説明

組織からのバイオマテリアルの単離方法およびそれから単離されたバイオマテリアル抽出物

組織からバイオマテリアルの単離もしくは精製の方法を提供する。組織を抽出溶液と接触させてバイオマテリアルを溶液中に抽出し、バイオマテリアル抽出物を含有する溶液を分離し、ならびに該分離溶液を、バイオマテリアルを単離させことができる速度で凍結乾燥することを含む、組織からのバイオマテリアル抽出物の単離方法である。溶媒として酢酸溶液を使用し、皮膚からコラーゲンを抽出する方法が開示される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、組織からバイオマテリアルを単離および精製する方法およびそれから単離されたバイオマテリアル抽出物に関する。詳しくはタイプ1コラーゲン抽出物の抽出および
精製の方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コラーゲンは結合組織、例えば皮膚、腱、軟骨および骨の主要構造タンパク質である。タイプ1コラーゲンは、軟結合組織(皮膚、腱)および硬結合組織(骨、歯の象牙質)のコラ
ーゲンの主要部分を形成する。コラーゲンは、ラット、ウサギといった動物の皮膚から抽出されるのが典型である。
【0003】
抽出されたコラーゲンは、新規材料を被覆するために使用でき、あるいは材料をより生体適合性とするために材料に取込まれ得る。
コラーゲンは、その優れた機械的特性、生体適合性、生分解性、生物からの入手性、細胞成長への作用および止血能力のために、医学、獣医学、化粧品、食品、医薬、生物医学、バイオテクノロジー、歯学、外科、皮膚科、神経科、整形科、眼科、泌尿器科および脈管への応用に多く利用されている。例えば、コラーゲンは、インプラント、移植片、代替臓器、組織等価物、代替動脈血管、止血剤、薬物送達基剤、歯内治療、細胞培養支持体、硝子体置換、形成手術、再生手術および美容外科手術、手術糸および手術用包帯などに使用されてきた。
【0004】
コラーゲンの抽出および精製については様々な方法が用いられてきた。既存のコラーゲン抽出および精製の方法は、典型的には動物から抽出し、多段階の化学的過程および機械的な過程を用いて精製するもので、例えば非特許文献1および2に記載された方法である。
【0005】
そうした方法は、化学的な洗浄および抽出、ろ過、減圧ろ過、デカンテーション、酵素消化、塩析、架橋反応および透析を含む。従来の代表的なコラーゲンの抽出および精製の方法は、複雑で費用がかかり、またそのプロセスによってコラーゲンの構造が修飾されたり変性したりする不利な面から免れなかった。
【0006】
コラーゲンは、50〜60℃もの低い温度でガラス転移(glass transition)を受ける。もし使用する化学的方法によりコラーゲンがこのガラス転移を経験するのであれば、コラーゲンの物理的構造は破壊され得る。加えて抽出方法の多くは、コラーゲンを沈殿させるためにアルカリ金属、アルカリ金属塩または酢酸ナトリウム/水酸化ナトリウムを使用する。そのような作用剤は過酷な薬剤であり、コラーゲンの変質または損傷を与えかねない。代替的な方法はコラーゲンを消化するためにプロテアーゼおよび酵素を使用する。典型的にはプロテアーゼおよび諸酵素は高価であり、コラーゲンには修飾と損傷とあいなる。したがって、コラーゲンを抽出し、精製するためのより簡単な方法を提供することの要請がある。
【非特許文献1】Ehrmann, R. L.およびGay, G.O., National Cancer Inst. J. 16:1374-1403.
【非特許文献2】Bornstein, M.B., Lab. Invest. 7:134-137, 1958.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、少なくとも好ましい態様においては上記の不利なことの少なくとも1つを、克服するか実質的に軽減することである。本発明の目的は、 少なくとも好ましい
態様においては、コラーゲンの抽出および精製の改良された方法を提供することでもある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第一の態様により、組織を抽出溶液と接触させてバイオマテリアル(biomaterial)を溶液中に抽出し、バイオマテリアル抽出物を含有する溶液を分離し、ならびに該分
離溶液を、バイオマテリアルを単離させことができる速度で凍結乾燥することを含む、組織からのバイオマテリアル抽出物の単離方法が提供される。
【0009】
本発明の第二の態様により、組織を抽出溶液と接触させてバイオマテリアルを溶液中に抽出し、バイオマテリアル抽出物を含有する溶液を分離し、ならびに該分離溶液を、バイオマテリアルを単離させことができる速度、約0.1℃/分〜50℃/分で凍結乾燥することを
含む、組織からのバイオマテリアル抽出物の単離方法が提供される。
【0010】
本発明の第三の態様では、本発明の第一または第二の態様の方法により、調製されたバイオマテリアル抽出物が提供される。
[発明の詳細な説明]
定義
次の定義は一般的な定義を意図するものであり、これらの用語で本発明の範囲をいかなる意味で限定するものではなく、以下の記載のより良い理解が得られるように示されるものである。本明細書で単一の整数、工程または構成要件として記載された本発明の整数、工程または構成要件は、文脈的にそれと反対に違うものと、または特異的に述べることを要求されないのであれば、記載された整数、工程または構成要件の単数および複数の両方の形態を明確に包含するものである。
【0011】
この明細書では、文脈的に別のことを求めない限り、「含む」または変形の「含み」、「含んでいる」などの用語は、述べられた整数、工程または構成要件あるいは一群の整数、工程または構成要件を含むことを終始、意味しており、別の何らかの整数、工程または構成要件あるいは一群の整数、工程または構成要件を排除するものではないことを理解されるべきである。したがって本明細書の文脈で、用語「含む」は、「主として含むが、必ずしもそれだけではない」ことを意味するものである。
【0012】
用語「単離された」または「精製された」とは、問題の物質がその生体(host)から取り出され、結びついていた不純物が減らされたか又は除去されたことを意味する。本来、目的とする化学種が、存在する分子種の中で優勢であり(すなわちモル基盤でその組成物の中で、他のいずれの個別化学種よりも潤沢である)、ならびに実質的に精製された画分は、目的の化学種が、存在するすべての大分子化学種のうち、少なくとも約30%で(モル
ベースで)含まれる組成物であることが好ましい。一般には、実質的に純粋な組成物は、
組成物中に存在するすべての大分子の化学種は約80〜90%よりも多く含まれる。最も好ましくは、目的化学種が本質的に均一(組成物中に、混在する不純化学種が通常の検出方法
で検出されない)になるまで精製され、その組成物が本質的に単一の大分子種からなるこ
とである。
【0013】
本明細書に記載される本発明は、ここに明示的に記載されるものとは違う変形もしくは修飾をうけることを当業者は認識するであろう。本発明がそうした変形および修飾のすべてを含むことも理解されよう。本発明はまた、本明細書で個別にまたは包括的に言及され、明示される工程、特徴、組成および化合物のすべてを含む。さらにそうした工程または特徴のいずれかの、およびすべての組合わせも、あるいはいずれか2つ以上の場合も同様である。
【0014】
本明細書で引用され、参照により明確に取込まれるすべての参考文献は、それらの全体がここに取込まれる。本明細書の文脈で、用語「バイオマテリアル」は、ヒトを含む哺乳類といった生きている生物体中に導入されるのに適するすべての材料をいう。そうしたバイオマテリアルは、生きている生体中に導入されたときに毒性でなく、かつ、生体吸収性であることが適切であり、ならびにそのバイオマテリアルの分解産物がいずれも生体にとり毒性ではないことが適切である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
組織からのバイオマテリアル抽出物の単離と精製の方法が提供される。その方法は組織を抽出溶液と接触させてバイオマテリアルを溶液中に抽出し、次いでバイオマテリアル抽出物を含有する溶液を分離し、ならびに該分離溶液を、バイオマテリアルを単離させことができる速度で凍結乾燥することを含む。
【0016】
上記バイオマテリアルは、生物組織から抽出し得るいかなるバイオマテリアルであってもよい。一つの態様において、バイオマテリアルは、胎児組織、 皮膚/真皮、筋肉または結合組織(骨、腱、靭帯、軟骨を含む)といった生物組織から抽出される物質であってもよい。ある態様においてバイオマテリアルは、皮膚から抽出される。他のある態様では、その組織は動物の皮膚であってもよい。またその皮膚がラットまたはウサギの皮膚であってもよい。
【0017】
上記バイオマテリアルがバイオポリマーである態様もある。その態様でバイオマテリアルは、タンパク質、ペプチド、多糖類および他の有機物質といった物質から選択される。例えばそのバイオマテリアルは、成長因子;フィブロネクチン、ラミニン、ビトロネクチン(vitronectin)、 テナシン(tenascin)、エンタクチン(entactin)、トロンボスポ
ンジン(thrombospondin)、エラスチン、ゼラチン(gelatin)、コラーゲン、フィブリ
レン(fibrillen)、メロシン(merosin)、アンコリン(anchorin)、コンドロネクチン(chondronectin)、リンクタンパク質、骨シアロタンパク質(bone sialoprotein)、オステオカルシン(osteocalcin)、オステオポンチン(osteopontin)、エピネクチン(epinectin)、ヒアルロネクチン(hyaluronectin)、ウンデュリン(undulin)、エピリグリン(epiligrin)および カリニン(kalinin)、といった細胞外マトリックスタンパク質;デコリン(decorin)、デルマチン硫酸プロテオグリカン(dermatin sulfate proteoglycans)、ケラチン、ケラチン硫酸プロテオグリカン(sulfate proteoglycans)、アグレカン(aggrecan)、コンドロイチン硫酸プロテオグリカン、ヘパリン硫酸プロテオグリカン、ビグリカン(biglycan)、シンデカン(syndecan)、ペルレカン(perlecan)、セルグリシン(serglycin)といったプロテオグリカン;、ヘパリン硫酸、コンドロイチン硫
酸、デルマチン硫酸(dermatin sulfate)、ケラチン硫酸またはヒアルロン酸といったグリコサミノグリカン(glycosaminoglycans);ヘパリン、デキストラン硫酸、キチン、アルギン酸といった多糖類、ペクチン、キシラン(xylan)、ポリビニルアルコール、サイ
トカイン、グリコシド、糖タンパク質、ポリピロール、アルブミン、 フィブリノーゲン
、またはリン脂質から、1つまたはそれ以上から選択されてもよい。
【0018】
一態様において上記バイオマテリアルはコラーゲンがよいであろう。さらなる態様でそのコラーゲンは、コラーゲン タイプI、 コラーゲン タイプII、 コラーゲン タイプIII
、 コラーゲン タイプIV、 コラーゲン タイプV、 コラーゲン タイプVI、 コラーゲン
タイプVII、 コラーゲン タイプVIII、 コラーゲン タイプ IX、 コラーゲン タイプ X、
コラーゲン タイプXI、 コラーゲン タイプ XII、 コラーゲン タイプ XIII、 コラーゲン タイプ XIV、 またはそれらの混合物からなる群より選択されてもよい。ある態様では、そのコラーゲンは、タイプI コラーゲンがよい。
【0019】
バイオマテリアルの供給源として、陸生および海生いずれの脊椎動物および無脊椎動物が挙げられ、これには哺乳動物、有袋動物、ヒト、ヒト以外の霊長類、げっ歯類、ウシ、ヒツジ、ウマ、caprine、ウサギ、鳥類、ネコ、ブタまたはイヌが含まれる。一態様にお
いて、上記バイオマテリアルは、ヒト、ブタ、ウシ、ヒツジ、シカ、ヤギ、ウマ、ロバ、ウサギ、ネズミ、マウス、家兎、カンガルー、ワラビー(wallaby)またはラクダといっ
た哺乳類または有袋類からの起源でもよい。バイオマテリアルの適切な供給源は、インビボ研究で使用された動物からの皮膚であるかも知れない。その皮膚は、新たに入手してもよく、使用まで保存、例えば、冷凍してもよい。
【0020】
別の態様では、組織は、バイオマテリアルを抽出する前に先立ち、殺菌/脱水してもよい。皮膚を使用する場合、使用に先立ち毛髪は皮膚から除去される。滅菌/脱水は組織を
アルコール性溶液と、約2週間まで、または約1週間まで、あるいは約1、約2、 約3、
約4、 約5、 約6、 約7、 約8、 約9、 約10、 約11、約12または約13日間接触させる。
そのアルコールは好適にはエタノールでもよいが、他の直鎖または分岐鎖のC1〜C15アル
コールまたは芳香族アルコールを使用してもよい。これには、メタノール、イソプロパノール、ブタノール、tert-ブタノール、ペンタノール、 シクロヘキサノール、ヘキサノール、チモールまたはベンジルアルコールなどが含まれる。
【0021】
一態様では上記組織は、抽出または滅菌の前に、より小片に切り刻むか、細分化してもよい。組織を挽肉機、粉砕機、フードプロセッサまたは他の機械的もしくは電気的な切断装置を使用することによって切り刻むか、細分化してもよい。ある態様で、該組織は、マイクロメートル〜センチメートルサイズ(例えば1μm〜10cmサイズに)に切り刻む。具体
的には組織を、約1〜約3mmサイズの小片に細分化する。
【0022】
別の態様で上記バイオマテリアルは組織を抽出溶液に浸漬するか、またはちょっと漬けることによって組織から抽出される。代わりの態様として抽出用溶液を組織に噴霧するか、塗布してもよい。一態様において、バイオマテリアルは組織を撹拌することによって抽出してもよい。その場合の溶液は、0〜約2000 rpmの回転速度で撹拌される;例えば約100rpm、約200 rpm、約300 rpm、約400 rpm、約500 rpm、約600 rpm、約700 rpm、約800 rpm、約 900 rpm、約1000 rpm、約1100 rpm、約1200 rpm、約1300 rpm、約1400 rpm、約1500 rpm、約1600 rpm、約1700 rpm、約1800 rpm、約1900 rpmまたは約2000 rpmである。溶液を約700 rpmで撹拌する態様が好ましい。
【0023】
一つの態様において、抽出溶液は酸性溶液である。一態様でその酸性溶液は、酢酸溶液であり、好適には1:1000 酢酸溶液であり、その割合は水についてのものである。その水
が脱イオン水である態様が好ましい。他の酸を使用してもよく、例えば有機酸または無機酸であり、これにはクエン酸、ピルビン酸、乳酸、蟻酸、シュウ酸、ソルビン酸、硫酸、
塩酸、トリフルオロ酢酸、トリフルオロメタンスルホン酸(triflic acid)、リン酸、
ピルビン酸、アスコルビン酸またはプロパン酸(propanoic acid)が含まれる。ある態様で、酸はバイオマテリアルの変性および毀損を防止するために希釈してもよい。使用される酸の濃度範囲は、用いる酸によって変わる。代表的には約0.8M未満の酸が使用されてもよい。例えば酢酸については約0.5Mの酸まで、塩酸については約0.01Mまでの酸を用いる
ことができる。酸に応じて、約0.01M、 約0.02M、 約 0.03M、 約0.04M、 約0.05M、 約0.06M、 約0.07M、 約0.08M、 約0.09M、 約0.1M、 約0.2M、 約0.3M、 約0.4M、 約0.5M
、 約0.6M、 約0.7M または約0.8Mの酸を使用してもよい。酸性溶液は酸性の塩/塩の緩衝液を用いて作成してもよい。ある態様では酸性溶液のpHが、約2〜6、例えば約2、約3、
約4、 約5または約6のpHである。酸性溶液のpHが約4である態様が好ましい。
【0024】
別の態様においてバイオマテリアルはpH中性塩の溶媒、例えば0.1M塩化ナトリウムおよ
び0.05 Tris(pHが約7.5)を用いて撹拌するか、またはしないで抽出してもよい。他の態様では、バイオマテリアルを、酵素を含有する酸性溶液、例えば0.5M 酢酸およびペプシ
ン(1:10 w/w)を用いて撹拌するかまたはしないで、抽出してもよい。
【0025】
ある態様において抽出溶液は、有機酸の緩衝液である。その有機酸緩衝液は、酢酸緩衝液、クエン酸緩衝液、ピルビン酸緩衝液、乳酸緩衝液または蟻酸緩衝液であろう。別の態様では、抽出溶液は、アルカリまたはアルカリ金属塩を含んでいてもよい。一態様では、緩衝液は、約2〜約6のpHに調整されてもよく、例えば、約2、約3、約4、約5または約6のpHが使用されてもよい。その緩衝液は、酢酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、ピルビン酸ナトリウム、水酸化ナトリウム、重炭酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、カリウム塩を用いて調整されてもよい。態様によっては、その抽出溶液がTris-HCl緩衝液またはアルカリ含有緩衝液の系、例えば炭酸カリウム含有-、リン酸含有-、窒素含有-、アンモニウム含
有-、または硫酸塩含有の、適切なpH値の緩衝液でもよい。
【0026】
酵素が抽出溶液に存在するとき、その酵素はタンパク質分解酵素である。そうした酵素の例には、商品名としてESPERASER、ALCALASER、DURAZYMR、SAVINASER (これらはNovo Industries A/S(デンマーク)による) またはMAXATASER、 MAXACALR、 PROPERASER、 MAXAPEMR (以上はGist-Brocadesによる)、またはペプシンが挙げられる。その酵素がペプシンである態様が好ましい。ある態様において、組織は抽出溶液と約10〜約200g組織/リットル抽出溶液の割合で接触させられる。ある態様では組織を抽出溶液と約14日間まで、典型的には約4日間〜約14日間、接触させる。これよりも短い期間またはより長い期間を用いても良く、例えば約30分未満〜数週間である。例えば約1、 約2、 約3、 約4、 約5、 約6、 約7、 約8、 約9、 約10、 約11、 約12、 約13、 約14、 約15、 約16、 約17、 約18、 約19、 約20、 約21、 約22、 約23 または 約24時間である。約2、約3、 約4、 約5、 約6、 約7、 約8、 約9、 約10、 約11、 約12、 約13、 約14、 約15、 約16、 約17、 約18、 約19、 約20 または約21日間である。可溶化されるバイオマテリアルの量は、典型的には撹拌時間の長さとともに増加する。ある態様においてバイオマテリアルは、室温の温度および常圧下で抽出してもよい。別の態様でバイオマテリアルは、約0〜約40℃の温度で抽出される。その温度は、例えば約0、 約1、 約2、 約 3、 約4、 約5、 約6、 約7、 約8、 約9、 約10、 約11、 約12、 約13、 約14、 約15、 約16、 約17、 約18、 約19、 約20、 約21、 約22、 約23、 約24、 約25、 約26、 約27、 約28、 約29、 約30、 約31、 約32、 約33、 約34、 約35、 約36、 約37、 約38、 約39 または約40℃である。ある態様で、バイオマテリアルは約2〜約6のpHで抽出されてもよい。具体的には抽出の間のpHは約2、 約3、 約4、 約5 または約6である。pHが約4である態様が好ましい。
【0027】
本発明に基づき、抽出後の、抽出バイオマテリアルを含有する溶液がその後に分離される。一つの態様において、その溶液を遠心分離して、上清を固形残渣から分離してもよい。一つの態様において、上記溶液は遠心回転速度に比例する長さである所定期間、遠心分離して分離しても良く、分離が達成されるまで数分間〜数時間の範囲で遠心分離される。例えば該溶液を約5、 約10、 約15、 約30、 約45分間、あるいは約1、 約2、 約3時間またはそれ以上の時間、遠心分離する。該溶液を少なくとも約2000rpmから、装置の最大スピード、例えば 約60000rpmまでの回転速度で遠心分離してもよい。 例えば該溶液を約2000、 約 3000、 約4000、 約5000、 約6000、 約7000、 約8000、 約9000、 約10000、 約20000、 約30000、 約40000、 約50000 または 約60000rpmのスピードで遠心分離してもよい。例えば該溶液は、約3時間、約4000 rpmで遠心分離してもよい。ある態様で上清は透明なゼリー様溶液を含んでもよい。
【0028】
ある態様で、遠心分離に先立ち溶液が極めて粘稠である場合に、該溶液は当初の混合溶液に使用された酸と同一のタイプおよび濃度の酸、例えば、100mM 酢酸を追加して希釈し
てもよい。追加的に酸を添加することは流れをより扱いやすいように改善するであろう。あるいは異なる酸性溶液を添加してもよい。
【0029】
別の態様において抽出バイオマテリアルを含有する溶液を、他の化学的分離方法または物理的分離方法によって分離してもよい。具体的には該溶液をろ過により分離してもよく、これによって可溶化バイオマテリアルは、濾液中に含まれることになるだろう。
【0030】
本発明に基づき、分離後に分離された溶液は、次いでバイオマテリアルが単離され得るのに充分な速さで凍結乾燥される。その速さは一態様では、溶媒が実質的にすべて、またはすべて昇華させられるのに充分な速さであり、後には精製された生成物残渣としてバイオマテリアルが残される。ある態様では、凍結乾燥する前に上清表面上のすべての脂質または他の不純物が除かれる。遠心分離の間に、脂質が、すくい取るかまたはデカンテーションなどの物理的手段によって除かれる層中に分離される態様もある。凍結乾燥は、乾燥した泡が形成され、サンプル中にある実質的にすべての水が昇華されるまで続行されてもよい。乾燥した泡は、白色であろう。
【0031】
一つの態様において、この凍結乾燥の工程は、最初に平衡化段階を含んでもよく、その際、コラーゲン混合物は約10〜約30℃の温度に保持される。例えば約15、約20または約25℃で、0〜約60分間までの時間、例えば約10、約15、約20、約25、約30、約35、約40、約45、約50または約55分間、保持される。
【0032】
前記コラーゲン混合物は、次いで約1℃/分未満〜約50℃/分の段階的速度範囲、例えば
約0.1、 約0.5、 約1、 約5、 約10、 約15、 約20、 約25、 約30、 約35、 約40 また
は 約 45℃/分の段階的速度で、約-5℃〜約-80℃の範囲の最終温度まで、例えば、約-10
、 約-20、 約-30、 約- 40、 約-50、 約-60 または 約-70℃で適切に冷却される。
【0033】
ある態様で、その段階的速度は約5℃/分が好ましい。そうした段階的速度は単離される生物物質に依存する形で設定してもよい。コラーゲンが単離される場合、その冷却用の段階速度は、0.5〜5℃/分の範囲にある。しかし不純物の量および分布に応じてより早いま
たはより遅い速度を使用してもよい。
【0034】
上記の温度は、最終温度で約5分間またはそれより長く保持してもよい。例えば、約12
時間である。その時間の長さは溶液の容量およびサイズに依存する。その時間の長さは、該溶液が完全に凍結するのに充分であるようにされ、最終の温度は、凍結溶液のいたる所で同一のレベルに平衡化するように適切なものとされる。使用する凍結乾燥機は、凝結温度が約0℃〜約-105℃の間に適切になるように、例えば約-40〜約-75℃の間に設定される
。使用する凍結乾燥機の減圧は、約4.58〜約0.005 torr (約0.61kPa〜約0.00067kPa)、典型的には約0.15〜約0.035 torr (約0.012〜約0.0047 kPa)となるまで吸引される。前記の泡の表面に分離して出て来た残存不純物は、いずれも不純物層を物理的に分離することによって、精製コラーゲンから適切に除かれる。抽出されたバイオマテリアルは、凍結乾燥する前または後において、EDCといった架橋剤を使用して架橋してもよい。
【0035】
本発明は、好ましい態様において少なくともバイオマテリアル抽出物の抽出および精製方法を提供する。この方法は苛烈でない薬剤または過酷でないプロセス工程を用いて、従来の方法よりもよりも工程が少ない。
【0036】
本発明において、商業的品質のコラーゲンをより低コストで大量に製造するよう抽出条件は最適化されている。その方法は、ある態様では凍結する前にコラーゲンを沈殿させるために塩を添加しないし、コラーゲン抽出を促進するためにプロテアーゼまたは酵素を添加する必要もない。
【0037】
現在商業的に販売されているコラーゲンと等価な品質のコラーゲンは、精製方法として凍結乾燥を使用し、本明細書で開示される本発明方法によって抽出することができる。凍結乾燥は、コラーゲンの物理的構造を破壊しない低温の精製方法である。凍結乾燥を使用することにより、産物はコラーゲンの化学構造に対する修飾をほとんど受けない。過酷な化学的溶媒および50〜60℃範囲の温度を避けているためである。本発明の方法は、従来法よりも費用がかからない。特にインビボ実験で生じる既存の副生物を使用するために安くつく。本発明方法は容易にスケールアップすることができる。
【0038】
コラーゲンを得る従来の方法は、コラーゲンを精製するために本発明に開示された様式では凍結乾燥を使用しない。本発明は本発明の方法によって調製されるバイオマテリアル抽出物にも関する。
【0039】
本発明の産物は、本明細書の「背景技術」で言及される方法および応用において使用することができる。本発明の産物は、化粧品、医学、医薬、食品または獣医学の応用において使用されてもよく、局所的に、 経静脈的に、筋肉内に、血管内に、腹腔内に、皮下に
または経口的に投与することができる。
【0040】
本発明の産物は、新規材料を被覆するための付加物として使用でき、あるいはより生体適合性の物質材料、例えば軟組織の代替物、外傷の被覆を作るための材料に取込まれるものとして、薬物送達の基剤または骨または軟骨の再生として、または細胞成長のための基質として使用できる。他の応用には、生物的な被覆/フィルム/膜、フィラー/充填剤、止
血剤、ファイバー、繊維の網、腱/靭帯/神経の装置の管、注入システム、化粧品、人工皮膚、治療用包帯、骨再生用の材料、支持足場、縫合糸、動脈代替物、 硝子体代替物、歯
内治療などが挙げられる。
【0041】
本発明の産物は、担体、スポンジまたはフリース(fleece)として、クリーム、軟膏剤、フィルム、バッグ、繊維、複合剤、懸濁剤、錠剤、カプセル剤、遅延放出カプセル剤、インプラント、フォーム、活性成分の担体、経静脈剤、経腸剤、点眼薬、ナノカプセルの製造において使用してもよい。
【0042】
上記バイオマテリアルは、別の活性のある物質、例えば抗炎症剤、抗ヒスタミン剤、抗アレルギー剤、消毒薬、抗菌薬、成長因子、抗脱水化合物、消毒薬、あるいは医学または獣医学の利用に好適である他の化合物と一緒に使用してもよい。
[実施例]
図面を参照しながら、以下の実施例により本発明をさらに説明する。これらの実施例は、本発明の範囲をいかなる意味でも限定するようには解されるべきではない。
【実施例1】
【0043】
インビボ研究で犠死させた動物(ラットまたはウサギ)から新たに得た剃毛皮膚を、急速に凍結しディープフリーザーに使用するまで保存した。その皮膚を1〜3mmの小片に細分し、該皮膚を消毒して脱水するために、95%アルコール溶液に2週間もの間、浸漬した。
該皮膚を1:1000 酢酸溶液を有するビーカーに入れて、4〜14日間撹拌した。ついでその溶液を、4,000 RPMで3時間、遠心分離し、透明なゼリー様溶液を固形残渣から分離した。遠心分離する前にその溶液が極めて粘稠であるときには100mM 酢酸を追加して溶液を希釈した。上清を凍結乾燥用の容器に移した。凍結乾燥するまえに上清表面にある脂質をすべて除去した。このことについて、脂質は遠心分離の間に一つの層に分離して来て、掬い取りまたはデカンテーションといった物理的手段により除去することができる。凍結乾燥を上記の段階的速度で実施し、乾燥した白い泡を得た。残存している不純物は、いずれもその泡表面から分離されて来て、不純物の層から物理的分離によって除去することができた。
【実施例2】
【0044】
本発明方法によって生成される産物が、物質特性において市販品質のタイプ1コラーゲ
ンに匹敵するかどうかを調べる試験を実施した。FTIR(フーリエ変換赤外分光法)を、本発明の産物および市販品質のコラーゲン、コラーゲン-タイプ1-ウシ腱-シグマファイバー(シグマ社から供給)について実施した。FTIRの結果が図1に示されている。加えて本発明
の産物が市販品質のコラーゲンと同様にして反応するかどうかを試験するために、化学的架橋反応を本発明の産物および市販コラーゲンの両者に行なわれた。その架橋の機構は次のように提案されている。
【0045】
l-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド/N-ヒドロキシスクシンイミド(EDC/NHS)架橋機構
【0046】
【化1】



結果的に生じる架橋の産物をフーリエ変換赤外(FTIR)分光法によって調べた。FTIR分光法の結果が、図1に示されている。この図1から本発明の産物のFTIRプロフィールは、市販コラーゲンのそれに一致することがわかった。加えて架橋反応は、本発明の産物および市販コラーゲンのFTIRスペクトルいずれにも同様に影響を及ぼした。図1は、本発明のコラ
ーゲン産物の化学構造が市販コラーゲンのそれと同等であることを示している。
【実施例3】
【0047】
細胞培養の基礎的試験を実施した。細胞の形態を光学顕微鏡で観察した。細胞の増殖速度および代謝活性を、MTT(黄色テトラゾリウム)細胞増殖アッセイを使用して測定した。
細胞培養の基礎的試験から、本発明の産物は細胞に対して毒性はなく、また市販のコラーゲンに匹敵する程度に細胞増殖を支持することができることを示した。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明は、コラーゲンのようなバイオマテリアルの抽出方法に関する。本発明の産物は
、化粧品、医学、医薬、食品または獣医学の分野で利用できる。本発明の他の態様は、本明細書で開示された本発明の実施を考慮すれば当業者には明らかなことである。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】図1は、架橋前、架橋後における本発明のコラーゲン産物のフーリエ変換赤外スペクトルを、架橋されていない市販品および架橋された市販品のコラーゲンとともに示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
組織を抽出溶液と接触させてバイオマテリアルを溶液中に抽出し、該バイオマテリアル抽出物を含有する溶液を分離し、ならびにその分離溶液を、バイオマテリアルを単離させことができる速度で凍結乾燥することを含む、組織からのバイオマテリアル抽出物の単離方法。
【請求項2】
前記組織が胎児組織、皮膚/真皮組織、筋肉または結合組織である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記組織が動物の皮膚である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記の動物の皮膚がラットまたはウサギの皮膚である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記バイオマテリアルが、成長因子;フィブロネクチン、ラミニン、ビトロネクチン(vitronectin)、 テナシン(tenascin)、エンタクチン(entactin)、トロンボスポンジン(thrombospondin)、エラスチン、ゼラチン(gelatin)、コラーゲン、フィブリレン(fibrillen)、メロシン(merosin)、アンコリン(anchorin)、コンドロネクチン(chondronectin)、リンクタンパク質、骨シアロタンパク質(bone sialoprotein)、オステオカルシン、オステオポンチン、エピネクチン(epinectin)、ヒアルロネクチン(hyaluronectin)、ウンデュリン(undulin)、エピリグリン(epiligrin)および カリニン(kalinin)、といった細胞外マトリックスタンパク質;デコリン(decorin)、デルマチン硫酸プロテオグリカン(dermatin sulfate proteoglycans)、ケラチン、ケラチン硫酸プロテオグリカン(sulfate proteoglycans)、アグレカン(aggrecan)、コンドロイチン硫酸プロテオグリカン、ヘパリン硫酸プロテオグリカン、ビグリカン(biglycan)、シンデカン(syndecan)、ペルレカン(perlecan)、セルグリシン(serglycin)といったプロテオグリカン;、ヘパリン硫酸、コンドロイチン硫酸、デルマチン硫酸(dermatin sulfate)、ケラチン硫酸またはヒアルロン酸といったグリコサミノグリカン(glycosaminoglycans);ヘパリン、デキストラン硫酸、キチン、アルギン酸といった多糖類、ペクチン、キシラン(xylan)、ポリビニルアルコール、サイトカイン、グリコシド、糖タンパク質、ポリピロール、アルブミン、 フィブリノーゲン、またはリン脂質からなる群より1つまたはそれ以上選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記バイオマテリアルがコラーゲンである、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記コラーゲンがタイプ 1コラーゲンである、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記抽出溶液が、酸性溶液、pHが中性の溶媒、有機酸緩衝液、Tris-HCl緩衝液またはアルカリ含有緩衝液システムである、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記酸性溶液が酢酸溶液である、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記のバイオマテリアル抽出物を含有する溶液が遠心分離またはろ過によって分離される、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記の凍結乾燥が、l℃/分未満〜50℃/分の冷却速度で実施される、請求項1に記載の
方法。
【請求項12】
前記バイオマテリアルがコラーゲンであり、その凍結乾燥が0.5℃/分〜5℃/分の冷却速度で実施される、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記の抽出されたバイオマテリアルは、凍結乾燥の前または後にさらに架橋される、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
分離された脂質のいずれも除去することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
組織を抽出溶液と接触させてバイオマテリアルを溶液中に抽出し、該バイオマテリアル抽出物を含有する溶液を分離し、ならびに該分離溶液を、バイオマテリアルを単離させことができる約0.1℃/分〜50℃/分の速度で凍結乾燥することを含む、組織からのバイオマ
テリアル抽出物の単離方法。
【請求項16】
請求項1または請求項15の方法によって調製されたバイオマテリアル抽出物。

【図1】
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【公表番号】特表2008−512115(P2008−512115A)
【公表日】平成20年4月24日(2008.4.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−531137(P2007−531137)
【出願日】平成16年9月9日(2004.9.9)
【国際出願番号】PCT/SG2004/000289
【国際公開番号】WO2006/028415
【国際公開日】平成18年3月16日(2006.3.16)
【出願人】(503231882)エージェンシー フォー サイエンス,テクノロジー アンド リサーチ (179)
【Fターム(参考)】