説明

組み換え肺炎球菌ClpP蛋白質を含むワクチン

【課題】本発明は、肺炎球菌(Streptococcus pneumoniae)の組み換えClpP蛋白質を含むワクチンに関する。本発明では、前記ClpPが熱ショック後に細胞壁内へ位置移動したことを立証した。病原性D39を追加投与する前に肺炎球菌ClpPを用いたマウスの免疫化は、広く知られた肺炎球菌蛋白質ワクチンであるPspA及びPlyを使用する場合に得られる水準に匹敵すべき水準で全身性疾患に対しての保護性免疫を誘導した。従って、本発明の肺炎球菌ClpPはワクチンのための抗原として使用できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、肺炎球菌(Streptococcus pneumoniae)の組み換えClpP(Caseinolytic protease P)蛋白質を抗原として含むワクチンに関する。
【背景技術】
【0002】
肺炎球菌(Streptococcus pneumoniae)は、形質転換可能なグラム陽性細菌であって、ヒト及び動物で様々な感染症、例えば細菌性肺炎、中耳炎、菌血症及び髄膜炎を引き起こす[Willett, H. P. 1992. Streptococcus pneumoniae. In Zinsser Microbiology. Joklik, W.K., Willet, H.P., Amos, D.B. and Wilfert, C.M., (eds). Prentice-Hall International, London, pp. 432-442]。肺炎球菌による感染は、多剤耐性菌の登場で抗生剤による治療が難しい実情である。肺炎球菌感染症を予防するために現在市販されている23価多糖類ワクチン[Pneumovax23(Merck社)及びPnu−Imune23 (Wyeth-Lederle社)]は、莢膜多糖類(APS)を有効抗原としているが、嬰幼児では抗体生成率が低くて効果がなく、記憶反応(memory response)がないという欠点がある。
【0003】
このような23価ワクチンの欠点を解決するために開発された7価コンジュゲートワクチン[Prevnar(Wyeth-Lederle社)]は、7種のCPSを担体蛋白質にコンジュゲートして製造したものであるが、高価であり、95個以上の肺炎球菌の中でもただ7タイプの肺炎球菌のみに対して防御効果があるので、肺炎球菌感染症の予防ワクチンとしての使用が非常に制限的である。したがって、肺炎球菌感染症を予防するために、高抗原性の蛋白質を用いたワクチンを開発しようとする試みが行われている。肺炎球菌の毒性因子として、宿主細胞のコレステロールと結合して穿孔するニューモリシン(pneumolysin:Ply)トキソイドが知られており、弱毒化されたニューモリシン(PdB)をワクチンとして開発しようとする試みがあった。
【0004】
ところが、ニューモリシンは、生体内及び試験管内で毒性が非常に強く、PdB単独では効果がないため、他の毒性因子である肺炎球菌の表面蛋白質A(PspA)、コリン結合蛋白質(CbpA)、肺炎球菌表面付着因子A(PsaA)、LytAなどと共に投与する場合にのみ、肺炎球菌感染症に対する生存率が増加した(Ogunniyi, A. D. et al., 2000, Immunization of mice with combinations of pneumococcal virulence proteins elicits enhanced protection against challenge with Streptococcus pneumoniae. Infect. Immun. 68:3028-3033)。このように、既存の肺炎球菌感染症予防ワクチンの候補抗原蛋白質が、低い免疫原性を有し、或いは全ての血清型に対して防御効能を有しないため、免疫原性が高くて全ての肺炎球菌で保存的に存在する抗原蛋白質候補物質または弱毒化されたワクチンの開発が要求される。
【0005】
肺炎球菌は健康な個体の鼻咽頭に存在し、これは肺炎球菌感染症に対する主な貯蔵所である。肺炎球菌は生体内で様々な環境的ストレスを受ける。肺炎球菌が鼻咽頭から血流へ浸透するように、宿主における環境的な適所(niche)の変化は、遺伝子発現の変化のみならず、急激な形態的変化を誘発するおそれがある。例えば、鼻咽頭の肺炎球菌は、主に透明なコロニー表現型であり、少量の莢膜及び多量のコリン結合蛋白質A(CbpA)を発現させる傾向があるものと立証された。一方、血流中の肺炎球菌は、主に不透明なコロニー形態であり、多量の莢膜及び少量のCbpAを生成させる傾向がある(Kim, J. O. et al., 1998, Association of intrastrain phase variation in quantity of capsular polysaccharide and teichoic acid with the virulence of Streptococcus pneumoniae. J. Infect. Dis. 177:368-377)。
【0006】
さらに、肺炎球菌は、発病過程中に鼻粘膜(30〜34℃)(Lindemann, J. et. al., 2002, Nasal mucosal temperature during respiration. Clin. Otolaryngol. 27:135-139)で血液及び/または脳膜(37℃)に浸透した後、熱ストレスを受ける。このような温度変化は、熱ショック蛋白質(HSP)と呼ばれる高度の保存性蛋白質セットの合成が迅速且つ一時的に増加することに対する重要な原因として作用する可能性がある(Neidhardt, F.C. et. al., , and R. A. VanBogelen. 1987. Heat shock response, p. 1334-11345. In F. C. Neidhardt, J. L. Ingraham, K.B. Low, B. Magasanik, M. Schaechter, and H. E. Umbarger (ed.), E. coli and Salmonella typhimurium: Cellular and molecular biology. ASM Press, Washington, D.C.)。上昇した温度、またはエタノール、酸化ストレスまたは重金属の露出によるHSPの誘導は、このような有害効果から細菌を保護する機能を行うことにより、細菌の生存率を増加させる。したがって、熱ショック反応を完全理解すると、肺炎球菌が直面する敵対的環境に対する肺炎球菌の適応に関する有用な情報を得ることができる。
【0007】
HSPは、分子量によってHsp100、Hsp70、Hsp60及び小型Hspファミリーに分類され、原核生物及び真核生物の何処にも存在する。HSPの一種であるhsp100/Clp(カゼイン溶解性プロテアーゼ:caseinolytic protease)ファミリーは、真核生物では104kDa蛋白質として存在するが、原核生物では80〜95kDa蛋白質として存在する。これは、シャペロン機能を行い、且つ蛋白質分解に関与して損傷及び変性した蛋白質を除去する。Clpによる蛋白質分解にはセリン型ペプチダーゼClpPサブユニット及び調節性ATPaseサブユニットが必要である(Schirmer, E. C. et. al., 1996, HSP100/Clp proteins: a common mechanism explains diverse functions. Trends Biochem. Sci. 21:289-296)。
【0008】
調節性Clpサブユニット蛋白質は、一般に、2種のクラス、すなわちclpA、B、C及びDを含み且つ2つのATP結合領域を含有するクラスI、及びclpM、N、X及びYを含み且つ只1つのATP結合領域のみを含有するクラスIIに指定できる。Clpは中央スペーサセグメントの大きさ、全体配列の整列におけるギャップの必要性、及びよく保存された領域とN末端及びC末端セグメントで配列類似性によって分類され、可変リーダ領域は各サブファミリーでそれぞれ非常に異なる配列を有する(前記Schirmer, E. C. et al., 1996)。
【0009】
大腸菌のようなグラム陰性細菌においてClpファミリーの作用メカニズムの理解について相当な進歩が行われたが、グラム陽性細菌のClpについては知られている事項が殆どない。clpP遺伝子及びclpCオペロンは、直接反復された作動遺伝子配列(A/GGT CAA ANA NA/GG TCA AA)を認識するCtsRによって陰性的に調節されるが、clpXはこのような配列を持っておらず、これらの特異的作用メカニズムは詳細に決定されたことがなかった(Derre, I. Et. al., 2000, The CtsR regulator of stress response is active as a dimer and specifically degraded in vivo at 37C. Mol. Microbiol. 38:335-347)。
【0010】
温度及び栄養分利用性を含む様々な環境的シグナルが毒性因子の発現を調節することができるので、以前の研究において、本発明者は、細胞を様々なストレスに露出させた後、肺炎球菌で熱ショック反応の蛋白質プロフィールを調査した。熱ショックによって誘導された主な蛋白質は大きさが62、72及び84kDaであり、これらは後でそれぞれGroEL、DnaK及びClpLと確認された。ところが、[35S]−メチオニンで蛋白質をパルス標識した結果、大腸菌(E. coli)及びバシラス・サブティラス(Bacillus subtilis)でストレス反応を誘導するものと知られている特定の条件が、高分子量HSP、例えばGroEL及びDnaK相同物を誘導することはできないものと確認された。
【0011】
ところが、鼻粘膜から肺に移動した後、肺炎球菌が接する温度変化と類似に、試験管内で30℃から37℃に温度を変化させると、DnaK及びGroELが誘導された(Choi, I. H. et al., 1999, Limited stress response in Streptococcus pneumoniae. Microbiol. Immunol. 43: 807-812)。いろいろのグラム陽性生物体のClpLのヌクレオチド配列は公知になっているが(L. lactis [X62333]; S. aureus [AP003365, AP003137]; S. pyogenes [AE006538, AE004092]; Lactobacillus rhamnosus [AF323526])、ClpLに対する機能的な研究は限定された。肺炎球菌のclpP突然変異体は、最近、高温、H及びピューロマイシン(puromycin)に敏感であると明らかになっており、マウスで毒性が著しく弱化された(Robertson, G. T. et al., 2002, Global transcriptional analysis of clpP mutations of type 2 Streptococcus pneumoniae and their effects on physiology and virulence. J. Bacteriol. 184:3508-3520)。clpC、clpE及びclpXのような他の熱ショック遺伝子の特異的役割は十分明らかになっていない (Charpentier, E. et. al., 2000, Regulation of growth inhibition at high temperature, autolysis, transformation and adherence in Streptococcus pneumoniae by clpC. Mol Microbiol 37:717-726; Chastanet, A. et al., 2001, Regulation of Streptococcus pneumoniae clp genes and their role in competence development and stress survival. J. Bacteriol. 183:7295-7307)。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
したがって、本発明者は、全ての肺炎球菌で普遍的に存在する抗原蛋白質及びこれを用いたワクチンを開発するために、まずClpL及びClpPの合成に対する熱ショックの影響を研究し、重要な肺炎球菌毒性遺伝子の試験管内の発現に対するclpL及びclpP突然変異の影響を評価した。また、肺炎球菌の毒性に対するclpL及びclpP突然変異の影響をマウスの腹腔内試験感染モデルで評価した。ここで、本発明者は、熱ショック過程が野生型肺炎球菌でニューモリシン(Ply)の発現を誘導し、他の毒性因子の発現を調節することを立証した。また、本発明者は、clpPの突然変異が上昇した温度でmRNAの発現を増加させるが、plyの活性を増加させなかったことを究明した。次に、本発明者は、ClpPが毒性を弱化させる根本的なメカニズムを調査し、ClpPによる免疫化が毒性肺炎球菌による試験感染(challenge)からマウスを保護することができるか否かを評価することにより、本発明を完成した。
【0013】
本発明の目的は、肺炎球菌由来の組み換えClpP蛋白質を抗原として含むワクチンを提供することにある。
【0014】
また、本発明の他の目的は、ワクチンとして使用するための組み換え肺炎球菌ClpP蛋白質を製造する方法を提供することにある。
【0015】
また、本発明のさらに他の目的は、肺炎球菌ClpP蛋白質を含むワクチンをヒトまたは動物に免疫学的有効量投与してヒトまたは動物を肺炎球菌感染症に対して免疫化させる方法を提供することにある。
【0016】
また、本発明のさらに他の目的は、弱毒化された生ワクチンとして肺炎球菌突然変異体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記目的を達成するために、本発明者は、一具体例において、ClpL及びClpPの合成に対する熱ショックの影響を研究し、重要な肺炎球菌毒性遺伝子の試験管内発現に対するclpL及びclpP突然変異の影響を調査した。他の一具体例において、肺炎球菌の毒性に対するclpL及びclpP突然変異の影響をマウスの腹腔内試験感染モデルで検討し、野生型肺炎球菌で熱ショックがニューモリシン(Ply)の発現を誘導しかつ他の毒性因子の発現を調節することを確認した。また、他の一具体例において、本発明者は、clpP突然変異が、上昇した温度でmRNA発現を増加させるが、plyの活性を増加させないことを明らかにした。また、他の一具体例において、本発明者は、ClpPが毒性を弱化させる根本的なメカニズムを調査し、ClpPによる免疫化が毒性肺炎球菌による試験感染(challenge)からマウスを保護することができることを確認した。
【0018】
本発明者の研究によれば、ClpP突然変異体では、ニューモリシンmRNAの発現が増加したが、熱ショック後にニューモリシンの水準及び溶血性は増加しなかった。ClpP突然変異体をマウスに試験感染させると、マウスの生存時間及び生存率が野生型に比べて有意的に増加し、ClpP突然変異体の毒性が弱化されたが、これはClpP突然変異体が弱毒化ワクチンとして潜在的に使用できることを提示する。また、肺炎球菌の生化学的分画結果は、ClpPが熱ショックによって細胞質から細胞壁部位へ移動することを提示し、これは、肺炎球菌が宿主に感染を引き起こす時のストレスにより宿主細胞にClpPを露出させることができることを示唆する。また、肺炎球菌に対するClpPの免疫保護能に対する実験は、ClpP蛋白質10μgをBalb/cマウスに2週間隔で3回腹腔内に注射した後、毒性のある1×10CFUの肺炎球菌D39菌株(タイプ2)を試験感染させ、生存時間を測定して行った。その結果、弱毒化されたニューモリシン(PdB)を投与した実験群と対等な生存時間を示した。これは、ClpPが宿主細胞で経験するストレスによって菌体の外部に露出されて抗原として作用するうえ、弱毒化されたニューモリシンと対等な肺炎球菌の感染に対する防御効果があることを示す。したがって、本発明によれば、ClpP蛋白質は、肺炎球菌感染症に対する効果的なワクチンとして使用できる。
【0019】
本発明の肺炎球菌ClpP蛋白質は、熱ショック蛋白質であって、21kDaの分子量を有するセリンプロテアーゼである(Genebank AE008443)。本発明において、組み換えClpP蛋白質は、当該分野で通常の遺伝工学的方法によって大量発現させた後、分離して製造することができる。これを簡略に説明すると、ClpP蛋白質は、ClpP遺伝子のORF(open reading frame)(Genebank AE008443で塩基配列5416番目〜6006番目)を発現ベクター、例えばpET30(a)(Novagen)内にクローニングさせ、プラスミドpET30(a)−ClpP(図1)を作り、これを宿主細胞、例えば動物細胞、植物細胞または大腸菌に挿入して発現させた後、精製させて製造することができる。発現ベクター、宿主、培養条件、遺伝子挿入方法などは、当業者の通常の知識範囲内で適切に選択できる。本発明の一具体例は、大腸菌を用いた組み換えClpP蛋白質の製造を記述する。ClpP蛋白質は、肺炎球菌毒性因子であるニューモリシン、PsaA、CbpA、PspAなどのmRNA及び蛋白質水準の発現調節に関与する。
【0020】
本発明に係るワクチンは、非経口、皮内、経皮(徐放性重合体の使用によって)、筋肉内、腹腔内、静脈内、皮下、経口及び鼻腔内投与経路を含み、様々な経路で投与できる。ワクチンは免疫学的有効量投与される。「免疫学的有効量」とは、免疫反応の誘導に適した用量である。用量は、ワクチン接種のための動物またはヒト被検者の年齢、体重及び身体状態などの要因及び抗体を合成する動物の免疫系の能力及び目的の保護程度に依存する。効果的な用量は、用量反応曲線を設定する日常的な試みを介して、当業者が容易に設定できる。免疫化は、ワクチンの単一用量によって提供できるか、或いは数回追加抗原投与量の投与を要求することができる。ClpPの用量は、典型的に約1μg〜約50μgの範囲であり、或いは適切な場合にそれより高いか低い。
【0021】
本発明に係るワクチンは、ClpP蛋白質を通常の方式で免疫学的に受け入れられる希釈剤または担体に添加して製造できる。希釈剤または担体は、水、塩水、デキストロスまたはグリセロールを挙げることができるが、これに制限されるものではない。また、pH安定化剤、等張化剤、湿潤剤または乳化剤が添加できる。また、ワクチンは、水酸化アルミニウム、明礬、QS−21、モノホスホリル脂質A及び3−O−脱アシル化モノホスホリル脂質A(3D−MPL)など、薬学的に受け入れられる他のアジュバントをさらに含むことができる。ワクチンは、典型的に水溶液または懸濁液の形で注射できるように製造されるか、或いは使用前に溶解または懸濁される固体の形に剤形化できる。その他、当該分野における通常の方法で鼻腔内製剤、経口用製剤などに剤形化できる。
【0022】
鼻腔内製剤は、鼻粘膜に対する刺激を引き起こさない、或いは繊毛機能を激しく妨害しない賦形剤を含むこともでき、水や塩水などの希釈剤を含むことができる。鼻腔内製剤は、クロロブタノール及び塩化ベンザルコニウムなどの保存剤を含有することもできる。鼻粘膜による蛋白質抗原の吸収を向上させるために、界面活性剤を含有することもできる。経口用液状製剤は、例えば水性或いは油性懸濁液、溶液、エーマルジョン、シロップまたはエリキシルの形であり、或いは使用前に水またはその他適切な賦形剤との再構成のための錠剤タイプまたは製品であって、乾燥状態で存在することもできる。液剤は、懸濁剤、乳化剤、非水性賦形剤(食用油を含むこともできる)または保存剤など通常の添加剤を含有することもできる。ワクチンを製造するために、精製されたClpP蛋白質を凍結乾燥及び安定化することができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明に係る肺炎球菌の組み換えClpP蛋白質を含むワクチンは、免疫原性が高く、全ての肺炎球菌で保存的に存在する抗原蛋白質なので、免疫原性が低い、或いは全ての血清型に対して防御効能を有しない既存の肺炎球菌感染症予防ワクチンの欠点を示さずに、効果的に肺炎球菌感染症に対する免疫保護効果を示すことができる。
【実施例】
【0024】
以下、実施例によって本発明をより詳細に説明する。但し、下記の実施例は本発明を例示するためのもので、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。また、本発明に記載の参考文献は、本発明に参考として統合される。
【0025】
実施例1:肺炎球菌の毒性遺伝子の発現に及ぼす熱ショックとClpL及びClpP突然変異の効果
実施例1では、ClpL及びClpPの合成に対する熱ショックの影響を研究し、重要な肺炎球菌毒性遺伝子の試験管内発現に対するclpL及びclpP突然変異の影響を評価した。また、肺炎球菌の毒性に対するclpL及びclpP突然変異の影響をマウス腹腔内試験感染モデルで評価した。
【0026】
1.材料及び方法
i)細菌菌株、成長条件及び形質転換
本研究に用いられた細菌菌株は表1の通りである。Rx−1の誘導体(莢膜のない非病原性肺炎球菌)である肺炎球菌CP1200(前記Choi, I. H. et al., 1999)を本研究に使用し、これを37℃でカシトン−トリプトン(Casitone-Tryptone::CAT)基本培地で指数成長期の中間段階まで培養した:CAT基本培地1Lは、10gの酵素カゼイン加水分解物(enzymatic casein hydrolysate)(Difco Laboratories, USA)、5gのトリプトファン (Difco Laboratories)、1gの酵母抽出物(yeast extract)(Difco Laboratories)、5gのNaCl、5mgのコリン(choline)(Sigma, USA)、0.2%のグルコース(glucose)(Sigma, USA)、16.6mMのリン酸2カリウム(dipotassium phosphate)(Sigma, USA)を含有した。CATブロスにリットル当り147mgのCaCl及び2gの牛胎児血清(分画V;Sigma)を添加して完全な形質転換培地を製造した。コンピテンス(Competence)をコンピテンス特異的ペプチドの添加によって調節し、従来の文献(Havarstein, L. S. et al., 1995, An unmodified heptadecapeptide pheromone induces competence for genetic transformation in Streptococcus pneumoniae. Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 92:11140-11144)に記載されているように、培養培地で細胞をDNAに露出させた後、収得したノボビオシン抵抗性形質転換体として定量化した。
【0027】
莢膜菌株D39(タイプ2)を脳心臓注入ブロス(Difco Laboratories, USA)またはTH(Todd Hewitt)ブロス(Difco Laboratories, USA)で成長させ、従来の文献(Bricker, A. L. et al., Transformation of a type 4 encapsulated strain of Streptococcus pneumoniae. FEMS Microbiol. Lett. 172:131-135)に記載されているように形質転換させた。肺炎球菌形質転換体を選別するために、エリスロマイシンまたはノボビオシンを成長培地にそれぞれ2.5μg/mlまたは10μg/mlの濃度で添加した。大腸菌菌株(表1のBL21(DE3)、DH5a、XL1−Blue)をLB(Luria-Bertani)ブロスまたはLB寒天で成長させた。プラスミドを文献(Hanahan, D. et al., 1983, Studies on transformation of Escherichia coli with plasmids. J. Mol. Biol. 166:557-580)に記載されているように、形質転換によって大腸菌内に導入させた。大腸菌形質転換体を選別するために、アンピシリン(100μg/ml)を成長培地に添加した。本研究で新しく生成された形質転換体と共にプラスミドベクターを表1に記載した。
【0028】
【表1】

【0029】
ii)抗血清の製造
肺炎球菌Dnak及びGroELに対するHSP抗体の生成は、従来の文献(前記Choi et al., 1999)に記載されている。ClpL及びClpPに対する抗体を製造するために、肺炎球菌CP1200の指数成長期の培養物を42℃で30分間培養させ、細胞を超音波処理させ、蛋白質をドデシル硫酸ナトリウム10%ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS−PAGE)によって分離し、クマシーブリリアントブルー(Commasie Brilliant Blue)で明るく染色させた。84kDa及び21kDaの蛋白質バンドを切り出し、電気溶離させた。食塩水1ml当り蛋白質100μgをフロイント不完全アジュバント1mlと混合した。その後、この混合物をウサギに筋肉内及び皮下注射した。2つの追加抗原投与量を2週間隔で投与し、抗血清を6週後に採取した。CbpA、肺炎球菌表面抗原A(PsaA)及びPlyに対する血清の製造は、従来の文献(前記Ogunniyi, A. D. et al., 2000)に記載の方法と本質的に同一であった。
【0030】
iii)蛋白質の標識及びゲル電気泳動
蛋白質標識実験のために、細胞をCAT培地でA550(550nmにおける吸光度)=0.2となるまで成長させた後、2mlの分取液に分けた。その後、細胞を収集し、予め加温した新しい低含量メチオニン標識培地に再懸濁させ、30℃で10分間平衡化させた。10μCiの[35S]-メチオニン(1000Ci/mmol, Amersham)を添加し、培養物の温度を熱ショックのために42℃にした。細胞を集め、20μlの溶解緩衝液を(5mM Tris[pH8.0]、30mMのエチレンジアミンテトラ酢酸[EDTA]、0.1%のトリトンX−100、0.025%[W/v]のフェニルメタンスルホニルフルオリド[PMSF]、1mMのジチオスレイトール)に再懸濁させた後、従来の文献(前記Choi et al., 1999)に記載されているように、超音波(氷上で)によって完全溶解させた。SDS−PAGE(10または15%のポリアクリルアミドゲル)を文献(Laemmli et al., 1970, Cleavage of structural proteins during the assembly of the head of bacteriophage T4. Nature 227:680-685)に記載されているように行い、蛋白質をクマシーブリリアントブルー染色によって可視化した。ポリアクリルアミドゲルを放射線敏感性映像化プレートに数日間露出させて映像を得た。放射線写真映像データを映像化分析システム(Fujix Bio-imaging Analyzer BAS2500, Fuji Photo Film Co.)を用いて定量化した。
【0031】
iv)免疫ブロット
10%のSDS−PAGEによって分離された蛋白質をポリビニルリデンジフルオリド(PVDF)膜上にエレクトロブロットした後、1次抗体として肺炎球菌の熱ショック蛋白質に対して生成されたウサギ抗血清の1:100の希釈液、または肺炎球菌の毒性蛋白質(CbpA、PsaA及びPly)に対して生成されたマウス抗血清の1:5,000の希釈液と反応させた。2次抗体は、ホースラディシュ・ペルオキシダーゼ(Sigma)またはアルカリ性ホスファターゼ(Bio-Rad)にコンジュゲートされたヤギ抗−ウサギまたはヤギ抗−マウスIgGの1:2,000の希釈液であった。
【0032】
v)逆転写(RT)−PCR
従来の文献(Ogunniyi, A. D. et al., 2002, The genes encoding virulence-associated proteins and the capsule of Streptococcus pneumoniae are upregulated and differentially expressed in vivo. Microbiol. 148:2045-2053)に記載されているように、高温酸フェノール法を用いて全体RNAを抽出した。ply、psaA、cbpA及びcps2Aに対するmRNAの水準を、Promega Access RT-PCR System(Promega Biotech, Cat.# A1250)を用いる1段階の実時間逆転写法(RT−PCR)によって定量化した。様々なRT−PCR検定に用いられる特異的プライマーは、文献(前記Ogunniyi et al., 2002)に記載されており、反応当り50nMの最終濃度で使用された。内部対照として、16S rRNAに対して特異的なプライマー(正方向、5'-GGT GAG TAA CGC GTA GGT AA-3': SEQ ID NO. 1;逆方向、5'-ACG ATC CGA AAA CCT TCT TC: SEQ ID NO. 2, Bioneer Co.)を使用した。別個のRT−PCR反応(構成プライマーのみが異なる)を、Sybr®Green(Molecular Probes)が最終濃度1:50,000で添加されたマスター混合物から設定した(氷上で)。混合物を氷上で各上流及び下流プライマーを含有するチューブに分取し、徐々に攪拌して完全混合させた。
【0033】
各混合物を最終的に0.1mlの反応チューブ内に分取し、Rotor−Gene 2000 Real−Time Cycler(Corbett Research, Australia)に入れた。RT−PCRサイクリング条件を、48℃で39分間1サイクル(第1本のcDNA合成のために)、94℃で2分間1サイクル(AMV逆転写酵素不活性化及びRNA/cDNA/プライマー変性のために)後に変性(94℃で30秒)、プライマーアニーリング(60℃で30秒)、及び延長(72℃で39秒)からなるPCR増幅40サイクルにした。増幅データを延長段階で得て比較臨界閾値(ΔΔC)を用いるCorbett Research Software Version4.4で分析した。抽出物間に、標的転写体の水準を内部16S rRNA対照に対して得た転写体の水準を参照して正規化した。全ての実験は4重に行った。
【0034】
vi)clpL及びclpP欠失突然変異体の製作
肺炎球菌のclpLの欠失−挿入突然変異(ΔclpL::ermB)を作るために、860−bp ermBカセット(フランスのトルーズCNRSのClaverys博士から入手、Vasseghi, H., and J. P. Claverys. 1983. Amplification of a chimeric plasmid carrying an erythromycin-resistance determinant introduced into the genome of Streptococcus pneumoniae. Gene 21:285-292)をエリスロマイシン抵抗性大腸菌染色体DNAからのprs3(5'-CCG GGC CCA AAA TTT GTT TGA T-3' : SEQ ID No. 3)及びprs4(5'-AGT CGG CAG CGA CTC ATA GAA T-3': SEQ ID No. 4)を用いて増幅させ、clpLを分解(disruption)させることに使用した。clpL及びermBの5′末端の一部を含有する410bp断片(clpL-up)をCP1200 DNAからのhlp3(5'-CGG TAC CAT GAA CAA TAA TTT TAA C-3': SEQ ID No. 5)及びhlp1 (5'-ATC AAA CAA ATT TTG GGC CCG GTC AGA TGT TTC TTG AAT TTC C-3': SEQ ID No. 6)を用いて増幅させた。下流clpL配列及びermBの3′末端の一部を含有する300bp断片(clpL-down)をCP1200 DNAからのhlp2(5'-ATT CTA TGA GTC GCT GCC GAC TGT TCT AGA TGA TGG TCG TTT G-3': SEQ ID No. 7) 及びhlp4(5'-GGC CGA GCT CTT AGA CTT TCT CAC GAA TAA C-3': SEQ ID No. 8)を用いて増幅させた。3つのPCR生成物を、hlp3及びhlp4を用いるPCRに対する混合テンプレートとして用い、ermB遺伝子によって置換されたclpLの1,301bp欠失部分(Genebank AE008411塩基配列6374番目〜7674番目)を有する1.6kb断片を生産した。
【0035】
その後、3部分の1.6kb断片を肺炎球菌CP1200またはD39菌株に形質転換によって導入し、組み換え断片が相同組み換えによって染色体内に挿入された受容者細菌をエリスロマイシン耐性によって選別した。PCR及び免疫ブロット分析(図示せず)によって正しい欠失部分に対して形質転換体をスクリーニングした。CP1200及びD39のclpL突然変異体であるHYK1及びHYK304それぞれは、clpL内に正しい欠失部分を含有し、追加研究に使用した。clpP up(234−bp)の場合、hpp3(5'-CGA ATT CAT GAT TCC TGT AGT TAT-3': SEQ ID No. 9)及びhpp11(5'-ATT CTA TGA GTC GCT GCC GAC TCA GAA CCA CCT GGT GTA TTG A-3': SEQ ID No. 10)プライマーを使用し、clpP−down(319−bp)の場合、hpp10(5'-ATC AAA CAA ATT TTG GGC CCG GAT CGC ATC AAG TGG AGC AAA A-3': SEQ ID No. 11)及びhpp6(5'- CGA GCT CTT AGT TCA ATG AAT TGT TG-3': SEQ ID No. 12)プライマーを使用したことを除いては、同一の方法を用いてCP1200またはD39で95bpの欠失部分(Genebank AE008443で塩基配列5621番目〜5715番目)を有するclpP突然変異体HYK2及びHYK302を作った。
【0036】
vii)大腸菌におけるClpLの過発現
大腸菌でHis−タグClpLを過発現させるために、clpL ORFをCP1200DNAのhlp3及びhlp4を用いて増幅させた。断片をKphI及びSacIで分解させ、pET30(a)(Novagen)KpnI及びSacIの部位にクローニングさせてプラスミドpKHY004(図2)を生成させた。His−タグ蛋白質を大腸菌内で発現させ、DEAE-Sepharose fast flowTMクロマトグラフィ(Amersham Pharmacia)によって0.1〜0.4MのNaCl勾配で溶離させた。ClpLを含有する分画をプーリングし、製造者(Novagen)の指示をやや変形させた方法によってニッケル−ニトリロ酢酸カラム上で精製した。結合したHis−タグ蛋白質を40mMのイミダゾール緩衝液で洗浄し、0.4Mのイミダゾール緩衝液(pH7.9)で溶離させ、20mMのTris−HCl(pH7.8)、5mMのMgClに対して透析させた。蛋白質の純度はSDS−PAGEで判定して>95%であり、前記蛋白質をクマシーブリリアントブルーR250で染色した(データは表示せず)。
【0037】
viii)シャペロン活性の決定
従来の文献(Kudlicki, W. et al., 1997, Renaturation of rhodanese by translational elongation factor (EF) Tu. Protein refolding by EF-Tu flexing. J. Biol. Chem. 272:32206-32210)に記載の方法を次のように変形させた方法によってClpLのシャペロン活性を決定した。Rhodanese(Sigma, USA)(9μM)を1mMのβ−メルカプトエタノール及び8Mのウレアを含有する200mMのリン酸カリウム緩衝液(pH7.6)で1時間25℃で変性させた。8Mのウレア中の変性された酵素2.5μlを希釈させ、50mMのTris−HCl(pH7.8)、200mMのβ−メルカプトエタノール、5mMのチオ硫酸ナトリウム、10mMのMgCl、10mMのKClを含有する最終容積250μlの溶液にして自発的なClpL補助リフォールディングを開始した。リフォールディング反応において、Rhodaneseの最終濃度は90nMであった。リフォールディング反応は25℃で30分間行った。Rhodaneseの天然形態へのリフォールディングによってClpLのシャペロン活性を測定した。Rhodaneseの酵素活性は、文献(Sorbo, B. H. et al., 1953, Crystalline rhodanese. I. Purification and physicochemical examination. Acta Chem. Scand. 7:1129-1136)に記載の方式で決定した。
【0038】
ix)毒性の研究
毒性が非常に強い莢膜タイプ2菌株(D39)及びその同種遺伝子型clpP及びclpL突然変異体(それぞれHYK302及びHYK304)で腹腔内(i.p.)試験感染を行い、肺炎球菌の毒性に及ぼすclpLまたはclpPの突然変異の影響を評価した。細菌を、10%[vol/vol]の馬血清を加えた脳心臓注入寒天(Difco Laboratories, USA)またはTH(Todd Hewitt)寒天(Difco Laboratories, USA)(必要に応じてエリスロマイシン補充)上で一晩中37℃で培養した後、血清ブロス(10%[vol/vol]の馬血清を加えた脳心臓注入ブロス(Difco Laboratories, USA)またはTH (Todd Hewitt)ブロス(Difco Laboratories, USA))で3時間37℃で成長させて約10CFU/mlの細菌培養物を収得した(前記Ogunniyi, A. D. et al., 2000)。次に、各細菌培養物を血清ブロスで希釈させて約10CFU/mlとし、10匹のBALB/cマウス群を体積0.1mlのD39、HYK302またはHYK304で腹腔内感染させた。試験感染したマウスの生存を、最初5日間は1日4回、次の5日間は1日2回、試験感染後の21日目までは毎日モニタリングした。
【0039】
x)ニューモリシン検定
従来の文献(前記Hanahan, D., 1983)に記載の方法をやや変形させた方法によって溶血活性を決定した。THYブロスで指数成長期の初期−中期段階(A600=0.05〜0.1)まで成長させた肺炎球菌(D39、HYK302、HYK304)を、4℃で10分間3900×gの遠心分離によって収集し、リン酸塩緩衝食塩水に再懸濁させた。デオキシコール酸ナトリウムを最終濃度0.1%で添加した後、37℃で10分間培養した。サンプルを遠心分離した後、上澄液を回収し、連続的に希釈させた。96ウェルマイクロタイタープレートに1.5%の洗浄されたヒト赤血球の等量と共に培養して溶血活性を決定した。溶血力価は540nmで赤血球50%が溶解される推定希釈度の逆数で決定した。
【0040】
xi)統計処理
対応標本または独立標本スチューデントt検定(paired or unpaired Student's t test)を用いて統計的分析を行った。提示されたデータは2つ〜4つの独立実験に対する平均±標準偏差である。群間の平均生存時間の差はマン・ホイットニーのU検定(両側)(2-tailed)によって分析し、群間の全体的な生存率の差はフィッシャーの正確検定 (Fisher Exact test)によって分析した。
【0041】
2.結果
i)ClpLの特性究明
従来、84kDa HSPはN−末端アミノ酸配列化によってClpLと確認された(前記Choi et al., 1999)。Clpファミリーの一員は、2つの高度に保存されたATP−結合領域(ATP−1及びATP-2)を含有し、前記各領域はアデニンヌクレオチド結合に対するコンセンサス配列を含有する(Gottesman, S. et al., 1990, Conservation of the regulatory subunit for the Clp ATP-dependent protease in prokaryotes and eukaryotes. Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 87:3513-3517)。推定肺炎球菌ClpLが実際Clpファミリーの一員であることを確認するために、N−末端アミノ酸配列(5'-GAT GAA YAA YAA YTT YAA YAA YTT YAA-3': SEQ ID NO. 13)からのオリゴーヌクレオチドとClpファミリーの最もよく保存されたアミノ酸配列(PTGVGKT)であるClpの一員に対する第2ATP結合部位(5'-GTY TTN CCN CAN CCN GYN GG-3'、ここでY=TまたはC, N=A, C, Gまたは T: SEQ ID NO. 14)をCP1200染色体DNAのPCR増幅に使用した。
【0042】
PCRの結果、ラクトコッカス・ラクチス(L. lactis)ClpLが大きさから予想される1.37kb DNA断片を得た。これをpGEM−T(promega)にクローニングしてプラスミドpG8413を生成させた。クローニングされた断片を配列分析した結果、ラクトコッカス・ラクチス(L. lactis)clpL及び牛clp遺伝子に対する相同性を示した(データは表示せず)。次に、BLAST分析を用いてTIGR肺炎球菌タイプ4ゲノムで完全なclpL遺伝子を確認した。また、肺炎球菌R6において、clpL相同物はタイプ4clpL相同物と98%の同一性を示し、CP1200clpLはR6clpLと高度の配列相同性を示した(データは表示せず)。ゲノムの前記領域の構成は図3に示されている。
【0043】
clpLの配列を詳細に分析した結果、分子量が77,699ダルトンであり、pI(等電点)が4.99である701個のアミノ酸を有する推定ポリペプチドをコード化する2103bpのORFであることが分かった。ヌクレオチド配列を分析した結果、肺炎球菌clpLは、ATGコドンの240bp上流にシグマAタイププロモータ (TTGACC-17-bp-TATATT)を有することが分かった。clpLの上流にはCtsRリプレッサー結合配列GTC AAA NAN RGT CAA A(R=AまたはG)(SEQ ID NO.15)があり、これは幾つかの有機体でclp遺伝子に隣接しているものと確認された。したがって、clpLはCtsRによって調節できる。clpLから619bp上流の遺伝子は推定ウンデカプレニル−p−UDP−MurNAC−ペンタペプチドトランスペラーゼをコードして同一の配向で存在する。LuxSをコードするclpLの下流の遺伝子は反対配向で存在し(図3)、これはclpLがモノシストロン転写ユニットとして構成されることを示唆する。
【0044】
BLAST分析結果、肺炎球菌ClpLは、アミノ酸121〜128(GDAGVGKT)及び391〜398(GSTGVGKT)における2つの保存されたATP結合領域(pループ)でClpファミリーの全ての構成員に対して高度の相同性を有することが分かった。親水性N−末端領域において位置11から18までの8つのアミノ酸(MDDLFNQL)は、牛のClp類似蛋白質及びラクトコッカス・ラクチス(L. lactis)ClpLにおいて絶対的に保存された。肺炎球菌ClpL ATPaseは牛のClp類似蛋白質(76%の同一性及び88%の類似性)及びラクトコッカス・ラクチス(L. lactis)ClpL(59%の同一性及び76%の類似性)と最も強い相同性を示す。また、これは他の種と高い相同性を示す(データは表示せず)。
【0045】
ii)熱ショック後のClpLの一時的な誘導及び高い安定性
それぞれ分子量84kDa、73kDa及び65kDaの主なHSPであるClpL、DnaK及びGroELは、熱ショック後に相応する肺炎球菌蛋白質のN−末端アミノ酸配列化によって確認された。HSP発現の協同的または独立的な調節に対しては決定されたことがなかったため、本発明者は、[35S]−メチオニンでパルス標識化してHSP合成の動力学を調査した。熱ショック蛋白質の誘導動力学を決定するために、30℃の指数成長期のCP1200細胞(A550=0.2)に温度を42℃に変化させて熱ショックを加えた後、[35S]−メチオニンで10分間パルス標識した。培養物2mlを取って細胞を溶解緩衝液中で超音波によって溶解させた後、細胞溶解物をSDS−PAGEで分析し、蛋白質バンドを自動放射線写真法によって可視化させた。その結果、HSPの誘導は、温度上昇変化10分後に最高に達した後、基本水準に急激に減少した(図4a)。細胞を42℃で10分間培養した後、ClpL、DnaK及びGroELの合成は、対照に比べてそれぞれ11.3±0.8、5.0±0.3及び2.7±0.2倍に増加した。GroELバンドは、近い蛋白質バンドと非常に類似であったが、自動放射線写真を高倍率で拡大した結果、GroELが誘導されたことが明確であった(図4b)。
【0046】
また、熱ショック蛋白質の安定性を決定するために、30℃の指数成長期中盤のCP1200細胞(A550=0.2)に42℃で10分間熱ショックを加えた後、 [35S]−メチオニンでパルス標識化した後、細胞培養物を30℃に復帰させ、その後表示された時間中に過量の非放射性メチオニンを追跡した。培養物2mlを収集し、細胞を超音波によって溶解させた後、細胞溶解物をSDS−PAGEによって分析し、蛋白質バンドを自動放射線写真法によって可視化させた(図4b)。42℃で最初10分間露出させた後、主なHSP合成の水準は迅速に減少し、熱ショック処理を行っていない対照に比べてそれぞれ2.0±0.2、2.2±0.3及び1.2±0.1倍になった。これはHSPの合成が新しい定常状態に到達したことを示唆する。
【0047】
図2aに提示された結果と同様に、0分から15分まで[35S]−メチオニンで2.5分間パルス標識した結果、GroEL、Dnak及びClpLは初期に生成され、HSPの誘導は温度上昇変化約5分後に最高に到達したが、7.5分後には定常状態に落ち、対照に比べて1.5〜2倍の純増加を示した(データは表示せず)。この結果はこれらのHSPが異なるクラスに属するとしても、同一の誘導動力学を有することを示す。また、熱ショック時の合成率の増加は、肺炎球菌の固定成長期でclpL及びgroELのmRNA水準の増加とそれぞれ類似である(Saizieu, A. et al., 1998, Bacterial transcript imaging by hybridization of total RNA to olignucleotide arrays. Nature Biotechnol. 16:45-48)。
【0048】
Clp構成員のATPaseサブユニットがClpPセリンプロテアーゼと複合体を形成することができるため、30℃の指数成長期中盤のCP1200細胞(A550=0.2)に42℃で10分間熱ショックを加えた後、[35S]−メチオニンでパルス標識化し、その後細胞培養物を30℃に復帰させた後、表示された時間中に過量の非放射性メチオニンを追跡した。培養物2mlを収集し、細胞を超音波によって溶解させた。収得した蛋白質を15%のSDS−PAGEによって分析し、蛋白質バンドを自動放射線写真法によって可視化させた(図4c)。その結果、熱ショック後に21kDa HSPが誘導され、N−末端アミノ酸配列化によって前記21kDa HSPがClpPであることが確認された。図4cにおいて、レーンCは、熱ショックを与えないことを示す。図4a〜図4cにおいて、上部の数字は非ストレス条件に復帰した後の経過時間(分)、濃い矢印は主要HSPをそれぞれ示し、分子サイズは左側にkDaで表示された。
【0049】
HSPは、一部病原体において免疫原性であり(Kaufmann, S. H. E. et al., 1994, Heat shock proteins as antigens in immunity against infection and self, p. 495532. In R. I. Morimoto, A. Tissieres, and C. Georgopoulos (ed.), Biology of Heat Shock Proteins and Molecular Chaperones. Cold Spring Harbor, NY: Cold Spring Harbor Laboratory Press)、その存続は宿主において病原体の生存に助けを与えることができる。したがって、HSPの安定性を調査した。42℃で10分間細菌に熱ショックを与え、パルス標識化し、30℃に復帰させた後、非放射性メチオニンで様々な長さの時間だけ追跡した。1〜60分後、HSPに対して調査したとき、放射性ClpL、DnaKまたはGroEL量の検出可能な減少はなかった。すなわち、熱ショック中に生成されたHSPは、60分間温度下向き変化中に存続した(図5b)。面白いことは、肺炎球菌HSPを用いた免疫ブロット分析結果、熱ショックが持続される間、ClpLの絶対量が著しく且つ引き続き増加したことが確認された(60分まで14倍以下)。
【0050】
図5a及び図5bは熱ショック後にClpLが引き続き増加することを示す。42℃に露出された指数成長期の肺炎球菌の全体細胞溶解物を免疫ブロット分析した。30℃でA550=0.3まで成長した肺炎球菌細胞に表示された時間だけ42℃で熱ショックを加えた後、培養物を収集し、溶解緩衝液に再懸濁させた。細胞を超音波によって溶解させた後、蛋白質10μgをSDS−PAGEによって分離し、ClpL、Dnak及びGroELに対する抗血清と反応させた。ClpPの場合、30μgの蛋白質を用いてSDS−PAGE後に免疫ブロット分析を行った(図5a)。図5aに示すような熱ショック後にClpL、ClpP、DnaK及びGroELの相対水準を密度測定によって分析した。数字は独立した3回の実験の標準偏差を示す(図5b)。測定された60分間、DnaK及びGroELの量はそれぞれ2.4倍及び3.4倍に増加した(図5a及び図5b)が、以後には全てのHSPの量が減少した(データは表示せず)。このような結果はClpLが肺炎球菌で相当安定していることを意味する。
【0051】
iii)clpL及びclpP突然変異体の表現型
clpL及びclpP突然変異体を構成するために、ΔclpL::ermBまたはΔclpP::ermB挿入部分を含有するDNA断片をPCRによって増幅させ、材料及び方法編で記載されているように、形質転換によって染色体内に挿入させた。挿入突然変異をPCR及び免疫ブロット分析によって確認し、ClpLまたはClpPの不在をそれぞれ確認した。D39及びその同種遺伝子型clpL(HYK304)及びclpP(HYK302)突然変異体を550nmにおける吸光度0.1まで培養した。次に、温度を37℃から43℃に変化させ、培養物を表示時間で培養し、その結果を図6に示した。ΔclpL::ermBを保有するD39誘導体HYK304の成長率は、30℃で母菌株の成長率と類似であったが、37℃では倍増時間が母菌株で約40分であったことに比べて55分であって、さらに遅く成長した(図6a〜図6c)。したがって、ClpLは30℃及び37℃で肺炎球菌の成長に必須的でないものと判断される。
【0052】
対照的に、ΔclpP::ermB突然変異を保有するHYK302は、30℃(倍増時間=270分)及び37℃(倍増時間=100分)における成長が母菌株(それぞれ100分及び40分)に比べて激しく減少したことが分かる。43℃におけるD39の成長は、最初2時間は増加したが、その以後には減少した。母菌株の生存力は42℃で45分間維持されたが、45分経過後には生存力が減少し始めた(データは表示せず)。43℃において、clpL及びclpP突然変異体(それぞれHYK304及びHYK302)の成長が減少した。また、同種遺伝子型CP1200誘導体HYK1及びHYK2は、HYK304及びHYK302それぞれの成長パターンと類似の成長パターンを示した(データは表示せず)。
【0053】
iv)clpP突然変異におけるClpLの誘導
ClpL及びClpPが同一のCtsRによって調節されるものと判断され、ClpPはCtsRの分解と関連があるという従来の研究結果より、ClpLはClpPによって調節できるものと予測された。このような可能性を調査するために、本発明者は、CP1200またはそのclpLまたはclpP陰性突然変異体を用いてClpL及びClpPの量を決定した。指数成長期の肺炎球菌CP1200(A550=0.3)及びその同種遺伝子型clpL及びclpP誘導体に42℃で30分間熱ショックを加えた。培養物3mlから得た蛋白質に対して抗ClpLまたはClpPポリクロナール血清を用いて免疫ブロット分析を行った。野生型(CP1200)及びclpL突然変異体(HYK1)において、ClpPは30℃で検出されたが、細胞に30分間熱ショックを加えた後、ClpPの量は図7a及び図7bに示すように限界的に増加した。ClpLが誘導されたが、誘導されていない培養物中のClpLの量は野生型よりclpP突然変異体(HYK2)で一層多く、これはClpPがClpLの発現を抑制することを示唆する(図7a及び図7b)。
【0054】
v)ClpLのシャペロン機能
HSPが分泌を促進し且つ蛋白質の適当なフォールディング及び位置移動を助けるため(Craig, E. A. et al., 1993, Heat shock proteins: Molecular chaperones of protein biogenesis. Microbiol. Rev. 57:402-414)、肺炎球菌におけるClpLのシャペロン活性を調査した。シャペロン活性を定量的に測定するために、変性された蛋白質を天然の形態にリフォールディングさせる方法を使用した(Mendoza, J. A. et al., 1991, Unassisted refolding of urea unfolded rhodanese. J. Biol. Chem. 266:13587-13591)。Rhodaneseの触媒されていないRhodaneseリフォールディングは相対的に遅く起こり(前記Mendoza et al., 1991)、Rhodaneseの活性は簡単且つ敏感な検定によって決定できるため、変性されたRhodaneseのリフォールディングは蛋白質フォールディングの研究に幅広く用いられてきた。ヒスチジンタグClpL(pKHY004)(図2)を大腸菌で過発現させ、精製させ、リフォールディング活性の決定に使用した。試験条件の下で、変性されたRhodaneseは、従来の文献(前記Craig et al., 1993)に開示されているように、天然Rhodanese活性の只2.8〜7.7%のみを示した。これは、変性されたRhodaneseの自発的リフォールディングが8Mのウレア溶液から100倍希釈された場合に非効率的に起こることを意味する。
【0055】
このような活性は同一の方法によって行われた天然Rhodanese活性の百分率で発現される。変性されたRhodaneseに対して約3モル過量でリフォールディング反応混合物にClpLを含ませると、活性が増加して天然Rhodanese活性の略10%に天然状態への回帰が行われた。ところが、12倍過量のClpLを変性されたRhodaneseに添加した場合、活性が天然水準の30%に増加した。前記濃度以上にClpLの量を増加させると、ATPの存在下にさらに若干の天然状態回帰が起こった(表2)。このような結果は、ClpLがシャペロンに独立に作用して大腸菌でClpAに対して、従来から知られているように、変性された蛋白質をリフォールディングさせることを立証した。
【0056】
【表2】

【0057】
変性されたRhodanese(最終濃度90nM)を37℃で1時間2mM ATPの存在下に単独で或いはClpLと共に培養した。リフォールディングされた酵素の活性を25℃で60分間培養した後測定し、同一の条件下に25℃で培養した同一量の天然酵素の活性の百分率で表わす。5つの独立実験の平均値と標準偏差が提示されている。
*:対照(ClpLがない場合)との有意差P<0.05
**:対照との有意差P<0.001
vi)熱ショックによる毒性関連因子の発現調節
熱ショック及び飢餓を含む環境ストレスは、毒性因子の発現に影響を及ぼす可能性がある(Mekalanos, J. J. 1992. Environmental signals controlling expression of virulence genes determinants in bacteria. J. Bacteriol. 174:1-7)。したがって、莢膜菌株D39及びそのclpP突然変異体(HYK302)及びclpL突然変異体(HYK304)の毒性関連因子の発現に対する熱ショックの効果を、コリン結合蛋白質(CbpA)、PsaA、肺炎球菌表面蛋白質A(PspA)、Ply及びオートリシン(LytA)に対する抗体を使用する免疫ブロット分析によって決定した。指数成長期の莢膜肺炎球菌D39(A600=0.1)及びその同種遺伝子型clpP(HYK302)及びclpL(HYK304)誘導体に42℃で20分間熱ショックを加えた。培養物0.6mlを遠心分離し、細胞ペレットを溶解緩衝液に再懸濁させた後、3分間沸かした。
【0058】
その後、CbpA、Ply及びPsaAに対して生成されたポリクロナール抗血清の混合物を用いて細胞溶解物に対して免疫ブロット分析を行った。図8にCbpA、Ply及びPsaAの相対位置を示した。予想外に、Plyは熱ショック後に野生型D39及びclpL突然変異体から誘導された。PsaAも熱ショック後にD39から若干誘導されたが、clpL突然変異体では誘導されなかった。対照的に、ClpP突然変異体において、CbpAが誘導されたが、Ply及びPsaAの発現は減少した(図8)。PspA及びLytA水準は、遺伝子の背景に関係なく熱ショック後に変化しなかった(結果は表示せず)。熱ショック後にPly発現の増加を確認するために、細胞溶解物中のPlyの溶血活性を決定した。Ply活性はD39で熱ショック後に1.8倍増加したが、clpP突然変異体では増加しなかった(表3)
【0059】
【表3】

【0060】
培養物の溶血活性はA600=1と同一である。細胞溶解物の50μlをリン酸塩緩衝食塩液50μlに連続的に希釈(1:1)した。次に、ヒト赤血球の1.5%懸濁液50μlを各ウェルに添加した後、プレートを37℃で30分間培養した。溶血単位は50%溶血が起こったウェルから計算した。このような結果は、熱ショックが野生型及びclpL突然変異体でストレス負荷時に毒性の増加に寄与することが可能なPlyの発現を増加させたことを立証しているが、これはclpP突然変異体では起こらなかった。
【0061】
エルシニアエンテロコリチカ(Yersinia enterocolitica)において、ClpPプロテアーゼはail転写体水準及び細胞表面発現Ail蛋白質の両方ともの発現を抑制するものと知られている(Pederson, K. J., S. Carlson, and D. E. Pierson. 1997. The ClpP protein, a subunit of the Clp protease, modulates ail gene expression in Yersinia enterocolitica. Mol. Microbiol. 26:99-107)。このため、本発明者は、肺炎球菌(S. pneumoniae)においてmRNA水準で毒性遺伝子発現の調節を調査した。RNAを培養物から製造し、ply、cbpA、psaA及び莢膜合成遺伝子cps2AのmRNA水準をRT−PCRによって測定してその結果を図9に示した。
【0062】
図9において、RNA抽出物間に個別的なmRNA種の水準を内部16S rRNA対照に対して得た水準を参照して補正した。データポイントは、各RNA抽出物の4重サンプルの平均±標準偏差を示す。30℃で、clpL突然変異体におけるcbpAの発現はD39の場合に比べて減少したが(P=0.001)、clpP突然変異体では増加した(P=0.01)。野生型及びclpL突然変異体でply及びpsaA発現の著しい変化は検出されなかったが、clpP突然変異体ではplyの発現が2.5倍増加した反面(P<0.01)、psaAの発現は半分に減少した(P<0.01)。熱ショック後に、cbpA mRNA水準は30℃でD39、clpL及びclpP突然変異体の場合と比較してそれぞれ7.48倍、2.39倍及び3.48倍に増加した(それぞれP<0.001、P<0.001、P=0.001)。
【0063】
同様に、plyのmRNA水準は30℃でD39、clpL及びclpP突然変異体の場合と比較してそれぞれ5.27倍、6.0倍及び3.48倍に増加した(全ての場合、P<0.001)。熱ショック後に、cps2Aの発現は、30℃でD39及びclpL突然変異体の場合と比較して著しく減少した(2つの場合ともP=0.001)。clpP突然変異体においてcps2Aの発現は熱ショック後に増加したが、その増加は統計的に有意性がなかった。対照的に、熱ショックはD39及びclpP突然変異体でpsaAのmRNA水準を1.6倍及び5.04倍にそれぞれ増加させたが(それぞれP<0.01、P=0.001)、clpL突然変異体ではその水準が減少した(P<0.01、図9)。このような結果はclpL突然変異がpsaAの発現に否定的な影響を及ぼす虞がある反面、clpP突然変異はある未知の方式でcps2Aの発現に肯定的な影響を及ぼす可能性があることを示唆する。このような発見は、熱ショックのみならず、clpL及びclpPが新しい環境的チャレンジに対処するために様々な毒性関連遺伝子を調節するという証拠を提示する。
【0064】
vii)毒性に及ぼすclpL及びclpP突然変異の影響
D39の毒性に及ぼすclpL及びclpP突然変異の影響をさらに調査するために、肺炎球菌約10CFUを腹腔内注射した後、マウスの生存時間を測定した。約10CFUのD39またはそのclpP(HYK302)またはclpL(HYK304)誘導体で10匹のBALB/cマウス群を感染させた。図10にその結果を示した。図10において、各データポイントはマウス1匹を示し、水平線は各群に対する中間生存時間を示す。母菌株(D39)及びclpL突然変異体で感染させた群のマウスに対する中間生存時間はそれぞれ55時間及び60時間であり、このような差異は統計的に有意性がなかった。
【0065】
ところが、clpP突然変異体で感染させたマウス群は、感染2〜3日後に痛んだが、感染4〜5日後には大部分が段々回復された。clpP突然変異体で試験感染させたマウスのうち2匹のみが67時間及び119時間後に死亡した(図10)。clpP突然変異体で感染させたマウス群と、D39またはclpL突然変異体で感染させた群間の中間生存時間及び全体的な生存率は、高度の有意差を示した(全ての場合にP<<0.001)。このような結果はClpP機能が肺炎球菌の毒性因子の発現に対して重要であることを示す。
【0066】
3.検討
本研究において、本発明者は、肺炎球菌においてATP−依存性ClpプロテアーゼAAK74513がclpL相同物であることを確認した。ClpL相同物はいろいろのグラム陽性有機体で確認されたが(L. lactis X62333; S. aureus AP003365, AP003137; S. pyogenes AE006538, AE004092; Lactobacillus rhamnosus AF323526)、グラム陰性有機体では確認されなかったので(Derre, I. Et al., 1999, ClpE, a novel type of HSP100 ATPase, is part of the CtsR heat shock regulon of Bacillus subtilis. Mol. Microbiol. 32:581-593)、ClpLはClpEと同様にグラム陽性有機体に特異的なようである。
【0067】
免疫ブロット分析の走査密度測定法(scanning densitometry)を用いて、本発明者は、肺炎球菌がClpLを除いては30℃でDnaK、GroEL及びClpPを高い基本水準で発現させたことを明らかにした。このような水準は、有機体を熱ショックに40分間露出させた場合、2倍に増加した。ところが、蛋白質を[35S]−メチオニンで10分間パルス標識化した結果、全てのHSPの迅速且つ一時的な誘導が立証された。これはDnaK、GroEL及びClpPが30℃で構成的に大量発現されたことを意味する。また、ClpL、DnaK及びGroELが30℃への復帰時に存続するということは、正常的な培養条件への復帰時にはHSPが活発に分解されないことを示す。
【0068】
HSPはシャペロンとして機能し、フォールディングされていない蛋白質の天然状態復帰を促進し、様々な細菌性病原体で感染中に誘導されるので、生体内生存率は敵対的環境で細菌の巨大分子複合体に及ぼすHSPの安定化効果によって増加できる。したがって、正常的な条件への復帰時にHSPの存続及び熱ショックによるPsaA及びPlyのような毒性蛋白質の誘導は、肺炎球菌の毒性に寄与し或いはこれを増加させることができる。主なHSPであるDnaKは、肺炎球菌において非常に免疫原性であり(Hamel, J., D. Martin, and B. B. Brodeur. 1997. Heat shock response of Streptococcus pneumoniae: identification of immunoreactive stress proteins. Microb. Pathog. 23:11-21)、HSPが様々な病原体による感染で免疫優性抗原であるという相当な証拠は文献上に現われている(前記Kaufmann, S. H. E. et al., 1994)。肺炎球菌の発病生活様式が高い水準のDnaK及びClpLを必要とするか、そしてClpLが特異的気質と結合し、蛋白分解のためのClpPとの複合体を形成するかは、組み換え蛋白質を使用する研究の主題である。
【0069】
HSP遺伝子の突然変異は、多くの病原体で付着性及び毒性に影響を及ぼすものと知られている。ストレスにより誘導されたClpPセリンプロテアーゼは、サルモネラ・ティフィムリウム(Salmonella typhimurium)の毒性に寄与し(Webb, C., et al., 1999, Effects of DksA and ClpP protease on sigma S production and virulence in Salmonella typhimurium. Mol. Microbiol. 34:112-123)、エルシニアエンテロコリチカ(Yersinia enterocolitica)で付着浸透性遺伝子座(ail)の遺伝子発現を調節する (Pederson, K. J. et al., 1997, The ClpP protein, a subunit of the Clp protease, modulates ail gene expression in Yersinia enterocolitica. Mol. Microbiol. 26:99-107)。リステリア・モノサイトゲネス(Listeria monocytogenes)において、ClpPは細胞内寄生生活及び毒性に必須的である(Gaillot, O. et al., 2000, The ClpP serine protease is essential for the intracellular parasitism and virulence of Listeria monocytogenes. Mol. Microbiol. 35:1286-1294)。本結果は、ClpPも肺炎球菌の毒性に必須的な役割を果たし、Robertson等(前記Robertson, G. T. et al., 2002, Global transcriptional analysis of clpP mutations of type 2 Streptococcus pneumoniae and their effects on physiology and virulence. J. Bacteriol. 184:3508-3520)の最近調査結果を裏付ける。
【0070】
本研究において、本発明者は、cbpA、ply及びpsaAなどの毒性関連遺伝子に対するmRNAが熱ショックによって上向きに調節されたことを立証した。30℃で野生型とclp突然変異体における遺伝子発現を比較した場合、clpL突然変異体はcbpA、ply、psaA及びcps2Aに対する野生型の場合とほぼ同一の発現パターンを示す反面、clpP突然変異体ではcbpAの発現は増加するが、ply及びpsaAの発現は減少する。したがって、clpPは、cbpAの発現に対しては陰性調節物質として作用するが、plyの発現に対しては陽性調節物質として作用するようである。本発明者の研究結果とは対照的に、Chastanetなどの文献では、Ply生成がclpP突然変異によって影響を受けないと報告されている(Chastanet, A. et al., 2001, Regulation of Streptococcus pneumoniae clp genes and their role in competence development and stress survival. J. Bacteriol. 183:7295-7307)。Chastanet等は血液寒天プレート上の溶血ヘイロウを観察して定量的に評価した反面、本発明者は定量的な溶血検定を使用したので、このような差はPly活性に対する測定方法の差のための可能性がある。Plyは肺炎球菌の菌血症で立証された毒性因子なので、熱ショック後の発現増加は発病において寄与因子である可能性がある。これは呼吸性病原体肺炎球菌において熱ショックによる毒性遺伝子の調節に関する最初の報告である。
【0071】
熱ショック後に、実時間RT−PCRデータはclpP突然変異体でply発現の増加を示したが、免疫ブロット分析及びPly活性測定結果、増加したものと確認されなかった。このような不一致は高温でclpP突然変異体のply mRNAの不安定性に起因する可能性がある。ClpPは、発生期のPlyを直接活性化する作用を行うことができるものとも考えられる。本発明者の免疫ブロットデータは、clpP突然変異結果、熱ショックに関係なく高い水準にClpLが発現されたことを立証しており、これはClpPがClpLを陰性的に調節することができることを示唆する。このような結果は、37℃でclpP突然変異体でclpLが高い水準に誘導されたことを示す最近のマイクロアレイ研究を確証している(前記Robertson, G. T. et al., 2002, Global transcriptional analysis of clpP mutations of type 2 Streptococcus pneumoniae and their effects on physiology and virulence. J. Bacteriol. 184:3508-3520)。さらに、熱ショック後に、莢膜生合成遺伝子座の一番目の遺伝子であるcps2Aの発現水準は、野生型及びclpL突然変異体において減少し、これは宿主免疫系に対する耐性がさらに低い可能性があることを暗示する。対照的に、clpP突然変異体におけるcps2Aの発現水準は減少しなかった。このような結果は、clpP突然変異体が全体的な毒性は減少したが、ストレス負荷時に宿主マクロファージに対する耐性を野生型の水準で示さなければならないことを示唆する。これは慢性菌血症の発病をもたらす可能性があり、この場合、細菌は宿主の免疫系に浸透して宿主内に生存できるが、D39のニューモリシン陰性突然変異体に対して、従来立証された現象である電撃性の疾患を誘発することはできない。
【0072】
要するに、毒性遺伝子の調節は、熱ショックのみならず、ClpL及びClpPプロテアーゼによって調節できる。clpL突然変異体の熱敏感性及び組み換えClpLによる変性されたRhodaneseのリフォールディング活性はClpLのシャペロン機能に対する証拠を提供する。また、clpPはply及びcbpA発現の調節に必須的な役割を果たすものと立証された。
【0073】
実施例2:肺炎球菌におけるClpPプロテアーゼの毒性因子発現調節及び肺炎球菌試験感染に対する免疫性
本実施例では、ClpPが毒性を弱化させる根本的なメカニズムを調査し、ClpPによる免疫化が毒性肺炎球菌による試験感染からマウスを保護することができるか否かを評価した。
【0074】
1.材料及び方法
i)細菌菌株、成長条件及び形質転換
細菌菌株及びプラスミドベクターは、本研究で新しく生成された組合体と共に表4に提示されている。Rx−1の誘導体である肺炎球菌CP1200をカシトン−トリプトン(Casitone-Tryptone:CAT)基本培地で成長させた(前記Choi et al., 1999)。肺炎球菌菌株D39(タイプ2)をTHY(Todd Hewitt Yeast)ブロスで培養した。肺炎球菌形質転換体の選別のために、エリスロマイシンを0.2μg/mlの濃度で成長培地に添加した。大腸菌菌株(表4のBL21(DE3)、DH5a、XL1−Blue)をLB(Luria-Bertani)ブロスまたはLB寒天で成長させた。プラスミドを、文献(前記Hanahan, D., 1983)によって記述されているように、形質転換によって大腸菌に導入した。大腸菌形質転換体の選別のために、カナマイシン(30μg/ml)を成長培地に添加した。
【0075】
【表4】

【0076】
ii)細胞培養
ヒト肺上皮癌種A549(ATCC CCL−185)及びマウスマクロファージRAW264.7細胞株(ATCC TIB−71)をアメリカンタイプカルチャーコレクション(American Type Culture Collection)から購入し、これらを37℃で5%のCO下に培養させた。A549細胞をグルコース4.5μg/L、10%の牛胎児血清(FBS; Gibco BRL, Gaithersburg, Md.)及びペニシリンG100U/ml、及びストレプトマイシン100μg/mlを含有するダルベッコ変法イーグル培地(DMEM)(Gibco BRL, Gaithersburg, Md)で培養させた。RAW264.7細胞の培養のために、10mMのHEPES、2mMのL−グルタミン、ペニシリンG100U/ml及びストレプトマイシン100μg/ml、及び0.2%のNaHCOが補充されたRPMI1640培地(Gibco BRL, Gaithersburg, Md)を基本培地として用い、FBS(Gibco BRL, Gaithersburg, Md)を10%濃度で添加した。
【0077】
iii)肺炎球菌の莢膜多糖類(CPS)標本
血液寒天プレート上で一晩中成長させた肺炎球菌(A600=0.5)を150mMのTris−HCl(pH7.0)、1mMのMgSOで再懸濁させてD39及びその同種遺伝子型(isogenic)clpP突然変異誘導体のCPS標本を製作した。これはml当りの肺炎球菌数5×10と等量である。その1mlの分取液を10,000×gでペレット化した。0.1%(w/v)のデオキシコール酸ナトリウム(Sigma, St. Louis, MD)を添加し、15分間37℃で培養して前記細菌を溶菌させた。次のサンプルを100Uムタノリシン(Sigma)、50μgのDNaseI(Roche Applied Science, Mannheim, Germany)及び50μgのRNaseA(Roche Applied Science)とともに37℃で18時間培養した。次に、サンプルを50μgのプロテイナーゼK(Sigma)とともに56℃で4時間培養した後、−20℃で貯蔵した。次に、ポリクロナールタイプ2多糖類特異的抗血清を使用する免疫ブロットによって細胞性物質を分析した。
【0078】
iv)抗血清、ゲル電気泳動及び免疫ブロット
PspA及びPdB(Plyのトキソイド誘導体)に対する血清は、本質的に従来の文献(前記Ogunniyi, A. D. et al., 2000)の記載と同一に製作した。免疫ブロットのために細菌をTHYでA600=0.3になるまで培養し、従来の文献(Kwon, H. Y. et al., 2003, Effect of Heat Shock and Mutations in ClpL and ClpP on Virulence Gene Expression in Streptococcus pneumoniae. Submitted to Infect. Immun)の記載と同一に製作した。ドデシル硫酸ナトリウム−ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS−PAGE、10%または15%ポリアクリルアミドゲル)を文献(Laemmli, U. K. 1970. Cleavage of structural proteins during the assembly of the head of bacteriophage T4. Nature 227:680-685)の記載と同一に行った。蛋白質をニトロセルロース膜上にエレクトロブロット(electroblotting)した後、PspA及びPdBに対するポリクロナールマウス血清の1:5,000希釈液と反応させた。莢膜ブロットのために、サンプルをナイロン膜上にエレクトロブロットした後、抗血清タイプ2のポリクロナールマウス血清の1:5000希釈液と反応させた。2次抗体はアルカリ性ホスファターゼにコンジュゲートされたヤギ抗−マウスIgG(Bio-Rad)の1:2000希釈液であった。
【0079】
v)ニューモリシン検定
従来の文献(Lock, R. A. et al., 1996, Sequence variation in the Streptococcus pneumoniae pneumolysin gene affecting haemolytic activity and electrophoretic mobility of the toxin. Microb. Pathog. 21:71-83)に記載の方法を若干修正した方法によって溶血活性を決定した。簡単には、THYブロスで指数成長期の初期−中期段階(early-mid log phase)(A600=0.05〜0.1)まで成長させた肺炎球菌を3900×gで4℃にて10分間遠心分離させて収集し、リン酸塩緩衝食塩に再懸濁させた。デオキシコール酸ナトリウムを0.1%の最終濃度で添加した後、37℃で10分間培養させた。サンプルを遠心分離させた後、上澄液を回収して連続的に希釈させた。96ウェルマイクロタイタープレートで同一体積の1.5%洗浄されたヒト赤血球(0.001%の2−メルカプトエタノール(Merck)含有)とともに37℃で30分間培養して溶血活性を決定した。溶血力価はA540で50%の赤血球が溶解される推定希釈度の逆数で決定した。
【0080】
vi)RNA技法
全体RNA抽出のために培養懸濁液の1.5ml分取液を周期的に採取した。mRNA半減期を測定するために、リファンピシン(100μg/ml)を添加した。全体RNAを、従来の文献(前記Ogunniyi, A. D. et al., 2002)に記載されているように、高温酸フェノール法によって抽出した。Promega Access RT−PCR System(Promega Biotech, Cat.# A1250)を用いて1段階の実時間逆転写(RT−PCR)によってcps2A及びplyに対するmRNA水準を定量した。これらの反応に対して特異的な内部対照(16S rRNA)プライマーは、従来の文献(前記Ogunniyi et. al., 2002)に記載されている。RT−PCR反応の準備、サイクリング条件及びデータの分析は、本質的に従来の文献(前記Kwon et. al., 2003)の記載と同一であった。全ての反応をRotor−Gene 2000Real−Time cycler(Corbett Research, Australia)で行った。mRNA半減期の分析をSigmaPlot曲線当てはめプログラム(指数値の総合に対して非線形最小二乗法(non-linear least squares fitting))によって行った。2つのモデル、すなわち1相分解または2相分解モデルが提案された。各場合に、最小偏差を有するデータを当てはめさせたモデルがより有効なものとして保有された。
【0081】
vii)大腸菌におけるClpPのクローニング、発現及び精製
clpP ORF(Genebank AE008443で塩基配列5416番目〜6006番目)をCP1200 DNAから前方向及び逆方向プライマー(5'-CGA ATT CAT GAT TCC TGT AGT TAT-3': SEQ ID NO. 9、及び5'-CGA GCT CTT AGT TCA ATG AAT TGT TG-3' : SEQ ID NO. 12、プライマーはEcoRI及びSacI部位にそれぞれ挿入される)を用いてPCR増幅させた。PCR断片を同一の酵素で分解させ、pET30(a)(Novagen)の該当制限部位内にクローニングさせてプラスミドpET30(a)−clpPを作った(図1)。大腸菌BL21(DE3)菌株内で0.1mMのIPTG(イソプロピル−β−D−チオガラクトピラノシド)を用いて3時間発現を誘導した。細胞を6,000×gで10分間遠心分離させて収集した後、プロテアーゼ抑制剤のフェニルメチル−スルホニルフルオリドが最終濃度1mMで添加された溶解緩衝液(50mMのリン酸ナトリウム、pH8.0、2MのNaCl、40mMのイミダゾール)に再懸濁させた。
【0082】
その後、細胞をフレンチ圧力セル(SLM Aminco, Inc.)内で12,0001b/inで溶解させ、溶解物を100,000×gで1時間遠心分離させた。His−タグ蛋白質を含有する上澄液をニッケル−ニトリロ酢酸カラム(Probond, Invitrogen)にロードさせた後、10カラム体積の10mMのリン酸ナトリウム、20mMのイミダゾール、及び1MのNaCl(pH6.0)で洗浄した。ニッケルが結合したHis−タグ蛋白質を10mMのリン酸ナトリウム(pH6.0)緩衝液中の0〜500mM勾配のイミダゾール30mlで溶離させ、10mMのリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.0)に対して透析させた。蛋白質はSDS−PAGE及びクマシーブリリアントブルーR250で染色して判断するとき、純度が>95%であった(データは表示せず)。
【0083】
viii)芽細胞分画の分離及び位置測定
指数成長期の細胞を遠心分離によって収集し、スクロースによって誘導された原形質体の形成を、従来の文献(Vijayakumar, M. N. et al., 1986, Localization of competence induced proteins in Streptococcus pneumoniae. J. Bacteriol. 165:689-695)に記載の方法によって行った。細胞を1Mのスクロース緩衝液(1Mのスクロース、100mMのTris HCl pH7.6、2mMのMgCl、1mMのPMSF)とともに30℃で1時間培養させて原形質体に転換させた。13,000×gで20分間遠心分離させて細胞壁分画(上澄液)を原形質体(ペレット)から分離させた。原形質体を19体積の低張性(hypotonic)緩衝液(100 mM Tris HCl pH 7.6, 1 mM PMSF, 1 mM EDTA)で希釈させて浸透的に溶解させた。溶解物をまず5,000×gで5分間遠心分離させて未溶解細胞を除去した後、50,000×gで30分間遠心分離させて細胞質分画(上澄液)及び細胞膜分画(ペレット)を収得した。
【0084】
ix)リンゴ酸脱水素酵素活性の決定
リンゴ酸脱水素酵素(MDH)の酵素活性を、0.5mMのオキサル酢酸塩を含有する0.15Mのリン酸カリウム(pH7.6)の中で0.2mMのNADHの340nm及び25℃での吸光度(A340=6.22/mM/cm)の減少率をモニタリングして決定した。サンプルを添加した後、反応混合物を25℃で1分40秒間培養し、340nmで吸光度を測定した。反応を開始するために基質を添加した。最初1分40秒間の反応からNADHの酸化率の初期傾斜度を用いてMDHの活性を計算した。
【0085】
x)付着性及び浸透性の検定
ヒト肺A549細胞への肺炎球菌の浸透性検定は、従来の文献(前記Vijayakumar, M. N. et al., 1986)に記載の抗生剤保護検定を変形させて行った。A549細胞を24ウェル組織培養プレートでコンフルアンス(confluence)的に成長させ、リン酸塩緩衝食塩(PBS、pH7.2)で3回洗浄した後、ウェル当り培養培地(抗生剤非含有)1mlを添加した。RタイプCP1200及びその異種遺伝子型clpP突然変異体菌株の指数期培養物(A550=0.3、10CFU/ml)を遠心分離によってペレット化し、PBSで1回洗浄し、DMEMに再懸濁させた。単層を10個の細菌で感染させ(細菌:細胞比、10:1)、細胞単層と細菌の初期接触を、800×gで4℃にて10分間遠心分離した後、37℃で2時間培養して促進させた。10μg/mlのペニシリン及び200μg/mlのゲンタマイシンを含有する新規培地を各ウェルに添加し、このような処理が全ての細胞外細菌を死滅させるに十分であるかを確認した。その上、1時間さらに培養した後、単層をPBSで3回洗浄し、100μlの0.25%トリプシン−0.02%のEDTAで処理してプレートから細胞を取り外した後、400μlのトリトンX−100(0.025%の水溶液)を添加して溶解させた。適切な希釈液を血液寒天にプレーティングさせて生存細菌数を決定した。付着性細胞内細菌の総数を決定するために、感染した単層を前述のように洗浄した後、トリプシンで処理し、溶解させ、抗生剤処理なしで定量的にプレーティングさせた。全てのサンプルを三重(triplicate)に検定し、各検定を3回以上繰り返し行った。
【0086】
xi)RAW264.7細胞の生存
細胞単層を抗生剤非含有RPMI1640培養培地(Sigma)で10CFU肺炎球菌(細胞:細胞比、10:1)にて感染させた。細菌感染のために、培養物を37℃で2時間培養させた。前記培養後に、細胞をPBSで3回洗浄し、10μg/mlのペニシリン及び200μg/mlのゲンタマイシンを含有する新規培地を添加して細胞外細菌を死滅させた(検定の0時間)。感染後、様々な時期における細胞内肺炎球菌を定量化するために、上澄液を除去し、細胞をPBSで3回洗浄した後、前述のようにトリトンX−100で溶解させた。各ウェルの溶解物の一連の希釈液を血液寒天上にプレーティングさせた。37℃で24時間培養した後、CFUの数を決定した。各細菌菌株に対して3つの独立的な検定を行った(三重検定)。対応標本または独立標本ステューダントt検定(paired or unpaired Student's t test)を用いて統計的分析を行った。
【0087】
xii)コロニー形成研究
本研究は、最近の文献(前記Ogunniyi et al., 2003, MS in preparation)に記載の方法と本質的に同一に行った。試験感染の実施前に、細菌を10%[vol/vol]の馬血清を加えたTH(Todd Hewitt)寒天(Difco Laboratories, USA)(必要な場合、エリスロマイシンを補充する)上で一晩中37℃で培養させた後、THYブロスで約4時間37℃で成長させて約4×10CFU/ml(A600=0.1)の細菌を得た。その後、各細菌培養物をTHYブロスで約10CFU/mlに調節し、細胞10μl(約10CFU)を5週齢のCD1マウスの外鼻腔に接種させた。感染後1、2及び4日目に、各群のマウス4匹をランダムに犠牲させて各菌株の保菌程度を評価した。鼻咽頭、血液及び肺のサンプルを適切に滅菌PBDで連続的に希釈させ、適した抗生剤を含有する血液寒天上に二重に(duplicate)プレーティングした。プレートを95%の空気/5%のCOの雰囲気下に37℃で約16時間培養した後、コロニーを計数し、複製本間の平均を求めた。
【0088】
xiii)マウスの免疫化及び血清の分析
マウスを従来の文献(前記Ogunniyi, A. D. et al, 2000)に記載されている通りに腹腔内免疫させた。5〜6週齢のCBA/Nマウスの雌からなる4個群(群当り12匹)をAlPO単独、遺伝子変形されたPlyトキソイド(PdB)+AlPO、PspA+AlPO、またはClpP+AlPOで腹腔内免疫させた。各マウスに12〜14日間隔で各蛋白質抗原10μgを3回投与し、3回免疫後1週目に眼窩後方の採血によってマウスから血清を採取した。血清を群別にプーリングし、酵素結合免疫吸着検定(ELISA)によってPly、PspAまたはClpP特異的抗体に対して分析した。また、肺炎球菌D39の全体細胞溶解物、または精製されたPly、PspAまたはClpPを抗原として用いるウェスタン免疫ブロットで前記血清を分析した。
【0089】
xiv)試験感染
最終免疫後2週目に、免疫されたマウスを猛毒性の莢膜性タイプ2菌株(D39)で腹腔内試験感染させた。試験感染の実施前に、免疫細菌を血液寒天上で一晩中37℃で成長させた後、肉類抽出ブロス(脳心臓注入ブロス、Difco Laboratories, USA)またはTH (Todd Hewitt)ブロス(Difco Laboratories, USA)に10%(v/v)の馬血清を添加した血清ブロスに接種させた。次に、細菌を37℃で3時間静的に成長させて約10CFU/mlの細菌を得、接種物を試験感染容量当たり7.5×10CFUに調整した。血清タイプ特異的莢膜の生成は、Statens Seruminstitut(Copenhagen, Denmark)から購入した抗血清を用いて膨脹反応(quellung reaction)によって確認した。試験感染の実施後に、マウスを最初7日間4時間毎にモニタリングした後、21日までは毎日モニタリングし、各マウスの生存時間を記録した。各群間の中間生存時間上の差異をマン・ホイットニーのU検定(片側)(Mann-Whitney U test, one-tailed)によって分析した。
【0090】
2.結果
i)clpP突然変異体は、マウスで持続的な感染をもたらさない
本発明者は、clpP突然変異体が著しく弱毒された毒性を示したことを立証したことがある。cps2A、すなわち莢膜生合成遺伝子座の第1遺伝子の発現水準は、この菌株で熱ショック後に減少しなかったが、母菌株におけるcps2Aの発現は熱ショック後に著しく減少した。これは、全体的な毒性が減少したとしても、clpP突然変異体がストレス負荷時に宿主マクロファージに対して野生型水準の耐性を示さなければならないことを示唆する。これは慢性菌血症を引き起こすおそれがあり、この場合、細菌が宿主免疫系に浸透して宿主内で生存することができるが、D39のニューモリシン陰性突然変異体に対して従来立証されている現象である電撃性の疾患は誘発しない。
【0091】
このような仮説を確認するために、10匹のマウスに10cfuのclpP突然変異体を腹腔内注射し、感染後に眼窩後方から採血した。その結果、肺炎球菌は、感染後7日、14日及び21日目にいずれのマウスからも検出されておらず、これはclpP突然変異が持続的な感染を引き起こさないことを示す(データは表示せず)。
【0092】
ii)mRNA半減期の決定
本発明者は、clpP突然変異体において、熱ショック後にply mRNA発現は増加したが、同時にPly蛋白質及びPly溶血活性は増加しなかったことを最近立証した。ところが、野生型では、熱ショック後にply mRNA水準だけでなく、Ply蛋白質及び溶血活性が全て著しく増加した(前記Kwon, H. Y. et al., 2003)。
【0093】
このような不一致は、clpP突然変異体では高温でply mRNAが不安定であるためかも知れない。したがって、熱ショック(Heat Shock, HS)後に、ply mRNA分解動力学を調査した。30℃でmRNAの安定性を比較するために、リファンピシンを添加してmRNAのde novo合成を遮断し、その分解をcps2A及びply特異的プライマーを使用する実時間RT−PCRによってモニタリングした(図11a)。30℃でmRNA半減期を決定するために、肺炎球菌菌株をまず30℃で成長させた後、リファンピシンを添加した。リファンピシンを添加する前(30℃)とリファンピシンを添加した後10分(R10m)及び20分(R20m)目に、RNA抽出物に対する分取液を除去した(図11a)。熱ショック後にmRNA半減期を決定するために、肺炎球菌菌株を30℃で成長させた後(30℃)、42℃で熱ショックを加えた。42℃で10分後に、リファンピシンを添加した(HS)。熱ショック前後と42℃でリファンピシンを添加した後、10分(R−10m)及び20分(R−20m)目に、RNA抽出物に対する分取液を除去した(図11b)。mRNA半減期に及ぼす熱ショックの影響を決定するために、肺炎球菌菌株を30℃で成長させ(30℃)リファンピシンで10分間処理した後、42℃で熱ショックを加えた。RNA抽出物に対する分取液を、30℃でリファンピシンを添加する前及び後10分に引き抜いた後(R−10m)、熱ショック後10分(R+HS10m)及び20分(R+HS10m)に除去した(図11c)。RNA抽出物間に個別的なmRNA種の水準を内部16S rRNA対照に対して得た水準を参照して補正した。データポイントは、各RNA抽出物の4重サンプルの平均±標準偏差を示す。分解動力学を比較した結果、野生型及びclpP突然変異体のply mRNAの半減期は、それぞれ2.75分及び5.8分であった。これは、30℃で突然変異体のplyの半減期が野生型の半減期に比べて2.1倍さらに長いことを意味する(表5)。ところが、30℃で、clpP突然変異体におけるcps2A mRNAの分解は母菌株の分解と比較して只1.31倍に過ぎなかった(図11a及び表5)。このような結果は、ClpPプロテアーゼが知られていない方式によって30℃でcps2A及びply mRNAを分解させることができることを示唆する。
【0094】
【表5】

【0095】
mRNA半減期の測定のために、リファンピシン(100μg/ml)を添加し、培養懸濁液1.5mlを10分間隔で取って高温フェノール法を用い、これから全体RNAを抽出した。その後、実時間RT-PCRによってmRNA水準を決定した。指数値の総合に非線形最小二乗させてmRNA半減期を分析した。全ての実験は4重に行った。熱ショック後に転写体の安定性を比較するために、肺炎球菌細胞をまず30℃で成長させた後、温度を42℃に変化させた。全体RNAは、42℃でリファンピシンを添加して10分及び20分を経過した後だけでなく、42℃でリファンピシン添加直前に作られた。熱ショック後に、clpP突然変異体のply mRNA水準は7.5倍増加したが(図11b)、Ply蛋白質の水準は増加しておらず(データは表示せず)、これは本発明者の以前の結果を確証した。分解動力学のデータによれば、母菌株及びclpP突然変異体でply転写体の半減期がそれぞれ1.75分及び3.75分であり、これは、熱ショック後にclpP突然変異体でply mRNAが母菌株に比べて2.1倍さらに遅く分解されることを意味する。さらに、母菌株及びclpP突然変異体においてcps2A転写体の半減期はそれぞれ2.0分及び4.1分であり、これは熱ショック後にclpP突然変異体でcps2A mRNAが母菌株に比べて2.05倍さらに遅く分解されることを意味する(図11b)。
【0096】
熱ショック後に、ply及びcps2A mRNA転写体の半減期が30℃で母菌株及びclpP突然変異体の場合に比べて短くなったことを考慮すると、mRNA種が16S rRNAに比べて42℃でさらに迅速に分解され易いか、或いはClpP以外のHSPによってさらに迅速に分解されることが可能である。したがって、本発明者は、熱ショックそれ自体がply mRNAの半減期に影響を及ぼすことができるか否かを調査した。ply mRNA半減期に対する熱ショックの影響を究明するために、30℃で培養した細胞をリファンピシンで処理した後、熱ショックを加え、mRNAの分解動力学をRT−PCR分析によって決定した。このような条件の下で、cps2A及びply転写体は、両方とも母菌株及びclpP突然変異体で20分以上安定であった(図11c)。これは30℃で観察されたシナリオと相反した(図11a)。このような結果は転写体が42℃で熱ショックによって実際安定化されることを立証した(図11c)。
【0097】
iii)Plyの溶血活性はClpPによって活性化されない
ClpPの脱安定化作用は、plyプロセス産物及びply1次転写体の低い安定性をもたらすことが可能である。ply mRNAが熱ショックによって安定化されたとしても、Ply蛋白質の量またはその溶血活性の水準で相応する増加はなかった。このような不一致は、Plyが直接ClpPプロテアーゼによって活性化され、溶血活性が母菌株では増加することができるが、clpP突然変異体では増加することができないためである。
【0098】
このような仮説を立証するために、肺炎球菌細胞を30℃で培養した後、42℃で20分間熱ショックを加えた。前記細胞を0.1%のデオキシコール酸ナトリウムと共に37℃で10分間培養して溶解させた。次に、細胞溶解物をさらに37℃で20分、40分及び60分間培養し、Plyの溶血活性を決定した。野生型及びclpP突然変異体の両方ともにおいて、溶血活性は前記期間中に減少し、37℃でclpP突然変異体における溶血力価は母菌株における溶血力価と有意差はなかった。これはClpPプロテアーゼがPlyの溶血活性の活性化に必要でないことを示唆する(データは表示せず)。
【0099】
iv)熱ショック後のClpPの移動
抗−hsp100抗体を使用する免疫金標識法(immunogold labeling)によってhsp100の位置を測定した結果、hsp100は、酵母サッカロマイセス・セレビシエ (Saccharomyces cerevisiae)で熱ショック前後に細胞質及び核に位置するものと明らかになった(Fujita, K. et al., 1998, Hsp104 responds to heat and oxidative stress with different intracellular localization in Saccharomyces cerevisiae. Biochem. Biophys. Res. Commun. 248: 542-547)。バシラス・サブティラス(B. subtilis)では、抗体を用いた免疫金標識結果、ClpC及びClpX ATPaseが細胞外皮(envelope)及び細胞内部から検出され(Kruger, E. et al., 2000, The clp proteases of Bacillus subtilis are directly involved in degradation of misfolded proteins. J. Bacteriol. 182: 3259-3265)、これはhsp100、ClpC及びClpX蛋白質が熱ショック処理中に蛋白質凝集体と密接に関連があることを示唆する。
【0100】
本発明者は、肺炎球菌におけるClpPの位置を調べるために、莢膜菌株を用いてまず芽細胞蛋白質の分画化(fractionation)を試みた。ところが、1Mのスクロース緩衝液中で細胞を培養した後遠心分離した結果、厚い莢膜の存在によって細胞壁が原形質体から分離されなかった(データは表示せず)。したがって、莢膜のない菌株を位置測定実験に使用した。分画法は、熱ショック中または熱ショック後に細胞質内容物の部分的な溶解または漏洩を生じさせる可能性があるため、MDHを内部細胞質マーカーとして使用した。細胞壁におけるMDH活性は30℃で全体MDH活性の10%未満であった(データは表示せず)。さらに、細胞壁におけるMDHの活性は、熱ショック以後にも増加しなかった(データは表示せず)。これは熱ショックが細胞膜の溶解または漏洩を生じさせないことを示唆する。
【0101】
指数成長期の肺炎球菌CP1200細胞を42℃に20分間露出させて熱ショックを加えた後、細胞蛋白質を、スクロースで原形質形成を誘導した後、低張性緩衝液(材料及び方法編を参照)で溶解させて細胞壁、細胞膜及び細胞質に分画化した。次に、ClpPを可視化するために、ポリクロナール抗−ClpP抗体(ウサギにClpP蛋白質をalumと混ぜて2週間隔で3回皮下注入した後、血清を採取して得る)を使用する免疫ブロットで芽細胞分画を分析した。ClpPは、30℃では細胞質分画から主に検出されたが、細胞壁分画からはさらに少量検出された。ところが、熱ショック後には、細胞質及び細胞壁の両方ともにおいてClpPの量が増加し(図14)、これはClpPが正常温度で誘導されるが、熱ショック後にはさらに誘導されることを意味する。図14において、W:細胞壁、M:細胞膜及びC:細胞質を意味する。このような結果は、熱ショック後に相当量のClpPが細胞壁として用いることができるため、ClpPが細胞壁にある重要な役割を行うことができ、或いは蛋白質の分解に関与することができることを示唆する。
【0102】
v)clpP突然変異体のコロニー形成及び肺浸透性に対する結果
従来では、clpP突然変異体はマウス敗血症モデルで毒性が非常に弱化された(前記Kwon, H. Y. et al., 2003)。しかも、clpP突然変異体は、器官内試験感染後にマウスの肺に著しい水準でコロニーを形成せず、48時間の感染中に、死亡は記録されなかった(前記Robertson, G. T. et al., 2002)。ところが、肺炎球菌の侵入及び伝播は、その自然適所である鼻咽頭を介して行われるようである。
【0103】
したがって、鼻腔内試験感染後に肺炎球菌のコロニー形成に対するClpPの影響を評価した。非常に毒性の強い莢膜タイプ2菌株(D39)及びその同種遺伝子型clpP突然変異体(HYK302)で鼻腔内感染させた結果、clpP突然変異体は、48時間鼻粘膜及び肺に全くコロニーを形成していないと示された(図12a〜図12c)。これは付着性の欠陥を示唆する。
【0104】
また、肺炎球菌のClpCは付着性と関連があるものと明らかになった(Charpentier, E., R. Novak, and E. Tuomanen. 2000. Regulation of growth inhibition at high temperature, autolysis, transformation and adherence in Streptococcus pneumoniae by clpC. Mol Microbiol 37:717-726)。リステリア(Listeria)及びエルシニア(Yersinia)において、clpC (Rouquette, C., C. de Chastellier, S. Nair, and P. Berche. 1998. The ClpC ATPase of Listeria monocytogenes is a general stress protein required for virulence and promoting early bacterial escape from the phagosome of macrophages. Mol. Microbiol. 27: 1235-1245)、clpE (Nair, S., C. Frehel, L. Nguyen, V. Escuyer, and P. Berche. 1999. ClpE, a novel member of the HSP100 family, is involved in cell division and virulence of Listeria monocytogenes. Mol. Microbiol. 31: 185-196)及びclpP (前記Pederson, K. J. et al., 1997)の突然変異体は、宿主上皮細胞に対する付着性が減少したものと示された。
【0105】
したがって、宿主上皮細胞に対する付着性においてClpPの関連性を調査した。多糖類莢膜の存在が宿主細胞の表面に対する肺炎球菌の付着性を著しく弱化させるために、本発明者は、Rタイプ菌株を用いて付着及び浸透性に対するclpP突然変異の影響を決定した。RタイプclpP欠失突然変異体HYK2は、その同種遺伝子型母菌株と比較してA549ヒト肺細胞に対する付着及び浸透性に有意差を示さなかった(データは表示せず)。したがって、このような結果は、コロニーが形成できなかったことが付着性または浸透性の欠陥に起因するものではないことを示唆する。
【0106】
vi)マウスマクロファージRAW264.7細胞株におけるclpP突然変異体の生存減少
肺胞マクロファージは、肺炎球菌の侵入に対する宿主防御における1次的な要素である。(Knapp, S. et al., 2003, Alveolar macrophages have a protective antiinflammatory role during murine pneumococcal pneumonia. Am. J. Respir. Crit. Care Med. 167:171-179)。本研究において、clpP突然変異体は、その母菌株に比べて鼻粘膜のコロニー形成において欠陥があるものと観察されたため、これは、突然変異体がさらに遅く成長するうえ、肺炎球菌が迅速に除去(clearance)されるためであると推論された。
【0107】
したがって、マウスマクロファージRAW264.7細胞におけるclpP突然変異体の生存率を決定した(図13)。RAW264.7細胞の単層をRPMI1640培地中の約10CFUの肺炎球菌(細菌:細胞比=10:1)で感染させた後、相違した時点で取ってゲンタマイシンを処理した後、細胞内肺炎球菌を定量化した。各細菌菌株に対して3つの独立検定を3重に行った。D39母菌株は、検定過程中(8時間)にマクロファージ内で生存することができ、160CFUの水準に維持された反面、回復可能なclpP突然変異体の数は8時間の感染後に引き続き減少して0になった(図13)。マクロファージ細胞内においてclpP突然変異体の生存率が母菌株より感染5(P<0.01)、6(P<0.05)、8(P<0.01)時間後有意的に減少した(図13)。抗生剤を添加して2時間が経過した時、生存細胞の数は、抗生剤が添加された時点で存在する数の約半分になるであろう。ところが、実際CFUの数は予測より一層少なく、このような事実はclpP突然変異体の成長欠陥であるよりは、clpP突然変異体のマクロファージに対するストレス敏感性形質または感受性のためであることを示す。これはClpPがRAW264.7細胞で細胞内の生存に必要であることを示唆する。
【0108】
vii)clpP突然変異体のcps水準は野生型菌株と類似である
ストレプトコッカス・ミュータンス(Streptococcus mutans)及びシュードモナス・フルオレッセンス(Pseudomonas fluorescence)のclpP突然変異体において、菌膜水準は著しく減少した(Lemos, J. A., and R. A. Burne. 2002. Regulation and physiological significance of ClpC and ClpP in Streptococcus mutans. J. Bacteriol. 184:6357-6366)。したがって、これらの突然変異体において、cpsの量は母菌株タイプの場合に比べてさらに低いものと考慮された。
【0109】
これが肺炎球菌にも該当するか否かを調査するために、D39及びその同種遺伝子型clpP突然変異体を使用し、ポリクロナールタイプ2多糖類特異的抗血清を使用する免疫ブロット分析によってcpsの量を決定した。2つの培養物を同一の光学密度に調整して菌株の成長能力の偏差による差異が観察される可能性を排除させた。母菌株(D39)及びclpP突然変異体(HYK302)の両方ともにおいて、同量のcpsが検出された(データは表示せず)。これは、clpP突然変異体の毒性弱化はcps水準がより低いためではなかったことを示す。
【0110】
viii)マウスにおいてClpPによる肺炎球菌試験感染から保護
HSPは一部病原体で抗原として機能し、これら蛋白質は感染性疾患に対する防御機能をするものと知られた。また、ClpPが熱ショック後に細胞壁へ移動するので、肺炎球菌試験感染に対する前記蛋白質の防御誘導能を評価した。
【0111】
蛋白質をSDS−PAGEによって分離した後、ニトロセルロース上にエレクトロブロットした。次に、これらを前記蛋白質で免疫させたマウス群から収得した血清と反応させた。図15a及び図15bは、その結果を示す。図15a及び図15bにおいて、レーン1〜4のニトロセルロース膜のストリップは、それぞれAlPOアジュバント(レーン1)、PdB+AlPO(レーン2)、PspA+AlPO(レーン3)、及びClpP+AlPO(レーン4)で免疫させたマウスから得た血清と反応させた結果である。ClpPで免疫させたマウスは、抗原に対して強い特異的な抗体反応を誘導し、精製されたClpPで免疫させたマウスのプーリングされた血清のELISA力価は8,400±2250であり、これを精製されたPdBで免疫させたマウスから得た力価(8,000±600)及び精製されたPspAで免疫させたマウスから得た力価(8,300±2,400)と比較した。明礬(AlPO)アジュバント単独で免疫させたマウスは、検出限界100の力価を示した。D39の全体細胞溶解物に対する血清のウェスタン免疫ブロット結果も各抗原に対する抗体反応の特異性を立証した(図15a)。血清は精製されたそれぞれの蛋白質と特異的に反応した(図15b)。ところが、精製されたClpPの場合、若干の蛋白質分解産物が観察された。
【0112】
能動免疫/試験感染実験において、マウスを約7×10CFUのD39で試験感染させた。2匹のCBA/Nマウス群を、表示された抗原で免疫化させ、3回免疫後2週目に約7.5×10CFUの莢膜タイプ2菌株D39で試験感染させた。その結果を図16に示した。図16において、各データポイントはマウス1匹を示し、水平線は各群に対する中間生存時間を意味する。ClpPの投与を受けたマウスに対する中間生存時間は約2日であった(図16)。これは明礬アジュバントを単独で投与されたマウスに比べて有意的に長かった(P<0.01)。同様に、PspAの投与を受けたマウスに対する中間生存時間(2日)は、明礬アジュバントを単独で投与されたマウスに比べて有意性のある程度に長かった(P<0.001)。PdB(ニューモリシントキソイド)の投与を受けたマウスの場合、中間生存時間は約2.5日であった。また、これは明礬アジュバントを単独で投与されたマウスに比べて有意的に長かった(P<0.001)。ところが、ClpPを投与されたマウスに対する中間生存時間を、PdBまたはPspAを用いて得られた結果と比較したとき、有意すべき差はなかった。
【0113】
3.検討
本研究の目的は、肺炎球菌性疾患の発病において熱ショック蛋白質ClpPの役割を評価しようとすることにある。本発明者は、熱ショック後にclpP突然変異体においてply mRNA発現は増加するが、Plyの量または溶血活性が同時に増加しなかったことを立証した。このような矛盾は、clpP突然変異体においてply及びcps2A mRNAが30℃及び42℃の両方ともで安定しているので、ClpPが転写体の分解に対する寄与因子であることにあると思われる。しかも、熱ショック後にclpP突然変異体においてcps2A及びply mRNAの両方ともの半減期が野生型の場合に比べて2倍以上さらに長かった。これは、熱ショック後にmRNA種の半減期は、ClpPの不在下に増加することを明確に示す。Plyの溶血活性は、37℃で細胞溶解物の培養によってさらに増加されなかった。これはClpPがPlyの溶血活性の活性化に対する直接的な原因ではないことを示す。本発明者は、このような発見からcps2A及びply mRNAが転写後水準でClpPによって分解されるが、これに対する特定のメカニズムはまだ不明であると結論付けた。
【0114】
肺炎球菌において、cpsは重要な毒性因子であり、食細胞作用に対する抵抗性を提供する(Austrian, R. 1981. Some observations on the pneumococcus and on the current status of pneumococcal disease and its prevention. Rev. Infect. Dis. 3(Suppl.):S1S17)。ストレプトコッカス・ミュータンス(S. mutans)でclpP突然変異を形成させた結果、菌膜形成が80%減少したが(Lemos, J. A., and R. A. Burne. 2002. Regulation and physiological significance of ClpC and ClpP in Streptococcus mutans. J. Bacteriol. 184:6357-6366)、肺炎球菌のclpP突然変異体においてcpsの量は野生型と同一である。したがって、マクロファージ内でclpP突然変異体の生存率が減少し、鼻粘膜にコロニーが形成されなかったことは、cps水準に起因するものではなく、30℃及び37℃の両方ともで成長が減少したためであると思われる(前記Kwon, H. Y. et al., 2003)。また、これは、正常的にClpPプロテアーゼに対する標的になる変性蛋白質の蓄積によるストレス敏感性形質に起因するものであるかも知れない。一部病原体において、HSPは細胞の表面上に存在し、宿主細胞への付着を媒介することができる(Marcellaro et., 1998; 59, 60)。
【0115】
肺炎球菌(前記Charpentier, E. et al., 2000)及びリステリア・モノサイトゲネス(L. monocytogenes) (Nair, S., E. Milohanic, and P. Berche. 2000. ClpC ATPase is required for cell adhesion and invasion of Listeria monocytogenes. Infect. Immun. 68: 7061-7068)において、ClpCは細胞付着性及び毒性因子の発現に必要なものと明らかになり、肺炎球菌ClpC突然変異体はヒトタイプII肺胞細胞に対する付着性欠陥を示し、ニューモリシンまたはコリン結合蛋白質CbpA、CbpE、CbpFまたはCbpJを発現させなかった。これはClpCが付着性に対して多面発現効果(pleiotropic effect)を示すことを示唆する(前記Charpentier et. al. 等)。本研究において、本発明者は、肺炎球菌のclpP突然変異体の宿主細胞に対する付着及び浸透性は影響を受けなかったことを立証した(データは表示せず)。これは、CbpA及びPsaAのような蛋白質の発現において反作用に起因するかも知れない。熱ショック後に、付着性の純減少を示していないclpP突然変異体において、CbpAの発現は増加した反面、PsaAの発現はmRNA及び蛋白質水準の両方ともで著しく減少した(前記Kwon et al. 等)。
【0116】
hsp70及びhsp100ファミリーの分子シャペロンは、位置移動複合体と結合するものと明らかになり、これは位置移動前駆体と相互作用する(Berry, A.M. et al., 1989, Reduced virulence of a defined pneumolysin negative mutant of Streptococcus pneumoniae. Infect. Immun. 57:2037-2042; 前記Vijayakumar, M. N. et al., 1986)。最近、バシラス・サブティラス(B. subtilis)ClpC及びClpX ATPaseが細胞外皮及び細胞質から検出された(前記Kruger, E. et al., 2000)。このような研究において、熱ショック後にまたは他のストレスによってClp蛋白質それ自体の移動は立証されなかった。ところが、本研究では、肺炎球菌の生化学的分画化結果、熱ショック後に細胞壁分画でClpP量が相当増加するものと現われた。したがって、ClpPは熱ショック後に細胞壁分画へ移動するものと明らかになった最初のClp蛋白質であり、この蛋白質は宿主細胞と相互作用し、或いは輸送/移動される予定の肺炎球菌蛋白質を分解させることにより相互作用する。
【0117】
細菌HSPは、感染中に誘導され、細胞内蛋白質の適したフォールディングに作用する以外にも付着及び浸透性を媒介する(前記Charpentier等, 2000; 前記Nair等, 2000; Parsons, L. M., et al., 1997, Alterations in levels of DnaK and GroEL result in diminished survival and adherence of stressed Haemophilus ducreyi. Infect. Immun. 65:2413-2419)。本研究において、本発明者は、毒性D39で試験感染させる前に精製された肺炎球菌ClpPでマウスを免疫させると、特性が良く究明された肺炎球菌蛋白質ワクチン候補物のPspA及びPlyから得られる水準と対等な水準で全身性疾患に対する防御的免疫性が誘導されることを立証した。試験感染前に免疫されたマウスで強い抗原特異的抗体反応が生成されたという事実は、前記防御が少なくとも部分的に抗体によって媒介できることを示唆する。結論的に、cps2A及びplyの発現は、転写後の水準でClpPによって媒介できる。ClpPは、熱ショック後に細胞壁へ移動し、毒性肺炎球菌試験感染前に精製された蛋白質でマウスを免疫させた結果、全身性疾患に対する防御的免疫性が提供された。
【0118】
実施例3:肺炎球菌ClpPとヒトClpPの反応性検討
i)菌株及び培養
多糖類カプセルのない非病原性肺炎球菌(Rタイプ)ストレプトコッカス・ニューモニエ(Streptococcus pneumoniae)CP1200(前記Choi等、1999)菌株をCAT培地(Casitone 1%、Tryptone 0.5%、NaCl 0.5%、Yeast Extract 0.1%、0.175 M K2HPO4、及び glucose 0.2%)で培養し、多糖類カプセルを含有する病原性肺炎球菌D39(type 2; Avery Avery, O.T. et al., 1944. Studies on the chemical nature of the substance inducing transformation of pneumococcal types. Induction of transformation by a desoxyribonucleic acid fraction isolated from pneumococcus type III. J. Exp. Med. 79:137-158)と臨床で分離したSpn1049菌株(韓国の三星医療院で患者から分離された肺炎球菌であって、Optochinと胆汁酸に敏感であり、血液寒天培地で不完全溶血反応を示す)は、0.5%の酵母抽出物(yeast extract)を添加したTH(Todd-Hewitt)ブロス培地で培養した。サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)(ATCC 287)は、グルコースが2%含まれたYNB培地(Difco Laboratories, USA)で、ストレプトコッカス・サーモフィラス(Streptococcus thermophilus) (KCTC 3778)は、MRS培地(Difco Laboratories, USA)で、バシラス・サブティラス(Bacillus subtilis)Marburg菌株(Boylan SA, Chun KT, Edson BA, Price CW. Early-blocked sporulation mutations alter expression of enzymes under carbon control in Bacillus subtilis. Mol Gen Genet. 212(2):271-280 (1988))、シュードモナス・アエルギノーサ(Pseudomonas aeruginosa) (ATCC 15522)、チフス菌 (Salmonella typhi) (ATCC 27870)、E.coli DH5a(Bethesda Research Laboratory)はNutrient培地(Difco Laboratories, USA) で、ヒト肺癌細胞株A549(ATCC CCL 185)は10%のFBSと2%のペニシリンストレプトマイシン(penicillin streptomysin)含有のDMEM培地(Gibco BRL)でそれぞれ培養した。
【0119】
ii)免疫ブロット分析
肺炎球菌のClpPと他の生物体蛋白質との類似性を確認するために、抗ClpP抗体と免疫ブロットを行った。肺炎球菌といろいろの生物体の溶解液を10%のポリアクリルアミドゲル(polyacrylamide gel)で電気泳動し、ニトロセルロース膜に転移させた後、抗ClpP抗体と免疫ブロットした後、酵素で標識された2次抗体(secondary antibody)を用いて検索した。すなわち、ニトロセルロースを、2%のTween20を含有するトリス緩衝塩水(Tris-buffered saline) (TBS; 50 mM Tris, 150 mM NaCl [pH 7.2]) 溶液で処理して非特異的な抗原−抗体反応をブロッキングさせた後、0.05%のTween20を含有するTBS溶液でウサギ抗−ClpP抗血清と室温で1時間徐々に揺すりながら 反応させた。HRP(Horse radish peroxidase)−コンジュゲーションヤギ抗−ウサギ免疫グロブリンG(IgG)抗体を2次抗体(secondary antibody)として用いて、0.05%のTween20を含有するTBS溶液で1:1000にて希釈して反応させ、過酸化水素と95%のエタノールで溶解されたN’,N’,N’,N’−4メチルベンジジンをそれぞれ基質と発色剤で反応させた。
【0120】
iii)ClpP蛋白質のアミノ酸配列比較
National Center of Biotechnology Information(NCBI, U.S.A.)から提供するBLAST検索を用いて肺炎球菌clpPと隣接した遺伝子を確認し、かつ他の生物体のClpP蛋白質との類似性を確認した。BLAST検索を行ったとき、肺炎球菌clpPの塩基配列から類推されたアミノ酸配列は、他の生物体のClpPと高い類似性を示した。特に、ストレプトコッカス・サリバリウス(Streptococcus salivarius)とストレプトコッカス・アガラクチェ(Streptococcus agalactiae)のClpP蛋白質とはそれぞれ88%及び87%一致し(identity) 、91%及び92%の類似性(similarity)を示した。また、ラクトコッカス・ラクチス(L. lactis)ClpPと89%、エンテロコッカス・フェカーリス(Enterococcus faecalis)ClpPと81%、スタフィロコッカス・アウレウス(Staphylococcus aureus)ClpPと79%、バシラス・サブティラス(B. subtilis)ClpPと75%の類似性をそれぞれ示す。特に、ホモサピエンス(Homo sapiens) とは70%の類似性を示した。ClpP蛋白質のアミノ酸配列を比較した結果、全体的に高い水準の類似性を示し、特にセリンプロテアーゼの活性部位として推定されるセリン−96、ヒスチジン−121、アスパテート−172残基部分が非常に高い水準の保存性を示した。
【0121】
iv)肺炎球菌ClpPと他のClpPメンバーとの類似性
現在、肺炎球菌DnaKは、抗原性が高く(Hamel J, Martin D, Brodeur BB. Heat shock response of Streptococcus pneumoniae: identification of immunoreactive stress proteins. Microb Pathog. 23(1):11-21 (1997))、肺炎球菌DnaK抗体がヒト蛋白質と反応せず(Kim SW, Choi IH, Kim SN, Kim YH, Pyo SN, Rhee DK. Molecular cloning, expression, and characterization of dnaK in Streptococcus pneumoniae. FEMS Microbiol Lett. 161(2):217-224 (1998))、ワクチン候補物質として評価されているので、ClpPに対してもこのような可能性を調査した。まず、ClpP蛋白質が他の生物体のClpPファミリーと類似であるか否かを確認するために、他の細菌または高等生物体の細胞溶解液と免疫ブロットを行った。予想とは異なり、グラム陽性菌であるストレプトコッカス・サーモフィラス(Streptococcus thermophilus, Sth)と肺炎球菌D39(D39)及び臨床で分離された肺炎球菌(Spn1049)とは反応したが、E.coli(Eco)、サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae, Sce)、バシラス・サブティラス(B. subtilis, Bsu)、シュードモナス・アエルギノーサ(Psuedomonas aeruginosa, Pae)、チフス菌(Salmonella typhi, Sty)及びヒト肺癌細胞株A549の細胞蛋白質とは全く反応しなかった。その結果を図17a及び図17bに示した。このような結果は、肺炎球菌のClpP蛋白質がDnaKのようにワクチン候補物質として使用できることを提示する。
【図面の簡単な説明】
【0122】
【図1】pET30(a)−ClpP発現ベクターの構造を示す図である。
【図2】pKHY004発現ベクターの構造を示す図である。
【図3】肺炎球菌clpL遺伝子座の相対的位置を示す図である。
【図4a】肺炎球菌における熱ショック後の熱ショック蛋白質の一時的誘導及び安定性に関する実験結果を示す図である。
【図4b】肺炎球菌における熱ショック後の熱ショック蛋白質の一時的誘導及び安定性に関する実験結果を示す図である。
【図4c】肺炎球菌における熱ショック後の熱ショック蛋白質の一時的誘導及び安定性に関する実験結果を示す図である。
【図5a】熱ショック後にClpLが引き続き増加することを示す図である。
【図5b】熱ショック後にClpLが引き続き増加することを示す図である。
【図6a】肺炎球菌D39及びそのclpL及びclpP突然変異体の成長を示す図である。
【図6b】肺炎球菌D39及びそのclpL及びclpP突然変異体の成長を示す図である。
【図6c】肺炎球菌D39及びそのclpL及びclpP突然変異体の成長を示す図である。
【図7a】肺炎球菌1200のclpP突然変異体におけるClpLの誘導結果を示す図である。
【図7b】肺炎球菌1200のclpP突然変異体におけるClpLの誘導結果を示す図である。
【図8】熱ショックによる毒性関連遺伝子の誘導を示す図である。
【図9】肺炎球菌D39、clpL及びclpP突然変異体で熱ショック前後に実時間RT−PCRによって測定したcbpA、cps2A、ply及びpsaAの相対mRNA濃度を示す図である。
【図10】腹腔内試験感染後のマウスの生存時間を示す図である。
【図11a】cps2A及びplyの相対mRNAの安定性を実時間RT−PCRによって検出した結果を示す図である。
【図11b】cps2A及びplyの相対mRNAの安定性を実時間RT−PCRによって検出した結果を示す図である。
【図11c】cps2A及びplyの相対mRNAの安定性を実時間RT−PCRによって検出した結果を示す図である。
【図12a】肺炎球菌D39及びその同種遺伝子型clpP誘導体で鼻腔内試験感染させた後、4日間のCD1マウスの鼻咽頭からの細菌回復について評価した結果を示す図である。数値は平均±各時点に対する平均(n=5)の標準誤差である。
【図12b】肺炎球菌D39及びその同種遺伝子型clpP誘導体で鼻腔内試験感染させた後、4日間のCD1マウスの鼻咽頭からの細菌回復について評価した結果を示す図である。数値は平均±各時点に対する平均(n=5)の標準誤差である。
【図12c】肺炎球菌D39及びその同種遺伝子型clpP誘導体で鼻腔内試験感染させた後、4日間のCD1マウスの鼻咽頭からの細菌回復について評価した結果を示す図である。数値は平均±各時点に対する平均(n=5)の標準誤差である。
【図13】マクロファージ細胞における肺炎球菌clpP突然変異体の生存率を示す図である。
【図14】熱ショック後のClpPの転移を示す図である。
【図15a】蛋白質抗原に対する抗体反応の特異性を示す、肺炎球菌D39の全体細胞溶解物(図15a)及びPdB(53kDa)、PspA断片(43kDa)及びClpP(21kDa)の精製された製造物(図15b)のウェスタン免疫ブロット分析を示す図である。
【図15b】蛋白質抗原に対する抗体反応の特異性を示す、肺炎球菌D39の全体細胞溶解物(図15a)及びPdB(53kDa)、PspA断片(43kDa)及びClpP(21kDa)の精製された製造物(図15b)のウェスタン免疫ブロット分析を示す図である。
【図16】肺炎球菌ClpP及び既存の知られた抗原蛋白質で3回免疫させた後、毒性のあるD39菌株を腹腔内試験感染させたときのマウスの生存時間を示す図である。
【図17a】肺炎球菌ClpP抗体と他の生物体由来蛋白質との反応性を示す免疫ブロット実験結果を示す(図面左側の数字は蛋白質の分子量を示し、D39、Spn1049はそれぞれ肺炎球菌D39と臨床菌株1049菌株を示す。Sthはストレプトコッカス・サーモフィラス(Streptococcus thermophilus)、A549はヒト肺癌A549細胞株、Sceはサッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)、Bsuはバシラス・サブティラス(Bacillus subtilis)、Paeはシュードモナス・アエルギノーサ(Pseudomonas aeruginosa)、EcoはE.coli、Styはチフス菌(Salmonella typhi)などを示す)図である。
【図17b】肺炎球菌ClpP抗体と他の生物体由来蛋白質との反応性を示す免疫ブロット実験結果を示す(図面左側の数字は蛋白質の分子量を示し、D39、Spn1049はそれぞれ肺炎球菌D39と臨床菌株1049菌株を示す。Sthはストレプトコッカス・サーモフィラス(Streptococcus thermophilus)、A549はヒト肺癌A549細胞株、Sceはサッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)、Bsuはバシラス・サブティラス(Bacillus subtilis)、Paeはシュードモナス・アエルギノーサ(Pseudomonas aeruginosa)、EcoはE.coli、Styはチフス菌(Salmonella typhi)などを示す)図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
組み換え肺炎球菌ClpP蛋白質を抗原として含むワクチン。
【請求項2】
アジュバントをさらに含む、請求項1記載のワクチン。
【請求項3】
アジュバントが明礬である、請求項2記載のワクチン。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項のワクチンをヒトまたは動物に免疫学的有効量投与してヒトまたは動物を肺炎球菌感染症に対して免疫化させる方法。
【請求項5】
肺炎球菌感染症が細菌性肺炎、中耳炎、菌血症または髄膜炎である、請求項4記載の方法。
【請求項6】
i)肺炎球菌ClpPをコードするDNA塩基配列が作動的に結合した発現ベクターを提供する段階と、
ii)前記i)の発現ベクターを宿主細胞に導入する段階と、そして
iii)宿主細胞から組み換え肺炎球菌ClpPを分離精製する段階
を含む組み換え肺炎球菌ClpPを製造する方法。
【請求項7】
発現ベクターがpET30(a)−clpPである、請求項6記載の方法。
【請求項8】
宿主細胞が大腸菌である、請求項6または7記載の方法。
【請求項9】
請求項6または7の方法によって製造された組み換え肺炎球菌ClpPを抗原として含むワクチン。
【請求項10】
請求項8の方法によって製造された肺炎球菌ClpPを抗原として含むワクチン。
【請求項11】
弱毒化された肺炎球菌clpP突然変異体を含むワクチン。
【請求項12】
肺炎球菌clpP突然変異体が、95個の塩基配列(206番目〜300番目)が欠失された突然変異体である、請求項10記載のワクチン。
【請求項13】
clpP突然変異体がHYK2またはHYK302である、請求項11記載のワクチン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図13】
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【図14】
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【図16】
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【公表番号】特表2007−528839(P2007−528839A)
【公表日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−512815(P2005−512815)
【出願日】平成15年12月31日(2003.12.31)
【国際出願番号】PCT/KR2003/002929
【国際公開番号】WO2005/063283
【国際公開日】平成17年7月14日(2005.7.14)
【出願人】(504447132)スンギュンカン ユニバーシティ (1)
【出願人】(504446478)アデレード リサーチ アンド イノベーション ピーティーワイ エルティーディー(エイアールアイ) (1)
【Fターム(参考)】