説明

経編機

【課題】 基布の任意の箇所に部分的に伸縮性や張力の異なるパターンを高密度で形成することが可能な経編機を提供する。
【解決手段】 少なくとも1つの柄ガイドバー2と、この柄ガイドバー2に設けられ、基布を横断する方向に進退移動する複数の柄糸ガイド21と、この柄糸ガイド21を進退移動させる駆動装置とを有する経編機において、少なくとも一つの柄糸ガイド21の先端に、複数の柄ガイドエレメント21bを所定ピッチで櫛歯状に配置し、各前記柄ガイドエレメント21bの先端にガイド孔21cを形成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、経編機の編糸を導糸して所望の柄の形成を行う柄ガイドバー及び柄糸ガイドを備えた経編機に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に経編機は、基布を編成する地糸ガイドの他に、基布の上に柄を編成する柄糸ガイドを備えている。柄糸ガイドは、柄糸を導糸するガイド孔を先端に有し、柄ガイドバーに一定間隔で編地の全幅に亘って設けられている。そして、この柄ガイドバーが駆動装置の駆動によって長手方向に進退移動するとともに、編針が上下することで、所定の柄編成が行われる。
前記した駆動装置として従来は、モータとチェーンとによるものが一般的であったが、経編機の駆動装置の構成が複雑かつ大型化するという問題があった。また、柄ガイドバーの移動可能範囲は、チェーンに取り付けるストッパの寸法によって決定されるため移動可能範囲が小さく、編成可能な柄が制限されるうえ、柄を変更する際には膨大な数のストッパを交換しなければならないという問題があった。
【0003】
特許文献1に記載の経編機では、例えばその図1及び図2を見るとわかるように、ワイヤ状又はロープ状の引っ張りエレメント7を複数本平行に配置し、各引っ張りエレメントに柄糸ガイド4を取り付けている。そして、引っ張りエレメント7のそれぞれの両端をエアシリンダ10,13等の駆動体に連結し、引っ張りエレメント7とともに柄糸ガイド4が左右方向に進退移動するようにしている。
そのため、この文献に記載の経編機は、駆動装置を簡素かつ小型化することができ、柄糸ガイドの移動可能範囲を拡大することで編成できる柄の範囲を拡げることができるという利点がある。さらに、この文献に記載の経編機では、引っ張りエレメント7の移動量が自動調整可能であるので、柄変更が容易であるという利点がある。
【0004】
また、特許文献2に記載の経編機では、柄ガイドエレメントを所定ピッチで上記地ガイドバーの一部分に対応して配置し、上記柄ガイドエレメントを上記地ガイドバーに対してその幅内の任意の位置に移動可能にする駆動装置と、上記柄ガイドエレメントの互いの間隔を任意に変更するエレメント調整装置とを設けた構成としている。この文献に記載の技術によれば、柄ガイドエレメントを任意の位置に移動可能としたので、編地の全幅に亘って任意のパターンを形成することができ、サポート機能を有した編地や、大きな模様のパターンを有した経編地を形成することができるという利点がある。
【特許文献1】特開2003−96651号公報
【特許文献2】特開2005−232625号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1に記載の経編機の場合、部分的に伸縮性の異なる編地を高密度に形成するのは困難であるという問題がある。糸密度を高めるには、柄糸ガイドの本数を増やして柄糸ガイドのピッチを小さくすればよいが、柄糸ガイドどうしが接触するため増やすことのできる本数及びピッチにも制限があるという問題がある。
【0006】
特許文献2に記載の経編機は、上記した特許文献1に記載の経編機の問題は解決できるものの、装置構成が複雑になるうえ、既存の経編機にそのまま適用することは困難であり、実施するにはコスト高になるという問題がある。
【0007】
この発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、基布の任意の箇所に部分的に伸縮性や張力の異なるパターンを高密度で形成することが可能で、さらに、基布の任意の箇所に種々の柄を編成することができ、かつ、柄変更も容易で、既存の経編機に僅かな改良を施すだけで実施が可能な低コストの経編機の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、少なくとも1つの柄ガイドバーと、この柄ガイドバーに設けられ、基布を横断する方向に進退移動する複数の柄糸ガイドと、この柄糸ガイドを進退移動させる駆動装置とを有する経編機において、少なくとも一つの前記柄糸ガイドの先端に、複数の柄ガイドエレメントを所定ピッチで櫛歯状に配置し、各前記柄ガイドエレメントの先端に糸ガイド孔を形成した構成としてある。
柄ガイドエレメントのピッチは、均等であってもよいが、形成しようとする柄等に応じて不均等であってもよい。請求項2に記載するように、地ガイドエレメントと同一ピッチで均等配置してもよい。
柄ガイドエレメントは、一つの柄ガイドバーに設けられる複数の柄糸ガイドのうちの一部に形成してもよいが、複数の柄糸ガイドの全てに形成してもよい。この場合、請求項3に記載するように、柄ガイドバーの全長に亘って柄ガイドエレメントが所定のピッチで配置されるようにするとよい。
なお、上記したような柄ガイドエレメントは、複数の柄ガイドバーの全てに設けてもよいが、請求項4に記載するように、複数の柄ガイドバーのうちの一部(一つも含む)に設けてもよい。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、基布の任意の箇所に部分的に伸縮性や張力の異なるパターンを高密度で形成することができる。また、全長に亘って柄ガイドエレメントを設けることで、柄ガイドエレメントの位置を変更したり交換したりすることなく、導糸箇所を変更するだけで簡単に柄の位置を変えることができる。さらに、編成できる柄の種類も大幅に拡大することができる。
また、柄ガイドバーの構成を変更するだけでよいので、既存の経編機をそのまま利用することができ、低コストで実施することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の経編機の好適な実施形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は、この実施形態の経編機における編成部分の主要部の側面図である。
図1に示すように、この実施形態の経編機は、前方に複数(図示の例では二つつ)の地ガイドバー1と、その後方に複数(図示の例では六つ)の柄ガイドバー2とを備えたシングルラッシェル機である。
地ガイドバー1には、全長に亘って均等ピッチで地糸ガイド11が設けられている。この地糸ガイド11は、長手方向(紙面に直交する方向)に通常数mm〜十数mm程度の進退移動が可能である。
【0011】
この実施形態の柄ガイドバー2の基本構成は、上記した特許文献1(特開2003−96651号公報)で開示されている柄ガイドバーと同じである。
図2に柄ガイドバー2の構成を示す正面図である。
図示するように、柄ガイドバー2のガイド支持体23には、その長手方向(図2の紙面左右方向)に沿って複数本の引っ張りエレメント25が矢印I方向に進退移動自在、かつ、上下方向に平行に設けられている。
引っ張りエレメント25の各々に、柄糸ガイド21が取り付けられる。
図3は、柄糸ガイド21の部分拡大図である。柄糸ガイド21は、図3に示すように、一端が引っ張りエレメント25に取り付けられた柄部21aと、この柄部21aの他端に形成された複数の柄ガイドエレメント21bとを有している。
【0012】
図4は、柄糸ガイド21の部分拡大斜視図である。柄部21aの一端は、引っ張りエレメント25(図2,図3参照)に取り付けられるような構成になっているが、この構成については、上記した特許文献1に記載の糸ガイドと同じであるので、ここでは詳細な図示及び説明は省略する。
柄ガイドエレメント21bは、図4に示すように、柄部21aの下端に均等間隔で配置され、全体として櫛刃状になるように形成されている。この実施形態において柄ガイドエレメント21bのピッチは、地ガイドの地ガイドエレメントのピッチと同じにしてある。このようにすることで、基布と同じくらい高密度な柄やパターンの形成が可能になる。
【0013】
柄ガイドエレメント21bの先端には、糸ガイド孔21cが形成され、図中仮想線で示すように、柄糸20が柄ガイドエレメント21b,21bの間を通って糸ガイド孔21cに挿通される。
なお、この実施形態では、柄ガイドバー2に設けられる柄糸ガイド21の全てに上記構成の柄ガイドエレメント21bが形成され、柄ガイドバー2の全長に亘って均等ピッチで柄ガイドエレメント21bが配置されている。
このように、柄ガイドバー2の全長に亘って柄ガイドエレメント21bを形成することで、基布の任意の箇所に所望の柄やパターンを形成することが容易になるだけでなく、導糸位置や導糸する柄糸の本数を変更するだけで、容易に柄やパターンの位置や形態を変更することができるという利点がある。
【0014】
引張エレメント25はワイヤやロッド等で形成されていて、駆動ベルトを介してサーボモータ等のモータに連結されている。そして、このモータの駆動によって、各引張エレメント25が矢印I方向に進退移動するようになっている。
なお、引っ張りエレメント25を矢印I方向に進退移動させるための駆動装置は、上記の特開2003−96651号等で公知のものであり、図示及び詳細な説明は省略する。
本発明の経編機では、上記構成の柄ガイドバー2が少なくとも一つ設けられている。複数の柄ガイドバー2の一部(二つ以上)又は全てを上記構成の柄ガイドバーとして構成してもよい。
【0015】
上記構成の経編機によれば、図5や図6に示すような経編地が可能になる。
図5の経編地3では、地ガイドで編成した基布31の上に柄ガイド2で柄32を形成し、さらにその上に、例えば弾性糸で、高密度の高張力部33を形成することが可能である。
高張力部33は、相隣接する複数の柄ガイドエレメント21bの糸ガイド孔21cのそれぞれに弾性糸を通して基布に編み込むことで形成されている。この実施形態では、柄ガイドエレメント21bのピッチが、基布を編成するための地ガイドエレメントのピッチと同じであるため、基布の糸ピッチと同一のピッチで弾性糸を編み込むことが可能である。
図6に示す経編地4は、二つの高張力部33,34がクロスして形成されている。これら二つの高張力部33,34は、上記の構成の柄ガイドバー2を二つ用いて編成することができる。
すなわち、一の柄ガイドバー2を用いて一方の高張力部33を編成すると同時に、他の柄ガイドバー2を用いて他方の高張力部34を編成する。
【0016】
本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではない。
例えば、上記の実施形態では、柄ガイドバー2の全長に亘って柄ガイドエレメント21bを設けているが、柄ガイドバー2の一部に、所望の長さ分だけ柄ガイドエレメント21bを形成してもよい。また、柄ガイドエレメント21bと従来の柄ガイドエレメントとを組み合わせて一つの柄ガイドバー2に設けてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0017】
本発明は、柄ガイドバーを有する経編機に広範に適用することが可能で、柄ガイドエレメントを進退移動させる駆動装置も上記のものに限定されない。チェーン及びストッパとサーボモータとを有する従来型の駆動装置を備えた経編機にも適用が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】この実施形態の経編機における編成部分の主要部の側面図である。
【図2】柄ガイドバーの構成を示す正面図である。
【図3】柄糸ガイドの部分拡大図である。
【図4】柄糸ガイドの部分拡大斜視図である。
【図5】本発明の経編機で編成できる経編地の一例を示す図である。
【図6】本発明の経編機で編成できる経編地の他の一例を示す図である。
【符号の説明】
【0019】
1 地ガイドバー
10 地糸
11 地糸ガイド
2 柄ガイドバー
20 柄糸
21 柄糸ガイド
21a 柄部
21b 柄ガイドエレメント
21c 糸ガイド孔
23 ガイド支持体
25 引っ張りエレメント
3 経編地
31 基布
32 柄
33,34 高張力部






【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの柄ガイドバーと、この柄ガイドバーに設けられ、基布を横断する方向に進退移動する複数の柄糸ガイドと、この柄糸ガイドを進退移動させる駆動装置とを有する経編機において、
少なくとも一つの前記柄糸ガイドの先端に、複数の柄ガイドエレメントを所定ピッチで櫛歯状に配置し、各前記柄ガイドエレメントの先端に糸ガイド孔を形成したことを特徴とする経編機。
【請求項2】
前記柄ガイドエレメントを、地ガイドエレメントと同一ピッチで均等配置したことを特徴とする請求項1に記載の経編機。
【請求項3】
全ての前記柄糸ガイドの先端に前記柄ガイドエレメントを形成し、かつ、前記柄ガイドエレメントが前記柄ガイドバーの全長に亘って均等ピッチで配置されるように設けたことを特徴とする請求項1又は2に記載の経編機。
【請求項4】
複数の前記柄ガイドバーの前記柄糸ガイドに、前記柄ガイドエレメントを設けたことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の経編機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−280630(P2008−280630A)
【公開日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−124188(P2007−124188)
【出願日】平成19年5月9日(2007.5.9)
【出願人】(396021645)吉田産業株式会社 (11)
【Fターム(参考)】