細胞外マトリックス癌ワクチンアジュバント
ワクチン、特にガンの治療に有用なワクチンの調製におけるアジュバントのとしての使用に適切な組成物を提供する。動物における腫瘍増殖を阻害するための方法も開示する。前立腺癌などの癌に対して動物を免疫するための方法も開示する。開示するアジュバントは、小腸粘膜下層(SIS)組織などの細胞外マトリックス物質を含む。その調製物は、シート、ゲル、液体(注射可能)、外套針、又は他の固体若しくは半固体の調製物の形態であってよい。本発明は、細胞外マトリックス物質を含まないワクチン調製物と比較して、腫瘍阻害を2倍以上強化し、細胞外マトリックスを強化するアジュバントを含まない調製物と比較して、4〜5倍強化する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、2005年10月27日に出願の「ワクチン担体及びアジュバントとしての細胞外マトリックス物質の使用」を発明の名称とする米国仮特許出願第60/730,379号及び2006年10月20日に出願の「細胞外マトリックス癌ワクチンアジュバント」を発明の名称とする米国特許出願第11/583,771号を参照する。上記出願の開示内容全体は、本明細書で参照することによって本明細書に取り込む。本発明の実施態様の更なる特徴は、2005年10月27日に出願の「ワクチン担体及びアジュバントとしての細胞外マトリックスの使用」を発明の名称とする米国仮特許出願第60/730,379号においても確認されてよい。
【0002】
37 C.F.R.§1.71(g)(1)に従って、特許請求の範囲に記載した発明は、特許請求の範囲に記載の発明が完成する以前に有効な35 U.S.C.103(c)(3)に規定の共同研究に従って為されたものであり、University of Notre DameとCook Biotech,Inc.(West Lafayette,IN.)又はその代理人による共同研究契約の範囲内で実施された活動の結果である。
【0003】
本発明は、一般的には、アジュバントを含む癌ワクチン及び単独の癌ワクチンアジュバントに関する。特に、本発明は、生物学的組織、特に小腸粘膜などの細胞外マトリックス物質から少なくとも部分的に得られるか又は由来する癌ワクチンアジュバントに関する。本発明は、細胞外マトリックス組織由来のアジュバントを含む癌ワクチン調製物を用いて、癌に対して動物を免疫するための方法の分野にも関する。本発明は、癌、特に、前立腺癌に対して動物を免疫するためのワクチンのための、細胞外マトリックス組織に由来する癌ワクチンアジュバントを製造するための方法として、癌ワクチンアジュバントを製造するための方法の分野にも関する。
【背景技術】
【0004】
ガンの治療のためのワクチン接種は、次第に関心を集めてきている。黒色腫、前立腺癌、及び乳癌のためのワクチンは、人の臨床試験を含む開発が実施されている。これらのワクチンの大半は、特定のタンパク質を用いて患者を直接免疫するか又は患者への輸液の前に回収した樹状細胞を間欠的に投与する。幾つかの試験は、in vitroで増殖させた不活化同種異系癌細胞を使用している。
【0005】
一般的には、癌ワクチンは、アジュバントとして含まれる特定のサイトカインと共に又はアジュバントなしで投与されている。アジュバントは、ワクチン免疫原に対する免疫反応を強化する化合物として定義される。
【0006】
正常な非悪性細胞と共にマイコバクテリアアジュバントを使用する報告が幾つか為されている。例えば、前立腺ガンの治療におけるヒト前立腺細胞の使用は、米国特許第6,972,128(Dalgleish et al.)に開示されている。特に、不死化正常(非悪性)ヒト前立腺細胞(複製能力なし)を含有する同種異系免疫治療剤が開示されている。マイコバクテリウムアジュバントは、経皮注射に適切なワクチンにおいて非悪性ネズミ黒色腫細胞調製物と共に使用されている。これらの調製物は、ネズミ腫瘍細胞増殖に対するある程度の保護を提供すると報告されている。
【0007】
水酸化アルミニウムとリン酸アルミニウムとの併用(まとめてalumと称される)は、ヒト及び脊椎動物に適用するアジュバントとして市販されているワクチンにおいて、現在使用されている(11,12)。ジフテリア及び破傷風毒素に対する抗体反応の増大におけるalumの効力は、よく確立されており、HBsAgワクチンはalumがアジュバントとして用いられている。alumの有用性は幾つかの適用についてよく確立されているが、限定的である。例えば、alumはインフルエンザワクチン及び一貫性のない許容されない細胞性免疫反応には効果が無い。alumをアジュバントとする抗原によって誘導された抗体は、マウスにおいて大半はIgG1アイソトープであり、これは幾つかのワクチン剤による保護に最適である可能性がある。
【0008】
アジュバント、典型的にはalumを含むバクテリアワクチンも開示されている。alumは共投与した免疫原に対するTh2抗体反応の刺激において特に有効であり、効果的な癌に対する免疫はTh1細胞性免疫に主に依存するため、alumは典型的には癌ワクチンには含まれない。明らかに、癌ワクチンは、癌免疫原に対する免疫反応の一般的な強化を提供するための方法から利益を得るであろう。
【0009】
ノスカピンは、米国特許第7,090,852号において、ワクチンのためのアジュバント並びに腫瘍及びガンの治療において使用するためのアジュバントとして開示されている。ノスカピンは、アヘン由来のアルカロイドであり、処方箋が必要なアヘン剤の市販品の生産における市販品の副産物として入手することが可能である。
【0010】
組換えの単独の免疫原の癌ワクチンも開示されている。臨床試験のフェーズ3にある、そのような製品の1つは、GVAX(登録商標)ワクチン(Cell Genesys,Inc.,South San Francisco,CA)である。当該癌ワクチンは、かなり進行した段階のホルモン抵抗性前立腺癌を有する患者に使用され、顆粒球−マクロファージコロニー刺激因子(GM−CSF)を分泌するように遺伝子改変されている2種の同種異系前立腺癌細胞株を含む。当該ホルモンは、癌ワクチンに対する身体の免疫反応の刺激における役割を担っている。前記細胞は、安全のために放射線照射されている(3)。GVAX製品を用いた癌ワクチン接種は、ワクチン接種を受けた癌患者の生存期間の中央値を約7ヶ月増大させることを示している(4)。
【0011】
幾つかの研究では、癌ワクチンアジュバントとして特定のサイトカイン、例えば、GVAXワクチンにおいてGM−CSFを利用しており(4)、それらのサイトカインは典型的には、免疫反応の特定の特徴のみ強化し、よく制御された保存条件の外では不安定である可能性がある(13、14)。
【0012】
純粋な可溶性の組換え及び合成抗原は、それらの良好な許容性にもかかわらず、残念なことに、生きている又は殺した病原体そのものを使用したワクチンよりも多くの場合においてより免疫原性が低い。かくして、より安全なサブユニットワクチンの開発に向けての動きが、より強力なアジュバントの必要性を主に作り出している。特に、より許容される毒性を有する細胞性(Th1)免疫を高めることが可能なアジュバントが緊急に必要とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】米国仮特許出願第60/730,379号
【特許文献2】米国特許出願第11/583,771号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
科学文献における数百を超えるアジュバントの開示があるにもかかわらず、alumが、USAにおけるヒトの使用について認可された唯一のアジュバントのままである(Petrovsky,2006)。残念なことに、alumは細胞性免疫に対しては効果がなく、蓄積するアルミニウムによる毒性の可能性について関心が高まっている。細胞性及び液性免疫を高めることが可能な安全且つ有効なアジュバントについて、未だ満たされない必要性が存在している。
【0015】
理想的な癌アジュバントについての必要条件は、多数の理由のために、従来のアジュバントとは異なる。第一に、ワクチンを受ける患者は、例えば、抗原提示機構の低下、活性化されたT細胞の非反応性、及び制御性T細胞による自己反応性の阻害の増大のために、免疫障害を持つ。第二に、腫瘍抗原は通常は自己由来のものであり、したがって、免疫原性が乏しい。第三に、腫瘍は、免疫編集、MHCクラスI分子の低発現若しくは無発現、又は抑制サイトカインの分泌などの、免疫系を避けるための回避機構を発達させている。かくして、癌ワクチンのためのアジュバントは、予防ワクチンのためのアジュバントよりも強力である必要があり、そのため、より毒性である可能性があり、かつ、自己免疫反応さえ誘導する可能性がある。
【0016】
癌抗原に対する免疫反応を高めるために、研究者は、多くの場合において、身体が異物として認識するおとり物質又はアジュバントを結合させる。その様なアジュバントは、多くの場合において、おとりと腫瘍細胞との双方に対する攻撃を開始させるように免疫系を「だます」タンパク質又は細菌である。他のアジュバントが作用して、免疫系内の特定のエフェクター細胞を刺激する。幾つかのアジュバントを以下に記載する。
【0017】
キーホールリンペットヘモシアニン(KLH)は、キーホールリンペットとして知られている、カリフォルニア及びメキシコの沿岸沿いで発見された殻を持った海の生き物によって作られるタンパク質である。KLHは、免疫反応を生じさせ、かつ、癌細胞抗原のための担体として作用する大きなタンパク質である(Bandandi,et al,2006(52);Redfern et al,2006(53))。癌抗原は、多くの場合において、免疫系に認識されない可能性がある比較的小さなタンパク質である。KLHは、Tヘルパー細胞として既知の免疫細胞に追加の認識部位を提供し、細胞毒性Tリンパ球(CTL)として既知の他の免疫細胞の活性化を増大させる可能性がある。
【0018】
カルメットゲラン桿菌(BCG)は、結核菌の不活化形態である。BCGは、ワクチン抗原に対する免疫反応を高めることを期待して幾つかの癌ワクチンに添加されている(Totterman,2005(54);Mosolits,2005(55))。なぜBCGが免疫反応を誘導するために特に有効であり得るのかは、よく理解されていない。しかしながら、BCGは、結核ワクチンを含む他のワクチンと共に数十年に亘って使用されている。
【0019】
インターロイキン−2(IL−2)は、ナチュラルキラー細胞と称されるある特殊化した免疫系細胞の癌を殺す機能を高める可能性がある、身体の免疫系によって作られるタンパク質である。IL−2は免疫系を活性化し得るが、多数の研究者は、IL−2単独では癌の再発を予防するのに十分ではないと解している。複数の癌ワクチンはIL−2を使用して、特定の癌抗原に対する免疫反応を高めている(Wei,2006(57);He,2005(56),Rousseau,2006(58))。
【0020】
顆粒球単球コロニー刺激因子(GM−CSF)は、抗原提示細胞の増殖を刺激し、前立腺癌ワクチンにおいてアジュバントとして使用されているタンパク質である(Simons,2006(59))。
【0021】
SISは、ブタの小腸粘膜下層から製造される市販の無細胞の細胞外マトリックス(ECM)である。SISは、合成ではなく又は架橋されていない、天然由来の細胞外マトリックスである。このコラーゲン様無細胞物質の市販の形態は、Cook Biotechから得ることが可能であり、「Oasis(登録商標)」という商品名で知られている。この製品において、SISは、生物学的起源から得られており、全ての細胞を除去するための処理がされている。この製品は生体適合性であり、ヒトの使用に関して安全である。
【0022】
SISは、組織増殖の足場としての実質的な有用性がある。例えば、SISは、泌尿器科(15〜22)、創傷治癒及び修復(23〜24)、肛門の痔の栓(25)、腱修復、及び骨の治癒(26=27、29、31〜33)において広範な有用性が示されている。移植後に、SISは単核炎症細胞を即時に誘引し、その後に宿主組織の成長を生じさせる(図1)。このような方法で、SISは、組織修復の足場として働く(26〜28)。次いで、SISは、宿主の組織によって完全に置き換わる。ブタ腎被膜物質などの他の細胞外マトリックスは、SISと同様に作用する(29〜30)。
【0023】
イヌ前立腺癌細胞は、培養物中のSIS上で増殖する際に、その浸潤性の表現型を維持することが報告されている(44)。Lobund−Wistarラットにおける研究は、SISがin vivoの癌の増殖を本質的に促進しないことを示している(39)。これらの観察にもかかわらず、SISは、抗癌用途に用いることは提案されていない。
【0024】
癌の治療における現存する臨床的な選択肢を強化及び/又は改善するために使用されてよく、特に改善された免疫原性を有する癌ワクチン及び癌ワクチンアジュバントの現存する形態を改善するために使用されてよい物質が、医学的な技術分野において必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0025】
本発明は、部分的には、SISとして既知の組織修復に使用される物質によって引き起こされる強い炎症反応の本発明者による認識によって開発された。これらの観察から、本発明者は、強い免疫力の癌ワクチン製剤及び癌アジュバントの設計において、SISの炎症誘発活性を利用した。組織修復物質の分野からは完全に切り離されているが、SIS及び同様の物質を用いた癌ワクチン製剤の製造は、本明細書に記載の癌治療及び細胞外マトリックス物質から調製されるワクチン接種用調製物の設計をもたらした。
【0026】
本発明は、とりわけ、腫瘍細胞を増殖及び増大するための三次元細胞外マトリックス物質、SIS、及びその修飾された調製物の修飾及び使用、並びに抗癌アジュバントにおける培養した腫瘍細胞の使用を伴うという点で独特なものである。
【0027】
癌ワクチンアジュバント
1つの態様では、本発明は、癌ワクチンアジュバントとして、SIS、FEM、RCM、又は他の適当な好ましい細胞外マトリックス物質の修飾された調製物などの細胞外マトリックス(ECM)物質を提供する。幾つかの実施態様では、これらの調製物は、alumを本質的に含まないものとして開示する。他の実施態様では、ECM物質は、(約2倍から約20倍又は5倍から約10倍に希釈した)SIS、FEM、RCM、又は他の好ましい細胞外マトリックス物質の修飾された調製物として開示されてよい。幾つかの実施態様では、業者から得られるものなどの標準的なSIS物質は、約1から10倍に希釈され、当該希釈物では、注射可能なワクチン物質としての使用に特に適合させる。特定の実施態様では、細胞外物質は、生理食塩水などの生理的に許容される溶液に希釈する。
【0028】
癌ワクチン
他の態様では、本発明は、(複製能力が無い)腫瘍細胞の調製物と共に細胞外マトリックス組織の調製物を含む、癌ワクチンを提供する。幾つかの実施態様では、腫瘍細胞は、前立腺癌細胞、乳癌細胞、肝臓癌細胞、肺癌細胞、直腸癌細胞などである。特定の実施態様では、腫瘍細胞は、グルタルアルデヒドで細胞を固定化することによって、複製能力を無くすように処理される。この腫瘍細胞のグルタルアルデヒド調製物は、次いで、SISなどの細胞外マトリックスと混合されてよい。
【0029】
本発明の1つの態様では、免疫を強化する細胞外マトリックス物質、例えば、小腸粘膜下層(SIS)又は腎被膜組織の細胞外マトリックスの調製物を含む組成物を提供する。幾つかの実施態様では、細胞外マトリックスは、ブタ小腸粘膜に特徴的な幾つかの抗原種を含む。この調製物は、小腸粘膜下層組織調製物を含むもの又はその精製調製物として説明されてもよい。
【0030】
他の態様によれば、アジュバント及び興味のあるワクチンを含む組成物が提供される。幾つかの実施態様では、ワクチンは全細胞ワクチンである。幾つかの実施態様では、ワクチンは癌ワクチンとして説明されてもよい。他の実施態様では、ワクチンは、免疫原性を示す量(免疫原量)の興味ある腫瘍抗原調製物を含み、前記癌アジュバントは細胞外マトリックス物質に特徴的な調製物を含み、癌アジュバントの存在下において保護反応を刺激するのに十分な興味ある主要抗原調製物の免疫原量は、腫瘍アジュバントの非存在下において保護反応を刺激するのに十分な興味ある主要抗原調製物の量よりも少ない。
【0031】
癌ワクチンアジュバント及び癌ワクチンの調製方法
本発明の他の広範な態様によれば、癌ワクチンアジュバントの調製方法が提供される。幾つかの実施態様では、前記方法は、大量の小腸粘膜下層(SIS)又は他の好ましい細胞外マトリックス物質(FEM、RCM)を得る工程、並びに免疫原量の前立腺細胞などの全細胞抗原ワクチン調製物との組み合わせにおいて癌ワクチンアジュバントとして使用するのに適切な処理されたその調製物を調製する工程を含む。
【0032】
他の態様では、本発明は、癌ワクチンを調製するための方法を提供する。幾つかの実施態様では、前記方法は、上述の癌ワクチンアジュバントを調製する工程、並びに前記癌ワクチンアジュバントを免疫原量の興味ある癌抗原と組み合わせる工程を含む。幾つかの実施態様では、興味ある免疫抗原は、腫瘍細胞調製物、例えば、前立腺癌、肺癌、乳癌、直腸癌、又は他の癌細胞調製物である。幾つかの実施態様では、前立腺癌細胞調製物は、グルタルアルデヒドで処理及び/又は加工された動物から回収した前立腺腫瘍細胞を含む。
【0033】
癌に対して動物を治療/阻害/免疫する方法
本発明の更なる他の広範な態様によれば、癌を有するか又は癌を発症するリスクがある動物を治療及び/又は免疫するための方法が提供される。幾つかの実施態様では、前記方法は、興味ある特定のタイプの癌細胞を含む腫瘍組織を抗原として利用して、前立腺癌、乳癌、直腸癌、肺癌、又は興味ある他の癌に対して動物を免疫する工程を含む。特定の実施態様では、前立腺癌を有するか又は前立腺癌を発症するリスクがあるヒトの治療及び/又は免疫のための方法が提供される。本発明は、ヒトワクチン及び動物ワクチンの双方を提供する。
【0034】
幾つかの実施態様では、前立腺癌を治療するための方法は、ワクチンを含む組成物を利用し、前記ワクチンは、細胞外マトリックス(ECM)物質からなるアジュバントを、グルタルアルデヒドで固定化した前立腺癌細胞の異種組織調製物などの組織調製物と共に含む。これらの調製物は、細胞外マトリックス物質アジュバントを含まないグルタルアルデヒト固定化異種組織調製物を使用するよりも免疫原性が高いことが認められる。
【0035】
腫瘍細胞集団の拡張方法
更なる他の態様では、本発明は、in vitroで腫瘍及び/又は癌細胞の集団を拡張させるための方法を提供する。これらの癌及び/又は腫瘍細胞は、次いで、細胞外マトリックス物質アジュバントと共に含まれて、本明細書に記載の癌ワクチンを提供しようとする興味ある抗原として使用されてよい。
【0036】
臨床的な癌治療製剤
更なる他の態様では、本発明は、各種の独特な臨床的な癌治療製剤を提供する。幾つかの実施態様では、これらの癌治療製剤は、細胞外マトリックス物質のゲル、シート、又は注射可能な調製物の形態であってよい。注射可能な調製物は、静脈内投与に適切なものとして説明されてよい。
【0037】
ECM順化培地ワクチン調製物
更なる他の態様では、本発明は、全癌細胞が増殖し、且つ、実質的に除去されたECMが回収され、ワクチンとして使用されてよい調製物を提供する。これらの順化ECM調製物は、したがって、本質的に癌細胞を含まないものとして開示され、本明細書に記載の全細胞含有調製物の有益な抗癌及び抗腫瘍増殖特性の全てではないかもしれないが、多くを提供すると期待される細胞と組織分泌因子/ペプチド/有機及び無機分子との比較的濃縮された組み合わせを有する。全細胞を含まないことによって、全細胞の投与についての任意の予期されない懸念事項を避け得る。
【0038】
ECM及び/又はECM順化培地調製物を用いた併用療法計画及び製剤
他の態様では、本発明は、本明細書に記載の各種の形態にあるECMを、T細胞サプレッサー(シクロホスファミド)、サイトカイン(IL−21)、サイトカイン顆粒球/マクロファージコロニー刺激因子(GM−CSF)、ホルモン(メラトニン)、免疫抑制酵素(1−メチル−トリプトファン)、COX−2インヒビター(シクロオキシゲナーゼ−2)、オリゴヌクレオチド(CpGオリゴヌクレオチド)、又はこれらの任意の組み合わせなどの他の活性剤と共に使用し得る製剤及び/又は治療計画を提供する。
【0039】
カスタマイズされたECMワクチン
更なる他の態様では、本発明は、意図する患者の腫瘍及び/又は癌細胞組織/生検組織をSISなどのECM物質上で増殖させる、カスタマイズされたECMワクチンを提供する。前記細胞が培養により増殖する機会を得た時点で、細胞を不活化又は除去し、ECM物質を洗浄し、次いで、ECMを洗浄した物質を、患者のためのワクチン又はアジュバントとして使用する。この手法は、個々の患者の腫瘍に特異的且つ特有である可能性がある癌組織抗原の標的を可能にする。さらに、この本発明の態様は、患者の臨床的必要性によって要求される継続する追加ワクチン接種を提供するのに十分な量まで、回収した腫瘍物質のECM上での増大を可能にする。
【0040】
以下の略語が、本発明の説明全体を通じて使用される:
ECM:細胞外マトリックス;
FEM:筋膜細胞外マトリックス物質;
GFT:グルタルアルデヒド固定化腫瘍;
LWラット:Lobund−Wistarラット;
MEM:修飾イーグル培地;
PAIII:LWラット由来の前立腺アデノカルシノーマIII細胞株;
RCM:腎被膜物質;
SIS:小腸粘膜下層
【0041】
本発明を、添付の図面とともに説明する。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】図1は、本発明の1つの実施態様よるものであり、移植手術の28日後のラットにおけるSIS細胞外マトリックス物質の遺残を示す。残存する生体物質は、散見されるリンパ球と共にマクロファージによって取り囲まれている。H & Eで染色した(400×)。
【図2】図2は、本発明の1つの実施態様によるものであり、SIS細胞外マトリックス物質の端に沿ったPAIIIラット前立腺アデノカルシノーマ細胞の薄層を示す。PAIII細胞は、3日間に亘ってSISと共培養した。H & Eで染色した(400×)。
【図3】図3は、本発明の1つの実施態様によるものであり、皮下PAIIIラット前立腺アデノカルシノーマ腫瘍から直接得られる腫瘍細胞と共に3日間に亘って共培養した後の、SIS細胞外マトリックス物質の顕微鏡写真を示す。残存する血管の壁は、細胞が再配置され、他の細胞の核がSISの内部に認められる。H & Eで染色した(400×)。
【図4】図4は、本発明の1つの実施態様によるものであり、追加の細胞を含まない培地で3日間に亘ってインキュベートした後のSIS細胞外マトリックス物質の顕微鏡写真を示す。残存する血管内部又はSISの内部に核が存在する。H & Eで染色した(400×)。
【図5】図5は、本発明の1つの実施態様によるものであり、培養物中での3日間の増殖の後のSIS上のGFT細胞ワクチンのアジュバント能を示す。PAIIIラット腫瘍から回収した細胞をSIS上で3日間に亘って増殖させた。この細胞集団は、新生上皮、内皮細胞、線維芽細胞、及び他の結合組織を含む。皮下PAIII腫瘍を手術によって切除し、GFT細胞ワクチン;SIS上のGFT細胞ワクチン;又は追加の細胞を含まないSISを、腫瘍床に配置した。ラットは三週間後に安楽死させて、腫瘍を秤量した。バーは、腫瘍重量の平均(±標準偏差)を示す。平均腫瘍重量における有意な(P≦0.01)低減が、他の全ての群と比較して、SIS上のGFT細胞ワクチンでワクチン接種したラットにおいて認められた。
【図6】図6は、本発明の1つの実施態様によるものであり、28日間培養して増殖させた後のSIS上のGFT細胞ワクチンのアジュバント能を示す。PAIIIラット腫瘍から回収した細胞をSIS上で28日間に亘って増殖させた。この細胞集団は、新生上皮、内皮細胞、線維芽細胞、及び他の結合組織を含む。皮下PAIII腫瘍を手術によって切除し、GFT細胞ワクチン;SIS上のGFT細胞ワクチン;又は追加の細胞を含まないSISを、腫瘍床に配置した。ラットは三週間後に安楽死させて、腫瘍を秤量した。バーは、腫瘍重量の平均(±標準偏差)を示す。平均腫瘍重量におけるほぼ有意な(P≦0.053)低減が、GFT細胞ワクチン単独でワクチン接種したラットと比較して、SIS上のGFT細胞ワクチンでワクチン接種したラットにおいて認められたが、その差異は、切除のみ又は切除+追加の細胞を含まないSISの投与を実施した群と比較すると有意(P≦0.01)である。
【図7】図7は、本発明の1つの実施態様のよるものであり、腫瘍増殖の予防におけるGFT細胞ワクチンについてのSISゲルのアジュバント能を示す。ラットは、PAIII細胞による皮下攻撃の前に、SISゲル、GFT細胞と共にSISゲル、GFT細胞、又は生理食塩水を用いて、7日間隔で三回ワクチン接種した。バーは、腫瘍重量の平均(±標準偏差)を表わす。腫瘍重量の平均における有意な(P≦0.01)低減が、全ての他の処理群と比較して、SISゲル中のGFT細胞ワクチンを用いてワクチン接種したラットにおいて認められた。
【図8】図8は、本発明の1つの実施態様によるものであり、切除後のPAIII前立腺アデノカルシノーマ腫瘍の治療における、GFT細胞ワクチンについてのSISゲル及びシート状のSISのアジュバント能を示す。腫瘍を有するラットは、生理食塩水、追加の細胞を含まないSIS、GFT細胞ワクチン、SISゲル中のGFT細胞ワクチン、又はSIS上のGFT細胞ワクチンを用いて、7日間隔で3回ワクチン接種した。1回目のワクチン接種の3日後に、腫瘍を切除した。切除の21日後に、動物を安楽死させて、腫瘍を秤量した。バーは、腫瘍の平均重量±標準偏差を表わす。GFT細胞ワクチン単独又はゲルSIS中でワクチン接種したラットの腫瘍重量の平均は、生理食塩水又は追加の細胞を含まないSISでワクチン接種したラットよりも有意に(P≦0.05)低かった。SISのシート上のGFT細胞ワクチンでワクチン接種したラットの腫瘍重量の平均は、全ての他の処理群よりも有意に(P≦0.01)低いものであった。
【図9】図9は、本発明の1つの実施態様によるものであり、腫瘍の再発に対するSIS移植の効果を示す。PAIII腫瘍は、切除の3週間以内に全ての動物で再発した。偽手術群の外植された腫瘍のサイズは、臨界サイズに達する腫瘍における、より遅い増殖速度を示す。*SISオーバーレイは、再発する腫瘍のサイズを制限する(P=0.0009、腫瘍切除単独に対して)。データは、平均±1SDとして提示する。
【図10】図10は、本発明の1つの実施態様によるものであり、各種の同種異系細胞株物質をワクチンとして用いて処理した動物における移植した腫瘍の平均重量を示し、in vivoにおける腫瘍増殖に対する本発明の調製物の効果を示す。同種異系ワクチン接種(Mat−Lu):転移。図は、切除(May−Lu)の21日後に再増殖した腫瘍の重量の平均を示す。X=腫瘍の切除のみ;R=切除+GF RFL−6細胞を用いたワクチン接種;R/S=切除+SISアジュバント上でGF RFL−6細胞を用いたワクチン接種;MLu/R=切除+SISアジュバント上でGF RFL−6細胞及びGF MatLu細胞を用いたワクチン接種。
【図11】図11は、本発明の1つの実施態様によるものであり、各種の同種異系細胞株物質ワクチンを用いて処理した動物における移植した腫瘍の重量の平均を示し、in vivoにおける腫瘍増殖に対する本発明の調製物の効果を示す。同種異系ワクチン接種(Mat−LyLu):転移。図は、切除(May−LyLu)の21日後に再増殖した腫瘍の重量の平均を示す。X=腫瘍の切除のみ;R=切除+GF RFL−6細胞を用いたワクチン接種;R/S=切除+SISアジュバント上でGF RFL−6細胞を用いたワクチン接種;MLyLu/R=切除+GF RFL−6細胞及びGF MatLyLu細胞を用いたワクチン接種;並びにMLyLu/R/S=切除+SISアジュバント上でGF RFL−6細胞及びGF MatLyLu細胞を用いたワクチン接種。
【図12】図12は、本発明の1つの実施態様によるものであり、再増殖した腫瘍の重量の平均を示し、腫瘍の増殖及び阻害に対する異種細胞株物質の効果を示す。X=腫瘍の切除のみ;DU/IM=切除+GF DUI145細胞及びGF IMR90細胞を用いたワクチン接種;LN/IM=切除+GF LNCaP細胞及びGF IMR90細胞を用いたワクチン接種;DU/IM/S=切除+SIS上でGF DU145細胞及びGF IMR90細胞を用いたワクチン接種;LN/IM/S=切除+SISアジュバント上でGF LNCaP細胞及びGF IMR90を用いたワクチン接種。
【図13】図13は、本発明の1つの実施態様によるものであり、SIS、FEM、又はRCM上で増殖したGF(グルタルアルデヒド固定化)細胞を用いてワクチン接種したラットが、アジュバントなしでGF細胞を用いてワクチン接種したラット又はワクチン接種していないラットよりも有意に低い平均腫瘍重量を有していた。SIS上とRCM上とFEM上とでGF細胞を用いてワクチン接種した群の間で有意な差は存在しなかったが、RCM上でGF細胞を用いてワクチン接種した群は、他の群よりも顕著に低い平均腫瘍重量を有していた。
【発明を実施するための形態】
【0043】
本発明の説明をする前に幾つかの用語を定義することが有益である。以下の定義は本願全体を通じて使用されると解されるべきである。
【0044】
定義
用語の定義がその用語の一般的に使用される意味から逸脱する場合は、出願人は、特に示していない限り、以下に提示する定義を用いることを意図する。
【0045】
本発明に関して、用語「アジュバント」は、免疫原に対する免疫反応を強める物質として定義される。
【0046】
本発明に関して、用語「アジュバント能」は、特定の抗原に対する動物の免疫反応を強化及び/又は促進する薬剤の能力として定義される。
【0047】
本発明に関して、用語「生合成物質」は、生物学的組織から全体的又は部分的に作製されるか又は由来する物質として定義される。
【0048】
本発明に関して、用語「生物学的組織」は、生体組織又は器官の一部であるか又は一部であった(例えば、死体組織)、ヒトを含む動物組織又は植物組織として定義される。
【0049】
本発明に関して、用語「細胞外マトリックス」(以下、「ECM」とする)は、細胞増殖又は細胞培養を支持することが可能な組織由来物質又は生合成物質として規定される。例えば、幾つかの具体的なECMとして、SIS、RCM、及びFEMが含まれる。
【0050】
本発明に関して、用語「癌ワクチン」は、癌及び/又は腫瘍の増殖に対する治療、阻害、及び/又は免疫を与える予防接種製剤又は予防接種製剤の一部として使用され得る任意の調製物として定義される。
【0051】
本発明に関して、用語「免疫」は、動物において免疫反応、すなわち、液性免疫反応及び細胞性免疫反応の双方を誘導することとして定義される。
【0052】
本発明に関して、用語「免疫誘発量」は、動物において免疫反応を生じさせるために必要な抗原の量として定義される。
【0053】
本発明に関して、用語「筋膜細胞外マトリックス」(以下、FEMとする)は、ブタ又は他の供給源の筋膜に由来するECMに関する。
【0054】
本発明に関して、用語「腎被膜物質」(以下、RCMとする)は、ブタ又は他の供給源の腎被膜に由来するECMに関する。
【0055】
本発明の説明は、以下の各種の実施例によってさらに為されるであろう。
【実施例】
【0056】
(実施例1)
材料及び方法
本実施例は、本発明の実施において使用されてよい材料及び方法の幾つかの例を提示する。
【0057】
小腸粘膜下層(SIS)
小腸粘膜下層(SIS)は、Cook Biotech,Inc.(West Lafayette,IN)から得た。その物質は、滅菌されて凍結乾燥された細胞外マトリックスのシートとして提供された。実験等級の物質は、SIS調製物の使用のために提供され、ブタの空腸を回収し、10から20cmの長さで生理食塩水溶液に入れることによって調製されたことが開示されている(31〜33)。全ての腸間膜組織を除去した後に、空腸切片を裏返して、粘膜を外科用メスの持ち手及び湿らせたガーゼを用いて長手方向にこする動作によって磨耗した。漿膜及び筋層を、次いで、同じ手法を用いてゆっくりと除去した。残存する組織は、過酢酸を用いて消毒し、高純度の水で広範囲にわたってすすぎ、移植前にエチレンオキシドを用いて滅菌した。
【0058】
腎被膜(RCM)
RCMは、Cook Biotech,Inc.(West Lafayette,IN)から得た。簡潔には、腎被膜は、解体した直後に成体のブタの腎臓から切除した。それを流れる水道水で全体的にすすぎ、希釈した過酢酸のエタノール溶液で殺菌し、汚染する可能性がある細菌及びウイルスを除去した(34)。殺菌後に、RCMを高純度の水ですすぎ、酸を除去して、凍結乾燥によってシート状にした後に、エチレンオキシドガスを使用して移植前に滅菌した。
【0059】
PAIII細胞
PAIII細胞株は、LWラットの自発性前立腺腫瘍から得た。PAIII細胞は、増殖又は疾患のパターンを変化させずに、多数の継代の間、LWラットに移植された。PAIII細胞がLWラットの脇腹に皮下移植される際に、大きな転移アデノカルシノーマが40日以内に発症したが、初期の腫瘍は10日以内に触診可能である。原発腫瘍から、PAIII細胞は、頻繁に肺に転移する。PAIII腫瘍は、ホルモン非依存的であり、大半の治療に対して耐性を示す(35)。
【0060】
GFT細胞ワクチン
GFT細胞ワクチンは、動物内で増殖した腫瘍から回収した細胞の、グルタルアルデヒド固定化腫瘍(GFT)懸濁物である。GFT細胞ワクチンは、腫瘍組織から調製した(36)。具体的には、3グラムの皮下腫瘍組織をLobund−Wistarラットから回収して、ワクチン調製に使用した。皮下腫瘍は、LWラットにおける自然発生の転移性前立腺アデノカルシノーマから単離した前立腺アデノカルシノーマ細胞を投与することによって生産された(37)。
【0061】
組織を細かく刻んで、1ccのシリンジで繰返し吸引して、20ゲージの針で一定分量とって、大きな塊を除いて、修飾イーグル培地(MEM)に細胞を懸濁させた。その細胞懸濁物を2.5%グルタルアルデヒド(v/v)中で37℃において120分に亘ってインキュベートし、次いで、培地で全体的に洗浄してGFT細胞調製物を生産した。
【0062】
動物
Unibersity of Notre Dameで維持されている繁殖コロニーから得られたLWラットを全ての試験に使用した。このモデルにおいて、大きな腫瘍が、約99%のラットにおいて1×106PAIII細胞の皮下投与の後に皮下に発生した。
【0063】
皮下腫瘍及び腫瘍切除モデル
当該モデルにおいて、オスの3から4月齢のLWラットの脇腹に、1×106PAIII細胞を皮下に投与した。14から21日後に、触診可能な腫瘍が存在し、40日までに、転移巣が肺に存在した。切除を伴う試験のために、動物は無菌手術に備えた。視認できる腫瘍を切除するが、切除は徹底的なものではなく、十分な腫瘍床を、未処理の固体の100%が腫瘍の再増殖を起こすように残す。
【0064】
SIS及びRCM上における細胞増殖
単相のSIS又はRCMのシートを2×2cmの切片に切断して、修飾イーグル培地(MEM)に入れる。PAIII細胞(1×106)又はPAIII皮下ラット腫瘍から直接回収した細胞(1×106)を、SIS又はRCMに重ねて、37℃でインキュベートした。SIS上でGFT細胞ワクチンを作製するために、細胞を接着させたSISに、次いで、グルタルアルデヒド固定化(GFT)を実施して、洗浄する。グルタルアルデヒド固定化は、2.5%のグルタルアルデヒド(v/v)中で60分に亘って37℃においてインキュベートし、次いで、培地で洗浄することを伴う。
【0065】
Alumは、水酸化アルミニウムゲルアジュバントであるAlhydrogel(商標)として購入した(Brenntak Biosector,Frederikssund,Denmark)。
【0066】
統計分析
破傷風毒素を用いた攻撃後の生存対非生存の結果を、2の自由度でカイ二乗検定を用いて群の間で比較した。p≦0.05である際に、差が有意であると解した。腫瘍重量の平均についての結果は、ウィルコクソンの順位和検定を用いて群の間で比較し、p≦0.05の際に有意であると解した。
【0067】
(実施例2)
腫瘍細胞ワクチン及び癌アジュバントのin vivo活性
本実施例は、in vivoにおける有効な癌ワクチンアジュバントとしての本発明の利用を実証する。
【0068】
腫瘍細胞をSIS上で培養した。3日間増殖させた後に、細胞を接着させたSISをグルタルアルデヒドで固定化した。10日前にPAIII前立腺癌細胞を投与したLobund−Wistarラットの脇腹において増殖した皮下の腫瘍を、手術によって切除した。
【0069】
次いで、5匹のラットの群について、更なる処理なし;腫瘍床に直接適用されるグルタルアルデヒド固定化腫瘍(GFT)細胞を用いた処理;腫瘍床に適用される(細胞を含まない)グルタルアルデヒド固定化(GF)SISを用いた処理;又は腫瘍床に適用される(細胞を含む)グルタルアルデヒド固定化SISを用いた処理のいずれかを行った。三週間後に、腫瘍が大半のラットにおいて再増殖した後に、腫瘍を秤量し、以下の結果が得られた:
処理なし=11.64グラムの平均腫瘍重量;
GFT細胞=10.54グラムの平均腫瘍重量;
GF SIS=12.31グラムの平均腫瘍重量;
GF SIS+GFT細胞=4.77グラムの平均腫瘍重量。
【0070】
GFT細胞ワクチンに対するSISの添加は、平均腫瘍重量の50%量の低減をもたらし、SISが、癌(抗腫瘍)ワクチン接種のための効果的なアジュバントであることを確立した。
【0071】
(実施例3)
ECMによる癌細胞増大の支持
本実施例は、細胞外マトリックス物質上での癌細胞集団の拡張のための方法の提供についての本発明の利用を実証する。本実施例は、癌ワクチン調製物において有用な高度に免疫原性の細胞集団を調製するための発明の利用も実証する。癌の場合では、多数の重要な抗原は、結合組織マトリックスによって発現され、腫瘍細胞の細胞外マトリックスとの相互作用に関するようである。細胞外マトリックス上で増殖させた癌細胞ワクチンは、かくして、本実施例に従って調製され、ワクチン接種のための改善されたワクチン抗原組成物として使用されてよい。
【0072】
1.筋膜細胞外マトリックス物質(FEM)
本発明は、本発明の実施に使用されて良い細胞外マトリックス物質のタイプの他の例を示す。本実施例は、ブタ筋膜細胞外マトリックス物質(FEM)を利用する。
【0073】
試験を本明細書に記載のように実施して、腫瘍細胞がFEM上で増殖する能力を評価した。これらの試験において、腫瘍細胞が、SIS及びRCMで支持された増殖と比較して、FEM物質上で強くと増殖したことが実証された。
【0074】
2.培養物中のSIS及びRCM上における前立腺癌細胞の増大
過去の研究者は、純粋な細胞株のSIS上におけるin vitro増殖能を評価していた。例えば、Badylak et al(38)は、NIH Swissマウス3T3線維芽細胞、初代ヒト線維芽細胞、ケラチノサイト、内皮細胞、及び確立されたラット骨肉腫細胞株の培養を支持することが可能であることを示した。本実施例は、SISに由来する本明細書に記載の細胞外マトリックス調製物が、癌細胞の増殖を支持することを実証する。特に、前立腺癌細胞株及び皮下腫瘍(Lobund−Wistar(LW)ラットにラットPAIII細胞を接種することによって生じた腫瘍)から直接回収した混合細胞集団が、本明細書に記載の条件下において物質上で増殖することが示された。
【0075】
単相SIS及びRCMのシートを2×2cmの切片に切断し、修飾イーグル培地(MEM)に配置した。PAIII細胞(1×106)又はPAIII皮下ラット腫瘍から直接回収した細胞(1×106)は、SIS上に層にして、37℃で72時間に亘ってインキュベートし、次いで、10%の中性緩衝化ホルマリンにおいて24時間に亘って固定化し、70%のエタノール中で洗浄し、パラフィンに配置し、4から5μMで薄片を作製した。次いで、その切片をヘマトキシリン及びエオシンで染色して、細胞増殖について評価した。
【0076】
純粋なPAIII細胞とインキュベートしたサンプルは、SIS及びRCMの端に沿った単層の細胞増殖を示した(図2)。対照的に、腫瘍から直接回収した細胞の培養物は、SIS及びRCMの端に沿った細胞増殖を示した。加えて、培地中でインキュベートを実施したが細胞を添加していない対照SIS(図4)と比較して、物質の中央において、血管構造が細胞で再構成された(図3)。Badylak et al(38)は、ラット骨肉腫細胞及び内皮細胞はECMの端でのみ増殖するが、線維芽細胞はDCM物質の中央を再構成することを示した。共培養した際は、ケラチノサイト及び線維芽細胞は、2つの細胞タイプの間で異なった空間的配向を生じ、早期に表皮構造が形成される。
【0077】
本試験は、前立腺癌細胞及び腫瘍から直接回収した混合細胞集団が、3つのタイプのECM(FEM、SIS、及びRCM)上で培養して増殖し得ることを示す。
【0078】
(実施例4)
手術による切除後の腫瘍の再増殖を予防するためのワクチンアジュバントとしてのSIS
研究の初期において、本発明者は、前立腺癌を予防するという、PAIIIラット腫瘍から直接回収されたグルタルアルデヒド固定化腫瘍(GFT)細胞の能力を開示した(36)。これに基づいて、本実施例は、ワクチン接種が、手術による切除後の腫瘍の再増殖を阻害することを実証する。
【0079】
本実施例は、SIS/全細胞ワクチンが、手術による切除及びデバルキング後の腫瘍の再増殖を効果的に阻害することを実証する。試験では、化学誘導によって前立腺腫瘍を新たに誘導するために使用され得るか又は前立腺癌細胞株(PAIII細胞)の移植後に皮下腫瘍を増殖するために使用され得る、Lobund−Wistar(LW)ラット前立腺癌モデルを利用した。
【0080】
後者の系を使用して、PAIII細胞をLWラットの群に皮下投与した。PAIII細胞投与の14日後に、腫瘍を手術によってデバルキングし、ワクチンを以下のように適用した。
【0081】
SIS上における3日間の細胞増殖後のアジュバント能
ワクチンは、皮下腫瘍から回収した腫瘍細胞を、3日間に亘ってSIS上で培養して増殖させ、その後にグルタルアルデヒド固定化(GFT)及び洗浄を実施することによって調製した(SIS上のGFTワクチン)。グルタルアルデヒド固定化は、2.5%グルタルアルデヒド(v/v)中で60分に亘って37℃で細胞をインキュベートし、次いで、培地で洗浄することを伴う。5ラットの一群は切除のみを実施し、1つの群はGFT細胞ワクチンを腫瘍床に適用し、1つの群はSISを腫瘍床に適用し、並びに1つの群はSIS上のGFT細胞ワクチンを腫瘍床に適用した。3週間後の平均腫瘍再増殖(腫瘍重量(グラム)±標準偏差)についての結果は、図5に示しており、以下のようであった:
切除のみ:11.64±2.14グラム、4/5が肺への転移を有していた;
SIS単独:13.61±1.46グラム、4/5が肺への転移を有していた;
GFT細胞ワクチン:9.50±1.27グラム、3/5が肺への転移を有していた;
SIS上のGFT細胞ワクチン:3.98±1.37グラム、2/5が肺への転移を有していた。
【0082】
SIS上のGFT細胞ワクチンを用いてワクチン接種したラットにおける腫瘍は、GFT細胞ワクチン単独及び対照群を用いてワクチン接種したラットのものよりも有意に小さい(P≦0.01)ものであった。
【0083】
SIS上における28日間の細胞増殖後のアジュバント能
第二の試験では、移植前に、細胞を28日間に亘ってSIS上で培養した。この試験の結果は、図6に示しており、以下のようなものであった:
切除のみ:14.9グラム±2.12、6/6が肺への転移を有していた;
SISのみ:15.6グラム±1.82、5/5が肺への転移を有していた;
GFT細胞ワクチン:11.8グラム±1.46、4/5が転移を有していた;
SIS上のGFTワクチン:6.01グラム±1.17、2/5が肺への転移を有していた。
【0084】
かくして、その結果は再現性があり、SIS上のGFTワクチンが、肺への原発腫瘍からの転移も阻害することを示した。これらのデータは、小さい群であるため、非常に有意であるというわけではない(0.053の確率)。
【0085】
これらのデータは、SISなどの細胞外マトリックス上でワクチン細胞を増殖させるか又は前記細胞外マトリックスに取り込ませることによって、癌ワクチンの有効性が改善されるという考えを支持する。
【0086】
(実施例5)
癌を予防するワクチン用のアジュバントとしてのSISゲルの作用
固体のSISマトリックスに取り込まれたワクチンの移植は組織の切開を必要とするため、全ての適用に実用的であるわけではない可能性がある。かくして、本実施例は、SISなどの細胞外マトリックスを用いたゲル形態における癌に対するワクチンを提供するという本発明の利用並びにワクチンアジュバントとしてのその使用を実証する。
【0087】
SISゲルは、Cook Biotech,Inc.(West Lafayette,IN)によって提供されており、酸消化及び精製工程を経てSIS物質から製造されている。
【0088】
SISゲルは、滅菌生理食塩水で1:10に希釈した。PAIII腫瘍から回収したグルタルアルデヒド固定化細胞は、SISゲルの0.25ml用量の各々が5×106GFT細胞を含有するように、SISゲル希釈物に混合した。
【0089】
10匹のオスのLWラットの群に、以下:
0.25mlのSISゲル;
0.25mlのSISゲル+GFT細胞;
5×106GFT細胞を含有する0.25mlの滅菌生理食塩水;又は
0.25mlの生理食塩水
を皮下投与した。
【0090】
ラットは、7日間隔で3回ワクチン接種した。最後のワクチン接種の7日後に、全てのラットに、1×106PAIII細胞を用いて皮下に攻撃した。
【0091】
PAIII細胞を用いて攻撃した3週間後に、ラットを安楽死させて、腫瘍を秤量した。結果は、平均腫瘍重量(±標準偏差)として図7に示しており、以下のようである:
生理食塩水:1.02g(±0.37)、5/6ラットが肺への転移を有していた、
GFT細胞ワクチン:0.86g(±0.11)、6/10ラットが肺への転移を有していた、
SISゲル中のGFT細胞ワクチン=0.19(±0.14)、1/10ラットが肺への転移を有していた。
【0092】
図7において認められるように、GFT細胞を単独で用いた処理は、約0.86g±0.11gの腫瘍サイズを生じさせ、ゲル形態の細胞外マトリックス物質(SIS)中のGFT細胞を用いた処理は、約1/4のサイズである約0.19g±0.14gの腫瘍重量を生じさせた。そのため、1:10の希釈における細胞外マトリックスゲル(SIS)の添加は、GFT細胞集団(固定化前立腺細胞ワクチン抗原)の腫瘍増殖阻害活性を約4倍から約5倍にまで有意に補助した。かくして、細胞に基づく癌ワクチンへの細胞外マトリックス物質の添加は、2倍以上にまで、ワクチンとして使用される腫瘍細胞調製物を有意に補助するであろう。
【0093】
(実施例6)
癌の治療のためのワクチンアジュバントとしてのSISゲルの作用
本実施例は、予防手段及び治療手段としての免疫効力の強化を提供するための本発明の利用を実証する。
【0094】
本実施例では、6匹のラットの群に、1×106のPAIII細胞を皮下において攻撃して、腫瘍を作製した。動物は、7日間隔で3回ワクチン接種した。攻撃の10日後で最初のワクチン接種の3日後に、ラットは、手術による腫瘍の切除を受けた。動物がSISシート状のGFT細胞ワクチンの皮下移植によるワクチン接種を受けた、更なる群を含めた。動物を腫瘍切除の21日後に安楽死させて、腫瘍を秤量した。
【0095】
本試験の結果は、図8に示しており、以下のように要約できる
治療群:平均腫瘍重量(g)±SD,肺への転移
生理食塩水(対照):9.2±2.2g、6/6が転移を有していた;
SIS単独:8.6±1.8g、6/6が転移を有していた;
GFT細胞ワクチン:5.8±0.9g、4/6が転移を有していた;
SISゲル中のGFT細胞ワクチン:5.0±0.8g、3/6が転移を有していた;
SISシート上のGFT細胞ワクチン:2.1±1.1g、3/6が転移を有していた;
【0096】
これらの試験は、SISゲルがワクチンアジュバント活性を有し、癌細胞攻撃の前であっても手術による切除の補助としても癌に対する保護免疫を強化することが可能であることを示す。このことは、SISゲルが、予防手段(すなわち、ワクチン)及び治療手段(図9)として効果的に免疫を強化することを意味する。
【0097】
(実施例7)
GFTワクチン及びECMアジュバントの安全性
本実施例は、ヒトを含む動物の治療のための臨床的に許容される調製物としての本発明の利用を実証する。特に、本実施例は、前記調製物が、組織損傷を誘導せず、かつ、自己免疫疾患を生じさせないことを実証する。
【0098】
GFT細胞ワクチン及びSISの双方は、in vivoで使用するのに安全である。本実施例は、GFT細胞ワクチンの反復投与が、ラットにおける組織病理学的又は臨床的疾患を誘導しないことを実証する。加えて、本実施例は、SISがin vivoにおける腫瘍増殖を促進しないことを示し、さらには、LWラット腫瘍モデルにおける腫瘍増殖の特有の阻害を示す。さらには、SISは、各種の適用のための医療用具として米国食品医薬品局によって既に認可されている。
【0099】
本試験は、本発明の調製物を用いた反復ワクチン接種が、自己免疫疾患の組織学的兆候を生じさせないことを実証する。
【0100】
10匹の3月齢のLWラットの群に、MEM又はGFT細胞のいずれかを用いて、12ヶ月に亘って1ヶ月毎に各々免疫及び追加免疫した。フロイント完全アジュバントを最初のワクチン接種に用いて、フロイント不完全アジュバントを追加免疫に用いた。次いで、組織を15月齢で回収して、10%中性緩衝化ホルマリン中で固定化し、3〜4μmに切断して、ヘマトキシリン及びエオシンを用いて染色した。全てのラットは、試験の間に亘って臨床的に正常であった。腎臓、心臓、脳、肝臓、睾丸、前立腺/精嚢、及び脾臓を試験して、全て組織学的に正常であることが認められた。
【0101】
これらの結果は、GFT細胞ワクチンを用いた反復ワクチン接種が、自己免疫を示す組織損傷を誘導しないことを実証するものである。
【0102】
(実施例8)
SISはin vivoに配置した際に腫瘍組織の増殖を促進しない
本実施例は、腫瘍/癌細胞調製物を用いて抗腫瘍活性を提供するものとしての細胞外マトリックスの利用を実証する。本実施例は、本発明の調製物が、それ自体によって腫瘍及び/又は癌の増殖を誘導することはないことも実証する。
【0103】
癌細胞は、in vitroにおいてSIS及びRCM上で増殖する能力を示すため、in vivoにおいて切除した腫瘍の床に配置される際に、SISなどのECMが残存する腫瘍細胞の増殖を促進するかどうか測定することが重要である。
【0104】
これを評価するために、25匹のオスの3月齢のLWラットの群に、上述の皮下PAIII腫瘍の誘導を実施した。次いで、動物は、4つの異なる治療群:
偽手術(対照);
SISを用いた腫瘍の内包(腫瘍は下層の血管床から切除しなかった);
完全な腫瘍の切除(全ての肉眼で確認できる腫瘍を除去した);又は
完全な腫瘍の切除後に、SIS(約3×3cm)を切除した腫瘍床にかぶせる
の1つに分類した。
【0105】
3週間後に、ラットを安楽死させて、腫瘍を秤量した。その結果(図9)として、SISは、偽手術又は切除単独と比較して、PAIII腫瘍の増殖を促進しないことが示された。SISを切除した腫瘍床にかぶせることによって、切除単独と比較して、腫瘍の大きさに有意な低減(P≦0.0009)がもたらされた(39)。
【0106】
細胞を含まないSIS単独が、有意な抗腫瘍効果を有していた。
【0107】
培養物中において、癌細胞株及び癌組織から回収した腫瘍物質の双方が、SIS及びRCM上で直ぐに増殖する。グルタルアルデヒド固定化によって不活化する際に、SIS上で増殖した癌細胞及び組織は、手術による切除後の腫瘍の再増殖を阻害する。この効果は、SIS上で細胞が増殖した際に認められ、グルタルアルデヒド固定化腫瘍細胞をゲル形態のSISに混合した際にも認められる。さらに、SISゲルは、癌の発生を予防するためのワクチンアジュバントとして働く、すなわち、生PAIII細胞を用いた攻撃に対する保護免疫を刺激することが示された。
【0108】
ECM物質は、SIS及びRCMによって実証されたように、in vivoで移植された際に強い炎症反応を開始させる。任意の特定の理論又は作用機構に限定することを意図しないが、ECMに付着するか又はゲル若しくは粒子懸濁物中に存在して運ばれる任意の抗原部分が免疫系に処理され、かくして、ECMがワクチンアジュバントとして作用する少なくとも1つの理論が説明されるであろう。
【0109】
SISは、TGF−βを含む各種の生物活性腫を含有することが既知である(41)。TGF−βは腫瘍の進行の後期において腫瘍促進因子として作用し得るが、腫瘍発生の初期では腫瘍抑制因子として作用する(42)。かくして、切除後などの適切な時点で投与して、腫瘍増殖を阻害するためにSISを利用することが見出された。
【0110】
(実施例9)
シートSIS、臨床応用のために提案する投薬計画
本実施例は、シート様の調製物におけるSISの使用によって、癌の治療及び/又は腫瘍増殖の低減/阻害を提供するためのSIS中の本発明のワクチンの利用を実証するために提示する。
【0111】
手術による腫瘍切除を含まない手法
細胞外マトリックスに基づくワクチンは開示されていないが、不活化同種異系全前立腺癌細胞株を含む前立腺癌ワクチンの使用が開示されている(Michael,el al)(2005)(47)。本試験において、12ヶ月に亘る一ヶ月ごとの8×106の不活化全細胞の経皮注射を、最初の二回は標準的なアジュバントであるalum中で、ホルモン耐性前立腺癌を有する患者に投与した。最初の二回の投与において使用したアジュバントは、カルメットゲラン桿菌であった。最初の三回の投与は1週間毎に与え、その後1ヶ月に一度与えた。この手法によって、毒性の兆候を示すことなくPSA(前立腺特異的抗原)速度における統計的に有意な低減が誘導された。さらに、疾患の進行の所定の点までの時間の中央値が、約28週から58週に増大した。
【0112】
(Cook Biotech,Inc.などの供給業者から市販されているような市販の調製物を10倍に希釈した)細胞外マトリックスアジュバントの調製とともに全細胞前立腺癌ワクチンは、ワクチンが約12ヶ月に亘って一ヵ月毎に経皮又は皮下に投与される臨床投薬計画の下で本発明によって使用されるであろう。
【0113】
容易に注射され得るワクチン調製物、例えば、アジュバントとしてSISゲル又は粒状のSISを含むものは、経皮注射によって投与されるであろう。
【0114】
SISのシート上に固定化されたワクチンを含むワクチン調製物は、皮下腔に外套針によって経皮的に投与するか、他の実施態様では、皮膚を小さく切開して移植することによって投与されるであろう。
【0115】
手術による切除を含む方法
数少ない研究が、腫瘍の手術による切除と組み合わせてワクチン接種を利用することに注目している。Pilla et al(2006)(49)は、手術による切除後に、2週間毎の4回までの治療において、腫瘍由来のヒートショックプロテインgp96ペプチド複合体ワクチンを進行した黒色腫患者に投与した。その手法は、11/18の患者において手術後における疾患の安定化をもたらした。Berd et al(1997)(50)は、臨床的に明らかなリンパ節への転移を有する黒色腫患者に、一週間毎又は一ヵ月毎の予定で不活化自己全細胞ワクチンを投与した;この手法は、手術単独によるものよりも優れた生存率をもたらした。
【0116】
切除した前立腺癌の腫瘍床に直接ワクチン接種すること並びに細胞外マトリックスなどの固相アジュバントにワクチンを取り込ませることに注目した研究は存在しないが、本実施例では、ワクチンの特定の臨床的用途を実証する。本発明の幾つかの実施態様は、細胞外マトリックスのシート上に取り込ませたワクチンを提供し、手術時に切除した腫瘍床上に直接シートとして適用されるか又は1ヶ月毎に腫瘍床を超える部位に皮内又は皮下投与されるであろう。異なるワクチンを用いて使用される同様の手法が、Berd et al(1997)(50)によって開示されており、黒色腫の治療のための全細胞ワクチンを使用している。
【0117】
他の実施態様では、ワクチン接種を腫瘍床に直接施し、且つ、切除時の適用後に皮内又は皮下に与える追加ワクチン接種を実施するという併用を用いてよい。
【0118】
シート状のワクチンは、皮下腔に外套針によって、又は、おそらく、皮膚を小さく切開して移植することによって経皮投与されるであろう。アジュバントとしてSISゲル又は粒状のSISを含むもののような容易に注射可能なワクチン調製物は、腫瘍床上に物質を直接適用によって投与されるか又は注射によって皮内又は皮下に投与されるであろう。Bell et al.(2005)(65)参照のこと。
【0119】
(実施例9)
ワクチンの経皮投与
本実施例は、組織に基づくアジュバント癌調製物の経皮適用可能な製剤を提供するための本発明の利用を実証する。
【0120】
経皮ワクチン接種は、感染性病原体と関連する疾患については使用されているが(Kenney,2004(59);Skountzou,2006(60);Glenn,2006(61))、非常に数少ない試みが、癌ワクチンの投与の当該経路について為されている。経皮免疫接種が、剃ったあとの皮膚に適用する軟膏において、イミキモドという細胞毒性Tリンパ球(CTL)活性化因子を投与することによってマウスにおいて使用された(Rechsteiner,2005(62))。この手法は、CTL活性を一般的に刺激したが、任意の特定の癌抗原に対するものではなかった。他の研究者は、剃ったあとの皮膚及びパッチの下に配置したベクターの薄膜を介してアデノウイルスベクター中のヒト癌胎児性抗原遺伝子をマウスに送達することによる抗腫瘍ワクチンを開示した(Huang,2005(63))。この手法は、ネズミ乳腺腺癌細胞を用いた攻撃に対して免疫耐性をもたらす。
【0121】
本発明の使用によれば、前立腺細胞のグルタルアルデヒド固定化調製物などの興味ある癌抗原は、ゲル形態のSISなどの細胞外マトリックス物質と共に製剤中において調製されてよい。当該製剤では、調製物を所定の領域に適用して、抗腫瘍効果を提供してよい。
【0122】
(実施例10)
SISは同種異系細胞株に基づくワクチンのための効果的なアジュバントである
上記実施例に示したように、PAIII前立腺癌細胞又はLobund−Wistar(LW)ラット中の前立腺腫瘍から直接回収した細胞を用いたワクチンは、同系の動物中の保護免疫を刺激する。対照的に、同種異系細胞は、同種の遺伝的に異なる個体から得られたものである。かくして、PAIII細胞株は全てのLWラットの間で移植可能であり、かつ、同系であると解されるが、Mt−Lu及びMat−Ly−Lu細胞株は、Copenhagenラットに由来する。これら後者の2種の細胞株は、LWラットに移植した際にも腫瘍が発生しない。RFL−6細胞株は、本発明者が、線維芽細胞抗原が切除後の腫瘍再増殖に対する保護免疫を強化するか否かを決定するために評価した、同種異系ラット線維芽細胞株である。
【0123】
6匹のLWラットの群に、1×106PAIII前立腺癌細胞を皮下に投与して、腫瘍を発生させた。次いで、ラットは、皮下腫瘍を手術によって切除された。次いで、動物に、更なる処理なし(RX);グルタルアルデヒド固定化(GF)RFL−6細胞単独又はGF MAT−Lu若しくはGF MAT−Ly−Lu細胞のいずれかを用いてワクチン接種;或いは培養して三日増殖させた後のGF RFL−6単独又はGF MAT−Lu若しくはGF Mat−Ly−LuをSIS上で用いてワクチン接種のいずれかを実施した。動物は腫瘍床に直接一回ワクチン接種した。動物を21日後に安楽死させて、結果を再増殖した腫瘍の平均重量(S.D.)及び群の総数の中からの転移座陽性の肺の数で表わした:
RSのみ:6.7g(3.2)、4/6の肺が陽性;
GF RFL−6:5.1(1.79)、4/6の肺が陽性;
SIS上のGF RFL−6:7.1(3.14)、5/6の肺が陽性;
GF Mat−Lu+RFL:4.7(4.44);1/6の肺が陽性;
GF Mat−Lu+SIS上のRFL:1.7(1.21)0/6の肺が陽性;
GF Mat−Ly−Lu+RFL:5.9(3.06)、1/6の肺が陽性;
GF Mat−Ly−Lu+SIS上のRFL:2.4(1.77)、0/6の肺が陽性。
【0124】
切除の21日後の再増殖した腫瘍の平均重量は、図10(May−Lu)及び11(Mat−Ly−Lu)にある。
【0125】
図10については、X=腫瘍の切除のみ;R=切除+GF RFL−6細胞を用いたワクチン接種;R/S=切除+SISアジュバント上のGF RFL−6細胞を用いたワクチン接種;MLu/R=切除+GF RFL−6細胞及びGF MatLu細胞を用いたワクチン接種;並びにMLu/R/S=切除+SISアジュバント上のGF RFL−6細胞及びGF MatLu細胞を用いたワクチン接種である。
【0126】
図11については、X=腫瘍の切除のみ;R=切除+GF RFL−6細胞を用いたワクチン接種;R/S=切除+SISアジュバント上のGF RFL−6細胞を用いたワクチン接種;MLyLu/R=切除+GF RFL−6細胞及びGF MatLyLu細胞を用いたワクチン接種;並びにMLyLu/R/S=切除+SISアジュバント上のGF RFL−6細胞及びGF MatLyLu細胞を用いたワクチン接種である。
【0127】
腫瘍サンプルの組織学的試験によって、他の処理群からのサンプルとは対照的に、SIS上のGF Mat−Ly−Lu+RFLを用いて処理した数匹のラットにおける腫瘍の境界における急性炎症の領域とともに、SISの周りの慢性的な炎症及び線維症が示された。それらの他の群では、腫瘍は、おそらく組織低酸素症による、主に腫瘍の壊死中心における急性炎症の程度が異なることによって特徴付けられた。境界から腫瘍が増殖するため、SIS上のGF May−Ly−Lu+RLFは、腫瘍増殖を阻害するのに十分な量で炎症反応を刺激することが推測される。
【0128】
これらの結果は、ECMアジュバントであるSISが、同種異系(Mat−Lu及びMatLyLu)細胞株を抗原として使用するワクチンを効果的に補助することを示している。
【0129】
(実施例11)
SISは、異種細胞株に基づくワクチンのための効果的なアジュバントである
癌の免疫療法に共通の問題は、免疫寛容についての問題である。各種の機構によって、宿主免疫系は、単純に、腫瘍に効果的に反応することができない。多くの場合には、腫瘍が「自己」であると認識される。かくして、腫瘍抗原と類似あり、且つ、異物として強く認識される抗原が有利であろう。これに関して、他の種(異種)からの細胞株が有益であろう。本発明によれば、異種腫瘍細胞に基づくワクチンは、宿主の腫瘍を攻撃し得るものとして、強力な免疫反応を提供するであろう。
【0130】
この試験では、異種ワクチン抗原として、ヒト細胞株DU145(ヒト患者の脳の転移病巣から得られるホルモン非依存的前立腺癌)の利用を評価し、LNCaP(ヒト患者のリンパ節転移から得られるホルモン依存的前立腺癌)の利用を評価する。細胞は、プラスチック培養容器上又は培養物中のSIS上のいずれか胃において3日間増殖させ、グルタルアルデヒドで固定化し(GF)、次いで、皮下腫瘍切除モデルにおいて上述のように使用した。結果は、平均腫瘍重量(S.D.)及び肺の総数のうちの転移座陽性の肺の数で与える:
RSのみ:6.5g(3.32)、2/6の肺が陽性;
RS+GF DU145+GF IMR90:4.9g(2.46)、1/6の肺が陽性;
RS+GF LNCaP+GF IMR90:3.8g(1.46)、1/5の肺が陽性;
RS+SIS上のGF DU145/GF IMR90:3.2g(1.44);1/6の肺が陽性;
RS+SIS上のGFLNCaP/GF IMR90:1.9g(0.92);0/6の肺が陽性。
【0131】
切除の21日後の再増殖した腫瘍の平均重量を図12に示す。
【0132】
これらの結果によって、ECMアジュバントであるSISは、異種細胞癌ワクチンのための効果的なアジュバントとして働くことが可能であることが示される。
【0133】
(実施例12)
ワクチンアジュバントとして作用する他の細胞外マトリックス(ECM)の機能
本実施例は、各種の異なる細胞由来のマトリックスを使用してワクチンを提供するための本発明の利用を実証する。
【0134】
ECM上で増殖させたPAIII細胞、腎被膜物質(RCM)、及び筋膜細胞外マトリックス(FEM)を用いた試験を、LWラットにおける皮下PAIII腫瘍切除モデルを用いて実施した。簡潔に説明すると、PAIII細胞をSIS、RCM、又はFEMのいずれかの上で7日間に亘って培養することにより増殖させ、上述のようにグルタルアルデヒドで固定化(GF)した。6匹のLWラットの群は、1×106PAIII前立腺癌細胞を皮下に投与して、腫瘍を発生させた。ラットで腫瘍増殖させた21日後に、腫瘍を手術により切除し、ワクチンを腫瘍床に直接適用した。ラットの群に、更なる処理なし(X);GF細胞のみでワクチン接種(Cells);SIS上のGF細胞でワクチン接種(Cells/SIS);FEM上のGF細胞でワクチン接種;又はRCM上のGF細胞でワクチン接種のいずれかを実施した。
【0135】
動物は21日後に安楽死させて、再増殖した腫瘍の平均重量(±S.D.)で結果を図13に表わした。SIS、FEM、又はRCMのいずれかの上で増殖したGF細胞を用いてワクチン接種したラットは、アジュバント無しでGF細胞を用いてワクチン接種をしたラット又はワクチン接種をしなかったラットよりも有意に低い平均腫瘍重量であった。SIS上のGF細胞とRCM上のGF細胞とFEM上のGF細胞とでワクチン接種した群の間には有意な差がなかったが、RCM上のGF細胞を用いてワクチン接種した群は、他の群よりも顕著に低い平均腫瘍重量を有していた。
【0136】
これらの結果は、SIS、RCM、及びFEMを含む各種のECMが有効なワクチンアジュバントであることを示している。
【0137】
(実施例13)
細胞を含まないワクチン調製物としての順化ECM組織物質の調製物の提案
本実施例は、ECM順化ワクチン又はワクチンアジュバントの本質的に細胞を含まない調製物を提供するための本発明の利用を実証する。当該順化ECMは、ワクチン又はワクチンアジュバントとして使用されてよい。
【0138】
SISアジュバントを含む癌ワクチンの現在の形態は、細胞外マトリックス上で増殖させているか又は細胞外マトリックスに接着させた不活化癌細胞の使用を伴うが、細胞外マトリックス(ECM)は、その様な細胞の解離後におけるアジュバントとしても作用し得る。その様な「順化」ECM調製物は、残存する全細胞物質による潜在的な自己免疫反応についての懸念を低減するであろう。順化ECMは、例えば、増殖因子、分泌間質物質、及び他の因子を含むであろうが、本質的に細胞全体を含まないであろう。
【0139】
順化ECMは、例えば上述のようなSISのシート状で腫瘍/癌細胞を増殖させることによって生産されるであろう。増殖期間後に、細胞をSISから、化学的手段(例えば、カリウムチオシアネート中でインキュベート)又は機械的手段(例えば、超音波への曝露)などによる解離又は溶解により除去されるであろう。細胞の増殖は、各種の増殖因子及び追加の細胞外物質の細胞からの生成を生じさせるであろう。ECMは、かくして、腫瘍の免疫による破壊のための標的として役に立つ抗原を含有するようになる。このようにして、次いで、細胞を含まない順化ECMが、調製物の一部として不活化細胞成分を有するECMと同様にワクチン接種に使用され得るであろう。
【0140】
(実施例14)
ECMワクチン及び第二の活性成分を用いた併用療法の提案
本実施例は、化学療法剤などの他の活性剤と共にECMワクチン調製物を含む治療法を提供するための本発明の利用を示す。単独又は併用における、以下に記載するもの並びに同じクラス/生物学的機能/生物学的活性の他のものなどの薬剤の包含も、臨床治療のための本明細書に提示する各種の用途において有用であろう。幾つかの場合において、前記併用は、ECMの抗癌活性及び/又は有効性を更に改善することが期待される。幾つかの実施例において、選択された化合物は、ECMと混合又は化学結合などによって結合されてよい。この様な併用剤が含んで良いものの幾つかの例を以下に挙げる。
【0141】
シクロホスファミド − 低用量のシクロホスファミドは、制御性(サプレッサー)T細胞を阻害することが示されており、かくして、ワクチン接種に応答して、免疫系により効率的に腫瘍を標的とさせる(Berrando P,et al.(2007),Cancer Res.,15;67(18)8847−55)(Lord R,et al.(2007),J.Urol.,177(6):2136−40)。
【0142】
IL−21などのサイトカインは、免疫細胞集団を調節して、細胞に効果的な免疫反応を生じさせ得ることが開示されている(Li Y,Yee C.,(2007),Blood.2007 Oct 5)。並びに、サイトカインである顆粒球/マクロファージコロニー刺激因子(GM−CSF)が挙げられる(Chang EY, et al.(2000),Int J Cancer.,86(5):725−30)。
【0143】
メラトニン − 松果体によって主に生産される神経ホルモンは、造血及び免疫細胞生産及び機能のin vivo及びin vitro双方における調節因子である。生理学的には、メラトニンは、Tヘルパー1(Th1)サイトカインと関連しており、その投与はTh1刺激を支持する(Miller SC,et al.(2006),Int J Exp Pathol.87(3):251)(Subramanian P,Mirunalini S,Dakshayani KB,Pandi−Perumal SR,Trakht I,Cardinali DP.Prevention by melatonin of hepatocarincinogenesis in rats injected with N−nitrosodiethylamine. J Pineal Res.2007 Oct;43(3):305−12)。
【0144】
1−メチル−トリプトファン − 癌ワクチンの失敗の潜在的な理由は、免疫抑制酵素であるインドールアミン−ピロール2,3−ジオキシゲナーゼ(IDO)による免疫寛容である。1−メチル−トリプトファンは当該酵素を阻害する(Ou X,et al.(2007),J Cancer Res Clin Oncol., Oct.2,2007 Epub)。
【0145】
シクロオキシゲナーゼ−2(COX−2)は、プロスタグランジンの合成における律速酵素である。当該酵素は多数の癌において過剰発現されており、腫瘍免疫の縮小と関連している。セレコキシブはCOX−2インヒビターであり、そのため、抗癌ワクチン接種に対する免疫を改善し得る(Hahn T,et al.(2006),Int J Cancer,118(9):2220−31)。
【0146】
CpGオリゴヌクレオチド − CpGオリゴデオキシヌクレオチド(CpG−ODN)は、抗原提示、副刺激分子発現、樹状細胞成熟、及びサイトカイン促進抗体依存細胞性細胞毒性を含む、先天性及び獲得性免疫反応に作用する(Lubaroff DM,et al.(2007),Vaccine,24(35−36):6155−62)(Kochenderfer JN,et al.(2007),Clin Immunol.,124(2):119−30)。
【0147】
ヒートショックプロテイン − ヒートショックプロテイン70(HSP−70)ファミリーの細胞質に存在する種類は、動物腫瘍モデルにおける保護細胞性免疫を誘導することが示されている(Hashemi SM,Soudi S,Ghazanfari T,Kheirandish M,Shahabi S.Evaluation of anti−tumor effects of tumor cell lysate enriched by HSP−70 againstfibrosarcoma tumor in BALB/c mice.Int Immunopharmacol. 2007 jul;7(7):920−7)。ヒートショックプロテインは、ECMアジュバントに添加されるか又はECM上で増殖させた細胞によるヒートショックプロテインの発現を誘導する。
【0148】
(実施例15)
患者に合わせたECMワクチンの提案
本実施例は、治療すべき標的患者から組織を用いてECMの専用ワクチン調製物を提供するための本発明の利用を実証する。意図する患者由来の組織を用いて実際に調製することで、本発明によるワクチン調製の手法は、とりわけ、非自己免疫反応と関連する有害な効果の可能性を低減及び/又は最小化するであろう。さらに、ECM上における回収した腫瘍組織の増大は、患者の臨床的進行によって示される継続する追加免疫接種に十分な物質の生産を可能にする。これは、本明細書に記載の調製物の抗原活性を保持しながら達成される。
【0149】
加えて、患者の癌/腫瘍組織がワクチン調製工程に使用されるため、ECMをアジュバントとするワクチンのカスタマイズによって特定の患者の癌及び/又は腫瘍細胞集団を摸倣することによって、患者特有の疾患(すなわち、腫瘍又は癌)の細胞集団から分泌される特殊且つ患者に特異的な因子を含まれることが予測される。これによって、意図する患者以外の起源に由来する腫瘍細胞のより一般的な集団において典型的には存在しないECM中の特定の因子を供給する機会が与えられる。これに関連して、ワクチンは、患者における特定の癌細胞に合わせて作製される。当該手法は、腫瘍阻害治療としての調製物の有効性を高めるであろう。
【0150】
例えば、患者の腫瘍/癌組織の生検を実施して、次いで、生検した物質をSISなどのECM上で培養し得る。適当な培養時間の後に、腫瘍/癌組織細胞は除去又は不活化されるであろう。残存するECM物質を、次いで、本明細書に記載のように処理して、ワクチンアジュバントを提供する。このアジュバントを、次いで、患者の治療において使用してよい。
【0151】
本発明は、添付の図面を参照して、幾つかの実施態様と合わせて十分に説明されているが、各種の変形例及び修飾例が当業者には明らかであると解されるべきである。その様な変形例及び修飾例は、添付の特許請求の範囲を逸脱しない限り、当該特許請求の範囲によって規定される本発明の範囲に含まれると解されるべきである。
[参考文献]
【技術分野】
【0001】
本願は、2005年10月27日に出願の「ワクチン担体及びアジュバントとしての細胞外マトリックス物質の使用」を発明の名称とする米国仮特許出願第60/730,379号及び2006年10月20日に出願の「細胞外マトリックス癌ワクチンアジュバント」を発明の名称とする米国特許出願第11/583,771号を参照する。上記出願の開示内容全体は、本明細書で参照することによって本明細書に取り込む。本発明の実施態様の更なる特徴は、2005年10月27日に出願の「ワクチン担体及びアジュバントとしての細胞外マトリックスの使用」を発明の名称とする米国仮特許出願第60/730,379号においても確認されてよい。
【0002】
37 C.F.R.§1.71(g)(1)に従って、特許請求の範囲に記載した発明は、特許請求の範囲に記載の発明が完成する以前に有効な35 U.S.C.103(c)(3)に規定の共同研究に従って為されたものであり、University of Notre DameとCook Biotech,Inc.(West Lafayette,IN.)又はその代理人による共同研究契約の範囲内で実施された活動の結果である。
【0003】
本発明は、一般的には、アジュバントを含む癌ワクチン及び単独の癌ワクチンアジュバントに関する。特に、本発明は、生物学的組織、特に小腸粘膜などの細胞外マトリックス物質から少なくとも部分的に得られるか又は由来する癌ワクチンアジュバントに関する。本発明は、細胞外マトリックス組織由来のアジュバントを含む癌ワクチン調製物を用いて、癌に対して動物を免疫するための方法の分野にも関する。本発明は、癌、特に、前立腺癌に対して動物を免疫するためのワクチンのための、細胞外マトリックス組織に由来する癌ワクチンアジュバントを製造するための方法として、癌ワクチンアジュバントを製造するための方法の分野にも関する。
【背景技術】
【0004】
ガンの治療のためのワクチン接種は、次第に関心を集めてきている。黒色腫、前立腺癌、及び乳癌のためのワクチンは、人の臨床試験を含む開発が実施されている。これらのワクチンの大半は、特定のタンパク質を用いて患者を直接免疫するか又は患者への輸液の前に回収した樹状細胞を間欠的に投与する。幾つかの試験は、in vitroで増殖させた不活化同種異系癌細胞を使用している。
【0005】
一般的には、癌ワクチンは、アジュバントとして含まれる特定のサイトカインと共に又はアジュバントなしで投与されている。アジュバントは、ワクチン免疫原に対する免疫反応を強化する化合物として定義される。
【0006】
正常な非悪性細胞と共にマイコバクテリアアジュバントを使用する報告が幾つか為されている。例えば、前立腺ガンの治療におけるヒト前立腺細胞の使用は、米国特許第6,972,128(Dalgleish et al.)に開示されている。特に、不死化正常(非悪性)ヒト前立腺細胞(複製能力なし)を含有する同種異系免疫治療剤が開示されている。マイコバクテリウムアジュバントは、経皮注射に適切なワクチンにおいて非悪性ネズミ黒色腫細胞調製物と共に使用されている。これらの調製物は、ネズミ腫瘍細胞増殖に対するある程度の保護を提供すると報告されている。
【0007】
水酸化アルミニウムとリン酸アルミニウムとの併用(まとめてalumと称される)は、ヒト及び脊椎動物に適用するアジュバントとして市販されているワクチンにおいて、現在使用されている(11,12)。ジフテリア及び破傷風毒素に対する抗体反応の増大におけるalumの効力は、よく確立されており、HBsAgワクチンはalumがアジュバントとして用いられている。alumの有用性は幾つかの適用についてよく確立されているが、限定的である。例えば、alumはインフルエンザワクチン及び一貫性のない許容されない細胞性免疫反応には効果が無い。alumをアジュバントとする抗原によって誘導された抗体は、マウスにおいて大半はIgG1アイソトープであり、これは幾つかのワクチン剤による保護に最適である可能性がある。
【0008】
アジュバント、典型的にはalumを含むバクテリアワクチンも開示されている。alumは共投与した免疫原に対するTh2抗体反応の刺激において特に有効であり、効果的な癌に対する免疫はTh1細胞性免疫に主に依存するため、alumは典型的には癌ワクチンには含まれない。明らかに、癌ワクチンは、癌免疫原に対する免疫反応の一般的な強化を提供するための方法から利益を得るであろう。
【0009】
ノスカピンは、米国特許第7,090,852号において、ワクチンのためのアジュバント並びに腫瘍及びガンの治療において使用するためのアジュバントとして開示されている。ノスカピンは、アヘン由来のアルカロイドであり、処方箋が必要なアヘン剤の市販品の生産における市販品の副産物として入手することが可能である。
【0010】
組換えの単独の免疫原の癌ワクチンも開示されている。臨床試験のフェーズ3にある、そのような製品の1つは、GVAX(登録商標)ワクチン(Cell Genesys,Inc.,South San Francisco,CA)である。当該癌ワクチンは、かなり進行した段階のホルモン抵抗性前立腺癌を有する患者に使用され、顆粒球−マクロファージコロニー刺激因子(GM−CSF)を分泌するように遺伝子改変されている2種の同種異系前立腺癌細胞株を含む。当該ホルモンは、癌ワクチンに対する身体の免疫反応の刺激における役割を担っている。前記細胞は、安全のために放射線照射されている(3)。GVAX製品を用いた癌ワクチン接種は、ワクチン接種を受けた癌患者の生存期間の中央値を約7ヶ月増大させることを示している(4)。
【0011】
幾つかの研究では、癌ワクチンアジュバントとして特定のサイトカイン、例えば、GVAXワクチンにおいてGM−CSFを利用しており(4)、それらのサイトカインは典型的には、免疫反応の特定の特徴のみ強化し、よく制御された保存条件の外では不安定である可能性がある(13、14)。
【0012】
純粋な可溶性の組換え及び合成抗原は、それらの良好な許容性にもかかわらず、残念なことに、生きている又は殺した病原体そのものを使用したワクチンよりも多くの場合においてより免疫原性が低い。かくして、より安全なサブユニットワクチンの開発に向けての動きが、より強力なアジュバントの必要性を主に作り出している。特に、より許容される毒性を有する細胞性(Th1)免疫を高めることが可能なアジュバントが緊急に必要とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】米国仮特許出願第60/730,379号
【特許文献2】米国特許出願第11/583,771号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
科学文献における数百を超えるアジュバントの開示があるにもかかわらず、alumが、USAにおけるヒトの使用について認可された唯一のアジュバントのままである(Petrovsky,2006)。残念なことに、alumは細胞性免疫に対しては効果がなく、蓄積するアルミニウムによる毒性の可能性について関心が高まっている。細胞性及び液性免疫を高めることが可能な安全且つ有効なアジュバントについて、未だ満たされない必要性が存在している。
【0015】
理想的な癌アジュバントについての必要条件は、多数の理由のために、従来のアジュバントとは異なる。第一に、ワクチンを受ける患者は、例えば、抗原提示機構の低下、活性化されたT細胞の非反応性、及び制御性T細胞による自己反応性の阻害の増大のために、免疫障害を持つ。第二に、腫瘍抗原は通常は自己由来のものであり、したがって、免疫原性が乏しい。第三に、腫瘍は、免疫編集、MHCクラスI分子の低発現若しくは無発現、又は抑制サイトカインの分泌などの、免疫系を避けるための回避機構を発達させている。かくして、癌ワクチンのためのアジュバントは、予防ワクチンのためのアジュバントよりも強力である必要があり、そのため、より毒性である可能性があり、かつ、自己免疫反応さえ誘導する可能性がある。
【0016】
癌抗原に対する免疫反応を高めるために、研究者は、多くの場合において、身体が異物として認識するおとり物質又はアジュバントを結合させる。その様なアジュバントは、多くの場合において、おとりと腫瘍細胞との双方に対する攻撃を開始させるように免疫系を「だます」タンパク質又は細菌である。他のアジュバントが作用して、免疫系内の特定のエフェクター細胞を刺激する。幾つかのアジュバントを以下に記載する。
【0017】
キーホールリンペットヘモシアニン(KLH)は、キーホールリンペットとして知られている、カリフォルニア及びメキシコの沿岸沿いで発見された殻を持った海の生き物によって作られるタンパク質である。KLHは、免疫反応を生じさせ、かつ、癌細胞抗原のための担体として作用する大きなタンパク質である(Bandandi,et al,2006(52);Redfern et al,2006(53))。癌抗原は、多くの場合において、免疫系に認識されない可能性がある比較的小さなタンパク質である。KLHは、Tヘルパー細胞として既知の免疫細胞に追加の認識部位を提供し、細胞毒性Tリンパ球(CTL)として既知の他の免疫細胞の活性化を増大させる可能性がある。
【0018】
カルメットゲラン桿菌(BCG)は、結核菌の不活化形態である。BCGは、ワクチン抗原に対する免疫反応を高めることを期待して幾つかの癌ワクチンに添加されている(Totterman,2005(54);Mosolits,2005(55))。なぜBCGが免疫反応を誘導するために特に有効であり得るのかは、よく理解されていない。しかしながら、BCGは、結核ワクチンを含む他のワクチンと共に数十年に亘って使用されている。
【0019】
インターロイキン−2(IL−2)は、ナチュラルキラー細胞と称されるある特殊化した免疫系細胞の癌を殺す機能を高める可能性がある、身体の免疫系によって作られるタンパク質である。IL−2は免疫系を活性化し得るが、多数の研究者は、IL−2単独では癌の再発を予防するのに十分ではないと解している。複数の癌ワクチンはIL−2を使用して、特定の癌抗原に対する免疫反応を高めている(Wei,2006(57);He,2005(56),Rousseau,2006(58))。
【0020】
顆粒球単球コロニー刺激因子(GM−CSF)は、抗原提示細胞の増殖を刺激し、前立腺癌ワクチンにおいてアジュバントとして使用されているタンパク質である(Simons,2006(59))。
【0021】
SISは、ブタの小腸粘膜下層から製造される市販の無細胞の細胞外マトリックス(ECM)である。SISは、合成ではなく又は架橋されていない、天然由来の細胞外マトリックスである。このコラーゲン様無細胞物質の市販の形態は、Cook Biotechから得ることが可能であり、「Oasis(登録商標)」という商品名で知られている。この製品において、SISは、生物学的起源から得られており、全ての細胞を除去するための処理がされている。この製品は生体適合性であり、ヒトの使用に関して安全である。
【0022】
SISは、組織増殖の足場としての実質的な有用性がある。例えば、SISは、泌尿器科(15〜22)、創傷治癒及び修復(23〜24)、肛門の痔の栓(25)、腱修復、及び骨の治癒(26=27、29、31〜33)において広範な有用性が示されている。移植後に、SISは単核炎症細胞を即時に誘引し、その後に宿主組織の成長を生じさせる(図1)。このような方法で、SISは、組織修復の足場として働く(26〜28)。次いで、SISは、宿主の組織によって完全に置き換わる。ブタ腎被膜物質などの他の細胞外マトリックスは、SISと同様に作用する(29〜30)。
【0023】
イヌ前立腺癌細胞は、培養物中のSIS上で増殖する際に、その浸潤性の表現型を維持することが報告されている(44)。Lobund−Wistarラットにおける研究は、SISがin vivoの癌の増殖を本質的に促進しないことを示している(39)。これらの観察にもかかわらず、SISは、抗癌用途に用いることは提案されていない。
【0024】
癌の治療における現存する臨床的な選択肢を強化及び/又は改善するために使用されてよく、特に改善された免疫原性を有する癌ワクチン及び癌ワクチンアジュバントの現存する形態を改善するために使用されてよい物質が、医学的な技術分野において必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0025】
本発明は、部分的には、SISとして既知の組織修復に使用される物質によって引き起こされる強い炎症反応の本発明者による認識によって開発された。これらの観察から、本発明者は、強い免疫力の癌ワクチン製剤及び癌アジュバントの設計において、SISの炎症誘発活性を利用した。組織修復物質の分野からは完全に切り離されているが、SIS及び同様の物質を用いた癌ワクチン製剤の製造は、本明細書に記載の癌治療及び細胞外マトリックス物質から調製されるワクチン接種用調製物の設計をもたらした。
【0026】
本発明は、とりわけ、腫瘍細胞を増殖及び増大するための三次元細胞外マトリックス物質、SIS、及びその修飾された調製物の修飾及び使用、並びに抗癌アジュバントにおける培養した腫瘍細胞の使用を伴うという点で独特なものである。
【0027】
癌ワクチンアジュバント
1つの態様では、本発明は、癌ワクチンアジュバントとして、SIS、FEM、RCM、又は他の適当な好ましい細胞外マトリックス物質の修飾された調製物などの細胞外マトリックス(ECM)物質を提供する。幾つかの実施態様では、これらの調製物は、alumを本質的に含まないものとして開示する。他の実施態様では、ECM物質は、(約2倍から約20倍又は5倍から約10倍に希釈した)SIS、FEM、RCM、又は他の好ましい細胞外マトリックス物質の修飾された調製物として開示されてよい。幾つかの実施態様では、業者から得られるものなどの標準的なSIS物質は、約1から10倍に希釈され、当該希釈物では、注射可能なワクチン物質としての使用に特に適合させる。特定の実施態様では、細胞外物質は、生理食塩水などの生理的に許容される溶液に希釈する。
【0028】
癌ワクチン
他の態様では、本発明は、(複製能力が無い)腫瘍細胞の調製物と共に細胞外マトリックス組織の調製物を含む、癌ワクチンを提供する。幾つかの実施態様では、腫瘍細胞は、前立腺癌細胞、乳癌細胞、肝臓癌細胞、肺癌細胞、直腸癌細胞などである。特定の実施態様では、腫瘍細胞は、グルタルアルデヒドで細胞を固定化することによって、複製能力を無くすように処理される。この腫瘍細胞のグルタルアルデヒド調製物は、次いで、SISなどの細胞外マトリックスと混合されてよい。
【0029】
本発明の1つの態様では、免疫を強化する細胞外マトリックス物質、例えば、小腸粘膜下層(SIS)又は腎被膜組織の細胞外マトリックスの調製物を含む組成物を提供する。幾つかの実施態様では、細胞外マトリックスは、ブタ小腸粘膜に特徴的な幾つかの抗原種を含む。この調製物は、小腸粘膜下層組織調製物を含むもの又はその精製調製物として説明されてもよい。
【0030】
他の態様によれば、アジュバント及び興味のあるワクチンを含む組成物が提供される。幾つかの実施態様では、ワクチンは全細胞ワクチンである。幾つかの実施態様では、ワクチンは癌ワクチンとして説明されてもよい。他の実施態様では、ワクチンは、免疫原性を示す量(免疫原量)の興味ある腫瘍抗原調製物を含み、前記癌アジュバントは細胞外マトリックス物質に特徴的な調製物を含み、癌アジュバントの存在下において保護反応を刺激するのに十分な興味ある主要抗原調製物の免疫原量は、腫瘍アジュバントの非存在下において保護反応を刺激するのに十分な興味ある主要抗原調製物の量よりも少ない。
【0031】
癌ワクチンアジュバント及び癌ワクチンの調製方法
本発明の他の広範な態様によれば、癌ワクチンアジュバントの調製方法が提供される。幾つかの実施態様では、前記方法は、大量の小腸粘膜下層(SIS)又は他の好ましい細胞外マトリックス物質(FEM、RCM)を得る工程、並びに免疫原量の前立腺細胞などの全細胞抗原ワクチン調製物との組み合わせにおいて癌ワクチンアジュバントとして使用するのに適切な処理されたその調製物を調製する工程を含む。
【0032】
他の態様では、本発明は、癌ワクチンを調製するための方法を提供する。幾つかの実施態様では、前記方法は、上述の癌ワクチンアジュバントを調製する工程、並びに前記癌ワクチンアジュバントを免疫原量の興味ある癌抗原と組み合わせる工程を含む。幾つかの実施態様では、興味ある免疫抗原は、腫瘍細胞調製物、例えば、前立腺癌、肺癌、乳癌、直腸癌、又は他の癌細胞調製物である。幾つかの実施態様では、前立腺癌細胞調製物は、グルタルアルデヒドで処理及び/又は加工された動物から回収した前立腺腫瘍細胞を含む。
【0033】
癌に対して動物を治療/阻害/免疫する方法
本発明の更なる他の広範な態様によれば、癌を有するか又は癌を発症するリスクがある動物を治療及び/又は免疫するための方法が提供される。幾つかの実施態様では、前記方法は、興味ある特定のタイプの癌細胞を含む腫瘍組織を抗原として利用して、前立腺癌、乳癌、直腸癌、肺癌、又は興味ある他の癌に対して動物を免疫する工程を含む。特定の実施態様では、前立腺癌を有するか又は前立腺癌を発症するリスクがあるヒトの治療及び/又は免疫のための方法が提供される。本発明は、ヒトワクチン及び動物ワクチンの双方を提供する。
【0034】
幾つかの実施態様では、前立腺癌を治療するための方法は、ワクチンを含む組成物を利用し、前記ワクチンは、細胞外マトリックス(ECM)物質からなるアジュバントを、グルタルアルデヒドで固定化した前立腺癌細胞の異種組織調製物などの組織調製物と共に含む。これらの調製物は、細胞外マトリックス物質アジュバントを含まないグルタルアルデヒト固定化異種組織調製物を使用するよりも免疫原性が高いことが認められる。
【0035】
腫瘍細胞集団の拡張方法
更なる他の態様では、本発明は、in vitroで腫瘍及び/又は癌細胞の集団を拡張させるための方法を提供する。これらの癌及び/又は腫瘍細胞は、次いで、細胞外マトリックス物質アジュバントと共に含まれて、本明細書に記載の癌ワクチンを提供しようとする興味ある抗原として使用されてよい。
【0036】
臨床的な癌治療製剤
更なる他の態様では、本発明は、各種の独特な臨床的な癌治療製剤を提供する。幾つかの実施態様では、これらの癌治療製剤は、細胞外マトリックス物質のゲル、シート、又は注射可能な調製物の形態であってよい。注射可能な調製物は、静脈内投与に適切なものとして説明されてよい。
【0037】
ECM順化培地ワクチン調製物
更なる他の態様では、本発明は、全癌細胞が増殖し、且つ、実質的に除去されたECMが回収され、ワクチンとして使用されてよい調製物を提供する。これらの順化ECM調製物は、したがって、本質的に癌細胞を含まないものとして開示され、本明細書に記載の全細胞含有調製物の有益な抗癌及び抗腫瘍増殖特性の全てではないかもしれないが、多くを提供すると期待される細胞と組織分泌因子/ペプチド/有機及び無機分子との比較的濃縮された組み合わせを有する。全細胞を含まないことによって、全細胞の投与についての任意の予期されない懸念事項を避け得る。
【0038】
ECM及び/又はECM順化培地調製物を用いた併用療法計画及び製剤
他の態様では、本発明は、本明細書に記載の各種の形態にあるECMを、T細胞サプレッサー(シクロホスファミド)、サイトカイン(IL−21)、サイトカイン顆粒球/マクロファージコロニー刺激因子(GM−CSF)、ホルモン(メラトニン)、免疫抑制酵素(1−メチル−トリプトファン)、COX−2インヒビター(シクロオキシゲナーゼ−2)、オリゴヌクレオチド(CpGオリゴヌクレオチド)、又はこれらの任意の組み合わせなどの他の活性剤と共に使用し得る製剤及び/又は治療計画を提供する。
【0039】
カスタマイズされたECMワクチン
更なる他の態様では、本発明は、意図する患者の腫瘍及び/又は癌細胞組織/生検組織をSISなどのECM物質上で増殖させる、カスタマイズされたECMワクチンを提供する。前記細胞が培養により増殖する機会を得た時点で、細胞を不活化又は除去し、ECM物質を洗浄し、次いで、ECMを洗浄した物質を、患者のためのワクチン又はアジュバントとして使用する。この手法は、個々の患者の腫瘍に特異的且つ特有である可能性がある癌組織抗原の標的を可能にする。さらに、この本発明の態様は、患者の臨床的必要性によって要求される継続する追加ワクチン接種を提供するのに十分な量まで、回収した腫瘍物質のECM上での増大を可能にする。
【0040】
以下の略語が、本発明の説明全体を通じて使用される:
ECM:細胞外マトリックス;
FEM:筋膜細胞外マトリックス物質;
GFT:グルタルアルデヒド固定化腫瘍;
LWラット:Lobund−Wistarラット;
MEM:修飾イーグル培地;
PAIII:LWラット由来の前立腺アデノカルシノーマIII細胞株;
RCM:腎被膜物質;
SIS:小腸粘膜下層
【0041】
本発明を、添付の図面とともに説明する。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】図1は、本発明の1つの実施態様よるものであり、移植手術の28日後のラットにおけるSIS細胞外マトリックス物質の遺残を示す。残存する生体物質は、散見されるリンパ球と共にマクロファージによって取り囲まれている。H & Eで染色した(400×)。
【図2】図2は、本発明の1つの実施態様によるものであり、SIS細胞外マトリックス物質の端に沿ったPAIIIラット前立腺アデノカルシノーマ細胞の薄層を示す。PAIII細胞は、3日間に亘ってSISと共培養した。H & Eで染色した(400×)。
【図3】図3は、本発明の1つの実施態様によるものであり、皮下PAIIIラット前立腺アデノカルシノーマ腫瘍から直接得られる腫瘍細胞と共に3日間に亘って共培養した後の、SIS細胞外マトリックス物質の顕微鏡写真を示す。残存する血管の壁は、細胞が再配置され、他の細胞の核がSISの内部に認められる。H & Eで染色した(400×)。
【図4】図4は、本発明の1つの実施態様によるものであり、追加の細胞を含まない培地で3日間に亘ってインキュベートした後のSIS細胞外マトリックス物質の顕微鏡写真を示す。残存する血管内部又はSISの内部に核が存在する。H & Eで染色した(400×)。
【図5】図5は、本発明の1つの実施態様によるものであり、培養物中での3日間の増殖の後のSIS上のGFT細胞ワクチンのアジュバント能を示す。PAIIIラット腫瘍から回収した細胞をSIS上で3日間に亘って増殖させた。この細胞集団は、新生上皮、内皮細胞、線維芽細胞、及び他の結合組織を含む。皮下PAIII腫瘍を手術によって切除し、GFT細胞ワクチン;SIS上のGFT細胞ワクチン;又は追加の細胞を含まないSISを、腫瘍床に配置した。ラットは三週間後に安楽死させて、腫瘍を秤量した。バーは、腫瘍重量の平均(±標準偏差)を示す。平均腫瘍重量における有意な(P≦0.01)低減が、他の全ての群と比較して、SIS上のGFT細胞ワクチンでワクチン接種したラットにおいて認められた。
【図6】図6は、本発明の1つの実施態様によるものであり、28日間培養して増殖させた後のSIS上のGFT細胞ワクチンのアジュバント能を示す。PAIIIラット腫瘍から回収した細胞をSIS上で28日間に亘って増殖させた。この細胞集団は、新生上皮、内皮細胞、線維芽細胞、及び他の結合組織を含む。皮下PAIII腫瘍を手術によって切除し、GFT細胞ワクチン;SIS上のGFT細胞ワクチン;又は追加の細胞を含まないSISを、腫瘍床に配置した。ラットは三週間後に安楽死させて、腫瘍を秤量した。バーは、腫瘍重量の平均(±標準偏差)を示す。平均腫瘍重量におけるほぼ有意な(P≦0.053)低減が、GFT細胞ワクチン単独でワクチン接種したラットと比較して、SIS上のGFT細胞ワクチンでワクチン接種したラットにおいて認められたが、その差異は、切除のみ又は切除+追加の細胞を含まないSISの投与を実施した群と比較すると有意(P≦0.01)である。
【図7】図7は、本発明の1つの実施態様のよるものであり、腫瘍増殖の予防におけるGFT細胞ワクチンについてのSISゲルのアジュバント能を示す。ラットは、PAIII細胞による皮下攻撃の前に、SISゲル、GFT細胞と共にSISゲル、GFT細胞、又は生理食塩水を用いて、7日間隔で三回ワクチン接種した。バーは、腫瘍重量の平均(±標準偏差)を表わす。腫瘍重量の平均における有意な(P≦0.01)低減が、全ての他の処理群と比較して、SISゲル中のGFT細胞ワクチンを用いてワクチン接種したラットにおいて認められた。
【図8】図8は、本発明の1つの実施態様によるものであり、切除後のPAIII前立腺アデノカルシノーマ腫瘍の治療における、GFT細胞ワクチンについてのSISゲル及びシート状のSISのアジュバント能を示す。腫瘍を有するラットは、生理食塩水、追加の細胞を含まないSIS、GFT細胞ワクチン、SISゲル中のGFT細胞ワクチン、又はSIS上のGFT細胞ワクチンを用いて、7日間隔で3回ワクチン接種した。1回目のワクチン接種の3日後に、腫瘍を切除した。切除の21日後に、動物を安楽死させて、腫瘍を秤量した。バーは、腫瘍の平均重量±標準偏差を表わす。GFT細胞ワクチン単独又はゲルSIS中でワクチン接種したラットの腫瘍重量の平均は、生理食塩水又は追加の細胞を含まないSISでワクチン接種したラットよりも有意に(P≦0.05)低かった。SISのシート上のGFT細胞ワクチンでワクチン接種したラットの腫瘍重量の平均は、全ての他の処理群よりも有意に(P≦0.01)低いものであった。
【図9】図9は、本発明の1つの実施態様によるものであり、腫瘍の再発に対するSIS移植の効果を示す。PAIII腫瘍は、切除の3週間以内に全ての動物で再発した。偽手術群の外植された腫瘍のサイズは、臨界サイズに達する腫瘍における、より遅い増殖速度を示す。*SISオーバーレイは、再発する腫瘍のサイズを制限する(P=0.0009、腫瘍切除単独に対して)。データは、平均±1SDとして提示する。
【図10】図10は、本発明の1つの実施態様によるものであり、各種の同種異系細胞株物質をワクチンとして用いて処理した動物における移植した腫瘍の平均重量を示し、in vivoにおける腫瘍増殖に対する本発明の調製物の効果を示す。同種異系ワクチン接種(Mat−Lu):転移。図は、切除(May−Lu)の21日後に再増殖した腫瘍の重量の平均を示す。X=腫瘍の切除のみ;R=切除+GF RFL−6細胞を用いたワクチン接種;R/S=切除+SISアジュバント上でGF RFL−6細胞を用いたワクチン接種;MLu/R=切除+SISアジュバント上でGF RFL−6細胞及びGF MatLu細胞を用いたワクチン接種。
【図11】図11は、本発明の1つの実施態様によるものであり、各種の同種異系細胞株物質ワクチンを用いて処理した動物における移植した腫瘍の重量の平均を示し、in vivoにおける腫瘍増殖に対する本発明の調製物の効果を示す。同種異系ワクチン接種(Mat−LyLu):転移。図は、切除(May−LyLu)の21日後に再増殖した腫瘍の重量の平均を示す。X=腫瘍の切除のみ;R=切除+GF RFL−6細胞を用いたワクチン接種;R/S=切除+SISアジュバント上でGF RFL−6細胞を用いたワクチン接種;MLyLu/R=切除+GF RFL−6細胞及びGF MatLyLu細胞を用いたワクチン接種;並びにMLyLu/R/S=切除+SISアジュバント上でGF RFL−6細胞及びGF MatLyLu細胞を用いたワクチン接種。
【図12】図12は、本発明の1つの実施態様によるものであり、再増殖した腫瘍の重量の平均を示し、腫瘍の増殖及び阻害に対する異種細胞株物質の効果を示す。X=腫瘍の切除のみ;DU/IM=切除+GF DUI145細胞及びGF IMR90細胞を用いたワクチン接種;LN/IM=切除+GF LNCaP細胞及びGF IMR90細胞を用いたワクチン接種;DU/IM/S=切除+SIS上でGF DU145細胞及びGF IMR90細胞を用いたワクチン接種;LN/IM/S=切除+SISアジュバント上でGF LNCaP細胞及びGF IMR90を用いたワクチン接種。
【図13】図13は、本発明の1つの実施態様によるものであり、SIS、FEM、又はRCM上で増殖したGF(グルタルアルデヒド固定化)細胞を用いてワクチン接種したラットが、アジュバントなしでGF細胞を用いてワクチン接種したラット又はワクチン接種していないラットよりも有意に低い平均腫瘍重量を有していた。SIS上とRCM上とFEM上とでGF細胞を用いてワクチン接種した群の間で有意な差は存在しなかったが、RCM上でGF細胞を用いてワクチン接種した群は、他の群よりも顕著に低い平均腫瘍重量を有していた。
【発明を実施するための形態】
【0043】
本発明の説明をする前に幾つかの用語を定義することが有益である。以下の定義は本願全体を通じて使用されると解されるべきである。
【0044】
定義
用語の定義がその用語の一般的に使用される意味から逸脱する場合は、出願人は、特に示していない限り、以下に提示する定義を用いることを意図する。
【0045】
本発明に関して、用語「アジュバント」は、免疫原に対する免疫反応を強める物質として定義される。
【0046】
本発明に関して、用語「アジュバント能」は、特定の抗原に対する動物の免疫反応を強化及び/又は促進する薬剤の能力として定義される。
【0047】
本発明に関して、用語「生合成物質」は、生物学的組織から全体的又は部分的に作製されるか又は由来する物質として定義される。
【0048】
本発明に関して、用語「生物学的組織」は、生体組織又は器官の一部であるか又は一部であった(例えば、死体組織)、ヒトを含む動物組織又は植物組織として定義される。
【0049】
本発明に関して、用語「細胞外マトリックス」(以下、「ECM」とする)は、細胞増殖又は細胞培養を支持することが可能な組織由来物質又は生合成物質として規定される。例えば、幾つかの具体的なECMとして、SIS、RCM、及びFEMが含まれる。
【0050】
本発明に関して、用語「癌ワクチン」は、癌及び/又は腫瘍の増殖に対する治療、阻害、及び/又は免疫を与える予防接種製剤又は予防接種製剤の一部として使用され得る任意の調製物として定義される。
【0051】
本発明に関して、用語「免疫」は、動物において免疫反応、すなわち、液性免疫反応及び細胞性免疫反応の双方を誘導することとして定義される。
【0052】
本発明に関して、用語「免疫誘発量」は、動物において免疫反応を生じさせるために必要な抗原の量として定義される。
【0053】
本発明に関して、用語「筋膜細胞外マトリックス」(以下、FEMとする)は、ブタ又は他の供給源の筋膜に由来するECMに関する。
【0054】
本発明に関して、用語「腎被膜物質」(以下、RCMとする)は、ブタ又は他の供給源の腎被膜に由来するECMに関する。
【0055】
本発明の説明は、以下の各種の実施例によってさらに為されるであろう。
【実施例】
【0056】
(実施例1)
材料及び方法
本実施例は、本発明の実施において使用されてよい材料及び方法の幾つかの例を提示する。
【0057】
小腸粘膜下層(SIS)
小腸粘膜下層(SIS)は、Cook Biotech,Inc.(West Lafayette,IN)から得た。その物質は、滅菌されて凍結乾燥された細胞外マトリックスのシートとして提供された。実験等級の物質は、SIS調製物の使用のために提供され、ブタの空腸を回収し、10から20cmの長さで生理食塩水溶液に入れることによって調製されたことが開示されている(31〜33)。全ての腸間膜組織を除去した後に、空腸切片を裏返して、粘膜を外科用メスの持ち手及び湿らせたガーゼを用いて長手方向にこする動作によって磨耗した。漿膜及び筋層を、次いで、同じ手法を用いてゆっくりと除去した。残存する組織は、過酢酸を用いて消毒し、高純度の水で広範囲にわたってすすぎ、移植前にエチレンオキシドを用いて滅菌した。
【0058】
腎被膜(RCM)
RCMは、Cook Biotech,Inc.(West Lafayette,IN)から得た。簡潔には、腎被膜は、解体した直後に成体のブタの腎臓から切除した。それを流れる水道水で全体的にすすぎ、希釈した過酢酸のエタノール溶液で殺菌し、汚染する可能性がある細菌及びウイルスを除去した(34)。殺菌後に、RCMを高純度の水ですすぎ、酸を除去して、凍結乾燥によってシート状にした後に、エチレンオキシドガスを使用して移植前に滅菌した。
【0059】
PAIII細胞
PAIII細胞株は、LWラットの自発性前立腺腫瘍から得た。PAIII細胞は、増殖又は疾患のパターンを変化させずに、多数の継代の間、LWラットに移植された。PAIII細胞がLWラットの脇腹に皮下移植される際に、大きな転移アデノカルシノーマが40日以内に発症したが、初期の腫瘍は10日以内に触診可能である。原発腫瘍から、PAIII細胞は、頻繁に肺に転移する。PAIII腫瘍は、ホルモン非依存的であり、大半の治療に対して耐性を示す(35)。
【0060】
GFT細胞ワクチン
GFT細胞ワクチンは、動物内で増殖した腫瘍から回収した細胞の、グルタルアルデヒド固定化腫瘍(GFT)懸濁物である。GFT細胞ワクチンは、腫瘍組織から調製した(36)。具体的には、3グラムの皮下腫瘍組織をLobund−Wistarラットから回収して、ワクチン調製に使用した。皮下腫瘍は、LWラットにおける自然発生の転移性前立腺アデノカルシノーマから単離した前立腺アデノカルシノーマ細胞を投与することによって生産された(37)。
【0061】
組織を細かく刻んで、1ccのシリンジで繰返し吸引して、20ゲージの針で一定分量とって、大きな塊を除いて、修飾イーグル培地(MEM)に細胞を懸濁させた。その細胞懸濁物を2.5%グルタルアルデヒド(v/v)中で37℃において120分に亘ってインキュベートし、次いで、培地で全体的に洗浄してGFT細胞調製物を生産した。
【0062】
動物
Unibersity of Notre Dameで維持されている繁殖コロニーから得られたLWラットを全ての試験に使用した。このモデルにおいて、大きな腫瘍が、約99%のラットにおいて1×106PAIII細胞の皮下投与の後に皮下に発生した。
【0063】
皮下腫瘍及び腫瘍切除モデル
当該モデルにおいて、オスの3から4月齢のLWラットの脇腹に、1×106PAIII細胞を皮下に投与した。14から21日後に、触診可能な腫瘍が存在し、40日までに、転移巣が肺に存在した。切除を伴う試験のために、動物は無菌手術に備えた。視認できる腫瘍を切除するが、切除は徹底的なものではなく、十分な腫瘍床を、未処理の固体の100%が腫瘍の再増殖を起こすように残す。
【0064】
SIS及びRCM上における細胞増殖
単相のSIS又はRCMのシートを2×2cmの切片に切断して、修飾イーグル培地(MEM)に入れる。PAIII細胞(1×106)又はPAIII皮下ラット腫瘍から直接回収した細胞(1×106)を、SIS又はRCMに重ねて、37℃でインキュベートした。SIS上でGFT細胞ワクチンを作製するために、細胞を接着させたSISに、次いで、グルタルアルデヒド固定化(GFT)を実施して、洗浄する。グルタルアルデヒド固定化は、2.5%のグルタルアルデヒド(v/v)中で60分に亘って37℃においてインキュベートし、次いで、培地で洗浄することを伴う。
【0065】
Alumは、水酸化アルミニウムゲルアジュバントであるAlhydrogel(商標)として購入した(Brenntak Biosector,Frederikssund,Denmark)。
【0066】
統計分析
破傷風毒素を用いた攻撃後の生存対非生存の結果を、2の自由度でカイ二乗検定を用いて群の間で比較した。p≦0.05である際に、差が有意であると解した。腫瘍重量の平均についての結果は、ウィルコクソンの順位和検定を用いて群の間で比較し、p≦0.05の際に有意であると解した。
【0067】
(実施例2)
腫瘍細胞ワクチン及び癌アジュバントのin vivo活性
本実施例は、in vivoにおける有効な癌ワクチンアジュバントとしての本発明の利用を実証する。
【0068】
腫瘍細胞をSIS上で培養した。3日間増殖させた後に、細胞を接着させたSISをグルタルアルデヒドで固定化した。10日前にPAIII前立腺癌細胞を投与したLobund−Wistarラットの脇腹において増殖した皮下の腫瘍を、手術によって切除した。
【0069】
次いで、5匹のラットの群について、更なる処理なし;腫瘍床に直接適用されるグルタルアルデヒド固定化腫瘍(GFT)細胞を用いた処理;腫瘍床に適用される(細胞を含まない)グルタルアルデヒド固定化(GF)SISを用いた処理;又は腫瘍床に適用される(細胞を含む)グルタルアルデヒド固定化SISを用いた処理のいずれかを行った。三週間後に、腫瘍が大半のラットにおいて再増殖した後に、腫瘍を秤量し、以下の結果が得られた:
処理なし=11.64グラムの平均腫瘍重量;
GFT細胞=10.54グラムの平均腫瘍重量;
GF SIS=12.31グラムの平均腫瘍重量;
GF SIS+GFT細胞=4.77グラムの平均腫瘍重量。
【0070】
GFT細胞ワクチンに対するSISの添加は、平均腫瘍重量の50%量の低減をもたらし、SISが、癌(抗腫瘍)ワクチン接種のための効果的なアジュバントであることを確立した。
【0071】
(実施例3)
ECMによる癌細胞増大の支持
本実施例は、細胞外マトリックス物質上での癌細胞集団の拡張のための方法の提供についての本発明の利用を実証する。本実施例は、癌ワクチン調製物において有用な高度に免疫原性の細胞集団を調製するための発明の利用も実証する。癌の場合では、多数の重要な抗原は、結合組織マトリックスによって発現され、腫瘍細胞の細胞外マトリックスとの相互作用に関するようである。細胞外マトリックス上で増殖させた癌細胞ワクチンは、かくして、本実施例に従って調製され、ワクチン接種のための改善されたワクチン抗原組成物として使用されてよい。
【0072】
1.筋膜細胞外マトリックス物質(FEM)
本発明は、本発明の実施に使用されて良い細胞外マトリックス物質のタイプの他の例を示す。本実施例は、ブタ筋膜細胞外マトリックス物質(FEM)を利用する。
【0073】
試験を本明細書に記載のように実施して、腫瘍細胞がFEM上で増殖する能力を評価した。これらの試験において、腫瘍細胞が、SIS及びRCMで支持された増殖と比較して、FEM物質上で強くと増殖したことが実証された。
【0074】
2.培養物中のSIS及びRCM上における前立腺癌細胞の増大
過去の研究者は、純粋な細胞株のSIS上におけるin vitro増殖能を評価していた。例えば、Badylak et al(38)は、NIH Swissマウス3T3線維芽細胞、初代ヒト線維芽細胞、ケラチノサイト、内皮細胞、及び確立されたラット骨肉腫細胞株の培養を支持することが可能であることを示した。本実施例は、SISに由来する本明細書に記載の細胞外マトリックス調製物が、癌細胞の増殖を支持することを実証する。特に、前立腺癌細胞株及び皮下腫瘍(Lobund−Wistar(LW)ラットにラットPAIII細胞を接種することによって生じた腫瘍)から直接回収した混合細胞集団が、本明細書に記載の条件下において物質上で増殖することが示された。
【0075】
単相SIS及びRCMのシートを2×2cmの切片に切断し、修飾イーグル培地(MEM)に配置した。PAIII細胞(1×106)又はPAIII皮下ラット腫瘍から直接回収した細胞(1×106)は、SIS上に層にして、37℃で72時間に亘ってインキュベートし、次いで、10%の中性緩衝化ホルマリンにおいて24時間に亘って固定化し、70%のエタノール中で洗浄し、パラフィンに配置し、4から5μMで薄片を作製した。次いで、その切片をヘマトキシリン及びエオシンで染色して、細胞増殖について評価した。
【0076】
純粋なPAIII細胞とインキュベートしたサンプルは、SIS及びRCMの端に沿った単層の細胞増殖を示した(図2)。対照的に、腫瘍から直接回収した細胞の培養物は、SIS及びRCMの端に沿った細胞増殖を示した。加えて、培地中でインキュベートを実施したが細胞を添加していない対照SIS(図4)と比較して、物質の中央において、血管構造が細胞で再構成された(図3)。Badylak et al(38)は、ラット骨肉腫細胞及び内皮細胞はECMの端でのみ増殖するが、線維芽細胞はDCM物質の中央を再構成することを示した。共培養した際は、ケラチノサイト及び線維芽細胞は、2つの細胞タイプの間で異なった空間的配向を生じ、早期に表皮構造が形成される。
【0077】
本試験は、前立腺癌細胞及び腫瘍から直接回収した混合細胞集団が、3つのタイプのECM(FEM、SIS、及びRCM)上で培養して増殖し得ることを示す。
【0078】
(実施例4)
手術による切除後の腫瘍の再増殖を予防するためのワクチンアジュバントとしてのSIS
研究の初期において、本発明者は、前立腺癌を予防するという、PAIIIラット腫瘍から直接回収されたグルタルアルデヒド固定化腫瘍(GFT)細胞の能力を開示した(36)。これに基づいて、本実施例は、ワクチン接種が、手術による切除後の腫瘍の再増殖を阻害することを実証する。
【0079】
本実施例は、SIS/全細胞ワクチンが、手術による切除及びデバルキング後の腫瘍の再増殖を効果的に阻害することを実証する。試験では、化学誘導によって前立腺腫瘍を新たに誘導するために使用され得るか又は前立腺癌細胞株(PAIII細胞)の移植後に皮下腫瘍を増殖するために使用され得る、Lobund−Wistar(LW)ラット前立腺癌モデルを利用した。
【0080】
後者の系を使用して、PAIII細胞をLWラットの群に皮下投与した。PAIII細胞投与の14日後に、腫瘍を手術によってデバルキングし、ワクチンを以下のように適用した。
【0081】
SIS上における3日間の細胞増殖後のアジュバント能
ワクチンは、皮下腫瘍から回収した腫瘍細胞を、3日間に亘ってSIS上で培養して増殖させ、その後にグルタルアルデヒド固定化(GFT)及び洗浄を実施することによって調製した(SIS上のGFTワクチン)。グルタルアルデヒド固定化は、2.5%グルタルアルデヒド(v/v)中で60分に亘って37℃で細胞をインキュベートし、次いで、培地で洗浄することを伴う。5ラットの一群は切除のみを実施し、1つの群はGFT細胞ワクチンを腫瘍床に適用し、1つの群はSISを腫瘍床に適用し、並びに1つの群はSIS上のGFT細胞ワクチンを腫瘍床に適用した。3週間後の平均腫瘍再増殖(腫瘍重量(グラム)±標準偏差)についての結果は、図5に示しており、以下のようであった:
切除のみ:11.64±2.14グラム、4/5が肺への転移を有していた;
SIS単独:13.61±1.46グラム、4/5が肺への転移を有していた;
GFT細胞ワクチン:9.50±1.27グラム、3/5が肺への転移を有していた;
SIS上のGFT細胞ワクチン:3.98±1.37グラム、2/5が肺への転移を有していた。
【0082】
SIS上のGFT細胞ワクチンを用いてワクチン接種したラットにおける腫瘍は、GFT細胞ワクチン単独及び対照群を用いてワクチン接種したラットのものよりも有意に小さい(P≦0.01)ものであった。
【0083】
SIS上における28日間の細胞増殖後のアジュバント能
第二の試験では、移植前に、細胞を28日間に亘ってSIS上で培養した。この試験の結果は、図6に示しており、以下のようなものであった:
切除のみ:14.9グラム±2.12、6/6が肺への転移を有していた;
SISのみ:15.6グラム±1.82、5/5が肺への転移を有していた;
GFT細胞ワクチン:11.8グラム±1.46、4/5が転移を有していた;
SIS上のGFTワクチン:6.01グラム±1.17、2/5が肺への転移を有していた。
【0084】
かくして、その結果は再現性があり、SIS上のGFTワクチンが、肺への原発腫瘍からの転移も阻害することを示した。これらのデータは、小さい群であるため、非常に有意であるというわけではない(0.053の確率)。
【0085】
これらのデータは、SISなどの細胞外マトリックス上でワクチン細胞を増殖させるか又は前記細胞外マトリックスに取り込ませることによって、癌ワクチンの有効性が改善されるという考えを支持する。
【0086】
(実施例5)
癌を予防するワクチン用のアジュバントとしてのSISゲルの作用
固体のSISマトリックスに取り込まれたワクチンの移植は組織の切開を必要とするため、全ての適用に実用的であるわけではない可能性がある。かくして、本実施例は、SISなどの細胞外マトリックスを用いたゲル形態における癌に対するワクチンを提供するという本発明の利用並びにワクチンアジュバントとしてのその使用を実証する。
【0087】
SISゲルは、Cook Biotech,Inc.(West Lafayette,IN)によって提供されており、酸消化及び精製工程を経てSIS物質から製造されている。
【0088】
SISゲルは、滅菌生理食塩水で1:10に希釈した。PAIII腫瘍から回収したグルタルアルデヒド固定化細胞は、SISゲルの0.25ml用量の各々が5×106GFT細胞を含有するように、SISゲル希釈物に混合した。
【0089】
10匹のオスのLWラットの群に、以下:
0.25mlのSISゲル;
0.25mlのSISゲル+GFT細胞;
5×106GFT細胞を含有する0.25mlの滅菌生理食塩水;又は
0.25mlの生理食塩水
を皮下投与した。
【0090】
ラットは、7日間隔で3回ワクチン接種した。最後のワクチン接種の7日後に、全てのラットに、1×106PAIII細胞を用いて皮下に攻撃した。
【0091】
PAIII細胞を用いて攻撃した3週間後に、ラットを安楽死させて、腫瘍を秤量した。結果は、平均腫瘍重量(±標準偏差)として図7に示しており、以下のようである:
生理食塩水:1.02g(±0.37)、5/6ラットが肺への転移を有していた、
GFT細胞ワクチン:0.86g(±0.11)、6/10ラットが肺への転移を有していた、
SISゲル中のGFT細胞ワクチン=0.19(±0.14)、1/10ラットが肺への転移を有していた。
【0092】
図7において認められるように、GFT細胞を単独で用いた処理は、約0.86g±0.11gの腫瘍サイズを生じさせ、ゲル形態の細胞外マトリックス物質(SIS)中のGFT細胞を用いた処理は、約1/4のサイズである約0.19g±0.14gの腫瘍重量を生じさせた。そのため、1:10の希釈における細胞外マトリックスゲル(SIS)の添加は、GFT細胞集団(固定化前立腺細胞ワクチン抗原)の腫瘍増殖阻害活性を約4倍から約5倍にまで有意に補助した。かくして、細胞に基づく癌ワクチンへの細胞外マトリックス物質の添加は、2倍以上にまで、ワクチンとして使用される腫瘍細胞調製物を有意に補助するであろう。
【0093】
(実施例6)
癌の治療のためのワクチンアジュバントとしてのSISゲルの作用
本実施例は、予防手段及び治療手段としての免疫効力の強化を提供するための本発明の利用を実証する。
【0094】
本実施例では、6匹のラットの群に、1×106のPAIII細胞を皮下において攻撃して、腫瘍を作製した。動物は、7日間隔で3回ワクチン接種した。攻撃の10日後で最初のワクチン接種の3日後に、ラットは、手術による腫瘍の切除を受けた。動物がSISシート状のGFT細胞ワクチンの皮下移植によるワクチン接種を受けた、更なる群を含めた。動物を腫瘍切除の21日後に安楽死させて、腫瘍を秤量した。
【0095】
本試験の結果は、図8に示しており、以下のように要約できる
治療群:平均腫瘍重量(g)±SD,肺への転移
生理食塩水(対照):9.2±2.2g、6/6が転移を有していた;
SIS単独:8.6±1.8g、6/6が転移を有していた;
GFT細胞ワクチン:5.8±0.9g、4/6が転移を有していた;
SISゲル中のGFT細胞ワクチン:5.0±0.8g、3/6が転移を有していた;
SISシート上のGFT細胞ワクチン:2.1±1.1g、3/6が転移を有していた;
【0096】
これらの試験は、SISゲルがワクチンアジュバント活性を有し、癌細胞攻撃の前であっても手術による切除の補助としても癌に対する保護免疫を強化することが可能であることを示す。このことは、SISゲルが、予防手段(すなわち、ワクチン)及び治療手段(図9)として効果的に免疫を強化することを意味する。
【0097】
(実施例7)
GFTワクチン及びECMアジュバントの安全性
本実施例は、ヒトを含む動物の治療のための臨床的に許容される調製物としての本発明の利用を実証する。特に、本実施例は、前記調製物が、組織損傷を誘導せず、かつ、自己免疫疾患を生じさせないことを実証する。
【0098】
GFT細胞ワクチン及びSISの双方は、in vivoで使用するのに安全である。本実施例は、GFT細胞ワクチンの反復投与が、ラットにおける組織病理学的又は臨床的疾患を誘導しないことを実証する。加えて、本実施例は、SISがin vivoにおける腫瘍増殖を促進しないことを示し、さらには、LWラット腫瘍モデルにおける腫瘍増殖の特有の阻害を示す。さらには、SISは、各種の適用のための医療用具として米国食品医薬品局によって既に認可されている。
【0099】
本試験は、本発明の調製物を用いた反復ワクチン接種が、自己免疫疾患の組織学的兆候を生じさせないことを実証する。
【0100】
10匹の3月齢のLWラットの群に、MEM又はGFT細胞のいずれかを用いて、12ヶ月に亘って1ヶ月毎に各々免疫及び追加免疫した。フロイント完全アジュバントを最初のワクチン接種に用いて、フロイント不完全アジュバントを追加免疫に用いた。次いで、組織を15月齢で回収して、10%中性緩衝化ホルマリン中で固定化し、3〜4μmに切断して、ヘマトキシリン及びエオシンを用いて染色した。全てのラットは、試験の間に亘って臨床的に正常であった。腎臓、心臓、脳、肝臓、睾丸、前立腺/精嚢、及び脾臓を試験して、全て組織学的に正常であることが認められた。
【0101】
これらの結果は、GFT細胞ワクチンを用いた反復ワクチン接種が、自己免疫を示す組織損傷を誘導しないことを実証するものである。
【0102】
(実施例8)
SISはin vivoに配置した際に腫瘍組織の増殖を促進しない
本実施例は、腫瘍/癌細胞調製物を用いて抗腫瘍活性を提供するものとしての細胞外マトリックスの利用を実証する。本実施例は、本発明の調製物が、それ自体によって腫瘍及び/又は癌の増殖を誘導することはないことも実証する。
【0103】
癌細胞は、in vitroにおいてSIS及びRCM上で増殖する能力を示すため、in vivoにおいて切除した腫瘍の床に配置される際に、SISなどのECMが残存する腫瘍細胞の増殖を促進するかどうか測定することが重要である。
【0104】
これを評価するために、25匹のオスの3月齢のLWラットの群に、上述の皮下PAIII腫瘍の誘導を実施した。次いで、動物は、4つの異なる治療群:
偽手術(対照);
SISを用いた腫瘍の内包(腫瘍は下層の血管床から切除しなかった);
完全な腫瘍の切除(全ての肉眼で確認できる腫瘍を除去した);又は
完全な腫瘍の切除後に、SIS(約3×3cm)を切除した腫瘍床にかぶせる
の1つに分類した。
【0105】
3週間後に、ラットを安楽死させて、腫瘍を秤量した。その結果(図9)として、SISは、偽手術又は切除単独と比較して、PAIII腫瘍の増殖を促進しないことが示された。SISを切除した腫瘍床にかぶせることによって、切除単独と比較して、腫瘍の大きさに有意な低減(P≦0.0009)がもたらされた(39)。
【0106】
細胞を含まないSIS単独が、有意な抗腫瘍効果を有していた。
【0107】
培養物中において、癌細胞株及び癌組織から回収した腫瘍物質の双方が、SIS及びRCM上で直ぐに増殖する。グルタルアルデヒド固定化によって不活化する際に、SIS上で増殖した癌細胞及び組織は、手術による切除後の腫瘍の再増殖を阻害する。この効果は、SIS上で細胞が増殖した際に認められ、グルタルアルデヒド固定化腫瘍細胞をゲル形態のSISに混合した際にも認められる。さらに、SISゲルは、癌の発生を予防するためのワクチンアジュバントとして働く、すなわち、生PAIII細胞を用いた攻撃に対する保護免疫を刺激することが示された。
【0108】
ECM物質は、SIS及びRCMによって実証されたように、in vivoで移植された際に強い炎症反応を開始させる。任意の特定の理論又は作用機構に限定することを意図しないが、ECMに付着するか又はゲル若しくは粒子懸濁物中に存在して運ばれる任意の抗原部分が免疫系に処理され、かくして、ECMがワクチンアジュバントとして作用する少なくとも1つの理論が説明されるであろう。
【0109】
SISは、TGF−βを含む各種の生物活性腫を含有することが既知である(41)。TGF−βは腫瘍の進行の後期において腫瘍促進因子として作用し得るが、腫瘍発生の初期では腫瘍抑制因子として作用する(42)。かくして、切除後などの適切な時点で投与して、腫瘍増殖を阻害するためにSISを利用することが見出された。
【0110】
(実施例9)
シートSIS、臨床応用のために提案する投薬計画
本実施例は、シート様の調製物におけるSISの使用によって、癌の治療及び/又は腫瘍増殖の低減/阻害を提供するためのSIS中の本発明のワクチンの利用を実証するために提示する。
【0111】
手術による腫瘍切除を含まない手法
細胞外マトリックスに基づくワクチンは開示されていないが、不活化同種異系全前立腺癌細胞株を含む前立腺癌ワクチンの使用が開示されている(Michael,el al)(2005)(47)。本試験において、12ヶ月に亘る一ヶ月ごとの8×106の不活化全細胞の経皮注射を、最初の二回は標準的なアジュバントであるalum中で、ホルモン耐性前立腺癌を有する患者に投与した。最初の二回の投与において使用したアジュバントは、カルメットゲラン桿菌であった。最初の三回の投与は1週間毎に与え、その後1ヶ月に一度与えた。この手法によって、毒性の兆候を示すことなくPSA(前立腺特異的抗原)速度における統計的に有意な低減が誘導された。さらに、疾患の進行の所定の点までの時間の中央値が、約28週から58週に増大した。
【0112】
(Cook Biotech,Inc.などの供給業者から市販されているような市販の調製物を10倍に希釈した)細胞外マトリックスアジュバントの調製とともに全細胞前立腺癌ワクチンは、ワクチンが約12ヶ月に亘って一ヵ月毎に経皮又は皮下に投与される臨床投薬計画の下で本発明によって使用されるであろう。
【0113】
容易に注射され得るワクチン調製物、例えば、アジュバントとしてSISゲル又は粒状のSISを含むものは、経皮注射によって投与されるであろう。
【0114】
SISのシート上に固定化されたワクチンを含むワクチン調製物は、皮下腔に外套針によって経皮的に投与するか、他の実施態様では、皮膚を小さく切開して移植することによって投与されるであろう。
【0115】
手術による切除を含む方法
数少ない研究が、腫瘍の手術による切除と組み合わせてワクチン接種を利用することに注目している。Pilla et al(2006)(49)は、手術による切除後に、2週間毎の4回までの治療において、腫瘍由来のヒートショックプロテインgp96ペプチド複合体ワクチンを進行した黒色腫患者に投与した。その手法は、11/18の患者において手術後における疾患の安定化をもたらした。Berd et al(1997)(50)は、臨床的に明らかなリンパ節への転移を有する黒色腫患者に、一週間毎又は一ヵ月毎の予定で不活化自己全細胞ワクチンを投与した;この手法は、手術単独によるものよりも優れた生存率をもたらした。
【0116】
切除した前立腺癌の腫瘍床に直接ワクチン接種すること並びに細胞外マトリックスなどの固相アジュバントにワクチンを取り込ませることに注目した研究は存在しないが、本実施例では、ワクチンの特定の臨床的用途を実証する。本発明の幾つかの実施態様は、細胞外マトリックスのシート上に取り込ませたワクチンを提供し、手術時に切除した腫瘍床上に直接シートとして適用されるか又は1ヶ月毎に腫瘍床を超える部位に皮内又は皮下投与されるであろう。異なるワクチンを用いて使用される同様の手法が、Berd et al(1997)(50)によって開示されており、黒色腫の治療のための全細胞ワクチンを使用している。
【0117】
他の実施態様では、ワクチン接種を腫瘍床に直接施し、且つ、切除時の適用後に皮内又は皮下に与える追加ワクチン接種を実施するという併用を用いてよい。
【0118】
シート状のワクチンは、皮下腔に外套針によって、又は、おそらく、皮膚を小さく切開して移植することによって経皮投与されるであろう。アジュバントとしてSISゲル又は粒状のSISを含むもののような容易に注射可能なワクチン調製物は、腫瘍床上に物質を直接適用によって投与されるか又は注射によって皮内又は皮下に投与されるであろう。Bell et al.(2005)(65)参照のこと。
【0119】
(実施例9)
ワクチンの経皮投与
本実施例は、組織に基づくアジュバント癌調製物の経皮適用可能な製剤を提供するための本発明の利用を実証する。
【0120】
経皮ワクチン接種は、感染性病原体と関連する疾患については使用されているが(Kenney,2004(59);Skountzou,2006(60);Glenn,2006(61))、非常に数少ない試みが、癌ワクチンの投与の当該経路について為されている。経皮免疫接種が、剃ったあとの皮膚に適用する軟膏において、イミキモドという細胞毒性Tリンパ球(CTL)活性化因子を投与することによってマウスにおいて使用された(Rechsteiner,2005(62))。この手法は、CTL活性を一般的に刺激したが、任意の特定の癌抗原に対するものではなかった。他の研究者は、剃ったあとの皮膚及びパッチの下に配置したベクターの薄膜を介してアデノウイルスベクター中のヒト癌胎児性抗原遺伝子をマウスに送達することによる抗腫瘍ワクチンを開示した(Huang,2005(63))。この手法は、ネズミ乳腺腺癌細胞を用いた攻撃に対して免疫耐性をもたらす。
【0121】
本発明の使用によれば、前立腺細胞のグルタルアルデヒド固定化調製物などの興味ある癌抗原は、ゲル形態のSISなどの細胞外マトリックス物質と共に製剤中において調製されてよい。当該製剤では、調製物を所定の領域に適用して、抗腫瘍効果を提供してよい。
【0122】
(実施例10)
SISは同種異系細胞株に基づくワクチンのための効果的なアジュバントである
上記実施例に示したように、PAIII前立腺癌細胞又はLobund−Wistar(LW)ラット中の前立腺腫瘍から直接回収した細胞を用いたワクチンは、同系の動物中の保護免疫を刺激する。対照的に、同種異系細胞は、同種の遺伝的に異なる個体から得られたものである。かくして、PAIII細胞株は全てのLWラットの間で移植可能であり、かつ、同系であると解されるが、Mt−Lu及びMat−Ly−Lu細胞株は、Copenhagenラットに由来する。これら後者の2種の細胞株は、LWラットに移植した際にも腫瘍が発生しない。RFL−6細胞株は、本発明者が、線維芽細胞抗原が切除後の腫瘍再増殖に対する保護免疫を強化するか否かを決定するために評価した、同種異系ラット線維芽細胞株である。
【0123】
6匹のLWラットの群に、1×106PAIII前立腺癌細胞を皮下に投与して、腫瘍を発生させた。次いで、ラットは、皮下腫瘍を手術によって切除された。次いで、動物に、更なる処理なし(RX);グルタルアルデヒド固定化(GF)RFL−6細胞単独又はGF MAT−Lu若しくはGF MAT−Ly−Lu細胞のいずれかを用いてワクチン接種;或いは培養して三日増殖させた後のGF RFL−6単独又はGF MAT−Lu若しくはGF Mat−Ly−LuをSIS上で用いてワクチン接種のいずれかを実施した。動物は腫瘍床に直接一回ワクチン接種した。動物を21日後に安楽死させて、結果を再増殖した腫瘍の平均重量(S.D.)及び群の総数の中からの転移座陽性の肺の数で表わした:
RSのみ:6.7g(3.2)、4/6の肺が陽性;
GF RFL−6:5.1(1.79)、4/6の肺が陽性;
SIS上のGF RFL−6:7.1(3.14)、5/6の肺が陽性;
GF Mat−Lu+RFL:4.7(4.44);1/6の肺が陽性;
GF Mat−Lu+SIS上のRFL:1.7(1.21)0/6の肺が陽性;
GF Mat−Ly−Lu+RFL:5.9(3.06)、1/6の肺が陽性;
GF Mat−Ly−Lu+SIS上のRFL:2.4(1.77)、0/6の肺が陽性。
【0124】
切除の21日後の再増殖した腫瘍の平均重量は、図10(May−Lu)及び11(Mat−Ly−Lu)にある。
【0125】
図10については、X=腫瘍の切除のみ;R=切除+GF RFL−6細胞を用いたワクチン接種;R/S=切除+SISアジュバント上のGF RFL−6細胞を用いたワクチン接種;MLu/R=切除+GF RFL−6細胞及びGF MatLu細胞を用いたワクチン接種;並びにMLu/R/S=切除+SISアジュバント上のGF RFL−6細胞及びGF MatLu細胞を用いたワクチン接種である。
【0126】
図11については、X=腫瘍の切除のみ;R=切除+GF RFL−6細胞を用いたワクチン接種;R/S=切除+SISアジュバント上のGF RFL−6細胞を用いたワクチン接種;MLyLu/R=切除+GF RFL−6細胞及びGF MatLyLu細胞を用いたワクチン接種;並びにMLyLu/R/S=切除+SISアジュバント上のGF RFL−6細胞及びGF MatLyLu細胞を用いたワクチン接種である。
【0127】
腫瘍サンプルの組織学的試験によって、他の処理群からのサンプルとは対照的に、SIS上のGF Mat−Ly−Lu+RFLを用いて処理した数匹のラットにおける腫瘍の境界における急性炎症の領域とともに、SISの周りの慢性的な炎症及び線維症が示された。それらの他の群では、腫瘍は、おそらく組織低酸素症による、主に腫瘍の壊死中心における急性炎症の程度が異なることによって特徴付けられた。境界から腫瘍が増殖するため、SIS上のGF May−Ly−Lu+RLFは、腫瘍増殖を阻害するのに十分な量で炎症反応を刺激することが推測される。
【0128】
これらの結果は、ECMアジュバントであるSISが、同種異系(Mat−Lu及びMatLyLu)細胞株を抗原として使用するワクチンを効果的に補助することを示している。
【0129】
(実施例11)
SISは、異種細胞株に基づくワクチンのための効果的なアジュバントである
癌の免疫療法に共通の問題は、免疫寛容についての問題である。各種の機構によって、宿主免疫系は、単純に、腫瘍に効果的に反応することができない。多くの場合には、腫瘍が「自己」であると認識される。かくして、腫瘍抗原と類似あり、且つ、異物として強く認識される抗原が有利であろう。これに関して、他の種(異種)からの細胞株が有益であろう。本発明によれば、異種腫瘍細胞に基づくワクチンは、宿主の腫瘍を攻撃し得るものとして、強力な免疫反応を提供するであろう。
【0130】
この試験では、異種ワクチン抗原として、ヒト細胞株DU145(ヒト患者の脳の転移病巣から得られるホルモン非依存的前立腺癌)の利用を評価し、LNCaP(ヒト患者のリンパ節転移から得られるホルモン依存的前立腺癌)の利用を評価する。細胞は、プラスチック培養容器上又は培養物中のSIS上のいずれか胃において3日間増殖させ、グルタルアルデヒドで固定化し(GF)、次いで、皮下腫瘍切除モデルにおいて上述のように使用した。結果は、平均腫瘍重量(S.D.)及び肺の総数のうちの転移座陽性の肺の数で与える:
RSのみ:6.5g(3.32)、2/6の肺が陽性;
RS+GF DU145+GF IMR90:4.9g(2.46)、1/6の肺が陽性;
RS+GF LNCaP+GF IMR90:3.8g(1.46)、1/5の肺が陽性;
RS+SIS上のGF DU145/GF IMR90:3.2g(1.44);1/6の肺が陽性;
RS+SIS上のGFLNCaP/GF IMR90:1.9g(0.92);0/6の肺が陽性。
【0131】
切除の21日後の再増殖した腫瘍の平均重量を図12に示す。
【0132】
これらの結果によって、ECMアジュバントであるSISは、異種細胞癌ワクチンのための効果的なアジュバントとして働くことが可能であることが示される。
【0133】
(実施例12)
ワクチンアジュバントとして作用する他の細胞外マトリックス(ECM)の機能
本実施例は、各種の異なる細胞由来のマトリックスを使用してワクチンを提供するための本発明の利用を実証する。
【0134】
ECM上で増殖させたPAIII細胞、腎被膜物質(RCM)、及び筋膜細胞外マトリックス(FEM)を用いた試験を、LWラットにおける皮下PAIII腫瘍切除モデルを用いて実施した。簡潔に説明すると、PAIII細胞をSIS、RCM、又はFEMのいずれかの上で7日間に亘って培養することにより増殖させ、上述のようにグルタルアルデヒドで固定化(GF)した。6匹のLWラットの群は、1×106PAIII前立腺癌細胞を皮下に投与して、腫瘍を発生させた。ラットで腫瘍増殖させた21日後に、腫瘍を手術により切除し、ワクチンを腫瘍床に直接適用した。ラットの群に、更なる処理なし(X);GF細胞のみでワクチン接種(Cells);SIS上のGF細胞でワクチン接種(Cells/SIS);FEM上のGF細胞でワクチン接種;又はRCM上のGF細胞でワクチン接種のいずれかを実施した。
【0135】
動物は21日後に安楽死させて、再増殖した腫瘍の平均重量(±S.D.)で結果を図13に表わした。SIS、FEM、又はRCMのいずれかの上で増殖したGF細胞を用いてワクチン接種したラットは、アジュバント無しでGF細胞を用いてワクチン接種をしたラット又はワクチン接種をしなかったラットよりも有意に低い平均腫瘍重量であった。SIS上のGF細胞とRCM上のGF細胞とFEM上のGF細胞とでワクチン接種した群の間には有意な差がなかったが、RCM上のGF細胞を用いてワクチン接種した群は、他の群よりも顕著に低い平均腫瘍重量を有していた。
【0136】
これらの結果は、SIS、RCM、及びFEMを含む各種のECMが有効なワクチンアジュバントであることを示している。
【0137】
(実施例13)
細胞を含まないワクチン調製物としての順化ECM組織物質の調製物の提案
本実施例は、ECM順化ワクチン又はワクチンアジュバントの本質的に細胞を含まない調製物を提供するための本発明の利用を実証する。当該順化ECMは、ワクチン又はワクチンアジュバントとして使用されてよい。
【0138】
SISアジュバントを含む癌ワクチンの現在の形態は、細胞外マトリックス上で増殖させているか又は細胞外マトリックスに接着させた不活化癌細胞の使用を伴うが、細胞外マトリックス(ECM)は、その様な細胞の解離後におけるアジュバントとしても作用し得る。その様な「順化」ECM調製物は、残存する全細胞物質による潜在的な自己免疫反応についての懸念を低減するであろう。順化ECMは、例えば、増殖因子、分泌間質物質、及び他の因子を含むであろうが、本質的に細胞全体を含まないであろう。
【0139】
順化ECMは、例えば上述のようなSISのシート状で腫瘍/癌細胞を増殖させることによって生産されるであろう。増殖期間後に、細胞をSISから、化学的手段(例えば、カリウムチオシアネート中でインキュベート)又は機械的手段(例えば、超音波への曝露)などによる解離又は溶解により除去されるであろう。細胞の増殖は、各種の増殖因子及び追加の細胞外物質の細胞からの生成を生じさせるであろう。ECMは、かくして、腫瘍の免疫による破壊のための標的として役に立つ抗原を含有するようになる。このようにして、次いで、細胞を含まない順化ECMが、調製物の一部として不活化細胞成分を有するECMと同様にワクチン接種に使用され得るであろう。
【0140】
(実施例14)
ECMワクチン及び第二の活性成分を用いた併用療法の提案
本実施例は、化学療法剤などの他の活性剤と共にECMワクチン調製物を含む治療法を提供するための本発明の利用を示す。単独又は併用における、以下に記載するもの並びに同じクラス/生物学的機能/生物学的活性の他のものなどの薬剤の包含も、臨床治療のための本明細書に提示する各種の用途において有用であろう。幾つかの場合において、前記併用は、ECMの抗癌活性及び/又は有効性を更に改善することが期待される。幾つかの実施例において、選択された化合物は、ECMと混合又は化学結合などによって結合されてよい。この様な併用剤が含んで良いものの幾つかの例を以下に挙げる。
【0141】
シクロホスファミド − 低用量のシクロホスファミドは、制御性(サプレッサー)T細胞を阻害することが示されており、かくして、ワクチン接種に応答して、免疫系により効率的に腫瘍を標的とさせる(Berrando P,et al.(2007),Cancer Res.,15;67(18)8847−55)(Lord R,et al.(2007),J.Urol.,177(6):2136−40)。
【0142】
IL−21などのサイトカインは、免疫細胞集団を調節して、細胞に効果的な免疫反応を生じさせ得ることが開示されている(Li Y,Yee C.,(2007),Blood.2007 Oct 5)。並びに、サイトカインである顆粒球/マクロファージコロニー刺激因子(GM−CSF)が挙げられる(Chang EY, et al.(2000),Int J Cancer.,86(5):725−30)。
【0143】
メラトニン − 松果体によって主に生産される神経ホルモンは、造血及び免疫細胞生産及び機能のin vivo及びin vitro双方における調節因子である。生理学的には、メラトニンは、Tヘルパー1(Th1)サイトカインと関連しており、その投与はTh1刺激を支持する(Miller SC,et al.(2006),Int J Exp Pathol.87(3):251)(Subramanian P,Mirunalini S,Dakshayani KB,Pandi−Perumal SR,Trakht I,Cardinali DP.Prevention by melatonin of hepatocarincinogenesis in rats injected with N−nitrosodiethylamine. J Pineal Res.2007 Oct;43(3):305−12)。
【0144】
1−メチル−トリプトファン − 癌ワクチンの失敗の潜在的な理由は、免疫抑制酵素であるインドールアミン−ピロール2,3−ジオキシゲナーゼ(IDO)による免疫寛容である。1−メチル−トリプトファンは当該酵素を阻害する(Ou X,et al.(2007),J Cancer Res Clin Oncol., Oct.2,2007 Epub)。
【0145】
シクロオキシゲナーゼ−2(COX−2)は、プロスタグランジンの合成における律速酵素である。当該酵素は多数の癌において過剰発現されており、腫瘍免疫の縮小と関連している。セレコキシブはCOX−2インヒビターであり、そのため、抗癌ワクチン接種に対する免疫を改善し得る(Hahn T,et al.(2006),Int J Cancer,118(9):2220−31)。
【0146】
CpGオリゴヌクレオチド − CpGオリゴデオキシヌクレオチド(CpG−ODN)は、抗原提示、副刺激分子発現、樹状細胞成熟、及びサイトカイン促進抗体依存細胞性細胞毒性を含む、先天性及び獲得性免疫反応に作用する(Lubaroff DM,et al.(2007),Vaccine,24(35−36):6155−62)(Kochenderfer JN,et al.(2007),Clin Immunol.,124(2):119−30)。
【0147】
ヒートショックプロテイン − ヒートショックプロテイン70(HSP−70)ファミリーの細胞質に存在する種類は、動物腫瘍モデルにおける保護細胞性免疫を誘導することが示されている(Hashemi SM,Soudi S,Ghazanfari T,Kheirandish M,Shahabi S.Evaluation of anti−tumor effects of tumor cell lysate enriched by HSP−70 againstfibrosarcoma tumor in BALB/c mice.Int Immunopharmacol. 2007 jul;7(7):920−7)。ヒートショックプロテインは、ECMアジュバントに添加されるか又はECM上で増殖させた細胞によるヒートショックプロテインの発現を誘導する。
【0148】
(実施例15)
患者に合わせたECMワクチンの提案
本実施例は、治療すべき標的患者から組織を用いてECMの専用ワクチン調製物を提供するための本発明の利用を実証する。意図する患者由来の組織を用いて実際に調製することで、本発明によるワクチン調製の手法は、とりわけ、非自己免疫反応と関連する有害な効果の可能性を低減及び/又は最小化するであろう。さらに、ECM上における回収した腫瘍組織の増大は、患者の臨床的進行によって示される継続する追加免疫接種に十分な物質の生産を可能にする。これは、本明細書に記載の調製物の抗原活性を保持しながら達成される。
【0149】
加えて、患者の癌/腫瘍組織がワクチン調製工程に使用されるため、ECMをアジュバントとするワクチンのカスタマイズによって特定の患者の癌及び/又は腫瘍細胞集団を摸倣することによって、患者特有の疾患(すなわち、腫瘍又は癌)の細胞集団から分泌される特殊且つ患者に特異的な因子を含まれることが予測される。これによって、意図する患者以外の起源に由来する腫瘍細胞のより一般的な集団において典型的には存在しないECM中の特定の因子を供給する機会が与えられる。これに関連して、ワクチンは、患者における特定の癌細胞に合わせて作製される。当該手法は、腫瘍阻害治療としての調製物の有効性を高めるであろう。
【0150】
例えば、患者の腫瘍/癌組織の生検を実施して、次いで、生検した物質をSISなどのECM上で培養し得る。適当な培養時間の後に、腫瘍/癌組織細胞は除去又は不活化されるであろう。残存するECM物質を、次いで、本明細書に記載のように処理して、ワクチンアジュバントを提供する。このアジュバントを、次いで、患者の治療において使用してよい。
【0151】
本発明は、添付の図面を参照して、幾つかの実施態様と合わせて十分に説明されているが、各種の変形例及び修飾例が当業者には明らかであると解されるべきである。その様な変形例及び修飾例は、添付の特許請求の範囲を逸脱しない限り、当該特許請求の範囲によって規定される本発明の範囲に含まれると解されるべきである。
[参考文献]
【特許請求の範囲】
【請求項1】
免疫原量の興味ある癌抗原調製物;及び
癌ワクチンアジュバント
を含む、癌ワクチンとしての使用に適切な組成物であって、
前記癌ワクチンアジュバントが、細胞外マトリックス物質に特徴的な調製物を含み、前記癌ワクチンアジュバントの存在下における前記興味ある癌抗原調製物の免疫原量が、前記癌ワクチンアジュバントの非存在下において保護反応を刺激するのに十分な興味ある癌抗原調製物の免疫原量未満である、組成物。
【請求項2】
前記興味ある癌抗原調製物がヒト前立腺細胞を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記癌ワクチンアジュバントが、小腸粘膜組織に由来する細胞外マトリックス物質を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
興味ある癌抗原の免疫原性を高めることが可能な細胞外マトリックス物質を含む癌ワクチンアジュバントを得る工程;
前記癌ワクチンアジュバントを免疫原量の興味ある癌抗原と組み合わせる工程;
を含む方法によって調製される、請求項1に記載の組成物であって、
前記癌ワクチンアジュバントが、細胞外マトリックス物質を含み、前記癌ワクチンアジュバントの存在下において保護反応を刺激するのに十分な前記興味ある癌抗原の免疫原量が、前記癌ワクチンアジュバントの非存在下において保護反応を刺激するのに十分な興味ある癌抗原の免疫原量未満である、組成物。
【請求項5】
更に前立腺癌ワクチンとして定義される、請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
前記細胞外マトリックス物質が腎被膜組織を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項7】
前記細胞外マトリックス物質が、小腸粘膜下層組織又は筋膜細胞外マトリックス物質を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項8】
前記興味ある腫瘍抗原調製物が、興味ある腫瘍抗原の不活化組織調製物を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
興味ある癌抗原と、前記興味ある癌に対する動物における免疫反応を刺激するのに十分な癌ワクチンアジュバントとを含む組成物の免疫原量を投与する工程を含む、興味ある癌に対して動物を免疫するための方法であって、
前記動物における免疫反応を刺激するのに十分な組成物の免疫原量が、免疫反応を刺激するのに十分な癌アジュバントの非存在下における興味ある癌抗原の免疫原量未満である、方法。
【請求項10】
前記興味ある癌抗原が前立腺腫瘍細胞調製物を含む、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
請求項1に記載の組成物を、腫瘍を有する動物に投与する工程を含む、動物における腫瘍の増殖を阻害するための方法。
【請求項12】
前記腫瘍の増殖が4倍阻害される、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
細胞外マトリックス物質と興味ある腫瘍抗原調製物とを含む、移植可能な調製物。
【請求項14】
更に細胞外マトリックス物質のシートとして定義される、請求項13に記載の移植可能な調製物。
【請求項15】
更に細胞外マトリックス物質のゲルとして定義される、請求項13に記載の移植可能な調製物。
【請求項16】
細胞外マトリックス物質上で興味ある腫瘍細胞を培養する工程を含む、癌ワクチン調製物において抗原として使用するのに適切な腫瘍細胞を増大するための方法。
【請求項17】
前記興味ある腫瘍細胞が前立腺腫瘍細胞である、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記細胞外マトリックス物質が小腸粘膜組織である、請求項16に記載の方法。
【請求項19】
細胞外マトリックス物質アジュバントと、請求項16に記載の方法によって調製した前立腺腫瘍細胞の調製物とを含む、前立腺癌ワクチン。
【請求項20】
前記前立腺腫瘍細胞がヒト前立腺腫瘍細胞である、請求項19に記載の前立腺癌ワクチン。
【請求項21】
細胞順化培地を含む、本質的に細胞を含まないワクチンであって、前記細胞順化培地が細胞外マトリックス物質の培養物から得られる、ワクチン。
【請求項22】
請求項1に記載のECMワクチンと第二の生物学的活性剤とを含む、ワクチンのための併用調製物。
【請求項1】
免疫原量の興味ある癌抗原調製物;及び
癌ワクチンアジュバント
を含む、癌ワクチンとしての使用に適切な組成物であって、
前記癌ワクチンアジュバントが、細胞外マトリックス物質に特徴的な調製物を含み、前記癌ワクチンアジュバントの存在下における前記興味ある癌抗原調製物の免疫原量が、前記癌ワクチンアジュバントの非存在下において保護反応を刺激するのに十分な興味ある癌抗原調製物の免疫原量未満である、組成物。
【請求項2】
前記興味ある癌抗原調製物がヒト前立腺細胞を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記癌ワクチンアジュバントが、小腸粘膜組織に由来する細胞外マトリックス物質を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
興味ある癌抗原の免疫原性を高めることが可能な細胞外マトリックス物質を含む癌ワクチンアジュバントを得る工程;
前記癌ワクチンアジュバントを免疫原量の興味ある癌抗原と組み合わせる工程;
を含む方法によって調製される、請求項1に記載の組成物であって、
前記癌ワクチンアジュバントが、細胞外マトリックス物質を含み、前記癌ワクチンアジュバントの存在下において保護反応を刺激するのに十分な前記興味ある癌抗原の免疫原量が、前記癌ワクチンアジュバントの非存在下において保護反応を刺激するのに十分な興味ある癌抗原の免疫原量未満である、組成物。
【請求項5】
更に前立腺癌ワクチンとして定義される、請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
前記細胞外マトリックス物質が腎被膜組織を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項7】
前記細胞外マトリックス物質が、小腸粘膜下層組織又は筋膜細胞外マトリックス物質を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項8】
前記興味ある腫瘍抗原調製物が、興味ある腫瘍抗原の不活化組織調製物を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
興味ある癌抗原と、前記興味ある癌に対する動物における免疫反応を刺激するのに十分な癌ワクチンアジュバントとを含む組成物の免疫原量を投与する工程を含む、興味ある癌に対して動物を免疫するための方法であって、
前記動物における免疫反応を刺激するのに十分な組成物の免疫原量が、免疫反応を刺激するのに十分な癌アジュバントの非存在下における興味ある癌抗原の免疫原量未満である、方法。
【請求項10】
前記興味ある癌抗原が前立腺腫瘍細胞調製物を含む、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
請求項1に記載の組成物を、腫瘍を有する動物に投与する工程を含む、動物における腫瘍の増殖を阻害するための方法。
【請求項12】
前記腫瘍の増殖が4倍阻害される、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
細胞外マトリックス物質と興味ある腫瘍抗原調製物とを含む、移植可能な調製物。
【請求項14】
更に細胞外マトリックス物質のシートとして定義される、請求項13に記載の移植可能な調製物。
【請求項15】
更に細胞外マトリックス物質のゲルとして定義される、請求項13に記載の移植可能な調製物。
【請求項16】
細胞外マトリックス物質上で興味ある腫瘍細胞を培養する工程を含む、癌ワクチン調製物において抗原として使用するのに適切な腫瘍細胞を増大するための方法。
【請求項17】
前記興味ある腫瘍細胞が前立腺腫瘍細胞である、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記細胞外マトリックス物質が小腸粘膜組織である、請求項16に記載の方法。
【請求項19】
細胞外マトリックス物質アジュバントと、請求項16に記載の方法によって調製した前立腺腫瘍細胞の調製物とを含む、前立腺癌ワクチン。
【請求項20】
前記前立腺腫瘍細胞がヒト前立腺腫瘍細胞である、請求項19に記載の前立腺癌ワクチン。
【請求項21】
細胞順化培地を含む、本質的に細胞を含まないワクチンであって、前記細胞順化培地が細胞外マトリックス物質の培養物から得られる、ワクチン。
【請求項22】
請求項1に記載のECMワクチンと第二の生物学的活性剤とを含む、ワクチンのための併用調製物。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公表番号】特表2010−507584(P2010−507584A)
【公表日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−533570(P2009−533570)
【出願日】平成19年10月19日(2007.10.19)
【国際出願番号】PCT/US2007/081962
【国際公開番号】WO2008/051852
【国際公開日】平成20年5月2日(2008.5.2)
【出願人】(506154719)ユニバーシティ オブ ノートル ダム (4)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年10月19日(2007.10.19)
【国際出願番号】PCT/US2007/081962
【国際公開番号】WO2008/051852
【国際公開日】平成20年5月2日(2008.5.2)
【出願人】(506154719)ユニバーシティ オブ ノートル ダム (4)
【Fターム(参考)】
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