細胞表現型に生物学的に関連づけられた系のためのコンピュータソフトウェア及びアルゴリズム
細胞タイプの表現型の変化を引き出す能力を有する作用物質を識別するための自動化方法及びその自動化システムが提供される。この自動化方法は、アレイの形態の容器を提供するステップと、総称因子名、因子レベル及び実験ランを含む統計的計画を提供するステップとを含んでいる。さらに、ソフトウェアプログラムを利用して統計的計画のコンピュータ表現を生成するステップであって、コンピュータ表現が、作用物質の識別を総称因子名に自動的にマップし、作用物質の濃度又は量を因子レベルにマップし、アレイ中の容器の位置を実験ランにマップすることによって生成されるステップを含んでいる。さらに、統計的計画のコンピュータ表現に基づいてアレイの容器の中に単独作用物質の様々な混合物を入れること、入れられた混合物を細胞と接触させること、接触させた細胞から実験データを取得すること、及び取得されたデータを統計的計画と比較して、接触させた細胞の表現型の変化を引き起こす特定の作用物質の混合物又は単独作用物質を識別するためのアルゴリズムを含むプロセッサを利用することを含んでいる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞における表現型の変化を引き起こす作用物質を識別するための自動化方法及びその自動化システムに関し、より詳細には、一般に高処理能力スクリーニング法の技術分野に関し、細胞内に所望の生物学的反応を引き出す単独作用物質(single agent)の混合物及びこれらの混合物の中の単独作用物質を識別する目的に使用することができる、コンピュータによって実現される(computer−implemented)スクリーニング法に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒトの病気を治療し又は治癒させる療法で使用される細胞に関しては、これの細胞が生体外(in vitro;試験管内)培養で維持されるときに、細胞運命(cell fate)、例えば、細胞の生存、増殖及び分化が制御されることが望ましい。したがって、細胞表面レセプタとリガンド(ligand)との相互作用を制御する必要がある。例えば、細胞と生体外培養基板(culture substrate)上に存在するリガンドとの相互作用を制御するために、ポリスチレンなどの適当な培養基板を、培養基(culture media)に血清タンパクが使用されているときでも細胞の付着を許さないポリマーでコーティングすることができる。したがって、このコーティングは、血清タンパクの無制御かつ不定の吸着を排除する。次いで、細胞表面レセプタと相互作用させるのに適した生物学的に活性のリガンドを、そのリガンドの生物学的活性を保ったまま、このコーティング上に固定することができる。この発想は知られている。例えば、ヒアルロン酸又はアルゲン酸を表面コーティングとして使用し、このコーティングの表面に、コーティングと細胞接着リガンドとの間に安定な共有結合を形成するケミストリを使用して細胞接着リガンドを固定することができることが知られている。これは、細胞接着リガンドが可溶化され、表面から離れることを防ぐ。また、コーティング自体は細胞接着を支援しない。これは、同一所有権者の同時係属出願で2002年9月30日出願の特許文献1に記載されている。
【0003】
所望の細胞運命を達成するのに作用物質の混合物が必要となる可能性は高い。多数の成長エフェクタ分子が知られている。これらには成長因子、ホルモン、ペプチド、小分子及び細胞外結合分子が含まれる。したがって、所与の細胞タイプに対して所望の細胞運命を達成する適当な成長エフェクタ又は成長エフェクタの組合せを見つけ出す作業は、時間のかかる根気の要る作業になりがちである。
【0004】
【特許文献1】米国特許出願第10/259797号明細書
【特許文献2】米国特許第5808918号明細書
【特許文献3】米国特許出願第10/259817号明細書
【非特許文献1】E. Junowicz and S. Charm, "The Derivatization of Oxidized Polysaccharides for Protein Immobilization and Affinity Chromotography," Biochimica et. Biophysica Acta, Vol. 428: 157-165 (1976)
【非特許文献2】"Protein Immobilization: Fundamentals and Applications" Richard F. Taylor, Ed. (M. Dekker, NY, 1991)
【非特許文献3】"Peptide Growth Factors and Their Receptors I" M.B. Sporn and A.B. Roberts, Eds. (Springer-Verlag, NY, 1990)
【非特許文献4】Kleinman et al., "Use of Extracellular Matrix Components for Cell Culture," Analytical Biochemistry 166: 1-13 (1987)
【非特許文献5】Freshney, "Cell Culture, A Manual of Basic Technique" 3rd Edition (Wiley-Liss, NY, 1994)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
したがって、当技術分野では、所与の細胞タイプに対して所望の細胞運命を達成するのに有用な作用物質を識別する高処理能力の方法が求められている。これは、従来の細胞培養系では生存しない細胞、又はその分化状態を抜本的に変化させないと生存しない細胞に関して特に興味深い。このような細胞の適例は哺乳類の1次細胞である。具体的には当技術分野では、所望の細胞運命を達成するのに必要な因子の混合物間の相互作用を系統的に調べるためのコンピュータによって実現される統計的に計画された実験方法、ならびにそれを実施するためのシステムが求められている。この高処理能力方法が、実験条件及びメタ解析(meta−analysis)のロボット準備を含むことが好ましい。
【0006】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、細胞における表現型の変化を引き起こす作用物質を識別するための自動化方法及びその自動化システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、細胞における表現型の変化を引き起こす作用物質を識別するための自動化方法及びその自動化システムを提供する。この自動化方法は、アレイの形態の容器(receptacle)を提供すること、総称因子名、因子レベル及び実験ランを含む統計的計画を提供することを含んでいる。さらに、この自動化方法は、統計的計画のコンピュータ表現に従って、選択された容器の中に単独作用物質の様々な混合物を入れること、及びソフトウェアプログラムを利用して計画のコンピュータ表現を生成することを含んでいる。このソフトウェアは、作用物質の識別を総称因子名に自動的にマップし、作用物質の濃度又は量を因子レベルにマップし、アレイ中の容器の位置を実験ランにマップする。計画のコンピュータ表現に従って容器の中に様々な混合物が正確に入れられた後、入れられた混合物を、自体の表現型を変化させる能力がある完全な細胞と接触させる。
【0008】
また、この自動化方法は、接触させた細胞の表現型の変化を示すデータを取得すること、ならびに取得されたデータを統計的計画と比較して、どの作用物質の混合物及び/又はどの単独作用物質が、接触させた細胞の表現型の変化を引き起こすのに有効であるのかを識別するアルゴリズムを含むプロセッサを利用することを含んでいる。さらに、この自動化方法は、統計的計画、作用物質の識別、計画のコンピュータ表現、取得された実験データ及びアルゴリズム比較の結果を1つ又は複数のデータベースに記憶することを含んでいる。
【0009】
さらに、本発明は、上述した自動化方法を実施するための自動化システムを提供する。この自動化システムは、容器のアレイを含み、このうちの選択された容器が、(i)単独作用物質の様々な混合物と、(ii)細胞を含む流体と、を受け取る。さらに、この自動化システムは、総称因子名、因子レベル及び実験ランを含む統計的計画と、この計画のコンピュータ表現を生成するためのソフトウェアプログラムとを含んでいる。このソフトウェアプログラムは、作用物質の識別を総称因子名に自動的にマップし、作用物質の濃度又は量を因子レベルにマップし、アレイ中の容器の位置を実験ランにマップする。さらに、この自動化システムは、細胞の表現型の変化を指示する取得された実験データと、実験データを統計的計画と比較して、細胞の表現型の変化を引き起こすのに有効な混合物及び/又は単独作用物質を識別するアルゴリズムを含むプロセッサとを含んでいる。このシステムには、さらに、統計的計画、作用物質の識別、計画のコンピュータ表現、取得された実験データ及びアルゴリズム比較の結果を記憶するための1つ又は複数のデータベースが含まれている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本明細書では、「作用物質(agent)」が、細胞に結合し、標的細胞又は組織の生存、分化、増殖又は成熟を調節する成長エフェクタ分子と定義される。本発明で使用される適当な作用物質の例には、成長因子、細胞外基質分子、ペプチド、ホルモン及びサイトカインが含まれ、これらは溶解状態で存在し、又はウェル表面、スカフォルド(scaffold)表面、ビーズ表面などの培養表面に結合して存在することができる。
【0011】
本明細書では、用語「作用物質の固定材(agent−immobilizing material)」が、培養表面と作用物質の間の結合の役目を果たすことができる生物適合性ポリマーと定義される。
【0012】
本明細書では、用語「固定する(immobilize)」、「固定される(immobilized)」等が、作用物質、すなわち、成長エフェクタ分子を、ウェル表面、ウェルの中に含まれるスカフォルドの表面などの培養表面で不動化することと定義される。この用語は、培養表面への作用物質の受動吸着、及び培養表面への作用物質の直接又は間接の共有結合性付着を包含する。
【0013】
「因子(factor)」は、実験の変量の名称であり、実験の1つの試行ないしラン(run)(例えば、1つのウェル)と次の試行ないしランとの間で変更される事物を表す。本発明では、「因子」が、単独作用物質又は単独作用物質の混合物の総称名である。因子は、統計的計画に従って組み合わせられて、実験の様々な混合物を形成する。
【0014】
本明細書では、「統計的計画(statistical design)」が、最良の実験結果をもたらす調整可能な変量(すなわち、因子)の組合せを見つけ出す際にユーザを支援し、その目的を達成するために必要な実験の数を劇的に減らす実験計画と定義される。本発明では、試験される作用物質を表す総称因子名を使用して適当な統計的計画が生成される。この計画は、因子の量及び/又は濃度とすることができる因子レベルを含み、あるいは因子の実際の量及び/又は濃度に変換することができる因子レベルを含んでいる。この計画はさらに番号が付けられた実験ランを含んでいる。実験ランは、試験する因子とそれらの因子のレベルの組合せを指定し、それぞれの実験ランは、例えば、多ウェルプレート上の単一のウェルに対応する。実験ランは、総称多ウェルプレート上のウェルにマップすることができる。
【0015】
本明細書で使用されるとき、用語「前処理(pre−treatment)」及び「前処理された(pre−treated)」は、続いて形成される作用物質の固定材(すなわち、生物適合性ポリマー)との共有結合に化学的に関与する官能基を、表面又は他の基板に付加することを指す。例えば、作用物質の固定材が結合することができる高アミン(amine−rich)表面を生み出すために、マイクロタイターウェルの表面をアミノ−プラズマ処理にかけることができる。
【0016】
本明細書では、用語「アレイ(array)」、「容器(receptacle)アレイ」等が、行/列などのように規則的に配置された管、ウェルなどの複数の独特の容器と定義される。
【0017】
上述したとおり、所望の細胞運命を達成するためには、単独作用物質の混合物が必要となる可能性が高い。例えば、細胞表面レセプタに結合し、これらの細胞の生存、分化、増殖又は成熟を調節する成長エフェクタ分子には、成長因子、細胞外基質分子、ペプチド、ホルモン及びサイトカインが含まれ、これらには多くの例がある。したがって、細胞と接触させて所望の細胞運命を達成するための適当な成長エフェクタ又は成長エフェクタの組合せを見つけ出す作業は、時間のかかる根気の要る作業になりがちである。
【0018】
本発明は、所与の細胞タイプに対して最適な作用物質を識別する、コンピュータを用いて実現される高処理能力の方法を提供することによって、当技術分野の1つの課題を解決する。
【0019】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。
図1A及び図1B(図1B−1、図1B−2)は、細胞の表現型の変化を引き出す能力を有する最良の混合物及び/又は単独作用物質を識別することができる本発明に基づく例示的な自動プロセスの概略流れ図である。この実施形態で使用されるフォーマットは、マイクロウェルアレイのフォーマットである。自動ピペッタ及びプレートリーダが容易に使用可能であるため、このようなアレイは一般に自動化によく適している。最初のステップであるブロック100で、ユーザが、JMP(登録商標)(SAS Institute、米ノースカロライナ州Cary)などの市販ソフトウェアを使用して実験計画を作成し、又は本発明のシステムのソフトウェアの中にすでに含まれているアルゴリズムに基づいて統計的計画を生成する。ブロック100の計画には、総称因子名、因子レベル、実験ラン及び総称マイクロウェルアレイへの実験ランのマッピングが含まれている。この統計的計画は、ブロック102でデータベースに記憶される。ユーザは、次いでブロック104で、具体的な作用物質ならびにそれらの濃度及び/又は量をソフトウェアに入力する。このユーザ入力は、ブロック106でデータベースに記憶される。ブロック107でユーザは、特定の統計的計画を選択することができる。続いてブロック108で、あるソフトウェアプログラムが利用されて、この特定の統計的計画のコンピュータ表現が生成される。この計画のコンピュータ表現は、例えば、96ウェルレイアウトに変換することができるスプレッドシートとすることができる。具体的には、このコンピュータ表現を生成するために使用されるソフトウェアプログラムが、具体的な作用物質の名称をその計画の総称因子名にマップし、作用物質の濃度及び/又は量をその計画の因子レベルにマップし、具体的な作用物質ならびにそれらの濃度及び/又は量に基づいて実験ランを生成し、特定のマイクロウェルアレイ上のウェル位置を実験ランにマップする。
【0020】
次いで、ブロック110において、このコンピュータ表現がデータベースに記憶される。望ましくはブロック112で、この計画のコンピュータ表現に基づくロボットシステムのためのコンピュータプログラムが生成される。このロボットシステムは、ブロック114(図1B−1)で、この計画のコンピュータ表現に従って作用物質をウェルに分配して、マイクロウェルアレイの選択されたウェルの中に異なる混合物が生成されるようにする。最適にはこのロボットシステムが、マイクロウェルアレイの他のウェルに単独作用物質を分配することができる。試薬の添加の他に、このロボットシステムによって回収及び洗浄ステップを実行することができる。あるいはこれらのステップの一部又は全部を手動で実行することもできる。作用物質は、アルゲン酸、ヒアルロン酸などの生物適合性ポリマーを介してウェル又は他の培養表面に共有結合によって結びつけておくことができ、あるいは溶解状態で存在することができる。作用物質が正確にウェルに入れられた後、ロボットシステムはブロック116で、完全な細胞を含む流体をマイクロウェルアレイのウェルに分配する。ブロック118で、細胞の表現型の変化を指示していると思われる実験データが取得される。この取得されたデータはブロック120で、この実験データがこの計画のコンピュータ表現に関連付けられるようにして、データベースに記憶される。次いで、ブロック122において、記憶された実験データを記憶された統計的計画と比較して、所望の生物学的反応を引き出した(すなわち、細胞の表現型の変化を引き出した)最良の混合物及び/又は最良の作用物質を識別するアルゴリズムを含むプロセッサが利用される。任意選択で、複数の実験にわたって作用物質の混合物又は単独作用物質の性能を比較して傾向又はパターンを決定する別のアルゴリズムを使用することもできる。どちらの場合もブロック124(図1B−2)において、このアルゴリズム比較の結果をデータベースに記憶し、ユーザに表示することができ、定期的に更新することもできる。望ましい一実施形態では、図1A及び1Bに示されたデータベースが単一の統合又は連合(federated)データベースである。所望ならばブロック126において、最良の混合物の部分集合又は最良の作用物質の部分集合を用いて本発明のプロセスのステップを繰り返すことができる。さらに、所望ならば、最良の作用物質と最良の混合物中の作用物質の部分集合とを組み合わせた部分集合を用いてこれらのステップを繰り返すこともできる(図示せず)。さらに、ブロック128において、最良の混合物の中の作用物質の濃度及び/又は量を変更して本発明の方法のステップを繰り返すことができる。本発明の他の実施態様は、ブロック122のアルゴリズム比較によって取得された情報を最適に使用して、生物学的モデルを作成し又は修正することができることである(ブロック130)。
【0021】
図2は、図1A及び 図1B-1および2のプロセスから得られた情報を使用して生物学的モデルを作成し及び/又は修正することができる本発明に基づく例示的なプロセスの流れ図で、 図1B−1および2のブロック122及び124の情報を使用して生物学的モデルを作成し又は既存のモデルを修正することができる本発明に基づく例示的なプロセスの流れ図が示されている。ブロック200において、論文、雑誌、書籍、専門家、実験、内部情報などの様々な情報源から科学情報が集められる。科学情報は、遺伝子発現データ、タンパク質発現データ、細胞表現型データ、信号変換(signal transduction)データ、細胞経路(cellular pathway)に関するデータ及びこれらの組合せを含むことができる。ただし、これらに限定されるわけではない。このような科学情報は、1つ又は複数のデータベースに記憶することができる。この科学情報は、インターネットなどを介して、コンピュータによって抽出することができる。抽出された科学情報は、ブロック202において、 図1B−1および2のブロック122で識別された作用物質の混合物及び/又は単独作用物質と比較される。この比較に基づいて、ブロック204で生物学的モデルを作成し又は修正することができる。この生物学的モデルは、表現型の変化に関与する生体系及び生体系間の関連伝達機構を定義することができる。例えば、ブロック204において、細胞の表現型の変化に関連する特定の細胞経路、タンパク質又は遺伝子を識別することができる。一実施形態では、 図1B−1および2に記載されたプロセッサが、さらに、細胞経路、タンパク質又は遺伝子が、識別された単独作用物質の混合物に関連した細胞の表現型の変化に関与する可能性を計算する第1のアプリケーションプログラムを含んでいる。細胞経路、タンパク質又は遺伝子は、抽出された科学情報を使用して決定される。図2では、生物学的モデルをコンピュータ実行可能モデルとすることができ、このコンピュータ実行可能モデルは、ブロック206において実行され、ブロック208において正確さがチェックされ、必要ならばブロック210において修正される。このモデルが正確であると判定されると、このモデルを使用することができる(ブロック212)。生体系のコンピュータ実行可能モデルの一例が、その内容の全体が参照によって本明細書に組み込まれる特許文献2に記載されている。このモデルは、計算、更新、比較及び視覚化をサポートすることができることが望ましい。
【0022】
図3は、作用物質の混合物(M)の生体系に対する作用に関して仮定された例示的な細胞経路を示す図である。作用物質の混合物(M)は、仮定の生物学的経路300及び302と相互作用することによって細胞に作用する。混合物(M)とこれらの経路の間の弧は、これらの経路に対する混合物(M)の可能な作用を表している。細胞に対する混合物(M)の全作用は、これらの2つの経路のうちの一方又は両方に対する混合物(M)の作用の組合せとして表現できると仮定する。本明細書で使用されるとき、細胞経路は、一般に、関係する細胞成分の集合と理解され、この集合のそれぞれの細胞成分は、ある生物学的機構に従って、この集合の他の1つ又は複数の細胞成分から影響を受ける。特定の細胞経路を構成する細胞成分は、細胞の生物学的状態の任意の態様、例えば、転写状態又は翻訳状態又は活性状態又は生物学的状態の混合態様から取り出すことができる。細胞経路の細胞成分は、mRNAレベル、タンパク質アバンダンス、タンパク質活性、タンパク質又は核酸修飾(例えば、リン酸化又はメチル化)の程度、これらのタイプの細胞成分の組合せなどを含むことができる。それぞれの細胞成分は、その集合の他の少なくとも1つの細胞成分から、ある生物学的機構によって影響を受ける。1つの細胞成分から他の細胞成分への影響は、それが直接であるか又は間接であるかにかかわらず、2つの細胞成分間の弧として表され、経路全体は、細胞成分を結んで経路にする弧のネットワークとして提示される。図3では、生物学的経路300が、タンパク質P1(例えば、P1のアバンダンス又は活性)及び遺伝子G1、G2及びG3(例えば、それらの転写されたmRNAレベル)を含んでいる。生物学的経路300は、さらに、P1からこれらの3つの遺伝子まで延びる弧として表された、タンパク質P1のこれらの3遺伝子に対する直接又は間接の影響を含んでいる。この影響は、例えば、タンパク質P1がこれらの遺伝子のプロモータに結合することができ、それらの転写産物のアバンダンスを増大させることができることによって生じる。図3には細胞経路302も示されている。この経路では、両方のタンパク質P2及びP3が(直接に)遺伝子Gに影響を及ぼす。遺伝子Gは(おそらく間接的に)遺伝子G4、G5及びG6に影響を及ぼす。
【0023】
関心のある経路、タンパク質又は遺伝子を確認するため、細胞の生物学的状態、例えば、転写状態、翻訳状態(translational state)又は活性状態の態様は、細胞の表現型の変化を引き出すと識別された単独作用物質の混合物の存在下で測定することができる( 図1B−1および2の枠122)。一実施形態では、識別された単独作用物質の混合物の存在下で細胞によって発現された遺伝子及び/又はタンパク質を識別することによって、細胞経路又は機構を識別することができる。他の実施形態では、識別された単独作用物質の混合物の存在下で活性化される細胞上のレセプタを識別することによって細胞経路又は機構を識別することができる。
【0024】
図4は、本発明の方法の実施に適した例示的なコンピュータシステムを示す図である。図示の実施形態ではコンピュータシステム400が、内部コンポーネントを含み、外部コンポーネントにリンクされているものとして示されている。内部コンポーネントには、メインメモリ404と相互接続したプロセッサ402が含まれる。一例ではコンピュータシステム400を、メインメモリ32Mb以上を有し、クロックレート200MHz以上のIntel Pentium(登録商標)ベースのプロセッサとすることができる。外部コンポーネントには、一般にプロセッサ及びメモリと一緒に実装される1つ又は複数のハードディスク406が含まれ得る。外部コンポーネントには、さらに、協力して実験データをコンピュータシステム400に伝えることを可能にするインターフェースボード405、マイクロウェルプレートリーダ407及びマイクロウェルアレイ409が含まれる。外部コンポーネントには、さらに、図4に示された10個の細胞外基質タンパク質(ECM)などの実験因子を、ユーザによって選択された統計的計画に従ってマイクロウェルアレイ409の容器(receptacle)に入れるロボットシステム411が含まれる。他の外部コンポーネントには、モニタ及びキーボードとすることができるユーザインターフェース装置408、及び「マウス」又は他のグラフィック入力装置(図示せず)とすることができるポインティングデバイス410が含まれる。一般にコンピュータシステム400は、さらにネットワークリンク412にリンクされ、ネットワークリンク412は、他のローカルコンピュータシステム、リモートコンピュータシステム又はインターネットへのEthernet(登録商標)リンクの一部とすることができる。このネットワークリンク412は、コンピュータシステム400が、他のコンピュータシステムとデータ及び処理タスクを共有することを可能にする。
【0025】
メモリ404には、当技術分野の標準ソフトウェアコンポーネントと本発明に特有のソフトウェアコンポーネントの両方がいくつかロードされる。これらのソフトウェアコンポーネントは協力して、コンピュータシステム400が本発明の方法に従って機能するようにする。これらのソフトウェアコンポーネントは一般にハードディスク406上に記憶される。ソフトウェアコンポーネント414は、コンピュータシステム400及びそのネットワーク相互接続の管理に責任を負うオペレーティングシステムを表す。適当なオペレーティングシステムの例はWindows(登録商標)98又はWindows(登録商標)NTである。ソフトウェアコンポーネント415は、マイクロウェルプレートリーダ407からの画像を解析するためのものである。ソフトウェアコンポーネント416は、システム400上に都合よく存在し、本発明に固有の方法を実現するプログラムを支援する、共通言語及び関数を表す。好ましい構成では、本発明の解析法のプログラミングに使用することができる言語がJava(登録商標)を含むが、C、C++、Fortran、Visual Basic又は他のコンピュータ言語を含んでもよい。本発明の方法は、使用されるアルゴリズムを含む式及び高位処理指定の記号入力を可能にし、それによって個々の式又はアルゴリズムを、手順を踏んでプログラムする必要性からユーザを解放する数学ソフトウェアパッケージでプログラムされることが最も好ましい。このようなパッケージには、Mathworks社(米マサチューセッツ州Natick)のMatlab、Wolfram Research社(米イリノイ州Champaign)のMathematica、Mathsoft社(米ワシントン州Seattle)のS−Plus、Mathsoft社(米マサチューセッツ州Cambridge)のMathCAD、又はR Foundation(www.r−project.org)の「R」が含まれる。したがって、ソフトウェアコンポーネント418は、手続き型言語又は記号パッケージでプログラムされた本発明の方法を表す。
【0026】
好ましい実施形態では、ソフトウェアコンポーネント418が実際に、図5に示すように互いに相互作用するいくつかのソフトウェアコンポーネントを含んでいる。
【0027】
図5は、本発明のシステムのコンポーネントの好ましい一実施形態を示す概略図である。ソフトウェアコンポーネント500はデータベースを表し、これは、コンピュータシステム400のオペレーションのために必要なデータを含む単一の統合又は連合データベースであることが好ましい。このようなデータには、統計的計画、統計的計画のコンピュータ表現、実験データ、アルゴリズム結果、具体的な試験作用物質の名称、試験作用物質の量及び/又は濃度、ならびに実験で使用されるウェル位置が含まれることが好ましい。ソフトウェアコンポーネント502はユーザインターフェース(UI)を表し、これは、Windows(登録商標)2000、X11などのオペレーティングシステムを表示するグラフィック法であるグラフィカルユーザインターフェース(GUI)であることが好ましい。ユーザインターフェース502は、統計的計画、具体的な作用物質、それらの濃度及び/又は量、ならびに任意選択の実験データに関する制御及び入力をコンピュータシステム400のユーザに提供する。ユーザインターフェースはさらに、ハードドライブ406、リムーバブルメディア(例えば、CD−ROM)、又はインターネットなどのネットワークを介してインスタントシステムと通信している別のコンピュータシステムから、実験データなどの情報をロードするための手段を含むことができる。ソフトウェアコンポーネント504は、コンピュータシステムの他のソフトウェアコンポーネントを制御するUIサーバと呼ぶことができる制御ソフトウェアを表す。ソフトウェアコンポーネント506は、本発明の解析方法を実行するアルゴリズムを含むデータ整理/計算コンポーネントを表す。コンポーネント506は、例えば、取得された実験データを統計的計画と比較して最良の混合物及び/又は最良の作用物質を識別するためのアルゴリズムを含むことができる。このデータをソフトウェアにインポートし、このデータに完全な注釈が付けられ、統計解析にすぐに使用できるように、統計的計画に自動的に関連付けることができる。コンポーネント506は、さらに、複数の実験にわたって混合物又は作用物質の性能を比較して傾向又はパターンを決定するアルゴリズムを含むことができ、この傾向又はパターンは、記憶し、所望ならば定期的に更新することができる。一実施形態ではソフトウェアコンポーネント506が線形回帰アルゴリズムを含んでいる。これは、統計的計画に使用されている作用物質ごとに係数が推定される方法である。
【0028】
ソフトウェアコンポーネント418は、さらに、統計的計画のコンピュータ表現を生成するためのソフトウェアコンポーネント508、及びロボットシステムが、データベース500に記憶された統計的計画に基づいてアレイ409のウェルに作用物質を正確に入れるためのソフトウェアコンポーネント510を含んでいる。例えば、ユーザは、Biomek FX、Biomek 2000、Tecan Genesisなどのロボット試料調製プラットホームにインポートすることができるコンピュータファイルを生成するオプションを、ユーザインターフェース502を介して選択することができる。これらのコンピュータファイルを使用して、マイクロウェルアレイ上の適切な実験条件を自動的に準備し、細胞を培養し、流体分配、流体回収又は洗浄ステップを実行して、表現型の検定を実行することができる。
【0029】
実験が実施されている実際の実験室から遠く離れた顧客位置から本発明の方法を実施することができることは、本発明の技術的範囲に十分に含まれることに留意されたい。これは、ウェブベースのインターフェースを含み、又はシッククライアント(thick−client)ソフトウェアアプリケーションの顧客への配布を含むことができる。実験室と顧客の間の対話のレベルは様々であることができる。例えば、顧客はプロセスを完全に制御することできる。あるいは顧客は、最適な作用物質混合物を得る際の進捗に関する定期報告だけを実験室から受け取る。
【0030】
本発明の自動化方法の一実施形態では、単独作用物質の混合物が、容器表面、容器の中に含まれるスカフォルドの表面などの培養表面上の作用物質の固定材に共有結合によって固定される。単独作用物質の混合物を培養表面に受動的に吸着させることができることも本発明の技術的範囲に十分に含まれる。さらに、混合物中の単独作用物質の一部又は全部が溶解状態にあることもできる。
【0031】
図6(a),(b)は、本発明に係る試験ウェルの一実施形態を示す概略図である。本発明によれば容器10がアレイ(図示せず)として提供される。容器10は表面12を含み、この表面は前処理することができる。作用物質の固定材16を付着させることができる高アミン表面14を生み出すため、一実施形態では表面12がアミノ−プラズマ処理される。後述するように、作用物質の固定材16は、アミノ化された表面14に結合された生物適合性ポリマーであることが好ましい。図示の実施形態では、単独作用物質20、例えば、20a〜dの混合物18が、共有結合によって作用物質の固定材16に固定されている。しかし、試験作用物質の一部又は全部が培養表面には結合しておらず溶解状態で存在することも、本発明の技術的範囲に十分に含まれる。前述のとおり、試験に適した作用物質には、成長因子、細胞外基質分子、ペプチド、ホルモン及びサイトカインが含まれる。ただし、これらに限定されるわけではない。さらに、小分子、金属、キレート剤又は酵素を作用物質としてウェルに加えることができる。単独作用物質20の様々な混合物18が、後述する統計的計画に従って容器10に入れられる。図6(a),(b)に示すように、容器10aの中の作用物質20a〜20dの組成は、単独作用物質20e〜hを含む第2の容器10bの中の組成とは異なる。しかし、2つ以上の容器が同じ作用物質を含むことができることに留意されたい。例えば、所与の作用物質が、他の作用物質のある組合せによって取り囲まれたときには所望の細胞運命の達成に対して肯定的な効果を有し、この同じ作用物質が、作用物質の別の組合せによって取り囲まれたときには所望の細胞運命の達成に対して中立の効果を有し又は効果をまったく持たないことは、本発明の技術的範囲に十分に含まれる。したがって、これらの効果を評価するため、他の作用物質との様々な組成で作用物質を提供することが有益であろう。図6を再び参照すると、統計的計画に従って作用物質20を異なる混合物として様々な容器10に入れた後、これらの混合物18を完全な細胞22と接触させる。作用物質20は細胞22に結合し、接触した細胞内に所望の生物学的反応を生み出す能力を有する。所与の作用物質の混合物又はこの混合物内の単独作用物質がその細胞タイプ内に所望の反応を引き出す効果に関する判定は、取得された実験データに基づいて確認される。前記データは、免疫細胞化学分析、顕微鏡法又はファンクショナルアッセイ(functional assay)を含む方法を使用して取得することができる。ただし、方法はこれらに限定されるわけではない。
【0032】
次に、図7乃至図9を参照して統計的計画の各実施態様について詳細に説明する。
図7は、異なる単独作用物質の混合物を含む96ウェルプレートレイアウトの概略図である。図示の実施形態ではこのレイアウトが統計的計画を使用して作成され、統計的計画では、計画中の総称因子が単独作用物質を表し、これらが組み合わされて様々な混合物が形成される。図8(a),(b)は、本発明の方法の統計的計画を作成する際に使用することができる1つのシナリオの概略図である。図9(a),(b)は、本発明の方法の統計的計画を作成する際に使用することができる他のシナリオの概略図である。
【0033】
図7を参照すると、行A〜H及び列1〜12からなる96ウェルプレートなどのマイクロウェルアレイ24に対応する複数の容器10が示されている。図7に示すように、図6(a),(b)の単独作用物質20又は混合物18の識別が総称因子名によって表されることは本発明の一実施態様である。因子は実験の変量である。
【0034】
例えば、図7に示した実施形態では、総称因子1〜10が、囲み28の中に示された10個の単独細胞外基質タンパク質を表す。この例では、総称因子1がコラーゲンI、総称因子2がコラーゲンIIIであり、以下同様である。これらの各因子を1つ又は複数の他の因子と組み合わせて、このプレートレイアウト用の混合物を生成することができる。
【0035】
次に、図7に示した実施形態を参照して図8(a),(b)及び図9(a),(b)について説明する。これらの図ではそれぞれの総称因子1〜10が、所与の濃度又は量(すなわち、因子レベル)の単独作用物質に対応する。
【0036】
図8(a),(b)に概略的に示されているように、容器10内の流体体積全体が10の等容積区画32に分割されるシナリオが提示される。96ウェルプレートのウェルはそれぞれ、10の因子(例えば、単独作用物質)をすべて含み、又はこれらの因子の部分集合を含むことができる。図8(a)に示すように、ケース1では、10の因子がすべて存在し、10の因子すべてが流体区画32を占める。図8(a)に示されたウェル10の全体因子濃度は[10/10]=[1]である。これは、[1]/ウェルの全体因子濃度を提供する。図8(b)は、例えば、同じ96ウェルプレート上の別のウェルを表す。この状況(ケース2)では、10の因子のうち5つの因子しか存在しない。この場合も流体体積は10の等しい区画32に分割される。ケース2では、因子が存在するとき、流体区画はその因子で満たされる。しかし、ケース2では、10の容積区画のうちの5つが因子で満たされておらず、それらは培養基などの「プレースホルダ(place holder)」で満たされている。図8(b)のケース2では、全体因子濃度が[0.5]である。したがって、図8(b)に示したウェルの全体因子濃度は[0.5]因子/ウェルである。ケース1の全体因子濃度とケース2の全体因子濃度は異なる。したがって、それぞれの容器内の作用物質の全体濃度は異なることができる。さらに、ケース1とケース2では、ともに単一の因子の濃度がウェル間で同じである。例えば、単一のコラーゲンIリガンドを表すことができる因子1の濃度は、ケースIのウェルとケース2のウェルで同じである。
【0037】
次に、図9(a),(b)を参照すると、表面化学要件に特定の考慮が与えられた別のシナリオが提示されている。具体的にはこのシナリオでは、全体因子密度がウェル間で一定に保たれ、ウェル間で因子組成だけを変更することができる。言い換えると、ウェル間で因子の濃度は異なっていてもよいが、それぞれのウェルは全体として固定された同じ量の因子を有する。図9(a),(b)に示すように、所与のウェル内に存在する流体体積全体は存在する因子の数に基づいて分割される。この場合も、簡単にするために1つの因子が1つの単独作用物質に対応すると仮定することができるが、本発明はこの状況に限定されない。図9(a)に示すように、10の因子がすべて存在し、全体因子濃度は[10/10]=[1]であり、1ウェルあたりの全体因子濃度は[1]である。図9(b)では、10の因子のうち5つだけが存在するが、これらの5つのそれぞれの因子の流体体積32は、図9(a)に示したそれぞれの因子の容積32の2倍である。その結果、図9(b)に示した全体因子濃度は、図9Aに示した全体因子濃度と同じであり、1ウェルあたりの全体因子濃度は[1]である。したがって、望ましい一実施形態では、それぞれの容器の中の作用物質の全体濃度が同じである。図9(a),(b)に基づくと、全体因子濃度は、図9(b)に示したウェルと図9(a)に示したウェルとの間で一定だが、単一の因子の濃度はこれらのウェル間で異なることができることが理解される。具体的には、コラーゲンIを表すことができる因子1に関して、図9(b)の中のこの単独作用物質の濃度は、図9(a)に示したそれの2倍になろう。したがって、本発明の他の実施形態では、個々の作用物質の濃度が容器間で異なる。
【0038】
図8(a),(b)及び図9(a),(b)に示したシナリオはそれぞれ実行可能であり、これらを、単独作用物質の混合物のスクリーニングに使用することができることに留意されたい。
【0039】
本発明は、マイクロウェルアレイなどのフォーマットを使用して、複数の異なる作用物質の混合物を、所与の細胞タイプに結合しその細胞の中で望ましい反応を引き出す能力に関して同時にクリーニングする方法を提供する。この方法は、多ウェルプレートの選択されたウェルの中に統計的計画に従って異なる作用物質の混合物を入れることを含んでいる。この方法は任意選択で、それ以外のウェルに単独作用物質を入れるステップを含んでいる。この方法は、さらに、細胞タイプを含む流体試料をウェルに送達することを含んでいる。これらの様々なウェルの中の細胞と試料の間の適当なインキュベーション時間の後に、細胞とウェル成分の間の相互作用の形跡を直接又は間接に検出することができる。例えば、ファンクショナルアッセイ、免疫細胞化学又は顕微鏡法を使用してデータを取得することができる。
【0040】
本発明とともに使用される適当な統計的計画には以下のものが含まれる:一部要因計画(fractional factorial design)、D−最適計画(D−optial design)、混合物計画(mixture design)及びプラケット−バーマン計画(Plackett−Burman design)。ただし、これらに限定されるわけではない。統計的計画は、カバレージ基準に基づく空間充填計画(space−filling design)、格子計画(lattice design)又はラテン方格計画(latin square design)とすることもできる。
【0041】
上述したとおり、作用物質は培養表面(例えば、容器表面又はスカフォルド表面)に結合された状態、又は溶解状態で存在することができる。例えば、一実施形態では、培養表面が作用物質の固定材でコーティングされる。培養表面は前処理されていてもよい。作用物質の固定材は、細胞接着は支援しないが、培養表面と作用物質の間の柔軟な結合(テザー(tether))として機能することができる生物適合性ポリマーであることが望ましい。適当なポリマーの例には、ポリエチレンオキシド(PEO)、ポリビニルアルコール、ポリヒドロキシルエチルメタクリレート、ポリアクリルアミドのような合成ポリマー、ならびにヒアルロン酸及びアルゲン酸などの天然ポリマーが含まれる。
【0042】
望ましい実施形態では、培養表面(例えば、ウェル表面)が以下のものから選択される:ポリスチレン、ポリエチレンビニルアセテート、ポリプロピレン、ポリメタクリレート、ポリアクリレート、ポリエチレン、ポリエチレンオキシド、ガラス、ポリシリケート、ポリカーボネート、ポリテトラフルオロエチレン、フルオロカーボン及びナイロン。ただし、これらに限定されるわけではない。培養基板が、ポリアンヒドリド、ポリグリコール酸、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリ乳酸−グリコール酸共重合体などのポリヒドロキシ酸、ポリオルトエステル、ポリヒドロキシブチレート、ポリホスファゼン、ポリプロピルフムレート、生物分解性ポリウレタンなどの生物分解性材料を完全に又は部分的に含むことができることも本発明の技術的範囲に十分に含まれる。
【0043】
培養表面は前処理することができる。例えば、アンモニア環境でのポリマーのプラズマ放電処理によって第一級アミンを有する細胞培養表面を調製することができる。一実施形態では、その内容の全体が参照によって本明細書に組み込まれる、同一所有権者の同時係属出願で2002年9月30日出願の特許文献1に記載されているように、標準固定化ケミストリを使用して、これらのアミノ化された表面に作用物質の固定材を共有結合によって付着させることができる。処理された組織培養ポリスチレンを生み出す商業的に使用される2つのプロセスは、いずれも当技術分野でよく知られている大気プラズマ処理(コロナ放電としても知られている)及び真空プラズマ処理である。プラズマは、ガス状イオンとフリーラジカルの非常に反応性の高い混合物である。アミノ−プラズマ処理又は酸素/窒素プラズマ処理を使用して高アミン表面を生み出すことができ、この高アミン表面には、特許文献1に記載されたカルボジイミド生物共役(bioconjugate)ケミストリを使用して、ヒアルロン酸(HA)、アルゲン酸(AA)などの生物適合性ポリマーを、カルボキシル基を介して結合させることができる。その結果得られる表面は、細胞培養基中に高濃度の血清タンパク、例えば、濃度10〜20%の血清タンパクが存在しても細胞の付着を許さない。作用物質の固定材を介して作用物質を共有結合させるのに使用することができる前処理された組織培養ポリスチレン製品の例は、ポリスチレンの酸素−窒素プラズマ処理を使用して生み出され、酸素及び窒素を含むアミノ基、アミド基などの官能基が取り込まれたPRIMARIA(登録商標)組織培養製品(Becton Dickinson Labware)である。
【0044】
続いて、細胞外基質タンパク質、ペプチドなどの作用物質を前述のHA又はAA表面に共有結合させることができ、これには、タンパク質/ペプチド上のアミン基と、HA又はAA上のカルボキシル基あるいは例えば過ヨウ素酸ナトリウムを使用した酸化によってHA又はAA上に生み出されたアルデヒド基とを利用することができる。
【0045】
例えば、ヒトの胎盤のヒアルロン酸の末端の糖は、参照によって本明細書に組み込まれる非特許文献1に記載された過ヨウ素酸法によって活性化することができる。この手法は、過ヨウ素酸ナトリウム又は過ヨウ素酸カリウムをヒアルロン酸溶液に加え、それによって末端の糖を活性化することを含み、この末端の糖は、作用物質の遊離アミノ基、例えば細胞外基質タンパク質の末端アミノ基に化学的に架橋することができる。好ましい他の実施形態では、カルボジイミドを架橋剤として使用して、生物適合性ポリマー(例えば、HA又はAA)の遊離カルボキシル基を、作用物質の遊離アミノ基に化学的に架橋させることができる。他の標準固定化ケミストリは当業者に知られており、それらを使用して、培養表面を生物適合性ポリマーに接合し、生物適合性ポリマーを作用物質に接合することができる。例えば、非特許文献2又は2002年9月30日出願の特許文献1を参照されたい。
【0046】
生物適合性ポリマーを介して作用物質をアミノ化された組織培養表面に結びつけ、又は生物適合性ポリマーを介して作用物質を、標準固定化ケミストリを使用してカルボキシ化された表面又はヒドロキシル化された表面に結びつけることができることに留意されたい。付着作用物質の例は、臭化物、スクシンイミド、アルデヒド、トシルクロリド、アビジン−ビオチン、光架橋剤、エポキシド及びマレイミドである。繰返しになるが、作用物質は溶解状態で存在することができ、培養表面に結合されている必要はないことに留意されたい。
【0047】
上述したとおり、培養表面に結合されて、又は溶解状態で存在することができる作用物質の混合物が選択された容器の中に含まれることは本発明の一実施態様である。また、それ以外の容器が単独作用物質を含んでもよいことも本発明の実施態様である。これらの作用物質は望ましい割合で組み合わせることができる。容器の中に存在する異なる作用物質の相対量は、例えば、容器に分配される組成物中の作用物質の濃度によって制御することができる。さらに、作用物質が生物適合性ポリマーを介して容器表面に共有結合によって付着される実施形態では、培養表面に結合された生物適合性ポリマーの容量を調整することによって装填密度を制御することができる。これは例えば、作用物質と反応することができるポリマー上の反応基の数を制御することによって、又は培養表面の生物適合性ポリマー分子の密度を制御することによって達成することができる。さらに、最初に作用物質を別々に生物適合性ポリマー(テザー)に結合させ、次いで、この「装填された」テザーを望ましい割合で混合し、前処理された基板に付着させることもできる。
【0048】
上述したとおり、作用物質は溶解状態にあり、かつ/又は表面に結合されていることができる。例えば、作用物質は、高アミン表面であることが好ましい前処理された組織培養表面に生物適合性ポリマーを介して共有結合によって固定することができる。作用物質はあるいは、作用物質を表面に受動吸着させることによって容器表面に固定することもできる。作用物質がビーズなどの固体担体上に予め固定されており、次いで、これらのビーズを容器に加えることができることも本発明の技術的範囲に十分に含まれる。続いて、容器の中のビーズと接触した細胞タイプの反応を検出することができる。単独作用物質を含むビーズの混合物を組み合わせて、作用物質の混合物を形成することができる。あるいは、単独作用物質の混合物をビーズに固定することもできる。
【0049】
作用物質をスカフォルド上に固定し、又はスカフォルド内に含浸させ、このスカフォルドを容器に入れ、次いで、細胞を含む流体と接触させることができることは本発明の技術的範囲に十分に含まれる。本発明で使用される適当なスカフォルド、及び作用物質をスカフォルドに固定し又はスカフォルドの内部に固定するための方法が、その内容の全体が参照によって本明細書に組み込まれる、同一所有権者の同時係属出願で2002年9月30日出願の特許文献3に記載されている。
【0050】
本発明で使用される容器は通常の任意の形態をとることができるが、マイクロウェル又は管であることが好ましい。マイクロタイターウェル、管などの構成は、本発明において特に有用であり、多数の試料の自動同時検定を効率的に都合よく実行することを可能にする。自動ピペッタ及びプレートリーダが使用可能なため、マイクロタイターウェルは広範囲にわたる自動化が可能である。他の固相、特に他のプラスチック固体担体を使用することもできる。
【0051】
本発明の好ましい一実施形態では、容器が、96ウェルマイクロタイタープレート(すなわち、マイクロウェルアレイ)のウェルを含んでいる。マイクロタイタープレート用の(試薬添加及び洗浄ステップのための)自動ピペッティング装置及び色リーダはすでに存在する。本発明を実施するための自動化された装置の一例は、ピペッティングステーション及び検出装置(例えば、プレートリーダ)を含むことができ、このピペッティングステーションは、サーモスタット環境(すなわち温度制御環境)において特定の時点に試薬をウェルに加え、試薬を除去する順次操作を実行する能力を有する。
【0052】
上述したとおり、本発明で使用される作用物質は、細胞表面のレセプタに結合し、あるいはイオンチャネル又はイオン輸送によって取り込まれ、標的細胞又は組織の成長、複製又は分化を調節する成長エフェクタ分子である。一実施形態では、これらの作用物質が細胞接着リガンド及び/又は外因子である。望ましい実施形態では作用物質を、細胞外基質タンパク質、細胞外基質タンパク質断片、ペプチド、成長因子、サイトカイン及びこれらの組合せとすることができる。
【0053】
好ましい作用物質は、成長因子、細胞外基質分子、サイトカイン、ペプチド、ホルモン、金属、キレート剤又は酵素である。成長因子の例には、脈管内皮由来成長因子(VEGF)、上皮成長因子(EGF)、血小板由来成長因子(PDGF)、トランスホーミング増殖因子(TGFα、TGFβ)、肝細胞成長因子、ヘパリン結合因子、インスリン様成長因子I又はII、線維芽細胞成長因子、エリトロポイエチン神経成長因子、骨形態形成タンパク質、筋形態形成タンパク質及び当業者に知られている他の因子が含まれる。ただし、これらに限定されるわけではない。他の適当な成長因子は、例えば、非特許文献3に記載されている。
【0054】
成長因子は、当技術分野では知られている方法を使用して組織から分離することができる。例えば、成長因子は組織から分離し、又は組換え手段によって生成することができる。例えば、EGFはマウスの顎下腺から分離することができ、Genentech社(米カリフォルニア州South San Franxisco)はTGF−βを組換えによって生成している。他の成長因子も、Sigma Chemical Co.(米ミズーリ州St.Louis)、R&D Systems(米ミネソタ州Minneapolis)、BD Biosciences(米カリフォルニア州San Jose)及びInvitrogen Corpotation(米カリフォルニア州Carlsbad)などの販売会社から、天然体と組換え体の両方の形態で入手可能である。
【0055】
本発明で使用される適当な細胞外基質分子の例には、ビトロネクチン、テネイシン、トロンボスポンジン、フィブロネクチン、ラミニン、コラーゲン及びプロテオグリカンが含まれる。他の細胞外基質分子は非特許文献4に記載されており、又は当業者に知られている。
【0056】
本発明において有用な追加の作用物質には、インターロイキン、GMコロニー刺激因子などのサイトカイン及びインスリンなどのホルモンが含まれる。これらは文献に記載されており、市販されている。
【0057】
本発明とともに使用される細胞は、作用物質に潜在的に反応することができ、又は成長のためにその作用物質を必要とする任意の細胞であり得る。例えば、細胞は、株化細胞系統から得ることができ、又は分離された組織から分離することができる。適当な細胞には、ほとんどの上皮及び内皮細胞タイプ、例えば、肝細胞などの実質細胞、ランゲルハンス島細胞、線維芽細胞、軟骨細胞、骨芽細胞、外分泌細胞、腸管起源の細胞、胆管細胞、副甲状腺細胞、甲状腺細胞、副腎−視床下部下垂体アクセス(adrenal−hypothalamic−pituitary access)の細胞、心筋細胞、腎臓上皮細胞、腎臓尿細管細胞、腎臓基底膜細胞、神経細胞、血管細胞、ならびに骨及び軟骨、平滑筋及び骨格筋を形成する細胞が含まれる。他の有用な細胞には、選択された作用物質混合物に反応して表現型の変化を受けることができる幹細胞が含まれ得る。他の適当な細胞には、血球、臍帯血由来細胞、臍帯血由来幹細胞、臍帯血由来始原細胞、臍帯由来細胞、胎盤由来細胞、骨髄由来細胞及び羊水由来の細胞が含まれる。これらの細胞は遺伝子操作することができる。細胞は、96ウェルマイクロタイタープレートのウェルなどの容器の中で、作用物質とともに培養される。これらの細胞は、非特許文献5に記載されている技術など、よく知られている多数の細胞培養法のいずれかを使用して培養することができる。他の細胞培養基及び細胞培養法は当業者によく知られており、それらを本発明で使用することができる。細胞は、溶解状態の作用物質又はマイクロタイタープレートなどの標準組織培養容器に結合された作用物質の存在下で培養することができる。直径の長さが10ミクロン程度であることが好ましいビーズ又は繊維に結びつけられた作用物質を使用して、懸濁液中で細胞を培養することができることも本発明の技術的範囲に十分に含まれる。培養基に加えられると、これらの粒子は細胞に付着し、それによって細胞の成長を刺激し、付着信号を発すると考えられる。
【0058】
次に、本発明に従って統計的に計画された実験について以下に説明する。
【実施例1】
【0059】
<高アミン組織培養表面へのヒアルロン酸の結合>
Becton Dickinson Labware社は、酸素/窒素プラズマを使用してPRIMARIA(登録商標)組織培養製品を生み出す。具体的には、ポリスチレン製品の酸素/窒素プラズマ処理によって、酸素及び窒素を含むアミノ基、アミド基などの官能基を取り込む。この実験では、非特許文献2又は同一所有権者の同時係属出願で2002年9月30日出願の特許文献1に記載されているものなどの当技術分野でよく知られているカルボジイミド生物共役ケミストリを使用して、PRIMARIA(登録商標)多ウェルプレート上の高アミン表面にHAのカルボキシル基を介してHAを結合させた。
【実施例2】
【0060】
<ヒアルロン酸へのECMタンパク質の結合>
培養表面に結びつけられた実施例1のHAポリマーにECM作用物質を共有結合によって付着させた。具体的には、非特許文献1に記載された過ヨウ素酸法を使用した酸化によって、HA上にアルデヒド基を生成させた。この手法は、HA溶液に過ヨウ素酸ナトリウムを加え、それによって末端の糖を活性化することを含む。続いてこの活性化されたHAを、非特許文献2又は2002年9月30日出願の特許文献1に記載されているものなどの標準固定化ケミストリを使用してECMタンパク質のアミン基に結合させた。
【実施例3】
【0061】
<統計的に計画された実験(混合物計画)を使用した異なる10種類のECMタンパク質の同時スクリーニング>
この実施例では統計的計画が混合物計画である。この計画を使用して、細胞反応に対して肯定的な効果を有する因子対又は単独因子を識別した。この計画は、2つのECM間の相互作用を見ることを可能にする。この実施例では、それぞれが単一の「因子」を表す10種類の単独ECMを使用して、図7に示した96ウェルプレートのウェルの中に入れるECM混合物を生成する。ECMは、培養表面の生物適合性ポリマーに共有結合によって付着する(実施例1及び2参照)。この実験のための統計的計画がなければ、所与の1つの細胞タイプについてこれらの10種類のECMをそれぞれ試験するのに、210(1024)個の単独実験すなわち11枚の96ウェルプレートが必要となることに留意されたい。
【0062】
この実施例では、10種類の接着リガンドからなる1つのグループを選択し、このスクリーニングのためのフォーマットとして96ウェルアレイを選択した。不均一な蒸発に起因する周辺効果を排除するため、この実験では96ウェルアレイの内側の60個のウェルだけが使用される。したがって、プレートの外側の行及び列のウェルは、適当な対照のために使用することができる。
【0063】
細胞培養試薬として一般的使用されていること、市販されていること、及び価格に基づいて、以下の10種類の接着リガンドが選択された:コラーゲンI(CI)、コラーゲンIII(CIII)、コラーゲンIV(CIV)、コラーゲンVI(CVI)、エラスチン(ELA)、フィブロネクチン(FN)、ビトロネクチン(VN)、ラミニン(LAM)、ポリリジン(PL)及びポリオルニチン(PO)。
【0064】
表面化学要件に対する特定の考慮を有する統計的計画を作成した。具体的にはこの実験では、全体の接着リガンド密度がウェル間で一定に保たれ、接着リガンド組成だけを変更することができる図9に示したシナリオを使用した。言い換えると、単一の接着リガンドの濃度はウェル間で異なってもよいが、それぞれのウェルは全体として固定された同じ量の接着リガンドを有する。このシナリオは以前に詳細に説明した。このような計画の一例が、図10のスプレッドシートに示されている。
【0065】
図10(図10a乃至図10d)は、混合物計画のコンピュータ表現であるスプレッドシートを示す図である。図示のレイアウトは96ウェルプレートのものであり、このレイアウトは、ウェル内の全体流体体積が存在する因子の数に基づいて分割される図9のシナリオを使用して作成されたものである。
【0066】
このスプレッドシートは、データベースに記憶された計画のコンピュータ表現の役目を果たす。図10の1番上の行には、この特定のスクリーニングで使用される10種類の因子(A〜K)及びそれらの対応する識別が記入されている。図示のスプレッドシートでは、因子Aがフィブロネクチンを表し、因子BがコラーゲンIを表す。以下同様である。第1列は、96ウェルプレート中のウェル、例えばこのケースでは52個のウェルに変換される実験点のリストである。スプレッドシートの中の数字は因子レベルである。この実施例では、これらのレベルが、特定のウェルに加えられる因子の実際の体積(μl;マイクロリットル)である。この特定の計画では、因子が3段階の体積でウェルに加えられ、例えば、5μl、25μl又は50μlの因子が加えられる。この場合のウェル全体の体積は50μlである。したがって、1つの因子が50μl加えられたウェルでは、最終的なウェル組成物が、ウェル表面に共有結合によって固定された単一の接着リガンドを含んでいる。したがって、ウェルにある因子25μlが加えられた場合、第2の因子も25μl加えられ、最終的なウェル組成物は、ウェル表面に共有結合によって固定された2種類の異なる細胞接着リガンドからなる混合物を含んでいる。ある1つの因子が5μl加えられたときには、他の9つの因子はそれぞれ同様に5μl加えられ、したがって、10種類のすべての細胞接着リガンドからなる混合物をウェル表面に含むウェルが得られる。10種類のすべての接着リガンドを含むこれらの実験点は「中点(mid point)」と呼ばれ、この実施例の統計的計画の不可欠の部分である。
【0067】
図11は、図10のスプレッドシートの統計的計画に基づいて作成された96ウェルプレートレイアウトを示す図である。図11を参照すると、図10に示した特定の統計的計画から変換された96ウェルプレートレイアウトが示されている。具体的にはこの96ウェルプレートは、それぞれのウェルの底に固定された図10に示されたウェル組成物、例えば、細胞接着リガンドの組合せを含んでいる。具体的には、図10の実験ランは、図11の行/列に以下のように対応する:図10の計画のラン1〜10は、それぞれ図11のアレイ上の行Bの列2〜11を表し、ラン11〜20は行Cの列2〜11を表し、ラン21〜30は行Dの列2〜11を表し、ラン31〜40は行Eの列2〜11を表し、ラン41〜50は行Fの列2〜11を表し、ラン51及び52は行Gの列2及び3を表す。図10の統計的計画及び図11の対応する96ウェルプレートレイアウトによって示されているとおり、作用物質の混合物の他に、単独作用物質を容器に入れることができることは本発明の一実施形態である。
【実施例4】
【0068】
<MC3T3−E1骨芽細胞に特異的なECMのスクリーニング>
MC3T3−E1細胞は、デューク大学(Duke UniversityのL.D.Quarles博士によって分離され、米ノースカロライナ州Chapel Hillのノースカロライナ大学(University of North Carlina)のGale Lester博士のご好意で提供いただいたものである。この細胞を、標準細胞培養法を使用して成長させた。MC3T3−E1はよく特徴付けされた、急速に成長する骨芽細胞系統であり、これを選択したのは、最も一般的に使用されている組織培養表面に攻撃的に付着するためである。
【0069】
トリプシン−EDTAを使用し、当技術分野でよく知られている方法に従って、細胞培養フラスコから細胞を取り出した。細胞を計数し、遠心処理し、血清を含まない培養基あるいはウシ胎仔血清を10%含む培養基に再懸濁させた。図11に示し先の実施例3で説明したレイアウトに従って細胞を96ウェルマイクロアレイのウェルに平板培養した。接種密度は約10,000細胞/ウェルであった。プレート上の細胞は37℃で一晩インキュベートした。次の日、培養基及びウェル表面の固定された作用物質に接着していない細胞を除去した。接着した細胞は、ホルマリンに少なくとも15分間暴露することによって固定した。プロピジウムヨーダイトを使用して、前記固定された接着細胞の核を蛍光標識した。蛍光顕微鏡(Discovery−1、Universal Imaging Corporation社、Molecular Devices社の子会社、米ペンシルバニア州Downingtown)を使用して、ECMスクリーニングプレート中のウェルに付着した蛍光標識された細胞の画像を取得した。96ウェルプレートから取得された画像の一例を図12に示す。
【0070】
図12は、図11に示されたレイアウトを有する96ウェルプレートのウェルに付着させた蛍光標識された細胞の蛍光顕微鏡像を示す図である。具体的にはこのレイアウトは、行Gの列4〜11が対照ウェルとして使用されている以外は、図11に示したそれと同じである。図12では、ウシ胎仔血清を10%含む培養基中のMC3T3−E1細胞を、ヒアルロン酸表面に結びつけられた作用物質の混合物を含むウェル(ただしウェルG4〜G9はヒアルロン酸表面だけを含み、ウェルG10及びG11は組織培養等級のポリスチレンだけを含む)に入れた。予想どおり、ウェルG4〜G9のヒアルロン酸表面だけが細胞接着を妨げた。ウェルG10及びG11のポリスチレン表面への細胞接着はこの例では意外にも低かった。対照的に、それぞれが接着した細胞の核を表す多数の白斑から分かるように、細胞接着リガンドを含むいくつかのウェルは強い細胞接着を示した。
【0071】
画像解析ソフトウェアパッケージ(Meta Morph、Universal Imaging Corporation社、Molecular Devices社の子会社、米ペンシルバニア州Downingtown)を使用して図12の蛍光標識された細胞核を数えた。ウシ胎仔血清を含まない培養基中の細胞とウシ胎仔血清を10%含む培養基中の細胞の両方の核計数結果を図13に示す。
【0072】
図13は、図12の顕微鏡像の解析の結果得られたウェル番号に対する核数のグラフを示す図である。図13のウェル1〜10は、図12の行Bの列2〜11に対応し、図13のウェル11〜20は、図12の行Cの列2〜11に対応する。以下同様である。
【0073】
図13では、10%ウシ胎仔血清の存在下で、いくつかのウェルで細胞接着が観察された。血清がない場合、細胞接着は低減されたが、いくつかのウェルで依然として観察された。両方のケースで、統計的に計画された実験に従って細胞接着リガンドを含むいくつかのウェルの細胞接着は、組織培養等級のプレーンなポリスチレン上で培養された細胞のそれを上回った(図13のウェル59及び60)。この得られた結果から、最も一般的に使用されている細胞培養担体である組織培養等級のポリスチレンよりも良好にMC3T3−El接着をサポートするいくつかの表面が識別できた。
【0074】
表面を最適化するため、2つの手がかり、例えば、「最良のウェル」組成又は「最良の因子」に従うことができる。「最良の因子」の決定は実験結果の厳格な統計解析後になされる。
【0075】
「最良のウェル」法では、最良の実験結果を有するウェルが選択されて、追加の最適化が実施される。図13に示した例では、細胞核数が最も多いウェル40(すなわちウェルE11)が選択される。図11に示したプレートレイアウトによれば、このウェルは、コラーゲンVI型とコラーゲンIII型の混合物を含んでいる。ECMスクリーニングプレート調製の固定化ステップに対して選択されたコラーゲンVI型とコラーゲンIII型の濃度は、MC3T3−E1細胞を用い、モデルECMであるフィブロネクチンを使用した初期の濃度依存調査に基づくものである。調査対象の1つの細胞タイプに対して最適である濃度が他の細胞タイプに対しては最適ではないかもしれないことに留意されたい。また、所与の細胞タイプに対して最適である特定のECMの濃度は、同じ細胞タイプが使用されたとしても、他のECMに対する最適の濃度ではないかもしれない。同様に、「ヒットウェル(hit well)」中の混合物の組成は最適でないかもしれない。例えば、「最良のウェル」であったウェルE11の表面は、コラーゲンVI型とコラーゲンIII型の50/50混合物を含んでいた。フォローアップ実験を実行して、固定化ステップに対して選択される両方のリガンドの濃度を最適化し、所与の細胞タイプに対する「ヒット」ウェルの表面に結合された混合物の組成(50/50混合物は最適の組成でないかもしれない)を最適化することができる。
【0076】
「最良の因子」法では、統計モデルを使用して実験結果が解析される。前述の実施例に関しては、MC3T3−E1データの混合物モデル解析によれば、コラーゲンIV、ラミニン及びポリ−L−リジン(効果は限定的)は、血清がない場合、それらがかなりの量存在するときに、図14に示すように、細胞数を増大させるようである。
【0077】
図14は、図9乃至図13からの情報の混合物モデル解析を使用して得られた基準ブレンドからの偏差に対するLn(細胞数(血清なし)+1)のグラフを示す図である。すべての線が交差する点は、10種類のすべてのECMが5μlずつ存在する中点に対応する。このグラフは、ウェル組成がこの基準「中点」ブレンドからどのくらい離れているかに応じて、細胞数がどのように変化するかを指示している。見て分かるとおり、コラーゲンIV又はラミニンの量が増大するにつれて細胞数は増大している。
【0078】
図15は、図9乃至図13からの情報の混合物モデル解析を使用して得られた基準ブレンドからの偏差に対するLn(細胞数(10%血清)+1)のグラフを示す図である。図15を参照すると、血清が10%存在する場合には、図14では見られたポリ−L−リジンの効果が低下し、コラーゲンIV及びラミニンだけが細胞数に対する肯定的な効果を示し続ける。
【0079】
「最良のウェル」法と「最良の因子」法の両方が有効であるが、それぞれの方法が異なる表面組成を選択することがありうることに留意されたい。この実施例では、「最良のウェル」方法は、コラーゲンVI型及びコラーゲンIII型を含む表面を選択し、「最良の因子」法はコラーゲンVI及びラミニンを含む表面を選択する。
【実施例5】
【0080】
<統計的に計画された実験(プラケット−バーマン計画)を使用した異なる30種類の作用物質のスクリーニング>
<計画>
この実施例は、SAS Institute(米ノースカロライナ州Cary)の市販ソフトウェアパッケージJMP(商標)を使用して生成された図16(a〜d)に示すプラケット−バーマン(PB)計画を説明する。
【0081】
図16A(図16A−1,図16A−2)乃至図16D(図16D−1,図16D−2)は、96ウェルプレートレイアウト用のプラケット−バーマン統計的計画を示すスプレッドシートを示す図である。具体的には、このスクリーニング計画は、SAS/JMP V 4.0.5のカスタム計画機能を使用して生成された。このソフトウェアパッケージはGUI指向のパッケージであり、したがって、示すべきコードはない。図16A−1および2を参照すると、最初の列は、96ウェルプレートの単一ウェル、例えば、このケースでは60個のウェルに変換される実験点(ラン)のリストである。スプレッドシート中の数字(−1又は1)(図16A−1および2乃至図16D)は因子レベルの指示である。この実施例では、「1」が因子の存在を指示し、「−1」が因子の不在を指示する。さらにこの実施例では、ある因子が所与のウェルの中に存在する場合、その因子の濃度は常にウェルの総体積に関して同じである。対応する実験ランに含まれる作用物質の数に基づいてウェルごとの作用物質の全体濃度は異なってもよい。総称因子名は図16A−1および2乃至図16Dの一番上の行に示されている。
【0082】
図17(図17a,図17b)は、図16の統計的計画の因子の識別を示す図で、この実験の総称因子F01〜F30のそれぞれの識別を示す図である。例えば、最初の列の実験ラン1は96ウェルプレートのウェル1を表すことができる。図16A−1および2乃至図16Dに示した統計的計画から、ウェル1の中には以下の因子が存在する(すなわち、レベル「1」)ことが分かる:F04、F08、F09、F11、F12、F14、F16、F20、F23、F25、F26、F27及びF29。
【0083】
<提案のデータ取得及び統計解析>
図16A−1および2乃至図16Dのスプレッドシートに示された計画に従って96ウェルプレートのウェルの中に細胞が平板培養される。接種密度は約10,000細胞/ウェルである。プレート上の細胞を37℃で一晩インキュベートする。次の日、培養基及びウェル表面の固定された作用物質に接着していない細胞を除去し、接着した細胞は、ホルマリンに15分間暴露することによって固定する。固定された付着細胞の核を蛍光標識し、実施例4で先に説明した蛍光顕微鏡を用いて画像を取得する。画像解析ソフトウェアパッケージ(Meta Morph、Universal Imaging Corporation)を使用して蛍光標識された細胞核を数え、細胞の核計数結果を得る。これらの結果に基づいて、最良の実験結果(例えば最も多い細胞核数)を有するウェルが選択されて、追加の最適化が実施される。最良の結果を与えるウェルの内容を調べることによって、どの因子及び/又は因子群が有益な効果をもたらすかについての情報が得られる。この計画に多くの因子を含めることによって、潜在的に、因子間のより複雑な相互作用を決定することができる。フォローアップスクリーニング実験では、最初のスクリーニングラウンドで発見された特に興味深い因子の組合せに集中することができる。
【0084】
最初のスクリーニングの後で主効果(main effect)が推定されチェックされる。「主効果」は、独立に作用している単独作用物質の効果を意味する。相互作用効果は、2種類以上の単独作用物質が協力して(非独立に)作用するときのこれらの単独作用物質の併用効果を意味する。この時点で、作用物質間の関連相互作用は一般に統計モデルでは推定されないが、作用物質間の相互作用は最良の実験ラン、すなわち最良のウェル)に帰着すると予想される。最初のスクリーニングラウンドの後、これらのウェルに含まれる(レベル=「1」)最良のウェル及び因子が識別される。それぞれの最良のウェルに対して、予備的な統計解析でそれらのウェルが肯定的、中立の又は否定的な効果を有していたか否かにかかわらず、ウェルの中に含まれるすべての因子を使用してフォローアップ実験を実行することができる。細胞内に望ましい反応を生み出す因子の最適な部分集合を得るため、最良のウェルの中の識別された作用物質の部分集合を用いてこの実験を繰り返すことができる。さらに、最良のウェル中の作用物質の濃度を変更してこの実験を繰り返すこともできる。さらに、統計学的に有意の主効果を有する単独作用物質の部分集合を用いて、又は最良の単独作用物質の部分集合を、最良の混合物中の識別された部分集合と組み合わせることによって、フォローアップ実験を実行することもできる。
【0085】
細胞外条件による細胞表現型の制御を、細胞外環境内の因子間の高次相互作用によって支配することが提案された。ここで提示されたプラケット−バーマン計画は、主効果の良好な統計推定値を提供すると考えられ、さらにその実験ランの中で、因子の組合せの多様な集合を観察する機会を提供する。この場合、高次相互作用は、特定の実験ランが、その最良のウェルの中の作用物質の個々の主効果から予測することができるものを凌ぐ「最良のウェル」を与えると予想される。
【図面の簡単な説明】
【0086】
【図1A】細胞の表現型の変化を引き出す能力を有する最良の混合物及び/又は最良の作用物質を高処理能力で識別することができる本発明に基づく例示的な自動プロセスの流れ図(その1)である。
【図1B−1】細胞の表現型の変化を引き出す能力を有する最良の混合物及び/又は最良の作用物質を高処理能力で識別することができる本発明に基づく例示的な自動プロセスの流れ図(その2)である。
【図1B−2】細胞の表現型の変化を引き出す能力を有する最良の混合物及び/又は最良の作用物質を高処理能力で識別することができる本発明に基づく例示的な自動プロセスの流れ図(その2)である。
【図2】図1A及び図1B−1および2のプロセスから得られた情報を使用して生物学的モデルを作成しかつ/又は修正することができる本発明に基づく例示的なプロセスの流れ図である。
【図3】生体系に対する作用物質混合物(M)の作用に関して仮定される例示的な細胞経路を示す図である。
【図4】本発明の自動化方法を実施するために使用することができるコンピュータシステムの例示的な実施形態の概略図である。
【図5】本発明の自動化システムのコンポーネントの好ましい一実施形態を示す概略図である。
【図6】(a),(b)は、本発明に係る試験ウェルの一実施形態を示す概略図である。
【図7】異なる単独作用物質混合物を含む96ウェルプレートレイアウトの概略図である。
【図8】(a),(b)は、本発明の自動化方法の統計的計画を作成する際に使用することができる1つのシナリオの概略図である。
【図9】(a),(b)は、本発明の自動化方法の統計的計画を作成する際に使用することができる他のシナリオの概略図である。
【図10a】混合物計画のコンピュータ表現であるスプレッドシートを示す図である。
【図10b】混合物計画のコンピュータ表現であるスプレッドシートを示す図である。
【図10c】混合物計画のコンピュータ表現であるスプレッドシートを示す図である。
【図10d】混合物計画のコンピュータ表現であるスプレッドシートを示す図である。
【図11】図10のスプレッドシートの統計的計画に基づいて作成された96ウェルプレートレイアウトを示す図である。
【図12】図11に示されたレイアウトを有する96ウェルプレートのウェルに付着させた蛍光標識された細胞の蛍光顕微鏡像を示す図である。
【図13】図12の顕微鏡像の解析の結果得られたウェル番号に対する核数のグラフを示す図である。
【図14】図9乃至図13からの情報の混合物モデル解析を使用して得られた基準ブレンドからの偏差に対するLn(細胞数(血清なし)+1)のグラフを示す図である。
【図15】図9乃至図13からの情報の混合物モデル解析を使用して得られた基準ブレンドからの偏差に対するLn(細胞数(10%血清)+1)のグラフを示す図である。
【図16A−1】96ウェルプレートレイアウト用のプラケット−バーマン統計的計画を示すスプレッドシートを示す図(その1)である。
【図16A−2】96ウェルプレートレイアウト用のプラケット−バーマン統計的計画を示すスプレッドシートを示す図(その1)である。
【図16B−1】96ウェルプレートレイアウト用のプラケット−バーマン統計的計画を示すスプレッドシートを示す図(その2)である。
【図16B−2】96ウェルプレートレイアウト用のプラケット−バーマン統計的計画を示すスプレッドシートを示す図(その2)である。
【図16C−1】96ウェルプレートレイアウト用のプラケット−バーマン統計的計画を示すスプレッドシートを示す図(その3)である。
【図16C−2】96ウェルプレートレイアウト用のプラケット−バーマン統計的計画を示すスプレッドシートを示す図(その3)である。
【図16D−1】96ウェルプレートレイアウト用のプラケット−バーマン統計的計画を示すスプレッドシートを示す図(その4)である。
【図16D−2】96ウェルプレートレイアウト用のプラケット−バーマン統計的計画を示すスプレッドシートを示す図(その4)である。
【図17a】図16の統計的計画の因子の識別を示す図である。
【図17b】図16の統計的計画の因子の識別を示す図である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞における表現型の変化を引き起こす作用物質を識別するための自動化方法及びその自動化システムに関し、より詳細には、一般に高処理能力スクリーニング法の技術分野に関し、細胞内に所望の生物学的反応を引き出す単独作用物質(single agent)の混合物及びこれらの混合物の中の単独作用物質を識別する目的に使用することができる、コンピュータによって実現される(computer−implemented)スクリーニング法に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒトの病気を治療し又は治癒させる療法で使用される細胞に関しては、これの細胞が生体外(in vitro;試験管内)培養で維持されるときに、細胞運命(cell fate)、例えば、細胞の生存、増殖及び分化が制御されることが望ましい。したがって、細胞表面レセプタとリガンド(ligand)との相互作用を制御する必要がある。例えば、細胞と生体外培養基板(culture substrate)上に存在するリガンドとの相互作用を制御するために、ポリスチレンなどの適当な培養基板を、培養基(culture media)に血清タンパクが使用されているときでも細胞の付着を許さないポリマーでコーティングすることができる。したがって、このコーティングは、血清タンパクの無制御かつ不定の吸着を排除する。次いで、細胞表面レセプタと相互作用させるのに適した生物学的に活性のリガンドを、そのリガンドの生物学的活性を保ったまま、このコーティング上に固定することができる。この発想は知られている。例えば、ヒアルロン酸又はアルゲン酸を表面コーティングとして使用し、このコーティングの表面に、コーティングと細胞接着リガンドとの間に安定な共有結合を形成するケミストリを使用して細胞接着リガンドを固定することができることが知られている。これは、細胞接着リガンドが可溶化され、表面から離れることを防ぐ。また、コーティング自体は細胞接着を支援しない。これは、同一所有権者の同時係属出願で2002年9月30日出願の特許文献1に記載されている。
【0003】
所望の細胞運命を達成するのに作用物質の混合物が必要となる可能性は高い。多数の成長エフェクタ分子が知られている。これらには成長因子、ホルモン、ペプチド、小分子及び細胞外結合分子が含まれる。したがって、所与の細胞タイプに対して所望の細胞運命を達成する適当な成長エフェクタ又は成長エフェクタの組合せを見つけ出す作業は、時間のかかる根気の要る作業になりがちである。
【0004】
【特許文献1】米国特許出願第10/259797号明細書
【特許文献2】米国特許第5808918号明細書
【特許文献3】米国特許出願第10/259817号明細書
【非特許文献1】E. Junowicz and S. Charm, "The Derivatization of Oxidized Polysaccharides for Protein Immobilization and Affinity Chromotography," Biochimica et. Biophysica Acta, Vol. 428: 157-165 (1976)
【非特許文献2】"Protein Immobilization: Fundamentals and Applications" Richard F. Taylor, Ed. (M. Dekker, NY, 1991)
【非特許文献3】"Peptide Growth Factors and Their Receptors I" M.B. Sporn and A.B. Roberts, Eds. (Springer-Verlag, NY, 1990)
【非特許文献4】Kleinman et al., "Use of Extracellular Matrix Components for Cell Culture," Analytical Biochemistry 166: 1-13 (1987)
【非特許文献5】Freshney, "Cell Culture, A Manual of Basic Technique" 3rd Edition (Wiley-Liss, NY, 1994)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
したがって、当技術分野では、所与の細胞タイプに対して所望の細胞運命を達成するのに有用な作用物質を識別する高処理能力の方法が求められている。これは、従来の細胞培養系では生存しない細胞、又はその分化状態を抜本的に変化させないと生存しない細胞に関して特に興味深い。このような細胞の適例は哺乳類の1次細胞である。具体的には当技術分野では、所望の細胞運命を達成するのに必要な因子の混合物間の相互作用を系統的に調べるためのコンピュータによって実現される統計的に計画された実験方法、ならびにそれを実施するためのシステムが求められている。この高処理能力方法が、実験条件及びメタ解析(meta−analysis)のロボット準備を含むことが好ましい。
【0006】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、細胞における表現型の変化を引き起こす作用物質を識別するための自動化方法及びその自動化システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、細胞における表現型の変化を引き起こす作用物質を識別するための自動化方法及びその自動化システムを提供する。この自動化方法は、アレイの形態の容器(receptacle)を提供すること、総称因子名、因子レベル及び実験ランを含む統計的計画を提供することを含んでいる。さらに、この自動化方法は、統計的計画のコンピュータ表現に従って、選択された容器の中に単独作用物質の様々な混合物を入れること、及びソフトウェアプログラムを利用して計画のコンピュータ表現を生成することを含んでいる。このソフトウェアは、作用物質の識別を総称因子名に自動的にマップし、作用物質の濃度又は量を因子レベルにマップし、アレイ中の容器の位置を実験ランにマップする。計画のコンピュータ表現に従って容器の中に様々な混合物が正確に入れられた後、入れられた混合物を、自体の表現型を変化させる能力がある完全な細胞と接触させる。
【0008】
また、この自動化方法は、接触させた細胞の表現型の変化を示すデータを取得すること、ならびに取得されたデータを統計的計画と比較して、どの作用物質の混合物及び/又はどの単独作用物質が、接触させた細胞の表現型の変化を引き起こすのに有効であるのかを識別するアルゴリズムを含むプロセッサを利用することを含んでいる。さらに、この自動化方法は、統計的計画、作用物質の識別、計画のコンピュータ表現、取得された実験データ及びアルゴリズム比較の結果を1つ又は複数のデータベースに記憶することを含んでいる。
【0009】
さらに、本発明は、上述した自動化方法を実施するための自動化システムを提供する。この自動化システムは、容器のアレイを含み、このうちの選択された容器が、(i)単独作用物質の様々な混合物と、(ii)細胞を含む流体と、を受け取る。さらに、この自動化システムは、総称因子名、因子レベル及び実験ランを含む統計的計画と、この計画のコンピュータ表現を生成するためのソフトウェアプログラムとを含んでいる。このソフトウェアプログラムは、作用物質の識別を総称因子名に自動的にマップし、作用物質の濃度又は量を因子レベルにマップし、アレイ中の容器の位置を実験ランにマップする。さらに、この自動化システムは、細胞の表現型の変化を指示する取得された実験データと、実験データを統計的計画と比較して、細胞の表現型の変化を引き起こすのに有効な混合物及び/又は単独作用物質を識別するアルゴリズムを含むプロセッサとを含んでいる。このシステムには、さらに、統計的計画、作用物質の識別、計画のコンピュータ表現、取得された実験データ及びアルゴリズム比較の結果を記憶するための1つ又は複数のデータベースが含まれている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本明細書では、「作用物質(agent)」が、細胞に結合し、標的細胞又は組織の生存、分化、増殖又は成熟を調節する成長エフェクタ分子と定義される。本発明で使用される適当な作用物質の例には、成長因子、細胞外基質分子、ペプチド、ホルモン及びサイトカインが含まれ、これらは溶解状態で存在し、又はウェル表面、スカフォルド(scaffold)表面、ビーズ表面などの培養表面に結合して存在することができる。
【0011】
本明細書では、用語「作用物質の固定材(agent−immobilizing material)」が、培養表面と作用物質の間の結合の役目を果たすことができる生物適合性ポリマーと定義される。
【0012】
本明細書では、用語「固定する(immobilize)」、「固定される(immobilized)」等が、作用物質、すなわち、成長エフェクタ分子を、ウェル表面、ウェルの中に含まれるスカフォルドの表面などの培養表面で不動化することと定義される。この用語は、培養表面への作用物質の受動吸着、及び培養表面への作用物質の直接又は間接の共有結合性付着を包含する。
【0013】
「因子(factor)」は、実験の変量の名称であり、実験の1つの試行ないしラン(run)(例えば、1つのウェル)と次の試行ないしランとの間で変更される事物を表す。本発明では、「因子」が、単独作用物質又は単独作用物質の混合物の総称名である。因子は、統計的計画に従って組み合わせられて、実験の様々な混合物を形成する。
【0014】
本明細書では、「統計的計画(statistical design)」が、最良の実験結果をもたらす調整可能な変量(すなわち、因子)の組合せを見つけ出す際にユーザを支援し、その目的を達成するために必要な実験の数を劇的に減らす実験計画と定義される。本発明では、試験される作用物質を表す総称因子名を使用して適当な統計的計画が生成される。この計画は、因子の量及び/又は濃度とすることができる因子レベルを含み、あるいは因子の実際の量及び/又は濃度に変換することができる因子レベルを含んでいる。この計画はさらに番号が付けられた実験ランを含んでいる。実験ランは、試験する因子とそれらの因子のレベルの組合せを指定し、それぞれの実験ランは、例えば、多ウェルプレート上の単一のウェルに対応する。実験ランは、総称多ウェルプレート上のウェルにマップすることができる。
【0015】
本明細書で使用されるとき、用語「前処理(pre−treatment)」及び「前処理された(pre−treated)」は、続いて形成される作用物質の固定材(すなわち、生物適合性ポリマー)との共有結合に化学的に関与する官能基を、表面又は他の基板に付加することを指す。例えば、作用物質の固定材が結合することができる高アミン(amine−rich)表面を生み出すために、マイクロタイターウェルの表面をアミノ−プラズマ処理にかけることができる。
【0016】
本明細書では、用語「アレイ(array)」、「容器(receptacle)アレイ」等が、行/列などのように規則的に配置された管、ウェルなどの複数の独特の容器と定義される。
【0017】
上述したとおり、所望の細胞運命を達成するためには、単独作用物質の混合物が必要となる可能性が高い。例えば、細胞表面レセプタに結合し、これらの細胞の生存、分化、増殖又は成熟を調節する成長エフェクタ分子には、成長因子、細胞外基質分子、ペプチド、ホルモン及びサイトカインが含まれ、これらには多くの例がある。したがって、細胞と接触させて所望の細胞運命を達成するための適当な成長エフェクタ又は成長エフェクタの組合せを見つけ出す作業は、時間のかかる根気の要る作業になりがちである。
【0018】
本発明は、所与の細胞タイプに対して最適な作用物質を識別する、コンピュータを用いて実現される高処理能力の方法を提供することによって、当技術分野の1つの課題を解決する。
【0019】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。
図1A及び図1B(図1B−1、図1B−2)は、細胞の表現型の変化を引き出す能力を有する最良の混合物及び/又は単独作用物質を識別することができる本発明に基づく例示的な自動プロセスの概略流れ図である。この実施形態で使用されるフォーマットは、マイクロウェルアレイのフォーマットである。自動ピペッタ及びプレートリーダが容易に使用可能であるため、このようなアレイは一般に自動化によく適している。最初のステップであるブロック100で、ユーザが、JMP(登録商標)(SAS Institute、米ノースカロライナ州Cary)などの市販ソフトウェアを使用して実験計画を作成し、又は本発明のシステムのソフトウェアの中にすでに含まれているアルゴリズムに基づいて統計的計画を生成する。ブロック100の計画には、総称因子名、因子レベル、実験ラン及び総称マイクロウェルアレイへの実験ランのマッピングが含まれている。この統計的計画は、ブロック102でデータベースに記憶される。ユーザは、次いでブロック104で、具体的な作用物質ならびにそれらの濃度及び/又は量をソフトウェアに入力する。このユーザ入力は、ブロック106でデータベースに記憶される。ブロック107でユーザは、特定の統計的計画を選択することができる。続いてブロック108で、あるソフトウェアプログラムが利用されて、この特定の統計的計画のコンピュータ表現が生成される。この計画のコンピュータ表現は、例えば、96ウェルレイアウトに変換することができるスプレッドシートとすることができる。具体的には、このコンピュータ表現を生成するために使用されるソフトウェアプログラムが、具体的な作用物質の名称をその計画の総称因子名にマップし、作用物質の濃度及び/又は量をその計画の因子レベルにマップし、具体的な作用物質ならびにそれらの濃度及び/又は量に基づいて実験ランを生成し、特定のマイクロウェルアレイ上のウェル位置を実験ランにマップする。
【0020】
次いで、ブロック110において、このコンピュータ表現がデータベースに記憶される。望ましくはブロック112で、この計画のコンピュータ表現に基づくロボットシステムのためのコンピュータプログラムが生成される。このロボットシステムは、ブロック114(図1B−1)で、この計画のコンピュータ表現に従って作用物質をウェルに分配して、マイクロウェルアレイの選択されたウェルの中に異なる混合物が生成されるようにする。最適にはこのロボットシステムが、マイクロウェルアレイの他のウェルに単独作用物質を分配することができる。試薬の添加の他に、このロボットシステムによって回収及び洗浄ステップを実行することができる。あるいはこれらのステップの一部又は全部を手動で実行することもできる。作用物質は、アルゲン酸、ヒアルロン酸などの生物適合性ポリマーを介してウェル又は他の培養表面に共有結合によって結びつけておくことができ、あるいは溶解状態で存在することができる。作用物質が正確にウェルに入れられた後、ロボットシステムはブロック116で、完全な細胞を含む流体をマイクロウェルアレイのウェルに分配する。ブロック118で、細胞の表現型の変化を指示していると思われる実験データが取得される。この取得されたデータはブロック120で、この実験データがこの計画のコンピュータ表現に関連付けられるようにして、データベースに記憶される。次いで、ブロック122において、記憶された実験データを記憶された統計的計画と比較して、所望の生物学的反応を引き出した(すなわち、細胞の表現型の変化を引き出した)最良の混合物及び/又は最良の作用物質を識別するアルゴリズムを含むプロセッサが利用される。任意選択で、複数の実験にわたって作用物質の混合物又は単独作用物質の性能を比較して傾向又はパターンを決定する別のアルゴリズムを使用することもできる。どちらの場合もブロック124(図1B−2)において、このアルゴリズム比較の結果をデータベースに記憶し、ユーザに表示することができ、定期的に更新することもできる。望ましい一実施形態では、図1A及び1Bに示されたデータベースが単一の統合又は連合(federated)データベースである。所望ならばブロック126において、最良の混合物の部分集合又は最良の作用物質の部分集合を用いて本発明のプロセスのステップを繰り返すことができる。さらに、所望ならば、最良の作用物質と最良の混合物中の作用物質の部分集合とを組み合わせた部分集合を用いてこれらのステップを繰り返すこともできる(図示せず)。さらに、ブロック128において、最良の混合物の中の作用物質の濃度及び/又は量を変更して本発明の方法のステップを繰り返すことができる。本発明の他の実施態様は、ブロック122のアルゴリズム比較によって取得された情報を最適に使用して、生物学的モデルを作成し又は修正することができることである(ブロック130)。
【0021】
図2は、図1A及び 図1B-1および2のプロセスから得られた情報を使用して生物学的モデルを作成し及び/又は修正することができる本発明に基づく例示的なプロセスの流れ図で、 図1B−1および2のブロック122及び124の情報を使用して生物学的モデルを作成し又は既存のモデルを修正することができる本発明に基づく例示的なプロセスの流れ図が示されている。ブロック200において、論文、雑誌、書籍、専門家、実験、内部情報などの様々な情報源から科学情報が集められる。科学情報は、遺伝子発現データ、タンパク質発現データ、細胞表現型データ、信号変換(signal transduction)データ、細胞経路(cellular pathway)に関するデータ及びこれらの組合せを含むことができる。ただし、これらに限定されるわけではない。このような科学情報は、1つ又は複数のデータベースに記憶することができる。この科学情報は、インターネットなどを介して、コンピュータによって抽出することができる。抽出された科学情報は、ブロック202において、 図1B−1および2のブロック122で識別された作用物質の混合物及び/又は単独作用物質と比較される。この比較に基づいて、ブロック204で生物学的モデルを作成し又は修正することができる。この生物学的モデルは、表現型の変化に関与する生体系及び生体系間の関連伝達機構を定義することができる。例えば、ブロック204において、細胞の表現型の変化に関連する特定の細胞経路、タンパク質又は遺伝子を識別することができる。一実施形態では、 図1B−1および2に記載されたプロセッサが、さらに、細胞経路、タンパク質又は遺伝子が、識別された単独作用物質の混合物に関連した細胞の表現型の変化に関与する可能性を計算する第1のアプリケーションプログラムを含んでいる。細胞経路、タンパク質又は遺伝子は、抽出された科学情報を使用して決定される。図2では、生物学的モデルをコンピュータ実行可能モデルとすることができ、このコンピュータ実行可能モデルは、ブロック206において実行され、ブロック208において正確さがチェックされ、必要ならばブロック210において修正される。このモデルが正確であると判定されると、このモデルを使用することができる(ブロック212)。生体系のコンピュータ実行可能モデルの一例が、その内容の全体が参照によって本明細書に組み込まれる特許文献2に記載されている。このモデルは、計算、更新、比較及び視覚化をサポートすることができることが望ましい。
【0022】
図3は、作用物質の混合物(M)の生体系に対する作用に関して仮定された例示的な細胞経路を示す図である。作用物質の混合物(M)は、仮定の生物学的経路300及び302と相互作用することによって細胞に作用する。混合物(M)とこれらの経路の間の弧は、これらの経路に対する混合物(M)の可能な作用を表している。細胞に対する混合物(M)の全作用は、これらの2つの経路のうちの一方又は両方に対する混合物(M)の作用の組合せとして表現できると仮定する。本明細書で使用されるとき、細胞経路は、一般に、関係する細胞成分の集合と理解され、この集合のそれぞれの細胞成分は、ある生物学的機構に従って、この集合の他の1つ又は複数の細胞成分から影響を受ける。特定の細胞経路を構成する細胞成分は、細胞の生物学的状態の任意の態様、例えば、転写状態又は翻訳状態又は活性状態又は生物学的状態の混合態様から取り出すことができる。細胞経路の細胞成分は、mRNAレベル、タンパク質アバンダンス、タンパク質活性、タンパク質又は核酸修飾(例えば、リン酸化又はメチル化)の程度、これらのタイプの細胞成分の組合せなどを含むことができる。それぞれの細胞成分は、その集合の他の少なくとも1つの細胞成分から、ある生物学的機構によって影響を受ける。1つの細胞成分から他の細胞成分への影響は、それが直接であるか又は間接であるかにかかわらず、2つの細胞成分間の弧として表され、経路全体は、細胞成分を結んで経路にする弧のネットワークとして提示される。図3では、生物学的経路300が、タンパク質P1(例えば、P1のアバンダンス又は活性)及び遺伝子G1、G2及びG3(例えば、それらの転写されたmRNAレベル)を含んでいる。生物学的経路300は、さらに、P1からこれらの3つの遺伝子まで延びる弧として表された、タンパク質P1のこれらの3遺伝子に対する直接又は間接の影響を含んでいる。この影響は、例えば、タンパク質P1がこれらの遺伝子のプロモータに結合することができ、それらの転写産物のアバンダンスを増大させることができることによって生じる。図3には細胞経路302も示されている。この経路では、両方のタンパク質P2及びP3が(直接に)遺伝子Gに影響を及ぼす。遺伝子Gは(おそらく間接的に)遺伝子G4、G5及びG6に影響を及ぼす。
【0023】
関心のある経路、タンパク質又は遺伝子を確認するため、細胞の生物学的状態、例えば、転写状態、翻訳状態(translational state)又は活性状態の態様は、細胞の表現型の変化を引き出すと識別された単独作用物質の混合物の存在下で測定することができる( 図1B−1および2の枠122)。一実施形態では、識別された単独作用物質の混合物の存在下で細胞によって発現された遺伝子及び/又はタンパク質を識別することによって、細胞経路又は機構を識別することができる。他の実施形態では、識別された単独作用物質の混合物の存在下で活性化される細胞上のレセプタを識別することによって細胞経路又は機構を識別することができる。
【0024】
図4は、本発明の方法の実施に適した例示的なコンピュータシステムを示す図である。図示の実施形態ではコンピュータシステム400が、内部コンポーネントを含み、外部コンポーネントにリンクされているものとして示されている。内部コンポーネントには、メインメモリ404と相互接続したプロセッサ402が含まれる。一例ではコンピュータシステム400を、メインメモリ32Mb以上を有し、クロックレート200MHz以上のIntel Pentium(登録商標)ベースのプロセッサとすることができる。外部コンポーネントには、一般にプロセッサ及びメモリと一緒に実装される1つ又は複数のハードディスク406が含まれ得る。外部コンポーネントには、さらに、協力して実験データをコンピュータシステム400に伝えることを可能にするインターフェースボード405、マイクロウェルプレートリーダ407及びマイクロウェルアレイ409が含まれる。外部コンポーネントには、さらに、図4に示された10個の細胞外基質タンパク質(ECM)などの実験因子を、ユーザによって選択された統計的計画に従ってマイクロウェルアレイ409の容器(receptacle)に入れるロボットシステム411が含まれる。他の外部コンポーネントには、モニタ及びキーボードとすることができるユーザインターフェース装置408、及び「マウス」又は他のグラフィック入力装置(図示せず)とすることができるポインティングデバイス410が含まれる。一般にコンピュータシステム400は、さらにネットワークリンク412にリンクされ、ネットワークリンク412は、他のローカルコンピュータシステム、リモートコンピュータシステム又はインターネットへのEthernet(登録商標)リンクの一部とすることができる。このネットワークリンク412は、コンピュータシステム400が、他のコンピュータシステムとデータ及び処理タスクを共有することを可能にする。
【0025】
メモリ404には、当技術分野の標準ソフトウェアコンポーネントと本発明に特有のソフトウェアコンポーネントの両方がいくつかロードされる。これらのソフトウェアコンポーネントは協力して、コンピュータシステム400が本発明の方法に従って機能するようにする。これらのソフトウェアコンポーネントは一般にハードディスク406上に記憶される。ソフトウェアコンポーネント414は、コンピュータシステム400及びそのネットワーク相互接続の管理に責任を負うオペレーティングシステムを表す。適当なオペレーティングシステムの例はWindows(登録商標)98又はWindows(登録商標)NTである。ソフトウェアコンポーネント415は、マイクロウェルプレートリーダ407からの画像を解析するためのものである。ソフトウェアコンポーネント416は、システム400上に都合よく存在し、本発明に固有の方法を実現するプログラムを支援する、共通言語及び関数を表す。好ましい構成では、本発明の解析法のプログラミングに使用することができる言語がJava(登録商標)を含むが、C、C++、Fortran、Visual Basic又は他のコンピュータ言語を含んでもよい。本発明の方法は、使用されるアルゴリズムを含む式及び高位処理指定の記号入力を可能にし、それによって個々の式又はアルゴリズムを、手順を踏んでプログラムする必要性からユーザを解放する数学ソフトウェアパッケージでプログラムされることが最も好ましい。このようなパッケージには、Mathworks社(米マサチューセッツ州Natick)のMatlab、Wolfram Research社(米イリノイ州Champaign)のMathematica、Mathsoft社(米ワシントン州Seattle)のS−Plus、Mathsoft社(米マサチューセッツ州Cambridge)のMathCAD、又はR Foundation(www.r−project.org)の「R」が含まれる。したがって、ソフトウェアコンポーネント418は、手続き型言語又は記号パッケージでプログラムされた本発明の方法を表す。
【0026】
好ましい実施形態では、ソフトウェアコンポーネント418が実際に、図5に示すように互いに相互作用するいくつかのソフトウェアコンポーネントを含んでいる。
【0027】
図5は、本発明のシステムのコンポーネントの好ましい一実施形態を示す概略図である。ソフトウェアコンポーネント500はデータベースを表し、これは、コンピュータシステム400のオペレーションのために必要なデータを含む単一の統合又は連合データベースであることが好ましい。このようなデータには、統計的計画、統計的計画のコンピュータ表現、実験データ、アルゴリズム結果、具体的な試験作用物質の名称、試験作用物質の量及び/又は濃度、ならびに実験で使用されるウェル位置が含まれることが好ましい。ソフトウェアコンポーネント502はユーザインターフェース(UI)を表し、これは、Windows(登録商標)2000、X11などのオペレーティングシステムを表示するグラフィック法であるグラフィカルユーザインターフェース(GUI)であることが好ましい。ユーザインターフェース502は、統計的計画、具体的な作用物質、それらの濃度及び/又は量、ならびに任意選択の実験データに関する制御及び入力をコンピュータシステム400のユーザに提供する。ユーザインターフェースはさらに、ハードドライブ406、リムーバブルメディア(例えば、CD−ROM)、又はインターネットなどのネットワークを介してインスタントシステムと通信している別のコンピュータシステムから、実験データなどの情報をロードするための手段を含むことができる。ソフトウェアコンポーネント504は、コンピュータシステムの他のソフトウェアコンポーネントを制御するUIサーバと呼ぶことができる制御ソフトウェアを表す。ソフトウェアコンポーネント506は、本発明の解析方法を実行するアルゴリズムを含むデータ整理/計算コンポーネントを表す。コンポーネント506は、例えば、取得された実験データを統計的計画と比較して最良の混合物及び/又は最良の作用物質を識別するためのアルゴリズムを含むことができる。このデータをソフトウェアにインポートし、このデータに完全な注釈が付けられ、統計解析にすぐに使用できるように、統計的計画に自動的に関連付けることができる。コンポーネント506は、さらに、複数の実験にわたって混合物又は作用物質の性能を比較して傾向又はパターンを決定するアルゴリズムを含むことができ、この傾向又はパターンは、記憶し、所望ならば定期的に更新することができる。一実施形態ではソフトウェアコンポーネント506が線形回帰アルゴリズムを含んでいる。これは、統計的計画に使用されている作用物質ごとに係数が推定される方法である。
【0028】
ソフトウェアコンポーネント418は、さらに、統計的計画のコンピュータ表現を生成するためのソフトウェアコンポーネント508、及びロボットシステムが、データベース500に記憶された統計的計画に基づいてアレイ409のウェルに作用物質を正確に入れるためのソフトウェアコンポーネント510を含んでいる。例えば、ユーザは、Biomek FX、Biomek 2000、Tecan Genesisなどのロボット試料調製プラットホームにインポートすることができるコンピュータファイルを生成するオプションを、ユーザインターフェース502を介して選択することができる。これらのコンピュータファイルを使用して、マイクロウェルアレイ上の適切な実験条件を自動的に準備し、細胞を培養し、流体分配、流体回収又は洗浄ステップを実行して、表現型の検定を実行することができる。
【0029】
実験が実施されている実際の実験室から遠く離れた顧客位置から本発明の方法を実施することができることは、本発明の技術的範囲に十分に含まれることに留意されたい。これは、ウェブベースのインターフェースを含み、又はシッククライアント(thick−client)ソフトウェアアプリケーションの顧客への配布を含むことができる。実験室と顧客の間の対話のレベルは様々であることができる。例えば、顧客はプロセスを完全に制御することできる。あるいは顧客は、最適な作用物質混合物を得る際の進捗に関する定期報告だけを実験室から受け取る。
【0030】
本発明の自動化方法の一実施形態では、単独作用物質の混合物が、容器表面、容器の中に含まれるスカフォルドの表面などの培養表面上の作用物質の固定材に共有結合によって固定される。単独作用物質の混合物を培養表面に受動的に吸着させることができることも本発明の技術的範囲に十分に含まれる。さらに、混合物中の単独作用物質の一部又は全部が溶解状態にあることもできる。
【0031】
図6(a),(b)は、本発明に係る試験ウェルの一実施形態を示す概略図である。本発明によれば容器10がアレイ(図示せず)として提供される。容器10は表面12を含み、この表面は前処理することができる。作用物質の固定材16を付着させることができる高アミン表面14を生み出すため、一実施形態では表面12がアミノ−プラズマ処理される。後述するように、作用物質の固定材16は、アミノ化された表面14に結合された生物適合性ポリマーであることが好ましい。図示の実施形態では、単独作用物質20、例えば、20a〜dの混合物18が、共有結合によって作用物質の固定材16に固定されている。しかし、試験作用物質の一部又は全部が培養表面には結合しておらず溶解状態で存在することも、本発明の技術的範囲に十分に含まれる。前述のとおり、試験に適した作用物質には、成長因子、細胞外基質分子、ペプチド、ホルモン及びサイトカインが含まれる。ただし、これらに限定されるわけではない。さらに、小分子、金属、キレート剤又は酵素を作用物質としてウェルに加えることができる。単独作用物質20の様々な混合物18が、後述する統計的計画に従って容器10に入れられる。図6(a),(b)に示すように、容器10aの中の作用物質20a〜20dの組成は、単独作用物質20e〜hを含む第2の容器10bの中の組成とは異なる。しかし、2つ以上の容器が同じ作用物質を含むことができることに留意されたい。例えば、所与の作用物質が、他の作用物質のある組合せによって取り囲まれたときには所望の細胞運命の達成に対して肯定的な効果を有し、この同じ作用物質が、作用物質の別の組合せによって取り囲まれたときには所望の細胞運命の達成に対して中立の効果を有し又は効果をまったく持たないことは、本発明の技術的範囲に十分に含まれる。したがって、これらの効果を評価するため、他の作用物質との様々な組成で作用物質を提供することが有益であろう。図6を再び参照すると、統計的計画に従って作用物質20を異なる混合物として様々な容器10に入れた後、これらの混合物18を完全な細胞22と接触させる。作用物質20は細胞22に結合し、接触した細胞内に所望の生物学的反応を生み出す能力を有する。所与の作用物質の混合物又はこの混合物内の単独作用物質がその細胞タイプ内に所望の反応を引き出す効果に関する判定は、取得された実験データに基づいて確認される。前記データは、免疫細胞化学分析、顕微鏡法又はファンクショナルアッセイ(functional assay)を含む方法を使用して取得することができる。ただし、方法はこれらに限定されるわけではない。
【0032】
次に、図7乃至図9を参照して統計的計画の各実施態様について詳細に説明する。
図7は、異なる単独作用物質の混合物を含む96ウェルプレートレイアウトの概略図である。図示の実施形態ではこのレイアウトが統計的計画を使用して作成され、統計的計画では、計画中の総称因子が単独作用物質を表し、これらが組み合わされて様々な混合物が形成される。図8(a),(b)は、本発明の方法の統計的計画を作成する際に使用することができる1つのシナリオの概略図である。図9(a),(b)は、本発明の方法の統計的計画を作成する際に使用することができる他のシナリオの概略図である。
【0033】
図7を参照すると、行A〜H及び列1〜12からなる96ウェルプレートなどのマイクロウェルアレイ24に対応する複数の容器10が示されている。図7に示すように、図6(a),(b)の単独作用物質20又は混合物18の識別が総称因子名によって表されることは本発明の一実施態様である。因子は実験の変量である。
【0034】
例えば、図7に示した実施形態では、総称因子1〜10が、囲み28の中に示された10個の単独細胞外基質タンパク質を表す。この例では、総称因子1がコラーゲンI、総称因子2がコラーゲンIIIであり、以下同様である。これらの各因子を1つ又は複数の他の因子と組み合わせて、このプレートレイアウト用の混合物を生成することができる。
【0035】
次に、図7に示した実施形態を参照して図8(a),(b)及び図9(a),(b)について説明する。これらの図ではそれぞれの総称因子1〜10が、所与の濃度又は量(すなわち、因子レベル)の単独作用物質に対応する。
【0036】
図8(a),(b)に概略的に示されているように、容器10内の流体体積全体が10の等容積区画32に分割されるシナリオが提示される。96ウェルプレートのウェルはそれぞれ、10の因子(例えば、単独作用物質)をすべて含み、又はこれらの因子の部分集合を含むことができる。図8(a)に示すように、ケース1では、10の因子がすべて存在し、10の因子すべてが流体区画32を占める。図8(a)に示されたウェル10の全体因子濃度は[10/10]=[1]である。これは、[1]/ウェルの全体因子濃度を提供する。図8(b)は、例えば、同じ96ウェルプレート上の別のウェルを表す。この状況(ケース2)では、10の因子のうち5つの因子しか存在しない。この場合も流体体積は10の等しい区画32に分割される。ケース2では、因子が存在するとき、流体区画はその因子で満たされる。しかし、ケース2では、10の容積区画のうちの5つが因子で満たされておらず、それらは培養基などの「プレースホルダ(place holder)」で満たされている。図8(b)のケース2では、全体因子濃度が[0.5]である。したがって、図8(b)に示したウェルの全体因子濃度は[0.5]因子/ウェルである。ケース1の全体因子濃度とケース2の全体因子濃度は異なる。したがって、それぞれの容器内の作用物質の全体濃度は異なることができる。さらに、ケース1とケース2では、ともに単一の因子の濃度がウェル間で同じである。例えば、単一のコラーゲンIリガンドを表すことができる因子1の濃度は、ケースIのウェルとケース2のウェルで同じである。
【0037】
次に、図9(a),(b)を参照すると、表面化学要件に特定の考慮が与えられた別のシナリオが提示されている。具体的にはこのシナリオでは、全体因子密度がウェル間で一定に保たれ、ウェル間で因子組成だけを変更することができる。言い換えると、ウェル間で因子の濃度は異なっていてもよいが、それぞれのウェルは全体として固定された同じ量の因子を有する。図9(a),(b)に示すように、所与のウェル内に存在する流体体積全体は存在する因子の数に基づいて分割される。この場合も、簡単にするために1つの因子が1つの単独作用物質に対応すると仮定することができるが、本発明はこの状況に限定されない。図9(a)に示すように、10の因子がすべて存在し、全体因子濃度は[10/10]=[1]であり、1ウェルあたりの全体因子濃度は[1]である。図9(b)では、10の因子のうち5つだけが存在するが、これらの5つのそれぞれの因子の流体体積32は、図9(a)に示したそれぞれの因子の容積32の2倍である。その結果、図9(b)に示した全体因子濃度は、図9Aに示した全体因子濃度と同じであり、1ウェルあたりの全体因子濃度は[1]である。したがって、望ましい一実施形態では、それぞれの容器の中の作用物質の全体濃度が同じである。図9(a),(b)に基づくと、全体因子濃度は、図9(b)に示したウェルと図9(a)に示したウェルとの間で一定だが、単一の因子の濃度はこれらのウェル間で異なることができることが理解される。具体的には、コラーゲンIを表すことができる因子1に関して、図9(b)の中のこの単独作用物質の濃度は、図9(a)に示したそれの2倍になろう。したがって、本発明の他の実施形態では、個々の作用物質の濃度が容器間で異なる。
【0038】
図8(a),(b)及び図9(a),(b)に示したシナリオはそれぞれ実行可能であり、これらを、単独作用物質の混合物のスクリーニングに使用することができることに留意されたい。
【0039】
本発明は、マイクロウェルアレイなどのフォーマットを使用して、複数の異なる作用物質の混合物を、所与の細胞タイプに結合しその細胞の中で望ましい反応を引き出す能力に関して同時にクリーニングする方法を提供する。この方法は、多ウェルプレートの選択されたウェルの中に統計的計画に従って異なる作用物質の混合物を入れることを含んでいる。この方法は任意選択で、それ以外のウェルに単独作用物質を入れるステップを含んでいる。この方法は、さらに、細胞タイプを含む流体試料をウェルに送達することを含んでいる。これらの様々なウェルの中の細胞と試料の間の適当なインキュベーション時間の後に、細胞とウェル成分の間の相互作用の形跡を直接又は間接に検出することができる。例えば、ファンクショナルアッセイ、免疫細胞化学又は顕微鏡法を使用してデータを取得することができる。
【0040】
本発明とともに使用される適当な統計的計画には以下のものが含まれる:一部要因計画(fractional factorial design)、D−最適計画(D−optial design)、混合物計画(mixture design)及びプラケット−バーマン計画(Plackett−Burman design)。ただし、これらに限定されるわけではない。統計的計画は、カバレージ基準に基づく空間充填計画(space−filling design)、格子計画(lattice design)又はラテン方格計画(latin square design)とすることもできる。
【0041】
上述したとおり、作用物質は培養表面(例えば、容器表面又はスカフォルド表面)に結合された状態、又は溶解状態で存在することができる。例えば、一実施形態では、培養表面が作用物質の固定材でコーティングされる。培養表面は前処理されていてもよい。作用物質の固定材は、細胞接着は支援しないが、培養表面と作用物質の間の柔軟な結合(テザー(tether))として機能することができる生物適合性ポリマーであることが望ましい。適当なポリマーの例には、ポリエチレンオキシド(PEO)、ポリビニルアルコール、ポリヒドロキシルエチルメタクリレート、ポリアクリルアミドのような合成ポリマー、ならびにヒアルロン酸及びアルゲン酸などの天然ポリマーが含まれる。
【0042】
望ましい実施形態では、培養表面(例えば、ウェル表面)が以下のものから選択される:ポリスチレン、ポリエチレンビニルアセテート、ポリプロピレン、ポリメタクリレート、ポリアクリレート、ポリエチレン、ポリエチレンオキシド、ガラス、ポリシリケート、ポリカーボネート、ポリテトラフルオロエチレン、フルオロカーボン及びナイロン。ただし、これらに限定されるわけではない。培養基板が、ポリアンヒドリド、ポリグリコール酸、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリ乳酸−グリコール酸共重合体などのポリヒドロキシ酸、ポリオルトエステル、ポリヒドロキシブチレート、ポリホスファゼン、ポリプロピルフムレート、生物分解性ポリウレタンなどの生物分解性材料を完全に又は部分的に含むことができることも本発明の技術的範囲に十分に含まれる。
【0043】
培養表面は前処理することができる。例えば、アンモニア環境でのポリマーのプラズマ放電処理によって第一級アミンを有する細胞培養表面を調製することができる。一実施形態では、その内容の全体が参照によって本明細書に組み込まれる、同一所有権者の同時係属出願で2002年9月30日出願の特許文献1に記載されているように、標準固定化ケミストリを使用して、これらのアミノ化された表面に作用物質の固定材を共有結合によって付着させることができる。処理された組織培養ポリスチレンを生み出す商業的に使用される2つのプロセスは、いずれも当技術分野でよく知られている大気プラズマ処理(コロナ放電としても知られている)及び真空プラズマ処理である。プラズマは、ガス状イオンとフリーラジカルの非常に反応性の高い混合物である。アミノ−プラズマ処理又は酸素/窒素プラズマ処理を使用して高アミン表面を生み出すことができ、この高アミン表面には、特許文献1に記載されたカルボジイミド生物共役(bioconjugate)ケミストリを使用して、ヒアルロン酸(HA)、アルゲン酸(AA)などの生物適合性ポリマーを、カルボキシル基を介して結合させることができる。その結果得られる表面は、細胞培養基中に高濃度の血清タンパク、例えば、濃度10〜20%の血清タンパクが存在しても細胞の付着を許さない。作用物質の固定材を介して作用物質を共有結合させるのに使用することができる前処理された組織培養ポリスチレン製品の例は、ポリスチレンの酸素−窒素プラズマ処理を使用して生み出され、酸素及び窒素を含むアミノ基、アミド基などの官能基が取り込まれたPRIMARIA(登録商標)組織培養製品(Becton Dickinson Labware)である。
【0044】
続いて、細胞外基質タンパク質、ペプチドなどの作用物質を前述のHA又はAA表面に共有結合させることができ、これには、タンパク質/ペプチド上のアミン基と、HA又はAA上のカルボキシル基あるいは例えば過ヨウ素酸ナトリウムを使用した酸化によってHA又はAA上に生み出されたアルデヒド基とを利用することができる。
【0045】
例えば、ヒトの胎盤のヒアルロン酸の末端の糖は、参照によって本明細書に組み込まれる非特許文献1に記載された過ヨウ素酸法によって活性化することができる。この手法は、過ヨウ素酸ナトリウム又は過ヨウ素酸カリウムをヒアルロン酸溶液に加え、それによって末端の糖を活性化することを含み、この末端の糖は、作用物質の遊離アミノ基、例えば細胞外基質タンパク質の末端アミノ基に化学的に架橋することができる。好ましい他の実施形態では、カルボジイミドを架橋剤として使用して、生物適合性ポリマー(例えば、HA又はAA)の遊離カルボキシル基を、作用物質の遊離アミノ基に化学的に架橋させることができる。他の標準固定化ケミストリは当業者に知られており、それらを使用して、培養表面を生物適合性ポリマーに接合し、生物適合性ポリマーを作用物質に接合することができる。例えば、非特許文献2又は2002年9月30日出願の特許文献1を参照されたい。
【0046】
生物適合性ポリマーを介して作用物質をアミノ化された組織培養表面に結びつけ、又は生物適合性ポリマーを介して作用物質を、標準固定化ケミストリを使用してカルボキシ化された表面又はヒドロキシル化された表面に結びつけることができることに留意されたい。付着作用物質の例は、臭化物、スクシンイミド、アルデヒド、トシルクロリド、アビジン−ビオチン、光架橋剤、エポキシド及びマレイミドである。繰返しになるが、作用物質は溶解状態で存在することができ、培養表面に結合されている必要はないことに留意されたい。
【0047】
上述したとおり、培養表面に結合されて、又は溶解状態で存在することができる作用物質の混合物が選択された容器の中に含まれることは本発明の一実施態様である。また、それ以外の容器が単独作用物質を含んでもよいことも本発明の実施態様である。これらの作用物質は望ましい割合で組み合わせることができる。容器の中に存在する異なる作用物質の相対量は、例えば、容器に分配される組成物中の作用物質の濃度によって制御することができる。さらに、作用物質が生物適合性ポリマーを介して容器表面に共有結合によって付着される実施形態では、培養表面に結合された生物適合性ポリマーの容量を調整することによって装填密度を制御することができる。これは例えば、作用物質と反応することができるポリマー上の反応基の数を制御することによって、又は培養表面の生物適合性ポリマー分子の密度を制御することによって達成することができる。さらに、最初に作用物質を別々に生物適合性ポリマー(テザー)に結合させ、次いで、この「装填された」テザーを望ましい割合で混合し、前処理された基板に付着させることもできる。
【0048】
上述したとおり、作用物質は溶解状態にあり、かつ/又は表面に結合されていることができる。例えば、作用物質は、高アミン表面であることが好ましい前処理された組織培養表面に生物適合性ポリマーを介して共有結合によって固定することができる。作用物質はあるいは、作用物質を表面に受動吸着させることによって容器表面に固定することもできる。作用物質がビーズなどの固体担体上に予め固定されており、次いで、これらのビーズを容器に加えることができることも本発明の技術的範囲に十分に含まれる。続いて、容器の中のビーズと接触した細胞タイプの反応を検出することができる。単独作用物質を含むビーズの混合物を組み合わせて、作用物質の混合物を形成することができる。あるいは、単独作用物質の混合物をビーズに固定することもできる。
【0049】
作用物質をスカフォルド上に固定し、又はスカフォルド内に含浸させ、このスカフォルドを容器に入れ、次いで、細胞を含む流体と接触させることができることは本発明の技術的範囲に十分に含まれる。本発明で使用される適当なスカフォルド、及び作用物質をスカフォルドに固定し又はスカフォルドの内部に固定するための方法が、その内容の全体が参照によって本明細書に組み込まれる、同一所有権者の同時係属出願で2002年9月30日出願の特許文献3に記載されている。
【0050】
本発明で使用される容器は通常の任意の形態をとることができるが、マイクロウェル又は管であることが好ましい。マイクロタイターウェル、管などの構成は、本発明において特に有用であり、多数の試料の自動同時検定を効率的に都合よく実行することを可能にする。自動ピペッタ及びプレートリーダが使用可能なため、マイクロタイターウェルは広範囲にわたる自動化が可能である。他の固相、特に他のプラスチック固体担体を使用することもできる。
【0051】
本発明の好ましい一実施形態では、容器が、96ウェルマイクロタイタープレート(すなわち、マイクロウェルアレイ)のウェルを含んでいる。マイクロタイタープレート用の(試薬添加及び洗浄ステップのための)自動ピペッティング装置及び色リーダはすでに存在する。本発明を実施するための自動化された装置の一例は、ピペッティングステーション及び検出装置(例えば、プレートリーダ)を含むことができ、このピペッティングステーションは、サーモスタット環境(すなわち温度制御環境)において特定の時点に試薬をウェルに加え、試薬を除去する順次操作を実行する能力を有する。
【0052】
上述したとおり、本発明で使用される作用物質は、細胞表面のレセプタに結合し、あるいはイオンチャネル又はイオン輸送によって取り込まれ、標的細胞又は組織の成長、複製又は分化を調節する成長エフェクタ分子である。一実施形態では、これらの作用物質が細胞接着リガンド及び/又は外因子である。望ましい実施形態では作用物質を、細胞外基質タンパク質、細胞外基質タンパク質断片、ペプチド、成長因子、サイトカイン及びこれらの組合せとすることができる。
【0053】
好ましい作用物質は、成長因子、細胞外基質分子、サイトカイン、ペプチド、ホルモン、金属、キレート剤又は酵素である。成長因子の例には、脈管内皮由来成長因子(VEGF)、上皮成長因子(EGF)、血小板由来成長因子(PDGF)、トランスホーミング増殖因子(TGFα、TGFβ)、肝細胞成長因子、ヘパリン結合因子、インスリン様成長因子I又はII、線維芽細胞成長因子、エリトロポイエチン神経成長因子、骨形態形成タンパク質、筋形態形成タンパク質及び当業者に知られている他の因子が含まれる。ただし、これらに限定されるわけではない。他の適当な成長因子は、例えば、非特許文献3に記載されている。
【0054】
成長因子は、当技術分野では知られている方法を使用して組織から分離することができる。例えば、成長因子は組織から分離し、又は組換え手段によって生成することができる。例えば、EGFはマウスの顎下腺から分離することができ、Genentech社(米カリフォルニア州South San Franxisco)はTGF−βを組換えによって生成している。他の成長因子も、Sigma Chemical Co.(米ミズーリ州St.Louis)、R&D Systems(米ミネソタ州Minneapolis)、BD Biosciences(米カリフォルニア州San Jose)及びInvitrogen Corpotation(米カリフォルニア州Carlsbad)などの販売会社から、天然体と組換え体の両方の形態で入手可能である。
【0055】
本発明で使用される適当な細胞外基質分子の例には、ビトロネクチン、テネイシン、トロンボスポンジン、フィブロネクチン、ラミニン、コラーゲン及びプロテオグリカンが含まれる。他の細胞外基質分子は非特許文献4に記載されており、又は当業者に知られている。
【0056】
本発明において有用な追加の作用物質には、インターロイキン、GMコロニー刺激因子などのサイトカイン及びインスリンなどのホルモンが含まれる。これらは文献に記載されており、市販されている。
【0057】
本発明とともに使用される細胞は、作用物質に潜在的に反応することができ、又は成長のためにその作用物質を必要とする任意の細胞であり得る。例えば、細胞は、株化細胞系統から得ることができ、又は分離された組織から分離することができる。適当な細胞には、ほとんどの上皮及び内皮細胞タイプ、例えば、肝細胞などの実質細胞、ランゲルハンス島細胞、線維芽細胞、軟骨細胞、骨芽細胞、外分泌細胞、腸管起源の細胞、胆管細胞、副甲状腺細胞、甲状腺細胞、副腎−視床下部下垂体アクセス(adrenal−hypothalamic−pituitary access)の細胞、心筋細胞、腎臓上皮細胞、腎臓尿細管細胞、腎臓基底膜細胞、神経細胞、血管細胞、ならびに骨及び軟骨、平滑筋及び骨格筋を形成する細胞が含まれる。他の有用な細胞には、選択された作用物質混合物に反応して表現型の変化を受けることができる幹細胞が含まれ得る。他の適当な細胞には、血球、臍帯血由来細胞、臍帯血由来幹細胞、臍帯血由来始原細胞、臍帯由来細胞、胎盤由来細胞、骨髄由来細胞及び羊水由来の細胞が含まれる。これらの細胞は遺伝子操作することができる。細胞は、96ウェルマイクロタイタープレートのウェルなどの容器の中で、作用物質とともに培養される。これらの細胞は、非特許文献5に記載されている技術など、よく知られている多数の細胞培養法のいずれかを使用して培養することができる。他の細胞培養基及び細胞培養法は当業者によく知られており、それらを本発明で使用することができる。細胞は、溶解状態の作用物質又はマイクロタイタープレートなどの標準組織培養容器に結合された作用物質の存在下で培養することができる。直径の長さが10ミクロン程度であることが好ましいビーズ又は繊維に結びつけられた作用物質を使用して、懸濁液中で細胞を培養することができることも本発明の技術的範囲に十分に含まれる。培養基に加えられると、これらの粒子は細胞に付着し、それによって細胞の成長を刺激し、付着信号を発すると考えられる。
【0058】
次に、本発明に従って統計的に計画された実験について以下に説明する。
【実施例1】
【0059】
<高アミン組織培養表面へのヒアルロン酸の結合>
Becton Dickinson Labware社は、酸素/窒素プラズマを使用してPRIMARIA(登録商標)組織培養製品を生み出す。具体的には、ポリスチレン製品の酸素/窒素プラズマ処理によって、酸素及び窒素を含むアミノ基、アミド基などの官能基を取り込む。この実験では、非特許文献2又は同一所有権者の同時係属出願で2002年9月30日出願の特許文献1に記載されているものなどの当技術分野でよく知られているカルボジイミド生物共役ケミストリを使用して、PRIMARIA(登録商標)多ウェルプレート上の高アミン表面にHAのカルボキシル基を介してHAを結合させた。
【実施例2】
【0060】
<ヒアルロン酸へのECMタンパク質の結合>
培養表面に結びつけられた実施例1のHAポリマーにECM作用物質を共有結合によって付着させた。具体的には、非特許文献1に記載された過ヨウ素酸法を使用した酸化によって、HA上にアルデヒド基を生成させた。この手法は、HA溶液に過ヨウ素酸ナトリウムを加え、それによって末端の糖を活性化することを含む。続いてこの活性化されたHAを、非特許文献2又は2002年9月30日出願の特許文献1に記載されているものなどの標準固定化ケミストリを使用してECMタンパク質のアミン基に結合させた。
【実施例3】
【0061】
<統計的に計画された実験(混合物計画)を使用した異なる10種類のECMタンパク質の同時スクリーニング>
この実施例では統計的計画が混合物計画である。この計画を使用して、細胞反応に対して肯定的な効果を有する因子対又は単独因子を識別した。この計画は、2つのECM間の相互作用を見ることを可能にする。この実施例では、それぞれが単一の「因子」を表す10種類の単独ECMを使用して、図7に示した96ウェルプレートのウェルの中に入れるECM混合物を生成する。ECMは、培養表面の生物適合性ポリマーに共有結合によって付着する(実施例1及び2参照)。この実験のための統計的計画がなければ、所与の1つの細胞タイプについてこれらの10種類のECMをそれぞれ試験するのに、210(1024)個の単独実験すなわち11枚の96ウェルプレートが必要となることに留意されたい。
【0062】
この実施例では、10種類の接着リガンドからなる1つのグループを選択し、このスクリーニングのためのフォーマットとして96ウェルアレイを選択した。不均一な蒸発に起因する周辺効果を排除するため、この実験では96ウェルアレイの内側の60個のウェルだけが使用される。したがって、プレートの外側の行及び列のウェルは、適当な対照のために使用することができる。
【0063】
細胞培養試薬として一般的使用されていること、市販されていること、及び価格に基づいて、以下の10種類の接着リガンドが選択された:コラーゲンI(CI)、コラーゲンIII(CIII)、コラーゲンIV(CIV)、コラーゲンVI(CVI)、エラスチン(ELA)、フィブロネクチン(FN)、ビトロネクチン(VN)、ラミニン(LAM)、ポリリジン(PL)及びポリオルニチン(PO)。
【0064】
表面化学要件に対する特定の考慮を有する統計的計画を作成した。具体的にはこの実験では、全体の接着リガンド密度がウェル間で一定に保たれ、接着リガンド組成だけを変更することができる図9に示したシナリオを使用した。言い換えると、単一の接着リガンドの濃度はウェル間で異なってもよいが、それぞれのウェルは全体として固定された同じ量の接着リガンドを有する。このシナリオは以前に詳細に説明した。このような計画の一例が、図10のスプレッドシートに示されている。
【0065】
図10(図10a乃至図10d)は、混合物計画のコンピュータ表現であるスプレッドシートを示す図である。図示のレイアウトは96ウェルプレートのものであり、このレイアウトは、ウェル内の全体流体体積が存在する因子の数に基づいて分割される図9のシナリオを使用して作成されたものである。
【0066】
このスプレッドシートは、データベースに記憶された計画のコンピュータ表現の役目を果たす。図10の1番上の行には、この特定のスクリーニングで使用される10種類の因子(A〜K)及びそれらの対応する識別が記入されている。図示のスプレッドシートでは、因子Aがフィブロネクチンを表し、因子BがコラーゲンIを表す。以下同様である。第1列は、96ウェルプレート中のウェル、例えばこのケースでは52個のウェルに変換される実験点のリストである。スプレッドシートの中の数字は因子レベルである。この実施例では、これらのレベルが、特定のウェルに加えられる因子の実際の体積(μl;マイクロリットル)である。この特定の計画では、因子が3段階の体積でウェルに加えられ、例えば、5μl、25μl又は50μlの因子が加えられる。この場合のウェル全体の体積は50μlである。したがって、1つの因子が50μl加えられたウェルでは、最終的なウェル組成物が、ウェル表面に共有結合によって固定された単一の接着リガンドを含んでいる。したがって、ウェルにある因子25μlが加えられた場合、第2の因子も25μl加えられ、最終的なウェル組成物は、ウェル表面に共有結合によって固定された2種類の異なる細胞接着リガンドからなる混合物を含んでいる。ある1つの因子が5μl加えられたときには、他の9つの因子はそれぞれ同様に5μl加えられ、したがって、10種類のすべての細胞接着リガンドからなる混合物をウェル表面に含むウェルが得られる。10種類のすべての接着リガンドを含むこれらの実験点は「中点(mid point)」と呼ばれ、この実施例の統計的計画の不可欠の部分である。
【0067】
図11は、図10のスプレッドシートの統計的計画に基づいて作成された96ウェルプレートレイアウトを示す図である。図11を参照すると、図10に示した特定の統計的計画から変換された96ウェルプレートレイアウトが示されている。具体的にはこの96ウェルプレートは、それぞれのウェルの底に固定された図10に示されたウェル組成物、例えば、細胞接着リガンドの組合せを含んでいる。具体的には、図10の実験ランは、図11の行/列に以下のように対応する:図10の計画のラン1〜10は、それぞれ図11のアレイ上の行Bの列2〜11を表し、ラン11〜20は行Cの列2〜11を表し、ラン21〜30は行Dの列2〜11を表し、ラン31〜40は行Eの列2〜11を表し、ラン41〜50は行Fの列2〜11を表し、ラン51及び52は行Gの列2及び3を表す。図10の統計的計画及び図11の対応する96ウェルプレートレイアウトによって示されているとおり、作用物質の混合物の他に、単独作用物質を容器に入れることができることは本発明の一実施形態である。
【実施例4】
【0068】
<MC3T3−E1骨芽細胞に特異的なECMのスクリーニング>
MC3T3−E1細胞は、デューク大学(Duke UniversityのL.D.Quarles博士によって分離され、米ノースカロライナ州Chapel Hillのノースカロライナ大学(University of North Carlina)のGale Lester博士のご好意で提供いただいたものである。この細胞を、標準細胞培養法を使用して成長させた。MC3T3−E1はよく特徴付けされた、急速に成長する骨芽細胞系統であり、これを選択したのは、最も一般的に使用されている組織培養表面に攻撃的に付着するためである。
【0069】
トリプシン−EDTAを使用し、当技術分野でよく知られている方法に従って、細胞培養フラスコから細胞を取り出した。細胞を計数し、遠心処理し、血清を含まない培養基あるいはウシ胎仔血清を10%含む培養基に再懸濁させた。図11に示し先の実施例3で説明したレイアウトに従って細胞を96ウェルマイクロアレイのウェルに平板培養した。接種密度は約10,000細胞/ウェルであった。プレート上の細胞は37℃で一晩インキュベートした。次の日、培養基及びウェル表面の固定された作用物質に接着していない細胞を除去した。接着した細胞は、ホルマリンに少なくとも15分間暴露することによって固定した。プロピジウムヨーダイトを使用して、前記固定された接着細胞の核を蛍光標識した。蛍光顕微鏡(Discovery−1、Universal Imaging Corporation社、Molecular Devices社の子会社、米ペンシルバニア州Downingtown)を使用して、ECMスクリーニングプレート中のウェルに付着した蛍光標識された細胞の画像を取得した。96ウェルプレートから取得された画像の一例を図12に示す。
【0070】
図12は、図11に示されたレイアウトを有する96ウェルプレートのウェルに付着させた蛍光標識された細胞の蛍光顕微鏡像を示す図である。具体的にはこのレイアウトは、行Gの列4〜11が対照ウェルとして使用されている以外は、図11に示したそれと同じである。図12では、ウシ胎仔血清を10%含む培養基中のMC3T3−E1細胞を、ヒアルロン酸表面に結びつけられた作用物質の混合物を含むウェル(ただしウェルG4〜G9はヒアルロン酸表面だけを含み、ウェルG10及びG11は組織培養等級のポリスチレンだけを含む)に入れた。予想どおり、ウェルG4〜G9のヒアルロン酸表面だけが細胞接着を妨げた。ウェルG10及びG11のポリスチレン表面への細胞接着はこの例では意外にも低かった。対照的に、それぞれが接着した細胞の核を表す多数の白斑から分かるように、細胞接着リガンドを含むいくつかのウェルは強い細胞接着を示した。
【0071】
画像解析ソフトウェアパッケージ(Meta Morph、Universal Imaging Corporation社、Molecular Devices社の子会社、米ペンシルバニア州Downingtown)を使用して図12の蛍光標識された細胞核を数えた。ウシ胎仔血清を含まない培養基中の細胞とウシ胎仔血清を10%含む培養基中の細胞の両方の核計数結果を図13に示す。
【0072】
図13は、図12の顕微鏡像の解析の結果得られたウェル番号に対する核数のグラフを示す図である。図13のウェル1〜10は、図12の行Bの列2〜11に対応し、図13のウェル11〜20は、図12の行Cの列2〜11に対応する。以下同様である。
【0073】
図13では、10%ウシ胎仔血清の存在下で、いくつかのウェルで細胞接着が観察された。血清がない場合、細胞接着は低減されたが、いくつかのウェルで依然として観察された。両方のケースで、統計的に計画された実験に従って細胞接着リガンドを含むいくつかのウェルの細胞接着は、組織培養等級のプレーンなポリスチレン上で培養された細胞のそれを上回った(図13のウェル59及び60)。この得られた結果から、最も一般的に使用されている細胞培養担体である組織培養等級のポリスチレンよりも良好にMC3T3−El接着をサポートするいくつかの表面が識別できた。
【0074】
表面を最適化するため、2つの手がかり、例えば、「最良のウェル」組成又は「最良の因子」に従うことができる。「最良の因子」の決定は実験結果の厳格な統計解析後になされる。
【0075】
「最良のウェル」法では、最良の実験結果を有するウェルが選択されて、追加の最適化が実施される。図13に示した例では、細胞核数が最も多いウェル40(すなわちウェルE11)が選択される。図11に示したプレートレイアウトによれば、このウェルは、コラーゲンVI型とコラーゲンIII型の混合物を含んでいる。ECMスクリーニングプレート調製の固定化ステップに対して選択されたコラーゲンVI型とコラーゲンIII型の濃度は、MC3T3−E1細胞を用い、モデルECMであるフィブロネクチンを使用した初期の濃度依存調査に基づくものである。調査対象の1つの細胞タイプに対して最適である濃度が他の細胞タイプに対しては最適ではないかもしれないことに留意されたい。また、所与の細胞タイプに対して最適である特定のECMの濃度は、同じ細胞タイプが使用されたとしても、他のECMに対する最適の濃度ではないかもしれない。同様に、「ヒットウェル(hit well)」中の混合物の組成は最適でないかもしれない。例えば、「最良のウェル」であったウェルE11の表面は、コラーゲンVI型とコラーゲンIII型の50/50混合物を含んでいた。フォローアップ実験を実行して、固定化ステップに対して選択される両方のリガンドの濃度を最適化し、所与の細胞タイプに対する「ヒット」ウェルの表面に結合された混合物の組成(50/50混合物は最適の組成でないかもしれない)を最適化することができる。
【0076】
「最良の因子」法では、統計モデルを使用して実験結果が解析される。前述の実施例に関しては、MC3T3−E1データの混合物モデル解析によれば、コラーゲンIV、ラミニン及びポリ−L−リジン(効果は限定的)は、血清がない場合、それらがかなりの量存在するときに、図14に示すように、細胞数を増大させるようである。
【0077】
図14は、図9乃至図13からの情報の混合物モデル解析を使用して得られた基準ブレンドからの偏差に対するLn(細胞数(血清なし)+1)のグラフを示す図である。すべての線が交差する点は、10種類のすべてのECMが5μlずつ存在する中点に対応する。このグラフは、ウェル組成がこの基準「中点」ブレンドからどのくらい離れているかに応じて、細胞数がどのように変化するかを指示している。見て分かるとおり、コラーゲンIV又はラミニンの量が増大するにつれて細胞数は増大している。
【0078】
図15は、図9乃至図13からの情報の混合物モデル解析を使用して得られた基準ブレンドからの偏差に対するLn(細胞数(10%血清)+1)のグラフを示す図である。図15を参照すると、血清が10%存在する場合には、図14では見られたポリ−L−リジンの効果が低下し、コラーゲンIV及びラミニンだけが細胞数に対する肯定的な効果を示し続ける。
【0079】
「最良のウェル」法と「最良の因子」法の両方が有効であるが、それぞれの方法が異なる表面組成を選択することがありうることに留意されたい。この実施例では、「最良のウェル」方法は、コラーゲンVI型及びコラーゲンIII型を含む表面を選択し、「最良の因子」法はコラーゲンVI及びラミニンを含む表面を選択する。
【実施例5】
【0080】
<統計的に計画された実験(プラケット−バーマン計画)を使用した異なる30種類の作用物質のスクリーニング>
<計画>
この実施例は、SAS Institute(米ノースカロライナ州Cary)の市販ソフトウェアパッケージJMP(商標)を使用して生成された図16(a〜d)に示すプラケット−バーマン(PB)計画を説明する。
【0081】
図16A(図16A−1,図16A−2)乃至図16D(図16D−1,図16D−2)は、96ウェルプレートレイアウト用のプラケット−バーマン統計的計画を示すスプレッドシートを示す図である。具体的には、このスクリーニング計画は、SAS/JMP V 4.0.5のカスタム計画機能を使用して生成された。このソフトウェアパッケージはGUI指向のパッケージであり、したがって、示すべきコードはない。図16A−1および2を参照すると、最初の列は、96ウェルプレートの単一ウェル、例えば、このケースでは60個のウェルに変換される実験点(ラン)のリストである。スプレッドシート中の数字(−1又は1)(図16A−1および2乃至図16D)は因子レベルの指示である。この実施例では、「1」が因子の存在を指示し、「−1」が因子の不在を指示する。さらにこの実施例では、ある因子が所与のウェルの中に存在する場合、その因子の濃度は常にウェルの総体積に関して同じである。対応する実験ランに含まれる作用物質の数に基づいてウェルごとの作用物質の全体濃度は異なってもよい。総称因子名は図16A−1および2乃至図16Dの一番上の行に示されている。
【0082】
図17(図17a,図17b)は、図16の統計的計画の因子の識別を示す図で、この実験の総称因子F01〜F30のそれぞれの識別を示す図である。例えば、最初の列の実験ラン1は96ウェルプレートのウェル1を表すことができる。図16A−1および2乃至図16Dに示した統計的計画から、ウェル1の中には以下の因子が存在する(すなわち、レベル「1」)ことが分かる:F04、F08、F09、F11、F12、F14、F16、F20、F23、F25、F26、F27及びF29。
【0083】
<提案のデータ取得及び統計解析>
図16A−1および2乃至図16Dのスプレッドシートに示された計画に従って96ウェルプレートのウェルの中に細胞が平板培養される。接種密度は約10,000細胞/ウェルである。プレート上の細胞を37℃で一晩インキュベートする。次の日、培養基及びウェル表面の固定された作用物質に接着していない細胞を除去し、接着した細胞は、ホルマリンに15分間暴露することによって固定する。固定された付着細胞の核を蛍光標識し、実施例4で先に説明した蛍光顕微鏡を用いて画像を取得する。画像解析ソフトウェアパッケージ(Meta Morph、Universal Imaging Corporation)を使用して蛍光標識された細胞核を数え、細胞の核計数結果を得る。これらの結果に基づいて、最良の実験結果(例えば最も多い細胞核数)を有するウェルが選択されて、追加の最適化が実施される。最良の結果を与えるウェルの内容を調べることによって、どの因子及び/又は因子群が有益な効果をもたらすかについての情報が得られる。この計画に多くの因子を含めることによって、潜在的に、因子間のより複雑な相互作用を決定することができる。フォローアップスクリーニング実験では、最初のスクリーニングラウンドで発見された特に興味深い因子の組合せに集中することができる。
【0084】
最初のスクリーニングの後で主効果(main effect)が推定されチェックされる。「主効果」は、独立に作用している単独作用物質の効果を意味する。相互作用効果は、2種類以上の単独作用物質が協力して(非独立に)作用するときのこれらの単独作用物質の併用効果を意味する。この時点で、作用物質間の関連相互作用は一般に統計モデルでは推定されないが、作用物質間の相互作用は最良の実験ラン、すなわち最良のウェル)に帰着すると予想される。最初のスクリーニングラウンドの後、これらのウェルに含まれる(レベル=「1」)最良のウェル及び因子が識別される。それぞれの最良のウェルに対して、予備的な統計解析でそれらのウェルが肯定的、中立の又は否定的な効果を有していたか否かにかかわらず、ウェルの中に含まれるすべての因子を使用してフォローアップ実験を実行することができる。細胞内に望ましい反応を生み出す因子の最適な部分集合を得るため、最良のウェルの中の識別された作用物質の部分集合を用いてこの実験を繰り返すことができる。さらに、最良のウェル中の作用物質の濃度を変更してこの実験を繰り返すこともできる。さらに、統計学的に有意の主効果を有する単独作用物質の部分集合を用いて、又は最良の単独作用物質の部分集合を、最良の混合物中の識別された部分集合と組み合わせることによって、フォローアップ実験を実行することもできる。
【0085】
細胞外条件による細胞表現型の制御を、細胞外環境内の因子間の高次相互作用によって支配することが提案された。ここで提示されたプラケット−バーマン計画は、主効果の良好な統計推定値を提供すると考えられ、さらにその実験ランの中で、因子の組合せの多様な集合を観察する機会を提供する。この場合、高次相互作用は、特定の実験ランが、その最良のウェルの中の作用物質の個々の主効果から予測することができるものを凌ぐ「最良のウェル」を与えると予想される。
【図面の簡単な説明】
【0086】
【図1A】細胞の表現型の変化を引き出す能力を有する最良の混合物及び/又は最良の作用物質を高処理能力で識別することができる本発明に基づく例示的な自動プロセスの流れ図(その1)である。
【図1B−1】細胞の表現型の変化を引き出す能力を有する最良の混合物及び/又は最良の作用物質を高処理能力で識別することができる本発明に基づく例示的な自動プロセスの流れ図(その2)である。
【図1B−2】細胞の表現型の変化を引き出す能力を有する最良の混合物及び/又は最良の作用物質を高処理能力で識別することができる本発明に基づく例示的な自動プロセスの流れ図(その2)である。
【図2】図1A及び図1B−1および2のプロセスから得られた情報を使用して生物学的モデルを作成しかつ/又は修正することができる本発明に基づく例示的なプロセスの流れ図である。
【図3】生体系に対する作用物質混合物(M)の作用に関して仮定される例示的な細胞経路を示す図である。
【図4】本発明の自動化方法を実施するために使用することができるコンピュータシステムの例示的な実施形態の概略図である。
【図5】本発明の自動化システムのコンポーネントの好ましい一実施形態を示す概略図である。
【図6】(a),(b)は、本発明に係る試験ウェルの一実施形態を示す概略図である。
【図7】異なる単独作用物質混合物を含む96ウェルプレートレイアウトの概略図である。
【図8】(a),(b)は、本発明の自動化方法の統計的計画を作成する際に使用することができる1つのシナリオの概略図である。
【図9】(a),(b)は、本発明の自動化方法の統計的計画を作成する際に使用することができる他のシナリオの概略図である。
【図10a】混合物計画のコンピュータ表現であるスプレッドシートを示す図である。
【図10b】混合物計画のコンピュータ表現であるスプレッドシートを示す図である。
【図10c】混合物計画のコンピュータ表現であるスプレッドシートを示す図である。
【図10d】混合物計画のコンピュータ表現であるスプレッドシートを示す図である。
【図11】図10のスプレッドシートの統計的計画に基づいて作成された96ウェルプレートレイアウトを示す図である。
【図12】図11に示されたレイアウトを有する96ウェルプレートのウェルに付着させた蛍光標識された細胞の蛍光顕微鏡像を示す図である。
【図13】図12の顕微鏡像の解析の結果得られたウェル番号に対する核数のグラフを示す図である。
【図14】図9乃至図13からの情報の混合物モデル解析を使用して得られた基準ブレンドからの偏差に対するLn(細胞数(血清なし)+1)のグラフを示す図である。
【図15】図9乃至図13からの情報の混合物モデル解析を使用して得られた基準ブレンドからの偏差に対するLn(細胞数(10%血清)+1)のグラフを示す図である。
【図16A−1】96ウェルプレートレイアウト用のプラケット−バーマン統計的計画を示すスプレッドシートを示す図(その1)である。
【図16A−2】96ウェルプレートレイアウト用のプラケット−バーマン統計的計画を示すスプレッドシートを示す図(その1)である。
【図16B−1】96ウェルプレートレイアウト用のプラケット−バーマン統計的計画を示すスプレッドシートを示す図(その2)である。
【図16B−2】96ウェルプレートレイアウト用のプラケット−バーマン統計的計画を示すスプレッドシートを示す図(その2)である。
【図16C−1】96ウェルプレートレイアウト用のプラケット−バーマン統計的計画を示すスプレッドシートを示す図(その3)である。
【図16C−2】96ウェルプレートレイアウト用のプラケット−バーマン統計的計画を示すスプレッドシートを示す図(その3)である。
【図16D−1】96ウェルプレートレイアウト用のプラケット−バーマン統計的計画を示すスプレッドシートを示す図(その4)である。
【図16D−2】96ウェルプレートレイアウト用のプラケット−バーマン統計的計画を示すスプレッドシートを示す図(その4)である。
【図17a】図16の統計的計画の因子の識別を示す図である。
【図17b】図16の統計的計画の因子の識別を示す図である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞における表現型の変化を引き起こす作用物質を識別するための自動化方法であって、
アレイの形態の容器を提供するステップと、
総称因子名、因子レベル及び実験ランを含む統計的計画を提供するステップと、
ソフトウェアプログラムを利用して、前記統計的計画のコンピュータ表現を生成するステップであって、前記コンピュータ表現は、前記作用物質の識別を前記総称因子名に自動的にマップすることによって生成され、前記作用物質の濃度又は量を前記因子レベルにマップすることによって生成され、及び前記アレイ中の前記容器の位置を前記実験ランにマップすることによって生成されるステップと、
前記統計的計画の前記コンピュータ表現に従って、前記アレイ中の選択された前記容器の中に、単独作用物質の様々な混合物を入れるステップと、
前記単独作用物質の入れられた混合物を前記細胞と接触させるステップと、
前記接触させた細胞における表現型の変化を示す表現型データを取得するステップと、
前記表現型データを前記統計的計画と比較して、どの前記単独作用物質の混合物及び/又は前記混合物中のどの前記単独作用物質が、前記接触させた細胞における前記表現型の変化を引き起こすのに有効であるのかを識別するアルゴリズムを含むプロセッサを利用するステップと、
前記統計的計画、前記作用物質の識別、前記統計的計画の前記コンピュータ表現、前記取得されたデータ及び前記アルゴリズム比較の結果を、1つ又は複数のデータベースに記憶するステップと
を有することを特徴とする自動化方法。
【請求項2】
ユーザは、前記作用物質の識別及び前記濃度又は量を前記ソフトウェアプログラムに入力することを特徴とする請求項1に記載の自動化方法。
【請求項3】
ユーザは、前記統計的計画を前記ソフトウェアプログラムに入力することを特徴とする請求項1に記載の自動化方法。
【請求項4】
前記混合物を入れるステップとしてロボットシステムが実行するためのコンピュータプログラムを生成するステップをさらに有することを特徴とする請求項1に記載の自動化方法。
【請求項5】
前記アレイ中の他の前記容器の中に前記単独作用物質を入れるステップをさらに有することを特徴とする請求項1に記載の自動化方法。
【請求項6】
前記容器は、作用物質の固定材でコーティングされた表面を有することを特徴とする請求項1に記載の自動化方法。
【請求項7】
前記容器の表面の前記作用物質の固定材に前記単独作用物質の混合物を共有結合によって固定するステップをさらに有することを特徴とする請求項6に記載の自動化方法。
【請求項8】
前記作用物質の固定材は、前記作用物質を共有結合によって固定するための反応基を含む生物適合性ポリマーであることを特徴とする請求項6に記載の自動化方法。
【請求項9】
前記データベースは、すべて単一の統合又は連合データベースであることを特徴とする請求項1に記載の自動化方法。
【請求項10】
前記表現型の変化を引き起こすのに有効な前記混合物の識別は、統計モデルをあてはめることによって決定されることを特徴とする請求項1に記載の自動化方法。
【請求項11】
前記表現型の変化を引き起こすのに有効な前記混合物の識別は、前記混合物間の直接比較及び/又は対照との直接比較によって決定されることを特徴とする請求項1に記載の自動化方法。
【請求項12】
前記プロセッサは、さらに、前記単独作用物質又は該単独作用物質の前記混合物の性能を複数の実験にわたって比較して、傾向又はパターンを決定するためのアルゴリズムを有し、前記比較はデータベースに記憶され、定期的に更新することができることを特徴とする請求項1に記載の自動化方法。
【請求項13】
前記統計的計画は、一部要因計画、d−最適計画、混合物計画又はプラケット−バーマン計画であることを特徴とする請求項1に記載の自動化方法。
【請求項14】
前記統計的計画は、カバレージ基準に基づく空間充填計画、格子計画又はラテン方格計画であることを特徴とする請求項1に記載の自動化方法。
【請求項15】
前記作用物質は、細胞リガンド及び/又は外因子を有することを特徴とする請求項1に記載の自動化方法。
【請求項16】
前記作用物質は、細胞外基質タンパク質、細胞外基質タンパク質断片、ペプチド、成長因子、サイトカイン及びこれらの組合せからなるグループから選択されることを特徴とする請求項15に記載の自動化方法。
【請求項17】
前記識別された単独作用物質の混合物の部分集合を用いて前記ステップを繰り返すことをさらに有することを特徴とする請求項1に記載の自動化方法。
【請求項18】
前記ステップを繰り返すことをさらに有し、前記識別された単独作用物質の混合物中における単独作用物質の濃度が変更されることを特徴とする請求項1に記載の自動化方法。
【請求項19】
前記表現型の変化に関連した内部細胞機構を識別するステップをさらに有することを特徴とする請求項1に記載の自動化方法。
【請求項20】
前記内部細胞機構の識別は、細胞経路に関する科学情報を抽出し、前記抽出された科学情報を、前記識別された単独作用物質の混合物と前記表現型の変化とを比較することを特徴とする請求項19に記載の自動化方法。
【請求項21】
前記科学情報は、コンピュータによって抽出されることを特徴とする請求項20に記載の自動化方法。
【請求項22】
前記科学情報は、遺伝子発現データ、タンパク質発現データ、細胞表現型データ、信号変換データ、細胞経路に関するデータ及びこれらの組合せを有することを特徴とする請求項20に記載の自動化方法。
【請求項23】
前記内部細胞機構の識別は、前記識別された単独作用物質の混合物の存在下で前記細胞によって発現される遺伝子及び/又はタンパク質を識別することを特徴とする請求項19に記載の自動化方法。
【請求項24】
前記内部細胞機構の識別は、前記識別された単独作用物質の混合物の存在下で前記細胞上のどのレセプタが活性化されるのかを識別することを特徴とする請求項19に記載の自動化方法。
【請求項25】
前記プロセッサは、さらに、細胞経路、タンパク質又は遺伝子が、前記識別された単独作用物質の混合物に関連した細胞表現型の変化に関与する可能性を計算する第1のアプリケーションプログラムを有し、前記細胞経路又はタンパク質は、科学情報を使用して決定されることを特徴とする請求項1に記載の自動化方法。
【請求項26】
前記科学情報は、遺伝子発現データ、タンパク質発現データ、細胞表現型データ、信号変換データ、細胞経路に関するデータ及びこれらの組合せからなるグループから選択されることを特徴とする請求項25に記載の自動化方法。
【請求項27】
前記科学情報は、1つ又は複数のデータベースに記憶されることを特徴とする請求項25に記載の自動化方法。
【請求項28】
前記科学情報は、前記識別された単独作用物質の混合物の存在下で前記細胞によって発現された遺伝子及び/又はタンパク質の識別を有することを特徴とする請求項25に記載の自動化方法。
【請求項29】
前記科学情報は、前記識別された単独作用物質の混合物の存在下で活性化される前記細胞上のレセプタの識別を有することを特徴とする請求項25に記載の自動化方法。
【請求項30】
前記表現型データは、免疫細胞化学分析によって取得されることを特徴とする請求項1に記載の自動化方法。
【請求項31】
前記免疫細胞化学分析は、特定の単独作用物質の混合物の存在下での前記細胞の増殖及び/又は分化を指示する生物学的マーカが存在するかどうかを判定することを特徴とする請求項30に記載の自動化方法。
【請求項32】
細胞における表現型の変化を引き起こす作用物質を識別するための自動化システムであって、
選択された前記容器が、(i)単独作用物質の様々な混合物と、(ii)前記細胞を含む流体と、を受け取る容器のアレイと、
総称因子名、因子レベル及び実験ランを含む統計的計画と、
該統計的計画のコンピュータ表現を生成するためのソフトウェアプログラムであって、前記作用物質の前記識別を前記総称因子名に自動的にマップし、前記作用物質の濃度又は量を前記因子レベルにマップし、前記アレイ中の前記容器の位置を前記実験ランにマップするソフトウェアプログラムと、
前記細胞における前記表現型の変化を指示する取得された実験データと、
該実験データを前記統計的計画と比較して、どの前記単独作用物質の混合物及び/又は前記混合物中のどの前記単独作用物質が、前記細胞の前記表現型の変化を引き起こすのに有効であるのかを識別するためのアルゴリズムを有するプロセッサと、
前記統計的計画、前記作用物質の識別、前記統計的計画の前記コンピュータ表現、前記取得された実験データ及び前記アルゴリズム比較の結果を記憶するための1つ又は複数のデータベースと
を備えたことを特徴とする自動化システム。
【請求項33】
前記データベースは、単一の統合又は連合データベースであることを特徴とする請求項32に記載の自動化システム。
【請求項34】
前記統計的計画の前記コンピュータ表現に基づいて前記単独作用物質の混合物を前記容器の中に正確に入れるロボットシステムをさらに備えたことを特徴とする請求項32に記載の自動化システム。
【請求項35】
前記ロボットシステムが、前記統計的計画の前記コンピュータ表現に基づいて前記単独作用物質の混合物を前記容器の中に正確に入れるための命令を含むコンピュータプログラムをさらに備えたことを特徴とする請求項34に記載の自動化システム。
【請求項36】
前記プロセッサは、さらに、前記単独作用物質又は該単独作用物質の前記混合物の性能を複数の実験にわたって比較して傾向又はパターンを決定するためのアルゴリズムを備え、前記比較はデータベースに記憶されることを特徴とする請求項32に記載の自動化システム。
【請求項1】
細胞における表現型の変化を引き起こす作用物質を識別するための自動化方法であって、
アレイの形態の容器を提供するステップと、
総称因子名、因子レベル及び実験ランを含む統計的計画を提供するステップと、
ソフトウェアプログラムを利用して、前記統計的計画のコンピュータ表現を生成するステップであって、前記コンピュータ表現は、前記作用物質の識別を前記総称因子名に自動的にマップすることによって生成され、前記作用物質の濃度又は量を前記因子レベルにマップすることによって生成され、及び前記アレイ中の前記容器の位置を前記実験ランにマップすることによって生成されるステップと、
前記統計的計画の前記コンピュータ表現に従って、前記アレイ中の選択された前記容器の中に、単独作用物質の様々な混合物を入れるステップと、
前記単独作用物質の入れられた混合物を前記細胞と接触させるステップと、
前記接触させた細胞における表現型の変化を示す表現型データを取得するステップと、
前記表現型データを前記統計的計画と比較して、どの前記単独作用物質の混合物及び/又は前記混合物中のどの前記単独作用物質が、前記接触させた細胞における前記表現型の変化を引き起こすのに有効であるのかを識別するアルゴリズムを含むプロセッサを利用するステップと、
前記統計的計画、前記作用物質の識別、前記統計的計画の前記コンピュータ表現、前記取得されたデータ及び前記アルゴリズム比較の結果を、1つ又は複数のデータベースに記憶するステップと
を有することを特徴とする自動化方法。
【請求項2】
ユーザは、前記作用物質の識別及び前記濃度又は量を前記ソフトウェアプログラムに入力することを特徴とする請求項1に記載の自動化方法。
【請求項3】
ユーザは、前記統計的計画を前記ソフトウェアプログラムに入力することを特徴とする請求項1に記載の自動化方法。
【請求項4】
前記混合物を入れるステップとしてロボットシステムが実行するためのコンピュータプログラムを生成するステップをさらに有することを特徴とする請求項1に記載の自動化方法。
【請求項5】
前記アレイ中の他の前記容器の中に前記単独作用物質を入れるステップをさらに有することを特徴とする請求項1に記載の自動化方法。
【請求項6】
前記容器は、作用物質の固定材でコーティングされた表面を有することを特徴とする請求項1に記載の自動化方法。
【請求項7】
前記容器の表面の前記作用物質の固定材に前記単独作用物質の混合物を共有結合によって固定するステップをさらに有することを特徴とする請求項6に記載の自動化方法。
【請求項8】
前記作用物質の固定材は、前記作用物質を共有結合によって固定するための反応基を含む生物適合性ポリマーであることを特徴とする請求項6に記載の自動化方法。
【請求項9】
前記データベースは、すべて単一の統合又は連合データベースであることを特徴とする請求項1に記載の自動化方法。
【請求項10】
前記表現型の変化を引き起こすのに有効な前記混合物の識別は、統計モデルをあてはめることによって決定されることを特徴とする請求項1に記載の自動化方法。
【請求項11】
前記表現型の変化を引き起こすのに有効な前記混合物の識別は、前記混合物間の直接比較及び/又は対照との直接比較によって決定されることを特徴とする請求項1に記載の自動化方法。
【請求項12】
前記プロセッサは、さらに、前記単独作用物質又は該単独作用物質の前記混合物の性能を複数の実験にわたって比較して、傾向又はパターンを決定するためのアルゴリズムを有し、前記比較はデータベースに記憶され、定期的に更新することができることを特徴とする請求項1に記載の自動化方法。
【請求項13】
前記統計的計画は、一部要因計画、d−最適計画、混合物計画又はプラケット−バーマン計画であることを特徴とする請求項1に記載の自動化方法。
【請求項14】
前記統計的計画は、カバレージ基準に基づく空間充填計画、格子計画又はラテン方格計画であることを特徴とする請求項1に記載の自動化方法。
【請求項15】
前記作用物質は、細胞リガンド及び/又は外因子を有することを特徴とする請求項1に記載の自動化方法。
【請求項16】
前記作用物質は、細胞外基質タンパク質、細胞外基質タンパク質断片、ペプチド、成長因子、サイトカイン及びこれらの組合せからなるグループから選択されることを特徴とする請求項15に記載の自動化方法。
【請求項17】
前記識別された単独作用物質の混合物の部分集合を用いて前記ステップを繰り返すことをさらに有することを特徴とする請求項1に記載の自動化方法。
【請求項18】
前記ステップを繰り返すことをさらに有し、前記識別された単独作用物質の混合物中における単独作用物質の濃度が変更されることを特徴とする請求項1に記載の自動化方法。
【請求項19】
前記表現型の変化に関連した内部細胞機構を識別するステップをさらに有することを特徴とする請求項1に記載の自動化方法。
【請求項20】
前記内部細胞機構の識別は、細胞経路に関する科学情報を抽出し、前記抽出された科学情報を、前記識別された単独作用物質の混合物と前記表現型の変化とを比較することを特徴とする請求項19に記載の自動化方法。
【請求項21】
前記科学情報は、コンピュータによって抽出されることを特徴とする請求項20に記載の自動化方法。
【請求項22】
前記科学情報は、遺伝子発現データ、タンパク質発現データ、細胞表現型データ、信号変換データ、細胞経路に関するデータ及びこれらの組合せを有することを特徴とする請求項20に記載の自動化方法。
【請求項23】
前記内部細胞機構の識別は、前記識別された単独作用物質の混合物の存在下で前記細胞によって発現される遺伝子及び/又はタンパク質を識別することを特徴とする請求項19に記載の自動化方法。
【請求項24】
前記内部細胞機構の識別は、前記識別された単独作用物質の混合物の存在下で前記細胞上のどのレセプタが活性化されるのかを識別することを特徴とする請求項19に記載の自動化方法。
【請求項25】
前記プロセッサは、さらに、細胞経路、タンパク質又は遺伝子が、前記識別された単独作用物質の混合物に関連した細胞表現型の変化に関与する可能性を計算する第1のアプリケーションプログラムを有し、前記細胞経路又はタンパク質は、科学情報を使用して決定されることを特徴とする請求項1に記載の自動化方法。
【請求項26】
前記科学情報は、遺伝子発現データ、タンパク質発現データ、細胞表現型データ、信号変換データ、細胞経路に関するデータ及びこれらの組合せからなるグループから選択されることを特徴とする請求項25に記載の自動化方法。
【請求項27】
前記科学情報は、1つ又は複数のデータベースに記憶されることを特徴とする請求項25に記載の自動化方法。
【請求項28】
前記科学情報は、前記識別された単独作用物質の混合物の存在下で前記細胞によって発現された遺伝子及び/又はタンパク質の識別を有することを特徴とする請求項25に記載の自動化方法。
【請求項29】
前記科学情報は、前記識別された単独作用物質の混合物の存在下で活性化される前記細胞上のレセプタの識別を有することを特徴とする請求項25に記載の自動化方法。
【請求項30】
前記表現型データは、免疫細胞化学分析によって取得されることを特徴とする請求項1に記載の自動化方法。
【請求項31】
前記免疫細胞化学分析は、特定の単独作用物質の混合物の存在下での前記細胞の増殖及び/又は分化を指示する生物学的マーカが存在するかどうかを判定することを特徴とする請求項30に記載の自動化方法。
【請求項32】
細胞における表現型の変化を引き起こす作用物質を識別するための自動化システムであって、
選択された前記容器が、(i)単独作用物質の様々な混合物と、(ii)前記細胞を含む流体と、を受け取る容器のアレイと、
総称因子名、因子レベル及び実験ランを含む統計的計画と、
該統計的計画のコンピュータ表現を生成するためのソフトウェアプログラムであって、前記作用物質の前記識別を前記総称因子名に自動的にマップし、前記作用物質の濃度又は量を前記因子レベルにマップし、前記アレイ中の前記容器の位置を前記実験ランにマップするソフトウェアプログラムと、
前記細胞における前記表現型の変化を指示する取得された実験データと、
該実験データを前記統計的計画と比較して、どの前記単独作用物質の混合物及び/又は前記混合物中のどの前記単独作用物質が、前記細胞の前記表現型の変化を引き起こすのに有効であるのかを識別するためのアルゴリズムを有するプロセッサと、
前記統計的計画、前記作用物質の識別、前記統計的計画の前記コンピュータ表現、前記取得された実験データ及び前記アルゴリズム比較の結果を記憶するための1つ又は複数のデータベースと
を備えたことを特徴とする自動化システム。
【請求項33】
前記データベースは、単一の統合又は連合データベースであることを特徴とする請求項32に記載の自動化システム。
【請求項34】
前記統計的計画の前記コンピュータ表現に基づいて前記単独作用物質の混合物を前記容器の中に正確に入れるロボットシステムをさらに備えたことを特徴とする請求項32に記載の自動化システム。
【請求項35】
前記ロボットシステムが、前記統計的計画の前記コンピュータ表現に基づいて前記単独作用物質の混合物を前記容器の中に正確に入れるための命令を含むコンピュータプログラムをさらに備えたことを特徴とする請求項34に記載の自動化システム。
【請求項36】
前記プロセッサは、さらに、前記単独作用物質又は該単独作用物質の前記混合物の性能を複数の実験にわたって比較して傾向又はパターンを決定するためのアルゴリズムを備え、前記比較はデータベースに記憶されることを特徴とする請求項32に記載の自動化システム。
【図1A】
【図1B−1】
【図1B−2】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10a】
【図10b】
【図10c】
【図10d】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16A−1】
【図16A−2】
【図16B−1】
【図16B−2】
【図16C−1】
【図16C−2】
【図16D−1】
【図16D−2】
【図17a】
【図17b】
【図1B−1】
【図1B−2】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10a】
【図10b】
【図10c】
【図10d】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16A−1】
【図16A−2】
【図16B−1】
【図16B−2】
【図16C−1】
【図16C−2】
【図16D−1】
【図16D−2】
【図17a】
【図17b】
【公表番号】特表2007−505622(P2007−505622A)
【公表日】平成19年3月15日(2007.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−526911(P2006−526911)
【出願日】平成16年8月26日(2004.8.26)
【国際出願番号】PCT/US2004/027862
【国際公開番号】WO2005/033833
【国際公開日】平成17年4月14日(2005.4.14)
【出願人】(595117091)ベクトン・ディキンソン・アンド・カンパニー (539)
【氏名又は名称原語表記】BECTON, DICKINSON AND COMPANY
【住所又は居所原語表記】1 BECTON DRIVE, FRANKLIN LAKES, NEW JERSEY 07417−1880, UNITED STATES OF AMERICA
【Fターム(参考)】
【公表日】平成19年3月15日(2007.3.15)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年8月26日(2004.8.26)
【国際出願番号】PCT/US2004/027862
【国際公開番号】WO2005/033833
【国際公開日】平成17年4月14日(2005.4.14)
【出願人】(595117091)ベクトン・ディキンソン・アンド・カンパニー (539)
【氏名又は名称原語表記】BECTON, DICKINSON AND COMPANY
【住所又は居所原語表記】1 BECTON DRIVE, FRANKLIN LAKES, NEW JERSEY 07417−1880, UNITED STATES OF AMERICA
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]