説明

経口摂取用組成物

【課題】体内SOD活性亢進作用を有する経口摂取用組成物を提供する。
【解決手段】ヒトを含む動物腸内又は発酵食品から分離されるグラム陽性細菌の少なくとも1種以上を有効成分として含んでなり、且つ、体内SOD活性亢進作用を有することを特徴とする、経口摂取用組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、体内SOD活性亢進作用を有する経口摂取用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ガンや関節リュウマチ、糖尿病、アトピー性皮膚炎、膠原病などの様々な病気には、体内で過剰に発生する活性酸素が直接的に関与している。
このような活性酸素の生成を阻害する、又は生成した活性酸素を除去する方法としては、これまでにも様々な技術が開発されている。
【0003】
例えば、特許文献1は、チダケサシ属に属する植物を含有する活性酸素消去剤の技術を開示している。また、特許文献2は、柿蒂抽出物を有効成分とすることを特徴とする活性酸素消去剤の技術を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−179592号公報
【特許文献2】特開2006−83070号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1には、該文献に開示された活性酸素消去剤が、美肌用の飲食品としての用途を有していると記載されている。しかし該文献は、動物実験(試験例3)において、外用薬としての効果を示す実験結果のみを開示している。したがって、該文献に開示された活性酸素消去剤が、飲食品や内服薬のように、経口摂取しても効果を発揮できるものであるか否かは、該文献から明らかではない。
特許文献2においても、該文献に開示された活性酸素消去剤が、食品としての用途を有しているとの記載がある。しかし、該文献においては、生体内で行う、いわゆるin vivo実験の結果が開示されていない。したがって、該文献に開示された活性酸素消去剤が、食品として摂取しても活性酸素除去の効果を発揮できるものであるか否かは、該文献からは明らかではない。
【0006】
本発明は、上記外因性活性酸素消去剤の実状を鑑みて成し遂げられたものであり、内因性スーパーオキシドラジカルスカベンジャーのSOD(Superoxide dismutase:スーパーオキシドジスムターゼ)活性亢進作用を有する経口摂取用組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の経口摂取用組成物は、ヒトを含む動物腸内又は発酵食品から分離されるグラム陽性細菌の少なくとも1種以上を有効成分として含んでなり、且つ、体内SOD活性亢進作用を有することを特徴とする。
【0008】
このような構成の経口摂取用組成物は、単なる活性酸素消去剤のような、上述した特許文献に記載された従来技術とは異なり、生体のSOD活性誘導作用の高い前記細菌を有効成分として含むことにより、生体内のSOD活性を向上させることができる。また、このような構成の経口摂取用組成物は、前記細菌がヒトを含む動物腸内又は発酵食品から分離されるものであるため、副作用がなく安全性が高い。
【0009】
本発明の経口摂取用組成物の一形態としては、前記細菌が死菌体であるという構成をとることができる。
【0010】
本発明の経口摂取用組成物の一形態としては、前記細菌が、エンテロコッカス属(Enterococcus)、ビフィドバクテリウム属(Bifidobacterium)、ラクトバシルス属(Lactobacillus)、ストレプトコッカス属(Streptococcus)、および、ラクトコッカス属(Lactococcus)に属する細菌からなる群より選択される少なくとも1種以上の細菌であるという構成をとることができる。
【0011】
本発明の経口摂取用組成物は、前記細菌が、エンテロコッカス・フェカリス(Enterococcus faecalis)であることが好ましい。
【0012】
本発明の経口摂取用組成物は、慢性炎症性疾患による炎症を抑制する効果を発揮する。
【0013】
このような構成の経口摂取用組成物は、特に、慢性関節炎、リウマチ性関節炎、花粉症、アトピー性皮膚炎等によって生じる炎症を抑制する効果を発揮する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、単なる活性酸素消去剤のような、上述した特許文献に記載された従来技術とは異なり、生体のSOD活性誘導作用の高い前記細菌を有効成分として含むことにより、生体内のSOD活性を向上させることができる。また、このような構成の経口摂取用組成物は、前記細菌がヒトを含む動物腸内又は発酵食品から分離されるものであるため、副作用がなく安全性が高い。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】EC−12摂取によるコラーゲン誘発関節炎の炎症抑制効果について、primingの日を起算日として21日目からのスコアを示す図である。
【図2】Normal群及びCIA群の各群の総SOD活性値を示した棒グラフである。
【図3】Normal群及びCIA群の各群のMn−SOD活性値を示した棒グラフである。
【図4】DBA/1Jマウス EC−12 10mg/head/day強制経口投与群とDBA/1Jマウス 無投与対照群の、平均肝SOD mRNA発現量をそれぞれ示した棒グラフである。
【図5】BALB/cマウス EC−12 10mg/head/day強制経口投与群とBALB/cマウス 無投与対照群との、平均肝SOD mRNA発現量をそれぞれ示した棒グラフである。
【図6】BALB/cマウス EC−12 10mg/head/day強制経口投与群とBALB/cマウス 無投与対照群の、平均肝8−OHdG量をそれぞれ示した棒グラフである。
【図7】DBA/1Jマウス EC−12 10mg/head/day強制経口投与群、DBA/1Jマウス 無投与対照群、BALB/cマウス EC−12 10mg/head/day強制経口投与群、BALB/cマウス 無投与対照群の、平均肝GOT濃度(白色の棒グラフ)及び平均肝GPT濃度(黒色の棒グラフ)をそれぞれ示した棒グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の経口摂取用組成物は、ヒトを含む動物腸内又は発酵食品から分離されるグラム陽性細菌の少なくとも1種以上を有効成分として含んでなり、且つ、体内SOD活性亢進作用を有することを特徴とする。
【0017】
生体内においては、生理活動の派生として、或いは、体内に侵入した毒物又は免疫学的異物を分解するなどの様々な目的のために活性酸素(スーパーオキシドアニオンラジカル、過酸化水素、ヒドロキシラジカル、窒素酸化物など)が生成し、生理機能の維持に役立っている。正常な状態では、体内の余分な活性酸素は抗酸化酵素を含む制御系により除去され、過剰になることはない。
しかしながら、外的要因により酵素活性が低下してしまうと、活性酸素が増え、生体内環境は酸化ストレスの状態に傾く。
【0018】
スーパーオキシドジスムターゼ(以下「SOD」と略記する場合がある)は様々な生物の組織に存在する抗酸化酵素であり、生体内で発生した反応性の強い活性酸素であるスーパーオキシドアニオンラジカル(以下「O」と略記する場合がある)を分解する。生体内の活性酸素制御系においては、Oが発生するとSODの作用により不均化されて過酸化水素が生じ、過剰の過酸化水素はカタラーゼやグルタチオンペルオキシダーゼ等の過酸化水素の除去に関連した酵素により分解される。この一連のスキームを以下に示す。
SODの作用: 2O+2H → H+O
カタラーゼの作用: 2H → O+2H
グルタチオンペルオキシダーゼの作用: ROOH+2GSH → ROH+2HO+GSSG
なお、カタラーゼ及びグルタチオンペルオキシダーゼの存在量が不十分の場合には、そして特に細胞病変に起因して鉄の存在量が非常に少ない場合には、過酸化水素は以下のスキームによって、毒性がより強いヒドロキシラジカルに転化される(フェントン反応)。
フェントン反応:
+Fe3+ → Fe2++O
Fe2++H → Fe3++OH+OH
+H → O+OH+OH
【0019】
上記したような活性酸素制御系に関する知見に基づき、生体の酸化ストレス及び活性酸素レベルを正常化するために、SODそのものや、SOD様作用成分を外部から摂取させることが試みられている。
しかしながら、酵素であるSODを経口摂取したとしても、体内で消化されることによって、生体内においては必要なだけの活性が必ずしも得られない。また、抗酸化ビタミンやポリフェノール等のSOD様作用成分は、SODとよく似た作用を持つに過ぎず、酵素(生体触媒)としてのSOD能力には遠く及ばない。
本発明に係る経口摂取用組成物は、免疫調整作用に優れ、生体のSOD誘導作用の高い菌体を含む。このような、SOD誘導作用の高い菌体を含む経口摂取用組成物を経口摂取することにより、生体のSOD活性を向上させ、種々の難治性疾患の病態を改善することができる。
【0020】
本発明に係る経口摂取用組成物の有効成分は、ヒトを含む動物腸内又は発酵食品から分離されるグラム陽性細菌であれば、特に限定されることはない。なお、このように、前記細菌がヒトを含む動物腸内又は発酵食品から分離されるものであるため、本発明に係る経口摂取用組成物は、副作用がなく安全性が高い。なお、前記細菌は、1種類のみでもよく、また、2種類以上を混合して用いてもよい。
発明に係る経口摂取用組成物の有効成分は、上述したグラム陽性細菌であり、且つ、該細菌が体内SOD活性亢進作用を有するものであることが好ましい。
【0021】
本発明の経口摂取用組成物の一形態としては、有効成分である前記細菌が、エンテロコッカス属(Enterococcus)、ビフィドバクテリウム属(Bifidobacterium)、ラクトバシルス属(Lactobacillus)、ストレプトコッカス属(Streptococcus)、および、ラクトコッカス属(Lactococcus)に属する細菌からなる群より選択される少なくとも1種以上の細菌であるという構成をとることができる。これらの細菌は、代謝により乳酸を産生するグラム陽性細菌であり、一般に乳酸菌と呼ばれる細菌である。
【0022】
ここで、エンテロコッカス属に属する細菌としては、例えば、エンテロコッカス・フェカリス(Enterococcus faecalis)、エンテロコツカス・フェシウム(Enterococcus faecium)等が挙げられる。ビフィドバクテリウム属に属する細菌としては、例えば、ビフィドバクテリウム・ロンガム(Bifidobacterium longum)、ビフィドバクテリウム・プレーべ(Bifidobacterium breve)、ビフィドバクテリウム・ビフィダム(Bifidobacterium bifidum)等が挙げられる。ラクトバシルス属に属する細菌としては、ラクトバシルス・アシドフィラス(Lactobacillus acidophilus)、ラクトバシルス・カゼイ(Lactobacillus casei)、ラクトバシルス・サリバリウス(Lactobacillus salivarius)等が挙げられる。
【0023】
また、ストレプトコッカス属に属する細菌としては、例えば、ストレプトコッカス・サーモフィラス(Streptococcus thermophilus)等が挙げられる。ラクトコッカス属に属する細菌としては、例えば、ラクトコッカス・クレモリス(Lactococcus cremoris)、ラクトコッカス・ラクティス(Lactococcus lactis)等が挙げられる。
【0024】
本発明の好ましい態様によれば、有効成分として用いられる細菌は、乳酸球菌である。より好ましくは、エンテロコッカス属に属する菌である。最も好ましくは、該細菌は、エンテロコッカス・フェカリス(Enterococcus faecalis)である。
【0025】
エンテロコッカス・フェカリスとしては、例えば、エンテロコッカス・フェカリス・EC−12株、ATCC 19433、ATCC 14508、ATCC 23655、IFO 16803、IFO 16804等の菌株またはその変異株が例示できる。有効成分として用いられる細菌としては、このうち、前記EC−12株が最も好ましい。
なおここで「変異株」とは、特定の菌株に対し、当業者に周知の方法により当業者がその性質に変化を及ぼさない範囲で変異させたもの、あるいは、それと同等であると当業者が確認できるものを包含する意味である。
【0026】
なお、エンテロコッカス・フェカリス・EC−12株(Enterococcus faecalis EC−12)は、平成17年(2005年)2月25日(原寄託日)付で独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センター(〒305−5466 日本国茨城県つくば市東1丁目1番地1 中央第6)に寄託された。受託番号は、FERM BP−10284である。
【0027】
有効成分として用いられる細菌は、生菌及び/又は死菌体を用いることができるが、好ましくは死菌体が用いられ、より好ましくは、前記細菌を公知の加熱処理手段で殺菌して得られる加熱殺菌菌体が用いられる。加熱殺菌菌体は、前記細菌を常法に従って培養して得られた培養物から、例えば、濾過、遠心分離等の方法により菌体を回収し、水洗後、水等に懸濁して120℃以下(好ましくは80〜120℃)、30分以内(3秒〜30分間)加熱処理した後、必要に応じて濃縮、乾燥することにより調製できる。また菌体を焼成、蒸煮(例えば170℃以下、60分以内)に付すことによって調製してもよい。なお、前記EC−12株の加熱処理による殺菌菌体粉末は、商品名「EC−12」(コンビ株式会社製)として市販されている。このため、本発明においては、有効成分として用いられる細菌として、このような市販品を用いてもよい。
【0028】
上記のようにして得られた細菌は、そのまま本発明の経口摂取用組成物として用いることができる。また、更に賦形剤、甘味料、香料、着色料等を添加して顆粒状、錠剤、カプセル剤等にすることもできる。
【0029】
本発明の経口摂取用組成物の有効摂取量は、菌体(乾物換算)として10〜4,000mg/1人1日である。したがって、本発明の経口摂取用組成物における上記菌体の含有量は、該菌体を乾物換算で、1日当り10〜4,000mg摂取できるように含むことが好ましく、10〜2,000mg摂取できるように含むことがより好ましい。
【0030】
本発明の経口摂取用組成物は、経口摂取できるものであれば、特に限定されない。したがって、一般食品、菓子類、ゼリー、グミ、キャンディー、ガム、スナック菓子、焼き菓子、レトルト食品、インスタント食品、栄養補助食品、飲料、シート状食品、チュアブル、ゼリー飲料(チュアパック)、練り製品、おかゆ、佃煮等に加工されたものであってもよい。もっとも、具体例としてはこれらに限定されることはない。
【0031】
本発明の経口摂取用組成物は、慢性炎症性疾患による炎症を抑制する効果を発揮する。本発明の経口摂取用組成物は、特に、老化や、慢性関節炎、リウマチ性関節炎、花粉症、アトピー性皮膚炎、虚血再かん流、白内障、がん、動脈硬化症など活性酸素が関わる炎症性疾患やアレルギー性疾患の炎症抑制に効果を発揮する。また、後述する実施例において示すように、体内SOD活性亢進作用の中でも、特に肝SOD活性亢進作用を有する。
【実施例】
【0032】
以下、実施例(コラーゲン誘発関節炎(CIA:collagen−induced arthritis)に対するEC−12の炎症抑制効果、マウス肝臓中のSOD活性測定、EC−12のマウス肝臓に対する抗酸化作用)を挙げて、本発明を具体的に説明する。なお、実施例の末尾に、本実施例全体の結果についての考察を記載した。
【0033】
1.コラーゲン誘発関節炎に対するEC−12の炎症抑制効果
供試動物として、9週齢の雄性DBA/1J(日本クレア株式会社製)マウスを用いた。
また試薬として、EC−12株の加熱処理による殺菌菌体粉末としてEC−12(商品名。コンビ株式会社製)、および、II型コラーゲン(chick sternal cartilage由来、sigma社B製)を用いた。
【0034】
本実施例において、有効成分の効果の確認試験に使用しているII型コラーゲンによるコラーゲン誘導関節炎マウスは、マウスにII型コラーゲンを注射することにより、コラーゲン誘導関節炎を発症させる自己免疫疾患の関節炎の病態モデルマウスである。具体的には、マウスにII型コラーゲンを注射することにより、II型コラーゲンが、関節滑膜細胞およびマクロファージに取り込まれ、その断片が、MHCクラスII分子によって自己抗原として提示される。これにより、自己反応性ヘルパーT細胞が、マクロファージおよび滑膜細胞を活性化させ、炎症性サイトカインを放出する。また、自己反応性ヘルパーT細胞は、B細胞に抗II型コラーゲン抗体を産生させ、この抗II型コラーゲン抗体が、自己の関節軟骨のII型コラーゲンと抗原抗体反応をし、補体が活性化され炎症を起こす。
なおこのような炎症を誘導する経路についてはあくまでも仮定であり、これによって本実施例が限定的に解釈されるものではない。
【0035】
II型コラーゲン/10mM酢酸(2mg/mL)と完全フロイントアジュバントを等量混合してw/oエマルジョンを作成し、これをDBA/1Jマウスの尾基部に各0.1mL皮内投与した(0日目:priming)。
21日目にも同様の操作を行った(boost)。
試験群は下記のとおりである。
【0036】
[試験群]
・EC−12 2mg/mouse投与群(10頭)
・EC−12 0.2mg/mouse投与群(10頭)
・対照群(10頭)
【0037】
EC−12 0.2mg/mouse投与群、EC−12 2mg/mouse投与群については、0.2mgまたは2.0mgのEC−12を0.5mLの蒸留水にそれぞれ懸濁し、0日目より連日7週間経口投与した。対照群には同量の蒸留水を投与した。
【0038】
関節炎の症状は25日から目視により週3回観察し、下記の基準に従ってクリニカルスコアを測定して、数値化した。
クリニカルスコアの判定基準:
0=正常、
1=発赤、
2=軽い腫れ、
3=中程度の腫れ、
4=重篤な腫れ、
5=関節の硬直/機能の消失。
測定の際には、四肢それぞれにスコアを与え、結果は1匹あたりの合計として表した。
【0039】
図1は、EC−12摂取によるコラーゲン誘発関節炎の炎症抑制効果について、primingの日を起算日として21日目からのスコアを示す図である。
対照群(control)およびEC−12投与を行った2群のクリニカルスコアは共に、21日目以降上昇した。しかし、対照群のピーク時(35日目)において、EC−12投与を行った2群は、対照群と比較して有意に症状を改善した。
【0040】
なお、コラーゲン誘発関節炎に対するEC−12の病理組織学的抑制効果(関節軟骨の障害、滑膜増生、炎症細胞浸潤、パンヌスの増生)については、本発明者が既に行った特許出願に係る公開特許公報(特開2007−254333)段落59〜64を参考にすることができる。
【0041】
2.マウス肝臓中のSOD活性測定
2−1.試験群
下記に示すマウス6群について、マウス肝臓中のSOD活性測定試験を行った。なお、これら6群のうち3群は、CIA(collagen−induced arthritis)群であり、残りの3群はNormal群である。
【0042】
[試験群]
・Normal群 EC−12 2mg/mouse投与(10頭)
・Normal群 EC−12 0.2mg/mouse投与(10頭)
・Normal群 対照(10頭)
・CIA群 EC−12 2mg/mouse投与(20頭)
・CIA群 EC−12 0.2mg/mouse投与(19頭)
・CIA群 対照(23頭)
【0043】
凍結したマウス肝臓を氷上で解凍し、2mLチューブに700mg量り取った。等量のショ糖緩衝液(25mmol/L ショ糖、10mmol/L トリス塩酸緩衝液 pH 7.4、1mmol/L EDTA)を添加して、ホモジナイザー(Fast prep(商品名。フナコシ製))を用いて組織をホモジナイズした(speed 4.0×10秒×2回)。15mLチューブに肝臓抽出液を移し、最終10倍希釈となるようにショ糖緩衝液を添加した。遠心分離(4℃、1000rpm、10分)後、上清を2mLチューブに移し、さらに遠心分離(4℃、12000rpm、30分)を行った。遠心分離後の上清を測定用粗酵素液(100倍希釈サンプル)とした。
【0044】
総SOD活性値の算出のため、粗酵素液を500、100、又は50倍希釈したものを用意し、SODアッセイ装置(SOD Assay Kit−WST(商品名。同仁化学研究所製))を用いてブランク及び標品SOD(10U/mL、5U/mL、1U/mL、0.1U/mL)とともにそれぞれのサンプルの吸光度(490nm)を測定した。SOD阻害活性(阻害率(%))は、以下の計算式により求めた。なお、下記式中のAは吸光度を示す。
(SOD阻害活性(阻害率(%))=〔(Ablank1−Ablank3)−(Asample−Ablank2)〕/(Ablank1−Ablank3)×100
1検体(3段階希釈)ごとの検量線から阻害率50%(IC50)の希釈率を算出し、IC50の時の希釈倍率のSOD活性を1Uとした。この際、標品SOD(活性既知のSOD)に換算してユニット数を算出した。また、Mn−SOD測定は、粗酵素液に1mM KCN(最終濃度)処理を行ったものを供し、粗酵素液1検体につき、500、100、50又は10倍希釈したものをSOD活性測定に用いた。Cu/Zn−SOD活性値は、総SOD活性値からMn−SOD活性値を減算して求めた。算出したユニット数は、総タンパク質量当たりに換算して示した。
【0045】
図2は、Normal群及びCIA群の各群の総SOD活性値を示した棒グラフである。なお、左の棒グラフから、Normal群 対照(control)の値、Normal群 EC−12 0.2mg/mouse投与の値、Normal群 EC−12 2mg/mouse投与の値、CIA群 対照(control)の値、CIA群 EC−12 0.2mg/mouse投与の値、CIA群 EC−12 2mg/mouse投与の値を示す。また、表中に示す**(アスタリスク2つ)の記号は、比較している2群間に0.01%の有意差が認められたことを示している。
まず初めに、Normal群間での比較を行った。平均総SOD活性値は、Normal群 EC−12 2mg/mouse投与で119.7U/mg protein、Normal群 EC−12 0.2mg/mouse投与で117.5U/mg protein、Normal群 対照で67.1U/mg proteinであった。これらの結果から、Normal群間で比較した時は、平均総SOD活性値は、EC−12を投与した2群が対照群よりも高値を示し、また、EC−12を投与した2群において、対照群とそれぞれ有意差が認められた。
次に、CIA群間での比較を行った。平均総SOD活性値は、CIA群 EC−12 2mg/mouse投与で50.6U/mg protein、CIA群 EC−12 0.2mg/mouse投与で42.4U/mg protein、CIA群 対照で28.2U/mg proteinであった。これらの結果から、CIA群間で比較した時も、平均総SOD活性値は、EC−12を投与した2群が対照群よりも高値を示し、また、EC−12を投与した2群において、対照群とそれぞれ有意差が認められた。
したがって、Normal群、CIA群のいずれの群においても、平均総SOD活性値は、EC−12を投与した2群が対照群よりも高値であった。
【0046】
図3は、Normal群及びCIA群の各群のMn−SOD活性値を示した棒グラフである。棒グラフの順番及び表中に示す**(アスタリスク2つ)の記号は、図2と同様である。
まず初めに、Normal群間での比較を行った。平均Mn−SOD活性値は、Normal群 EC−12 2mg/mouse投与で84.2U/mg protein、Normal群 EC−12 0.2mg/mouse投与で96.3U/mg protein、Normal群 対照で30.8U/mg proteinであった。これらの結果から、Normal群間で比較した時は、平均Mn−SOD活性値は、EC−12を投与した2群が対照群よりも高値を示し、また、EC−12を投与した2群において、対照群とそれぞれ有意差が認められた。
次に、CIA群間での比較を行った。平均Mn−SOD活性値は、CIA群 EC−12 2mg/mouse投与で25.0U/mg protein、CIA群 EC−12 0.2mg/mouse投与で20.9U/mg protein、CIA群 対照で7.8U/mg proteinであった。これらの結果から、CIA群間で比較した時も、平均Mn−SOD活性値は、EC−12を投与した2群が対照群よりも高値を示し、また、EC−12を投与した2群において、対照群とそれぞれ有意差が認められた。
したがって、Normal群、CIA群のいずれの群においても、平均Mn−SOD活性値は、EC−12を投与した2群が対照群よりも高値であった。
【0047】
3.EC−12のマウス肝臓に対する抗酸化作用
3−1.飼育
供試動物としては、DBA/1J Sea系雄マウス(九動株式会社製、8週齢)を15頭、及びBALB/c Cr Slc系雄マウス(日本エスエルシー株式会社製、8週齢)15頭をそれぞれ種類ごとに用いた。
25℃に保たれた実験室にマウスを導入後、各群無作為に群分けし(詳細な試験群は下記に示すとおりである。)、群ごとにマウス飼育ケージに収容した。導入から1週間を馴化期間とし、基礎飼料としてMF(商品名。オリエンタル酵母株式会社製)及び水道水を自由摂取させた。馴化終了時から4週間連日、DBA/1Jマウス EC−12 10mg/head/day強制経口投与群、及びBALB/cマウス EC−12 10mg/head/day強制経口投与群には、毎朝10時にEC−12を所定量(10mg/head/day)生理食塩水に懸濁させて強制経口投与した。DBA/1Jマウス 無投与対照群、及びBALB/cマウス 無投与対照群には、生理食塩水を強制経口投与した。
【0048】
[試験群]
・DBA/1Jマウス EC−12 10mg/head/day強制経口投与群(8頭)
・DBA/1Jマウス 無投与対照群(7頭)
・BALB/cマウス EC−12 10mg/head/day強制経口投与群(8頭)
・BALB/cマウス 無投与対照群(7頭)
【0049】
3−2.剖検及び分析・検査等
試験開始後4週間で剖検を行った。麻酔はペントバルビタールNa(ソムノペンチル(商品名。シェリング・プラウ アニマルヘルス株式会社製))で行った。剖検時に、腹部大動脈から血液を採取した。
肝臓の一部を採取して、RNAlaterに浸漬し、1日間冷蔵後、凍結保存した。肝臓からQuickGene 810 system及びQuickGene RNA tissue kit(いずれも商品名。富士フイルム株式会社製)を用いてRNAを抽出した。Prime Script RT reagent Kit(商品名。TAKARA製)で逆転写後、Mn−SOD、Cu/Zn−SOD及びGADPH mRNA発現量をtaqman real−time PCRを用いて定量した。Mn−SOD、Cu/Zn−SOD mRNA発現量を、ハウスキーピング遺伝子であるGADPHで補正し、GADPH遺伝子に対する相対値を算出した。
採血した血液から血清を分取し、常法によりGOT濃度及びGPT濃度を測定した。
肝臓中の8OH−dG濃度を測定した。測定方法としては、公知文献(Kasai,H. et al. Genes Environ. 2007; 29: 107−114.)に基づいて、アニオン交換カラム及び逆相カラムを用いた、高速液体クロマトグラフィ‐電気化学検出法(HPLC−ECD:High Performance Liquid Chromatography−Electrochemical Detection)を採用した。
【0050】
3−3.統計学的解析
マウス系統毎の、EC−12 10mg/head/day強制経口投与群と無投与対照群の各数値について、F検定を実施し、等分散性の有無によってStudent’s t検定もしくはWelch’s t検定を実施した。p<0.05を有意差ありと判断した。
【0051】
3−4.試験結果
図4は、DBA/1Jマウス EC−12 10mg/head/day強制経口投与群とDBA/1Jマウス 無投与対照群の、平均肝SOD mRNA発現量をそれぞれ示した棒グラフである。左の棒グラフから、無投与対照群の平均Mn−SOD mRNA発現量、無投与対照群の平均Cu/Zn−SOD mRNA発現量、EC−12強制経口投与群の平均Mn−SOD mRNA発現量、EC−12強制経口投与群の平均Cu/Zn−SOD mRNA発現量をそれぞれ示す。
DBA/1Jマウスにおける平均Mn−SOD mRNA発現量は、EC−12強制経口投与群において0.040/GAPDH、無投与対照群において0.036/GAPDHであり、EC−12強制経口投与群の方が無投与対照群よりも高値を示したが、有意差は認められなかった。
また、DBA/1Jマウスにおける平均Cu/Zn−SOD mRNA発現量は、EC−12強制経口投与群において0.112/GAPDH、無投与対照群において0.074/GAPDHであり、EC−12強制経口投与群の方が無投与対照群よりも高値を示したが、有意差は認められなかった。
【0052】
図5は、BALB/cマウス EC−12 10mg/head/day強制経口投与群とBALB/cマウス 無投与対照群の、平均肝SOD mRNA発現量をそれぞれ示した棒グラフである。左の棒グラフから、無投与対照群の平均Mn−SOD mRNA発現量、無投与対照群の平均Cu/Zn−SOD mRNA発現量、EC−12強制経口投与群の平均Mn−SOD mRNA発現量、EC−12強制経口投与群の平均Cu/Zn−SOD mRNA発現量をそれぞれ示す。また、表中に示す*(アスタリスク1つ)の記号は、2群間に0.05%の有意差が認められたことを示す。
BALB/cマウスにおける平均Mn−SOD mRNA発現量は、EC−12強制経口投与群において0.043/GAPDH、無投与対照群において0.032/GAPDHであり、EC−12強制経口投与群の方が無投与対照群よりも高値を示し、有意差も認められた。
また、BALB/cマウスにおける平均Cu/Zn−SOD mRNA発現量は、EC−12強制経口投与群において0.231/GAPDH、無投与対照群において0.200/GAPDHであり、EC−12強制経口投与群の方が無投与対照群よりも高値を示したが、有意差は認められなかった。
【0053】
図6は、BALB/cマウス EC−12 10mg/head/day強制経口投与群とBALB/cマウス 無投与対照群の、平均肝8−OHdG量をそれぞれ示した棒グラフである。左の棒グラフが無投与対照群の平均肝8−OHdG量を、右の棒グラフがEC−12強制経口投与群の平均肝8−OHdG量を、それぞれ示す。
BALB/cマウスにおける平均肝8−OHdG量は、EC−12強制経口投与群において2.68/10dG、無投与対照群において2.51/10dGであり、EC−12強制経口投与群の方が無投与対照群よりも高値を示したが、有意差は認められなかった。
【0054】
図7は、DBA/1Jマウス EC−12 10mg/head/day強制経口投与群、DBA/1Jマウス 無投与対照群、BALB/cマウス EC−12 10mg/head/day強制経口投与群、BALB/cマウス 無投与対照群の、平均肝GOT濃度(白色の棒グラフ)及び平均肝GPT濃度(黒色の棒グラフ)をそれぞれ示した棒グラフである。左の棒グラフから2つずつ、DBA/1Jマウス 無投与対照群の値、DBA/1Jマウス EC−12 強制経口投与群の値、BALB/cマウス 無投与対照群の値、BALB/cマウス EC−12 強制経口投与群の値をそれぞれ示す。
【0055】
DBA/1Jマウスにおける血清中の平均肝GOT濃度は、EC−12強制経口投与群において71.0 IU/L、無投与対照群において56.1 IU/Lであり、EC−12強制経口投与群の方が無投与対照群よりも高値を示したが、有意差は認められなかった。
DBA/1Jマウスにおける血清中の平均肝GPT濃度は、EC−12強制経口投与群において29.9 IU/L、無投与対照群において24.4 IU/Lであり、EC−12強制経口投与群の方が無投与対照群よりも高値を示したが、有意差は認められなかった。
【0056】
BALB/cマウスにおける血清中の平均肝GOT濃度は、EC−12強制経口投与群において49.5 IU/L、無投与対照群において51.3 IU/Lであり、EC−12強制経口投与群の方が無投与対照群よりも低値を示したが、有意差は認められなかった。
BALB/cマウスにおける血清中の平均肝GPT濃度は、EC−12強制経口投与群において21.9 IU/L、無投与対照群において22.0 IU/Lであり、EC−12強制経口投与群の方が無投与対照群よりも低値を示したが、有意差は認められなかった。
【0057】
3−5.EC−12のマウス肝臓に対する抗酸化作用のまとめ
本試験においては、BALB/cマウスにおいて、EC−12強制経口投与群の方が、対照群に対して、特にMn−SOD活性が有意に亢進している(図5)ことが明らかとなった。したがって、BALB/cマウスについて8−OHdG/10dGの値を測定したところ、EC−12強制経口投与群及び対照群間において、有意差は認められなかった(図6)。また、血清中の平均GOT濃度及び平均GPT濃度においても、両群間において有意差は認められなかった(図7)。
以上のことから、EC−12投与によって引き起こされるSOD活性亢進においては、酸化ストレスは伴わず、少なくとも肝機能に障害は与えていないことが明らかとなった。なお、本試験期間中を通して、EC−12投与による異常、副作用などは認められなかった。
【0058】
4.本実施例に関する考察
公知文献(Choi,E−M. J. Appl. Toxicol. 2007; 27: 472−481)に記載されているように、コラーゲン誘発関節炎(CIA:collagen−induced arthritis)下においては、DBA/1Jマウスは、著しいSOD活性低下を示す。しかし、上記「2.マウス肝臓中のSOD活性測定」の項で述べたように、EC−12の投与によって、DBA/1Jマウスにおいても、肝SOD活性が亢進することが分かった。
EC−12投与は免疫系において炎症性サイトカインのTNF−α産生を亢進させる。また公知文献(Afonso,V. et al. Joint Bone Spin 74 (2007) 324−329)に記載されているように、Mn−SOD(SOD2)は、TNF−αによって活性化する。したがって、EC−12の投与は、まず初めにTNF−α産生を亢進させ、このTNF−αがMn−SODを活性化させるという仮説を立てることができる。一方、TNF−α産生亢進が、生体内に酸化ストレスをもたらすことによりSODが活性化されるのではないかという懸念が生じる。
しかし、「3.EC−12のマウス肝臓に対する抗酸化作用」の項で述べたように、本実施例においては、EC−12の投与が、上述したようなTNF−αによる肝の酸化ストレスを伴わず、且つ、肝機能障害を生体に対して与えることなく、肝SOD活性を亢進できることが確認できた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒトを含む動物腸内又は発酵食品から分離されるグラム陽性細菌の少なくとも1種以上を有効成分として含んでなり、且つ、体内SOD活性亢進作用を有することを特徴とする、経口摂取用組成物。
【請求項2】
前記細菌が死菌体である、請求項1に記載の経口摂取用組成物。
【請求項3】
前記細菌が、エンテロコッカス属(Enterococcus)、ビフィドバクテリウム属(Bifidobacterium)、ラクトバシルス属(Lactobacillus)、ストレプトコッカス属(Streptococcus)、および、ラクトコッカス属(Lactococcus)に属する細菌からなる群より選択される少なくとも1種以上の細菌である、請求項1又は2に記載の経口摂取用組成物。
【請求項4】
前記細菌が、エンテロコッカス・フェカリス(Enterococcus faecalis)である、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の経口摂取用組成物。
【請求項5】
慢性炎症性疾患による炎症を抑制する、請求項1乃至4のいずれか一項に記載の経口摂取用組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−195700(P2010−195700A)
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−40630(P2009−40630)
【出願日】平成21年2月24日(2009.2.24)
【出願人】(391003912)コンビ株式会社 (165)
【Fターム(参考)】