説明

組成物及び一酸化窒素を備えた包帯剤

皮膚用包帯剤組成物として用いられる包帯剤組成物は、エラストマー系接着剤組成物と、放出可能な状態で吸着された一酸化窒素を含むゼオライトとを含む。前記ゼオライトは、骨格外金属カチオンとして、Co、Fe、Mn、Ni、Cu、Zn、Ag又はそれらの混合物、好ましくはZn、のような遷移金属カチオンを含んでいてもよい。前記エラストマー系接着剤組成物は、親水コロイドとエラストマーとを含む親水コロイド系接着剤組成物であってもよい。前記包帯剤組成物は、創傷又は湿った皮膚上に用いられた場合に、長期間にわたって実質的に均一な放出速度で一酸化窒素を放出する。その一酸化窒素は、有益な効能を有する。包帯剤組成物の層を含む包帯剤は、裏地層を有している。この包帯剤は、包帯剤層の皮膚接触面に除去可能に付着された剥離ライナーを有していてもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、皮膚上に使用される包帯剤、例えば創傷の治療、皮膚の前治療、瘻孔シール、神経障害治療、真菌性疾患(fungal disorders)の治療、及び経皮薬剤放出(transdermal drug release)等のための包帯剤として使用される組成物に関する。特に、本発明は、エラストマー系接着剤及びゼオライトを含み、前記ゼオライトが放出可能な状態で吸着された一酸化窒素を含んでいる、組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
1998年ノーベル生理学・医学賞は、1998年に、内因性一酸化窒素が内皮依存性平滑筋弛緩に関与していることの発見に対して授与された。一酸化窒素(NO)は、血管拡張剤でもあり、血管内の血流量を増加させる。一酸化窒素は、血液内の血小板粘着を制御及び抑制する重要な要素であり、その結果、血栓形成を抑制する働きをすることができる。一酸化窒素は、また、免疫システム、炎症反応メカニズム及び神経伝達における重要な役割を果たす。
【0003】
一酸化窒素の皮膚への送達は、また、末梢循環障害又は神経障害(例えば関節炎又はレイノー状態から引き起こされるようなもの)の治療に対して、治療的有用性を有する。一酸化窒素は、また、抗病原体作用を示し、細菌性、ウィルス性及び真菌性の感染症の治療に用いられることができる。適切な濃度では、一酸化窒素は、細胞を破壊することができ、例えば、白血病又はリンパ腫の患者からの細胞のようなヒト血液学上の悪性細胞に対する細胞傷害剤として有効である。
【0004】
一酸化窒素は、また、創傷治癒及び血管形成にも関与することができる。特に、内因性一酸化窒素を創傷及び潰瘍へ送達することは、治癒、特に(高齢患者又は糖尿病患者のような)治癒が遅い患者の治癒を助けることができる。一酸化窒素は、また、創傷箇所の炎症過程の低減ももたらすことができる。一酸化窒素は、ヒト又は動物の体内に埋め込まれる医療品(例えば、ステント、導尿管及びペースメーカー等)によって引き起こされる炎症及び瘢痕にも効果的である。
【0005】
NOをガスとして送達することは問題を伴う。また、一旦体内に放出されたNOの半減期が短いことは、治療のためのNOの使用に関し、さらに問題である。NOは、高濃度において毒性を有し、もし体内に過度の量で適用されると悪影響を及ぼす。
【0006】
一酸化窒素を送達する様々な方法は、当業者にとって公知である。これらの方法には、i)NOを血流に内発的に放出する化合物、ii)新陳代謝してNOを発生する化合物、iii)光活性化によりNOを放出する化合物、iv)NOを保持及び放出する高分子、v)化学反応によるNOの生成、がある。
【0007】
公知の各種NO放出物質は、ターゲティング能力及び選択性の欠如、潜在的に発ガン性を有する又は毒性を有する副生成物、特定の活性剤の必要性、製造の困難性、又は、制御された放出の困難性のような、問題を有する。
【0008】
国際公開第2005/003032号として公開された国際特許出願では、放出可能な状態で吸着された一酸化窒素を含むゼオライトが、一酸化窒素の標的放出に好適な物質として開示及び提案されている。前記公報において例示されているNO担持ゼオライト(NO-carrying zeolites)は、アンモニウムゼオライトのイオン交換によって調製されている。
【0009】
一酸化窒素は多くの生物学上のプロセスにおいて活性であるため、外因性NOの標的送達(targeted delivery)が好ましい。そこで、包帯剤からの外因性一酸化窒素の送達が、多くの病気(ailments)及びNOを皮膚又は身体開口部に送達することが必要とされる他の使用のための、潜在的に魅力的な治療法である。
【0010】
そこで、外因性一酸化窒素の安定した局部的放出の実現を可能とし、従来技術の問題のいくつか又は全てを解決する、包帯剤及び包帯剤組成物の提供が必要である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的の一つは、とりわけ、皮膚用包帯剤に用いられる、一酸化窒素を長期間にわたって皮膚へ送達する組成物を提供することである。本発明の目的は、抗病原体効果を有する包帯剤組成物を提供することである。本発明の他の目的は、安全で使いやすい、局部的な一酸化窒素の標的送達システムで、それによって従来技術の問題が解決されるシステムを、提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の第1の態様は、皮膚用包帯剤組成物として用いられる包帯剤組成物を提供する。その包帯剤組成物は、
i)エラストマー系接着剤組成物と、
ii)放出可能な状態で吸着された一酸化窒素を含むゼオライトと、
を含む。
【0013】
本発明の第2の態様は、皮膚接触面と、本発明の第1の態様に係る包帯剤組成物とを含む包帯剤層を保持する裏地層を含む、皮膚に使用される包帯剤を提供する。前記包帯剤は、前記包帯剤層の前記皮膚接触面に除去可能に付着された剥離ライナーをさらに含んでいてもよい。本発明の第2の態様の包帯剤は、自己接着性の包帯剤であってもよいし、又は、バンデージ又は包帯剤カバーのような手段によって皮膚に保持される必要がある包帯剤であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】実施例2において、軟膏AのサンプルからのNOの放出を示すグラフ
【図2】実施例2において、軟膏Aの別のサンプルからのNOの放出を示すグラフ
【図3】実施例2において、親水コロイドBのサンプルからのNOの放出を示すグラフ
【図4】実施例3において、ゼオライト2を走査型電子顕微鏡で観察した状態を示す図
【図5】実施例3において、ゼオライト4を走査型電子顕微鏡で観察した状態を示す図
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の適切で好ましい特徴について説明する。これらの種々の特徴は、特別の定めのない限り、互いに適切に組み合わせて使用できる。
【0016】
ゼオライトは結晶構造を有するアルミノ珪酸塩であり、典型的には実験式Iによって表される:
I Σi[zi(Mi2/niO)]・Al23・xSiO2・yH2
ここで、Miはカチオンの部分(通常は、骨格外カチオンとして知られている金属)を示し、価数niを有する。niは、1〜6の範囲とでき、典型的には1〜4の範囲であるが、通常は1〜3の範囲、通例は1又は2である。Miは、骨格外カチオンであり、上記実験式Iを有する結晶性のアルミノ珪酸塩構造を形成できる何れの金属(又は、NH3のような小分子カチオン形成体)も含むことができる。記号Σiは、整数i個の金属酸化物が上記実験式に存在していることを表している。iは、1から周期表中の金属元素数までの範囲とすることができ、例えば1から40以上程度までであるが、典型的には1〜4であり、通常は1、2又は3であり、通例は2である。ゼオライトにおいては、おそらく、各種金属カチオンが天然の不純物として存在しているだろう。組成(モル比)において、記号xはアルミナに対するシリカの比を示しており、記号yはアルミナに対する水の比を示している。記号ziは、アルミナに対する比率における、各カチオン部分Miの比率を示している。ziは、もし化学量論が想定されたならば、Σiiが1であるとの制限のもとでは、0〜1となるだろう。もし、アルカリ金属の骨格外カチオンのみが構造中に存在しているならば、実験式は式IIのように、より単純に記載できる。
II M2O・Al23・xSiO2・yH2
iは、骨格外カチオンであり、上記実験式Iを有する結晶性のアルミノ珪酸塩構造を形成できる何れの金属(又は、NH4のような小分子カチオン)も含むことができる。Miは、ナトリウム又はカリウムのようなアルカリ金属であってもよいし、アルカリ金属を含んでいてもよい。その場合は、化学量論を満たすため、ni=1及びzi=1となる。典型的には、ゼオライトは、アルカリ金属ゼオライトとして、通常はナトリウムゼオライト又はカリウムゼオライトとして、市販されている。他の骨格外カチオンは、市販されているアルカリ金属ゼオライト中に、不純物として、骨格外カチオンの約0.5モル%ぐらいまで含まれていてもよい。
【0017】
本発明に有用なゼオライトは、いかなる公知のゼオライトの構造でも有することができる。多くのゼオライトの構造及び特徴は、Robert E. Krieger出版社によって刊行されたDonald W. Breckによる標準の著作「ゼオライト モレキュラー シーブス(Zeolite Molecular Sieves)」に記載されている。通常、上記実験式におけるxの値は、典型的には1.5〜10である。yの値は、ゼオライトの空隙に含まれる水の量を表しており、広く変化し得る。無水の材料ではy=0であり、完全に水和したゼオライトではyは典型的には5までとり得る。
【0018】
本発明において有用なゼオライトは、天然産の又は合成のアルミノ珪酸塩に基づくことができ、ゼオライトの好ましい形状には、ゼオライトP、ゼオライトX、ゼオライトY又はゼオライトAとして知られている構造がある。前記ゼオライトは、例えば、アルカリ金属ゼオライトでもよいし、あるいは、ここで説明されるようなイオン交換されたゼオライトを含む、他の何れのゼオライトでもよい。チャネルサイズの適合と、放出可能な状態で吸着された一酸化窒素を高レベルで担持するためのその容量との理由から、ゼオライトAが一酸化窒素を担持するために好ましいゼオライトである。ゼオライトAは、典型的に、約2のx値を有する。
【0019】
一つの金属カチオンが、骨格外カチオンとして、ゼオライト中に存在していてもよいし、あるいは、式IIに示されるように、価数niを有する異なる骨格外カチオンMiが複数存在していてもよい。これは、記号iがゼオライトに存在する異なるカチオンの数を表している上記式Iによって、表すことができる。iの値は、1から周期表中の金属元素数までの範囲とすることができ、例えば1から40以上程度までであるが、典型的には1〜4であり、通常は1、2又は3であり、通例は2である。ゼオライトにおいては、おそらく、各種金属カチオンが天然の不純物として存在しているだろう。
【0020】
典型的には、アルカリ金属ゼオライト又はアルカリ土類金属ゼオライト、通常はアルカリ金属ゼオライト、から出発して、出発原料のゼオライトの式中のアルカリ金属又はアルカリ土類金属の一部又は全部を異なる金属と交換することによって、イオン交換されたゼオライトを調製することができる。これにより、アルカリ金属ゼオライトに関しては、式IIIを有する化合物が得られることになる。
III w(M’2/gO)・z(M2O)・Al23・xSiO2・yH2
ここで、M’は交換金属であり、この交換金属は1〜6の価数gを有し、典型的には1〜3の価数gを有する。Mは、価数1のアルカリ金属(通常はナトリウム)である。wは、前記式における交換金属酸化物のモル比であり、化学量論を考慮すると0〜1の値を有する。zは、イオン交換後に残るアルカリ金属酸化物のモル比であり、化学量論を考慮すると1〜0の値を有する(0は、全てが交換されたことを表す)。記号xはシリカのモル比であり、記号yは水のモル比である(共に、アルミニウム酸化物の量に対する比である)。x及びyの値は前述のとおりであり、式IIIは、形式上は式Iに対応すると見ることができる。アルカリ土類金属ゼオライトに関する対応する式は、式IIIの(M2O)を(MO)に置き換えることによって、容易に得られる。
【0021】
そのようなイオン交換を行う方法は、当業者によく知られている。典型的に、出発原料である(例えばナトリウム又は他のアルカリ金属の)ゼオライトは、交換される金属塩の水溶液に接触させられる。酢酸塩のような可溶性塩を用いることができる。そのような交換後、理論的には、得られたイオン交換されたゼオライトは、化学量論を満たすために、(w+z=1)を満たす式を有する。我々は、実験的に、そのようなイオン交換によって形成される化合物に関し、用いられるイオン交換条件によっては、形成されるイオン交換された化合物についてwの値が場合によっては1−zよりも大きくなることがある、言い換えると、得られるイオン交換された化合物中にM’の酸化物が過剰にに存在することがある、ということがわかった。そのようなイオン交換されたゼオライトは、たとえそれらが、化学量論によって要求される量を超えた過剰の交換金属酸化物を含んでいるとしても、この明細書において用いられるゼオライトという用語に含まれる。理論に制約されることなく、我々は、過剰の交換金属酸化物は、不溶性の交換金属の酸化物の共沈殿によって生じるのであろうと確信する。十分にイオン交換されたゼオライトについて、用いられるイオン交換の方法によっては、zの値がゼロで、wの値が1以上になることもあるだろう。
【0022】
上記のようにイオン交換されたゼオライトにおいて、アルカリ金属ゼオライト又はアルカリ土類金属ゼオライトからイオン交換されたゼオライトを形成するために、順次又は同時に、1以上の交換金属が用いられてもよい。出発原料のゼオライトは、例えば、アルカリ土類金属(価数2)及びアルカリ金属(価数1)の両方を骨格外カチオンとして、任意の他の金属と同様に含んでいてもよい。出発原料のゼオライトは、本質的にアルカリ金属からなる骨格外カチオンを有するアルカリ金属ゼオライトが好ましい。「本質的に〜からなる」とは、式Iにおいて、アルカリ金属酸化物として合計されたziの値が0.95以上であることを意味する。
【0023】
ゼオライトは、その細孔及びチャネル中に一酸化窒素を吸着させることができるものとして知られている。その細孔及びチャネルは、ゼオライトの構造が含有するものであり、それによってゼオライトがイオン交換材料として有効となる。このことは、国際公開第2005/003032号中で、詳細に説明されている。
【0024】
ゼオライト中に存在する骨格外カチオンが、Ca又はMgのようなアルカリ土類金属、あるいは、1以上の遷移金属を含む場合は、一酸化窒素がゼオライトのチャネル中に特に強く結合されることが知られている。ゼオライト中にそのような遷移金属が存在していることが好ましい。本明細書において、「遷移金属」とは、21〜30番、39〜48番、71〜80番及び103〜112番の40個の化学元素のことを意味する(すなわち、亜鉛のd殻はd10構造を有しているけれども、亜鉛は遷移金属という用語に含まれる。)。
【0025】
好適には、遷移金属カチオンの量は、上記式IIIにおいて非遷移金属カチオン(例えば、アルカリ土類金属又はアルカリ金属M)のzの値が0.95未満、好ましくは0.8未満、より好ましくは0.5未満となるような量とする。例えば、5モル%以上のアルカリ金属が遷移金属カチオンで交換された、イオン交換されたアルカリ金属ゼオライトを用いることができ、好ましくは20モル%以上、より好ましくは50モル%以上のアルカリ金属が交換されることである。好適には、ゼオライト粒子における骨格外カチオンの30モル%以上、好ましくは40モル%以上、より好ましくは50モル%以上が遷移金属カチオンであることである。例えば、遷移金属カチオンによる交換率(Percent Exchange (PE))が30%以上、前記に定義されたPEを用いて、好ましくは40%以上、より好ましくは50%以上である、イオン交換されたアルカリ金属ゼオライトを用いることができる。特に好適な遷移金属カチオンは、例えば、Co、Ni、Zn、Fe、Cu、Mn、Ag及びそれらの混合物である。遷移金属カチオンは、Cu、Zn、Ag又はそれらの混合物であることが好ましい。本発明の組成物において一酸化窒素の担持に用いられるゼオライトにおいては、Znは、骨格外カチオンとして用いるのに特に好ましい遷移金属カチオンである。その理由は、Znの抗病原体効果、Znの入手しやすさ、及びZnの低毒性のためである。
【0026】
アルミナ及びシリカの4面体配位はゼオライトの構造に負の骨格を与えるので、骨格外カチオンがその負電荷とのバランスを保つ。したがって、化学量論では、電荷のバランスを保つために、式III中のAl23の1モル毎に、1モルのM2Oが必要とされる。アルカリ金属が他のカチオンに交換される場合、そのイオン交換が化学量論として考えられるならば、式Iに示されるように、結合される電荷は1となるはずである。本明細書において定義された交換率(Percent Exchange (PE))は、以下の一次方程式を用いて定義されることができる。
交換率=(1−z)×100
ここで、zは式IIIによって定義されたとおりである。言い換えると、遷移金属カチオンによる交換率(PE)は、好適には5%以上であり、20%以上が好ましく、50%以上がより好ましい。
【0027】
抗病原体性(例えば、抗細菌性、抗ウィルス性又は抗真菌性)の遷移金属カチオンを、正電荷を付与する骨格外カチオンとして含むゼオライトを用いることが、本発明にとっては好ましい。抗病原体性カチオンは、好適には、Cu、Zn、Ag又はそれらの混合物である。そのような抗病原体性カチオンは、湿潤している包帯剤組成物で活性化できるので、その抗病原体性カチオンは包帯剤を濡らしている液体中のイオンと交換されることができる。Znは、入手しやすいこと及びその低毒性の理由から、本発明の第1の態様の組成物に用いられるゼオライトの骨格外カチオンとして、特に好ましい抗病原体性金属カチオンである。また、Znは、ゼオライトが放出可能に一酸化窒素を吸着させることを助けるために、非常に効果的である。好ましくは、ゼオライトが、抗病原体性金属カチオンを、正電荷を付与する骨格外金属カチオンとして含むことである。5モル%以上、好ましくは20モル%以上、より好ましくは50モル%以上のアルカリ金属又はアルカリ土類金属が抗病原体性(例えば、抗細菌性、抗ウィルス性又は抗真菌性)金属カチオンによって交換された、イオン交換されたアルカリ金属ゼオライト又はアルカリ土類金属ゼオライトが、好適に使用できる。このことは、上記式IIIにおけるzの値が0.95未満が好適であり、0.8未満が好ましく、0.5未満がより好ましい、ということを意味する。ここで、M’は、組成物においてアルカリ金属を置換する1以上の抗病原体性カチオンである。抗病原体性カチオンが、ゼオライト化合物における好ましい遷移金属カチオンである。
【0028】
多くの異なる金属カチオンが、交換されたアルカリ土類金属カチオン又はアルカリ金属カチオンに加えて、イオン交換されたゼオライト中に存在し、そして得られたイオン交換されたゼオライト化合物が、化学量論を超えた過剰な交換金属酸化物を有する場合、最終的に得られるイオン交換された化合物において、交換カチオンは、それらのモル比に比例して、元のゼオライト中のアルカリ金属又はアルカリ土類金属と交換すると想定される。
【0029】
上記のようにイオン交換されたゼオライトにおいて、アルカリ金属ゼオライト又はアルカリ土類金属ゼオライトからイオン交換されたゼオライトを形成するために、順次又は同時に、1以上の交換金属が用いられてもよい。出発原料のゼオライトは、例えば、骨格外カチオンとして、アルカリ土類金属(価数2)及びアルカリ金属(価数1)の両方を、任意の他の金属と同様に含んでいてもよい。
【0030】
交換された骨格外金属酸化物の超過量を低減するためにイオン交換プロセスを修正することによって、アルカリ金属ゼオライトから調製された、イオン交換されたゼオライトについて、ガス吸着容量の驚くべき増加を得ることができるということが、知られている。
【0031】
本発明の種々の態様において用いる、放出可能な状態で吸着された一酸化窒素を含むゼオライトとしての使用に適した、第2のゼオライトを調製するための第1の方法が、発見されている。この第1の方法は、II族金属、III族金属、遷移金属及びそれらの混合物からなる群から選択される非アルカリ金属を、骨格外カチオンとして含む第2のゼオライト化合物を、イオン交換によって第1のゼオライト化合物から調製する方法である。
【0032】
第1の方法は、次の工程を含む:
a)本質的にアルカリ金属からなる骨格外カチオンを有する第1のゼオライトを供給する、ここで、当該第1のゼオライトにおける比SiO2/Al23であるxの値が1.5〜10である、
b)pH値を有する第1のゼオライトの水性スラリー(aqueous slurry)を調製して、前記スラリーの前記pH値をpH3〜9に調整する、
c)前記水性スラリーと前記非アルカリ金属の水溶液を混合し、それによって前記非アルカリ金属を含む第2のゼオライト化合物を形成する。
【0033】
この方法は、上述したような式IIIで表される、第2の、イオン交換されたゼオライト化合物を提供する。
III w(M’2/gO)・z(M2O)・Al23・xSiO2・yH2
ここで、M’はII族金属、III族金属、遷移金属及びそれらの混合物からなる群から選択される非アルカリ金属である。この非アルカリ金属は、1〜6、好ましくは1〜3の価数gを有する。Mは、価数1のアルカリ金属である。wは、非アルカリ金属酸化物のAl23に対するモル比であり、0よりも大きく1.15以下である。zは、Al23に対するアルカリ金属酸化物のモル比であり、0〜0.7の値を有する。xは、Al23に対するSiO2のモル比であり1.5〜10である。yは、Al23に対する水のモル比であり、0〜12である。ここで、w+zは0.8〜1.15であり、0.9〜1.10が好ましく、0.95〜1.05がより好ましい。
【0034】
理論に制約されることなく、ゼオライト、特にアルカリ金属ゼオライトであり、特にx=10以下を有するゼオライトの水性スラリーは、アルカリ性のpH値、しばしば10を超えるpH値を有する傾向があると仮定される。このような高いpH値は、金属カチオンの交換の結果物として、不溶性塩の望ましくない沈殿が生じることがある。このことは、結果物として得られるイオン交換されたゼオライト粒子上に、金属酸化物が析出することにつながる。充分にイオン交換されたゼオライトについて、このことは、z=0でwが1よりも大きいという結果を生じさせることになるだろう。
【0035】
上述の第1の方法を用いることは、結果物として得られる第2の、イオン交換されたゼオライト化合物が従来技術を用いる場合よりも1に近いw+zの値を有するように、イオン交換金属酸化物の過剰な沈殿を抑制する。
【0036】
溶液、スラリー又は分散液に適用される「水性の(aqueous)」の用語は、溶液、スラリー又は分散液の調製に用いられる液体が、60重量%以上、好ましくは80重量%以上の水を含むことを意味する。
【0037】
好適には、第1の方法において出発原料として用いられる第1のゼオライトのアルカリ金属は、ナトリウム、カリウム又はそれらの混合物であり、好ましくはナトリウムである。好ましくは、第1のゼオライトについてのx値(x=SiO2/Al23)は5以下であり、より好ましくは3以下である。例えば、第1のゼオライト粒子はゼオライトAであってもよい。ゼオライトAについて、xの値は約2である。
【0038】
第1の方法の工程(b)において、スラリーのpH値は3〜9に調整され、好ましくは4〜8、より好ましくは5〜7に調整される。もしpH値が低すぎると、第1のゼオライトが過剰に溶解して、望ましいゼオライトのチャネル構造が失われる場合がある。pHを調整するために適切な酸を用いることができ、硫酸、硝酸又は塩酸等の鉱酸が好適である。酸の混合物を用いることもできる。
【0039】
zの値が0.7以下であり、さらに第1の方法のpH低減工程(b)が行われないような、従来の、スラリーを用いたアルカリ金属ゼオライトのイオン交換によれば、典型的に、(w+z)の値が1.15よりも大きくなる。第2のゼオライト化合物が放出可能なガスの吸着、特に一酸化窒素の吸着のための高い容量を有するように、zの値は0.7以下が好適であり、0.6以下が好ましく、0.5以下がより好ましく、0.4以下がさらに好ましい。第1の方法は、1よりも小さい(w+z)の値をもたらすことができる。理論に制約されることなく、アルカリ金属が、主に非アルカリ金属カチオンによってイオン交換されることに加えて、プロトンによって部分的にイオン交換されることによって、1よりも小さい値が起こり得ると考えられる。
【0040】
前記第1の方法によって調製された第2の又はイオン交換されたゼオライト化合物は、特に亜鉛が骨格外カチオンとして使用された場合に、本発明の種々の態様で用いられる、放出可能な状態で吸着された一酸化窒素を担持するのに適している。これらのゼオライト化合物は、放出可能な状態で吸着された一酸化窒素を、0.5mmol/g以上、好ましくは0.9mmol/g以上、より好ましくは1.5mmol/g以上、さらに好ましくは2.0mmol/g以上、含むことができる。
【0041】
本発明の組成物において用いられるゼオライトの粒径は、包帯剤における使用目的に合わせて調整すればよい。一般的には、体積平均粒径は、0.1〜20μmであろう。より好ましくは、ゼオライトが、0.5〜10μmの体積平均粒径を有することである。さらに好ましくは、ゼオライトが、1〜5μmの体積平均粒径を有することである。しかし、ゼオライト粒子は、顆粒状、すなわち、上記の好適な又は好ましいサイズを有するゼオライト粒子が凝集したものによって構成された顆粒又はビーズであってもよい。ゼオライトは、本発明の包帯剤全体に、実質的に均一に分散された粒子、ビーズ又は顆粒として存在することが好適である。
【0042】
ゼオライトの体積平均粒径は、300RFレンズ(測定範囲0.05〜3480μm)、Malvern Mastersizerソフトウェアバージョン2.18及びDIF2012分散ユニットを備えた「Malvern Mastersizer model S」を用いたレーザ回折によって決定できる。この装置は、ウースターシャー(Worcestershire)のマルバルーン(Malvern)にあるMalvern Instruments社製であり、粒度分布を計算するためにミー(Mie)理論を利用している。ミー理論は、球状粒子によって光がどのように散乱されるのかを予測して、その粒子の屈折率を考慮する。ゼオライトの屈折率として用いられる実際の値は1.5295であり、屈折率の虚部(光の吸収)は0.1である。水分散剤の屈折率は1.33である。
【0043】
測定前に、サンプルを、50%のパワー設定で2.5分間、超音波で水中に分散させて、水性懸濁液を形成した。ポンプ速度、すなわち分散されたサンプルを装置に通過させる速度は、50%(1250±20rpm)に設定される。攪拌速度、すなわち分散ユニット内でゼオライト粒子が攪拌される速度は、50%(530±5rpm)に設定される。2〜5mWの低パワーのHe/Neレーザ光(波長632.6nm)が、脱イオン水中に分散された粒子を含むフローセルに照射される。散乱光強度は角度の関数として測定され、このデータが見かけの粒度分布の計算に用いられる。体積平均粒径は、この装置によって生成されたデータから、容易に得ることができる。
【0044】
ゼオライトの量は、組成物中に存在するゼオライトの重量で表され、組成物全体の0.4又は0.5〜70重量%が好適であり、5〜60重量%が好ましく、10〜50重量%がより好ましい。ここで表されるゼオライトの重量は、水分又はゼオライト中(例えば細孔又はチャネル内)に保持されているガスのような他の成分も含む。
【0045】
水和したゼオライトは本発明の組成物に利用されることができるが、ゼオライトは乾燥ゼオライトであることが好ましい。本明細書において、乾燥ゼオライトとは、実質的に全ての物理吸着水(すなわち構造水)を除去するための処理が施されたゼオライトであると考えられる。乾燥ゼオライトに含まれる物理吸着水は、1重量%未満であることが好適であり、0.5重量%未満であることが好ましく、0.1重量%未満であることがより好ましい。例えば、ゼオライトは、物理吸着水を除去するために、一定の重量になるまで真空下で300℃に加熱されてもよい。一定重量になるまで真空下で300℃に加熱しても除去できない結合水が、ゼオライト中に存在することもあり得る。乾燥又は水分が取り除かれたゼオライトには、包帯剤組成物が、水和したゼオライトを形成するために水分を取り込むことによって生じる追加の吸水性を有する、という利点がある。例えば、乾燥ゼオライトAは、水としてその乾燥重量の20重量%を吸収する容量を有することができる。一般的に、ゼオライトの水和反応は発熱反応であり、水分が取り除かれた又は乾燥ゼオライトを含む包帯剤が液体を吸収する際に、この反応によって発生する熱は、創傷治癒過程の助けとなり、又は、包帯剤組成物を含有する包帯剤の有効性について患者に感覚的に知らせるための助けにもなる。
【0046】
放出可能な状態で吸着された一酸化窒素を含むゼオライトの調製は、国際公開第2005/003032号において説明されている。ゼオライトは、また、一酸化窒素、アンモニア、硫化水素、一酸化炭素、二酸化炭素、二酸化硫黄、酸素及びホルムアルデヒド等のガスを放出可能に吸着させることができる。ゼオライトは、従来技術では、例えば公共トイレ、馬小屋、ニワトリ小屋及びペット用トイレにおいて、不快なアンモニア臭を吸着させることによる臭気抑制に使用されていた。
【0047】
本発明の組成物中のゼオライトは、また、望ましくない臭気、例えば創傷からの臭気を吸着させるという有利性も有することができ、さらに、他の医学的に有効なガスの放出可能な吸着のためにも使用できる。
【0048】
ゼオライトに一酸化窒素を吸着させるよりも前に、ゼオライトのチャネルから水を除去するために、ゼオライトを十分に又は部分的に乾燥させておくことが好適であり、好ましくは上述のように十分に乾燥させておくことである。ゼオライトに一酸化窒素を担持させることは、純粋なNO、又は、不活性ガス(例えばヘリウム又はアルゴン)又は窒素のような非反応性ガスのような担体ガスに含まれているNOを用いて行うことができる。工業生産のためには、非反応性ガスとして窒素が好ましい。NOをゼオライトに担持させるための好適なプロセスの詳細は、国際公開第2005/003032号に記載されている。好適には、NOの担持は、1〜10バールの圧力下で行われ、1バールが典型的な雰囲気圧力である。
【0049】
本発明の包帯剤組成物に用いられるゼオライトは、放出可能な状態で吸着された一酸化窒素を、好適には0.2mmol/g以上含み、好ましくは0.5mmol/g以上含み、より好ましくは0.9mmol/g又は1.0mmol/g以上含む。もし、ゼオライトが上記で説明した第1の方法によって調製された第2のゼオライトであれば、放出可能な状態で吸着された一酸化窒素が、1.5mmol/g以上又は2.0mmol/g以上のような高レベルで存在することができる。
【0050】
ゼオライトに担持された一酸化窒素が、水、例えば汗又は血液のような水性の環境からの水にさらされる場合、一酸化窒素はそのゼオライト中の結合部位から置換されて、その結果、一酸化窒素ガスが本発明の包帯剤組成物からゼオライトの周囲へと放出される。
【0051】
本発明の第1の態様の包帯剤組成物は、放出可能な状態で吸着された一酸化窒素を含むゼオライトに加えて、エラストマー系接着剤組成物を含んでいる。好適には、本発明の第1の態様の組成物がエラストマー系接着剤を99.5〜30重量%含み、好ましくは95〜40重量%含み、より好ましくは90〜50重量%含む。
【0052】
好ましくは、包帯剤組成物が、本質的に、放出可能な状態で吸着されたNOを含むゼオライトとエラストマー系接着剤組成物とからなること、又は、前記ゼオライトとエラストマー系接着剤組成物とで形成されることである。
【0053】
理論に制約されることなく、親水コロイド系接着剤組成物とNO放出ゼオライトとの組み合わせが特に効果的であると考えられる。その理由は、エラストマー系接着剤組成物が、皮膚からゼオライトへの体液(例えば、汗、傷からの滲出液等)の輸送の媒体となり、ゼオライトが体液中のプロトンドナー(水)と相互作用する際に、ゼオライトに初めから吸着されていたNOが徐々に放出されるからである。さらに、本発明の組成物の構造的完全性(すなわち、機械的強度及び圧力がかけられた際の耐変形性)とは、典型的にはNO放出ゼオライトがクリーム又は軟膏に含まれた状態で用いられるように、塗布又は平らに伸ばされた層として適用されるという傾向が少ないということを意味する。そのような塗布又は平らに伸ばされた層は、適用された後すぐに高レベルのNOを放出するので、NOの長期間にわたる送達のための潜在的供給を使い尽くしてしまうということが、現在知られている。
【0054】
エラストマー系接着剤組成物、特に親水コロイド系接着剤組成物は、包帯剤、特に創傷が外部汚染にさらされることを防ぐために創傷を覆うための包帯剤の成分として用いるための包帯剤組成物として、当業者に公知である。
【0055】
エラストマー系接着剤組成物は、当業者においてよく知られている。本発明におけるエラストマー系接着剤組成物は、ゴム状エラストマーを好適に含み、さらに親水コロイドを任意に含む。親水コロイドを含むエラストマー系接着剤組成物(すなわち、親水コロイド系接着剤組成物)は好適に用いられるが、驚くべきことに、ゼオライトが、エラストマー系包帯剤組成物において、親水コロイドを全体的に置換できることが知られている。
【0056】
典型的な親水コロイド系接着剤組成物は、ポリイソブチレンのようなエラストマー重合体を、1以上の水溶性又は水膨潤性の親水コロイドと組み合わせて含む。当業者において、公知で用いられている好適な親水コロイドには、ペクチン、ゼラチン、カルボキシメチルセルロース及びそれらの混合物が挙げられる。
【0057】
創傷用包帯剤又は瘻孔シールに含まれる場合、通常、エラストマー系接着剤組成物は、高分子担体フィルム、これは水浸透性のものでも水非浸透性のものでもよいが、の上に薄層状に重ねられる。この場合、エラストマー系接着剤組成物は、皮膚に直接適用されてもよい。
【0058】
包帯剤に用いられる、多くの従来の親水コロイド系接着剤組成物が有する問題は、親水コロイド系接着剤組成物が、傷からの滲出液及び体液にさらされることによる破壊に対して脆弱である(すなわち、親水コロイド系接着剤組成物は、水和によって構造的完全性を喪失する傾向がある)ということである。前記組成物が液体をいくらか吸収することは望ましいが、組成物が過度に膨潤することは完全性の喪失につながり、組成物が皮膚に対する水分シール性を失うことがある。このことにより、漏れが生じ、さらに親水コロイド系接着剤組成物を含む包帯剤をより頻繁に交換する必要が生じることになる。本発明の包帯剤組成物の驚くべき利益は、放出可能な状態で吸着された一酸化窒素を含むゼオライトをさらに混合することにより、水又は体液のような液体で十分に膨潤した場合でもエラストマー系接着剤組成物又は親水コロイド系接着剤組成物がその完全性を維持することを助ける利益がもたらされるということである。
【0059】
本発明のエラストマー系接着剤組成物は、ゴム状エラストマーを好適に含み、親水コロイドを任意に含む。エラストマー系接着剤組成物のゴム状エラストマー系接着剤マトリックスを形成するための材料は、当業者によく知られており、例えば米国特許第3,339,546号及び第4,253,460号に記載されている。天然ゴム、合成ゴム及びそれらの混合物が有用であり、また、クラトン(Kraton)(シェル・ケミカル社(Shell Chemical Company)製のスチレン/ブタジエンのブロック共重合体等)、ポリブテン(例えばポリイソブチレン)及びポリアクリレートも使用できる。ゴム状エラストマー系マトリックスに混合するものとして、当業者に公知の粘着付与剤、可塑剤及びその他の材料も用いることができる(例えば、米国特許第4,231,369号及び第4,551,490号参照)。
【0060】
ポリイソブチレンは、ゴム状エラストマー系マトリックスとして特に有用である。使用されるポリイソブチレンは、低分子量ポリイソブチレン(粘度平均分子量が約10,000〜12,000)と、高分子量ポリイソブチレン(粘度平均分子量が約80,000〜100,000)とが4対1の比率で混合されたものであることが好ましい。好適な低及び高分子量ポリイソブチレン感圧接着剤は、エクソンケミカル社(Exxon Chemical Company)から、商品名「ビスタネクスLM(Vistanex LM)」及び「ビスタネクスL-100(Vistanex L-100)の名前で、それぞれ入手できる。
【0061】
エラストマー系接着剤組成物は、ゴム状エラストマーを適切なレベルで、例えば、エラストマー系接着剤組成物の重量で表して、エラストマーを15〜100重量%で、含むことができる。エラストマーが35重量%未満の量で存在している場合、組成物は低い接着性を示す傾向がある。創傷用包帯剤の用途では、親水コロイドのレベルを最大にするために、存在するエラストマーの量、これは適切な接着性を得ることに対応するが、を最小とすることが望ましい。これにより、最大の液体吸収性を得ることができる。高い接着性が必要な場合は、より高レベルでエラストマーを用いるとよい。
【0062】
好適なエラストマーは、例えば欧州特許出願公開第1159972号に記載されている。
【0063】
エラストマー系接着剤組成物は、任意で及び好ましくは親水コロイドを含み、典型的には、親水コロイドを、エラストマー系接着剤組成物の0〜85重量%で含む。親水コロイドは、水又は水性液体を含むゲルを形成する物質であり、液体を吸収して膨潤する。
【0064】
本発明で用いられる親水コロイドは、合成的に調製されてもよいし、天然物であってもよい。本発明の範囲に含まれる様々な親水コロイドとして、1種のモノマー又は複数のモノマーから調製される合成ポリマー、天然親水性ポリマー及び化学修飾された天然親水性ポリマーが挙げられる。
【0065】
そのような親水コロイドの例として、ポリヒドロキシアルキルアクリレート及びメタクリレート、ポリビニルラクタム、ポリビニルアルコール、ポリオキシアルキレン、ポリアクリルアミド、ポリアクリル酸、ポリスチレンスルホン酸、天然又は合成的に化学修飾された多糖類、アルギン酸塩、キサンタンゴム、グアーガム及びセルロースポリマーが挙げられる。好適な親水コロイドとして、鎖状又は架橋の合成ポリマーを挙げることができる。
【0066】
親水コロイドは、皮膚科学的に好適に容認されることができ、患者の皮膚と(又は本発明の組成物における他の成分と)反応しない。
【0067】
特に好適な親水コロイドは、ポリビニルアルコール、粉末状ペクチン、ゼラチン、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース及びそれらの混合物からなる群から選択される、水溶性又は膨潤性の親水コロイドである。特に好適な親水コロイドは、カルボキシメチルセルロース(CMC)である。
【0068】
本発明の第1の態様に係る組成物は、親水コロイド系接着剤組成物を含んでおり、その親水コロイド系接着剤組成物が、親水コロイド系接着剤組成物の重量で、15〜70重量%の親水コロイドと30〜85重量%のエラストマーとを含んでいること、が好ましい。
【0069】
エラストマーと、任意に含まれる親水コロイドとに加えて、エラストマー系接着剤組成物は、さらに炭化水素樹脂の粘着付与剤を含んでいてもよい。この粘着付与剤は、親水コロイド系接着剤組成物の60重量%まで存在していてもよい。好ましい炭化水素系の粘着付与剤は、欧州特許公開公報第1159972号に記載されている。
【0070】
エラストマー系接着剤組成物は、さらに、無極性の油性エクステンダーを60重量%まで含んでいてもよい。
【0071】
エラストマー系接着剤組成物は、好適には5重量%未満、好ましくは2.5重量%未満、より好ましくは1重量%未満の水を含んでいる。
【0072】
本発明の包帯剤組成物は、特に、創傷、特に慢性の創傷の治療に有用であり、特に、創傷治癒が問題を含んでいる糖尿病又は高齢の患者の治療に有用である。本発明の組成物は、バンデージに有用であり、又は、そのような組成物(例えば、包帯剤を形成するための保護層によって被覆されてもよい)として局所適用するために有用である。
【0073】
前記組成物は、付加的な、薬剤として活性な物質をさらに含んでいてもよい。その物質は、包帯剤組成物が置かれることになっている目的に応じて選択される。例えば、慢性の創傷を治療するために、包帯剤は、ベカプレルミン(becaplermin)(商品名「レグラネックス(Regranex)(登録商標)」で販売されている)のような創傷治癒物質を含んでいてもよい。
【0074】
本発明の組成物は、標準的な混合装置を用いて、NO担持ゼオライトをエラストマー系接着剤組成物中に分散させるという、簡単な方法で調製されることができる。例えば、z−ブレードミキサー(ウィンクワース・マシナリー社(Winkworth Machinery Limited Ltd)製)を、本発明の組成物の調製に用いることができる。
【0075】
本発明の組成物は、包帯剤として、皮膚、あるいは、口、膣及び直腸のような体の他の接触可能表面へ適用することができる。前記組成物は、ヒト及び動物の両方の使用に適している。
【0076】
包帯剤から送達された一酸化窒素は、血管拡張剤として機能するので、勃起障害の防止、無オルガズム症の治療、経皮ドラッグデリバリーの増強、外科的挿入前の血管拡張等に使用できる。一酸化窒素は、皮膚色素修正因子としても機能する。
【0077】
創傷治療包帯剤における使用に加えて、包帯剤組成物のさらなる使用は、包帯剤が、一酸化窒素と、そして任意で含んでいる1以上の付加的でかつ薬剤として活性な物質を、皮膚又は体腔に適用するために用いられる場合の、様々な用途を含む。
【0078】
・創傷の治療のための使用、又は、創傷の治療のため、特に創傷治癒速度、特に高齢者又は糖尿病患者における創傷治癒速度を改善するため、特に慢性創傷のための物質を適用するための使用。
・皮膚の感染症の治療のための使用。包帯剤は、薬剤治療物質を皮膚に接触させた状態で保持するために用いることができ、そのような使用において、ゼオライトは抗病原体性の骨格外カチオンを含むことが好ましい。一酸化窒素は、親水コロイド系接着剤組成物を介した拡散によってNO担持ゼオライトと接している皮膚からの汗による水分によって、放出される。
・一酸化窒素を含む、血管拡張剤として機能する組成物を、勃起障害又は無オルガズム症のような性的関係機能障害の治療のために、又は、カテーテル、血管アクセス器具、針及び注射器等の侵襲的器具を挿入する前に皮下組織の血管を拡張するために、生殖器の皮膚に適用するための使用。
・神経障害の治療、又は、神経障害の治療のための物質を皮膚に適用するための使用。
・皮膚色素修正のため、又は、色素修正因子を皮膚に適用するための使用。
・真菌感染症の治療、又は、真菌感染症の治療のための物質を皮膚に適用するための使用。
・炎症抑制のための使用、又は、炎症を抑制するための物質を皮膚に適用するための使用。
・湿疹、乾癬、皮膚炎及び黒色腫のような皮膚病の治療のための使用、又は、そのような皮膚病を治療するための物質を適用するための使用。
・経皮的に患者の血流中に吸収された、薬剤として活性な化合物を、皮膚に適用するための使用。
・瘻孔包帯剤又はシールにおける使用。
【0079】
包帯剤組成物の上記全ての使用のために、ゼオライトは抗病原体性の骨格外カチオンを含むことが好ましい。一酸化窒素は、皮膚からの汗による水分によって放出されることができる。いくつかのアプリケーションについて、一酸化窒素及び/又は抗病原体性の骨格外カチオンは、存在する場合に、治療のための活性な物質として機能することができる、あるいは、包帯剤組成物によって与えられた活性物質の活性を高めることができ、例えば、包帯剤組成物近傍の皮膚における血流を増加させる一酸化窒素によれば、活性物質の経皮的摂取が活性物質として高められて、そして一酸化窒素は徐々に一緒に放出される。
【0080】
本発明のさらなる態様は、本発明の第1の態様による組成物を上記の医学的用途に用いる、ヒトの体(又は、適切な場合は動物の体)の治療の方法を含む。
【0081】
本発明の第2の態様は、皮膚に使用される包帯剤であり、この包帯剤は、皮膚接触面と本発明の第1の態様の包帯剤組成物とを含む包帯剤層を保持する裏地層、例えばポリウレタンのような水非浸透性のポリマーのフィルム、を含む。この包帯剤は、さらに、包帯剤層の皮膚接触面に除去可能に取り付けられた、例えばシリコーンペーパーからなるシートのような剥離シート又は剥離ライナーを、さらに含んでいてもよい。本発明の第2の態様の包帯剤は、自己接着性の包帯剤であってもよいし、又は、バンデージ又は包帯剤カバーのような手段によって皮膚に保持される必要がある包帯剤であってもよい。
【0082】
一酸化窒素の望ましくない減少を防ぐために、裏地層は非浸透性の裏地層であることが好ましい。包帯剤組成物は、裏地層に直接付着されていてもよい。あるいは、裏地層が発泡体構造を有する場合は、包帯剤組成物は、部分的又は全体的に裏地層の空隙スペース内に包み込まれていてもよい。好適な発泡体構造は、その内部に保持する細孔の相互連結された空隙スペースを有するポリマー(例えばポリウレタン)のような、可撓性を有する弾力材の固体マトリックスを有するものである。そのような発泡又はスポンジ層は、包帯剤に用いられるものとしてよく知られている。
【0083】
本発明の第1の態様に係る組成物の好ましい特徴は、単独で用いられてもよいし、本発明の第2の態様と組み合わせて用いられてもよい。例えば、ゼオライトは、抗病原体性金属イオン、例えばCu、Ag又はZn、好ましくはZnを、骨格外金属カチオンとして含んでいてもよい。
【0084】
前述のゼオライト(ただし放出可能な状態で吸着された一酸化窒素を備えていてもいなくてもよい)は、第1のさらなる組成物に用いられてもよい。第1のさらなる組成物は、4〜70重量%のゼオライトと96〜30重量%のエラストマー系接着剤組成物とを含む包帯剤組成物を提供する。このゼオライトの効果は、包帯剤組成物による体液吸収後の包帯剤組成物の完全性を改善することである。このゼオライトは、前記で詳述したようなNO放出ゼオライトが好ましいが、このことは、そのような包帯剤組成物が水又は体液のような液体によって膨潤したときの、その包帯剤組成物の改善された完全性を得るためには、本質的ではない。エラストマー系接着剤組成物は、親水コロイド系接着剤組成物であることが好適である。ただし、その親水コロイド系接着剤組成物は、親水コロイド系接着剤組成物の重量で、15〜70重量%の親水コロイドと30〜85重量%のエラストマーとを含むものである。前述の本発明の種々の態様の特徴及び使用は、適切な場合は、この第1のさらなる組成物にも適用可能である。
【0085】
前述の、放出可能な状態で吸着された一酸化窒素を含むゼオライトは、第2のさらなる組成物にも用いることができる。第2のさらなる組成物は、ゼオライト粒子が分散された固体ポリマー材料を含む固体組成物を提供する。ここでのゼオライト粒子は、放出可能な状態で吸着された一酸化窒素を含んでいる。前記固体組成物は、発泡体構造を有することが好適である。この発泡体構造では、ゼオライト粒子が分散された固体ポリマー材料が、発泡体構造の連続した固体相を形成している。前記ゼオライト粒子は、前述のようなNO放出ゼオライト粒子である。
【0086】
本開示の固体組成物において用いられる固体ポリマーは、適切なポリマーであればよく、天然ポリマーでも合成ポリマーでもよい。例えば、前記ポリマーは、熱硬化性ポリマー樹脂でも熱可塑性ポリマー樹脂でもよいし、又は、天然ゴムでも合成ゴムでもよい。
【0087】
第2のさらなる組成物に好ましい熱可塑性ポリマーは、ポリ塩化ビニルとその共重合体、ポリアミドとその共重合体、ポリオレフィンとその共重合体、ポリスチレンとその共重合体、ポリフッ化ビニリデンとその共重合体、アクリロニトリルブタジエン‐スチレン、ポリオキシメチレン、及びアセタールの誘導体、ポリブチレンテレフタレート及びグリコールの誘導体、ポリエチレンテレフタレート及びグリコールの誘導体、ポリアクリルアミドナイロン(望ましくはナイロン11又は12)、ポリアクリロニトリルとその共重合体、ポリカーボネートとその共重合体である。ポリエチレン及びポリプロピレンは、好適なポリオレフィンである。このポリエチレン及びポリプロピレンは、カルボン酸又は無水物基をポリマー骨格にグラフト重合することによって化学修飾されていてもよい。低密度ポリエチレンが用いられてもよい。ポリ塩化ビニルは、可塑化されていてもよく、好ましくは塩化ビニルのホモポリマーである。
【0088】
第2のさらなる組成物に用いることができる熱硬化性ポリマーの例として、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、ハイブリッド(エポキシ−ポリエステル)樹脂、ポリウレタン樹脂及びポリアクリル酸樹脂が挙げられる。
【0089】
コラーゲン材料のような天然ポリマーは、第2のさらなる組成物のための、合成ゴムでも天然ゴムでもよい固体ポリマーとして、使用されることも可能である。固体ポリマー材料は、熱可塑性ポリマー及び熱硬化性樹脂からなる群から選択されることが好適である。
【0090】
ゼオライトを固体ポリマー内に分散させるために、一般的に使用される方法、例えば溶融混合の方法又は乾式混合した後に溶融する方法を、用いることができる。
【0091】
好ましいポリマーはポリウレタンであり、特に、弾力性のある、架橋ポリウレタンが好ましい(例えば、国際公開第97/43328号に記載されている。)。
【0092】
ポリウレタンは、例えば、ベッカー/ブラウン(Becker/Braun)著、「合成物質ハンドブック、第7巻(Kunststoff-Handbuch, Vol. 7)、ポリウレタン(Polyurethane)」、121頁以下、カール・ハンザー(Carl-Hanser)出版、1983年、に記載されているような一般的な工程によって、調製できる。
【0093】
ポリウレタンは、良好な皮膚適合性と、さらに酸素及び水蒸気透過性とを有する。脂肪族ポリエステルウレタンは、創傷用包帯剤に特に有用であることが証明されている。
【0094】
放出可能な状態で吸着された一酸化窒素を含むゼオライト粒子は、ゼオライトをポリウレタンの原料物質に混ぜ込むことによって、ポリウレタン反応を中断させることなくポリウレタンに混合されることができる。そして、それらは、一酸化窒素をポリマー内に取り込むにもかかわらず放出することができる。
【0095】
第2のさらなる組成物における固体組成物は、発泡体構造を有することが好適である。この発泡体構造では、ゼオライト粒子が分散された固体ポリマー材料が、発泡体構造の連続した固体相を形成している。
【0096】
包帯剤に用いられるポリマーを発泡させることは、当業者によく知られている。そして、そのような発泡ポリマーは本発明にとって特に有用であり、ポリマー固体が、発泡体構造の連続した固体相を構成して、液体が流れたり吸収されたりするのに用いられる空隙スペースを取り囲んでいる。ゼオライト粒子は固体ポリマーに分散されるので、ゼオライト粒子への液体の接触及び拡散が促進されて、結果として、ゼオライトからの一酸化窒素の放出と、一酸化窒素の液体への拡散及び溶解とを引き起こす。そのような発泡体が包帯剤として用いられた場合、皮膚又は創傷からの液体は、一酸化窒素を放出するために作用する。放出された一酸化窒素は、その後、その液体を介して皮膚又は創傷まで拡散することができる。
【0097】
ポリウレタンは、そのような発泡体であるので、ポリマーとして特に好ましい。好ましくは、第2のさらなる組成物における固体組成物が、本質的に、放出可能な状態で吸着されたNOを含むゼオライトと固体ポリマーとからなること、又は、前記ゼオライトと前記固体ポリマーとから形成されることである。
【0098】
理論に制約されることなく、固体ポリマーとNO放出ゼオライトの組み合わせが特に好ましいと考えられる。その理由は、固体ポリマーが、皮膚からゼオライトへの体液(例えば、汗、傷からの滲出液等)の輸送の媒体となるので、ゼオライトが体液からの水と相互作用する際に、ゼオライトに初めから吸着されていたNOが徐々に放出されるからである。
【0099】
第2のさらなる組成物は、典型的な包帯剤又は瘻孔シールに含まれる場合に、薄膜に形成される。その薄膜は、水浸透性又は水非浸透性のいずれであってもよく、皮膚又は身体開口部に直接適用されてもよく、あるいは、身体に直接適用される他の包帯剤層の上に薄層状に重ねられてもよい。
【0100】
第2のさらなる組成物で用いられる固体ポリマーは、好適に皮膚科学的に容認されることができ、患者の皮膚と(又は本発明の組成物における他の成分と)反応しない。
【0101】
第2のさらなる組成物で用いられる固体組成物は、特に、慢性の創傷の治療のための包帯剤に有用であり、特に、創傷治癒が問題を含んでおり且つ内因性一酸化窒素が治癒を促進するために有効であると知られている、糖尿病又は高齢の患者の治療に有用である。
【0102】
第2のさらなる組成物で用いられる固体組成物は、付加的な、薬剤として活性な物質をさらに含んでいてもよい。その物質は、固体組成物が置かれることになっている目的に応じて選択される。例えば、ステントの再狭窄を抑制するために、前記固体酸化物は、タクソールのような再狭窄抑制剤を含んでいてもよい。再狭窄抑制剤は、固体酸化物から溶出されることができる。創傷治療の改善のために、添加される物質が、創傷治癒物質であってもよい。
【0103】
第2のさらなる組成物で用いられる固体組成物は、皮膚、あるいは、口、膣及び直腸のような体の他の接触可能表面へ適用される包帯剤に用いられてもよい。前記組成物は、ヒト及び動物の両方の使用に適している。
【0104】
包帯剤から送達された一酸化窒素は、血管拡張剤として機能するので、勃起障害の防止、無オルガズム症の治療、経皮ドラッグデリバリーの増強、外科的挿入前の血管拡張等に使用できる。第2のさらなる組成物の固体ポリマー組成物は、それからNOが経皮的に送達されることができるコンドームを形成するために用いられてもよい。
【0105】
第2のさらなる組成物は、本発明の第1の態様に係る固体組成物の表面コーティングを含む医療用の埋め込み物(すなわち、ヒト又は動物の体の内部に配置されるための物品)であってもよい。そのコーティングからのNOのゆっくりとした放出は、炎症反応及び瘢痕を抑制する働きをし、ステントの場合は再狭窄を抑制する。
【0106】
第2のさらなる組成物に係る固体組成物を用いた、ヒトの体(又は、適切な場合は動物の体)の治療方法は、前記に詳述された使用に実行される。
【0107】
第2のさらなる組成物に係る発泡固体酸化物の実施形態の一つは、ベッカー/ブラウン(Becker/Braun)著、「合成物質ハンドブック、第7巻(Kunststoff-Handbuch, Vol. 7)、ポリウレタン(Polyurethane)」、121頁以下、カール・ハンザー(Carl-Hanser)出版、1983年、に記載されている方法に基づいて調製された発泡ポリウレタンであるが、重合及び架橋によってポリウレタンが形成される前の試薬に事前に分散された実施例1のNO放出ゼオライトを20重量%含んでいる。
【0108】
別の調製方法として、実施例1のゼオライト−NOは、発泡ポリウレタンを調製するために用いられることができる。このゼオライト−NOは、上述されたようなものであるが、NOを含んでいなくてもよい。NOは、発泡、重合及び架橋が起こった後で、ゼオライトに担持される。
【実施例】
【0109】
本発明の具体的な実施形態を、一例として以下に説明する。
【0110】
(実施例1)
40gの市販のナトリウムゼオライト(ピーキュー シリカス ユーケー社(PQ Silicas UK Ltd)製の「ゼオライト ダウシル(Doucil) 4A」、平均粒径は概して3〜5μm)を、4リットルの0.05M酢酸亜鉛溶液中に加えて24時間スラリー化することによって、亜鉛でイオン交換されたゼオライトを調製した。得られたイオン交換されたゼオライトは、フィルター処理され、水で洗浄され、そして真空状態下で3時間、300℃で乾燥させた。
【0111】
上記式IIIに対応するが、M’=Znで、ゼオライト4Aではg=2、M=Na及びz=2で、y=0である、式IVを参照する。
IV w(ZnO)・z(Na2O)・Al23・xSiO2
【0112】
XRFで測定された、得られたゼオライトは、w=0.65及びz=0.58の値であった。
【0113】
圧力2バール及び25℃で乾燥NOガスに曝すことによって、乾燥ゼオライトに一酸化窒素が担持された。過剰のNOは漏れ出して、NO担持ゼオライトは乾燥窒素ガスの流れで洗い流されて、吸着されているというよりは物理吸着されているNOが取り除かれた。
NOのレベルは、シーバース(Sievers) NOA 280i 化学発光NO分析装置を用いて測定された。湿気を帯びたガス中にNOを放出するために、担持しているゼオライトに既知湿度の窒素ガスを通すことによって、NOが放出された。ゼオライトは、放出可能な状態で吸着されたNOを0.95mmol/g担持していた。本実施例では、この材料を「ゼオライト‐NO」という。
【0114】
包帯剤組成物は、ポリイソブチレン(エラストマーとしてのPIB(ポリイソブチレン「B12 SFN」BASF社製))と、ナトリウムカルボキシメチルセルロース(親水コロイドとしてのSCMC、「Blanose 7H4FX」、Hercules社製)とから調製された。この組成物は、40重量部のNO担持ゼオライト4Aと、10重量部のSCMC粉末とを、1L・ウィンクワース Zブレード・ミキサー(1 litre Winkworth Z-blade mixer)を用いて、80℃で50重量部のPIB中に分散させることによって、調製された。
【0115】
包帯剤を作製するために、包帯剤組成物の平面状シートが、80℃で10トンの水圧プレスを用いて作製された。はじめは、前記組成物を2枚のシリコーン剥離シートの間に挟んで圧縮し、最後は1枚のシリコーン剥離シートとポリウレタン裏地フィルム(「インスパイヤー(Inspire) 2204」、エクゾパック(Exopack Ltd)社製)の間に挟んで圧縮した。
【0116】
得られた包帯剤を、37℃の水と24時間平衡化させたところ、水吸収後にその完全性が維持されていることが確認された。この包帯剤は、良好な流体吸収を有し、さらに水中に一酸化窒素を放出していることも確認された。
【0117】
(実施例2)
均質の軟膏が、実施例1で調製された6.6グラムのゼオライト−NOと、ブーツ社(Boots Company PLC)製の乳化軟膏(BP)(50重量%の白色の軟パラフィン及び20重量%の液体パラフィンBPと、30重量%の乳化ワックス)とから調製された。得られた軟膏を、以降、「軟膏A」という。
【0118】
親水コロイドの調製は、乾燥窒素雰囲気下で、5グラムの「ブラノーズ(Blanose)7H4FX」(ポリイソブチレン)と1グラムのSCMCとを、実施例1のゼオライト‐NOと混合することによって行われた。以降、親水コロイドの調製を「親水コロイドB」という。
【0119】
軟膏A及び親水コロイドBのレベルからのNOの放出率は、シーバース(Sievers) NOA 280i 化学発光NO分析装置を用いて測定された。0.4グラムの軟膏A又は0.3グラムの親水コロイドBの何れかのサンプルを、いずれの場合も、密封されたガラス水薬瓶(内部体積4.55mL)の中に配置した。その結果、水薬瓶内の初期のNO量は、親水コロイドB及び軟膏Aのいずれの場合でもほぼ同じであった。湿気を帯びたガス中にNOを放出するために、水薬瓶内のサンプルに既知湿度の窒素ガスを流速180ミリリットル/分で通すことによって、NOが放出された。そのガスは、水薬瓶の隔膜を貫通している注射針を介して水薬瓶に出入りしていた。ガスは、最初にそのガスをドレッシェルボトル(Dreschel bottle)内の22℃の水に通過させることによって、加湿された。
【0120】
結果は、図1〜3に示されている。
【0121】
各図面は、放出されたNOの全量(サンプル内に存在するゼオライトNOのグラム当たりの、mmol単位のNO量)を、期間(時間)の関数として示す。全放出量は0.95mmol/gに一致するだろう。
【0122】
図1は、軟膏Aの、塗布ではないサンプル(non-smeared sample)からの放出を示している。これは、水薬瓶の底部に厚層(約1mm厚)として、水薬瓶内に存在しており、水薬瓶の断面積と同じ放出面積を有している。150時間後、サンプル内に存在している10%のNOが放出された。曲線の傾斜によって表された放出率は、150時間の時よりも初期の方が高い。放出率は、時間の経過とともに徐々に低下している。
【0123】
図2は、軟膏Aのサンプルからの放出を示している。ここでは、軟膏Aが塗布されて水薬瓶の内表面上に薄膜(0.03mm厚)が形成され、その結果、放出は図1の場合の面積(約13cm2)よりも大きい面積から行われている。この場合、150時間で35%のNOが放出され、0時間での初期傾斜と150時間での最終傾斜との差は相当大きい。言い換えると、放出率は、時間の経過とともに著しく低下している。
【0124】
図3は、水薬瓶内の寸法が図1の軟膏Aのサンプルと類似している親水コロイドBのサンプルからの放出を示している。言い換えると、親水コロイドBのサンプルは、厚層(この場合もやはり1mm厚)として存在しており、水薬瓶の断面積と同じ放出面積を有している。150時間で放出されたNOの全量は、軟膏Bと同じであるが、放出曲線の傾斜によって示された放出率は、150時間に渡って一定である。
【0125】
よってこのデータは、NOの放出が起こるように湿った領域に接触させた場合、放出面積を親水コロイドBと軟膏Aの2つのサンプルで同じにすると、親水コロイドBは軟膏Aよりも均一な放出挙動を示す、ということを証明している。
【0126】
実際には、軟膏の低い構造的完全性は、一般に、皮膚上で薄く塗布された層として存在することにつながっており、それで、図2に示されるような放出プロフィールになる可能性が高い。親水コロイドBの挙動と比較すると、放出の速度はとても不均一で、かなり多くのNOが初期に放出される(図2では5時間で10%が放出されているが、図3では10%の放出に150時間を要している。)。
【0127】
親水コロイドの構造的完全性とは、皮膚用包帯剤において厚層として維持されることができることを意味する。一方、軟膏ではそのような厚層を実現することが困難かもしれない。図1と図2の比較によれば、たとえ軟膏で厚層を実現できたとしても、親水コロイド組成物はさらに改善された均一な放出速度を有する、ということも証明されている。
【0128】
(実施例3)
ゼオライト1
4グラムのゼオライト4A(ピーキュー シリカス ユーケー社(PQ Silicas UK Ltd)製の「ゼオライト ダウシル(Doucil) 4A」、平均粒径は概して3〜5μm)を、400mLの0.05M硝酸亜鉛溶液中に加えて24時間スラリー化した。そのスラリーは、フィルター処理され、水で洗浄され、そして乾燥させた。得られた生産物は、XRF(蛍光X線)分析装置によって分析された。
【0129】
ゼオライト2
この例は実施例A1に関するが、硝酸亜鉛は可溶性塩として且つより濃縮された溶液として用いられ、そしてより短いイオン交換時間が用いられた。22.5グラムの硝酸亜鉛・7水和物が60グラムの脱イオン水に溶解された。13グラムのゼオライト4Aが、まず、22.5グラムの脱イオン水でスラリー化された。スラリーのpHは11.4であった。そのゼオライトのスラリーは、次に硝酸亜鉛溶液に添加された。混合物が30分間スラリー化され、洗浄され、及び乾燥させた。生成物は、XRFで分析された。
【0130】
ゼオライト3(第1の方法に係る)
ゼオライトのスラリーを硝酸亜鉛溶液に加えるよりも前に、0.5Mの硝酸溶液を用いてゼオライトのスラリーのpHをpH5まで下げたこと以外は、実施例Bの手順が繰り返された。
【0131】
ゼオライト4、5及び6(全て、第1の方法に係る)は、ゼオライトのスラリーのpHが、それぞれpH6、7及び9まで下げられたこと以外は、実施例1と類似する。
【0132】
XRF分析から、Na2Oのモル比(式IIIからのz)とZnOのモル比(式IIIからのw)が得られた。これらの結果は、合計された比とともに、以下の表1で与えられている。
【0133】
【表1】

【0134】
上記の表は、第1の2つのゼオライトのサンプル(1及び2)の両方が、望ましい化学量論から約20%ほど多い生成物となっており、第1の方法のイオン交換プロセスによれば、結果として、化学量論に求められる値に近い(w+z)値を有する化合物が得られることを、明確に証明している。この表は、また、ゼオライトのスラリーのpH値が増加するにつれて、合計比(w+z)も増加することも証明している。比較例で観察された過剰なイオン交換は、ゼオライトのスラリーの高いpHによるものかもしれない。
【0135】
走査型電子顕微鏡法
走査型電子顕微鏡法(Scanning electron microscopy (SEM))がゼオライト2及びゼオライト4に対して適用され、その走査型電子顕微鏡写真が図4及び5に示されている。図4及び5のそれぞれにおいて、長さ1.5μmの破線が見られる。
図4については、ゼオライト2の従来のイオン交換プロセスでは、結果的に得られるのは、おそらくゼオライトではない種類の固体結晶によって表面が覆われている、第2の(イオン交換された)ゼオライト結晶である。図5では、第1の方法から結果として得られた第2の(イオン交換された)ゼオライトは、ゼオライトではない種類によって汚染されていない、きれいな表面を示している。
【0136】
一酸化窒素吸着容量
イオン交換されたゼオライト2及び4のサンプルは、まず、真空で3時間、300℃で脱水された。それらのサンプルは、次に室温まで冷却され、およそ2気圧の圧力の乾燥NOガスに30分間にさらされた。過剰なNOが抜けて、サンプルは乾燥窒素ガスの流れで洗い流されて、物理吸着されているNOが確実に取り除かれた。
一酸化窒素の分析は、シーバース(Sievers) NOA 280i 化学発光NO分析装置を用いて行われた。サンプルからのNO放出を測定するために、既知湿度の窒素ガスがサンプルに通されて、結果として生じた窒素が分析装置に導入されて、NO濃度が時間とともに記録され、総一酸化窒素吸着容量を得るために積分された。ゼオライト2及び4の吸着容量は、以下の表2で与えられている。
【0137】
【表2】

【0138】
第1の方法として上記に説明した方法によれば、従来のイオン交換方法よりも著しく良好なNO吸着容量を備えた、イオン交換されたゼオライトが得られる。
【0139】
記載され及び図示された本実施形態は、実例であってその特徴を限定しないものと考えられる。それは、単に好ましい実施形態が示されて記載されていること、そして特許請求の範囲で定義されたような本発明の範囲内で行われる全ての変更及び修正が保護されることが望まれること、が理解される。本明細書における、「好ましい(preferable)」、「好ましくは(preferably)」、「好ましい(preferred)」又は「より好ましい(more oreferred)」のような用語の使用は、そのように記載された特徴が望ましいだろうことを示唆しているけれど、それは必ずしも必須ではなく、そのような特徴が欠如している実施形態も添付の特許請求の範囲で定義されたような本発明の範囲内であると考えられる。特許請求の範囲に関して、「一つの("a," "an,")」、「少なくとも一つの(at least one)」又は「少なくとも一つの部分の(at least one portion)」のような用語がある特徴の前に置かれている場合は、特許請求の範囲内で反対のことを特に述べない限り、その特許請求の範囲がたった一つのそのような特徴に限定されることを意図しない。「少なくとも一部分(at least a portion)」及び/又は「一部分(aportion)」の用語が用いられいている場合は、反対のことを特に述べない限り、その部材は一部及び/又はその部材の全体を含む。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
i)エラストマー系接着剤組成物と、
ii)放出可能な状態で吸着された一酸化窒素を含むゼオライトと、
を含む、皮膚用包帯剤組成物として用いられる包帯剤組成物。
【請求項2】
99.5〜30重量%のエラストマー系接着剤組成物と、0.5〜70重量%のゼオライトとを含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記ゼオライトが、ゼオライトP、ゼオライトA、ゼオライトX、ゼオライトY、及びそれらの混合物から選ばれる、
請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
前記ゼオライトが、ゼオライトAである、
請求項3に記載の組成物。
【請求項5】
前記ゼオライトが、遷移金属カチオンを、正電荷を付与する骨格外金属カチオンとして含む、
請求項1〜4の何れか1項に記載の組成物。
【請求項6】
前記ゼオライトにおける前記骨格外カチオンの5モル%以上、好ましくは20モル%以上、より好ましくは50モル%以上が、遷移金属カチオンである、
請求項5に記載の組成物。
【請求項7】
前記遷移金属カチオンが、Co、Fe、Mn、Ni、Cu、Zn、Ag又はそれらの混合物、好ましくはZn、Cu、Ag又はそれらの混合物、より好ましくはZnである、
請求項5又は6に記載の組成物。
【請求項8】
前記ゼオライトは、放出可能な状態で吸着された一酸化窒素を、0.2mmol/g以上、好ましくは0.5mmol/g以上、より好ましくは1.0mmol/g以上含む、
請求項1〜7の何れか1項に記載の組成物。
【請求項9】
前記ゼオライトが乾燥ゼオライトである、
請求項1〜8の何れか1項に記載の組成物。
【請求項10】
前記ゼオライトの体積平均粒径が、0.1〜20μm、好ましくは0.5〜10μmである、
請求項1〜9の何れか1項に記載の組成物。
【請求項11】
前記エラストマー系接着剤組成物が、当該エラストマー系接着剤組成物の重量で、0〜85重量%の親水コロイドと、15〜100重量%のエラストマーとを含む、
請求項1〜10の何れか1項に記載の組成物。
【請求項12】
前記エラストマー系接着剤組成物は、親水コロイド系接着剤組成物であり、
前記親水コロイド系接着剤組成物が、当該親水コロイド系接着剤組成物の重量で、30〜85重量%の親水コロイドと、15〜75重量%のエラストマーとを含む、
請求項11に記載の組成物。
【請求項13】
付加的な、薬剤として活性な物質をさらに含む、
請求項1〜12の何れか1項に記載の組成物。
【請求項14】
前記付加的な、薬剤として活性な物質が、創傷治療剤である、
請求項13に記載の組成物。
【請求項15】
創傷の治療用、特に慢性の創傷の治療用、特に高齢患者又は糖尿病患者の治療用である、
請求項1〜14の何れか1項に記載の組成物。
【請求項16】
皮膚接触面と請求項1〜15の何れか1項に記載の包帯剤組成物とを含む包帯剤層を保持する裏地層、好ましくは非浸透性の裏地層を含む、
皮膚に使用される包帯剤。
【請求項17】
前記包帯剤層の前記皮膚接触面に除去可能に付着された剥離ライナーをさらに含む、
請求項16に記載の包帯剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2012−509124(P2012−509124A)
【公表日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−536944(P2011−536944)
【出願日】平成21年11月20日(2009.11.20)
【国際出願番号】PCT/GB2009/002718
【国際公開番号】WO2010/058176
【国際公開日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【出願人】(511122352)ピーキュー シリカス ユーケイ リミテッド (1)
【氏名又は名称原語表記】PQ SILICAS UK LIMITED
【Fターム(参考)】