説明

組成物、リチウムイオン二次電池負極材用炭素複合材、リチウムイオン二次電池用負極合剤、リチウムイオン二次電池用負極、及びリチウムイオン二次電池

【課題】充放電容量密度と、充放電サイクル特性を一層向上させたリチウムイオン二次電池を提供し得るリチウムイオン二次電池負極材用炭素複合材、リチウムイオン二次電池用負極合剤、リチウムイオン二次電池用負極及びリチウムイオン二次電池を提供すること。
【解決手段】リチウムイオン二次電池負極材用炭素複合材を形成するために用いる熱処理前の組成物であって、シリカ粒子と、フェノール樹脂を含有し、前記シリカ粒子の含有量が、前記フェノール樹脂を熱処理した後の残炭率をA重量%としたとき、前記シリカ粒子およびフェノール樹脂の合計重量に対し、100A/(100+A)重量%以上、4900A/(100+49A)重量%以下であることを特徴とする組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、組成物、リチウムイオン二次電池負極材用炭素複合材、リチウムイオン二次電池用負極合剤、リチウムイオン二次電池用負極、及びリチウムイオン二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
電子機器類のポータブル化、コードレス化が進むにつれ、リチウムイオン二次電池の小型軽量化或いは高エネルギー密度化が、より一層求められている。リチウムイオン二次電池を高密度化するため、負極材として、リチウムと合金化するケイ素、スズ、ゲルマニウム、マグネシウム、鉛、アルミニウム又はこれらの酸化物若しくは合金を採用することが知られている。しかしながら、上述のような負極材は、リチウムイオンの挿入・脱離反応に伴う体積変化が大きいことから、充放電サイクルの繰り返しに応じて負極が崩壊するおそれがあることが知られている。
【0003】
上記問題を克服するため、さまざまな手法、手段が検討されているが、リチウムイオン二次電池用負極材に金属および酸化物を用いた場合に充放電特性を安定化させることは難しいのが現状である。そこで、例えば、特許文献1には、SiO(0.5≦X<2)で示される酸化珪素と、リチウムイオンの吸脱着可能な導電性物質とからなることを特徴とする複合体が提案されている。特許文献1によると、その複合体は、蓄電デバイス用電極材料として好適であり、高い放電容量と良好なサイクル特性を示すので特にリチウムイオン二次電池用負極材として好ましく使用されると述べられている。しかし、酸化ケイ素と導電性物質とを相分離させないでそれらを均質にした複合体(前駆体)では、リチウムイオンの挿入・脱離反応に伴う体積変化を抑えることが困難であり、その結果負極が崩壊するおそれがある。また、SiC等の成分が生成し、前記シリカ粒子の還元反応が十分に進まず、十分な充放電容量密度が得られない場合がある。
【0004】
また、例えば、特許文献2に開示されているように、充放電サイクル特性に優れたリチウムイオン二次電池用負極材として、リチウム合金を形成しうる金属の粒子表面を有機物で被覆した負極活物質が提案されている。特許文献2に記載の負極材によると、リチウムイオンを吸蔵する際に起こる膨張を抑えるために、金属粒子の一次粒子平均粒径が500〜1nmのものが用いられると記載されている。しかし、用いる金属粒子の一次粒子径を小さくしたのみでは、場合によっては充電時のリチウムイオン吸蔵における金属粒子の膨張を抑えることは困難であり、その結果負極が崩壊するおそれがある。
【0005】
上記、2つの特許文献に記載のリチウムイオン二次電池用負極(電極材料)は、いずれもリチウムと合金化する金属を炭素で被覆、若しくは処理することによって、充放電サイクルによる負極活物質の体積変化をある程度は抑え込んでいる。しかしながら、上記2つの特許文献に記載の発明では、さらなる高容量化が難しく、また、充放電サイクルによる負極崩壊を十分に抑えることができず、リチウムイオン二次電池用負極の充放電容量密度と、充放電サイクル特性が十分であるとはいえない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−220411号公報
【特許文献2】特開2007−214137号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、充放電容量密度と、充放電サイクル特性を一層向上させたリチウムイオン二次電池を提供しうる組成物、リチウムイオン二次電池負極材用炭素複合材、リチウムイオン二次電池用負極合剤、リチウムイオン二次電池用負極及びリチウムイオン二次電池を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
このような目的は、下記(1)〜(16)の本発明により達成される。
(1)リチウムイオン二次電池負極材用炭素複合材を形成するために用いる熱処理前の組成物であって、シリカ粒子と、フェノール樹脂を含有し、前記シリカ粒子の含有量が、前記フェノール樹脂を熱処理した後の残炭率をA重量%としたとき、前記シリカ粒子およびフェノール樹脂の合計重量に対し、100A/(100+A)重量%以上、4900A/(100+49A)重量%以下であることを特徴とする組成物。
(2)前記フェノール樹脂を熱処理した後の残炭率が、10重量%以上、40重量%以下である上記(1)に記載の組成物。
(3)前記シリカ粒子の平均粒径が1nm以上、50nm以下である上記(1)または(2)に記載の組成物。
(4)前記シリカ粒子がコロイダルシリカである上記(1)〜(3)のいずれか1つに記載の組成物。
(5)前記シリカ粒子のイオンクロマト法により抽出されるナトリウムイオン含有率が前記シリカ粒子全体の、0.0001重量%以上、5重量%以下である上記(1)〜(4)のいずれか1つに記載の組成物。
(6)前記フェノール樹脂が、水溶性フェノールである上記(1)〜(5)のいずれか1つに記載の組成物。
(7)前記組成物中に、空隙形成剤を含むことを特徴とする上記(1)〜(6)のいずれか1つに記載の組成物。
(8)前記空隙形成剤が共重合体粒子である上記(7)に記載の組成物。
(9)前記共重合体粒子がスチレンブタジエンゴム共重合体粒子である上記(8)に記載の組成物。
(10)上記(1)〜(9)のいずれか1つに記載の組成物を混合し、熱処理することにより得られることを特徴とするリチウムイオン二次電池負極材用炭素複合材。
(11)前記熱処理により、前記シリカ粒子が還元されたSiO(0<X<2)が、前記炭素複合材に対する質量比で50重量%以上、98重量%以下含まれる上記(10)に記載のリチウムイオン二次電池負極材用炭素複合材。
(12)前記炭素複合材が空隙を有する上記(10)または(11)に記載のリチウムイオン二次電池負極材用炭素複合材。
(13)前記炭素複合材のイオンクロマト法により抽出されるナトリウムイオン含有率が前記炭素複合材全体の0.0001重量%以上、5重量%以下である上記(11)〜(12)のいずれか1つに記載の組成物。
(14)上記(11)〜(13)のいずれか1つに記載のリチウムイオン二次電池負極材用炭素複合材と結着剤とを含むことを特徴とするリチウムイオン二次電池用負極合剤。
(15)上記(14)に記載のリチウムイオン二次電池用負極合剤を含むことを特徴とするリチウムイオン二次電池用負極。
(16)上記(15)に記載のリチウムイオン二次電池用負極を含むことを特徴とするリチウムイオン二次電池。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、リチウムイオン二次電池の充放電サイクル特性を一層向上させ、さらに充放電容量密度をも高めた組成物、リチウムイオン二次電池負極材用炭素複合材、リチウムイオン二次電池用負極合剤、リチウムイオン二次電池用負極及びリチウムイオン二次電池を提供することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の組成物、リチウムイオン二次電池負極材用炭素複合材、リチウムイオン二次電池用負極合剤、リチウムイオン二次電池用負極及びリチウムイオン二次電池について詳細に説明する。
【0011】
本発明の組成物は、リチウムイオン二次電池負極材用炭素複合材を構成する組成物であって、シリカ粒子と、フェノール粒子と、を含み、前記シリカ粒子の含有量は、前記フェノール樹脂を熱処理した後の残炭率をA重量%としたとき、前記シリカ粒子およびフェノール樹脂の合計重量に対し、100A/(100+A)重量%以上、4900A/(100+49A)重量%以下であることを特徴とする。
【0012】
本発明のリチウムイオン二次電池負極材用炭素複合材は、前記組成物を混合し、熱処理することにより得られることを特徴とする。
【0013】
本発明のリチウムイオン二次電池用負極合剤は、前記リチウムイオン二次電池負極材用炭素複合材と結着剤とを含むことを特徴とする。
【0014】
本発明のリチウムイオン二次電池用負極は、前記リチウムイオン二次電池用負極合剤を含むことを特徴とする。
【0015】
本発明のリチウムイオン二次電池は、前記リチウムイオン二次電池用負極を含むことを特徴とする。
【0016】
[組成物]
まず、本発明の組成物について説明する。
【0017】
本発明の組成物は、リチウムイオン二次電池負極材用炭素複合材を形成するために用いる熱処理前の組成物であって、シリカ粒子と、フェノール樹脂を含有し、前記シリカ粒子の含有量が、前記フェノール樹脂を熱処理した後の残炭率をA重量%としたとき、前記シリカ粒子およびフェノール樹脂の合計重量に対し、100A/(100+A)重量%以上、4900A/(100+49A)重量%以下であることを特徴とする組成物。
【0018】
前記組成物に含まれるシリカ粒子は、熱処理によって還元され、SiO(0<X<2)で示される酸化ケイ素となるものが好ましく、リチウムイオン二次電池において高い充放電容量密度を示すものである。前記シリカ粒子としては、特に限定されないが、環境対応性、コスト、噴霧のしやすさの観点から、シリカ粒子を水等の分散媒に分散させた分散体であるコロイダルシリカを用いることが好ましい。
【0019】
前記シリカ粒子は、特に限定されないが、イオンクロマト法により抽出されるナトリウムイオン含有率が前記シリカ粒子全体の、0.0001重量%以上、5重量%以下であることが好ましく、さらに好ましくは、0.001重量%以上、3重量%以下であり、最も好ましくは、0.01重量%以上、1重量%以下である。ナトリウムイオン含有率が前記下限値未満である場合、ナトリウムイオンの量が少なすぎてシリカ粒子の結晶化を抑制できず、シリカ粒子の還元が十分進まないため、十分な充放電容量が得られない場合がある。また、ナトリウムイオン含有率が前記上限値を超える場合、ナトリウムイオンの量が多すぎて、シリカ粒子の還元が十分進まず、十分な充放電容量が得られない場合がある。ここで、イオンクロマト法により抽出されるナトリウムイオン含有率は、例えば、イオンクロマト装置(ダイオネクスICS2000型イオンクロマトグラフ)に熱水抽出液及び標準溶液を導入し、検量線法により、ナトリウムイオン濃度を求め、試料からの溶出イオン量として算出することができる。
【0020】
前記シリカ粒子の平均粒径については、特に限定されないが、1nm以上、50nm以下が好ましく、5nm以上、30nm以下がさらに好ましく、最も好ましくは、7nm以上、20nm以下である。シリカ粒子の平均粒径が前記下限値未満であると、前記熱処理において、SiC等の成分が生成し、前記シリカ粒子の還元反応が十分に進まず、高い充放電容量密度を示すリチウムイオン二次電池を得ることができない場合がある。また、シリカ粒子の平均粒径が前記上限値を超えると、リチウムイオン二次電池負極材用炭素複合材の内部まで前記シリカ粒子の還元反応が進まず、リチウムイオン二次電池としたときに、十分高い充放電容量密度を発現しない場合や、残存成分の影響で、シリカ粒子から還元されたSiO(0<X<2)で示される酸化ケイ素がSiOに戻ってしまい、充放電容量密度が低下してしまう場合がある。
【0021】
ここで、前記シリカ粒子の平均粒径は、平均粒径が100nm未満の場合は、動的光散乱装置(例えば、マルバーン社製、ゼータサイザーナノZS)を用いて測定することができる。この場合、Z平均粒径を平均粒子径として定めた。また、平均粒径が100nm以上の場合は、レーザー回折式粒度分布測定装置(例えば、堀場製作所製、LA−920)により測定することができる。この場合、体積換算で頻度が50%となる粒子径を平均粒子径D50%として定めた。
【0022】
前記シリカ粒子の含有量は、特に限定されないが、熱処理後のフェノール樹脂の残炭率に影響されるので、フェノール樹脂を熱処理した後の残炭率をA重量%としたとき、前記組成物中のフェノール樹脂とシリカ粒子の合計重量に対し、前記シリカ粒子の含有量は、100A/(100+A)重量%以上、4900A/(100+49A)重量%以下で含むのが好ましく、さらに好ましくは、700A/(300+7A)重量%以上、1900A/(100+19A)重量%以下、最も好ましくは、100A/(25+A)重量%以上、9300A/(700+93A)重量%以下である。シリカ粒子の含有量が前記下限値未満である場合、シリカ粒子の充填量が足らず、十分な充放電容量が得られない場合がある。また、シリカ粒子の含有量が前記上限値を超える場合、シリカ粒子同士が融合し、フェノール樹脂が炭化することによりできる炭素のネットワークが十分確保できず、また、シリカ粒子を十分に還元できず、十分な充放電容量が得られない場合がある。
【0023】
前記熱処理後のフェノール樹脂の残炭率Aは、フェノール樹脂仕込み量をa、シリカ粒子仕込み量をb、熱処理後の炭素複合材を示差熱熱重量同時測定装置(TG/DTA)(セイコーインスツルメンツ(株)製、TG/DTA6200)を用い、昇温速度10℃/分で室温から800℃まで昇温し測定した場合の重量減少分をc、重量残存分をdとした時、残炭率A=((b×c)/(a×d))×100で算出できる。フェノール樹脂の仕込み量は、例えば、水溶性フェノール樹脂の場合、GPCの測定結果から系中に含まれるすべての樹脂成分の重量分率(重量%)を樹脂成分濃度として求め、それと使用する水溶性フェノール樹脂の重量との積で算出できる。また、シリカ粒子仕込み量は、例えば、コロイダルシリカの場合、コロイダルシリカ水溶液を所定量乾燥させ、残存する固形分重量からシリカ粒子濃度を求め、それと使用するコロイダルシリカ水溶液の積で算出できる。
【0024】
前記組成物に含まれるフェノール樹脂は、熱処理により炭化される。炭化されたフェノール樹脂は、リチウムイオン二次電池において導電性付与効果を示す。前記フェノール樹脂としては、分子内にフェノール性水酸基を1つ以上有する化合物が含まれ、例えば、ノボラック型フェノール、ノボラック型クレゾール、ノボラック型ナフトールなどのノボラック樹脂やビスフェノールF、ビスフェノールAなどのビスフェノール樹脂、パラキシリレン変性フェノール樹脂などのフェノールアラルキル樹脂、ジメチレンエーテル型レゾール、メチロール型フェノール等のレゾール型フェノール樹脂、前記樹脂等をさらにメチロール化させた化合物、フェノール性水酸基を1つ以上含むリグニンやリグニン誘導体、リグニン分解物、さらにリグニンやリグニン誘導体、リグニン分解物を変性したもの、あるいはこれらを石油資源から製造されたフェノール樹脂と混合した物を含むものが挙げられる。また、これらの混合物であっても良く、フェノール樹脂合成・生成段階で生ずる尿素樹脂や水酸化ナトリウムなどを含有していても良い。なかでも、環境対応性、コスト、空隙形成剤等との混ざり易さの観点から、水溶性フェノール樹脂を用いることが好ましい。
【0025】
前記フェノール樹脂は、特に限定されないが、熱処理した後の残炭率が、10重量%以上、40重量%であることが好ましく、さらに好ましくは、15重量%以上、30重量%以下である。熱処理した後の残炭率が前記下限値未満である場合、空隙の存在による炭素複合材の機械強度低下を招き、サイクル特性が十分でない場合がある。また、熱処理時の揮発成分が多すぎてシリカ粒子を十分に還元できず、十分な充放電容量が得られない場合がある。一方、熱処理した後の残炭率が前記上限値を超える場合、熱処理後の炭素複合材中に十分な空隙を形成できず、充放電サイクル特性が悪化する場合がある。
【0026】
炭化されることにより導電性付与効果を示す材料として、フェノール樹脂以外に黒鉛前駆体であるコークスやポリ塩化ビニル炭が挙げられるが、これらは熱処理に必要な温度が2500℃以上と高温であり、この場合、シリカ粒子は還元されず結晶化してしまうため、高い充放電容量密度を示さない。これに対し、フェノール樹脂を用いた場合、熱処理に必要な温度が比較的低温(400℃〜1400℃)であり、この場合、十分にシリカ粒子の還元反応が進み、高い充放電容量密度を示すリチウムイオン二次電池を得ることができる。
【0027】
前記フェノール樹脂の含有量は、特に限定されないが、熱処理後のフェノール樹脂の残炭率に影響されるので、フェノール樹脂を熱処理した後の残炭率をA重量%としたとき、前記組成物中のフェノール樹脂とシリカ粒子の合計重量に対し、前記フェノール樹脂の含有量は、100−[4900A/(100+49A)]重量%以上、100−[100A/(100+A)]重量%以下で含むのが好ましく、さらに好ましくは、100−[1900A/(100+19A)]重量%以上、100−[700A/(300+7A)]重量%以下、最も好ましくは、100−[9300A/(700+93A)]重量%以上、100−[100A/(25+A)]重量%以下である。
【0028】
前記フェノール樹脂は、特に限定されないが、イオンクロマト法により抽出されるナトリウムイオン含有率が前記フェノール樹脂全体の、5重量%以下であることが好ましく、さらに好ましくは、3重量%以下であり、最も好ましくは、1重量%以下である。ナトリウムイオン含有率が前記上限値を超える場合、ナトリウムイオンの量が多すぎて、シリカ粒子の還元が十分進まず、十分な充放電容量が得られない場合がある。ここで、イオンクロマト法により抽出されるナトリウムイオン含有率は、例えば、イオンクロマト装置(ダイオネクスICS2000型イオンクロマトグラフ)に熱水抽出液及び標準溶液を導入し、検量線法により、ナトリウムイオン濃度を求め、試料からの溶出イオン量として算出することができる。
【0029】
前記組成物は空隙形成剤を含んでいても良く、前記熱処理により、空隙形成剤が揮発することで、リチウムイオン二次電池負極材用炭素複合材内に空隙を形成させる。これにより、リチウムイオン二次電池におけるサイクル特性を向上させることができる。前記空隙形成剤としては、揮発して空隙を形成できるものであれば、特に制限されないが、熱可塑性樹脂やエラストマーが用いられる。熱可塑性樹脂の具体例としてはポリカルボシラン、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、ポリアクリル酸、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース等が挙げられ、エラストマーの具体例としては、スチレンブタジエンゴム、ニトリルブタジエンゴム、アクリル酸エステル系、酢酸ビニル系、メチルメタクリレートブタジエンゴム、クロロプレンゴム、カルボキシ変性スチレンブタジエンゴムや、これらを水等に分散させたラテックスなどが挙げられる。
なかでも、空隙の大きさの制御や形状を制御し易い、スチレンブタジエンゴムなどの微粒子が分散したラテックス溶液を用いることが好ましい。
【0030】
前記空隙形成剤の含有量は、特に限定されないが、前記シリカ粒子と空隙形成剤の合計重量に対し、1重量%以上、50重量%以下で含むのが好ましく、さらに好ましくは、5重量%以上、10重量%以下である。空隙形成剤の含有量が前記下限値未満であると、前記炭素複合材内に十分に空隙が形成されず、リチウムイオンの吸蔵による炭素複合材の膨張を抑えることができない場合がある。また、空隙形成剤の含有量が前記上限値を超えると、空隙の存在による炭素複合材の機械強度低下を招き、サイクル特性が十分でない場合がある。
【0031】
前記空隙形成剤の平均粒径は、特に限定されないが、10nm以上、1000nm以下が好ましく、さらに好ましくは、20nm以上、800nm以下である。空隙形成剤の平均粒径が前記下限値未満であると、リチウムイオンの吸蔵による炭素複合材の膨張収縮を抑えることができない場合がある。また、空隙形成剤の平均粒径が前記上限値を超えると、空隙の存在による炭素複合材の機械強度低下を招き、サイクル特性が十分でない場合がある。
【0032】
ここで、前記空隙形成剤の平均粒子径は、平均粒径が100nm未満の場合は、動的光散乱装置(例えば、マルバーン社製、ゼータサイザーナノZS)を用いて測定することができる。この場合、Z平均粒径を平均粒子径として定めた。また、平均粒子径が100nm以上の場合は、レーザー回折式粒度分布測定装置(例えば、堀場製作所製、LA−920)により測定することができる。この場合、体積換算で頻度が50%となる粒子径を平均粒子径D50%として定めた。
【0033】
前記組成物には、さらにフェノール樹脂硬化剤(例、ヘキサメチレンテトラミン)等の添加剤を含めてもよく、その場合、添加剤も炭素複合材の一部となり得る。また、組成物を水等の分散媒に分散されたスラリー状としてもよく、そのための分散媒等を含んでいてもよい。
【0034】
[リチウムイオン二次電池負極材用炭素複合材]
次に、本発明のリチウムイオン二次電池負極材用炭素複合材について説明する。
【0035】
本発明のリチウムイオン二次電池負極材用炭素複合材は、前記組成物を混合し、熱処理することにより得られることを特徴とする。
【0036】
前記シリカ粒子と、フェノール樹脂と、を含む組成物を混合する方法に特に制限はなく、ホモディスパー、ホモジナイザー等の撹拌機による溶融又は溶液混合;遠心粉砕機、自由ミル、ジェットミル等の粉砕機による粉砕混合;乳鉢、乳棒による混練混合;等を採用することができる。前記シリカ粒子と、フェノール樹脂と、を混合する順序にも特に制限はない。前記シリカ粒子と、フェノール樹脂と、を混合して、前駆体とする上で、溶媒を用いてスラリー状混合物としてもよいし、前記シリカ粒子と、フェノール樹脂と、を混合し、フェノール樹脂を硬化させ、固形状にしてもよい。また、上記スラリーにおいて、フェノール樹脂が液状であれば、溶媒を使用しなくても良い。
【0037】
前記混合物を、リチウムイオン二次電池負極材用炭素複合材(以下、炭素複合材とする。)とするための熱処理温度は、400℃以上、1400℃以下であるのが好ましく、さらに好ましくは、600℃以上、1300℃以下であり、最も好ましくは、800℃以上、1100℃以下である。上記加熱温度に至るまでの昇温速度に特に制限はなく、0.5℃/時以上、600℃/時以下であるのが好ましく、20℃/時以上、300℃/時以下の範囲内で適宜設定するのがより好ましい。上記熱処理温度での保持時間は、48時間以内が好ましく、1時間以上、12時間の範囲内で適宜設定するのがより好ましい。また、熱処理は、アルゴン、窒素、二酸化炭素等の還元雰囲気において実施するのが好ましい。さらに、熱処理を2段階以上に分けて実施することにより、得られる炭素複合材の物性を制御することが好ましい。例えば、200℃以上、800℃以下の温度で数秒以上、6時間以下程度処理(一次炭化)した後、必要により粉砕処理し、さらにその炭素複合材を800℃以上、1200℃以下の温度で処理(二次炭化)することが好ましい。
【0038】
前記炭素複合材は、前記SiO(0<X<2)で示される酸化ケイ素を前記炭素複合材に対する質量比で50重量%以上、98重量%以下であるのが好ましく、70重量%以上、95重量%以下であるのがより好ましく、80重量%以上、93重量%以下であるのがさらに好ましい。前記SiO(0<X<2)で示される酸化ケイ素の含有量が下限値未満であると、リチウムイオンの吸蔵が少なく、高い充放電容量を得られない場合がある。一方、上記含有量が上限値を超えると、フェノール樹脂の炭化物による導電性付与効果が低くなり、充放電サイクル特性が低下する場合がある。
【0039】
前記SiO(0<X<2)で示される酸化ケイ素の含有量は、示差熱熱重量同時測定装置(TG/DTA)(セイコーインスツルメンツ(株)製、TG/DTA6200)を用い、昇温速度10℃/分で室温から800℃まで昇温し、その重量減少から、炭素とSiO(0<X<1)で示される酸化ケイ素の重量比を算出した。
【0040】
前記炭素複合材は、特に限定されないが、イオンクロマト法により抽出されるナトリウムイオン含有率が前記炭素複合材全体の、0.0001重量%以上、5重量%以下であることが好ましく、さらに好ましくは、0.001重量%以上、3重量%以下であり、最も好ましくは、0.01重量%以上、1重量%以下である。ナトリウムイオン含有率が前記下限値未満である場合、ナトリウムイオンの量が少なすぎてシリカ粒子の結晶化を抑制できず、シリカ粒子の還元が十分進まないため、十分な充放電容量が得られない場合がある。また、ナトリウムイオン含有率が前記上限値を超える場合、ナトリウムイオンの量が多すぎて、シリカ粒子の還元が十分進まず、十分な充放電容量が得られない場合がある。ここで、イオンクロマト法により抽出されるナトリウムイオン含有率は、例えば、イオンクロマト装置(ダイオネクスICS2000型イオンクロマトグラフ)に熱水抽出液及び標準溶液を導入し、検量線法により、ナトリウムイオン濃度を求め、試料からの溶出イオン量として算出することができる。
【0041】
前記炭素複合材は内部に空隙を有することが好ましい。この空隙がSiO(0<X<2)で示される酸化ケイ素の体積膨張を吸収することにより、負極崩壊を防止し、サイクル特性の向上に優れた効果を発揮する。
【0042】
前記炭素複合材断面における空隙の面積をSとし、前記炭素複合材断面の面積をSとしたときの空隙面積比をS/Sとしたときに、前記空隙面積比は、特に限定されないが0.03以上、0.5以下であることが好ましく、0.04以上、0.4以下であることがより好ましい。前記好ましい範囲内にあることにより、充放電に伴うSiO(0<X<2)を含む粒子の膨張収縮が抑制され、サイクル特性が向上する。
【0043】
前記空隙面積比は、前記負極活物質を集束イオンビーム法(以下、FIB法とする。)、又はArイオンミリング法によって任意の断面を形成したときの断面積(空隙がないと仮定して算出した負極活物質の切断面積)に対する空隙の面積を測定することから求められる。
例えば、FIB法によって形成した粒子断面のSEM画像を二値化し、空隙の面積を求めることで、前記空隙面積比を求めることができる。
【0044】
また、前記負極活物質断面における空隙の平均径は、特に限定されないが20nm以上、500nm以下であることが好ましく、50nm以上、350nm以下であることがさらに好ましい。空隙の平均径が前記好ましい範囲内にあることにより、充放電に伴うSiO(0<X<2)を含む負極活物質の膨張収縮を効果的に吸収するとともに、空隙の存在による負極活物質の機械強度低下を抑制することができ、サイクル特性の向上に優れた効果を発揮する。
【0045】
前記負極活物質断面における空隙の平均径はFIB法、又はArイオンミリング法によって形成した負極活物質の断面のSEM画像において、中に見える空隙30個をランダムに観察してそれぞれの径(長径)を測定し、それらの平均値を空隙の平均径とした。
【0046】
[リチウムイオン二次電池用負極合剤]
次に、本発明のリチウムイオン二次電池用負極合剤について説明する。
【0047】
本発明のリチウムイオン二次電池用負極合剤は、前記リチウムイオン二次電池負極用炭素複合材と結着剤とを含むリチウムイオン二次電池用負極合剤である。
【0048】
本発明によるリチウムイオン二次電池用負極合剤は、前記リチウムイオン二次電池負極材用炭素複合材を含み、上述のようにして得られた本発明によるリチウムイオン二次電池負極材用炭素複合材を負極活物質として用いることにより、本発明によるリチウム二次電池用負極合剤を作製することができる。本発明によるリチウム二次電池用負極合剤は、従来公知の方法を用いればよく、負極活物質としての前記リチウムイオン二次電池用負極材に、結着剤、導電剤等を加えて適当な溶媒又は分散媒で所定粘度としたスラリーとして調製することができる。
【0049】
前記リチウムイオン二次電池用負極合剤の作製に用いられる結着剤は、従来公知の材料であればよく、例えば、ポリフッ化ビニリデン樹脂、ポリテトラフルオロエチレン、スチレン・ブタジエン共重合体、ポリイミド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール等を使用することができる。また、本発明による負極の作製に用いられる導電剤は、導電補助材として通常使用されている材料であればよく、例として、黒鉛、アセチレンブラック、ケッチェンブラック等が挙げられる。さらに、本発明による負極の作製に用いられる溶媒又は分散媒は、負極活物質、結着剤、導電剤等を均一に混合できる材料であればよく、例として、N−メチル−2−ピロリドン、メタノール、アセトニトリル等が挙げられる。
【0050】
[リチウムイオン二次電池用負極]
次に、本発明のリチウムイオン二次電池用負極について説明する。
【0051】
本発明のリチウムイオン二次電池用負極は、前記リチウムイオン二次電池用負極合剤を含むリチウムイオン二次電池用負極である。
【0052】
前記リチウムイオン二次電池用負極は前記リチウムイオン二次電池用負極合剤を含み、上述のようにして得られた前記リチウムイオン二次電池用負極合剤を用いることにより、前記リチウムイオン二次電池用負極を作製することができる。具体的には、前記リチウムイオン二次電池用負極は、前記リチウムイオン二次電池用負極合剤を金属箔等の集電体に塗工し、厚さ数μm〜数百μmのコーティング層を形成させ、そのコーティング層を50〜200℃程度で熱処理することにより溶媒又は分散媒を除去することにより作製することができる。
【0053】
[リチウムイオン二次電池]
次に、本発明のリチウムイオン二次電池について説明する。
【0054】
本発明のリチウムイオン二次電池は、前記リチウムイオン二次電池用負極を含むリチウムイオン二次電池である。
【0055】
前記リチウムイオン二次電池用負極を用いることにより、前記リチウムイオン二次電池を作製することができる。前記リチウムイオン二次電池は、従来公知の方法で作製することができ、一般に、前記リチウムイオン二次電池用負極と、正極と、電解質とを含み、さらにこれらの負極と正極が短絡しないようにするセパレータを含む。電解質がポリマーと複合化された固体電解質であってセパレータの機能を併せ持つものである場合には、独立したセパレータは不要である。
【0056】
前記リチウム二次電池の作製に用いられる正極は、従来公知の方法で作製することができる。例えば、正極活物質に、結着剤、導電剤等を加えて適当な溶媒又は分散媒で所定粘度としたスラリーを調製し、これを金属箔等の集電体に塗工し、厚さ数μm〜数百μmのコーティング層を形成させ、そのコーティング層を50〜200℃程度で熱処理することにより溶媒又は分散媒を除去すればよい。正極活物質は、従来公知の材料であればよく、例えば、LiCoO2等のコバルト複合酸化物、LiMn24等のマンガン複合酸化物、LiNiO2等のニッケル複合酸化物、これら酸化物の混合物、LiNiO2のニッケルの一部をコバルトやマンガンに置換したもの、LiFeVO4、LiFePO4等の鉄複合酸化物、等を使用することができる。
【0057】
電解質としては、公知の電解液、常温溶融塩(イオン液体)、及び有機系若しくは無機系の固体電解質などを用いることができる。公知の電解液としては、例えば、エチレンカーボネートおよびプロピレンカーボネートなどの環状炭酸エステル、エチルメチルカーボネートおよびジエチルカーボネートなどの鎖状炭酸エステルなどが挙げられる。また、常温溶融塩(イオン液体)としては、例えば、イミダゾリウム系塩、ピロリジニウム系塩、ピリジニウム系塩、アンモニウム系塩、ホスホニウム系塩、スルホニウム系塩などが挙げられる。前記固体電解質としては、例えば、ポリエーテル系ポリマー、ポリエステル系ポリマー、ポリイミン系ポリマー、ポリビニルアセタール系ポリマー、ポリアクリロニトリル系ポリマー、ポリフッ化アルケン系ポリマー、ポリ塩化ビニル系ポリマー、ポリ(塩化ビニル−フッ化ビニリデン)系ポリマー、ポリ(スチレン−アクリロニトリル)系ポリマー、及びニトリルゴムなどの直鎖型ポリマーなどに代表される有機系ポリマーゲル、ジルコニアなどの無機セラミックス、ヨウ化銀、ヨウ化銀硫黄化合物、ヨウ化銀ルビジウム化合物などの無機系電解質、などが挙げられる。また、前記電解質にリチウム塩を溶解したものを二次電池用の電解質として用いることができる。また、電解質に難燃性を付与するために難燃性電解質溶解剤を加えることもできる。また、電解質の粘度を低下させるために可塑剤を加えることもできる。
【0058】
電解質に溶解させるリチウム塩としては、例えば、LiPF6、LiClO4、LiCF3SO3、LiBF4、LiAsF6、LiN(CF3SO22、LiN(C25SO22およびLiC(CF3SO23などが挙げられる。前記リチウム塩は、単独で用いても、また2種以上を組み合わせて用いてもよい。前記リチウム塩は、電解質全体に対して、一般に0.1質量%〜89.9質量%、好ましくは1.0質量%〜79.0質量%の含有量で用いられる。電解質のリチウム塩以外の成分は、リチウム塩の含有量が上記範囲内にあることを条件に、添加することができる。
【0059】
前記電解質に用いられるポリマーとしては、電気化学的に安定であり、イオン伝導度が高いものであれば特に制限はなく、例えば、アクリレート系ポリマー、ポリフッ化ビニリデン等を使用することができる。また、重合性官能基を有するオニウムカチオンと重合性官能基を有する有機アニオンとから構成される塩モノマーを含むものから合成されたポリマーは、特にイオン伝導度が高く、充放電特性のさらなる向上に寄与し得る点で、より好ましい。電解質中のポリマー含有量は、好ましくは0.1質量%〜50質量%、より好ましくは1質量%〜40質量%の範囲内である。
【0060】
前記難燃性電解質溶解剤としては、自己消火性を示し、かつ、電解質塩が共存した状態で電解質塩を溶解させることができる化合物であれば特に制限はなく、例えば、リン酸エステル、ハロゲン化合物、フォスファゼン等を使用することができる。
【0061】
前記可塑剤の例としては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等の環状炭酸エステル、エチルメチルカーボネート、ジエチルカーボネート等の鎖状炭酸エステル、等が挙げられる。前記可塑剤は、単独で用いても、また2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0062】
本発明によるリチウムイオン二次電池にセパレータを用いる場合、正極と負極の間の短絡を防止することができ、電気化学的に安定である従来公知の材料を使用すればよい。セパレータの例としては、ポリエチレン製セパレータ、ポリプロピレン製セパレータ、セルロース製セパレータ、不織布、無機系セパレータ、グラスフィルター等が挙げられる。電解質にポリマーを含める場合には、その電解質がセパレータの機能を兼ね備える場合もあり、その場合、独立したセパレータは不要である。
【0063】
本発明のリチウムイオン二次電池の製造方法としては、公知な方法が適用できる。例えば、まず、上記で得た正極および負極を、所定の形、大きさに切断して用意し、次いで、正極と負極を直接接触しないように、セパレータを介して貼りあわせ、それを単層セルとする。次いで、この単層セルの電極間に、注液などの方法により、電解質を注入する。このようにして得られたセルを、例えば、ポリエステルフィルム/アルミニウムフィルム/変性ポリオレフィンフィルムの三層構造のラミネートフィルムからなる外装体に挿入し封止することにより、二次電池が得られる。得られた二次電池は、用途により、単セルとして用いても、複数のセルを繋いだモジュールとして用いてもよい。
【実施例】
【0064】
以下、本発明をより具体的に説明するための実施例を提供する。なお、本発明は、その目的及び主旨を逸脱しない範囲で以下の実施例に限定されるものではない。
【0065】
(実施例1)
1)混合工程
フラスコ内で、フェノール樹脂として水溶性フェノール樹脂(住友ベークライト(株)製、PR55743、50wt%水溶液)12gと、シリカ粒子としてコロイダルシリカ(日産化学工業(株)製、スノーテックスOS、平均粒径8~11nm、20wt%水溶液)30gと、空隙形成剤としてスチレンブタジエンゴムラテックス(JSR株式会社、TRD2001、平均粒径150nm、48wt%水溶液)1gとイオン交換水541gを混合撹拌し、混合物を得た。
2)噴霧工程
超音波霧化装置(超音波霧化ユニット:本多電子株式会社製 HM−2412を用いて自作)を用いて混合物を噴霧し、液滴を発生させた。
3)第一の熱処理工程
窒素気流下、300℃の炉に液滴を搬送し、3秒間第一の熱処理工程を行った。これにより液滴を乾燥、硬化、熱分解させ、150℃、−10kVに調整した静電捕集器(高圧電源:松定プレシジョン株式会社製 HARb−15N2を用いて作製したもの)により、炭素前駆体を捕集した。
4)第二の熱処理工程
捕集した炭素前駆体を、セラミック管に入れ、窒素気流下、1000℃の炉内で6時間熱処理し、炭素とSiO(0<X<2)で示される酸化ケイ素を含有するリチウムイオン二次電池負極材用炭素複合材を得た。
5)リチウムイオン二次電池負極材用炭素複合材の評価
走査型電子顕微鏡(SEM)(日本電子株式会社製 JSM-7401F)により、得られた炭素複合材を観察し、炭素複合材の平均粒径を確認した。
なお、炭素複合材の平均粒径の測定方法は、作製した炭素粉末の母体をよく混合した後、約0.3gずつ5か所ランダムにサンプリングして再度混合し、両面テープを貼り付けた板にサンプルを0.5g広げてSEM観察を行い、SEM画像中に見える粒子30個をランダムに観察し粒子径を求め、それらの平均値を平均粒径とした。
また、示差熱熱重量同時測定装置(TG/DTA)(セイコーインスツルメンツ(株)製、TG/DTA6200)を用い、昇温速度10℃/分で室温から800℃まで昇温し、その炭素複合材の重量減少から、SiO(0<X<1)で示される酸化ケイ素の負極活物質中の割合及びフェノール樹脂の残炭率を算出した。
さらに、イオンクロマト法により、炭素複合材中に含まれるナトリウムイオン量を測定した。
5)リチウムイオン二次電池用電極合剤の作製
上記の炭素複合材、市販のバインダーであるカルボキシメチルセルロース(CMC)(ダイセルファインケム株式会社製CMCダイセル2200)、導電助剤としてアセチレンブラック(電気化学工業製デンカブラック)を質量比100:7:4で混合し、必要に応じ濃縮し粘度を調整し、リチウムイオン二次電池用電極合剤を得た。具体的には、まずCMCを所定量の水に溶解して2質量%水溶液を調製した。次いで、そのCMC水溶液に、炭素複合材、導電助剤を上記質量比になるように所定量添加し、自転・公転ミキサーで攪拌混合した。必要に応じ、攪拌混合に際して、最終粘度が5000mPa・secとなるように、自転・公転ミキサーに水を少量ずつ添加した。
6)リチウムイオン二次電池用電極(負極)の作製
上記のリチウムイオン二次電池用電極合剤を20μm厚の銅箔に塗布し、その後、110℃で1時間真空乾燥した。真空乾燥後、ロールプレスによって加圧成形し、φ13mmの径で打ち抜き、リチウムイオン二次電池用電極を得た。
7)リチウムイオン二次電池の作製
上記で作製したリチウムイオン二次電池用電極(負極)、セパレータ(ポリプロピレン製多孔質フィルム:直径φ16、厚さ25μm)、作用極としてリチウム金属(直径φ12、厚さ1mm)の順で、宝泉製2032型コインセル内の所定の位置に配置した。さらに、電解液としてエチレンカーボネートとジエチレンカーボネートの混合液(体積比が1:1)に、過塩素酸リチウムを1[モル/リットル]の濃度で溶解させたものを注液し、リチウムイオン二次電池を作製した。
【0066】
(実施例2)
第一の熱処理工程において得られた炭素前駆体を、第二の熱処理工程の前に洗浄した以外は、全て実施例1と同じとして炭素複合材を得、リチウムイオン二次電池を作製した。なお洗浄は、以下のように実施した。遠沈管内に、炭素1g、イオン交換水を49g入れ、蓋を閉め上下左右に振動させることにより、炭素複合材を水中で分散させた。目視で炭素複合材の固まりがないことを確認し、10000回転で約3分間遠心分離し、上澄みを除去した。以上の洗浄作業を3回繰り返した後、乾燥器中で90℃30分、130℃1時間乾燥させ、金属ボールで解砕し、洗浄後の炭素複合材を得た。
【0067】
(実施例3)
混合工程において、水溶性フェノール樹脂の量を24g、イオン交換水の量を791gとした以外は、全て実施例1と同じとして炭素複合材を得、リチウムイオン二次電池を作製した。
【0068】
(実施例4)
混合工程において、水溶性フェノール樹脂を残炭率51.4wt%の水溶性フェノール樹脂(住友ベークライト(株)製、50wt%水溶液)に変更し、水溶性フェノール樹脂の量を10g、イオン交換水の量を500gとした以外は、全て実施例1と同じとして炭素複合材を得、リチウムイオン二次電池を作製した。
【0069】
(実施例5)
混合工程において、水溶性フェノール樹脂を残炭率5.1wt%の水溶性フェノール樹脂(住友ベークライト(株)製、50wt%水溶液)に変更し、水溶性フェノール樹脂の量を100g、イオン交換水の量を2500gとした以外は、全て実施例1と同じとして炭素複合材を得、リチウムイオン二次電池を作製した。
【0070】
(実施例6)
混合工程において、水溶性フェノール樹脂の量を6g、イオン交換水の量を400gとした以外は、全て実施例1と同じとして炭素複合材を得、リチウムイオン二次電池を作製した。
【0071】
(実施例7)
第一の熱処理工程において得られた炭素前駆体を、第二の熱処理工程の前に洗浄した以外は、全て実施例3と同じとして炭素複合材を得、リチウムイオン二次電池を作製した。なお洗浄は、以下のように実施した。遠沈管内に、炭素1g、イオン交換水を49g入れ、蓋を閉め上下左右に振動させることにより、炭素複合材を水中で分散させた。目視で炭素複合材の固まりがないことを確認し、10000回転で約3分間遠心分離し、上澄みを除去後、乾燥器中で90℃30分、130℃1時間乾燥させ、金属ボールで解砕し、洗浄後の炭素複合材を得た。
【0072】
(実施例8)
混合工程において、水溶性フェノール樹脂の量を48g、イオン交換水の量を1300gとした以外は、全て実施例1と同じとして炭素複合材を得、リチウムイオン二次電池を作製した。
【0073】
(比較例1)
混合工程において、水溶性フェノール樹脂の量を96g、イオン交換水の量を2400gとした以外は、全て実施例1と同じとして炭素複合材を得、リチウムイオン二次電池を作製した。
【0074】
(比較例2)
混合工程において、水溶性フェノール樹脂の量を0.6g、イオン交換水の量を282gとした以外は、全て実施例1と同じとして炭素複合材を得、リチウムイオン二次電池を作製した。
【0075】
上記で得られた実施例1〜8、比較例1、2の二次電池について、以下に示す評価方法により、その放電特性とサイクル特性を評価した。
【0076】
(初期充放電特性評価)
充電容量については、充電時の電流密度を25mA/gとして定電流充電を行い、電位が0Vに達した時点から、0Vで定電圧充電を行い、電流密度が1.25mA/gになるまでに充電した電気量を充電容量とした。一方、放電容量については、放電時の電流密度も25mA/gとして定電流放電を行い、電位が2.5Vになるまでに放電した電気量を放電容量とした。なお、充放電特性の評価は、充放電特性評価装置(北斗電工(株)製:HJR−1010mSM8)を用いて行った。
【0077】
(充放電サイクル特性評価)
放電条件のカットオフ電位を1.5Vとした以外は初期充放電特性評価条件と同様な条件を50回繰り返し測定した後に得られた放電容量を50サイクル目の放電容量とした。また、以下の式により充放電サイクル特性(50サイクル容量維持率)を定義した。
サイクル性(%、50サイクル容量維持率)=50サイクル目の放電容量(mAh/g)/初回放電容量(mAh/g)×100
【0078】
(初期充放電特性評価基準)
◎◎◎:1000mAh/g以上
◎◎:放電容量が800mAh/g以上、1000mAh/g未満
◎:放電容量が600mAh/g以上、800mAh/g未満
○:放電容量が400mAh/g以上、600mAh/g未満
△:放電容量が200mAh/g以上、400mAh/g未満
×:放電容量が0mAh/g以上、200mAh/g未満
【0079】
(充放電サイクル性評価基準)
◎:50サイクル容量維持率が95%以上
○:50サイクル容量維持率が90%以上、95%未満
△:50サイクル容量維持率が80%以上、90%未満
×:50サイクル容量維持率が80%未満
【0080】
以上の各実施例、比較例の評価結果を表1に示す。
【0081】
【表1】

【0082】
表から明らかなように、実施例1〜8は、高い充放電特性と、充放電サイクル特性を示したが、比較例1及び2は、実施例1〜8と比較すると充放電特性と、充放電サイクル特性が十分でない結果となった。
以上のことから、本発明は、充放電容量密度と、充放電サイクル特性を一層向上させたリチウムイオン二次電池を提供し得るリチウムイオン二次電池負極材用炭素複合材、リチウムイオン二次電池用負極合剤、リチウムイオン二次電池用負極及びリチウムイオン二次電池を提供することが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0083】
本発明のリチウムイオン二次電池負極材用炭素複合材を形成するために用いる熱処理前の組成物によって、充放電容量密度と、充放電サイクル特性を一層向上させたリチウムイオン二次電池を提供し得るリチウムイオン二次電池負極材用炭素複合材、リチウムイオン二次電池用負極合剤、リチウムイオン二次電池用負極及びリチウムイオン二次電池を提供することができる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムイオン二次電池負極材用炭素複合材を形成するために用いる熱処理前の組成物であって、シリカ粒子と、フェノール樹脂を含有し、前記シリカ粒子の含有量が、前記フェノール樹脂を熱処理した後の残炭率をA重量%としたとき、前記シリカ粒子およびフェノール樹脂の合計重量に対し、100A/(100+A)重量%以上、4900A/(100+49A)重量%以下であることを特徴とする組成物。
【請求項2】
前記フェノール樹脂を熱処理した後の残炭率が、10重量%以上、40重量%以下である請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記シリカ粒子の平均粒径が1nm以上、50nm以下である請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】
前記シリカ粒子がコロイダルシリカである請求項1〜3のいずれか1つに記載の組成物。
【請求項5】
前記シリカ粒子のイオンクロマト法により抽出されるナトリウムイオン含有率が前記シリカ粒子全体の、0.0001重量%以上、5重量%以下である請求項1〜4のいずれか1つに記載の組成物。
【請求項6】
前記フェノール樹脂が、水溶性フェノールである請求項1〜5のいずれか1つに記載の組成物。
【請求項7】
前記組成物中に、空隙形成剤を含むことを特徴とする請求項1〜6のいずれか1つに記載の組成物。
【請求項8】
前記空隙形成剤が共重合体粒子である請求項7に記載の組成物。
【請求項9】
前記共重合体粒子がスチレンブタジエンゴム共重合体粒子である請求項8に記載の組成物。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか1つに記載の組成物を混合し、熱処理することにより得られることを特徴とするリチウムイオン二次電池負極材用炭素複合材。
【請求項11】
前記熱処理により、前記シリカ粒子が還元されたSiO(0<X<2)が、前記炭素複合材に対する質量比で50重量%以上、98重量%以下含まれる請求項10に記載のリチウムイオン二次電池負極材用炭素複合材。
【請求項12】
前記炭素複合材が空隙を有する請求項10または11に記載のリチウムイオン二次電池負極材用炭素複合材。
【請求項13】
前記炭素複合材のイオンクロマト法により抽出されるナトリウムイオン含有率が前記炭素複合材全体の0.0001重量%以上、5重量%以下である請求項11〜12のいずれか1つに記載の組成物。
【請求項14】
請求項11〜13のいずれか1つに記載のリチウムイオン二次電池負極材用炭素複合材と結着剤とを含むことを特徴とするリチウムイオン二次電池用負極合剤。
【請求項15】
請求項14に記載のリチウムイオン二次電池用負極合剤を含むことを特徴とするリチウムイオン二次電池用負極。
【請求項16】
請求項15に記載のリチウムイオン二次電池用負極を含むことを特徴とするリチウムイオン二次電池。


【公開番号】特開2013−73920(P2013−73920A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−214531(P2011−214531)
【出願日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【出願人】(000002141)住友ベークライト株式会社 (2,927)
【Fターム(参考)】