説明

細菌検査方法および細菌検査用具

【課題】検査が容易で、細菌の検出精度が高い細菌検査方法および細菌検査用具を提供する。
【解決手段】検出しようとする所定の細菌を培養可能な液体培地21を収容した液体容器11に、試料1を加え、液体培地21と試料1とを混合する。その混合液24を、培養容器12に収容された寒天培地22の上に載置された吸水シート23に浸透させて培養する。培養後、培養容器12の下から光をあて、吸水シート23を透過する光による投影像に基づいて、検査対象である所定の細菌の検出を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細菌検査方法および細菌検査用具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、寒天培地は、微生物学や植物学の分野で、細菌や細胞を培養するために使用されている。寒天培地は、固形培地であり、通常、水に約1.5%の濃度の寒天を加えて固化させることにより作製される。
【0003】
一般的な細菌検査では、寒天平板培地を用い、試料0.1ミリリットルを培地の表面に塗抹して室温あるいはインキュベータなどで一定期間培養している(塗沫培養法)。しかし、検査対象の試料が1ミリリットル程度の量のときには、通常、寒天培地の表面には塗抹することができない。このため、塗抹する代わりに、検査対象の試料と、溶解後40℃ほどに温度を下げた寒天培地とをシャーレに入れて混ぜ合わせ、固化後、培養する方法(混釈培養法)が行われている(例えば、特許文献1または2参照)。
【0004】
試料中に細菌が存在する場合、これを混釈培養法などで培養すると、細菌が分裂増殖を繰り返して目視で確認できるコロニーを形成するため、このコロニーの有無により、細菌が試料中に存在していたかどうかを判定できる。なお、この判定の際、寒天培地を通過する光による投影像に基づいて、細菌を正確かつ迅速に検出することができる投影検出法が本発明者等により提案されている(例えば、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−187972号公報
【特許文献2】特開2008−131928号公報
【特許文献3】特開2003−85533号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1や特許文献2に記載のような混釈培養法を行う場合、溶解した寒天培地の熱により、試料中の細菌がダメージを受けることがあり、細菌を検出できないことがあるという課題があった。また、検出目的の細菌を培養するために、寒天培地を細菌の種類に応じた組成で作製しなければならず、様々な種類の細菌に対応させて寒天培地を作製するのは煩雑であるという課題もあった。
【0007】
本発明は、このような課題に着目してなされたもので、検査が容易で、細菌の検出精度が高い細菌検査方法および細菌検査用具を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明に係る細菌検査方法は、細菌を培養可能な液体培地に試料を加え、その試料を含む液体培地をゲル培地の上に載置された吸水シートに浸透させて培養した後、吸水シート付近の細菌を検査することを、特徴とする。
【0009】
本発明に係る細菌検査方法では、試料に検査の対象となる所定の細菌が存在するときには、その細菌を培養可能な液体の液体培地と試料との混合液を培養することにより、その細菌が分裂増殖を繰り返してコロニーを形成するため、このコロニーの有無により細菌が試料中に存在していたかどうかを判定することができる。このとき、液体の液体培地と試料との混合液が浸透した吸水シートに、ゲル培地から水分が供給されるため、長時間培養してもシートが乾燥するのを防ぐことができる。
【0010】
また、試料を、熱をもった溶解した寒天培地に混ぜる必要がないため、試料中の細菌に熱によるダメージを与えることなく検査を行うことができ、細菌の検出精度が高い。本発明に係る細菌検査方法で、より検査精度を高めるために、シートは滅菌済みであることが好ましい。
【0011】
ゲル培地は、載置されたシートに水分を補給可能であればいかなるものから成っていてもよい。ゲル培地は、液体培地でも固体培地でもよく、例えば、寒天のみの組成から成る寒天培地から成っていてもよい。本発明に係る細菌検査方法では、ゲル培地を検査の対象となる細菌の種類に応じた組成で作製する必要がないため、様々な種類の細菌に対応して寒天培地を作製する場合と比べて、容易に検査を行うことができる。
【0012】
本発明に係る細菌検査方法で、前記ゲル培地は培養容器に収容され、前記培養容器、前記ゲル培地、前記液体培地および前記吸水シートは透光性を有し、前記培養容器、前記ゲル培地、前記液体培地および前記吸水シートを透過する光による細菌の投影像に基づいて細菌を検査することが好ましい。この場合、シート中で細菌が増殖してコロニーを形成し、そのシートが投影像を映すスクリーンの役目をするため、コロニーを明瞭かつ確実に観察することができ、より高い精度で細菌を検出することができる。ゲル培地は、透光性であることが好ましい。この場合、ゲル培地のシートとは反対側から光をあてることにより、シートを透過する光による投影像を容易に得ることができる。
【0013】
本発明に係る細菌検査方法で、前記シートは、デンプン、カオリン、合成シリカ、ガラス、微結晶セルロース、イオン交換セルロースまたはケイ酸アルミニウムにより形成されたろ紙から成っていてもよい。この場合、吸水性が良く、透明度が高いシートを形成することができる。また、水分を含んだときに極端な酸性や塩基性を示さないシートを形成することができる。このようなシートを使用することにより、細菌にダメージを与えることなく、高い精度で細菌を検出することができる。
【0014】
本発明に係る細菌検査用具は、試料内の細菌を検査するための細菌検査用具であって、細菌を培養可能な液体培地を収容した液体容器と、ゲル培地を収容した培養容器と、前記培養容器の内部で前記ゲル培地の上に載置される吸水シートとを、有することを特徴とする。
【0015】
本発明に係る細菌検査用具は、本発明に係る細菌検査方法で好適に使用される。本発明に係る細菌検査用具は、液体容器の内部に試料を加えて液体培地と混合し、その混合液を培養容器の吸水シートに浸透させて培養する。試料に検査の対象となる所定の細菌が存在するときには、その細菌が分裂増殖を繰り返してコロニーを形成するため、このコロニーの有無により細菌が試料中に存在していたかどうかを判定することができる。
【0016】
本発明に係る細菌検査用具は、培養中、液体培地と試料との混合液が浸透した吸水シートに、下の液体または固体の培地から水分が供給されるため、長時間培養してもシートが乾燥するのを防ぐことができる。また、試料を、熱をもった溶解した寒天培地に混ぜる必要がないため、試料中の細菌に熱によるダメージを与えることなく検査を行うことができ、細菌の検出精度が高い。本発明に係る細菌検査用具では、より検査精度を高めるために、シートは滅菌済みであることが好ましい。
【0017】
培養容器内の培地は、載置されたシートに水分を補給可能であればいかなるものから成っていてもよく、例えば、寒天のみの組成から成る寒天培地から成っていてもよい。本発明に係る細菌検査用具では、培養容器内の培地を検査の対象となる細菌の種類に応じた組成で作製する必要がないため、様々な種類の細菌に対応して寒天培地を作製する場合と比べて、容易に検査を行うことができる。
【0018】
本発明に係る細菌検査用具で、前記培養容器、前記ゲル培地、前記液体培地および前記吸水シートは透光性を有することが好ましい。特に、前記シートは、デンプン、カオリン、合成シリカ、ガラス、微結晶セルロース、イオン交換セルロースまたはケイ酸アルミニウムにより形成されたろ紙から成ることが好ましい。この場合、吸水性が良く、透明度が高いシートを形成することができる。また、水分を含んだときに極端な酸性や塩基性を示さないシートを形成することができる。このようなシートを使用することにより、細菌にダメージを与えることなく、高い精度で細菌を検出することができる。また、培養後にシートを透過する光による投影像に基づいて、所定の細菌の検出を行うことができる。このとき、シート中で細菌が増殖してコロニーを形成し、そのシートが投影像を映すスクリーンの役目をするため、コロニーを明瞭かつ確実に観察することができ、より高い精度で細菌を検出することができる。培養容器内の培地は、透光性であることが好ましい。この場合、培地のシートとは反対側から光をあてることにより、シートを透過する光による投影像を容易に得ることができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、検査が容易で、細菌の検出精度が高い細菌検査方法および細菌検査用具を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の実施の形態の細菌検査用具を示す斜視図である。
【図2】本発明の実施の形態の細菌検査方法を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面に基づき本発明の実施の形態について説明する。
図1および図2は、本発明の実施の形態の細菌検査方法および細菌検査用具を示している。
図1に示すように、本発明の実施の形態の細菌検査用具は、試料1内に所定の細菌が存在するかどうかを調べるための細菌検査セットであって、液体容器11と培養容器12とを有している。
【0022】
図1に示すように、液体容器11は、蓋11aを有する試験管形状の容器から成り、あらかじめ内部に液体培地21が収容されている。液体培地21は、透光性で、検出しようとする所定の細菌を培養可能な培地から成っている。液体培地21は、例えば、食中毒を引き起こすサルモネラ菌を検出する場合には、サルモネラ菌を培養可能な培地から成る。液体容器11は、内部に試料1を加えて、試料1と液体培地21とを混合可能になっている。
【0023】
図1に示すように、培養容器12は、蓋12aを有する透明なシャーレから成り、内部に寒天培地22が収容され、その寒天培地22の上に吸水シート23が載置されている。寒天培地22は、透光性で、載置された吸水シート23に水分を補給可能であればいかなるものから成っていてもよく、例えば、1リットル当たり10gのペプトンを含む一般的な寒天培地から成る。吸水シート23は、滅菌済みのろ紙から成り、吸水性が良く、透明度が高い。また、吸水シート23は、試料1と液体培地21との混合液24を浸透させたとき透光性を有し、水分を含んだときに極端な酸性や塩基性を示さないものから成っている。吸水シート23は、例えば、デンプン、カオリン、合成シリカ、ガラス、微結晶セルロース、イオン交換セルロースまたはケイ酸アルミニウムにより形成されたろ紙から成る。
【0024】
本発明の実施の形態の細菌検査用具は、本発明の実施の形態の細菌検査方法で好適に使用される。本発明の実施の形態の細菌検査方法では、まず、図2(a)に示すように、液体容器11の内部に、ピペット31等を利用して試料1(サンプル)を加えて液体培地21と混合する。加える試料1の量は、例えば1ミリリットルである。次に、図2(b)に示すように、その混合液24を、ピペット31等を利用して寒天培地22の上に載置された吸水シート23に滴下して浸透させ、培養する。
【0025】
培養後、培養容器12の下、すなわち寒天培地22の吸水シート23とは反対側から光をあて、培養容器12、寒天培地22、液体培地21および吸水シート23を透過する光による細菌の投影像により細菌の検出を行う。試料1に検査の対象となる所定の細菌が存在するときには、その細菌が分裂増殖を繰り返して吸水シート23中にコロニーを形成するため、このコロニーの有無により細菌が試料中に存在していたかどうかを判定することができ、検査対象の所定の細菌を検出することができる。培養容器12の下から光をあてると、その光が透光性の寒天培地22および吸水シート23を透過し、吸水シート23に投影像が映し出される。このように、吸水シート23が投影像を映すスクリーンの役目をするため、吸水シート23中に形成されたコロニーを明瞭かつ確実に観察することができ、より高い精度で細菌を検出することができる。
【0026】
本発明の実施の形態の細菌検査方法および細菌検査用具によれば、培養中、液体培地21と試料1との混合液24が浸透した吸水シート23に、下の寒天培地22から水分が供給されるため、長時間培養しても吸水シート23が乾燥するのを防ぐことができる。また、試料1を、熱をもった溶解した寒天培地22に混ぜる必要がないため、試料1中の細菌に熱によるダメージを与えることなく検査を行うことができ、細菌の検出精度が高い。
【0027】
本発明の実施の形態の細菌検査方法および細菌検査用具では、培養容器12内の寒天培地22を検査の対象となる細菌の種類に応じた組成で作製する必要がないため、様々な種類の細菌に対応して寒天培地22を作製する場合と比べて、容易に検査を行うことができる。本発明の実施の形態の細菌検査方法および細菌検査用具によれば、サルモネラ菌だけでなく、カビやボツリヌス菌など、好気的条件下または嫌気的条件下で様々な細菌を高精度で検出することができる。
【符号の説明】
【0028】
1 試料
11 液体容器
12 培養容器
21 液体培地
22 寒天培地
23 吸水シート
24 混合液
31 ピペット


【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料内の細菌を検査する細菌検査方法であって、細菌を培養可能な液体培地に試料を加え、その試料を含む液体培地をゲル培地の上に載置された吸水シートに浸透させて培養した後、吸水シート付近の細菌を検査することを、特徴とする細菌検査方法。
【請求項2】
前記ゲル培地は培養容器に収容され、前記培養容器、前記ゲル培地、前記液体培地および前記吸水シートは透光性を有し、前記培養容器、前記ゲル培地、前記液体培地および前記吸水シートを透過する光による細菌の投影像に基づいて細菌を検査することを、特徴とする請求項1記載の細菌検査方法。
【請求項3】
試料内の細菌を検査するための細菌検査用具であって、
細菌を培養可能な液体培地を収容した液体容器と、
ゲル培地を収容した培養容器と、
前記培養容器の内部で前記ゲル培地の上に載置される吸水シートとを、
有することを特徴とする細菌検査用具。



【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−273572(P2010−273572A)
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−127100(P2009−127100)
【出願日】平成21年5月27日(2009.5.27)
【出願人】(501354912)マイクロバイオ株式会社 (13)
【Fターム(参考)】