細胞透過性Nm23組換えタンパク質、これをコードするポリヌクレオチド及びこれを有効成分として含有する癌転移抑制用組成物
本発明は、癌転移抑制因子Nm23に巨大分子伝達ドメイン(MTD)が融合されて細胞透過性を有するNm23組換えタンパク質、前記細胞透過性Nm23組換えタンパク質をコードするポリヌクレオチド、前記細胞透過性Nm23組換えタンパク質の発現ベクター及び前記細胞透過性Nm23組換えタンパク質を有効成分として含有する癌転移抑制用薬学的組成物に関する。本発明の細胞透過性Nm23組換えタンパク質は、癌転移抑制因子であるNm23を細胞内に高効率で導入してKSRのリン酸化及び不活性化を誘導し、Ras媒介性MAPKカスケードを抑制させることによって、癌細胞の増殖、分化及び移動を抑制して癌転移を効果的に予防できる癌転移抑制剤として有用に用いられる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、癌転移抑制因子(metastasis supressor)Nm23に巨大分子伝達ドメイン(macromolecule transduction domain;MTD)が融合されて細胞透過性を有するNm23組換えタンパク質、前記細胞透過性Nm23組換えタンパク質をコードするポリヌクレオチド、前記細胞透過性Nm23組換えタンパク質の発現ベクター、及び前記細胞透過性Nm23組換えタンパク質を有効成分として含有する癌転移抑制用薬学的組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
Nm23遺伝子は、正常組織の発達及び分化に関与するタンパク質をコードし、様々な転移性細胞株においてその減少した発現が報告されている。一般に、150〜180個のアミノ酸からなるNm23タンパク質は、ロイシンジッパーモチーフ(leucine zipper motif)を含み、二リン酸ヌクレオシドキナーゼ(nucleoside diphosphate kinase;NDPK)活性を有する。2つのヒトNm23異性体であるNm23−H1及びNm23−H2は、それぞれ17,143及び17,294の分子量を有する152個のアミノ酸からなる。特に、Nm23−H1は、腫瘍の転移及び他の様々な細胞機構、例えば、細胞増殖、胚発達、分化、腫瘍形成などに重要な役割を担当することが究明されている。
【0003】
Nm23が癌転移及び発達に影響を及ぼす機構は、今のところ明確に明らかになってはいない。NDPKは、共有結合性リン酸化酵素(phosphoenzyme)中間体を通じて三リン酸と二リン酸ヌクレオシドとの間にリン酸基を伝達するが、Nm23−H1及びNm23−H2のヒスチジン118は、このような一時的なリン酸化部位として作用する。NDPK関連ヒスチジンリン酸化とは別個に、セリンの自己リン酸化(autophosphorylation)がNm23で観察された(MacDonald NJら、J.Biol.Chem.268:25780−25789(1993)(非特許文献1))。Nm23でトランスフェクトされたマウスの黒色腫細胞を対照細胞と比較することにより、Nm23のセリンの生体内リン酸化水準と腫瘍転移能の抑制との間に直接的な関連性が観察された。マウスNm23のセリンリン酸化は、生体内でcAMPにより、そして生体外でフォースコリン(forskolin)により抑制されるが、これは、前記リン酸化が信号伝達経路により調節されることを示す。
【0004】
強力な癌転移抑制遺伝子としてのNm23は、もともとその発現が転移能の低いマウス黒色腫細胞株と密接に関連していると報告されている。Nm23の減少した発現が腫瘍転移と関連しているというのは、Nm23が癌転移抑制因子であることを示す直接的な証拠であると考えられている(Steeg、P.S.、Breast Dis.10:47−50(1998)(非特許文献2))。Nm23の誘導性高発現は、高転移性癌細胞株において顕著に減少した転移能を示した。暫定的な癌転移抑制因子遺伝子としてクローニングされたNm23遺伝子は、NDPK活性以外に、セリン/トレオニン特異的ホスホトランスフェラーゼ(serine/threonine specific phosphotransferase)及びヒスチジンタンパク質キナーゼ(histidine protein kinase)活性を有している。Nm23の発現はまた、造血肝細胞(hematopoietic stem cell;HSC)が分化される間に減少するが、これは、Nm23が細胞において抗分化に重要な因子であることを立証するものである(Gervasi、F.ら、Cell Growth Differ 7:1689−95(1996)(非特許文献3))。Nm23は、ヒト腫瘍の遺伝子強制誘導性発現及びインビトロ(in vitro)転移モデルシステムにおいて、一時的感染の際、強力な癌転移抑制効果を示すことが確認された(Hirayama、R.ら、J.Natl.Cancer Inst.83:1249−50(1991)(非特許文献4);Nakayama、T.ら、J.Natl.Cancer Inst.84:1349−54(1992)(非特許文献5);Leone、A.ら、Oncogene 8:2325−33(1993)(非特許文献6); Leone、A.ら、Oncogene 8:855−65(1993)(非特許文献7))。しかし、NDPK活性の消失をもたらすNm23の突然変異は、乳癌細胞においてNm23の抑制機能に影響を及ぼさなかった(MacDonald、N.J.ら、J.Biol.Chem.271:25107−16(1996)(非特許文献8))。
【0005】
Nm23が癌転移抑制因子であるという事実を立証する最も強力な証拠は、癌細胞株内へのNm23遺伝子のトランスフェクションである。転移適格細胞(metastatically competent cells)において、Nm23の細胞内高用量は、対照群のトランスフェクト体に比べて40〜98%減の転移活性を示した(Leone、A.ら、Cell 65:25−35(1991)(非特許文献9);Leone、A.ら、Oncogene 8:2325−33(1993)(非特許文献6))。
【0006】
最近の研究によると、Nm23は、キイロショウジョウバエ(Drosophila melanogaster)及び線虫(Caenorhabditis elegans)システムで究明されたRasキナーゼ抑制因子(kinase suppressor of Ras;KSR)と相互作用することが報告されている(Morrison、D.K.、J.Cell Sci.114:1609−12(2001)(非特許文献10))。KSRは、マイトジェン活性化タンパク質キナーゼ(mitogen−activated protein kinase;MAPK)カスケード(cascade)のスキャフォールドタンパク質である(Burack、W.R.及びShaw、A.S.、Curr.Opin.Cell Biol.12:211−6(2000)(非特許文献11);Pawson、T.及びScott、J.D.、Science 278:2075−80(1997)(非特許文献12))。スキャフォールドは、リン酸化の速度を向上させるだけでなく、経路の特異性及び安定化に寄与するのに必須である。一旦MAPK信号伝達機構が活性Rasにより活性化されると、KSRは強制的に脱リン酸化され、MAPKカスケードの活性化のためのスキャフォールドとして作用するようになる。この過程で、Nm23は、KSRの他の関連タンパク質の結合部位である、KSRセリン392をリン酸化させ、もしセリン392が突然変異される場合は、セリン434をリン酸化させる。Nm23の転移抑制活性は、Nm23遺伝子が注入された様々な腫瘍細胞で転移可能性を抑制することが明確に立証されている(Yoshida、T.ら、J.Gastroenterol.35:768−74(2000)(非特許文献13))。MAPKカスケードの刺激により活性化された細胞において、Nm23及びKSRの相互作用は、ヒスチジン依存性経路を通じてインビトロで複雑な方式でKSRのリン酸化を誘導する(Hartsough、M.T.ら、J.Biol.Chem.277:32389−99(2002)(非特許文献14))。また、KSRとNm23のインビボ(in vivo)結合は、MAPKカスケードを活性化させる活性Rasの表現型効果を抑制する。
【0007】
このような発見に基づいて、インビボでNm23タンパク質の細胞内への多量投与がKSRをリン酸化させて不活性化させ、Ras媒介性MAPKカスケードを抑制させることができると仮定することができる。そこで、本発明者らは、KSRの再リン酸化により媒介されるMAPK信号伝達カスケードの抑制が癌細胞において細胞増殖、分化及び移動の抑制を誘導し、様々な腫瘍において抗転移効果(anti−metastatic effect)を示すことができることを確信し、これを用いて癌転移抑制用製剤の開発のために鋭意研究努力した。
【0008】
一方、合成化合物または天然物の小分子(small molecules)は細胞内に伝達できるが、タンパク質、ペプチド、核酸のような巨大分子(macromolecules)は細胞内に伝達できない。これらは、分子量500以上の巨大分子で、生きている細胞の原形質膜(plasma membrane)、即ち、二重脂質膜構造(lipid bilayer structure)を通過することができないことが広く知られている。これを克服するための方法として、「巨大分子細胞内伝達技術(macromolecule intracellular transduction technology;MITT)」が開発されたが(Joら、Nat.biotech.19:929−33(2001)(非特許文献15))、これは疾病治療性巨大分子の生体内伝達を可能にすることによって、既存の医薬品開発技術では不可能であったペプチド、タンパク質、遺伝子自体を用いるバイオ新薬物の開発を可能にする。この技術によると、巨大分子は「疎水性巨大分子伝達ドメイン(MTD)」と他の様々な細胞内運搬体と融合され、組換えタンパク質の形態で合成または発現、精製され、細胞内に伝達された後、特定位置に正確かつ迅速に運搬され、所要の様々な役割を効果的に発揮できる。このように巨大分子伝達ドメイン(MTD)は、ペプチド、タンパク質、DNA、RNA、合成化合物などと融合されて細胞内に入れない多くの不透過性物質の伝達を可能にする。
【0009】
そこで、本発明者は、癌転移抑制因子Nm23に巨大分子伝達ドメインを融合させて細胞透過性を付与したNm23組換えタンパク質を製造し、この組換えタンパク質がインビトロだけでなく、インビボ環境下でも細胞外部から大量の癌転移抑制因子であるNm23を細胞内に効果的に伝達し、ヒトの様々な癌で発生するNm23欠損または機能消失を治療できる癌転移抑制用製剤として使用できることを確認し、本発明を完成した。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】MacDonald NJら、J.Biol.Chem.268:25780−25789(1993)
【非特許文献2】Steeg、P.S.、Breast Dis.10:47−50(1998)
【非特許文献3】Gervasi、F.ら、Cell Growth Differ 7:1689−95(1996)
【非特許文献4】Hirayama、R.ら、J.Natl.Cancer Inst.83:1249−50(1991)
【非特許文献5】Nakayama、T.ら、J.Natl.Cancer Inst.84:1349−54(1992)
【非特許文献6】Leone、A.ら、Oncogene 8:2325−33(1993)
【非特許文献7】Leone、A.ら、Oncogene 8:855−65(1993)
【非特許文献8】MacDonald、N.J.ら、J.Biol.Chem.271:25107−16(1996)
【非特許文献9】Leone、A.ら、Cell 65:25−35(1991)
【非特許文献10】Morrison、D.K.、J.Cell Sci.114:1609−12(2001)
【非特許文献11】Burack、W.R.及びShaw、A.S.、Curr.Opin.Cell Biol.12:211−6(2000)
【非特許文献12】Pawson、T.及びScott、J.D.、Science 278:2075−80(1997)
【非特許文献13】Yoshida、T.ら、J.Gastroenterol.35:768−74(2000)
【非特許文献14】Hartsough、M.T.ら、J.Biol.Chem.277:32389−99(2002)
【非特許文献15】Joら、Nat.biotech.19:929−33(2001)
【発明の概要】
【0011】
発明が解決しようとする課題
従って、本発明の目的は、癌転移抑制因子Nm23に細胞透過性を付与し、これを細胞内に高効率で導入することによって、様々な癌細胞で細胞増殖、分化及び移動の抑制を誘導し、優れた抗転移効果を奏することができる癌転移抑制剤としての細胞透過性Nm23組換えタンパク質を提供することである。
【0012】
課題を解決するための手段
前記目的を達成するために、本発明は、癌転移抑制因子Nm23と巨大分子伝達ドメイン(MTD)の融合によって細胞透過性が付与され、Nm23を細胞内に高効率で導入する細胞透過性Nm23組換えタンパク質を提供する。
【0013】
また、本発明は、前記細胞透過性Nm23組換えタンパク質をコードするポリヌクレオチドを提供する。
【0014】
さらに、本発明は、前記ポリヌクレオチドを含む発現ベクター及びこの発現ベクターで形質転換された形質転換細菌を提供する。
【0015】
さらに、本発明は、前記形質転換細菌を培養することを含む細胞透過性Nm23組換えタンパク質の製造方法を提供する。
【0016】
最後に、本発明は、癌細胞の増殖、分化及び移動を抑制し、アポトーシス(apoptosis)を誘導して癌転移を予防するための、前記Nm23組換えタンパク質を有効成分として含有する癌転移抑制用薬学的組成物を提供する。
【0017】
発明の効果
本発明の細胞透過性を有するNm23組換えタンパク質は、癌転移抑制因子であるNm23を細胞内に高効率で導入してKSRのリン酸化及び不活性化を誘導し、Ras−媒介MAPK連続段階を抑制することによって、癌細胞の増殖、分化及び移動を抑制し、癌転移を効果的に予防できる癌転移抑制剤として有用に用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】図1は、本発明によってkFGF4由来MTD、JO−76MTD及びJO−77MTDのいずれか1つが融合された全長形態のNm23組換えタンパク質の構造を示す。
【図2】図2aは、図1で考案されたkFGF4由来MTDが融合された全長形態のNm23組換えタンパク質をコードするDNA断片をPCRで増幅した結果であり、図2bは、図1で考案されたJO−76MTDまたはJO−77MTDが融合された全長形態のNm23組換えタンパク質をコードするDNA断片をPCRで増幅した結果である。
【図3】図3aは、pGEM−T EasyベクターにPCR増幅産物をサブクローニング(subcloning)する過程を示す模式図であり、図3b及び3cは、それぞれ図2a及び2bのPCR増幅産物がpGEM−T Easyベクターにサブクローニングされたことを確認した結果である。
【図4】図4aは、組換え断片をpET−28a(+)ベクターにクローニングして組換え発現ベクターを作製する過程を示す模式図であり、図4b及び4cは、本発明による細胞透過性Nm23組換え断片がpET−28a(+)ベクターにクローニングされたことを確認した結果である。
【図5】図5は、本発明による細胞透過性Nm23組換えタンパク質の発現を様々な宿主細胞を対象に調査した結果である。
【図6】図6は、本発明の組換え発現ベクターが形質転換された細菌で発現された細胞透過性Nm23組換えタンパク質を精製した結果である。
【図7】図7a及び7bは、それぞれ本発明による細胞透過性Nm23組換えタンパク質の細胞透過性をフローサイトメトリーで分析した結果である。
【図8】図8a〜8cは、それぞれ本発明による細胞透過性Nm23組換えタンパク質の細胞透過性を共焦点レーザー走査顕微鏡(confocal laser scanning microscopy)で観察した結果である。
【図9】図9は、本発明による細胞透過性Nm23組換えタンパク質のMAPK信号伝達抑制効果をウェスタンブロッティング(western blotting)で分析した結果である。
【図10】図10は、本発明による細胞透過性Nm23組換えタンパク質の癌転移抑制効果を浸潤分析(invasion assay)で分析した結果である。
【図11】図11は、本発明による細胞透過性Nm23組換えタンパク質の癌転移抑制効果を創傷移動分析(wound migration assay)で分析した結果である。
【図12】図12aは、本発明による細胞透過性Nm23組換えタンパク質が投与されたマウスの肺組織において癌転移抑制効果を肉眼で観察した結果であり、図12bは、本発明による細胞透過性Nm23組換えタンパク質が投与されたマウスの肺組織において、転移マーカー(metastatic marker)であるビメンチン(vimentin)の発現を免疫組織化学的(immunohistochemical)に染色した結果である。
【図13】図13は、本発明による細胞透過性Nm23組換えタンパク質が投与されたマウスの肺組織においてアポトーシス誘導効果をTUNEL(terminal deoxynucleotidyl transferase−mediated dUTP nick−end labeling)分析で観察した結果である。
【図14】図14は、本発明による細胞透過性Nm23組換えタンパク質が投与されたマウスの肺組織において遺伝子発現の変化をマイクロアレイ(Microarray)で分析した結果である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明は、癌転移抑制因子Nm23と巨大分子伝達ドメイン(MTD)の融合によって細胞透過性が付与され、Nm23を細胞内に高効率で導入する細胞透過性Nm23組換えタンパク質(CP−Nm23)及びこれをコードするポリヌクレオチドを提供する。
【0020】
本発明の特徴は、細胞内への導入が容易でない巨大分子である癌転移抑制因子Nm23に特定の巨大分子伝達ドメイン(以下、「MTD」と略称する。)を融合させて細胞透過性を付与することによって、Nm23を細胞内に高効率で伝達することにある。この際、巨大分子伝達ドメインは、癌転移抑制因子であるNm23の片末端のみに融合されるか、あるいはその両末端の両方に融合されてもよい。
【0021】
本発明では、癌転移抑制因子であるNm23に融合されてもよい巨大分子伝達ドメイン(MTD)、すなわち、細胞内への巨大分子の伝達を可能にする3種のペプチドドメインそれぞれに前記Nm23を融合して細胞透過性を有するNm23組換えタンパク質を開発した。
【0022】
本発明において「細胞透過性Nm23組換えタンパク質」とは、巨大分子伝達ドメインと癌転移抑制因子Nm23を含み、これらの遺伝的融合や化学的結合によって形成された共有結合複合体を意味する。ここで「遺伝的融合」とは、タンパク質をコードするDNA配列の遺伝的発現を通じて形成された線状の共有結合からなる連結を意味する。
【0023】
KSRの再リン酸化により媒介されるMAPK信号伝達カスケードを制御して癌細胞での細胞増殖、分化及び移動を抑制し、アポトーシスを誘導して様々な腫瘍において優れた抗転移活性を示すNm23は、配列番号:1の塩基配列及び配列番号:2のアミノ酸配列を有する癌転移抑制因子であって、KSRとRas媒介性MAPKを含む信号伝達カスケードで重要な標的タンパク質として作用する。
【0024】
Nm23タンパク質は、内因性タンパク質であり、その機能についてはNDP(Nucleoside diphosphate)−キナーゼ酵素活性があることが報告されており(Biggsら、Cell 63、933−940(1990))、転写活性化因子(transcription factor)、細胞分化抑制剤(I factor)としても知られている(Postelら、Science 261、478−480(1993); Okabe−Kadoら、Biochim.Biophys.Acta 1267、101−106(1995))。
【0025】
Nm23タンパク質の遺伝子については、ヒトにおいて8種類のアイソタイプ(nm23−H1、nm23−H2、DR−nm23、nm23−H4、nm23−H5、nm23−H6、nm23−H7、およびnm23−H8)が発見されたが、これらのいずれも癌転移抑制に関連していることが知られている(Rosengardら、Nature 342、177−180(1989);Charpin C.ら、Int.J.Cancer 74、416−420(1997))。本発明の好ましい実施形態では、Nm23−H1を対象に細胞透過性組換えタンパク質を製造するが、これに限定されない。
【0026】
前記癌転移抑制因子Nm23に融合されてもよい巨大分子伝達ドメインとしては、配列番号:4、6、8及び37〜227のアミノ酸配列からなる群から選ばれるアミノ酸配列を含む細胞透過性を有するポリペプチドを用いてもよい。前記配列番号:4、6、8及び37〜227のアミノ酸配列のいずれか1つを有する巨大分子伝達ドメインは、細胞膜を貫通してポリペプチド、タンパク質ドメイン、または全長タンパク質を含む生物学的活性分子の細胞内への流入を媒介できる細胞透過性ポリペプチドである。本発明による巨大分子伝達ドメインは、N末端領域、疎水性領域及びC末端の分泌タンパク質切断部位(secreted protein cleavage site)の3部分からなるシグナルペプチド(signal peptides)においてヘリックス(helix)を形成し、細胞膜標的(targeting)活性を付与する疎水性領域を有するように考案されたものである。このような巨大分子伝達ドメインは、細胞に損傷を加えず、かつ直接細胞膜を透過することによって、標的タンパク質を細胞内に移動させて目的とする機能を発揮させることができる。
【0027】
本発明によって癌転移抑制因子Nm23に融合されてもよい配列番号:4、6、8及び37〜227で表されるアミノ酸配列を有する巨大分子伝達ドメインを下記表1a〜1lに示す。
【0028】
【表1a】
【0029】
【表1b】
【0030】
【表1c】
【0031】
【表1d】
【0032】
【表1e】
【0033】
【表1f】
【0034】
【表1g】
【0035】
【表1h】
【0036】
【表1i】
【0037】
【表1j】
【0038】
【表1k】
【0039】
【表1l】
【0040】
前記癌転移抑制因子Nm23に融合されてもよい巨大分子伝達ドメインとしては、カポジ線維芽細胞成長因子(kaposi fibroblast growth factor 4;kFGF4)に由来する配列番号:3の塩基配列及び配列番号:4のアミノ酸配列を有するkFGF4由来MTD(以下、「MTD1」と略称する。)、ストレプトマイセス・セリカラー(Streptomyces coelicolor)由来の分泌タンパク質(secreted protein)として、配列番号:5の塩基配列及び配列番号:6のアミノ酸配列を有するJO−76MTD(以下、「MTD2」と略称する。)、及びヒトの子宮内膜出血関連因子プレプロタンパク質(endometrial bleeding associated factor preproprotein)由来の配列番号:7の塩基配列及び配列番号:8のアミノ酸配列を有するJO−77MTD(以下、「MTD3」として略称する。)を用いてもよい。
【0041】
本発明の細胞透過性を有するNm23組換えタンパク質は、巨大分子伝達ドメインとして前記3種類のMTD(kFGF4由来MTD:MTD1、JO−76:MTD2、JO−77:MTD3)のいずれか1つが癌転移抑制因子Nm23の一方または両末端に融合され、この融合コンストラクトの片末端に配列番号:9の塩基配列を有するSV40巨大T抗原(SV40 large T antigen)由来の核局在配列(nuclear localization sequence;NLS、配列番号:10のアミノ酸配列)と、容易な精製のために、ヒスチジンタグ(histidine−tag;His−Tag)親和性ドメインが融合されている構造を有してもよい。
【0042】
本発明の一実施形態では、kFGF4由来MTD、JO−76MTD及びJO−77MTDのいずれか1つを用いたNm23組換えタンパク質として8つの全長形態(full−length forms)を考案する。
【0043】
本発明において、用語「全長形態」は、癌転移抑制因子Nm23の配列番号:2のアミノ酸配列において1つ以上のアミノ酸残基の欠失、付加、挿入または置換を含んでいない完全な形態のアミノ酸配列を含む形態を意味する。しかし、全長形態のNm23だけでなく、Nm23の抗転移効果を損傷させない範囲内で、そのアミノ酸配列に1つ以上のアミノ酸残基の欠失、付加、挿入または置換による様々な変形を含むNm23誘導体を本発明に用いてもよい。
【0044】
図1aを参考とすれば、本発明によるNm23組換えタンパク質は、
1)全長のNm23のN末端にkFGF4由来MTDが融合されたHis−MTD1−Nm23(HM1N)、
2)そのC末端にkFGF4由来MTDが融合されたHis−Nm23−MTD1(HNM1)、
3)その両末端にkFGF4由来MTDが融合されたHis−MTD1−Nm23−MTD1(HM1NM1)、
4)そのN末端にJO−76MTDが融合されたHis−MTD2−Nm23(HM2N)、
5)そのC末端にJO−76MTDが融合されたHis−Nm23−MTD2(HNM2)、
6)そのN末端にJO−77MTDが融合されたHis−MTD3−Nm23(HM3N)、
7)そのC末端にJO−77MTDが融合されたHis−Nm23−MTD3(HNM3)、
8)その両末端にJO−77MTDが融合されたHis−MTD3−Nm23−MTD3(HM3NM3)
である。
【0045】
前記において、kFGF4由来MTDを用いて製造された全長形態のNm23組換えタンパク質として、His−MTD1−Nm23(HM1N)は配列番号:22のアミノ酸配列を有し、これは配列番号:21の塩基配列を有するポリヌクレオチドによりコードされ;His−Nm23−MTD1(HNM1)は配列番号:24のアミノ酸配列を有し、これは配列番号:23の塩基配列を有するポリヌクレオチドによりコードされ;His−MTD1−Nm23−MTD1(HM1NM1)は配列番号:26のアミノ酸配列を有し、これは配列番号:25の塩基配列を有するポリヌクレオチドによりコードされる。
【0046】
前記において、JO−76MTDを用いて製造された全長形態のNm23組換えタンパク質として、His−MTD2−Nm23(HM2N)は配列番号:28のアミノ酸配列を有し、これは配列番号:27の塩基配列を有するポリヌクレオチドによりコードされ;His−Nm23−MTD2(HNM2)は配列番号:30のアミノ酸配列を有し、これは配列番号:29の塩基配列を有するポリヌクレオチドによりコードされる。
【0047】
前記において、JO−77MTDを用いて製造された全長形態のNm23組換えタンパク質として、His−MTD3−Nm23(HM3N)は配列番号:32のアミノ酸配列を有し、これは配列番号:31の塩基配列を有するポリヌクレオチドによりコードされ;His−Nm23−MTD3(HNM3)は配列番号:34のアミノ酸配列を有し、これは配列番号:33の塩基配列を有するポリヌクレオチドによりコードされ;His−MTD3−Nm23−MTD3(HM3NM3)は配列番号:36のアミノ酸配列を有し、これは配列番号:35の塩基配列を有するポリヌクレオチドによりコードされる。
【0048】
本発明では、細胞透過性Nm23組換えタンパク質の対照群として、MTDが融合されずに片末端にヒスチジン標識とNLSのみが融合されたNm23組換えタンパク質His−Nm23(HN)を製造する。この対照群タンパク質は、配列番号:20のアミノ酸配列を有し、これは配列番号:19の塩基配列を有するポリヌクレオチドによりコードされる。
【0049】
また、本発明は、前記細胞透過性Nm23組換えタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含む組換え発現ベクター及びこの組換え発現ベクターで形質転換された形質転換細菌を提供する。
【0050】
本発明において、「組換え発現ベクター」とは、適当な宿主細胞において標的タンパク質または標的RNAを発現できるベクターであり、遺伝子挿入物が発現されるように作動可能に連結されている必須の調節要素を含む遺伝子コンストラクトをいう。
【0051】
本発明において、用語「作動可能に連結された(operably linked)」とは、一般的機能を担うように核酸発現調節配列と目的とするタンパク質またはRNAをコードする核酸配列が機能的に連結(functional linkage)されていることをいう。例えば、プロモーターとタンパク質またはRNAをコードする核酸配列が作動可能に連結されてコードする核酸配列の発現に影響を及ぼし得る。組換え発現ベクターとの作動的連結は、当該技術分野によく知られた遺伝子組換え技術を用いて製造でき、部位特異的DNA切断及び連結には、当該技術分野に一般に知られた酵素などを用いる。
【0052】
本発明に使用可能な発現ベクターとしては、プラスミドベクター、コスミド(cosmid)ベクター、バクテリオファージベクター、ウイルスベクターなどを含むが、これに制限されない。好適な発現ベクターは、プロモーター(promoter)、オペレーター(operator)、開始コドン(initiation codon)、終結コドン(termination codon)、ポリアデニル化信号(polyadenylation signal)、エンハンサー(enhancer)のような発現調節配列以外にも、膜標的化または分泌のための信号配列(signal sequence)またはリーダー配列(leader sequence)を含み、目的に応じて多様に製造されてもよい。発現ベクターのプロモーターは、構成的(constitutive)または誘導性(inducible)であってもよい。また、発現ベクターは、ベクターを含有する宿主細胞を選択するための選択マーカーを含み、複製が可能な発現ベクターの場合、複製起点を含む。
【0053】
このように製造された本発明の組換え発現ベクターは、例えば、pET28a(+)−HNM1であってもよい。前記組換え発現ベクターpET28a(+)−HNM1は、pET−28a(+)ベクター(Novagen、Germany)のマルチクローニングサイト(multi cloning site;MCS)のうちNdeI制限酵素部位に、本発明による細胞透過性Nm23組換えタンパク質として全長のNm23のC末端にkFGF4由来MTDが融合された組換えタンパク質HNM1をコードするヌクレオチドが挿入されたベクターを意味する。
【0054】
本発明の一実施例では、タンパク質の精製を容易にする目的で、細胞透過性Nm23組換えタンパク質のN末端部位に、人為的に6つのヒスチジンタグを含めて発現させるために、His−Tag配列を有しているpET−28a(+)ベクター(Novagen、USA)に本発明のヌクレオチドをクローニングする。
【0055】
前記組換え発現ベクターから発現される細胞透過性Nm23組換えタンパク質は、全長形態のNm23の一方または両末端にkFGF4由来MTD、JO−76MTD及びJO−77MTDの中の1つが融合され、そのN末端部位にヒスチジンタグとNLSが連結されている。
【0056】
本発明はまた、前記組換え発現ベクターで形質転換された形質転換細菌を提供する。本発明の形質転換細菌は、好ましくは大腸菌であってもよく、大腸菌を本発明の組換え発現ベクター、例えば、本発明による全長のNm23のC末端にkFGF4由来MTDが融合された細胞透過性組換えタンパク質HNM1をコードするヌクレオチドを含む組換え発現ベクターpET28a(+)−HNM1を用いることによって、多量の細胞透過性Nm23組換えタンパク質を発現させることができる。形質転換には、核酸を宿主細胞に導入するいかなる方法も含まれ、当該分野の熟練者に公知となった形質転換技術により行ってもよい。好ましくは、微粒子銃法(microprojectile bombardment)、電気穿孔法(electroporation)、リン酸カルシウム(CaPO4)沈殿、塩化カルシウム(CaCl2)沈殿、PEG媒介性融合法(PEG−mediated fusion)、マイクロインジェクション法(microinjection)及びリポソーム媒介法(liposome−mediated method)などが含まれるが、これに制限されない。
【0057】
本発明の好ましい実施例では、前記方法で製造された全長のNm23のN末端にJO−77MTDが融合されたHM3Nと全長のNm23のC末端にJO−77MTDが融合されたHNM3それぞれを含む組換え発現ベクターを大腸菌DH5αに形質転換させた形質転換細菌を2008年8月28日付で韓国生命工学研究院(KRIBB)内の遺伝子銀行(KCTC)に寄託番号KCTC−11380BP及びKCTC−11381BPとして寄託した。
【0058】
本発明はまた、前記形質転換細菌を培養することを含む細胞透過性Nm23組換えタンパク質の製造方法を提供する。
【0059】
前記製造方法は、本発明の形質転換細菌に導入された組換え発現ベクターにおいて本発明の細胞透過性Nm23組換えタンパク質をコードするポリヌクレオチドが発現されるように形質転換細菌を適切な培地及び条件下で培養することにより行われる。前記形質転換細菌を培養して組換えタンパク質を発現させる方法は、当該分野で公知となっており、例えば、形質転換細菌が成長できる適切な培地に接種して継代培養した後、これを本培養用培地に接種し、適切な条件、例えば、遺伝子発現誘導剤であるイソプロピル−β−D−チオガラクトシド(isopropyl−β−D−thiogalactoside;IPTG)の存在下で培養することによって、タンパク質の発現を誘導できる。培養が完了すると、前記培養物から実質的に純粋な組換えタンパク質を回収できる。本発明において用語“実質的に純粋な”とは、本発明の組換えタンパク質及びこれをコードするポリヌクレオチドの配列が宿主細胞由来の他のタンパク質を実質的に含まないことを意味する。
【0060】
前記形質転換細菌で発現された組換えタンパク質の回収は、当該分野で公知の様々な分離及び精製方法を通じて行ってもよく、通常、細胞残屑(cell debris)、培養不純物などを除去するために、細胞溶解物を遠心分離した後、沈殿、例えば、塩析(硫酸アンモニウム沈殿及びリン酸ナトリウム沈殿)、溶媒沈殿(アセトン、エタノールなどを用いたタンパク質分画沈殿)などを行ってもよく、透析、電気泳動及び各種のカラムクロマトグラフィーなどを行ってもよい。前記クロマトグラフィーとしては、イオン交換クロマトグラフィー、ゲルろ過クロマトグラフィー、HPLC、逆相HPLC、親和性カラムクロマトグラフィー及び限外ろ過などの技法を単独で用い、または併用してもよい(Maniatisら、Molecular Cloning:A Laboratory Manual、Cold Spring Harbor Laboratory、Cold Spring Harbor、N.Y.、1982;Sambrookら、Molecular Cloning:A Laboratory Manual、2d Ed.、Cold Spring Harbor Laboratory Press(1989);Deutscher、M.、Guide to Protein Purification Methods Enzymology vol.182.Academic Press.Inc.、San Diego、CA(1990))。
【0061】
一方、組換え発現ベクターで形質転換された細菌で発現された組換えタンパク質は、タンパク質分離の際、タンパク質の特性に応じて溶解性分画(soluble fraction)と不溶解性分画(insoluble fraction)に区分され得る。発現されたタンパク質のほとんどが溶解性分画である場合には、前述の方法に従って容易にタンパク質を分離及び精製することができるが、発現されたタンパク質の大部分が不溶解性分画、即ち、封入体(inclusion body)の形態で存在する場合には、尿素(urea)、界面活性剤などのタンパク質変性剤が含まれた溶液で最大限タンパク質を溶解させた後、遠心分離して透析、電気泳動及び各種のカラムクロマトグラフィーなどを行うことによって精製することができる。この際、タンパク質変性剤が含まれた溶液によりタンパク質の構造が変形されてその活性を失うことがあるので、不溶解性分画からタンパク質を精製する過程中には脱塩及びリフォールディング(refolding)段階が必要である。即ち、前記脱塩及びリフォールディング段階は、タンパク質変性剤が含まれていない溶液を用いて透析及び希釈を行うか、またはフィルターを用いて遠心分離してもよい。また、前記溶解性分画からタンパク質を精製する過程中にも、精製時に用いる溶液中の塩濃度が高い場合は、このような脱塩及びリフォールディング段階を行ってもよい。
【0062】
本発明の一実施形態では、本発明による細胞透過性Nm23組換えタンパク質が封入体の形態で不溶解性分画に存在することを確認し、不溶解性分画からこれを精製するために、不溶解性分画をトリトンX−100のような非イオン性界面活性剤を含有する緩衝液に溶解させた後、超音波で処理し、遠心分離して沈殿物を得る。前記得られた沈殿物を変性剤である尿素が含まれている溶液に溶解させた後、遠心分離して上清を得る。尿素を用いて不溶解性分画から最大限溶解した本発明の組換えタンパク質は、ヒスチジン結合精製キットを用いて精製し、その後精製されたタンパク質は、アミコンフィルターなどを用いた遠心分離により塩分の除去及びタンパク質構造のリフォールディング過程を行うことによって、本発明の組換えタンパク質を得ることができる。
【0063】
さらに、本発明は、癌細胞の増殖、分化及び移動を抑制し、アポトーシスを誘導して癌転移を予防するのに効果的な、前記Nm23組換えタンパク質を有効成分として含有する癌転移抑制用薬学的組成物を提供する。
【0064】
癌転移抑制因子としてKSRとRas媒介性MAPKを含む信号伝達カスケードで重要な標的タンパク質として作用するNm23は、KSRの再リン酸化により媒介されるMAPK信号伝達カスケードを制御して癌細胞での細胞増殖、分化及び移動を抑制し、アポトーシスを誘導することによって、ヒトの様々な癌において癌の転移を予防及び/又は治療するための癌転移抑制剤として有用に用いられる。
【0065】
本発明による組換えタンパク質を有効成分として含有する組成物は、薬学的に許容される担体、例えば、経口投与用担体または非経口投与用担体をさらに含んでもよい。経口投与用担体は、ラクトース、澱粉、セルロース誘導体、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸などを含む。経口投与用の場合、本発明による組換えタンパク質は、賦形剤と混合してチュアブル錠、バッカル剤、トローチ、カプセル、エリキシル、懸濁液、シロップ及びウエハーなどの形態で用いてもよい。また、非経口投与用担体は、水、適切なオイル、食塩水、水性グルコース及びグリコールなどを含み、安定化剤及び保存剤をさらに含んでもよい。適切な安定化剤としては、亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸ナトリウムまたはアスコルビン酸のような抗酸化剤がある。適切な保存剤としては、ベンザルコニウムクロリド、メチル−またはプロピル−パラベン及びクロロブタノールがある。その他の薬学的に許容される担体としては、次の文献に記載されているものを参考にして用いてもよい(Remington’s Pharmaceutical Sciences、19th ed.、Mack Publishing Company、Easton、PA(1995))。
【0066】
本発明による組成物は、種々の非経口または経口投与の形態に剤形化してもよい。非経口投与用剤形の代表的なものは注射用剤形であり、等張性水溶液または懸濁液が好ましい。注射用剤形は、適切な分散剤または湿潤剤及び懸濁化剤を用いて当業界に公知となった技術によって製造してもよい。例えば、各成分を食塩水または緩衝液に溶解させて注射用に剤形化してもよい。また、経口投与用剤形としては、例えば、錠剤、カプセル剤などがあるが、これらの剤形は、有効成分以外に希釈剤(例:ラクトース、デキストロース、スクロース、マンニトール、ソルビトール、セルロース及び/又はグリシン)と滑沢剤(例:シリカ、タルク、ステアリン酸及びステアリン酸マグネシウムまたはカルシウム塩及び/又はポリエチレングリコール)を含んでもよい。前記錠剤は、マグネシウムアルミニウムシリケート、澱粉ペースト、ゼラチン、トラガカント、メチルセルロース、ナトリウムカルボキシメチルセルロース及び/又はポリビニルピロリジンのような結合剤を含んでもよく、場合によって、澱粉、寒天、アルギン酸またはアルギン酸ナトリウム塩のような崩壊剤、吸収剤、着色剤、香味剤及び/又は甘味剤をさらに含んでもよい。前記剤形は、通常の混合、顆粒化またはコーティング方法により製造してもよい。
【0067】
本発明の組成物は、防腐剤、水和剤、乳化促進剤、浸透圧調節のための塩及び/又は緩衝剤のような補助剤とその他治療的に有用な物質をさらに含んでもよく、通常の方法に従って製剤化してもよい。
【0068】
また、本発明による組成物の投与経路としては、経口的、または静脈内、皮下、鼻腔内または腹腔内などのように非経口的にヒトと動物に投与してもよい。経口投与は、舌下適用も含む。非経口的投与は、皮下注射、筋肉内注射及び静脈注射のような注射法及び点滴法を含む。
【0069】
本発明の組成物において、本発明の組換えタンパク質の合計有効量は、単一投与量(single dose)で患者に投与してもよく、多重投与量(multiple dose)で長期間投与される分割治療方法(fractionated treatment protocol)により投与してもよい。本発明の組成物は、疾患の程度に応じて有効成分の含量を異にしてもよいが、通常、成人を基準に1回投与時、5〜20mgの有効投与量で1日に数回繰り返し投与してもよい。しかし、前記組換えタンパク質の濃度は、薬物の投与経路及び治療回数だけでなく、患者の年齢、体重、健康状態、性別、疾患の重篤度、食餌及び排泄率等の様々な要因を考慮して患者に対する有効投与量を決定してもよい。従って、このような点を考慮すると、当該分野の通常の知識を有する者であれば、前記組換えタンパク質の癌転移抑制剤としての特定の用途に応じる適切な有効投与量を決定できるであろう。本発明による組成物は、本発明の効果を奏する限り、その剤形、投与経路及び投与方法に特に制限されない。
【実施例】
【0070】
以下、実施例を通じて本発明をより詳細に説明する。これらの実施例は、単に本発明をより具体的に説明するためのものであり、本発明の要旨によって本発明の範囲がこれらの実施例により制限されないことは、当業界で通常の知識を有する者に自明であろう。
【0071】
実施例1:細胞透過性Nm23組換えタンパク質(CP−Nm23)の製造
kFGF4由来MTD(MTD1)、JO−76MTD(MTD2)及びJO−77MTD(MTD3)のいずれか1つを巨大分子伝達ドメインとして用いて細胞透過性Nm23組換えタンパク質を製造するために、全長形態のNm23組換えタンパク質として下記8つの遺伝子コンストラクトを製造した(図1):
1)全長のNm23のN末端にkFGF4由来MTDが融合されたHis−MTD1−Nm23(HM1N)、
2)そのC末端にkFGF4由来MTDが融合されたHis−Nm23−MTD1(HNM1)、
3)その両末端にkFGF4由来MTDが融合されたHis−MTD1−Nm23−MTD1(HM1NM1)、
4)そのN末端にJO−76MTDが融合されたHis−MTD2−Nm23(HM2N)、
5)そのC末端にJO−76MTDが融合されたHis−Nm23−MTD2(HNM2)、
6)そのN末端にJO−77MTDが融合されたHis−MTD3−Nm23(HM3N)、
7)そのC末端にJO−77MTDが融合されたHis−Nm23−MTD3(HNM3)、及び
8)その両末端にJO−77MTDが融合されたHis−MTD3−Nm23−MTD3(HM3NM3)。
【0072】
前記組換えタンパク質の遺伝子コンストラクトを製造するために、それぞれに対して特異的に考案されたプライマー対とヒトNm23 cDNAを鋳型として用いるポリメラーゼ連鎖反応(polymerase chain reaction;PCR)を行った。この際、HM1Nの増幅のための正方向及び逆方向プライマーは、それぞれ配列番号:13及び12の塩基配列を有し;HNM1の増幅のための正方向及び逆方向プライマーは、それぞれ配列番号:11及び14の塩基配列を有し;HM1NM1の増幅のための正方向及び逆方向プライマーは、それぞれ配列番号:13及び14の塩基配列を有し;HM2Nの増幅のための正方向及び逆方向プライマーは、それぞれ配列番号:15及び12の塩基配列を有し;HNM2の増幅のための正方向及び逆方向プライマーは、それぞれ配列番号:11及び16の塩基配列を有し;HM3Nの増幅のための正方向及び逆方向プライマーは、それぞれ配列番号:17及び12の塩基配列を有し;HNM3の増幅のための正方向及び逆方向プライマーは、それぞれ配列番号:11及び18の塩基配列を有し;HM3NM3の増幅のための正方向及び逆方向プライマーは、それぞれ配列番号:17及び18の塩基配列を有する。
【0073】
前記でそれぞれの組換え断片の増幅のために用いられた正方向及び逆方向プライマー対を下記表2に整理する。
【表2】
【0074】
PCR反応は、鋳型遺伝子としてヒトNm23 cDNA 100ng、各0.2mMの終濃度dNTP混合物(dGTP、dATP、dTTP及びdCTP、各2mM)、0.6μMの各プライマー、10×Taq緩衝溶液5μl、Taqポリメラーゼ(Takara、Japan)1μlを含む溶液を最終体積50μlの反応液として行った。PCR反応条件は、まず94℃で2分間熱変性(denaturing)させた後、94℃で45秒、53℃で45秒及び72℃で45秒の反応を25回繰り返し、最終的に72℃で5分間増幅した。反応が終わった後、1.0%アガロースゲル電気泳動(electrophoresis)を行い、増幅された生成物を確認した。図2a及び2bに示すように、MTDが融合されたそれぞれの組換え断片が目的とする大きさに増幅されたことを確認した。
【0075】
アガロースゲルで増幅された組換え断片を回収した後、これらのそれぞれを商用のキット(QIAquick Gel extraction kit;Qiagen、USA)を用いて抽出、精製した。抽出した断片をpGEM−T Easyベクター(Promega、USA)に挿入した後(図3a)、MTDが融合されたNm23組換えタンパク質遺伝子断片が挿入されたpGEM−T Easyベクターを大腸菌DH5αコンピテントセル(competent cell)に形質転換させた。これを50μg/mlのアンピシリン(ampicillin)を含む平板LB培地に接種し、37℃で一晩中培養して形質転換された大腸菌を選別し、これを再度液体LB培地で培養した後、これからそれぞれのNm23組換えタンパク質遺伝子が挿入されたpGEM−T Easyベクターを多量に得た。
【0076】
図3bは、pGEM−T Easyベクターに挿入された組換え断片をNdeI制限酵素(Enzynomics、Korea)で分離し、0.8%アガロースゲル電気泳動を行った結果を示し、これからそれぞれの組換え断片が前記ベクターに正しく挿入されたことを確認した。
【0077】
前記において、それぞれのNm23組換え断片を含むpGEM−T Easyベクターを、制限酵素NdeIを用いて37℃で6時間切断(digestion)してそれぞれの組換え断片を得た。一方、ヒスチジンタグとT7プロモーターを有する発現ベクターpET−28a(+)ベクター(Novagen、USA)も制限酵素NdeIを用いて前記と同一の条件で切断した。前記組換え断片と、切断されたpET−28a(+)ベクターとを電気泳動で分離し、商用のキット(QIAquick Gel extraction kit;Qiagen、USA)を用いて精製した。これらの混合物にT4 DNAリガーゼ(ligase;Takara、日本)を添加し、16℃で12時間ライゲーション(ligation)させた後、大腸菌DH5αコンピテントセルに形質転換させて組換えタンパク質発現ベクターを得た(図4a)。
【0078】
図4bは、pET−28a(+)ベクターに挿入された組換え断片をNdeI制限酵素で分離してアガロースゲル電気泳動を行った結果を示し、これからそれぞれの組換え断片が前記ベクターに正しく挿入されたことを確認した。
【0079】
このように得られた組換えタンパク質発現ベクターを、それぞれpET28a(+)−HM1N、pET28a(+)−HNM1、pET28a(+)−HM1NM1、pET28a(+)−HM2N、pET28a(+)−HNM2、pET28a(+)−HM3N、pET28a(+)−HNM3及びpET28a(+)−HM3NM3と命名し、これらの中で組換え発現ベクターpET28a(+)−HM3N及びpET28a(+)−HNM3で大腸菌DH5αを形質転換させて得られた形質転換細菌DH5α/HM3NとDH5α/HNM3を2008年8月28日付で韓国生命工学研究院内の遺伝子銀行に寄託番号KCTC−11380BP及びKCTC−11381BPとして寄託した。
【0080】
塩基配列の分析結果、前記でkFGF4由来MTDを用いて製造された全長形態のNm23組換えタンパク質として、His−MTD1−Nm23(HM1N)は配列番号:22のアミノ酸配列を有し、これは配列番号:21の塩基配列を有するポリヌクレオチドによりコードされ;His−Nm23−MTD1(HNM1)は配列番号:24のアミノ酸配列を有し、これは配列番号:23の塩基配列を有するポリヌクレオチドによりコードされ;His−MTD1−Nm23−MTD1(HM1NM1)は配列番号:26のアミノ酸配列を有し、これは配列番号:25の塩基配列を有するポリヌクレオチドによりコードされる。
【0081】
また、JO−76MTDを用いて製造された全長形態のNm23組換えタンパク質として、His−MTD2−Nm23(HM2N)は配列番号:28のアミノ酸配列を有し、これは配列番号:27の塩基配列を有するポリヌクレオチドによりコードされ;His−Nm23−MTD2(HNM2)は配列番号:30のアミノ酸配列を有し、これは配列番号:29の塩基配列を有するポリヌクレオチドによりコードされる。
【0082】
さらに、JO−77MTDを用いて製造された全長形態のNm23組換えタンパク質として、His−MTD3−Nm23(HM3N)は配列番号:32のアミノ酸配列を有し、これは配列番号:31の塩基配列を有するポリヌクレオチドによりコードされ;His−Nm23−MTD3(HNM3)は配列番号:34のアミノ酸配列を有し、これは配列番号:33の塩基配列を有するポリヌクレオチドによりコードされ;His−MTD3−Nm23−MTD3(HM3NM3)は配列番号:36のアミノ酸配列を有し、これは配列番号:35の塩基配列を有するポリヌクレオチドによりコードされる。
【0083】
一方、本発明では、細胞透過性Nm23組換えタンパク質の対照群として、全長のNm23にヒスチジンタグのみが融合されているHis−Nm23(HN)を製造した。この対照群タンパク質は、配列番号:20のアミノ酸配列を有し、これは配列番号:19の塩基配列を有するポリヌクレオチドによりコードされる。
【0084】
実施例2:組換えタンパク質の発現
<2−1>最適な宿主菌株の選抜
細胞透過性Nm23組換えタンパク質の発現誘導に最も適した宿主菌株を選抜するために、LacIプロモーターを有する大腸菌BL21(DE3)、BL21 Gold(DE3)、BL21 CodonPlus(DE3)及びBL21 Gold(DE3)pLysS(Stratagene、USA)を対象に下記実験を行った。
【0085】
まず、前記実施例1で製造された組換え発現ベクターpET28a(+)−HM1N、pET28a(+)−HNM1、pET28a(+)−HM1NM1、及びpHN(対照群)それぞれを大腸菌菌株BL21(DE3)、BL21 Gold(DE3)、BL21 CodonPlus(DE3)及びBL21−Gold(DE3)pLysSに、それぞれ熱ショック(heat shock)方法で形質転換させた。また、前記実施例1で製造された組換え発現ベクターpET28a(+)−HM2N、pET28a(+)−HNM2、pET28a(+)−HM3N、pET28a(+)−HNM3及びpET28a(+)−HM3NM3それぞれを大腸菌菌株BL21−Gold(DE3)に熱ショック方法で形質転換させた。形質転換後、それぞれを50μg/mlのカナマイシン含有LB平板培地に接種して培養した。前記培地に形成されたコロニーを1ml LB培地に接種し、37℃で一晩中培養した後、これを再度100ml LB培地に接種し、37℃でOD600が0.5に達するまで培養した。この培養液にタンパク質発現の誘導剤として0.7mMのイソプロピル−β−D−チオガラクトシド(isopropyl−β−D−thiogalactoside、IPTG)を添加し、30℃で2時間さらに培養した。この培養液を4℃で7,000×g、20分間遠心分離して上清を除去し、菌体を回収した。回収した菌体を溶解緩衝液(lysis buffer:100mM NaH2PO4、10mM Tris−HCl、8M尿素、pH8.0)に懸濁した後、超音波処理を行って細胞を破砕し、これを14,000×gで15分間遠心分離して溶解性分画と不溶解性分画を得た。この溶解性分画と不溶解性分画をそれぞれSDS−PAGEにかけてタンパク質発現特性と発現量の程度を分析した。
【0086】
図5に示すように、様々な宿主菌株を対象に本発明の組換えタンパク質の発現を調査した結果、一部の細胞透過性Nm23組換えタンパク質の発現がBL21−Gold(DE3)菌株において低く観察されたが、ほとんどの細胞透過性Nm23組換えタンパク質の発現が前記菌株において高く示されることが確認された。前記結果から、BL21−Gold(DE3)菌株を本発明による細胞透過性Nm23組換えタンパク質の発現のための最適な菌株として選択した。
【0087】
<2−2>組換えタンパク質の発現
前記実施例<2−1>で最適な菌株として確認された大腸菌BL21−Gold(DE3)に組換え発現ベクターpET28a(+)−HM1N、pET28a(+)−HNM1、pET28a(+)−HM1NM1、pET28a(+)−HM2N、pET28a(+)−HNM2、pET28a(+)−HM3N、pET28a(+)−HNM3及びpET28a(+)−HM3NM3それぞれを前記実施例<2−1>と同様の方法で形質転換させた後、0.7mMのIPTGを添加して発現を誘導し、これから得られた溶解性分画と不溶解性分画をそれぞれSDS−PAGEにかけてタンパク質発現特性と発現量の程度を分析した。
【0088】
図6に示すように、約19〜20kDaの大きさを有する本発明の細胞透過性Nm23組換えタンパク質は、封入体の形態でほとんど不溶解性分画に含まれており、IPTG無処理培養液(−)に比べてIPTG処理培養液(+)において目的のタンパク質の発現が顕著に増加したことを確認した。
【0089】
実施例3:組換えタンパク質の精製及びリフォールディング
<3−1>組換えタンパク質の精製
本発明による細胞透過性Nm23組換えタンパク質は、封入体の形態で不溶解性分画に存在するので、これを精製するために、強力な変性剤として8M尿素を用いた。
【0090】
まず、本発明の組換え発現ベクターpET28a(+)−HM1N、pET28a(+)−HNM1、pET28a(+)−HM1NM1、pET28a(+)−HM2N、pET28a(+)−HNM2、pET28a(+)−HM3N、pET28a(+)−HNM3及びpET28a(+)−HM3NM3及びpET28a(+)−HM(対照群)のそれぞれに形質転換されたBL21−Gold(DE3)菌株を前記実施例2のように1lのLB培地に培養した。それぞれの培養液を遠心分離して得た菌体を20mlの溶解緩衝液(lysis buffer)(HN及びHNM1:50mM NaH2PO4、300mM NaCl、10mMイミダゾール、pH8.0;他のCP−Nm23:100mM NaH2PO4、10mM Tris−HCl、8M尿素、pH8.0)に気泡が生じないように注意しながら懸濁し、これをマイクロチップ(microtip)付きのソニケーターを用いて低温で菌体を破砕した。この際、処理時間は、装置の出力を最大出力の25%に設定し、5分間30秒処理後、10秒放置を繰り返した。十分に溶菌された封入体を4℃で1分当り回転数4,000rpmで20分間遠心分離して沈殿物を除去し、上清を回収した。回収された上清をニトリロ三酢酸アガロース(nitrilotriacetic acid agarose)にNiを付与したNi−NTAアガロースレジンにローディングした。この際、Ni−NTAアガロースレジンは、予め溶解緩衝液で2時間〜一晩中洗浄して平衡化させてから用いた。上清を4℃で8時間以上振盪機でゆっくり攪拌しながらレジンに吸着させた。組換えタンパク質が含まれた封入体が吸着したレジンを4℃で1分当り回転数1,000rpmで5分間遠心分離して反応液を除去し、非特異的吸着物質を除去するために、レジンを洗浄緩衝液(washing buffer)(HN及びHNM1:50mM NaH2PO4、300mM NaCl、10mMイミダゾール、pH6.3;他のCP−Nm23:100mM NaH2PO4、10mM Tris−HCl、8M尿素、pH6.3)を用いて5回洗浄した。洗浄されたレジンにpH4.5の酸性条件でレジン容積2倍の溶出緩衝液(elution buffer)(HN及びHNM1:50mM NaH2PO4、300mM NaCl、10mMイミダゾール、pH4.5;他のCP−Nm23:100mM NaH2PO4、10mM Tris−HCl、8M尿素、pH4.5)をローディングし、振盪機で2時間以上を攪拌してタンパク質を溶出した。溶出されたタンパク質の純度を検定するために、12%SDS−PAGEゲル電気泳動を行った後、ゲルをクマシーブリリアントブルーで軽く振盪しながら染色し、目的のタンパク質のバンドが明確になるまで脱色液を用いて脱色した。
【0091】
その結果、図6に示すように、マーカータンパク質の泳動位置と比較してkFGF4由来MTD、JO−76MTD及びJO−77MTDがそれぞれ融合された全ての細胞透過性Nm23組換えタンパク質が約19〜20kDaの部位で単一バンドとして検出され、不溶解性分画から純粋に精製されたことを確認した。
【0092】
<3−2>組換えタンパク質のリフォールディング
前記実施例<3−1>のように、不溶解性分画から精製された本発明の組換えタンパク質は、強力な変性剤である8M尿素により変性されたため、これを活性形態に転換するために、下記の通りリフォールディング過程を行った。
【0093】
まず、精製された組換えタンパク質を、リフォールディング緩衝液(refolding buffer:0.55Mグアニジン[Guanidine]HCl、0.88M L−アルギニン、50mMトリス−HCl、150mM NaCl、1mM EDTA、100mM NDSB、1mM酸化型グルタチオン[glutathione oxidized]及び1mM還元型グルタチオン[glutathione reduced])を用いて4℃で24時間透析して変性剤を除去することによって、組換えタンパク質を再活性、即ち、リフォールディングさせた。その後、活性化された組換えタンパク質を細胞培養用培地である1%ペニシリン/ストレプトマイシンが添加されたDMEM(ダルベッコ改変イーグル培地)の中で透析膜(Snakeskin pleated、PIERCE)を用いて4℃で10時間攪拌しながらろ過した。この際、3時間ごとに容器内のDMEMを交換した。前記リフォールディング過程により活性形態に転換された細胞透過性Nm23組換えタンパク質を以後の実験に用いた。
【0094】
実施例4:Nm23組換えタンパク質の定量的細胞透過性分析
本発明による細胞透過性Nm23組換えタンパク質の細胞透過性を定量的に検証するために、下記の通り、哺乳動物細胞におけるそれぞれの組換えタンパク質の細胞内流入を蛍光活性化細胞分取(fluorescence−activated cell sorting;FACS)で分析した。
【0095】
まず、前記において、可溶性形態に分離、精製された細胞透過性Nm23組換えタンパク質をFITC(fluorescein−5−isothiocyanate、Molecular Probe)を用いて蛍光標識した。2〜20mgの組換えタンパク質に333mg/ml濃度のFITC 1μlを混合した後、光を避けて常温で1時間振盪しながら結合させた。蛍光で標識された細胞透過性Nm23組換えタンパク質は、4℃で2日間DMEM培地に対して透析し、標識されていないFITCを除去し、これから回収された組換えタンパク質は、ブラッドフォード(Bradford)タンパク質定量法でその濃度を分析した。その結果、それぞれの組換えタンパク質の濃度は約0.7μg/μlと測定された。
【0096】
一方、マウスのマクロファージに由来するRAW 264.7細胞(韓国細胞株銀行、ソウル、大韓民国)を10%ウシ胎児血清(fetal bovine serum;FBS)及び1%ペニシリン/ストレプトマイシン(penicillin/streptomycin、WelGENE)500mg/mlを含有するDMEM培地(WelGENE)に接種し、37℃、5%CO2の湿潤条件下で培養した。
【0097】
培養後、前記で準備されたFITC−標識細胞透過性Nm23組換えタンパク質(HM1N、HNM1、HM1NM1、HM3N、HNM3及びHM3NM3)それぞれを10μMの濃度でRAW 264.7細胞に処理した後、37℃で1時間さらに培養した。次いで、組換えタンパク質が処理されたRAW 264.7細胞の細胞膜に露出されている遊離FITCを除去するために、トリプシン/EDTA(T/E、Invitrogen)を処理し、低温のリン酸緩衝生理食塩水(PBS)で3回洗浄した。準備された細胞に対してセルクエストプロ細胞測定分析ソフトウェア(CellQuest Pro cytometric analysis software)を用いたFACScanフローサイトメトリー(flow cytometry、Becton Dickinson、CA)で分析した。この際、各試料の細胞濃度は1×104個/μlであり、分析実験は2回以上行った。本発明による細胞透過性Nm23組換えタンパク質の細胞透過性は、MTDを含んでいない対照群タンパク質(HN)の細胞透過性と比較して決定した。
【0098】
その結果、図7a及び7bに示すように、本発明による全ての細胞透過性Nm23組換えタンパク質は、対照群に比べて遥かに高い水準の原形質膜透過能力を示すことを確認した。図7a及び7bにおいて、灰色の曲面は細胞単独、黒色の曲線はFITC単独、青色の曲線はMTDが融合されていない対照群(HN)、赤色の曲線は細胞透過性組換えタンパク質HM1N、HM3N、HNM3及びHM3NM3、緑色の曲線は細胞透過性組換えタンパク質HNM1、そしてオレンジ色の曲線は、細胞透過性組換えタンパク質HM1NM1を示す。
【0099】
実施例5:Nm23組換えタンパク質の顕微鏡的細胞透過性分析
細胞内に伝達された本発明による細胞透過性Nm23組換えタンパク質の細胞内位置を視覚的に確認するために、マウスの線維芽細胞に由来するNIH3T3細胞(韓国細胞株銀行、ソウル、大韓民国)をFITC標識された細胞透過性Nm23組換えタンパク質(HM1N、HNM1、HM1NM1、HM2N、HNM2、HM3N、HNM3及びHM3NM3)それぞれで処理した後、共焦点レーザー走査顕微鏡で観察した。
【0100】
まず、NIH3T3細胞を8ウェルチャンバースライド(8−well chamber slide、LabTek、Nalgen Nunc)で24時間培養した。この際、NIH3T3細胞は、10%FBS及び5%ペニシリン/ストレプトマイシン500mg/mlを含有するDMEM培地で培養した。培養された細胞をPBSで3回洗浄した後、無血清DMEM、FITC含有無血清DMEM、またはFITC標識された組換えタンパク質それぞれを10μM含有する無血清DMEMで37℃、5%CO2の下で1時間処理した。1時間経過後、細胞を4%パラホルムアルデヒド(paraformaldehyde)で室温で20分間処理して固定させた。
【0101】
前記で固定された細胞は、MTDの細胞内伝達部位の区別が容易なように核を蛍光染色するヨウ化プロピジウム(PI、Sigma−Aldrich)対比染色を通じて核への伝達及び細胞透過性の有無を確認した。1μg/mlの濃度で5分間PIで染色した後、細胞をPBSで3回洗浄した。細胞内組換えタンパク質の蛍光標識を保存するために、10μlのDABCO(Fluca)含有ポリビニルアルコール封入剤(mounting medium)をスライド上に点滴した後、15分後に共焦点レーザー走査顕微鏡で観察した。この際、共焦点レーザー走査顕微鏡は、ノマルスキーフィルター(nomarski filter)を用いて細胞の原形、FITC蛍光及びPI蛍光を観察し、FITCは、488nmで励起され、530nmのバンドパスフィルタ(bandpass filter)で検出された。
【0102】
その結果、図8a〜8cに示すように、本発明によるFITC標識された細胞透過性Nm23組換えタンパク質は、細胞単独、FITC単独及びMTD非存在の対照群に比べて核内に広範囲に分布していることが分かる。kFGF4由来MTD、JO−76MTDまたはJO−77MTDに融合された細胞透過性Nm23組換えタンパク質の細胞内局在は、前記フローサイトメトリーの相対的細胞透過性結果に比例するものであり、前記結果は、本発明の細胞透過性Nm23組換えタンパク質の細胞透過性を再度立証するものである。
【0103】
実施例6:細胞透過性Nm23組換えタンパク質で処理された癌細胞におけるMAPK信号伝達抑制効果の確認
細胞透過性が立証されたNm23組換えタンパク質の細胞内機能を確認するために、3種類の癌細胞株を対象に前記組換えタンパク質の生化学的機能をウェスタンブロッティング分析で調査した。
【0104】
本実験に用いた高転移性ヒト乳癌細胞株であるMDA−MB−435及びMDA−MB−231は、韓国細胞株銀行(ソウル、大韓民国)から入手した。これら細胞株は、10%FBS及び1%ペニシリン/ストレプトマイシンを含有するRPMI 1640培地(L−グルタミン300mg/l、25mM HEPES及び25mM NaHCO3)に接種して5%CO2が供給される37℃のインキュベーターで培養した。ヒト肺癌細胞株であるCCL−185はATCCから入手し、10%FBS及び1%ペニシリン/ストレプトマイシンを含有するHamF−12K培地(2mM L−グルタミン、1500mg/lの重炭酸ナトリウム)に接種して5%CO2が供給される37℃のインキュベーターで培養した。
【0105】
6−ウェルプレートに一つのウェル当り2mlのFBS含有RPMI 1640培地を添加し、これに前記で培養された細胞MDA−MB−435、MDA−MB−231及びCCL−185をそれぞれ5×106個/mlの濃度で接種した。前記ウェルプレートを37℃で1日間培養して、細胞がウェルプレートに付着して成長するようにした。培地を除去した後、ウェルプレートに付着した細胞を低温のPBSで洗浄した。本発明による細胞透過性Nm23組換えタンパク質及びMTDが融合されていないNm23タンパク質(HN)をそれぞれ10μMの濃度で各ウェルに500μlずつ処理した後、1時間5%CO2が供給される37℃のインキュベーターで反応させた。この際、MDA−MB−435細胞に対しては、HM1N、HNM1、HM1NM1、HM2N、HNM2、HM3N、HNM3及びHM3NM3組換えタンパク質を、MDA−MB−231及びCCL−185細胞に対しては、HM3N、HNM3及びHM3NM3組換えタンパク質を処理した。1時間処理後、細胞をPBSで2回洗浄し、血清の存在下で同一の条件でそれぞれ異なる時間(2、4、6及び8時間)培養した。
【0106】
培養が終結した後、細胞を200μlの溶解緩衝液(20mM HEPES、pH7.2、1%トリトン−X、10%グリセロール及びタンパク分解酵素阻害剤[proteinase inhibitor])を用いて氷で30分間粉砕して集め、得られた細胞溶解物(cell lysate)を4℃で1分当り回転数12,000rpmで20分間遠心分離した。これから上清を慎重にとり、ペレットを除去した。細胞溶解物中のタンパク質濃度をブラッドフォードタンパク質分析法で定量した。前記組換えタンパク質を25μMの濃度でSDS−PAGEローディング緩衝液(loading buffer、注:組成記載)に添加して細胞溶解物試料を製造し、これを95℃で5分間加熱した後、使用前まで−20℃で保管した。
【0107】
ウェスタンブロッティング分析のために、p21(21kDa、Cell Signaling Technology)、phospho−p53(Ser15、53kDa、Cell Signaling)、phospho−MEK(Ser217/221、45 kDa、Cell Signaling)及びphospho−ERK(Thr202/Tyr204、42/44 kDa、Cell Signaling)を一次抗体として用い、ヤギ抗マウスIgG−HRP(goat anti−mouse IgG−HRP、Santa Cruz Biotechnology)とヤギ抗ウサギIgG−HRP(goat anti−rabbit IgG−HRP、Santa Cruz Biotechnology)を二次抗体として用いた。前記で準備された細胞溶解物試料を12%SDS−PAGEゲルで100Vで2時間電気泳動を行った後、PVDF(polyvinylidene fluoride)膜に100Vで90分間転写させた。抗体との非特異的吸着を防止するために、前記膜をTBS/T緩衝液(10mMトリス−Cl、pH8.0、150mM NaCl、0.05%ツイーン20)に溶解させた5%(w/v)脱脂乳(skim milk)で室温で1時間攪拌しながらブロッキング処理した。ブロッキング緩衝液を除去した後、膜をTBS/T緩衝液で3回洗浄した。これに、一次抗体(新たに製造されたブロッキング緩衝液で1:10000の比率に希釈される)それぞれを添加し、攪拌しながら4℃で一晩中反応させた。一次抗体溶液を除去した後、前記膜をTBS/T緩衝液で1回当たり5分ずつ室温で5回洗浄した。次いで、前記膜に二次抗体(新たに製造されたブロッキング緩衝液で1:5000の比率に希釈される)を添加し、攪拌しながら室温で1時間程度反応させた。反応が終結した後、膜をTBS/T緩衝液で5回洗浄し、化学発光検出用ECL(enhanced chemiluminescence、GE Healthcare Amersham UK)試薬を用いてタンパク質を検出した。
【0108】
図9に示すように、全体的にMTDが融合されていない対照群タンパク質に比べ、本発明による細胞透過性Nm23組換えタンパク質で処理された細胞において、細胞内に透過されたNm23によりMAPKカスケードのスキャフォールドタンパク質であるKSRのセリン392はリン酸化されるのに対し、腫瘍の細胞周期を活性化させるERKのリン酸化(P−ERK)は減少した。特に、Nm23のN及びC末端のそれぞれにJO−77MTDが融合された組換えタンパク質HM3N及びHNM3が3種のヒト癌細胞株の全てにおいてERK及びMEKのリン酸化に対して抑制効果を示すことを確認した。
【0109】
実施例7:細胞透過性Nm23組換えタンパク質のインビトロ抗転移効果確認
<7−1>浸潤分析
本発明による細胞透過性Nm23組換えタンパク質で処理された癌細胞において、癌細胞の移動が遮断されて癌転移が抑制されるかどうかを確認するために、下記のような浸潤分析を行った。
【0110】
まず、ヒト乳癌細胞株であるMDA−MB−435を成長因子の添加なしに10%FBS含有RPMI 1640培地で一晩中培養した。その翌日、細胞をトリプシン(trypsin)で処理して収穫した後、前記と同一のRPMI 1640培地に懸濁した。これに対して、対照群としてMTDに融合されていないNm23タンパク質(HN)と、本発明による細胞透過性Nm23組換えタンパク質(HM2N、HNM2、HM3N、HNM3及びHM3NM3)により、それぞれ10μMの濃度で37℃で1時間処理した。一方、3μmの気孔サイズを有するトランスウェル(trans−well)ポリカーボネートメンブレンフィルター(BD Falcon)の上部をマトリゲル(各ウェル当り40μg;BD Biosciences)でコーティングした。チャンバーの下部に付着基質(adhesive substrate)として10%FBS含有DMEM培地を添加した。0.1%FBS含有DMEM培地に、前記でタンパク質処理された細胞を懸濁して細胞懸濁液を作った後、前記トランスウェルメンブレンフィルター(各ウェル当り1×105細胞)上に接種し、37℃、5%CO2下で、20〜24時間培養した。フィルターをPBSで洗浄し、上部表面に残っている非浸潤の細胞を綿棒で除去した。浸潤されてフィルターの下部表面に付着されている細胞を4%パラホルムアルデヒドで5〜10分間固定させ、0.5%(w/v)ヘマカラー(hemacolor)で10〜20分間染色した。膜の基底面に移動した細胞の数(紫色)を光学顕微鏡で観察しながらカウントした。
【0111】
その結果、図10に示すように、大部分の細胞透過性Nm23組換えタンパク質、特に、HM2N、HM3N及びHNM3組換えタンパク質で処理された場合、対照群タンパク質(HN)に比べて浸潤された細胞の数が顕著に減少したことが分かる。これから本発明の細胞透過性Nm23組換えタンパク質により細胞内に流入したNm23が癌細胞の転移能を効果的に抑制できることをインビトロで確認した。
【0112】
<7−2>創傷移動分析
本発明による細胞透過性Nm23組換えタンパク質が、移動能力に非常に優れた乳癌細胞株であるMDA−MB−435細胞の移動を抑制できるかどうかを確認するために、創傷移動分析(wound migration assay)を行った。
【0113】
MDA−MB−435細胞を60mmの培養容器に底が見えない程度まで培養した後、これに対して、対照群としてMTDが融合されていないNm23タンパク質(HN)と、本発明による細胞透過性Nm23組換えタンパク質(HM2N、HNM2、HM3N、HNM3及びHM3NM3)により、それぞれ10μMの濃度で37℃で1時間処理した。処理後、細胞をPBSで洗浄し、黄色チップ(yellow tip)で培養容器の底の細胞を掻き出して基準線(reference line)を引き、10%FBS含有RPMI培地を3ml添加し、24時間37℃、5%CO2インキュベーターでさらに培養した。次いで、細胞をPBSで洗浄した後、メタノールで1分間固定させ、ギムザ(Giemsa、Chameleon Chemical)で5分間染色して水で洗浄した後、倒立顕微鏡を用いて40倍で観察し、基準線を超えて移動した細胞を観察した。
【0114】
その結果、図11に示すように、前記浸潤分析結果に相応するように対照群タンパク質に比べて本発明による細胞透過性Nm23組換えタンパク質、特に、HM2N、HM3N及びHNM3組換えタンパク質で処理された細胞で癌細胞の移動が顕著に抑制されることを確認した。
【0115】
実施例8:細胞透過性Nm23組換えタンパク質のインビボ抗転移効果の確認
インビトロで立証された細胞透過性Nm23組換えタンパク質の転移抑制効果をインビボでも確認するために、下記免疫組織化学的分析(immunohistochemical analysis)を行った。
【0116】
まず、1×107細胞数の高転移性ヒト乳癌細胞株MDA−MB−435を0.1mlのPBSに懸濁した後、MHCに対する突然変異として免疫力が欠乏した5週齢のヌードマウス(Balb/c nu/nu mice)の外側尾静脈に注射した。実験は、JO−77MTDが融合された細胞透過性Nm23組換えタンパク質(HM3N、300μg)、対照群として担体(PBS、300μl)とMTDが融合されていないNm23タンパク質(HN、300μg)、及びJO−77MTDが融合されたEGFP(enhanced green fluorescent protein)(HM3E、300μg)を投与する計4群を対象に行った。この際、1群は5匹から構成されており、JO−77MTDが融合されたEGFPは、Nm23に融合されるJO−77MTDがNm23の発現に影響を与えるかどうかを確認するための対照群として用いられた。MDA−MB−435細胞をマウスに接種し、5週後、前記タンパク質を各群のマウスに21日間毎日静脈注射(intravenous injection)して投与した。21日経過後、各群当り3匹のマウスを無作為に選別して犠牲にし、肺から組織を摘出した。この際、各群の残った2匹のマウスは、21日間のタンパク質処理後、さらに14日間の無処理観察期間を経てから前記と同様に肺から組織を摘出した。摘出された肺組織は、転移性コロニー(metastatic colony)の検出のために、ブアン固定液(Bouin fixation)で一晩中固定した後、蒸留水で洗浄し、パラフィンに包理してパラフィンブロックを作製した。作製されたパラフィンブロックをマイクロトーム(microtome)を用いて厚さ5μmに薄切りにしてスライドに付着させた後、キシレン(xylene)を5分ずつ3回処理してパラフィンを除去した。このように準備された組織スライドを対象に転移マーカー(metastatic marker)であるビメンチンで免疫組織化学的染色を行った。
【0117】
免疫組織化学的染色のために、抗ビメンチン抗体(Abcam)を一次抗体として用い、ヤギ抗マウスIgG−HRP(goat anti−mouse IgG−HRP、Santa Cruz Biotechnology)を二次抗体として用いた。抗体との非特異的吸着を防止するために、前記組織スライドをTBS/T緩衝液(10mMトリス−Cl、pH8.0、150mM NaCl、0.05%ツイーン20)に浸け、5%(w/v)脱脂乳(skim milk)で室温で1時間攪拌しながらブロッキング処理した。ブロッキング緩衝液を除去した後、スライドをTBS/T緩衝液で3回洗浄し、一次抗体として抗ビメンチン抗体(PBSで1:200の比率に希釈される)を添加し、攪拌しながら4℃で一晩中反応させた。一次抗体溶液を除去した後、前記スライドをTBS/T緩衝液で1回当たり5分ずつ室温で5回洗浄した。次いで、前記スライドに二次抗体としてヤギ抗マウスIgG−HRP(PBSで1:200の比率に希釈される)を添加し、攪拌しながら室温で1時間程度反応させた。反応が終結した後、スライドをTBS/T緩衝液(0.025%トリトン−X100)で2回洗浄し、DAB基質を用いて転移マーカーであるビメンチンの発現を検出した。
【0118】
図12aは、本発明による細胞透過性Nm23組換えタンパク質を21日間投与したマウスから摘出した肺組織、及び前記投与を中止して14日間の無処理期間を経たマウスから摘出した肺組織を肉眼で観察した結果を示す。図12aに示すように、担体、対照群タンパク質(HN)及びJO−77MTDが融合されたEGFP(HM3E)で処理されたマウスの肺組織では、21日間のタンパク質の処理にもかかわらず、肉眼でも識別可能な大きさの腫瘍が形成されていることが分かる。また、タンパク質処理後、2週間の無処理期間を経た後にも腫瘍の大きさが減少しなかっただけでなく、周辺の他の組織にも新しい腫瘍が形成され、転移がなされたことが分かる。しかし、本発明の細胞透過性Nm23組換えタンパク質(HM3N)で処理されたマウスの肺組織では、3週間のタンパク質処理期間だけでなく、連続した2週間の無処理期間にも腫瘍形成が観察されず、腫瘍の形成及び転移が効果的に抑制されたことを確認した。
【0119】
また、図12bは、タンパク質処理21日目のマウスから摘出した肺組織、及び前記投与中止後2週間の無処理期間(35日目)を経たマウスから摘出した肺組織において、転移マーカーであるビメンチンの発現を免疫組織化学的に染色した結果を示す。図12bに示すように、担体、対照群タンパク質(HN)及びJO−77MTDが融合されたEGFP(HM3E)で処理されたマウスの肺組織では、21日目及び35日目の両方においてビメンチンが検出されたのに対し、本発明の細胞透過性Nm23組換えタンパク質(HM3N)で処理されたマウスの肺組織では、21日目及び35日目の両方においてビメンチンが検出されなかった。これから本発明の細胞透過性Nm23組換えタンパク質が癌転移を効果的に抑制できることをインビボで確認した。
【0120】
実施例9:細胞透過性Nm23組換えタンパク質のインビボアポトーシス誘導効果の確認
細胞透過性Nm23組換えタンパク質の投与後、腫瘍組織内でアポトーシスが誘導されるかを確認するために、前記実施例8のマウス動物モデルを用いてTUNEL分析を行った。この際、TUNEL分析は、in situ細胞死検出キット(in situ cell death detection kit)であるTMRレッド(TMR red、Roche)を用いた。
【0121】
具体的には、前記実施例8のように、4群のマウスに静脈注射で細胞透過性Nm23組換えタンパク質(HM3N)と、対照群として担体、MTDが融合されていないNm23タンパク質(HN)及びJO−77MTDが融合されたEGFPタンパク質(HM3E)を21日間処理した各群のマウス、及び前記投与中止後、14日間の無処理期間を経た各群のマウスから摘出した肺組織に対してパラフィンブロックを作製した。作製されたパラフィンブロックをマイクロトームを用いて厚さ5μmに薄切りにしてスライドに付着させた後、キシレンを5分間3回処理してパラフィンを除去した。次いで、無水エタノールで5分間2回、90%、80%及び70%エタノールでそれぞれ3分間処理して含水させ、PBSで5分間保管した。その後、37℃で8分間0.1%クエン酸ナトリウム(sodium citrate)溶液に溶かした0.1%トリトン(Trition(登録商標))X−100溶液で細胞を透過させた後、PBSで2分間2回洗浄した。TUNEL反応緩衝液(50μl、Roche、USA)を前記組織スライド上に処理し、1時間37℃の湿潤インキュベーターで培養した後、PBSで3回洗浄し、蛍光顕微鏡(fluorescence microscope)で観察した。
【0122】
その結果、図13に示すように、担体、MTDが融合されていないNm23タンパク質及びJO−77MTDが融合されたEGFPタンパク質を処理したマウスの全ての肺組織では特に変化が観察されなかったのに対し、細胞透過性Nm23組換えタンパク質を処理したマウスの肺組織では、アポトーシスの際、赤く染色される変化が観察された。前記結果から本発明による細胞透過性Nm23組換えタンパク質のインビボアポトーシス誘導効果を肉眼で確認することができた。また、細胞透過性Nm23組換えタンパク質で処理したマウス群では、タンパク質の投与を中止した2週間後にも依然として癌細胞内でアポトーシスが誘導されることが分かった。
【0123】
実施例10:細胞透過性Nm23組換えタンパク質の投与後のタンパク質発現様相の比較
細胞透過性Nm23組換えタンパク質が投与された組織におけるタンパク質発現様相の変化を確認するために、下記の通りマイクロアレイ(microarray)分析を行った。
【0124】
具体的には、前記実施例9と同様の方法で、3群のマウスに腫瘍直接注射によって細胞透過性Nm23組換えタンパク質HM3Nと、対照群としてHN及び担体を14日間処理した後、この処理を中止して14日間放置した。計28日経過後、各群のマウスから腫瘍組織を分離した後、これを液体窒素で急速冷却させた。腫瘍組織から全RNAをトリゾル試薬(TRIZOL、Invitrogen)を用いてメーカーの指針に従って分離し、これを無RNase DNase(RNase−free DNase、Life Technologies、Inc.)で処理して残存するゲノムDNAを除去した。
【0125】
前記で分離されたRNAに対して、標的cRNAプローブの合成及びハイブリダイゼーションをメーカーの指針に従ってロー・RNA・インプット・リニア・アンプリフィケーションキット(Low RNA Input Linear Amplification kit、Agilent Technology)を用いて行った。簡略に説明すると、それぞれの計RNA 1μgとT7プロモータープライマーを混合し、65℃で10分間反応させた。5×一本鎖緩衝液、0.1M DTT、10mM dNTPミックス、RNase−Out及びMMLV−RT(逆転写酵素)を混合してcDNAマスタミックス(master mix)を製造した後、これを前記反応混合物に添加した。この混合物を40℃で2時間反応させた後、65℃で15分間反応させて逆転写反応及びdsDNA合成を終結させた。メーカーの指針に従って、4×転写緩衝液(transcription buffer)、0.1M DTT、NTPミックス、50%PEG、RNase−Out、無機ピロホスファターゼ(inorganic pyrophosphatase)、T7−RNAポリメラーゼ、及びシアニン(cyanine、3/5−CTP)を用いて転写マスタミックスを製造した。この転写マスタミックスをdsDNA反応混合物に添加し、40℃で2時間反応させてdsDNAの転写を行った。増幅されて標識されたcRNAをメーカーの指針に従って、cRNAクリーンアップモジュール(cRNA Cleanup Module、Agilent Technology)上で精製した。
【0126】
標識されたcRNA標的をND−1000分光光度計(spectrophotometer)(NanoDrop Technologies、Inc.)を用いて定量した。標識効率を調査した後、cRNAに10×ブロッキング剤(blocking agent)及び25×フラグメンテーション緩衝液(fragmentation buffer)を添加し、60℃で30分間反応させてcRNAの断片化を行った。断片化されたcRNAを2×ハイブリダイゼーション緩衝液(hybridization buffer)に再懸濁した後、全ヒトゲノムオリゴマイクロアレイ(Whole Human Genome Oligo Microarray、44K)上にピペットを用いて直接滴加した。ハイブリダイゼーションオーブン(hybridization oven、Agilent Technology)を用いて前記マイクロアレイを65℃で17時間ハイブリダイズした。ハイブリダイズしたマイクロアレイをメーカー(Agilent Technology)の洗浄指針に従って洗浄した。
【0127】
ハイブリダイゼーションパターンをDNAマイクロアレイスキャナ(Agilent Technology)を用いて読み出し、特徴抽出ソフトウェア(Feature Extraction Software、Agilent Technology)で定量した。倍率変化した(fold−changed)遺伝子の全てのデータ標準化及び選別は、ジーンスプリングGX(Gene Spring GX7.3、Agilent Technology)を用いて行った。標準化比率の平均は、標準化された信号チャンネル強度を標準化された対照群のチャンネル強度で割って計算した。遺伝子の機能的アノテーションは、遺伝子オントロジーコンソーシアム(Gene Ontology(商標) Consortium、http://www.geneontology.org/index.shtml)に従ってジーンスプリングGXにより行われた。
【0128】
前記マイクロアレイ分析結果を図14及び下記表3〜9に示すが、表3は、アポトーシスに係わる遺伝子の発現様相を示すものであり、表4は、細胞付着(cell adhesion)に係わる遺伝子の発現様相を示すものであり、表5は、細胞周期(cell cycle)の調節に係わる遺伝子の発現様相を示すものであり、表6a及び6bは、細胞成長(cell growth)に係わる遺伝子の発現様相を示したものであって、表7は、細胞増殖(cell proliferation)に係わる遺伝子の発現様相を示すものであり、表8a及び8bは、免疫反応(immune response)に係わる遺伝子の発現様相を示すものであり、表9は、転移(metastasis)に係わる遺伝子の発現様相を示すものである。
【0129】
【表3】
【0130】
【表4】
【0131】
【表5】
【0132】
【表6a】
【0133】
【表6b】
【0134】
【表7】
【0135】
【表8a】
【0136】
【表8b】
【0137】
【表9】
【0138】
前記表3に示したように、アポトーシスに係わる遺伝子の場合、対照群タンパク質に比べて本発明による細胞透過性Nm23組換えタンパク質投与群においてカスパーゼ14(Caspase 14)の発現が約3.5倍程度、細胞死誘導DFFA類似エフェクタc(cell death−inducing DFFA−like effector c、Cidec)の発現が4倍以上、細胞死誘導DNA断片因子(cell death−inducing DNA fragmentation factor)、アルファサブユニット類似エフェクタA(alpha subunit−like effector A、Cidea)の発現がそれぞれ約2.5倍以上上方調節(up−regulation)されることが分かる。
【0139】
前記表4に示したように、細胞付着に係わる遺伝子の場合、対照群タンパク質に比べて本発明による細胞透過性Nm23組換えタンパク質投与群においてカドヘリン類似26(cadherin−like 26)の発現が3倍以上下方調節されることが分かる。
【0140】
前記表5に示したように、細胞周期調節に係わる遺伝子の場合、対照群タンパク質に比べて本発明による細胞透過性Nm23組換えタンパク質投与群において鳥類赤芽球症ウイルスE−26癌遺伝子(Avian erythroblastosis virus E−26(v−ets)oncogene)の発現が4倍以上下方調節されることが分かる。
【0141】
前記表6a及び6bに示したように、細胞成長に係わる遺伝子の場合、対照群タンパク質に比べて本発明による細胞透過性Nm23組換えタンパク質投与群において腫瘍壊死因子受容体(tumor necrosis factor receptor superfamily、member 17)の発現が6.8倍以上上方調節され、口蓋、肺及び鼻上皮癌関連遺伝子(palate、lung and nasal epithelium carcinoma associated gene)の発現が約26倍下方調節されることが分かる。
【0142】
前記表7に示したように、細胞増殖に係わる遺伝子の場合、対照群タンパク質に比べて本発明による細胞透過性Nm23組換えタンパク質投与群においてトランスクリプション−6のシグナルトランスデューサ及び活性体(signal transducer and activator of transcription 6)の発現が約5倍程度上方調節されることが分かる。
【0143】
前記表8a及び8bに示したように、免疫反応に係わる遺伝子の場合、対照群タンパク質に比べて本発明による細胞透過性Nm23組換えタンパク質投与群において免疫グロブリン重鎖(immunoglobulin heavy chain、J558 family)、免疫グロブリン重鎖複合体(heavy chain complex)及び免疫グロブリン連結鎖(joining chain)の発現がそれぞれ18倍、15倍及び30倍以上上方調節されることが分かる。
【0144】
前記表9に示したように、転移に係わる遺伝子の場合、対照群タンパク質に比べて本発明による細胞透過性Nm23組換えタンパク質投与群においてFascin同族体1(fascin homolog 1、actin bundling protein)の発現が2.5倍以上、プロスタグランジンエンドペルオキシド合成剤2(prostaglandin−endoperoxide synthase 2)の発現が2.5倍以上、及び血管細胞付着分子1(vascular cell adhesion molecule 1)の発現が2倍以上上方調節されることが分かる。
【0145】
以上で本発明の内容の特定部分を詳細に記述したが、当業界の通常の知識を有する者にとって、このような具体的技術は単に好ましい実施様態であるだけで、これによって本発明の範囲が制限されるわけではない点は明白であろう。従って、本発明の実質的な範囲は、添付の特許請求の範囲とそれらの等価物によって定義されると言える。
【0146】
受託証1
【0147】
受託証2
【技術分野】
【0001】
本発明は、癌転移抑制因子(metastasis supressor)Nm23に巨大分子伝達ドメイン(macromolecule transduction domain;MTD)が融合されて細胞透過性を有するNm23組換えタンパク質、前記細胞透過性Nm23組換えタンパク質をコードするポリヌクレオチド、前記細胞透過性Nm23組換えタンパク質の発現ベクター、及び前記細胞透過性Nm23組換えタンパク質を有効成分として含有する癌転移抑制用薬学的組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
Nm23遺伝子は、正常組織の発達及び分化に関与するタンパク質をコードし、様々な転移性細胞株においてその減少した発現が報告されている。一般に、150〜180個のアミノ酸からなるNm23タンパク質は、ロイシンジッパーモチーフ(leucine zipper motif)を含み、二リン酸ヌクレオシドキナーゼ(nucleoside diphosphate kinase;NDPK)活性を有する。2つのヒトNm23異性体であるNm23−H1及びNm23−H2は、それぞれ17,143及び17,294の分子量を有する152個のアミノ酸からなる。特に、Nm23−H1は、腫瘍の転移及び他の様々な細胞機構、例えば、細胞増殖、胚発達、分化、腫瘍形成などに重要な役割を担当することが究明されている。
【0003】
Nm23が癌転移及び発達に影響を及ぼす機構は、今のところ明確に明らかになってはいない。NDPKは、共有結合性リン酸化酵素(phosphoenzyme)中間体を通じて三リン酸と二リン酸ヌクレオシドとの間にリン酸基を伝達するが、Nm23−H1及びNm23−H2のヒスチジン118は、このような一時的なリン酸化部位として作用する。NDPK関連ヒスチジンリン酸化とは別個に、セリンの自己リン酸化(autophosphorylation)がNm23で観察された(MacDonald NJら、J.Biol.Chem.268:25780−25789(1993)(非特許文献1))。Nm23でトランスフェクトされたマウスの黒色腫細胞を対照細胞と比較することにより、Nm23のセリンの生体内リン酸化水準と腫瘍転移能の抑制との間に直接的な関連性が観察された。マウスNm23のセリンリン酸化は、生体内でcAMPにより、そして生体外でフォースコリン(forskolin)により抑制されるが、これは、前記リン酸化が信号伝達経路により調節されることを示す。
【0004】
強力な癌転移抑制遺伝子としてのNm23は、もともとその発現が転移能の低いマウス黒色腫細胞株と密接に関連していると報告されている。Nm23の減少した発現が腫瘍転移と関連しているというのは、Nm23が癌転移抑制因子であることを示す直接的な証拠であると考えられている(Steeg、P.S.、Breast Dis.10:47−50(1998)(非特許文献2))。Nm23の誘導性高発現は、高転移性癌細胞株において顕著に減少した転移能を示した。暫定的な癌転移抑制因子遺伝子としてクローニングされたNm23遺伝子は、NDPK活性以外に、セリン/トレオニン特異的ホスホトランスフェラーゼ(serine/threonine specific phosphotransferase)及びヒスチジンタンパク質キナーゼ(histidine protein kinase)活性を有している。Nm23の発現はまた、造血肝細胞(hematopoietic stem cell;HSC)が分化される間に減少するが、これは、Nm23が細胞において抗分化に重要な因子であることを立証するものである(Gervasi、F.ら、Cell Growth Differ 7:1689−95(1996)(非特許文献3))。Nm23は、ヒト腫瘍の遺伝子強制誘導性発現及びインビトロ(in vitro)転移モデルシステムにおいて、一時的感染の際、強力な癌転移抑制効果を示すことが確認された(Hirayama、R.ら、J.Natl.Cancer Inst.83:1249−50(1991)(非特許文献4);Nakayama、T.ら、J.Natl.Cancer Inst.84:1349−54(1992)(非特許文献5);Leone、A.ら、Oncogene 8:2325−33(1993)(非特許文献6); Leone、A.ら、Oncogene 8:855−65(1993)(非特許文献7))。しかし、NDPK活性の消失をもたらすNm23の突然変異は、乳癌細胞においてNm23の抑制機能に影響を及ぼさなかった(MacDonald、N.J.ら、J.Biol.Chem.271:25107−16(1996)(非特許文献8))。
【0005】
Nm23が癌転移抑制因子であるという事実を立証する最も強力な証拠は、癌細胞株内へのNm23遺伝子のトランスフェクションである。転移適格細胞(metastatically competent cells)において、Nm23の細胞内高用量は、対照群のトランスフェクト体に比べて40〜98%減の転移活性を示した(Leone、A.ら、Cell 65:25−35(1991)(非特許文献9);Leone、A.ら、Oncogene 8:2325−33(1993)(非特許文献6))。
【0006】
最近の研究によると、Nm23は、キイロショウジョウバエ(Drosophila melanogaster)及び線虫(Caenorhabditis elegans)システムで究明されたRasキナーゼ抑制因子(kinase suppressor of Ras;KSR)と相互作用することが報告されている(Morrison、D.K.、J.Cell Sci.114:1609−12(2001)(非特許文献10))。KSRは、マイトジェン活性化タンパク質キナーゼ(mitogen−activated protein kinase;MAPK)カスケード(cascade)のスキャフォールドタンパク質である(Burack、W.R.及びShaw、A.S.、Curr.Opin.Cell Biol.12:211−6(2000)(非特許文献11);Pawson、T.及びScott、J.D.、Science 278:2075−80(1997)(非特許文献12))。スキャフォールドは、リン酸化の速度を向上させるだけでなく、経路の特異性及び安定化に寄与するのに必須である。一旦MAPK信号伝達機構が活性Rasにより活性化されると、KSRは強制的に脱リン酸化され、MAPKカスケードの活性化のためのスキャフォールドとして作用するようになる。この過程で、Nm23は、KSRの他の関連タンパク質の結合部位である、KSRセリン392をリン酸化させ、もしセリン392が突然変異される場合は、セリン434をリン酸化させる。Nm23の転移抑制活性は、Nm23遺伝子が注入された様々な腫瘍細胞で転移可能性を抑制することが明確に立証されている(Yoshida、T.ら、J.Gastroenterol.35:768−74(2000)(非特許文献13))。MAPKカスケードの刺激により活性化された細胞において、Nm23及びKSRの相互作用は、ヒスチジン依存性経路を通じてインビトロで複雑な方式でKSRのリン酸化を誘導する(Hartsough、M.T.ら、J.Biol.Chem.277:32389−99(2002)(非特許文献14))。また、KSRとNm23のインビボ(in vivo)結合は、MAPKカスケードを活性化させる活性Rasの表現型効果を抑制する。
【0007】
このような発見に基づいて、インビボでNm23タンパク質の細胞内への多量投与がKSRをリン酸化させて不活性化させ、Ras媒介性MAPKカスケードを抑制させることができると仮定することができる。そこで、本発明者らは、KSRの再リン酸化により媒介されるMAPK信号伝達カスケードの抑制が癌細胞において細胞増殖、分化及び移動の抑制を誘導し、様々な腫瘍において抗転移効果(anti−metastatic effect)を示すことができることを確信し、これを用いて癌転移抑制用製剤の開発のために鋭意研究努力した。
【0008】
一方、合成化合物または天然物の小分子(small molecules)は細胞内に伝達できるが、タンパク質、ペプチド、核酸のような巨大分子(macromolecules)は細胞内に伝達できない。これらは、分子量500以上の巨大分子で、生きている細胞の原形質膜(plasma membrane)、即ち、二重脂質膜構造(lipid bilayer structure)を通過することができないことが広く知られている。これを克服するための方法として、「巨大分子細胞内伝達技術(macromolecule intracellular transduction technology;MITT)」が開発されたが(Joら、Nat.biotech.19:929−33(2001)(非特許文献15))、これは疾病治療性巨大分子の生体内伝達を可能にすることによって、既存の医薬品開発技術では不可能であったペプチド、タンパク質、遺伝子自体を用いるバイオ新薬物の開発を可能にする。この技術によると、巨大分子は「疎水性巨大分子伝達ドメイン(MTD)」と他の様々な細胞内運搬体と融合され、組換えタンパク質の形態で合成または発現、精製され、細胞内に伝達された後、特定位置に正確かつ迅速に運搬され、所要の様々な役割を効果的に発揮できる。このように巨大分子伝達ドメイン(MTD)は、ペプチド、タンパク質、DNA、RNA、合成化合物などと融合されて細胞内に入れない多くの不透過性物質の伝達を可能にする。
【0009】
そこで、本発明者は、癌転移抑制因子Nm23に巨大分子伝達ドメインを融合させて細胞透過性を付与したNm23組換えタンパク質を製造し、この組換えタンパク質がインビトロだけでなく、インビボ環境下でも細胞外部から大量の癌転移抑制因子であるNm23を細胞内に効果的に伝達し、ヒトの様々な癌で発生するNm23欠損または機能消失を治療できる癌転移抑制用製剤として使用できることを確認し、本発明を完成した。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】MacDonald NJら、J.Biol.Chem.268:25780−25789(1993)
【非特許文献2】Steeg、P.S.、Breast Dis.10:47−50(1998)
【非特許文献3】Gervasi、F.ら、Cell Growth Differ 7:1689−95(1996)
【非特許文献4】Hirayama、R.ら、J.Natl.Cancer Inst.83:1249−50(1991)
【非特許文献5】Nakayama、T.ら、J.Natl.Cancer Inst.84:1349−54(1992)
【非特許文献6】Leone、A.ら、Oncogene 8:2325−33(1993)
【非特許文献7】Leone、A.ら、Oncogene 8:855−65(1993)
【非特許文献8】MacDonald、N.J.ら、J.Biol.Chem.271:25107−16(1996)
【非特許文献9】Leone、A.ら、Cell 65:25−35(1991)
【非特許文献10】Morrison、D.K.、J.Cell Sci.114:1609−12(2001)
【非特許文献11】Burack、W.R.及びShaw、A.S.、Curr.Opin.Cell Biol.12:211−6(2000)
【非特許文献12】Pawson、T.及びScott、J.D.、Science 278:2075−80(1997)
【非特許文献13】Yoshida、T.ら、J.Gastroenterol.35:768−74(2000)
【非特許文献14】Hartsough、M.T.ら、J.Biol.Chem.277:32389−99(2002)
【非特許文献15】Joら、Nat.biotech.19:929−33(2001)
【発明の概要】
【0011】
発明が解決しようとする課題
従って、本発明の目的は、癌転移抑制因子Nm23に細胞透過性を付与し、これを細胞内に高効率で導入することによって、様々な癌細胞で細胞増殖、分化及び移動の抑制を誘導し、優れた抗転移効果を奏することができる癌転移抑制剤としての細胞透過性Nm23組換えタンパク質を提供することである。
【0012】
課題を解決するための手段
前記目的を達成するために、本発明は、癌転移抑制因子Nm23と巨大分子伝達ドメイン(MTD)の融合によって細胞透過性が付与され、Nm23を細胞内に高効率で導入する細胞透過性Nm23組換えタンパク質を提供する。
【0013】
また、本発明は、前記細胞透過性Nm23組換えタンパク質をコードするポリヌクレオチドを提供する。
【0014】
さらに、本発明は、前記ポリヌクレオチドを含む発現ベクター及びこの発現ベクターで形質転換された形質転換細菌を提供する。
【0015】
さらに、本発明は、前記形質転換細菌を培養することを含む細胞透過性Nm23組換えタンパク質の製造方法を提供する。
【0016】
最後に、本発明は、癌細胞の増殖、分化及び移動を抑制し、アポトーシス(apoptosis)を誘導して癌転移を予防するための、前記Nm23組換えタンパク質を有効成分として含有する癌転移抑制用薬学的組成物を提供する。
【0017】
発明の効果
本発明の細胞透過性を有するNm23組換えタンパク質は、癌転移抑制因子であるNm23を細胞内に高効率で導入してKSRのリン酸化及び不活性化を誘導し、Ras−媒介MAPK連続段階を抑制することによって、癌細胞の増殖、分化及び移動を抑制し、癌転移を効果的に予防できる癌転移抑制剤として有用に用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】図1は、本発明によってkFGF4由来MTD、JO−76MTD及びJO−77MTDのいずれか1つが融合された全長形態のNm23組換えタンパク質の構造を示す。
【図2】図2aは、図1で考案されたkFGF4由来MTDが融合された全長形態のNm23組換えタンパク質をコードするDNA断片をPCRで増幅した結果であり、図2bは、図1で考案されたJO−76MTDまたはJO−77MTDが融合された全長形態のNm23組換えタンパク質をコードするDNA断片をPCRで増幅した結果である。
【図3】図3aは、pGEM−T EasyベクターにPCR増幅産物をサブクローニング(subcloning)する過程を示す模式図であり、図3b及び3cは、それぞれ図2a及び2bのPCR増幅産物がpGEM−T Easyベクターにサブクローニングされたことを確認した結果である。
【図4】図4aは、組換え断片をpET−28a(+)ベクターにクローニングして組換え発現ベクターを作製する過程を示す模式図であり、図4b及び4cは、本発明による細胞透過性Nm23組換え断片がpET−28a(+)ベクターにクローニングされたことを確認した結果である。
【図5】図5は、本発明による細胞透過性Nm23組換えタンパク質の発現を様々な宿主細胞を対象に調査した結果である。
【図6】図6は、本発明の組換え発現ベクターが形質転換された細菌で発現された細胞透過性Nm23組換えタンパク質を精製した結果である。
【図7】図7a及び7bは、それぞれ本発明による細胞透過性Nm23組換えタンパク質の細胞透過性をフローサイトメトリーで分析した結果である。
【図8】図8a〜8cは、それぞれ本発明による細胞透過性Nm23組換えタンパク質の細胞透過性を共焦点レーザー走査顕微鏡(confocal laser scanning microscopy)で観察した結果である。
【図9】図9は、本発明による細胞透過性Nm23組換えタンパク質のMAPK信号伝達抑制効果をウェスタンブロッティング(western blotting)で分析した結果である。
【図10】図10は、本発明による細胞透過性Nm23組換えタンパク質の癌転移抑制効果を浸潤分析(invasion assay)で分析した結果である。
【図11】図11は、本発明による細胞透過性Nm23組換えタンパク質の癌転移抑制効果を創傷移動分析(wound migration assay)で分析した結果である。
【図12】図12aは、本発明による細胞透過性Nm23組換えタンパク質が投与されたマウスの肺組織において癌転移抑制効果を肉眼で観察した結果であり、図12bは、本発明による細胞透過性Nm23組換えタンパク質が投与されたマウスの肺組織において、転移マーカー(metastatic marker)であるビメンチン(vimentin)の発現を免疫組織化学的(immunohistochemical)に染色した結果である。
【図13】図13は、本発明による細胞透過性Nm23組換えタンパク質が投与されたマウスの肺組織においてアポトーシス誘導効果をTUNEL(terminal deoxynucleotidyl transferase−mediated dUTP nick−end labeling)分析で観察した結果である。
【図14】図14は、本発明による細胞透過性Nm23組換えタンパク質が投与されたマウスの肺組織において遺伝子発現の変化をマイクロアレイ(Microarray)で分析した結果である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明は、癌転移抑制因子Nm23と巨大分子伝達ドメイン(MTD)の融合によって細胞透過性が付与され、Nm23を細胞内に高効率で導入する細胞透過性Nm23組換えタンパク質(CP−Nm23)及びこれをコードするポリヌクレオチドを提供する。
【0020】
本発明の特徴は、細胞内への導入が容易でない巨大分子である癌転移抑制因子Nm23に特定の巨大分子伝達ドメイン(以下、「MTD」と略称する。)を融合させて細胞透過性を付与することによって、Nm23を細胞内に高効率で伝達することにある。この際、巨大分子伝達ドメインは、癌転移抑制因子であるNm23の片末端のみに融合されるか、あるいはその両末端の両方に融合されてもよい。
【0021】
本発明では、癌転移抑制因子であるNm23に融合されてもよい巨大分子伝達ドメイン(MTD)、すなわち、細胞内への巨大分子の伝達を可能にする3種のペプチドドメインそれぞれに前記Nm23を融合して細胞透過性を有するNm23組換えタンパク質を開発した。
【0022】
本発明において「細胞透過性Nm23組換えタンパク質」とは、巨大分子伝達ドメインと癌転移抑制因子Nm23を含み、これらの遺伝的融合や化学的結合によって形成された共有結合複合体を意味する。ここで「遺伝的融合」とは、タンパク質をコードするDNA配列の遺伝的発現を通じて形成された線状の共有結合からなる連結を意味する。
【0023】
KSRの再リン酸化により媒介されるMAPK信号伝達カスケードを制御して癌細胞での細胞増殖、分化及び移動を抑制し、アポトーシスを誘導して様々な腫瘍において優れた抗転移活性を示すNm23は、配列番号:1の塩基配列及び配列番号:2のアミノ酸配列を有する癌転移抑制因子であって、KSRとRas媒介性MAPKを含む信号伝達カスケードで重要な標的タンパク質として作用する。
【0024】
Nm23タンパク質は、内因性タンパク質であり、その機能についてはNDP(Nucleoside diphosphate)−キナーゼ酵素活性があることが報告されており(Biggsら、Cell 63、933−940(1990))、転写活性化因子(transcription factor)、細胞分化抑制剤(I factor)としても知られている(Postelら、Science 261、478−480(1993); Okabe−Kadoら、Biochim.Biophys.Acta 1267、101−106(1995))。
【0025】
Nm23タンパク質の遺伝子については、ヒトにおいて8種類のアイソタイプ(nm23−H1、nm23−H2、DR−nm23、nm23−H4、nm23−H5、nm23−H6、nm23−H7、およびnm23−H8)が発見されたが、これらのいずれも癌転移抑制に関連していることが知られている(Rosengardら、Nature 342、177−180(1989);Charpin C.ら、Int.J.Cancer 74、416−420(1997))。本発明の好ましい実施形態では、Nm23−H1を対象に細胞透過性組換えタンパク質を製造するが、これに限定されない。
【0026】
前記癌転移抑制因子Nm23に融合されてもよい巨大分子伝達ドメインとしては、配列番号:4、6、8及び37〜227のアミノ酸配列からなる群から選ばれるアミノ酸配列を含む細胞透過性を有するポリペプチドを用いてもよい。前記配列番号:4、6、8及び37〜227のアミノ酸配列のいずれか1つを有する巨大分子伝達ドメインは、細胞膜を貫通してポリペプチド、タンパク質ドメイン、または全長タンパク質を含む生物学的活性分子の細胞内への流入を媒介できる細胞透過性ポリペプチドである。本発明による巨大分子伝達ドメインは、N末端領域、疎水性領域及びC末端の分泌タンパク質切断部位(secreted protein cleavage site)の3部分からなるシグナルペプチド(signal peptides)においてヘリックス(helix)を形成し、細胞膜標的(targeting)活性を付与する疎水性領域を有するように考案されたものである。このような巨大分子伝達ドメインは、細胞に損傷を加えず、かつ直接細胞膜を透過することによって、標的タンパク質を細胞内に移動させて目的とする機能を発揮させることができる。
【0027】
本発明によって癌転移抑制因子Nm23に融合されてもよい配列番号:4、6、8及び37〜227で表されるアミノ酸配列を有する巨大分子伝達ドメインを下記表1a〜1lに示す。
【0028】
【表1a】
【0029】
【表1b】
【0030】
【表1c】
【0031】
【表1d】
【0032】
【表1e】
【0033】
【表1f】
【0034】
【表1g】
【0035】
【表1h】
【0036】
【表1i】
【0037】
【表1j】
【0038】
【表1k】
【0039】
【表1l】
【0040】
前記癌転移抑制因子Nm23に融合されてもよい巨大分子伝達ドメインとしては、カポジ線維芽細胞成長因子(kaposi fibroblast growth factor 4;kFGF4)に由来する配列番号:3の塩基配列及び配列番号:4のアミノ酸配列を有するkFGF4由来MTD(以下、「MTD1」と略称する。)、ストレプトマイセス・セリカラー(Streptomyces coelicolor)由来の分泌タンパク質(secreted protein)として、配列番号:5の塩基配列及び配列番号:6のアミノ酸配列を有するJO−76MTD(以下、「MTD2」と略称する。)、及びヒトの子宮内膜出血関連因子プレプロタンパク質(endometrial bleeding associated factor preproprotein)由来の配列番号:7の塩基配列及び配列番号:8のアミノ酸配列を有するJO−77MTD(以下、「MTD3」として略称する。)を用いてもよい。
【0041】
本発明の細胞透過性を有するNm23組換えタンパク質は、巨大分子伝達ドメインとして前記3種類のMTD(kFGF4由来MTD:MTD1、JO−76:MTD2、JO−77:MTD3)のいずれか1つが癌転移抑制因子Nm23の一方または両末端に融合され、この融合コンストラクトの片末端に配列番号:9の塩基配列を有するSV40巨大T抗原(SV40 large T antigen)由来の核局在配列(nuclear localization sequence;NLS、配列番号:10のアミノ酸配列)と、容易な精製のために、ヒスチジンタグ(histidine−tag;His−Tag)親和性ドメインが融合されている構造を有してもよい。
【0042】
本発明の一実施形態では、kFGF4由来MTD、JO−76MTD及びJO−77MTDのいずれか1つを用いたNm23組換えタンパク質として8つの全長形態(full−length forms)を考案する。
【0043】
本発明において、用語「全長形態」は、癌転移抑制因子Nm23の配列番号:2のアミノ酸配列において1つ以上のアミノ酸残基の欠失、付加、挿入または置換を含んでいない完全な形態のアミノ酸配列を含む形態を意味する。しかし、全長形態のNm23だけでなく、Nm23の抗転移効果を損傷させない範囲内で、そのアミノ酸配列に1つ以上のアミノ酸残基の欠失、付加、挿入または置換による様々な変形を含むNm23誘導体を本発明に用いてもよい。
【0044】
図1aを参考とすれば、本発明によるNm23組換えタンパク質は、
1)全長のNm23のN末端にkFGF4由来MTDが融合されたHis−MTD1−Nm23(HM1N)、
2)そのC末端にkFGF4由来MTDが融合されたHis−Nm23−MTD1(HNM1)、
3)その両末端にkFGF4由来MTDが融合されたHis−MTD1−Nm23−MTD1(HM1NM1)、
4)そのN末端にJO−76MTDが融合されたHis−MTD2−Nm23(HM2N)、
5)そのC末端にJO−76MTDが融合されたHis−Nm23−MTD2(HNM2)、
6)そのN末端にJO−77MTDが融合されたHis−MTD3−Nm23(HM3N)、
7)そのC末端にJO−77MTDが融合されたHis−Nm23−MTD3(HNM3)、
8)その両末端にJO−77MTDが融合されたHis−MTD3−Nm23−MTD3(HM3NM3)
である。
【0045】
前記において、kFGF4由来MTDを用いて製造された全長形態のNm23組換えタンパク質として、His−MTD1−Nm23(HM1N)は配列番号:22のアミノ酸配列を有し、これは配列番号:21の塩基配列を有するポリヌクレオチドによりコードされ;His−Nm23−MTD1(HNM1)は配列番号:24のアミノ酸配列を有し、これは配列番号:23の塩基配列を有するポリヌクレオチドによりコードされ;His−MTD1−Nm23−MTD1(HM1NM1)は配列番号:26のアミノ酸配列を有し、これは配列番号:25の塩基配列を有するポリヌクレオチドによりコードされる。
【0046】
前記において、JO−76MTDを用いて製造された全長形態のNm23組換えタンパク質として、His−MTD2−Nm23(HM2N)は配列番号:28のアミノ酸配列を有し、これは配列番号:27の塩基配列を有するポリヌクレオチドによりコードされ;His−Nm23−MTD2(HNM2)は配列番号:30のアミノ酸配列を有し、これは配列番号:29の塩基配列を有するポリヌクレオチドによりコードされる。
【0047】
前記において、JO−77MTDを用いて製造された全長形態のNm23組換えタンパク質として、His−MTD3−Nm23(HM3N)は配列番号:32のアミノ酸配列を有し、これは配列番号:31の塩基配列を有するポリヌクレオチドによりコードされ;His−Nm23−MTD3(HNM3)は配列番号:34のアミノ酸配列を有し、これは配列番号:33の塩基配列を有するポリヌクレオチドによりコードされ;His−MTD3−Nm23−MTD3(HM3NM3)は配列番号:36のアミノ酸配列を有し、これは配列番号:35の塩基配列を有するポリヌクレオチドによりコードされる。
【0048】
本発明では、細胞透過性Nm23組換えタンパク質の対照群として、MTDが融合されずに片末端にヒスチジン標識とNLSのみが融合されたNm23組換えタンパク質His−Nm23(HN)を製造する。この対照群タンパク質は、配列番号:20のアミノ酸配列を有し、これは配列番号:19の塩基配列を有するポリヌクレオチドによりコードされる。
【0049】
また、本発明は、前記細胞透過性Nm23組換えタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含む組換え発現ベクター及びこの組換え発現ベクターで形質転換された形質転換細菌を提供する。
【0050】
本発明において、「組換え発現ベクター」とは、適当な宿主細胞において標的タンパク質または標的RNAを発現できるベクターであり、遺伝子挿入物が発現されるように作動可能に連結されている必須の調節要素を含む遺伝子コンストラクトをいう。
【0051】
本発明において、用語「作動可能に連結された(operably linked)」とは、一般的機能を担うように核酸発現調節配列と目的とするタンパク質またはRNAをコードする核酸配列が機能的に連結(functional linkage)されていることをいう。例えば、プロモーターとタンパク質またはRNAをコードする核酸配列が作動可能に連結されてコードする核酸配列の発現に影響を及ぼし得る。組換え発現ベクターとの作動的連結は、当該技術分野によく知られた遺伝子組換え技術を用いて製造でき、部位特異的DNA切断及び連結には、当該技術分野に一般に知られた酵素などを用いる。
【0052】
本発明に使用可能な発現ベクターとしては、プラスミドベクター、コスミド(cosmid)ベクター、バクテリオファージベクター、ウイルスベクターなどを含むが、これに制限されない。好適な発現ベクターは、プロモーター(promoter)、オペレーター(operator)、開始コドン(initiation codon)、終結コドン(termination codon)、ポリアデニル化信号(polyadenylation signal)、エンハンサー(enhancer)のような発現調節配列以外にも、膜標的化または分泌のための信号配列(signal sequence)またはリーダー配列(leader sequence)を含み、目的に応じて多様に製造されてもよい。発現ベクターのプロモーターは、構成的(constitutive)または誘導性(inducible)であってもよい。また、発現ベクターは、ベクターを含有する宿主細胞を選択するための選択マーカーを含み、複製が可能な発現ベクターの場合、複製起点を含む。
【0053】
このように製造された本発明の組換え発現ベクターは、例えば、pET28a(+)−HNM1であってもよい。前記組換え発現ベクターpET28a(+)−HNM1は、pET−28a(+)ベクター(Novagen、Germany)のマルチクローニングサイト(multi cloning site;MCS)のうちNdeI制限酵素部位に、本発明による細胞透過性Nm23組換えタンパク質として全長のNm23のC末端にkFGF4由来MTDが融合された組換えタンパク質HNM1をコードするヌクレオチドが挿入されたベクターを意味する。
【0054】
本発明の一実施例では、タンパク質の精製を容易にする目的で、細胞透過性Nm23組換えタンパク質のN末端部位に、人為的に6つのヒスチジンタグを含めて発現させるために、His−Tag配列を有しているpET−28a(+)ベクター(Novagen、USA)に本発明のヌクレオチドをクローニングする。
【0055】
前記組換え発現ベクターから発現される細胞透過性Nm23組換えタンパク質は、全長形態のNm23の一方または両末端にkFGF4由来MTD、JO−76MTD及びJO−77MTDの中の1つが融合され、そのN末端部位にヒスチジンタグとNLSが連結されている。
【0056】
本発明はまた、前記組換え発現ベクターで形質転換された形質転換細菌を提供する。本発明の形質転換細菌は、好ましくは大腸菌であってもよく、大腸菌を本発明の組換え発現ベクター、例えば、本発明による全長のNm23のC末端にkFGF4由来MTDが融合された細胞透過性組換えタンパク質HNM1をコードするヌクレオチドを含む組換え発現ベクターpET28a(+)−HNM1を用いることによって、多量の細胞透過性Nm23組換えタンパク質を発現させることができる。形質転換には、核酸を宿主細胞に導入するいかなる方法も含まれ、当該分野の熟練者に公知となった形質転換技術により行ってもよい。好ましくは、微粒子銃法(microprojectile bombardment)、電気穿孔法(electroporation)、リン酸カルシウム(CaPO4)沈殿、塩化カルシウム(CaCl2)沈殿、PEG媒介性融合法(PEG−mediated fusion)、マイクロインジェクション法(microinjection)及びリポソーム媒介法(liposome−mediated method)などが含まれるが、これに制限されない。
【0057】
本発明の好ましい実施例では、前記方法で製造された全長のNm23のN末端にJO−77MTDが融合されたHM3Nと全長のNm23のC末端にJO−77MTDが融合されたHNM3それぞれを含む組換え発現ベクターを大腸菌DH5αに形質転換させた形質転換細菌を2008年8月28日付で韓国生命工学研究院(KRIBB)内の遺伝子銀行(KCTC)に寄託番号KCTC−11380BP及びKCTC−11381BPとして寄託した。
【0058】
本発明はまた、前記形質転換細菌を培養することを含む細胞透過性Nm23組換えタンパク質の製造方法を提供する。
【0059】
前記製造方法は、本発明の形質転換細菌に導入された組換え発現ベクターにおいて本発明の細胞透過性Nm23組換えタンパク質をコードするポリヌクレオチドが発現されるように形質転換細菌を適切な培地及び条件下で培養することにより行われる。前記形質転換細菌を培養して組換えタンパク質を発現させる方法は、当該分野で公知となっており、例えば、形質転換細菌が成長できる適切な培地に接種して継代培養した後、これを本培養用培地に接種し、適切な条件、例えば、遺伝子発現誘導剤であるイソプロピル−β−D−チオガラクトシド(isopropyl−β−D−thiogalactoside;IPTG)の存在下で培養することによって、タンパク質の発現を誘導できる。培養が完了すると、前記培養物から実質的に純粋な組換えタンパク質を回収できる。本発明において用語“実質的に純粋な”とは、本発明の組換えタンパク質及びこれをコードするポリヌクレオチドの配列が宿主細胞由来の他のタンパク質を実質的に含まないことを意味する。
【0060】
前記形質転換細菌で発現された組換えタンパク質の回収は、当該分野で公知の様々な分離及び精製方法を通じて行ってもよく、通常、細胞残屑(cell debris)、培養不純物などを除去するために、細胞溶解物を遠心分離した後、沈殿、例えば、塩析(硫酸アンモニウム沈殿及びリン酸ナトリウム沈殿)、溶媒沈殿(アセトン、エタノールなどを用いたタンパク質分画沈殿)などを行ってもよく、透析、電気泳動及び各種のカラムクロマトグラフィーなどを行ってもよい。前記クロマトグラフィーとしては、イオン交換クロマトグラフィー、ゲルろ過クロマトグラフィー、HPLC、逆相HPLC、親和性カラムクロマトグラフィー及び限外ろ過などの技法を単独で用い、または併用してもよい(Maniatisら、Molecular Cloning:A Laboratory Manual、Cold Spring Harbor Laboratory、Cold Spring Harbor、N.Y.、1982;Sambrookら、Molecular Cloning:A Laboratory Manual、2d Ed.、Cold Spring Harbor Laboratory Press(1989);Deutscher、M.、Guide to Protein Purification Methods Enzymology vol.182.Academic Press.Inc.、San Diego、CA(1990))。
【0061】
一方、組換え発現ベクターで形質転換された細菌で発現された組換えタンパク質は、タンパク質分離の際、タンパク質の特性に応じて溶解性分画(soluble fraction)と不溶解性分画(insoluble fraction)に区分され得る。発現されたタンパク質のほとんどが溶解性分画である場合には、前述の方法に従って容易にタンパク質を分離及び精製することができるが、発現されたタンパク質の大部分が不溶解性分画、即ち、封入体(inclusion body)の形態で存在する場合には、尿素(urea)、界面活性剤などのタンパク質変性剤が含まれた溶液で最大限タンパク質を溶解させた後、遠心分離して透析、電気泳動及び各種のカラムクロマトグラフィーなどを行うことによって精製することができる。この際、タンパク質変性剤が含まれた溶液によりタンパク質の構造が変形されてその活性を失うことがあるので、不溶解性分画からタンパク質を精製する過程中には脱塩及びリフォールディング(refolding)段階が必要である。即ち、前記脱塩及びリフォールディング段階は、タンパク質変性剤が含まれていない溶液を用いて透析及び希釈を行うか、またはフィルターを用いて遠心分離してもよい。また、前記溶解性分画からタンパク質を精製する過程中にも、精製時に用いる溶液中の塩濃度が高い場合は、このような脱塩及びリフォールディング段階を行ってもよい。
【0062】
本発明の一実施形態では、本発明による細胞透過性Nm23組換えタンパク質が封入体の形態で不溶解性分画に存在することを確認し、不溶解性分画からこれを精製するために、不溶解性分画をトリトンX−100のような非イオン性界面活性剤を含有する緩衝液に溶解させた後、超音波で処理し、遠心分離して沈殿物を得る。前記得られた沈殿物を変性剤である尿素が含まれている溶液に溶解させた後、遠心分離して上清を得る。尿素を用いて不溶解性分画から最大限溶解した本発明の組換えタンパク質は、ヒスチジン結合精製キットを用いて精製し、その後精製されたタンパク質は、アミコンフィルターなどを用いた遠心分離により塩分の除去及びタンパク質構造のリフォールディング過程を行うことによって、本発明の組換えタンパク質を得ることができる。
【0063】
さらに、本発明は、癌細胞の増殖、分化及び移動を抑制し、アポトーシスを誘導して癌転移を予防するのに効果的な、前記Nm23組換えタンパク質を有効成分として含有する癌転移抑制用薬学的組成物を提供する。
【0064】
癌転移抑制因子としてKSRとRas媒介性MAPKを含む信号伝達カスケードで重要な標的タンパク質として作用するNm23は、KSRの再リン酸化により媒介されるMAPK信号伝達カスケードを制御して癌細胞での細胞増殖、分化及び移動を抑制し、アポトーシスを誘導することによって、ヒトの様々な癌において癌の転移を予防及び/又は治療するための癌転移抑制剤として有用に用いられる。
【0065】
本発明による組換えタンパク質を有効成分として含有する組成物は、薬学的に許容される担体、例えば、経口投与用担体または非経口投与用担体をさらに含んでもよい。経口投与用担体は、ラクトース、澱粉、セルロース誘導体、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸などを含む。経口投与用の場合、本発明による組換えタンパク質は、賦形剤と混合してチュアブル錠、バッカル剤、トローチ、カプセル、エリキシル、懸濁液、シロップ及びウエハーなどの形態で用いてもよい。また、非経口投与用担体は、水、適切なオイル、食塩水、水性グルコース及びグリコールなどを含み、安定化剤及び保存剤をさらに含んでもよい。適切な安定化剤としては、亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸ナトリウムまたはアスコルビン酸のような抗酸化剤がある。適切な保存剤としては、ベンザルコニウムクロリド、メチル−またはプロピル−パラベン及びクロロブタノールがある。その他の薬学的に許容される担体としては、次の文献に記載されているものを参考にして用いてもよい(Remington’s Pharmaceutical Sciences、19th ed.、Mack Publishing Company、Easton、PA(1995))。
【0066】
本発明による組成物は、種々の非経口または経口投与の形態に剤形化してもよい。非経口投与用剤形の代表的なものは注射用剤形であり、等張性水溶液または懸濁液が好ましい。注射用剤形は、適切な分散剤または湿潤剤及び懸濁化剤を用いて当業界に公知となった技術によって製造してもよい。例えば、各成分を食塩水または緩衝液に溶解させて注射用に剤形化してもよい。また、経口投与用剤形としては、例えば、錠剤、カプセル剤などがあるが、これらの剤形は、有効成分以外に希釈剤(例:ラクトース、デキストロース、スクロース、マンニトール、ソルビトール、セルロース及び/又はグリシン)と滑沢剤(例:シリカ、タルク、ステアリン酸及びステアリン酸マグネシウムまたはカルシウム塩及び/又はポリエチレングリコール)を含んでもよい。前記錠剤は、マグネシウムアルミニウムシリケート、澱粉ペースト、ゼラチン、トラガカント、メチルセルロース、ナトリウムカルボキシメチルセルロース及び/又はポリビニルピロリジンのような結合剤を含んでもよく、場合によって、澱粉、寒天、アルギン酸またはアルギン酸ナトリウム塩のような崩壊剤、吸収剤、着色剤、香味剤及び/又は甘味剤をさらに含んでもよい。前記剤形は、通常の混合、顆粒化またはコーティング方法により製造してもよい。
【0067】
本発明の組成物は、防腐剤、水和剤、乳化促進剤、浸透圧調節のための塩及び/又は緩衝剤のような補助剤とその他治療的に有用な物質をさらに含んでもよく、通常の方法に従って製剤化してもよい。
【0068】
また、本発明による組成物の投与経路としては、経口的、または静脈内、皮下、鼻腔内または腹腔内などのように非経口的にヒトと動物に投与してもよい。経口投与は、舌下適用も含む。非経口的投与は、皮下注射、筋肉内注射及び静脈注射のような注射法及び点滴法を含む。
【0069】
本発明の組成物において、本発明の組換えタンパク質の合計有効量は、単一投与量(single dose)で患者に投与してもよく、多重投与量(multiple dose)で長期間投与される分割治療方法(fractionated treatment protocol)により投与してもよい。本発明の組成物は、疾患の程度に応じて有効成分の含量を異にしてもよいが、通常、成人を基準に1回投与時、5〜20mgの有効投与量で1日に数回繰り返し投与してもよい。しかし、前記組換えタンパク質の濃度は、薬物の投与経路及び治療回数だけでなく、患者の年齢、体重、健康状態、性別、疾患の重篤度、食餌及び排泄率等の様々な要因を考慮して患者に対する有効投与量を決定してもよい。従って、このような点を考慮すると、当該分野の通常の知識を有する者であれば、前記組換えタンパク質の癌転移抑制剤としての特定の用途に応じる適切な有効投与量を決定できるであろう。本発明による組成物は、本発明の効果を奏する限り、その剤形、投与経路及び投与方法に特に制限されない。
【実施例】
【0070】
以下、実施例を通じて本発明をより詳細に説明する。これらの実施例は、単に本発明をより具体的に説明するためのものであり、本発明の要旨によって本発明の範囲がこれらの実施例により制限されないことは、当業界で通常の知識を有する者に自明であろう。
【0071】
実施例1:細胞透過性Nm23組換えタンパク質(CP−Nm23)の製造
kFGF4由来MTD(MTD1)、JO−76MTD(MTD2)及びJO−77MTD(MTD3)のいずれか1つを巨大分子伝達ドメインとして用いて細胞透過性Nm23組換えタンパク質を製造するために、全長形態のNm23組換えタンパク質として下記8つの遺伝子コンストラクトを製造した(図1):
1)全長のNm23のN末端にkFGF4由来MTDが融合されたHis−MTD1−Nm23(HM1N)、
2)そのC末端にkFGF4由来MTDが融合されたHis−Nm23−MTD1(HNM1)、
3)その両末端にkFGF4由来MTDが融合されたHis−MTD1−Nm23−MTD1(HM1NM1)、
4)そのN末端にJO−76MTDが融合されたHis−MTD2−Nm23(HM2N)、
5)そのC末端にJO−76MTDが融合されたHis−Nm23−MTD2(HNM2)、
6)そのN末端にJO−77MTDが融合されたHis−MTD3−Nm23(HM3N)、
7)そのC末端にJO−77MTDが融合されたHis−Nm23−MTD3(HNM3)、及び
8)その両末端にJO−77MTDが融合されたHis−MTD3−Nm23−MTD3(HM3NM3)。
【0072】
前記組換えタンパク質の遺伝子コンストラクトを製造するために、それぞれに対して特異的に考案されたプライマー対とヒトNm23 cDNAを鋳型として用いるポリメラーゼ連鎖反応(polymerase chain reaction;PCR)を行った。この際、HM1Nの増幅のための正方向及び逆方向プライマーは、それぞれ配列番号:13及び12の塩基配列を有し;HNM1の増幅のための正方向及び逆方向プライマーは、それぞれ配列番号:11及び14の塩基配列を有し;HM1NM1の増幅のための正方向及び逆方向プライマーは、それぞれ配列番号:13及び14の塩基配列を有し;HM2Nの増幅のための正方向及び逆方向プライマーは、それぞれ配列番号:15及び12の塩基配列を有し;HNM2の増幅のための正方向及び逆方向プライマーは、それぞれ配列番号:11及び16の塩基配列を有し;HM3Nの増幅のための正方向及び逆方向プライマーは、それぞれ配列番号:17及び12の塩基配列を有し;HNM3の増幅のための正方向及び逆方向プライマーは、それぞれ配列番号:11及び18の塩基配列を有し;HM3NM3の増幅のための正方向及び逆方向プライマーは、それぞれ配列番号:17及び18の塩基配列を有する。
【0073】
前記でそれぞれの組換え断片の増幅のために用いられた正方向及び逆方向プライマー対を下記表2に整理する。
【表2】
【0074】
PCR反応は、鋳型遺伝子としてヒトNm23 cDNA 100ng、各0.2mMの終濃度dNTP混合物(dGTP、dATP、dTTP及びdCTP、各2mM)、0.6μMの各プライマー、10×Taq緩衝溶液5μl、Taqポリメラーゼ(Takara、Japan)1μlを含む溶液を最終体積50μlの反応液として行った。PCR反応条件は、まず94℃で2分間熱変性(denaturing)させた後、94℃で45秒、53℃で45秒及び72℃で45秒の反応を25回繰り返し、最終的に72℃で5分間増幅した。反応が終わった後、1.0%アガロースゲル電気泳動(electrophoresis)を行い、増幅された生成物を確認した。図2a及び2bに示すように、MTDが融合されたそれぞれの組換え断片が目的とする大きさに増幅されたことを確認した。
【0075】
アガロースゲルで増幅された組換え断片を回収した後、これらのそれぞれを商用のキット(QIAquick Gel extraction kit;Qiagen、USA)を用いて抽出、精製した。抽出した断片をpGEM−T Easyベクター(Promega、USA)に挿入した後(図3a)、MTDが融合されたNm23組換えタンパク質遺伝子断片が挿入されたpGEM−T Easyベクターを大腸菌DH5αコンピテントセル(competent cell)に形質転換させた。これを50μg/mlのアンピシリン(ampicillin)を含む平板LB培地に接種し、37℃で一晩中培養して形質転換された大腸菌を選別し、これを再度液体LB培地で培養した後、これからそれぞれのNm23組換えタンパク質遺伝子が挿入されたpGEM−T Easyベクターを多量に得た。
【0076】
図3bは、pGEM−T Easyベクターに挿入された組換え断片をNdeI制限酵素(Enzynomics、Korea)で分離し、0.8%アガロースゲル電気泳動を行った結果を示し、これからそれぞれの組換え断片が前記ベクターに正しく挿入されたことを確認した。
【0077】
前記において、それぞれのNm23組換え断片を含むpGEM−T Easyベクターを、制限酵素NdeIを用いて37℃で6時間切断(digestion)してそれぞれの組換え断片を得た。一方、ヒスチジンタグとT7プロモーターを有する発現ベクターpET−28a(+)ベクター(Novagen、USA)も制限酵素NdeIを用いて前記と同一の条件で切断した。前記組換え断片と、切断されたpET−28a(+)ベクターとを電気泳動で分離し、商用のキット(QIAquick Gel extraction kit;Qiagen、USA)を用いて精製した。これらの混合物にT4 DNAリガーゼ(ligase;Takara、日本)を添加し、16℃で12時間ライゲーション(ligation)させた後、大腸菌DH5αコンピテントセルに形質転換させて組換えタンパク質発現ベクターを得た(図4a)。
【0078】
図4bは、pET−28a(+)ベクターに挿入された組換え断片をNdeI制限酵素で分離してアガロースゲル電気泳動を行った結果を示し、これからそれぞれの組換え断片が前記ベクターに正しく挿入されたことを確認した。
【0079】
このように得られた組換えタンパク質発現ベクターを、それぞれpET28a(+)−HM1N、pET28a(+)−HNM1、pET28a(+)−HM1NM1、pET28a(+)−HM2N、pET28a(+)−HNM2、pET28a(+)−HM3N、pET28a(+)−HNM3及びpET28a(+)−HM3NM3と命名し、これらの中で組換え発現ベクターpET28a(+)−HM3N及びpET28a(+)−HNM3で大腸菌DH5αを形質転換させて得られた形質転換細菌DH5α/HM3NとDH5α/HNM3を2008年8月28日付で韓国生命工学研究院内の遺伝子銀行に寄託番号KCTC−11380BP及びKCTC−11381BPとして寄託した。
【0080】
塩基配列の分析結果、前記でkFGF4由来MTDを用いて製造された全長形態のNm23組換えタンパク質として、His−MTD1−Nm23(HM1N)は配列番号:22のアミノ酸配列を有し、これは配列番号:21の塩基配列を有するポリヌクレオチドによりコードされ;His−Nm23−MTD1(HNM1)は配列番号:24のアミノ酸配列を有し、これは配列番号:23の塩基配列を有するポリヌクレオチドによりコードされ;His−MTD1−Nm23−MTD1(HM1NM1)は配列番号:26のアミノ酸配列を有し、これは配列番号:25の塩基配列を有するポリヌクレオチドによりコードされる。
【0081】
また、JO−76MTDを用いて製造された全長形態のNm23組換えタンパク質として、His−MTD2−Nm23(HM2N)は配列番号:28のアミノ酸配列を有し、これは配列番号:27の塩基配列を有するポリヌクレオチドによりコードされ;His−Nm23−MTD2(HNM2)は配列番号:30のアミノ酸配列を有し、これは配列番号:29の塩基配列を有するポリヌクレオチドによりコードされる。
【0082】
さらに、JO−77MTDを用いて製造された全長形態のNm23組換えタンパク質として、His−MTD3−Nm23(HM3N)は配列番号:32のアミノ酸配列を有し、これは配列番号:31の塩基配列を有するポリヌクレオチドによりコードされ;His−Nm23−MTD3(HNM3)は配列番号:34のアミノ酸配列を有し、これは配列番号:33の塩基配列を有するポリヌクレオチドによりコードされ;His−MTD3−Nm23−MTD3(HM3NM3)は配列番号:36のアミノ酸配列を有し、これは配列番号:35の塩基配列を有するポリヌクレオチドによりコードされる。
【0083】
一方、本発明では、細胞透過性Nm23組換えタンパク質の対照群として、全長のNm23にヒスチジンタグのみが融合されているHis−Nm23(HN)を製造した。この対照群タンパク質は、配列番号:20のアミノ酸配列を有し、これは配列番号:19の塩基配列を有するポリヌクレオチドによりコードされる。
【0084】
実施例2:組換えタンパク質の発現
<2−1>最適な宿主菌株の選抜
細胞透過性Nm23組換えタンパク質の発現誘導に最も適した宿主菌株を選抜するために、LacIプロモーターを有する大腸菌BL21(DE3)、BL21 Gold(DE3)、BL21 CodonPlus(DE3)及びBL21 Gold(DE3)pLysS(Stratagene、USA)を対象に下記実験を行った。
【0085】
まず、前記実施例1で製造された組換え発現ベクターpET28a(+)−HM1N、pET28a(+)−HNM1、pET28a(+)−HM1NM1、及びpHN(対照群)それぞれを大腸菌菌株BL21(DE3)、BL21 Gold(DE3)、BL21 CodonPlus(DE3)及びBL21−Gold(DE3)pLysSに、それぞれ熱ショック(heat shock)方法で形質転換させた。また、前記実施例1で製造された組換え発現ベクターpET28a(+)−HM2N、pET28a(+)−HNM2、pET28a(+)−HM3N、pET28a(+)−HNM3及びpET28a(+)−HM3NM3それぞれを大腸菌菌株BL21−Gold(DE3)に熱ショック方法で形質転換させた。形質転換後、それぞれを50μg/mlのカナマイシン含有LB平板培地に接種して培養した。前記培地に形成されたコロニーを1ml LB培地に接種し、37℃で一晩中培養した後、これを再度100ml LB培地に接種し、37℃でOD600が0.5に達するまで培養した。この培養液にタンパク質発現の誘導剤として0.7mMのイソプロピル−β−D−チオガラクトシド(isopropyl−β−D−thiogalactoside、IPTG)を添加し、30℃で2時間さらに培養した。この培養液を4℃で7,000×g、20分間遠心分離して上清を除去し、菌体を回収した。回収した菌体を溶解緩衝液(lysis buffer:100mM NaH2PO4、10mM Tris−HCl、8M尿素、pH8.0)に懸濁した後、超音波処理を行って細胞を破砕し、これを14,000×gで15分間遠心分離して溶解性分画と不溶解性分画を得た。この溶解性分画と不溶解性分画をそれぞれSDS−PAGEにかけてタンパク質発現特性と発現量の程度を分析した。
【0086】
図5に示すように、様々な宿主菌株を対象に本発明の組換えタンパク質の発現を調査した結果、一部の細胞透過性Nm23組換えタンパク質の発現がBL21−Gold(DE3)菌株において低く観察されたが、ほとんどの細胞透過性Nm23組換えタンパク質の発現が前記菌株において高く示されることが確認された。前記結果から、BL21−Gold(DE3)菌株を本発明による細胞透過性Nm23組換えタンパク質の発現のための最適な菌株として選択した。
【0087】
<2−2>組換えタンパク質の発現
前記実施例<2−1>で最適な菌株として確認された大腸菌BL21−Gold(DE3)に組換え発現ベクターpET28a(+)−HM1N、pET28a(+)−HNM1、pET28a(+)−HM1NM1、pET28a(+)−HM2N、pET28a(+)−HNM2、pET28a(+)−HM3N、pET28a(+)−HNM3及びpET28a(+)−HM3NM3それぞれを前記実施例<2−1>と同様の方法で形質転換させた後、0.7mMのIPTGを添加して発現を誘導し、これから得られた溶解性分画と不溶解性分画をそれぞれSDS−PAGEにかけてタンパク質発現特性と発現量の程度を分析した。
【0088】
図6に示すように、約19〜20kDaの大きさを有する本発明の細胞透過性Nm23組換えタンパク質は、封入体の形態でほとんど不溶解性分画に含まれており、IPTG無処理培養液(−)に比べてIPTG処理培養液(+)において目的のタンパク質の発現が顕著に増加したことを確認した。
【0089】
実施例3:組換えタンパク質の精製及びリフォールディング
<3−1>組換えタンパク質の精製
本発明による細胞透過性Nm23組換えタンパク質は、封入体の形態で不溶解性分画に存在するので、これを精製するために、強力な変性剤として8M尿素を用いた。
【0090】
まず、本発明の組換え発現ベクターpET28a(+)−HM1N、pET28a(+)−HNM1、pET28a(+)−HM1NM1、pET28a(+)−HM2N、pET28a(+)−HNM2、pET28a(+)−HM3N、pET28a(+)−HNM3及びpET28a(+)−HM3NM3及びpET28a(+)−HM(対照群)のそれぞれに形質転換されたBL21−Gold(DE3)菌株を前記実施例2のように1lのLB培地に培養した。それぞれの培養液を遠心分離して得た菌体を20mlの溶解緩衝液(lysis buffer)(HN及びHNM1:50mM NaH2PO4、300mM NaCl、10mMイミダゾール、pH8.0;他のCP−Nm23:100mM NaH2PO4、10mM Tris−HCl、8M尿素、pH8.0)に気泡が生じないように注意しながら懸濁し、これをマイクロチップ(microtip)付きのソニケーターを用いて低温で菌体を破砕した。この際、処理時間は、装置の出力を最大出力の25%に設定し、5分間30秒処理後、10秒放置を繰り返した。十分に溶菌された封入体を4℃で1分当り回転数4,000rpmで20分間遠心分離して沈殿物を除去し、上清を回収した。回収された上清をニトリロ三酢酸アガロース(nitrilotriacetic acid agarose)にNiを付与したNi−NTAアガロースレジンにローディングした。この際、Ni−NTAアガロースレジンは、予め溶解緩衝液で2時間〜一晩中洗浄して平衡化させてから用いた。上清を4℃で8時間以上振盪機でゆっくり攪拌しながらレジンに吸着させた。組換えタンパク質が含まれた封入体が吸着したレジンを4℃で1分当り回転数1,000rpmで5分間遠心分離して反応液を除去し、非特異的吸着物質を除去するために、レジンを洗浄緩衝液(washing buffer)(HN及びHNM1:50mM NaH2PO4、300mM NaCl、10mMイミダゾール、pH6.3;他のCP−Nm23:100mM NaH2PO4、10mM Tris−HCl、8M尿素、pH6.3)を用いて5回洗浄した。洗浄されたレジンにpH4.5の酸性条件でレジン容積2倍の溶出緩衝液(elution buffer)(HN及びHNM1:50mM NaH2PO4、300mM NaCl、10mMイミダゾール、pH4.5;他のCP−Nm23:100mM NaH2PO4、10mM Tris−HCl、8M尿素、pH4.5)をローディングし、振盪機で2時間以上を攪拌してタンパク質を溶出した。溶出されたタンパク質の純度を検定するために、12%SDS−PAGEゲル電気泳動を行った後、ゲルをクマシーブリリアントブルーで軽く振盪しながら染色し、目的のタンパク質のバンドが明確になるまで脱色液を用いて脱色した。
【0091】
その結果、図6に示すように、マーカータンパク質の泳動位置と比較してkFGF4由来MTD、JO−76MTD及びJO−77MTDがそれぞれ融合された全ての細胞透過性Nm23組換えタンパク質が約19〜20kDaの部位で単一バンドとして検出され、不溶解性分画から純粋に精製されたことを確認した。
【0092】
<3−2>組換えタンパク質のリフォールディング
前記実施例<3−1>のように、不溶解性分画から精製された本発明の組換えタンパク質は、強力な変性剤である8M尿素により変性されたため、これを活性形態に転換するために、下記の通りリフォールディング過程を行った。
【0093】
まず、精製された組換えタンパク質を、リフォールディング緩衝液(refolding buffer:0.55Mグアニジン[Guanidine]HCl、0.88M L−アルギニン、50mMトリス−HCl、150mM NaCl、1mM EDTA、100mM NDSB、1mM酸化型グルタチオン[glutathione oxidized]及び1mM還元型グルタチオン[glutathione reduced])を用いて4℃で24時間透析して変性剤を除去することによって、組換えタンパク質を再活性、即ち、リフォールディングさせた。その後、活性化された組換えタンパク質を細胞培養用培地である1%ペニシリン/ストレプトマイシンが添加されたDMEM(ダルベッコ改変イーグル培地)の中で透析膜(Snakeskin pleated、PIERCE)を用いて4℃で10時間攪拌しながらろ過した。この際、3時間ごとに容器内のDMEMを交換した。前記リフォールディング過程により活性形態に転換された細胞透過性Nm23組換えタンパク質を以後の実験に用いた。
【0094】
実施例4:Nm23組換えタンパク質の定量的細胞透過性分析
本発明による細胞透過性Nm23組換えタンパク質の細胞透過性を定量的に検証するために、下記の通り、哺乳動物細胞におけるそれぞれの組換えタンパク質の細胞内流入を蛍光活性化細胞分取(fluorescence−activated cell sorting;FACS)で分析した。
【0095】
まず、前記において、可溶性形態に分離、精製された細胞透過性Nm23組換えタンパク質をFITC(fluorescein−5−isothiocyanate、Molecular Probe)を用いて蛍光標識した。2〜20mgの組換えタンパク質に333mg/ml濃度のFITC 1μlを混合した後、光を避けて常温で1時間振盪しながら結合させた。蛍光で標識された細胞透過性Nm23組換えタンパク質は、4℃で2日間DMEM培地に対して透析し、標識されていないFITCを除去し、これから回収された組換えタンパク質は、ブラッドフォード(Bradford)タンパク質定量法でその濃度を分析した。その結果、それぞれの組換えタンパク質の濃度は約0.7μg/μlと測定された。
【0096】
一方、マウスのマクロファージに由来するRAW 264.7細胞(韓国細胞株銀行、ソウル、大韓民国)を10%ウシ胎児血清(fetal bovine serum;FBS)及び1%ペニシリン/ストレプトマイシン(penicillin/streptomycin、WelGENE)500mg/mlを含有するDMEM培地(WelGENE)に接種し、37℃、5%CO2の湿潤条件下で培養した。
【0097】
培養後、前記で準備されたFITC−標識細胞透過性Nm23組換えタンパク質(HM1N、HNM1、HM1NM1、HM3N、HNM3及びHM3NM3)それぞれを10μMの濃度でRAW 264.7細胞に処理した後、37℃で1時間さらに培養した。次いで、組換えタンパク質が処理されたRAW 264.7細胞の細胞膜に露出されている遊離FITCを除去するために、トリプシン/EDTA(T/E、Invitrogen)を処理し、低温のリン酸緩衝生理食塩水(PBS)で3回洗浄した。準備された細胞に対してセルクエストプロ細胞測定分析ソフトウェア(CellQuest Pro cytometric analysis software)を用いたFACScanフローサイトメトリー(flow cytometry、Becton Dickinson、CA)で分析した。この際、各試料の細胞濃度は1×104個/μlであり、分析実験は2回以上行った。本発明による細胞透過性Nm23組換えタンパク質の細胞透過性は、MTDを含んでいない対照群タンパク質(HN)の細胞透過性と比較して決定した。
【0098】
その結果、図7a及び7bに示すように、本発明による全ての細胞透過性Nm23組換えタンパク質は、対照群に比べて遥かに高い水準の原形質膜透過能力を示すことを確認した。図7a及び7bにおいて、灰色の曲面は細胞単独、黒色の曲線はFITC単独、青色の曲線はMTDが融合されていない対照群(HN)、赤色の曲線は細胞透過性組換えタンパク質HM1N、HM3N、HNM3及びHM3NM3、緑色の曲線は細胞透過性組換えタンパク質HNM1、そしてオレンジ色の曲線は、細胞透過性組換えタンパク質HM1NM1を示す。
【0099】
実施例5:Nm23組換えタンパク質の顕微鏡的細胞透過性分析
細胞内に伝達された本発明による細胞透過性Nm23組換えタンパク質の細胞内位置を視覚的に確認するために、マウスの線維芽細胞に由来するNIH3T3細胞(韓国細胞株銀行、ソウル、大韓民国)をFITC標識された細胞透過性Nm23組換えタンパク質(HM1N、HNM1、HM1NM1、HM2N、HNM2、HM3N、HNM3及びHM3NM3)それぞれで処理した後、共焦点レーザー走査顕微鏡で観察した。
【0100】
まず、NIH3T3細胞を8ウェルチャンバースライド(8−well chamber slide、LabTek、Nalgen Nunc)で24時間培養した。この際、NIH3T3細胞は、10%FBS及び5%ペニシリン/ストレプトマイシン500mg/mlを含有するDMEM培地で培養した。培養された細胞をPBSで3回洗浄した後、無血清DMEM、FITC含有無血清DMEM、またはFITC標識された組換えタンパク質それぞれを10μM含有する無血清DMEMで37℃、5%CO2の下で1時間処理した。1時間経過後、細胞を4%パラホルムアルデヒド(paraformaldehyde)で室温で20分間処理して固定させた。
【0101】
前記で固定された細胞は、MTDの細胞内伝達部位の区別が容易なように核を蛍光染色するヨウ化プロピジウム(PI、Sigma−Aldrich)対比染色を通じて核への伝達及び細胞透過性の有無を確認した。1μg/mlの濃度で5分間PIで染色した後、細胞をPBSで3回洗浄した。細胞内組換えタンパク質の蛍光標識を保存するために、10μlのDABCO(Fluca)含有ポリビニルアルコール封入剤(mounting medium)をスライド上に点滴した後、15分後に共焦点レーザー走査顕微鏡で観察した。この際、共焦点レーザー走査顕微鏡は、ノマルスキーフィルター(nomarski filter)を用いて細胞の原形、FITC蛍光及びPI蛍光を観察し、FITCは、488nmで励起され、530nmのバンドパスフィルタ(bandpass filter)で検出された。
【0102】
その結果、図8a〜8cに示すように、本発明によるFITC標識された細胞透過性Nm23組換えタンパク質は、細胞単独、FITC単独及びMTD非存在の対照群に比べて核内に広範囲に分布していることが分かる。kFGF4由来MTD、JO−76MTDまたはJO−77MTDに融合された細胞透過性Nm23組換えタンパク質の細胞内局在は、前記フローサイトメトリーの相対的細胞透過性結果に比例するものであり、前記結果は、本発明の細胞透過性Nm23組換えタンパク質の細胞透過性を再度立証するものである。
【0103】
実施例6:細胞透過性Nm23組換えタンパク質で処理された癌細胞におけるMAPK信号伝達抑制効果の確認
細胞透過性が立証されたNm23組換えタンパク質の細胞内機能を確認するために、3種類の癌細胞株を対象に前記組換えタンパク質の生化学的機能をウェスタンブロッティング分析で調査した。
【0104】
本実験に用いた高転移性ヒト乳癌細胞株であるMDA−MB−435及びMDA−MB−231は、韓国細胞株銀行(ソウル、大韓民国)から入手した。これら細胞株は、10%FBS及び1%ペニシリン/ストレプトマイシンを含有するRPMI 1640培地(L−グルタミン300mg/l、25mM HEPES及び25mM NaHCO3)に接種して5%CO2が供給される37℃のインキュベーターで培養した。ヒト肺癌細胞株であるCCL−185はATCCから入手し、10%FBS及び1%ペニシリン/ストレプトマイシンを含有するHamF−12K培地(2mM L−グルタミン、1500mg/lの重炭酸ナトリウム)に接種して5%CO2が供給される37℃のインキュベーターで培養した。
【0105】
6−ウェルプレートに一つのウェル当り2mlのFBS含有RPMI 1640培地を添加し、これに前記で培養された細胞MDA−MB−435、MDA−MB−231及びCCL−185をそれぞれ5×106個/mlの濃度で接種した。前記ウェルプレートを37℃で1日間培養して、細胞がウェルプレートに付着して成長するようにした。培地を除去した後、ウェルプレートに付着した細胞を低温のPBSで洗浄した。本発明による細胞透過性Nm23組換えタンパク質及びMTDが融合されていないNm23タンパク質(HN)をそれぞれ10μMの濃度で各ウェルに500μlずつ処理した後、1時間5%CO2が供給される37℃のインキュベーターで反応させた。この際、MDA−MB−435細胞に対しては、HM1N、HNM1、HM1NM1、HM2N、HNM2、HM3N、HNM3及びHM3NM3組換えタンパク質を、MDA−MB−231及びCCL−185細胞に対しては、HM3N、HNM3及びHM3NM3組換えタンパク質を処理した。1時間処理後、細胞をPBSで2回洗浄し、血清の存在下で同一の条件でそれぞれ異なる時間(2、4、6及び8時間)培養した。
【0106】
培養が終結した後、細胞を200μlの溶解緩衝液(20mM HEPES、pH7.2、1%トリトン−X、10%グリセロール及びタンパク分解酵素阻害剤[proteinase inhibitor])を用いて氷で30分間粉砕して集め、得られた細胞溶解物(cell lysate)を4℃で1分当り回転数12,000rpmで20分間遠心分離した。これから上清を慎重にとり、ペレットを除去した。細胞溶解物中のタンパク質濃度をブラッドフォードタンパク質分析法で定量した。前記組換えタンパク質を25μMの濃度でSDS−PAGEローディング緩衝液(loading buffer、注:組成記載)に添加して細胞溶解物試料を製造し、これを95℃で5分間加熱した後、使用前まで−20℃で保管した。
【0107】
ウェスタンブロッティング分析のために、p21(21kDa、Cell Signaling Technology)、phospho−p53(Ser15、53kDa、Cell Signaling)、phospho−MEK(Ser217/221、45 kDa、Cell Signaling)及びphospho−ERK(Thr202/Tyr204、42/44 kDa、Cell Signaling)を一次抗体として用い、ヤギ抗マウスIgG−HRP(goat anti−mouse IgG−HRP、Santa Cruz Biotechnology)とヤギ抗ウサギIgG−HRP(goat anti−rabbit IgG−HRP、Santa Cruz Biotechnology)を二次抗体として用いた。前記で準備された細胞溶解物試料を12%SDS−PAGEゲルで100Vで2時間電気泳動を行った後、PVDF(polyvinylidene fluoride)膜に100Vで90分間転写させた。抗体との非特異的吸着を防止するために、前記膜をTBS/T緩衝液(10mMトリス−Cl、pH8.0、150mM NaCl、0.05%ツイーン20)に溶解させた5%(w/v)脱脂乳(skim milk)で室温で1時間攪拌しながらブロッキング処理した。ブロッキング緩衝液を除去した後、膜をTBS/T緩衝液で3回洗浄した。これに、一次抗体(新たに製造されたブロッキング緩衝液で1:10000の比率に希釈される)それぞれを添加し、攪拌しながら4℃で一晩中反応させた。一次抗体溶液を除去した後、前記膜をTBS/T緩衝液で1回当たり5分ずつ室温で5回洗浄した。次いで、前記膜に二次抗体(新たに製造されたブロッキング緩衝液で1:5000の比率に希釈される)を添加し、攪拌しながら室温で1時間程度反応させた。反応が終結した後、膜をTBS/T緩衝液で5回洗浄し、化学発光検出用ECL(enhanced chemiluminescence、GE Healthcare Amersham UK)試薬を用いてタンパク質を検出した。
【0108】
図9に示すように、全体的にMTDが融合されていない対照群タンパク質に比べ、本発明による細胞透過性Nm23組換えタンパク質で処理された細胞において、細胞内に透過されたNm23によりMAPKカスケードのスキャフォールドタンパク質であるKSRのセリン392はリン酸化されるのに対し、腫瘍の細胞周期を活性化させるERKのリン酸化(P−ERK)は減少した。特に、Nm23のN及びC末端のそれぞれにJO−77MTDが融合された組換えタンパク質HM3N及びHNM3が3種のヒト癌細胞株の全てにおいてERK及びMEKのリン酸化に対して抑制効果を示すことを確認した。
【0109】
実施例7:細胞透過性Nm23組換えタンパク質のインビトロ抗転移効果確認
<7−1>浸潤分析
本発明による細胞透過性Nm23組換えタンパク質で処理された癌細胞において、癌細胞の移動が遮断されて癌転移が抑制されるかどうかを確認するために、下記のような浸潤分析を行った。
【0110】
まず、ヒト乳癌細胞株であるMDA−MB−435を成長因子の添加なしに10%FBS含有RPMI 1640培地で一晩中培養した。その翌日、細胞をトリプシン(trypsin)で処理して収穫した後、前記と同一のRPMI 1640培地に懸濁した。これに対して、対照群としてMTDに融合されていないNm23タンパク質(HN)と、本発明による細胞透過性Nm23組換えタンパク質(HM2N、HNM2、HM3N、HNM3及びHM3NM3)により、それぞれ10μMの濃度で37℃で1時間処理した。一方、3μmの気孔サイズを有するトランスウェル(trans−well)ポリカーボネートメンブレンフィルター(BD Falcon)の上部をマトリゲル(各ウェル当り40μg;BD Biosciences)でコーティングした。チャンバーの下部に付着基質(adhesive substrate)として10%FBS含有DMEM培地を添加した。0.1%FBS含有DMEM培地に、前記でタンパク質処理された細胞を懸濁して細胞懸濁液を作った後、前記トランスウェルメンブレンフィルター(各ウェル当り1×105細胞)上に接種し、37℃、5%CO2下で、20〜24時間培養した。フィルターをPBSで洗浄し、上部表面に残っている非浸潤の細胞を綿棒で除去した。浸潤されてフィルターの下部表面に付着されている細胞を4%パラホルムアルデヒドで5〜10分間固定させ、0.5%(w/v)ヘマカラー(hemacolor)で10〜20分間染色した。膜の基底面に移動した細胞の数(紫色)を光学顕微鏡で観察しながらカウントした。
【0111】
その結果、図10に示すように、大部分の細胞透過性Nm23組換えタンパク質、特に、HM2N、HM3N及びHNM3組換えタンパク質で処理された場合、対照群タンパク質(HN)に比べて浸潤された細胞の数が顕著に減少したことが分かる。これから本発明の細胞透過性Nm23組換えタンパク質により細胞内に流入したNm23が癌細胞の転移能を効果的に抑制できることをインビトロで確認した。
【0112】
<7−2>創傷移動分析
本発明による細胞透過性Nm23組換えタンパク質が、移動能力に非常に優れた乳癌細胞株であるMDA−MB−435細胞の移動を抑制できるかどうかを確認するために、創傷移動分析(wound migration assay)を行った。
【0113】
MDA−MB−435細胞を60mmの培養容器に底が見えない程度まで培養した後、これに対して、対照群としてMTDが融合されていないNm23タンパク質(HN)と、本発明による細胞透過性Nm23組換えタンパク質(HM2N、HNM2、HM3N、HNM3及びHM3NM3)により、それぞれ10μMの濃度で37℃で1時間処理した。処理後、細胞をPBSで洗浄し、黄色チップ(yellow tip)で培養容器の底の細胞を掻き出して基準線(reference line)を引き、10%FBS含有RPMI培地を3ml添加し、24時間37℃、5%CO2インキュベーターでさらに培養した。次いで、細胞をPBSで洗浄した後、メタノールで1分間固定させ、ギムザ(Giemsa、Chameleon Chemical)で5分間染色して水で洗浄した後、倒立顕微鏡を用いて40倍で観察し、基準線を超えて移動した細胞を観察した。
【0114】
その結果、図11に示すように、前記浸潤分析結果に相応するように対照群タンパク質に比べて本発明による細胞透過性Nm23組換えタンパク質、特に、HM2N、HM3N及びHNM3組換えタンパク質で処理された細胞で癌細胞の移動が顕著に抑制されることを確認した。
【0115】
実施例8:細胞透過性Nm23組換えタンパク質のインビボ抗転移効果の確認
インビトロで立証された細胞透過性Nm23組換えタンパク質の転移抑制効果をインビボでも確認するために、下記免疫組織化学的分析(immunohistochemical analysis)を行った。
【0116】
まず、1×107細胞数の高転移性ヒト乳癌細胞株MDA−MB−435を0.1mlのPBSに懸濁した後、MHCに対する突然変異として免疫力が欠乏した5週齢のヌードマウス(Balb/c nu/nu mice)の外側尾静脈に注射した。実験は、JO−77MTDが融合された細胞透過性Nm23組換えタンパク質(HM3N、300μg)、対照群として担体(PBS、300μl)とMTDが融合されていないNm23タンパク質(HN、300μg)、及びJO−77MTDが融合されたEGFP(enhanced green fluorescent protein)(HM3E、300μg)を投与する計4群を対象に行った。この際、1群は5匹から構成されており、JO−77MTDが融合されたEGFPは、Nm23に融合されるJO−77MTDがNm23の発現に影響を与えるかどうかを確認するための対照群として用いられた。MDA−MB−435細胞をマウスに接種し、5週後、前記タンパク質を各群のマウスに21日間毎日静脈注射(intravenous injection)して投与した。21日経過後、各群当り3匹のマウスを無作為に選別して犠牲にし、肺から組織を摘出した。この際、各群の残った2匹のマウスは、21日間のタンパク質処理後、さらに14日間の無処理観察期間を経てから前記と同様に肺から組織を摘出した。摘出された肺組織は、転移性コロニー(metastatic colony)の検出のために、ブアン固定液(Bouin fixation)で一晩中固定した後、蒸留水で洗浄し、パラフィンに包理してパラフィンブロックを作製した。作製されたパラフィンブロックをマイクロトーム(microtome)を用いて厚さ5μmに薄切りにしてスライドに付着させた後、キシレン(xylene)を5分ずつ3回処理してパラフィンを除去した。このように準備された組織スライドを対象に転移マーカー(metastatic marker)であるビメンチンで免疫組織化学的染色を行った。
【0117】
免疫組織化学的染色のために、抗ビメンチン抗体(Abcam)を一次抗体として用い、ヤギ抗マウスIgG−HRP(goat anti−mouse IgG−HRP、Santa Cruz Biotechnology)を二次抗体として用いた。抗体との非特異的吸着を防止するために、前記組織スライドをTBS/T緩衝液(10mMトリス−Cl、pH8.0、150mM NaCl、0.05%ツイーン20)に浸け、5%(w/v)脱脂乳(skim milk)で室温で1時間攪拌しながらブロッキング処理した。ブロッキング緩衝液を除去した後、スライドをTBS/T緩衝液で3回洗浄し、一次抗体として抗ビメンチン抗体(PBSで1:200の比率に希釈される)を添加し、攪拌しながら4℃で一晩中反応させた。一次抗体溶液を除去した後、前記スライドをTBS/T緩衝液で1回当たり5分ずつ室温で5回洗浄した。次いで、前記スライドに二次抗体としてヤギ抗マウスIgG−HRP(PBSで1:200の比率に希釈される)を添加し、攪拌しながら室温で1時間程度反応させた。反応が終結した後、スライドをTBS/T緩衝液(0.025%トリトン−X100)で2回洗浄し、DAB基質を用いて転移マーカーであるビメンチンの発現を検出した。
【0118】
図12aは、本発明による細胞透過性Nm23組換えタンパク質を21日間投与したマウスから摘出した肺組織、及び前記投与を中止して14日間の無処理期間を経たマウスから摘出した肺組織を肉眼で観察した結果を示す。図12aに示すように、担体、対照群タンパク質(HN)及びJO−77MTDが融合されたEGFP(HM3E)で処理されたマウスの肺組織では、21日間のタンパク質の処理にもかかわらず、肉眼でも識別可能な大きさの腫瘍が形成されていることが分かる。また、タンパク質処理後、2週間の無処理期間を経た後にも腫瘍の大きさが減少しなかっただけでなく、周辺の他の組織にも新しい腫瘍が形成され、転移がなされたことが分かる。しかし、本発明の細胞透過性Nm23組換えタンパク質(HM3N)で処理されたマウスの肺組織では、3週間のタンパク質処理期間だけでなく、連続した2週間の無処理期間にも腫瘍形成が観察されず、腫瘍の形成及び転移が効果的に抑制されたことを確認した。
【0119】
また、図12bは、タンパク質処理21日目のマウスから摘出した肺組織、及び前記投与中止後2週間の無処理期間(35日目)を経たマウスから摘出した肺組織において、転移マーカーであるビメンチンの発現を免疫組織化学的に染色した結果を示す。図12bに示すように、担体、対照群タンパク質(HN)及びJO−77MTDが融合されたEGFP(HM3E)で処理されたマウスの肺組織では、21日目及び35日目の両方においてビメンチンが検出されたのに対し、本発明の細胞透過性Nm23組換えタンパク質(HM3N)で処理されたマウスの肺組織では、21日目及び35日目の両方においてビメンチンが検出されなかった。これから本発明の細胞透過性Nm23組換えタンパク質が癌転移を効果的に抑制できることをインビボで確認した。
【0120】
実施例9:細胞透過性Nm23組換えタンパク質のインビボアポトーシス誘導効果の確認
細胞透過性Nm23組換えタンパク質の投与後、腫瘍組織内でアポトーシスが誘導されるかを確認するために、前記実施例8のマウス動物モデルを用いてTUNEL分析を行った。この際、TUNEL分析は、in situ細胞死検出キット(in situ cell death detection kit)であるTMRレッド(TMR red、Roche)を用いた。
【0121】
具体的には、前記実施例8のように、4群のマウスに静脈注射で細胞透過性Nm23組換えタンパク質(HM3N)と、対照群として担体、MTDが融合されていないNm23タンパク質(HN)及びJO−77MTDが融合されたEGFPタンパク質(HM3E)を21日間処理した各群のマウス、及び前記投与中止後、14日間の無処理期間を経た各群のマウスから摘出した肺組織に対してパラフィンブロックを作製した。作製されたパラフィンブロックをマイクロトームを用いて厚さ5μmに薄切りにしてスライドに付着させた後、キシレンを5分間3回処理してパラフィンを除去した。次いで、無水エタノールで5分間2回、90%、80%及び70%エタノールでそれぞれ3分間処理して含水させ、PBSで5分間保管した。その後、37℃で8分間0.1%クエン酸ナトリウム(sodium citrate)溶液に溶かした0.1%トリトン(Trition(登録商標))X−100溶液で細胞を透過させた後、PBSで2分間2回洗浄した。TUNEL反応緩衝液(50μl、Roche、USA)を前記組織スライド上に処理し、1時間37℃の湿潤インキュベーターで培養した後、PBSで3回洗浄し、蛍光顕微鏡(fluorescence microscope)で観察した。
【0122】
その結果、図13に示すように、担体、MTDが融合されていないNm23タンパク質及びJO−77MTDが融合されたEGFPタンパク質を処理したマウスの全ての肺組織では特に変化が観察されなかったのに対し、細胞透過性Nm23組換えタンパク質を処理したマウスの肺組織では、アポトーシスの際、赤く染色される変化が観察された。前記結果から本発明による細胞透過性Nm23組換えタンパク質のインビボアポトーシス誘導効果を肉眼で確認することができた。また、細胞透過性Nm23組換えタンパク質で処理したマウス群では、タンパク質の投与を中止した2週間後にも依然として癌細胞内でアポトーシスが誘導されることが分かった。
【0123】
実施例10:細胞透過性Nm23組換えタンパク質の投与後のタンパク質発現様相の比較
細胞透過性Nm23組換えタンパク質が投与された組織におけるタンパク質発現様相の変化を確認するために、下記の通りマイクロアレイ(microarray)分析を行った。
【0124】
具体的には、前記実施例9と同様の方法で、3群のマウスに腫瘍直接注射によって細胞透過性Nm23組換えタンパク質HM3Nと、対照群としてHN及び担体を14日間処理した後、この処理を中止して14日間放置した。計28日経過後、各群のマウスから腫瘍組織を分離した後、これを液体窒素で急速冷却させた。腫瘍組織から全RNAをトリゾル試薬(TRIZOL、Invitrogen)を用いてメーカーの指針に従って分離し、これを無RNase DNase(RNase−free DNase、Life Technologies、Inc.)で処理して残存するゲノムDNAを除去した。
【0125】
前記で分離されたRNAに対して、標的cRNAプローブの合成及びハイブリダイゼーションをメーカーの指針に従ってロー・RNA・インプット・リニア・アンプリフィケーションキット(Low RNA Input Linear Amplification kit、Agilent Technology)を用いて行った。簡略に説明すると、それぞれの計RNA 1μgとT7プロモータープライマーを混合し、65℃で10分間反応させた。5×一本鎖緩衝液、0.1M DTT、10mM dNTPミックス、RNase−Out及びMMLV−RT(逆転写酵素)を混合してcDNAマスタミックス(master mix)を製造した後、これを前記反応混合物に添加した。この混合物を40℃で2時間反応させた後、65℃で15分間反応させて逆転写反応及びdsDNA合成を終結させた。メーカーの指針に従って、4×転写緩衝液(transcription buffer)、0.1M DTT、NTPミックス、50%PEG、RNase−Out、無機ピロホスファターゼ(inorganic pyrophosphatase)、T7−RNAポリメラーゼ、及びシアニン(cyanine、3/5−CTP)を用いて転写マスタミックスを製造した。この転写マスタミックスをdsDNA反応混合物に添加し、40℃で2時間反応させてdsDNAの転写を行った。増幅されて標識されたcRNAをメーカーの指針に従って、cRNAクリーンアップモジュール(cRNA Cleanup Module、Agilent Technology)上で精製した。
【0126】
標識されたcRNA標的をND−1000分光光度計(spectrophotometer)(NanoDrop Technologies、Inc.)を用いて定量した。標識効率を調査した後、cRNAに10×ブロッキング剤(blocking agent)及び25×フラグメンテーション緩衝液(fragmentation buffer)を添加し、60℃で30分間反応させてcRNAの断片化を行った。断片化されたcRNAを2×ハイブリダイゼーション緩衝液(hybridization buffer)に再懸濁した後、全ヒトゲノムオリゴマイクロアレイ(Whole Human Genome Oligo Microarray、44K)上にピペットを用いて直接滴加した。ハイブリダイゼーションオーブン(hybridization oven、Agilent Technology)を用いて前記マイクロアレイを65℃で17時間ハイブリダイズした。ハイブリダイズしたマイクロアレイをメーカー(Agilent Technology)の洗浄指針に従って洗浄した。
【0127】
ハイブリダイゼーションパターンをDNAマイクロアレイスキャナ(Agilent Technology)を用いて読み出し、特徴抽出ソフトウェア(Feature Extraction Software、Agilent Technology)で定量した。倍率変化した(fold−changed)遺伝子の全てのデータ標準化及び選別は、ジーンスプリングGX(Gene Spring GX7.3、Agilent Technology)を用いて行った。標準化比率の平均は、標準化された信号チャンネル強度を標準化された対照群のチャンネル強度で割って計算した。遺伝子の機能的アノテーションは、遺伝子オントロジーコンソーシアム(Gene Ontology(商標) Consortium、http://www.geneontology.org/index.shtml)に従ってジーンスプリングGXにより行われた。
【0128】
前記マイクロアレイ分析結果を図14及び下記表3〜9に示すが、表3は、アポトーシスに係わる遺伝子の発現様相を示すものであり、表4は、細胞付着(cell adhesion)に係わる遺伝子の発現様相を示すものであり、表5は、細胞周期(cell cycle)の調節に係わる遺伝子の発現様相を示すものであり、表6a及び6bは、細胞成長(cell growth)に係わる遺伝子の発現様相を示したものであって、表7は、細胞増殖(cell proliferation)に係わる遺伝子の発現様相を示すものであり、表8a及び8bは、免疫反応(immune response)に係わる遺伝子の発現様相を示すものであり、表9は、転移(metastasis)に係わる遺伝子の発現様相を示すものである。
【0129】
【表3】
【0130】
【表4】
【0131】
【表5】
【0132】
【表6a】
【0133】
【表6b】
【0134】
【表7】
【0135】
【表8a】
【0136】
【表8b】
【0137】
【表9】
【0138】
前記表3に示したように、アポトーシスに係わる遺伝子の場合、対照群タンパク質に比べて本発明による細胞透過性Nm23組換えタンパク質投与群においてカスパーゼ14(Caspase 14)の発現が約3.5倍程度、細胞死誘導DFFA類似エフェクタc(cell death−inducing DFFA−like effector c、Cidec)の発現が4倍以上、細胞死誘導DNA断片因子(cell death−inducing DNA fragmentation factor)、アルファサブユニット類似エフェクタA(alpha subunit−like effector A、Cidea)の発現がそれぞれ約2.5倍以上上方調節(up−regulation)されることが分かる。
【0139】
前記表4に示したように、細胞付着に係わる遺伝子の場合、対照群タンパク質に比べて本発明による細胞透過性Nm23組換えタンパク質投与群においてカドヘリン類似26(cadherin−like 26)の発現が3倍以上下方調節されることが分かる。
【0140】
前記表5に示したように、細胞周期調節に係わる遺伝子の場合、対照群タンパク質に比べて本発明による細胞透過性Nm23組換えタンパク質投与群において鳥類赤芽球症ウイルスE−26癌遺伝子(Avian erythroblastosis virus E−26(v−ets)oncogene)の発現が4倍以上下方調節されることが分かる。
【0141】
前記表6a及び6bに示したように、細胞成長に係わる遺伝子の場合、対照群タンパク質に比べて本発明による細胞透過性Nm23組換えタンパク質投与群において腫瘍壊死因子受容体(tumor necrosis factor receptor superfamily、member 17)の発現が6.8倍以上上方調節され、口蓋、肺及び鼻上皮癌関連遺伝子(palate、lung and nasal epithelium carcinoma associated gene)の発現が約26倍下方調節されることが分かる。
【0142】
前記表7に示したように、細胞増殖に係わる遺伝子の場合、対照群タンパク質に比べて本発明による細胞透過性Nm23組換えタンパク質投与群においてトランスクリプション−6のシグナルトランスデューサ及び活性体(signal transducer and activator of transcription 6)の発現が約5倍程度上方調節されることが分かる。
【0143】
前記表8a及び8bに示したように、免疫反応に係わる遺伝子の場合、対照群タンパク質に比べて本発明による細胞透過性Nm23組換えタンパク質投与群において免疫グロブリン重鎖(immunoglobulin heavy chain、J558 family)、免疫グロブリン重鎖複合体(heavy chain complex)及び免疫グロブリン連結鎖(joining chain)の発現がそれぞれ18倍、15倍及び30倍以上上方調節されることが分かる。
【0144】
前記表9に示したように、転移に係わる遺伝子の場合、対照群タンパク質に比べて本発明による細胞透過性Nm23組換えタンパク質投与群においてFascin同族体1(fascin homolog 1、actin bundling protein)の発現が2.5倍以上、プロスタグランジンエンドペルオキシド合成剤2(prostaglandin−endoperoxide synthase 2)の発現が2.5倍以上、及び血管細胞付着分子1(vascular cell adhesion molecule 1)の発現が2倍以上上方調節されることが分かる。
【0145】
以上で本発明の内容の特定部分を詳細に記述したが、当業界の通常の知識を有する者にとって、このような具体的技術は単に好ましい実施様態であるだけで、これによって本発明の範囲が制限されるわけではない点は明白であろう。従って、本発明の実質的な範囲は、添付の特許請求の範囲とそれらの等価物によって定義されると言える。
【0146】
受託証1
【0147】
受託証2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号:2のアミノ酸配列を有するヒト癌転移抑制因子Nm23タンパク質のN末端、C末端、または両末端に、配列番号:4、6、8及び37〜227のアミノ酸配列からなる群から選ばれるアミノ酸配列を有する巨大分子伝達ドメイン(macromolecule transduction domain;MTD)が融合されていることを特徴とする、細胞透過性Nm23組換えタンパク質。
【請求項2】
前記巨大分子伝達ドメインが、配列番号:4のアミノ酸配列を有するkFGF4(kaposi fibroblast growth factor 4)由来MTD、配列番号:6のアミノ酸配列を有するJO−76MTD、及び配列番号:8のアミノ酸配列を有するJO−77MTDからなる群から選ばれることを特徴とする、請求項1記載の細胞透過性Nm23組換えタンパク質。
【請求項3】
前記組換えタンパク質の片末端に核局在配列(nuclear localization sequence;NLS)及びヒスチジンタグ親和性ドメインが共有結合されていることを特徴とする、請求項1記載の細胞透過性Nm23組換えタンパク質。
【請求項4】
下記からなる群から選ばれることを特徴とする、請求項1記載の組換えタンパク質:
配列番号:2のアミノ酸配列を有する全長Nm23のN末端に配列番号:4のアミノ酸配列を有するkFGF4由来MTDが融合された組換えタンパク質;
配列番号:2のアミノ酸配列を有する全長Nm23のC末端に配列番号:4のアミノ酸配列を有するkFGF4由来MTDが融合された組換えタンパク質;
配列番号:2のアミノ酸配列を有する全長Nm23の両末端に配列番号:4のアミノ酸配列を有するkFGF4由来MTDが融合された組換えタンパク質;
配列番号:2のアミノ酸配列を有する全長Nm23のN末端に配列番号:6のアミノ酸配列を有するJO−76MTDが融合された組換えタンパク質;
配列番号:2のアミノ酸配列を有する全長Nm23のC末端に配列番号:6のアミノ酸配列を有するJO−76MTDが融合された組換えタンパク質;
配列番号:2のアミノ酸配列を有する全長Nm23のN末端に配列番号:8のアミノ酸配列を有するJO−77MTDが融合された組換えタンパク質;
配列番号:2のアミノ酸配列を有する全長Nm23のC末端に配列番号:8のアミノ酸配列を有するJO−77MTDが融合された組換えタンパク質;
配列番号:2のアミノ酸配列を有する全長Nm23の両末端に配列番号:8のアミノ酸配列を有するJO−77MTDが融合された組換えタンパク質。
【請求項5】
配列番号:20、22、24、26、28、30、32、34及び36のアミノ酸配列からなる群から選ばれるアミノ酸配列を有することを特徴とする、請求項1記載の細胞透過性Nm23組換えタンパク質。
【請求項6】
請求項1記載の細胞透過性Nm23組換えタンパク質をコードするポリヌクレオチド。
【請求項7】
配列番号:19、21、23、25、27、29、31、33及び35の塩基配列からなる群から選ばれる塩基配列を有することを特徴とする、請求項6記載のポリヌクレオチド。
【請求項8】
請求項6記載のポリヌクレオチドを含む組換え発現ベクター。
【請求項9】
pET28a(+)−HM1N、pET28a(+)−HNM1、pET28a(+)−HM1NM1、pET28a(+)−HM2N、pET28a(+)−HNM2、pET28a(+)−HM3N、pET28a(+)−HNM3及びpET28a(+)−HM3NM3からなる群から選ばれることを特徴とする、請求項8記載の発現ベクター。
【請求項10】
請求項8記載の組換え発現ベクターで形質転換された形質転換細菌。
【請求項11】
大腸菌DH5α/HM3Nm23(KCTC−11380BP)であることを特徴とする、請求項10記載の形質転換細菌。
【請求項12】
大腸菌DH5α/HNm23M3(KCTC−11381BP)であることを特徴とする、請求項10記載の形質転換細菌。
【請求項13】
請求項10記載の形質転換細菌を培養する段階を含む細胞透過性Nm23組換えタンパク質を生産する方法。
【請求項14】
請求項1記載の細胞透過性Nm23組換えタンパク質を有効成分として含有し、薬学的に許容可能な担体を含む、癌細胞の増殖、分化または移動を遮断して転移を抑制するための癌転移抑制用薬学的組成物。
【請求項1】
配列番号:2のアミノ酸配列を有するヒト癌転移抑制因子Nm23タンパク質のN末端、C末端、または両末端に、配列番号:4、6、8及び37〜227のアミノ酸配列からなる群から選ばれるアミノ酸配列を有する巨大分子伝達ドメイン(macromolecule transduction domain;MTD)が融合されていることを特徴とする、細胞透過性Nm23組換えタンパク質。
【請求項2】
前記巨大分子伝達ドメインが、配列番号:4のアミノ酸配列を有するkFGF4(kaposi fibroblast growth factor 4)由来MTD、配列番号:6のアミノ酸配列を有するJO−76MTD、及び配列番号:8のアミノ酸配列を有するJO−77MTDからなる群から選ばれることを特徴とする、請求項1記載の細胞透過性Nm23組換えタンパク質。
【請求項3】
前記組換えタンパク質の片末端に核局在配列(nuclear localization sequence;NLS)及びヒスチジンタグ親和性ドメインが共有結合されていることを特徴とする、請求項1記載の細胞透過性Nm23組換えタンパク質。
【請求項4】
下記からなる群から選ばれることを特徴とする、請求項1記載の組換えタンパク質:
配列番号:2のアミノ酸配列を有する全長Nm23のN末端に配列番号:4のアミノ酸配列を有するkFGF4由来MTDが融合された組換えタンパク質;
配列番号:2のアミノ酸配列を有する全長Nm23のC末端に配列番号:4のアミノ酸配列を有するkFGF4由来MTDが融合された組換えタンパク質;
配列番号:2のアミノ酸配列を有する全長Nm23の両末端に配列番号:4のアミノ酸配列を有するkFGF4由来MTDが融合された組換えタンパク質;
配列番号:2のアミノ酸配列を有する全長Nm23のN末端に配列番号:6のアミノ酸配列を有するJO−76MTDが融合された組換えタンパク質;
配列番号:2のアミノ酸配列を有する全長Nm23のC末端に配列番号:6のアミノ酸配列を有するJO−76MTDが融合された組換えタンパク質;
配列番号:2のアミノ酸配列を有する全長Nm23のN末端に配列番号:8のアミノ酸配列を有するJO−77MTDが融合された組換えタンパク質;
配列番号:2のアミノ酸配列を有する全長Nm23のC末端に配列番号:8のアミノ酸配列を有するJO−77MTDが融合された組換えタンパク質;
配列番号:2のアミノ酸配列を有する全長Nm23の両末端に配列番号:8のアミノ酸配列を有するJO−77MTDが融合された組換えタンパク質。
【請求項5】
配列番号:20、22、24、26、28、30、32、34及び36のアミノ酸配列からなる群から選ばれるアミノ酸配列を有することを特徴とする、請求項1記載の細胞透過性Nm23組換えタンパク質。
【請求項6】
請求項1記載の細胞透過性Nm23組換えタンパク質をコードするポリヌクレオチド。
【請求項7】
配列番号:19、21、23、25、27、29、31、33及び35の塩基配列からなる群から選ばれる塩基配列を有することを特徴とする、請求項6記載のポリヌクレオチド。
【請求項8】
請求項6記載のポリヌクレオチドを含む組換え発現ベクター。
【請求項9】
pET28a(+)−HM1N、pET28a(+)−HNM1、pET28a(+)−HM1NM1、pET28a(+)−HM2N、pET28a(+)−HNM2、pET28a(+)−HM3N、pET28a(+)−HNM3及びpET28a(+)−HM3NM3からなる群から選ばれることを特徴とする、請求項8記載の発現ベクター。
【請求項10】
請求項8記載の組換え発現ベクターで形質転換された形質転換細菌。
【請求項11】
大腸菌DH5α/HM3Nm23(KCTC−11380BP)であることを特徴とする、請求項10記載の形質転換細菌。
【請求項12】
大腸菌DH5α/HNm23M3(KCTC−11381BP)であることを特徴とする、請求項10記載の形質転換細菌。
【請求項13】
請求項10記載の形質転換細菌を培養する段階を含む細胞透過性Nm23組換えタンパク質を生産する方法。
【請求項14】
請求項1記載の細胞透過性Nm23組換えタンパク質を有効成分として含有し、薬学的に許容可能な担体を含む、癌細胞の増殖、分化または移動を遮断して転移を抑制するための癌転移抑制用薬学的組成物。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7a】
【図7b】
【図8a】
【図8b】
【図8c】
【図9a】
【図9b】
【図10】
【図11】
【図12a】
【図12b】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7a】
【図7b】
【図8a】
【図8b】
【図8c】
【図9a】
【図9b】
【図10】
【図11】
【図12a】
【図12b】
【図13】
【図14】
【公表番号】特表2010−537665(P2010−537665A)
【公表日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−523952(P2010−523952)
【出願日】平成20年9月4日(2008.9.4)
【国際出願番号】PCT/KR2008/005221
【国際公開番号】WO2009/031835
【国際公開日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【出願人】(509212764)プロセル セラピューティックス インコーポレーティッド (3)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年9月4日(2008.9.4)
【国際出願番号】PCT/KR2008/005221
【国際公開番号】WO2009/031835
【国際公開日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【出願人】(509212764)プロセル セラピューティックス インコーポレーティッド (3)
【Fターム(参考)】
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