説明

組織を修復するための固定具

【課題】周辺組織で血管の形成を促す血管新生因子を放出する医療具、または、周辺組織で組織の修復を促し、血管の拡張を促す因子を放出する固定具を提供する。
【解決手段】脈管形成材料;インビボで分解して脈管形成材料を形成しうる脈管形成の前駆体材料;および脈管形成材料を生産しうる生体組織工学的な材料の少なくとも一つを含む、組織を修復するための固定具であって、脈管形成材料が、以下の物質:α−モノブチリン、α−ジブチリン、β−ジブチリン、トリブチリンおよびヒドロキシブチレートの一つ以上から選択される、酪酸ベースの化合物を脈管形成材料として使用する固定具。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、組織の修復を改善する固定具の提供および該具の医学的な治療での使用に関する。特に、本発明は、半月板軟骨、関節軟骨、靭帯、骨および虚血組織のような限られた組織あるいは血管が供給されていない組織であり、かつ脈管形成が良好な組織の修復にとって好ましいか、または予め必要な組織の固定に関する。
【背景技術】
【0002】
広範囲の多様な固定具が、侵襲的な医学的な治療で使用される。これら具は、手術およびその他の医学的な治療の間および後に、組織の修復における再結合、再付着、保持、それ以外に供するために使用されるであろう。
例えば、手術後の医療現場の人々のねらいは、治療部位全体にわたる素早い治癒と組織の修復を誘発することである。組織修復の促進の因子は、修復細胞およびその他の因子が該当する組織を透過できる大きさである。このことは、換言すると、血管が部位の内部および周辺で形成できる大きさに依存している。
【0003】
先に存在する血管から新たな血管を形成することは、脈管形成として知られている。脈管形成は、人体の発育、特に胚発育中に、欠くことができない過程である。ヒトの胚の発育は、脈管形成の過程で、血島の血管組織への融合で起こり、次いで新たな血管が、脈管形成の間に形成された血管から発芽する脈管形成を開始する。しかし、脈管形成は、通常体が大人になると消失し、女性生殖系を除いて、大人での脈管形成は、損傷または炎症後に組織の修復の間に主に起こり、一方でそれは腫瘍の成長、慢性関節リュウマチ、乾蘚および糖尿病のような成人の病態(adult pathological condition)とも関係している。
【0004】
脈管形成に関与する因子細胞(principle cell)のタイプは、微小血管内皮細胞である。損傷後、および/または血管新生因子に応答して、親血管における内皮細胞の基底膜が分解され、内皮細胞プロテアーゼにて媒介される過程を示す。一旦基底膜が分解されると、内皮細胞は血管周辺の空間に移動する。新芽基部の細胞は増殖し、移動した細胞に置き換わる。そして、新たな基底膜が形成され、2つの接合芽は互いに融合し、ループを形成する。
その後、内腔が形成し、そして血液が流れ始める。
【0005】
内皮細胞は、新たな微小血管の網の形成に必要な情報の全てを発現することができるため、脈管形成に関与する中心的な細胞のタイプである。これは、新たな血管を形成するために、多くの様々な細胞のタイプと共同して作用することによって成し遂げられるようである。
一方、いかなる理論によっても定めつけられるのは望まないが、これら他の細胞のタイプは、内皮細胞を含む血管壁の主要な細胞成分の急増および移動を刺激する増殖因子およびサイトカインを発現することで、脈管形成を促すようである。
【0006】
治療的脈管形成は、血管新生因子、またある場合には虚血/無血管(avascular)組織で血管の発達を増強または促すこれら因子をエンコードする遺伝子の臨床的な使用である。治療的脈管形成用の理想的な薬剤は、安全で、有効で、安く、そして投与が容易であることであろう。
所定期間調節して、血管新生因子を与えることは、非常に望まれることでもある。
血管新生因子は、以下の先行技術文献から知られている:
WO 90/11075、EP 0 295 721およびWO 99/53943。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】WO 90/11075
【特許文献2】EP 0 295 721
【特許文献3】WO 99/53943
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
周辺組織で血管の形成を促す血管新生因子を放出する医療具を提供することが本発明の目的である。
周辺組織で組織の修復を促し、血管の拡張を促す因子を放出する固定具を提供することが、本発明のさらなる目的である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
そして、本発明の一つの観点に従えば、脈管形成材料;インビボで分解して脈管形成材料を形成しうる脈管形成の前駆体材料;および脈管形成材料を生産しうる生体組織工学的な材料の少なくとも一つからなる組織の修復のための固定具が提供される。
本発明のこの観点の第一の実施の形態において、固定具は、脈管形成材料を生産しうる生体組織工学的な材料からなる。
本発明のこの観点の第二の実施の形態において、具を形作る材料は、少なくとも部分的に生体吸収性であってもよい。
【0010】
この中での使用する用語「脈管形成材料」は、一つ以上の血管新生因子からなる材料のみならず、予め存在する血管材料の血管拡張を誘導することで血液の供給を刺激する材料をも含むことが理解されるべきである。
この中で使用する用語「血管新生因子」は、直接または間接的に、脈管形成を促す材料、例えばインビボで分解して脈管形成材料を形成しうる材料を含むことが理解されるべきである。
【0011】
この中で使用する用語「脈管形成」は、既存の血管からの新たな血管の成長を含むことが理解されるべきである。
上述したように、脈管形成材料は一つ以上の血管新生因子からなる。
【0012】
本発明の範囲内にある血管新生因子の第一のクラスは、自己、同種、異種、組換えおよび合成の形態を含む脈管形成ペプチド成長因子からなる。このクラスは、血管内皮増殖因子ファミリー、特にVEGF 121、165、189および206;繊維芽細胞増殖因子ファミリー、特にFGF-1、FGF-2、FGF-7(ケラチン生成細胞増殖因子);形質転換増殖因子ファミリー(TGF-α、-β);血小板由来増殖因子、特にPDGF-AA、PDGF-BBおよびPDGF-AB;血小板由来内皮細胞増殖因子(PD−ECGF);低酸素誘導因子−1(HIF-1);分散因子(SF、肝細胞増殖因子またはHGFとしても知られている);胎盤由来増殖因子(PIGF)-1、-2;腫瘍壊死因子α(TNF-α);ミドカイン(midkine);プレイオトロフィン(pleiotrophin);インスリン様増殖因子−1;上皮細胞増殖因子(EGF);内皮細胞増殖因子(ECGF);内皮細胞刺激血管新生因子(ESAF);結合組織増殖因子(CTGF);CYR 61;アンギオゲニン;アンギオトロフィンからなる。
【0013】
本発明の範囲内にある血管新生因子の第二のクラスは、これらの材料の自己、同種、異種、組換えおよび合成の形態を含むトロンビン、ヘパリンのような血餅分解産物からなる。
本発明の範囲内にある血管新生因子の第三のクラスは、
・酪酸(ブタン酸C4H8O2)およびナトリウム、カリウム、カルシウム、アンモニウムおよびリチウムの塩を含む酪酸塩
・酪酸の誘導体および酪酸残基を含むポリマー
・α−モノブチリン(1−グリセロール ブチレート、1−(2,3ジヒドロキシプロピ ル)ブタノエート、C7H14O4
・α−ジブチリン(1,3−グリセロール ジブチレート、1,3−(2ヒドロキシプロ ピル)ジブタノエート、C11H20O5
・β−ジブチリン(1,2−グリセロール ジブチレート、1,2−(3ヒドロキシプロ ピル)ジブタノエート、C11H20O5
・トリブチリン(グリセロール トリブチレート、1,2,3−プロピル)
トリブタノエ ート、C15H26O6
・ヒドロキシブチレートおよびヒドロキシ酪酸残基を含むポリマー
を含む酪酸ベースのものからなる。
WO 90/11075に記載されている化合物も、本発明の範囲に特に含まれる。これらは、一般式
【化1】

を有している
・(XはO、NH、SまたはCH2であり、そしてR1は、飽和あるいは不飽和のC2-10のアルキルまたはアシルであり、これらは、置換されていないか、あるいは脈管形成の活性を妨げない一つ以上の置換基で置換されており、その置換基はOH、OR、SH、SR、NH2、NHR、NR2(各Rはそれぞれ低級アルキル基(C1-4)である)およびハロゲンからなる群から選択され、各R2およびR3は、それぞれH、PO3-2、あるいは前述のアルキル基あるいはアシル基であり、また式1において、R2およびR3は、一緒になって、アルキレン分子であるか、あるいはOR2およびOR3は、エポキシを形成し、その量は、上記対象物において脈管形成を刺激するのに有効な量である。)
【0014】
・(R2およびR3はアシル基またはHである。)
・(上記アシル基はCH3(CH2n1CO1(n1は0〜8の整数)、またはネオペントイルあるいはシクロヘキシルカルボニルである)
・(式1の化合物において、R2およびR3は、一緒になって
【化2】

である(n2は0〜7の整数である))
・上記の方法(R2およびR3の一つはHであり、それ以外はアルキル基(C1-10)で ある)
・上記の方法(XはOである。)
・上記の方法(R1はアシル基(C2-6)である。)。
【0015】
本発明の範囲内にある血管新生因子の第四のクラスは、炎症媒介物からなる。これらの材料は、組織炎症を促進し、換言すると、脈管形成を促進する。このクラスに含まれるのは、腫瘍壊死因子α(TNF−α);プロスタグランジンE1およびE2;インターロイキン1、6および8;窒素酸化物である。
いずれのクラスにも分類されない異なるその他の血管新生因子が知られている。この群に含まれるのは、ヒアルロナン、上皮小体ホルモン、アンギオポイエチン1、デル−1(del-1)、エリスロポイエチン、ファス(CD95)、フォリスタチン、マクロファージ移動抑制因子、単核細胞化学誘引タンパク−1、トランスフェリンおよびニコチンアミドである。
【0016】
本発明の固定具は、インビボで分解して脈管形成材料を形成しうる脈管形成の前駆体材料を適度に含む。本発明による脈管形成の前駆体材料は、自己、同種、異種、組換え、ならびに合成の形態を含むフィブリンおよびヒアルロン酸を含む。好ましくは、脈管形成の前駆体材料はフィブリンであり、有益な脈管形成特性を有することが判明したフィブリンの分解フラグメントにはフラグメントDおよびEが含まれている。
【0017】
または、本発明の固定具は、脈管形成材料を生産しうる生体組織工学的な材料からなってもよい。本発明の範囲内にある生体組織工学的な材料は、血管新生因子の第一のクラス(上記参照)内に含まれる血管新生因子を含む脈管形成材料を生産しうる材料からなる。本発明による生体組織工学的な材料は、DERMAGRAFT(登録商標)およびTRANSCYTE(登録商標)のような専売製品を含む。
【0018】
脈管形成材料は、該当する哺乳動物にとって治療上有効な量で存在するのが有利である。脈管形成材料は、ヒトにとって治療上有効な量で存在するのが好ましい。この中で使用する用語「治療上有効な量」は、脈管形成を引き起こすか、またはその率を高めるのに十分であることを意味すると理解されるべきである。治療上有効な量を構成するものは、脈管形成材料内に含まれる血管新生因子に対して特有である。例えばVEGFおよびFGF−2の場合、固定具は具1mgあたり50μgまで、好ましくは25μg/mg未満の因子からなるべきである。
【0019】
用語「固定具」は、組織の修復に係る再結合、再付着、保持またはそれ以外に使用されるあらゆる具を含む。すべてを網羅していないが、そのような具のリストは、縫合糸;手術用のアロー、ステープル、ダート、ボルト、ねじ、釦、接極子、釘、リベット;または有棘手術具(barbed surgical devices)からなる。本発明の固定具は、靭帯と骨または腱と筋肉のような異なるタイプの組織の境界面で、脈管形成を促すのに使用されるカフのような強化具も含む。
【0020】
そこで、本発明による具の内部または上部に脈管形成材料を組み込む方法が後に続く:
固定具の製造後、本発明による固定具を脈管形成材料に浸漬してもよい。
浸漬は、脈管形成材料が固定具の全般にわたって分散されるようにしてもよい。脈管形成材料の分散は、均一または不均一であってもよい。後者の場合、固定具は、高濃度の脈管形成材料を含む局所的な領域からなるであろう。好ましくは、浸漬は、脈管形成材料が、少なくとも、その外表面の少なくとも一つから具内に拡がる領域で存在するようになる。さらに好ましくは、浸漬は、脈管形成材料が固定具の全体にわたって分散されるようになる。脈管形成材料が具にわたって均一または不均一に分散されるかどうか、および不均一な場合に分散プロフィールがどんな形体を有するかは、得られる効果に依存しているようである。特に、分散プロフィールは、脈管形成材料の周辺組織への放出プロフィールに強く影響を及ぼすであろう。
【0021】
本発明に従って使用されるであろう浸漬方法は、適切には真空下でのディッピング、ソーキングを含む。
第2の実施の態様において、脈管形成の因子、材料または前駆体は、その結果、固定具の主要な繊維に物理的に組み込まれる。それゆえ、適切には、脈管形成材料は、固定具の繊維内で不連続な領域を構築するようである。適切には、脈管形成材料の糸またはフィラメントは、固定具の主要な繊維からなる繊維質様あるいはフィラメント様材料と一緒に紡がれてもよいし、また織り込まれてもよい。例えば、脈管形成材料の糸は、縫合糸を生産するのに用いるポリエチレン テレフタレート繊維と編まれてもよい。一方、脈管形成材料は、固定具の主要な繊維の材料と一緒に押し出しされてもよい。
【0022】
第3の実施の態様において、固定具の製造後、脈管形成材料を固定具の外表面の少なくとも一つに直接コートしてもよいし、またはコントロール下に放出されうるキャリアーに組み込んでもよく、そしてこのようにして形成された混合物を固定具上に直接コートしてもよい。
好ましくは、脈管形成の因子、材料または前駆体が、固定具内で、別々の成分あるいは領域の上にコートされるか、またはその成分あるいは領域として形成される場所、それらは拡散メカニズムによってコントロールされる放出条件下で、その血管新生因子および疎水性ポリマーからなるモノリシックマトリクスから送達される疎水性ポリマーで第一に処方されてもよい。従って、例えば水混和性または水溶性の脈管形成材料を、自然界で疎水性であるポリマーマトリクスに組み込むことで、脈管形成材料の放出率をコントロールすることができる。水は、その材料を可溶性にすることが必要であり、それによって、その材料を事実上、放出させるのである。ポリマーマトリクスの疎水性の程度は、水−浸透率、およびそれによる脈管形成材料の放出率をコントロールする。
【0023】
好適には、脈管形成材料を、酢酸ビニル残基を含むポリマーと混和してもよい。
血管新生因子のコントロール下の放出のための製剤を製造する目的で使用されうる疎水性マトリクスポリマーとしては、エチレン−酢酸ビニル(EVA)コポリマーが好ましい。
EVAポリマーの酢酸ビニルの含有量を変化させることは、ポリマーの疎水性に影響を与え、それによって血管新生因子の放出率を変えさせる。キャリアーマトリクスの酢酸ビニルの含有量を減少させることは、ポリマーの疎水性および結晶性を増加させ、多孔性ポリマーを少なくし、その結果、緩和な放出速度になる。
【0024】
コポリマー組成物(マトリクス疎水性)、血管新生因子負荷(loading)およびマトリクスコーティング(エチレン−酢酸ビニル/血管新生因子マトリクスをカプセル化することで放出を遅らせる)のような構成パラメータを変え、血管新生因子の放出特性を変化させることができる。
EVAコポリマー製剤は、適切な水溶性または水混和性を有するあらゆる脈管形成材料と一緒に使用してもよいが、好ましい製剤は、EVAコポリマーマトリクス中で酪酸を含む。
【0025】
脈管形成材料として酪酸(またはその塩)が使用されるが、その使用は、今まで実証されていないと思われる。これについてその理由は2つある可能性がある。第1は、酪酸が特に刺激臭を有し、使用に好ましくないことである。第2の理由は、酪酸は非常に急速に生体分解されるので、それが分解されて無効の代謝物を生じる前に、脈管形成を効率よく促すことができないという見解である。
我々は、エチレン−酢酸ビニルを使って、酪酸またはその水溶性/水混和性の塩を形成することで、言及されている欠点が除かれること見出した。脈管形成材料を、悪臭とはならない量で、コントロールされた用量率で送達することができる。
【0026】
ヒドロキシ酪酸ならびに誘導体、それらの塩ならびにポリマー、およびモノブチリンのようなブチリン誘導体を、一定の疎水性残基量を含むポリマーを使って処方してもよい。
その結果、本発明の別の観点に従って、脈管形成を促すのに十分な治療上有効な量で、エチレン酢酸ビニルコポリマーおよび水溶性または水混和性な脈管形成材料またはその前駆体の混合物を含む組成物が提供される。
【0027】
好ましくは、組成物は、脈管形成を促すのに十分な治療上有効な量で、エチレン酢酸ビニルコポリマーマトリクスと、酪酸またはその水溶性あるいは水混和性の塩の混合物を含む。
本発明の組成物に適した酪酸、またはヒドロキシ酪酸の水溶性あるいは水混和性の誘導体は、ナトリウム、カリウム、カルシウム、アンモニウムおよびリチウムの塩からなる。
エチレン酢酸ビニルコポリマーは、適切には脈管形成材料の15重量%まで、より適切には10重量%まで混和されるかブレンドされるであろう。
【0028】
ポリマーマトリクスを構成するエチレン酢酸ビニルコポリマーは公知の材料であり、それ自体公知の従来の方法で調製してもよい。コポリマーの酢酸ビニルの含有量は、血管新生因子の好ましい放出率に従って、コポリマーの5〜50重量%の適切な範囲でよい。酢酸ビニルの含有量は、適切には約8重量%〜40重量%の範囲である。さらに適切には、約35重量%までの酢酸ビニルの含有量が血管新生因子の治療上有効な量の除放性を提供するであろう。
【0029】
インビトロでの研究は、約10重量%の血管新生因子と8〜35重量%の酢酸ビニル含有量のエチレン酢酸ビニルコポリマーを有する組成物が、血管新生因子、特に酪酸を1日1cm3あたり1〜450μg/mlの治療範囲内で21日間まで放出するであろうことを示した。
血管新生因子を含有するEVAコポリマーを、あらゆる固定具をコーティングするものとして使用することができる。
【0030】
固定具の全ての外表面上を、脈管形成材料でコーティングしてもよい。用いうるコーティング方法は、ディップコーティングおよびスプレーコーティングを含む。好ましくは、固定具を、脈管形成材料でディップコートする。
本発明は、さらに本発明による具を、組織欠損にインプラントする工程からなる傷害を受けた組織を修復するための方法を提供する。
好ましくは、固定具がインプラントされる組織は、無血管組織である。さらに好ましくは、組織は半月板軟骨、関節軟骨、靭帯、骨または虚血組織である。本発明の固定具を、異なるタイプの組織の境界面、例えば靭帯と骨との間または筋肉と腱との間で使用してもよい。
本発明は、以下の実施例にて証明されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】図1は、半月板軟骨の赤色−白色領域に沿って切った断裂部を図示している。
【図2】図2は、インビボで剖検6週間後の処置された半月板を用いた、バイオメカニカル評価を図示している。
【図3】図3は、ポリマーの酢酸ビニル含有量を変えると、酪酸の放出がコントロールされることを明確に示す図である。
【図4】図4は、90% 以上の酪酸が、最初の4日以内で放出されたことを示す図である。
【実施例】
【0032】
[実施例1]
非吸収性で、それゆえ脈管形成に十分な効果をもたないO Ti−Cron(登録商標)編上げ縫合糸を、酪酸またはモノブチリンのいずれかで浸漬する。酪酸浸漬縫合糸は、縫合糸1cmあたり酪酸25〜3000ng、または1日縫合糸1.4mgあたり25〜3000ngの範囲内にある放出率を21日間与えた。縫合糸を、酪酸の貯蔵液でそれらを少なくとも7日間ソーキングすることで浸漬させた。モノブチリン浸漬縫合糸は、縫合糸1cmあたりモノブチリン25〜3000ng、または1日縫合糸1.4mgあたり25〜3000ngの範囲内にある放出率を7日間与えた。手術の前に、縫合糸を、貯蔵液から取り出し、手術綿棒で2回拭いた。
【0033】
Blue Faced Leicester Cross Suffolk Tubsを、この実施例で使用した。これは、大きな長骨(long bones)を有するかなり強壮な羊の品種である。解剖学上、羊の骨は、ヒトの骨に極めて近く、骨植接置換および治療のためのモデルとして一般に使用されている。
【0034】
縫合糸をインプラントする外科的な手法は、標準的な関節切開術で使用される半月板に影響を及ぼす。解剖用メスを使って、総厚8mmの縦方向の断裂を、内側半月板の一つの赤色−白色領域(red-white zone)で作り出した。
【0035】
そして、(i)前記のような酪酸で浸漬されたO Ti−Cron縫合糸、あるいは(ii)前記のようなモノブチリンで浸漬されたO Ti−Cron縫合糸、または酪酸あるいはモノブチリンを含まない対照の無処理O Ti−Cronを使って、断裂を縫合した。用いた縫合手法は、水平な内外ジグザク縫いである。そして、関節を塞ぎ、動物を回復させた。
【0036】
動物を、その後、すぐに関節における重量を測るのに供し、そして6週時点で終えた。
添付図表のうちの図1は、前記のようにして作製した半月板軟骨の赤色−白色領域に沿って切った断裂部を図示している。図1はヘマトキシリンおよびフロキシン染色組織学的切片を示しており、修復した断裂部を点線(1)にて大まかに示しており、これは赤色−白色断裂である。縫合糸を切片(3)で観察することができる。内皮細胞および新たに形成された血管が移動する形態における脈管形成(2)を、断裂部の治癒がみられるのと同じく観察することができる。
【0037】
それは、この実験の成功の最適な指標である脈管形成にて得られる形態であり、前述のように、脈管形成は既存の血管からの新しい血管の形成である。これは、赤色領域で、脈管形成が既存の血管から外部へ放出状態で観察できるだけであり、事実、観察されるものは移行領域に沿って赤色領域から白色領域へと進む新しい血管の安定した前端(2)である。
【0038】
図2を引用して、バイオメカニカル評価を、インビボで剖検6週間後の処置された半月板で行った。試験は、半月板を周囲で断裂し、そして修復した領域の平均断裂負荷ならびに平均断裂エネルギーを測定することに関与したRoeddeckerら(1994)にて行われた実験を基にした。
最初に、約5〜10mmの切開口を、各々の半月板の後角(posterior horn)に作製し、2つの「フリーな末端」を作った。この切開口を、半月板の修復領域にそろえ、そして接触するように位置づけした。半月板の完全に修復した領域を同定することは、時として困難であり、そのため切開口は最善の判断によって位置決めされた。修復を開始するのに用いた縫合糸を、半月板の周辺で露出させ、そして縫合糸の結び目を除去した。
【0039】
試験を、Instron 5566材料試験具を使って行った。各々の半月板の「フリーな末端」を、鉗子グリップを使ってつかみ、そして、試験を通して100N容量負荷細胞を、生じた断裂負荷を測定するのに使用した。それが終了すると、入力/排出(force/displacement)曲線から、平均断裂負荷を2つのカーソルを使って同定し、そして入力/排出曲線のこの同じ領域の下で、断裂エネルギーを自動的に算出した。
【0040】
3つの対照の半月板を、修復が未処理の縫合糸で開始された部位で試験し、3つの半月板を縫合糸が酪酸で浸漬されているところで試験し、そして3つを、縫合糸がモノブチリンで浸漬されている部位で試験した。
血管新生因子で浸漬された縫合糸は、実質的に未処理の対照のもの以上に修復組織の強度を増加させた。正常の半月板組織は、14N/mmの断裂強度を有している。
【0041】
[実施例2]
酪酸ナトリウムを、様々な酢酸ビニルの含有量を有する3つのEVAコポリマーに負荷させ、そして酪酸のリン酸緩衝液(PBS)への放出率を測定した。
そして、酪酸ナトリウム(10重量%)を、それぞれ8、18および28重量%の酢酸ビニル残基を含む3つのEVAコポリマーに混合した。混合したサンプルの薄膜を圧縮成型にて製造し、12mmのディスク(厚さ0.06mm)を各々の薄膜から切り出し、そして2mlのPBSに入れた。PBSを、7日間までは1日単位で、そしてそれからは2、3および4週時点で交換した。単離したPBS抽出物を、HPLC法を使って酪酸の含有量について分析した。
図3は、ポリマーの酢酸ビニル含有量を変えると、酪酸の放出がコントロールされることを明確に示している。
【0042】
[実施例3]
酪酸およびその塩を、様々なポリマー組成物で処方して、所定のPBSへの放出率を測定した。
実施例3a:0 Ti−Cronから作製した縫合糸を、酪酸の溶液(50,000μgcm-3)にソークさせた。66時間後、縫合糸を酪酸溶液から取り出し、2mlのPBS中に入れた。PBSを、7日間では1日単位で、そしてそれからは2および3週時点で交換した。単離したPBS抽出物を、HPLC法を使って酪酸の含有量について分析した。90%以上の酪酸が、最初の4日以内で放出された(図4)。
【0043】
実施例3b:酪酸ナトリウム(1%w/w)をポリ(L)乳酸(PLLA)に混合し、そしてポリマーのロッドを押し出した。これらロッドからの酪酸の放出率を、上記のように評価した。酪酸は、PLLAからPBSに急速に放出された。
【0044】
実施例3c:酪酸カルシウム(1%w/w)を、エチレン酢酸ビニルコポリマー(酢酸ビニル含有量の33重量%)に混合し、そしてポリマーのロッドを押し出した。これらロッドからの酪酸の放出率を、上記のように評価した。
その結果、ポリマーの疎水性を変化させることで、血管新生因子の放出率をコントロールできることがわかるであろう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
脈管形成材料;インビボで分解して脈管形成材料を形成しうる脈管形成の前駆体材料;および脈管形成材料を生産しうる生体組織工学的な材料の少なくとも一つを含む、組織を修復するための固定具であって、脈管形成材料が、以下の物質:
α−モノブチリン、α−ジブチリン、β−ジブチリン、トリブチリンおよびヒドロキシブチレート
の一つ以上から選択される、固定具。
【請求項2】
脈管形成材料が、疎水性残基を含むポリマーとの混合である、請求項1による固定具。
【請求項3】
ポリマーが、エチレン−酢酸ビニルコポリマーである請求項2による固定具。
【請求項4】
ポリマーが、酢酸ビニルユニットを5〜50重量%含む請求項3による固定具。
【請求項5】
少なくとも一つの外表面を、脈管形成材料、脈管形成の前駆体材料および生体組織工学的な材料の一つ以上でコートしている、請求項1〜4のいずれか一つによる固定具。
【請求項6】
その領域の少なくとも一つで浸漬されている脈管形成材料、脈管形成の前駆体材料および生体組織工学的な材料の少なくとも一つを有する、請求項1〜4のいずれか一つによる固定具。
【請求項7】
縫合糸;手術用のアロー、ステープル、ダート、ボルト、ねじ、釦、接極子、釘またはリベット;有棘手術具からなる、請求項1〜6のいずれか一つによる固定具。
【請求項8】
脈管形成を促すのに十分な治療上有効な量での、エチレン酢酸ビニルコポリマーと、水溶性あるいは水混和性の脈管形成材料またはその前駆体のブレンドを含む組成物であって、脈管形成材料が、ヒドロキシ酪酸;該酸のナトリウム、カリウム、カルシウム、アンモニウムおよびリチウムの塩;酪酸またはヒドロキシ酪酸のポリマー;ならびにモノブチリンの一つ以上から選択される、組成物。
【請求項9】
ポリマーの酢酸ビニルの含有量がポリマーの8〜40重量%である請求項8による組成物。
【請求項10】
脈管形成材料を35重量%まで含む請求項8または9による組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−75720(P2010−75720A)
【公開日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−266561(P2009−266561)
【出願日】平成21年11月24日(2009.11.24)
【分割の表示】特願2003−501512(P2003−501512)の分割
【原出願日】平成14年5月31日(2002.5.31)
【出願人】(391018787)スミス アンド ネフュー ピーエルシー (79)
【氏名又は名称原語表記】SMITH & NEPHEW PUBLIC LIMITED COMPANY
【Fターム(参考)】