いられる。これらの溶媒量は、重合時の溶媒量、または重合後に高分子ヒドロゲルを疎水性の状態に変化させる時の保持状態等により、任意に制御することが可能である。
【0025】
本発明の細胞培養基材を使用して培養を行うことが可能な細胞は、ヒト及び動物の組織細胞であれば特に制限はなく、例えば、血管細胞、繊維芽細胞、筋肉細胞、神経細胞、軟骨細胞、骨芽細胞、肝細胞、膵臓細胞、角膜細胞などが挙げられる。これらのうち、血管内皮細胞、皮膚繊維芽細胞、肝実質細胞、肝ガン細胞、軟骨細胞等好ましく用いられる。特に本発明においては、皮膚繊維芽細胞、血管内皮細胞、軟骨細胞などの培養に好適に使用できる。
【0026】
本発明の細胞培養基材の製造方法としては、例えば、水溶性有機モノマーと水膨潤性粘土鉱物と水を含む均一分散液を調製した後、水膨潤性粘土鉱物共存下で水溶性有機モノマーを重合させることにより、高分子ヒドロゲルを調製する。ここで層状に剥離した粘土鉱物が架橋剤の働きをすることにより水溶性有機モノマー重合体と粘土鉱物との三次元網目が形成される。得られた高分子ヒドロゲルはそのままでも細胞培養基材として使用できるが、必要に応じて支持体上への被覆や、形状を調節することで、より好ましく細胞培養基材として使用できる。
【0027】
水膨潤性粘土鉱物共存下での水溶性有機モノマーの重合反応は例えば、過酸化物を重合開始剤として使用して重合させる方法、加熱または放射線照射などの慣用の方法を用いたラジカル重合により行わせることが出来る。ラジカル重合開始剤及び触媒としては、慣用のラジカル重合開始剤及び触媒のうちから適宜選択して用いることが出来、好ましくは水に分散性を有し、系全体に均一に含まれるものを用いることができる。特に好ましくは層状に剥離した粘土鉱物と強い相互作用を有するラジカル重合開始剤である。重合開始剤としては水溶性の過酸化物、例えばペルオキソ二硫酸カリウムやペルオキソ二硫酸アンモニウム、水溶性のアゾ化合物などを好ましく使用でき、具体的には、和光純薬工業株式会社製のVA−044、V−50、V−501などが好ましく使用できる。その他、ポリエチレンオキシド鎖を有する水溶性ラジカル開始剤なども使用できる。また触媒としては、3級アミン化合物であるN,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミンやβ−ジメチルアミノプロピオニトリルなどを好適に使用できる。
【0028】
上記重合反応時の温度は、用いる水溶性有機モノマー、重合触媒及び開始剤の種類などに合わせて適宜選択すればよく、例えば0℃〜100℃の範囲に設定出来る。また、重合温度を得られる高分子ヒドロゲルのLCST以下(またはUCST以上)の温度とする場合、重合後の高分子ヒドロゲルは親水性となるが、LCST以上(またはUCST以下)の温度にて保持することにより、親水性から疎水性の状態に変化させることが出来、細胞培養に適した状態となる。また、LCST以上(またはUCST以下)の温度で重合を行った場合は、高分子ヒドロゲルは疎水性の状態となって得られるので、そのまま細胞培養を行うことが出来る。即ち、どちらの重合方法を用いても、細胞培養基材として用いられる高分子ゲルを得ることは可能である。但し、LCST以下(またはUSCT以上)の温度にて重合を行うと、重合により得られる高分子ヒドロゲルを疎水性の状態に変化させた時に収縮が起こるが、LCST以上(またはUCST以下)の温度で重合を行うと、重合により得られる高分子ヒドロゲルは疎水性状態のまま保たれるため、そのまま収縮せずに細胞培養を行うことが出来るので好適である。以上のことは、その他の外部環境(溶液のpH、重合時の親水性または疎水性を制御するために加える塩や、添加物等の溶質濃度、水と混和する有機溶剤等の溶媒組成)を変えても行うことも、有機モノマーの重合に差し支えない限り可能である。
【0029】
重合時間は触媒、開始剤、重合温度、重合溶液量(厚み)などの重合条件によって異なり、一概に規定できないが、一般に数十秒〜十数時間の間で行える。
【0030】
本発明の細胞培養基材の製造においては、重合時に重合容器の形状を変化させたり、重合後のゲルを切削加工したりすることにより種々の大きさや形状をもった細胞培養基材を調製できる。例えば、繊維状、棒状、平板状、円柱状、中空状、らせん状、あるいは球状など任意の形状を有する細胞培養基材を調製することが可能である。また重合反応時に慣用の界面活性剤を共存させる等の方法で、得られる細胞培養基材を微粒子形態で製造することも可能である。また、本発明の細胞培養基材は、一般に細胞培養に用いられているプラスチック製やガラス製のシャーレ等の非親水性の支持体の上に積層して用いることが好ましい。このような積層部材は、支持体上部で重合を行い、そのまま細胞培養に使用してもよいし、他の容器で重合後、基材表面に充填して細胞培養に使用しても良い。
【0031】
本発明において細胞培養基材に用いられる高分子ヒドロゲルに含まれる水の量は、目的に応じて設定され一概には規定されないが、高分子ヒドロゲルが上記の力学物性を発揮するためには、好ましくは疎水性状態となっている高分子ヒドロゲル中の固形分に対する溶媒の質量比が0.1〜20のものが用いられ、さらに好ましくは0.1〜10のものが用いられる。これらの溶媒量は、重合時の溶媒量、または重合後に高分子ヒドロゲルを疎水性の状態に変化させる時の保持状態等により、任意に制御することが可能である。
【0032】
本発明の細胞培養基材に用いられる高分子ヒドロゲルには、その特性を改良する目的で、重合時に公知慣用の有機架橋剤を使用してもよい。使用する有機架橋剤濃度は特に限定されず、目的に応じて選択できる。使用できる有機架橋剤としては、従来から公知のN,N’−メチレンビスアクリルアミド、N,N’−プロピレンビスアクリルアミド、ジ(アクリルアミドメチル)エーテル、1,2−ジアクリルアミドエチレングリコール、1,3−ジアクリロイルエチレンウレア、エチレンジアクリレート、N,N’−ジアリルタータルジアミド、N,N’−ビスアクリリルシスタミンなどの二官能性化合物や、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレートなどの三官能性化合物が例示できる。
【0033】
本発明の細胞培養基材には、得られた高分子ヒドロゲル材料を慣用の方法で乾燥し、溶媒の一部もしくは全部を除去して乾燥物とすることもできる。かかる乾燥物は、水または水と混和する有機溶媒などの溶媒を再び含ませることにより、可逆的に細胞培養基材としての高分子ヒドロゲル材料を再生することが出来る。
【0034】
また、本発明の細胞培養基材に用いられる高分子ヒドロゲルには、本発明の効果を損なわない範囲で添加剤として、水溶性有機モノマーの重合体以外に、高分子化合物または低分子化合物を含有させたものが含まれる。例えばコラーゲンやヒアルロン酸等の細胞接着性因子、細胞増殖因子、ヒドロキシアパタイト粒子などを添加することができる。
【実施例】
【0035】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明の範囲がこれらの実施例にのみ限定されるものではない。
【0036】
(実施例1)
粘土鉱物には、[Mg5.34Li0.66Si20(OH)]Na0.66の組成を有する水膨潤性合成ヘクトライト(Rockwood Ltd.製「ラポナイトXLG」)を真空乾燥して用いた。有機モノマーは、N−イソプロピルアクリルアミド(興人株式会社製:以下、NIPAと略記。)を既知の方法により精製して、重合禁止剤を取り除いてから使用した。重合開始剤は、ペルオキソ二硫酸カリウム(関東化学株式会社製:以下、KPSと略記。)をKPS/水=0.40/20(g/g)の割合で脱酸素した超純水中に溶解し、水溶液にして使用した。有機架橋剤は、N,N’−メチレンビスアクリルアミド(和光純薬工業株式会社性:以下BISと略記。)を使用した。触媒は、N,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミン(和光純薬工業株式会社製:以下、TEMEDと略記。)を使用した。超純水は、全て微粒子除去用フィルターを通した高純度窒素をあらかじめ充分にバブリングさせ、含有酸素を除去してから使用した。
【0037】
20℃の恒温室において、内部を窒素置換した平底ガラス容器に、超純水57.06gとテフロン(登録商標)製攪拌子を入れ、攪拌しながら2.88gのラポナイトXLGを加え、無色透明の溶液を調製した。これにNIPA6.78gを加え、窒素雰囲気内で攪拌して溶解させ無色透明溶液を得た。次に、KPS水溶液3gとTEMED48μlを攪拌しながら無色透明溶液に加えた。この溶液をあらかじめ窒素雰囲気中に静置して容器内の酸素を除去しておいた蓋付きのポリスチレン製容器(9cm×15cm)3枚にそれぞれ酸素にふれないようにして移した後、密栓をし、20℃の恒温水槽中で20時間静置して重合を行った。なお、これらの溶液調製から重合までの操作は、全てクリーンベンチ内にて行い、さらに酸素を遮断した窒素雰囲気下で行った。重合開始から20時間後に、ポリスチレン製容器内にほぼ無色透明で均一なシート状のヒドロゲル(A)が得られた。
【0038】
このシート状のヒドロゲル(A)を20℃の水中で少し膨潤させ含水率90%に調整した後、1cm×5cmの大きさに切り取り、チャック部での滑りの無いようにして引っ張り試験装置(株式会社島津製作所製「卓上型万能試験機AGS−H」)に装着し、評点間距離=30mm、引っ張り速度=100mm/分にて引っ張り試験を行った結果、引っ張り破断強度が120kPa、破断伸びが1050%、弾性率が13.3kPaであった。
【0039】
一方、シート状のヒドロゲル(A)を、20℃で2Lの超純水に2日間浸漬して、ヒドロゲルを膨潤させてから取り出し、次いで50℃の超純水1Lに2日間浸漬して、ヒドロゲルを収縮させてから取り出した。該洗浄による精製操作を3回繰り返した後、精製したシート状のヒドロゲル(A)を、直径8cmの大きさに切断し、ヒドロゲル(A)からなる細胞培養基材(A)とした。それを細胞培養用ディッシュ(ベクトン・ディッキンソン・ラブウェア社製「ファルコン3003」)の中に移し替えてから蓋をして37℃で静置した。この時細胞培養基材(A)は、疎水化されたため、完全に白色化していた。なお、これらの精製から細胞培養ディッシュ内に細胞培養基材(A)を移し替えるまでの操作は、すべてクリーンベンチ内で行った。
【0040】
これらの操作で得られた細胞培養基材(A)の表面に付着した水分をていねいに取り除いてから、該細胞培養基材(A)表面の20℃および50℃における水に対する接触角を接触角測定装置(協和界面科学株式会社製「CA−X200」)を用いて測定した。各々の温度における水の接触角は20℃では29°、50℃保持状態では58°であり、得られた細胞培養基材(A)は、温度条件により親水性と疎水性の両特性を示すことが確認された。
【0041】
このようにして得られた細胞培養基材(A)を入れた細胞培養ディッシュを用いて、細胞の培養を行った。培養する細胞は、ヒト肝上皮細胞由来のガン細胞HepG2細胞株(大日本製薬株式会社製)を使用した。培養は、ウシ胎児血清(ICN製)を10%含有するミニマム・エッセンシャル・イーグル培地(SIGMA製)(ピルビン酸(ICN製)及び非必須アミノ酸(ICN製)を添加剤として含有)を使用して、5%二酸化炭素含有37℃恒温器内で行った。また細胞培養基材(A)を入れたディッシュは2枚用意し、同じ条件で同時に播種を行った。播種してから1週間後、この細胞培養基材(A)を入れたディッシュ1枚を20℃恒温槽内に5分間静置してから、表面を光学顕微鏡にて観察したところ、細胞が細胞培養基材(A)上に接着して、また十分に増殖していたことが確認された。この培養を行ったもう1枚の細胞培養基材(A)を入れたディッシュから細胞培養基材(A)を培養した細胞ごと取り出して、あらかじめ20℃に保持しておいたウシ胎児血清を10%含有するミニマム・エッセンシャル・イーグル培地を含む組織培養ディッシュに移し替えた。蓋をしてから20℃で10分間静置後、細胞培養基材(A)上に増殖した細胞をピンセットで摘むことにより、細胞を細胞培養基材(A)から分離できた。この時、細胞培養基材(A)に何ら損傷はなく、また分離した細胞にも何ら付着物は見られなかった。この取り出した細胞について、トリプシン−EDTA処理を行うことにより、各細胞を個々の状態に分離した後、トリパンブルー染色を行うことによって、生細胞数を計測したところ、培養開始時には2.0×10個であった細胞数が、培養後は8.2×10個に増加したことが確認された。
【0042】
(実施例2)
上記実施例1で得られた細胞培養基材(A)を入れた細胞培養ディッシュを用いて、細胞の培養を行った。培養する細胞は、正常ヒト皮膚繊維芽細胞(大日本製薬株式会社製)を使用した。培養は、CS−C培地(大日本製薬株式会社製)を使用して、5%二酸化炭素含有37℃恒温器内で行った。また細胞培養基材(A)を入れたディッシュは2枚用意し、同じ条件で同時に播種を行った。播種してから1週間後、この培養を行った細胞培養基材(A)を入れたディッシュ1枚を20℃恒温槽内に5分間静置してから、表面を光学顕微鏡にて観察したところ、細胞が細胞培養基材(A)上に接着して、また十分に増殖していたことが確認された。この培養を行ったもう1枚の細胞培養基材(A)を入れたディッシュから細胞培養基材(A)を培養した細胞ごと取り出して、あらかじめ20℃に保持しておいたCS−C培地を含む組織培養ディッシュに移し替えた。蓋をしてから20℃で10分間静置後、細胞培養基材(A)上に増殖した細胞をピンセットで摘むことにより、細胞をシート状に細胞培養基材(A)から分離できた。この時、細胞培養基材(A)に何ら損傷はなく、またシート状の細胞にも何ら付着物は見られなかった。この取り出したシート状細胞についてトリプシン−EDTA処理を行うことにより、各細胞を個々の状態に分離した後、トリパンブルー染色を行うことによって、生細胞数を計測したところ、培養開始時には2.5×10個であった細胞数が、培養後は9.1×10個に増加したことが確認された。
【0043】
(実施例3)
添加するラポナイトXLGの量を4.0gとする以外は実施例1と同様にして、ほぼ無色透明で均一なシート状のヒドロゲル(B)を合成した。得られたヒドロゲル(B)を用いて、作製例1と同様にして細胞培養基材(B)を作製した。この細胞培養基材(B)の20℃および50℃における水に対する接触角を測定したところ、20℃では27°、50℃保持状態では55°であり、得られた細胞培養基材(B)は、温度条件により親水性と疎水性の両特性を示すことが確認された。
このようにして得られた細胞培養基材(B)を用いて、細胞及び培地、培養条件は実施例1と同様の方法で、HepG2細胞の培養を行った。細胞播種から1週間後に、実施例1と同様の方法で光学顕微鏡により表面を観察したところ、細胞が細胞培養基材(A)上に接着して、また十分に増殖していたことが確認された。実施例1と同様の方法で生細胞数を計測したところ、培養開始時には2.0×10個であった細胞数が、培養後は4.5×10個に増加したことが確認された。
【0044】
(実施例4)
実施例3で得られた細胞培養基材(B)を用いて、実施例2と同様の方法で正常ヒト皮膚繊維芽細胞の培養を行った。細胞播種から1週間後に、実施例1と同様の方法で光学顕微鏡により表面を観察したところ、細胞が細胞培養基材(B)上に接着して、また十分に増殖していたことが確認された。実施例1と同様の方法で生細胞数を計測したところ、培養開始時には2.5×10個であった細胞数が、培養後は1.1×10個に増加したことが確認された。
【0045】
(比較例1)
細胞培養用ディッシュ「ファルコン3003」を何も表面処理を行わずに使用して、細胞培養を行った。細胞及び培地、培養条件は実施例1と同様にして行った。培養開始から1週間後にディッシュ表面を光学顕微鏡にて観察したところ、細胞が接着して増殖していることが確認された。この培養を行ったディッシュを20℃の恒温槽に入れて、10分間静置後、ディッシュ上の細胞を取り出そうとしたが、全く剥離しなかった。また、公知の方法により、トリプシンを用いて培養細胞の分離を行ったところ、細胞が個々の細胞に分かれてしまい、細胞をシート状に取り出すことは不可能であった。
【0046】
(比較例2)
粘土鉱物を用いないこと、またNIPAモノマーを添加した後、有機架橋剤をモノマーの5モル%添加すること以外は実施例1と同様にして、有機架橋ヒドロゲルを重合した。有機架橋剤としては、N,N’−メチレンビスアクリルアミド(和光純薬工業株式会社製)をそのまま使用した。その結果、20℃において白色化したシート状のヒドロゲル(E)が得られた。この得られたシート状のヒドロゲル(E)を実施例1と同様にして、精製を行ってから、細胞培養用ディッシュに移し替えたが、ヒドロゲルシート(E)は非常に脆く、精製及び移し替えは困難であった。またこのヒドロゲルシート(E)の接触角は、50℃保持状態で49°であった。
【0047】
次に、このヒドロゲルシート(E)を入れた細胞培養ディッシュを用いて、実施例2と同様の方法で細胞培養を行った。培養開始から1週間後、このディッシュ内のヒドロゲルシートを一部切り取り、トリパンブルーにて染色したところ、ヒドロゲルシート上での細胞の増殖は確認されなかった。また、このヒドロゲルシートをディッシュから取り出そうとしたが、ヒドロゲルシートが破壊してしまい、取り出すことが出来なかった。
【0048】
(参考例1及び参考例2)
添加するラポナイトXLGの量を1.44g(参考例1)及び7.2g(参考例2)とする以外は実施例1と同様にして、ほぼ無色透明で均一なシート状のヒドロゲル(C)(参考例1)及びヒドロゲル(D)(参考例2)を合成した。得られたヒドロゲル(C)及びヒドロゲル(D)を用いて、実施例1と同様にして細胞培養基材(C)及び細胞培養基材(D)を作製した。これら細胞培養基材の20℃および50℃における水に対する接触角を測定したところ、細胞培養基材(C)では20℃では25°、62℃保持状態では66°であり、細胞培養基材(D)では20℃では24°、50℃保持状態では40°であった。
【0049】
このようにして得られた細胞培養基材(C)及び細胞培養基材(D)を用いて、細胞及び培地、培養条件は実施例1と同様の方法で、HepG2細胞の培養を行った。細胞播種から1週間後に、実施例1と同様の方法で光学顕微鏡により表面を観察したところ、細胞がやや増殖したことが確認された。実施例1と同様の方法で生細胞数を計測したところ、培養開始時には2.0×10個であった細胞数が、培養後はそれぞれ3.0×10個(細胞培養基材(C))、2.4×10個(細胞培養基材(D))であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水溶性有機モノマーの重合体と、水膨潤性粘土鉱物とから構成される三次元網目構造を有する高分子ヒドロゲルからなり、該高分子ヒドロゲル中の水溶性有機モノマーの重合体に対する水膨潤性粘土鉱物の質量比が0.3〜0.8の範囲であり、かつ、外部環境変化にともない親水性と疎水性とが可逆的に変化することを特徴とする細胞培養基材。
【請求項2】
前記高分子ヒドロゲルが、一定の温度を境界にして親水性と疎水性とが可逆的に変化する高分子ヒドロゲルである請求項1に記載の細胞培養基材。
【請求項3】
前記水溶性有機モノマーの重合体が、下限臨界共溶温度を有する請求項1又は2に記載の細胞培養基材。
【請求項4】
前記水溶性有機モノマーが、N−置換アクリルアミド誘導体、N,N−ジ置換アクリルアミド誘導体、N−置換メタクリルアミド誘導体、N,N−ジ置換メタクリルアミド誘導体からなる群から選ばれる少なくとも一種である請求項3に記載の細胞培養基材。
【請求項5】
前記水溶性有機モノマーが、N−イソプロピル(メタ)アクリルアミド、N−n−プロピル(メタ)アクリルアミド、N−シクロプロピル(メタ)アクリルアミド、N−エトキシエチル(メタ)アクリルアミド、N−テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリルアミド、N−エチルアクリルアミド、N−エチル−N−メチルアクリルアミド、N,N−ジエチルアクリルアミド、N−メチル−N−n−プロピルアクリルアミド、N−メチル−N−イソプロピルアクリルアミド、N−アクリロイルピペリディン、N−アクリロイルピロリディンからなる群から選ばれる少なくとも一種である請求項3に記載の細胞培養基材。
【請求項6】
前記水膨潤性粘土鉱物が、水膨潤性のヘクトライト、水膨潤性のモンモリロナイト、水膨潤性のサポナイト、水膨潤性の合成雲母からなる群から選ばれる少なくとも一種である請求項1〜5のいずれかに記載の細胞培養基材。
【請求項7】
前記架橋高分子ヒドロゲルが、水に均一に分散した水膨潤性粘土鉱物の存在下で、水溶性有機モノマーを重合させてなる架橋高分子ヒドロゲルである請求項1〜6のいずれかに記載の細胞培養基材。
【請求項8】
前記高分子ヒドロゲルが、含水率90%の条件において、5kPa以上の引っ張り弾性率、50kPa以上の引っ張り強度、および100%以上の破断伸びを有する高分子ヒドロゲルである請求項1〜7のいずれかに記載の細胞培養基材。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載の細胞培養基材を使用して、該細胞培養基材が疎水性を示す温度下で細胞を培養した後、該細胞培養基材の温度を下げ、該細胞培養基材が親水性を示す温度とすることにより培養した細胞を該細胞培養基材から分離する細胞培養方法。

【公開番号】特開2006−280206(P2006−280206A)
【公開日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−100616(P2005−100616)
【出願日】平成17年3月31日(2005.3.31)
【出願人】(000173751)財団法人川村理化学研究所 (206)
【Fターム(参考)】