説明

細胞外に澱粉を放出する藻類を用いた澱粉およびエタノールの製造方法

【課題】太陽光の照射が少なく、低温環境である高緯度地域においても、工業生産時における余剰熱量を利用して、有機廃棄物や排出される炭酸ガスと、微弱な太陽光を、光ファイバーを用いて引き込むことにより、行うことが可能である、バイオエタノールの製造方法を提供する。
【解決手段】藻類を連続して培養し、澱粉粒を細胞外に放出させることで、藻類細胞(藻体)自体を回収することなく、そこから継続的に得られる澱粉粒を原材料として、これを糖化、醗酵工程を経て得られる連続的バイオエタノール製造法は、熱帯地域から、高緯度地域まで、世界中の何処においても製造可能であり、連続して澱粉生産を行うことによる製造コスト低減により、代替燃料としての価格に見合うバイオエタノールを製造することが出来る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞外に澱粉を放出する藻類を用いた澱粉の製造方法に関する。さらに、本発明は、細胞外に澱粉を放出する藻類を用いたエタノールの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
前世紀末より、化石燃料の枯渇、ならびに化石燃料の燃焼が招いた炭酸ガス排出量の増加が叫ばれるようになってきた。そこで、植物に二酸化炭素(以下、炭酸ガスと称す)を固定させて得られた澱粉等の多糖類を醗酵させることにより、燃料としてのエタノールを得る、所謂バイオエタノールの生産が望まれ、実用化されるに至っている。しかし、食料や飼料として利用していた穀物を原材料とする手法は、食品価格を高騰、飢餓に苦しむ人々を増加させ、今後、大きな問題となることは必定である。そこで、一般の植物同様に光合成によって炭酸ガスを固定し、澱粉生産を効率良く行うことが可能である、バイオマス生産性の高い藻類を得て、これを用いて得られたバイオマスからエタノールを発酵生産することが期待されてきた。
【0003】
一般的な微生物に関しては、醗酵工学によって得られた、食品や医薬品、ならびにこれらの添加物が、多種多様に、一般に広く利用されており、工業的にも、微生物から得られた酵素等が幅広い分野に用いられている。しかしながら、藻類を利用することは、わが国においては、コンブ、ワカメ、アサクサノリ等々の大型藻類が一般に食されており、また微細藻類のクロレラ等が健康食品として用いられているが、世界的に利用されている総量は極めて少ない。また、これら藻類から得られた物質は、カンテン、アルギン酸、カラギーナン等の多糖類が、増粘剤、ゲル剤として用いられていることを除けば、殆ど利用されているとはいえない状態である。藻類に関する研究にしても、光合成の研究を中心に、現在スタートしたばかりの状態であり、藻類を工業的に利用することは、殆ど成されていない。これは、従来、藻類の増殖速度が、通常の微生物に比較して極めて緩慢であることに由来する。
【0004】
藻類は淡水中から海水中、また温泉源等の特殊環境まで広く地球上に分布し、多種多様の形体、生物学的特性に進化し、地球環境に良く適応している。また藻類の多くは、光照射による独立栄養条件下の生育以外に、暗所における従属栄養条件下で、通常の微生物と同様に、生育することが可能である。このことは、光合成独立栄養(以下、光独立栄養と称す)条件下だけで生育し、地上で最も繁栄し、最も進化していると考えられる、高等植物とは異なるところである。この藻類の特性を利用して、工業的に排出されている炭酸ガスや有機廃棄物を栄養源として、これに光独立栄養を行わせるために太陽光照射を行うことで、安価に、しかも高効率に藻類を培養し、澱粉等有用なバイオマスを効率良く生産させることが望まれてきた。
【0005】
植物同様に光合成による炭酸ガス固定、もしくは有機物を炭素源として、澱粉生産を効率良く行い、細胞内に多量の澱粉粒を蓄積し、その一部を細胞外に放出する特性を有している、優良藻株、単細胞微細緑藻・Chlorella vulgaris Al−1y−3(以下、クロレラ・ブルガリスAl−1y−3とも称す)が知られている(特許文献1)。また、このようにして藻類から得られた澱粉を原材料としてエタノールを製造する方法が知られている(特許文献2)。
【0006】
近年、バイオエタノールの研究開発が盛んに行われるようになり、海水産の藻類を用いた方法(特許文献3)、(特許文献4)も知られており、これらには、産業廃棄物である燃焼灰を無機栄養源として用いる方法も報告されている。
【特許文献1】特開昭52−82793号公報
【特許文献2】特開昭50−148587号公報
【特許文献3】特開2000−316593号公報
【特許文献4】特開2003−310288号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来の技術では、得られた澱粉をエタノール醗酵させる段階で、藻類細胞を死滅させることから、その製造工程は連続的でなく、これがコスト高を招き、実際にバイオエタノールを販売するには至っていない。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記従来技術の欠点を解消すべく鋭意努力した結果、藻類細胞を死滅させることなく、連続的に培養することにより藻類が産生する澱粉を連続的に得る方法を見出し、本発明を完成させた。
【0009】
すなわち、本発明は、藻類細胞を死滅させず、藻類細胞を回収することなく培養することを含む澱粉の製造方法に関する。好ましくは、本発明は、澱粉を製造する方法であって、
(a)細胞外に澱粉を放出する藻類を培養する工程、
(b)培養物を静置し、放出された澱粉と藻類を分離する工程、および
(c)分離された澱粉を回収する工程、を含む方法に関する。
より好ましくは、上記(a)−(c)に加えて、さらに、
(d)工程(c)により回収されずに残された藻類をさらに培養する工程、および
(e)上記(b)から(d)の工程を繰り返すことを含む、澱粉を製造する方法に関する。
さらに好ましくは、上記工程(e)は、上記(b)から(d)の工程を連続的に繰り返す工程ある。
【0010】
また、本発明は、藻類細胞を死滅させず、藻類細胞を回収することなく培養することを含むエタノールの製造方法に関する。好ましくは、本発明は、上記本発明に係る澱粉の製造方法により澱粉を製造した後、製造された澱粉を糖化する工程、および澱粉の糖化物をアルコール発酵する工程を含む、エタノールを製造する方法に関する。より好ましくは、上記エタノールの製造方法は、澱粉を糖化する工程の前、または澱粉を糖化する工程時に、密閉型パイプライン中において澱粉にマイクロ波を照射する工程を含む。
【0011】
さらに、上記澱粉およびエタノールの製造方法において、藻類を培養する工程(a)は、炭酸ガスと光照射による光独立栄養により培養するか、または、有機物添加による従属栄養による培養と、炭酸ガスと光照射による光独立栄養による培養を並行して行うことを含み、炭素源(栄養源)としては、酢酸、有機酸廃液、または工業的に排出される二酸化炭素(炭酸ガス)または炭酸塩を用いることができる。
また、放出された澱粉と藻類を分離する工程(b)は、デカンテーションまたは水流により、澱粉と藻類を分離することを含む。
【0012】
本発明に係る澱粉の製造方法およびエタノールの製造方法に用いる藻類は、細胞外に澱粉を放出する藻類であれば限定されず、好ましくは、クロレラであり、より好ましくは、クロレラ・ブルガリスAl−1y株である。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る、澱粉およびエタノールの製造方法は、藻類細胞を死滅させることなく、連続的に培養できるので、従来に比較し安価に藻類細胞より澱粉およびエタノールを製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明に使用される「細胞外に澱粉を放出する藻類」は、単細胞生物であれば細胞外に、単細胞生物でなければ藻体外に澱粉を放出する、排出する、または分泌する藻類であり、特に限定されないが、好ましくは、Chlorella vulgaris Al−1y株(以下、クロレラ・ブルガリスAl−1y株とも称す)(受託番号:FERM BP-10915)である。
培養条件は特に限定されず、培地の組成は、個々の藻類によって適宜設定され得る。例えば、炭素源として有機物(例えば、酢酸、蟻酸、クエン酸等の有機酸、グルコース、マルトース等の糖類、および/または脂質)、窒素源として有機物または無機物(例えば、尿素、硫酸アンモニウム、酢酸アンモニウム、硝酸アンモニウム、硝酸カリウム、ポリペプトン等)および無機塩類を含む培地を用いることができ、また、炭素源として、炭酸ガス(二酸化炭素)、炭酸塩等を用いることもできる。
なお、藻類、とりわけクロレラ培養のための培地のpH、培養温度等の条件も当業者が適宜設定でき限定されないが、好ましくは、pH5〜9、培養温度25〜42℃であり、より好ましくは、pH7〜8、培養温度30〜37℃である。
また、培養条件(培地組成、培養温度等を含む)としては、細胞分裂が活発に行われる条件が好ましい。
【0015】
上記培地を用い、藻類は、好気的に暗所培養(従属栄養的(heterotrophic)培養)により培養されるか、光合成により独立栄養的(autotrophic)に培養され得る。さらに、従属栄養的培養(従属栄養による培養)と独立栄養的培養(光独立栄養による培養)を並行させて藻類を培養することもできる。例えば、炭素源として、有機物(有機酸、糖類および/または脂質等)を添加した培地を用い、藻類を従属栄養的に培養することができ、また、炭素源として、炭酸ガスを用い、光照射により独立栄養的に培養することもできる。場合により、上記有機物添加による従属栄養による培養と炭酸ガスと光照射による光独立栄養による培養を併存させて、培養しても良い。なお、光合成に必要な光は、太陽光の他、電球、光ファイバー等の人工の光も利用できる。
【0016】
環境への貢献、および安価な澱粉およびエタノールの製造の観点から、栄養源としての有機物は、市販製品を用いることもできるが、廃液等を用いることもできる。藻類による澱粉製造工程において、工業的に多量に排出されている有機酸廃液等を炭素源として用いることで、極めて安価にエタノールの製造を行うことが可能である。炭素源として添加する有機酸廃液の種類や、添加方法は、限定されないが、酢酸が工業的に広く用いられ、排出量が多いことから、容易に利用することが可能な有機酸廃液の一例としては酢酸廃液が挙げられる。また、グリセリンやアルコール類の廃液も利用できる。これらの廃液は、単独で用いても、組み合わせて用いても良い。さらに、炭素源として、工業的に排出される二酸化炭素(以下、炭酸ガスとも称す)または炭酸塩を用いることもできる。所謂排気ガスとして、排出される炭酸ガス量は年々増加の一途をたどっており、炭酸ガスの排出削減が叫ばれているが、実施することは困難を極め、炭酸ガス排出量削減は不可能であるとも言われている。従来、大気中に放出されて拡散した低濃度の炭酸ガスを、自然条件下において、植物が利用する以外に、低減させる手法を持ち合わせてはいない。本発明は、工業的に排出される高濃度の炭酸ガスを、大気中に放出することなく再利用してエタノールを得るもので、極めて効率良く炭酸ガス排出削減を行うことが可能である。手法として、工業的に排出される炭酸ガスを、藻類培養槽内に直接通気してもよいが、炭酸ガス通気によりpHの低下が認められる場合は、水酸化ナトリウム等のアルカリ剤、もしくは、工業的に排出されている灰分廃棄物を利用し、中和してもよい。培地に添加する窒素源として、畜産農家から廃棄される豚糞尿、他の家畜、家禽等の廃棄物、また屠殺場や屎尿処理場の廃棄物を単独で用いても、また組み合わせて用いても良い。
【0017】
本発明における、放出された澱粉と藻類の分離は、特に限定はされないが、遠心分離、篩、デカンテーションまたは水流等により、澱粉および藻の細胞の粒子径および/または形等の物理的性質に基づく分離手段によりなされ得る。本発明者らは、細胞外に澱粉を放出する藻類、とりわけ細胞外に澱粉を放出するクロレラを培養した後、十分長い時間静置すれば、培養器に沈降した藻類の堆積層の上に、藻類から放出された澱粉粒子が堆積することを見出した。静置時間は、培養器の大きさ、形状、培養する藻類により変化するが、1〜24時間であり、好ましくは3時間以上である。
【0018】
静置後、藻類の層の上に自然沈降し堆積した澱粉粒子は白色であり、濃緑色等の藻類と明確に区別でき、デカンテーションまたは水流によっても、容易に澱粉を藻類から分離し、回収することができる。このような澱粉と藻類の容易な分離は、特に、培養液量の多いクロレラの工業的な培養においては、大量の培地に対応できる遠心分離機、篩等の装置が不要となり、澱粉およびエタノールの製造コストの削減に寄与する。また、培養後、静置により自然沈降して藻類の上に堆積した澱粉をデカンテーション等で分離回収することにより、培養した藻類が培養器に残り、これに培地を加えることで、藻類を回収することなく容易に再培養が可能となる。
【0019】
本発明において、分離された澱粉を回収する手段は特に限定されるものでないが、例えば、水またはアセトン等の溶媒で洗浄し、遠心分離機により、例えば、2000rpmで遠心して澱粉を回収することができる。
【0020】
上記澱粉を回収後、回収されずに残された藻類をさらに培養する工程は、例えば、培養器に残された藻類に培地を再添加し、最初の培養条件で、再培養することにより達成され得る。培地、培養条件は、上記のように当業者が適宜設定できる。この後、培養物を静置し、放出された澱粉と藻類を分離する工程、分離された澱粉を回収する工程、回収されずに残された藻類をさらに培養する工程を繰り返すことにより、連続的に澱粉およびエタノールを藻類から製造することが可能となる。
本発明者らは、細胞外に澱粉を放出する藻類、とりわけ、細胞外に澱粉を放出するクロレラを、複数回培養しても得られる澱粉の量が大きく変化しないことを見出した。また、再培養時には初回の培養時よりも培養開始時のクロレラの量が多くなっているにもかかわらず、直前の培養と同じ培養器で同じ培地量を用いることで直前の培養と同様に増殖し、そして、再培養は少なくとも7回まで可能であることを見出した。澱粉が細胞分裂時に細胞外に放出されることを考慮すれば、少なくとも8回、同じ培養器で同じ培地量を用いてクロレラを回収することなく連続して増殖させることができ、その結果、各培養回数でほぼ同量の澱粉が安定して回収できることは予想外であった。また、再培養では、初回の培養に比較し、対数増殖期終了までの培養時間が短縮した。このような培養時間の短縮は、澱粉およびエタノールの製造コストを下げるので、有利な作用効果の1つである。
【0021】
本発明において、エタノールは、上記のように回収された藻類産の澱粉を糖化し、アルコール発酵することにより製造され得る。糖化、アルコール醗酵する方法に関しては、限定されるものでないが、その一例として、糖化方法としては、酸糖化法、酵素糖化法等が挙げられ、また醗酵は、定法のアルコール酵母を用いても、アルコール生産能を有する細菌等、他の微生物を用いても良い。
例えば、澱粉の糖化については、澱粉糖化酵素、例えば、マグナックス JW-101(洛東化成工業株式会社、Magnax JW-101, RAKUTO KASEI INDUSTRIAL Co.,Ltd.:α-アミラーゼ、グルコアミラーゼを含む)等を用いて生化学的に、または、澱粉の酵素糖化とアルコール発酵を同時並行的に行う方式(並行発酵)で、糖化処理を行っても良い。加えて、麹カビ等の微生物による澱粉の酵素糖化と、アルコール醗酵を同時並行的に行う方式、所謂並行復発酵によって、糖化処理とアルコール醗酵を同時に行っても良い。
【0022】
醗酵前処理として、または、澱粉を糖化する工程時に、密閉型パイプライン中においてマイクロ波照射を行ってもよい。一般にマイクロ波は、100μmから1m、周波数300メガヘルツから3テラヘルツの領域の電磁波であり、わが国では周波数2.45ギガヘルツが電子レンジ等の加熱機器用に、アメリカではこれに加えて9.15メガヘルツも用いられている。本発明では、マイクロ波の波長(周波数)を限定するものではないが、一般に広く使用されている、周波数2.45ギガヘルツを用いることが廉価である。澱粉からエタノールを製造するためには、定法では、酸や酵素を用いた澱粉の糖化工程が必要である。この糖化工程には、加熱処理が必要であり、従来の技術では、熱源による直接加熱が行われていたが、大きな容量になると、昇温と降温に長時間と多大な熱エネルギーを要していた。本発明は、澱粉の糖化法に関しては、限定するものでないが、藻類培養槽から分離して得られた澱粉粒を、瞬間的に昇温ならびに降温することを、密閉型パイプライン中においてマイクロ波照射を行うことで極めて効果的に、熱処理を行うことができる。
【0023】
アルコール発酵後、得られたエタノールは、蒸留され、脱水されて、アルコール濃度を高めたアルコールを製造することができる。蒸留および脱水の手段は、特に限定されず、当業者が通常知られている手段より適宜選択できる。
【0024】
以下、本発明の実施形態について、図を参照して詳細に説明する。本発明の技術的範囲は、下記の実施形態によって限定されるものではなく、その要旨を変更することなく、様々に改変して実施することができる。
【0025】
本発明に係る、培養した藻類細胞(藻体)を、藻体自体を回収、また死滅させることなく連続的に培養し、藻類細胞が放出した澱粉粒を継続的に得ることで、連続的にバイオエタノールを生産する方法は、図1に示すように、藻類培養工程(S1)、澱粉分離工程(S2)、澱粉糖化工程(S3)、アルコール醗酵工程(S4)、蒸留工程(S5)の5工程を含み得る。藻類培養工程(S1)は、光独立栄養(S11)、従属栄養(S12)、混合栄養(S13)による培養の3種の培養法を含み得る。光独立栄養(S11)は、一般の高等植物同様に、無機塩と炭酸ガスを炭素源(栄養源)とする、光合成による培養法であり、材料費が安価である半面、増殖が遅く、単位面積当たりの収量が低い。また、太陽光を光源とした場合、夜間の増殖は全く望めない。通常の、光合成による光独立栄養条件下における藻類の培養は、硝酸、もしくはアンモニアを窒素源として、リン酸とマグネシウムを、それぞれ窒素源の1/5〜1/20程度加え、これにカルシウム、鉄をはじめ各種金属類を微量に添加して調製した培地に、炭酸ガスを含む大気を通気して行われている。従属栄養(S12)は、炭素源として有機物を培地に添加しての培養であり、全くの暗黒下において、高密度に培養することが可能であり、単位面積当たりの収量が高い。混合栄養(S13)は、S11とS12の両工程を組み合わせる、つまり、有機物添加による従属栄養による培養と、炭酸ガスと光照射による光独立栄養を並行して培養する方法(mixotrophic)である。
これらの各栄養条件による培養法は、培養装置の立地条件により温度(気温)、日照時間等の自然環境、使用する廃棄物の種類等によって、適宜選択される。
【0026】
澱粉分離工程(S2)は、藻類培養工程(S1)で十分に増殖した藻類が細胞外に放出した澱粉を分離回収する工程である。分離方法としては、自然沈降による分離方法(S21)、遠心分離による方法(S22)、水流による分離方法(S23)などが挙げられる。
【0027】
澱粉糖化工程(S3)およびアルコール醗酵工程(S4)、熱処理工程(S5)は、それぞれ別個の独立した工程として行うことも可能であるが、並行して行うことが可能であり、通常は並行した工程として実施される。S3は、微生物による糖化法(S31)や、酵素による糖化法(S32)、酸による糖化法(S33)等によって実施され、またアルコール醗酵工程(S4)は、アルコール酵母やアルコール醗酵細菌等、微生物によって、実施され得る。S33工程を実施した場合には、中和工程(S34)が必要になる。これらの工程に用いる酸、アルカリは特に限定されるものではない。S5は、S31やS32工程に先立って澱粉のα化を行うべく実施される場合、ならびにS33の酸による加水分解を行う際に実施され得る。この加熱処理を密閉型パイプライン中におけるマイクロ波照射によって行ってもよい。一般に広く用いられている、周波数2.45ギガヘルツ(アメリカでは9.15メガヘルツも使用され得る)を使用することにより、工業生産上、コストを削減することができる。
【0028】
上記製造方法によって得られたエタノールは、アルコール濃度が5から20%であり、蒸留工程(S6)によって、アルコール濃度を高めることができる。蒸留法には、単なる加熱による常圧蒸留法(S61)、減圧下において常温、もしくは加熱によって行う減圧蒸留法(S62)、超音波等により振動させることにより、気化を促進させて行う振動蒸留法(S53)等が含まれ、これらの方法を単独で行っても良く、組み合わせて行っても良い(S64)。
【0029】
自動車等の内燃機関の燃料として用いるバイオエタノールは、内燃機関への悪影響をさける為に、含水量を極力低くしなければならない。そこで、場合により、脱水工程(S7)が付加される。脱水法には、無水硫酸ナトリウム等の無水塩、生石灰等の金属酸化物、または、その他薬剤による吸水法(S71)、ゼオライト等の多孔質を、そのまま、もしくは高温処理(焼成)して用いる吸水法(S72)、シリカゲル等の吸水材を用いる方法(S73)等が挙げられ、これらの方法を組み合わせた方法(S74)も採用することができる。なお、実験室内においては、モレキュラーシーブを用いる方法が簡便である。
【実施例】
【0030】
(実施例1)
Chlorella vulgaris Al−1y株等の藻類を培養し、藻類細胞重量と得られる澱粉量との関係を検討した。
【0031】
藻類培養に用いた液体培地1 L中には、2gの硝酸ナトリウム(NaNO3)、0.2gの硫酸マグネシウム(MgSO4・7H2O)、50mgの 塩化カルシウム(CaCl2・2H2O)、25mgの硫酸第一鉄(FeSO4.7H2O)、0.8gのリン酸水素二カリウム(K2HPO4)、0.25gのリン酸二水素一カリウム(KH2PO4)、3mgのホウ酸(H3BO3)、2mgの塩化マンガン(MnCl2・4H2O)、500μgの硝酸コバルト(Co(NO3)2・6H2O)、20μgの硫酸亜鉛(ZnSO4・7H2O)、8μgの硫酸銅(CuSO4・5H2O)、2μgのモリブデン酸ナトリウム(Na2MoO4・2H2O)を含んでいる。この液体培地に、寒天とグルコースを、それぞれ15gずつ加え、加温溶解した後、固化させた斜面寒天培地を藻類の保存培地として用いた。また藻類増殖用の液体培養は、上記培地組成に、酢酸アンモニウム20g、酢酸ナトリウム8g、酢酸カリウム7gを炭素源として、それぞれ加え、暗黒下、従属栄養条件において行った。なお培養中、藻類の増殖に伴ってpHがアルカリ側に変動することから、これを修正する目的で、酢酸を添加して、常にpH6.5〜7.5の範囲内に調整、維持した。また、すべての容器に分注した培地は、121℃、15分間蒸気滅菌を施した。
【0032】
前記保存培地上にあるChlorella vulgaris Al−1y株を、通気シリコン栓で施栓した100ml容バッフル付き三角フラスコ中の10mlの藻類増殖用・液体培地に移植、35℃に設定したロータリーシェーカーで72時間振盪(振盪回数:110回/分)した。この全量を、同500ml容フラスコ中の90mlの同培地に移植(総液量100ml)、同様の条件下において72時間培養した。これを1.5L容の小型醗酵槽(ジャーファーメンター)中、900mlの同培地に移植(総液量1L)、毎分、培地液量と同量の大気を小泡として通気、撹拌速度を100rpmとして、同様に96時間培養した。藻類細胞増殖の確認は、8時間毎に540nmの吸光度測定による濁度法、ならびにビルケル-チュルク型血球計算板を用いての測定によって行い、移植は、対数増殖期が終了する直前の時点で行った。培養終了後、藻類細胞、及び放出された澱粉粒は2,000gの遠心分離を10分間行うことで回収し、105℃において乾燥後、秤量した。藻類細胞に含まれる澱粉量は、アンスロン-硫酸法による全糖量定量値から、ソモギー-ネルソン法による還元糖量定量値を減じた値を全多糖量値とし、簡便的に、これに0.9を乗じた値を定量値とした。なお、回収されたものが澱粉であることは、ヨード澱粉反応により確認した。
【0033】
図2、図3に示すように、56時間の培養で、クロレラの増殖は極大値に達し、培養開始から96時間後の培養液1L中における藻類細胞の乾燥重量は7.5gであり、含まれる澱粉量は5.6gであった。藻類細胞重量の約75%が澱粉として存在することになるが、これは培養中において、本実施例に用いたChlorella vulgaris Al−1y株が、細胞外に放出した澱粉粒が蓄積されたことによる。他種の緑藻株を用いて同手法で行った実験では、Chlamydomonas sp. Al-5株では8.5g、ならびにScenedesmus basilensis C-66株では8.8gの藻類細胞の乾燥重量が得られたが、ともに澱粉含有量は低く、30%程度であった。本実施例の結果から、Chlorella vulgaris Al−1y株の優れた澱粉生産能力が確認できた。そこで、次に示す実施例2において、このChlorella vulgaris Al−1y株の藻類細胞を、連続的に維持し、澱粉生産を行った。
【0034】
(実施例2)
実施例1同様にChlorella vulgaris Al−1y株を、200Lの培養タンク(醗酵槽)中において、100Lの培地を用いて培養、対数増殖期を終了し、定常期に到達した直後の時点で、通気、撹拌を停止、16時間の自然沈降により、藻類細胞と澱粉粒をデカンテーションで分離した。得られた澱粉粒は、遠心により脱水し、アセトンを加えて、常温減圧下において乾燥、97gの乾燥した細胞外放出澱粉粒が得られた。また、分離した藻類細胞を含む培養液は、分離操作前の1/10の液量(約10L)になっていたことから、これに実施例1で用いた培養培地90Lを加えて、元の培養液量(100L)として、培養タンクの通気、撹拌を再開し、32時間培養後、前記同様に澱粉粒を回収した。そして、澱粉を分離回収した細胞をさらに培養した。同様に、連続的に培養を繰り返し、澱粉粒の回収を行った。表1に、培養を行った回数と、得られた澱粉粒重量を示す。
【0035】
【表1】

【0036】
このように、若干の変動はあるものの、安定して澱粉粒を連続的に生産できたことから、得られた澱粉を原材料にエタノールを試作製造した。前記手法で得られた澱粉粒500gを、濃硫酸50mlを含む2.5Lの水に懸濁し、10mm径のテフロン(登録商標)チューブを50mm/秒の流速で通し乍ら、2.45ギガヘルツのマイクロ波を、出力1.1kWで照射し、品温を90℃以上に30分間維持、澱粉の糖化を行った。この照射による糖化を、ソモギー-ネルソン法で還元糖量を測定して確認後、石灰乳(水酸化カルシウム:Ca(OH)2懸濁液)を添加してpH6に調整し、それに硫酸マグネシウム(MgSO4・7H2O)0.02%、リン酸水素二カリウム(K2HPO4)0.2%、および尿素((H2N2)CO)0.1%を含むように添加して醗酵用倍地とした。この糖濃度約20%となる醗酵用倍地に、予め米麹培地を用いて培養した酵母(財団法人日本醸造協会・協会7号、Saccharomyces cerevisae Kyokai No.7, Brewing Society of Japan)を500ml加え、30℃で、還元糖が無くなるまで(7日間)静置培養した。
【0037】
上記、酵母によるアルコール醗酵により、得られたエタノール含有・醗酵液を、ロータリーエバポレーターを用いて、減圧下50℃で2回蒸留した。この蒸留液のエタノール濃度を、フロート型比重計で測定したところ、72%で、得られた液量は306mlであった。このエタノール蒸留液に、予め乾熱乾燥したモレキュラーシーブ150gを加え24時間放置後、再度同条件で蒸留、得られた蒸留液に、予め乾熱乾燥したモレキュラーシーブ20gを加え3日間放置後、純度99%以上のエタノールが194ml得られた。
【0038】
(実施例3)
バイオエタノール製造の原材料として、以下の産業廃棄物を使用した。炭素源としては、化学工場から排出される酢酸廃液で、酢酸イオンの濃度が20%程度のもの(pH2.5〜4.0)と、窒素源としては、畜産農家から廃棄される豚糞尿を回収し、これをメタン醗酵させることで、炭素源をメタンガスとして回収した残査から、固形物を除去した液体で、アンモニア態窒素として0.5%程度含んでいるものを用いた。また、石油、天然ガスの精製工程から燃焼排出される炭酸ガスを想定し、炭酸ガス濃度を大気の10倍濃度に調整して通気した。
【0039】
上記廃液を、酢酸イオンが2 %、アンモニウムイオンが0.1%程度、それぞれ含まれるように混合、調整し、硫酸マグネシウム(MgSO4・7H2O)0.01%、リン酸水素二カリウム(K2HPO4)0.008%、リン酸二水素一ナトリウム(NaH2PO4)0.002%を加えて、前述の炭酸ガスを含む大気を、毎分・培地液量と同容積量を通気し、常にpHが6〜8の範囲内に入るように、酢酸廃液を用いて調整した。この廃液培地を充填した、内寸高220mm、幅100mm、厚さ20mmのガラス製扁平フラスコ(培養液量:400ml)内に、Chlorella vulgaris Al−1y株を72時間振盪(前培養)した培養液を、培地液量の1/10量移植した。このような培養基30本(総培養液量:12L)を、35℃、に調整した蛍光灯照射下4,000Luxの照度の人工気象器内で6日間培養することで、定常期に入ったことを確かめ、培養を終了し、藻類細胞と放出された澱粉粒を回収した。
【0040】
実施例1同様の分析法により、培養液12L中に含まれる藻類細胞の乾燥重量は87gであり、細胞内に含まれる澱粉量は36g、細胞外に放出された澱粉粒は19gと測定された。得られた澱粉粒10gを、実施例2同様に糖化し、アルコール醗酵試験用装置を用いてアルコールの生産を確認した。アルコール醗酵では、生産されたエタノールと等モル(同分子数)の炭酸ガスを排出していることから、この試験装置は、培養器内で発生する水蒸気を濃硫酸でトラップし、炭酸ガスを放出させることで、重量の軽減を秤量し、生産されたエタノール量を調査するもので、少量の試験検討に用いられている。その結果、3.9gの重量軽減が認められたことから、澱粉重量の半分程度のエタノールが得られたことが示された。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明の好適な実施例による、バイオエタノールの製造方法を示すフロー図である。
【図2】実施例1における、濁度法(540nm吸光度測定)によって測定した、1.5L容小型醗酵槽(ジャーファーメンター)中でのChlorella vulgaris Al−1y株の増殖曲線。
【図3】実験例1における、ビルケル-チュルク型血球計算板を用いて測定した、1.5L容小型醗酵槽(ジャーファーメンター)中でのChlorella vulgaris Al−1y株の増殖曲線。
【符号の説明】
【0042】
S1 一次工程、藻類培養工程
S11 光独立栄養
S12 従属栄養
S13 混合栄養による培養
S2 二次工程、澱粉分離工程
S21 自然沈降による分離方法
S22 遠心分離による方法
S23 水流による分離方法
S3 三次工程、澱粉糖化工程
S31 微生物による糖化法
S32 酵素による糖化法
S33 酸による糖化法等
S34 中和工程
S4 四次工程、アルコール醗酵工程
S5 五次工程、熱処理工程
S6 六次工程、蒸留工程
S61 常圧蒸留法
S62 減圧蒸留法
S63 振動蒸留法
S64 これらの方法を組み合わせた蒸留法
S7 脱水工程
S71 薬剤吸水による脱水法
S72 多孔質吸水による脱水法
S73 吸水材を用いる脱水法
S74 これらの方法を組み合わせた脱水法

【特許請求の範囲】
【請求項1】
澱粉を製造する方法であって、
(a)細胞外に澱粉を放出する藻類を培養する工程、
(b)培養物を静置し、放出された澱粉と藻類を分離する工程、および
(c)分離された澱粉を回収する工程、を含む方法。
【請求項2】
さらに、
(d)工程(c)により回収されずに残された藻類をさらに培養する工程、および
(e)工程(b)から(d)を繰り返すことを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の方法により澱粉を製造した後、
(f)請求項1または請求項2で回収された澱粉を糖化する工程、および
(g)澱粉の糖化物をアルコール発酵する工程
を含む、エタノールを製造する方法。
【請求項4】
さらに、
(h)澱粉を糖化する工程の前、または澱粉を糖化する工程時に、密閉型パイプライン中において澱粉にマイクロ波を照射する工程、
を含む、請求項3に記載のエタノールを製造する方法。
【請求項5】
藻類を培養する工程(a)が、炭酸ガスと光照射による光独立栄養により培養することを含む、
請求項1から4のいずれかに記載の澱粉またはエタノールを製造する方法。
【請求項6】
藻類を培養する工程(a)が、有機物添加による従属栄養による培養と、炭酸ガスと光照射による光独立栄養による培養を並行して行うことを含む、
請求項1から4のいずれかに記載の澱粉またはエタノールを製造する方法。
【請求項7】
藻類を培養する工程(a)が、炭素源として有機酸廃液を用いて行われる、
請求項1から6のいずれかに記載の澱粉またはエタノールを製造する方法。
【請求項8】
藻類を培養する工程(a)が、炭素源として工業的に排出される二酸化炭素(炭酸ガス)または炭酸塩を用いて行われる、
請求項1から6のいずれかに記載の澱粉またはエタノールを製造する方法。
【請求項9】
放出された澱粉と藻類を分離する工程(b)が、デカンテーションまたは水流により、澱粉と藻類を分離することを含む、請求項1−8のいずれかに記載の澱粉またはエタノールを製造する方法。
【請求項10】
藻類がクロレラである、請求項1−9のいずれかに記載の澱粉またはエタノールを製造する方法。
【請求項11】
クロレラがクロレラ・ブルガリスAl−1y株である、請求項10に記載の澱粉またはエタノールを製造する方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−88334(P2010−88334A)
【公開日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−260676(P2008−260676)
【出願日】平成20年10月7日(2008.10.7)
【出願人】(507313386)株式会社大垣バイオ・テクノロジー研究センター (2)
【出願人】(507313401)ラビオン・インターナショナル・インコーポレイテッド (2)
【氏名又は名称原語表記】Lovion International Inc.
【出願人】(505127721)公立大学法人大阪府立大学 (688)
【Fターム(参考)】