説明

細菌のためのキャリアーとしての細胞

本発明は、医薬組成物の製造のための、外来性DNAを含有する、微生物、殊に細菌性微生物で負荷されている細胞の使用に関し、その際前記外来性DNAは定義された作用物質をコードし、かつ、前記医薬組成物は、前記作用物質で阻害可能及び/又は処置可能である疾病の予防又は処置用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の範囲
本発明は、細菌で感染させた細胞、並びに医薬組成物、殊に癌の処置のための医薬組成物の製造のためのその使用に関する。
【0002】
本発明の背景及び公知技術
これまで治療不可能であったか又は不十分にしか治療可能でなかった疾病の治療の新規のアプローチには、遺伝子治療及び免疫治療の様々な可能性が必要である。
【0003】
遺伝子治療の場合には、所望のタンパク質をコードする核酸配列は、適したキャリアーによって標的組織中に輸送され、そこで細胞中に入り込み、所望のタンパク質の発現のためにこれらを形質導入する。遺伝子治療に対する、多数の様々な技術的アプローチが開発され、試験されてきた。全体的にはしかし、様々なアプローチの前記試験の臨床的な結果は総じて、特に腫瘍の疾病の際にはむしろ失望するものであるように見える。これは大部分、技術的な問題が原因としてある。核酸配列のためのキャリアーは、あまりに低い標的細胞特異性を有するので、形質導入される細胞の数はあまりに少なく、所望のタンパク質の発現の強度及び期間は、治療の効果のためには少なすぎる。
【0004】
免疫治療の確立した形は、抗原を用いた免疫化、いわゆるワクチン接種である。抗原を用いた免疫化により、体内には特異的な抗体及び/又は特異的な細胞毒性リンパ球が生じ、これは予防的に又は治療的に作用し、例えば感染性病原体に対して作用する。数十年にわたって、様々なアプローチを用いて、これまで不十分にしか処置可能でなかったか又は治療不可能な疾病をもワクチン接種によって処置するために試みられた。この際、腫瘍ワクチン接種による腫瘍疾病の治療が重要である。目的は、腫瘍ワクチンにより腫瘍に対する免疫応答を引き起こすことであり、これは腫瘍細胞の溶解及び最後には全ての腫瘍組織の除去を導く。これまで試験された様々な腫瘍ワクチンを用いても、これまでに腫瘍治療におけるブレークスルーは達成されていない。根本的な理由は、いわゆる、腫瘍に対する腫瘍キャリアーの免疫寛容にある。従って、多数の免疫治療アプローチによって、比較的良好に、腫瘍特異的なT細胞応答を誘導することは成功するが、これらはしかし、殺腫瘍性の作用とはしばしば相関しない(例えば、Thurner et al., J Exp Med 190 : 1669-1678 (1999))。新規の知見は、様々な原因を指し示す。これには、特異的なT細胞による腫瘍組織のわずかな浸透(Mukai et al., Cancer Research 59 : 5245-5249 (1999))及び/又は腫瘍内でのT細胞の不活化(例えば、TFG−β又は腫瘍組織中でのネガティブに制御するマーカー、例えばB7−H1の発現、又は免疫抑制的に作用する調節T細胞の刺激による)が属する(概要:Bach, Nature Reviews, 3 : 189-198 (2003))。
【0005】
様々な臨床相において、最近では、樹状細胞をしばしばベースとする、腫瘍ワクチン接種のための方法が使用されている(要約、Bancherau et al., Cell, 106 : 271-4(2001))。樹状細胞での免疫化の最も頻度の高い方法は、ex vivoでの細胞の活性化、抗原(例えば精製されたタンパク質、腫瘍抽出物、又は決まったペプチド)でのその負荷(「パルシング」)、及びその引き続く適用を含む。又は、細胞の融合を含む方法も使用される。この場合には例えば、樹状細胞を有する、照射された腫瘍細胞は、適した方法、例えば電場によって融合され、引き続き適用される(Kugler etal., Nat Med 6 : 332-6(2000))。
【0006】
選択された腫瘍抗原のためのキャリアーとして、組換えて減毒化した、細菌、例えばサルモネラ及びリステリアを用いた新規の方法が開発され、これは患者の腫瘍に対する、患者の免疫寛容を打破する(DE 102 08 653 ; DE 102 06 325、まだ開示されていない)。前記免疫寛容が打破される機構は、これまでその全ての詳細において未だ理解されていない。しかし、ここでは、注射の後に起こる、細菌、例えばサルモネラ又はリステリアの、腫瘍組織中での蓄積及びそこで前記細菌によって引き起こされた炎症が、重大な役割を果たしているようである。サルモネラのi.v.投与によって、腫瘍組織中で前記細菌の蓄積が起こることは公知である。動態な研究はしかし、細菌のi.v.注射後の初期の時間点で、腫瘍組織中でわずかな細菌のみが検出可能であり、かつこれらは特に腫瘍組織中で、巣状に増殖することが可能であることを示した。従って、i.v.注射によって、大量の細菌が腫瘍中で観察される場合には、これは比較的少ない前駆体から派生する(Mei et al., Anticancer Res 22 : 3261-6 (2002))。しかし、治療的な適用、例えば遺伝子キャリアーとしてサルモネラを用いる遺伝子治療の意図のための治療的な適用にとっては、これは不利であり、というのは、この場合には腫瘍の均一な定着は起こらず、しかし少ない巣のみが多くの細菌数でもって生じるからである。
【0007】
腫瘍は、本来の腫瘍細胞及び結合組織の他に、多数の白血球、殊に多数のリンパ球(腫瘍浸潤リンパ球;TIL)及び多数のマクロファージ(腫瘍関連マクロファージ;TAM)を含有する。白血球の腫瘍局在化は、腫瘍細胞の発現産物によって、殊にサイトカイン、エンドセリン並びに低酸素状態によって影響されることが仮定されている(Sica et al., Int Immunpharmacol, 2 : 1045-1054 (2002) ; Grimshaw et al., Eur J Immunol, 32 : 2393-2400 (2002))。
【0008】
腫瘍中に局在化した白血球の機能は矛盾している。殊にTAMに対しては、抗腫瘍性(抗原提示;細胞毒性;Funada et al., Oncol Rep, 10 : 309-313(2003) ; Nakayama et al., AntiCancer Res 22 : 4291-4296 ; Kataki et al., J Lab Clin Med, 140 : 320-328(2002))と同様に腫瘍成長を促進する活性(成長因子の分泌;血管形成及び転移の促進;Leek und Harris J., Mammary Gland Biol Neoplasia, 7 : 177-189 (2002) ; 細胞毒性サイトカイン、例えばIl−1アルファ;Il−ベータ;Il−6;TNFアルファ;の減少した分泌 Kataki et al., J LabClin Med, 140 : 320-328 (2002))が検出された。
【0009】
長い間、細胞毒性リンパ球、TIL、ナチュラルキラー細胞、マクロファージ又は樹状細胞の投与により、腫瘍成長を影響することが試みられてきた。臨床的な効果はしかし、再度矛盾するものであった(Faradji et al., Cancer Immunol Immunotherap, 33 : 319-326 (1991) ; Montovani et al., Immunology Today, 13 : 265-270 (1992) ; Ravaud et al., British J of Cancer, 71 : 331-336 (1995) ; Semino et al., Minerva Biotec, 11 : 311-317,(1999))。実験的に、少し活性化したマクロファージの注射は腫瘍成長の促進に、強く活性化したマクロファージの注射は腫瘍成長の阻害に導くことが可能であることが、示された(Mantovani etal.,Immunology Today 13 : 265-270 (1992))。この際、活性化マクロファージの適用は、腫瘍局在化を促進するようであった(Fidler, Adv Pharmacol, 30 : 271-326 (1974) ;Chokri et al.,Int J Immunol,1:79-84,(1990))。in vitroで抗腫瘍性のタンパク質をコードする遺伝子配列で形質導入された白血球の注射も、これまでに臨床的に、腫瘍の処置においてブレークスルーをもたらしていない(Hege and Roberts, Current Opinion in Biotechnology ,7:629-634(1996))。これらの試みの枠内において、しかし、白血球、その他の細胞、殊に腫瘍細胞も、i.v.注射により腫瘍組織に到達することが可能(Shao J. et al., Drug Deliv 2(2001) )であること、しかし適用された細胞のはるかに大部分は、通常の組織、例えば肺、脾臓、及び肝臓中で定着すること(Adams J, Clin Pathol Mol Path 49:256-267(1996))が示された。
【0010】
本発明の技術的な課題
本発明は、作用物質をコードする外来性DNAを含有する微生物により、標的細胞局在、殊に腫瘍局在を改善させる手段を提供するという技術的な課題に基づく。
【0011】
本発明の知見及び特性並びに実施態様
本発明は、in vitroで細菌によって感染させられた、即ち負荷されたマクロファージ又は樹状細胞を、静脈内投与によって腫瘍組織中に輸送し、腫瘍中に局在した細菌の量はin vitroで細菌で負荷したマクロファージのi.v.注射の後、遊離の細菌の相応する量のi.v.注射の後よりも明らかに高く、自体感染した異種性腫瘍細胞は腫瘍中で蓄積し、かつ前記効果は、感染した細胞が前もって照射によって不活化された場合にも存続するという知見に基づく。
【0012】
マクロファージが例えば、サルモネラのためのキャリアーとして使用される場合には、2つの異なるトランスジェニック腫瘍モデル中(肺腫瘍モデル:Rafトランスジェニックマウス、Kerkhoff et al., Cell Growth Differ, 11 : 185-90 (2000), 乳房腫瘍モデル:Her−2トランスジェニックマウス、Bouchardet al., Cell, 57 : 931-6 (1989))で、サルモネラで負荷したマクロファージのi.v.適用18時間後に、腫瘍組織中には、遊離サルモネラの相応する量のi.v.注射の後よりも10倍多いサルモネラが検出された。
【0013】
異種の腫瘍系の使用の際にも同じことが示された。腫瘍細胞系4T1(ATCC Nr.CRL−2539)は、BALB/cマウスの乳腺組織の腫瘍に由来し、減毒したリステリアを用いた感染の後で、前述のRaf−腫瘍モデル(C57BL/6バックグラウンド)中に適用された。ここでも、感染した細胞の使用の際に腫瘍組織中で細菌のより多い数を示し、これは、細胞の前もった照射の場合にも存続する。
【0014】
根本的に、この意外な観察は従って、前記細胞が細菌によって感染されるか、又は前記細菌にしっかりと付着し、かつこれにより前記の細菌のためのキャリアーである限りは、任意の細胞に拡張される。例えば、前述の腫瘍モデル中では、腫瘍組織中でのサルモネラの局在化が、サルモネラで感染させた腫瘍細胞のi.v.注射後、遊離のサルモネラの相応する量のi.v.注射後よりもはるかに多いことが示された。
【0015】
細菌は殊に、細菌性成分、例えばリポ多糖(LPS)、細胞壁成分、鞭毛、免疫賦活性のCpgモティーフを有する細菌性DNA(これらは全て、抗原提示細胞上の、様々ないわゆるToll様受容体(TLR)と相互作用し、従ってこれを刺激することが可能)によって強力なアジュバント効果を有する。従って、細菌を用いた細胞の感染及び前記細胞の投与は、腫瘍に対して細菌の改善した蓄積をもたらすだけでなく、前記感染は、全身的な並びに局所的な炎症及び免疫応答の増強をもたらす。これにより前記方法は、免疫治療の範囲内の局所的な免疫応答の上昇のためにも用いられる。
【0016】
本発明の対象は従って、細菌で負荷された哺乳類の細胞、及び疾病の予防又は処置のための前記細胞の使用である。
【0017】
本発明の趣旨において細胞は、例えば、自己由来の、同種の、又は異種の、マクロファージ、リンパ球、樹状細胞又は腫瘍細胞であってよい。腫瘍細胞の使用の際には、これは有利には、その分裂能力がブロックされているように、照射されるか又は細胞分裂抑制剤で処理されている。前記細胞は有利には、血液又は腫瘍から当業者に公知の方法で単離される。しかし、通常の組織からの又は腫瘍からの、培地で樹立された、自己由来の、同種の、又は異種の細胞、いわゆる細胞系も使用される。前記細胞系は例えば、細胞バンク、例えばder amerikanischen Gewebezelbank(ATCC)から、任意の数及び種類において入手可能である。更に、当業者に公知の方法で改変された細胞も使用してよい。改変はここでは、殊に遺伝子の改変を含むが、例えばペプチド、タンパク質、薬理学的な作用物質又はウィルス粒子を用いた細胞の付加的な負荷をも含む。本発明の趣旨において負荷は、細胞への細菌の吸着、細胞による細菌の食作用及び/又は細胞の感染である。
【0018】
本発明の趣旨において細菌は、例えばグラム陰性細菌及びグラム陽性細菌、有利には、通性細胞内細菌、有利にはサルモネラ又はリステリア、有利には、分裂能力はあるが、しかし受け取り体に対する病原性を有しないか、又はその毒性が減毒されているか、又は死んでいる細菌である。毒性が減毒された細菌は、例えば、前記細菌の少なくとも1つの染色体中で、物質代謝酵素のための少なくとも1つの遺伝子が欠失しているか、又は前記物質代謝酵素が欠損しているように変異していることを特徴とする。前記細菌において、i)芳香族アミノ酸合成のための酵素のための1つの遺伝子、例えば芳香族アミノ酸の生合成において、最初の酵素をコードするaroA遺伝子が、染色体中で欠失していてよく、その結果、前記細菌はその成長において芳香族アミノ酸の存在に依存する、ii)細菌の運動性を可能にするタンパク質は損なわれずに発現されてよく、例えばiap及びactA遺伝子の機能能力は維持されている、iii)トリプトファニル−tRNA合成酵素をコードする遺伝子trpSは染色体中で欠失されていてよく、この際前記細菌中にプラスミドが導入されている、iv)その複製は、適した「複製起点」によって、例えばori pAMβ1(Simon and Chopin, 1988)安定化されている、v)トリプトファニル−tRNA−合成酵素をコードするtrps遺伝子を含有してよく、vi)細胞質中で哺乳類細胞によって活性化可能なプロモーター、例えばactAプロモーター(PactA、Dietrich et al., 1998)の制御下にある、エンドリシンのための遺伝子、例えばファージA118(ply 118 ; Loessner et al., 1995)の溶解遺伝子を含有してよく、及びvii)細菌中又は哺乳類細胞中で活性可能なプロモーターの制御下にある、少なくとも1つの作用物質をコードする核酸配列少なくとも1つを含有してよく、その際プロモーターの活性化は細胞非特異的に、細胞特異的に、細胞周期特異的に、細胞機能特異的に又は代謝産物、医薬品に依存して、又は酸素濃度に依存して行われる。
【0019】
前記種類の細菌は、必須代謝タンパク質のための少なくとも1つの遺伝子の損失のために、その毒性の劇的な減少(例えばin vivoの増殖能力に関して測定される)を示し、及びにもかかわらず、著しく上昇したバクトフェクション(Bactofection)、細胞質中での細菌の溶解、細菌中に含有されるプラスミドの放出、及びプラスミドによってコードされた作用物質の安定な発現を示す。前記細菌性微生物は、非常に一般的に、外来核酸配列(これは作用物質をコードする)を含有し、かつ選択的に、制御性の核酸配列の制御下にあり、この際微生物の染色体DNA中で、天然でかつ細菌の酵素の発現をコードする、細菌の核酸配列は欠失しているか、又は、それから生じる翻訳産物は機能性でなく、かつその際微生物は前記酵素をコードする外来核酸配列を含有しないという条件付きで変異されている。
【0020】
細胞内細菌の例は以下である:マイコバクテリウム ツベルクローシス(Mycobacterium tuberculosis)、M.ボビス(M. bovis)、M.ボビス株BCG、BCG亜系、M.アビウム(M. avium)、M.イントラセルラーレ(M. intracellailare)、M.アフリカヌム(M. africanum)、M.カンサシィ(M. kansasii)、M.マリヌム(M. marinum)、M.ウルセランス(M. ulcerans)、M.アビウム亜種パラツベルクローシス(M. avium subspecies paratuberculosis)、ノカルジア アステロイデス(Nocardia asteroides)、その他のノカルジア(Nocardia)種、レジオネラ ニューモフィラ(Legionella pneumophila)、その他のレジオネラ(Legionella)種、サルモネラ チフィ(Salmonella typhi)、S.チフィムリウム(S. typhimurium)、その他のサルモネラ(Salmonella)種、シゲラ(Shigella)種、エルシニア ペスティス(Yersinia pestis)、パスツレラ ヘモリチカ(Pasteurella haemolytica)、パスツレラ ムルトシダ(Pasteurella multocida)、その他のパスツレラ(Pasteurella)種、アクチノバシラス プリューロプニューモニエ(Actinobacillus pleuropneumoniae)、リステリア モノサイトゲネス(Listeria monocytogenes)、L.イバノビ(L.ivanovii)、ブルセラ アボルツス(Brucella abortus)、その他のブルセラ(Brucella)種、クラミジア ニューモニエ(Chlamydia pneumoniae)、クラミジア トラコマチス(Chlamydia trachomatis)、クラミジア シッタシ(Chlamydia psittaci)、及びコクシエラ バーネッティイ(Coxiella burnetii)。
【0021】
サルモネラの減毒のための例は以下である:pab遺伝子、pur遺伝子、aro遺伝子、asd、dap遺伝子中、innadA,pncB、galE、pmi、fur、rpsL、ompR、htrA、hemA、cdt、cya、crp、dam、phoP、phoQ、rfc、poxA、galU、metL、metH、mviA、sodC、recA、ssrA、ssrB、sirA、sirB、sirC、inv、hilA、hilC、hilD、rpoE、flgM、tonB又はslyA中及びこれらの組み合わせにおける不活性な変異。例示的に挙げられた遺伝子の不活性な変異は、サルモネラの減毒のために当業者に公知である。
【0022】
本発明の対象は、細菌のキャリアーである更なる細胞であって、その際前記細菌中には核酸配列が導入されていて、これはタンパク質をコードし、その際前記タンパク質は有利には疾病の予防又は処置のための作用物質である。
【0023】
前記タンパク質は例えば以下である:感染病原体、例えばウィルス、細菌、マイコプラズマ、寄生体の抗原、腫瘍に特異的な抗原、殊に、癌遺伝子によりコードされるタンパク質、抗体、抗体のエピトープ結合フラグメント、及び抗体のエピトープ結合フラグメントを少なくとも1つ含有する融合タンパク質(これらは例えば腫瘍細胞、リンパ球、例えばTリンパ球、又は内皮細胞、例えば腫瘍内皮細胞上の抗原に対して指向している)、酵素、殊に医薬品の不活性型前駆体の活性化のための酵素、例えばβ−グルクロニダーゼ、ホスファターゼ、ヒドロラーゼ、リパーゼ、免疫抑制サイトカイン、例えばIL−10、免疫賦活性サイトカイン、例えばIL−1、IL−2、IL−3又はIL−6、ケモカイン、インターフェロン、成長因子、例えばG−CSF、GM−CSF、M−CSF、FGF:VEGF又はEGF、又はサイトカイン、ケモカイン、インターフェロン、又は成長因子に対する阻害性タンパク質。
【0024】
細菌中での前記遺伝子の発現の制御は、適したプロモーターによって行われ、その際これらは細菌又はウイルス、又は真核生物由来であってよく、かつ非特異的に、細胞特異的に、又は機能特異的に、活性化可能であってよい。
【0025】
更なる有利な、本発明の実施態様において、遺伝子に核酸配列が取り付けられていてよく、これは前記遺伝子によってコードされるタンパク質の膜貫通発現又は分泌を、細菌を介して可能にする。そのようないわゆるシグナル配列は文献EP1042495、EP1015023及び Hess et al., PNAS USA 93 : 1458-1463 (1996)に記載されている。
【0026】
本発明の対象は更に、本発明による細胞の、疾病の予防又は処置のための使用である。有利には、本発明による細胞は、腫瘍疾病又は免疫疾病を処置するために使用される。このために、細菌中に導入された遺伝子は、タンパク質をコードし、これはi)腫瘍溶解性である、ii)炎症誘発性に作用する、iii)ネガティブに制御する免疫細胞を阻害する、例えば、CTLA−4、B7−H1又はCD25又はTGFβの阻害によって阻害する、iv)免疫抑制性に作用する、又はv)細胞毒性、免疫調節性、又は免疫抑制性物質の不活性な前駆体を、活性作用物質に変換することが可能である。
【0027】
疾病の予防又は処置のためには、有利には、100〜10^9個の細胞が投与され、これは有利には、約0.1(統計的平均)〜100細菌を1細胞当り有する。前記細胞は局所的に、皮膚に、循環器中に、体孔中に、組織中に、器官中に、又は経口的に、直腸に、又は気管に、少なくとも一回投与される。
【0028】
本発明による細胞が使用される疾病は、例えば腫瘍疾病、自己免疫疾病、慢性的な炎症及び臓器移植である。
【0029】
以下に、本発明は実施例を元に、より詳細に説明される。
【0030】
本発明を明らかにするための実施例
実施例1:感染した自己由来の骨髄マクロファージによるサルモネラ チフィムリウム7207の供給
1.1:骨髄マクロファージ(MΦ)の単離
BxB23マウス約2〜3ヶ月齢、又はMMTV/neuトランスジェニックマウス約2ヶ月齢を、骨髄マクロファージを単離するために使用した。前記マクロファージの単離は、以下のプロトコルに従って行った:i)マウスの大腿骨を除去、ii)ペトリ皿中の骨から軟部組織を除去し、両面で切開した、iii)骨髄をDMEM 10(10%FCS Gibco、2mM L―グルタミン Gibco、50μM β−メルカプトエタノール Gibcoを有するDMEM Gibco)2mlで、シリンジを用いてDMEM10を有するブルーキャップ中で洗浄する、iv)1200rpmで5´の間遠心分離し、吸引し、分化培地5ml中に収容する。分化培地(DMEM10+10ng/ml GM−CSF(組換えマウス顆粒球マクロファージコロニー刺激因子;RD Systems、Wiesbaden 型番415−ML)中で1×10^5細胞/mlの細胞カウントに合わせ、Nunc培養皿(NUNCLONTM, 58mm, NUNC Nr. : 16955)中で5mlに分注する、v)37℃及び10%CO2で8日間インキュベートする、vi)
1.2 in vitroでのサルモネラ チフィムリウム7207(SL7207)でのマクロファージの感染
Nunc細胞培養皿に付着しているMΦを、DMEMで洗浄し、次に付着細胞をセルスクレーパーを用いて回収し、カウントし、分化培地中に収容した。SL7207(Hoiseth S. K. et al., Nature 291 : 238-239(1981))での感染は以下のプロトコルに従って行われた:i)インキュベーター中37℃、1h:MOI(感染多重度)1:20、ii)10^6マクロファージを、Nunc細胞培地皿中の培地2ml中に蒔き、細菌(MOI=20)2×10^7と共に、37℃で1hインキュベートした、iii)次に洗浄し、iv)ゲンタマイシン(終濃度100μg/ml(Sigma))で1h、37℃でインキュベートし、v)洗浄し、細胞数を決定し、細菌のコロニー形成ユニット(CFUs)をカウントするために、Brain Heart Infusion(BHI)プレート(Gibco)上に蒔いた。
【0031】
1.3:マクロファージの負荷の結果
MOI 20及び一時間の負荷時間の際には、コンスタントに約10^4のサルモネラがマクロファージ10^5中に検出される。負荷密度は、負荷後12時間の間ほぼ一定なままで、細菌の増殖を全く示さなかった。
【0032】
1.4:「in vitro」でSL7207で感染させたマクロファージのBxB23及びMMTV/neuマウス中での適用
in vitroで感染させた骨髄マクロファージ5×15^5をPBS100μl中に懸濁し、マウス一匹につきBxB23及びMMTV/neu腫瘍マウスの尾の静脈中にi.v.注射した(使用した実験動物は促進された腫瘍発達を示した、齢12ヶ月、BxB23マウスでは肺の重量は肺腫瘍のために、0.75〜1.25gであった)。それぞれの実験に応じて(CFUsのカウントによって決定される)、S.チフィムリウム7207、細菌数3〜5×10^4がマウス一匹につき注射された。コントロールとして、BxB23及びMMTV/neu腫瘍マウスは、S.チフィムリウム7207(細菌2.5×10^5をマウス一匹につき100μlPBS中で懸濁した)が、i.v.適用された。18時間後に、前記マウスを殺し、CFU(BHIプレート上に蒔いた)を、肺(BxB23)又は腫瘍(MMTV)中で決定した。感染の進行を、コントロール群中でS.チフィムリウム aroA 7207のi.v.注射後検査した。このために、同様のプロトコルを用いて、様々な時間点でCFUの決定により細菌数を検査した。
【0033】
1.5:i.v.注射後の腫瘍中でのS.チフィムリウム7207の蓄積:
BxB23マウスの腫瘍を有する肺中及びMMTV/neuマウスの乳房の腫瘍中では、サルモネラで感染させたマクロファージの投与後には、遊離のサルモネラで処理したコントロール群中の動物に比較して、感染の18時間後、サルモネラに関して10倍量より多く検出された。細菌負荷したマクロファージの注射後、細菌の蓄積は、注射の18時間後に既にコントロール群(即ち、細菌のみの注射後)で比較すると数日間(感染後5日)後にはじめて達成可能であった蓄積と同じ位多かった(細菌のみの注射の場合よりも10倍高かった、図1及び付属の表)。本発明による細菌負荷した細胞によって従って、純粋な細菌の懸濁液の注射によって可能であったのよりも、著しくより多い量の細菌を、大幅により短い時間で蓄積することが可能であった。肺及び器官中での、本発明による細胞の注射後1、7、14日目にCFUsが決定される場合には、腫瘍を有するBxB23マウスの肺中で、CFUは一定して高いままで、又は上昇し、その一方でC57/BL6コントロールマウスの肺中でも、BxB23マウス及びC57/BL6マウスの脾臓中でもCFUsは、それぞれの肺中の値より著しく低いか、又はもはや検出可能でなかった(図2及び図3、及び付属する表参照;図2は、(肺)腫瘍を有するBxB23マウスの肺中とC57BL/6コントロールマウスの肺中との、CFUsの比較を示す、図3は、MMTV/neuマウスの乳房腫瘍中と、脾臓中との、S.チフィムリウム5×10^5のi.v.注射後の比較)。
【0034】
実施例2:感染した異種の細胞によるL.モノサイトゲネスの供給
BALB/cマウスの乳腺腫瘍からの腫瘍系4T1細胞(ATCC CRL−2539)を、減毒したL.モノサイトゲネス株で、MOI10で、1hの間感染させた。前記細胞を次に洗浄し、遊離の細菌を、ゲンタマイシンの存在下での1時間のインキュベーションによって殺した。CFUsの決定は、1つの細胞につき0.15個の細菌での細胞の負荷をもたらした。前記細胞数を、PBS中で1mlにつき5×10^6個の細胞に調節した。更に、前記感染細胞の一部を、放射により不活化した。腫瘍を有するBxB23マウス(齢>10ヶ月)又は同齢のC57BL/6マウス中に、マウス1匹に対して前記懸濁液(即ち5×10^5感染細胞(測定されたCFU、リステリア:7.3×10^4)、3.5×10^5感染かつ放射細胞、又は(カウントしたCFUs)3.5×10^5遊離リステリア、それぞれPBS100μl中)0.1mlを、i.v.注射した。使用した放射量の際には、CFUの決定にわたって、遊離の細菌の検出された減少は、最大で25%だけ起こり、これによって放射された細胞の場合には、計算により約3.8×10^4の感染量が生じる。
【0035】
感染17h後、細菌のCFUsは、肺中及び脾臓中で、BHIプレート(Gibco)上への連続的な播種により決定された(検出限度、1器官につき10細菌)。
【0036】
この際、検出可能なCFUsに相応して全ての動物は脾臓中で成功した感染を示した。
腫瘍を有するBxB23マウスの肺及びC57BL/6コントロールマウスの肺中で、CFUsの数は本発明による生細胞又は放射された細胞の注射後では、細菌懸濁液の注射後よりも明らかに高く、この際、本発明による細胞の注射後の細菌数は、腫瘍を有するBxB23マウスの肺中で、C57BL/6コントロールマウスの肺中の細菌数に比較して、明らかに高まっていた(10倍)。脾臓中で、全ての群において、肺中より著しく多い細菌のCFUsが検出可能であったが、しかし本発明による細胞又は細菌懸濁液の注射後の、細菌のCFUsの数の明らかな差異は、腫瘍を有するBxB23マウスの際にも、C57BL/6コントロールマウスの際にも検出可能ではなかった(図4及び、付属する表参照)。
【0037】
既に、毒性を減毒したS.チフィムリウム7207で負荷したマクロファージでの試みに対する前記コントロール群において示したように、毒性を減毒したL.モノサイトゲネスの際にも、約5日間以内に、最大で14日間以内に、本発明による細胞の注射後にも、純粋な細菌懸濁液の注射後にも、細菌のCFUsの数は、脾臓中でも、その他の腫瘍負荷していない器官中でも、腫瘍を有するBxB23マウスの場合も、C57BL/6コントロールマウスの場合にも、(肺)腫瘍を有するBxB23の肺中のCFUsの値を明らかに下回る値に減少する。
【0038】
これとは対照的に、(肺)腫瘍を有するBxB23マウスの肺中では、細菌のCFUsの最初に高かった数は、本発明による注射後に、全ての時間にわたって、少なくともそのままであるか、又は初期であっても上昇し、より長期の平坦な段階の後でようやく再度減少する。
【0039】
表1:感染したマクロファージ又は遊離のサルモネラのi.v.注射18時間後の感染マウスの肺又は腫瘍中の細菌数
【0040】
【表1】

【0041】
表2:(肺)腫瘍を有するB×B23マウスの肺と、コントロールマウスC57BL/6の肺中とのCFUsの比較
【0042】
【表2】

【0043】
表3:MMTV/neuマウスの乳房腫瘍中及び脾臓中の、S.チフィムリウム aroA 5×10のi.v.注射後のCFUsの比較
【0044】
【表3】

【0045】
表4:25グレイで放射あり(irrad.Cells)又は放射なし(inf.Cells)で、又は遊離リステリアを用いて、感染した4T1乳房腫瘍細胞での感染17時間後の感染マウス中の細菌数
【0046】
【表4】

【0047】
表5:25グレイで放射あり(irrad.Cells)又は放射なし(inf.Cells)で、又は遊離リステリアを用いて、感染した4T1乳房腫瘍細胞での感染17時間後の感染マウスの脾臓中の細菌数
【0048】
【表5】

【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】図1は、感染したマクロファージ又は遊離のサルモネラのi.v.注射18時間後の感染マウスの肺又は腫瘍中の細菌数を示す図である。
【図2】図2は、(肺)腫瘍を有するB×B23マウスの肺と、コントロールマウスC57BL/6の肺中とのCFUsの比較を示す図である。
【図3】図3は、MMTV/neuマウスの乳房腫瘍中及び脾臓中の、S.チフィムリウム aroA 5×10のi.v.注射後のCFUsの比較を示す図である。
【図4】図4は、25グレイで放射あり(irrad.Cells)又は放射なし(inf.Cells)で、又は遊離リステリアを用いて、感染した4T1乳房腫瘍細胞での感染17時間後の感染マウスの肺又は脾臓中の細菌数を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
疾病の予防又は治療のための、細菌で負荷した哺乳類の細胞であって、その際前記細胞は、自己由来であるか、同種であるか、又は異種であり、かつマクロファージ、樹状細胞、顆粒球、リンパ球、腫瘍細胞及び組織細胞からなるグループから選択されている細胞。
【請求項2】
照射又はその他の方法によって不活化されている、請求項1記載の細胞。
【請求項3】
細菌は、生きているか、毒性でないか、毒性が減毒されているか、又は死んでいる、請求項1又は2記載の細胞。
【請求項4】
細菌は、マイコバクテリウム ツベルクローシス、M.ボビス、M.ボビス株BCG、BCG亜系、M.アビウム、M.イントラセルラーレ、M.アフリカヌム、M.カンサシィ、M.マリヌム、M.ウルセランス、M.アビウム亜種パラツベルクローシス、ノカルジア アステロイデス、その他のノカルジア種、レジオネラ ニューモフィラ、その他のレジオネラ種、サルモネラ チフィ、S.チフィムリウム、その他のサルモネラ種、シゲラ種、エルシニア ペスティス、パスツレラ ヘモリチカ、パスツレラ ムルトシダ、その他のパスツレラ種、アクチノバシラス プリューロプニューモニエ、リステリア モノサイトゲネス、L.イバノビ、ブルセラ アボルツス、その他のブルセラ種、クラミジア ニューモニエ、クラミジア トラコマチス、クラミジア シッタシ、及びコクシエラ バーネッティイからなるグループから選択される、請求項1から3までのいずれか1項記載の細胞。
【請求項5】
細菌は組換えDNAを有し、その際前記DNAは、少なくとも1つの作用物質をコードする、請求項1から4までのいずれか1項記載の細胞。
【請求項6】
少なくとも1つの作用物質は、適したプロモーターを用いて細菌自体により産生されるか、又はその発現は真核プロモーターの制御下にある、請求項1から5までのいずれか1項記載の細胞。
【請求項7】
産生は、細胞内で起こるか、膜で起こるか、又は分泌されて起こる、請求項1から6までのいずれか1項記載の細胞。
【請求項8】
作用物質は、感染病原体、例えばウィルス、細菌、マイコプラズマ、寄生体の抗原、腫瘍に特異的な抗原、殊に、癌遺伝子によりコードされるタンパク質、抗体、抗体のエピトープ結合フラグメント、及び抗体のエピトープ結合フラグメントを少なくとも1つ含有する融合タンパク質(これらは例えば腫瘍細胞、リンパ球、例えばTリンパ球、又は内皮細胞、例えば腫瘍内皮細胞上の抗原に対して指向している)、酵素、殊に医薬品の不活性型前駆体の活性化のための酵素、例えばβ−グルクロニダーゼ、ホスファターゼ、ヒドロラーゼ、リパーゼ、免疫抑制サイトカイン、例えばIL−10、免疫賦活性サイトカイン、例えばIL−1、IL−2、IL−3又はIL−6、ケモカイン、インターフェロン、成長因子、例えばG−CSF、GM−CSF、M−CSF、FGF:VEGF又はEGF、又はサイトカイン、ケモカイン、インターフェロン、又は成長因子に対する阻害性タンパク質からなるグループから選択される、請求項1から7までのいずれか1項記載の細胞。
【請求項9】
作用物質は、腫瘍組織中でネガティブに制御する要素を遮断する、疾病の予防又は治療のための、請求項1から8までのいずれか1項記載の細胞の使用。
【請求項10】
細菌は炎症誘発性刺激剤として、腫瘍組織中で用いられる、疾病の予防又は治療のための、請求項1から8までのいずれか1項記載の細胞の使用。
【請求項11】
樹状細胞又はマクロファージは、接種抗原のためのキャリアーとして同時に使用される、疾病の予防又は治療のための、請求項1から8までのいずれか1項記載の細胞の使用。
【請求項12】
作用物質及び/又は接種抗原は、ex vivoで樹状細胞又はマクロファージに負荷される、疾病の予防又は治療のための、請求項1から8までのいずれか1項記載の細胞の使用。
【請求項13】
接種抗原は、定義されたペプチドからなる、請求項12記載の使用。
【請求項14】
細胞は、組織の抗原又は腫瘍抗原を発現するその他の細胞と融合している、請求項10記載の使用。
【請求項15】
融合した細胞は、自己由来の腫瘍細胞である、請求項14記載の使用。
【請求項16】
疾病の予防又は治療のための、請求項1から8までのいずれか1項記載の細胞の使用。
【請求項17】
医薬組成物を製造するための、外来性DNAを含有する、微生物、殊に細菌性微生物で負荷されている、請求項1から8までのいずれか1項記載の細胞の使用。
【請求項18】
外来性DNAは定義された作用物質をコードし、かつ、医薬組成物は、前記作用物質で阻害可能及び/又は処置可能である疾病の予防又は処置用である、請求項17記載の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2006−526396(P2006−526396A)
【公表日】平成18年11月24日(2006.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−508123(P2006−508123)
【出願日】平成16年6月7日(2004.6.7)
【国際出願番号】PCT/DE2004/001178
【国際公開番号】WO2004/108155
【国際公開日】平成16年12月16日(2004.12.16)
【出願人】(503300502)ツェンタリス ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (25)
【氏名又は名称原語表記】Zentaris GmbH
【Fターム(参考)】