細胞培養用コラーゲン
【課題】
細胞培養の培地として好適なコラーゲンを提供する。
【解決手段】
pH7.0以上9.5以下の等電点沈殿を行い、塩化ナトリウム含有濃度を乾燥状態で2.0重量%以下になるように処理したことを特徴とするコラーゲン。かかるコラーゲンを細胞培養の培地として使用することを特徴とする細胞培養方法。
細胞培養の培地として好適なコラーゲンを提供する。
【解決手段】
pH7.0以上9.5以下の等電点沈殿を行い、塩化ナトリウム含有濃度を乾燥状態で2.0重量%以下になるように処理したことを特徴とするコラーゲン。かかるコラーゲンを細胞培養の培地として使用することを特徴とする細胞培養方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、事故や手術などで切断あるいは切除された末梢神経を神経細胞の伸長を利用して繋ぎ直すための神経再生誘導管に関する。より詳しくは、本発明は、切断あるいは切除された神経組織の伸長方向を固定し、かつ周囲の組織に邪魔されず切断部位同士を接合させるために利用される、コラーゲンを神経再生の足場として使用する神経再生誘導管に関する。
【背景技術】
【0002】
事故などによる末梢神経の損傷は修復しきれない例が多い。また、一般的手術に伴って末梢神経を切除せざるを得ない臨床例も多い。末梢神経の損傷では、直接吻合以外に自家神経移植が唯一の対策であった。しかし、その成績は決して満足できるものではなく、知覚、運動能力の回復も悪く、過誤支配による後遺症もみられた。また、痛みや知覚の欠損などの後遺症ばかりでなく、患部の知覚異常、特に疼痛に悩まされている患者が多い。
【0003】
人工的な材料による接合管を用いて末梢神経のギャップを連結して神経を再生させようという試みは1980年代初め頃から盛んに行われてきた。しかし、非吸収性の合成人工材料による接合チャンネルの研究は、ことごとく失敗に終わっている。その解決のためには、神経束の再生の間、外部からの結合組織の侵入を防ぐこと、チャンネル内外の物質交流あるいはチャンネル壁に毛細血管の新生が必要であること、チャンネル内の軸索やシュワン細胞の増殖に適した足場となる物質が必要であること、再生後、使用材料は分解吸収されることなどを考慮しなければならない。これらの条件を考慮してその後、生体内分解吸収性材料による人工神経接合チューブの研究が行われるようになった。
【0004】
末梢神経の再生に関しては、1982年にシリコーン管モデルの発表以来、シリコーン管を用いて再生可能な断端間距離を延長するための試みがなされてきた。しかし、シリコーン管の壁は栄養分が透過することができないため、神経軸索に栄養分が充分に補給されない等の問題点があって、シリコーン内には毛細血管が生成することができず、シリコーン管を用いても満足のいく神経再生は得られていない。さらに、仮に神経が再生できたとしても、いずれは異物であるシリコーン管を再手術等により除かなくてはならないという問題点もあった。
【0005】
これに対して、シリコーン管の代わりに生分解性ポリマーからなる管を用いた末梢神経の再生が試みられている。生分解性ポリマーからなる神経再生管を用いれば、神経が再生された後には生体内で加水分解又は酵素の働きにより徐々に神経再生管は分解、吸収されることから、改めて手術等の手段により取り出す必要もない。
【0006】
このような生分解性ポリマーからなる神経再生管として、例えば、特許文献1には、ラミニンとフィブロネクチンとをコーティングしたコラーゲン繊維の束からなる神経再生補助材が開示されている。特許文献2には、生体分解吸収性材料のチューブと、その内腔に該チューブの軸線にほぼ平行に沿って該チューブを貫通する空隙を有するコラーゲン体からなり、該空隙がコラーゲン、ラミニン等を含むマトリックスゲルで充填されている人工神経管が開示されている。特許文献3には、生体分解吸収性材料のチューブと、その内腔に該チューブの軸線にほぼ平行にラミニンで被覆されたコラーゲン繊維束を挿入した人工神経管が開示されている。特許文献4には、生体内吸収性材料よりなる繊維を束ねた構造を有する神経再建用基材が開示されている。特許文献5には、コラーゲンからなるスポンジ、チューブ、コイル等の支持体が開示されている。特許文献6には、生体分解性材料又は生体吸収性材料からなるスポンジ状の微細なマトリックスと、直線状の生体組織誘導経路又は器官誘導経路とからなる支持体が開示されている。さらに、特許文献7には、生分解性ポリマー材料からなるスポンジと、該スポンジより分解吸収期間の長い生分解性ポリマーからなる強化材を含み、その内面がスポンジからなる神経再生チューブが開示されている。
これらの神経再生管はいずれもコラーゲンを神経再生の足場として使用するが、コラーゲンの神経細胞の接着性、細胞増殖能及び分化誘導能が十分でなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平5−237139号公報
【特許文献2】WO98/22155号公報
【特許文献3】WO99/63908号公報
【特許文献4】特開2000−325463号公報
【特許文献5】特開2001−70436号公報
【特許文献6】特開2002−320630号公報
【特許文献7】特開2003−19196号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、かかる従来技術の現状に鑑み創案されたものであり、その目的は、神経細胞の接着性、細胞増殖能及び分化誘導能に優れたコラーゲンを神経再生の足場として使用する神経再生誘導管を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、かかる目的を達成するために神経再生の足場として使用するコラーゲンの製造方法について検討した結果、豚皮などの原料からコラーゲンを製造する際の洗浄や塩析時に必然的に混入される塩化ナトリウムが神経細胞の再生に悪影響を与えていること、そしてこの塩化ナトリウムの含有濃度を低下させたコラーゲンを使用することにより神経細胞の増殖及び神経突起の伸長が向上することを見出し、本発明の完成に至った。
【0010】
即ち、本発明は、コラーゲンを神経再生の足場として使用する神経再生誘導管において、pH7.0以上、9.5以下の等電点沈殿で行い、塩化ナトリウム含有濃度を乾燥状態で2.0重量%以下、好ましくは0.1〜1.5重量%になるように精製したコラーゲンを使用することを特徴とする神経再生誘導管である。
【0011】
本発明の神経再生誘導管の好ましい態様では、コラーゲンの精製はpH8.0以上、9.0以下の等電点沈殿で行われ、神経再生誘導管は、生分解性ポリマーからなる管状体にコラーゲンを被覆し、さらに管状体の内部にコラーゲンを充填して形成され、生分解性ポリマーはポリグリコール酸、ポリ乳酸、乳酸−カプロラクトン共重合体からなる群から選択され、管状体は内径0.1〜20mm、外径0.15〜25mm、長さ1.0〜150mmである。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、コラーゲンの製造工程で必然的に混入される塩化ナトリウムの含有濃度を2重量%以下に低下させた精製コラーゲンを使用することによって、神経細胞の接着性、細胞増殖能及び分化誘導能に優れた神経再生誘導管を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明例のコラーゲンゲル内の細胞の様子を示す顕微鏡写真である。
【図2】比較例のコラーゲンゲル内の細胞の様子を示す顕微鏡写真である。
【図3】実験1で測定した吸光度(相対値)のグラフである。
【図4】実験2で測定した吸光度(相対値)のグラフである。
【図5】実験3で使用したコラーゲンコート1〜6の詳細を示す。
【図6】実験3で測定した吸光度(相対値)のグラフである。
【図7】実験3で測定した吸光度(相対値)のグラフである。
【図8】実験4のコラーゲン(pH5.5)コートプレートで培養した細胞の細胞分化の様子を示す顕微鏡写真である。
【図9】実験4のコラーゲン(pH8.5)コートプレートで培養した細胞の細胞分化の様子を示す顕微鏡写真である。
【図10】実験4のコラーゲン(pH10.2)コートプレートで培養した細胞の細胞分化の様子を示す顕微鏡写真である。
【図11】実験4で測定した4日間培養後の細胞分化率のグラフである。
【図12】実験4で測定した11日間培養後の細胞分化率のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の神経再生誘導管は、コラーゲンの製造工程で混入される塩化ナトリウム含有濃度を乾燥状態で2重量%以下になるように精製したコラーゲンを神経再生の足場として使用することを特徴とする。
【0015】
コラーゲンは、各種細胞の基質の役割を果たしているので、医用材料として生体に応用した際、組織との親和性が良く、神経細胞の生長の足場として従来から使用されている。
【0016】
神経再生の足場として使用する従来のコラーゲンは一般に、食肉検査場にて採取凍結された豚皮を出発原料とし、これに中性プロテアーゼを添加・加温処理し、塩化ナトリウム溶液で繰り返し洗浄し、脱水後、イソプロパノール、アセトンにて洗浄し、減圧乾燥して脱脂済みチップを作り、この脱脂済みチップを酢酸溶液中に添加し、塩酸でpHを調整し、ペプシン添加・分解し、水酸化ナトリウム溶液で高pHに調整し(ウィルス不活性化工程1)、塩酸で低pHに調整し(ウィルス不活性化工程2)、水酸化ナトリウムでpH2〜3に調整してろ過し、塩化ナトリウム溶液を加えて塩析し、遠心分離により濃縮し、この濃縮物を精製水に添加・溶解し、再び塩化ナトリウム溶液を加えて塩析し、遠心分離により濃縮し、凍結乾燥することによって製造される。
【0017】
このように従来使用されているコラーゲンは、その製造工程において塩化ナトリウム溶液による洗浄や塩化ナトリウム溶液による塩析を含むため、使用されているコラーゲンの塩化ナトリウム濃度は、市販品を含め、4重量%以上であった。本発明者は、コラーゲン中の塩化ナトリウム含有濃度が神経細胞の生存・発育に影響し、この濃度が高すぎると浸透圧によって細胞膜を破壊すると考えた。そこで、塩化ナトリウム含有濃度を低減するように精製したコラーゲンを神経再生誘導管に使用したところ、この神経再生誘導管は従来のコラーゲンを使用したものより極めて優れた細胞接着性、細胞増殖能を発揮することを見出した。本発明は、かかる知見に基いて、神経再生誘導管の足場として乾燥状態の塩化ナトリウム含有濃度を2.0重量%以下、好ましくは0.1〜1.5重量%に低減するように処理したコラーゲンを使用する。この塩化ナトリウム濃度は原子吸光光度法(灰化)により測定される。浸透圧を下げることによる細胞膜破壊防止のためには、塩化ナトリウム濃度は低い方がよいが、技術的な面やコラーゲンの安定性の面から0.1重量%程度が下限と思われる。塩濃度を低下するための処理としては、後述するような等電点沈殿(濃縮)のほか、透析による方法などがあり、本発明においては公知のいずれの方法も利用できる。
なお、原子吸光光度法による塩化ナトリウム濃度の測定は、試料1〜4gを石英ビーカーにとり、電熱器上で徐々に温度を上げて炭化させた後、最終的にマッフル炉で6〜8時間かけて灰化し(500℃)、残渣を10重量%塩酸水溶液で再溶解後、終濃度1重量%になるように希釈し、アセチレン−空気によるフレーム原子吸光法にて測定する。このときの測定波長は589.6nmである。
【0018】
本発明の神経再生誘導管で使用するコラーゲンは、従来公知のいかなる方法でも製造できるが、例えば上述の医療用に市販されている従来のコラーゲンを出発原料とし、2〜10℃冷却下、このコラーゲンを注射用蒸留水に溶解し、水酸化ナトリウム溶液でpH6.0以上、10.0未満に調整して等電点沈殿を行い、遠心分離し、上清を破棄し、沈殿物を凍結乾燥することによって製造されることができる。このような等電点範囲のコラーゲンを使用することにより、極めて優れた細胞の分化誘導能を発揮することを見出し、ついに本発明を完成した。pH6.0以上、10.0未満の等電点を有するコラーゲンを神経再生の足場として用いることによって、細胞の分化誘導能が向上する理由は詳細に解明されていないが、pH6.0未満および10.0以上で沈殿する画分に細胞との親和性が低い因子が含まれている可能性が考えられるし、逆にpH6.0以上、10.0未満で沈殿するコラーゲンが特に細胞との親和性が高いことなどが考えられる。あるいは、未精製のコラーゲンはI型コラーゲンとIII型コラーゲンがおおよそ7:3の比で構成されているが、このI型とIII型の構成比が変化することによる影響も考えられる。本発明において、より好ましい等電点の範囲はpH7.0以上9.5以下、さらに好ましくはpH8.0以上9.0以下である。
【0019】
本発明の神経再生誘導管は、従来公知の方法に従って製造することができ、例えば、生分解性ポリマーからなる管状体にコラーゲンを被覆し、さらにその管状体の内部にコラーゲンを充填することによって形成することができる。管状体の大きさは再生する神経の部位や必要な強度にもよるが、一般に内径0.1〜20mm、外径0.15〜25mm、長さ1.0〜150mmである。実際には、時間の制約や生産コストに鑑み、多数の種類の大きさの管状体からなる神経再生誘導管を予め用意しておくことが好ましい。
【0020】
管状体を構成する生分解性ポリマーとしては、ポリグリコール酸、ポリ乳酸、乳酸−カプロラクトン重合体、グリコール酸−カプロラクトン共重合体、ポリジオキサノン、グリコール酸−トリメチレンカルボン酸などを挙げることができる。入手の容易性及び取り扱い性の面から、ポリグリコール酸、ポリ乳酸、乳酸−カプロラクトン共重合体、特にポリグリコール酸を用いることが好ましい。生分解性ポリマーは単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。
【0021】
管状体としては、前記生分解性ポリマーを多孔質化された管状体に成型したものを用いてもよいし、前記生分解性ポリマーの極細繊維を複数本束ねたものを管状に編んだものを用いてもよい。多孔質体や編目(網目)の細孔径や空隙率は目的とする用途や強度にあわせて適宜調整すればよい。
【0022】
また、生分解性ポリマーからなる極細繊維の直径は1〜50μmであることが好ましい。繊維直径が小さすぎると、繊維間隙が密になるため、コラーゲンが浸透しにくかったり、管状体の柔軟性が低下することがある。逆に、繊維直径が大きすぎると、コラーゲンの保持量が少なくなり、神経成長速度が上がらなかったり、管状体の強度が不足することがある。より好ましくは、極細繊維の直径は3〜40μmであり、さらに好ましくは6〜30μmである。
【0023】
管状体を成形するには、前記繊維直径を有する生分解性ポリマーからなる極細繊維を5〜60本束ねて、経糸及び緯糸として交互に編むことが好ましい。極細繊維を束ねる本数が少なすぎると、管状体の強度が不足したり、十分なコラーゲンの保持量を確保できないことがある。逆に、極細繊維を束ねる本数が多すぎると、細径の管状体を作成できなかったり、管状体の柔軟性を確保できないことがある。より好ましくは、極細繊維は10〜50本であり、さらに好ましくは20〜40本である。
【0024】
前記極細繊維束を交互に編んで管状体を成形する際、網目の孔径は、好ましくは約5〜300μm、より好ましくは10〜200μmである。網目の孔径が小さすぎると、毛細血管の侵入や水透過性の低下により細胞や組織の増殖が阻害されることがある。約300μmを越えると組織の進入が過剰となり、細胞や組織の増殖が阻害されることがある。
【0025】
本発明において、管状体の外部表面は、当業者に公知の方法でコラーゲン溶液を複数回塗布することにより被覆され、管状体の内部(内腔)はコラーゲンを充填することにより満たされる。この際、コラーゲン溶液は、ラミニン、ヘパラン硫酸プロテオグリカン、エンタクティン及び成長因子を含んでいても良い。成長因子としては、EGF(上皮増殖因子)、βFGF(線維芽細胞増殖因子)、NGF(神経成長因子)、PDGF(血小板由来増殖因子)、IGF−1(インスリン様増殖因子)、TGF−β(トランスフォーミング成長因子)などが挙げられる。また、コラーゲン溶液は、塩酸溶液の形で刷毛又は毛筆を用いて1回塗布するごとに完全に乾燥してから次回の塗布をするようにして複数回塗布することが好ましい。
【0026】
コラーゲンを被覆および充填した管状体は、凍結、凍結乾燥、架橋処理を施してコラーゲンを架橋することが好ましい。凍結は好ましくは−10〜−196℃、より好ましくは−20〜−80℃で3〜48時間の条件で行うのが好ましい。凍結することによって、コラーゲン分子の間に微細な氷が形成され、コラーゲン溶液が相分離を起こし、スポンジ化する。次に、前記凍結させたコラーゲン溶液を、真空下、初期温度−40〜−80℃で、約12〜48時間凍結乾燥する。凍結乾燥することによって、コラーゲン分子間の微細な氷が気化するとともに、コラーゲンスポンジが微細化する。架橋方法としては、γ線架橋、紫外線架橋、電子線架橋、熱脱水架橋、グルタルアルデヒド架橋、エポキシ架橋、及び水溶性カルボジイミド架橋が挙げられるが、架橋の程度をコントロールしやすく、架橋処理を行っても生体に影響を及ぼさない熱脱水架橋が好ましい。熱脱水架橋処理は、真空下、例えば約105〜150℃、より好ましくは約120〜150℃、さらに好ましくは約140℃の温度で、例えば約6〜24時間、より好ましくは約6〜12時間、さらに好ましくは約12時間行う。架橋温度が高すぎると、生体内分解吸収性材料の強度が低下する可能性がある。また、架橋温度が低すぎると十分な架橋反応が生じない可能性がある。
【実施例】
【0027】
本発明のコラーゲンの効果の優位性を実証する実験を以下に示す。
【0028】
(塩化ナトリウム濃度の測定)
原子吸光光度法による塩化ナトリウム濃度の測定は、試料1〜4gを石英ビーカーにとり、電熱器上で徐々に温度を上げて炭化させた後、最終的にマッフル炉で6〜8時間かけて灰化する(500℃)。残渣を10重量%塩酸水溶液で再溶解後、終濃度1重量%になるように希釈し、アセチレン−空気によるフレーム原子吸光法にて測定する。なお、測定波長は589.6nmである。
【0029】
実験1:コラーゲンゲル培養実験
1.本実験の目的
通常、細胞培養実験ではウェルプレート底面での二次元培養が基本である。しかし、三次元培養を行った場合は二次元培養時の細胞の挙動とは大きく異なると言われており、神経再生能を評価するならば三次元培養がより実際に近い系であると考えられる。そこで、本実験ではコラーゲンゲルで三次元培養を行い、コラーゲンの種類によって培養細胞の挙動が異なるかどうかを確認することを目的とした。
【0030】
2.本実験で使用したコラーゲン
(1)比較例のコラーゲン
日本ハム(株)製の「NMPコラーゲンPS」を比較例のコラーゲンとして使用した。この比較例のコラーゲンは、豚皮を出発原料として脱脂処理及び精製処理を行うことにより製造されたものであり、脱脂処理には塩化ナトリウム溶液での繰り返しの洗浄工程が含まれており、精製処理には塩化ナトリウムによる塩析工程が含まれている。この比較例のコラーゲンは、原子吸光光度法(灰化)により測定すると、乾燥状態で4.0重量%の塩化ナトリウムを含有していた。
(2)本発明例のコラーゲン
上記の比較例のコラーゲンの一部を出発原料として利用し、これをpH8以上9未満の等電点沈殿により精製して本発明例のコラーゲンを調製した。この本発明例のコラーゲンは、原子吸光光度法(灰化)により測定すると、乾燥状態で1.0重量%の塩化ナトリウムを含有していた。
【0031】
3.コラーゲンゲル培地の作成
上記で準備した2種類のコラーゲンをそれぞれ常法に従って塩酸に溶解させ、0.5重量%コラーゲン−塩酸溶液を調製した。このうち、本発明例のコラーゲン溶液を24ウェルマイクロプレート(IWAKI製)の8個のウェルに300μlずつ加え、比較例のコラーゲン溶液を同じプレートの別の8個のウェルに300μlずつ加えた。その後、プレートをインキュベーター内で37℃で30分間静置した。
【0032】
4.PC12細胞のコラーゲンゲル培養
(1)PC12細胞(大日本製薬ラボラトリープロダクツ製のラット副腎褐色細胞腫由来の細胞)をDMEM培地で予め継代数6まで培養しておき、遠心分離で細胞を回収後、DMEM培地15mlに1×106個となるように細胞数を調整して懸濁し、50μg/mlNGF(神経成長因子、R&D systems Inc.製、リン酸緩衝溶液)を15μl加えて培養液を調製した。
なお、DMEM培地とは、RPMI 1640液体培地(大日本製薬ラボラトリープロダクツ製、グルタミン酸不含有、重曹含有)500mlにウシ胎児血清(大日本製薬ラボラトリープロダクツ製)25ml、ウマ血清(大日本製薬ラボラトリープロダクツ製)50ml、200mMグルタミン液(大日本製薬ラボラトリープロダクツ製、29.23mg/ml)5mlを添加して混合したものである。
(2)調製した培養液を予め作成したコラーゲンゲル培地のウェルに300μlずつ滴下した。
(3)ウェルプレートをインキュベーター内(37℃、CO2濃度5.0%)で4日間培養した。
【0033】
5.細胞の様子の観察
4日間の培養後、コラーゲンゲル内の細胞の様子を顕微鏡で観察し、代表例を写真撮影した。その結果を図1及び図2に示す。
【0034】
6.生存細胞数の測定
(1)4日間培養後の生存細胞数を測定するため、ウェルに1重量%コラーゲナーゼ溶液を50μlずつ滴下し、ウェルごと軽く攪拌しながら37℃、30分間でコラーゲンゲルを溶解させた。
(2)コラーゲンゲル溶解後、MTTアッセイ溶液を各ウェルに50μl加え、インキュベーター内で30分間静置した。
(3)30分間静置後、450nmでの吸光度を測定し、各コラーゲンゲルについて8個のウェルでの吸光度の値から平均値及び標準偏差を求め、図3にグラフとして表した。なお、図3のグラフでは本発明例のコラーゲンの吸光度は比較例のコラーゲンゲルの平均吸光度を100とした相対値として表されている。また、吸光度は生存細胞数と正比例する。
【0035】
7.本実験の考察
(1)細胞の様子の観察
図1及び図2の対比から明らかなように、本発明例のコラーゲンを使用した培養(図1)では比較例のコラーゲンを使用した培養(図2)より細胞が良く増殖しており、神経突起の伸長も著しい。
(2)生存細胞数の測定
図3から明らかなように、本発明例のコラーゲンを使用した培養の吸光度は比較例のコラーゲンを使用した培養の吸光度より平均39%高く、この差は統計学的にも有意な差であった(p<0.01)。従って、図3の結果から、本発明例のコラーゲンは比較例のコラーゲンより有意に高い細胞増殖能を有することがわかる。
(3)以上の結果から、本発明例のコラーゲンは比較例の従来のコラーゲンより細胞増殖能及び分化誘導能において優れているといえる。
【0036】
実験2:コラーゲンコート接着性実験
1.本実験の目的
本発明例のコラーゲンと従来のコラーゲンの細胞接着性の比較を行うため、両コラーゲンでの培養後にアスピレーターで浮遊する細胞を吸引、除去し、プレートに接着する細胞のみを測定し、その数を比較することによりコラーゲンの種類によって細胞の接着性に有意な差があるかどうかを確認することを目的とした。
【0037】
2.コラーゲンコートの作成
(1)実験1で使用した本発明例のコラーゲンと比較例のコラーゲンを0.05重量%になるように塩酸で希釈し、24ウェルマイクロプレート(IWAKI製)のそれぞれ8個のウェルにこれらのコラーゲン溶液を300μlずつ入れ、1時間冷蔵庫に静置した。
(2)1時間静置後、各ウェルのコラーゲン溶液をアスピレーターで吸引し、ウェルに付着しているコラーゲンコートをクリーンベンチ内で1時間自然乾燥させた。
【0038】
3.PC12細胞のコラーゲンコート培養
(1)PC12細胞(大日本製薬ラボラトリープロダクツ製のラット副腎褐色細胞腫由来の細胞)をDMEM培地で予め継代数6まで培養しておき、遠心分離で細胞を回収後、DMEM培地25mlに5×106個となるように細胞数を調整して懸濁し、50μg/mlNGF(神経成長因子、R&D systems Inc.製、リン酸緩衝溶液)を25μl加えて培養液を調製した。
(2)予め作成していたコラーゲンコートウェルプレートの各ウェルに、調製した培養液を300μlずつ入れた。
(3)ウェルプレートをインキュベーター内(37℃、CO2濃度5.0%)で5日間培養した。
【0039】
4.接着細胞数の測定
(1)浮遊細胞及びきちんと接着していない細胞を取り除くため、ウェルプレートを85度に傾けながら、培地をすべて吸引した。このとき、接着細胞を吸引しないように注意した。
(2)その後、DMEM培地300μlとMTTアッセイ溶液30μlを各ウェルに加え、インキュベーター内で30分静置した。
(3)30分静置後、450nmでの吸光度を測定し、各コラーゲンコートについて8個のウェルでの吸光度の値から平均値及び標準偏差を求め、図4にグラフとして表した。なお、図4のグラフでは本発明例のコラーゲンコートの吸光度は比較例のコラーゲンコートの平均吸光度を100とした相対値として表されている。
【0040】
5.本実験の考察
図4から明らかなように、本発明例のコラーゲンコートの接着細胞数を表す吸光度は比較例のコラーゲンコートの吸光度より平均で49%高く、この差は統計学的にも有意な差であった(0.01<p<0.05)。再生医療における足場の細胞接着性は非常に重要な要素であり、図4の結果から、本発明のコラーゲンは従来のコラーゲンに比べて神経再生の足場として用いるのに好適であることがわかる。
【0041】
実験3:塩化ナトリウム濃度を変化させたコラーゲンコート培養実験
1.本実験の目的
コラーゲン中の塩化ナトリウム含有濃度の違いが細胞の生存および増殖にどれくらい影響があるかを調べることを目的とした。
【0042】
2.コラーゲンコートの作成
(1)実験1で使用した本発明例のコラーゲン、これに塩化ナトリウムを加えて塩化ナトリウム濃度を5重量%、10重量%に調整したもの、実験1で使用した比較例のコラーゲン、これに塩化ナトリウムを加えて塩化ナトリウム濃度を5重量%、10重量%に調整したものを用意した(図5のコラーゲンコート1〜6参照)。各コラーゲンを0.01重量%塩酸溶液になるように調整し、24ウェルマイクロプレート(IWAKI製)を2枚使って、各コラーゲンを4個のウェルに300μlずつ滴下し、1時間冷蔵庫に静置した。
(2)1時間静置後、各ウェルのコラーゲン溶液をアスピレーターで吸引し、ウェルに付着しているコラーゲンコートをクリーンベンチ内で1時間自然乾燥させた。
【0043】
3.PC12細胞のコラーゲンコート培養
(1)PC12細胞(大日本製薬ラボラトリープロダクツ製のラット副腎褐色細胞腫由来の細胞)をDMEM培地で予め継代数6まで培養しておき、遠心分離で細胞を回収後、DMEM培地15mlに1×106個となるように細胞数を調整して懸濁し、50μg/mlNGF(神経成長因子、R&D systems Inc.製、リン酸緩衝溶液)を15μl加えて培養液を調製した。
(2)調製した培養液を予め作成したコラーゲンコートウェルプレートの各ウェルに300μlずつ滴下した。
(3)ウェルプレートをインキュベーター内(37℃、CO2濃度5.0%)で5日間培養した。
【0044】
4.生存細胞数の測定
(1)MTTアッセイ溶液を各ウェルに30μlずつ加え、インキュベーター内で30分静置した。
(2)30分静置後、450nmでの吸光度を測定し、各コラーゲンコートについて8個のウェルでの吸光度の値から平均値及び標準偏差を求め、図6、7にグラフとして表した。なお、図6、7のグラフでは本発明例のコラーゲンコートの吸光度は比較例のコラーゲンコートの平均吸光度を100とした相対値として表されている。
【0045】
5.本実験の考察
図6及び7から明らかなように、吸光度はコラーゲンの塩化ナトリウム濃度が低いほど大きくなる傾向があり、本発明例のコラーゲン(コラーゲンコート1(塩化ナトリウム濃度1重量%))を使用した培養の吸光度は、比較例のコラーゲン(コラーゲンコート6(塩化ナトリウム濃度10重量%))を使用した培養の吸光度より平均で27%高く、この差は統計学的にも有意な差であった(p<0.01)。図6及び7の結果から、塩化ナトリウム濃度が低い本発明例のコラーゲンは比較例のコラーゲンに比べ細胞増殖能において優れていることがわかる。
【0046】
実験4:等電点の異なるコラーゲンを用いた神経冠細胞培養による細胞分化評価実験
1.本実験の目的
コラーゲンの等電点の違いが細胞分化にどの程度の影響があるかを調べることを目的とした。
【0047】
2.等電点濃縮コラーゲン粉末の調整
(1)6gのNMPコラーゲンPSにMilliQ水を加え、Total1000mlの0.6重量%コラーゲン溶液を調製した。
(2)氷上で1〜3日攪拌し、コラーゲンを水に完全溶解させた。
(3)1N NaOHを滴下し、pH5.5の状態で沈殿を含むコラーゲン溶液200mlを別容器に回収した。
(4)1N NaOHの滴下を続け、同様にpH8.5の状態、及びpH10.2の状態で各々200mlを別容器に回収した。
(5)得られた3つのサンプルを遠沈管に移し、3,000rpmで45分間遠心分離を行なった。
(6)各遠沈管の上清を廃棄し、沈殿を−40℃で終夜凍結後、凍結乾燥機で2日間処理した。
(7)前記得られたサンプルを順に、サンプル1(pH5.5)、サンプル2(pH8.5)、サンプル3(pH10.2)とした。
なお、各コラーゲンサンプルにおいて、塩化ナトリウム濃度は1.2重量%であった。
【0048】
3.コラーゲン溶液の調製
(1)前記サンプル1、2、3の各300mgに0.001M HClを加え、Total 10mlの0.3重量%コラーゲン溶液を調製した。
(2)Voltexで混合した後、4℃で終夜放置しコラーゲンを完全溶解させた。
(3)0.3重量%濃度の各サンプル1mlに0.001M HCl9mlを加えよく混合し、0.03重量%コラーゲン溶液を調製した。
(4)24ウェルマイクロプレート(IWAKI製)の各ウェルに、前記0.03重量%コラーゲン溶液を200μlずつ分注し、室温(20℃)で10分間放置した。
(5)コラーゲン溶液を吸引し、1ml PBS(−)を添加後吸引して洗浄、更に再度洗浄を繰り返した。
(6)そのままクリーンベンチ内に静置して乾燥させた。
【0049】
4.細胞培養
(1)神経冠由来色素細胞(クラボウ製、Code No.KM−4009MP)を専用培地(クラボウ製、Code No.M−254−500+Code No.S−002−5)で3.75×104cells/mlになるよう希釈し、各ウェルに500μlずつ播種した。
(2)37℃、CO2濃度5.0%中にて4日間培養した。
(3)培地を吸引後、新たに専用培地を500μl添加し、引き続き37℃、CO2濃度5.0%中にて3日間培養した。
(4)培地を吸引後、新たに専用培地を500μl添加して、37℃、CO2濃度5.0%中にてさらに4日間培養した後、各ウェルの細胞分化の度合いを観察した。
【0050】
5.本実験の考察
図8〜10から明らかなように、コラーゲンの等電点の違いにより細胞分化のレベルに顕著な差が見られ、サンプル2(pH8.5)において顕著に分化促進されていることが細胞形態の観察から確認できる。
さらに、図11、12より、生存する全細胞中における分化した細胞の割合を算出した場合、pH5.5、pH10.2に比べてpH8.5において細胞分化率(%)が高いことが確認できる。
細胞分化率(%)=(分化した細胞数/生存する全細胞数)×100
一般的に、コラーゲンは生体内で約2週間で代謝・吸収されることから鑑みて、培養11日後に40%以上の細胞分化率を有していれば、実際の神経再生の場において良好な結果が得られるものと考えられる。細胞分化率は50%以上がより好ましく、60%以上がさらに好ましく、70%以上がさらにより好ましい。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明の神経再生誘導管は、細胞の接着性、細胞増殖能、細胞分化誘導能に優れるので、神経再生医療における適用が広がり、極めて有用である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、事故や手術などで切断あるいは切除された末梢神経を神経細胞の伸長を利用して繋ぎ直すための神経再生誘導管に関する。より詳しくは、本発明は、切断あるいは切除された神経組織の伸長方向を固定し、かつ周囲の組織に邪魔されず切断部位同士を接合させるために利用される、コラーゲンを神経再生の足場として使用する神経再生誘導管に関する。
【背景技術】
【0002】
事故などによる末梢神経の損傷は修復しきれない例が多い。また、一般的手術に伴って末梢神経を切除せざるを得ない臨床例も多い。末梢神経の損傷では、直接吻合以外に自家神経移植が唯一の対策であった。しかし、その成績は決して満足できるものではなく、知覚、運動能力の回復も悪く、過誤支配による後遺症もみられた。また、痛みや知覚の欠損などの後遺症ばかりでなく、患部の知覚異常、特に疼痛に悩まされている患者が多い。
【0003】
人工的な材料による接合管を用いて末梢神経のギャップを連結して神経を再生させようという試みは1980年代初め頃から盛んに行われてきた。しかし、非吸収性の合成人工材料による接合チャンネルの研究は、ことごとく失敗に終わっている。その解決のためには、神経束の再生の間、外部からの結合組織の侵入を防ぐこと、チャンネル内外の物質交流あるいはチャンネル壁に毛細血管の新生が必要であること、チャンネル内の軸索やシュワン細胞の増殖に適した足場となる物質が必要であること、再生後、使用材料は分解吸収されることなどを考慮しなければならない。これらの条件を考慮してその後、生体内分解吸収性材料による人工神経接合チューブの研究が行われるようになった。
【0004】
末梢神経の再生に関しては、1982年にシリコーン管モデルの発表以来、シリコーン管を用いて再生可能な断端間距離を延長するための試みがなされてきた。しかし、シリコーン管の壁は栄養分が透過することができないため、神経軸索に栄養分が充分に補給されない等の問題点があって、シリコーン内には毛細血管が生成することができず、シリコーン管を用いても満足のいく神経再生は得られていない。さらに、仮に神経が再生できたとしても、いずれは異物であるシリコーン管を再手術等により除かなくてはならないという問題点もあった。
【0005】
これに対して、シリコーン管の代わりに生分解性ポリマーからなる管を用いた末梢神経の再生が試みられている。生分解性ポリマーからなる神経再生管を用いれば、神経が再生された後には生体内で加水分解又は酵素の働きにより徐々に神経再生管は分解、吸収されることから、改めて手術等の手段により取り出す必要もない。
【0006】
このような生分解性ポリマーからなる神経再生管として、例えば、特許文献1には、ラミニンとフィブロネクチンとをコーティングしたコラーゲン繊維の束からなる神経再生補助材が開示されている。特許文献2には、生体分解吸収性材料のチューブと、その内腔に該チューブの軸線にほぼ平行に沿って該チューブを貫通する空隙を有するコラーゲン体からなり、該空隙がコラーゲン、ラミニン等を含むマトリックスゲルで充填されている人工神経管が開示されている。特許文献3には、生体分解吸収性材料のチューブと、その内腔に該チューブの軸線にほぼ平行にラミニンで被覆されたコラーゲン繊維束を挿入した人工神経管が開示されている。特許文献4には、生体内吸収性材料よりなる繊維を束ねた構造を有する神経再建用基材が開示されている。特許文献5には、コラーゲンからなるスポンジ、チューブ、コイル等の支持体が開示されている。特許文献6には、生体分解性材料又は生体吸収性材料からなるスポンジ状の微細なマトリックスと、直線状の生体組織誘導経路又は器官誘導経路とからなる支持体が開示されている。さらに、特許文献7には、生分解性ポリマー材料からなるスポンジと、該スポンジより分解吸収期間の長い生分解性ポリマーからなる強化材を含み、その内面がスポンジからなる神経再生チューブが開示されている。
これらの神経再生管はいずれもコラーゲンを神経再生の足場として使用するが、コラーゲンの神経細胞の接着性、細胞増殖能及び分化誘導能が十分でなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平5−237139号公報
【特許文献2】WO98/22155号公報
【特許文献3】WO99/63908号公報
【特許文献4】特開2000−325463号公報
【特許文献5】特開2001−70436号公報
【特許文献6】特開2002−320630号公報
【特許文献7】特開2003−19196号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、かかる従来技術の現状に鑑み創案されたものであり、その目的は、神経細胞の接着性、細胞増殖能及び分化誘導能に優れたコラーゲンを神経再生の足場として使用する神経再生誘導管を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、かかる目的を達成するために神経再生の足場として使用するコラーゲンの製造方法について検討した結果、豚皮などの原料からコラーゲンを製造する際の洗浄や塩析時に必然的に混入される塩化ナトリウムが神経細胞の再生に悪影響を与えていること、そしてこの塩化ナトリウムの含有濃度を低下させたコラーゲンを使用することにより神経細胞の増殖及び神経突起の伸長が向上することを見出し、本発明の完成に至った。
【0010】
即ち、本発明は、コラーゲンを神経再生の足場として使用する神経再生誘導管において、pH7.0以上、9.5以下の等電点沈殿で行い、塩化ナトリウム含有濃度を乾燥状態で2.0重量%以下、好ましくは0.1〜1.5重量%になるように精製したコラーゲンを使用することを特徴とする神経再生誘導管である。
【0011】
本発明の神経再生誘導管の好ましい態様では、コラーゲンの精製はpH8.0以上、9.0以下の等電点沈殿で行われ、神経再生誘導管は、生分解性ポリマーからなる管状体にコラーゲンを被覆し、さらに管状体の内部にコラーゲンを充填して形成され、生分解性ポリマーはポリグリコール酸、ポリ乳酸、乳酸−カプロラクトン共重合体からなる群から選択され、管状体は内径0.1〜20mm、外径0.15〜25mm、長さ1.0〜150mmである。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、コラーゲンの製造工程で必然的に混入される塩化ナトリウムの含有濃度を2重量%以下に低下させた精製コラーゲンを使用することによって、神経細胞の接着性、細胞増殖能及び分化誘導能に優れた神経再生誘導管を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明例のコラーゲンゲル内の細胞の様子を示す顕微鏡写真である。
【図2】比較例のコラーゲンゲル内の細胞の様子を示す顕微鏡写真である。
【図3】実験1で測定した吸光度(相対値)のグラフである。
【図4】実験2で測定した吸光度(相対値)のグラフである。
【図5】実験3で使用したコラーゲンコート1〜6の詳細を示す。
【図6】実験3で測定した吸光度(相対値)のグラフである。
【図7】実験3で測定した吸光度(相対値)のグラフである。
【図8】実験4のコラーゲン(pH5.5)コートプレートで培養した細胞の細胞分化の様子を示す顕微鏡写真である。
【図9】実験4のコラーゲン(pH8.5)コートプレートで培養した細胞の細胞分化の様子を示す顕微鏡写真である。
【図10】実験4のコラーゲン(pH10.2)コートプレートで培養した細胞の細胞分化の様子を示す顕微鏡写真である。
【図11】実験4で測定した4日間培養後の細胞分化率のグラフである。
【図12】実験4で測定した11日間培養後の細胞分化率のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の神経再生誘導管は、コラーゲンの製造工程で混入される塩化ナトリウム含有濃度を乾燥状態で2重量%以下になるように精製したコラーゲンを神経再生の足場として使用することを特徴とする。
【0015】
コラーゲンは、各種細胞の基質の役割を果たしているので、医用材料として生体に応用した際、組織との親和性が良く、神経細胞の生長の足場として従来から使用されている。
【0016】
神経再生の足場として使用する従来のコラーゲンは一般に、食肉検査場にて採取凍結された豚皮を出発原料とし、これに中性プロテアーゼを添加・加温処理し、塩化ナトリウム溶液で繰り返し洗浄し、脱水後、イソプロパノール、アセトンにて洗浄し、減圧乾燥して脱脂済みチップを作り、この脱脂済みチップを酢酸溶液中に添加し、塩酸でpHを調整し、ペプシン添加・分解し、水酸化ナトリウム溶液で高pHに調整し(ウィルス不活性化工程1)、塩酸で低pHに調整し(ウィルス不活性化工程2)、水酸化ナトリウムでpH2〜3に調整してろ過し、塩化ナトリウム溶液を加えて塩析し、遠心分離により濃縮し、この濃縮物を精製水に添加・溶解し、再び塩化ナトリウム溶液を加えて塩析し、遠心分離により濃縮し、凍結乾燥することによって製造される。
【0017】
このように従来使用されているコラーゲンは、その製造工程において塩化ナトリウム溶液による洗浄や塩化ナトリウム溶液による塩析を含むため、使用されているコラーゲンの塩化ナトリウム濃度は、市販品を含め、4重量%以上であった。本発明者は、コラーゲン中の塩化ナトリウム含有濃度が神経細胞の生存・発育に影響し、この濃度が高すぎると浸透圧によって細胞膜を破壊すると考えた。そこで、塩化ナトリウム含有濃度を低減するように精製したコラーゲンを神経再生誘導管に使用したところ、この神経再生誘導管は従来のコラーゲンを使用したものより極めて優れた細胞接着性、細胞増殖能を発揮することを見出した。本発明は、かかる知見に基いて、神経再生誘導管の足場として乾燥状態の塩化ナトリウム含有濃度を2.0重量%以下、好ましくは0.1〜1.5重量%に低減するように処理したコラーゲンを使用する。この塩化ナトリウム濃度は原子吸光光度法(灰化)により測定される。浸透圧を下げることによる細胞膜破壊防止のためには、塩化ナトリウム濃度は低い方がよいが、技術的な面やコラーゲンの安定性の面から0.1重量%程度が下限と思われる。塩濃度を低下するための処理としては、後述するような等電点沈殿(濃縮)のほか、透析による方法などがあり、本発明においては公知のいずれの方法も利用できる。
なお、原子吸光光度法による塩化ナトリウム濃度の測定は、試料1〜4gを石英ビーカーにとり、電熱器上で徐々に温度を上げて炭化させた後、最終的にマッフル炉で6〜8時間かけて灰化し(500℃)、残渣を10重量%塩酸水溶液で再溶解後、終濃度1重量%になるように希釈し、アセチレン−空気によるフレーム原子吸光法にて測定する。このときの測定波長は589.6nmである。
【0018】
本発明の神経再生誘導管で使用するコラーゲンは、従来公知のいかなる方法でも製造できるが、例えば上述の医療用に市販されている従来のコラーゲンを出発原料とし、2〜10℃冷却下、このコラーゲンを注射用蒸留水に溶解し、水酸化ナトリウム溶液でpH6.0以上、10.0未満に調整して等電点沈殿を行い、遠心分離し、上清を破棄し、沈殿物を凍結乾燥することによって製造されることができる。このような等電点範囲のコラーゲンを使用することにより、極めて優れた細胞の分化誘導能を発揮することを見出し、ついに本発明を完成した。pH6.0以上、10.0未満の等電点を有するコラーゲンを神経再生の足場として用いることによって、細胞の分化誘導能が向上する理由は詳細に解明されていないが、pH6.0未満および10.0以上で沈殿する画分に細胞との親和性が低い因子が含まれている可能性が考えられるし、逆にpH6.0以上、10.0未満で沈殿するコラーゲンが特に細胞との親和性が高いことなどが考えられる。あるいは、未精製のコラーゲンはI型コラーゲンとIII型コラーゲンがおおよそ7:3の比で構成されているが、このI型とIII型の構成比が変化することによる影響も考えられる。本発明において、より好ましい等電点の範囲はpH7.0以上9.5以下、さらに好ましくはpH8.0以上9.0以下である。
【0019】
本発明の神経再生誘導管は、従来公知の方法に従って製造することができ、例えば、生分解性ポリマーからなる管状体にコラーゲンを被覆し、さらにその管状体の内部にコラーゲンを充填することによって形成することができる。管状体の大きさは再生する神経の部位や必要な強度にもよるが、一般に内径0.1〜20mm、外径0.15〜25mm、長さ1.0〜150mmである。実際には、時間の制約や生産コストに鑑み、多数の種類の大きさの管状体からなる神経再生誘導管を予め用意しておくことが好ましい。
【0020】
管状体を構成する生分解性ポリマーとしては、ポリグリコール酸、ポリ乳酸、乳酸−カプロラクトン重合体、グリコール酸−カプロラクトン共重合体、ポリジオキサノン、グリコール酸−トリメチレンカルボン酸などを挙げることができる。入手の容易性及び取り扱い性の面から、ポリグリコール酸、ポリ乳酸、乳酸−カプロラクトン共重合体、特にポリグリコール酸を用いることが好ましい。生分解性ポリマーは単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。
【0021】
管状体としては、前記生分解性ポリマーを多孔質化された管状体に成型したものを用いてもよいし、前記生分解性ポリマーの極細繊維を複数本束ねたものを管状に編んだものを用いてもよい。多孔質体や編目(網目)の細孔径や空隙率は目的とする用途や強度にあわせて適宜調整すればよい。
【0022】
また、生分解性ポリマーからなる極細繊維の直径は1〜50μmであることが好ましい。繊維直径が小さすぎると、繊維間隙が密になるため、コラーゲンが浸透しにくかったり、管状体の柔軟性が低下することがある。逆に、繊維直径が大きすぎると、コラーゲンの保持量が少なくなり、神経成長速度が上がらなかったり、管状体の強度が不足することがある。より好ましくは、極細繊維の直径は3〜40μmであり、さらに好ましくは6〜30μmである。
【0023】
管状体を成形するには、前記繊維直径を有する生分解性ポリマーからなる極細繊維を5〜60本束ねて、経糸及び緯糸として交互に編むことが好ましい。極細繊維を束ねる本数が少なすぎると、管状体の強度が不足したり、十分なコラーゲンの保持量を確保できないことがある。逆に、極細繊維を束ねる本数が多すぎると、細径の管状体を作成できなかったり、管状体の柔軟性を確保できないことがある。より好ましくは、極細繊維は10〜50本であり、さらに好ましくは20〜40本である。
【0024】
前記極細繊維束を交互に編んで管状体を成形する際、網目の孔径は、好ましくは約5〜300μm、より好ましくは10〜200μmである。網目の孔径が小さすぎると、毛細血管の侵入や水透過性の低下により細胞や組織の増殖が阻害されることがある。約300μmを越えると組織の進入が過剰となり、細胞や組織の増殖が阻害されることがある。
【0025】
本発明において、管状体の外部表面は、当業者に公知の方法でコラーゲン溶液を複数回塗布することにより被覆され、管状体の内部(内腔)はコラーゲンを充填することにより満たされる。この際、コラーゲン溶液は、ラミニン、ヘパラン硫酸プロテオグリカン、エンタクティン及び成長因子を含んでいても良い。成長因子としては、EGF(上皮増殖因子)、βFGF(線維芽細胞増殖因子)、NGF(神経成長因子)、PDGF(血小板由来増殖因子)、IGF−1(インスリン様増殖因子)、TGF−β(トランスフォーミング成長因子)などが挙げられる。また、コラーゲン溶液は、塩酸溶液の形で刷毛又は毛筆を用いて1回塗布するごとに完全に乾燥してから次回の塗布をするようにして複数回塗布することが好ましい。
【0026】
コラーゲンを被覆および充填した管状体は、凍結、凍結乾燥、架橋処理を施してコラーゲンを架橋することが好ましい。凍結は好ましくは−10〜−196℃、より好ましくは−20〜−80℃で3〜48時間の条件で行うのが好ましい。凍結することによって、コラーゲン分子の間に微細な氷が形成され、コラーゲン溶液が相分離を起こし、スポンジ化する。次に、前記凍結させたコラーゲン溶液を、真空下、初期温度−40〜−80℃で、約12〜48時間凍結乾燥する。凍結乾燥することによって、コラーゲン分子間の微細な氷が気化するとともに、コラーゲンスポンジが微細化する。架橋方法としては、γ線架橋、紫外線架橋、電子線架橋、熱脱水架橋、グルタルアルデヒド架橋、エポキシ架橋、及び水溶性カルボジイミド架橋が挙げられるが、架橋の程度をコントロールしやすく、架橋処理を行っても生体に影響を及ぼさない熱脱水架橋が好ましい。熱脱水架橋処理は、真空下、例えば約105〜150℃、より好ましくは約120〜150℃、さらに好ましくは約140℃の温度で、例えば約6〜24時間、より好ましくは約6〜12時間、さらに好ましくは約12時間行う。架橋温度が高すぎると、生体内分解吸収性材料の強度が低下する可能性がある。また、架橋温度が低すぎると十分な架橋反応が生じない可能性がある。
【実施例】
【0027】
本発明のコラーゲンの効果の優位性を実証する実験を以下に示す。
【0028】
(塩化ナトリウム濃度の測定)
原子吸光光度法による塩化ナトリウム濃度の測定は、試料1〜4gを石英ビーカーにとり、電熱器上で徐々に温度を上げて炭化させた後、最終的にマッフル炉で6〜8時間かけて灰化する(500℃)。残渣を10重量%塩酸水溶液で再溶解後、終濃度1重量%になるように希釈し、アセチレン−空気によるフレーム原子吸光法にて測定する。なお、測定波長は589.6nmである。
【0029】
実験1:コラーゲンゲル培養実験
1.本実験の目的
通常、細胞培養実験ではウェルプレート底面での二次元培養が基本である。しかし、三次元培養を行った場合は二次元培養時の細胞の挙動とは大きく異なると言われており、神経再生能を評価するならば三次元培養がより実際に近い系であると考えられる。そこで、本実験ではコラーゲンゲルで三次元培養を行い、コラーゲンの種類によって培養細胞の挙動が異なるかどうかを確認することを目的とした。
【0030】
2.本実験で使用したコラーゲン
(1)比較例のコラーゲン
日本ハム(株)製の「NMPコラーゲンPS」を比較例のコラーゲンとして使用した。この比較例のコラーゲンは、豚皮を出発原料として脱脂処理及び精製処理を行うことにより製造されたものであり、脱脂処理には塩化ナトリウム溶液での繰り返しの洗浄工程が含まれており、精製処理には塩化ナトリウムによる塩析工程が含まれている。この比較例のコラーゲンは、原子吸光光度法(灰化)により測定すると、乾燥状態で4.0重量%の塩化ナトリウムを含有していた。
(2)本発明例のコラーゲン
上記の比較例のコラーゲンの一部を出発原料として利用し、これをpH8以上9未満の等電点沈殿により精製して本発明例のコラーゲンを調製した。この本発明例のコラーゲンは、原子吸光光度法(灰化)により測定すると、乾燥状態で1.0重量%の塩化ナトリウムを含有していた。
【0031】
3.コラーゲンゲル培地の作成
上記で準備した2種類のコラーゲンをそれぞれ常法に従って塩酸に溶解させ、0.5重量%コラーゲン−塩酸溶液を調製した。このうち、本発明例のコラーゲン溶液を24ウェルマイクロプレート(IWAKI製)の8個のウェルに300μlずつ加え、比較例のコラーゲン溶液を同じプレートの別の8個のウェルに300μlずつ加えた。その後、プレートをインキュベーター内で37℃で30分間静置した。
【0032】
4.PC12細胞のコラーゲンゲル培養
(1)PC12細胞(大日本製薬ラボラトリープロダクツ製のラット副腎褐色細胞腫由来の細胞)をDMEM培地で予め継代数6まで培養しておき、遠心分離で細胞を回収後、DMEM培地15mlに1×106個となるように細胞数を調整して懸濁し、50μg/mlNGF(神経成長因子、R&D systems Inc.製、リン酸緩衝溶液)を15μl加えて培養液を調製した。
なお、DMEM培地とは、RPMI 1640液体培地(大日本製薬ラボラトリープロダクツ製、グルタミン酸不含有、重曹含有)500mlにウシ胎児血清(大日本製薬ラボラトリープロダクツ製)25ml、ウマ血清(大日本製薬ラボラトリープロダクツ製)50ml、200mMグルタミン液(大日本製薬ラボラトリープロダクツ製、29.23mg/ml)5mlを添加して混合したものである。
(2)調製した培養液を予め作成したコラーゲンゲル培地のウェルに300μlずつ滴下した。
(3)ウェルプレートをインキュベーター内(37℃、CO2濃度5.0%)で4日間培養した。
【0033】
5.細胞の様子の観察
4日間の培養後、コラーゲンゲル内の細胞の様子を顕微鏡で観察し、代表例を写真撮影した。その結果を図1及び図2に示す。
【0034】
6.生存細胞数の測定
(1)4日間培養後の生存細胞数を測定するため、ウェルに1重量%コラーゲナーゼ溶液を50μlずつ滴下し、ウェルごと軽く攪拌しながら37℃、30分間でコラーゲンゲルを溶解させた。
(2)コラーゲンゲル溶解後、MTTアッセイ溶液を各ウェルに50μl加え、インキュベーター内で30分間静置した。
(3)30分間静置後、450nmでの吸光度を測定し、各コラーゲンゲルについて8個のウェルでの吸光度の値から平均値及び標準偏差を求め、図3にグラフとして表した。なお、図3のグラフでは本発明例のコラーゲンの吸光度は比較例のコラーゲンゲルの平均吸光度を100とした相対値として表されている。また、吸光度は生存細胞数と正比例する。
【0035】
7.本実験の考察
(1)細胞の様子の観察
図1及び図2の対比から明らかなように、本発明例のコラーゲンを使用した培養(図1)では比較例のコラーゲンを使用した培養(図2)より細胞が良く増殖しており、神経突起の伸長も著しい。
(2)生存細胞数の測定
図3から明らかなように、本発明例のコラーゲンを使用した培養の吸光度は比較例のコラーゲンを使用した培養の吸光度より平均39%高く、この差は統計学的にも有意な差であった(p<0.01)。従って、図3の結果から、本発明例のコラーゲンは比較例のコラーゲンより有意に高い細胞増殖能を有することがわかる。
(3)以上の結果から、本発明例のコラーゲンは比較例の従来のコラーゲンより細胞増殖能及び分化誘導能において優れているといえる。
【0036】
実験2:コラーゲンコート接着性実験
1.本実験の目的
本発明例のコラーゲンと従来のコラーゲンの細胞接着性の比較を行うため、両コラーゲンでの培養後にアスピレーターで浮遊する細胞を吸引、除去し、プレートに接着する細胞のみを測定し、その数を比較することによりコラーゲンの種類によって細胞の接着性に有意な差があるかどうかを確認することを目的とした。
【0037】
2.コラーゲンコートの作成
(1)実験1で使用した本発明例のコラーゲンと比較例のコラーゲンを0.05重量%になるように塩酸で希釈し、24ウェルマイクロプレート(IWAKI製)のそれぞれ8個のウェルにこれらのコラーゲン溶液を300μlずつ入れ、1時間冷蔵庫に静置した。
(2)1時間静置後、各ウェルのコラーゲン溶液をアスピレーターで吸引し、ウェルに付着しているコラーゲンコートをクリーンベンチ内で1時間自然乾燥させた。
【0038】
3.PC12細胞のコラーゲンコート培養
(1)PC12細胞(大日本製薬ラボラトリープロダクツ製のラット副腎褐色細胞腫由来の細胞)をDMEM培地で予め継代数6まで培養しておき、遠心分離で細胞を回収後、DMEM培地25mlに5×106個となるように細胞数を調整して懸濁し、50μg/mlNGF(神経成長因子、R&D systems Inc.製、リン酸緩衝溶液)を25μl加えて培養液を調製した。
(2)予め作成していたコラーゲンコートウェルプレートの各ウェルに、調製した培養液を300μlずつ入れた。
(3)ウェルプレートをインキュベーター内(37℃、CO2濃度5.0%)で5日間培養した。
【0039】
4.接着細胞数の測定
(1)浮遊細胞及びきちんと接着していない細胞を取り除くため、ウェルプレートを85度に傾けながら、培地をすべて吸引した。このとき、接着細胞を吸引しないように注意した。
(2)その後、DMEM培地300μlとMTTアッセイ溶液30μlを各ウェルに加え、インキュベーター内で30分静置した。
(3)30分静置後、450nmでの吸光度を測定し、各コラーゲンコートについて8個のウェルでの吸光度の値から平均値及び標準偏差を求め、図4にグラフとして表した。なお、図4のグラフでは本発明例のコラーゲンコートの吸光度は比較例のコラーゲンコートの平均吸光度を100とした相対値として表されている。
【0040】
5.本実験の考察
図4から明らかなように、本発明例のコラーゲンコートの接着細胞数を表す吸光度は比較例のコラーゲンコートの吸光度より平均で49%高く、この差は統計学的にも有意な差であった(0.01<p<0.05)。再生医療における足場の細胞接着性は非常に重要な要素であり、図4の結果から、本発明のコラーゲンは従来のコラーゲンに比べて神経再生の足場として用いるのに好適であることがわかる。
【0041】
実験3:塩化ナトリウム濃度を変化させたコラーゲンコート培養実験
1.本実験の目的
コラーゲン中の塩化ナトリウム含有濃度の違いが細胞の生存および増殖にどれくらい影響があるかを調べることを目的とした。
【0042】
2.コラーゲンコートの作成
(1)実験1で使用した本発明例のコラーゲン、これに塩化ナトリウムを加えて塩化ナトリウム濃度を5重量%、10重量%に調整したもの、実験1で使用した比較例のコラーゲン、これに塩化ナトリウムを加えて塩化ナトリウム濃度を5重量%、10重量%に調整したものを用意した(図5のコラーゲンコート1〜6参照)。各コラーゲンを0.01重量%塩酸溶液になるように調整し、24ウェルマイクロプレート(IWAKI製)を2枚使って、各コラーゲンを4個のウェルに300μlずつ滴下し、1時間冷蔵庫に静置した。
(2)1時間静置後、各ウェルのコラーゲン溶液をアスピレーターで吸引し、ウェルに付着しているコラーゲンコートをクリーンベンチ内で1時間自然乾燥させた。
【0043】
3.PC12細胞のコラーゲンコート培養
(1)PC12細胞(大日本製薬ラボラトリープロダクツ製のラット副腎褐色細胞腫由来の細胞)をDMEM培地で予め継代数6まで培養しておき、遠心分離で細胞を回収後、DMEM培地15mlに1×106個となるように細胞数を調整して懸濁し、50μg/mlNGF(神経成長因子、R&D systems Inc.製、リン酸緩衝溶液)を15μl加えて培養液を調製した。
(2)調製した培養液を予め作成したコラーゲンコートウェルプレートの各ウェルに300μlずつ滴下した。
(3)ウェルプレートをインキュベーター内(37℃、CO2濃度5.0%)で5日間培養した。
【0044】
4.生存細胞数の測定
(1)MTTアッセイ溶液を各ウェルに30μlずつ加え、インキュベーター内で30分静置した。
(2)30分静置後、450nmでの吸光度を測定し、各コラーゲンコートについて8個のウェルでの吸光度の値から平均値及び標準偏差を求め、図6、7にグラフとして表した。なお、図6、7のグラフでは本発明例のコラーゲンコートの吸光度は比較例のコラーゲンコートの平均吸光度を100とした相対値として表されている。
【0045】
5.本実験の考察
図6及び7から明らかなように、吸光度はコラーゲンの塩化ナトリウム濃度が低いほど大きくなる傾向があり、本発明例のコラーゲン(コラーゲンコート1(塩化ナトリウム濃度1重量%))を使用した培養の吸光度は、比較例のコラーゲン(コラーゲンコート6(塩化ナトリウム濃度10重量%))を使用した培養の吸光度より平均で27%高く、この差は統計学的にも有意な差であった(p<0.01)。図6及び7の結果から、塩化ナトリウム濃度が低い本発明例のコラーゲンは比較例のコラーゲンに比べ細胞増殖能において優れていることがわかる。
【0046】
実験4:等電点の異なるコラーゲンを用いた神経冠細胞培養による細胞分化評価実験
1.本実験の目的
コラーゲンの等電点の違いが細胞分化にどの程度の影響があるかを調べることを目的とした。
【0047】
2.等電点濃縮コラーゲン粉末の調整
(1)6gのNMPコラーゲンPSにMilliQ水を加え、Total1000mlの0.6重量%コラーゲン溶液を調製した。
(2)氷上で1〜3日攪拌し、コラーゲンを水に完全溶解させた。
(3)1N NaOHを滴下し、pH5.5の状態で沈殿を含むコラーゲン溶液200mlを別容器に回収した。
(4)1N NaOHの滴下を続け、同様にpH8.5の状態、及びpH10.2の状態で各々200mlを別容器に回収した。
(5)得られた3つのサンプルを遠沈管に移し、3,000rpmで45分間遠心分離を行なった。
(6)各遠沈管の上清を廃棄し、沈殿を−40℃で終夜凍結後、凍結乾燥機で2日間処理した。
(7)前記得られたサンプルを順に、サンプル1(pH5.5)、サンプル2(pH8.5)、サンプル3(pH10.2)とした。
なお、各コラーゲンサンプルにおいて、塩化ナトリウム濃度は1.2重量%であった。
【0048】
3.コラーゲン溶液の調製
(1)前記サンプル1、2、3の各300mgに0.001M HClを加え、Total 10mlの0.3重量%コラーゲン溶液を調製した。
(2)Voltexで混合した後、4℃で終夜放置しコラーゲンを完全溶解させた。
(3)0.3重量%濃度の各サンプル1mlに0.001M HCl9mlを加えよく混合し、0.03重量%コラーゲン溶液を調製した。
(4)24ウェルマイクロプレート(IWAKI製)の各ウェルに、前記0.03重量%コラーゲン溶液を200μlずつ分注し、室温(20℃)で10分間放置した。
(5)コラーゲン溶液を吸引し、1ml PBS(−)を添加後吸引して洗浄、更に再度洗浄を繰り返した。
(6)そのままクリーンベンチ内に静置して乾燥させた。
【0049】
4.細胞培養
(1)神経冠由来色素細胞(クラボウ製、Code No.KM−4009MP)を専用培地(クラボウ製、Code No.M−254−500+Code No.S−002−5)で3.75×104cells/mlになるよう希釈し、各ウェルに500μlずつ播種した。
(2)37℃、CO2濃度5.0%中にて4日間培養した。
(3)培地を吸引後、新たに専用培地を500μl添加し、引き続き37℃、CO2濃度5.0%中にて3日間培養した。
(4)培地を吸引後、新たに専用培地を500μl添加して、37℃、CO2濃度5.0%中にてさらに4日間培養した後、各ウェルの細胞分化の度合いを観察した。
【0050】
5.本実験の考察
図8〜10から明らかなように、コラーゲンの等電点の違いにより細胞分化のレベルに顕著な差が見られ、サンプル2(pH8.5)において顕著に分化促進されていることが細胞形態の観察から確認できる。
さらに、図11、12より、生存する全細胞中における分化した細胞の割合を算出した場合、pH5.5、pH10.2に比べてpH8.5において細胞分化率(%)が高いことが確認できる。
細胞分化率(%)=(分化した細胞数/生存する全細胞数)×100
一般的に、コラーゲンは生体内で約2週間で代謝・吸収されることから鑑みて、培養11日後に40%以上の細胞分化率を有していれば、実際の神経再生の場において良好な結果が得られるものと考えられる。細胞分化率は50%以上がより好ましく、60%以上がさらに好ましく、70%以上がさらにより好ましい。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明の神経再生誘導管は、細胞の接着性、細胞増殖能、細胞分化誘導能に優れるので、神経再生医療における適用が広がり、極めて有用である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
pH7.0以上9.5以下の等電点沈殿を行い、塩化ナトリウム含有濃度を乾燥状態で2.0重量%以下になるように処理したことを特徴とするコラーゲン。
【請求項2】
細胞培養の培地として使用することを特徴とする請求項1に記載のコラーゲン。
【請求項3】
請求項1に記載のコラーゲンを細胞培養の培地として使用することを特徴とする細胞培養方法。
【請求項1】
pH7.0以上9.5以下の等電点沈殿を行い、塩化ナトリウム含有濃度を乾燥状態で2.0重量%以下になるように処理したことを特徴とするコラーゲン。
【請求項2】
細胞培養の培地として使用することを特徴とする請求項1に記載のコラーゲン。
【請求項3】
請求項1に記載のコラーゲンを細胞培養の培地として使用することを特徴とする細胞培養方法。
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図11】
【図12】
【図1】
【図2】
【図8】
【図9】
【図10】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図11】
【図12】
【図1】
【図2】
【図8】
【図9】
【図10】
【公開番号】特開2010−253299(P2010−253299A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−179448(P2010−179448)
【出願日】平成22年8月10日(2010.8.10)
【分割の表示】特願2009−512087(P2009−512087)の分割
【原出願日】平成21年2月2日(2009.2.2)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年8月10日(2010.8.10)
【分割の表示】特願2009−512087(P2009−512087)の分割
【原出願日】平成21年2月2日(2009.2.2)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】
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