説明

細胞画像処理装置および細胞画像処理方法

【課題】細胞画像を処理することにより、特異的な性質を示す細胞をノイズから分離して抽出し、分析できるようにする。
【解決手段】細胞を撮影して取得された細胞画像を処理し、該細胞画像内に含まれる各細胞の特徴量を測定する特徴量測定部11と、測定された特徴量の分布を作成する特徴量分布作成部12と、作成された特徴量の分布において、連続的に分布する特徴量を有する細胞をグループ化するグループ形成部13と、各グループの特徴量の分布の両端の所定範囲の特徴量を有する細胞を特異的な細胞として抽出する特異細胞抽出部14とを備える細胞画像処理装置1を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞画像処理装置および細胞画像処理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、細胞画像を分析するために画像処理する細胞画像分析装置が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
この装置は、細胞画像中の特徴部分を抽出する際に、ノイズの影響を排除して高精度の分析処理を行うものである。
【特許文献1】特開2001−307066号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
細胞画像の自動処理装置で、多量のデータを短時間で処理して、細胞の特徴部分を抽出する場合には、特異的な特徴量を有する細胞はノイズとして処理対象から除かれる。
例えば、薬剤により細胞のサイズがどのように変化するかという分析においては、薬剤を投与しない細胞群の大きさと薬剤を投与して培養した細胞群の大きさとを比較するが、この場合には、平均的な大きさどうしの対比となり、平均的な大きさから外れた細胞については、比較の対象から除外される。
【0004】
このため、大半の細胞の趨勢と異なる特異的な現象が現れる細胞については分析されることなく、埋もれてしまうことになる。しかしながら、特異的な現象に意味のある場合があり、これを抽出して分析できるようにすることが必要である。
また、大半の細胞の趨勢と異なる特異的な現象は、偶発的に発生するゴミなどのノイズと区別することが困難である。したがって、特異的な細胞をノイズから分離して抽出することが必要である。
【0005】
本発明は上述した事情に鑑みてなされたものであって、細胞画像を処理することにより、特異的な性質を示す細胞をノイズから分離して抽出し、分析できるようにすることができる細胞画像処理装置および細胞画像処理方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明は以下の手段を提供する。
本発明は、細胞を撮影して取得された細胞画像を処理し、該細胞画像内に含まれる各細胞の特徴量を測定する特徴量測定部と、測定された特徴量の分布を作成する特徴量分布作成部と、作成された特徴量の分布において、連続的に分布する特徴量を有する細胞を特異的な細胞として抽出する特異細胞抽出部とを備える細胞画像処理装置を提供する。
【0007】
本発明によれば、特徴量測定部の作動により、細胞を撮影して取得された細胞画像が処理され、細胞画像内に含まれる各細胞の特徴量が測定され、特徴量分布作成部の作動により、特徴量測定部によって測定された細胞の特徴量の分布が作成される。この状態で特異細胞抽出部の作動により、連続的に分布する特徴量を有する細胞が特異的な細胞として抽出される。
【0008】
すなわち、多量のデータを処理して細胞の特徴を分析する場合に、単一の細胞が単発で特異的な特徴量を有することは少なく、同様の特異的な特徴量を有する細胞が複数存在している。つまり、特徴量の分布は、1以上のピークを中心に連続的に分散する。したがって、連続的に分布する特徴量を有する細胞を特異的な細胞として抽出することが可能となる。
【0009】
上記発明においては、前記特異細胞抽出部が、不連続に分布する特徴量を有する細胞を除外することとしてもよい。
上述したように、正常な細胞の特徴量は連続的に分布しているので、不連続に分布する特徴量を有する細胞を除外することで、特異的な細胞を除外することなく、ノイズを効率的に除外することができる。
【0010】
また、上記発明においては、前記特徴量測定部が、各細胞の複数の特徴量を測定し、前記特徴量分布作成部が、複数の特徴量の相関において特徴量の分布を作成することとしてもよい。
このようにすることで、複数の特徴量において特異的なものをノイズとして除外することが可能となる。
【0011】
また、上記発明においては、前記特異細胞抽出部の前記所定範囲の設定が変更可能であることとしてもよい。
このようにすることで、所定範囲の設定の変更により、抽出する特異的な細胞の特異性の度合いを調節することができる。
【0012】
また、上記発明においては、前記特徴量分布作成部により作成された特徴量の分布において、連続的に分布する特徴量を有する細胞をグループ化し、グループ毎に表示する表示部を備えることとしてもよい。
このようにすることで、抽出された特異的な細胞を含むグループ毎に細胞の画像を研究者が目視確認することができ、研究者に検証させることが可能となる。
【0013】
また、本発明は、細胞を撮影して取得された細胞画像を処理し、該細胞画像内に含まれる各細胞の特徴量を測定する測定ステップと、測定された特徴量の分布を作成する分布作成ステップと、作成された特徴量の分布において、連続的に分布する特徴量を有する細胞を特異的な細胞として抽出する抽出ステップとを含む細胞画像処理方法を提供する。
上記発明においては、前記抽出ステップが、不連続に分布する特徴量を有する細胞を除外することとしてもよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、細胞画像を処理することにより、特異的な性質を示す細胞をノイズから分離して抽出し、分析できるようにすることができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の一実施形態に係る細胞画像処理装置1および細胞画像処理方法について、図1〜図5を参照して、以下に説明する。
本実施形態に係る細胞画像処理装置1は、図1に示される解析装置10に搭載される。解析装置10は、細胞試料S等を載置して水平2軸方向に移動させるステージ2と、細胞試料Sからの蛍光を集光する対物レンズ3と、該対物レンズ3により集光された蛍光を撮像するCCDカメラ等の撮像装置4と、該撮像装置4により取得された画像を処理する細胞画像処理装置1と、これらの機器を制御する制御装置5と、前記細胞画像処理装置1により処理された細胞画像を表示する表示装置6とを備えている。図中、符号7は、対物レンズ3により細胞試料Sをそのままあるいは集光された細胞試料Sからの蛍光を目視観察するための接眼光学系である。
【0016】
細胞試料S等はスライドガラスやマルチプレート上に載置されるようになっている。
本実施形態に係る細胞画像処理装置1は、図2に示されるように、撮像装置4により取得された画像データを処理して、各細胞の特徴量を測定する特徴量測定部11と、測定された特徴量に基づいてその分布を作成する分布作成部12と、作成された特徴量の分布をグループ化するグループ形成部13と、グループ化された細胞、あるいは形成されたグループ毎に、特徴量の分布の両端の所定範囲の特徴量を有する細胞を特異的な細胞として抽出する特異細胞抽出部14とを備えている。
【0017】
特徴量としては、例えば、細胞の形態的特徴あるいは細胞の輝度を挙げることができる。細胞の形態的特徴は、例えば、細胞の面積、周囲長、平均曲率等である。特徴量測定部11は、例えば、細胞画像を2値化して、細胞の輪郭画像を取得することで細胞の形態的特徴を測定するようになっている。また、各細胞の画像を形成している画素の輝度値に基づいて細胞の輝度を測定するようになっている。
また、特異的な細胞とは、平均値および分布からのずれの大きいもの、グループ化を行った際に小さなグループを形成するもの、特異的なパラメータ相関を持つもの等である。
【0018】
分布作成部12は、例えば、特徴量を横軸に、細胞の個数を縦軸にして、例えば、図3(a)、(b)に示されるような特徴量に対する細胞分布を作成するようになっている。図3(a)は、細胞の特徴量が単純な統計的特徴を有する場合、特徴量分布は正規分布になる。一方、より複雑な統計的特徴を有する場合には、複数のピークを有して分布するようになる。図3(b)の場合には2つの大きなピークを有している。
グループ形成部13は、各ピークの特徴量を求め、該ピークの周囲に存在する細胞の特徴量の平均値と分散とをピーク毎に算出するようになっている。これにより、特徴量の分布をグループ化することができる。
【0019】
そして、特異細胞抽出部14は、図3(a)のような正規分布の場合には、グループ化された特徴量分布において、分布の両端の、例えば5%の範囲内に配される細胞を抽出するようになっている(図3(a)における斜線A,B部分)。
また、図3(b)のように2つの大きなピークを持ちながら、さらに小さなピークのグループDがある場合には、このグループDを特異的な細胞として抽出するようになっている。このとき、斜線A,B部分も特異的な細胞として抽出してもよい。
すなわち、本実施形態に係る細胞画像処理装置1によれば、連続的に分散する1以上のグループの特徴量の分布において、その分布の両端の5%の範囲内に配される細胞を抽出したり、他のピークに対して非常に小さいピークを持つグループの細胞を抽出したりすることができる。
【0020】
このように構成された本実施形態に係る細胞画像処理装置1による細胞画像処理方法について、以下に説明する。
本実施形態に係る細胞画像処理装置1を用いて特異的な細胞を抽出するには、まず、スライドガラスやマルチプレート上に載置した細胞試料Sをステージ2に載せ、ステージ2の移動により細胞試料Sを水平方向に移動させ、対物レンズ3の移動により細胞試料Sに焦点を合わせた状態で、撮像装置4により細胞試料Sの画像を取得する。
【0021】
そして、取得された細胞画像を処理して、該細胞画像内に含まれる各細胞の特徴量を測定し、測定された特徴量の分布を作成し、作成された特徴量の分布において、連続的に分布する特徴量を有する細胞をグループ化する。
多量のデータを処理して細胞の特徴を分析する場合に、単一の細胞のみが単発で特異的な特徴量を有することは少なく、同様の特異的な特徴量を有する細胞が複数存在している。つまり、特徴量の分布は、1以上のピークを中心に連続的に分散する。
【0022】
したがって、連続的に分布する特徴量を有する細胞をグループ化することにより、図3に符号Cで示す単発で特異的な特徴量を有するノイズを分析対象から除外することができる。また、各グループにおいては、それぞれのピークを中心として特徴量が連続的に分布しているので、その分布の両端の所定範囲、例えば、5%以内の範囲の特徴量を有する細胞を特異的な細胞として抽出したり他のグループよりも小さいグループを特異的な細胞として抽出したりすることが可能となる。
【0023】
グループ化せずに特異的な特徴量を有する細胞を抽出する場合には、図3(b)に符号Dで示されるような、全体の平均値近くに配されている特異的な細胞を抽出することが困難である。これに対し、本実施形態に係る細胞画像処理装置1のように、連続的に分布する特徴量を有する細胞をグループ化することにより、符号Dの領域に存在する細胞も特異的な特徴量を有する細胞として抽出することが可能となる。
【0024】
なお、本実施形態においては、単一の特徴量に対する細胞の分布を作成し、特異的な特徴量を有する細胞を抽出することとしたが、これに代えて、2以上の特徴量を使用して分布を作成することとしてもよい。この場合、2以上の特徴量を使用して単一のパラメータを演算し、該単一のパラメータについて分布を作成してもよい。
【0025】
例えば、図6に示すように、神経細胞のサイズを、該神経細胞の細胞体の輪郭に内接する内接円の半径によって表現し、神経細胞の細径突起部の長さを輪郭の周囲長により表現し、周囲長を内接円半径で規格化することにより新たな単一のパラメータ(周囲長/内接円半径)が得られる。例えば、細胞が完全に円形で突起の伸張が見られない場合には1、突起が十分に長い場合には2.5のように表現できる。この値に基づき、特異的な細胞を抽出することとしてもよい。
標準的なモデルとしては、活性の高い神経細胞は、サイズが大きく細径突起の長さも長いが、活性の低い神経細胞は、サイズが小さく細径突起の長さも短い。したがって、パラメータにより分布を求めることにより、標準的なモデルに従わない特異的なもの、例えば、サイズが大きく細径突起の長さが短いものや、サイズが小さく細径突起の長さが長いものを特異的な細胞として抽出することができる。
【0026】
また、2以上の特徴量を用いて分布を作成した場合でも単発的に存在する特異的な細胞をノイズとして抽出することができる。すなわち、ノイズの特徴として、複数の特徴量に関して特異的なものということがある。具体的には、培養容器中の小さいゴミなどはサイズが非常に小さく輝度も高い。そして、これは分布上では単発的なものとして現れる。一方、通常の細胞も死滅過程ではサイズが小さくなり、輝度も高くなる傾向があるが、ある程度のサイズを保っている場合が多い。したがって、サイズが非常に小さく輝度が高いものはゴミなどのノイズとして除去することができる。
【0027】
また、本実施形態においては、上述したように、作成された特徴量の分布をグループ化して特徴的な細胞を抽出するので、抽出された各細胞の画像を、図5に示されるように、グループ毎に並べて、あるいはグループ毎にまとめて表示することとしてもよい。そして、図5に示されるように特徴的な細胞をその細胞周辺を含め、あるいはその単一細胞だけを切り取った状態での画像として並べて表示し、観察者がその画像を選択すると、選択された特徴的な細胞あるいはその細胞周辺の特徴量データなどが示されるようにしてもよい。
このようにすることで、グループ化された共通の特徴を有する細胞を、観察者に比較可能に提示することができ、最終的な観察者の目視による判断を容易にすることができるという利点がある。
【0028】
また、特異的なものは単一の原因で起こるのではなく、いくつかの複合的な要素によって引き起こされるのが一般的であるから、特異的なものとして抽出・表示された細胞をさらに所定の要素で分類し、分類毎に並べて表示することとしてもよい。
例えば、ある種のホルモンに対して、細胞内のレセプタが発現する反応を見る場合において、レセプタの発現は、例えば蛍光タンパク遺伝子を導入することで観察できる。
【0029】
ここで、反応の大きさは発現した蛍光タンパクの量、すなわち、各細胞を蛍光顕微鏡で観察した際の蛍光量(明るさ)で定量することができる。そこで、特異的なものとして「蛍光量が少ないもの」、セルサイクルとの関連付けとして「DNA量」により分類することが効果的である。
【0030】
また、観察者が「細胞が小さい場合、細胞が死にかけて弱っていると考えられ、この場合、細胞の反応過程が機能しなくなっているはずである」との仮説を立てた場合に、特異的な細胞として抽出された蛍光量の少ない細胞を、それらのサイズによって分類したデータを表示することにより、観察者の仮説の検証作業を補助することができる。
また、抽出された各細胞に対して、形態のパラメータにより分類を行い、いくつかの特徴的な細胞グループに分類し、図5と同様の画像表示方法を用いてグループ毎に細胞を表示することによりユーザの利便性を増すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の一実施形態に係る細胞画像処理装置を備える解析装置示す模式的な全体構成図である。
【図2】図1の解析装置に備えられる本実施形態に係る細胞画像処理装置を示すブロック図である。
【図3】図1の細胞画像処理装置により作成された特徴量の分布の一例を示すグラフである。
【図4】図1の細胞画像処理装置により作成された2つの特徴量についての2次元的な分布の一例を示すグラフである。
【図5】図1の細胞画像処理装置によりグループ化された特徴量のグループ毎に細胞を表示する表示例を示す図である。
【図6】図1の細胞画像処理装置によりグループ化する際に用いられる形態パラメータの一例を示す図である。
【符号の説明】
【0032】
S 細胞試料
1 細胞画像処理装置
6 表示装置(表示部)
11 特徴量測定部
12 分布作成部(特徴量分布作成部)
13 グループ形成部
14 特異細胞抽出部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞を撮影して取得された細胞画像を処理し、該細胞画像内に含まれる各細胞の特徴量を測定する特徴量測定部と、
測定された特徴量の分布を作成する特徴量分布作成部と、
作成された特徴量の分布において、連続的に分布する特徴量を有する細胞を特異的な細胞として抽出する特異細胞抽出部とを備える細胞画像処理装置。
【請求項2】
前記特異細胞抽出部が、不連続に分布する特徴量を有する細胞を除外する請求項1に記載の細胞画像処理装置。
【請求項3】
前記特徴量測定部が、各細胞の複数の特徴量を測定し、
前記特徴量分布作成部が、複数の特徴量の相関において特徴量の分布を作成する請求項1に記載の細胞画像処理装置。
【請求項4】
前記特異細胞抽出部の前記所定範囲の設定が変更可能である請求項1に記載の細胞画像処理装置。
【請求項5】
前記特徴量分布作成部により作成された特徴量の分布において、連続的に分布する特徴量を有する細胞をグループ化し、グループ毎に表示する表示部を備える請求項1に記載の細胞画像処理装置。
【請求項6】
細胞を撮影して取得された細胞画像を処理し、該細胞画像内に含まれる各細胞の特徴量を測定する測定ステップと、
測定された特徴量の分布を作成する分布作成ステップと、
作成された特徴量の分布において、連続的に分布する特徴量を有する細胞を特異的な細胞として抽出する抽出ステップとを含む細胞画像処理方法。
【請求項7】
前記抽出ステップが、不連続に分布する特徴量を有する細胞を除外する請求項6に記載の細胞画像処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−64534(P2008−64534A)
【公開日】平成20年3月21日(2008.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−241312(P2006−241312)
【出願日】平成18年9月6日(2006.9.6)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】