説明

細胞活性化方法

【課題】安全に移植用細胞の血管形成能を向上する。
【解決手段】細胞に対して、キャビテーションを発生させない出力の超音波振動を付与する細胞活性化方法を提供する。付与される超音波振動が、キャビテーションを発生させない出力に抑えられているので、その超音波振動が付与される細胞にダメージを与えることなく、細胞の血管形成能を増強することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞活性化方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、患者に移植される骨髄由来細胞の血管形成能を向上させる目的で、移植前に血管新生促進性遺伝子を細胞に導入する技術が知られている(例えば、特許文献1参照。)。また、この特許文献1においてはサイトカイン療法との併用についても記載されている。
【0003】
【特許文献1】特表2007−527395号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、患者に移植する細胞への遺伝子導入については安全性が十分に確保されておらず、また、サイトカイン療法についても明確な機序が解明されていない。
本発明は上述した事情に鑑みてなされたものであって、安全に移植用細胞の血管形成能を向上することができる細胞活性化方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために、本発明は以下の手段を提供する。
本発明は、細胞に対して、キャビテーションを発生させない出力の超音波振動を付与する細胞活性化方法を提供する。
本発明によれば、付与される超音波振動が、キャビテーションを発生させない出力に抑えられているので、その超音波振動が付与される細胞にダメージを与えることなく、細胞の血管形成能を増強することができる。
【0006】
上記発明においては、前記超音波振動が、周波数20〜30kHz、エネルギ150J以下であることが好ましい。
このようにすることで、細胞にかかるダメージを十分に抑えつつ細胞を血管形成能を効果的に増強することができる。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、安全に移植用細胞の血管形成能を向上することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明の一実施形態に係る細胞活性化方法について、図面を参照して以下に説明する。
本実施形態に係る細胞活性化方法は、未分化の細胞を分散させた細胞懸濁液を容器に収容して、細胞懸濁液内に配置した超音波振動子から、キャビテーションを発生させない出力の超音波振動を付与するものである。
【0009】
超音波振動子は、細胞懸濁液に対して、周波数20〜30kHz、エネルギ150J以下の超音波振動を付与するようになっている。
周波数20kHz以下の超音波振動は、ノイズが大きく精度良く制御できないため使用に適さず、周波数30kHzを越える超音波振動は、細胞懸濁液内にキャビテーションを発生させるため細胞にダメージを与えてしまう不都合がある。これに対して周波数20〜30kHzの超音波振動は、キャビテーションを生じさせないので、細胞に与えるダメージが小さく、細胞を健全な状態に維持することができる。
【0010】
図1に、周波数23.5kHzの超音波振動のエネルギと細胞生存率との関係、図2に、その超音波振動の持続時間と細胞生存率との関係をそれぞれ示す。図中の横軸は、出力100%で50Wの超音波振動子を使用した場合の出力を%表示したものである。この図1によれば、出力30%以下の場合には安定的に細胞生存率が高いが、出力30%を越えると、出力が高くなればなるほど細胞生存率が低下することがわかる。この超音波振動子の場合、出力30%は、15Wであるため、10秒間持続することにより、150J以下のエネルギを付与することになる。
【0011】
また、図2の横軸は、超音波振動の照射時間である。この図によれば、照射時間が10秒以下の場合には、安定的に細胞生存率が高いが、10秒越えると、照射時間が長くなればなるほど細胞生存率が低下することがわかる。
【0012】
図3に、細胞懸濁液に対して、出力30%5秒および出力30%10秒の条件で超音波振動を付与した後の血管形成能試験の結果を表す顕微鏡写真((a),(b))を超音波を付与しない場合(無処置)の血管形成能試験の結果(c)を表す顕微鏡写真と比較して示す。
【0013】
血管形成能試験は、以下のように行う。
目的の細胞に対し、内皮細胞を培養するゲル(例えば、BDマトリゲルマトリクス(Becton Dickinson社製)および培地および添加因子(例えば、EBM−2、内皮細胞添加因子セット−2(タカラバイオ社製)など)を用いて培養すると、細胞に血管形成能がある場合には細胞どうしが細いチューブ状に形成されて繋がっていく。
この様子を顕微鏡下で観察するか、もしくは画像解析ソフト(例えば、AngioQuant(Antti Niemist)など)を用いて単位面積あたりのチューブ形成量を求めることで、血管形成能を評価する。
【0014】
この血管形成能試験においては、脂肪由来幹細胞を5×10/mLの濃度となるように培養液20mLに懸濁した複数の50mLコニカルチューブにおいて、該コニカルチューブ内の細胞懸濁液に上記条件の超音波振動を付与したものと無処置のものとを用意し、各コニカルチューブ内の試料から1×10/200μLを採取して行った。
【0015】
その結果、図3に示されるように、上記条件の超音波振動を付与した細胞は、無処置の細胞と比較して細胞どうしがチューブ状に繋がった大きな凝集塊が確認され、高い血管形成能を有すること確認された。
このように本実施形態に係る細胞活性化方法によれば、超音波振動を付与した細胞は、超音波振動を付与しなかった場合と比較して血管形成能を向上することができる。そして、キャビテーションを発生させない出力の超音波振動を付与することによって、細胞にダメージを与えることなく、血管形成能を向上することができる。
したがって、従来の遺伝子導入やサイトカイン療法とは異なり、患者に移植する細胞の安全性を損なうことなく製造することができるという利点がある。
【0016】
なお、本発明においては、未分化の細胞を含む細胞懸濁液に超音波振動を付与することとしたが、これに代えて、懸濁する前の細胞自体に超音波振動を付与することにしてもよい。また、生体から採取された生体組織に対して最初に上記条件の超音波振動を付与した後に、容器内において消化酵素を混合して細胞を分離することにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の一実施形態に係る生体組織消化方法において、細胞に照射する超音波振動の出力と細胞生存率との関係を表すグラフを示す図である。
【図2】図1の生体組織消化方法において、細胞に照射する超音波振動の照射時間と細胞生存率との関係を表すグラフを示す図である。
【図3】図1の生体組織消化方法による細胞の(a)超音波振動の出力30%5秒間、(b)出力30%10秒間、(c)無処置の条件における血管形成能を表す顕微鏡写真を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞に対して、キャビテーションを発生させない出力の超音波振動を付与する細胞活性化方法。
【請求項2】
前記超音波振動が、周波数20〜30kHz、エネルギ150J以下である請求項1に記載の細胞活性化方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−125054(P2010−125054A)
【公開日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−302821(P2008−302821)
【出願日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】