説明

組換えウイルス発現のためのプロモーター

本発明は、(a)配列番号1に記載するヌクレオチド配列を有する核酸、(b)(a)に記載した核酸に由来するヌクレオチド配列を有する核酸であって、(a)のヌクレオチド配列と比べて少なくとも1つのヌクレオチド付加、欠失、置換、および/または逆位を含み、かつ(a)の核酸と本質的に同じ発現特性を有する核酸、(c)(a)の核酸と少なくとも70%の同一性を有し、かつ(a)の核酸と本質的に同じ発現特性を有する核酸配列、ならびに(d)(a)、(b)、または(c)の核酸にハイブリダイズすることができ、かつ(a)の核酸と本質的に同じ発現特性を有する核酸からなる核酸の群から選択されるプロモーターに関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポックスウイルス、特に改変ワクシニアウイルスアンカラ(Ankara)(MVA)などのワクシニアウイルスにおける遺伝子のタンパク質発現の新規なプロモーターに関する。本発明はさらに、前記プロモーターを含むポリヌクレオチド、特に、前記プロモーターおよび発現させようとする核酸を含むポリヌクレオチド、それを含むベクター、前述のコンストラクトを含む宿主細胞、ならびに前述のもののいずれかを含む組成物にも関する。本発明はさらに、核酸、好ましくは遺伝子を発現させるための前述のコンストラクトのいずれかの使用、様々な疾患を治療および/または予防するための医薬を調製するための前述のコンストラクトの使用、様々な疾患を治療および/または予防する方法、前述のコンストラクトを使用する(implement)、ポリペプチドを調製する方法、ならびに前述のコンストラクトの内のいくつかを使用する、核酸を発現させる方法にも関する。
【背景技術】
【0002】
組換えポックスウイルスは、感染細胞において外来抗原を発現させるために広く使用されている。さらに、組換えポックスウイルスは、ポックスウイルスベクターから発現させた外来抗原に対する免疫応答を誘導するための非常に有望なワクチンである。最も普及しているのは、一方ではアビポックスウイルスであり、他方では、ワクシニアウイルス、特に改変ワクシニアウイルスアンカラ(「MVA」)である。MVAは、ワクシニアウイルスに関連しており、ポックスウイルス(Poxviridae)科のオルソポックスウイルス(Orthopoxvirus)属のメンバーである。
【0003】
MVAは、ワクシニアウイルスのアンカラ株(CVA)をニワトリ胚線維芽細胞において516回連続的に継代培養することによって作製された(概要については、Mayrら(1975)Infection 3、6〜14を参照されたい)。これらの長期に渡る継代培養の結果として、得られたMVAウイルスは、そのゲノム配列の約31キロベースを欠失しており、したがって、トリ細胞に著しく宿主細胞が限定されていると説明された(Meyerら(1991)J.Gen Virol.72、1031〜1038)。様々な動物モデルにおいて、得られたMVAは、かなり無毒性であることが示された(MayrおよびDanner(1978)Dev.Biol.Stand.41、225〜34)。さらに、このMVA株は、ヒト天然痘疾患に対して免疫性を与えるためのワクチンとして臨床試験で試験されている。
【0004】
ポックスウイルスにおける異種遺伝子の発現のためには、ごく少数のプロモーターしか公知ではなく、例えば、30Kプロモーターおよび40Kプロモーター(例えば、US5,747,324を参照されたい)、強力な合成の初期/後期プロモーター(例えば、Sutterら(1994)Vaccine 12、1032〜1040を参照されたい)、Pr7.5プロモーター(7.5Kプロモーター、例えば、Endoら(1991)J.Gen.Virol 72、699〜703を参照されたい)、ならびに牛痘ウイルスA型封入体(ATI)遺伝子に由来するプロモーター(PrATI、Liら(1998)J.Gen.Virol.79、613)である。これらのプロモーターはすべて、異種遺伝子を発現させるために組換えワクシニアウイルスにおいて使用されており、前記遺伝子を発現させて、異種遺伝子にコードされるタンパク質の産生をもたらすことが示された。しかし、ワクシニアウイルスにおける代替のプロモーター、具体的には強力なプロモーターが依然として一般に必要とされている。
【0005】
したがって、MVAは、ワクチン、ならびに多量の組換えタンパク質を作製するための発現系として広く使用されている。特にワクチンとしての用途において、誘発される所望の免疫応答は、MVAを含有するワクチンの投与後に産生されるタンパク質の量に部分的に依存するため、高レベルの抗原を産生することが望ましい。これまで、タンパク質の所望の免疫原性の強化は、いくつかの方法で達成されている。第1に、裸の(naked)抗原タンパク質をワクチンとして投与する場合、より多量の関連するタンパク質が、ワクチン接種しようとする対象に導入され得る。組換え発現系に基づいたワクチン、すなわち、例えば、MVAなどのポックスウイルスベクターにおいてコード核酸が投与され、この核酸から発現されたタンパク質によって実際の免疫応答が誘発されるワクチンにおいて、抗原の転写を促進することによって免疫原性を強化することもまた、可能である(Wyattら(2008)Vaccine 26、486〜493)。また、既に転写されたRNAの翻訳を促進することも可能である。最後に、免疫原性は、免疫系への抗原提示を促進することによって強化することができる。
【0006】
特にワクチンとして使用するためのウイルス組換え発現系を設計する際に頻繁に遭遇する1つの問題は、これらのコンストラクトがしばしば、核酸レベルで安定性を欠くことである。さらに、核酸は、ウイルスベクター内で望ましくない組換えを受けることが頻繁にあり、これにより、ワクチン接種された宿主において所望の免疫原性ペプチドをウイルスベクターが産生する能力がしばしば低下し、場合によっては抑止さえされてしまう。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、十分な免疫原性応答を誘発するために必要な、程度の高いタンパク質発現を保持しつつ、これらの問題を克服することが目的である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の1つの態様は、
(a)配列番号1に記載するヌクレオチド配列を有する核酸(それぞれ「PrSSL」)、
(b)(a)に記載した核酸に由来するヌクレオチド配列を有する核酸であって、(a)のヌクレオチド配列と比べて少なくとも1つのヌクレオチド付加、欠失、置換、および/または逆位(inversion)を含み、かつ(a)の核酸と本質的に同じ発現特性を有する核酸、
(c)(a)の核酸と少なくとも70%の同一性を有し、かつ(a)の核酸と本質的に同じ発現特性を有する核酸配列、ならびに
(d)(a)、(b)、または(c)の核酸配列にハイブリダイズすることができ、かつ(a)の核酸と本質的に同じ発現特性を有する核酸
からなる核酸の群から選択されるプロモーターを提供する。
【0009】
好ましくは、プロモーターは、27以下のヌクレオチド長を有する。
【0010】
好ましくは、プロモーターは、配列番号33または配列番号34に記載するヌクレオチド配列を有する。
【0011】
本発明の別の態様は、上記のプロモーターを含むポリヌクレオチドを提供する。好ましくは、ポリヌクレオチドは、プロモーターのほかに、+1位以降に(from)付加される別のヌクレオチドも含んでよい。
【0012】
好ましくは、ポリヌクレオチドは、配列番号2、3、4、または5に記載するヌクレオチド配列を有する。
【0013】
本発明の別の態様は、前述のプロモーターまたは前述のポリヌクレオチドおよび発現させようとする核酸を含むポリヌクレオチドを提供する。
【0014】
本発明の別の態様は、前述のプロモーターまたはポリヌクレオチドを含むベクターを提供する。
【0015】
別の態様において、本発明は、前述のプロモーター、前述のポリヌクレオチド、および/または前述のベクターを含む宿主細胞を提供する。
【0016】
本発明の別の態様は、前述のプロモーター、前述のポリヌクレオチド、前述のベクター、および/または前述の宿主細胞を含む組成物を提供する。
【0017】
別の態様において、本発明は、ワクチンにおいて使用するための、前述のプロモーター、前述のポリヌクレオチド、前述のベクター、前述の宿主細胞、および/または前述の組成物を提供する。
【0018】
本発明の別の態様は、核酸、好ましくは遺伝子を発現させるための、前述のプロモーター、前述のポリヌクレオチド、前述のベクター、前述の宿主細胞、および/または前述の組成物の使用を提供する。
【0019】
本発明の別の態様は、薬剤としての、前述のプロモーター、前述のポリヌクレオチド、前述のベクター、前述の宿主細胞、および/または前述の組成物を提供する。
【0020】
本発明の別の態様は、免疫応答を誘導するため、または癌および/もしくは感染症を治療もしくは予防するための医薬の調製における、前述のプロモーター、前述のポリヌクレオチド、前述のベクター、前述の宿主細胞、および/または前述の組成物の使用を提供する。
【0021】
本発明の別の態様は、免疫応答を誘導するため、または癌および/もしくは感染症を治療もしくは予防するための、前述のプロモーター、前述のポリヌクレオチド、前述のベクター、前述の宿主細胞、および/または前述の組成物を提供する。
【0022】
別の態様において、本発明は、
(a)前述のポリヌクレオチドを提供するステップであって、発現させようとする核酸配列がオープンリーディングフレーム(「ORF」)または部分的ORFを含むステップと、
(b)発現させようとする核酸の転写および翻訳の助けとなる条件に(a)のポリヌクレオチドを供するステップと、
(c)ポリペプチドを回収するステップと、
(d)場合によってはポリペプチドを精製するステップと
を含む、ポリペプチドを調製する方法を提供する。
【0023】
本発明の別の態様は、発現させようとする核酸を含むポリヌクレオチドを提供するステップと、発現させようとする核酸に作動可能に連結された前述のプロモーターまたはこのプロモーターを含むポリヌクレオチドを提供するステップと、核酸の発現の助けとなる条件に、このようにして提供されたヌクレオチドを供するステップとを含む、核酸を発現させる方法を提供する。
【0024】
本発明の別の態様は、前述のプロモーター、前述のポリヌクレオチド、前述のベクター、前述の宿主細胞、および/または前述の組成物を提供するステップと、ヒトを含む対象動物に組成物を投与するステップとを含む、免疫応答を誘導するための方法、または癌および/もしくは感染症を治療もしくは予防するための方法に関する。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】araC(アラビノシルシトシン、DNA合成の阻害剤)を伴う場合および伴わない場合のMVA−BN(登録商標)対照と比較した、初期/後期プロモーターPrS、PrSSL(配列番号1)、および後期プロモーター阻害物質araCの様々な組合せの存在下でのタンパク質オボアルブミン(「OVA」)の発現を示す図である。市販の定量用オボアルブミン特異的ELISA(SERAMUN DIAGNOSTICA)を用いて発現を測定し、市販のBCAアッセイ(UPTIMA)を用いて全タンパク質を測定する。発現の値は、全タンパク質1mg当たりのオボアルブミン発現量(μg)として算出する。棒1:PrS−OVA+araC。棒2:PrS−OVA。棒3:PrSSL−OVA+araC。棒4:PrSSL−OVA。棒5:MVA−BN(登録商標)(対照の空ベクター)+araC。棒6:MVA−BN(登録商標)(対照の空ベクター)、araC無し。Y軸は、全細胞タンパク質1mg当たりのオボアルブミン発現量(μg)を表し、数が大きいほど、より多くのタンパク質産生、すなわち、より高い発現を表す。MVAにおけるオボアルブミンタンパク質の発現にはプロモーターが必要であり、PrSSLのほかには他のプロモーターが存在しなかったため、棒4(PrSSL−OVA)は、プロモーターとしての配列番号1の活性を示す。araCはMVA生活環の後期にプロモーター活性を阻害するが初期には阻害しないことが公知であるため、棒3(PrSSL−OVA+araC)は、後期プロモーターとしての配列番号1の活性を示す。
【図2】araC(アラビノシルシトシン、DNA合成の阻害剤)を伴う場合および伴わない場合のMVA−BN(登録商標)対照と比較した、PrSSLまたはフィラー配列のいずれかを伴うPr7.5プロモーターおよびPr7.5eプロモーター、ならびに後期プロモーター阻害物質araCの様々な組合せの存在下でのタンパク質オボアルブミン(「OVA」)の発現を示す図である。市販の定量用オボアルブミン特異的ELISA(SERAMUN DIAGNOSTICA)を用いて発現を測定し、市販のBCAアッセイ(UPTIMA)を用いて全タンパク質を測定する。発現の値は、全タンパク質1mg当たりのオボアルブミン発現量(μg)として算出する。PrSSLは、配列番号1のプロモーターを示す。棒1:Pr7.5−フィラー−OVA+araC。棒2:Pr7.5−フィラー−OVA。棒3:Pr7.5−PrSSL−OVA+araC。棒4:Pr7.5−PrSSL−OVA。棒5:Pr7.5e−OVA+araC。棒6:Pr7.5e−OVA。棒7:Pr7.5e−PrSSL−OVA+araC。棒8:Pr7.5e−PrSSL−OVA。棒9:MVA−BN(登録商標)(対照の空ベクター)+araC。棒10:MVA−BN(登録商標)(対照の空ベクター)、araC無し。Y軸は、全細胞タンパク質1mg当たりのオボアルブミン発現量(μg)を表し、数が大きいほど、より多くのタンパク質産生、すなわち、より高い発現を表す。棒2(Pr7.5−フィラー−OVA)と比較した棒4(Pr7.5−PrSSL−OVA)、ならびに棒6(Pr7.5e−フィラー−OVA)と比較した棒8(Pr7.5e−PrSSL−OVA)から、他のプロモーターと組み合わせたPrSSLが、レポーター遺伝子OVAの発現を促進することが示される。実施例3のように、araCの実験的添加により、融合されたプロモーターに対するPrSSLの相加作用が消失するため、PrSSLの発現特性は後期である。「フィラー」とは、ランダムなGCリッチ配列TTCAGTCCTATGG(配列番号6)を示し、これは、プロモーターとしてのPrSSLの活性を与えずに試験した他のコンストラクトにおいてPrSSLとほぼ同じ空間を占める対照としてPrSSLを置き換えることが意図される。
【図3】PrSSLと比較した、牛痘ウイルス(Cowpoxvirus)に由来する周知の強力な後期プロモーターであるPrATIの存在下での組換えMVA−BN(登録商標)からのタンパク質オボアルブミン(「OVA」)の発現を示す図である。市販の定量用オボアルブミン特異的ELISA(SERAMUN DIAGNOSTICA)を用いて発現を測定し、市販のBCAアッセイ(UPTIMA)を用いて全タンパク質を測定する。発現の値は、PrATI−フィラー−OVA(棒1)の発現に対する倍率xとして算出する。棒1:PrATI−フィラー−OVA。棒2:PrATI−PrSSL−OVA(PrSSLは、配列番号1のプロモーターに対応する)。Y軸は、オボアルブミン発現の倍率xを表し、数が大きいほど、より多くのタンパク質産生、すなわち、より高い発現を表す。PrATIプロモーターにPrSSL配列を融合することにより、PrATIのみを使用した場合に観察された発現と比較して14倍高いオボアルブミン発現がもたらされたことから、PrSSLがMVAにおいて強力なプロモーターであることが示される。
【0026】
(表1)配列番号1に示されるプロモーターの決定。24種のMVA遺伝子に由来す
る開始コドンの周囲の領域のアライメントにより、高レベルの発現タンパク質が生じると想定された。表の下の最初の2つの行は、配列中の各位置において最も多く出現するヌクレオチド、およびこのヌクレオチドの出現率を示す。表の下の最後の2つの行は、配列中の各位置において2番目に多く出現するヌクレオチド、およびこのヌクレオチドの出現率を示す。列の下の空白箇所は、25%未満の出現率を意味する。所与の位置における2つのヌクレオチドは、その所与の位置におけるこれらのヌクレオチドの出現率が同一であることを示す。表1は、実施例の最後に含まれる。
【発明を実施するための形態】
【0027】
前述したように、1態様において、本発明は、
(a)配列番号1に記載するヌクレオチド配列を有する核酸(それぞれ「PrSSL」)、
(b)(a)に記載した核酸に由来するヌクレオチド配列を有する核酸であって、(a)のヌクレオチド配列と比べて少なくとも1つのヌクレオチド付加、欠失、置換、および/または逆位を含み、かつ(a)の核酸と本質的に同じ発現特性を有する核酸、
(c)(a)の核酸と少なくとも70%の同一性を有し、かつ(a)の核酸と本質的に同じ発現特性を有する核酸配列、ならびに
(d)(a)、(b)、または(c)の核酸配列にハイブリダイズすることができ、かつ(a)の核酸と本質的に同じ発現特性を有する核酸
からなる核酸の群から選択されるプロモーターを提供する。
【0028】
好ましくは、プロモーターは、27以下のヌクレオチド長を有する。
【0029】
本発明は、配列番号1に記載する配列および関連する配列が、ポックスウイルス系、特にワクシニアウイルス系、特にMVAにおける遺伝子発現の後期プロモーターとして効率的に機能するという驚くべき発見に基づいている。「後期プロモーター」という用語は、ウイルスDNA複製が起こった後に活性である任意のプロモーターを意味する。本発明のプロモーターは、長さが非常に短いために、プロモーターとして独特である。例えば、配列番号1(PrSSL)、配列番号33、または配列番号34は、わずか16個のヌクレオチドを含み、したがって、他の公知のワクシニアプロモーターよりも、長さがはるかに短い。この極端な短さは、他の公知のワクシニアウイルスプロモーターよりも優れたいくつかの明瞭な利点を意味する。
【0030】
第1に、核酸配列の安定性は、一般にその長さに反比例する。したがって、長い核酸配列ほど、in vivoでの安定性が低いことが一般に予想され、短い核酸配列ほど、in vivoで高い安定性を示すことが一般に予想される。プロモーターは一般に、ワクシニアにおける組換え発現系の必須エレメントであるため、遺伝子コンストラクトの所望の発現を失うことなくプロモーターを除外することはできない。したがって、本発明者らは、PrSSLおよび関連するプロモーター配列中のこの必須プロモーターエレメントのサイズを大きく減らすことによって、結果として生じる遺伝子コンストラクトの安定性を大きく改善し、それによって、時間とともに減弱しないin vivoでの継続的な高い発現レベルを確保した。
【0031】
第2に、PrSSLおよび配列番号1と本質的に同じ発現特性を有する関連する配列の方が、それぞれ、他の公知のプロモーターよりも、ワクシニア中の伸長された発現カセットの一部として合成するのが容易である。
【0032】
さらに、2つの遺伝子間の相同組換えの頻度は、2つの連鎖遺伝子間の距離に比例することが一般に公知である。さらに、所与の配列内の各ヌクレオチドは、ある一定の統計学的組換え確率を伴っているため、より長い相同配列ほど、より多くのヌクレオチドを含むために、不安定ウイルスまたは非機能的ウイルスを潜在的にもたらし得る組換えを起こしやすいと一般に考えられる。逆に、より短い配列は、より低い組換え確率を意味し、これが、それらをより安定にする。PrSSLによって与えられるプロモーターおよび本質的に同じ発現特性を有する関連するプロモーターの長さは極めて短いため、これらのプロモーターは、ワクシニアゲノム内で組換えをはるかに起こしにくくなっており、したがって、より長い他の公知のプロモーターよりも、継続的な高いタンパク質発現レベルをもたらす可能性が高い。ワクシニアウイルスがワクチンとして使用される場合、この発現量の増大は、産生される抗原性タンパク質の免疫原性の増大として顕在化する。これは、より大きな効果的タンパク質力価が生じるためである。
【0033】
最後に、PrSSLおよび本質的に同じ発現特性を有する関連するプロモーターのプロモーター活性は、非常に強い。例えば、PrSSLのプロモーター活性はPrSのプロモーター活性の約2/3であることが観察されている(実施例および対応する図面を参照されたい)。PrSは、最強ではないとしても、公知の最強プロモーターの内の1つである。
【0034】
本明細書において使用される場合、「プロモーター」という用語は、発現させようとする核酸の配列の上流に位置する、核酸、通常DNAの調節領域を意味し、これは、例えば、タンパク質転写因子および促進される遺伝子のコード領域からRNAを合成するのに関与するポリメラーゼによって認識され結合される特殊なDNA配列エレメントを含む。したがって、プロモーター配列は、−1位までのヌクレオチドを含んでよい。しかし、+1位以降のヌクレオチドは、プロモーターの一部分ではない。すなわち、この点に関して、翻訳開始コドン(ATGまたはAUG)はプロモーターの一部分ではないことに留意しなければならない。したがって、配列番号2および配列番号3は、本発明のプロモーター、およびさらに、任意選択の別のヌクレオチドと共に翻訳開始コドンATGを含むポリヌクレオチドである。ヌクレオチドのこの番号付与を表1に示す。プロモーターおよびポリヌクレオチドに関して本明細書において与える位置は、mRNA位置に関連している位置を必ずしも反映しないことに、さらに留意しなければならない。
【0035】
本明細書において使用される場合、配列番号1に記載するヌクレオチド配列と「本質的に同じ発現特性」を有するヌクレオチド配列は、産生される組換えタンパク質の量に基づいて測定した場合、配列番号1のプロモーター活性の少なくとも70%、好ましくは少なくとも80%、さらにより好ましくは少なくとも90%を示すと考えられる。問題のプロモーター配列が、配列番号1のいずれかと「本質的に同じ発現特性」を有するか否かは、本出願の実施例1に記載する方法を用いて、当業者は容易に判定することができる。本発明によるプロモーターは、好ましくは、ポックスウイルスプロモーターとして、好ましくはワクシニアウイルスプロモーターとして活性であるか、またはポックスウイルス感染細胞、好ましくはワクシニアウイルス感染細胞におけるプロモーターとして活性である。ワクシニアウイルスは、好ましくはMVA、特に、下記に特定するMVA株の内の1つである。「ポックスウイルスプロモーターとして活性」とは、そのプロモーターが、ポックスウイルス中でそれが作動可能に連結されている遺伝子の発現を、前記ウイルスによる細胞感染後に指示できることを意味する。これらの細胞は、好ましくは、ポックスウイルスの後期および/もしくは初期ならびに/または初期/後期発現を可能にする細胞である。また、「ポックスウイルス感染細胞中で活性なプロモーター」には、そのプロモーターがポックスウイルスゲノムの一部分ではない、例えば、プラスミドもしくは直線状ポリヌクレオチドまたは非ポックスウイルスのウイルスゲノムの一部分である状況も含まれ、このような状況において、本発明によるプロモーターは、そのプロモーターを含む細胞が、ポックスウイルスゲノムも含む場合、例えば、その細胞がポックスウイルスに感染した場合、活性である。これらの環境下で、ウイルスRNAポリメラーゼは、本発明によるプロモーターを認識し、このプロモーターに連結している遺伝子/コード配列の発現が活性化される。
【0036】
本明細書において使用される場合、「配列番号1に記載する核酸に由来する」という用語は、配列番号1のヌクレオチド配列が、指定されるヌクレオチド改変、例えば、少なくとも1つのヌクレオチド付加、欠失、置換、および/または逆位を生じさせるための基盤として使われることを意味する。「由来する」という用語は、例えば、配列番号1に対応する物理的配列を公知の方法、例えば、誤りがちなPCRによって実際に改変する可能性を含む。「由来する」という用語は、コンピューター上(in silico)で配列番号1の配列に対する改変を実施し、次いで、そのようにして決定された配列を物理的核酸として合成する可能性をさらに含む。例えば、「由来する」という用語は、例えば、ハイブリダイゼーション安定性に関する核酸配列の解析のために任意の公知のコンピュータープログラムを使用する可能性、および配列番号1の開始配列を改変する際の任意の核酸二次構造の可能性を包含する。好ましくは、配列番号1の核酸から、10個、9個、8個、7個、6個、5個、4個、3個、2個、または1個以下のヌクレオチドの付加、欠失、置換、および/または逆位が起こされる。さらに、少なくとも1つのヌクレオチドの付加、挿入、または欠失は、発現させようとする核酸の開始コドンに起こる(result to)べきではない。配列番号1に記載する核酸に由来するこのようなプロモーターの例は、例えば、配列番号33(aatttttaatctataa)または配列番号34(attttttattctataa)である。
【0037】
本明細書において使用される場合、「発現される」、「発現する」、および「発現」などの用語は、関心対象の配列の転写のみ、ならびに転写と翻訳の両方を意味する。したがって、DNAの形態で存在する核酸の発現に言及する際、この発現の結果として生じる産生物は、(発現させようとする配列の転写のみの結果として生じる)RNAまたは(発現させようとする配列の転写と翻訳の両方の結果として生じる)ポリペプチド配列のいずれかでよい。したがって、「発現」という用語はまた、RNAおよびポリペプチド産物の両方が前記発現の結果として生じ、かつ同じ共通環境において一緒に残る可能性も含む。例えば、これは、mRNAが、ポリペプチド産物へのその翻訳後に存在し続ける場合である。
【0038】
本発明の1つの態様は、配列番号1と少なくとも70%、好ましくは75%、80%、85%、90%、または95%の同一性を有し、かつ配列番号1と本質的に同じ発現特性を有する核酸を有するプロモーターを含む。例えば、公知の任意のポックスウイルスゲノムの一部分ではない配列番号1(「PrSSL」)のプロモーター活性が認識されたことにより、MVA(128L遺伝子)ならびにワクシニアウイルス(A18L遺伝子)、漿尿膜ウイルスアンカラCVA(CVA144遺伝子)、ショープ線維腫ウイルスSFV(s107L遺伝子)、およびヒト病原性痘瘡ウイルス(A18L遺伝子)など他のポックスウイルスにおいて同様の対応するプロモーターをさらに認識することが可能になった。各場合において、PrSSLに類似しているが同一ではない配列は、オープンリーディングフレームの上流に位置し、−15位および−16位(表1を参照されたい)が、配列番号1と比べて最も変化している位置である。
【0039】
配列番号1および開始コドンを含む別のヌクレオチドを含むポリヌクレオチドをクエリ配列として用いてNCBIデータベースのBLAST検索を行い、続いて、最初の1000個のデータベースヒットを解析したところ、ヌクレオチド第−15位が配列番号1と比べて変化しているいくつかの配列が指摘された。このような変化が見出されたウイルス株としては、様々な株のワクシニアウイルス、漿尿膜ウイルスアンカラ、改変ワクシニアウイルスアンカラ、粘液腫ウイルス、タナ痘ウイルス、エクトロメリアウイルス、ラクダ痘ウイルス、馬痘ウイルス、牛痘ウイルス、タテラポックス(taterapox)ウイルス、ヤギ痘ウイルス、羊痘ウイルス、シカポックスウイルス、サル痘ウイルス、ヤバサル腫瘍ウイルス、ランピースキン病ウイルス、豚痘ウイルス、大痘瘡ウイルス、小痘瘡ウイルス、およびヤバ様疾患(yaba−like disease)ウイルスが挙げられる。−15位および−16位における変異性に加えて、+4位もまた、配列番号1および開始コドンを含む別のヌクレオチドを含むポリヌクレオチドと比べて変異性を示すことが判明した。これらの位置の番号付けは、表1に示すとおりである。
【0040】
本発明の別の態様は、(a)、(b)、または(c)の核酸配列にハイブリダイズすることができ、かつ(a)の核酸と本質的に同じ発現特性を有する核酸に関する。「ハイブリダイズすることができる」という用語は、(a)、(b)、または(c)の核酸の任意の部分が別のDNA配列にハイブリダイズすることができて、(a)の核酸と本質的に同じ発現特性を有する任意のDNA配列の検出および単離が可能になる条件でのハイブリダイゼーションを意味する。ハイブリダイゼーションは、ストリンジェントな条件で実施される。条件がストリンジェントであるほど、部分的に相補的な配列は離れることを余儀なくされる可能性が高い。すなわち、高ストリンジェンシーの方が、ハイブリダイゼーションの確率は低くなる。実際には、「ストリンジェントな条件」という用語は、高温(例えば、65℃)および/または低塩濃度(例えば、0.1×SSC)でのハイブリダイゼーション条件を意味する。温度を上昇させること、および/または塩濃度を低下させることにより、ストリンジェンシーは高まる。ストリンジェントな条件下では、配列間に少なくとも70%、または好ましくは少なくとも75%、80%、85%、90%、もしくは95%の同一性がある場合にのみ、ハイブリダイゼーションが起こると考えられる。ハイブリダイゼーションは、Ausubelら(2002)Short Protocols in Molecular Biology、第1巻、第5版、カナダに記載されているようにして実施することができる。
【0041】
好ましくは、本発明のプロモーターは、27以下のヌクレオチド長、すなわち、28個未満のヌクレオチドを有する。さらにより好ましくは、本発明のプロモーターは、26以下のヌクレオチド長、すなわち、27個未満のヌクレオチドを有するか、または25以下のヌクレオチド長、すなわち、26個未満のヌクレオチドを有する。1つの実施形態において、前述の(b)、(c)、または(d)の核酸は、約5〜25個のヌクレオチド、約6〜24個のヌクレオチド、約7〜23個のヌクレオチド、約8〜22個のヌクレオチド、約9〜21個のヌクレオチド、約10〜20個のヌクレオチド、約11〜19個のヌクレオチド、約12〜18個のヌクレオチド、または約13個、14個、15個、16個、もしくは17個のヌクレオチドを含む。さらに、好ましい実施形態は、10〜27ヌクレオチド長、10〜26ヌクレオチド長、10〜25ヌクレオチド長、14〜23ヌクレオチド長、または15〜20ヌクレオチド長のプロモーターである。これらの存在し得るプロモーター長の最長のものでさえ、先行技術において一般的に公知であり容認されているプロモーター長よりもかなり短い。例えば、本発明者らが知る最短のポックスウイルスプロモーターであるI1Rは、27ヌクレオチド長であるが、PrSと比べて同じ程度の高いプロモーター活性を示さない。しかし、この短い長さでさえ例外であり、大半の公知のプロモーターはもっと長く、およそ30〜100個程度のヌクレオチドである。特に好ましい実施形態において、プロモーターは、16〜25個のヌクレオチドからなる。
【0042】
1つの実施形態において、本発明は、前述のプロモーターを含むポリヌクレオチドに関する。この実施形態の好ましい態様において、少なくとも1つの別のヌクレオチドが、+1位以降に付加される。すなわち、プロモーターの下流に付加される。この態様の1つの実施形態において、本発明のポリヌクレオチドは、発現させようとする核酸の開始コドンATGまたはAUG(+1位〜+3位)と共に前述のプロモーターを含む。開始コドンを有するこのようなポリヌクレオチドの例は、配列番号2および配列番号3である。この場合、発現させようとする核酸の+4位はGまたはAであることが好ましい。このようなポリヌクレオチドの例は配列番号2である。さらに好ましい実施形態において、このポリヌクレオチドは、−3位〜+2位にTAAATモチーフを含み、このようなポリヌクレオチドの例は、配列番号2、3、4、および5である。
【0043】
別の実施形態において、前述の(b)のプロモーターは、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、または100%のAT含有量またはAU含有量を含む。PrSSLの配列は、高い発現レベルで組換えタンパク質を生じることが想定される24種の異なるMVA遺伝子を解析することによって決定された。
【0044】
本明細書において使用される場合、「AT含有量」または「AU含有量」という用語は、ヌクレオチドA、T、およびUを含む各配列(例えば、PrSSLまたは本質的に同じ発現特性を有する関連するプロモーター)の全長を基準とした、所与の配列中のすべてのアデニンヌクレオチドおよびチミンヌクレオチドまたはアデニンヌクレオチドおよびウラシルヌクレオチドの累加含有量を意味する。例えば、問題の配列のAT含有率(%)またはAU含有率(%)は、問題の配列中のヌクレオチドAおよびT(DNAの場合)またはヌクレオチドAおよびU(RNAの場合)を合わせた数を、問題の配列中のヌクレオチドの総数(上記で既に数えた物を含む)で割り、その結果に100を掛けることによって算出することができる。
【0045】
別の態様において、本発明は、発現させようとする核酸および前述のプロモーターを含むポリヌクレオチドを提供する。例えば、本発明によるポリヌクレオチドに含まれるプロモーターは、配列番号1、33、もしくは34のいずれかに記載のヌクレオチド配列を有する核酸でもよく、または実施例1で記載する方法によって決定されるように、配列番号1と少なくとも70%の同一性を有し、かつ配列番号1と本質的に同じ発現特性を有する核酸配列でもよい。また、ポリヌクレオチドに含まれるプロモーターは、例えば、配列番号1に由来するヌクレオチド配列を有し、配列番号1の配列と比べて、少なくとも1つのヌクレオチド付加、欠失、置換、および/または逆位を含み、かつ実施例1で記載する方法によって決定されるように、配列番号1と本質的に同じ発現特性を有する核酸でもよい。この実施形態の1つの態様において、ポリヌクレオチドコンストラクトは、+1位以降に付加される別のヌクレオチドと共に本発明のプロモーターを含むポリヌクレオチド、好ましくは、配列番号2〜5のいずれか、および発現させようとする核酸を含んでよい。
【0046】
1つの実施形態において、発現させようとする核酸と前述のプロモーターの両方を含むポリヌクレオチドは、発現させようとする核酸の開始コドンATGまたはAUGに直接的に結合された形態で、プロモーターを含む。他のワクシニア/MVA配列と同様に、このポリヌクレオチドは一般に、DNAの形態で存在し、したがって、開始コドンはATGであると考えられる。しかし、いくつかのより珍しい場合において、開始コドンのすぐ上流に位置するプロモーターの一部分がRNAに転写されること、およびこの転写が、発現させようとするタンパク質をコードする核酸領域へと続くことが観察されている。このような場合、前述のプロモーターの少なくとも一部分は、開始コドンに直接的に結合されている場合、RNAの形態で存在してよく、この場合、このRNAは「AUG」開始コドンに結合されているはずである。定義上、開始コドンATGまたはAUGは、プロモーター配列の一部分ではないことに留意しなければならない。
【0047】
本明細書において使用される場合、「上流」という用語は核酸の5’側の方向を意味し、「下流」という用語は核酸の3’側の方向を意味する。例えば、同じ核酸において配列Xが配列Yの「上流」に位置する場合、これは、配列Xが配列Yの5’側に位置すること、または逆に言えば、配列Yが配列Xの3’側に位置することを意味する。
【0048】
別の実施形態において、このポリヌクレオチドに含まれるプロモーターは、開始コドンATGもしくはAUGを含まない約1個、2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個、10個、約10〜20個、約20〜30個、約30〜40個、約40〜50個、約50〜100個、または約100〜200個のヌクレオチドの非転写領域によって、開始コドンATGまたはAUGから離されている。本発明のPrSSL系列のプロモーターおよび関連する配列に関して、転写に関与する配列は、開始コドンに直接隣接して位置する必要はなく(ただし、これは可能ではある)、発現させようとする実際の配列から離れた上流に位置してもよいことが周知であり、観察されている。
【0049】
この実施形態において、プロモーターが、発現させようとする核酸に、ある長さの介在核酸を介して結合されている場合、そのプロモーターを含むポリヌクレオチドが、(例えば、配列番号4のように)−3位〜+2位に配列TAAATを有することが有利であり、またはそのプロモーターを含むポリヌクレオチドが、(例えば、配列番号5のように)−3位〜+3位に配列TAAATAを有することが、さらにより好ましい。
【0050】
この実施形態において、本発明のプロモーターは、開始コドンATGまたはAUGから離れているが、発現させようとするポリヌクレオチドのATG開始コドンのすぐ後にGが続き、したがって、高発現が可能であることが好ましい。
【0051】
本明細書において使用される場合、「約」という用語は、所与の値の近似値を意味し、指定された値より10%程度大きいか、または小さい変動を意味すると解釈してよい。適切な場合には、例えば、端数のヌクレオチドが不可能であるヌクレオチド長を算出する場合、当業者は、「約」という用語が、最も近い完全なヌクレオチドへの切り上げまたは切り下げを伴うことを理解する。例えば、「約16個のヌクレオチド」とは、例えば、この値より10%大きいおよび小さい、数学的には14.4ヌクレオチド長または17.6ヌクレオチド長(いずれも不可能である)をもたらす変動を意味する。したがって、当業者は、この例において、14.4個のヌクレオチドは14個のヌクレオチドに切り下げられ、17.6個のヌクレオチドは18個のヌクレオチドに切り上げられることを理解する。
【0052】
1つの実施形態において、発現させようとする核酸は、翻訳されるポリペプチドをコードするオープンリーディングフレーム(「ORF」)を含む。
【0053】
本明細書において使用される場合、「オープンリーディングフレーム」または「ORF」という用語は、ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を意味し、ORF中の開始コドンATGまたはAUGの「A」は、翻訳のために使用されるリーディングフレームの始まりを画定する。発現させようとする、すなわち本発明に従って転写ならびに/または転写および翻訳されるタンパク質は、一般に、組換えタンパク質である。したがって、その配列は、一般に、コードされるアミノ酸配列の従来の(former)知識を用いて決定される。したがって、DNAの形態のポリヌクレオチドは、ORFにおいて関心対象の(組換え)タンパク質をコードするcDNAを一般に含む。また、「ORF」という用語は、既知のポリペプチドの一部分のみをコードするヌクレオチド配列である「部分的ORF」を含む。これは、例えば、ワクチンにおいて宿主免疫系に提示されるエピトープが、既知のポリペプチドの一部分にのみ存在する場合に、適用され得る。この場合、既知のポリペプチドの対応する部分のみを部分的ORFとしてポリヌクレオチドに含めることで十分な場合がある。
【0054】
別の実施形態において、プロモーターが、発現させようとする核酸のATGまたはAUG開始コドンに直接的に結合されている場合、このATGまたはAUG開始コドンは、定義上(表1を参照されたい)、発現させようとする核酸の+1位〜+3位に位置する。この場合、発現させようとする核酸の+4位はGまたはAであることが好ましい。これは、発現させようとするポリペプチドの2番目のアミノ酸をコードするヌクレオチドトリプレットの1番目のヌクレオチドに相当する。したがって、+4位に「G」を組み入れることは、この組入れにより、翻訳された際に、発現させようとするポリペプチドの2位に望ましいまたは必要なものとは異なるアミノ酸をもたらすと考えられる場合には、常に可能であるとは限らない場合がある。しかし、当業者は、遺伝コードの縮重により、翻訳されるアミノ酸の同一性を変えることなく、所与のトリプレットコドン内において1つのヌクレオチドで別のものを置換することがしばしば可能になることを理解している。また、当業者は、ヌクレオチド置換によって、所与の位置で結果として生じるアミノ酸の同一性が変わる場合でさえ、これは、所与のポリペプチドにおける全体的なフォールディング、したがってエピトープ分布に影響を及ぼすとは限らないことも理解している。したがって、コード鎖の+4位を「G」または「A」で置換する際に得られる上記の利点が、発現されるポリペプチドの2位のアミノ酸の同一性をおそらく改変する際にこうむる任意の不利益を相殺するかどうかは、そのポリペプチドの既知の配列および所望の免疫応答を引き出す際のアミノ酸2の重要性を考慮して、ケースバイケースで評価しなければならない問題である。配列番号2は、発現させようとする核酸のATG開始コドンに直接隣接して位置し、かつ+4位がGである本発明のポリヌクレオチドの例である。
【0055】
別の実施形態において、ポリヌクレオチドは、少なくとも2つのプロモーターを含み、その内の少なくとも1つは、配列番号1に記載するプロモーターまたは本明細書において説明する本質的に同じ発現特性を有する関連するプロモーターである。例えば、PrSSLは、PrSSLの1つもしくは複数の構成単位と同種直列(homo−tandem)に、または本質的に同じ発現特性を有する関連するプロモーターのいずれかの1つもしくは複数の構成単位と異種直列(hetero−tandem)に結合されてよい。同じことが、PrSSLまたは本質的に同じ発現特性を有する関連するプロモーターのいずれかの起こり得る同種直列および異種直列に当てはまる。好ましくは、少なくとも2つのプロモーターが、互いに作動可能に連結される。
【0056】
さらに好ましい実施形態において、ポリヌクレオチドは、少なくとも2つのプロモーターを含み、その内の少なくとも1つは、配列番号1に記載するプロモーターまたは本明細書において説明する本質的に同じ発現特性を有する関連するプロモーターであり、これらのプロモーターの内の少なくとも1つは初期プロモーターである。「初期プロモーター」という用語は、ウイルスDNA複製が起こる前に、ポックスウイルスまたはポックスウイルス感染細胞において活性であるプロモーターを意味する。ワクシニアウイルスの初期プロモーターの好ましい例は、7.5kDa初期プロモーター(Pr7.5Kプロモーターの断片)およびTKプロモーター(チミジンキナーゼ)である。
【0057】
本発明はさらに、前述のプロモーターおよび/または前述のポリヌクレオチドを含むベクターも提供する。
【0058】
1つの態様において、ベクターは、ポリヌクレオチドベクターである。「ポリヌクレオチドベクター」という用語は、当業者に公知である任意のベクターを意味する。ポリヌクレオチドベクターは、例えば、直線状DNA、環状DNA(例えば、プラスミドDNA、例えば、pBR322もしくはpUC系列の任意のベクターなど)または人工DNAでよい。
【0059】
例えば、本発明によるプラスミドベクターは、例えば、ウイルスベクター、特にMVAまたはMVA−BN(登録商標)のゲノムに由来するかまたは相同であるDNA配列を含んでよく、その際、前記DNA配列は、ウイルスゲノムの2つの隣接した配列の間に位置するか、またはそれらによって挟まれた、発現させようとする配列の完全な断片または部分的断片を含む。好ましくは、ウイルスゲノムは、発現させようとする配列を挿入するため、好ましくは、発現させようとする核酸に作動的に連結された本明細書において前述したプロモーターのいずれかなどのポックスウイルス転写制御エレメントを挿入するための、少なくとも1つのクローニング部位を含む。
【0060】
別の実施形態において、ベクターは、ウイルスベクターである。本明細書において使用される場合、「ウイルスベクター(viral vector)」または「ウイルスベクター(virus vector)」という用語は、ウイルスゲノムを含む感染性ウイルスおよび/または弱毒化ウイルスを意味する。この場合、本発明の核酸は、代表的なウイルスベクターのウイルスゲノムの一部分であり、かつ/またはウイルスゲノムを構成する。組換えベクターは、細胞および細胞株の感染のため、特に、ヒトを含む生きている動物の感染のために使用され得る。本発明による典型的なウイルスベクターは、アデノウイルスベクター、レトロウイルスベクター、またはアデノ随伴ウイルス2(AAV2)に基づくベクターである。最も好ましいのは、ポックスウイルスベクターである。ポックスウイルスは、好ましくは、カナリア痘ウイルス、鶏痘ウイルス、またはワクシニアウイルスでよい。
【0061】
好ましい実施形態において、ウイルスベクターは、改変ワクシニアウイルスアンカラ(MVA)(Sutterら(1994)、Vaccine 12、1032〜1040)である。典型的なMVA株は、寄託番号ECACCV00120707で欧州動物細胞培養物コレクション(European Collection of Animal Cell Cultures)に寄託されているMVA 575である。最も好ましいのは、ニワトリ胚線維芽細胞(CEF)においてin vitroで増殖的複製(reproductive replication)する能力を有するが、ヒトケラチノサイト細胞株HaCaT、ヒト胎児由来腎臓細胞株293、ヒト骨肉腫細胞株143B、およびヒト子宮頸部腺癌細胞株HeLaにおいて増殖的複製する能力は有さないMVA株である。別の好ましい実施形態において、MVA株は、成熟したB細胞およびT細胞を産生することができず、したがって、極度に免疫力が低下しており、複製するウイルスの影響を極めて受けやすいマウスモデルにおいて複製することができない。さらに好ましいのは、DNAプライム/ワクシニアウイルスブーストレジメンと比べた場合、ワクシニアウイルスプライム/ワクシニアウイルスブーストレジメンにおいて少なくとも同じレベルの特異的免疫応答を誘導するMVA株である。最も好ましいのは、前述の特性の3つすべてを含むMVA株である。以下で一般に「MVA−BN(登録商標)」と呼ぶ、このような最も好ましいMVA株はすべて、2001年11月22日に欧州特許庁に出願された「Modified Vaccinia Ankara Virus Variant」という表題のPCT出願PCT/EP01/13628において説明されている。MVA−BN(登録商標)の試料は、寄託番号ECACCV 00083008で欧州動物細胞培養物コレクションに寄託されている。MVA−BN(登録商標)を使用することにより、改変ワクシニアアンカラウイルスに由来し、かつヒト細胞において増殖的に複製する能力を喪失していることを特徴とする、極端に弱毒化し、したがって安全なウイルスにおいて、発現させようとするタンパク質を発現させることができる。MVA−BN(登録商標)は、ヒトにおいて複製しないため、他の公知のワクシニアウイルス株より安全である。別の最も好ましい実施形態において、前述のプロモーターまたは前述のポリヌクレオチドを含むウイルスベクターは、寄託番号ECACCV 00083008で欧州動物細胞培養物コレクションに寄託されているMVA−BN(登録商標)である。MVA−BN(登録商標)の特徴、MVAがMVA−BN(登録商標)であるかを評価することを可能にする生物学的検定法の説明、およびMVA−BN(登録商標)を得ることを可能にする方法は、参照より本明細書に組み入れられる、上記に参照したPCT出願PCT/EP01/13628において開示されている。
【0062】
別の態様において、本発明は、前述のプロモーター、前述のポリヌクレオチド、および/または前述のベクターを含む宿主細胞をさらに提供する。好ましくは、宿主細胞は、CEF細胞などウイルスがその中で複製できる細胞、またはMVAに感染し得るが、ウイルスがその中で複製しない細胞(MVA−BN(登録商標)に関して前述したタイプのヒト細胞株など)である。
【0063】
本発明の別の態様において、前述のプロモーター、ポリヌクレオチド、ベクター、および宿主細胞はまた、組成物、好ましくは薬学的組成物の一部となってもよい。読みやすくするために、以下の組成物は、配列番号1のプロモーターまたは本質的に同じ発現特性を有する関連するプロモーターを含むMVAまたはMVA−BN(登録商標)を含むと想定されるが、当業者は、この組成物が、本明細書において前述したプロモーターのいずれか、本明細書において前述したポリヌクレオチドのいずれか、または本明細書において前述したMVAでもMVA−BN(登録商標)でもないベクターのいずれかを代わりにまたはさらに含んでもよいことを理解するであろう。
【0064】
1つの実施形態において、組成物はワクチン組成物である。このワクチン組成物は、有利には、1つもしくは複数の同種配列または1つもしくは複数の異種配列を細胞中に導入するために使用され得、また、in vitroまたはin vivoの治療法の一環として適用され得る。例えば、この組成物は、例えば、本発明による配列番号1のプロモーターまたは本質的に同じ発現特性を有する関連するプロモーターを含む組換えMVAに以前に(ex vivoで)感染した単離細胞を含んでよい。このような細胞を含有する組成物は、好ましくは、免疫応答に影響を及ぼす、好ましくは免疫応答を誘導するために、生きた動物の身体に投与するのに適している。
【0065】
あるいはまたはさらに、この組成物は、本明細書において前述したプロモーター、ポリヌクレオチド、またはベクターを含む、組換えMVAまたはMVA−BN(登録商標)などの組換えポックスウイルスを含んでもよく、好ましくは、免疫応答に影響を及ぼす、好ましくは免疫応答を誘導するために、生きた動物の身体に投与するのに適している。この場合、接種部位の周囲の細胞だけでなく、例えば血流を通してそのウイルスが輸送される先の細胞が、本発明による組換えMVAにin vivoで直接感染する。感染後、これらの細胞は、外因性コード配列にコードされる治療用遺伝子のタンパク質、ペプチド、または抗原性エピトープ(例えば、部分ペプチド)を合成し、続いて、細胞表面にそれらまたはその一部分を提示する。免疫系の特殊化された細胞は、このような異種のタンパク質、ペプチド、エピトープの提示を認識し、特異的免疫応答を開始する。
【0066】
したがって、本発明はまた、ヒトを含む生きた動物の身体において免疫応答を誘導するのに適した薬学的組成物およびワクチンも提供する。薬学的組成物は、一般に、薬学的に許容されるか、かつ/または承認されている1種または複数種の担体、添加剤、抗生物質、保存剤、アジュバント、希釈剤、および/または安定化剤を含んでよい。このような補助物質は、水、生理食塩水、グリセロール、エタノール、湿潤剤もしくは乳化剤、またはpH緩衝化物質などでよい。典型的には、適切な担体は、タンパク質、多糖類、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、アミノ酸ポリマー、アミノ酸コポリマー、または脂質凝集体など大型でゆっくりと代謝される分子である。
【0067】
ワクチンを調製するために、1つの実施形態において、(薬学的)組成物は、生理学的に許容される形態に変換される。例えば、(薬学的)組成物が、ポックスウイルス、好ましくは、配列番号1の本発明のプロモーターまたは本質的に同じ発現特性を有する関連するプロモーターを有するMVAを含む状況において、生理学的に活性な形態への変換は、天然痘に対するワクチン接種のために使用されるポックスウイルスワクチンの調製における経験に基づいて実施することができる(Sticklら(1974) Deutsche medizinische Wochenschrift 99、2386〜2392によって説明されているようにする)。例えば、精製したウイルスは、約10mMのTris、140mM NaCl、pH7.4〜pH7.8、例えばpH7.4またはpH7.7中で調剤され、5×108TCID50/ml(1ミリリットル当たりの組織培養物感染量)の力価を有し、−80℃で保存される。ワクチンショットを調製するために、例えば、102〜108個のウイルス粒子を、アンプル、好ましくはガラスアンプルに入れた2%ペプトンおよび1%ヒトアルブミンの存在下のリン酸緩衝化生理食塩水(「PBS」)100ml中に含める。あるいは、ワクチンショットは、製剤中のウイルスを段階的に凍結乾燥することによって作製することもできる。この製剤は、メタノール、デキストリン、糖、グリシン、ラクトース、もしくはポリビニルピロリドンなどの付加的な添加剤、または抗酸化剤もしくは不活性ガス、安定化剤、もしくはin vivo投与に適した組換えタンパク質(例えば、ヒト血清アルブミン)など他の助剤を含有してよい。次いで、ガラスアンプルを密封し、4℃〜室温で数ヶ月間保存することができる。しかし、必要がない限り、アンプルは好ましくは、−20℃より低い温度で保存される。
【0068】
ワクチンまたは治療法のために、配列番号1のプロモーターまたは本明細書において前述した関連するプロモーターを含むMVAを、0.1〜0.5mlの水溶液、好ましくは生理食塩水またはTris緩衝液中に溶解し、全身的または局所的に、すなわち、非経口的に、皮下に、筋肉内に、乱切法もしくは当業者に公知である他の任意の投与経路によって投与することができる。投与様式、投与量、および投与回数は、公知の様式で当業者が最適化することができる。しかし、最も一般的には、1回目のワクチン接種ショット後約1ヶ月〜6週目に、対象に2回目のショットを行ってワクチン接種する。
【0069】
ワクチンがワクシニアウイルス、特にMVA、特にMVA−BN(登録商標)である場合、ヒト用の典型的なワクチンショットは、少なくとも102、好ましくは少なくとも104、好ましくは少なくとも106、さらにより好ましくは107または108のウイルスTCID50を含む。
【0070】
ワクチンが組換えMVA、特に組換えMVA−BN(登録商標)である場合、ウイルスは、プライム−ブースト投与のために使用され得る。したがって、本発明はさらに、ベクターが、配列番号1のプロモーターまたは本明細書において前述した関連するプロモーターを含むMVA、特にMVA−BN(登録商標)であり、かつ前記ベクターまたは前記ベクターを含む組成物もしくはワクチンが、それを必要とするヒトを含む動物に、第1回接種(「プライミング接種」)、第2回接種(「ブースティング接種」)、および/または追加の第3回もしくはそれ以上の接種において治療有効量で投与される方法にも関する。
【0071】
本発明の別の態様は、核酸、好ましくは遺伝子を発現させるための、前述のプロモーター、前述のポリヌクレオチド、前述のベクター、前述の宿主細胞、および/または前述の組成物の使用を提供する。
【0072】
本発明のさらに別の態様は、免疫応答を誘導するため、または癌および/もしくは感染症を治療もしくは予防するための医薬の調製における、前述のプロモーター、前述のポリヌクレオチド、前述のベクター、前述の宿主細胞、および/または前述の組成物の使用を提供する。
【0073】
さらに、本発明は、免疫応答を誘導するため、または癌および/もしくは感染症を治療もしくは予防するための、本発明のプロモーター、前述のポリヌクレオチド、前述のベクター、前述の宿主細胞、および/または前述の組成物を提供する。
【0074】
理想的には、この医薬によって治療または予防される癌は、AIDS関連癌(例えば、AIDS関連リンパ腫)、乳癌、結腸癌、腎臓癌、白血病、肝臓癌、肺癌、リンパ腫、皮膚癌(例えば、黒色腫)、卵巣癌、膵癌、前立腺癌、網膜芽細胞腫、扁平上皮癌、扁平上皮頸部癌、胃(胃の)癌、精巣癌、および甲状腺癌からなる群から選択される。
【0075】
理想的には、この医薬によって治療または予防される感染症は、ウイルス感染症、細菌感染症、寄生虫感染症、真菌感染症、およびプリオン感染症からなるリストから選択される。
【0076】
特に好ましい実施形態において、医薬は、ワクチンである。組換えワクチンの特性ならびにその製剤および適切な投薬計画は、本明細書において前述される。
【0077】
別の態様において、本発明はさらに、(a)前述のポリヌクレオチドを提供するステップであって、発現させようとする核酸が、ORFまたは部分的ORFを含むステップと、(b)発現させようとする核酸の転写および翻訳の助けとなる条件に(a)のポリヌクレオチドを供するステップと、(c)ポリペプチドを回収するステップと、(d)場合によってはポリペプチドを精製するステップとを含む、ポリペプチドを調製する方法を提供する。
【0078】
本明細書において使用される場合、「転写および翻訳の助けとなる条件」という用語は、例えば、前述のポリヌクレオチドを、例えば、好ましくは感染多重度が10である組換えウイルス、好ましくはMVAを用いて、例えばHeLa細胞中に導入し、続いて、例えば、増殖培地、例えば、10%ウシ胎児血清(FCS)を含むダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)中で24〜48時間、5%CO2、37℃でインキュベーションすることを含み得る。これらの条件および他の適切な条件は、当業者に周知である。
【0079】
この態様によれば、本発明のプロモーターの有利な特性は、事実上任意の所望のポリペプチドの作製において使用され得る。理想的には、ポリペプチドは、ウイルスベクターに依存した発現系において調製される。例えば、これは、配列番号1のプロモーターまたは本明細書において前述した本質的に同じ発現特性を有する関連するプロモーターを含むウイルスベクターに感染した細胞のタンパク質発現能力を使用する発現系でよい。ウイルスベクターは、有利には、前述のウイルスベクターのいずれか、特にMVAまたはMVA−BN(登録商標)である。このような細胞からタンパク質を作製および単離するための適切な方法は、当技術分野において公知である。
【0080】
別の態様において、本発明は、発現させようとする核酸を含むポリヌクレオチドを提供するステップと、発現させようとする核酸に作動可能に連結された前述のプロモーターを提供するステップと、核酸の発現の助けとなる条件に、このようにして提供されたポリヌクレオチドを供するステップとを含む、核酸を発現させる方法を提供する。前述したように、「発現させる(expressing)」という用語または「発現させる(express)」および「発現(expression)」など文法的に関係する用語は、転写(すなわち、RNAの産生)または翻訳(すなわち、コードされたポリペプチドの転写および合成)を意味し得る。この態様の方法はin vivoまたはin vitroで実施することができる。核酸を発現させる場合、プロモーターは、ウイルスベクター、好ましくはポックスウイルスベクター、特にワクシニアウイルスベクターに含まれてよいことに留意すべきである。しかし、このプロモーターを含むコンストラクトが、ポックスウイルスベクター以外のベクター(例えば、プラスミド)中に存在するか、またはゲノム中に導入される場合には、転写機構の供給源としての宿主細胞中でポックスウイルスが必要とされる。
【0081】
本発明の別の実施形態は、前述のプロモーター、前述のポリヌクレオチド、このプロモーターを含むベクターを含む免疫原性の組成物またはワクチンを提供するステップと、ヒトを含む対象動物にこの組成物またはワクチンを投与するステップとを含む、免疫応答を誘導するため、または癌および/もしくは感染症を治療もしくは予防するための方法に関する。好ましくは、前述のウイルスベクターを含む組成物は、少なくとも102のTCID50、より好ましくは、107〜108のTCID50(組織培養物感染量)の用量で投与される。好ましくは、この実施形態の組成物は、第1回接種(「プライミング接種」)および第2回接種(「ブースティング接種」)において投与され得る。いくつかの態様において、追加の第3回またはそれ以上の接種もまた、好ましい場合がある。
【0082】
以下の非限定的な実施例によって、本発明を以下に例示する。
【実施例1】
【0083】
配列番号1のプロモーター活性
プロモーター活性を試験するために、オボアルブミン(「OVA」)タンパク質をコードするオープンリーディングフレームに作動的に連結された配列番号1のプロモーターを含むMVA−BN(登録商標)株を構築した。配列番号1のプロモーター(PrSSL)を用いた発現の結果として生じるオボアルブミン産生レベルは、(a)PrSSLが所望の遺伝子の発現を促進する能力、および(b)このような発現促進の規模の指標として利用することができた。PrS−OVAコンストラクトを陽性対照として、およびPrSSLの発現の相対的強さを推定するために使用した。
【0084】
MVAコンストラクトは、次のようにして調製した。本研究の組換えMVA−BN(登録商標)ウイルスは、同じ組込み部位(WO03/097845に記載されているように、MVA−BNの遺伝子07と08の間の遺伝子間領域)かつ同じ向きにOVAレポーター遺伝子を有するように設計した。さらに、OVAカセットの下流に、化学的選択マーカーおよび蛍光マーカーを有する選択カセットを含める。この部分は、試験する組換えMVA−BN(登録商標)ウイルスすべてにおいて同一である。これらのコンストラクトは、オープンリーディングフレーム(ORF)の上流の領域のみが異なる。
【0085】
(5’から3’に向かって)PrSSL配列が直接その後に続くBspEI制限部位、次いで、開始コドンおよびOVA遺伝子の配列のストレッチを含むプライマーを用いたPCRによって、OVA ORFの上流にPrSSL配列を融合した。これにより、OVA ORFへのPrSSLの直接的融合物がもたらされる。下流のプライマーは、OVA遺伝子の3’末端のストレッチとそれに続く停止コドンおよびBgl II制限酵素部位からなった(このプライマー配列は、非コード鎖に由来した)。これらのプライマーをPCRで使用し、OVA遺伝子は鋳型としての機能を果たした。結果として生じるPCR産物を組換えプラスミドのBspEIおよびBgl II中にクローニングした。この組換えプラスミドは、選択カセットを含む。一緒になったOVA遺伝子および選択カセットには、連続したMVA−BN(登録商標)配列のストレッチが隣接しているため、相同組換えによってOVA遺伝子および選択カセットをMVA−BN(登録商標)ゲノム中に組み込むことが可能になる。結果として生じるウイルスはPrSSL−OVAと名付けた。
【0086】
OVA ORFの開始点に最適に融合された周知のPrSプロモーターを用いて、別のMVAを作製した。PCRによってこれを実施し、結果として生じるウイルスをPrS−OVAと名付けた。
PrS−OVA:MluI−PrS−OVAのATG開始点
PrSSL−OVA:MluI−BspEI−PrSSL−OVAのATG開始点
【0087】
タンパク質発現の試験は以下のようにして実施した:
細胞播種:6ウェルプレート(FALCON)に入れた体積2mlの培地中に、ウェル1個当たり細胞1.5×106個のHeLa細胞を播種した。使用した培地は、10%ウシ胎児血清(PAA)および1%ゲンタマイシン(INVITROGEN)を補充した、グルタマックス(Glutamax)および高グルコース(INVITROGEN)を含むDMEMであった。これらの細胞は、感染より24時間前に播種し、37℃および5%CO2でインキュベートした。この結果、感染時に80〜90%コンフルエンシーになる。
【0088】
感染:これらの細胞を、各組換えウイルスに感染多重度(moi)10で感染させた。感染のために、補充された増殖培地を細胞から除去し、各ウイルス接種物を含有する補充されていないDMEM 500μlで置き換えた。室温で1時間穏やかに揺り動かした後、細胞から感染培地を除去し、ウェル1個当たり1.5mlの補充されたDMEM培地で置き換えた。
【0089】
細胞スクリーニング:感染または感染/トランスフェクション後24時間目に、細胞変性効果および感染効率の対照としての機能を果たす緑色蛍光タンパク質の発現に関して、6ウェルプレートを倒立型蛍光顕微鏡下で検査した。緑色蛍光タンパク質の遺伝子を有する選択カセットが、使用した各組換えウイルス中に存在した。感染レベルは、1つの実験において検査した全試料において同様でなければならなかった。さもなければ、その材料は廃棄した。
【0090】
細胞の回収:細胞回収のために、増殖培地を細胞から除去し、氷冷した溶解緩衝液250μl(=PBS(INVITROGEN)+0.1%TritonX−100(SIGMA)+1mMプロテアーゼインヒビター(ROCHE))で置き換えた。室温で5分間インキュベーションした後、これらの細胞をウェルの底からかき落として溶解緩衝液中に入れ、この細胞−ウイルス懸濁液を2ml容反応試験管に移した。これらの試料を、予冷したカップホーン超音波破砕機(BRANSON)により、4℃、最大強度で1分間超音波処理し、氷上で保存した。全タンパク質を測定するために、試料を溶解緩衝液で1:10に希釈した。
【0091】
全タンパク質の測定:タンパク質定量キット(試薬A、試薬B、およびBSA標準原液(2mg/ml)を含むBCAアッセイキット、カタログ番号UP40840、陽性対照 TBS中200μg/ml BSA、カタログ番号UP36859A;UPTIMA)を用いて、全タンパク質を測定した。
【0092】
全タンパク質に対する試料の標準化:出発濃度が0.5μg/μlまたは1μg/μlとなるように、全試料のタンパク質濃度を溶解緩衝液で調整した。
【0093】
OVAに関するELISA:試料中のOVAの発現を、オボアルブミン定量ELISAキット(SERAMUN、カタログ番号E−041c)を用いて定量した。ELISAは、キットのプロトコルに従って実施した。ELISAキット(SERAMUN DIAGNOSTICA)の希釈剤を用いて、標準化した試料からいくつかの希釈物(試料によって、1:10〜1:5000)を作製した。450nmでELISA Reader(TECAN Sunrise)を用いて、96ウェルプレートの光学濃度(OD)の値を測定した。ELISAキットに含まれるオボアルブミン標準試料から作成した検量線を用いて、OD値から試料中のOVA濃度を決定した。OVA濃度を算出した。これは、全タンパク質1mg当たりのOVA(μg)の単位で図1に示す。
【0094】
これらの結果は、図1の棒4(PrSSL−OVA)および棒6(MVA−BN(登録商標))に示す。図1は、Y軸に沿ってタンパク質産生レベルを示し、数が大きいほど、産生されるタンパク質、したがって、各配列のプロモーターとしての強さのレベルが高いことを示す。棒4の結果を得るために使用された組換えMVA中のOVA遺伝子が、PrSSLのプロモーターによって排他的に調節されたことは、注目に値する。空ベクターMVA−BN(登録商標)に感染した細胞によるタンパク質発現は、予想されない。MVAに関してオボアルブミンELISAにおいて測定されたレベルは、ゼロ発現(棒5および棒6)として算出した。
【0095】
全体として、この実験の結果から、プロモーターとしてのPrSSLの活性が実証される。図1の棒4におけるOVAは、PrSSLを用いて得られたため、この棒において示すOVA発現のレベルは、PrSSLのみに帰すことができるプロモーター活性の好適な指標である。タンパク質発現のこのレベルは、公知の合成初期/後期プロモーターPrSのみをプロモーターとして使用した場合に観察されたレベル(棒2を参照されたい)よりわずかに低かったが、PrSは、公知の最強プロモーターの内の1つであること、およびPrSSLはPrSよりはるかに短いこと(44塩基対、ATG開始コドン無し)を忘れるべきではない。したがって、プロモーターとしてのPrSSLの活性は、PrSよりわずかに低い活性であるが、コンストラクト中でより安定である可能性があり、合成が容易であり、かつ野生型MVAゲノムまたは組換えMVAゲノム中の他の配列との有害な組換えを起こす傾向が低い。
【実施例2】
【0096】
PrSSLの後期プロモーター活性の測定
上記の実験に続いて、MVA生活環のおよそどの時期にPrSSLが活性であるかを決定することが次に望まれた。プロモーターは、典型的には、それらが作動的に連結されている遺伝子の転写を支配的に推進するMVA生活環の範囲内の時点に応じて、初期、後期、中期、または初期/後期に分類される(初期/後期促進とは、ウイルス生活環の初期段階と後期段階の両方における促進を意味する)。
【0097】
このために、上記に実施した実験を、今回はアラビノースC(araC)を添加して繰り返した。araCは、DNA複製(後期発現の必要条件)の公知の阻害物質であるが、初期プロモーター活性に対する効果は皆無に等しい。したがって、araCの使用によって実施例1で観察されたタンパク質発現レベルが低下する場合は、PrSSLが後期プロモーターであることが示唆されるのに対し、araCを用いた場合のタンパク質発現が、araCを欠く実施例1の実験と比べて未変化である場合は、PrSSLが初期プロモーターであることが示唆される。
【0098】
オボアルブミンコード配列およびプロモーターとしてのPrSSLを有するMVAの構築を、実施例1において前述したように実施した。araCを用いた実験は、次のようにして実施した。いかなる添加物も無しで、6ウェル当たり総体積500μlの補充されていないDMEM(INVITROGEN)中で、感染を実施した。感染は、araC処理について三つ組、かつ未処理の感染細胞について三つ組で実施した。室温で1時間穏やかに揺り動かした後、細胞から感染培地上清を除去し、ウェル1個当たり1.5mlのVP−SFM培地で置き換えた。指示されているとおり最終濃度50μg/mlとなるように、感染細胞の培地にaraC(シトシンβ−D−アラビノフラノシド;SIGMA)を補充した。実施例1で説明したように、感染後24時間目に細胞の解析および回収を実施した。図1に示す結果は、3回の独立した実験から算出する。
【0099】
この実験の結果は図1の棒3に示す。ここで、棒4(araC無し)で以前に観察したタンパク質発現が、araCを添加すると完全に消滅したことが明らかであり、PrSSLが後期プロモーターであることが示唆される。一方、araCの添加無し(棒2)の場合に観察されるPrSプロモーターの活性は、araCによって完全に妨害することはできない(棒1)。araCと共にPrSを用いた場合(棒1)に観察された残りのタンパク質発現は、初期/後期プロモーターPrSの初期部分に起因する残存発現を反映している。この決定は、例えばTaddieおよびTraktman(1991).J.Virol65、869〜879において説明されているような当技術分野において公知のプロモーターエレメントの機能的分類に依拠している。araC処理を伴う空ベクター対照およびaraC処理を伴わない空ベクター対照(棒5および棒6)は、バックグラウンドのOVAレベルの基準として使用し、ゼロ(発現無し)に設定した。
【実施例3】
【0100】
PrSSLプロモーターとPr7.5プロモーターまたはPr7.5eプロモーターのいずれかとの組合せ
多くのプロモーターが、互いに協力して働いて、いずれかのプロモーターのみを単独で用いて得ることができると思われる程度を上回ってタンパク質発現を増強することが公知であるため、PrSSLが他の公知のプロモーターと組合せ可能であるかを判定することが望まれた。そこで、PrSSLを、Pr7.5プロモーターおよびPr7.5eプロモーター(Pr7.5eはPr7.5の初期プロモーター部分である)のそれぞれと、別々に異種直列で組み合わせた。PrSSLならびにPr7.5プロモーターおよびPr7.5eプロモーターのそれぞれを別々に組み合わせ、Pr7.5またはPr7.5eのいずれかをPrSSLの上流に配置した。対照コンストラクトは、PrSSLの代わりに配列番号6のフィラー配列を含み、Pr7.5またはPr7.5eのいずれかがフィラー配列の上流に配置された。
【0101】
実施例2で使用した組換えプラスミドは、BspEI部位の上流に別の配列を組み込むために使用され得る。OVA ORFの上流では、MluI制限部位およびBspEI制限部位により、様々な配列の挿入が容易に可能となる。これらの配列は、起源の異なるものでよく、例えば、MluIおよびBspEIに制限されたプラスミド中に融合され得る各オーバーハングを有する二本鎖を形成する合成オリゴヌクレオチドでよい。Pr7.5およびPr7.5eの場合、これにより、共に同じ向きであり、かつBspEI制限部位のための配列によって分離されただけでもある、これらの配列のいずれかとPrSSLとの直列がもたらされた。これにより、周知のプロモーターPr7.5(7.5kDタンパク質をコードする遺伝子のもの)およびその初期促進部分(Pr7.5e)プロモーターを有するコンストラクトが得られた。プロモーター末端に各制限配列を付加するPCRによってPr7.5プロモーターを増幅し、オリゴアニーリングによってPr7.5eを作製した。牛痘PrATIプロモーターはオリゴアニーリングによって作製され、Pr7.5eプロモーターに関しては同じ戦略を適用した。以下のコンストラクトを作製した。
Pr7.5−PrSSL−OVA:MluI−Pr7.5−BspEI−PrSSL−OVAのATG開始点
Pr7.5−フィラー−OVA:MluI−Pr7.5−BspEI−フィラー配列−OVAのATG開始点
Pr7.5e−PrSSL−OVA:MluI−Pr7.5e−BspEI−PrSSL−OVAのATG開始点
Pr7.5e−フィラー−OVA:MluI−Pr7.5e−BspEI−フィラー配列−OVAのATG開始点
PrATI−PrSSL−OVA:MluI−PrATI−BspEI−PrSSL−OVAのATG開始点
PrATI−フィラー−OVA:MluI−PrATI−BspEI−フィラー配列−OVAのATG開始点
【0102】
上記のプロモーターコンストラクトを含むMVA−BN(登録商標)コンストラクトを次のようにして作製した:BspEI−Bgl II断片を用いた制限切断により、PrS−PrSSL−OVAのために使用した組換えプラスミドからPrSSL−OVA融合物を除去することによって、配列Pr7.5−フィラー−OVAを含む対照ウイルスを作製した。この配列を、同様にBspEI−Bgl IIで切断できるように調製されたOVAをコードするORFのすぐ上流に無作為に定められたフィラー配列を有するPCR産物で置き換えた。結果として生じるウイルスは、Pr7.5プロモーターおよびフィラー配列とそれに続くOVA ORFを含む(PrS−フィラー−OVA)。コンストラクトPr7.5−PrSSL−OVA、Pr7.5−フィラー−OVA、Pr7.5e−PrSSL−OVA、Pr7.5e−フィラー−OVA、PrATI−PrSSL−OVA、およびPrATI−フィラー−OVAは、MluIおよびBspEIを用いた制限酵素消化によって、PrS−PrSSL−OVAまたはPrS−フィラー−OVAのPrSプロモーターを置き換えることによって作製した。
【0103】
araCを用いた実験およびaraCを用いない実験は、実施例1および2において上記に示したようにして実施した。これらの結果を図2に示す。
【0104】
図2において、プロモーターPr7.5のみを用いたOVAタンパク質発現(Pr7.5−フィラー−OVA)の比較を棒1(araC有り)および棒2(araC無し)に示す。棒2と比べて棒1で明らかである有意に低いOVA発現は、Pr7.5による後期促進がaraCによって阻害されたことに起因する。棒4(Pr7.5−PrSSL−OVA、araC無し)の方が、棒2(Pr7.5−フィラー−OVA、同じくaraC無し)よりもOVA発現が高いことから、プロモーターPrSSLは他のプロモーターと協力して働いて、Pr7.5単独の場合に達成できるよりも高いレベルに促進を強化できることが示唆される。さらに、棒4(Pr7.5−PrSSL−OVA、araC無し)と比べて棒3(Pr7.5−PrSSL−OVA、araC有り)で明らかである有意に低いOVA発現は、Pr7.5およびPrSSLによる後期促進がaraCによって阻害されたことに起因する。棒5および棒6(それぞれ、Pr7.5e−OVA、araC有りおよびPr7.5e−OVA、araC無し)は、araCの添加により最小限のOVA発現低下しか示さないことから、Pr7.5eによる初期の促進性質が確認される。棒7および棒8(それぞれ、Pr7.5e−PrSSL−OVA、araC有りおよびPr7.5e−PrSSL−OVA、araC無し)から、a)PrSSLはPr7.5e中で欠けている後期プロモーターエレメントを置き換えて、十分なOVA発現をもたらし得ること(棒6および棒8の比較)、ならびにb)araCの添加により、Pr7.5e単独の場合(araCを用いる場合と用いない場合の両方)に得られるのとほぼ同じレベルまでOVA発現が抑制されること(棒5および棒6と比べた棒7)が示される。araC処理を伴う空ベクター対照およびaraC処理を伴わない空ベクター対照(棒9および棒10)は、バックグラウンドのOVAレベルの基準として使用し、ゼロ(発現無し)に設定した。
【0105】
牛痘ウイルスのATI遺伝子の周知のPrATI後期プロモーターを使用する別の実験では、PrSSLが強力な後期クラスプロモーターと直列して働く能力が示される。この実験の結果は図3に示す。図3は、牛痘ウイルスに由来する周知の強力な後期プロモーターであるPrATIの存在下での組換えMVA−BN(登録商標)からのOVA発現(コンストラクトPrATI−フィラー−OVA)を、直列型のPrATI−PrSSL−OVAの場合と比較して示す。市販の定量用オボアルブミン特異的ELISA(SERAMUN DIAGNOSTICA)を用いて発現を測定し、市販のBCAアッセイ(UPTIMA)を用いて全タンパク質を測定する。発現の値は、PrATI−フィラー−OVA(棒1)の発現に対する倍率xとして算出する。図3の棒1および棒2の相対的タンパク質レベルを比較することによって確認できるように、PrATIプロモーターへのPrSSL配列の融合(棒2、PrATI−PrSSL−OVA)の結果、14倍多いオボアルブミン発現が得られる。これにより、PrSSLがMVAにおいて強力なプロモーターであること、およびそれがPrATIプロモーターと直列して協同的に働けることが実証される。
【0106】
したがって、まとめると、図2および図3に示す結果から、PrSSLが他のプロモーターエレメントと協力して働く能力が確認される。初期のみのプロモーターと併用すると、PrSSLは、その独自の後期プロモーター活性で初期プロモーター活性を補完して、全体的なタンパク質発現を有意に増大させる。別の初期/後期プロモーターと併用すると、PrSSLは、既に高いタンパク質発現レベルをさらに高いレベルまで向上させる。ポックスウイルス後期プロモーターと併用すると、これは、発現レベルを著しく向上させる。
【0107】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)配列番号1に記載するヌクレオチド配列を有する核酸、
b)(a)に記載した前記核酸に由来するヌクレオチド配列を有する核酸であって、(a)の前記ヌクレオチド配列と比べて少なくとも1つのヌクレオチド付加、欠失、置換、および/または逆位を含み、かつ(a)の前記核酸と本質的に同じ発現特性を有する核酸、
c)(a)の核酸と少なくとも70%の同一性を有し、かつ(a)の前記核酸と本質的に同じ発現特性を有する核酸配列、ならびに
d)(a)、(b)、または(c)の核酸にハイブリダイズすることができ、かつ(a)の前記核酸と本質的に同じ発現特性を有する核酸
からなる核酸の群から選択され、27以下のヌクレオチド長を有する、プロモーター。
【請求項2】
(b)、(c)、または(d)のいずれかの前記核酸が、約5〜25個のヌクレオチド、約6〜24個のヌクレオチド、約7〜23個のヌクレオチド、約8〜22個のヌクレオチド、約9〜21個のヌクレオチド、約10〜20個のヌクレオチド、約11〜19個のヌクレオチド、約12〜18個のヌクレオチド、または約13個、14個、15個、16個、もしくは17個のヌクレオチドを含む、請求項1に記載のプロモーター。
【請求項3】
16〜25個のヌクレオチドからなる、請求項1または2に記載のプロモーター。
【請求項4】
(b)の前記核酸のAT含有量またはAU含有量が、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、または100%である、請求項1から3のいずれかに記載のプロモーター。
【請求項5】
配列番号33または配列番号34に記載するヌクレオチド配列を有する、請求項1から4のいずれかに記載のプロモーター。
【請求項6】
・請求項1から5のいずれかに記載のプロモーター、および
・+1位以降に付加される別のヌクレオチド
を含むポリヌクレオチド。
【請求項7】
配列番号2、3、4、または5に記載する配列を有する、請求項6に記載のポリヌクレオチド。
【請求項8】
・請求項1から5のいずれかに記載のプロモーターまたは請求項6もしくは7に記載のポリヌクレオチド、および
・発現させようとする核酸
を含むポリヌクレオチド。
【請求項9】
前記プロモーターが、発現させようとする前記核酸の開始コドンATGもしくはAUGに直接的に結合されているか、または前記開始コドンATGもしくはAUGを含まない約1個、2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個、10個、約10〜約20個、約20〜約30個、約30〜約40個、約40〜約50個、約50〜約100個、もしくは約100〜約200個のヌクレオチドの非転写領域によって、前記開始コドンATGもしくはAUGから離されている、請求項8に記載のポリヌクレオチド。
【請求項10】
前記プロモーターが、+1位〜+3位に位置する前記開始コドンATGまたはAUGに直接的に結合されている、請求項8または9のいずれかに記載のポリヌクレオチド。
【請求項11】
+4位がGである、請求項10に記載のポリヌクレオチド。
【請求項12】
請求項1から5のいずれかに記載のプロモーターまたは請求項6から11のいずれかに記載のポリヌクレオチドを含むベクター。
【請求項13】
ポリヌクレオチドベクターまたはウイルスベクターである、請求項12に記載のベクター。
【請求項14】
前記ポリヌクレオチドベクターがプラスミドである、請求項13に記載のベクター。
【請求項15】
前記ウイルスベクターがポックスウイルスベクター、特に、ワクシニアウイルスベクターである、請求項13に記載のベクター。
【請求項16】
前記ワクシニアウイルスベクターが、改変ワクシニアウイルスアンカラ(MVA)ベクター、特に、ニワトリ胚線維芽細胞(CEF)においてin vitroで増殖的複製(reproductive replication)する能力を有するが、ヒトケラチノサイト細胞株HaCaT、ヒト胎児由来腎臓細胞株293、ヒト骨肉腫細胞株143B、およびヒト子宮頸部腺癌細胞株HeLaにおいて増殖的複製する能力は有さないMVAである、請求項15に記載のベクター。
【請求項17】
請求項1から5のいずれかに記載のプロモーター、請求項6から11のいずれかに記載のポリヌクレオチド、および/または請求項12から16のいずれかに記載のベクターを含む、宿主細胞。
【請求項18】
請求項1から5のいずれかに記載のプロモーター、請求項6から11のいずれかに記載のポリヌクレオチド、請求項12から16のいずれかに記載のベクター、および/または請求項17に記載の宿主細胞を含む組成物、好ましくはワクチン。
【請求項19】
ワクチンにおいて使用するための、請求項1から5のいずれかに記載のプロモーター、請求項6から11のいずれかに記載のポリヌクレオチド、請求項12から16のいずれかに記載のベクター、請求項17に記載の宿主細胞、および/または請求項18に記載の組成物。
【請求項20】
核酸、好ましくは遺伝子を発現させるための、請求項1から5のいずれかに記載のプロモーター、請求項6から11のいずれかに記載のポリヌクレオチド、請求項12から16のいずれかに記載のベクター、請求項17に記載の宿主細胞、および/または請求項18に記載の組成物の使用。
【請求項21】
免疫応答を誘導するため、または癌および/もしくは感染症を治療もしくは予防するための医薬、好ましくはワクチンの調製における、請求項1から5のいずれかに記載のプロモーター、請求項6から11のいずれかに記載のポリヌクレオチド、請求項12から16のいずれかに記載のベクター、請求項17に記載の宿主細胞、および/または請求項18に記載の組成物の使用。
【請求項22】
a)請求項8から11のいずれかに記載のポリヌクレオチドを提供するステップであって、発現させようとする前記核酸がORFまたは部分的ORFを含むステップと、
b)発現させようとする前記核酸の転写および翻訳の助けとなる条件にa)の前記ポリヌクレオチドを供するステップと、
c)前記ポリペプチドを回収するステップと、
d)場合によっては前記ポリペプチドを精製するステップと
を含む、ポリペプチドを調製する方法。
【請求項23】
・発現させようとする前記核酸を含むポリヌクレオチドを提供するステップと、
・発現させようとする前記核酸に作動可能に連結された請求項1から5のいずれかに記載のプロモーターまたは請求項6もしくは7に記載のポリヌクレオチドを提供するステップと、
・前記核酸の発現の助けとなる条件に、このようにして提供されたポリヌクレオチドを供するステップと
を含む、核酸を発現させる方法。
【請求項24】
・請求項18に記載の組成物を提供するステップと、
・ヒトを含む対象動物に前記組成物を投与するステップと
を含む、免疫応答を誘導するため、または癌および/もしくは感染症を治療もしくは予防するための方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公表番号】特表2012−509678(P2012−509678A)
【公表日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−537890(P2011−537890)
【出願日】平成21年11月27日(2009.11.27)
【国際出願番号】PCT/EP2009/008459
【国際公開番号】WO2010/060632
【国際公開日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【出願人】(509296443)バヴァリアン・ノルディック・アクティーゼルスカブ (9)
【Fターム(参考)】