細胞培養担体及びその製造方法
【課題】肝細胞を均一なサイズに凝集化させ、その性質を保持しつつ培養することができ、かつ、凝集化させた細胞塊(スフェロイド)に薬剤を効率よく供給することができる細胞培養担体及びその製造方法を提供する。
【解決手段】上面に複数のウェルが形成されており、少なくとも前記ウェルの底面が、比表面積が0.0001〜1m2/gであり、平均粒径が0.1〜2μm、かつ、最大粒径が5μm以下のアルミナ粒子により構成されている肝細胞培養用の細胞培養担体を用いる。
【解決手段】上面に複数のウェルが形成されており、少なくとも前記ウェルの底面が、比表面積が0.0001〜1m2/gであり、平均粒径が0.1〜2μm、かつ、最大粒径が5μm以下のアルミナ粒子により構成されている肝細胞培養用の細胞培養担体を用いる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、均一なサイズのヒト正常肝細胞の凝集体を得るのに好適な細胞培養担体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、新規の医薬品候補物質についての代謝・薬効・毒性の評価試験では、ヒト以外の動物が使用されていた。
しかしながら、ヒトと動物とでは、物質の代謝経路が異なる場合があり、動物試験での薬効・毒性評価結果が良好であっても、ヒトでの臨床試験において重大な問題が生じるおそれがあった。
また、1種類の物質の判定において多数の動物種を用いる必要があることから、倫理的な問題が唱えられ、動物実験に替わる方法が求められている。
【0003】
近年、動物実験の代替法として、ヒト細胞を用いた試験が注目され、実用化に向けた研究が盛んに行われている。特に、生体内に投与された薬物は、肝臓で代謝後、排出されるため、薬効や毒性を調べるために肝細胞を用いたアッセイ法を確立することが重要とされている。
しかしながら、従来の細胞培養技術で培養した細胞は、基材に単層で接着するため、生体内と同様な三次元組織を構築しない。このため、組織細胞を体内から採取して生体外で培養しても、生体内で有していた機能を長時間維持することができないという問題があった。
【0004】
この問題を解決する手段として、細胞同士を凝集させて細胞凝集塊(スフェロイド)を形成させ、細胞を生体内環境に近づけて培養する方法が注目されている。
なお、本明細書において、細胞同士が凝集して形成する凝集塊をスフェロイドと呼ぶ。
例えば、ヒトES細胞等の未分化細胞コロニーを、均一なサイズに効率的に増殖させることができ、培養細胞が付着しにくく、かつ、その未分化状態を保持しつつ細胞を培養可能な細胞培養担体及び細胞の培養方法が知られている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−306987号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1に記載されているような培養基材を用いた場合、基材凹部でヒト正常肝細胞スフェロイドが形成されることが確認された。
しかしながら、このスフェロイドを用いて薬剤代謝酵素(CYP酵素)の活性試験を行ったところ、CYP活性が理論値よりも大きく下がった。この原因を調査したところ、前記基材を構成するセラミックス粒子にCYP酵素誘導試薬、CYP酵素プローブ基質、プローブ基質反応物が吸着し、薬剤代謝酵素の活性試験を阻害しているためであることが分かった。
【0007】
このように、従来のスフェロイド形成技術では、基材凹部に形成したスフェロイドに、CYP酵素誘導試薬やCYP酵素プローブ基質を効率よく供給することができないため、創薬スクリーニング試験において、上記のような基材を用いることはできなかった。
したがって、均一なサイズのスフェロイドを効率よく形成させ、かつ、スフェロイドに薬剤を効率よく供給することができる培養基材及び培養方法が望まれている。
【0008】
本発明は、上記技術的課題を解決するためになされたものであり、肝細胞を均一なサイズに凝集化させ、その性質を保持しつつ培養することができ、かつ、凝集化させた細胞塊(スフェロイド)に薬剤を効率よく供給することができる細胞培養担体及びその製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る細胞培養担体は、上面に複数のウェルが形成されている肝細胞培養用の細胞培養担体であって、少なくとも前記ウェルの底面が、比表面積が0.0001〜1m2/gであり、平均粒径が0.1〜2μm、かつ、最大粒径が5μm以下のアルミナ粒子により構成されていることを特徴とする。
このような担体によれば、均一なサイズの肝細胞スフェロイドを形成し、肝機能を長期的に維持可能な肝細胞を提供することができ、かつ、該肝細胞スフェロイドに対して効率的に薬剤を供給することが可能となる。
【0010】
前記細胞培養担体は、薬剤代謝酵素の活性試験等において、担体への薬剤吸着量を抑制させる観点から、密度が2.4〜4g/cm3であることが好ましい。
【0011】
また、前記細胞培養担体の上面は、2乗平均粗さRqが0.1〜1μmであり、さらに、前記ウェルの少なくとも底面は、2乗平均粗さRqが0.1〜1μmであることが好ましい。
前記担体をこのような表面粗さとすることにより、ウェル内で好適にスフェロイドを形成することができる。
【0012】
また、本発明に係る細胞培養担体の製造方法は、平均粒径が0.4〜1μmのアルミナ1次粒子を造粒する工程と、前記アルミナ1次粒子により、開口径100〜400μm、深さ100〜400μmの複数のウェルが配列する成形体を作製する工程と、前記成形体を10〜60℃で乾燥する工程と、前記工程において乾燥させた成形体を1000〜1600℃で1〜10時間焼成する工程とを備えていることを特徴とする。
このような製造方法によれば、上記細胞培養担体を好適に製造することができる。
【0013】
前記製造方法において、前記1次粒子は、平均粒径が0.1〜0.3μmの粒子と平均粒径が0.4〜1μmの粒子とが2:8〜8:2で混合されたものであることが好ましい。
このような混合粉を用いることにより、前記担体を、薬剤の吸着を防ぐのに適した比表面積で形成することができ、また、適度な連通性が得られる。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る細胞培養担体を用いれば、肝細胞を均一なサイズに凝集化させ、その性質を保持しつつ培養することができ、かつ、凝集化させた細胞塊(スフェロイド)に薬剤を効率よく供給することができる。
したがって、本発明に係る細胞培養担体は、肝細胞の薬剤や毒性に対する応答性を向上させることが可能となり、代謝・薬効・毒性の評価試験に好適に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】実施例1に係る細胞培養担体の上面の電子顕微鏡写真((a)100倍、(b)20000倍)である。
【図2】実施例1に係る細胞培養担体上のスフェロイドの電子顕微鏡写真(100倍)である。
【図3】実施例1に係る細胞培養担体におけるCYP3A4の遺伝子発現(誘導・非誘導)を示したグラフである。
【図4】実施例1に係る細胞培養担体におけるCYP3A4の遺伝子活性を示したグラフである。
【図5】実施例1に係る細胞培養担体におけるアルブミン蛋白質量を示したグラフである。
【図6】実施例1に係る細胞培養担体におけるCYP3A4の遺伝子発現の経時変化を示したグラフである。
【図7】比較例1に係る細胞培養担体の上面の電子顕微鏡写真(100倍)である。
【図8】比較例1に係る細胞培養担体上のスフェロイドの電子顕微鏡写真(100倍)である。
【図9】比較例2に係る細胞培養担体の上面の電子顕微鏡写真(100倍)である。
【図10】比較例2に係る細胞培養担体上のスフェロイドの電子顕微鏡写真(100倍)である。
【図11】比較例3に係る細胞培養担体の上面の電子顕微鏡写真(100倍)である。
【図12】比較例3に係る細胞培養担体上のスフェロイドの電子顕微鏡写真(100倍)である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明について、図面を参照して詳細に説明する。
本発明に係る細胞培養担体は、上面に複数のウェルが形成されている肝細胞培養用の細胞培養担体である。この担体は、少なくとも前記ウェルの底面が、比表面積が0.0001〜1m2/gであり、平均粒径が0.1〜2μm、かつ、最大粒径が5μm以下のアルミナ粒子により構成されている。
このように、本発明に係る担体は、アルミナセラミックスからなり、所定のサイズのアルミナ粒子により構成されていることを特徴としている。前記担体の少なくともウェル底面がこのようなアルミナ粒子により構成されるが、該担体上面の他の部分、さらに、該担体全体が同様なアルミナ粒子により構成されることが好ましい。
上記のような担体を用いれば、ウェル内で形成される肝細胞スフェロイドのサイズ制御が可能となり、かつ、薬剤が担体に吸着されにくく、前記肝細胞スフェロイドに効率的に薬剤が供給されるため、安定的に薬剤代謝試験を行うことができる。
【0017】
前記担体は、少なくとも前記ウェルの底面が、比表面積が0.0001〜1m2/gであり、また、前記担体を構成するアルミナ粒子は、平均粒径が0.1〜2μm、かつ、最大粒径が5μm以下である。
前記担体の比表面積が1m2/gを超える場合、また、アルミナ粒子の平均粒径が2μmを超える場合、薬剤代謝酵素の活性試験等の際、薬剤が担体に吸着されやすく、担体上の細胞に薬剤を効率的に供給することができない。一方、前記比表面積が0.0001m2/g未満の場合、また、前記平均粒径が0.1μm未満の場合、ウェル内で形成されたスフェロイドに酸素や栄養等を十分に供給することが困難となる。
また、前記アルミナ粒子の最大粒径が5μmを超える場合、ウェル内における均一なサイズのスフェロイド形成の妨げとなる。
なお、前記比表面積は、水銀ポロシメーターを用いた水銀圧入法により測定することができる。また、粒径は、電子顕微鏡観察により求めることができる。
【0018】
前記担体の密度は、2.4〜4g/cm3であることが好ましい。
ここでいう密度とは、水銀圧入法により測定された気孔率に基づいて、アルミナの真密度4.0g/cm3として計算した見掛け密度の値である。
前記密度が上記数値範囲外の場合、気孔率が高くなりすぎ、担体への薬剤吸着量が多くなり、薬剤代謝酵素の活性試験等が困難となるおそれがある。
【0019】
また、前記担体の上面は、2乗平均粗さRqが0.1〜1μmであることが好ましい。
ここでいう2乗平均粗さRqは、JIS B 0601に基づいて測定した値である。
上面がこのような表面粗さであることにより、扁平化した細胞が付着することなく、スフェロイドを効率的に形成することができる。
前記2乗平均粗さRqが0.1μm未満の場合、細胞と担体表面との接着力が大きくなり、スフェロイドが形成されないおそれがある。一方、前記2乗平均粗さRqが1μmより大きい場合、細胞が担体表面に接着されないおそれがある。
【0020】
さらに、前記ウェルの少なくとも底面は、2乗平均粗さRqが0.1〜1μmであることが好ましい。
前記ウェル底面の表面粗さが上記数値範囲外である場合、該ウェル内でのスフェロイドの接着性が不十分となり、スフェロイドが剥離しやすくなる。
【0021】
上記のような細胞培養担体は、アルミナ1次粒子により複数のウェルが配列する成形体を作製し、これを乾燥した後、焼成することにより得ることができる。
前記アルミナ1次粒子としては、平均粒径が0.4〜1μmのものが好適に用いられ、この1次粒子が焼結して、比表面積が0.0001〜1m2/gであり、平均粒径が0.1〜2μm、かつ、最大粒径が5μm以下の前記担体を構成するアルミナ粒子となる。
【0022】
上記のように、原料のアルミナ1次粒子は、焼結して上記のようなアルミナ粒子からなる担体とするために、平均粒径が0.4〜1μmであるものが好適に用いられる。
平均粒径が0.4μm未満の場合、焼結体である担体の連通性が得られず、また、比表面積が所望の数値よりも大きくなるおそれがある。一方、平均粒径が1μmを超える場合、得られる担体の強度が低下するおそれがある。
【0023】
また、前記アルミナ1次粒子は、粒径の異なる2種類のアルミナ粒子を混合させて用いることが好ましい。
このような混合造粒粉を用いることにより、適度な連通性を有する担体を好適に得ることができる。
前記粒径の異なる2種類の粒子は、平均粒径が0.1〜0.3μmの粒子と平均粒径が0.4〜1μmの粒子とが2:8〜8:2で混合されたものであることが好ましい。
このような2種類の粒子によれば、前記担体を薬剤の吸着を防ぐのに適した比表面積で形成することができ、また、粒子間に適度な隙間が生じ、連通性を適度に調整することができる。
【0024】
前記成形体は、サイズ制御されたスフェロイドを好適に形成させる観点から、パターン化された複数の凸形状を有する型を用いて、開口径100〜400μm、深さ100〜400μmの複数のウェルが配列する表面状態となるように成形することが好ましい。
そして、前記成形体を10〜60℃で乾燥した後、1000〜1600℃で1〜10時間焼成することにより、アルミナセラミックスからなる細胞培養担体を好適に作製することができる。
【実施例】
【0025】
以下、本発明を実施例に基づいてさらに具体的に説明するが、本発明は、下記実施例により制限されるものではない。
[実施例1]
平均粒子径が0.51μmのアルミナ1次粒子を用いて、開口径200μm、深さ200μmの複数のウェルが配列するアルミナ平板を成形し、室温(20℃)で乾燥した後、1200℃で2時間焼成して、細胞培養担体を作製した。
図1に、作製した細胞培養担体の上面の電子顕微鏡写真((a)100倍、(b)20000倍)を示す。
作製した担体の比表面積を水銀圧入法により測定したところ、0.35m2/gであった。
また、作製した担体の電子顕微鏡(FE−SEM S−4800;日立ハイテクノロジーズ製)観察写真(20000倍)から、50個のアルミナ粒子をランダムに選択し、平均粒径を測定したところ、0.6μmであった。また、最大粒径は4μmであった。
【0026】
この担体を直径6mm、高さ1.5mmの円柱状に加工し、シトクロムP450 3A4(CYP3A4)の誘導剤である25μMリファンピシンを添加した肝細胞培養培地に3日間浸漬して吸着量を調べたところ、リファンピシンの吸着量は0.053μgであった。
なお、シトクロムP450 3A4(CYP3A4)とは、シトクロムP450(CYP)の分子種であり、人体に存在する生体異物(ゼノバイオティクス)を代謝する酵素の主要なものの一つである。主に肝臓に存在するが、代謝に重要な役割を果たす他の器官や組織中にも見られるものである。
【0027】
また、この担体を滅菌処理して、96ウェルプレートの穴に入れ、ここに、ヒト正常肝細胞を1.0×105個撒種し、肝細胞培養培地を用いて、5%CO2インキュベータ内で、37℃で培養した。6日間経過後、担体に接着した細胞をグルタルアルデヒドで固定処理し、電子顕微鏡にて観察したところ、肝細胞がウェル内でスフェロイドを形成していることが認められた。
さらに、インドシニアングリーン(ICG)1mg/mlを培地に添加し、30分間静置したところ、形成されたスフェロイドはICG染色された。ICGは、正常肝細胞を選択的に取り込む性質を有することから、前記ウェル内で形成された肝細胞スフェロイドは、肝細胞の性質を維持していることが確認された。また、このように、染色によって肝細胞を生きたまま観察することが可能となった。
図2に、前記担体上のスフェロイドの電子顕微鏡写真(100倍)を示す。
【0028】
また、前記細胞培養担体で肝細胞スフェロイドが形成されて3日後、25μMリファンピシンを肝細胞培養培地に添加した。72時間経過後、リファンピシンによって誘導されたCYP3A4酵素活性を調べるために、肝細胞培養培地を回収し、100μMテストステロンを添加したウィリアムE培地を加えて反応させた。2時間経過後、培地中の6β−ヒドロキシテストステロンをHPLCで分離定量したところ、1ウェル当たり150pmolであった。
なお、6β−ヒドロキシテストステロンは、CYP3A4の指標基質であるテストステロンとの反応により生成した代謝物であり、活性評価の指標となる。
【0029】
また、前記細胞培養担体で形成された肝細胞スフェロイドについて、6,28日後のCリファンピシンを添加した場合と未添加の場合におけるYP3A4遺伝子発現量をRT−PCR法での定量により測定した。
図3に、その結果のグラフを示す。比較のため、コラーゲンコートシャーレ(BDファルコン)で培養した肝細胞についての結果も併せて示す。
図3に示したグラフから分かるように、前記担体を用いて培養した肝細胞は、従来のシャーレ上で培養した細胞よりも、10倍以上のCYP3A4遺伝子発現量を維持することが確認された。
【0030】
また、前記細胞培養担体で形成された肝細胞スフェロイドについて、リファンピシンを添加した場合と未添加の場合における6日後のCYP3A4活性評価を、培地中に100μmテストステロンを添加して1時間反応させた後、培地中の6β−ヒドロキシテストテロン濃度をLC/MSにて測定することにより行った。
図4に、その結果のグラフを示す。比較のため、上記と同様のコラーゲンコートシャーレで培養した肝細胞についての結果も併せて示す。
図4に示したグラフから分かるように、前記担体を用いて培養した肝細胞は、従来のシャーレ上で培養した細胞よりも、4倍以上のCYP3A4活性量を有していることが確認された。
【0031】
また、前記細胞培養担体で形成された肝細胞スフェロイドについて、1,3,7,28日後の培養上清に含まれるアルブミン蛋白質について、ヒトアルブミンEIAキット(タカラバイオ株式会社製)を用いて定量した。
図5に、その結果のグラフを示す。比較のため、上記と同様のコラーゲンコートシャーレで培養した肝細胞についての結果も併せて示す。
図5に示したグラフから分かるように、前記担体を用いて培養した肝細胞は、従来のシャーレ上で培養した細胞よりも、28日後においても3倍以上のアルブミン蛋白質が確認され、肝細胞の性質が長期間維持されることが認められた。
【0032】
また、上記において培養した6,14,28日後の各肝細胞を溶解して、RNAを抽出後、薬物代謝酵素mRNAの遺伝子量をRT−PCR法により測定した。
図6に、その結果のグラフを示す。比較のため、上記と同様のコラーゲンコートしたシャーレで培養した肝細胞についての結果も併せて示す。
図6に示したグラフから分かるように、前記担体を用いて培養した肝細胞は、経時的な発現において解凍時のレベルをあまり低下させることなく維持することができた。
【0033】
[比較例1]
平均粒子径が0.08μmのアルミナ1次粒子を用いて、開口径200μm、深さ200μmの複数のウェルが配列するアルミナ平板を成形し、室温(20℃)で乾燥した後、1000℃で2時間焼成して、細胞培養担体を作製した。
図7に、作製した細胞培養担体の上面の電子顕微鏡写真(20000倍)を示す。
また、この担体の比表面積を水銀圧入法により測定したところ、1.84m2/gであった。
【0034】
また、この担体を滅菌処理して、実施例1と同様にして、肝細胞を培養し、電子顕微鏡にて観察したところ、肝細胞がウェル内でスフェロイドを形成していることが認められた。
図8に、前記担体上のスフェロイドの電子顕微鏡写真(100倍)を示す。
【0035】
また、実施例1と同様にして、リファンピシンによって誘導されたCYP3A4酵素活性を調べ、培地中の6β−ヒドロキシテストステロンをHPLCで分離定量したところ、1ウェル当たり82pmolであった。
[比較例2]
平均粒子径が0.2μmのハイドロキシアパタイト粒子を用いて、開口径200μm、深さ200μmの複数のウェルが配列するアルミナ平板を成形し、室温(20℃)で乾燥した後、900℃で2時間焼成して、細胞培養担体を作製した。
図9に、作製した細胞培養担体の上面の電子顕微鏡写真(20000倍)を示す。
また、この担体の比表面積を水銀圧入法により測定したところ、1.13m2/gであった。
【0036】
また、この担体を滅菌処理して、実施例1と同様にして、肝細胞を培養し、電子顕微鏡にて観察したところ、肝細胞がウェル内でスフェロイドを形成していることが認められた。
図10に、前記担体上のスフェロイドの電子顕微鏡写真(100倍)を示す。
【0037】
また、実施例1と同様にして、リファンピシンによって誘導されたCYP3A4酵素活性を調べ、培地中の6β−ヒドロキシテストステロンをHPLCで分離定量したところ、1ウェル当たり20pmolであった。
[比較例3]
平均粒子径が0.6μmのジルコニア粒子を用いて、開口径200μm、深さ200μmの複数のウェルが配列するアルミナ平板を成形し、室温(20℃)で乾燥した後、1150℃で2時間焼成して、細胞培養担体を作製した。
図11に、作製した細胞培養担体の上面の電子顕微鏡写真(20000倍)を示す。
また、この担体の比表面積を水銀圧入法により測定したところ、0.53m2/gであった。
【0038】
また、この担体を滅菌処理して、実施例1と同様にして、肝細胞を培養し、電子顕微鏡にて観察したところ、肝細胞がウェル内でスフェロイドを形成していることが認められた。
図12に、前記担体上のスフェロイドの電子顕微鏡写真(100倍)を示す。
【0039】
また、実施例1と同様にして、リファンピシンによって誘導されたCYP3A4酵素活性を調べ、培地中の6β−ヒドロキシテストステロンをHPLCで分離定量したところ、1ウェル当たり65pmolであった。
【0040】
上記実施例及び比較例の評価結果を下記表1にまとめて示す。
【0041】
【表1】
【0042】
表1から分かるように、本発明に係る細胞培養担体は、従来のセラミックス担体と比較して、連通性等の多孔性能を維持しつつ、比表面積を減少させることができ、薬剤代謝酵素(CYP酵素)の活性試験に用いられる薬剤の吸着量が大幅に減少し、薬剤吸着によるCYP酵素活性も約50%改善することができた。
【技術分野】
【0001】
本発明は、均一なサイズのヒト正常肝細胞の凝集体を得るのに好適な細胞培養担体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、新規の医薬品候補物質についての代謝・薬効・毒性の評価試験では、ヒト以外の動物が使用されていた。
しかしながら、ヒトと動物とでは、物質の代謝経路が異なる場合があり、動物試験での薬効・毒性評価結果が良好であっても、ヒトでの臨床試験において重大な問題が生じるおそれがあった。
また、1種類の物質の判定において多数の動物種を用いる必要があることから、倫理的な問題が唱えられ、動物実験に替わる方法が求められている。
【0003】
近年、動物実験の代替法として、ヒト細胞を用いた試験が注目され、実用化に向けた研究が盛んに行われている。特に、生体内に投与された薬物は、肝臓で代謝後、排出されるため、薬効や毒性を調べるために肝細胞を用いたアッセイ法を確立することが重要とされている。
しかしながら、従来の細胞培養技術で培養した細胞は、基材に単層で接着するため、生体内と同様な三次元組織を構築しない。このため、組織細胞を体内から採取して生体外で培養しても、生体内で有していた機能を長時間維持することができないという問題があった。
【0004】
この問題を解決する手段として、細胞同士を凝集させて細胞凝集塊(スフェロイド)を形成させ、細胞を生体内環境に近づけて培養する方法が注目されている。
なお、本明細書において、細胞同士が凝集して形成する凝集塊をスフェロイドと呼ぶ。
例えば、ヒトES細胞等の未分化細胞コロニーを、均一なサイズに効率的に増殖させることができ、培養細胞が付着しにくく、かつ、その未分化状態を保持しつつ細胞を培養可能な細胞培養担体及び細胞の培養方法が知られている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−306987号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1に記載されているような培養基材を用いた場合、基材凹部でヒト正常肝細胞スフェロイドが形成されることが確認された。
しかしながら、このスフェロイドを用いて薬剤代謝酵素(CYP酵素)の活性試験を行ったところ、CYP活性が理論値よりも大きく下がった。この原因を調査したところ、前記基材を構成するセラミックス粒子にCYP酵素誘導試薬、CYP酵素プローブ基質、プローブ基質反応物が吸着し、薬剤代謝酵素の活性試験を阻害しているためであることが分かった。
【0007】
このように、従来のスフェロイド形成技術では、基材凹部に形成したスフェロイドに、CYP酵素誘導試薬やCYP酵素プローブ基質を効率よく供給することができないため、創薬スクリーニング試験において、上記のような基材を用いることはできなかった。
したがって、均一なサイズのスフェロイドを効率よく形成させ、かつ、スフェロイドに薬剤を効率よく供給することができる培養基材及び培養方法が望まれている。
【0008】
本発明は、上記技術的課題を解決するためになされたものであり、肝細胞を均一なサイズに凝集化させ、その性質を保持しつつ培養することができ、かつ、凝集化させた細胞塊(スフェロイド)に薬剤を効率よく供給することができる細胞培養担体及びその製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る細胞培養担体は、上面に複数のウェルが形成されている肝細胞培養用の細胞培養担体であって、少なくとも前記ウェルの底面が、比表面積が0.0001〜1m2/gであり、平均粒径が0.1〜2μm、かつ、最大粒径が5μm以下のアルミナ粒子により構成されていることを特徴とする。
このような担体によれば、均一なサイズの肝細胞スフェロイドを形成し、肝機能を長期的に維持可能な肝細胞を提供することができ、かつ、該肝細胞スフェロイドに対して効率的に薬剤を供給することが可能となる。
【0010】
前記細胞培養担体は、薬剤代謝酵素の活性試験等において、担体への薬剤吸着量を抑制させる観点から、密度が2.4〜4g/cm3であることが好ましい。
【0011】
また、前記細胞培養担体の上面は、2乗平均粗さRqが0.1〜1μmであり、さらに、前記ウェルの少なくとも底面は、2乗平均粗さRqが0.1〜1μmであることが好ましい。
前記担体をこのような表面粗さとすることにより、ウェル内で好適にスフェロイドを形成することができる。
【0012】
また、本発明に係る細胞培養担体の製造方法は、平均粒径が0.4〜1μmのアルミナ1次粒子を造粒する工程と、前記アルミナ1次粒子により、開口径100〜400μm、深さ100〜400μmの複数のウェルが配列する成形体を作製する工程と、前記成形体を10〜60℃で乾燥する工程と、前記工程において乾燥させた成形体を1000〜1600℃で1〜10時間焼成する工程とを備えていることを特徴とする。
このような製造方法によれば、上記細胞培養担体を好適に製造することができる。
【0013】
前記製造方法において、前記1次粒子は、平均粒径が0.1〜0.3μmの粒子と平均粒径が0.4〜1μmの粒子とが2:8〜8:2で混合されたものであることが好ましい。
このような混合粉を用いることにより、前記担体を、薬剤の吸着を防ぐのに適した比表面積で形成することができ、また、適度な連通性が得られる。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る細胞培養担体を用いれば、肝細胞を均一なサイズに凝集化させ、その性質を保持しつつ培養することができ、かつ、凝集化させた細胞塊(スフェロイド)に薬剤を効率よく供給することができる。
したがって、本発明に係る細胞培養担体は、肝細胞の薬剤や毒性に対する応答性を向上させることが可能となり、代謝・薬効・毒性の評価試験に好適に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】実施例1に係る細胞培養担体の上面の電子顕微鏡写真((a)100倍、(b)20000倍)である。
【図2】実施例1に係る細胞培養担体上のスフェロイドの電子顕微鏡写真(100倍)である。
【図3】実施例1に係る細胞培養担体におけるCYP3A4の遺伝子発現(誘導・非誘導)を示したグラフである。
【図4】実施例1に係る細胞培養担体におけるCYP3A4の遺伝子活性を示したグラフである。
【図5】実施例1に係る細胞培養担体におけるアルブミン蛋白質量を示したグラフである。
【図6】実施例1に係る細胞培養担体におけるCYP3A4の遺伝子発現の経時変化を示したグラフである。
【図7】比較例1に係る細胞培養担体の上面の電子顕微鏡写真(100倍)である。
【図8】比較例1に係る細胞培養担体上のスフェロイドの電子顕微鏡写真(100倍)である。
【図9】比較例2に係る細胞培養担体の上面の電子顕微鏡写真(100倍)である。
【図10】比較例2に係る細胞培養担体上のスフェロイドの電子顕微鏡写真(100倍)である。
【図11】比較例3に係る細胞培養担体の上面の電子顕微鏡写真(100倍)である。
【図12】比較例3に係る細胞培養担体上のスフェロイドの電子顕微鏡写真(100倍)である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明について、図面を参照して詳細に説明する。
本発明に係る細胞培養担体は、上面に複数のウェルが形成されている肝細胞培養用の細胞培養担体である。この担体は、少なくとも前記ウェルの底面が、比表面積が0.0001〜1m2/gであり、平均粒径が0.1〜2μm、かつ、最大粒径が5μm以下のアルミナ粒子により構成されている。
このように、本発明に係る担体は、アルミナセラミックスからなり、所定のサイズのアルミナ粒子により構成されていることを特徴としている。前記担体の少なくともウェル底面がこのようなアルミナ粒子により構成されるが、該担体上面の他の部分、さらに、該担体全体が同様なアルミナ粒子により構成されることが好ましい。
上記のような担体を用いれば、ウェル内で形成される肝細胞スフェロイドのサイズ制御が可能となり、かつ、薬剤が担体に吸着されにくく、前記肝細胞スフェロイドに効率的に薬剤が供給されるため、安定的に薬剤代謝試験を行うことができる。
【0017】
前記担体は、少なくとも前記ウェルの底面が、比表面積が0.0001〜1m2/gであり、また、前記担体を構成するアルミナ粒子は、平均粒径が0.1〜2μm、かつ、最大粒径が5μm以下である。
前記担体の比表面積が1m2/gを超える場合、また、アルミナ粒子の平均粒径が2μmを超える場合、薬剤代謝酵素の活性試験等の際、薬剤が担体に吸着されやすく、担体上の細胞に薬剤を効率的に供給することができない。一方、前記比表面積が0.0001m2/g未満の場合、また、前記平均粒径が0.1μm未満の場合、ウェル内で形成されたスフェロイドに酸素や栄養等を十分に供給することが困難となる。
また、前記アルミナ粒子の最大粒径が5μmを超える場合、ウェル内における均一なサイズのスフェロイド形成の妨げとなる。
なお、前記比表面積は、水銀ポロシメーターを用いた水銀圧入法により測定することができる。また、粒径は、電子顕微鏡観察により求めることができる。
【0018】
前記担体の密度は、2.4〜4g/cm3であることが好ましい。
ここでいう密度とは、水銀圧入法により測定された気孔率に基づいて、アルミナの真密度4.0g/cm3として計算した見掛け密度の値である。
前記密度が上記数値範囲外の場合、気孔率が高くなりすぎ、担体への薬剤吸着量が多くなり、薬剤代謝酵素の活性試験等が困難となるおそれがある。
【0019】
また、前記担体の上面は、2乗平均粗さRqが0.1〜1μmであることが好ましい。
ここでいう2乗平均粗さRqは、JIS B 0601に基づいて測定した値である。
上面がこのような表面粗さであることにより、扁平化した細胞が付着することなく、スフェロイドを効率的に形成することができる。
前記2乗平均粗さRqが0.1μm未満の場合、細胞と担体表面との接着力が大きくなり、スフェロイドが形成されないおそれがある。一方、前記2乗平均粗さRqが1μmより大きい場合、細胞が担体表面に接着されないおそれがある。
【0020】
さらに、前記ウェルの少なくとも底面は、2乗平均粗さRqが0.1〜1μmであることが好ましい。
前記ウェル底面の表面粗さが上記数値範囲外である場合、該ウェル内でのスフェロイドの接着性が不十分となり、スフェロイドが剥離しやすくなる。
【0021】
上記のような細胞培養担体は、アルミナ1次粒子により複数のウェルが配列する成形体を作製し、これを乾燥した後、焼成することにより得ることができる。
前記アルミナ1次粒子としては、平均粒径が0.4〜1μmのものが好適に用いられ、この1次粒子が焼結して、比表面積が0.0001〜1m2/gであり、平均粒径が0.1〜2μm、かつ、最大粒径が5μm以下の前記担体を構成するアルミナ粒子となる。
【0022】
上記のように、原料のアルミナ1次粒子は、焼結して上記のようなアルミナ粒子からなる担体とするために、平均粒径が0.4〜1μmであるものが好適に用いられる。
平均粒径が0.4μm未満の場合、焼結体である担体の連通性が得られず、また、比表面積が所望の数値よりも大きくなるおそれがある。一方、平均粒径が1μmを超える場合、得られる担体の強度が低下するおそれがある。
【0023】
また、前記アルミナ1次粒子は、粒径の異なる2種類のアルミナ粒子を混合させて用いることが好ましい。
このような混合造粒粉を用いることにより、適度な連通性を有する担体を好適に得ることができる。
前記粒径の異なる2種類の粒子は、平均粒径が0.1〜0.3μmの粒子と平均粒径が0.4〜1μmの粒子とが2:8〜8:2で混合されたものであることが好ましい。
このような2種類の粒子によれば、前記担体を薬剤の吸着を防ぐのに適した比表面積で形成することができ、また、粒子間に適度な隙間が生じ、連通性を適度に調整することができる。
【0024】
前記成形体は、サイズ制御されたスフェロイドを好適に形成させる観点から、パターン化された複数の凸形状を有する型を用いて、開口径100〜400μm、深さ100〜400μmの複数のウェルが配列する表面状態となるように成形することが好ましい。
そして、前記成形体を10〜60℃で乾燥した後、1000〜1600℃で1〜10時間焼成することにより、アルミナセラミックスからなる細胞培養担体を好適に作製することができる。
【実施例】
【0025】
以下、本発明を実施例に基づいてさらに具体的に説明するが、本発明は、下記実施例により制限されるものではない。
[実施例1]
平均粒子径が0.51μmのアルミナ1次粒子を用いて、開口径200μm、深さ200μmの複数のウェルが配列するアルミナ平板を成形し、室温(20℃)で乾燥した後、1200℃で2時間焼成して、細胞培養担体を作製した。
図1に、作製した細胞培養担体の上面の電子顕微鏡写真((a)100倍、(b)20000倍)を示す。
作製した担体の比表面積を水銀圧入法により測定したところ、0.35m2/gであった。
また、作製した担体の電子顕微鏡(FE−SEM S−4800;日立ハイテクノロジーズ製)観察写真(20000倍)から、50個のアルミナ粒子をランダムに選択し、平均粒径を測定したところ、0.6μmであった。また、最大粒径は4μmであった。
【0026】
この担体を直径6mm、高さ1.5mmの円柱状に加工し、シトクロムP450 3A4(CYP3A4)の誘導剤である25μMリファンピシンを添加した肝細胞培養培地に3日間浸漬して吸着量を調べたところ、リファンピシンの吸着量は0.053μgであった。
なお、シトクロムP450 3A4(CYP3A4)とは、シトクロムP450(CYP)の分子種であり、人体に存在する生体異物(ゼノバイオティクス)を代謝する酵素の主要なものの一つである。主に肝臓に存在するが、代謝に重要な役割を果たす他の器官や組織中にも見られるものである。
【0027】
また、この担体を滅菌処理して、96ウェルプレートの穴に入れ、ここに、ヒト正常肝細胞を1.0×105個撒種し、肝細胞培養培地を用いて、5%CO2インキュベータ内で、37℃で培養した。6日間経過後、担体に接着した細胞をグルタルアルデヒドで固定処理し、電子顕微鏡にて観察したところ、肝細胞がウェル内でスフェロイドを形成していることが認められた。
さらに、インドシニアングリーン(ICG)1mg/mlを培地に添加し、30分間静置したところ、形成されたスフェロイドはICG染色された。ICGは、正常肝細胞を選択的に取り込む性質を有することから、前記ウェル内で形成された肝細胞スフェロイドは、肝細胞の性質を維持していることが確認された。また、このように、染色によって肝細胞を生きたまま観察することが可能となった。
図2に、前記担体上のスフェロイドの電子顕微鏡写真(100倍)を示す。
【0028】
また、前記細胞培養担体で肝細胞スフェロイドが形成されて3日後、25μMリファンピシンを肝細胞培養培地に添加した。72時間経過後、リファンピシンによって誘導されたCYP3A4酵素活性を調べるために、肝細胞培養培地を回収し、100μMテストステロンを添加したウィリアムE培地を加えて反応させた。2時間経過後、培地中の6β−ヒドロキシテストステロンをHPLCで分離定量したところ、1ウェル当たり150pmolであった。
なお、6β−ヒドロキシテストステロンは、CYP3A4の指標基質であるテストステロンとの反応により生成した代謝物であり、活性評価の指標となる。
【0029】
また、前記細胞培養担体で形成された肝細胞スフェロイドについて、6,28日後のCリファンピシンを添加した場合と未添加の場合におけるYP3A4遺伝子発現量をRT−PCR法での定量により測定した。
図3に、その結果のグラフを示す。比較のため、コラーゲンコートシャーレ(BDファルコン)で培養した肝細胞についての結果も併せて示す。
図3に示したグラフから分かるように、前記担体を用いて培養した肝細胞は、従来のシャーレ上で培養した細胞よりも、10倍以上のCYP3A4遺伝子発現量を維持することが確認された。
【0030】
また、前記細胞培養担体で形成された肝細胞スフェロイドについて、リファンピシンを添加した場合と未添加の場合における6日後のCYP3A4活性評価を、培地中に100μmテストステロンを添加して1時間反応させた後、培地中の6β−ヒドロキシテストテロン濃度をLC/MSにて測定することにより行った。
図4に、その結果のグラフを示す。比較のため、上記と同様のコラーゲンコートシャーレで培養した肝細胞についての結果も併せて示す。
図4に示したグラフから分かるように、前記担体を用いて培養した肝細胞は、従来のシャーレ上で培養した細胞よりも、4倍以上のCYP3A4活性量を有していることが確認された。
【0031】
また、前記細胞培養担体で形成された肝細胞スフェロイドについて、1,3,7,28日後の培養上清に含まれるアルブミン蛋白質について、ヒトアルブミンEIAキット(タカラバイオ株式会社製)を用いて定量した。
図5に、その結果のグラフを示す。比較のため、上記と同様のコラーゲンコートシャーレで培養した肝細胞についての結果も併せて示す。
図5に示したグラフから分かるように、前記担体を用いて培養した肝細胞は、従来のシャーレ上で培養した細胞よりも、28日後においても3倍以上のアルブミン蛋白質が確認され、肝細胞の性質が長期間維持されることが認められた。
【0032】
また、上記において培養した6,14,28日後の各肝細胞を溶解して、RNAを抽出後、薬物代謝酵素mRNAの遺伝子量をRT−PCR法により測定した。
図6に、その結果のグラフを示す。比較のため、上記と同様のコラーゲンコートしたシャーレで培養した肝細胞についての結果も併せて示す。
図6に示したグラフから分かるように、前記担体を用いて培養した肝細胞は、経時的な発現において解凍時のレベルをあまり低下させることなく維持することができた。
【0033】
[比較例1]
平均粒子径が0.08μmのアルミナ1次粒子を用いて、開口径200μm、深さ200μmの複数のウェルが配列するアルミナ平板を成形し、室温(20℃)で乾燥した後、1000℃で2時間焼成して、細胞培養担体を作製した。
図7に、作製した細胞培養担体の上面の電子顕微鏡写真(20000倍)を示す。
また、この担体の比表面積を水銀圧入法により測定したところ、1.84m2/gであった。
【0034】
また、この担体を滅菌処理して、実施例1と同様にして、肝細胞を培養し、電子顕微鏡にて観察したところ、肝細胞がウェル内でスフェロイドを形成していることが認められた。
図8に、前記担体上のスフェロイドの電子顕微鏡写真(100倍)を示す。
【0035】
また、実施例1と同様にして、リファンピシンによって誘導されたCYP3A4酵素活性を調べ、培地中の6β−ヒドロキシテストステロンをHPLCで分離定量したところ、1ウェル当たり82pmolであった。
[比較例2]
平均粒子径が0.2μmのハイドロキシアパタイト粒子を用いて、開口径200μm、深さ200μmの複数のウェルが配列するアルミナ平板を成形し、室温(20℃)で乾燥した後、900℃で2時間焼成して、細胞培養担体を作製した。
図9に、作製した細胞培養担体の上面の電子顕微鏡写真(20000倍)を示す。
また、この担体の比表面積を水銀圧入法により測定したところ、1.13m2/gであった。
【0036】
また、この担体を滅菌処理して、実施例1と同様にして、肝細胞を培養し、電子顕微鏡にて観察したところ、肝細胞がウェル内でスフェロイドを形成していることが認められた。
図10に、前記担体上のスフェロイドの電子顕微鏡写真(100倍)を示す。
【0037】
また、実施例1と同様にして、リファンピシンによって誘導されたCYP3A4酵素活性を調べ、培地中の6β−ヒドロキシテストステロンをHPLCで分離定量したところ、1ウェル当たり20pmolであった。
[比較例3]
平均粒子径が0.6μmのジルコニア粒子を用いて、開口径200μm、深さ200μmの複数のウェルが配列するアルミナ平板を成形し、室温(20℃)で乾燥した後、1150℃で2時間焼成して、細胞培養担体を作製した。
図11に、作製した細胞培養担体の上面の電子顕微鏡写真(20000倍)を示す。
また、この担体の比表面積を水銀圧入法により測定したところ、0.53m2/gであった。
【0038】
また、この担体を滅菌処理して、実施例1と同様にして、肝細胞を培養し、電子顕微鏡にて観察したところ、肝細胞がウェル内でスフェロイドを形成していることが認められた。
図12に、前記担体上のスフェロイドの電子顕微鏡写真(100倍)を示す。
【0039】
また、実施例1と同様にして、リファンピシンによって誘導されたCYP3A4酵素活性を調べ、培地中の6β−ヒドロキシテストステロンをHPLCで分離定量したところ、1ウェル当たり65pmolであった。
【0040】
上記実施例及び比較例の評価結果を下記表1にまとめて示す。
【0041】
【表1】
【0042】
表1から分かるように、本発明に係る細胞培養担体は、従来のセラミックス担体と比較して、連通性等の多孔性能を維持しつつ、比表面積を減少させることができ、薬剤代謝酵素(CYP酵素)の活性試験に用いられる薬剤の吸着量が大幅に減少し、薬剤吸着によるCYP酵素活性も約50%改善することができた。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
上面に複数のウェルが形成されている肝細胞培養用の細胞培養担体であって、前記ウェルの少なくとも底面が、比表面積が0.0001〜1m2/gであり、平均粒径が0.1〜2μm、かつ、最大粒径が5μm以下のアルミナ粒子により構成されていることを特徴とする細胞培養担体。
【請求項2】
密度が2.4〜4g/cm3であることを特徴とする請求項1記載の細胞培養担体。
【請求項3】
前記上面は、2乗平均粗さRqが0.1〜1μmであることを特徴とする請求項1又は2に記載の細胞培養担体。
【請求項4】
前記ウェルの少なくとも底面は、2乗平均粗さRqが0.1〜1μmであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の細胞培養担体。
【請求項5】
平均粒径が0.4〜1μmのアルミナ1次粒子を造粒する工程と、
前記アルミナ1次粒子により、開口径100〜400μm、深さ100〜400μmの複数のウェルが配列する成形体を作製する工程と、
前記成形体を10〜60℃で乾燥する工程と、
前記工程において乾燥させた成形体を1000〜1600℃で1〜10時間焼成する工程と
を備えていることを特徴とする細胞培養担体の製造方法。
【請求項6】
前記1次粒子は、平均粒径が0.1〜0.3μmの粒子と平均粒径が0.4〜0.6μmの粒子とが2:8〜8:2で混合されたものであることを特徴とする請求項5記載の細胞培養担体の製造方法。
【請求項1】
上面に複数のウェルが形成されている肝細胞培養用の細胞培養担体であって、前記ウェルの少なくとも底面が、比表面積が0.0001〜1m2/gであり、平均粒径が0.1〜2μm、かつ、最大粒径が5μm以下のアルミナ粒子により構成されていることを特徴とする細胞培養担体。
【請求項2】
密度が2.4〜4g/cm3であることを特徴とする請求項1記載の細胞培養担体。
【請求項3】
前記上面は、2乗平均粗さRqが0.1〜1μmであることを特徴とする請求項1又は2に記載の細胞培養担体。
【請求項4】
前記ウェルの少なくとも底面は、2乗平均粗さRqが0.1〜1μmであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の細胞培養担体。
【請求項5】
平均粒径が0.4〜1μmのアルミナ1次粒子を造粒する工程と、
前記アルミナ1次粒子により、開口径100〜400μm、深さ100〜400μmの複数のウェルが配列する成形体を作製する工程と、
前記成形体を10〜60℃で乾燥する工程と、
前記工程において乾燥させた成形体を1000〜1600℃で1〜10時間焼成する工程と
を備えていることを特徴とする細胞培養担体の製造方法。
【請求項6】
前記1次粒子は、平均粒径が0.1〜0.3μmの粒子と平均粒径が0.4〜0.6μmの粒子とが2:8〜8:2で混合されたものであることを特徴とする請求項5記載の細胞培養担体の製造方法。
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図1】
【図2】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図4】
【図5】
【図6】
【図1】
【図2】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2013−102737(P2013−102737A)
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−249595(P2011−249595)
【出願日】平成23年11月15日(2011.11.15)
【出願人】(507182807)コバレントマテリアル株式会社 (506)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年11月15日(2011.11.15)
【出願人】(507182807)コバレントマテリアル株式会社 (506)
【Fターム(参考)】
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