説明

細胞評価装置、インキュベータ、プログラム、および、培養方法

【課題】評価対象とする細胞の種類を判定することができる細胞評価装置を提供する。
【解決手段】細胞評価装置が、対象細胞が撮像されている画像を取得する画像取得部と、取得した画像に撮像されている対象細胞の形態的特徴を示す複数種類の特徴量を求める特徴量取得部と、特徴量取得部により求められた複数種類の特徴量を、複数種類の特徴量に応じて、細胞の種類毎に、1つの種類の細胞を評価属性の異なる複数のサブクラスに分類する分類モデルに基づいて分類し、対象細胞をサブクラスに分類する分類処理部と、分類されたサブクラスに基づいて、対象細胞の種類を示すクラスを判定する判定部と、を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞評価装置、インキュベータ、プログラム、および、培養方法に関する。
【背景技術】
【0002】
細胞の培養状態を評価する技術は、再生医療などの先端医療分野や医薬品のスクリーニングを含む幅広い分野での基盤技術となっている。例えば、再生医療分野では、インビトロで細胞を増殖、分化させるプロセスが存在する。そして、上記のプロセスでは、細胞の分化の成否、細胞の癌化や感染の有無を管理するために、細胞の培養状態を的確に評価することが不可欠となる。一例として、特許文献1には、マーカーとして転写因子を用いたがん細胞の評価方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−195533号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記の従来技術では、評価対象の各細胞において転写因子の発現を確認する実験が必要となるため非常に煩雑である。そのため、比較的簡易な手法で細胞を精度よく評価することがなお要請されている。また、細胞の評価として、細胞の種類を判定することも要請されている。
【0005】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、その目的は、比較的簡易な手法で、評価対象とする細胞の種類を判定することができる細胞評価装置、インキュベータ、プログラム、および、培養方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明は上述した課題を解決するためになされたもので、対象細胞が撮像されている画像を取得する画像取得部と、前記取得した画像に撮像されている前記対象細胞の形態的特徴を示す複数種類の特徴量を求める特徴量取得部と、前記特徴量取得部により求められた複数種類の前記特徴量を、複数種類の前記特徴量に応じて、細胞の種類毎に、1つの種類の細胞を評価属性の異なる複数のサブクラスに分類する分類モデルに基づいて分類し、前記対象細胞をサブクラスに分類する分類処理部と、前記分類されたサブクラスに基づいて、前記対象細胞の種類を示すクラスを判定する判定部と、を備えていることを特徴とする細胞評価装置である。
【0007】
また、この発明は、細胞が撮像されている画像を取得する画像取得部と、前記画像に含まれる前記対象細胞の形態的特徴を示す複数種類の特徴量を求める特徴量取得部と、前記特徴量取得部により求められた複数種類の前記特徴量を、複数種類の前記特徴量に基づいて評価属性の異なる細胞をサブクラスに分類する分類モデルに基づいて分類し、前記対象細胞をサブクラスに分類する分類処理部と、を有し、前記分類モデルは、前記評価属性の異なる細胞をサブクラスに分類する場合に、予め定められている細胞の種類に対応して予め定められているサブクラス、または、前記複数の細胞の種類に該当しない予め定められているサブクラスに分類する、ことを特徴とする細胞評価装置である。
【0008】
また、この発明は、細胞を培養する培養容器を収納するとともに、所定の環境条件に内部を維持可能な恒温室と、前記恒温室内で前記培養容器に含まれる前記細胞の画像を撮像し、前記画像取得部に撮像された画像を出力する撮像装置と、上記に記載の細胞評価装置と、を備えるインキュベータである。
【0009】
また、この発明は、コンピュータを、上記に記載の細胞評価装置として機能させるプログラムである。
【0010】
また、この発明は、上記に記載の細胞評価装置が備えている前記画像取得部は、培養容器内で培養されている細胞が撮像されている画像を取得し、上記に記載の細胞評価装置が備えている前記分類処理部により分類されたクラスに基づき、前記培養容器内で培養されている細胞の培養条件を変更することを特徴とする細胞の培養方法である。
【発明の効果】
【0011】
この発明によれば、比較的簡易な手法で、評価対象とする細胞の種類を判定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】この発明の1実施形態によるインキュベータの概要を示すブロック図である。
【図2】図1のインキュベータの正面図である。
【図3】図1のインキュベータの平面図である。
【図4】一例としての細胞のクラスを示す説明図である。
【図5】一例としての分類モデルを示す説明図である。
【図6】図1のインキュベータによる観察動作の一例を示す流れ図である。
【図7】1実施形態によるインキュベータのCPU42が、分類モデルを生成する場合の処理の一例を示す流れ図である。
【図8】本実施形態で用いられる各特徴量の概要を示す図である。
【図9】ANNの概要を示す図である。
【図10】FNNの概要を示す図である。
【図11】FNNにおけるシグモイド関数を示す図である。
【図12】1実施形態によるインキュベータのCPU42が、細胞を評価する場合の処理の一例を示す流れ図である。
【図13】本実施形態による細胞評価装置を用いた細胞の培養方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態について説明する。図1は、1実施形態による細胞評価装置を含むインキュベータの概要を示すブロック図である。また、図2,図3は、図1に示された1実施形態のインキュベータの正面図および平面図である。
【0014】
インキュベータ11は、上部ケーシング12と下部ケーシング13とを有している。インキュベータ11の組立状態において、上部ケーシング12は下部ケーシング13の上に載置される。なお、上部ケーシング12と下部ケーシング13との内部空間は、ベースプレート14によって上下に仕切られている。
【0015】
まず、上部ケーシング12の構成の概要を説明する。上部ケーシング12の内部には、細胞の培養を行う恒温室15が形成されている。この恒温室15は温度調整装置15aおよび湿度調整装置15bを有しており、恒温室15内は細胞の培養に適した環境(例えば温度37℃、湿度90%の雰囲気)に維持されている(なお、図2,図3での温度調整装置15a、湿度調整装置15bの図示は省略する)。
【0016】
恒温室15の前面には、大扉16、中扉17、小扉18が配置されている。大扉16は、上部ケーシング12および下部ケーシング13の前面を覆っている。中扉17は、上部ケーシング12の前面を覆っており、大扉16の開放時に恒温室15と外部との環境を隔離する。小扉18は、細胞を培養する培養容器19を搬出入するための扉であって、中扉17に取り付けられている。この小扉18から培養容器19を搬出入することで、恒温室15の環境変化を抑制することが可能となる。なお、大扉16、中扉17、小扉18は、パッキンP1,P2,P3によりそれぞれ気密性が維持されている。
【0017】
また、恒温室15には、ストッカー21、観察ユニット22、容器搬送装置23、搬送台24が配置されている。ここで、搬送台24は、小扉18の手前に配置されており、培養容器19を小扉18から搬出入する。
【0018】
ストッカー21は、上部ケーシング12の前面(図3の下側)からみて恒温室15の左側に配置される。ストッカー21は複数の棚を有しており、ストッカー21の各々の棚には培養容器19を複数収納することができる。なお、各々の培養容器19には、培養の対象となる細胞が培地とともに収容されている。
【0019】
観察ユニット22は、上部ケーシング12の前面からみて恒温室15の右側に配置される。この観察ユニット22は、培養容器19内の細胞のタイムラプス観察を実行することができる。
【0020】
ここで、観察ユニット22は、上部ケーシング12のベースプレート14の開口部に嵌め込まれて配置される。観察ユニット22は、試料台31と、試料台31の上方に張り出したスタンドアーム32と、位相差観察用の顕微光学系および撮像装置(34)を内蔵した本体部分33とを有している。そして、試料台31およびスタンドアーム32は恒温室15に配置される一方で、本体部分33は下部ケーシング13内に収納される。
【0021】
試料台31は透光性の材質で構成されており、その上に培養容器19を載置することができる。この試料台31は水平方向に移動可能に構成されており、上面に載置した培養容器19の位置を調整できる。また、スタンドアーム32にはLED光源35が内蔵されている。そして、撮像装置34は、スタンドアーム32によって試料台31の上側から透過照明された培養容器19の細胞を、顕微光学系を介して撮像することで細胞の顕微鏡画像を取得できる。
【0022】
容器搬送装置23は、上部ケーシング12の前面からみて恒温室15の中央に配置される。この容器搬送装置23は、ストッカー21、観察ユニット22の試料台31および搬送台24との間で培養容器19の受け渡しを行う。
【0023】
図3に示すように、容器搬送装置23は、多関節アームを有する垂直ロボット34と、回転ステージ35と、ミニステージ36と、アーム部37とを有している。回転ステージ35は、垂直ロボット34の先端部に回転軸35aを介して水平方向に180°回転可能に取り付けられている。そのため、回転ステージ35は、ストッカー21、試料台31および搬送台24に対して、アーム部37をそれぞれ対向させることができる。
【0024】
また、ミニステージ36は、回転ステージ35に対して水平方向に摺動可能に取り付けられている。ミニステージ36には培養容器19を把持するアーム部37が取り付けられている。
【0025】
次に、下部ケーシング13の構成の概要を説明する。下部ケーシング13の内部には、観察ユニット22の本体部分33や、インキュベータ11の制御装置41が収納されている。
【0026】
制御装置41は、温度調整装置15a、湿度調整装置15b、観察ユニット22および容器搬送装置23とそれぞれ接続されている。この制御装置41は、所定のプログラムに従ってインキュベータ11の各部を統括的に制御する。
【0027】
一例として、制御装置41は、温度調整装置15aおよび湿度調整装置15bをそれぞれ制御して恒温室15内を所定の環境条件に維持する。また、制御装置41は、所定の観察スケジュールに基づいて、観察ユニット22および容器搬送装置23を制御して、培養容器19の観察シーケンスを自動的に実行する。さらに、制御装置41は、観察シーケンスで取得した画像に基づいて、細胞の培養状態の評価を行う培養状態評価処理を実行する。
【0028】
<分類処理(クラス分け処理)の概要>
次に、図4と図5とを参照して、本実施形態の細胞評価装置による分類処理(クラス分け処理)の概要について説明する。ここでは、線維芽細胞(Fibroblast)と角化細胞(Keratinocyte)との、2つの種類の細胞を分類処理する場合について説明する。
【0029】
たとえば、図4に示されているように、本実施形態による細胞評価装置は、評価対象となる細胞を、次の、サブクラス1からサブクラス9のいずれかのサブクラスに分類するような分類モデルが構築されている。
【0030】
(サブクラス1)線維芽細胞・形状が中サイズ(F Normal)
(サブクラス2)線維芽細胞・形状が小サイズ(F_s small)
(サブクラス3)線維芽細胞・重複(線維芽細胞が重なっている)(F_o Over_lapped))
(サブクラス4)角化細胞・形状がC型(K_c C−type)
(サブクラス5)角化細胞・形状が中サイズ(K_n Normal)
(サブクラス6)角化細胞・形状が小サイズ(K_s small)
(サブクラス7)角化細胞・形状に穴あり(K_h holed)
(サブクラス8)ノイズ・小(判別不可能オブジェクトであり、形状が小さいノイズ)(n_s small Noise)
(サブクラス9)ノイズ・長(判別不可能オブジェクトであり、形状が長いノイズ)(n_l Long Noise)
【0031】
このサブクラスのうち、サブクラス1から3は線維芽細胞に対応するクラスAに含まれており、サブクラス4から7は角化細胞に対応するクラスBに含まれており、サブクラス8と9はノイズに対応するクラスC(ノイズと見做すクラス)に含まれている。
【0032】
ここで、細胞評価装置の一例としての動作について説明する。
まず、細胞評価装置は、画像中の細胞1個1個の状態(細胞の種類や状態)を評価する分類モデル(図5を参照)を、撮像されている画像に含まれている細胞の画像に基づいて構築する。
【0033】
たとえば、細胞評価装置は、次のようにして、分類モデルを構築する。
(1)複数の細胞を、単一状態で培養し、経時的な画像を撮影する。
(2)画像中の個々の細胞を認識する。すなわち、細胞の画像領域を抽出する。
【0034】
(3)認識された個々の細胞を分類器にて分類し、精度よく分類できる分類モデルを構築する。この分類モデルを構築する際、分類モデルは、決定木のほか、様々なクラスタリング手法(k−meansクラスタリング、階層的クラスタリング等が含まれる)、または、主成分分析などを用いて構築されている。
【0035】
(4)分類された各サブクラスと、各サブクラスを識別する指標(ラベル)とを対応付けて、ラベリングする。
このラベリングとは、サブクラス1からサブクラス9の9つのサブクラスをそれぞれ識別する識別情報を対応付けておく。そして、サブクラスに分類された細胞に、分類されたサブクラスに対応する識別情報を付ける(分類された細胞と識別情報とを関連付ける)ことである。この識別情報は、文字、数字、記号、または、これらの組み合わせにより構成されている。
【0036】
ここで、上述した分類モデルを構築する場合には、それぞれの細胞の種類が培養された場合の「単一細胞の培養画像」を用いることも可能である。すなわち、分類モデルは、細胞の種類毎に、1種類の細胞が撮像されている画像に基づいて、構築されていてもよい。
【0037】
その後、細胞評価装置は、構築した分類モデルを用いて、評価対象となる画像(たとえば、異種細胞が混在している画像)中の、細胞1個1個を評価する。たとえば、ユーザが解析したい画像が1枚であるとすると、細胞評価装置は、その画像に対して、画像中の全ての細胞1個1個に対して、その細胞が「何なのか(細胞の種類が何なのか)」を評価する。すなわち、細胞を、図4に示した9つのサブクラスのうち、いずれかのサブクラスに分類する。ここで、ユーザが解析したい画像は、たとえば、異種細胞の検出の場合のように、「共培養の画像(2種類以上の細胞が混じっている)」であってもよい。
【0038】
この細胞評価装置は、次のようにして、分類モデルを用いて細胞をサブクラスに分類する。
(5)解析したい共培養状態の細胞画像を取得する。
(6)細胞画像中の個々の細胞を認識する。
(7)認識された個々の細胞を、(3)で構築した分類モデルに基づいて、全細胞についてサブクラスに分類し、分類した細胞にサブクラスに対応するラベルを付ける。
【0039】
このようにして、評価対象となる画像に含まれている細胞は、それぞれ、いずれかのサブクラスに分類される。また、細胞には、サブクラスに対応しているラベルがそれぞれ付けられる。
【0040】
次に、細胞評価装置は、細胞が分類されたサブクラス、または、細胞に付けられたラベルに基づいて、細胞が属するクラスを判定する。次に、細胞評価装置は、判定したクラスに基づいて細胞の種類を判定する。
たとえば、細胞評価装置は、サブクラス1からサブクラス3のいずれかに分類された細胞を、「線維芽細胞」と判定する。また、細胞評価装置は、サブクラス4からサブクラス7のいずれかに分類された細胞を、「角化細胞」と判定する。また、細胞評価装置は、サブクラス8またはサブクラス9に分類された細胞を、ノイズというラベルのクラスに属する細胞として、「細胞でないゴミ(ノイズ)」と判定する。
【0041】
これにより、細胞評価装置は、解析したい共培養状態の細胞画像に撮像されている細胞のそれぞれについて、その細胞の種類を判定(評価)することができる。よって、細胞評価装置は、比較的簡易な手法で、評価対象とする細胞の種類を判定することができる。
【0042】
図1の説明に戻り、制御装置41の構成について説明する。この制御装置41は、CPU42および記憶部43を有している。
【0043】
記憶部43は、ハードディスクや、フラッシュメモリ等の不揮発性の記憶媒体などで構成される。この記憶部43には、ストッカー21に収納されている各培養容器19に関する管理データと、撮像装置で撮像された顕微鏡画像のデータとが記憶されている。さらに、記憶部43には、CPU42によって実行されるプログラムが記憶されている。
【0044】
なお、上記の管理データには、(a)個々の培養容器19を示すインデックスデータ、(b)ストッカー21での培養容器19の収納位置、(c)培養容器19の種類および形状(ウェルプレート、ディッシュ、フラスコなど)、(d)培養容器19で培養されている細胞の種類、(e)培養容器19の観察スケジュール、(f)タイムラプス観察時の撮像条件(対物レンズの倍率、容器内の観察地点等)、などが含まれている。また、ウェルプレートのように複数の小容器で同時に細胞を培養できる培養容器19については、各々の小容器ごとにそれぞれ管理データが生成される。
【0045】
CPU42は、特徴量演算部(特徴量取得部)44と、分類モデル構築部45と、分類処理部46と、判定部47とを備えている。このCPU42は、たとえば、制御装置41の各種の演算処理を実行するプロセッサである。なお、CPU42は、プログラムの実行によって、特徴量演算部44と、分類モデル構築部45と、分類処理部46と、判定部47としてそれぞれ機能してもよい。また、CPU42は、画像読込部50と、画像入力部(画像取得部)51と、出力部52とを備えている。
【0046】
画像読込部50は、培養容器内で培養される複数の細胞が時系列に撮像されている複数の画像を記憶部43から読み込む。また、この画像読込部50は、記憶部43から画像を読込む場合、この画像に撮像されている細胞についての情報も読込む(または、入力される)。この細胞についての情報とは、学習する対象となる情報のことであり、たとえば、各画像に対応する細胞について評価属性を示す情報であり、その細胞の種類、および、その細胞の状態を示す情報のことである。
【0047】
特徴量演算部44は、画像に含まれる各々の細胞について、細胞の異なる複数の形態的な特徴を示す複数の異る特徴量を画像からそれぞれ求める。なお、特徴量演算部44は、対象細胞の複数種類の特徴量を、時系列に取得した画像に撮像されている画像毎に求め、当該時系列に取得した画像に撮像されている画像毎に求めた特徴量の時系列に対しての差分を、特徴量に含めて求めてもよい。
【0048】
分類モデル構築部45は、特徴量演算部44により求められた特徴量に基づいて、細胞をサブクラスに分類するための分類モデルを構築する。分類モデル構築部45は、一例としては、分類モデルを、クラスタリング技術により構築する。また、分類モデル構築部45は、たとえば、教師付き学習により分類モデルを求めてもよい。この分類モデルは、細胞を、評価属性が異なるサブクラスに分類し、そのサブクラスに分類した結果を出力する分類モデルである。
【0049】
なお、この分類モデルは、特徴量演算部44により求められた複数種類の特徴量を、複数種類の特徴量に応じて、細胞の種類毎に、1つの種類の細胞を評価属性の異なる複数のサブクラスに分類する分類モデルである。
【0050】
たとえば、分類モデルは、図4に示すように、1つの種類の細胞として、線維芽細胞を、サブクラス1から3の評価属性の異なる複数のサブクラス(この場合、3つのサブクラス)に分類する。また、分類モデルは、図4に示すように、1つの種類の細胞として、たとえば、角化細胞を、サブクラス4から7の評価属性の異なる複数のサブクラス(この場合、4つのサブクラス)に分類する
【0051】
また、この分類モデルは、複数のサブクラスとして、細胞の特徴に基づいた、当該1つの種類の細胞に対して判別不能またはノイズとして分類されるサブクラスであって、予め定められている少なくとも1つのサブクラスを有している。
たとえば、分類モデルは、判別不能またはノイズとして分類されるサブクラスとして、サブクラス8(または、サブクラス9)を有している。
【0052】
また、この分類モデルは、判別不能またはノイズとして分類されるサブクラスが、複数の細胞の種類に対してそれぞれ構築されている。
たとえば、分類モデルは、線維芽細胞に対しては、判別不能またはノイズとして分類されるサブクラスとして、サブクラス9を有するようにして構築されている。
また、たとえば、分類モデルは、角化細胞に対しては、判別不能またはノイズとして分類されるサブクラスとして、サブクラス8を有するようにして、構築されている。
【0053】
また、この分類モデルは、評価属性の異なる細胞をサブクラスに分類する場合に、予め定められている細胞の種類に対応して予め定められているサブクラスまたは、複数の細胞の種類に該当しない予め定められているサブクラスに分類するように、分類モデル構築部45により構築されている。
【0054】
ここで、この「予め定められている細胞の種類に対応して予め定められているサブクラス」とは、たとえば、図4のクラスAまたはクラスBに属する各サブクラス、すなわち、サブクラス1から7のことである。また、この「複数の細胞の種類に該当しない予め定められているサブクラス」とは、たとえば、図4のクラスCに属する各サブクラス、すなわち、サブクラス8と9のことである。
【0055】
この評価属性には、細胞の種類だけでなく、細胞の時間的に変化する状態も含められていてもよい。すなわち、分類モデルは、評価属性の異なる細胞のサブクラスの分類として、時系列において異なる状態の細胞に対応するサブクラスに分類する分類モデルであってもよい。なお、この「時系列において異なる状態の細胞」とは、細胞が成熟するに従い生じる形態的な変化のことであり、たとえば、突起の形成や、突起の伸展のことである。
【0056】
画像入力部51には、評価対象となる細胞の画像であって、培養容器内で培養される複数の細胞が時系列に撮像されている画像が入力される。たとえば、評価対象となる細胞の画像が予め記憶部43に記憶されており、この画像入力部51は、評価対象となる細胞の画像を記憶部43から読み出す。
【0057】
分類処理部46は、画像入力部51に入力された画像を、分類モデル構築部45により構築された分類モデルに入力して、いずれかのサブクラスに分類し、分類した結果を出力する。
【0058】
詳細には、画像入力部51に入力された画像は、まず、特徴量演算部44により、その画像に含まれる各々の細胞について、細胞の異なる複数の形態的な特徴を示す複数の異る特徴量が画像からそれぞれ求められる。次に、分類処理部46は、画像入力部51に入力された画像に対して特徴量演算部44により求められた複数の特徴量を、分類モデル構築部45により構築された分類モデルに入力してサブクラスに分類し、分類した結果を出力する。
【0059】
このようにして、分類処理部46は、特徴量演算部44により求められた複数種類の特徴量を、複数種類の特徴量に基づいて評価属性の異なる細胞をサブクラスに分類する分類モデルに基づいて分類し、対象細胞をサブクラスに分類する。
【0060】
なお、分類処理部46から出力されるサブクラスに分類された結果(評価情報)は、たとえば、図5を用いて説明したサブクラス1からサブクラス9のいずれかを示すラベルであってもよい。
【0061】
判定部47は、分類処理部46により分類されたサブクラスまたはラベルに基づいて、対象細胞の種類を示すクラスを判定する。これにより、判定部47は、対象細胞の種類を判定する。
【0062】
出力部52は、判定部47から出力される結果、すなわち、クラスを示す情報を、細胞毎に、たとえば、図示されていないモニタなどの表示部に出力する。なお、出力部52は、判定部47により判定された細胞の種類の結果に基づいて、異種細胞の混入を検出や、または、それぞれの細胞の混在率を算出して、これを出力してもよい。
【0063】
また、出力部52は、判定部47によりクラスに分類された対象細胞の個数に基づいて、クラスに分類された割合をクラス毎に算出してもよい。すなわち、出力部52は、判定部47により判定された細胞の種類を示す情報に基づいて、評価対象の画像に含まれている細胞の種類の割合を、細胞の種類毎に算出してもよい。
【0064】
たとえば、ユーザが、線維芽細胞を培養する場合、線維芽細胞に角化細胞が混入されていないか否かを確認したいような場合には、出力部52は、細胞の全体の個数に対する角化細胞の個数の割合、または、線維芽細胞の個数と角化細胞の個数との比を算出して、算出した比を出力してもよい。
【0065】
また、出力部52は、分類処理部46によりサブクラスに分類された対象細胞の個数に基づいて、サブクラスに分類された割合をサブクラス毎に算出してもよい。
【0066】
たとえば、分類処理部46は、画像入力部51に入力された画像に含まれている複数の細胞を、細胞1つずつ、サブクラス1から9のいずれかのサブクラスに分類する。たとえば、この複数の細胞の全体の個数が、100個であるとする。次に、出力部52は、分類処理部46によりサブクラスに分類されたサブクラス毎の細胞の個数を算出する。次に、出力部52は、算出したサブクラス毎の個数を、全体の個数で除算して、サブクラスに分類された割合をサブクラス毎に算出する。たとえば、サブクラス1に分類された細胞の個数が、20であるとすると、出力部52は、「サブクラス1に分類された細胞の割合は20%(=20/100)である」ことを示す情報を出力する。出力部52は、サブクラス1の場合と同様に、サブクラス2から9に対しても、割合をそれぞれ算出して出力してもよい。
【0067】
ここで、1つのクラスに含まれている複数のサブクラスが、1つの細胞に対しての複数の状態に対応している場合、上述したようにサブクラスに分類することにより、細胞の種類のみでなく、細胞の状態も判定することができ、更に、それぞれの割合もわかる。
【0068】
また、出力部52は、細胞の全体の個数から、ノイズとしてサブクラス8または9のクラスCに分類された個数を減じた個数を、細胞の全体の個数としてもよい。この場合、ノイズの影響を減じることができる。
【0069】
上述したように、出力部52は、クラスまたはサブクラスに分類された情報を統計的に処理して、統計的な値として出力することができる。このように、出力部52は、判定部47により判定されたクラス(細胞の種類)を示す情報、または、分類処理部46による出力されたサブクラスを示す情報に基づいて、様々な形式で、分類された情報を出力することができる。
【0070】
<インキュベータ11による観察動作の例>
次に、図6の流れ図を参照しつつ、インキュベータ11による観察動作の一例を説明する。この図6は、恒温室15内に搬入された培養容器19を、登録された観察スケジュールに従ってタイムラプス観察する動作例を示している。
【0071】
ステップS101:CPU42は、記憶部43の管理データの観察スケジュールと現在日時とを比較して、培養容器19の観察開始時間が到来したか否かを判定する。観察開始時間となった場合(YES側)、CPU42はS102に処理を移行させる。一方、培養容器19の観察時間ではない場合(NO側)には、CPU42は次の観察スケジュールの時刻まで待機する。
【0072】
ステップS102:CPU42は、観察スケジュールに対応する培養容器19の搬送を容器搬送装置23に指示する。そして、容器搬送装置23は、指示された培養容器19をストッカー21から搬出して観察ユニット22の試料台31に載置する。なお、培養容器19が試料台31に載置された段階で、スタンドアーム32に内蔵されたバードビューカメラ(不図示)によって培養容器19の全体観察画像が撮像される。
【0073】
ステップS103:CPU42は、観察ユニット22に対して細胞の顕微鏡画像の撮像を指示する。観察ユニット22は、LED光源35を点灯させて培養容器19を照明するとともに、撮像装置34を駆動させて培養容器19内の細胞の顕微鏡画像を撮像する。
【0074】
このとき、撮像装置34は、記憶部43に記憶されている管理データに基づいて、ユーザの指定した撮像条件(対物レンズの倍率、容器内の観察地点)に基づいて顕微鏡画像を撮像する。例えば、培養容器19内の複数のポイントを観察する場合、観察ユニット22は、試料台31の駆動によって培養容器19の位置を逐次調整し、各々のポイントでそれぞれ顕微鏡画像を撮像する。なお、S103で取得された顕微鏡画像のデータは、制御装置41に読み込まれるとともに、CPU42の制御によって記憶部43に記録される。
【0075】
ステップS104:CPU42は、観察スケジュールの終了後に培養容器19の搬送を容器搬送装置23に指示する。そして、容器搬送装置23は、指示された培養容器19を観察ユニット22の試料台31からストッカー21の所定の収納位置に搬送する。その後、CPU42は、観察シーケンスを終了してS101に処理を戻す。
【0076】
この図6の流れ図を用いた説明により、インキュベータ11により観察された時系列の画像データが、記憶部43に記憶される。
【0077】
<培養状態評価処理>
次に図7を用いて、上述した図6の処理により記憶部43に記憶された画像データを用いて、制御装置41が、細胞を評価する分類モデルを構築する一例について説明する。ここでは、一例として、培養容器19をタイムラプス観察して取得した複数の顕微鏡画像を用いて、制御装置41が、培養容器19の培養細胞をサブクラスに分類する分類モデルを構築する場合について説明する。
【0078】
また、ここでは、図6の処理において、培養容器19のタイムラプス観察は、培養開始から0.33日目(8時間)経過後を初回として、0.33日おきに13.67日目まで行われているものとして説明する。また、ここでは、複数の培養容器19がそれぞれタイムラプス観察されており、上記のサンプルの顕微鏡画像が記憶部43に記憶されているものとして説明する。なお、制御装置41は、同じ培養容器19の複数ポイント(例えば5点観察または培養容器19の全体)を同じ観察時間帯で撮影した複数の顕微鏡画像を、タイムラプス観察の1回分の画像として扱うようにしてもよい。
【0079】
また、当該タイムラプス観察された細胞については、その種類および状態などの属性情報が細胞毎に既知となっているものとする。すなわち、その細胞が、図4または図5のいずれのサブクラスに属するかが、細胞毎に既知となっているものとする。これは、たとえば、培養容器19でタイムラプス観察された細胞が、任意の実験により、その種類および状態を予め調べられていてもよい。この任意の実験は、本実施形態によるタイムラプス観察が終了した後に行われる実験であってもよい。
【0080】
そして、制御装置41には、培養容器19毎の細胞の画像と、当該培養容器19で培養された細胞の種類および状態を示す情報とが、培養容器19毎に入力されるものとする。なお、細胞の種類および状態を示す情報は、インキュベータ11により観察された時系列の画像データと関連付けられて、記憶部43に記憶されていてもよい。
【0081】
ステップS201:CPU42は、予め用意されたサンプルの顕微鏡画像のデータを記憶部43から読み込む。なお、ステップS201でのCPU42は、各画像に対応する細胞の種類および状態を示す情報もこの時点で取得するものとする。
【0082】
ステップS202:CPU42は、上記のサンプルの顕微鏡画像(ステップS201)のうちから、処理対象となる画像を指定する。ここで、ステップS202でのCPU42は、予め用意されているサンプルの顕微鏡画像のすべてを処理対象として順次指定してゆくものとする。
【0083】
ステップS203:CPU42の特徴量演算部44は、処理対象の顕微鏡画像(ステップS202)について、画像内に含まれる細胞を抽出する。例えば、位相差顕微鏡で細胞を撮像すると、細胞壁のように位相差の変化の大きな部位の周辺にはハロが現れる。そのため、特徴量演算部44は、細胞壁に対応するハロを公知のエッジ抽出手法で抽出するとともに、輪郭追跡処理によってエッジで囲まれた閉空間を細胞と推定する。これにより上記の顕微鏡画像から個々の細胞を抽出することができる。
【0084】
ステップS204:CPU42の特徴量演算部44は、ステップS203で画像から抽出した各々の細胞について、細胞の異なる複数の形態的な特徴を示す複数の異る特徴量を画像からそれぞれ求める。このステップS204において、CPU42の特徴量演算部44は、上述した複数の異る特徴量として、16種類の特徴量を、ステップS203で画像から抽出した各々の細胞について求めるものとする。
【0085】
ステップS205:CPU42の特徴量演算部44は、処理対象の顕微鏡画像(ステップS202)について、各細胞の16種類の特徴量(ステップS204)をそれぞれ記憶部43に記録する。
【0086】
ステップS206:CPU42は、全ての顕微鏡画像が処理済み(全てのサンプルの顕微鏡画像で各細胞の特徴量が取得済みの状態)であるか否かを判定する。上記要件を満たす場合(YES側)には、CPU42はステップS209に処理を移行させる。一方、上記要件を満たさない場合(NO側)には、CPU42はステップS202に戻って、未処理の他の顕微鏡画像を処理対象として上記動作を繰り返す。
【0087】
ステップS209:CPU42の分類モデル構築部45は、特徴量演算部44により求められた特徴量に基づいて、細胞の種類および状態をサブクラスに分類するための分類モデルを構築する。
【0088】
ステップS210:CPU42の分類モデル構築部45は、ステップS209で構築して求めた分類モデルの情報(計算式に用いる各指標を示す情報、計算式で各々の指標に対応する係数値の情報など)を記憶部43に記録する。以上で、図7の説明を終了する。
【0089】
<図7のステップS204:CPU42の特徴量演算部44による処理の詳細>
次に、図8を用いて、図7のステップS204におけるCPU42の特徴量演算部44による処理について詳細に説明する。この特徴量演算部44は、各細胞について以下の16種類の特徴量をそれぞれ求める。
【0090】
・Total area(図8の(a)参照)「Total area」は、注目する細胞の面積を示す値である。例えば、特徴量演算部44は、注目する細胞の領域の画素数に基づいて「Total area」の値を求めることができる。
【0091】
・Hole area(図8の(b)参照)「Hole area」は、注目する細胞内のHoleの面積を示す値である。ここで、Holeは、コントラストによって、細胞内における画像の明るさが閾値以上となる部分(位相差観察では白に近い状態となる箇所)を指す。例えば、細胞内小器官の染色されたリソソームなどがHoleとして検出される。また、画像によっては、細胞核や、他の細胞小器官がHoleとして検出されうる。なお、特徴量演算部44は、細胞内における輝度値が閾値以上となる画素のまとまりをHoleとして検出し、このHoleの画素数に基づいて「Hole area」の値を求めればよい。
【0092】
・relative hole area(図8の(c)参照)「relative hole area」は、「Hole area」の値を「Total area」の値で除した値である(relative hole area=Hole area/Total area)。この「relative hole area」は、細胞の大きさにおける細胞内小器官の割合を示すパラメータであって、例えば細胞内小器官の肥大化や核の形の悪化などに応じてその値が変動する。
【0093】
・Perimeter(図8の(d)参照)「Perimeter」は、注目する細胞の外周の長さを示す値である。例えば、特徴量演算部44は、細胞を抽出するときの輪郭追跡処理により「Perimeter」の値を取得することができる。
【0094】
・Width(図8の(e)参照)「Width」は、注目する細胞の画像横方向(X方向)での長さを示す値である。
【0095】
・Height(図8の(f)参照)「Height」は、注目する細胞の画像縦方向(Y方向)での長さを示す値である。
【0096】
・Length(図8の(g)参照)「Length」は、注目する細胞を横切る線のうちの最大値(細胞の全長)を示す値である。
【0097】
・Breadth(図8の(h)参照)「Breadth」は、「Length」に直交する線のうちの最大値(細胞の横幅)を示す値である。
【0098】
・Fiber Length(図8の(i)参照)「Fiber Length」は、注目する細胞を擬似的に線状と仮定した場合の長さを示す値である。特徴量演算部44は、下式(1)により「Fiber Length」の値を求める。
【0099】
【数1】

【0100】
但し、本明細書の式において「P」はPerimeterの値を示す。同様に「A」はTotal Areaの値を示す。
【0101】
・Fiber Breadth(図8の(j)参照)「Fiber Breadth」は、注目する細胞を擬似的に線状と仮定した場合の幅(Fiber Lengthと直交する方向の長さ)を示す値である。特徴量演算部44は、下式(2)により「Fiber Breadth」の値を求める。
【0102】
【数2】

【0103】
・Shape Factor(図8の(k)参照)「Shape Factor」は、注目する細胞の円形度(細胞の丸さ)を示す値である。特徴量演算部44は、下式(3)により「Shape Factor」の値を求める。
【0104】
【数3】

【0105】
・Elliptical form Factor(図8の(l)参照)「Elliptical form Factor」は、「Length」の値を「Breadth」の値で除した値(Elliptical form Factor=Length/Breadth)であって、注目する細胞の細長さの度合いを示すパラメータとなる。
【0106】
・Inner radius(図8の(m)参照)「Inner radius」は、注目する細胞の内接円の半径を示す値である。
【0107】
・Outer radius(図8の(n)参照)「Outer radius」は、注目する細胞の外接円の半径を示す値である。
【0108】
・Mean radius(図8の(o)参照)「Mean radius」は、注目する細胞の輪郭を構成する全点とその重心点との平均距離を示す値である。
【0109】
・Equivalent radius(図8の(p)参照)「Equivalent radius」は、注目する細胞と同面積の円の半径を示す値である。この「Equivalent radius」のパラメータは、注目する細胞を仮想的に円に近似した場合の大きさを示している。
【0110】
ここで、CPU42の特徴量演算部44は、細胞に対応する画素数に誤差分を加味して上記の各特徴量を求めてもよい。このとき、特徴量演算部44は、顕微鏡画像の撮影条件(撮影倍率や顕微光学系の収差など)を考慮して特徴量を求めるようにしてもよい。なお、「Inner radius」、「Outer radius」、「Mean radius」、「Equivalent radius」を求めるときには、特徴量演算部44は、公知の重心演算の手法に基づいて各細胞の重心点を求め、この重心点を基準にして各パラメータを求めればよい。
【0111】
<図7のステップS211:CPU42の分類モデル構築部45による処理の詳細>
次に、図9から図11を用いて、図7のステップS211におけるCPU42の分類モデル構築部45による処理について詳細に説明する。
【0112】
なお、本実施形態においては、たとえば、時系列における特徴量において、全ての時系列における特徴量を分類モデルに用いることも可能であるし、時系列における一部の時刻の特徴量を分類モデルに用いることも可能である。この「時系列における一部の時刻の特徴量」とは、たとえば、「Elliptical form Factor」という特徴量の経過日数が3.00日目の値、「Elliptical form Factor」という特徴量の経過日数が3.33日目の値、・・・「Elliptical form Factor」という特徴量の経過日数が13.67日目の値と、それぞれの値のことである。ここでは、「時系列における一部の時刻の特徴量」を、「指標」として説明する。すなわち、測定された経過日数ごとの特徴量それぞれの値が、指標となる。
【0113】
ここでは、分類モデル構築部45が、ファジーニューラルネットワーク(Fuzzy Neural Network:FNN)解析によって上記の分類モデルを求める場合について説明する。
【0114】
また、ここでは、分類モデル構築部45が、特徴量に基づいて、各々の顕微鏡画像のセットにおいて、がん細胞の数(予測値)を求める場合の分類モデル(計算モデル)を求める場合について説明する。なお、ここでは、分類モデル構築部45が、がん細胞の数(予測値)を求める場合の分類モデルを構築する場合について説明しているが、評価属性の異なる細胞に分類する場合の分類モデルを構築する場合でも、分類モデルの構築方法は同様である。
【0115】
FNNとは、人工ニューラルネットワーク(Artificial Neural Network:ANN)とファジィ推論とを組み合わせた方法である。このFNNでは、ファジイ推論の欠点であるメンバーシップ関数の決定を人間に頼るという部分を回避すべく、ANNをファジィ推論に組み込んでその自動決定を行う。
【0116】
学習機械のひとつであるANN(図9参照)は、生体の脳における神経回路網を数学的にモデル化したものであり、以下の特徴を持つ。ANNにおける学習は、目的の出力値(教師値)をもつ学習用のデータ(入力値:X)を用いて、バックプロパゲーション(Back propagation:BP)法により教師値と出力値(Y)との誤差が小さくなるように、ノード(図9において丸で示す)間をつなぐ回路における結合荷重を変え、その出力値が教師値に近づくようにモデルを構築する過程である。このBP法を用いれば、ANNは学習により自動的に知識を獲得することができる。そして、最終的に学習に用いていないデータを入力することにより、そのモデルの汎用性を評価できる。
【0117】
従来、メンバーシップ関数の決定は、人間の感覚に頼っていたが、上で述べたようなANNをファジイ推論に組み込むことで自動的なメンバーシップ関数の同定が可能になる。これがFNNである。FNNでは、ANNと同様に、BP法を用いることによりネットワークに与えられた入出力関係を、結合荷重を変化させることで自動的に同定しモデル化できる。FNNは、学習後のモデルを解析することでファジィ推論のように人間に理解しやすい言語的なルール(一例として図10の右下の吹き出しを参照)として知識を獲得できるという特徴をもっている。つまり、FNNは、その構造、特徴から、細胞の形態的特徴を表した数値のような変数の組み合わせにおける最適なファジィ推論の組み合わせを自動決定し、予測目標に関する推定と、予測に有効な特徴量(指標)の組み合わせを示すルールの生成を同時に行うことができる。
【0118】
FNNの構造は、「入力層」、シグモイド関数に含まれるパラメータWc、Wgを決定する「メンバーシップ関数部分(前件部)」、Wfを決定するとともに入力および出力の関係をルールとして取り出すことが可能な「ファジィルール部分(後件部)」、「出力層」の4層から成り立っている(図10参照)。FNNのモデル構造を決定する結合荷重にはWc、Wg、Wfがある。結合荷重Wcは、メンバーシップ関数に用いられるシグモイド関数の中心位置、Wgは中心位置での傾きを決定する(図11参照)。モデル内では、入力値がファジィ関数により、人間の感覚的に近い柔軟性を持って表現される(一例として図10の左下の吹き出しを参照)。結合荷重Wfは各ファジイ領域の推定結果に対する寄与を表しており、Wfよりファジィルールを導くことができる。即ち、モデル内の構造はあとから解読でき、ルールとして書き起こすことができる(一例として図10中右下の吹き出しを参照)。
【0119】
FNN解析におけるファジィルールの作成には結合荷重のひとつであるWf値が用いられる。Wf値が正の値で大きいと、そのユニットは「予測に有効である」と判定されることに対する寄与が大きく、そのルールに当てはまった指標は「有効である」と判断される。Wf値が負の値で小さいと、そのユニットは「予測に有効でない」と判定されることに対する寄与が大きく、そのルールに当てはまった指標は「有効でない」と判断される。
【0120】
より具体的な例として、ステップS209での分類モデル構築部45は、以下の(A)から(H)の処理により、上記の分類モデルを求める。
【0121】
(A)分類モデル構築部45は、複数の指標のうちから1つの指標を選択する。
【0122】
(B)分類モデル構築部45は、(A)で選択された指標を変数とした計算式により、各々の顕微鏡画像のセットでのがん細胞の数(予測値)を求める。
【0123】
仮に、1つの指標からがん細胞の数を求める計算式を「Y=αX1」(但し、「Y」はがん細胞の計算値(例えばがん細胞の増加数を示す値)、「X1」は上記の選択された指標の値、「α」はX1に対応する係数値、をそれぞれ示す。)とする。このとき、分類モデル構築部45は、αに任意の値を代入するとともに、X1に各セットにおける値をそれぞれ代入する。これにより、各セットでのがん細胞の計算値(Y)が求められる。
【0124】
(C)分類モデル構築部45は、各々の顕微鏡画像のセットについて、(B)で求めた計算値Yと、実際のがん細胞の数(教師値)との誤差をそれぞれ求める。なお、上記の教師値は、ステップS201で読み込んだがん細胞の数の情報に基づいて、分類モデル構築部45が求めるものとする。
【0125】
そして、分類モデル構築部45は、各顕微鏡画像のセットでの計算値の誤差がより小さくなるように、教師付き学習により上記の計算式の係数αを修正する。
【0126】
(D)分類モデル構築部45は、上記の(B)および(C)の処理を繰り返し、上記(A)の指標について、計算値の平均誤差が最も小さくなる計算式のモデルを取得する。
【0127】
(E)分類モデル構築部45は、複数の指標の各指標について、上記(A)から(D)の各処理を繰り返す。そして、分類モデル構築部45は、各指標における計算値の平均誤差を比較し、その平均誤差が最も低くなる指標を、評価情報の生成に用いる(評価情報を計算する分類モデルを構築するために用いる)1番目の指標とする。この評価情報とは、図5を用いて説明した、複数のサブクラスのうちのいずれかのサブクラス、または、いずれかのサブクラスを示す情報のことである。
【0128】
(F)分類モデル構築部45は、上記(E)で求めた1番目の指標と組み合わせる2番目の指標を求める。このとき、分類モデル構築部45は、上記の1番目の指標と残りの127の指標とを1つずつペアにしてゆく。次に、分類モデル構築部45は、各々のペアにおいて、計算式でがん細胞の予測誤差を求める。
【0129】
仮に、2つの指標からがん細胞の数を求める計算式を「Y=αX1+βX2」(但し、「Y」はがん細胞の計算値、「X1」は1番目の指標の値、「α」はX1に対応する係数値、「X2」は、選択された指標の値、「β」はX2に対応する係数値、をそれぞれ示す。)とする。そして、分類モデル構築部45は、上記の(B)および(C)と同様の処理により、計算値の平均誤差が最も小さくなるように、上記の係数α、βの値を求める。
【0130】
その後、分類モデル構築部45は、各々のペアで求めた計算値の平均誤差を比較し、その平均誤差が最も低くなるペアを求める。そして、分類モデル構築部45は、平均誤差が最も低くなるペアの指標を、評価情報の生成に用いる1番目および2番目の指標とする。
【0131】
(G)分類モデル構築部45は、所定の終了条件を満たした段階で演算処理を終了する。例えば、分類モデル構築部45は、指標を増やす前後の各計算式による平均誤差を比較する。そして、分類モデル構築部45は、指標を増やした後の計算式による平均誤差が、指標を増やす前の計算式による平均誤差より高い場合(または両者の差が許容範囲に収まる場合)には、ステップS209の演算処理を終了する。
【0132】
(H)一方、上記(G)で終了条件を満たさない場合、分類モデル構築部45は、さらに指標の数を1つ増やして、上記(F)および(G)と同様の処理を繰り返す。これにより、上記の分類モデルを求めるときに、ステップワイズな変数選択によって指標の絞り込みが行われることとなる。
【0133】
このようにして、分類モデル構築部45は、一例としては、FNN解析によって分類モデルを求めることができる。
【0134】
なお、ここでは、分類モデル構築部45が、FNN解析によって上記の分類モデルを求める場合について説明したが、分類モデルを求める方法はFNN解析に限られるものではない。たとえば、分類モデル構築部45は、上述した複数の特徴量を説明変量として、細胞の特性を評価する任意の形式の多変量解析により分類モデルを構築してもよい。この多変量解析とは、重回帰分析、判別分析、ロジスティック回帰分析、または、主成分分析などであってもよい。また、分類モデル構築部45は、上述したように、階層型クラスタリング技術などのクラスタリング技術を用いて分類モデルを構築してもよい。
【0135】
ここで、図7を用いて説明したように、分類モデル構築部45が分類モデルを構築する場合には、その細胞が、図4または図5のいずれのサブクラスに属するかが、細胞毎に既知となっている必要がある。このことから、逆に、その細胞は、細胞毎に、図4または図5のいずれのサブクラスに属するかが既知となってさえいればよい。
【0136】
そのため、たとえば、図4(a)に示されるように線維芽細胞のみを1つの培養容器19内で培養した画像と、図4(b)に示されるように角化細胞のみを1つの培養容器19内で培養した画像とに基づいて、分類モデル構築部45は、分類モデルを構築してもよい。この場合、分類モデル構築部45は、それぞれの画像から抽出した細胞の画像領域と、その画像領域の細胞に対応する既知のサブクラスとに基づいて、分類モデルを構築する。この場合、ユーザは、線維芽細胞と角化細胞とを同一の培養容器19内で培養した画像などを用意する必要がないため、分類モデルを容易に構築することができる。
【0137】
また、細胞がいずれのサブクラスに属するかという属性情報の1つの属性情報として、その細胞の種類についての情報が必要である。上記のように細胞それぞれを、細胞の種類に応じて、細胞を独立したそれぞれの培養容器19内で培養している場合には、その培養容器19内で培養されている細胞の種類は1種類で既知である。そのため、細胞の属性情報のうち細胞の種類を既知とすることが容易となる。
【0138】
このように、本実施形態においては、分類モデル構築部45が構築する分類モデルは、細胞1つずつを分類する分類モデルである。そのために、ユーザは、分類モデルを構築するための画像の取得を、容易に行うことが可能である。また、ユーザは、分類モデルを構築するための画像を得るための実験を、容易に行うことが可能である。
【0139】
なお、分類モデル構築部45が、たとえば、教師なしのクラスタリング技術を用いて分類モデルを構築する場合には、分類モデルを構築する場合に、その細胞が、図4または図5のいずれのサブクラスに属するかが、細胞毎に既知となっている必要はない。この場合、形態的特徴が似ている細胞が、サブクラスとなるようにして、分類モデルが構築される。また、この場合、サブクラスも、分類モデル構築部45により生成されることになる。
【0140】
<図7のステップS209により構築された分類モデルの一例>
ここで、図7のステップS209により構築された分類モデルの一例について、上記に説明した図5を用いて説明する。ここでは、クラスタリング技術の一例として、階層化クラスタリング技術により構築されている場合の分類モデルについて説明する。
【0141】
この図5において、構築された分類モデルは、まず、評価対象の細胞(図5の「入力」に入力された細胞)に対して、特徴量演算部44により求められた上述の16個の特徴量のうち、「Shape Factor」が予め定められている値よりも大きいか否かにより、評価対象の細胞を、サブクラス1、2、3、8および9と、サブクラス4、5、6および7とのうち、いずれに属するかを分類する。
【0142】
評価対象の細胞がサブクラス1、2、3、8および9に分類された場合には、構築された分類モデルは、次に、16個の特徴量のうち「Total area」が予め定められている値よりも大きいか否かにより、評価対象の細胞を、サブクラス1、2および3と、サブクラス8および9とのうち、いずれに属するかを分類する。
【0143】
評価対象の細胞がサブクラス1、2および3に分類された場合には、構築された分類モデルは、次に、16個の特徴量のうち「Fiber Length」が予め定められている値よりも大きいか否かにより、評価対象の細胞を、サブクラス1と、サブクラス2および3とのうち、いずれに属するかを分類する。
【0144】
評価対象の細胞がサブクラス2および3に分類された場合には、構築された分類モデルは、次に、16個の特徴量のうち「Total area」が予め定められている値よりも大きいか否かにより、評価対象の細胞を、サブクラス2とサブクラス3とのうち、いずれに属するかを分類する。
【0145】
これにより、サブクラス1、2および3に分類された評価対象の細胞は、さらに、サブクラス1から3のいずれかのサブクラスに分類される。また、図5に示されるように、サブクラス1、2および3に分類された評価対象の細胞の場合と同様に、サブクラス8および9に分類された評価対象の細胞は、さらに、サブクラス8または9のいずれかのサブクラスに分類される。また、同様に、サブクラス4、5、6および7に分類された評価対象の細胞は、さらに、さらに、サブクラス4、5、6または7のいずれかのサブクラスに分類される。
【0146】
そして、判定部47が、分類されたサブクラスに基づいて、対象細胞の種類を示すクラスを判定する。これにより、細胞の種類が判定される。
【0147】
ここで、上記の分類方法により、分類における精度が向上する理由について説明する。ここでは、一例として、人間を、女性と男性との2つのクラスに分類する場合について説明する。
【0148】
もし、人間を、女性と男性との2つのクラスにだけ分類しようとする場合に、分類先となるクラスの数が少ない場合には、形態的特徴に基づいて、人間を少数のクラスに分類することが難しいことがある。
【0149】
たとえば、身長や体重などの形態的特徴だけから、男性に対応するクラスと女性に対応するクラスとの2つのクラスなどのように、少数のクラスに分類することは難しいことがある。なぜなら、一般的には、男性であれば背が高く女性であれば背が低いが、女性の中にも背の高い人もいれば、男性の中にも背の低い人もいるためである。
【0150】
ところで、女性を予め3つのサブクラス(A,B,C)にわけ、男性も3つのサブクラス(D,E,F)にわけておく。そうすると、この6つのサブクラスにおいては、個々の集団の形態的特徴について、まとまりがそれぞれ出てくる。
【0151】
たとえば、女性の3つのサブクラスとして、次の3つのサブクラスとする。
・サブクラスA:背が高く、やせていて、足が長い。
・サブクラスB:背は普通だが、足が長く、かつ、手足が小さい。
・サブクラスC:背が低いが、やせていて、かつ、手足が小さい。
【0152】
つまり、サブクラスA,B,Cが混じっていると、背の高さと、やせている度合いと、手足の小ささとのいずれを用いても、適切に女性を分類できないことが生じる。これに対して、はじめから3つのサブクラスに分類しておくと、適切に分けることができる。
【0153】
また、これらが適切に分けることができると、「男性」との分類の精度もよくなり、いままでのように、女性全体だと曖昧だったものが、サブクラスAとCは、きっちりと、男性との違いが出ており、サブクラスBだけ男性との違いが少し曖昧である、というように、よく分類できるサブクラスが出てくる。
【0154】
このように、形態的特徴に基づいて、女性を男性から、曖昧なサブクラス(サブクラスB)に分類されることもあるが、きっちりと分類できるサブクラス(サブクラスAとC)にも分類する。このきっちりと分類できるサブクラスに分類された場合には、女性である可能性が非常に高い。そのため、全体の精度として向上する。
【0155】
このように、複数のグループから構成される集合体をあらかじめ分離しておくと、各種グループの形態的特徴が明確化するため、予測精度を向上させることができる。よって、図4および図5を用いて説明した分類モデルを用いている細胞評価装置は、評価対象となる細胞に対して、精度良く、その細胞の種類を判定することができる。
【0156】
また、判別不能またはノイズとして分類されるサブクラス(図5のサブクラス8と9とを参照)も、サブクラスの分類先となるようにして、分類モデルが構築されている。これにより、判別不能またはノイズとなるような物体が画像に含まれている場合であっても、この分類モデルは、その物体を、いずれかの細胞であると誤分類(誤判定)することなく、判別不能またはノイズとして分類されるサブクラスとして分類することができる。
【0157】
よって、この分類モデルを用いる細胞評価装置は、判別不能またはノイズとなるような物体の影響を減じて、細胞をサブクラスに分類することができる。よって、この分類モデルを用いる細胞評価装置は、判別不能またはノイズとなるような物体の影響を減じて、細胞の種類を判定することができる。
【0158】
(細胞を評価する場合の処理の例)
次に、図12の流れ図を用いて、細胞評価装置が、評価対象となる細胞を分類する場合の処理について説明する。ここでは、評価対象となる複数の顕微鏡画像のデータが、記憶部43に記憶されているものとして説明する。なお、評価対象の顕微鏡画像は、細胞群を培養した培養容器19をインキュベータ11によって同一視野を同一の撮影条件でタイムラプス観察して取得されたものとする。また、この場合のタイムラプス観察は、図7の例と条件を揃えるために、培養開始から0.33日目(8時間目)経過後を初回として0.33日(8時間)おきに13.67日目まで行われているものとする。
【0159】
ステップS301:CPU42は、評価対象となる複数の顕微鏡画像のデータを、画像入力部51を介して記憶部43から読み込む。次に、CPU42の特徴量演算部44は、読み込んだ評価対象となる複数の顕微鏡画像のデータに対して、図7のステップS203、ステップS204、および、ステップS205の場合と同様に、複数の特徴量を抽出する。
【0160】
ステップS302:CPU42の分類処理部46は、記憶部43から分類モデルの情報(図7のステップS210で記録されたもの)を読み込む。
【0161】
ステップS304:CPU42の分類処理部46は、ステップS301で求めた複数の特徴量を、ステップS302で読み出した分類モデルに代入して演算を行う。そして、CPU42の分類処理部46は、上記の演算結果に基づいて、評価対象の顕微鏡画像に対して分類した結果を示す評価情報を生成する。この評価情報とは、分類されたサブクラスを示す情報、または、分類されたサブクラスに対応しているラベルのことである。
【0162】
その後、CPU42の判定部47は、分類処理部46により分類されたサブクラスまたはラベルに基づいて、対象細胞の種類を示すクラスを判定する。これにより、対象細胞の種類が判定される。次に、CPU42の出力部52は、判定部47により判定された結果に基づいた出力を、不図示のモニタ等に表示させる。以上で、図12の説明を終了する。
【0163】
このようにして、本実施形態による細胞評価装置は、細胞の画像のみにより、細胞の種類を判定することができる。そのため、本実施形態による細胞評価装置は、比較的簡易な手法で、評価対象とする細胞の種類を判定することができる。
【0164】
また、本実施形態によれば、制御装置41は、タイムラプス観察で取得した顕微鏡画像を用いて、特徴量に基づいて細胞を精度よく分類することができる。また、本実施形態の制御装置41は、ありのままの細胞を分類する対象にできるので、例えば医薬品のスクリーニングや再生医療の用途で培養される細胞を分類するときに極めて有用である。
【0165】
また、医薬品のスクリーニングや再生医療の用途で培養される細胞として、線維芽細胞を培養する場合、培養する線維芽細胞に角化細胞が混入されているか否かを容易に確認することができる。その逆に、培養する角化細胞に線維芽細胞が混入されているか否かを容易に確認することもできる。そのため、医薬品のスクリーニング、再生医療、および、化粧品の開発に好適である。
【0166】
なお、本実施形態では、顕微鏡画像から細胞を分類する例を説明したが、例えば、制御装置41を、顕微鏡画像から異種細胞の混在率を評価することに用いることや、胚性幹細胞(ES細胞)や人工多能性幹細胞(iPS細胞)の分化誘導の度合いの評価に用いることも可能である。また、本実施形態で求めた評価情報は、評価対象の培養細胞群における分化・脱分化・腫瘍化・活性劣化・細胞のコンタミネーション等の異常検出手段や、評価対象の培養細胞群の品質を工学的に管理するときの手段として用いることができる。
【0167】
また、本実施形態による細胞評価装置は、画像に基づいて細胞を評価(分類)する。そのため、本実施形態による細胞評価装置は、細胞に対して非侵襲に、細胞を評価することができる。よって、細胞を培養しながら、その細胞そのものを撮像した画像に基づいて、細胞を評価することができる。そのため、本実施形態による細胞評価装置は、細胞の培養において、好適である。
【0168】
なお、上記の説明においては、本実施形態による細胞評価装置は、一例として細胞線維芽細胞と角化細胞との2種類の細胞、および、それらのノイズとについて、細胞を9つのサブクラスに分類する場合について説明した。しかし、これに限られるものではなく、本実施形態による細胞評価装置は、分類する細胞の種類数、そのサブクラスの数は任意であってもよい。また、クラスの数も任意であってもよい。これらの数は、細胞を分類したいユーザにより定められてもよいし、細胞をサブクラスに分類できる精度に依存して定められてもよい。
【0169】
ところで、サブクラスに分類された情報のすべてについて同等に分析した場合、画像分析して得られた対象がノイズの可能性があるにも関わらず、そのノイズ情報も考慮して分析されてしまう可能性がある。そのため、細胞に対しての解析の精度が落ちてしまう可能性がある。
【0170】
これに対して、本実施形態においては、サブクラスに分類する場合に、細胞を、予め定められている細胞の種類に対応して予め定められているサブクラス(図5のサブクラス1から3と、4から7とを参照)、または、複数の細胞の種類に該当しない予め定められているサブクラス(図5のサブクラス8と9を参照)に、分類する。そのため、比較的簡易な手法で、評価対象とする細胞を、評価対象とする細胞とそれ以外のクラスに分けることができる。そのため、ノイズ情報を既知にした上で、解析することも可能である。また、細胞を評価する場合、評価対象とする細胞に、評価対象として適切でない細胞が含まれている場合であっても、評価対象とする細胞を、適切に細胞を評価できる。
【0171】
図13は、本実施形態の細胞評価装置を用いた細胞の培養方法を説明するためのフローチャートである。本フローチャートでは、増殖させたい所望の細胞が培養されている培養容器19が、インキュベータ11のストッカー21が有する複数の棚のうちのいずれかに、収納されているものとして説明する。
【0172】
まず、ステップS1201において、CPU42は、予め決められた培養条件(例えば所定の温度、湿度等)で細胞を培養するよう温度調整装置15aと湿度調整装置15bとを制御する。所定期間経過後、ステップS1202において、CPU42は、記憶部43から読み出した本発明の実施形態の細胞評価プログラムを実行し、細胞を評価(分類)する。
【0173】
次に、ステップS1203において、CPU42は、細胞の評価結果(分類結果)に基づき、培養を中止するか、培養条件を変更するか、または現在の培養条件で培養を続行するか判定する。
【0174】
次に、ステップS1204において、CPU42が培養を中止すると判定した場合(ステップS1204 YES)、CPU42は培養の中止を示す情報を不図示のモニタ等に表示させ、処理を終了する。
一方、CPU42は培養を中止すると判定しなかった場合(ステップS1204 NO)、CPU42はステップS1205の処理に進む。
【0175】
次に、ステップS1205において、CPU42が培養条件を変更すると判定した場合(ステップS1205 YES)、CPU42は、細胞の状態の評価結果と関係付けられた培養条件(例えば所定の温度、湿度等)に変更するよう温度調整装置15aと湿度調整装置15bとを制御する(ステップS1206)。その後、CPU42は、ステップS1202に処理を戻す。
一方、CPU42が現在の培養条件で培養を続行すると判定した場合(ステップS1205 NO)、CPU42はステップS1207に処理を進める。
【0176】
次に、ステップS1207において、CPU42は、予め決められた時間の経過毎に、撮像装置34により撮像された画像から、細胞が撮像されている画像の領域を細胞ごとに抽出し、この抽出した細胞が撮像されている画像の領域の数すなわち細胞数を計数する。
【0177】
次に、ステップS1208において、計数された細胞数が所定の細胞数に到達していない場合(ステップS1208 NO)、計数された細胞数に応じた時間が経過した後、CPU42はステップS1202に処理を戻す。
一方、計数された細胞数が所定の細胞数に到達した場合(ステップS1208 YES)、CPU42はその細胞の培養が完了した旨を示す情報を、不図示のモニタ等に表示させる。以上で、本フローチャートは、終了する。
【0178】
以上により、本発明の細胞の培養方法を用いれば、細胞の評価に基づいて動的に培養条件を変更することができるので、所望の細胞を容易に増殖させることができる。
【0179】
なお、図13の処理において、CPU42は、判定した結果を表示部などに表示してもよい。そして、ユーザは、この表示部に表示された結果に応じて、培養条件などを変更する情報を、入力部を介してCPU42に入力する。このようにして、CPU42は、ユーザにより入力された情報に基づいて、培養条件などを変更してもよい。
【0180】
<実施形態の補足事項>
(1)上記の第1または第2の実施形態では、インキュベータ11の制御装置41に細胞評価装置を組み込んだ例を説明したが、本発明の細胞評価装置は、インキュベータ11から顕微鏡画像を取得して解析を行う外部の独立したコンピュータで構成されていてもよい(この場合の図示は省略する)。
【0181】
(2)また、本発明の細胞評価装置は、複数の分類モデルを組み合わせて、これらの分類モデルによる演算結果の多数決(あるいは重み付け平均)によって、最終的な評価情報を生成するようにしてもよい。この場合には、例えば、ある条件ではMRAが強く、ある条件ではFNNが強いというように、一方の分類モデルでは精度の低い状況を他のモデルによってカバーすることができ、評価情報の精度をより高めることができる。
【0182】
(3)また、細胞評価装置は、評価情報の分類モデルを求めるときに、最初に複数の指標を組み合わせでの計算結果を演算し、変数増減法により指標を増減させるようにしてもよい。また、データの精度が高ければ指標を全て用いても良い。
【0183】
(4)上記の実施形態や実施例に示した特徴量はあくまで一例にすぎず、評価対象の細胞の種類などに応じて他の特徴量のパラメータを採用することも勿論可能である。
【0184】
なお、図1における制御装置41が備える各構成は専用のハードウェアにより実現されるものであってもよく、また、メモリおよびマイクロプロセッサにより実現させるものであってもよい。
なお、この図1の制御装置41が備える各構成は専用のハードウェアにより実現されるものであってもよく、また、この制御装置41が備える各構成はメモリおよびCPU(中央演算装置)により構成され、制御装置41が備える各構成の機能を実現するためのプログラムをメモリにロードして実行することによりその機能を実現させるものであってもよい。
【0185】
また、図1における制御装置41が備える各構成の機能を実現するためのプログラムをコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録して、この記録媒体に記録されたプログラムをコンピュータシステムに読み込ませ、実行することにより制御装置41が備える各構成による処理を行ってもよい。なお、ここでいう「コンピュータシステム」とは、OSや周辺機器等のハードウェアを含むものとする。
【0186】
また、「コンピュータシステム」は、WWWシステムを利用している場合であれば、ホームページ提供環境(あるいは表示環境)も含むものとする。
また、「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、フレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM、CD−ROM等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置のことをいう。さらに「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、インターネット等のネットワークや電話回線等の通信回線を介してプログラムを送信する場合の通信線のように、短時間の間、動的にプログラムを保持するもの、その場合のサーバやクライアントとなるコンピュータシステム内部の揮発性メモリのように、一定時間プログラムを保持しているものも含むものとする。また上記プログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであっても良く、さらに前述した機能をコンピュータシステムにすでに記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるものであっても良い。
【0187】
以上の詳細な説明により、実施形態の特徴点および利点は明らかになるであろう。これは、特許請求の範囲が、その精神および権利範囲を逸脱しない範囲で前述のような実施形態の特徴点および利点にまで及ぶことを意図するものである。また、当該技術分野において通常の知識を有する者であれば、あらゆる改良および変更に容易に想到できるはずであり、発明性を有する実施形態の範囲を前述したものに限定する意図はなく、実施形態に開示された範囲に含まれる適当な改良物および均等物によることも可能である。
【符号の説明】
【0188】
11…インキュベータ、15…恒温室、19…培養容器、22…観察ユニット、34…撮像装置、41…制御装置、42…CPU、43…記憶部、44…特徴量演算部、45…分類モデル構築部、46…分類処理部、47…判定部、50…画像読込部、51…画像入力部、52…出力部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象細胞が撮像されている画像を取得する画像取得部と、
前記取得した画像に撮像されている前記対象細胞の形態的特徴を示す複数種類の特徴量を求める特徴量取得部と、
前記特徴量取得部により求められた複数種類の前記特徴量を、複数種類の前記特徴量に応じて、細胞の種類毎に、1つの種類の細胞を評価属性の異なる複数のサブクラスに分類する分類モデルに基づいて分類し、前記対象細胞をサブクラスに分類する分類処理部と、
前記分類されたサブクラスに基づいて、前記対象細胞の種類を示すクラスを判定する判定部と、
を備えていることを特徴とする細胞評価装置。
【請求項2】
前記分類モデルは、
前記複数のサブクラスとして、前記細胞の特徴に基づいた、当該1つの種類の細胞に対して判別不能またはノイズとして分類されるサブクラスであって、予め定められている少なくとも1つのサブクラスを有している、
ことを特徴とする請求項1に記載の細胞評価装置。
【請求項3】
前記分類モデルは、
前記判別不能またはノイズとして分類されるサブクラスが、複数の細胞の種類に対してそれぞれ構築されている、
ことを特徴とする請求項2に記載の細胞評価装置。
【請求項4】
前記画像取得部は、
前記対象細胞が撮像されている画像を時系列に取得し、
前記特徴量取得部は、
前記対象細胞の前記複数種類の特徴量を、前記時系列に取得した画像に撮像されている画像毎に求め、当該時系列に取得した画像に撮像されている画像毎に求めた特徴量の前記時系列に対しての差分を、前記特徴量に含めて求める、
ことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の細胞評価装置。
【請求項5】
前記分類モデルは、クラスタリング技術により、予め構築されている、
ことを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の細胞評価装置。
【請求項6】
前記分類モデルは、細胞の種類毎に、1種類の細胞が撮像されている画像に基づいて、構築されている、
ことを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の細胞評価装置。
【請求項7】
前記判定した細胞の種類の結果に基づいて、異種細胞の混入を検出する、または、それぞれの細胞の混在率を算出して出力する出力部、
を備えていることを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の細胞評価装置。
【請求項8】
細胞が撮像されている画像を取得する画像取得部と、
前記画像に含まれる前記対象細胞の形態的特徴を示す複数種類の特徴量を求める特徴量取得部と、
前記特徴量取得部により求められた複数種類の前記特徴量を、複数種類の前記特徴量に基づいて評価属性の異なる細胞をサブクラスに分類する分類モデルに基づいて分類し、前記対象細胞をサブクラスに分類する分類処理部と、
を有し、
前記分類モデルは、
前記評価属性の異なる細胞をサブクラスに分類する場合に、
予め定められている細胞の種類に対応して予め定められているサブクラス、または、前記複数の細胞の種類に該当しない予め定められているサブクラスに分類する、
ことを特徴とする細胞評価装置。
【請求項9】
細胞を培養する培養容器を収納するとともに、所定の環境条件に内部を維持可能な恒温室と、
前記恒温室内で前記培養容器に含まれる前記細胞の画像を撮像し、前記画像取得部に撮像された画像を出力する撮像装置と、
請求項1から請求項8のいずれか1項に記載の細胞評価装置と、
を備えるインキュベータ。
【請求項10】
コンピュータを、請求項1から請求項8のいずれか1項に記載の細胞評価装置として機能させるプログラム。
【請求項11】
請求項1から請求項8のいずれか1項に記載の細胞評価装置が備えている前記画像取得部は、培養容器内で培養されている細胞が撮像されている画像を取得し、
請求項1から請求項8のいずれか1項に記載の細胞評価装置が備えている前記分類処理部により分類されたクラスに基づき、前記培養容器内で培養されている細胞の培養条件を変更することを特徴とする細胞の培養方法。

【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−229413(P2011−229413A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−100166(P2010−100166)
【出願日】平成22年4月23日(2010.4.23)
【出願人】(504139662)国立大学法人名古屋大学 (996)
【出願人】(000004112)株式会社ニコン (12,601)
【Fターム(参考)】