説明

経皮的心臓弁

【解決手段】 経皮的に挿入される双安定人工心臓弁は、埋め込みのための患者の心臓への経中隔送達用にカテーテル内部に折り畳まれる。前記心臓弁は、環状輪と、複数の脚部を有する本体部材であって、各前記脚部の一端で前記環状輪に連結されているものである本体部材と、外力を加えることにより第1の位置から第2の位置へ調整自在な爪部であって、前記第2の位置で前記爪部のなかへ周囲の心臓組織が侵入することが許容されるものである爪部と、前記環状輪、前記本体部材、および/または前記脚部に連結された弁尖膜であって、前記弁尖膜を通過する血流を遮断するための第1の位置と、前記弁尖膜を通過する血流を可能にする第2の位置とを有するものである弁尖膜とを有する。前記心臓弁は、前記外力を取り除いた時点で、前記爪部が前記爪部内に位置付けられた心臓組織を把持するように前記第1の位置に弾力的に戻ることにより、前記心臓弁を定位置に保持するように設計されている。前記本体部材および前記爪部は、構造的に一体化しうる。前記心臓弁は、心臓の僧帽弁、大動脈弁、肺動脈弁、または三尖弁の開口部に嵌入するよう前記環状輪を適合させることにより、それぞれ人工僧帽弁、人工大動脈弁、人工肺動脈弁、または人工三尖弁として使用することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
この特許出願は、2003年7月21日付け出願済み米国仮特許出願第60/488,838号に対して優先権を主張し、この参照によりその全体が本明細書に組み込まれるものである。
【0002】
本発明は、埋め込み用に僧帽弁および他の心臓弁に送達するようカテーテル内への畳み込みが可能な、経皮的に挿入される双安定人工心臓弁の設計を対象としている。
【背景技術】
【0003】
心臓弁の逆流は、疾患または傷害の結果、心臓弁が完全に閉じなくなってしまった場合に発生する。肺動脈弁の逆流を伴う患者は、不整脈、突然死、および右心室機能不全をより起こしやすいことが示されている。同様に、虚血および変性(逸脱)疾患による僧帽弁逆流(僧帽弁閉鎖不全症)は、リモデリングによる左心室機能不全、また左心室拡張に寄与し、僧帽弁逆流をさらに悪化させることが示されている。現在、正常に機能しない心臓弁は、全身麻酔および心肺バイパスの使用により死、脳卒中、感染、出血、および合併症の著しい危険性が伴う開心術により、生体的または機械的な人工弁と交換されるのが通常である。このような処置では、回復にかかる期間が長くなる可能性が大きい。しかしながら、特定の疾患状態については、疾病率および死亡率が比較的低い理由から開心術の代わりに経皮的な方法が取られている。例えば、僧帽弁が適切に開かない疾患であるリウマチ性僧帽弁狭窄症は、大腿静脈からバルーンを挿入して僧帽弁の開口部を拡大することにより治療されてきている。
【0004】
僧帽弁狭窄症に対する経皮的バルーン弁形成術の成功に基づいて、研究者たちは、手術を行わずに心臓弁膜症を治療するための他の代替方法を探究してきた。例えば、Cribierらは、"Percutaneous Transcatheter Implantation of an Aortic Valve Prosthesis for Calcific Aortic Stenosis(石灰沈着性大動脈狭窄に対する人工大動脈弁の経皮的経カテーテル埋め込み)"と題された報告(Circulation、2002年12月10日、3006〜3008ページ)で、人工生体弁を縫い付けたバルーン拡張型ステントを開示している。この装置は、石灰沈着性大動脈狭窄の治療用に使われる。"Percutaneous Insertion of the Pulmonary Valve(肺動脈弁の経皮的挿入)"と題された論文(Journal of the American College of Cardiology、Vol. 39、No.10、2002年5月15日、1664〜1669ページ)では、Bonhoefferらが、肺動脈弁疾患を治療するためウシの静脈(頸静脈)弁に挿入された同様なステントアプローチについて説明している。また、僧帽弁尖上にクリップを配置する僧帽弁疾患用の修復技術(US 6,629,534)、冠状静脈洞から僧帽弁輪を締める技術(US 6,537,314)、または機械的に定位置に保持される拡張自在な心臓弁を配備する技術(US 5,554,185)も開発されている。
【0005】
Norred(US 6,482,228)は、リブおよび円形のエラストマー系弾性キャノピーを有した人工心臓弁をカテーテル内に畳み入れて挿入し、手術せずに埋め込み領域に送達する、経皮的大動脈弁置換術について開示している。上行大動脈中に挿入された人工心臓弁の本体および弁尖は縫合糸状の部材の中央カラムを引っ張ることにより傘状に開かれる。この小さい「傘」の構成にはヒンジ継手が使われる。しかし、人工大動脈弁は、上行大動脈内に延在するステントシステムを使って係止され、これにより大動脈生体弁上部の大動脈流路内で弁が係止される。前記傘構造を開くために使われる前記縫合糸状の部材は、前記ステントシステムの一部として配備される。このような設計は、前記生体弁の位置での人工心臓弁配置に影響を受けやすい。
【0006】
他のステント付き人工心臓弁は、バルーンで拡張自在なステントか、自己拡張ステントかの設計を係止システムが必要とする受動的な技術で説明されている。例えば、このようなステント付き設計は、US 6,454,799と、US 2002/0138138と、US 6,582,462と、US 6,458,153と、US 6,425,916と、US 5,855,601とで説明されている。これらのステント付き人工心臓弁は、一度配備されてしまうと再位置決めも、再畳み込みも、簡便な除去も不可能であることが理解されるであろう。さらに、この設計を利用する初期の大動脈弁配備で見られたように、石灰化した位置に配備するステントの剛性により、ステント外側周囲で逆流が起こりうる。また、心臓の鼓動中に移動する血液柱内でバルーンを拡張する必要があり、これを正確に配備するチャンスは一度しかないため、これらの構造の位置決めも困難である。
【0007】
石灰で厚くなった輪内でステント付き心臓弁を配備する場合、困難はさらに増す。このステント設計は、石灰沈着性大動脈狭窄において石灰の存在により前記輪がより拡大された大動脈位置ではわずかながらより好適である。ただし、他の大動脈弁疾患または僧帽弁位置でのように石灰が存在しない場合は、比較的薄い輪内にステントを係止することが難しい。さらに、バルーン上にステントを畳み載せ、これをプラスチック(ビニール)の変形能により拡張する方法の性質上、構造全体が著しく大きな外形を有する必要性が生じ、石灰化物でまだ直径が狭まっていない大直径の弁輪内へカテーテルで経皮的に挿入することが困難になり、前記構造の初期サイズと最終サイズとの比は制限される。
【0008】
カテーテルにより挿入できるように外形が小さく、バルーンまたはステント以外を使って配備した後は外形が大きくなることにより、配備前後での外形比の範囲拡大を可能にする、折り畳み構造を利用した改良型人工心臓弁構造が望まれている。また、配備、折り畳み、除去が可能で、配備の安全性と精度を向上させられるように後から再配備が可能な人工心臓弁構造も望まれている。本発明は、人工心臓弁技術における上記の必要性等に対処するものである。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、埋め込み用に心臓弁に送達するようカテーテル内への畳み込みが可能な、経皮的に挿入される双安定人工心臓弁を提供することにより、人工心臓弁技術における上記の必要性等に対処するものである。前記心臓弁は、弾性の環状輪と、複数の脚部を有する本体部材であって、各前記脚部の一端で前記環状輪に連結されている、本体部材と、外力を加えることにより第1の位置から第2の位置へ調整自在な爪部であって、前記第2の位置で前記爪部のなかへ周囲の心臓組織が侵入することが許容されるものである爪部と、前記環状輪、前記本体部材、および/または前記脚部に連結された弁尖膜であって、前記弁尖膜を通過する血流を遮断するための第1の位置と、前記弁尖膜を通過する血流を可能にする第2の位置とを有するものである弁尖膜とを有する。前記心臓弁は、前記外力を取り除いた時点で、前記爪部が前記爪部内に位置付けられた心臓組織を把持するように前記第1の位置に弾力的に戻ることにより、前記心臓弁を定位置に保持するように設計されている。前記本体部材および前記爪部は、構造的に一体化しうる。このように設計された前記心臓弁は、心臓の僧帽弁か、大動脈弁か、肺動脈弁か、三尖弁かの開口部に嵌入するよう前記環状輪を適合させることにより、それぞれ人工僧帽弁、人工大動脈弁、人工肺動脈弁、または人工三尖弁として使用しうる。
【0010】
この心臓弁の例示的な実施形態では、前記環状輪、前記本体部材、前記脚部、前記爪部、および前記弁尖膜は、埋め込みのため心臓へ経皮的に送達するカテーテル内に挿入する折り畳み位置へと折り畳まる。この心臓弁は、カテーテル通過後の第1の安定位置と、心臓弁埋め込み用の強制移行先位置である第2の安定位置とを有する。前記第2の安定位置では、前記本体部材は、前記心臓弁の心臓組織への係止を支援するため、前記環状輪を外側に押圧する。この弾性の環状輪は、前記心臓弁を弁腔内の埋め込み位置に係止するため拡張するように拡張自在であってもよい。
【0011】
各爪部は、各爪部が第1の爪部位置から第2の爪部位置へ動けるよう、前記環状輪および/または脚部に連結されている。この爪部の移動は、前記心臓弁の近位から延出し前記本体部材を前記爪部に連結するフィラメントによる埋め込み処置中、遠隔的に制御する。
【0012】
本発明の範囲は、患者体内の埋め込み位置(心臓弁腔)に双安定経皮的心臓弁を埋め込む方法も含む。このような方法の例示的な実施形態は、
双安定経皮的心臓弁を折り畳み位置へと折り畳む工程と、
カテーテルを患者体内に挿入し、患者心臓内の埋め込み位置に近接した位置へ、前記カテーテルの遠端を導入する工程と、
折り畳まれた前記心臓弁を前記カテーテルに挿入し、折り畳まれた前記心臓弁を前記カテーテルの前記遠端に前進させる工程と、
折り畳まれた前記心臓弁を前記カテーテルの前記遠端を越えて導入し、前記心臓弁が安定な展開位置へと弾力的に展開するものである、導入する工程と、
展開した前記心臓弁を第2の安定位置に強制移行する工程と、
前記心臓弁を前記埋め込み位置に導入する工程と、
前記心臓弁の爪部を調整する工程であって、前記爪部の調整は前記爪部内への周囲の心臓組織の進入を可能にするように外力を加えることにより行い、前記外力を取り除いた時点で、前記爪部が前記爪部内に位置付けられた心臓組織を把持するよう、より閉じた位置に弾力的に戻ることにより、前記心臓弁を定位置に保持するものである、調整する工程と、
前記導入装置および前記カテーテルを除去する工程と
を含む。
【0013】
前記爪部を調整するため加える前記外力は、前記カテーテルを通過し前記爪部の遠端に連結した前記カテーテルフィラメントの近端における操作によりもたらされる。このフィラメントは、前記心臓弁を2つの安定な配置構成間で切り替えて前記爪部を開くために使用することもできる。このフィラメントは、埋め込みが完了すると取り外すか、または血流を妨げないよう前記人工心臓弁内の前記本体部材の近くに引き寄せて前記人工心臓弁内に残してもよい。また別個の固定長フィラメントが、長い方のフィラメントが一定点を越えると前記爪部がさらに開くよう、爪部の片側と前記本体部材の脚部との間に取り付けられる。
【0014】
このような方法の顕著な有益性は、展開した前記心臓弁を前記埋め込み位置に導入する工程と、前記爪部を調整して前記心臓弁を定位置に保持する工程とが、前記心臓弁の位置、安定性、および機能が一定条件を満たすまで、繰り返される点にある。また、前記心臓弁を弾性材料で形成することにより、この心臓弁は、前記安定な展開位置において、心臓組織での前記心臓弁の係止を支援するよう、前記心臓組織を外側へ押圧できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、図1〜12を参照して本発明を説明する。当業者であれば、これらの図面に関する本明細書の説明が例示目的のみのものであり、決して本発明の範囲を限定するように意図されたものではないことが理解できるであろう。本発明の範囲に関する疑問は、すべて添付した請求の範囲を参照することにより解決されうる。
【0016】
本明細書で説明する心臓弁は、凍結または化学処理で保存したウシの心膜など、標準的な生体人工器官または人工器官材料から作製された弁尖用のハウジングを形成する、三角形状ベースの双安定弾性構造を有する。構造的には、僧帽弁腔への経中隔送達のため、あるいは大動脈弁腔、肺動脈弁腔、または三尖弁腔への直接的な静脈送達または動脈送達のためカテーテル内に折り畳まれたものとなっている。この折り畳み構造は、例えば直径の小さい導入カテーテルにより前記カテーテル内を通って、埋め込み位置(僧帽弁の場合は左心房など)へと進み、そこで疾患のある弁内に配備される。この構造は、前記カテーテルの遠端から出てきた時点で第1の安定位置へと開き、作動フィラメントの引っ張りにより第2の安定位置へと強制的に移行して、次に、複数の(例えば、3)点で前記環に係止される。この設計および埋め込み方法論では手術が不要になり、また、この双安定係止構造により、弁尖について、強く安定した埋め込み、中央での血流、および安定なプラットフォームが可能になることが理解されるであろう。さらに、位置決めもステントなどのバルーン拡張型装置より精確になり、ステントとは異なり、望ましい埋め込みが達成されるまで位置決めを繰り返すことができる。本明細書で説明する心臓弁構造では、僧帽弁疾患の場合、ステントでは接着先の組織が不十分な状態であっても弁環の係止が可能になる。
【0017】
連結する血管内に配置されるステントを使った既存の人工心臓弁設計と異なり、本発明の例示的な実施形態では、人工心臓弁は、疾患のある心臓弁の部位に配置するように構成される。その結果、作業者が心臓弁開口部内で心臓弁をより正確に位置決めするため、心臓弁を再位置決めおよび再係止できる能力が著しく高まる。
【0018】
図1Aおよび図1Bは、本発明の実施形態に係る双安定人工心臓弁10の側面図を例示したものである。例示したように、この人工心臓弁10は、脚部16を介して本体部材14に連結された環状輪12を具備する(図1B)。例示した実施形態では、前記脚部16は、フィラメント20の張力調整または引っ張りに応答して開閉する爪部18を介して前記環状輪12に連結している。図示したように、前記フィラメントは、これらフィラメント20を遠隔位置から引っ張ることにより前記爪部18が初期の弛緩した(張力不在の)位置(図1)から第2の安定した(ただし張力不在ではない)位置(図4)へ引っ張られるよう、爪部18の各側に連結している。前記フィラメントをさらに引っ張ると、前記人工心臓弁10はさらに変形して、もう一式の短い固定長のフィラメント24に張力がかかる位置へ移動する。さらに前記フィラメント20を引っ張ると、前記爪部18の下側が下降し、前記爪部18の上側は張り詰めた前記フィラメント24により固定されたまま保持される。この相対的な動きにより前記爪部18が開き(図5)、そこへ把持される組織が進入してくる。各爪部18は、各爪部18が第1の(弛緩)位置から第2の(開放)位置へ動けるよう、前記環状輪および/または脚部16に連結されている。例えば、図1Aおよび図1Bに示したように、前記爪部18は、前記環状輪12が内部で摺動できるようにされた前記脚部の孔を介し、前記脚部および前記環状輪12に連結されている。各爪部18を1本のフィラメント20で制御することにより、前記爪部18は、前記フィラメント20の連結に応じ、一斉に、または独立して開くことができる。
【0019】
これらのフィラメント20は、前記脚部16の孔22と、前記本体部材14の中心とを貫通して組み込むことにより安定性をもたらし、また図4に関連して例示するように、前記本体部材14を図1の安定した位置から埋め込み用の別の安定した位置(図4)に反転する機序をもたらす。図1Bに最も好適に示すように、小さいフィラメント24は前記爪部18の片側を保持するために使われ、前記爪部18の他方の側がフィラメント20を使って引っ張られると前記爪部18が開くようになっている。最後に、少なくとも2つの弁尖26は、従来の方法で前記環状輪12に連結されている。前記双安定人工心臓弁10を埋め込む際は、古い生来の心臓弁を乳頭筋につなぐ心臓内の既存腱索が、前記弁尖26の適切な位置への保持に役立ち左心室機能を改善するよう機能しうることが理解されるであろう。
【0020】
図2Aおよび図2Bは、心臓弁腔内の埋め込み位置に経中隔送達するため、図1の前記双安定人工心臓弁10が折り畳み位置でカテーテル28に挿入されている状態を例示したものである。例示したように、前記人工心臓弁10に取り付けた小口径導入カテーテルなどの導入機構30は、前記カテーテル28を通じて前記人工心臓弁10を導入するため、また外科医または他の作業者による遠隔操作用の前記フィラメント20をカテーテル28の近端に導入するために使用する。逆に言えば、前記フィラメント20は、単一の固定部材(図示せず)であって、前記小口径導入カテーテル30の遠端に取り付けられる単一の固定部材に取り付けることができる。この固定部材は、埋め込み時における前記人工心臓弁10の最終リリース用に、前記小口径導入カテーテル30から取り外し自在であってよい(マイクロネジなどにより)。
【0021】
図3Aおよび図3Bは、図2の前記双安定人工心臓弁10が前記カテーテルの末端から出てきて第1の安定位置へ弾力的に拡張した後の側面図を例示したものである。前記人工心臓弁10の前記本体部材14および前記環状輪12は、前記人工心臓弁10が前記カテーテル28の遠端から出てきた時点で前記本体部材14および前記環状輪12が(傘が開くように)第1の安定位置に跳ね返るよう、ニチノールや変形自在なプラスチック(ビニール)など、頑丈かつしなやかな弾性材料で作製されることが好ましい。前記脚部16については、剛性を増すよう湾曲させることができ、また前記折り畳み位置にある場合(図2Aおよび図2B)放射状に内側へ曲がるよう構成できることが理解されるであろう。また、この脚部16は、前記人工心臓弁10埋め込み後の血流遮断を最小限に抑えるため、幅に沿ってテーパーをかけてもよい。例示した実施形態は、ほぼ対称的に離間された(120°離間)脚部16を3本有しているが、より多数または少数の脚部も、異なる離間態様も可能であることが理解されるであろう。
【0022】
図4は、図3の前記双安定人工心臓弁10について、前記フィラメント20が引っ張られて前記人工心臓弁10が図3Aの安定位置から第2の安定(反転)位置へ傘状に弾力的に反転した後を例示したものである。すなわち、前記本体部材14および前記脚部16は十分に弾性があるため、前記フィラメント20を十分な力で引っ張ると、図4に示した前記第2の安定位置に跳ね上がる。以下詳述するように、本発明のこの機能が、心臓弁腔内での前記人工心臓弁10装着を容易にする。
【0023】
図5は、図4の前記双安定人工心臓弁10について、前記フィラメント20により強い力が加えられて、心臓弁腔内での配置用に前記爪部がさらに開いた状態を例示したものである。また、前記本体部材14は、示されたとおり図4の前記第2の安定位置から、より近位の不安定な位置に移動する。
【0024】
図6は、図5の前記双安定人工心臓弁10が心臓弁腔内の埋め込み位置に配置された後、前記フィラメント20にかかる張力が取り除かれ、前記爪部18が近接する心臓組織32を挟んでしっかり締まった状態を例示したものである。
【0025】
前記人工心臓弁10のサイズ(半径)は、前記人工心臓弁10の用途が僧帽弁、大動脈弁、肺動脈弁、または三尖弁の修復か置換かにより異なる。これらの寸法(通常20〜30mm)は、当業者に公知の技術で容易に決定できる。また当業者であれば、逆行性の埋め込みの場合、そのような他の心臓弁位置用に、逆の方法で前記小口径導入カテーテル30内に前記人工心臓弁10を装着できることが理解されるであろう。
【0026】
前記双安定経皮的人工心臓弁10埋め込みのための外科的処置については、人工僧帽弁埋め込みの例に関する図7〜12を参照して説明する。以下の説明から、埋め込むべき前記人工心臓弁が人工肺動脈弁、三尖弁、または大動脈弁である場合は、前記カテーテル28が弁腔に対し異なる位置に配置されることが理解されるであろう。また上記のように、前記人工心臓弁10は、異なる埋め込み位置については異なる寸法を有するであろう。
【0027】
前記人工心臓弁10を埋め込むには、手術中、図1〜6を参照して上述した前記人工心臓弁10を折り畳み位置(図2Aおよび図2B)に畳み込み、折り畳んだ前記人工心臓弁10の収納に適したサイズの内腔を伴うカテーテル28を患者の体内へ挿入し、患者心臓内の埋め込み位置に近接した位置(僧帽弁、肺動脈弁、三尖弁、または大動脈弁に近接した位置など)へ従来の方法で導入する。前記カテーテル28が定位置に来たら、折り畳んだ前記人工心臓弁10を前記カテーテル28内に挿入し、小口径導入カテーテル30を使って前記カテーテル28の遠端へ導入する。さらに、前記小口径導入カテーテル30は、前記カテーテル28および心腔を貫通して前記小口径導入カテーテル30を導入するための導入ワイヤ(図示せず)を収納しうる。図7に示したように、前記カテーテル28は、下大静脈または上大静脈を経由し、右心房36を貫通し、心房中隔37を横断し、僧帽弁40上部の左心房38への順で心臓34に進入する。
【0028】
前記カテーテル28が定位置に着き、このカテーテル28の遠端に前記人工心臓弁10を導入した時点で、前記カテーテル28の遠端から前記人工心臓弁10を押し出して、この人工心臓弁10を第1の安定位置へと展開する(図8)。一般に、前記環状輪12および前記本体部材14の自然な弾性により、前記人工心臓弁10は前記カテーテル28の末端から出ると前記第1の安定位置に跳ね広がる。次に、前記人工心臓弁10は、前記フィラメント20を上記のように引っ張ることにより、この第1の安定位置から第2の安定位置へと「継続的にすばやく移行(snapped−through)」する。この「継続的にすばやく移行(snapped−through)」した人工心臓弁10を例示したのが図9である。
【0029】
次に、前記第2の安定位置に移行した前記人工心臓弁10を、図10に示すとおり前記小口径導入カテーテル30を使って埋め込み位置(弁座など)へ導入する。画像処理装置(図示せず)を使用すると、外科医(作業者)は前記人工心臓弁10の埋め込み位置への動きを見ることができる。前記フィラメント20および24にかける張力は前記人工心臓弁10が定位置に着いた時点(図10)でリリースし、これにより前記爪部18を開いた状態に保ち前記本体部材14を変形させていた張力もリリースする。図11に示したように、前記フィラメント20への張力を取り除くと、前記爪部18は平衡位置にすばやく戻って閉じた状態になり、これにより前記爪部18内に位置していた周囲の任意心臓組織32を挟んでしっかり締まる。前記フィラメント20は、前記カテーテル28に再びロックされる。フィラメント20にかかる張力をリリースする工程と、前記人工心臓弁20を押圧し変形させる工程とは、同時に実施しうる。外科医(作業者)は、継続して前記人工心臓弁10を押し下げていくことにより、前記人工心臓弁10が安定した状態で埋め込まれ前記爪部18が十分に心臓組織32を「噛んで」いると判断されるまで、前記人工心臓弁10の埋め込みの安定性をチェックすることができる。上記の前記人工心臓弁10を押圧する工程と、前記爪部18の「噛み」具合をチェックする工程とは、前記人工心臓弁10の位置および向きと、埋め込みの安定性とが許容範囲内になるまで、1つまたはすべての前記爪部18について逆行させたり、反復させたりすることができる。適切に配置した前記爪部18は心臓組織32をしっかり把持し続け、前記人工心臓弁10を定位置に保ち続ける。一度前記フィラメント20および24をリリースして弛緩させると、前記脚部16は最終的な位置へと放射状に広がることも理解されるであろう。その後、前記フィラメント20は、マイクロネジを回し外すなどして前記小口径導入カテーテル30からリリースし、前記小口径導入カテーテル30は、前記本体部材14からゆっくり係合解除する。この係合解除中、前記人工心臓弁10は、新しい境界条件へと適宜移行するため若干動くことがあるので注意すべきである。前記爪部18が心臓組織32を適切に把持している限り、これが問題になることはないはずである。ただし、埋め込まれた人工心臓弁10が過剰に動くのを観測した場合、作業者は、前記カテーテル28を使って前記人工心臓弁10を押し下げ、埋め込みの安定性を再度チェックできることが理解されるであろう。このように、ステントを使ったバルーン拡張型装置と異なり、本明細書で説明する人工心臓弁10は再配備自在であり、受動的な係止とは対照的に、能動的に係止しうる。そして、次に前記カテーテル28および前記小口径導入カテーテル30が除去される。図12は、前記カテーテル28が除去された状態で埋め込み位置にある前記人工心臓弁10を例示したものである。
【0030】
弁腔に着座させるため前記人工心臓弁10を押し下げている間、前記環状輪12は、その弾性により、弁腔内埋め込み位置の非円形環形状に変形することが理解されるであろう。通常、この変形の大部分は前記環状輪12の平面内で起こる。この環状輪12は、それ自体の弾性により元の環形状に跳ね戻ろうとしつつ、埋め込み位置で心臓組織32を放射状に押圧する。その結果生じる弾性力が、前記人工心臓弁10を定位置に保持するよう機能する。さらに、反転後の安定位置で一度埋め込まれた前記本体部材14は、(開いた傘のように)著しい安定性および強度を有し、心臓組織32内での前記人工心臓弁10の係止をさらに支援するよう前記環状輪12を外側へ押圧することが理解されるであろう。
【0031】
以上、本発明の実施を詳しく説明してきたが、当業者であれば、本発明の新規性のある説明および優位性を実質的に変更しない範囲で多数の付加的な変更(修正)形態が可能であることが容易に理解されるであろう。例えば、当業者であれば、信頼性と、安全性と、製造しやすさとを追求するため、前記の本体部材と、脚部と、爪部とを構造的に一体化できることが理解されるであろう。異なる別の例として、前記フィラメント24は、前記脚部16または前記爪部18の片側に接触して動きを制限する突出部といった、動きを拘束する部材で置き換えることができる。このようないかなる変更(修正)形態も、付随の請求の範囲で定義された本発明の範囲に包含されるよう意図されている。
【図面の簡単な説明】
【0032】
本発明は、添付の図面を参照することで、付随の発明に関する詳細な説明から明確に理解されるであろう。
【図1A】図1Aは、本発明の実施形態に係る双安定人工心臓弁の側面図を例示した図。
【図1B】図1Bは、本体部材、脚部、環状輪、爪部、およびフィラメントをより明瞭に示すために、図1Aの双安定人工心臓弁を弁尖の破断図とともに例示した図。
【図2A】図2Aは、心臓弁腔内の埋め込み位置に送達するため、図1の双安定人工心臓弁が折り畳み位置でカテーテルに挿入されている状態を例示した図。
【図2B】図2Bは、折り畳まれた本体部材、脚部、環状輪、爪部、およびフィラメントをより明瞭に示すために、図2Aの双安定人工心臓弁を弁尖の破断図とともに例示した図。
【図3A】図3Aは、図2の双安定人工心臓弁がカテーテルの末端から出てきて第1の安定位置へ弾力的に拡張した後の側面図を例示した図。
【図3B】図3Bは、本体部材、脚部、環状輪、爪部、およびフィラメントをより明瞭に示すために、図3Aの双安定人工心臓弁を弁尖の破断図とともに例示した図。
【図4】図4は、図3の双安定人工心臓弁について、フィラメントが引っ張られて人工心臓弁の脚部が図3Aの第1の安定位置から第2の安定(反転)位置へ傘状に弾力的に戻った後を例示した図。
【図5】図4の双安定人工心臓弁について、フィラメントにより強い力が加えられて、脚部が第2の安定位置を越え反転したことにより、心臓弁腔内での配置用に爪部がさらに開いた状態を例示した図。
【図6】図5の双安定人工心臓弁について、フィラメントにかかる張力が取り除かれ、爪部が近接する心臓組織を挟んでしっかり締まった状態を例示した図。
【図7】図7は、埋め込み前の、折り畳まれた人工僧帽弁を内蔵したカテーテルの、僧帽弁上部での配置を例示した図。
【図8】図8は、左心房内で第1の安定位置にある、展開した人工僧帽弁を例示した図。
【図9】図9は、本体部材に取り付けられたフィラメントを引っ張ることにより脚部が反転した後、左心房内で第2の安定位置にある、人工僧帽弁を例示した図。
【図10】図10は、埋め込み位置(弁座など)へ導入中の、第2の安定位置にある、人工僧帽弁を例示した図。
【図11】図11は、僧帽弁腔内の埋め込み位置において、フィラメントからの張力が取り除かれ、開いた爪部内にある周囲の任意心臓組織をこの爪部が挟んでしっかり締まった状態にある人工僧帽弁を例示した図。
【図12】図12は、カテーテルが除去された状態で埋め込み位置にある人工心臓弁を例示した図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
双安定経皮的心臓弁であって、
弾性の環状輪と、
複数の脚部を有する本体部材であって、各前記脚部の一端が前記環状輪に連結されている、本体部材と、
外力を加えることにより第1の位置から第2の位置へ調整自在な少なくとも2つの爪部であって、前記第2の位置で前記爪部のなかへ周囲の心臓組織が侵入することが許容され、前記外力を取り除くと、前記爪部が前記第1の位置に弾力的に戻り、それにより前記爪部内に位置付けられた心臓組織を把持することによって、前記心臓弁を定位置に保持するものである、少なくとも2つの爪部と、
前記環状輪と、前記本体部材と、前記脚部とのうち少なくとも1つに連結された少なくとも1つの弁尖膜であって、前記弁尖膜を通過する血流を遮断するための第1の位置と、前記弁尖膜を通過する血流を可能にするための第2の位置とを有するものである、少なくとも1つの弁尖膜と
を有する双安定経皮的心臓弁。
【請求項2】
請求項1の心臓弁において、前記環状輪は、心臓の僧帽弁開口部に嵌入するようになっているものである。
【請求項3】
請求項1の心臓弁において、前記環状輪は、心臓の大動脈弁開口部に嵌入するようになっているものである。
【請求項4】
請求項1の心臓弁において、前記環状輪は、心臓の肺動脈弁開口部に嵌入するようになっているものである。
【請求項5】
請求項1の心臓弁において、前記環状輪は、心臓の三尖弁開口部に嵌入するようになっているものである。
【請求項6】
請求項1の心臓弁において、前記環状輪、前記本体部材、前記脚部、前記爪部、および前記少なくとも1つの弁尖膜は、心臓への埋め込みのための経皮的送達用カテーテルに挿入するため、折り畳み位置へと畳み込まれるものである。
【請求項7】
請求項6の心臓弁において、前記心臓弁は、カテーテル通過後の第1の安定位置と、心臓弁埋め込み用の強制移行先位置である第2の安定位置とを有するものである。
【請求項8】
請求項7の心臓弁において、前記本体部材および前記脚部は、前記心臓弁の心臓組織への係止を支援するよう、前記第2の安定位置へと前記環状輪を外側に押圧するものである。
【請求項9】
請求項1の心臓弁において、前記環状輪は、前記心臓弁を埋め込み位置に係止するため、放射状に拡張自在である。
【請求項10】
請求項7の心臓弁において、各前記爪部は、前記第1の位置から前記第2の位置への各前記爪部の移動を可能にするよう、前記環状輪と、前記脚部の1つとのうち少なくとも1つに連結されるものである。
【請求項11】
請求項1の心臓弁であって、前記本体部材を前記爪部に連結する少なくとも1つのフィラメントであって、前記心臓弁の埋め込み位置から遠く離れた位置から前記第1の位置と第2の位置との間で前記爪部を制御できるようにするため前記心臓弁近位から延出した、少なくとも1つのフィラメントをさらに有する心臓弁。
【請求項12】
請求項11の心臓弁であって、この心臓弁は、さらに、
前記爪部の片側の動きを拘束する拘束部材であって、前記爪部の他方の側には前記少なくとも1つのフィラメントが連結されているため、前記少なくとも1つのフィラメントを引っ張ると前記爪部が開くようになっている、拘束部材を有するものである。
【請求項13】
請求項1の心臓弁において、前記本体部材および前記爪部は構造的に一体化されているものである。
【請求項14】
双安定経皮的心臓弁であって、
拡張自在な弾性の環状輪と、
複数の脚部を有する本体部材であって、各前記脚部の一端が前記環状輪に連結されている、本体部材と、
前記心臓弁を埋め込み位置へ導入するように調整自在な少なくとも2つの爪部と、
前記環状輪、前記本体部材、および前記脚部のうち少なくとも1つに連結された少なくとも1つの弁尖膜であって、この弁尖膜を通過する血流を遮断するための第1の位置と、前記弁尖膜を通過する血流を可能にするための第2の位置とを有するものである、少なくとも1つの弁尖膜とを有し、
前記拡張自在な環状輪が、前記心臓弁を前記埋め込み位置に係止するために拡張するものである、双安定経皮的心臓弁。
【請求項15】
請求項14の心臓弁において、前記環状輪、前記本体部材、前記脚部、前記爪部、および前記少なくとも1つの弁尖膜は、埋め込み位置への経皮的送達用カテーテルに挿入するため、折り畳み位置へと畳み込まれるものである。
【請求項16】
双安定経皮的心臓弁を埋め込む方法であって、
双安定経皮的心臓弁を折り畳み位置へと折り畳む工程と、
カテーテルを患者体内に挿入し、患者心臓内の埋め込み位置に近接した位置へ、前記カテーテルの遠端を導入する工程と、
導入装置を使って折り畳まれた前記心臓弁を前記カテーテルの前記遠端に誘導し、折り畳まれた前記心臓弁を前記カテーテルに挿入をするものである、誘導する工程と、
前記心臓弁が安定な展開位置へと弾力的に展開するよう、折り畳まれた前記心臓弁を前記カテーテルの前記遠端を越えて導入する工程と、
展開した前記心臓弁を第2の安定位置に強制移行する工程と、
前記心臓弁を前記埋め込み位置に導入する工程と、
前記心臓弁の少なくとも2つの爪部を調整する工程であって、前記爪部の調整は前記爪部内への周囲の心臓組織の進入を可能にするように外力を加えることにより行い、前記外力を取り除いた時点で、前記爪部が前記爪部内に位置付けられた心臓組織を把持するように初期位置に弾力的に戻ることにより、前記心臓弁を定位置に保持するものである、調整する工程と、
前記導入装置および前記カテーテルを除去する工程と
を有する方法。
【請求項17】
請求項16の方法であって、この方法は、さらに、
展開した前記心臓弁を前記埋め込み位置に導入する工程と、前記爪部を調整して前記心臓弁を定位置に保持する工程とを、前記心臓弁の位置と、安定性と、機能とが一定条件を満たすまで、繰り返す工程を有するものである。
【請求項18】
請求項16の方法において、前記埋め込み位置は、心臓の僧帽弁開口部である。
【請求項19】
請求項16の方法において、前記埋め込み位置は、心臓の大動脈弁開口部である。
【請求項20】
請求項16の方法において、前記埋め込み位置は、心臓の肺動脈弁開口部である。
【請求項21】
請求項16の方法において、前記埋め込み位置は、心臓の三尖弁開口部である。
【請求項22】
請求項16の方法において、前記心臓弁の弾性の環状輪は、前記安定な展開位置において、心臓組織での前記心臓弁の係止を支援するように、前記心臓組織を外側へ押圧するものである。
【請求項23】
請求項16の方法において、前記外力は、前記カテーテルを通過し前記カテーテルの遠端で前記爪部に連結した少なくとも1つのフィラメントを、前記カテーテルの近端で操作することにより、前記爪部内への周囲の心臓組織の進入を可能にする位置へ前記爪部が移動するように、前記爪部を調整する工程において加えられるものである。
【請求項24】
請求項23の方法において、前記少なくとも1つのフィラメントは、埋め込み前に前記心臓弁を前記安定な展開位置から前記第2の安定位置に切り替えるために、さらに使用されるものである。

【図1A】
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【図1B】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公表番号】特表2006−528034(P2006−528034A)
【公表日】平成18年12月14日(2006.12.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−521170(P2006−521170)
【出願日】平成16年7月20日(2004.7.20)
【国際出願番号】PCT/US2004/023211
【国際公開番号】WO2005/009285
【国際公開日】平成17年2月3日(2005.2.3)
【出願人】(500429103)ザ・トラスティーズ・オブ・ザ・ユニバーシティ・オブ・ペンシルバニア (102)
【Fターム(参考)】