説明

組換えベクター、形質転換体、及び2H−ピラン−2−オン−4,6−ジカルボン酸の製造方法

【課題】シリンガアルデヒド及びp-ヒドロキシベンズアルデヒドから、PDC(2H−ピラン−2−オン−4,6−ジカルボン酸)を工業的スケールで発酵生産する方法を提供する。
【解決手段】特定の塩基配列からなるベンズアルデヒドデヒドロゲナーゼ遺伝子(ligV2)と、別の特定塩基配列に示すプロトカテク酸4,5-ジオキシゲナーゼ遺伝子(ligA)と、さらに別の特定塩基配列に示すプロトカテク酸4,5-ジオキシゲナーゼ遺伝子(ligB)、さらに別の特定塩基配列に示す4-カルボキシ-2-ヒドロキシムコン酸-6-セミアルデヒドデヒドロゲナーゼ遺伝子(ligC)とを含む組換えベクター;形質転換体;及びPDCの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リグニンの低分子分解物であるバニリン又はp-ヒドロキシベンズアルデヒドから、2H-ピラン-2-オン-4,6-ジカルボン酸を発酵生産するための組換えベクター、形質転換体、及びそれを用いる2H-ピラン-2-オン-4,6-ジカルボン酸の工業的製造法に関する。
【背景技術】
【0002】
リグニンは、植物細胞壁に普遍的に含まれているバイオマス資源である。しかし、リグニンを主成分とする植物由来の芳香族成分は、多様な化学構造を有する成分で構成されていることや複雑な高分子構造を持つためにその利用が限られており、該芳香族成分を化学分解して香料原料であるバニリンを製造する方法の他に有効な技術がほとんど開発されていない。
【0003】
本発明者らは、リグニンの分解物であるバニリン、シリンガアルデヒド、バニリン酸、シリンガ酸、プロトカテク酸、又はその混合物等から、バイオリアクターにより、2H-ピラン-2-オン-4,6-ジカルボン酸(以下、「PDC」と略す)に変換する方法を報告している(特許文献1)。図1に、これらの分解物からPDCへの変換経路の一例を示す。バニリンやシリンガアルデヒドはいずれもp-ヒドロキシベンズアルデヒドの誘導体であるが、リグニン分解物には、バニリンやシリンガアルデヒド以外にも多くのp-ヒドロキシベンズアルデヒド誘導体が含まれている。そのため、このようなp-ヒドロキシベンズアルデヒド誘導体を効率良く酸化して、p-ヒドロキシ安息香酸誘導体に変換する酵素は重要である。現在、この酸化反応は、ベンズアルデヒドデヒドロゲナーゼ(LigV)(特許文献1)がその役割を果たしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−278549号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記のLigVは、バニリンを十分に酸化することができるが、シリンガアルデヒド及びp-ヒドロキシベンズアルデヒドに対する酸化能は決して高いものではない。PDCを効率良く発酵生産するためには、最初の酸化反応は非常に重要である。
そこで、本発明は、シリンガアルデヒド及びp-ヒドロキシベンズアルデヒドから、PDCを工業的スケールで発酵生産する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、斯かる現状に鑑み鋭意検討した結果、先ず、ligV遺伝子が由来する菌株と同一のスフィンゴモナス・パウシモビリス(Sphingomonas paucimobilis)SYK-6株から、ベンズアルデヒドデヒドロゲナーゼ活性を有する新規遺伝子を獲得し、この新規ベンズアルデヒドデヒドロゲナーゼ遺伝子が、シリンガアルデヒド及びp-ヒドロキシベンズアルデヒドをそれぞれ対応するカルボン酸に効率良く変換できることを見出した。また、ligV遺伝子に代えて、この新規ベンズアルデヒドデヒドロゲナーゼ遺伝子を用いることにより、シリンガアルデヒド又はp-ヒドロキシベンズアルデヒドからPDCが効率良く製造できることを見出し、本発明を完成させた。
【0007】
すなわち、(1)本発明は、(a)配列番号1に示す塩基配列からなるベンズアルデヒドデヒドロゲナーゼ遺伝子(ligV2)、又は配列番号1に示す塩基配列からなるDNAと相補的な塩基配列からなるDNAと高ストリンジェントな条件でハイブリダイズし、かつベンズアルデヒドデヒドロゲナーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNAからなる遺伝子と;
(b)配列番号11に示すプロトカテク酸4,5-ジオキシゲナーゼ遺伝子(ligA)、又は配列番号11に示す塩基配列からなるDNAと相補的な塩基配列からなるDNAと高ストリンジェントな条件でハイブリダイズし、かつプロトカテク酸4,5-ジオキシゲナーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNAからなる遺伝子と;
(c)配列番号12に示すプロトカテク酸4,5-ジオキシゲナーゼ遺伝子(ligB)、又は配列番号12に示す塩基配列からなるDNAと相補的な塩基配列からなるDNAと高ストリンジェントな条件でハイブリダイズし、かつプロトカテク酸4,5-ジオキシゲナーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNAからなる遺伝子と;
(d)配列番号13に示す4-カルボキシ-2-ヒドロキシムコン酸-6-セミアルデヒドデヒドロゲナーゼ遺伝子(ligC)、又は配列番号13に示す塩基配列からなるDNAと相補的な塩基配列からなるDNAと高ストリンジェントな条件でハイブリダイズし、かつ4-カルボキシ-2-ヒドロキシムコン酸-6-セミアルデヒドデヒドロゲナーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNAからなる遺伝子、とを含む組換えベクターを提供する。
(2)本発明は、配列番号9に示すp-ヒドロキシ安息香酸ヒドロキシラーゼ遺伝子(pobA)、又は配列番号9に示す塩基配列からなるDNAと相補的な塩基配列からなるDNAと高ストリンジェントな条件でハイブリダイズし、かつp-ヒドロキシ安息香酸ヒドロキシラーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNAからなる遺伝子を更に含む、(1)に記載の組換えベクターを提供する。
(3)本発明は、前記ベンズアルデヒドデヒドロゲナーゼ遺伝子が、スフィンゴモナス・パウシモビリス(Sphingomonas paucimobilis)SYK-6株由来である、(1)又は(2)に記載の組換えベクターを提供する。
(4)本発明は、前記のligA遺伝子、ligB遺伝子及びligC遺伝子に代えて、配列番号14に示すプロトカテク酸4,5-ジオキシゲナーゼ αサブユニット遺伝子(pmdA)と、配列番号15に示すプロトカテク酸4,5-ジオキシゲナーゼ βサブユニット遺伝子(pmdB)と、配列番号16に示すプロトカテク酸 メタジオキシゲナーゼ遺伝子(pmdC)とを含む、(1)〜(3)のいずれか1に記載の組換えベクターを提供する。
(5)本発明は、(1)〜(4)のいずれか1に記載の組換えベクターを含む形質転換体を提供する。
(6)本発明は、(5)に記載の形質転換体を培養し、該培養物からPDCを採取することを特徴とする、PDCの製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、特にシリンガアルデヒド又はp-ヒドロキシベンズアルデヒドからPDCを高収率かつ安価に生産できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】図1は、シリンガアルデヒド、バニリン又はp-ヒドロキシベンズアルデヒドからPDCへの変換工程図である。
【図2】図2は、組換えベクターpJBLigV2の作製方法を示す図である。
【図3】図3は、組換えベクターpVaPoLigVABCの作製方法を示す図である。
【図4A】図4Aは、実施例3におけるPDCの生産を示すTLCである。
【図4B】図4Bは、実施例3における培養時間に対するPDCの生成濃度を示すグラフである。
【図5A】図5Aは、比較例1におけるPDCの生成を示すTLCである。
【図5B】図5Bは、比較例1における培養時間に対するPDCの生成濃度を示すグラフである。
【図6A】図6Aは、実施例4におけるPDCの生成を示すTLCである。
【図6B】図6Bは、実施例4における培養時間に対するPDCの生成濃度を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の組換えベクターは、シリンガアルデヒド、シリンガ酸、バニリン、バニリン酸、p-ヒドロキシベンズアルデヒド、これらの混合物等のリグニン分解物からPDCを製造するプロセスを触媒するための酵素遺伝子を含む組換えベクターである。本発明の組換えベクターは、具体的には、シリンガアルデヒドからPDCを製造するプロセスを触媒する、配列番号1に示す塩基配列からなる新規ベンズアルデヒドデヒドロゲナーゼ遺伝子(ligV2)と、プロトカテク酸4,5-ジオキシゲナーゼ遺伝子(ligA)、及びプロトカテク酸4,5-ジオキシゲナーゼ遺伝子(ligB)と、4-カルボキシ-2-ヒドロキシムコン酸-6-セミアルデヒドデヒドロゲナーゼ遺伝子(ligC)とを含む、組換えベクターである。また、本発明の組換えベクターは、具体的には、p-ヒドロキシベンズアルデヒドからPDCを製造するプロセスを触媒する、ligV2と、p-ヒドロキシ安息香酸 3-モノオキシゲナーゼ遺伝子(pobA)と、ligABと、ligCとを含む、組換えベクターである。これらの組換えベクターにおいては、上記の特定の遺伝子群がすべて一つの発現ベクター内に含まれるように構成されていてもよく、あるいは当該遺伝子群が2グループ以上に分かれて、それぞれ別個の発現ベクターに含まれるように構成されていてもよい。
【0011】
これらの遺伝子群の内、ligAB及びligCはすべて公知である。すなわち、ligA及びligBは、それぞれ、特開2005−278549号公報に記載の配列番号14、16で示されるDNA分子からなる遺伝子(本明細書では、ligAを配列番号11、ligBを配列番号12で示す)であり、ligCは、同公報の配列番号18で示されるDNA分子からなる遺伝子(本明細書では、ligCを配列番号13で示す)である。また、シュードモナス・プチダ(Pseudomonas putida)KT2440由来のpobA遺伝子は、Accession No.NC 002947としてNCBIに登録されている。これらのligAB,ligC及びpobAの各遺伝子には、上記の各配列番号又はAccession No.で特定されたDNA分子の他に、そのDNA分子と相補的な塩基配列からなるDNAと高ストリンジェントな条件でハイブリダイズし、かつそのDNA分子と同一の活性を有するポリペプチドをコードするDNA分子も含まれる。
【0012】
一方、ligV2は新規遺伝子であり、(a)配列番号1に示す塩基配列からなるDNA;又は(b)(a)の塩基配列からなるDNAと相補的な塩基配列からなるDNAと高ストリンジェントな条件でハイブリダイズし、かつベンズアルデヒドデヒドロゲナーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNA、を含む遺伝子である。
【0013】
ここで、「高ストリンジェントな条件」とは、いわゆる特異的なハイブリッドが形成され、非特異的なハイブリッドが形成されない条件をいう。高ストリンジェントな条件としては、同一性が高いDNA同士がハイブリダイズし、それより同一性が低いDNA同士がハイブリダイズしない条件、例えば、Molecular cloning a Laboratory manual 2nd edition(Sambrookら、1989)に記載の条件が挙げられる。具体的には、通常のサザンハイブリダイゼーションにおける洗浄の条件である60℃、1×SSC、0.1%SDS、好ましくは、0.1×SSC、0.1%SDSで相当する塩濃度でハイブリダイズする条件が挙げられる。
【0014】
ligV2遺伝子は、本発明によって明らかにされた本発明の遺伝子の配列情報に基づいて、一般的遺伝子工学的手法により製造、取得することができる。具体的には、本発明の遺伝子が発現される微生物、例えばスフィンゴモナス・パウシモビリス(Sphingomonas paucimobilis)SYK-6株より、常法に従ってゲノムDNAライブラリーを調製し、該ライブラリーから、本発明遺伝子に特有の適当なプローブ等を用いて所望クローンを選択することにより製造することができる。上記において、スフィンゴモナス・パウシモビリス(Sphingomonas paucimobilis)SYK-6株からの全RNAの分離、mRNAの分離及び精製、ゲノムDNAの取得及びそのクローニングなどは、いずれも常法に従って行うことができる。
【0015】
ligV2遺伝子をゲノムDNAライブラリーからスクリーニングする方法も、特に制限されず、通常の各種方法に従うことができる。具体的方法としては、例えば、目的の該酸配列に選択的に結合するプローブを用いたプラークハイブリダイゼーション法、コロニーハイブリダイゼーション法など、及びこれらの組合せを例示することができる。
【0016】
上記方法において用いられるプローブとしては、本発明の遺伝子の塩基配列に関する情報をもとにして化学合成されたDNAなどが一般的に使用できる。また、本発明の遺伝子の塩基配列情報に基づき設定したセンス・プライマー及びアンチセンス・プライマーを、スクリーニング用プローブとして用いることができる。
【0017】
本発明の遺伝子の取得に際しては、PCR法(Science,230,1350(1985))によるDNA増幅法が好適に利用できる。増幅させたDNA断片の単離精製は、常法に従って行うことができる。例えばゲル電気泳動法などが挙げられる。上記方法に従って得られる本発明の遺伝子は、常法、例えばジデオキシ法(Proc.Natl.Acad.Sci.,USA.,74,5463(1977))、マキサム−ギルバート法(Methods in Enzymology,65,499(1980))などに従って、その塩基配列を決定することができる。また、簡便には、市販のシークエンスキットなどを用いて、その塩基配列を決定することができる。
【0018】
配列番号1に示す新規遺伝子ligV2によってコードされるタンパク質(LigV2)は、(a)配列番号2に示すアミノ酸配列からなるタンパク質;(b)(a)のアミノ酸配列において、1個もしくは2個以上のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつベンズアルデヒドデヒドロゲナーゼ活性を有するタンパク質である。
【0019】
ここで、本明細書において、「ベンズアルデヒドデヒドロゲナーゼ活性」とは、シリンガアルデヒド又はp-ヒドロキシベンズアルデヒドを対応するカルボン酸に酸化する活性を意味する。
また、「1個もしくは2個以上のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列」とは、配列番号1又は2のアミノ酸配列と等価のアミノ酸配列を意味し、具体的には、好ましくは1〜20個のアミノ酸、より好ましくは1〜10個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列を意味し、付加には、両末端への1個〜数個のアミノ酸の付加が含まれる。
【0020】
配列番号2に示すベンズアルデヒドデヒドロゲナーゼのアミノ酸配列と、シュードモナス・プチダ(Pseudomonas putida)KT2440株、シュードモナス属(Pseudomonas sp.)HR199株、シュードモナス・フルオレッセンス(Pseudomonas fluorescence)AN103株、及びシュードモナス・プチダ(Pseudomonas putida)WCS358株の各々のバニリンデヒドロゲナーゼのアミノ酸配列とを比較すると、それぞれ、35%、31%、34%、33%の同一性を示し、公知のベンズアルデヒドデヒドロゲナーゼLigV(LigVのアミノ酸配列は、特開2005−278549号公報に配列番号22で示されている)とは31%の同一性を示した。従って、配列番号2に示すベンズアルデヒドデヒドロゲナーゼは、新規なタンパク質である。
尚、アミノ酸配列又は塩基配列の同一性は、既知の配列分析ソフトウェア、例えばDNASIS(日立ソフトウェアエンジニアリング)のBLASTプログラムを使用した測定(データベースに登録されているアミノ酸配列又はDNA塩基配列との比較)によって解析できる。
【0021】
ここで、上記の新規ベンズアルデヒドデヒドロゲナーゼ(LigV2)は、後記実施例に示すように、添付の図1においてLigVが触媒する酸化反応、すなわちシリンガルアルデヒドからシリンガ酸への反応、及びp-ヒドロキシベンズアルデヒドからp-ヒドロキシ安息香酸への反応を、LigVよりも効率良く進行させることが明らかとなった。
【0022】
上記のように、本発明の組換えベクターは、新規ベンズアルデヒドデヒドロゲナーゼ遺伝子(ligV2)と、プロトカテク酸4,5-ジオキシゲナーゼ遺伝子(ligA、ligB)と、4-カルボキシ-2-ヒドロキシムコン酸-6-セミアルデヒドデヒドロゲナーゼ遺伝子(ligC)とを含む組換えベクター、又はligV2と、p-ヒドロキシ安息香酸 3-モノオキシゲナーゼ遺伝子(pobA)と、ligA遺伝子と、ligB遺伝子と、ligC遺伝子とを含む組換えベクターであるが、ligA、ligB及びligC遺伝子に代えて、コマモナス・テストステロニ(Comamonas testosteroni)BR6020株由来のpmdA、pmdB及びpmdC遺伝子を含む組換えベクターを用いてもよい。pmdA、pmdB及びpmdC遺伝子は、後記実施例に示すように、プロトカテク酸を効率良くPDCに変換した。
【0023】
配列番号14に示すpmdA遺伝子(プロトカテク酸4,5-ジオキシゲナーゼ αサブユニット遺伝子)は、プロトカテク酸 4,5-環を開裂し、プロトカテク酸を4-カルボキシ-2-ヒドロキシムコン酸-6-セミアルデヒドに変換するジオキシゲナーゼのα-サブユニットをコードし、配列番号15に示すpmdB遺伝子(プロトカテク酸4,5-ジオキシゲナーゼ βサブユニット遺伝子)は、該酵素のβ-サブユニットをコードする。pmdA遺伝子及びpmdB遺伝子の塩基配列はいずれも、Accession No.AF459635としてNCBIに登録されている。また、配列番号16に示すpmdC遺伝子(プロトカテク酸 メタジオキシゲナーゼ遺伝子)は、4-カルボキシ-2-ヒドロキシムコン酸-6-セミアルデヒドを開環してPDCに変換するデヒドロゲナーゼをコードする遺伝子であり、Accession No.AF305325としてNCBIに登録されている。
【0024】
pmdA、pmdB、及びpmdC遺伝子は、例えば、コマモナス・テストステロニ(Comamonas testosteroni)E6株から、コマモナス・テストステロニ BR6020株由来のゲノム(Accession NO.AF305325)を参考にして、PCR法〔Science,230,1350(1985)〕によるDNA/RNA増幅法を用いて獲得することができる。かかるPCR法の採用に際して使用されるプライマーは、コマモナス・テストステロニ BR6020株由来の遺伝子の配列情報に基づいて適宜設定でき、これは常法に従って調製できる。
【0025】
pmdA,pmdB、及びpmdC遺伝子は、それぞれ、そのDNAと相補的な塩基配列からなるDNAと高ストリンジェントな条件でハイブリダイズし、かつそのDNAと同一の活性を有するタンパク質をコードするDNAからなる遺伝子でもよい。
【0026】
本発明に係る遺伝子群を挿入するためのベクターは、宿主中で複製可能なものであれば特に制限されず、例えば、プラスミドDNA、ファージDNAなどが挙げられる。
プラスミドDNAとしては、pBR322、pBR325、pUC118、pUC119、pET21、pET28、pGEX−4T、pQE−30、pQE−60などの大腸菌宿主用プラスミド、pUB110、pTP5などの枯草菌用プラスミド、YEp13、YEp24、YCp50などの酵母宿主用プラスミド、pBI221、pBI121などの植物細胞宿主用プラスミドなどが挙げられる。ファージDNAとしてはλファージなどが挙げられる。更に、レトロウイルス又はワクシニアウイルスなどの動物ウイルス、バキュロウイルスなどの昆虫ウイルスベクターを用いることもできる。
【0027】
本発明に係る遺伝子群をベクターに挿入するには、まず、本発明に係る各遺伝子を有する精製されたDNAを適当な制限酵素で切断し、適当なベクターDNAの制限酵素部位又はマルチクローニングサイトに挿入してベクターに連結する方法などが採用される。
【0028】
本発明に係る遺伝子群は、その遺伝子群の機能が発揮されるようにベクターに組み込むことができる。すなわち、ベクターは、本発明に係る各遺伝子、プロモーター、所望によりエンハンサーなどのシスエレメント、スプライシングシグナル、ポリA付加シグナル、選択マーカー、リボソーム結合配列(シャイン・ダルガノ配列)などを含むように調製することができる。選択マーカーとしては、例えば、アンピシリン耐性遺伝子、ネオマイシン耐性遺伝子、ジヒドロ葉酸還元酵素遺伝子などを使用することができる。
【0029】
プロモーターとしては、大腸菌などの宿主中で発現できるものであればいずれを用いてもよい。例えばtrpプロモーター、lacプロモーター、PLプロモーター、PRプロモーターなどの大腸菌由来のものやT7プロモーターなどのファージ由来のものが用いられる。更に、tacプロモーターなどのように人為的に設計改変されたプロモーターを用いてもよい。
【0030】
本発明に係る遺伝子群を含む組換えベクターを、当該遺伝子群が発現し得るように宿主中に導入することにより、形質転換することができる。形質転換の方法としては、プロトプラスト法、コンピテントセル法、エレクトロポレーション法等が挙げられる。
【0031】
宿主としては、本発明の遺伝子群を発現できるものであれば特に限定されるものではない。例えば、エッシェリヒア・コリ(Escherichia coli)などのエッシェリヒア属、バチルス・ズブチリス(Bacillus subtilis)などのバチルス属、シュードモナス・プチダ(Pseudomonas putida)などのシュードモナス属、リゾビウム・メリロティ(Rhizobium meliloti)などのリゾビウム属に属する細菌類の他に、サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)、シゾサッカロマイセス・ポンベ(Schizosaccharomyces pombe)、ピヒア・パストリス(Pichia pastoris)などの酵母;シロイヌナズナ、タバコ、トウモロコシ、イネ、ニンジンなどから株化した植物細胞や該植物から調製したプロトプラスト;COS細胞、CHO細胞などの動物細胞;及び、Sf9、Sf21などの昆虫細胞が挙げられる。
【0032】
形質転換体の選択は、用いたプラスミドの選択マーカー、例えば形質転換体のDNA組換えにより獲得する薬剤耐性を指標にすることができる。薬剤耐性マーカーとしては、例えば、カナマイシン耐性遺伝子、アンピシリン耐性遺伝子、テトラサイクリン耐性遺伝子等が挙げられる。これらの形質転換体の中から目的の組換えベクターを含有する形質転換体の選択は、例えば遺伝子の部分的なDNA断片をプローブとして用いたコロニーハイブリダイゼーション法により行うのが好ましい。プローブの標識としては、例えば放射性同位元素、ジゴキシゲニン、酵素等を用いることができる。
【0033】
得られた形質転換体は、糖類の他、窒素源、金属塩、ミネラル、ビタミン等を含む培地を用いて適当な条件下で培養すればよい。培地のpHは、形質転換体が生育し得る範囲のpHであればよく、pH 6〜8程度に調整するのが好適である。培養は、好気的条件下で、15〜40℃、好ましくは28〜37℃で2〜7日間振盪又は通気攪拌培養すればよい。
【0034】
本発明の製造法によって得られるPDCは、生分解性のプラスチック材料、化学製品材料等として利用できる。
【実施例】
【0035】
次に実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に何ら限定されるものではない。
【0036】
実施例1 新規ligV2遺伝子の獲得、及びシリンガアルデヒド又はp-ヒドロキシベンズアルデヒドの酸化反応
スフィンゴモナス・パウシモビリス(Sphingomonas paucimobilis)SYK-6株遺伝子ライブラリーから、Biosci.Biotechnol.Biochem.71(10):2487-2492,2007に記載の方法に従ってクローンpKTV1〜pKTV6を獲得し、その中のクローンpKTV3を解析して、新規遺伝子ligV2を得た。また、シリンガアルデヒド又はp-ヒドロキシベンズアルデヒドを基質として、ligV2遺伝子の遺伝子産物(LigV2)による酸化反応を検討した。以下に詳細を説明する。
【0037】
(1)サブクローニング
pKTV3をスフィンゴモナス・パウシモビリス(S. paucimobilis)IAM 12578株(アルデヒド分解能欠損株、Biosci.Biotechnol.Biochem.71(10):2487-2492,2007)に導入して得られた菌体から粗酵素抽出液(タンパク質濃度500 μg/ml)を調製し、これを用いて0.1 mMバニリン及びシリンガアルデヒドに対する分解活性を調べたところ、それぞれ13 mU/mg、25 mU/mgの活性を示したことから本クローン中に目的とするアルデヒドデヒドロゲナーゼ遺伝子が含まれる可能性が考えられた。そこで、pKTV3からアルデヒドデヒドロゲナーゼ遺伝子を単離するために、pKTV3をHindIII,EcoRI,NotIで消化して8.0 kb HindIII断片、7.0 kb EcoRI断片、及び5.5 kb NotI断片をpBluescript II KS(+)に挿入した。得られた6つのクローンをそれぞれE.コリ(E. coli)JM 109株に導入し、形質転換体の休止細胞を用いて、バニリン及びシリンガアルデヒド(1 mM)それぞれの分解活性をHPLCによって調べた。その結果、8.0 kb HindIII断片を持つクローンにおいてバニリン及びシリンガアルデヒドの分解活性が確認され、8.0 kb HindIII断片中に目的遺伝子が含まれることが示唆された。これらのクローンをそれぞれ、pKTVH8F、pKTVH8Rとした(図1)。
【0038】
更にアルデヒドデヒドロゲナーゼ遺伝子を含む領域を特定するために、pKTVH8F又はpKTVH8Rを、pKT230MCベクターのマルチクローニングサイトと挿入断片の両方に存在する制限酵素部位を切断するEcoRI、EcoRV、BamHI、又はPstIを用いて制限酵素消化した後、セルフライゲーションを行って8種類のサブクローン(pYYEIF、pYYEIR、pYYEVF、pYYEVR、pYYBF、pYYBR、pYYPF、及びpYYPR)を得た。これらのクローンをE. coli JM109株に導入し、形質転換体の休止細胞のバニリン及びシリンガアルデヒド(1 mM)それぞれの分解活性をHPLCによって解析したところ、pYYBRにおいてバニリン及びシリンガアルデヒドをそれぞれバニリン酸、シリンガ酸へと変換する活性が確認された。従って、アルデヒドデヒドロゲナーゼ遺伝子はpYYBRが持つ3.1 kb HindIII-BamHI断片に存在することが示唆された。
【0039】
(2)塩基配列の決定及び解析
pYYBRの3.1 kb HindIII-BamHI断片の塩基配列を決定した。塩基配列の解析から1つのORF(ORF1)と1つの不完全なORF(ORF2)の存在が示された(図2)。ORF1は、1,416 bpからなり、472アミノ酸、50,241 Daのタンパク質をコードしていることが推定された。配列解析プログラムEMBOSS::needleにより、ORF1は、シュードモナス・プチダ(Pseudomonas putida)KT2440株(DDBJ Accession No.:NC 00294)、シュードモナス属(Pseudomonas sp.)HR199株、シュードモナス・フルオレッセンス(Pseudomonas fluorescence)AN103株(DDBJ Accession No.:Y13067)、及びシュードモナス・プチダ(Pseudomonas putida)WCS358株(DDBJ Accession No.:Y14772)のバニリンデヒドロゲナーゼ遺伝子とアミノ酸レベルでそれぞれ35%、31%、34%、33%の同一性を示し、ligV(特開2005−278549号公報)と31%の同一性を示すことが判った(表1)。
【0040】
【表1】

【0041】
これらのバニリンデヒドロゲナーゼとの同一性から、ORF1は、新規なアルデヒドデヒドロゲナーゼ遺伝子であることが示唆され、「ligV2」と命名した。また、ligV2開始コドンの上流7 bpにシャイン・ダルガノ配列と考えられる配列が存在し、開始コドンの約50 bp上流にはE. coliのσ70プロモーターのコンセンサス配列と類似の配列が見られた。終止コドンの14 bp下流にはρ非依存性ターミネーターと考えられる配列が存在した。
ligV2のORF(ORF1)の塩基配列を配列番号1に、LigV2のアミノ酸配列を配列番号2に示す。
【0042】
(3)シリンガアルデヒドからシリンガ酸への変換、及びp-ヒドロキシベンズアルデヒドからp-ヒドロキシ安息香酸への変換
ligV2の遺伝子産物(LigV2)の解析を行うために、E. coli細胞中での発現を試みた。ligV2を含む最小領域を単離するためにpYYBRの1.7 kb BamHI-PstI断片をpBluescript II SK(+)のBamHI-PstIサイトに挿入したプラスミドpSKL2を作製した。pSKL2をE. coli JM109株に導入し、得られた形質転換体から粗酵素抽出液を調製してSDS-PAGEで解析したところ、45 kDaにLigV2に由来すると考えられるタンパク質の産生が確認された。
【0043】
シリンガアルデヒド又はp-ヒドロキシベンズアルデヒド(各々、0.1 mM)に粗酵素抽出液を28℃,30分間作用させて、LigV2のアルデヒドデヒドロゲナーゼ活性を調べた。粗酵素抽出液は、タンパク質濃度100 μg/mlとした。結果を表2に示す。比較のために、ligV遺伝子の遺伝子産物(LigV)のシリンガアルデヒド又はp-ヒドロキシベンズアルデヒドに対するアルデヒドデヒドロゲナーゼ活性を示す。データは、3つの独立した実験の平均±標準偏差で示す。
【0044】
【表2】

【0045】
実施例2 本発明の組換えベクターの作製
(1)組換えベクターpJBligV2
実施例1で得たligV2遺伝子を以下のプライマー:
uni-primer:5’-GGCGCTGAAGTCCGCCGC-3’ (配列番号3)
rev-primer:5’-CTGCAGGCCTATCTCGAGAC-3’ (配列番号4)
を用いて、PCR法により増幅させた。PCRの反応条件は、94℃で30秒間(変性)、55℃で30秒〜1分間(アニーリング)、72℃で2分間(伸長)からなる反応工程を1サイクルとして、30サイクル行った後、72℃で7分間反応させた。ORF1配列の増幅配列を配列番号5(下線は、プライマー配列を示す)に示し、アミノ酸配列を配列番号6に示す。
【0046】
増幅したligV2遺伝子をpBluescriptIISK-のMCSに挿入し、組み換えプラスミドpligV2を作製した。pligV2を制限酵素Vsp I及びSal Iにより切断した後に末端を平滑化して得られるDNA断片と、pJB866(U82001)を制限酵素BamH Iにより切断した後に末端を平滑化して得られるDNA断片とを、T4DNAリガーゼ(ロシュ製)により結合させることにより、組換えベクターpJBligV2を作製した(図2)。
【0047】
(2)組換えベクターpVaPoLigVABC
(2−1)組換えベクターpPobALigV
pobA遺伝子を以下のプライマー:
uni-primer:5’-TCGAGCAATGGCAAACCCTAACAGCAGATG-3' (配列番号7)
rev-primer:5’-CTAGAGGCTTGGTGAAAAACGCCTGACCCG-3' (配列番号8)
を用いて、PCR法により増幅させた。PCRの反応条件は、94℃で30秒間(変性)、55℃で30秒〜1分間(アニーリング)、72℃で2分間(伸長)からなる反応工程を1サイクルとして、30サイクル行った後、72℃で7分間反応させた。増幅させたpobA遺伝子を配列番号9(プライマー配列を下線で示す)に、アミノ酸配列を配列番号10に示す。
【0048】
増幅したpobA遺伝子をpBluescriptIISK-のMCSに挿入し、組み換えプラスミドpPobAを作製した。特開2005−278549号公報の図16に記載のプラスミドpULVを制限酵素Vsp I及びHindIIIにより切断した後に末端を平滑化して得られるDNA断片と、pPobAを制限酵素HindIIIによって切断した後に末端を平滑化して得られるDNA断片とを、T4DNAリガーゼにより結合させることにより、組換えベクターpPobALigVを作製した。
【0049】
(2−2)組換えベクターpDVZ21X
次いで、特開2005−278549号公報に記載のpKTVLABCを制限酵素Xba Iによって部分消化した後に末端を平滑化して得られるDNA断片をセルフライゲーションし、LigABC下流のXba Iサイトを欠損させて(サイトデリーション)、組換えベクターpDVZ21Xを作製した。
【0050】
(2−3)組換えベクターpVaPoLigVABC
上記のpDVZ21Zを制限酵素Xba Iによって部分消化した後に末端を平滑化して得られるDNA断片と、前記の組換えベクターpPobALigVとを制限酵素Vsp I及びXho Iにより切断した後に末端を平滑化して得られるDNA断片とを、T4DNAリガーゼにより結合させることにより、組換えベクターpVaPoLigVABCを作製した(図3)。
【0051】
実施例3 p-ヒドロキシベンズアルデヒドからのPDCの製造
(1)組換えベクターpVaPoLigVABC、及び組換えベクターpJBligV2の抽出
実施例2で作製した組換えベクターpVaPoLigVABCを大腸菌XL-1株に形質変換し、25 mg/Lのカナマイシンを含むLB培地(100 ml)にて37℃で18時間振とう培養し、増殖した培地細胞から組換えベクターpVaPoLigVABCを抽出した。また、実施例2で作製した組換えベクターpJBligV2を同様に大腸菌XL-1株に形質転換し、25 mg/Lのテトラサイクリンを含むLB培地(100 ml)にて37℃で18時間振とう培養し、増殖した培養細胞から組換えベクターpJBligV2を抽出した。
【0052】
(2)シュードモナス・プチダ(Pseudomonas putida)PpY1100の集菌
シュードモナス・プチダPpY1100を、LB液体培地500 mlで、28℃で23時間培養し、氷中で30分冷却した。4℃で10分、10000 rpmで遠心集菌し、500 mlの0℃の蒸留水で温和に洗浄後、再び遠心集菌し、続いて250 mlの0℃の蒸留水で温和に洗浄後、遠心集菌し、更に、125 mlの0℃の蒸留水で温和に洗浄後、遠心集菌した。集菌したシュードモナス・プチダ(Pseudomonas putida)PpY1100の細胞を、10%グリセロールを含む蒸留水に懸濁し、0℃にて保持した。
【0053】
(3)形質転換体の作製
(1)で抽出した組換えベクターpVaPoLigVABC、及び組換えベクターpJBligV2を約0.05μgずつ含む蒸留水4μlを0.2 cmのキュベットに入れ、集菌したシュードモナス・プチダ(Pseudomonas putida)PpY1100細胞の細胞液40μlを加え、25μF、2500 V、12 mescの条件でエレクトロポレーションにかけた。
【0054】
処理した細胞全量を10 mlのLB液体培地に接種し、28℃で6時間培養した。培養後遠心によって菌体を集め、25 mg/Lのカナマイシン及びテトラサイクリンを含むLB平板に展開し、28℃で48時間培養し、組換えベクターpVaPoLigVABC及び組換えベクターpJBligV2を保持するカナマイシン及びテトラサイクリン耐性を示す形質転換株を得た。本菌をシュードモナス・プチダ(Pseudomonas putida)PpY1100(pVaPoLigVABC,pJBligV2)株と名付けた。
【0055】
(4)形質転換体の培養
得られたシュードモナス・プチダ(Pseudomonas putida)PpY1100(pVaPoLigVABC,pJBligV2)株を、200 mlのLB液体培地(25 mg/Lのカナマイシン及びテトラサイクリンを含む)に接種し、28℃で16時間培養し、前培養菌体懸濁液とした。5 LのLB液体培地及び消泡剤(Antiform A)3 mlを10 L容量のジャーファーメンター(発酵槽)を用いて調製し、ここに、シュードモナス・プチダ(Pseudomonas putida)PpY1100(pVaPoLigVABC、pJBligV2)株の前培養菌体懸濁液200 mlを混合し、28℃で500 rpm/分の通気攪拌下、OD660=13〜14まで10時間〜12時間培養した。この時点で、発酵槽から500 mlの培養液を三角フラスコに拭き取り、氷上で保存した。
【0056】
OD660=13〜14に達した発酵槽の培養液に、基質であるp-ヒドロキシベンズアルデヒド10 g、50 mlエタノールを含む0.1 NのNaOH水溶液(pH 8.5に調製)500 mlを、ペリスタポンプを用いて5〜7時間かけて添加した。反応の進行に伴うPDCの生成により、培養液のpHが低下するが、それを防ぐためpHセンサーに連結したペリスタポンプで0.1 NのNaOH溶液を添加して培養液のpHを維持した。
【0057】
反応の進行は、薄層クトマトグラフィー(TLC)によって確認した(図4A)。図4Aにおいて、丸1はp-ヒドロキシベンズアルデヒド(pHBAL)の標品を、丸4はPDCの標品をそれぞれ示す。なお、p-ヒドロキシベンズアルデヒドからPDCへの変換の中間代謝物であるp-ヒドロキシ安息香酸(pHBA)の標品(丸2)、プロトカテク酸(PCA)の標品(丸3)を併せて展開した。図4Aから明らかなように、p-ヒドロキシベンズアルデヒドは、添加後9.5時間で殆ど消失した。更に12時間培養し、サンプリングを続け、反応を終了した。反応液中のPDCの定量結果を図5Bに示す。p-ヒドロキシベンズアルデヒド(5 g/L=40.9 mM)からの24時間反応後のPDCの収量は、約26.6 mM(収率は65.0%)であった。
【0058】
反応終了後、発酵槽の培地をプラスチック容器(バケツ)に移した。培養液から遠心分離(6000 rpm、20℃)により菌体成分を沈澱除去し、得られた上清に塩酸を加えpH 3.5にし、低温で保存した。粗PDCは、特開2008−79603号公報に記載の方法に従って精製し、高純度のPDCを得た。
【0059】
実施例4 シリンガアルデヒドからのPDCの製造
実施例3で使用したシュードモナス・プチダ(Pseudomonas putida)PpY1100(pVaPoLigVABC、pJBligV2)株を用いた。シリンガアルデヒドは2 g/L(約11mM)の終濃度となるように実施例3と同様に添加した。反応の進行を図6AにTLCで示す。また、反応液中のPDCの定量結果を図6Bに示す。図6Aにおいて、丸1はPDCの標品を、丸2はシリンガ酸からPDCへの変換の中間代謝物である3-メチルガリク酸(3MeGA)の標品を、丸3はシリンガ酸(SA)の標品を、丸4はシリンガアルデヒド(SAL)の標品をそれぞれ示す。図6Aから明らかなように、シリンガアルデヒドは、添加後14時間で完全に消失した。特開2008−79603号公報に記載の方法に従ってしたPDCの収量は、約1.55 mM(収率15%)であった。
【0060】
比較例1 p-ヒドロキシベンズアルデヒドからのPDCの製造
(1)組換えベクターpVaPoLigVABCの抽出
実施例2で作製した組換えベクターpVaPoLigVABCを大腸菌XL -1株に形質転換し、25 mg/Lのカナマイシンを含むLB培地(100 ml)にて37℃で18時間振とう培養し、増殖した培養細胞から組換えベクターpVaPoLigVABCを抽出した。
(2)シュードモナス・プチダ(Pseudomonas putida)PpY1100の集菌
実施例3と同様にして、集菌し、10%グリセロールを含む蒸留水に懸濁し、0℃にて保持した。
(3)形質転換体の作製
(1)で抽出した組換えベクターpVaPoLigVABCを実施例3と同様にして、組換えベクターpVaPoLigVABCを保持するカナマイシン及びテトラサイクリン耐性を示す形質転換株を得た。本菌をシュードモナス・プチダ(Pseudomonas putida)PpY1100(pVaPoLigVABC)株とした。
【0061】
(4)形質転換体の培養
得られたシュードモナス・プチダ(Pseudomonas putida)PpY1100(pVaPoLigVABC)株を、200 mlのLB液体培地(25 mg/Lのカナマイシン及びテトラサイクリンを含む)に接種し、28℃で16時間培養し、前培養菌体懸濁液とした。5 LのLB液体培地及び消泡剤(Antiform A)3 mlを10 L容量のジャーファーメンター(発酵槽)を用いて調製し、ここに、シュードモナス・プチダ(Pseudomonas putida)PpY1100(pVaPoLigVABC)株の前培養菌体懸濁液200 mlを混合し、28℃で500 rpm/分の通気攪拌下、OD660=13〜14まで10時間〜12時間培養した。この時点で、発酵槽から500 mlの培養液を三角フラスコに拭き取り、氷上で保存した。
【0062】
OD660=13〜14に達した発酵槽の培養液に、基質であるp-ヒドロキシベンズアルデヒド25 g、50 mlエタノールを含む0.1 NのNaOH水溶液(pH 8.5に調整)500 mlを、ペリスタポンプを用いて5〜7時間かけて添加し、培養液のpHの低下を防ぐためにpHセンサーに連結したペリスタポンプで0.1 NのNaOH溶液を添加した。
反応の進行は、薄層クトマトグラフィー(TLC)によって確認した(図5A)。図5Aにおいて、丸1はPDCの標品を、丸4はp-ヒドロキシベンズアルデヒド(pHBAL)の標品をそれぞれ示す。また、丸2はプロトカテク酸(PCA)の標品を、丸3はp-ヒドロキシ安息香酸(pHBA)の標品を示す。反応液中のPDCの定量結果を図5Bに示す。p-ヒドロキシベンズアルデヒド(5 g/L=40.9 mM)からの32時間反応後のPDCの収量は、約7.6 mM(収率は18.6%)であった。
【0063】
実施例5 PmdABCによるプロトカテク酸からのPDCの製造
(1)pmdABC遺伝子の増幅
pmdABC遺伝子を以下のプライマー:
uni-primer:5’-AAGAGCTCACGAGGAGAATTTATGGCTTTG-3' (配列番号17)
rev-primer:5’-ATTCTAGAATCGATCACCGGGACTTATTC-3' (配列番号18)
を用いて、PCR法により増幅させた。PCRの反応条件は、94℃で30秒間(変性)、55℃で30秒〜1分間(アニーリング)、72℃で2分間(伸長)からなる反応工程を1サイクルとして、30サイクル行った後、72℃で7分間反応させた。配列番号19に、ORF配列にプライマー配列(下線部分)及び増幅配列を加えた遺伝子配列を示す。
【0064】
(2)組換えベクターpKTVD2ALABCの作製
増幅したpmdABC遺伝子をpBluescriptIISK+のMCSに挿入し、組み換えベクターppmdABCを作製した。ppmdABCを制限酵素Sal Iにより2カットして得られるDNA断片をセルフライゲーションさせることにより、組換えベクターp'pmdABCを得た。
次いで、p'pmdABCを制限酵素Vsp I及びHindIIIにより切断した後に平滑化して得られるDNA断片と、pKT230MCを制限酵素sal Iによって切断した後に平滑化して得られるDNA断片とを、T4DNAリガーゼ(ロシュ製)により結合させることにより、組換えベクターpKpmdABCを作製した。
【0065】
(3)形質転換体の作製及びその培養
pKpmdABCをP. putida PPY1100に導入して形質転換体を得、LB培地(5 L)を含むジャーファーメンター(発酵槽)中で、27.5〜28.0度で12時間培養した後に、10 g/Lのプロトカテク酸を添加した。プロトカテク酸添加の10時間後に、プロトカテク酸が消失したことを薄層クロマトグラフィーにより確認し、更に15時間培養して反応を停止した。培養物中のPDCを定量した結果、プロトカテク酸の約90%以上が変換された。この結果は、ligABC遺伝子を用いてプロトカテクをPDCに変換する方法(特開2005−278549号公報)と比較してほぼ同等の変換率を示した。
【配列表フリーテキスト】
【0066】
配列番号1:ligV2遺伝子(ORF1)の塩基配列
配列番号2:ligV2遺伝子(ORF1)のアミノ酸配列
配列番号3:uni-primerの塩基配列
配列番号4:rev-primerの塩基配列
配列番号5:増幅させたligV2遺伝子(ORF1)の塩基配列
配列番号6:増幅させたligV2遺伝子(ORF1)のアミノ酸配列
配列番号7:uni-primerの塩基配列
配列番号8:rev-primerの塩基配列
配列番号9:増幅させたpobA遺伝子の塩基配列
配列番号10:増幅させたpobA遺伝子のアミノ酸配列
配列番号11:ligA遺伝子の塩基配列
配列番号12:ligB遺伝子の塩基配列
配列番号13:ligC遺伝子の塩基配列
配列番号14:pmdA遺伝子の塩基配列
配列番号15:pmdB遺伝子の塩基配列
配列番号16:pmdC遺伝子の塩基配列
配列番号17:uni-primerの塩基配列
配列番号18:rev-primerの塩基配列
配列番号19:増幅させたpmdABC遺伝子の塩基配列

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)配列番号1に示す塩基配列からなるベンズアルデヒドデヒドロゲナーゼ遺伝子(ligV2)、又は配列番号1に示す塩基配列からなるDNAと相補的な塩基配列からなるDNAと高ストリンジェントな条件でハイブリダイズし、かつベンズアルデヒドデヒドロゲナーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNAからなる遺伝子と;
(b)配列番号11に示すプロトカテク酸4,5-ジオキシゲナーゼ遺伝子(ligA)、又は配列番号11に示す塩基配列からなるDNAと相補的な塩基配列からなるDNAと高ストリンジェントな条件でハイブリダイズし、かつプロトカテク酸4,5-ジオキシゲナーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNAからなる遺伝子と;
(c)配列番号12に示すプロトカテク酸4,5-ジオキシゲナーゼ遺伝子(ligB)、又は配列番号12に示す塩基配列からなるDNAと相補的な塩基配列からなるDNAと高ストリンジェントな条件でハイブリダイズし、かつプロトカテク酸4,5-ジオキシゲナーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNAからなる遺伝子と;
(d)配列番号13に示す4-カルボキシ-2-ヒドロキシムコン酸-6-セミアルデヒドデヒドロゲナーゼ遺伝子(ligC)、又は配列番号13に示す塩基配列からなるDNAと相補的な塩基配列からなるDNAと高ストリンジェントな条件でハイブリダイズし、かつ4-カルボキシ-2-ヒドロキシムコン酸-6-セミアルデヒドデヒドロゲナーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNAからなる遺伝子、とを含む組換えベクター。
【請求項2】
配列番号9に示すp-ヒドロキシ安息香酸ヒドロキシラーゼ遺伝子(pobA)、又は配列番号9に示す塩基配列からなるDNAと相補的な塩基配列からなるDNAと高ストリンジェントな条件でハイブリダイズし、かつp-ヒドロキシ安息香酸ヒドロキシラーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNAからなる遺伝子、を更に含む、請求項1に記載の組換えベクター。
【請求項3】
前記ベンズアルデヒドデヒドロゲナーゼ遺伝子が、スフィンゴモナス・パウシモビリス(Sphingomonas paucimobilis)SYK-6株由来である、請求項1又は2に記載の組換えベクター。
【請求項4】
前記のligA遺伝子、ligB遺伝子及びligC遺伝子に代えて、配列番号14に示すプロトカテク酸4,5-ジオキシゲナーゼ αサブユニット遺伝子(pmdA)と、配列番号15に示すプロトカテク酸4,5-ジオキシゲナーゼ βサブユニット遺伝子(pmdB)と、配列番号16に示すプロトカテク酸 メタジオキシゲナーゼ遺伝子(pmdC)とを含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載の組換えベクター。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の組換えベクターを含む形質転換体。
【請求項6】
請求項5に記載の形質転換体を培養し、該培養物から2H-ピラン-2-オン-4,6-ジカルボン酸を採取することを特徴とする、2H-ピラン-2-オン-4,6-ジカルボン酸の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4B】
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【図5B】
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【図6B】
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【図4A】
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【図5A】
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【図6A】
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【公開番号】特開2011−67139(P2011−67139A)
【公開日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−221306(P2009−221306)
【出願日】平成21年9月25日(2009.9.25)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成20年度、農林水産省、「バイオマス・マテリアル製造技術の開発」委託事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願)
【出願人】(000003218)株式会社豊田自動織機 (4,162)
【出願人】(504132881)国立大学法人東京農工大学 (595)
【出願人】(304021288)国立大学法人長岡技術科学大学 (458)
【出願人】(501186173)独立行政法人森林総合研究所 (91)
【Fターム(参考)】