説明

組立マンホールの浮上防止方法とその浮上防止フランジ部材。

【課題】 組立マンホールの浮上防止方法と、その実施に用いられる浮上防止フランジ部材を提供する。
【解決手段】 基盤17の上に直壁16、直壁15、斜壁14、調整リング13及びマンホール蓋枠12を順次積み上げると共に、接着材や連結金具18等で一体にして組立マンホールAを構成し、下側に内側から外側へ上向きの45°のテーパー21aを設けた浮上防止フランジ部材21を前記直壁15の外側に取付け、前記直壁16の外側には下側に内側から外側へ上向きの45°のテーパー22aを設けた分離型浮上防止フランジ部材22を取付けて組立マンホールA全体の見掛け上の比重を1.0以上とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、組立マンホールの浮上防止方法とその発明実施に用いられる浮上防止フランジ部材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
図1は、現在、一般に用いられている、日本下水道協会認定の組立マンホールの標準的構成を示すもので、1はマンホール蓋、2はマンホール蓋受枠、3は高さ調整リング、4は斜壁、5,6は直壁、7は基盤、8はインバートで、一般に接着材等により接合され一体化されている。
【0003】
周知のように、阪神・淡路や中越地震地において、地盤の液状化(流動化)により、数多くの前記組立マンホールが浮き上がり、救援の障害になったことは記憶に新しいところである。
【0004】
そして、2005年1月号の下水道協会誌Vol.42 No.507の68頁表−2によれば、新潟県中越地震におけるマンホールの浮上がり、沈下は1,365件であったと報告されており、現在、国土交通省下水道部を初めとして下水道の技術分野において、その解決策について検討がなされている。
【特許文献1】実開平3−18252号公報
【非特許文献1】2005年1月号下水道協会誌Vol.42 No.507
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、本発明は、組立マンホールの浮上防止方法とその発明の実施に用いられる浮上防止フランジ部材を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
多量の水分を含んだ土砂は、通常、砂粒子同士が粒子の結合で結びつき、粒子間にできた空隙の間に間隙水が存在して安定しているが、地震が発生すると、強い振盪により砂粒子の結合が外れて砂粒子が動き出し、その間に間隙水が入り込み、砂粒子が個々に浮遊し始め、地盤は泥水化(液状化)する。
【0007】
組立マンホール(地下構造物)は、内部が空洞で、コップ状になっているので、地盤より比重が軽いため、地震の際の地盤が泥水化した時、浮上し始め、組立マンホールの下に浮遊している砂粒子が潜り込み、地震の終了と共に、砂粒子はそのまま再結合し、組立マンホールは浮上したままとなる。
【0008】
この地盤の流動化による組立マンホールの浮上を防止する方法として、従来、基盤,直壁及び斜壁等を一体化した組立マンホールの質量を大きくする、埋め戻し材料を選定して圧密度を高くする、埋め戻しを固化改良土で行うなどの技術があった。
【0009】
しかしながら、これらの方法は、組立マンホールの設計変更をしなければならず、しかも既設の組立マンホールには適用し得ないこと、埋め戻し材のコスト増、実用的でないことや本来の即日復旧が困難である等の問題があった。
【0010】
そこで本発明者は、現在、実用の組立マンホールの構造や工事方法を変更する必要がなく、実施が容易で、しかも安価なコストで組立マンホールの浮上を防止する手段を提供するため、種々実験研究の結果、組立マンホールの躯体の外側に、浮上に対する抵抗力を大きくすると共に、見かけ比重を大きくするための環状の浮上防止フランジ部材を適数個装着することにより、課題を解決したものである。
【0011】
ところで本発明者は、本発明をなすに先立って、先ず組立マンホール設定後の見掛け比重がどの程度のものとすれば浮上防止出来るかについて、図2に示す1/10のミニチュアモデルを用いた実験装置により実験を行った。
【0012】
図2中T1〜T3はそれぞれテストモデル(試料)で、高さ300mm、直径105mm、厚さ4mmのプラスチック製円筒10a内に、コンクリート底盤10bを設け、その上方に砂ウエート10cを入れて見掛け比重がそれぞれ、0.8129,1.0,1.2になるように構成し、振盪容器11内に先ず砂(表面水2〜3%)を入れ、転圧して70mmとし、その上に試料T1〜T3を設置し、次いで砂を入れて100mm毎に転圧を行い、試料の280mmの高さまで転圧を繰り返し砂を入れた後、振盪容器11内に17リットルの水を加え、実水分量17%程度とし、砂の表面をコテで均す。
【0013】
上記の準備を完了してから、振盪容器11を150mm〜200mm/秒で振盪させ、15往復(約15秒)で流動化が完了した。
【0014】
その結果、試料T1(比重0.8129)は38mm浮上し、試料T2(比重1.0)は27mm浮上し、試料T3(比重1.2)は112mm浮上した。
【0015】
同様に見掛け比重を1.3,1.4,1.5,1.8,2.0とした場合の5種類の試料を用いて浮上試験を行った結果、比重1.3のものは110mm,比重1.4のものは29mm,比重1.5のものは30mm,比重1.8のものは11mm,比重2.0のものは2mm浮上した。
【0016】
この流動化による埋設物の浮上試験によれば、現行タイプのものは見掛け比重を2.0以上にする必要があることが分かった。
【0017】
次に上記円筒状の試料の外側に図2で想像線図示のように10mm突出させた環状の浮上防止フランジ部材を設け、見掛け比重を1.0044とした2つの試料T4,T5(図示せず)を用意し、前記と同様の手順で流動化浮上試験を行った結果、浮上せず、逆に、試料T4は4mm、試料T5は6mm沈下した。なお、使用する砂や、転圧の条件により試料が沈下しないこともある。
【0018】
これらの試験結果により、組立マンホールの躯体の外側に荷重増加用の環状の浮上防止フランジ部材を適数個付加することにより、見掛け比重は前記実験における値2.0より小さい値の1.0以上にすればよいという知見を得た。
【0019】
現行の組立マンホールの見掛け比重は計算上0.9前後であるので、コンクリート製又は金属製の肉厚の環状の浮上防止フランジ部材を適数個付加することにより現行の組立マンホールの見掛け比重を1.0以上にすることは容易である。また、プラスチック等の軽量の材料で浮上防止フランジ部材を構成した場合は、例えばコンクリートを付加してインバートの厚さを15cm〜20cm程度の厚さを増加することにより見掛け比重を1.0以上にすることができる。
【0020】
しかして、付加する環状の浮上防止フランジ部材9は、図3の(a)図のように内径を組立マンホールに装着し得る大きさにすると共に、下側にθ=45°以上のテーパー9aを設けることが望ましい。かくすることにより、埋め戻し時における転圧に際し、浮上防止フランジ部材9の下部に転圧不足部が生ずることを防止することができる。
【0021】
この浮上防止フランジ部材9は、地盤流動化時において組立マンホールに浮上抵抗を付与する効果があり、図3の(b)に示すように、上部外周部に突条9bを設けることにより、更に浮上抵抗を増加することができる。なお、図示しなかったが、浮上防止フランジ部材9には躯体への取付手段を設けることは勿論である。
【0022】
本発明は、以上の知見に基づきなされたもので、請求項1に記載の発明は、組立マンホールの躯体の外側に浮上抵抗付加用の適数個の環状の浮上防止フランジ部材を装着し、且つ全体の見掛け比重を1.0以上とすることを特徴とする組立マンホールの浮上防止方法である。
【0023】
また、請求項2に記載の発明は、請求項1記載の発明における、浮上防止フランジ部材として、下側に内側から外側に上向きの45°以上のテーパーを設けたものを用いたことを特徴とする組立マンホールの浮上防止方法である。
【0024】
請求項3に記載の発明は、請求項1または請求項2記載の発明における浮上防止フランジ部材としてコンクリート製または金属製としたことを特徴とする組立マンホールの浮上防止方法である。
【0025】
請求項4に記載の発明は、請求項1または請求項2記載の発明における浮上防止フランジ部材をプラスチック製等の軽量の材料で構成した場合、インバートの重量増加等により全体の見掛け比重を1.0以上とすることを特徴とする組立マンホールの浮上防止方法である。
【0026】
請求項5に記載の発明は、環状の本体の内径を組立マンホールの躯体の外側に装着可能の大きさとし、且つ組立マンホールの躯体への取付手段を設けたことを特徴とする組立マンホール用浮上防止フランジ部材である。
【0027】
請求項6に記載の発明は、連結手段により一体化する分割型の環状の本体の内径を組立マンホールの躯体の外側に装着可能の大きさとし、且つ組立マンホールの躯体への取付手段を設けたことを特徴とする組立マンホール用浮上防止フランジ部材である。
【0028】
請求項7に記載の発明は、請求項4または請求項5記載の組立マンホール用浮上防止フランジ部材として、下側に内側から外側に上向きの45°以上のテーパーを設けたことを特徴とする組立マンホール用浮上防止フランジ部材である。
【発明の効果】
【0029】
組立マンホールの躯体の外側に浮上抵抗付加用の適数個の環状の浮上防止フランジ部材を装着して、且つ全体の見掛け比重を1.0以上としたので、地震発生時に、地盤が液状化してもフランジ部材の浮上抵抗力と相俟って、浮上が防止される。
【0030】
また、浮上防止フランジ部材は、組立マンホールの躯体の外側に装着するだけでよいので、実施が容易であると共に、組立マンホールの大きさや肉厚に応じて、その取付個数を選択するだけでよいので、実施が簡単且つ容易であるばかりでなく、既設の組立マンホールに浮上防止機能を持たせることができるので、実用上勝れた浮上防止方法である。
【実施例】
【0031】
図4は本発明の一実施例の側面図で、この組立マンホールの躯体Aは、マンホール蓋受枠12に、高さ調整リング13、斜壁14、直壁15,16、基盤17から構成され、接着材等で一体化すると共に、直壁15と16を更に適数個の連結金具18によって連結し、且つ直壁15には流入管20を、直壁16には流出管19を接続すると共に、直壁15には環状の浮上防止フランジ部材21を、また直壁16には環状の分割型浮上防止フランジ部材22を取付けたものである。
【0032】
図5は前記環状の浮上防止フランジ部材21の拡大平面図、図6はその一部截断側面図を示し、この場合は、斜壁14や直壁15,16と同様に鉄筋入りコンクリート製である。
【0033】
しかして、この環状の浮上防止フランジ部材21は、直壁15に上部から装着し易いように、内径を直壁15の外径より僅か大きく作り、下側に内側から外側に上向きの45°のテーパー21aが設け、且つ6箇所に押しネジ式の取付手段Pが設けられている。
【0034】
図7は前記取付手段Pの詳細を示す拡大断面図で、図8の(a)図〜(c)図に示すようなアンカーピン23,23を備えたナット24をボルト挿入孔25の中間に配設し、前記ナット24に螺合したボルト26で、押し板27を直壁15に押圧させることにより、浮上防止フランジ部材21を直壁15の任意の位置に固定するようにしたものである。
【0035】
なお、押し板27は、図8の(d)図及び(e)図に示すように、両側に丸棒27a,27aを熔接して円筒状の直壁15の外面に密接するよう工夫されており、また使い勝手を良くする為、ボルト26を捻じ込む前は、両面テープ28でナット24の端面に接着されていて、ボルト26を捻じ込むと、押し板27は、ナット24の端面からボルト26によって剥離されて直壁15の表面に圧接される。
【0036】
図9は、鉄筋入りコンクリート製の分割型浮上防止フランジ部材22の拡大平面図、図10はその一部截断側面図を示すもので、この場合は2分割タイプのものであって、直壁16に抱かせてから、連結手段Q,Qによって一体化した後、前記取付手段Pによって直壁16に固定するように構成したものである。
【0037】
この分割型浮上防止フランジ部材22は、図4に示した実施例のように直壁16の表面に既設流入管19や連結金具18等の突起物があって、組立マンホールの上方から、環状の浮上防止フランジ部材21を装着出来ないような場合に用いられるもので、実施例における連結手段Qを図面に基づき説明すれば次の通りである。
【0038】
図11は分割型浮上防止フランジ部材22の連結部の詳細を示す拡大端面図で、各分割防止フランジ部材22a,22bには、それぞれ3個づつの前記非分割型の浮上防止フランジ21に設けたものと同様の取付手段Pと、端面の上下に図12に示すような接合ボックス29,29が設けられている。
【0039】
図12の(a)図は、接合ボックスの正面図、(b)図は同平面図、(c)図は(b)図の右側面図で、接合ボックス29は端面側に連結ボトル孔29aを設けると共に、両側と背面に異形鉄筋を用いたアンカー29bを熔接したものである。
【0040】
分割型浮上防止フランジ22の直壁16への取付けは、先ず、分割浮上防止フランジ部材22a,22bを直壁16に抱かせて、相対する前記接合ボックス29に設けた連結ボトル孔29a,29aに挿通したボルトとナット(図示せず)で、連結して環状とした後、取付手段Pで直壁16に固定させるものである。
【0041】
以上説明したように、分離型浮上防止フランジ部材22は、既設流入管や突起物を避けて設置することが出来るので、既設組立マンホールに浮上防止機能の付与の実施を容易に行うことが出来るという実用的効果がある。
【0042】
組み立てマンホールに取付ける浮上防止フランジ部材21又は22の数は、現行標準的組立マンホールの場合、厚さ300mm、幅145mm、下部に45°のテーパー21a又は22aを設けた鉄筋入りコンクリート製浮上防止フランジ部材の場合、表1に示す組み合わせデータシートに示す通り、1個又は2個装着すれば見掛け比重は1.0以上となり、浮上を防止することが出来る。
【0043】
【表1】



【0044】
なお、表1中第2行に記載の10,15,20・・・・・の15の数字は物品の番号を示すと共に、物品の厚さを意味し、厚さの単位はcmである。
【0045】
以上、説明した実施例では浮上防止フランジ部材を鉄筋入りコンクリート製のものとしたが、金属製としてもよい。
【0046】
また、浮上防止フランジ部材の構成の材料としてプラスチック等の軽量の材料を用いる場合は、組立マンホール全体の見掛け比重を1.0以上とするため、例えば、コンクリートを盛ってインバート(図1参照)の厚さを15cm〜20cm増加すればよい。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】標準的組立マンホールの縦断面図。
【図2】ミニチュアモデルを用いた実験装置の断面図。
【図3】(a)図及び(b)図は異なる構造の2種類の浮上防止フランジ部材の断面図。
【図4】本発明の実施例の側面図。
【図5】非分離型の浮上防止フランジ部材の拡大平面図。
【図6】非分離型の浮上防止フランジ部材の一部截断拡大側面図。
【図7】取付手段Pの詳細を示す拡大断面図。
【図8】(a)図はナットの背面図、(b)図はナットの側面図、(c)図はナットの平面図、(d)図は押し板の背面図、(e)図は押し板の側面図。
【図9】分離型の浮上防止フランジ部材の拡大平面図。
【図10】分離型の浮上防止フランジ部材の一部截断拡大側面図。
【図11】分離型の浮上防止フランジ部材の連結部の詳細を示す拡大端面図。
【図12】(a)図は接合ボックスの正面図、(b)図は同平面図、(c)図は(b)図の右側面図。
【符号の説明】
【0048】
1 マンホール
2,12 マンホール蓋受枠
3,13 高さ調節リング
4,14 斜壁
5,6,15,16 直壁
7,17 基盤
8 インバート
9,21 浮上防止フランジ部材
10a プラスチック製円筒
10b コンクリート底盤
10c 砂ウエート
11 振盪容器
18 連結金具
19 流入管
20 流出管
22 分離型の浮上防止フランジ部材
23 アンカーピン
24 ナット
25 ボルト挿入孔
26 ボルト
27 押し板
28 両面テープ
29 接合ボックス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
組立マンホールの躯体の外側に浮上抵抗付加用の適数個の環状の浮上防止フランジ部材を装着し、且つ全体の見掛け比重を1.0以上とすることを特徴とする組立マンホールの浮上防止方法。
【請求項2】
浮上防止フランジ部材は下側に内側から外側に上向きの45°以上のテーパーを設けたものであることを特徴とする請求項1記載の組立マンホールの浮上防止方法。
【請求項3】
浮上防止フランジ部材はコンクリート製または金属製としたことを特徴とする請求項1または請求項2記載の組立マンホールの浮上防止方法。
【請求項4】
浮上防止フランジ部材をプラスチック製等の軽量の材料で構成した場合、インバートの重量増加等により全体の見掛け比重を1.0以上とすることを特徴とする請求項1または請求項2記載の組立マンホールの浮上防止方法。
【請求項5】
環状の本体の内径を組立マンホールの躯体の外側に装着可能の大きさとし、且つ組立マンホールの躯体への取付手段を設けたことを特徴とする組立マンホール用浮上防止フランジ部材。
【請求項6】
連結手段により一体化する分割型の環状の本体の内径を組立マンホールの躯体の外側に装着可能の大きさとし、且つ組立マンホールの躯体への取付手段を設けたことを特徴とする組立マンホール用浮上防止フランジ部材。
【請求項7】
下側に内側から外側に上向きの45°以上のテーパーを設けたことを特徴とする請求項5または請求項6記載の組立マンホール用浮上防止フランジ部材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2007−262747(P2007−262747A)
【公開日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−88860(P2006−88860)
【出願日】平成18年3月28日(2006.3.28)
【出願人】(591116092)株式会社福原鋳物製作所 (23)
【Fターム(参考)】