説明

細胞移植機能を伴う心臓アシストシステム

【課題】補助人工心臓の埋め込み後に非侵襲で、心筋の再生に有効な細胞を梗塞部位に運ぶ。
【解決手段】直流及び交流電圧を印加することができるコントローラを有する補助人工心臓であって、ポンプの埋め込み時に電磁石を心臓の梗塞部位に貼り付け、埋め込み後にカプセルに封入した細胞を、カテーテルを用いて梗塞部位周辺に放出する。カプセルは磁性を有しており電磁石の磁界によって梗塞部位に集まり、梗塞部位付近で破壊される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、補助人工心臓である体内埋め込みポンプにおいて、無侵襲に心筋再生を可能とする心臓アシストシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
心筋細胞は、自身で増殖、分化することができないため、障害を受けると再生できず、機能不全(心不全)に陥ることがある。その治療法として、心臓移植、人工心臓などの置換型治療があるが、心臓移植には慢性的にドナーが不足する問題があり、人工心臓ではQOL(Quality of Life)の低下という問題がある。よって心筋の再生を行う治療が切望されている。
【0003】
心筋の再生を行うには、細胞移植、補助人工心臓による心室負荷の軽減、プラズマフェレーシスによる血液浄化、の3つが有効とされている。なお、ここで、プラズマフェレーシスによる血液浄化は、培地である血液をきれいにして細胞を働きやすくするためなので、前者の2つのみでも効果が得られる。この治療法を行った場合、心筋が再生され、自己心の機能回復が認められた段階で、補助人工心臓をはずすことになる。
【0004】
この中で、細胞移植については腰骨から骨髄を採り、骨髄細胞を分離して補助人工心臓の埋め込み手術時に形成した冠動脈バイパスにカテーテルにて骨髄細胞を注入する方法、あるいは、補助人工心臓の埋め込み手術後に、再度開胸し筋芽細胞と骨髄細胞を心壁の多数箇所(例えば60カ所)に注射にて打ち込んでいく等の方法がある。
【0005】
前者は開胸を行わないので侵襲が少ないという利点があるが、心筋梗塞を起こした部位に細胞を集中させることは難しい。一方、後者は開胸によって細胞の注入を行うので、比較的離れた心壁に注射してから分泌された増殖因子が梗塞部位にしみこむため、効果的である。しかし、後者の方法も、梗塞部位に細胞を十分集中させている訳ではない。また、開胸を必要とするので侵襲の程度が大きいのが短所でもある。
【0006】
なお、補助人工心臓の埋め込み時に細胞の注入を行うことができれば、梗塞部位に直接注射ができる。しかしながら、細胞の培養には数週間かかること、実際には予期しないタイミングで急に補助人工心臓を埋め込まなければならないことが多いことから、補助人工心臓の埋め込みと同時に細胞の注入を行うことは難しい。非特許文献1には磁気浮上式ポンプを有する人工心臓に関する記載がある。
【非特許文献1】野尻 知里, 日本外科学会雑誌, 第103巻,第9号,pp607−610, 2002.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
よって、補助人工心臓埋め込み手術後は開胸不要で、且つ、梗塞部位に細胞を集中させることができる補助人工心臓が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を実現するために、本発明は、心臓の活動を補助する心臓アシストシステムにおいて、心臓と接続し心臓の活動を補助する心臓活動補助部と、心臓表面に固定される電磁石と、前記心臓活動補助部と前記電磁石とに電気的に接続し、前記心臓活動補助部と前記電磁石を制御するコントローラと、を有する心臓アシストシステムを提供するものである。そして、本発明の心臓アシストシステムにおいて、上記の電磁石は、磁性を有するカプセルを体内の所定部に誘導した後に、これを破壊することができるようになっている。
【発明の効果】
【0009】
本発明の補助人工心臓によれば、開胸を行わずに心筋再生に必要な細胞を十分な密度で梗塞部位に注入することができる。また、心筋再生後に補助人工心臓をはずすことができるという効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明においては、心臓活動補助部と共に梗塞部位に電磁石を貼り付けることが、構造的な特徴となっている。これによって磁性を有するカプセルを使用して心筋再生に有効な細胞を所望の領域に集中させることができる。またカプセルに薬剤を封入すれば効果的な投薬治療を行うことができる。
本発明の実施の形態例(以下、「本例」という)としての、心臓アシストシステムの説明、カプセル誘導方法の説明、および治療への効果を説明する。
【0011】
(補助人工心臓)
まず、本例の心臓アシストシステムについて図1〜3を用いて説明する。本例では心臓アシストシステムとして補助人工心臓を想定する。図1は左心補助人工心臓の模式的な図である。概略的に血液の流れを説明すると、肺でガス交換が行われ酸素を含んだ血液が、肺静脈から左心房14に流入する。次に、左心房14から左心室11に入った血液が、大動脈12へ押し出される。その後全身を環流した血液が、大静脈17から右心房16に流入する。そして、右心房16から右心室15に入った血液が、肺動脈へ押し出される。
【0012】
上述したように、心臓は全身へ血液を送るポンプである。しかし、心筋梗塞などでこの機能が低下した場合、血液の循環が悪くなる。このため、心筋梗塞などで心臓の機能が低下した場合には、心臓を補助するように左心室11と大動脈12の間にポンプ21を設置する。これによって、左心室11が全身へ血液を送り出す心臓の機能を補うことができる。
【0013】
図2は、本例において、梗塞部位26を有する心臓10に補助人工心臓を取り付けた状態を示した全体図である。図示したように梗塞部位26が左心室11にできていると仮定する。このような梗塞部位26があると、血液を押し出す心臓10の力が弱くなるので、左心室11から大動脈12へ血液を送るポンプ21(心臓活動補助部)を設置してこれを補助するようにしている。これによって心臓10が全身へ血液を送る機能を正常状態にすることができる。
【0014】
補助人工心臓20は、ポンプ21と、血液が流れる管であるコンディット(接続管)22とを有している。該コンディット22は左心室11と大動脈12に接続している。コンディット22は左心室11の心壁、及び大動脈12の血管に開口部を設けて取り付ける。つまりコンディット22は血管と同様に血液を流すための管である。
【0015】
本例では、さらに梗塞部位26に電磁石25を設置して心筋再生に有効な細胞を封入したカプセル41を、磁界の作用により梗塞部位26に誘導するようにしている。
図3はこの補助人工心臓20と共に、電磁石25を設置した状態を示した全体図である。図示したようにコンディット22の周辺に電磁石25を設置する。図3では電磁石25は3つ設置されているが、電磁石25の数は、梗塞部位26を覆うことができる数であれば、特に限定されるものではない。
【0016】
電磁石25の設置には、例えば電磁石25をシート24に取り付けて、シート24と電磁石25が一体化したものを心臓10の表面に貼り付ける。シートには例えば不織布などを使用することができる。またネットを用いて電磁石25を固定することもできる。また電磁石25に医療用の接着剤などを塗布して貼り付けるようにしても良い。
【0017】
つまり詳細は後述するが、電磁石25は磁性を有するカプセル41を磁力によって引き寄せて、その場でカプセルを破壊して細胞や薬品を所望の領域に放出することができればよい。したがって、電磁石25の取り付け方は本例に限定されるものではない。
【0018】
また、上述したように、本例では、カプセル誘導用の電磁石25をシート24と共に梗塞部位26に貼り付けるようにしており、3個の電磁石25が直列に接続されている。よって、ケーブル23は2本(つまりプラス、マイナスのケーブル)が電磁石25とポンプ21の間を接続している。ポンプ21とコントローラ31を接続するケーブル27は体内から表面を貫通して外部に延長している。つまり、ケーブル23が通る開口部28を体表面に形成する。この開口部28を通じて、カプセル誘導用の電磁石25のケーブル23が体外に引き出され、直流、交流電流を発生させるコントローラ31と接続する。
【0019】
図4は、補助人工心臓20を人体に取り付けた状態の概略的な図である。ポンプ21はポンプ入り口とつながるコンディット22と、ポンプ出口とつながるコンディット22を通じて心臓10と接続している。また、ケーブル27を介して携帯型コントローラ31と接続される。また携帯型コントローラ31は電力を供給する電源32と接続する。図4の例では電源32は2つ接続している。
【0020】
(カプセル誘導)
次に、このような補助人工心臓20を用いて梗塞部位26にマイクロカプセル41を送る方法を説明する。マイクロカプセル41は、図5に示したような球殻状の形状が一般的である。この球殻の内部の空間には、例えば骨髄細胞のような心筋の再生に有効な細胞42が封入されている。カプセル41の材料としては、人体に無害であって、且つ磁性を有する、例えば酸化鉄等の材料が使用される。また、カプセル41の大きさは直径が100〜5000nmである。カプセルに封入する細胞42には、例えば腰骨から骨髄を採取し、骨髄細胞を分離した細胞が使用される。この細胞を培養することが好ましい。
【0021】
骨髄細胞が封入されたカプセル41は、カテーテル43等を用いて、梗塞部位26に直接送る。カテーテル43は通常使用するものでよい。心筋梗塞の場合は、カテーテル43は上半身または下半身の動脈から挿入し、大動脈12を経由して冠状動脈19に到達する。その後注射器44からマイクロカプセル41を注入する。
【0022】
カテーテルを挿入した状態を図6、7、8に示した。図6は本例において、カテーテル43を挿入した状態の全体的な図である。図7は本例において、カテーテル43が冠状動脈19(図7では左冠状動脈19a)に到達し、カプセルを放出したときの状態を示す部分断面図である。図8は本例において、カテーテルが冠状動脈19に到達し、カプセルを放出したときの模式的な図である。カプセル41はカテーテル43を通って冠状動脈19で放出され、さらに分岐した血管を通じて左心室11の梗塞部位26付近に放出される。このとき電磁石25に直流電流を流すと、電磁石25の磁界によりカプセル41が引き寄せられ、梗塞部位26に集まる。
【0023】
梗塞部位26にカプセル41が集まると、電磁石25に交流電流またはパルス状の電流を流すことによってカプセル41を破壊する。これによってカプセル41内の細胞42が外に放出され、梗塞部位26に細胞42を効率よく定着させることができる。このようにカプセル41を破壊することによって、封入されている骨髄細胞42が梗塞部位26周辺に放出される。これによって心筋の再生が行われる。
【0024】
治療の際には、カテーテル43の開口端が梗塞部位26周辺に到達することが好ましいが、実際は困難である。しかし、本発明においては、電磁石25の磁界によりカプセル41を誘導し、梗塞部位26に集めることができる。これにより、補助人工心臓20と電磁石25を埋め込んだ後は、非侵襲で適切な治療を行うことができる。またこのような治療は何回も行うことができるため、心筋の回復の状態を見ながら、注入する骨髄細胞の量を調節することができる。また、本例ではカプセルに封入する材料として骨髄細胞を想定したが、骨髄細胞に限らず他に有効な細胞または他の薬剤等でもよいことは言うまでもない。
【0025】
(治療への効果)
次に具体的な治療方法を説明する。治療方法は次の通りである。
(1)補助人工心臓20の埋め込み時に、カプセル41を誘導する電磁石25を梗塞部位26に貼り付ける。
(2)心筋再生に有効な細胞(例えば骨髄細胞)を培養する。
(3)培養した細胞42をカプセル41に封入する。このカプセル41は磁性を有しており、直流磁界によって移動させることができる。またカプセル41の材料は、酸化鉄ナノ粒子を含むポリマーを使用することができる。酸化鉄は生体に無害であり、ポリマーも生体に無害な種類を選ぶことが好ましい。また、カプセル41の大きさは100〜5000nmである。
【0026】
(4)カテーテル43を用いて梗塞部位26近傍にカプセル41を放出する。その後、カプセル41の誘導用の電磁石25に直流電流を流すことによって梗塞部位26へカプセル41を移動させる。さらに電磁石25に交流電流またはパルス状の電流を流すことでカプセル41を破壊する。
(5)心筋の回復の程度にしたがって、(4)を複数回行う。
(6)補助人工心臓20を止められるほどに、心臓10の機能が改善した時点で、開胸しカプセル41の誘導用の電磁石25を含め補助人工心臓20を取り外す。
【0027】
なお、本例では配線数を減らすためカプセル41の誘導用の電磁石25を直列接続にしたが、電磁石25を並列接続にしても良い。この場合、断線等による信頼性の低下を防ぐことができる。
【0028】
補助人工心臓20には、ポンプ21に磁気軸受等の磁力を利用するタイプの装置がある。カプセル41は磁性を有しているが、磁化率が小さい場合は血流によって流されるので、ポンプ21の磁力に捉えられポンプ21内に残留することはない。
【0029】
磁化率が大きくカプセル41が残留する可能性がある場合は、カプセル41の誘導用の電磁石25によって、常に直流磁界を発生させることにより、補助人工心臓20内に入らないようにすることができる。または、ポンプ21の入り口とつながるコンディット22に永久磁石29を設置することで、補助人工心臓20の入り口の手前でカプセル41をトラップすることもできる。よって、カプセル41がポンプ21内に入り故障の原因となることを防止することができる。
【0030】
上記実施の形態例は心臓アシストシステムとして補助人工心臓を想定したが、補助人工心臓だけでなく、例えば埋込型除細動器に対しても適用できる。つまり、電磁石25と埋込型除細動器をケーブル23で接続することによって磁性を有するカプセルを誘導し、破壊することができる。この場合、心臓活動補助部は心臓表面に貼り付ける電極となる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の実施例における左心補助人工心臓の模式的な図である。
【図2】本発明の実施例において、梗塞部位を有する心臓に補助人工心臓を取り付けた全体図である。
【図3】本発明の実施例において、補助人工心臓と共に電磁石を設置した状態を示した全体図である。
【図4】本発明の実施例において、補助人工心臓及び電磁石を人体に取り付けた状態の概略図である。
【図5】本発明の実施例において、細胞を封入したカプセルの部分断面図である。
【図6】本発明の実施例において、カテーテルを挿入した状態の全体図である。
【図7】本発明の実施例において、カテーテルが冠状動脈に到達し、カプセルを放出したときの状態を示す全体的な図である。
【図8】本発明の実施例において、カテーテルが冠状動脈に到達し、カプセルを放出したときの模式的な図である。
【図9】本発明の実施例において、ポンプの入り口に永久磁石を設置した状態の概略図である。
【符号の説明】
【0032】
10・・・心臓、11・・・左心室、12・・・大動脈、21・・・ポンプ、22・・・コンディット、41・・・カプセル、42・・・細胞

【特許請求の範囲】
【請求項1】
心臓の活動を補助する心臓アシストシステムにおいて、
心臓と接続し心臓の活動を補助する心臓活動補助部と、
心臓表面に固定される電磁石と、
前記心臓活動補助部と前記電磁石とに電気的に接続し、前記心臓活動補助部と前記電磁石を制御するコントローラと、
を有する心臓アシストシステム。
【請求項2】
前記心臓活動補助部は、体内に埋め込むポンプであることを特徴とする請求項1に記載の心臓アシストシステム。
【請求項3】
前記コントローラは、直流電圧又は交流電圧を前記電磁石に印加することを特徴とする請求項1に記載の心臓アシストシステム。
【請求項4】
前記コントローラは、体外に設置することを特徴とする請求項1に記載の心臓アシストシステム。
【請求項5】
前記電磁石は、磁性を有するカプセルを体内の梗塞部位に誘導し、これを破壊することを特徴とする請求項1に記載の心臓アシストシステム。
【請求項6】
前記カプセルには、骨髄細胞または筋芽細胞を封入することを特徴とする請求項6に記載の心臓アシストシステム。
【請求項7】
前記ポンプの入り口に、該入り口で前記カプセルをトラップするための永久磁石を設置することを特徴とする請求項2に記載の心臓アシストシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−82229(P2009−82229A)
【公開日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−252604(P2007−252604)
【出願日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【出願人】(000109543)テルモ株式会社 (2,232)
【Fターム(参考)】